本発明者の検討によれば、特許文献1及び特許文献2に記載の製造方法では、流延ダイの吐出口の両端部付近の外表面での皮膜の形成を充分に抑制することは困難であると考えられる。
また、特許文献1及び特許文献2に記載の製造方法に、流延ダイの吐出口の長手方向両端部から、ドープを構成する透明性樹脂を溶解可能な溶剤を流下させる方法を組み合わせても、流延ダイの吐出口の両端部付近の外表面での皮膜の形成を充分に抑制することは困難であると考えられる。このことは、特許文献1及び特許文献2に記載の製造方法で用いられている流延ダイは、吐出口の長手方向全面にわたって、表面加工が施されており、上記溶剤を流延ダイの外表面上に流すと、その流れが乱れてしまうことによると考えられる。
また、本発明者の検討によれば、特許文献3に記載の製造方法を長期間にわたって行うと、流延ダイの吐出口の両端部付近の外表面での皮膜の形成を充分に抑制することは困難であると考えられる。このことは、長期間にわたって樹脂フィルムの製造を行うと、上記液溜まりを形成する領域に汚れ等が蓄積してきて、そのことにより、凝固防止液を安定して供給することができなくなることによると考えられる。
そこで、本発明者は、流延ダイの外表面に、ドープに基づく皮膜、いわゆる、かわばりが発生する理由としては、以下のことによると推察した。
まず、流延ダイの外表面に形成される皮膜は、流延ダイの吐出口の長手方向両端部付近の外表面に形成される皮膜と流延ダイの吐出口の長手方向中央部付近の外表面に形成される皮膜とは異なる理由によると考えた。
具体的には、流延ダイの吐出口の長手方向両端部付近の外表面に形成される皮膜は、両端部付近が外気にさらされやすいことにより、吐出口の長手方向両端部付近を流動するドープの溶媒が乾燥されやすく、その乾燥によって形成されるものであると推察した。
また、流延ダイの吐出口の長手方向中央部付近の外表面に形成される皮膜は、吐出口から吐出されたドープが厚み方向に膨張することにより、流延ダイの吐出口の長手方向中央部付近の外表面にドープが付着し、付着したドープの溶媒が乾燥することによって形成されるものであると推察した。
これらのことから、本発明者は、上記の皮膜のそれぞれの発生を抑制することが必要であることに着目し、種々検討した。その結果、本発明者は、流延ダイの吐出口の長手方向両端部から、樹脂フィルムを構成する透明性樹脂を溶解可能な溶剤である固化防止液を流下させ、さらに、流延ダイの吐出口の長手方向の位置によって、流延ダイの外表面の物性を異なるものにした、以下のような本発明に想到するに到った。
以下、本発明の樹脂フィルムの製造方法に係る実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、透明性樹脂を含有する樹脂溶液(ドープ)を、走行する支持体上に流延ダイから流延して流延膜(ウェブ)を形成する流延工程と、前記流延膜を前記支持体からフィルムとして剥離する剥離工程とを備えた、いわゆる溶液流延製膜法による製造方法である。また、樹脂フィルムの製造方法としては、上記工程に加えて、剥離したフィルムを乾燥させる乾燥工程を備えていることが一般的であり、剥離したフィルムを延伸させる延伸工程をさらに備えていてもよい。そして、樹脂フィルムの製造方法は、例えば、図1に示すような溶液流延製膜法による樹脂フィルムの製造装置によって行われる。なお、樹脂フィルムの製造装置としては、図1に示すものに限定されず、他の構成のものであってもよい。また、図1は、本発明の一実施形態における、樹脂フィルムの製造装置の基本的な構成を示す概略図である。
そして、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、前記流延工程において、前記流延ダイの吐出口から前記樹脂溶液を吐出して、前記支持体上に流延するとともに、前記透明性樹脂を溶解可能な溶剤を、前記流延ダイの吐出口の長手方向両端部の上方位置から、前記流延ダイの吐出口の長手方向両端部に向かって、前記流延ダイの外表面上に流動させることにより、前記流延ダイの吐出口の長手方向両端部から流下させ、前記流延ダイとして、その外表面の、前記流延ダイの吐出口の長手方向両端部の上方位置と、前記流延ダイの吐出口の長手方向両端部とに囲まれた第1領域の表面エネルギが、前記第1領域より前記流延ダイの吐出口の長手方向中央部側の第2領域の表面エネルギに対して、10〜30mN/m高い流延ダイを用いる。すなわち、(第1領域の表面エネルギ)−(第2領域の表面エネルギ)が、10〜30mN/mである流延ダイを用いる。
第1領域の表面エネルギが、第2領域の表面エネルギに対して高すぎると、第1領域の撥液性が低くなりすぎ、樹脂フィルムを構成する透明性樹脂を溶解可能な溶剤である固化防止液の、前記第1領域上での流動が遅くなりすぎる傾向がある。また、第1領域の表面エネルギが、第2領域の表面エネルギに対してあまり高くないと、固化防止液が、前記第1領域以外に飛散等することによって、形成される樹脂フィルムに打点故障等の故障を発生させることを充分に抑制することができない傾向がある。このことは、第1領域の撥液性が高くなりすぎ、固化防止液の、前記第1領域上での流動が速くなりすぎる傾向があることによると考えられる。すなわち、固化防止液の、前記第1領域から前記第2領域への飛散や、前記第1領域でのドープの流動の蛇行等を充分に抑制できない傾向があることによると考えられる。
したがって、(第1領域の表面エネルギ)−(第2領域の表面エネルギ)が、10〜30mN/mである流延ダイを用いることによって、流延ダイの外表面に、樹脂フィルムを製造する際に用いる樹脂溶液に基づく皮膜の形成を抑制しつつ、樹脂フィルムを製造することができる。
また、ここでの表面エネルギは、公知の方法で測定することができる。具体的には、表面自由エネルギ、及びその各成分(分散力成分、極性成分、及び水素結合成分)が既知である、複数種の液体に対する接触角をそれぞれ測定し、その測定された複数の接触角から算出することができる。
より具体的には、以下のように測定することができる。
まず、液体の表面エネルギは、下記式(イ)に示すように、分散力成分、極性成分、及び水素結合成分を有している。
γL=γL d+γL p+γL h (イ)
式中、γは、表面エネルギを示し、γdは、表面エネルギの分散力成分を示し、γpは、表面エネルギの極性力成分を示し、γhは、表面エネルギの水素結合成分を示す。そして、各γに下付き文字として付されているLは、液体であることを示す。
そして、液体は、その種類によって、分散力成分しか有さないもの、分散力成分と極性成分とを有し、水素結合成分を有さないもの、分散力成分と水素結合成分とを有し、極性成分を有さないもの等がある。そして、その各成分が既知である液体がある。
具体的には、n−ヘキサデカンのγL dは、27.6mN/mであり、γL p及びγL hは、0mN/mである。ヨウ化メチレンのγL dは、46.8mN/mであり、γL pは、4mN/mであり、γL hは、0mN/mである。水のγL dは、29.1mN/mであり、γL pは、1.3mN/mであり、γL hは、42.4mN/mである。エチレングリコールのγL dは、30.1mN/mであり、γL pは、0mN/mであり、γL hは、17.6mN/mである。
すなわち、n−ヘキサデカンは、分散力成分しか有さないものであり、ヨウ化メチレンは、分散力成分と極性成分とを有し、水素結合成分を有さないものであり、水は、3成分とも有するものであり、エチレングリコールは、分散力成分と水素結合成分とを有し、極性成分を有さないものである。
そして、まず、接触角計(商品名PG−X、株式会社マツボー社製)を用いて、分散力成分しか有さないn−ヘキサデカンを3mm3 滴下したときの、静的接触角を測定した。分解したダイスの幅手方向10mm間隔で、幅手端部から300mmの範囲を、各位置およびその近傍で、3点測定して、その平均値を接触角とした。この得られた接触角を用いて、下記式(ロ)及び下記式(ハ)によって、測定対象物であるダイスの表面エネルギの分散力成分γS dを算出することができる。
Wa=γL(1+cosθ) (Young-Dupre's equation) (ハ)
Wa=2(γS dγL d)1/2+2(γS pγL p)1/2+2(γS hγL h)1/2 (ロ)
なお、各γに下付き文字として付されているSは、固体であることを示し、Waは、接着仕事を示す。
その後、分散力成分と極性成分とを有し、水素結合成分を有さないヨウ化メチレンを用いて、上記と同様の方法により、接触角を測定し、得られた接触角と、先に算出した分散力成分γS dとを用いて、上記式(ロ)及び上記式(ハ)によって、測定対象物であるダイスの表面エネルギの極性成分γS pを算出することができる。
さらに、その後、3成分とも有する水を用いて、上記と同様の方法により、接触角を測定し、得られた接触角と、先に算出した分散力成分γS dと、極性成分γS pとを用いて、上記式(ロ)及び上記式(ハ)によって、測定対象物であるダイスの表面エネルギの水素結合成分γS hを算出することができる。
そして、上記の方法により算出された分散力成分γS dと、極性成分γS pと、水素結合成分γS hを用いて、下記式(ニ)によって、測定対象物であるダイスの表面エネルギγSを算出することができる。
γS=γS d+γS p+γS h (ニ)
