JP5680959B2 - 芳香族カルボン酸の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、有機溶媒などの反応溶媒が少ない系(特に、反応溶媒の非存在下)で、アルキル基及び/又はアルキレン基を有する芳香族化合物(アレーン化合物など)を分子状酸素で酸化して芳香族カルボン酸を得るのに有用な芳香族カルボン酸の製造方法に関する。
芳香族カルボン酸又はその誘導体(芳香族カルボン酸エステル、芳香族カルボン酸無水物など)は、様々な樹脂の原料に用いられ、世界的な需要も非常に多い。例えば、p−キシレンから誘導されるテレフタル酸は、汎用性の高いポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂の原料として世界中で使用されている。また、デュレンから誘導されるピロメリット酸無水物は、電子材料などの幅広い用途で利用されている。
現在、芳香族カルボン酸又はその誘導体の多くは、対応する芳香族化合物の酸素酸化により製造されている。例えば、テレフタル酸などのカルボン酸は、遷移金属塩及び臭素を含む触媒系を用いた空気酸化法により製造されている。しかし、このような方法では、比較的高い反応温度を必要としたり、ハロゲン系触媒により装置が腐食するなどの問題がある。
そこで、比較的温和な条件で、比較的効率よく反応を行う方法が検討されている。例えば、特開2001−354596号公報(特許文献1)には、イミド触媒を用いて有機化合物を製造する際に、イミド触媒を反応系に逐次添加することにより、基質の転化率及び/又は目的化合物の選択率を向上させることが開示されている。しかし、この方法は、基本的には溶媒の存在下で反応することを前提としており、精製効率が低い。また、特開2002−331242号公報(特許文献2)には、脂溶性の高いイミド触媒を用いることにより、溶媒の非存在下、又は低極性の反応溶媒を用いた場合でも、効率よくシクロヘキサンなどを酸化できることが開示されている。しかし、従来の方法では、触媒活性や生成物の収率が依然として不十分であり、コスト的にも改善の余地がある。そのため、比較的少ない触媒量で、効率よく反応を進行させ、高い選択率及び収率で目的化合物を製造でき、しかも精製効率を改善できる方法が要求されている。
特開2001−354596号公報(請求項1及び段落番号[0007]) 特開2002−331242号公報(請求項1及び段落番号[0011])
従って、本発明の目的は、触媒活性を高めて、目的とする芳香族カルボン酸を効率よく製造できる方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、比較的少ない触媒量であっても、効率よく酸化反応を進行できるとともに、精製効率も高く、高い生産性で芳香族カルボン酸を製造できる方法を提供することにある。
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、(i)溶剤の非存在下、又は少量の溶剤の存在下で、アルキル基及び/又はアルキレン基を有する芳香族化合物を、特定のイミド触媒及び遷移金属助触媒を用いて酸化すると、生成した芳香族カルボン酸が遷移金属助触媒と塩を形成し、この塩が活性種として働くためか、酸化反応が効率よく進行すること、(ii)多量の溶媒成分を除去する必要がないため、精製効率が高く、エネルギー的に有利であることを見出した。また、本発明者らは、(iii)イミド触媒を、基質、反応中間体及び/又は反応生成物と共に、反応系に逐次的又は連続的に供給すると、酸化反応が加速されること、(iv)このような反応系では、イミドラジカル(>N−O・)が良好に分散して、効率よく反応に関与できるため、触媒量が少なくても効率よく酸化反応が進行すること、さらには、(v)イミド触媒を用いることなく酸化反応を行うと、基質の芳香族化合物から脱炭酸した化合物が副生するが、イミド触媒の添加により、この副生成物の副生が低減することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明では、下記式(1)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物で構成された触媒(以下、単に環状イミノ単位を有する触媒、イミド化合物又は触媒と言う場合がある)と、遷移金属助触媒との存在下、基質としてのアルキル基及び/又はアルキレン基を有する芳香族化合物を酸素酸化し、対応する芳香族カルボン酸を製造する方法において、前記触媒と、基質、この基質の酸化反応により生成する反応中間体及び反応生成物から選択された少なくとも一種との混合物を、前記酸化反応系に逐次的又は連続的に供給しつつ、酸化反応を行う。
Figure 0005680959
(式中、Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基)を示し、「N」と「X」とを結ぶ実線と破線との二重線は単結合又は二重結合を示す)。
前記酸化反応は、通常、反応溶媒(前記基質、反応中間体及び反応生成物は包含しない)の非存在下で行う。前記製造方法では、反応により生成する水を、反応系から除去しつつ反応させてもよい。
環状イミノ単位を有する触媒と共に反応系に供給する成分としては、(b-1)基質であるアルキル基及び/又はアルキレン基を有する芳香族化合物、(b-2)基質の芳香族化合物に対応するカルボニル化合物[例えば、反応中間体(例えば、ケトン、アルデヒドなど)、反応生成物(芳香族カルボン酸など)など]、及び(b-3)反応生成物である水から選択された少なくとも一種などを用いてもよい。環状イミノ単位を有する触媒は、水溶性又は水分散性のイミド化合物であってもよく、基質は、芳香環に1又は2個のC1−4アルキル基及び/又はC1−4アルキレン基が置換した芳香族化合物であってもよい。また、酸化反応により生成した芳香族カルボン酸は、遷移金属助触媒と塩を形成可能であってもよい。環状イミノ単位を有する触媒は、アルカンジカルボン酸イミド、アルケンカルボン酸イミド、及び少なくとも1つの窒素原子上に酸素原子又は−OR基(Rは前記に同じ)を有するイソシアヌル酸から選択された少なくとも一種であってもよい。前記遷移金属助触媒は、少なくとも周期表9族金属成分及び周期表7族金属成分を含有してもよい。遷移金属助触媒は、コバルト化合物とマンガン化合物とを含有してもよい。
なお、本願明細書において「芳香族カルボン酸」とは、遊離のカルボキシル基を有するカルボン酸に限らず、芳香族カルボン酸の誘導体、例えば、酸無水物基を有する化合物、カルボン酸エステル[メチルエステル、エチルエステルなどの低級アルキルエステル(C1−4アルキルエステルなど)など]なども包含する意味に用いる。
また、「反応溶媒」「有機溶媒」及び「溶剤」は、基質、反応中間体及び反応生成物を含まず、基質、反応中間体及び反応生成物とは異なる成分を意味する。そのため、「基質、反応中間体及び反応生成物」は反応系に媒体として存在していてもよい。
本発明では、イミド触媒を、基質、反応中間体及び/又は反応生成物と共に、反応系に逐次的又は連続的に供給するので、触媒活性を高めて、目的とする芳香族カルボン酸を効率よく製造できる。そのため、比較的少ない触媒量であっても、効率よく酸化反応を進行できる。さらに、酸化反応には、通常酸化反応に使用されるような反応溶媒(基質、反応中間体及び反応生成物とは異なる有機溶媒など)を用いないか、又は用いても少量であるため、精製効率を向上できるとともに、高い生産性で芳香族カルボン酸を得ることができる。
本発明では、前記式(1)で表される骨格を有する環状イミノ単位を有する触媒と、遷移金属助触媒との存在下、基質としてのアルキル基及び/又はアルキレン基を有する芳香族化合物を酸素酸化し、対応する芳香族カルボン酸を製造する方法おいて、前記触媒と、基質、反応中間体及び反応生成物から選択された少なくとも一種との混合物を、前記酸化反応系に逐次的又は連続的に供給しつつ、酸化反応を行う。
(環状イミノ単位を有する触媒)
イミド化合物は、環の構成要素として前記式(1)で表される骨格(骨格(1))を有する環状イミノ単位を有する化合物である。イミド化合物は、分子中に、少なくとも1つの骨格(1)を有していればよく、複数の骨格(1)を有していてもよい。また、環状イミノ単位は、構成要素として複数の骨格(1)で1つの環を構成していてもよい。環状イミノ単位は、骨格(1)が有する窒素原子以外に、1つ又は複数のヘテロ原子(例えば、窒素原子、硫黄原子、酸素原子など(特に窒素原子))を環の構成原子として有していてもよい。
