近年、エンジンは小型化される傾向にあり、点火プラグも小型化、特に細経化される傾向にある。点火プラグが細径化されると、絶縁碍子の内孔径も縮小されるため、抵抗体の体積が必然的に減少し、結果として、抵抗体が高周波雑音電波を吸収し難くなる。なお、点火プラグの点火時には、高周波雑音電波が発生するが、この高周波雑音電波が多量に漏洩すれば、車載用のTV、ラジオ、無線等を妨害するおそれがある。
このような事情に鑑み、特許文献3の明細書の段落[0011]〜[0013]には、「本発明のスパークプラグは、軸方向に延びる貫通孔を有し、該貫通孔が第1貫通孔及び該第1貫通孔よりも後端側に当該第1貫通孔よりも孔径が大きい第2貫通孔となる絶縁体と、前記絶縁体の第1貫通孔内に配置される中心電極と、前記絶縁体の第2貫通孔内に配置される端子金具と、を備えるスパークプラグであって、前記第2貫通孔内に、導電性セラミック焼結体で形成されると共に、前記中心電極と前記端子金具とを電気的に接続するセラミック焼結体抵抗器が配置されてなり、前記セラミック焼結体抵抗器の軸方向長さが前記第2貫通孔の軸方向長さの40%以上であることを特徴とする。本発明では、このような抵抗体として予め焼結されたセラミック焼結体抵抗器を絶縁体の第2貫通孔に挿入するものとすることで、従来のような製造上の長さの制約を受けず、セラミック焼結体抵抗器の長さを十分に長くすることができる。これにより、中心電極と端子電極との間の実効誘電率を小さくし、点火時に発生する容量放電電流を小さくし、雑音防止効果を大きくすることができる。そして、セラミック焼結体抵抗器の長さ(LR)を第2貫通孔の長さ(LH)の40%以上とする((LR/LH)×100≧40)ことで、中心電極と端子電極との間の実効誘電率を小さくし、点火時に発生する容量放電電流を小さくし、十分な雑音防止効果を得ることが可能となる。なお、セラミック焼結体抵抗器の長さ(LR)が第2貫通孔の長さ(LH)の40%未満であると、十分な効果を得られにくい。さらに、より好ましいセラミック焼結体抵抗器の長さ(LR)は、第2貫通孔の長さ(LH)の50%以上である((LR/LH)×100≧50)。」と記載されており、点火プラグの構造を最適化することにより、端子電極と中心電極間の実効誘電率を低下させて、高周波雑音電波の発生を防止することが示されている。しかし、このような最適化を行ったとしても、細径化された点火プラグの場合、高周波雑音電波の漏洩を十分に抑制することができない。
また、点火プラグが細径化されると、抵抗体の断面積が必然的に小さくなるため、抵抗体の機械的強度が低下し、機械的衝撃により抵抗体にクラックが入りやすくなる。抵抗体にクラックが入ると、クラックの進展に伴い、抵抗体の抵抗値が上昇し、点火プラグの信頼性が低下しやすくなる。
そこで、本発明は、高周波雑音電波の発生を十分に抑制し得るとともに、機械的衝撃によりクラックが入り難い抵抗体形成材料を創案することにより、点火プラグの信頼性を高めることを技術的課題とする。
本発明者は、鋭意努力の結果、抵抗体形成材料に含まれる粗粒ガラス粉末のガラス組成範囲を規制するとともに、粗粒セラミックフィラーの粒度と含有量を規制することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の抵抗体形成材料は、粗粒ガラス粉末と粗粒セラミックフィラーを含む抵抗体形成材料において、(1)粗粒ガラス粉末が、ガラス組成として、質量%で、SiO2 35〜60%、B2O3 25〜55%、Li2O+Na2O+K2O(Li2O、Na2O、K2Oの合量) 1〜20%、MgO+CaO+SrO+BaO(MgO、CaO、SrO、BaOの合量) 0〜35%、BaO 0〜14%を含有し、(2)粗粒セラミックフィラーの平均粒子径D50が50〜300μmであり、(3)粗粒セラミックフィラーの含有量が1〜55質量%であることを特徴とする。
本発明の抵抗体形成材料は、粗粒ガラス粉末のガラス組成範囲を上記のように規制している。このようにすれば、粗粒ガラス粉末の誘電率を低下できるため、点火プラグの点火時に高周波雑音電波の発生を抑制することができ、その結果、点火プラグの細径化を容易に図ることができる。また、このようにすれば、粗粒ガラス粉末の屈伏点を不当に上昇させずに、熱的安定性を高めつつ、熱膨張係数を下げることができる。
本発明の抵抗体形成材料は、粗粒セラミックフィラーの平均粒子径D50を50〜300μmに規制している。このようにすれば、抵抗体の機械的強度を高めやすくなる。つまり、このようにすれば、点火プラグが機械的衝撃を受けた場合、粗粒セラミックフィラーがクラックの進展を妨げやすくなるため、抵抗体の抵抗値が上昇し難くなり、その結果、点火プラグの信頼性を高めることができる。加えて、粗粒セラミックフィラーがブロック粒子として機能しやすくなる。また、本発明の抵抗体形成材料は、粗粒セラミックフィラーの含有量を1〜55質量%に規制している。このようにすれば、抵抗体の抵抗値がばらつく不具合を防止しつつ、抵抗体の機械的強度を高めることができる。
