以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。各機能要素について実施形態別に区別する際には、A,B,C,…などのように大文字の英語の参照子を付して記載し、特に区別しないで説明する際にはこの参照子を割愛して記載する。図面においても同様である。
なお、説明は以下の順序で行なう。
1.通信処理系統:基本(空間分割多重)
2.空間分割多重の適用手法
3.変調および復調(自乗検波・包絡線検波の適用)
4.多チャネル化と空間分割多重との関係
5.受信側に適用するMIMO処理の概要:演算処理、搬送周波数との関係、アンテナ配置との関係、指向性との関係、3チャネル以上への適用、3次元配置への適用、デジタル処理
6.受信MIMOシステム:第1・第2実施形態
先ず、本実施形態の無線伝送システムを説明するに当たり、その仕組みの理解の容易化のため、最初に基本的な全体構成について説明し、その後に、本実施形態の無線伝送システムにおける特徴部分である受信側に適用するMIMO処理の詳細について説明する。
<通信処理系統:基本>
図1〜図1Aは、本実施形態の無線伝送システムを説明する図である。ここで、図1は、本実施形態の無線伝送システム1Yの信号インタフェースを機能構成面から説明する図である。図1Aは、信号の多重化を説明する図である。
本実施形態の無線伝送システムで使用する搬送周波数としてはミリ波帯で説明するが、本実施形態の仕組みは、ミリ波帯に限らず、より波長の短い、たとえばサブミリ波帯の搬送周波数を使用する場合にも適用可能である。本実施形態の無線伝送システムは、たとえば、デジタル記録再生装置、地上波テレビ受像装置、携帯電話装置、ゲーム装置、コンピュータなどにおいて使用される。
[機能構成]
図1に示すように、無線伝送システム1Yは、第1の無線機器の一例である第1通信装置100Yと第2の無線機器の一例である第2通信装置200Yが無線信号伝送路の一例であるミリ波信号伝送路9を介して結合されミリ波帯で信号伝送を行なうように構成されている。ミリ波信号伝送路9は、無線信号伝送路の一例である。伝送対象の信号を広帯域伝送に適したミリ波帯域に周波数変換して伝送するようにする。
本実施形態の無線伝送システム1Yは、複数組の伝送路結合部108,208の対を用いることで、複数系統のミリ波信号伝送路9を備える点に特徴を有する。複数系統のミリ波信号伝送路9は、空間的に干渉しない(干渉の影響がない)ように設置され、複数系統の信号伝送において、同一周波数や同一時間に通信を行なうことができるものとする。
「空間的に干渉しない」ということは、複数系統の信号を独立して伝送できることを意味する。このような仕組みを「空間分割多重」と称する。伝送チャネルの多チャネル化を図る際に、空間分割多重を適用しない場合は周波数分割多重を適用して各チャネルでは異なる搬送周波数を使用することが必要になるが、空間分割多重を適用すれば、同一の搬送周波数でも干渉の影響を受けずに伝送できるようになる。
「空間分割多重」とは、ミリ波信号(電磁波)を伝送可能な3次元空間において、複数系統のミリ波信号伝送路9を形成するものであればよく、自由空間中に複数系統のミリ波信号伝送路9を構成することに限定されない。たとえば、ミリ波信号(電磁波)を伝送可能な3次元空間が誘電体素材(有体物)から構成されている場合に、その誘電体素材中に複数系統のミリ波信号伝送路9を形成するものでもよい。また、複数系統のミリ波信号伝送路9のそれぞれも、自由空間であることに限定されず、誘電体伝送路や中空導波路などの形態を採ってよい。
第1の通信部(第1のミリ波伝送装置)と第2の通信部(第2のミリ波伝送装置)で、無線伝送装置(システム)を構成する。そして、比較的近距離に配置された第1の通信部と第2の通信部の間では、伝送対象の信号をミリ波信号に変換してから、このミリ波信号をミリ波信号伝送路を介して伝送するようにする。本実施形態の「無線伝送」とは、伝送対象の信号を電気配線ではなく無線(この例ではミリ波)で伝送することを意味する。