骨格(1)[又は前記触媒(イミド化合物)の環状イミノ単位]において、Xは酸素原子、−OH基又は保護基Rで保護されたヒドロキシル基を示す。保護基としては、例えば、特開2002−308805号公報(特許文献3)、特開2006−273793号公報(特許文献4)、WO 2002/040154(特許文献5)などを参照できる。保護基Rとしては、例えば、置換基を有していてもよい炭化水素基[アルキル基、アルケニル基(アリル基など)、シクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアラルキル基など];ヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基、例えば、置換C1−3アルキル基(ハロC1−2アルキル基(2,2,2−トリクロロエチル基など)、C1−4アルコキシC1−2アルキル基(メトキシメチル基、エトキシメチル基、イソプロポキシメチル基、2−メトキシエチル基、1−エトキシエチル基、1−イソプロポキシエチル基など)、これらのC1−4アルコキシC1−2アルキル基に対応するC1−4アルキルチオC1−2アルキル基、ハロC1−4アルコキシC1−2アルキル基(2,2,2−トリクロロエトキシメチル基、ビス(2−クロロエトキシ)メチル基など)、C1−4アルキルC1−4アルコキシC1−2アルキル基(1−メチル−1−メトキシエチル基など)、C1−4アルコキシC1−3アルコキシC1−2アルキル基(2−メトキシエトキシメチル基など)、C1−4アルキルシリルC1−4アルコキシC1−2アルキル基(2−(トリメチルシリル)エトキシメチル基など)、アラルキルオキシC1−2アルキル基(ベンジルオキシメチル基など)など)、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選択された5又は6員複素環基(テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基などの飽和複素環基など)、置換基を有していてもよい1−ヒドロキシ−C1−20アルキル基(1−ヒドロキシエチル、1−ヒドロキシヘキシル基などの1−ヒドロキシ−C1−10アルキル基、1−ヒドロキシ−1−フェニルメチル基など)など;アシル基(飽和又は不飽和アルキルカルボニル基、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル基などのC1−20アルキル−カルボニル基など;アセトアセチル基;脂環式アシル基、例えば、シクロペンタンカルボニル、シクロヘキサンカルボニル基などのC4−10シクロアルキル−カルボニル基など;ベンゾイル、ナフトイル基などのC6−12アリール−カルボニル基など)、アルキル基がハロゲン化されていてもよいスルホニル基(メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基などのアルキルスルホニル基、ベンゼンスルホニル、p−トルエンスルホニル、ナフタレンスルホニル基などのアリールスルホニル基など);アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など)、アラルキルオキシカルボニル基(例えば、ベンジルオキシカルボニル基、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基など);置換又は無置換カルバモイル基(カルバモイル基、メチルカルバモイル基などのC1−4アルキルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基など);無機酸(硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸など)からOH基を除した基;ジアルキルホスフィノチオイル基、ジアリールホスフィノチオイル基;置換シリル基(例えば、トリメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、トリベンジルシリル、トリフェニルシリル基など)などが挙げられる。
好ましいRとしては、アルキル基(メチル基など)以外の保護基、例えば、水素原子;ヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基;加水分解により脱離可能な加水分解性保護基、例えば、カルボン酸、スルホン酸、炭酸、カルバミン酸、硫酸、リン酸、ホウ酸などの酸からOH基を除した基(アシル基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基など)などが例示できる。
前記式において、窒素原子「N」と「X」とを結ぶ実線と破線との二重線は単結合又は二重結合を示す。
環状イミノ単位を有する触媒(イミド化合物)としては、例えば、骨格(1)を環の構成要素として含む5員又は6員の環状ユニットを有する化合物などが例示できる。このような化合物は、公知であり、前記特許文献3〜5などを参照できる。5員の環状ユニットを有する化合物としては、例えば、下記式(2)で表される化合物などが例示でき、前記6員の環状ユニットを有する化合物としては、例えば、下記式(3)又は(4)で表される化合物などが例示できる。
Figure 0005680959
(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基又はアシルオキシ基を示し、RとRとは互いに結合して芳香族性又は非芳香族性の環を形成してもよく、RとRとは互いに結合して芳香族性又は非芳香族性の環を形成してもよい。これらの環は、上記環状イミノ単位をさらに1又は2個有していてもよい。実線と破線との二重線は単結合又は二重結合を示す。Xは、水素原子又はXを示し、少なくとも1つのXはXである。Xは前記に同じ。)
置換基R、R及びRで表されるハロゲン原子には、ヨウ素、臭素、塩素およびフッ素原子が含まれる。アルキル基には、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ヘキシル、デシル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−20アルキル基(特にC1−16アルキル基)が含まれる。シクロアルキル基には、シクロペンチル、シクロヘキシル基などのC3−10シクロアルキル基が含まれる。アリール基には、フェニル、ナフチル基などが含まれる。
アルコキシ基には、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシ、ヘキシルオキシ、オクチルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ、テトラデシルオキシ、オクタデシルオキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−20アルコキシ基(特に、C1−16アルコキシ基)が含まれる。置換オキシカルボニル基には、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル、オクチルオキシカルボニル、デシルオキシカルボニル基などのC1−20アルコキシ−カルボニル基;シクロペンチルオキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニル基などのC3−10シクロアルキルオキシ−カルボニル基;フェニルオキシカルボニル、ナフチルオキシカルボニル基などのC6−12アリールオキシ−カルボニル基;ベンジルオキシカルボニル基などのC6−12アリールC1−4アルキルオキシ−カルボニル基などが挙げられる。アシル基としては、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル基などのC1−20アルキル−カルボニル基など;アセトアセチル基;シクロペンチルカルボニル、シクロヘキシルカルボニル基などのシクロアルキルカルボニル基(C3−10シクロアルキル−カルボニル基など);ベンゾイル、ナフトイル基などの芳香族アシル基などが例示できる。アシルオキシ基としては、前記アシル基に対応するアシルオキシ基、例えば、C1−20アルキル−カルボニルオキシ基;アセトアセチルオキシ基;シクロアルキルカルボニルオキシ基;アリールカルボニルオキシ基などが例示できる。
前記置換基R、R及びRは、同一又は異なっていてもよい。また、前記式(2)〜(4)において、RとRとを結ぶ破線又はRとRとを結ぶ破線は、それぞれ、R及びR、又はR及びRが、互いに結合して、芳香族性又は非芳香族性の環を形成してもよいことを示す。なお、R及びRが互いに結合して形成される環と、R及びRが互いに結合して形成される環とは、一体となって、多環式の芳香族性又は非芳香族性の縮合環を形成していてもよい。