第二に、本発明の抵抗体形成材料は、粗粒ガラス粉末の平均粒子径D50が150〜450μmであることを特徴とする。このようにすれば、粗粒ガラス粉末がブロック粒子として機能しやすくなる。
第三に、本発明の抵抗体形成材料は、粗粒ガラス粉末の誘電率が5.5以下であることを特徴とする。ここで、「誘電率」は、25℃、1MHzにおける誘電率を指す。なお、粗粒ガラス粉末の誘電率は、例えば50×50×3mmの板状ガラス(ガラス粉末を緻密に焼結させたもの)、或いは50×50×3mmの板状のガラスインゴットを測定試料として用い、光学研磨されたガラスの表裏面に30mmφの電極を貼り付け、電極間に電圧を印加することにより測定することができる。
本発明者は、粗粒ガラス粉末の誘電率を低下させると、抵抗体の誘電率を低下できることを見出すとともに、そのためには上記のように粗粒ガラス粉末のガラス組成範囲を規制すればよいことを見出した。これにより、中心電極―端子電極間の実行誘電率が小さくなるため、点火プラグの点火時に発生する容量放電電流を小さくすることができ、結果として、高周波雑音電波の発生を抑制することができる。
第四に、本発明の抵抗体形成材料は、粗粒ガラス粉末の屈伏点が500〜650℃であることを特徴とする。ここで、「粗粒ガラス粉末の屈伏点」とは、押棒式熱膨張係数測定(TMA)装置で測定した値を指し、粗粒ガラス粉末を緻密に焼結させたものを測定試料とする。
第五に、本発明の抵抗体形成材料は、粗粒ガラス粉末が分相性を有することを特徴とする。ここで、「分相性を有する」とは、600〜900℃のいずれかの温度で10分間熱処理を加えた場合にガラスが分相する場合を指し、例えば、TEM(Transmission Electron Microscope)等で観察すれば、ガラスが分相しているか否かを判定することができる。なお、熱処理を加える前に、既にガラスが分相している場合も「分相性を有する」と判断する。
一般的に、分相とは、ガラス成分が、SiO2を主成分とする高粘性のシリカリッチ相と、その他の成分からなる低粘性ガラス相とに分離する状態を指し、分相したガラスは、通常、シリカリッチ相が骨格をなし、その間隙に低粘性ガラス相が存在する構造となる。粗粒ガラス粉末が分相性を有すると、ホットプレス工程でカーボンブラック等の導電粉末をガラス中に溶解し難くなる。なお、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を取り込まない理由は、分相性に起因していると考えられるが、詳細なメカニズムは不明であり、現在、鋭意調査中である。また、粗粒ガラス粉末が分相性を有すると、粗粒ガラス粉末は、ホットプレス工程で低粘性ガラス相の軟化流動に起因して若干塑性変形するものの、シリカリッチ相の存在によってその形状を維持することができ、ブロック粒子として機能することができる。
第六に、本発明の抵抗体形成材料は、粗粒ガラス粉末が実質的にPbOを含有しないことを特徴とする。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、PbOの含有量が1000ppm以下の場合を指す。
第七に、本発明の抵抗体形成材料は、粗粒セラミックフィラーの誘電率が11.5以下であることを特徴とする。
本発明者は、粗粒セラミックフィラーの誘電率を低下させると、抵抗体の誘電率を低下できることを見出した。これにより、中心電極―端子電極間の実行誘電率が小さくなるため、点火プラグの点火時に発生する容量放電電流を小さくすることができ、結果として、高周波雑音電波の発生を抑制することができる。
第八に、本発明の抵抗体形成材料は、粗粒セラミックフィラーが、アルミナ、コーディエライト、ムライト、スピネル、シリカ、ジルコン、ウイレマイトの一種または二種以上であることを特徴とする。
第九に、本発明の抵抗体形成材料は、顆粒に加工されていることを特徴とする。このようにすれば、抵抗体形成材料の流動性が高まるため、抵抗体形成材料を絶縁碍子の内孔に充填しやすくなる。
第十に、本発明の抵抗体形成材料は、点火プラグに用いることを特徴とする。
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒ガラス粉末の平均粒子径D50は150〜450μm、特に200〜350μmが好ましい。粗粒ガラス粉末の平均粒子径D50を150〜450μmにすれば、粗粒ガラス粉末が導電路を迂回させるブロック粒子として機能しやすくなる。粗粒ガラス粉末の平均粒子径D50が150μmより小さいと、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を溶解しやすくなるため、粗粒ガラス粉末がブロック粒子として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。一方、粗粒ガラス粉末の平均粒子径D50が450μmより大きいと、顆粒に加工し難くなり、絶縁碍子の内孔が細径化された場合に、抵抗体形成材料を絶縁碍子の内孔に充填し難くなることに加えて、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難くなって、端子浮き等の不具合が発生しやすくなり、更には抵抗体の機械的強度が低下しやすくなる。