例えば、上記のようにして、流延ダイ表面の表面エネルギγSを算出することができる。
また、前記両端部のうちの一方の端部は、吐出口の端から、吐出口の長手方向の長さの0.1〜0.5%を占める領域である。すなわち、前記両端部は、吐出口のそれぞれの端から、吐出口の長手方向の長さの0.1〜0.5%を占める2つの領域である。そして、中央部とは、両端部以外の領域である。具体的には、例えば、吐出口の長手方向の長さが、3000mmの場合、両端部のうちの一方の端部が、吐出口の端から、3〜15mmを占める領域である。そして、両端部は、吐出口のそれぞれの端から、3〜15mmを占める領域であるので、中央部を占める領域の長手方向の長さは、2970〜2994mmである。
ここで流延ダイの外表面とは、流延ダイの、前記無端ベルト支持体11の走行方向上流側又は下流側の側面である。また、流延ダイの外表面としては、流延ダイの、前記無端ベルト支持体11の走行方向下流側の側面であることが好ましい。そうすることによって、吐出口から吐出される流延膜の端部の上面に、固化防止剤を載せることができ、かわばりの発生を好適に抑制できる。
図1は、無端ベルト支持体11を使用した溶液流延法による樹脂フィルムの製造装置1の基本的な構成を示す概略図である。樹脂フィルムの製造装置1は、無端ベルト支持体11、流延ダイ20、剥離ローラ13、乾燥装置14、及び巻取装置15等を備える。前記流延ダイ20は、透明性樹脂を含有する樹脂溶液(ドープ)16をリボン状に吐出して、前記無端ベルト支持体11の表面上に流延する。前記無端ベルト支持体11は、一対の駆動ローラ及び従動ローラによって駆動可能に支持され、流延ダイ20から流延された樹脂溶液16からなる流延膜(ウェブ)を形成し、搬送しながら、前記剥離ローラ13で剥離可能な程度まで乾燥させる。そして、前記剥離ローラ13は、乾燥された流延膜を前記無端ベルト支持体11から剥離する。剥離された流延膜は、前記乾燥装置14によってさらに乾燥され、乾燥された流延膜を樹脂フィルムとして前記巻取装置15に巻き取る。
前記無端ベルト支持体11は、図1に示すように、表面が鏡面の、無限に走行する金属製の無端ベルトである。前記ベルトとしては、流延膜の剥離性の点から、例えば、ステンレス鋼等からなるベルトが好ましく用いられる。前記流延ダイ20によって流延する流延膜の幅は、無端ベルト支持体11の幅を有効活用する観点から、無端ベルト支持体11の幅に対して、80〜99%とすることが好ましい。そして、最終的に1500〜4000mmの幅の樹脂フィルムを得るためには、無端ベルト支持体11の幅は、1800〜4500mmであることが好ましい。また、無端ベルト支持体の代わりに、表面が鏡面の、回転する金属製のドラム(無端ドラム支持体)を用いてもよい。
前記流延ダイは、上述した樹脂フィルムの製造方法を実現できるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、透明性樹脂を含有する樹脂溶液を、走行する支持体上に流延して流延膜を形成させる流延ダイであって、前記流延ダイの外表面の、吐出口の長手方向両端部の上方位置に、前記透明性樹脂を溶解可能な溶剤を供給するための供給口が形成されており、前記供給口と、前記流延ダイの吐出口の長手方向両端部とに囲まれた第1領域の表面エネルギが、前記第1領域より前記流延ダイの吐出口の長手方向中央部側の第2領域の表面エネルギに対して、10〜30mN/m高い流延ダイ等が挙げられる。より具体的には、以下に示すような流延ダイが挙げられる。
図2は、流延ダイ20の周辺を示す概略斜視図である。図3は、無端ベルト支持体11の走行方向下流側から見た流延ダイ20の側面図である。図4は、無端ベルト支持体11の走行方向に直交する方向から見た流延ダイの側面図である。図5は、図3に示す流延ダイ20の溶剤供給口25の周辺を拡大して示す図である。
前記流延ダイ20は、図2〜5に示すように、流延ダイ本体21とドープ供給管22と側板23と溶剤供給管24とを備えている。
前記ドープ供給管22は、前記流延ダイ本体21の上端部に接続され、流延ダイ本体21内にドープ16を供給する。
前記流延ダイ本体21は、その内部にドープ16を流動させる。そして、前記流延ダイ本体21には、そのドープ16を前記無端ベルト支持体11に向かって吐出するための吐出口21aが形成されている。前記吐出口21aは、図2に示すように、前記流延ダイ本体21の前記無端ベルト支持体11側の稜線上に形成されている。また、この稜線は、前記無端ベルト支持体11の走行方向に略直交する方向に延びている。そして、前記吐出口21aと前記無端ベルト支持体11との間隔は、200〜5000μmであることが好ましい。前記間隔が狭すぎると、流延ダイ20と無端ベルト支持体11とが接触するおそれがある。また、前記間隔が広すぎると、吐出口21aから吐出されたリボン状のドープ(流延リボン)が風等の外的な要因の影響を受けやすい傾向がある。
前記側板23は、前記流延ダイ本体21の長手方向(無端ベルト支持体11の搬送方向に略直交する方向)の両端部上に備えられる。前記流延ダイ本体21の長手方向の両端部上に備えられる前記側板23間の距離は、図3に示すように、流延ダイ本体21の吐出口21aの長手方向の長さ、すなわち、リボン状の樹脂溶液16の幅方向の長さを規定する。
前記溶剤供給管24は、前記流延ダイ本体21の外表面の、吐出口21aの長手方向両端部の上方位置に、前記透明性樹脂を溶解可能な溶剤(固化防止液)35を供給するためのものである。前記溶剤供給管24は、前記側板23の上端部に接続されており、その内部に固化防止液35を流動させる。そして、前記溶剤供給管24は、前記流延ダイ20の、主として前記側板23を貫通し、前記流延ダイ本体21の外表面の、吐出口21aの長手方向両端部の上方位置まで連通されている。すなわち、前記溶剤供給管24は、前記流延ダイ本体21の外表面の、吐出口21aの長手方向両端部の上方位置に、固化防止液35を供給するための溶剤供給口25を形成している。なお、図4は、流延ダイ20の側面図であるが、流延ダイ20内部の溶剤供給管24も波線で図示する。
また、前記溶剤供給管24には、溶剤の流通方向下流側から順に、流量検出装置31と送液装置32とバルブ33と溶剤貯留槽34とを接続されている。前記溶剤貯留槽34は、前記透明性樹脂を溶解可能な溶剤(固化防止液)35を貯留する。前記バルブ33は、開放することによって、前記溶剤貯留槽34に貯留された溶剤35の、前記溶剤供給管24内への流通を開始させる。前記送液装置32は、前記溶剤供給管24中の溶剤35を、前記側板23内に向かって送液する。前記流量検出装置31は、前記溶剤供給管24中を流通する溶剤35の流量を検出する。そして、その検出結果に基づいて、前記送液装置32の出力を制御してもよい。そうすることによって、図3に示すように、前記側板23内に供給された溶剤35は、前記流延ダイ20の主として前記側板23内を、溶剤供給口25まで流通させる。そして、前記溶剤供給口25から、前記流延ダイ本体21の吐出口21aの長手方向両端部に向かって、前記流延ダイ20の、前記無端ベルト支持体11の走行方向下流側側面上を流動させ、前記流延ダイ本体21の吐出口21aの長手方向両端部から流下させる。すなわち、流延膜の両端部上に、前記溶剤35が載るように流下させる。
前記ドープ供給管22は、図3に示すように、3本に分岐して、流延ダイ本体21に接続されているが、この分岐本数に限定されず、分岐していなくても、2本でも、4本以上であってもよい。なお、ドープ供給管22の分岐本数は、ドープ16を流延ダイ本体21に安定して供給する点から2〜4本であることが好ましい。
また、前記流延ダイ20の、前記無端ベルト支持体11の走行方向下流側側面上には、図5に示すように、前記溶剤供給口25が形成されている。また、前記流延ダイ20の、前記溶剤供給口25の下端面と、前記流延ダイ本体21の吐出口21aの長手方向両端部とに囲まれた第1領域26と、前記第1領域26より吐出口21aの長手方向中央部側の第2領域27とが、第1領域26の表面エネルギが、第2領域27の表面エネルギに対して、10〜30mN/m高くなるように、それぞれ表面加工されている。
前記第1領域26は、上記関係を満たしていれば、特に限定されない。具体的には、例えば、前記第1領域26としては、粗面化処理が施された領域等が挙げられる。前記粗面化処理としては、特に限定されないが、例えば、サンドペーパによる研磨等が挙げられる。
また、前記第1領域26の表面粗さが、十点平均粗さRzで1000〜8000nmであることが好ましい。そうすることによって、流延ダイ20の外表面に、樹脂フィルムを製造する際に用いる樹脂溶液に基づく皮膜の形成をより抑制することができる。このことは、以下のことによると考えられる。前記第1領域26の表面粗さを上記の範囲内にすることによって、固化防止液35が前記第1領域26から前記第2領域27への飛散や、前記第1領域26でのドープの流動の蛇行等がより抑制されると考えられる。このため、吐出口21aから吐出されたドープの幅方向の位置により好適に流下されると考えられる。よって、固化防止液35が、前記第1領域26以外に飛散等することによって、形成される樹脂フィルムに打点故障等の故障を発生させることをより抑制しつつ、吐出口21aの長手方向両端部付近の外表面に皮膜が形成されることをより抑制できると考えられる。