とRとが互いに結合して形成される芳香族性又は非芳香族性環、及びRとRとが互いに結合して形成される芳香族性又は非芳香族性環は、例えば、5〜16員環、好ましくは6〜14員環、さらに好ましくは6〜12員環(例えば、6〜10員環)程度であってもよい。また、前記芳香族性又は非芳香族性環は、複素環、縮合複素環であってもよいが、炭化水素環又は炭化水素環がさらに1又は2個の環状イミノ単位を有する環である場合が多い。このような炭化水素環には、例えば、非芳香族性脂環式環(シクロヘキサン環などのC3−10シクロアルカン環、シクロヘキセン環などのC3−10シクロアルケン環など;非芳香族性橋かけ環(5−ノルボルネン環などの二環式乃至四環式橋かけ式炭化水素環など)、芳香族環(ベンゼン環、ナフタレン環などのC6−12アレーン環、縮合環など)が含まれる。これらの環は置換基(アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子など)を有していてもよい。前記環は、芳香族環で構成される場合が多い。
好ましい触媒(イミド化合物)には、下記式(1a)〜(1d)で表される化合物及び前記式(4)で表される化合物が含まれる。
Figure 0005680959
[式中、−A−は、単結合又は下記式(A)
Figure 0005680959
で表される基を示す。R〜R16は、同一又は異なって、水素原子、前記例示のアルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、前記例示のアルコキシ基、カルボキシル基、前記例示の置換オキシカルボニル基、前記例示のアシル基、前記例示のアシルオキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、前記例示のハロゲン原子を示す。R〜R12は、隣接する基同士が互いに結合して、前記と同様の芳香族性又は非芳香族性の環を形成していてもよく、下記式(1e)
Figure 0005680959
(式中、−A−及び−A−は単結合又は前記式(A)で表される基を示す。ただし、−A−が単結合のとき、−A−は単結合又は前記式(A)で表される基であり、−A−が前記式(A)で表される基であるとき、−A−は単結合である)で表される環状イミノ単位を形成してもよい。また、R〜R12のうち隣接する基同士が互いに結合して形成される芳香族性又は非芳香族性の環が、さらに式(1e)で表される環状イミノ単位を1又は2個有していてもよい。式(1d)中、Aはメチレン基又は酸素原子を示す。実線と破線との二重線は、単結合又は二重結合を示す。]
なお、複数の環状イミノ単位を有するイミド化合物としては、例えば、下記式で表される化合物などが例示できる。
Figure 0005680959
(式中、R17〜R20は、同一又は異なって、水素原子、前記例示のアルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、前記例示のアルコキシ基、カルボキシル基、前記例示の置換オキシカルボニル基、前記例示のアシル基、前記例示のアシルオキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、前記例示のハロゲン原子を示す。−A−、A、−A−、−A−、R、R、R、R13〜R16及びXは前記に同じ。R、R〜R10、及びR17〜R20のうち隣接する基同士は互いに結合して、前記と同様の芳香族性又は非芳香族性の環を形成していてもよい。実線と破線との二重線は、単結合又は二重結合を示す。)
置換基R〜R20において、ハロアルキル基には、トリフルオロメチル基などのハロC1−20アルキル基が含まれる。置換基R〜R20は、通常、水素原子、アルキル基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、ニトロ基、ハロゲン原子である場合が多い。
イミド化合物の具体例としては、例えば、前記式においてXがOH基である化合物、例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド又はN−ヒドロキシコハク酸イミドのα,β位置にアシルオキシ基(アセトキシ、プロピオニルオキシ、バレリルオキシ、ペンタノイルオキシ、ラウロイルオキシ基など)やアリールカルボニルオキシ基(ベンゾイルオキシ基など)が置換した化合物、N−ヒドロキシマレイン酸イミド、N−ヒドロキシヘキサヒドロフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシシクロヘキサンテトラカルボン酸イミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド又はN−ヒドロキシフタル酸イミドの4位及び/又は5位にアルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、ペンチルオキシカルボニル、ドデシルオキシカルボニル基など)やアリールオキシカルボニル基(フェノキシカルボニル基など)が置換した化合物、N−ヒドロキシテトラブロモフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラクロロフタル酸イミド、N−ヒドロキシヘット酸イミド、N−ヒドロキシハイミック酸イミド、N−ヒドロキシトリメリット酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸イミド、N,N′−ジヒドロキシナフタレンテトラカルボン酸イミド(例えば、N,N′−ジヒドロキシナフタレン−1,8,4,5−テトラカルボン酸イミドなど)、1,3,5−トリヒドロキシイソシアヌル酸など;式(1)においてXがOR基(Rはアセチル基などのアシル基を示す)である化合物、例えば、前記例示のN−ヒドロキシ骨格を有する化合物(式(1)においてXがOH基である化合物)に対応するN−アシル骨格を有する化合物(例えば、N−アセトキシコハク酸イミド、N−アセトキシマレイン酸イミド、N−アセトキシヘキサヒドロフタル酸イミド、N,N′−ジアセトキシシクロヘキサンテトラカルボン酸イミド、N−アセトキシフタル酸イミド、N−アセトキシテトラブロモフタル酸イミド、N−アセトキシテトラクロロフタル酸イミド、N−アセトキシヘット酸イミド、N−アセトキシハイミック酸イミド、N−アセトキシトリメリット酸イミド、N,N′−ジアセトキシピロメリット酸イミド、N,N′−ジアセトキシナフタレンテトラカルボン酸イミド(例えば、N,N′−ジアセトキシナフタレン−1,8,4,5−テトラカルボン酸イミドなど)、N−バレリルオキシフタル酸イミド、N−ラウロイルオキシフタル酸イミドなど);前記例示のN−ヒドロキシ骨格を有する化合物(式(1)においてXがOH基である化合物)に対応し、かつ式(1)においてXがOR基(Rはヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール結合を形成可能な基を示す)である化合物、例えば、N−メトキシメチルオキシフタル酸イミド、N−(2−メトキシエトキシメチルオキシ)フタル酸イミド、N−テトラヒドロピラニルオキシフタル酸イミドなど;式(1)においてXがOR基(Rはスルホニル基を示す)である化合物、例えば、N−メタンスルホニルオキシフタル酸イミド、N−(p−トルエンスルホニルオキシ)フタル酸イミドなど;式(1)においてXがOR基(Rは無機酸からOH基を除した基を示す)である化合物、例えば、N−ヒドロキシフタル酸イミドの硫酸エステル、硝酸エステル、リン酸エステル又はホウ酸エステルなどが挙げられる。