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒ガラス粉末の最大粒子径Dmaxは450μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましい。粗粒ガラス粉末の最大粒子径Dmaxが450μmより大きいと、絶縁碍子の内孔が細径化された場合に、絶縁碍子の内孔に粗粒ガラス粉末を充填し難くなる。ここで、「最大粒子径Dmax」は、レーザー回折法で測定した値を指し、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して99%である粒子径を表す。
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒ガラス粉末の含有量は15〜70質量%、特に20〜60質量%が好ましい。粗粒ガラス粉末の含有量が15質量%より少ないと、導電路を迂回させ難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。粗粒ガラス粉末の含有量が70質量%より多いと、微粒ガラス粉末により粗粒セラミックフィラーの間隙を充填し難くなり、抵抗体の抵抗値がばらつきやすくなるとともに、抵抗体の機械的強度が低下しやすくなる。
本発明の抵抗体形成材料において、上記のように粗粒ガラス粉末のガラス組成範囲を限定した理由を下記に示す。
SiO2は、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラスを熱的に安定化させるとともに、ガラスの熱膨張係数を下げる成分であり、その含有量は35〜60%、好ましくは40〜58%、より好ましくは45〜56%である。SiO2の含有量が35%より少ないと、ガラスが熱的に不安定になり、ガラスを安定生産し難くなることに加えて、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。一方、SiO2の含有量が65%より多いと、ガラスの屈伏点が不当に上昇し、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難くなり、結果として、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
B2O3は、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラスを熱的に安定化させるとともに、ガラスの屈伏点を下げる成分であり、更にはガラスを分相させるための成分であり、その含有量は25〜55%、好ましくは27〜48%、より好ましくは31〜43%である。B2O3の含有量が25%より少ないと、ガラスが熱的に不安定になり、ガラスを安定生産し難くなることに加えて、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。一方、B2O3の含有量が55%より多いと、ガラスの屈伏点が不当に上昇し、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難くなり、結果として、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
Li2O+Na2O+K2Oは、ガラスの屈伏点を低下させるとともに、ガラスの分相を促進させるための成分であり、その含有量は1〜20%、好ましくは1.5〜15%、より好ましくは2〜10%、更に好ましくは2.5〜8%である。Li2O+Na2O+K2Oの含有量が20%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
Li2Oは、ガラスの屈伏点を低下させるとともに、ガラスの分相を顕著に促進させるための成分であり、その含有量は0〜20%、0.1〜10%、1〜7%、特に2〜5%が好ましい。Li2Oの含有量が20%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。なお、ガラスの分相を促進させる観点から、ガラス組成中にLi2Oを必須成分として1%以上、好ましくは2%以上添加することが好ましい。
Na2Oは、ガラスの屈伏点を低下させるとともに、ガラスの分相を促進させるための成分であり、その含有量は0〜20%、0〜10%、特に0〜2%が好ましい。Na2Oの含有量が20%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