なお、ここでの十点平均粗さRzは、一般的な測定方法によって求められるものである。具体的には、例えば、JIS B0601:2001に準拠の方法等が挙げられる。
また、前記第2領域27は、上記関係を満たしていれば、特に限定されない。具体的には、例えば、前記第2領域27としては、樹脂被覆処理やめっき処理が施された領域等が挙げられる。前記樹脂被覆処理は、特に限定されないが、例えば、フッ素系樹脂を被覆する処理(フッ素系樹脂被覆処理)等が挙げられる。より具体的には、例えば、旭硝子株式会社製のサイトップ、イワキコーティング工業株式会社製のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等を被覆する処理等が挙げられる。また、前記めっき処理は、特に限定されないが、例えば、Extrusion Die Industries(EDI)社製のウルトラクロムを用いためっき処理等が挙げられる。
また、前記第1領域26の幅A、すなわち、前記吐出口21aの長手方向に平行な方向の長さAが、1〜10mmであることが好ましく、3〜10mmであることがより好ましい。前記第1領域26の幅Aが短すぎると、吐出口21aの長手方向両端部付近の外表面に形成される皮膜の形成を抑制する効果を充分に発揮できない傾向がある。また、前記第1領域26の幅Aが長すぎると、吐出口21aから吐出されたドープが厚み方向に膨張することにより、吐出口21a付近の外表面にドープが付着し、付着したドープの溶媒が乾燥することによって形成される、一般的に、吐出口21aの長手方向中央部付近の外表面に形成される皮膜が、前記第1領域26に形成されてしまう傾向がある。よって、前記第1領域26の幅Aを上記範囲内にすることによって、流延ダイ20の外表面に、樹脂フィルムを製造する際に用いる樹脂溶液に基づく皮膜の形成をより抑制することができる。このことは、前記第1領域26の、前記吐出口21aの長手方向に平行な方向の長さを上記範囲内にすることによって、吐出口21aの長手方向両端部付近の外表面に形成される皮膜の形成を抑制する効果と、吐出口21aの長手方向中央部付近の外表面に形成される皮膜の形成を抑制する効果とをそれぞれ好適に発揮できることによると考えられる。
また、前記第1領域26の表面粗さが、十点平均粗さRzで1000〜8000nmであって、前記第1領域26の幅A、すなわち、前記吐出口21aの長手方向に平行な方向の長さAが、3〜10mmであることがさらに好ましい。そうすることによって、流延ダイ20の外表面に、樹脂フィルムを製造する際に用いる樹脂溶液に基づく皮膜の形成をより抑制することができる。
また、前記第2領域27の幅B、すなわち、前記吐出口21aの長手方向に直交する方向の長さBが、10〜100mmであることが好ましい。前記第2領域27の幅Bが短すぎると、吐出口21aの長手方向中央部付近の外表面に形成される皮膜の発生を充分に抑制できない傾向がある。また、前記第2領域27の幅Bが長すぎても、皮膜の抑制効果が特に向上することがなく、表面加工面積が必要以上に広くなり、経済的に不利になる傾向がある。
また、前記第1領域26の長さC、すなわち、前記吐出口21aの長手方向に直交する方向の長さCが、0.5〜20mmであることが好ましく、1〜15mmであることがより好ましい。前記第1領域26の長さCが短すぎると、前記第1領域26を流動する溶剤35の流れが不安定となり、吐出口21aの長手方向両端部での皮膜形成を充分に抑制できない傾向がある。また、前記第1領域26の長さCが長すぎると、前記第1領域26を流動する溶剤35が、前記第2領域27等に飛散し、得られた樹脂フィルムにこの飛散した溶剤に基づく打点故障が発生する傾向がある。
また、前記溶剤(固化防止液)35の供給速度(滴下速度)は、吐出口21aの長手方向端部付近の外表面での皮膜形成が充分に抑制できれば、特に限定されない。具体的には、例えば、一方の溶剤供給管24から供給される分で、0.1〜3ml/分であることが好ましく、0.2〜1ml/分であることがより好ましい。
また、前記流延ダイ20としては、上述したような、溶剤供給管24が、流延ダイ20内部を通過するものではなくてもよく、以下に示すような、溶剤供給管24が、流延ダイ20の、前記無端ベルト支持体11の走行方向下流側の側面上に設置されているものであってもよい。
図6は、流延ダイ20の周辺を示す概略斜視図である。図7は、無端ベルト支持体11の走行方向下流側から見た流延ダイ20の側面図である。図8は、無端ベルト支持体11の走行方向に直交する方向から見た流延ダイの側面図である。図9は、図7に示す流延ダイ20の溶剤供給口25の周辺を拡大して示す図である。図6〜9に示す流延ダイ20の説明は、図2〜5に示す流延ダイ20と同じ点については省略する。
前記溶剤供給管24は、流延ダイ20の、前記無端ベルト支持体11の走行方向下流側の側面上に設置され、前記流延ダイ本体21の外表面の、吐出口21aの長手方向両端部の上方位置に、固化防止液35を供給するための溶剤供給口25を形成している。
図6〜9に示す流延ダイ20は、前記溶剤供給管24の設置位置以外、図2〜5に示す流延ダイ20と同様である。
以上のような流延ダイ20を用いて樹脂フィルムを製造すると、流延ダイ20の外表面に、樹脂フィルムを製造する際に用いる樹脂溶液に基づく皮膜の形成を抑制しつつ、樹脂フィルムを製造することができる。
そして、無端ベルト支持体11上に形成された流延膜(ウェブ)を、剥離ローラ13、乾燥装置14及び巻取装置15等による剥離工程や乾燥工程によって、樹脂フィルムを製造することができる。後述の工程は、特に限定なく、一般的な工程であれば採用できる。具体的には、例えば、以下のような工程である。なお、本発明は、以下の工程に限定されるものではない。
まず、形成された流延膜(ウェブ)を無端ベルト支持体11で搬送しながら、ドープ中の溶媒を乾燥させる。前記乾燥は、例えば、無端ベルト支持体11を加熱したり、加熱風をウェブに吹き付けることによって行う。その際、ウェブの温度が、ドープの溶液によっても異なるが、溶媒の蒸発時間に伴う搬送速度、微粒子の分散度合、生産性等を考慮して、−5℃〜70℃の範囲が好ましく、0℃〜60℃の範囲がより好ましい。ウェブの温度は、高いほど溶媒の乾燥速度を早くできるので好ましいが、高すぎると、発泡したり、平面性が劣化する傾向がある。
前記無端ベルト支持体11を加熱する場合、例えば、前記無端ベルト支持体11上のウェブを赤外線ヒータで加熱する方法、前記無端ベルト支持体11の表面及び裏面を赤外線ヒータで加熱する方法、前記無端ベルト支持体11の裏面に加熱風を吹き付けて加熱する方法等が挙げられ、必要に応じて適宜選択することが可能である。
また、加熱風を吹き付ける場合、その加熱風の風圧は、溶媒蒸発の均一性、微粒子の分散度合等を考慮し、50〜5000Paであることが好ましい。加熱風の温度は、一定の温度で乾燥してもよいし、無端ベルト支持体11の走行方向で数段階の温度に分けて供給してもよい。
前記無端ベルト支持体11の上にドープを流延した後、前記無端ベルト支持体11からウェブを剥離するまでの間での時間は、作製する樹脂フィルムの膜厚、使用する溶媒によっても異なるが、前記無端ベルト支持体11からの剥離性を考慮し、0.5〜5分間の範囲であることが好ましい。
前記無端ベルト支持体11の走行速度は、例えば、60〜150m/分程度であることが好ましい。そうすることによって、流延ダイ20の外表面に、樹脂フィルムを製造する際に用いる樹脂溶液に基づく皮膜の形成を抑制しつつ、樹脂フィルムを効率的に製造することができる。このように、無端ベルト支持体11の走行速度が比較的速いと、樹脂フィルムを効率的に製造することができても、一般的には、流延ダイ20の外表面に、樹脂フィルムを製造する際に用いる樹脂溶液に基づく皮膜が形成されやすい傾向があるが、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法によれば、このような皮膜の形成を抑制しつつ、樹脂フィルムの製造効率を高めることができる。
また、前記流延ダイ20から吐出されるドープの流速に対する、前記無端ベルト支持体11の走行速度の比(ドラフト比)は、0.5〜2程度であることが好ましい。前記ドラフト比がこの範囲内であると、安定して流延膜を形成させることができる。例えば、ドラフト比が大きすぎると、流延膜が幅方向に縮小されるネックインという現象を発生させる傾向があり、そうなると、広幅の樹脂フィルムの形成が困難になる傾向がある。
前記剥離ローラ13は、無端ベルト支持体11のドープ16が流延される側の表面近傍に配置されており、前記無端ベルト支持体11と前記剥離ローラ13との距離は、1〜100mmであることが好ましい。前記剥離ローラ13を支点として、乾燥された流延膜(ウェブ)に張力をかけて引っ張ることによって、乾燥された流延膜(ウェブ)がフィルムとして剥離される。前記無端ベルト支持体11からフィルムを剥離する際に、剥離張力及びその後の搬送張力によってフィルムは、フィルムの搬送方向(Machine Direction:MD方向)に延伸する。このため、前記無端ベルト支持体11からフィルムを剥離する際の剥離張力及び搬送張力は、50〜400N/mにすることが好ましい。