「比較的近距離」とは、放送や一般的な無線通信で使用される野外(屋外)での通信装置間の距離に比べて距離が短いことを意味し、伝送範囲が閉じられた空間として実質的に特定できる程度のものであればよい。「閉じられた空間」とは、その空間内部から外部への電波の漏れが少なく、逆に、外部から空間内部への電波の到来(侵入)が少ない状態の空間を意味し、典型的にはその空間全体が電波に対して遮蔽効果を持つ筐体(ケース)で囲まれた状態である。
たとえば、1つの電子機器の筐体内での基板間通信や同一基板上でのチップ間通信や、一方の電子機器に他方の電子機器が装着された状態のように複数の電子機器が一体となった状態での機器間の通信が該当する。
「一体」は、装着によって両電子機器が完全に接触した状態が典型例であるが、前述のように、両電子機器間の伝送範囲が閉じられた空間として実質的に特定できる程度のものであればよい。両電子機器が多少(比較的近距離:たとえば数センチ〜10数センチ以内)離れた状態で定められた位置に配置されていて「実質的に」一体と見なせる場合も含む。要は、両電子機器で構成される電波が伝搬し得る空間内部から外部への電波の漏れが少なく、逆に、外部からその空間内部への電波の到来(侵入)が少ない状態であればよい。
以下では、1つの電子機器の筐体内での信号伝送を筐体内信号伝送と称し、複数の電子機器が一体(以下、「実質的に一体」も含む)となった状態での信号伝送を機器間信号伝送と称する。筐体内信号伝送の場合は、送信側の通信装置(通信部:送信部)と受信側の通信装置(通信部:受信部)が同一筐体内に収容され、通信部(送信部と受信部)間に無線信号伝送路が形成された本実施形態の無線伝送システムが電子機器そのものとなる。これに対して、機器間信号伝送の場合、送信側の通信装置(通信部:送信部)と受信側の通信装置(通信部:受信部)がそれぞれ異なる電子機器の筐体内に収容され、両電子機器が定められた位置に配置され一体となったときに両電子機器内の通信部(送信部と受信部)間に無線信号伝送路が形成されて本実施形態の無線伝送システムが構築される。
ミリ波信号伝送路を挟んで設けられる各通信装置においては、送信部と受信部が対となって組み合わされて配置される。一方の通信装置と他方の通信装置との間の信号伝送は片方向(一方向)のものでもよいし双方向のものでもよい。たとえば、第1の通信部が送信側となり第2の通信部が受信側となる場合には、第1の通信部に送信部が配置され第2の通信部に受信部が配置される。第2の通信部が送信側となり第1の通信部が受信側となる場合には、第2の通信部に送信部が配置され第1の通信部に受信部が配置される。
送信部は、たとえば、伝送対象の信号を信号処理してミリ波の信号を生成する送信側の信号生成部(伝送対象の電気信号をミリ波の信号に変換する信号変換部)と、ミリ波の信号を伝送する伝送路(ミリ波信号伝送路)に送信側の信号生成部で生成されたミリ波の信号を結合させる送信側の信号結合部を備えるものとする。好ましくは、送信側の信号生成部は、伝送対象の信号を生成する機能部と一体であるのがよい。
たとえば、送信側の信号生成部は変調回路を有し、変調回路が伝送対象の信号を変調する。送信側の信号生成部は変調回路によって変調された後の信号を周波数変換してミリ波の信号を生成する。原理的には、伝送対象の信号をダイレクトにミリ波の信号に変換することも考えられる。送信側の信号結合部は、送信側の信号生成部によって生成されたミリ波の信号をミリ波信号伝送路に供給する。