K2Oは、ガラスの屈伏点を低下させるとともに、ガラスの分相を促進させるための成分であり、その含有量は0〜20%、0〜15%、0〜5%、特に0〜2%が好ましい。K2Oの含有量が20%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO、BaO)は、ガラスの分相を促進させるための成分であると同時に、ガラスの誘電率に影響を与える成分である。イオン半径が小さい程、ガラスが分相しやすくなり、具体的にはBaO、SrO、CaO、MgOの順でイオン半径が小さくなるに従い、ガラスの分相傾向が大きくなる。ガラスの分相傾向が大きくなると、熱処理温度の小さな変化に対しても、分相状態が大きく変動し、その影響により、ホットプレス温度が変動すると、点火プラグの抵抗値がばらつく不具合が発生しやすくなる。一方、ガラスの分相傾向が小さくなると、粗粒ガラス粉末がブロック粒子として機能し難くなる。また、分子量が小さい程、ガラスの誘電率が低下し、具体的にはBaO、SrO、CaO、MgOの順で分子量が小さくなるに従い、ガラスの誘電率が低下する。さらに、BaO、SrO、CaO、MgOの順で分子量が小さくなるに従い、ガラスの屈伏点が上昇する。以上から明らかなように、ガラスの誘電率、分相性、屈伏点等の特性を総合的に勘案して、アルカリ土類金属酸化物を適宜選択して添加することが好ましく、その含有量は0〜35%、特に1〜15%が好ましい。
MgOは、ガラスの誘電率を低下させる成分であり、またガラスの分相を促進させるための成分であり、その含有量は0〜20%、1〜10%、特に1〜5%が好ましい。MgOの含有量が20%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下しやすくなる。
CaOは、ガラスの誘電率を低下させる成分であり、その含有量は0〜20%、1〜10%、特に1〜5%が好ましい。CaOの含有量が20%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下しやすくなる。
SrOは、ガラスの誘電率を低下させる成分であるとともに、ガラスの屈伏点を低下させる成分である。また、SrOは、ホットプレス温度が変動すると、点火プラグの抵抗値がばらつく不具合を防止する成分であり、その含有量は0〜25%、0〜20%、1〜15%、特に1〜8%が好ましい。SrOの含有量が25%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
BaOは、ガラスの屈伏点を低下させる成分であるとともに、ホットプレス温度が変動すると、点火プラグの抵抗値がばらつく不具合を防止する成分であり、その含有量は0〜14%、0〜10%、特に0〜5%が好ましい。BaOの含有量が多くなると、ガラスの誘電率が上昇するため、高周波雑音電波の発生を抑制し難くなる。また、BaOの含有量が多くなると、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。なお、ガラスの誘電率を確実に低下させる観点から、ガラス組成として、BaOを実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にBaOを含有しない」とは、ガラス組成中のBaOの含有量が3000ppm以下の場合を指す。
上記成分以外にも、例えば、ガラス組成中に以下の成分を添加することができる。
Al2O3は、ガラスの耐水性を高めるとともに、ガラスの熱膨張係数を下げる成分であり、その含有量は0〜10%、特に0〜5%が好ましい。Al2O3の含有量が10%より多いと、ガラスの屈伏点が不当に上昇し、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難くなり、結果として、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
ZnOは、ガラスの誘電率を顕著に低下させるとともに、ガラスの屈伏点を低下させる成分であり、またガラスの熱膨張係数を低下させるための成分であり、その含有量は0〜25%、0〜15%、0〜12.5%、特に1〜11%が好ましい。ZnOの含有量が25%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下しやすくなる。
更に、種々の成分を15%までガラス組成中に添加することができる。例えば、TiO2、ZrO2、Bi2O3、Cs2O、La2O3、Gd2O3、V2O5、WO3、Sb2O3、SnO2、Nb2O5、Y2O3、CeO2、P2O5等を15%まで添加することができる。なお、本発明に係る粗粒ガラス粉末は、PbOの含有を完全に排除するものではないが、環境的観点から実質的にPbOを含有しないことが好ましい。