環状イミノ単位を有する触媒(イミド化合物)の製造方法は、前記特許文献3〜5などに記載されており、これらの文献に記載の方法に準じて製造できる。なお、前記触媒に対応する酸無水物には、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸などの飽和又は不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物;テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸(1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物)、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸1,2−無水物、メチルシクロヘキセントリカルボン酸無水物などの飽和又は不飽和非芳香族性環状多価カルボン酸無水物(脂環式多価カルボン酸無水物);無水ヘット酸、無水ハイミック酸などの橋かけ環式多価カルボン酸無水物(脂環式多価カルボン酸無水物);無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、無水ニトロフタル酸、ヘット酸、無水ハイミック酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水メリット酸、1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3;6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などの芳香族多価カルボン酸無水物などが含まれる。
さらに、触媒(イミド化合物)には、連結基又は連結骨格(例えば、ビフェニル単位、ビスアリール単位など)を介して前記式(1)で表される骨格を有する環状化合物も含まれる。このような触媒(イミド化合物)としては、テトラカルボキシビフェニル類又はその酸無水物から誘導される化合物、例えば、N,N′−ジヒドロキシビフェニルテトラカルボン酸イミド、N,N′−ジアセトキシビフェニルテトラカルボン酸イミドなどの他、ビフェニルエーテルテトラカルボン酸又はその酸無水物から誘導される化合物(N,N′−ジヒドロキシビフェニルエーテルテトラカルボン酸イミド、N,N′−ジアセトキシビフェニルエーテルテトラカルボン酸イミドなど)、ビフェニルスルホンテトラカルボン酸又はその酸無水物から誘導される化合物(N,N′−ジヒドロキシビフェニルスルホンテトラカルボン酸イミド、N,N′−ジアセトキシビフェニルスルホンテトラカルボン酸イミドなど)、ビフェニルスルフィドテトラカルボン酸又はその酸無水物から誘導される化合物(N,N′−ジヒドロキシビフェニルスルフィドテトラカルボン酸イミド、N,N′−ジアセトキシビフェニルスルフィドテトラカルボン酸イミドなど)、ビフェニルケトンテトラカルボン酸又はその酸無水物から誘導される化合物(N,N′−ジヒドロキシビフェニルケトンテトラカルボン酸イミド、N,N′−ジアセトキシビフェニルケトンテトラカルボン酸イミドなど)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)アルカン又はその酸無水物から誘導される化合物(N,N′−ジヒドロキシビフェニルアルカンテトラカルボン酸イミド、N,N′−ジアセトキシビフェニルアルカンテトラカルボン酸イミドなど)などが含まれる。
式(1)で表されるイミド化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。前記イミド化合物は反応系内で生成させてもよい。
本発明において、好ましい触媒(環状イミノ単位を有する触媒又はN−ヒドロキシ骨格を有する化合物)は、水溶性又は水分散性のイミド化合物である。このような水溶性又は水分散性のイミド化合物には、脂肪族ジカルボン酸イミド、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸などの飽和又は不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物に対応するイミド化合物(例えば、アルカンジカルボン酸イミド、アルケンカルボン酸イミドなど)、及び前記式(4)の化合物(すなわち、少なくとも1つの窒素原子上に酸素原子又は−OR基(Rは前記に同じ)を有するイソシアヌル酸)などが含まれる。
前記イミド化合物は、担体(例えば、活性炭、ゼオライト、シリカ、シリカ−アルミナ、ベントナイトなどの多孔質担体)に担持した形態で用いてもよいが、通常、担持せずに使用する場合が多い。なお、担体に担持する場合、担体100重量部に対する前記イミド化合物の担持量は、例えば、0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜30重量部、さらに好ましくは1〜20重量部程度である。
(遷移金属助触媒)
遷移金属助触媒についても、前記特許文献3〜5などを参照できる。遷移金属助触媒としては、周期表2〜15族の金属元素を有する金属化合物を用いる場合が多い。なお、本明細書では、ホウ素Bも金属元素に含まれるものとする。前記金属元素としては、周期表2族元素(Mg、Ca、Sr、Baなど)、3族元素(Sc、ランタノイド元素、アクチノイド元素など)、4族元素(Ti、Zr、Hfなど)、5族元素(Vなど)、6族元素(Cr、Mo、Wなど)、7族元素(Mnなど)、8族元素(Fe、Ru、Osなど)、9族元素(Co、Rh、Irなど)、10族元素(Ni、Pd、Ptなど)、11族元素(Cuなど)、12族元素(Znなど)、13族元素(B、Al、Inなど)、14族元素(Sn、Pbなど)、15族元素(Sb、Biなど)などが挙げられる。これらの金属元素のうち、遷移金属元素(周期表3〜12族元素)、特に、Mn、Co、Zr、Ce、Fe、V、Moなど(とりわけ、Mn、Co、Zr、Ce、Fe)が好ましい。金属元素の原子価は特に制限されず、例えば0〜6価程度である。
金属化合物としては、前記金属元素の単体、水酸化物、酸化物(複合酸化物を含む)、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)、オキソ酸塩(例えば、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩など)、イソポリ酸の塩、ヘテロポリ酸の塩などの無機化合物;有機酸塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、青酸塩、ナフテン酸塩、ステアリン酸塩など)、錯体などの有機化合物が挙げられる。前記錯体の配位子としては、OH(ヒドロキソ)、アルコキシ(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなど)、アシル(アセチル、プロピオニルなど)、アルコキシカルボニル(メトキシカルボニル、エトキシカルボニルなど)、アセチルアセトナト、シクロペンタジエニル基、ハロゲン原子(塩素、臭素など)、CO、CN、酸素原子、HO(アコ)、ホスフィン(トリフェニルホスフィンなどのトリアリールホスフィンなど)のリン化合物、NH(アンミン)、NO、NO(ニトロ)、NO(ニトラト)、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェナントロリンなどの窒素含有化合物などが挙げられる。
金属化合物の具体例としては、例えば、水酸化物[水酸化コバルト、水酸化バナジウムなど]、酸化物[酸化コバルト、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化ジルコニウムなど]、ハロゲン化物(塩化コバルト、臭化コバルト、塩化バナジウム、塩化バナジル、塩化ジルコニウムなど)、無機酸塩(硝酸コバルト、硫酸コバルト、リン酸コバルト、硫酸バナジウム、硫酸バナジル、バナジン酸ナトリウム、硫酸マンガン、硫酸ジルコニウムなど)などの無機化合物;有機酸塩[酢酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、酢酸マンガン、酢酸ジルコニウム、オキソ酢酸ジルコニウムなど];錯体[コバルトアセチルアセトナトなどの2価又は3価のコバルト化合物、バナジウムアセチルアセトナト、バナジルアセチルアセトナトなどの2〜5価のバナジウム化合物、マンガンアセチルアセトナト2価又は3価のマンガン化合物、ジルコニウムアセチルアセトナトなどの4価又は5価のジルコニウム化合物]などが挙げられる。
金属化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。また、価数の異なる複数の金属化合物を組み合わせて使用してもよい。
遷移金属助触媒としては、少なくとも周期表9族金属成分(コバルト化合物など)及び周期表7族金属成分(マンガン化合物など)を含むのが好ましい。このような組み合わせを利用すると、イミド化合物の触媒活性を高めることができる。
複数の金属成分(又は金属化合物)を組み合わせて用いる場合、各金属成分は、触媒活性を阻害しない限り適当な量的割合で使用できる。例えば、周期表9族金属成分(コバルト化合物)と周期表7族金属成分(マンガン化合物)とを併用する場合、周期表9族金属成分1モルに対して、金属元素換算で、例えば、周期表7族金属成分0.1〜5モル、好ましくは0.5〜2モル、さらに好ましくは0.7〜1.5モル(例えば、0.8〜1.2モル)程度であってもよい。