また、フィルムを前記無端ベルト支持体11から剥離する時のフィルムの残留溶媒率は、前記無端ベルト支持体11からの剥離性、剥離時の残留溶媒率、剥離後の搬送性、搬送・乾燥後にできあがる樹脂フィルムの物理特性等を考慮し、30〜200質量%であることが好ましい。なお、フィルムの残留溶媒率は、下記式(I)で定義される。
残留溶媒率(質量%)={(M1−M2)/M2}×100 (I)
ここで、M1は、フィルムの任意時点での質量を示し、M2は、M1を測定したフィルムを115℃で1時間乾燥させた後の質量を示す。
前記乾燥装置14は、複数の搬送ローラを備え、そのローラ間をフィルムを搬送させる間にフィルムを乾燥させる。その際、加熱空気、赤外線等を単独で用いて乾燥してもよいし、加熱空気と赤外線とを併用して乾燥してもよい。簡便さの点から加熱空気を用いることが好ましい。乾燥温度としては、フィルムの残留溶媒量により、好適温度が異なるが、乾燥時間、収縮むら、伸縮量の安定性等を考慮し、30〜180℃の範囲で残留溶媒率により適宜選択して決めればよい。また、一定の温度で乾燥してもよいし、2〜4段階の温度に分けて、数段階の温度に分けて乾燥してもよい。また、乾燥装置14内を搬送される間に、フィルムを、MD方向に延伸させることもできる。
前記乾燥装置14での乾燥処理後のフィルムの残留溶媒率は、乾燥工程の負荷、保存時の寸法安定性伸縮率等を考慮し、0.001〜5質量%であることが好ましい。なお、本実施形態では、乾燥工程で徐々に溶媒が除去され、全残留溶媒量が15質量%以下となったフィルムを樹脂フィルムと言う。
巻取装置15は、前記乾燥装置14で、所定の残留溶媒率となった樹脂フィルムを必要量の長さに巻き芯に巻き取る。なお、巻き取る際の温度は、巻き取り後の収縮による擦り傷、巻き緩み等を防止するために室温まで冷却することが好ましい。使用する巻き取り機は、特に限定なく使用でき、一般的に使用されているものでよい。具体的には、例えば、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等を適用した巻き取り機を用いて巻き取ることができる。
なお、樹脂フィルムの製造装置は、上記の構成のものに限定されず、例えば、延伸装置等を別途備えていてもよい。延伸装置としては、例えば、無端ベルト支持体11から剥離されたフィルムを、フィルムの搬送方向と直交する方向(Transverse Direction:TD方向)に延伸させる延伸装置等が挙げられる。
以下、本実施形態で使用する樹脂溶液(ドープ)の組成について説明する。
本実施形態で使用する樹脂溶液は、透明性樹脂を溶媒に溶解させたものである。
前記透明性樹脂は、溶液流延製膜法等によって基板状に成形したときに透明性を有する樹脂であればよく、特に制限されないが、溶液流延製膜法等による製造が容易であること、ハードコート層等の他の機能層との接着性に優れていること、光学的に等方性であること等が好ましい。なお、ここで透明性とは、可視光の透過率が60%以上であることであり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。
前記透明性樹脂としては、具体的には、例えば、セルロースジアセテート樹脂、セルローストリアセテート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂等のセルロースエステル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリメチルメタクリレート樹脂等のアクリル系樹脂;ポリスルホン(ポリエーテルスルホンも含む)系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、セロファン、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、シンジオタクティックポリスチレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリメチルペンテン樹脂等のビニル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルケトンイミド樹脂;ポリアミド系樹脂;フッ素系樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、セルロースエステル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンを含む)系樹脂が好ましい。さらに、セルロースエステル系樹脂が好ましく、セルロースエステル系樹脂の中でも、セルロースアセテート樹脂、セルロースプロピオネート樹脂、セルロースブチレート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルローストリアセテート樹脂が好ましく、セルローストリアセテート樹脂が特に好ましい。また、前記透明性樹脂は、上記例示した透明性樹脂を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
次に、前記セルロースエステル系樹脂について説明する。
セルロースエステル系樹脂の数平均分子量は、30000〜200000であることが、樹脂フィルムに成型した場合の機械的強度が強く、かつ、溶液流延製膜法において適度なドープ粘度となる点で好ましい。また、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が、1〜5の範囲内であることが好ましく、1.4〜3.0の範囲内であることがより好ましい。
また、セルロースエステル系樹脂等の樹脂の平均分子量及び分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーを用い測定できる。よって、これらを用いて数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を算出し、その比を計算することができる。
セルロースエステル系樹脂は、炭素数が2〜4のアシル基を置換基として有しているものが好ましい。その置換度としては、例えば、アセチル基の置換度をX、プロピオニル基又はブチリル基の置換度をYとした時、XとYとの合計値が2.2以上2.95以下であって、Xが0より大きく2.95以下であることが好ましい。
また、アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在している。これらのセルロースエステル系樹脂は、公知の方法で合成することができる。アシル基の置換度の測定方法は、ASTM−D817−96の規定に準じて測定することができる。
前記セルロースエステル系樹脂の原料であるセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ(針葉樹由来、広葉樹由来)、ケナフ等を挙げることができる。また、それらから得られたセルロースエステル系樹脂はそれぞれ任意の割合で混合使用することができるが、綿花リンターを50質量%以上使用することが好ましい。これらのセルロースエステル系樹脂は、アシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、硫酸のようなプロトン性触媒を用いてセルロース原料と反応させて得ることができる。
本実施形態で使用される溶媒は、前記透明性樹脂に対する良溶媒を含有する溶媒を用いることができる。前記良溶媒は、使用する透明性樹脂によって異なる。例えばセルロースエステル系樹脂の場合、セルロースエステルのアシル基置換度によって、良溶媒と貧溶媒とが変わり、例えばアセトンを溶媒として用いる時には、セルロースエステルの酢酸エステル(アセチル基置換度2.4)、セルロースアセテートプロピオネートでは良溶媒になり、セルロースの酢酸エステル(アセチル基置換度2.8)では貧溶媒となる。したがって、使用する透明性樹脂により、良溶媒及び貧溶媒が異なってくるので、一例としてセルロースエステル系樹脂の場合について説明する。
セルロースエステル系樹脂に対する良溶媒としては、例えば、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、ジオキソラン誘導体、シクロヘキサノン、蟻酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等が挙げられる。これらの中でも、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物、ジオキソラン誘導体、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン等が好ましい。これらの良溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、ドープには、透明性樹脂が析出してこない範囲で、貧溶媒を含有させてもよい。セルロースエステル系樹脂に対する貧溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等の炭素原子数1〜8のアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸プロピル、モノクロルベンゼン、ベンゼン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。これらの貧溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、本実施形態で使用される樹脂溶液は、本発明の効果を阻害しない範囲で、前記透明性樹脂、及び前記溶媒以外の他の成分(添加剤)を含有してもよい。前記添加剤としては、例えば、微粒子、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定化剤、導電性物質、難燃剤、滑剤、及びマット剤等が挙げられる。