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒ガラス粉末の誘電率は5.5以下、5.4以下、5.3以下、特に5.2以下が好ましい。粗粒ガラス粉末の誘電率が5.5より大きいと、抵抗体が高周波雑音電波の発生を十分に抑制し難くなり、車載用のTV、ラジオ、無線等を妨害するおそれがある。
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒ガラス粉末の誘電正接は0.008以上、0.0010以上、0.0013以上、特に0.0018以上が好ましい。粗粒ガラス粉末の誘電正接が0.0008より小さいと、粗粒ガラス粉末が高周波雑音電波を吸収し難くなる傾向があり、車載用のTV、ラジオ、無線等を妨害するおそれがある。
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒ガラス粉末の密度は2.65g/cm3未満、2.55g/cm3以下、特に2.50g/cm3以下が好ましい。密度が小さい程、粗粒ガラス粉末が軽量化するため、結果として、点火プラグを軽量化することができる。
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒ガラス粉末のガラス転移点は430〜570℃、特に450〜550℃が好ましい。ガラス転移点が430℃より低いと、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を溶解しやすくなるため、粗粒ガラス粉末が導電路を迂回させるブロック粒子として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。一方、ガラス転移点が570℃より高いと、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。ここで、「粗粒ガラス粉末のガラス転移点」とは、押棒式熱膨張係数測定(TMA)装置で測定した値を指し、粗粒ガラス粉末を緻密に焼結させたものを測定試料とする。
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒ガラス粉末の屈伏点は500〜650℃、特に520〜630℃が好ましい。屈伏点が500℃より低いと、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を溶解しやすくなるため、粗粒ガラス粉末が導電路を迂回させるブロック粒子として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。一方、屈伏点が650℃より高いと、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒ガラス粉末の熱膨張係数は35〜62×10-7/℃、特に40〜56×10-7/℃が好ましい。熱膨張係数が40×10-7/℃より低くするためには、ガラス組成中のSiO2等の含有量を増加させる必要がある。このような場合、ガラスの屈伏点が上昇することに起因して、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。一方、熱膨張係数が62×10-7/℃より高いと、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。ここで、「粗粒ガラス粉末の熱膨張係数」とは、押棒式熱膨張係数測定(TMA)装置で測定した値を指し、粗粒ガラス粉末を緻密に焼結させたものを測定試料とする。
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒セラミックフィラーの平均粒子径D50は50〜300μmであり、75〜255μm、特に90〜220μmが好ましい。粗粒セラミックフィラーの平均粒子径D50を50〜300μmにすれば、抵抗体の機械的強度を高めやすくなる。粗粒セラミックフィラーの平均粒子径D50が50μmより小さいと、機械的衝撃を受けた場合、粗粒セラミックフィラーがクラックの進展を妨害し難くなるため、抵抗体の機械的強度が低下しやすくなり、その結果、抵抗体の抵抗値が上昇しやすくなり、点火プラグの信頼性が低下しやすくなる。一方、粗粒セラミックフィラーの平均粒子径D50が300μmより大きいと、微粒ガラス粉末によって粗粒セラミックフィラーの間隙を充填し難くなり、抵抗体の抵抗値がばらつきやすくなるとともに、抵抗体の機械的強度も低下しやすくなる。
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒セラミックフィラーの最大粒子径Dmaxは450μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましい。粗粒セラミックフィラーの平均粒子径Dmaxが450μmより大きいと、微粒ガラス粉末によって粗粒セラミックフィラーの間隙を充填し難くなり、抵抗体の抵抗値がばらつきやすくなるとともに、抵抗体の機械的強度も低下しやすくなる。