なお、遷移金属助触媒は、酸化反応により生成した芳香族カルボン酸(例えば、ジカルボン酸、モノカルボン酸など)とともに塩を形成可能であってもよい。
(他の成分)
本発明では、助触媒として、少なくとも1つの有機基が結合した周期表15族元素(N、P、As、Sbなど)又は16族元素(Sなど)を含む多原子陽イオン又は多原子陰イオンとカウンターイオンとで構成された有機塩を用いることもできる。前記有機塩の代表的な例として、有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩、有機スルホニウム塩などの有機オニウム塩が挙げられる。前記有機塩には、アルキルスルホン酸塩;C1−20アルキル基で置換されていてもよいアリールスルホン酸塩;スルホン酸型イオン交換樹脂(イオン交換体);ホスホン酸型イオン交換樹脂(イオン交換体)なども含まれる。有機塩の使用量は、例えば、前記イミド化合物1モルに対して、0.001〜10モル程度、好ましくは0.005〜5モル、さらに好ましくは0.01〜3モル程度である。
本発明では、助触媒として、強酸、例えば、ハロゲン化水素、ハロゲン化水素酸、硫酸、ヘテロポリ酸などを使用してもよい。強酸の使用量は、前記イミド化合物1モルに対して、例えば、0.001〜3モル、好ましくは0.005〜2.5モル、さらに好ましくは0.01〜2モル程度である。
本発明では、さらに、助触媒として、電子吸引基(フッ素原子、カルボキシル基など)を有するカルボニル化合物、例えば、ヘキサフルオロアセトン、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロフェニルケトン、安息香酸などを使用してもよい。カルボニル化合物の使用量は、反応成分(基質)1モルに対して、0.0001〜3モル、好ましくは0.0005〜2.5モル、さらに好ましくは0.001〜2モル程度である。
さらに、反応を促進するため、系内に、ラジカル発生剤やラジカル反応促進剤を存在させてもよい。このような成分として、例えば、ハロゲン(塩素、臭素など)、過酸(過酢酸、m−クロロ過安息香酸など)、過酸化物(過酸化水素、t−ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)などのヒドロペルオキシドなど)、硝酸又は亜硝酸若しくはそれらの塩、二酸化窒素、ベンズアルデヒドなどのアルデヒド(例えば、目的化合物である芳香族ポリカルボン酸に対応するアルデヒドなど)などが挙げられる。前記成分の使用量は、前記イミド化合物1モルに対して、0.001〜1モル、好ましくは0.005〜0.8モル、さらに好ましくは0.01〜0.5モル程度である。
(基質)
アルキル基及び/又はアルキレン基を有する芳香族化合物としては、通常、芳香族性環(又は芳香環)にアルキル基又はアルキレン基(又はアルキリデン基)が結合した芳香族化合物が使用できる。
芳香族性環(芳香族炭化水素環、芳香族複素環など)にアルキル基又はアルキレン基(又はアルキリデン基)が結合した芳香族炭化水素類又は複素環類は、少なくとも1つのアルキル基又はアルキレン基を有していればよく、複数のアルキル基又はアルキレン基を有していてもよい。また、アルキル基又はアルキレン基に加え、これらの基の酸化により生成し、最終的なカルボキシル基又はその等価体(酸無水物基など)には至らないアルキル基又はアルキレン基の「低次酸化基」を有していてもよい。なお、このような基質の酸化部位には、アルキル基又はアルキレン基の他、上記低次酸化基も含まれる。
前記芳香族性環のうち、芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アセナフチレン、フェナントレン、アントラセン、ピレンなどに対応する単環式又は縮合多環式炭化水素環;環集合炭化水素環、例えば、ビフェニル、ターフェニル、ビナフチルなどに対応する炭化水素環;酸素原子、硫黄原子、スルフィド基、カルボニル基、アルキレン基、シクロアルキレン基などの二価基を介して芳香族炭化水素環が連結したビスアレーン類、例えば、ビフェニルエーテル、ビフェニルスルフィド、ビフェニルスルホン、ビフェニルケトン、ビフェニルアルカンなどに対応するビスアレーン類などが挙げられる。また、芳香族複素環としては、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選択された少なくとも1種のヘテロ原子を1〜3個程度有する芳香族性複素環、例えば、チオフェン環、ピロール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、キノリン環、インドール環、インダゾール環、ベンゾトリアゾール環、キナゾリン環、アクリジン環、クロモン環などが挙げられる。
これらの芳香族性環は、置換基(例えば、カルボキシル基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、置換オキシカルボニル基、置換又は無置換アミノ基、ニトロ基など)を有していてもよい。また、芳香族性環は、非芳香族性環と縮合していてもよい。
前記芳香族性環に結合したアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、デシル基などの第1級又は第2級C1−10アルキル基が挙げられる。好ましいアルキル基は、C1−4アルキル基、特にメチル基、エチル基、イソプロピル基などのC1−3アルキル基である。アルキル基の低次酸化基としては、例えば、ヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシメチル、1−ヒドロキシエチルなどのヒドロキシC1−3アルキル基)、ホルミル基、ホルミルアルキル基(例えば、ホルミルメチル、1−ホルミルエチル基などのホルミルC1−3アルキル基)、オキソ基を有するアルキル基(例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル基などのC1−4アシル基)などが含まれる。
また、前記芳香族性環に結合したアルキレン基(又はアルキリデン基)としては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン、ブチレン基などの第2級C1−10アルキレン基が挙げられる。好ましいアルキレン基は、C1−4アルキレン基、特に、メチレン基の他、エチレン、プロピレン基などのC2−4アルキレン基、特に、メチレン基である。アルキレン基の低次酸化基としては、例えば、ヒドロキシアルキレン基(例えば、ヒドロキシメチレン、1−ヒドロキシエチレンなどのヒドロキシC1−3アルキレン基)、カルボニル基、オキソ基を有するアルキレン基(例えば、−CH−C(=O)−、−CH−C(=O)−CH−基などのオキソC1−4アルカンジイル基など)などが含まれる。
なお、前記アルキル基、アルキレン基、又はこれらの低次酸化基は、反応を阻害しない範囲で置換基を有していてもよい。
基質の芳香族化合物は、アルキル基、アルキレン基又はこれらの低次酸化基の他に、カルボキシル基及び/又はアルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などの低級アルコキシカルボニル基(例えば、C1−4アルコキシ−カルボニル基など)など)を有していてもよい。
前記芳香族性環は、この環の員数などに応じて、前記アルキル基、アルキレン基又はこれらの低次酸化基を、1〜10個、好ましくは1〜6個、さらに好ましくは1〜4個程度有していてもよい。なお、アルキレン基又はその低次酸化基の個数は、通常、1〜3個程度である。芳香族性環は、前記アルキル基、アルキレン基又はこれらの低次酸化基を、1又は2個有しているのが好ましい。
アルキル基を有する芳香族化合物は、通常、目的となる生成物の芳香族カルボン酸に対応する炭素数のアルキル基を有している。