前記微粒子は、使用目的に応じて適宜選択される。その使用目的としては、具体的には、例えば、透明性樹脂中に含有することによって、可視光を散乱させる場合や、すべり性を付与させる場合等が挙げられ、透明性樹脂中に前記微粒子を含有することによって、可視光の散乱及びすべり性の向上の両方を改善しうる。また、いずれを目的とした場合であっても、フィルムの透明性を損なわない程度に、前記微粒子の粒径や含有量を調整する必要がある。前記微粒子としては、酸化珪素等の無機微粒子であってもよいし、アクリル系樹脂等の有機微粒子であってもよい。
前記無機微粒子としては、例えば、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等の微粒子が挙げられる。この中でも、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム等の微粒子が好ましく用いられる。
また、前記有機微粒子としては、ポリメチルメタクリレート樹脂等のアクリル系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、メラミン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、及びポリフッ化エチレン系樹脂等からなる微粒子が挙げられる。この中でも、架橋ポリスチレン粒子、ポリメチルメタクリレート系粒子のアクリル系樹脂微粒子等が好ましい。
また、前記微粒子は、上記例示した微粒子を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
前記微粒子の平均粒子径としては、0.1〜10μmであることが好ましく、0.3〜5μmであることがより好ましい。微粒子の平均粒子径が小さすぎると、微粒子による機能性を充分に発揮できない傾向がある。また、大きすぎると、微粒子による機能性を充分に発揮できないだけでなく、樹脂フィルムの透光性も低下する傾向がある。なお、微粒子の平均粒子径は、樹脂フィルムの断面をTEM観察することによっても測定できるが、レーザ回折式粒度分布測定装置等を用いて測定することもできる。
前記微粒子の含有量は、前記透明性樹脂に対して0.01〜35質量%であることが好ましく、0.05〜30質量%であることがより好ましい。微粒子の含有量が少なすぎると、微粒子による機能性を充分に発揮できない傾向がある。また、多すぎると、樹脂フィルムの透光性が低下する傾向がある。
また、微粒子の形状は、特に限定されず、球状、平板状、針状等が挙げられ、球状であることが好ましい。
前記可塑剤としては、特に限定なく使用できるが、例えば、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等が挙げられる。前記可塑剤を含有させる場合、その含有量は、寸法安定性、加工性の点を考慮すると、セルロースエステル系樹脂に対して、1〜40質量%であることが好ましく、3〜20質量%であることがより好ましく、4〜15質量%であることがさらに好ましい。可塑剤の含有量が少なすぎると、スリット加工や打ち抜き加工した際、滑らかな切断面を得ることができず、切り屑の発生が多くなる傾向がある。すなわち、可塑剤を含有させる効果が充分に発揮できない。
前記酸化防止剤としては、特に限定なく使用できるが、例えば、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられる。また、前記酸化防止剤を含有させる場合、酸化防止剤の含有量は、セルロースエステル樹脂に対して質量割合で1ppm〜1.0%であることが好ましく、10〜1000ppmであることがより好ましい。
本実施形態に係る製造方法によって製造された樹脂フィルムは、その高い寸法安定性から、偏光板又は液晶表示用部材等に使用することが可能であり、この場合、偏光板又は液晶等の劣化防止のため、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
前記紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、且つ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。具体的には380nmの透過率が10%未満であることが好ましく、特に5%未満であることがより好ましい。前記紫外線吸収剤としては、具体的には、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物(ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤)、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物(ベンゾフェノン系紫外線吸収剤)、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。これらの中では、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましい。前記紫外線吸収剤の含有量は、紫外線吸収剤としての効果、透明性等を考慮し、0.1質量%〜2.5質量%であることが好ましく、0.8質量%〜2.0質量%であることがより好ましい。
前記熱安定剤としては、例えば、カオリン、タルク、けい藻土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ等の無機微粒子、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩等が挙げられる。
前記導電性物質としては、特に限定はされないが、例えば、アニオン性高分子化合物等のイオン導電性物質、金属酸化物の微粒子等の導電性微粒子及び帯電防止剤等が挙げられる。前記導電性物質を含有させることによって、好ましいインピーダンスを有する樹脂フィルムを得ることができる。ここでイオン導電性物質とは、電気伝導性を示し、電気を運ぶ担体であるイオンを含有する物質のことである。
また、ドープの粘度が、温度30℃の条件で回転式粘度計を用いて測定された粘度で30〜80Pa・sであることが好ましい。そうすることによって、流延ダイ20の外表面に、樹脂フィルムを製造する際に用いる樹脂溶液に基づく皮膜の形成を抑制しつつ、樹脂フィルムを効率的に製造することができる。このような比較的粘度の高いドープを用いると、樹脂フィルムを効率的に製造することができても、一般的には、流延ダイ20の外表面に、樹脂フィルムを製造する際に用いる樹脂溶液に基づく皮膜が形成されやすい傾向があるが、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法によれば、このような皮膜の形成を抑制しつつ、樹脂フィルムの製造効率を高めることができる。なお、ここでの粘度は、温度30℃の条件で回転式粘度計を用いて測定された粘度であれば、特に限定されない。具体的には、例えば、以下のように測定したものである。まず、前記流延ダイ20のドープ供給管22に流通するドープを、密閉容器に収容する。そして、密閉容器に収容されたドープに、ブルックフィールド社製の回転式粘度計(B型粘度計)のスピンドルを差し込み、せん断速度0.5(1/s)で回転させて、測定した値等が挙げられる。
次にドープを調製する方法の一例として、透明性樹脂としてセルロースエステル系樹脂を用いた場合について説明する。
ドープを調製する時の、セルロースエステル系樹脂の溶解方法としては、特に限定なく、一般的な方法を用いることができる。加熱と加圧を組み合わせることによって、常圧における溶媒の沸点以上に加熱できることを利用し、常圧における沸点以上で溶媒にセルロースエステル系樹脂を溶解させることが、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止する点から好ましい。また、セルロースエステル系樹脂を貧溶媒と混合して湿潤又は膨潤させた後、さらに良溶媒を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
前記加圧は、窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、密閉容器に溶媒を加熱して、前記加熱によって溶媒の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。前記加熱は、外部から行うことが好ましく、例えば、ジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