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒セラミックフィラーの含有量は1〜55質量%であり、5〜45質量%、特に10〜40質量%が好ましい。粗粒セラミックフィラーの含有量が1質量%より少ないと、機械的衝撃を受けた場合、粗粒セラミックフィラーがクラックの進展を妨害し難くなるため、抵抗体の機械的強度が低下しやすくなり、その結果、抵抗体の抵抗値が上昇しやすくなり、点火プラグの信頼性が低下しやすくなる。粗粒セラミックフィラーの含有量が55質量%より多いと、微粒ガラス粉末によって粗粒セラミックフィラーの間隙を充填し難くなり、抵抗体の抵抗値がばらつきやすくなるとともに、抵抗体の機械的強度も低下しやすくなる。
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒セラミックフィラーの誘電率は11.5以下、7.5以下、5.0以下、特に4.0以下が好ましい。粗粒セラミックフィラーの誘電率が11.5より大きいと、点火プラグを細径化した場合、抵抗体が高周波雑音電波の発生を抑制し難くなり、結果として、車載用のTV、ラジオ、無線等を妨害するおそれがある。
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒セラミックフィラーとして、リン酸ジルコニウム、リン酸タングステン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、β−ユークリプタイト、ジルコニア、アルミナ、コーディエライト、ムライト、スピネル、シリカ、ジルコン、ウイレマイトが使用可能であり、その中で、機械的強度、誘電率の観点から、アルミナ、コーディエライト、ムライト、スピネル、シリカ、ジルコン、ウイレマイトが好ましい。特に、アルミナは、材料コストが低いため、より好ましい。
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒セラミックフィラーは実質的にPbOを含有しないことが好ましい。このようにすれば、近年の環境的要請を満たすことができる。
本発明の抵抗体形成材料は、粗粒ガラス粉末、粗粒セラミックフィラー以外に、微粒ガラス粉末、微粒セラミックフィラー、導電粉末等を含み得る。微粒ガラス粉末の好適なガラス組成範囲や特性は、粗粒ガラス粉末の場合と略同様であり、その平均粒子径D50は150μm未満、特に100μm未満が好ましい。なお、粗粒ガラス粉末と微粒ガラス粉末を同一のガラス組成とすれば、ホットプレス工程で両者が強固に結合するため、抵抗体の機械的強度を高めることができる。また、微粒セラミックフィラーは、粗粒ガラス粉末、粗粒セラミックフィラーの間隙に充填する目的で添加される成分であり、例えばアルミナ、ジルコニア等が使用可能である。さらに、導電粉末は導電パスを形成するための成分であり、例えばカーボン、窒化チタン、炭化珪素等が使用可能である。
本発明の抵抗体形成材料は、点火プラグに使用することが好ましい。本発明の抵抗体形成材料は、その充填量が少なくても、抵抗体の機械的強度を高めつつ、高周波雑音電波を十分に吸収できるため、特に点火プラグが細径化された場合に有利である。
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。表1、2は、本発明の実施例(試料No.1−1〜1−9)、比較例(試料No.1−10〜1−12)を示している。なお、試料No.1−12は、従来例を示している。
まず、表中のガラス組成となるように、各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて1300℃で2時間溶融した。次に、水冷ローラーにより、溶融ガラスを薄片状に成形した後、ボールミルにて粉砕後、試験篩で分級し、粗粒ガラス粉末(平均粒子径D50=200μm)と微粒ガラス粉末(平均粒子径D50=15μm)を得た。なお、粗粒ガラス粉末と微粒ガラス粉末は、同一のガラス組成を有している。
各粗粒ガラス粉末につき、ガラス転移点、屈伏点、熱膨張係数、誘電率、誘電正接を測定した。
ガラス転移点および屈伏点は、TMA装置で測定した。なお、TMAの測定試料は、粗粒ガラス粉末を緻密に焼結させたものを使用した。
熱膨張係数は、TMA装置を用いて、30〜380℃の温度範囲で測定した。なお、TMAの測定試料は、粗粒ガラス粉末を緻密に焼結させたものを使用した。
誘電率および誘電正接は、50mm×50mm×3mm厚の板状ガラス(粗粒ガラス粉末を緻密に焼結させたもの)を測定試料として用い、光学研磨した板状ガラスの表裏面に30mmφの電極を貼り付け、電極間に電圧を印加して測定した。測定条件は、25℃、1MHzとした。