アルキル基を有する芳香族化合物としては、例えば、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、キシレン(o−,m−又はp−キシレンなど)、t−ブチルトルエン(o−,m−又はp−t−ブチルトルエンなど)、メチルナフタレン、メチルアントラセンなどのアルキル基(メチル基などのC1−4アルキル基など)を有するC6−20芳香族炭化水素類;トルイル酸(o−,m−又はp−トルイル酸)、ジメチル安息香酸などのアルキル基(メチル基などのC1−4アルキル基など)を有するC6−20アレーン−カルボン酸;トルイル酸メチル(o−,m−又はp−トルイル酸メチルなど)などのアルキル基(メチル基などのC1−4アルキル基など)を有するC6−20アレーン−カルボン酸C1−4アルキルエステル;芳香族性複素環を有し、且つ芳香族性複素環の隣接位にアルキル基(メチル基などのC1−4アルキル基など)を有する芳香族化合物、例えば、2−メチルフラン、2,5−ジメチルフラン、2−メチルチオフェン、2,5−ジメチルチオフェン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、2,5−ジメチルピリジン、3−エチルピリジン、2−メチルキノリンなどの酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選択された1〜3個のヘテロ原子を含む芳香族性複素環に炭素数1〜6程度のアルキル基が置換している複素環化合物などが挙げられる。
アルキレン基又はその低次酸化基を有する芳香族化合物としては、例えば、ジベンジル、ジフェニルメタン、ベンゾフェノンなどの他、芳香族性複素環を有し、且つ芳香族性複素環の隣接位にアルキレン基(メチレン基など)を有する芳香族複素環化合物などが挙げられる。
好ましい芳香族化合物は、芳香環(芳香族性環、例えば、芳香族炭化水素環)に1又は2個のC1−4アルキル基及び/又はC1−4アルキレン基が置換した芳香族化合物などである。特に、トルエン、エチルベンゼンなどのC1−4アルキル基を有するC6−10アレーン(特にアルキルベンゼンなど);トルイル酸メチルなどのC1−4アルキル基を有するC6−10アレーン−カルボン酸のC1−4アルキルエステルなどが好ましい。
なお、基質としては、種々の置換基(ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、複素環式基、オキソ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アミノ基、置換アミノ基、シアノ基、ニトロ基など)を有する基質などを使用してもよい。
(酸素)
基質と接触させる酸素としては、分子状酸素及び発生期の酸素のいずれでも使用できる。分子状酸素は特に制限されず、純粋な酸素を用いてもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素などの不活性ガスで希釈した酸素や空気、希釈空気を使用してもよい。また、酸素は系内で発生させてもよい。酸素の使用量は、通常、基質1モルに対して0.5モル以上(例えば、1モル以上)、好ましくは1〜10000モル、さらに好ましくは5〜1000モル程度である。基質に対して過剰モルの酸素を使用する場合が多い。
(酸無水物)
なお、反応系には、必要により、酸無水物を添加してもよい。酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸などの脂肪族モノカルボン酸無水物;無水安息香酸などの芳香族モノカルボン酸無水物;前記触媒の項で記載の酸無水物(脂肪族多価カルボン酸無水物、脂環式多価カルボン酸無水物、芳香族多価カルボン酸無水物)などが挙げられる。これらの酸無水物のうち、脂肪族モノカルボン酸無水物、特に無水酢酸が好ましい。酸無水物の使用量は、例えば、基質1モルに対して、0.1〜100モル、好ましくは0.5〜40モル、さらに好ましくは1〜20モル程度であってもよい。酸無水物は基質に対して大過剰量用いることもできる。
(酸化反応)
本発明の方法では、前記の基質、すなわち、アルキル基及び/又はアルキレン基を有する芳香族化合物を酸素酸化することにより、アルキル基及び/又はアルキレン基が酸素酸化されて、基質に対応する酸化物、例えば、ヒドロキシ化合物(ベンジルアルコールなどの芳香族性環を有するアルカノール(C6−10アリールC1−4アルカノールなど)など)、アルデヒド化合物(芳香族アルデヒド、芳香族性環を有するアルカナールなど)、ケトン化合物(アセトフェノンなどのアリール−アルキル−ケトン;アラルキル−アルキル−ケトンなど)、有機酸(芳香族カルボン酸など)などが生成する。そして、前記ヒドロキシ化合物、アルデヒド(ホルミル)化合物及び/又はケトン化合物は、反応系でさらに酸素酸化される。ヒドロキシ化合物の酸化により、対応するアルデヒド化合物、ケトン化合物、有機酸などが生成し、アルデヒド化合物の酸化により対応する有機酸が形成する。さらに、ケトン類は酸化により解裂して、対応するアルデヒド(ホルミル)化合物、有機酸を生成する。そして、最終的に目的化合物である芳香族カルボン酸を得る。そのため、前記基質に対応するヒドロキシ化合物、アルデヒド化合物及びケトン化合物を酸化反応系における反応中間体と称する場合がある。
例えば、トルエンの酸化により、安息香酸が得られ、エチルベンゼンの酸化により、アセトフェノンと、安息香酸とが得られる。また、キシレンの酸化では、1つのメチル基が酸化されたトルイル酸と、2つのメチル基が共に酸化されたフタル酸(若しくはイソフタル酸又はテレフタル酸)とが生成する。トルイル酸の酸化では、メチル基が酸化されたフタル酸(若しくはイソフタル酸又はテレフタル酸)が得られ、トルイル酸メチルの酸化では、メチル基が酸化されたフタル酸モノメチル(若しくはイソフタル酸モノメチル又はテレフタル酸モノメチル)が生成する。
最終的な反応生成物には、上記基質の酸化により得られる有機酸(芳香族カルボン酸など)などの他、反応により生成する水が含まれる。この水は、本発明の方法では、反応溶媒には包含されないものとする。
なお、アルキル基又はアルキレン基の酸化により生成したカルボキシル基は、酸化反応系でさらに脱炭酸される場合がある。このような脱炭酸の反応経路では、例えば、キシレンの酸化により、安息香酸が得られ、トルイル酸メチルの酸化により安息香酸メチルが生成する。これらの脱炭酸物の生成が多くなると、目的とする有機酸(例えば、キシレン、トルイル酸メチルの酸化生成物であるフタル酸類などの芳香族カルボン酸など)の収量が少なくなる。本発明では、イミド触媒を用いるため、副生成物である脱炭酸物の生成を大幅に低減することができる。
また、本発明では、イミド触媒とともに、基質、反応中間体及び/又は反応生成物[具体的には、(b-1)基質であるアルキル基及び/又はアルキレン基を有する芳香族化合物、(b-2)この芳香族化合物に対応するカルボニル化合物(例えば、ケトン、アルデヒドなどの反応中間体;芳香族カルボン酸などの反応生成物など)、並びに(b-3)酸化反応により生成する水から選択された少なくとも一種など]を、酸化反応系に逐次的又は連続的に供給しつつ、酸化反応を行うため、反応速度を改善でき、効率よく芳香族カルボン酸を製造することができる。また、生成した芳香族カルボン酸が遷移金属助触媒と塩を形成し、この塩が、活性種として作用するためか、反応効率をさらに高めることができる。そのため、少ない触媒量でも効率よく反応を進行させることができ、エネルギー的にもコスト的にも有利である。しかも、反応溶媒(基質、反応中間体及び反応生成物とは異なる反応溶媒)を用いなくてもよいため、精製工程での生成物のロスや煩雑な作業を低減することができる。
なお、イミド触媒とともに反応系に供給する前記反応中間体及び/又は反応生成物は、実際に反応系で生成した反応中間体及び/又は反応生成物であってもよいが、通常、別途用意した反応中間体に対応する化合物(反応中間体と同じ化合物)、反応生成物に対応する化合物(反応生成物と同じ化合物)を用いる場合が多い。
(反応操作又は反応条件)
酸化反応において、前記触媒(イミド化合物)の使用量は、反応成分(基質;芳香族化合物)に対して、環状イミノユニット換算で、0.0001〜100モル%程度の広い範囲で選択でき、例えば、基質に対して、0.0005〜50モル%、好ましくは0.001〜30モル%、さらに好ましくは0.005〜10モル%程度であってもよい。なお、本発明では、反応効率を大幅に改善できるため、イミド化合物の使用量が少なくても、効率よく反応を進行させることができる。前記イミド化合物の使用量は、基質に対して、例えば、0.0002〜5モル%、好ましくは0.0007〜1モル%、さらに好ましくは0.001〜0.5モル%程度であってもよい。また、触媒は、反応混合物に対して1〜100,000ppm、好ましくは5〜10,000ppm、さらに好ましくは10〜5,000ppm程度の濃度となるように反応系に添加してもよい。
また、イミド化合物の割合は、遷移金属助触媒1モル(金属元素換算)に対して、0.001〜1000モル程度の範囲から選択でき、好ましくは0.05〜100モル、さらに好ましくは0.1〜10モル(例えば、0.5〜5モル)程度であってもよい。また、触媒の割合は、遷移金属助触媒と同程度か、これよりも少ない量であってもよい。触媒の割合は、例えば、遷移金属助触媒1モル(金属元素換算)に対して、0.01〜1.1モル、好ましくは0.02〜1モル、さらに好ましくは0.03〜0.9モル程度であってもよい。