セルロースエステル系樹脂を溶解させる時の溶媒の温度(加熱温度)は、高い方がセルロースエステルの溶解性の観点から好ましいが、加熱温度を高くしようとすると、前記加圧によって容器内の圧力を高くしなければならず、生産性が悪化する。よって、前記加熱温度は、45〜120℃であることが好ましい。また、前記圧力は、設定温度で溶媒が沸騰しないような圧力に調整される。もしくは冷却溶解法も好ましく用いられ、これによって酢酸メチル等の溶媒にセルロースエステル系樹脂を溶解させることができる。
次に、得られたセルロースエステル系樹脂の溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。前記濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さ過ぎると濾過材の目詰まりが発生しやすいという問題がある。このため絶対濾過精度が0.008mm以下の濾過材が好ましく、0.001〜0.008mmの濾過材がより好ましい。
濾過材の材質は、特に制限はなく、通常の濾過材を使用することができる。例えば、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾過材や、セルロース繊維やレーヨンを用いた濾紙、ステンレススティール等の金属製の濾過材が繊維の脱落等がなく好ましい。濾過により、原料のセルロースエステル系樹脂の溶液に含まれていた不純物、特に輝点異物を除去、低減することが好ましい。前記輝点異物とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間に樹脂フィルムを置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことであり、径が0.01mm以上である輝点数が200個/cm2以下であることが好ましい。
濾過は、特に限定なく、通常の方法で行うことができるが、溶媒の常圧での沸点以上で、且つ加圧下で溶媒が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差(差圧という)の上昇が小さく、好ましい。前記温度としては、35〜60℃であることが好ましい。前記濾圧は、小さい方が好ましく、例えば、1.6MPa以下であることが好ましい。
前記各添加剤を含有させる場合は、例えば、アルコールやメチレンクロライド、ジオキソランなどの有機溶媒に前記添加剤を溶解してからドープに添加するか、又は直接ドープ組成中に添加してもよい。また、無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、添加剤とセルロースエステル系樹脂とをデゾルバーやサンドミルを使用して、セルロースエステル系樹脂中に添加剤を分散したものをドープに添加することが好ましい。
得られたセルロースエステル系樹脂の溶液に前記微粒子を分散させる。分散させる方法は、特に限定なく、例えば、以下のようにして行うことができる。例えば、まず、分散用溶媒と微粒子を撹拌混合した後、分散機で分散を行う。これを微粒子分散液とする。この微粒子分散液を上記セルロースエステル系樹脂の溶液に加えて撹拌する。
前記分散用溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等の低級アルコール類が挙げられる。また、低級アルコール類に特に限定されないが、セルロースエステル系樹脂の溶液を調製する際に用いた溶媒と同様のものを用いることが好ましい。
前記分散機としては、特に限定なく使用でき、一般的な分散機を使用できる。分散機は、大きく分けてメディア分散機とメディアレス分散機に分けられるが、メディアレス分散機のほうかがヘイズが低くなる(透光性が高くなる)点から好ましい。前記メディア分散機としては、例えば、ボールミル、サンドミル、ダイノミル等が挙げられる。また、前記メディアレス分散機としては、超音波型、遠心型、高圧型等が挙げられ、高圧型分散装置が好ましい。前記高圧分散装置とは、微粒子と溶媒とを混合した組成物を、細管中に高速通過させることで、高剪断や高圧状態など特殊な条件を作りだす装置である。前記高圧分散装置としては、例えば、Microfluidics Corporation社製の超高圧ホモジナイザ(商品名マイクロフルイダイザ)、ナノマイザ社製ナノマイザ等が挙げられ、他にマントンゴーリン型高圧分散装置等も挙げられる。また、マントンゴーリン型高圧分散装置としては、例えばイズミフードマシナリ製ホモジナイザ、三和機械株式会社製のUHN−01等が挙げられる。
また、流延ダイの吐出口の両端部から流下させる溶剤としては、前記樹脂溶液(ドープ)の溶媒と同様のものを用いることができる。具体的には、前記透明性樹脂に対する良溶媒を含有し、必要に応じて、貧溶媒を含有させてもよい。
以上のような、本実施形態に係る製造方法によれば、流延ダイの外表面に、樹脂フィルムを製造する際に用いる樹脂溶液に基づく皮膜の形成を抑制しつつ、樹脂フィルムを製造することができる。
よって、本実施形態に係る製造方法により製造された樹脂フィルムは、製造時に流延ダイの外表面に形成される皮膜の発生を抑制するための固化防止液の飛散による打点故障等の不具合の発生が抑制された樹脂フィルムである。さらに、流延ダイの吐出口付近の外表面に形成される皮膜による、樹脂溶液(ドープ)の流れの乱れの発生を抑制できるので、得られた樹脂フィルムは、レタデーションや配向等の均一性の高い光学特性に優れたものである。
また、ここで得られる樹脂フィルムの幅は、大型の液晶表示装置への使用、偏光板加工時のフィルムの使用効率、生産効率の点から、1500〜4000mmであることが好ましい。このような広幅の樹脂フィルムを製造する場合、一般的には、流延ダイ20の外表面に、樹脂フィルムを製造する際に用いる樹脂溶液に基づく皮膜が形成されやすい傾向があるが、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法によれば、このような皮膜の形成を抑制しつつ、樹脂フィルムの製造することができる。
また、樹脂フィルムの膜厚は、液晶表示装置の薄型化、樹脂フィルムの生産安定化の観点等の点から、20〜70μmであることが好ましい。ここで膜厚とは、平均膜厚のことであり、株式会社ミツトヨ製の接触式膜厚計により、樹脂フィルムの幅方向に20〜200箇所、膜厚を測定し、その測定値の平均値を膜厚として示す。
(偏光板)
本実施形態に係る偏光板は、偏光素子と、前記偏光素子の表面上に配置された透明保護フィルムとを備え、前記透明保護フィルムが、前記樹脂フィルムである。前記偏光素子とは、入射光を偏光に変えて射出する光学素子である。
前記偏光板としては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素溶液中に浸漬して延伸することによって作製される偏光素子の少なくとも一方の表面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて、前記樹脂フィルム又は前記積層フィルムを貼り合わせたものが好ましい。また、前記偏光素子のもう一方の表面にも、前記樹脂フィルムを積層させてもよいし、別の偏光板用の透明保護フィルムを積層させてもよい。この偏光板用の透明保護フィルムとしては、例えば、市販のセルロースエステルフィルムとして、KC8UX2M、KC4UX、KC5UX、KC4UY、KC8UY、KC12UR、KC8UY−HA、KC8UX−RHA(以上、コニカミノルタオプト株式会社製)等が好ましく用いられる。あるいは、セルロースエステルフィルム以外の環状オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート等の樹脂フィルムを用いてもよい。この場合は、ケン化適性が低いため、適当な接着層を介して偏光板に接着加工することが好ましい。
前記偏光板は、上述のように、偏光素子の少なくとも一方の表面側に積層する保護フィルムとして、前記樹脂フィルムを使用したものである。その際、前記樹脂フィルムが位相差フィルムとして働く場合、樹脂フィルムの遅相軸が偏光素子の吸収軸に実質的に平行または直交するように配置されていることが好ましい。
また、前記偏光素子の具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール系偏光フィルムが挙げられる。ポリビニルアルコール系偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものとがある。前記ポリビニルアルコール系フィルムとしては、エチレンで変性された変性ポリビニルアルコール系フィルムが好ましく用いられる。
前記偏光素子は、例えば、以下のようにして得られる。まず、ポリビニルアルコール水溶液を用いて製膜する。得られたポリビニルアルコール系フィルムを一軸延伸させた後染色するか、染色した後一軸延伸する。そして、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を施す。
前記偏光素子の膜厚は、5〜40μmであることが好ましく、5〜30μmであることがより好ましく、5〜20μmであることがより好ましい。
該偏光素子の表面上に、セルロ−スエステル系樹脂フィルムを張り合わせる場合、完全鹸化ポリビニルアルコール等を主成分とする水系の接着剤によって貼り合わせることが好ましい。また、セルロースエステル系樹脂フィルム以外の樹脂フィルムの場合は、適当な粘着層を介して偏光板に接着加工することが好ましい。