上記の粗粒ガラス粉末、上記の微粒ガラス粉末、表中の粗粒セラミックフィラー(平均粒子径D50=170μm)、微粒セラミックフィラー(アルミナ、平均粒子径D50=5μm)、導電粉末(カーボンブラック、平均粒子径D50=50nm)を混合して、各抵抗体材料を作製した。混合比は、質量%で、粗粒ガラス粉末と粗粒セラミックフィラーの合量65%、微粒ガラス粉末10%、微粒セラミックフィラー4%、導電粉末1%とした。粗粒ガラス粉末と粗粒セラミックフィラーの混合比は表中の通りとした。各抵抗体材料につき、ブロック粒子としての機能、分相性、焼結性、抗折強度を評価した。なお、表中の「CDR」は、コーディエライトを指している。
ブロック粒子としての機能は、次のようにして測定した。まず密度に相当する質量の各抵抗体材料を金型により外径20mmのボタン状にプレスした。続いて、得られたボタン試料をアルミナ基板で挟んだ後、900℃に保持された電気炉に投入し、100kg/cm2のプレス圧力を加えて10分間加熱し、次いで電気炉からボタン試料を取り出し、得られたボタン試料の外観を観察することで評価した。粗粒ガラス粉末が多少変形しているが、完全に溶融しておらず、導電粉末が粗粒ガラス粉末中に溶解していないものを「○」とし、粗粒ガラス粉末が完全に溶融し、或いはカーボンブラックが粗粒ガラス粉末中に溶解しているものを「×」として評価した。
焼結性は、まず密度に相当する質量の各抵抗体材料を金型により外径20mmのボタン状にプレスし、次に得られたボタン試料をアルミナ基板上に載置した後、電気炉で20℃/分で昇温し、900℃で10分間保持した上で、20℃/分の速度で降温し、得られたボタン試料の外観を観察することで評価した。ボタン試料が光沢を有しており、ボタン試料の直径が17.8mm以下のものを「○」とし、ボタン試料に光沢がなく、或いはボタン試料の直径が17.8mmより大きいものを「×」として評価した。
分相性は、上記ボタン試料を所定形状に加工したものを測定試料とし、TEMで観察することで評価した。粗粒ガラスが分相しているものを「○」、分相していないものを「×」とした。
抗折強度は、各抵抗体形成材料を緻密に焼結させた後、3×4×40mmの角柱(表面が光学研磨されている)に加工したものを測定試料として用い、JIS R1601に準拠する3点荷重測定法で測定した。抗折強度が160MPaより大きかったものを「○」、120〜160MPaであったものを「△」、120MPa未満であったものを「×」として評価した。
表1、2から明らかなように、試料No.1−1〜1−9は、粗粒ガラス粉末の誘電率が低く、且つ抵抗体形成材料の各評価も良好であった。一方、試料No.1−10は、粗粒セラミックフィラーを含有していないため、抗折強度の評価が不良であった。また、試料No.1−11は、粗粒セラミックフィラーの含有量が過剰であるため、抗折強度の評価が不良であった。さらに、試料No.1−12は、粗粒ガラス粉末の誘電率が高く、点火プラグを細径化すると、高周波雑音電波が漏洩してしまうと考えられる。
[実施例1]の試料No.1−8を用いて、粗粒ガラス粉末の平均粒子径D50について調査した。粗粒ガラス粉末の平均粒子径D50以外の実験条件は、[実施例1]と同様とし、ブロック粒子としての機能、抗折強度を評価した。その結果を表3に示す。
表3から明らかなように、試料No.2−1〜2−4は、ブロック粒子として機能し、抗折強度の評価も良好であった。
[実施例1]の試料No.1−8を用いて、粗粒セラミックフィラーの平均粒子径D50の影響を調査した。粗粒セラミックフィラーの平均粒子径D50以外の実験条件は、[実施例1]と同様とし、抗折強度を評価した。その結果を表4に示す。
表4から明らかなように、試料No.3−2〜3−6は、抗折強度の評価が良好であった。一方、試料No.3−1は、粗粒セラミックフィラーの平均粒子径D50が小さいため、抗折強度の評価が不良であった。また、試料No.3−7は、粗粒セラミックフィラーの平均粒子径D50が大きいため、抗折強度の評価が不良であった。
表5、表6は、本発明の実施例(試料No.4−1〜4−8、4−10)、比較例(試料No.4−9)を示している。試料No.4−1〜4−4、4−9は[実施例1]の試料No.1−1のガラス/セラミックフィラー(質量比)を、試料No.4−5及び4−6は[実施例1]の試料No.1−2のガラス/セラミックフィラー(質量比)を、試料No.4−7及び4−8は[実施例1]の試料No.1−4のガラス/セラミックフィラー(質量比)を、試料No.4−10は[実施例1]の試料No.1−9のガラス/セラミックフィラー(質量比)の変えて封着性能を評価したものである。「封着性能」は、ホットプレス時の端子浮き不具合の発生率を評価したものであり、発生率が0〜5%のものを「◎」、5〜30%のものを「○」、30%より多いものを「×」とした。
ガラス/セラミックフィラー(質量比)が75/15〜95/5、すなわち、3〜19であるものは封着性能が「◎」であり、良好であった。一方、ガラス/セラミックフィラー(質量比)が70/30の試料No.4−9(比較例)については封着性能が「×」であり、不良であった。