前記触媒とともに反応系に添加する成分としては、基質(アルキル基及び/又はアルキレン基を有する芳香族化合物)、反応中間体(前記芳香族化合物に対応するヒドロキシ化合物、ケトン、アルデヒド(特に、ケトン、アルデヒド)など)、及び反応生成物(水;芳香族カルボン酸などの有機酸など)などが挙げられる。これらの成分は、単独で又は二種以上組み合わせて反応系に添加してもよい。これらの成分のうち、特に、基質、基質に対応するケトン、アルデヒド、芳香族カルボン酸及び/又は水などを用いる場合が多い。なお、反応には全く関与せず、反応を阻害すると思われる水と併用して触媒を添加しても、反応速度を大きく向上できる。
これらの成分と触媒とは、通常、混合物として反応系に供給する。混合物は、溶液、分散液、スラリー液などのいずれの形態であってもよい。触媒1重量部に対して、触媒とともに反応系に供給する上記の成分の割合は、例えば、1〜1×10重量部、好ましくは1.5〜1×10重量部、さらに好ましくは2〜1×10重量部、特に3〜300重量部程度であってもよい。
なお、触媒を含む上記混合物又は反応系には、少量の溶剤を添加してもよい。この溶剤の添加により触媒を均一に溶解してもよい。溶剤としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;メタノール、エタノール、t−ブタノール、t−アミルアルコールなどの脂肪族アルコール類;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ヘキサン酸などの脂肪族カルボン酸;酢酸エチルなどの脂肪族カルボン酸のエステル類;ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミドなどのアミド類などが例示でき、これらの溶媒は混合して使用してもよい。溶剤は、用いないのが好ましいが、用いる場合には、水溶性の有機溶剤、例えば、メタノール、エタノールなどのC1−3アルカノール;アセトニトリルなどの脂肪族ニトリル;酢酸などの脂肪族C2−4カルボン酸などが好ましい。溶剤の割合は、触媒と共に供給する上記の成分に対して、80重量%以下(例えば、0〜50重量%)、好ましくは0〜30重量%(例えば、0〜10重量%)、さらに好ましくは0〜5重量%(例えば、0〜2重量%)程度である。
触媒を含む上記混合物は、酸化反応系に、逐次的(間欠的)又は連続的に供給する。触媒の供給時間(すなわち、触媒の添加開始から添加終了までに要する時間)は、適宜選択でき、例えば、1〜10時間、好ましくは1.5〜7時間、さらに好ましくは2〜6時間程度であってもよい。また、本発明の方法は、連続プロセスに適用させることもできる。
酸化反応において、触媒以外の成分、例えば、遷移金属助触媒、他の助触媒、基質などの成分(反応系に加える成分)は、予め、反応器又は反応初期に一括で仕込んでもよく、反応器又は反応初期に予めいずれかの成分を一括で仕込み、他の成分を逐次又は連続的に添加してもよい。
また、酸素は、連続供給、逐次供給、一括供給などの種々の態様で反応系に導入できるが、反応系に連続的に供給するのが好ましい。なお、反応系からのオフガス酸素濃度は特に制限されず、例えば、0〜8体積%、好ましくは0.1〜7体積%、さらに好ましくは1〜6体積%程度である。
反応系には、予め、反応中間体(前記ヒドロキシ化合物、ケトン、アルデヒドなど)及び/又は反応生成物(芳香族カルボン酸など)を添加してもよい。また、基質として、トルイル酸メチルなどのアルキル基及び/又はアルキレン基と、アルコキシカルボニル基などの保護基(アルキル基など)で保護されたカルボキシル基とを有する芳香族化合物を用いる場合、この芳香族化合物に対応し、かつ遊離のカルボキシル基を有する芳香族化合物(トルイル酸などのアルキル基及び/又はアルキレン基と、カルボキシル基とを有する芳香族化合物(すなわち、アルキル基及び/又はアルキレン基を有する芳香族カルボン酸))を予め反応系に添加してもよい。反応系に添加するこれらの成分のうち、特に、芳香族カルボン酸(反応生成物と同じ芳香族カルボン酸及び/又はアルキル基及び/又はアルキレン基を有する芳香族カルボン酸)を予め添加しておくのが好ましい。これらの成分の割合は、基質に対して、例えば、0.001〜15モル%、好ましくは0.01〜10モル%、さらに好ましくは0.1〜7モル%(特に、1〜5モル%)程度であってもよい。特に、芳香族カルボン酸を反応系中に存在させると、反応速度を大きく向上できる。芳香族カルボン酸は、反応初期に添加してもよく、酸化反応の反応過程で、反応系中で発生させてもよい。
本発明では、少量の反応溶媒(例えば、前記例示の溶剤など)の存在下で、酸化反応を行ってもよいが、通常、反応溶媒の非存在下で酸化反応を行うのが好ましい。反応溶媒の使用量は、例えば、反応系全体に対して25重量%以下(例えば、0〜20重量%)、好ましくは0〜10重量%、さらに好ましくは0〜5重量%(例えば、0〜2重量%)である。
酸化反応により、反応系には、水が生成するが、反応を効率よく行うため、この水は、反応系から除去し(例えば、留去などにより除去し)つつ反応を行ってもよい。なお、水を反応系から除去する場合、除去量は、特に制限されないが、少なくとも反応液が分液しない程度に、水を除去するのが好ましい。
また、水の除去は、例えば、水を除去しながら行う反応蒸留で行ってもよく、デカンターなどの水分離装置を利用してもよく、デカンターなどの水分離装置と組み合わせて水を除去する反応蒸留で行ってもよい。水を除去しつつ反応を行うと、酸化反応を促進できるとともに、副生物の生成を抑制でき、芳香族カルボン酸(芳香族ジカルボン酸、芳香族モノカルボン酸など)などの目的とする反応生成物を高収率で得ることができる。
酸化反応の温度は、反応剤、基質の種類などに応じて、例えば、10〜300℃、好ましくは25〜250℃、さらに好ましくは50〜200℃程度であってもよい。また、反応は、略一定の温度で行ってもよく、必要に応じて、複数の温度域で行ってもよく、段階的又は連続的に昇温又は降温しつつ行ってもよい。
反応は減圧下で行ってもよいが、酸素の溶解度は加圧条件のほうが高いため、通常、常圧下又は加圧下で行われる。反応圧力は、例えば、0.1〜10MPa、好ましくは0.12〜5MPa、さらに好ましくは0.15〜2MPa(特に、0.2〜1MPa)程度であってもよい。
前記反応操作は、連続式、回分式、又は半回分式で行ってもよい。反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
本発明で得られた芳香族カルボン酸は、耐熱性高分子(ポリイミド系高分子、ポリエステル系高分子など)、耐熱性可塑剤などの主原料や、耐熱性エポキシ樹脂用硬化剤などの広い分野(例えば、電子材料などの分野)で利用できる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1
ディーンシュタークに類似の脱水装置を備えた空気流通型加圧式反応器に、p−キシレン300g(2.8モル)、酢酸コバルト(2価)0.20g(1.1ミリモル)及び酢酸マンガン(2価)0.20g(1.2ミリモル)を入れ、窒素を導入して昇圧し、圧力を0.5MPaにした。次いで、150℃に加熱し、オフガス中の酸素濃度が5%になるように空気と窒素とを混合したガスを、反応器に流通させた。別途調製したN−ヒドロキシスクシンイミド0.25g(2.2ミリモル)と水2gとの混合液を、反応器中に5時間かけて連続フィードした。なお、触媒の添加を開始した時点を、反応開始時点とし、触媒の添加が終了した時点を反応終了時点とした。また、反応は、水をトラップしつつ行った。反応終了後、反応器を冷却し、開圧して、反応混合物の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析により、基質の転化率、生成物の収量及び収率を計算した。p−キシレンの転化率35.7%で、p−トルイル酸110g(収率28.9%)、テレフタル酸31g(収率6.68%)、副生成物の安息香酸0.32g(収率0.094%)が得られた。
比較例1
N−ヒドロキシスクシンイミドと水との混合液に代えて、水2gを用いる以外は、実施例1と同様に、反応を行い、基質の転化率、生成物の収量・収率を計算した。なお、水の添加を開始した時点を、反応開始時点とし、水の添加が終了した時点を反応終了時点とした。反応の結果、p−キシレンの転化率1.68%で、p−トルイル酸5g(収率1.31%)、テレフタル酸1g(収率0.22%)、及び副生成物の安息香酸0.03g(収率0.0088%)が得られた。