上述のような偏光板は、透明保護フィルムとして、本実施形態に係る樹脂フィルムを用いる。この樹脂フィルムは、製造時に流延ダイの外表面に形成される皮膜の発生を抑制するための固化防止液の飛散による打点故障等の不具合の発生が抑制され、さらに、レタデーションや配向等の均一性の高い光学特性に優れたものであるので、得られた偏光板は、例えば、液晶表示装置に適用した際に、液晶表示装置の高画質化を実現できるものである。
(液晶表示装置)
本実施形態に係る液晶表示装置は、液晶セルと、前記液晶セルを挟むように配置された2枚の偏光板とを備え、前記2枚の偏光板のうち少なくとも一方が、前記偏光板である。なお、液晶セルとは、一対の電極間に液晶物質が充填されたものであり、この電極に電圧を印加することで、液晶の配向状態が変化され、透過光量が制御される。このような液晶表示装置は、偏光板用の透明保護フィルムとして、前記偏光板を用いる。そうすることによって、コントラスト等が向上された、高画質な液晶表示装置が得られる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
(ドープの調製)
まず、メチレンクロライド440質量部及びエタノール40質量部を入れた溶解タンクに、透明性樹脂としてセルローストリアセテート樹脂(数平均分子量Mn148000、重量平均分子量Mw310000、Mw/Mn=2.1)100質量部を添加し、さらに、トリフェニルホスフェート8質量部、エチルフタリルエチルグリコール2質量部、チヌビン109(BASFジャパン株式会社製)0.5質量部、チヌビン171(BASFジャパン株式会社製)0.5質量部、及びアエロジル972V(日本アエロジル株式会社製)0.2質量部を添加した。そして、液温が80℃になるまで昇温させた後、3時間攪拌した。そうすることによって、樹脂溶液が得られた。その後、攪拌を終了し、液温が43℃になるまで放置した。そして、放置後の樹脂溶液を、濾過精度0.005mmの濾紙を使用して濾過した。濾過後の樹脂溶液を一晩放置することにより、樹脂溶液中の気泡を脱泡させた。このようにして得られた樹脂溶液を、ドープとして使用して、以下のように、樹脂フィルムを製造した。
(樹脂フィルムの製造)
まず、得られたドープの温度を30℃に、無端ベルト支持体の温度を25℃に調整した。そして、図1に示すような樹脂フィルムの製造装置を用い、流延ダイから搬送速度100m/分の、ステンレス鋼製かつ超鏡面に研磨したエンドレスベルトからなる無端ベルト支持体にドープを流延した。
その際、流延ダイとしては、以下のような流延ダイを用いた。
まず、流延ダイの長手方向の幅が2500mmであり、その外表面の下端部の中央部2490mmに、旭硝子株式会社製のサイトップを用いたフッ素系樹脂被覆処理が施されたフッ素系樹脂被覆処理層が形成されている。そのフッ素系樹脂被覆処理層の厚さは5ミクロンであった。前記フッ素系樹脂被覆処理層の幅Bは、50mmであった。そして、流延ダイの外表面の両端部に、サンドペーパーで粗面化処理を施した粗面化処理層が形成されている。その粗面化処理層の幅Aが1mm、長さCが5mmであった。なお、粗面化処理層の幅Aは、表1に示す幅である。
また、粗面化処理層の表面粗さRzは、表1に示す値であり、800nmであった。ここでのRzは、株式会社ミツトヨ製のSJ−400を用いて、JIS B0601:2001に準拠の方法で測定された。
また、粗面化処理層としては、その表面エネルギが、フッ素系樹脂被覆処理層の表面エネルギに対して、表1に示す表面エネルギ差だけ高いものである。
なお、表1に示す表面エネルギ差は、スリット部の長手方向両端部から300mmの範囲を10mm間隔で測定した表面エネルギの平均値と、フッ素系樹脂被覆処理層の表面エネルギとの差である。また、各表面エネルギは、上記の方法で測定した。
また、前記ドープの流延の際、メチレンクロライド95質量%及びメタノール5質量%の混合溶媒を溶剤として、溶剤供給口から前記粗面化処理層上を流動させ、流延ダイの吐出口両端部から流下させた。
そして、無端ベルト支持体側の乾燥機から、40℃の風を10m/分で送り、無端ベルト支持体上のウェブを乾燥させる。その乾燥したウェブを、無端ベルト支持体からフィルムとして剥離した。なお、剥離直前のフィルムは、残留溶媒率が80質量%であった。
剥離したフィルムは、搬送ローラで搬送されながら、80℃で1時間乾燥された。乾燥したフィルムは、延伸装置(テンター)を用いて、100℃の環境下で、フィルムの両端をクリップで把持しながら、TD方向に1.25倍に延伸した。なお、延伸時のフィルムは、残留溶媒率が3〜10質量%であった。そして、延伸したフィルムは、搬送ローラで搬送されながら、125℃で1時間乾燥された。
その後、乾燥したフィルムを巻取装置で巻き取ることによって、ロール状に巻き取られた樹脂フィルムが得られた。得られた樹脂フィルムは、20℃まで冷却させた。
このようにして得られた樹脂フィルムは、膜厚50μm、幅2200mmのセルロースエステルフィルムであった。
[実施例2]
粗面化処理層の幅Aを、表1に示す3mmに変更し、さらに、粗面化処理で用いるサンドペーパーの粗さを変えることによって、粗面化処理層の表面粗さRzを、表1に示す1000nmに変更したこと以外、実施例1と同様である。
[実施例3]
粗面化処理層の幅Aを、表1に示す8mmに変更し、さらに、粗面化処理で用いるサンドペーパーの粗さを変えることによって、粗面化処理層の表面粗さRzを、表1に示す2500nmに変更したこと以外、実施例1と同様である。
[実施例4]
粗面化処理層の幅Aを、表1に示す10mmに変更し、さらに、粗面化処理で用いるサンドペーパーの粗さを変えることによって、粗面化処理層の表面粗さRzを、表1に示す8000nmに変更したこと以外、実施例1と同様である。
[実施例5]
粗面化処理層の幅Aを、表1に示す10mmに変更し、さらに、粗面化処理で用いるサンドペーパーの粗さを変えることによって、粗面化処理層の表面粗さRzを、表1に示す8500nmに変更したこと以外、実施例1と同様である。
[実施例6〜10]
実施例6〜10は、前記フッ素系樹脂被覆層の厚みを3mmに変えることによって、表面エネルギ差を、10mN/mに変更したこと以外、実施例1〜5と同様である。
[比較例1]
粗面化処理層を形成させないこと以外、実施例1と同様である。
[比較例2]
粗面化処理層の幅Aを、表1に示す12mmに、粗面化処理層の表面粗さRzを、表1に示す2500nmに変更したこと以外、比較例1と同様である。
[比較例3]
粗面化処理層の幅Aを、表1に示す0mmに、端部から5mmの位置(実施例においては、粗面化処理層が存在する領域)の表面粗さRzを、表1に示す800nmに変更し、さらに、前記フッ素系樹脂被覆層の厚みを変えることによって、表面エネルギ差を、40mN/mに変更したこと以外、実施例1と同様である。
[比較例4]
粗面化処理層の幅Aを、表1に示す12mmに、粗面化処理層の表面粗さRzを、表1に示す2500nmに変更し、さらに、前記フッ素系樹脂被覆層の厚みを変えることによって、表面エネルギ差を、40mN/mに変更したこと以外、実施例1と同様である。
上記のようにして得られた樹脂フィルム(実施例1〜10、比較例1〜4)を、以下の評価を行い、その結果を表1に示す。
(皮膜形成)
上記のように樹脂フィルムを形成させている際に、前記流延ダイの外表面に皮膜が形成されているか否かを確認した。具体的には、支持体上の流延膜の端部をカメラで観察し、ドープの流れに乱れが発生していると、皮膜の形成が確認されたことにした。
そして、樹脂フィルムの製造を4週間以上連続で行なっても、皮膜の形成が確認できなければ、「◎」と評価した。また、樹脂フィルムの製造を2週間以上連続で行なっても、皮膜の形成が確認できないが、樹脂フィルムの製造を4週間連続で行なうと、皮膜の形成が確認できる場合、「○」と評価し、樹脂フィルムの製造を2週間連続で行なうと、皮膜の形成が確認できる場合、「×」と評価した。
(打点故障)
形成された樹脂フィルムの表面を目視で観察した。円形の凹みがあるか否かを観察した。この凹みは、溶剤の飛散に起因する打点故障であると推察される。
樹脂フィルムの製造を1ヶ月以上連続で行なっても、円形の凹みが確認できなければ、「◎」と評価した。樹脂フィルムの製造を2週間以上連続で行なっても、円形の凹みが確認できないが、樹脂フィルムの製造を4週間連続で行なうと、円形の凹みが確認できる場合、「○」と評価した。樹脂フィルムの製造を3日間以上連続で行なっても、円形の凹みが確認できないが、樹脂フィルムの製造を2週間連続で行なうと、円形の凹みが確認できる場合、「△」と評価した。樹脂フィルムの製造を3日間連続で行なうと、円形の凹みが確認できる場合、「×」と評価した。
これらの結果を表1に示す。
表1からわかるように、粗面化処理層(第1領域)の表面エネルギが、フッ素系樹脂被覆処理層(第2領域)の表面エネルギに対して、10〜30mN/m高い流延ダイを用いた場合(実施例1〜10)は、表面エネルギに差がない場合(比較例1及び比較例2)や粗面化処理層(第1領域)の表面エネルギが、フッ素系樹脂被覆処理層(第2領域)の表面エネルギに対して、30mN/mを超えて高い流延ダイを用いた場合(比較例3及び比較例4)と比較して、皮膜の形成が抑制され、さらに、打点故障の発生が少ない。
本明細書は、上記のように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
本発明の一局面は、透明性樹脂を含有する樹脂溶液を、走行する支持体上に流延ダイから流延して流延膜を形成する流延工程と、前記流延膜を前記支持体から剥離する剥離工程とを備え、前記流延工程において、前記流延ダイの吐出口から前記樹脂溶液を吐出して、前記支持体上に流延するとともに、前記透明性樹脂を溶解可能な溶剤を、前記流延ダイの吐出口の長手方向両端部の上方位置から、前記流延ダイの吐出口の長手方向両端部に向かって、前記流延ダイの外表面上に流動させることにより、前記流延ダイの吐出口の長手方向両端部から流下させ、前記流延ダイとして、その外表面の、前記流延ダイの吐出口の長手方向両端部の上方位置と、前記流延ダイの吐出口の長手方向両端部とに囲まれた第1領域の表面エネルギが、前記第1領域より前記流延ダイの吐出口の長手方向中央部側の第2領域の表面エネルギに対して、10〜30mN/m高い流延ダイを用いることを特徴とする樹脂フィルムの製造方法である。
このような構成によれば、流延ダイの外表面に、樹脂フィルムを製造する際に用いる樹脂溶液に基づく皮膜の形成が抑制された樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。
このことは、以下のことによると考えられる。
まず、流延ダイの吐出口の長手方向両端部から、樹脂フィルムを構成する透明性樹脂を溶解可能な溶剤(固化防止液)を流下させることによって、支持体上で前記固化防止液の少なくとも一部が流延膜に浸透し、流延膜の幅方向(流延膜の搬送方向に直交する方向)端部の溶媒濃度を高めることができると考えられる。よって、流延ダイから流延された流延膜の端部が他の部分より乾燥されやすかったとしても、流延ダイの吐出口の長手方向両端部付近の外表面に皮膜が形成されることを抑制できると考えられる。
そして、前記第1領域が、前記第2領域より表面エネルギが高いということは、前記第1領域が、前記第2領域より撥液性が低いことを示すと考えられる。このことから、固化防止液が、前記第1領域上を比較的ゆっくり流動すると考えられる。よって、固化防止液の、前記第1領域から前記第2領域への飛散や、前記第1領域でのドープの流動の蛇行等が抑制されると考えられる。このため、吐出口から吐出されたドープの幅方向の位置に好適に流下されると考えられる。よって、固化防止液が、前記第1領域以外に飛散等することによって、形成される樹脂フィルムに打点故障等の故障を発生させることを抑制しつつ、流延ダイの吐出口の長手方向両端部付近の外表面に皮膜が形成されることを抑制できると考えられる。
さらに、前記第2領域が、前記第1領域より表面エネルギが低いということは、前記第1領域が、前記第2領域より撥液性が高いことを示すと考えられる。このことから、前記第2領域に樹脂溶液(ドープ)が付着しても、流れ落ち、付着したドープが乾燥することによる皮膜の形成が抑制されると考えられる。よって、流延ダイの吐出口の長手方向中央部付近の外表面に皮膜が形成されることを抑制できると考えられる。
以上のことから、流延ダイの外表面に、樹脂フィルムを製造する際に用いる樹脂溶液に基づく皮膜の形成を抑制することができると考えられる。さらに、上述したように、固化防止液の飛散等によって、形成される樹脂フィルムに打点故障等の故障を発生させることも抑制できると考えられる。
また、前記樹脂フィルムの製造方法において、前記第1領域の表面粗さが、十点平均粗さRzで1000〜8000nmであることが好ましい。
このような構成によれば、流延ダイの外表面に、樹脂フィルムを製造する際に用いる樹脂溶液に基づく皮膜の形成がより抑制された樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。
このことは、以下のことによると考えられる。
上述したことに加え、前記第1領域の表面粗さを上記の範囲内にすることによって、固化防止液の、前記第1領域から前記第2領域への飛散や、前記第1領域でのドープの流動の蛇行等がより抑制されると考えられる。このため、吐出口から吐出されたドープの幅方向の位置により好適に流下されると考えられる。よって、固化防止液が、前記第1領域以外に飛散等することによって、形成される樹脂フィルムに打点故障等の故障を発生させることをより抑制しつつ、流延ダイの吐出口の長手方向両端部付近の外表面に皮膜が形成されることをより抑制できると考えられる。
また、前記樹脂フィルムの製造方法において、前記第1領域の、前記吐出口の長手方向に平行な方向の長さが、1〜10mmであることが好ましく、3〜10mmであることがより好ましい。
このような構成によれば、流延ダイの外表面に、樹脂フィルムを製造する際に用いる樹脂溶液に基づく皮膜の形成がより抑制された樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。このことは、前記第1領域の、前記吐出口の長手方向に平行な方向の長さを上記範囲内にすることによって、流延ダイの吐出口の長手方向両端部付近の外表面に形成される皮膜の形成を抑制する効果と、流延ダイの吐出口の長手方向中央部付近の外表面に形成される皮膜の形成を抑制する効果とをそれぞれ好適に発揮できることによると考えられる。
また、前記樹脂フィルムの製造方法において、前記透明性樹脂が、セルロースエステル系樹脂であり、前記溶剤が、メチレンクロライドを含むことが好ましい。
このような構成によれば、流延ダイの外表面に、樹脂フィルムを製造する際に用いる樹脂溶液に基づく皮膜の形成がより抑制された樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。このことは、メチレンクロライドを含む溶剤は、セルロースエステル系樹脂を好適に溶解させることができる。このことから、透明性樹脂が、セルロースエステル系樹脂であるときに、前記溶剤として、メチレンクロライドを含む溶剤を用いることによって、吐出口の長手方向両端部において、ドープの溶媒の乾燥を好適に抑制でき、樹脂溶液に基づく皮膜の形成がより抑制された樹脂フィルムを製造することができると考えられる。さらに、透明性樹脂として、セルロースエステル系樹脂を用いるので、得られた樹脂フィルムの透光性が高いものが得られる。
また、本発明の他の一局面は、透明性樹脂を含有する樹脂溶液を、走行する支持体上に流延して流延膜を形成させる流延ダイであって、前記流延ダイの外表面の、吐出口の長手方向両端部の上方位置に、前記透明性樹脂を溶解可能な溶剤を供給するための供給口が形成されており、前記供給口と、前記流延ダイの吐出口の長手方向両端部とに囲まれた第1領域の表面エネルギが、前記第1領域より前記流延ダイの吐出口の長手方向中央部側の第2領域の表面エネルギに対して、10〜30mN/m高いことを特徴とする流延ダイである。
このような構成の流延ダイを用いて樹脂フィルムを製造すると、流延ダイの外表面に、樹脂フィルムを製造する際に用いる樹脂溶液に基づく皮膜の形成を抑制しつつ、樹脂フィルムを製造することができる。
また、本発明の他の一局面は、走行可能な支持体と、透明性樹脂を含有する樹脂溶液を、走行する前記支持体上に流延することにより前記支持体上に流延膜を形成するための流延ダイと、前記支持体から前記流延膜を剥離する剥離部とを備え、前記流延ダイが、上述した流延ダイであることを特徴とする樹脂フィルムの製造装置である。
このような構成によれば、流延ダイの外表面に、樹脂フィルムを製造する際に用いる樹脂溶液に基づく皮膜の形成を抑制しつつ、樹脂フィルムを製造することができる樹脂フィルムの製造装置を提供することができる。
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂フィルムの製造方法によって得られたことを特徴とする樹脂フィルムである。
このような構成によれば、製造時に流延ダイの外表面に形成される皮膜の発生を抑制するための固化防止液の飛散による打点故障等の不具合の発生が抑制された樹脂フィルムが得られる。さらに、流延ダイの吐出口付近の外表面に形成される皮膜による、樹脂溶液(ドープ)の流れの乱れの発生を抑制できるので、得られた樹脂フィルムは、レタデーションや配向等の均一性の高い光学特性に優れたものである。
また、本発明の他の一局面は、偏光素子と、前記偏光素子の表面上に配置された透明保護フィルムとを備え、前記透明保護フィルムが、前記樹脂フィルムであることを特徴とする偏光板である。
このような構成によれば、偏光素子の透明保護フィルムとして、製造時に流延ダイの外表面に形成される皮膜の発生を抑制するための固化防止液の飛散による打点故障等の不具合の発生が抑制され、さらに、レタデーションや配向等の均一性の高い光学特性に優れた樹脂フィルムが適用されているので、例えば、液晶表示装置に適用した際に、液晶表示装置の高画質化を実現できる偏光板が得られる。
また、本発明の他の一局面は、液晶セルと、前記液晶セルを挟むように配置された2枚の偏光板とを備え、前記2枚の偏光板のうち少なくとも一方が、前記偏光板であることを特徴とする液晶表示装置である。
このような構成によれば、製造時に流延ダイの外表面に形成される皮膜の発生を抑制するための固化防止液の飛散による打点故障等の不具合の発生が抑制され、さらに、レタデーションや配向等の均一性の高い光学特性に優れた樹脂フィルムを備えた偏光板を用いるので、高画質な液晶表示装置が得られる。