実施例2
N−ヒドロキシスクシンイミドに代えて、トリヒドロキシイソシアヌル酸0.025g(0.141ミリモル)を用いる以外は、実施例1と同様に、反応を行い、基質の転化率及び生成物の収量・収率を計算した。その結果、p−キシレンの転化率36.4%で、p−トルイル酸113g(収率29.7%)、テレフタル酸21g(収率4.52%)及び副生成物の安息香酸0.30g(収率0.0878%)が得られた。
実施例3
p−キシレン300g(2.8モル)に加え、さらにp−トルイル酸10g(73.5ミリモル)を用いるとともに、酢酸マンガン(2価)及びN−ヒドロキシスクシンイミドの量をそれぞれ0.10g及び0.17gに変更する以外は、実施例1と同様に、反応を行い、基質の転化率及び生成物の収量を計算した。その結果、p−キシレンの転化率は48.9%であり、生成物の収量は、それぞれ、p−トルイル酸150g、テレフタル酸44g、及び副生成物の安息香酸0.40gであった。
比較例2
N−ヒドロキシスクシンイミドと水との混合液に代えて、水2gを用いる以外は、実施例3と同様に、反応を行い、基質の転化率及び生成物の収量を計算した。なお、水の添加を開始した時点を、反応開始時点とし、水の添加が終了した時点を反応終了時点とした。その結果、p−キシレンの転化率は32.7%であり、生成物の収量は、それぞれ、p−トルイル酸90g、テレフタル酸32g、及び副生成物の安息香酸0.52gであった。
実施例4
p−キシレン300gに代えて、p−トルイル酸メチル300g(2.0モル)を用いるとともに、反応系の圧力を0.2MPaに昇圧する以外は、実施例3と同様に、反応を行い、基質の転化率及び生成物の収量を計算した。その結果、p−トルイル酸メチルの転化率は30%であり、生成物の収量は、それぞれ、テレフタル酸モノメチル110g、テレフタル酸3.5g、及び副生成物の安息香酸メチル1gであった。なお、反応液中には、基質のp−トルイル酸メチルとともに用いたp−トルイル酸が7g残っていた。
比較例3
N−ヒドロキシスクシンイミドと水との混合液に代えて、水2gを用いる以外は、実施例4と同様に、反応を行い、基質の転化率、生成物の収量を計算した。なお、水の添加を開始した時点を、反応開始時点とし、水の添加が終了した時点を反応終了時点とした。反応の結果、p−トルイル酸メチルの転化率は16%であり、生成物の収量は、それぞれ、テレフタル酸モノメチル53g、テレフタル酸2g、及び副生成物の安息香酸メチル1.2gであった。なお、反応液中には、基質のp−トルイル酸メチルとともに用いたp−トルイル酸が8g残っていた。
実施例5
N−ヒドロキシスクシンイミドと水との混合液に代えて、N−ヒドロキシスクシンイミド0.17gと、p−トルイル酸メチル10gとの混合液を用い、この混合液を、反応器中に5時間かけてスラリーポンプで連続フィードする以外は、実施例4と同様に、反応を行い、基質の転化率及び生成物の収量を計算した。その結果、p−トルイル酸メチルの転化率は28.3%であり、生成物の収量は、それぞれ、テレフタル酸モノメチル115g、テレフタル酸3.5g、及び副生成物の安息香酸メチル1.0gであった。なお、反応液中には、基質のp−トルイル酸メチルとともに用いたp−トルイル酸が6g残っていた。
実施例6
N−ヒドロキシスクシンイミド0.17gとp−トルイル酸メチル10gとの混合液に代えて、N−ヒドロキシスクシンイミド0.017gとp−トルイル酸メチル10gとの混合液を用いる以外は、実施例5と同様に、反応を行い、基質の転化率及び生成物の収量を計算した。その結果、p−トルイル酸メチルの転化率は22.3%であり、生成物の収量は、それぞれ、テレフタル酸モノメチル88g、テレフタル酸3.5g、及び副生成物の安息香酸メチル1.0gであった。なお、反応液中には、基質のp−トルイル酸メチルとともに用いたp−トルイル酸が7g残っていた。
実施例7
p−トルイル酸メチル300g(2.0モル)及びp−トルイル酸10gに代えて、エチルベンゼン300g(2.8モル)を用いるとともに、反応系の圧力を0.4MPaに昇圧し、N−ヒドロキシスクシンイミド0.017gとp−トルイル酸メチル10gとの混合液に代えて、N−ヒドロキシスクシンイミド0.017gとアセトフェノン10gとの混合液を1時間かけて連続フィードする以外は、実施例6と同様に、反応を行い、基質の転化率及び生成物の収量を計算した。その結果、エチルベンゼンの転化率は27.0%であり、生成物の収量は、それぞれ、アセトフェノン32g及び安息香酸64gであった。
比較例4
N−ヒドロキシスクシンイミド0.017gとアセトフェノン10gとの混合液に代えて、アセトフェノン10gを連続フィードする以外は、実施例7と同様に、反応を行い、基質の転化率及び生成物の収量を計算した。なお、アセトフェノンの添加を開始した時点を、反応開始時点とし、アセトフェノンの添加が終了した時点を反応終了時点とした。その結果、エチルベンゼンの転化率は6.74%であり、生成物の収量は、それぞれ、アセトフェノン16g及び安息香酸16gであった。

Claims (9)

  1. 下記式(1)
    Figure 0005680959
    (式中、Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基)を示し、「N」と「X」とを結ぶ実線と破線との二重線は単結合又は二重結合を示す)
    で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物で構成された触媒と、遷移金属助触媒との存在下、基質としてのアルキル基及び/又はアルキレン基を有する芳香族化合物を酸素酸化し、対応する芳香族カルボン酸を製造する方法であって、この方法は、前記触媒と、前記基質の酸化反応により生成する反応中間体及び反応生成物から選択された少なくとも一種との混合物であって、前記反応中間体及び反応生成物が、カルボニル化合物、芳香族カルボン酸及び水から選択された少なくとも一種であり、かつ少なくとも水を含むとともに、溶剤を含まないか、又は溶剤を含む場合には0重量%を越え5重量%以下の割合で溶媒を含む前記混合物を、反応溶媒の非存在下又は0重量%を越え2重量%以下の反応溶媒の存在下、前記酸化反応系に逐次的又は連続的に供給しつつ、酸化反応を行う方法であり、
    前記水が反応系で生成した水ではなく別途用意した水であり、
    前記基質に対して、前記触媒を0.0001〜1モル%の割合で含む混合物を、前記酸化反応系に供給する
    芳香族カルボン酸の製造方法。
  2. 溶剤を含まない混合物を酸化反応系に供給し、反応溶媒の非存在下で酸化反応を行う請求項1記載の製造方法。
  3. 反応により生成する水を、反応系から除去しつつ反応させる請求項1又は2記載の製造方法。
  4. (a)触媒と、下記(b-2)及び(b-3)の成分から選択された少なくとも一種との混合物を、酸化反応系に逐次的又は連続的に供給しつつ、酸化反応を行う方法であり、前記混合物が前記触媒と少なくとも(b-3)水とを含む請求項1〜3のいずれかの項に記載の製造方法。
    (b-2)前記芳香族化合物に対応するカルボニル化合物であって、アルデヒド化合物及びケトン化合物から選択された少なくとも一種
    (b-3)水
  5. 触媒が、水溶性又は水分散性のイミド化合物であり、基質が、芳香環に1又は2個のC1−4アルキル基及び/又はC1−4アルキレン基が置換した芳香族化合物であり、酸化反応により生成した芳香族カルボン酸が、遷移金属助触媒と塩を形成可能である請求項1〜4のいずれかの項に記載の製造方法。
  6. 触媒が、アルカンジカルボン酸イミド、アルケンカルボン酸イミド、及び少なくとも1つの窒素原子上に酸素原子又は−OR基(Rは請求項1に同じ)を有するイソシアヌル酸から選択された少なくとも一種である請求項1〜5のいずれかの項に記載の製造方法。
  7. 遷移金属助触媒が、少なくとも周期表9族金属成分及び周期表7族金属成分を含む請求項1〜6のいずれかの項に記載の製造方法。
  8. 遷移金属助触媒が、コバルト化合物とマンガン化合物とを含む請求項1〜7のいずれかの項に記載の製造方法。
  9. 混合物において、反応中間体及び/又は反応生成物の割合が触媒1重量部に対して1〜300重量部である請求項1〜8のいずれかの項に記載の製造方法。
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