一方、受信部は、たとえば、ミリ波信号伝送路を介して伝送されてきたミリ波の信号を受信する受信側の信号結合部と、受信側の信号結合部により受信されたミリ波の信号(入力信号)を信号処理して通常の電気信号(伝送対象の信号)を生成する受信側の信号生成部(ミリ波の信号を伝送対象の電気信号に変換する信号変換部)を備えるものとする。好ましくは、受信側の信号生成部は、伝送対象の信号を受け取る機能部と一体であるのがよい。たとえば、受信側の信号生成部は復調回路を有し、ミリ波の信号を周波数変換して出力信号を生成し、復調回路が出力信号を復調することで伝送対象の信号を生成する。原理的には、ミリ波の信号からダイレクトに伝送対象の信号に変換することも考えられる。
つまり、信号インタフェースをとるに当たり、伝送対象の信号に関して、ミリ波信号により接点レスやケーブルレスで伝送する(電気配線での伝送でない)ようにする。好ましくは、少なくとも信号伝送(特に高速伝送や大容量伝送が要求される映像信号や高速のクロック信号など)に関しては、ミリ波信号により伝送するようにする。要するに、従前は電気配線によって行なわれていた信号伝送を本実施形態ではミリ波信号により行なうものである。ミリ波帯で信号伝送を行なうことで、Gbpsオーダーの高速信号伝送を実現することができるようになるし、ミリ波信号の及ぶ範囲を容易に制限でき、この性質に起因する効果も得られる。
ここで、各信号結合部は、第1の通信部と第2の通信部がミリ波信号伝送路を介してミリ波の信号が伝送可能となるようにするものであればよい。たとえばアンテナ構造(アンテナ結合部)を備えるものとしてもよいし、アンテナ構造を具備せずに結合をとるものであってもよい。
「ミリ波の信号を伝送するミリ波信号伝送路」は、空気(いわゆる自由空間)であってもよいが、好ましくは、ミリ波信号を伝送路中に閉じ込めつつミリ波信号を伝送させる構造を持つものがよい。その性質を積極的に利用することで、たとえば電気配線のようにミリ波信号伝送路の引回しを任意に確定することができる。
このようなミリ波閉込め構造(無線信号閉込め構造)のものとしては、たとえば、典型的にはいわゆる導波管が考えられるが、これに限らない。たとえば、ミリ波信号伝送可能な誘電体素材で構成されたもの(誘電体伝送路やミリ波誘電体内伝送路と称する)や、伝送路を構成し、かつ、ミリ波信号の外部放射を抑える遮蔽材が伝送路を囲むように設けられその遮蔽材の内部が中空の中空導波路がよい。誘電体素材や遮蔽材に柔軟性を持たせることでミリ波信号伝送路の引回しが可能となる。
因みに、空気(いわゆる自由空間)の場合、各信号結合部はアンテナ構造をとることになり、そのアンテナ構造によって近距離の空間中を信号伝送することになる。一方、誘電体素材で構成されたものとする場合は、アンテナ構造をとることもできるが、そのことは必須でない。
[空間分割多重を適用するシステム構成]
図1には、本実施形態の無線伝送システム1Yが示されている。前述の空間分割多重に関する基本的な説明から理解されるように、本実施形態の無線伝送システム1Yは、第1通信装置100Yと第2通信装置200Yとの間に、複数系統のミリ波信号伝送路9を備えている。
ここでは、第1通信装置100Yから第2通信装置200Yへは複数種の信号_@(@は1〜N1)を伝送し、第2通信装置200Yから第1通信装置100Yへも複数種の信号_@(@は1〜N2)を伝送するものとして記載している。
詳しくは後述するが、半導体チップ103には送信側信号生成部110と受信側信号生成部120が設けられ、半導体チップ203には送信側信号生成部210と受信側信号生成部220が設けられる。図では便宜的に記載しているが、空間分割多重を実現するため、送信側信号生成部110および受信側信号生成部220はN1系統分が設けられ、送信側信号生成部210および受信側信号生成部120はN2系統分が設けられる。
空間分割多重では、同一周波数帯域を同一時間に使用することができるため、通信速度を増加できるし、また、第1通信装置100Yから第2通信装置200YへのN1チャネル分の信号伝送と、第2通信装置200Yから第1通信装置100YへのN2チャネル分の信号伝送を同時に行なう双方向通信の同時性を担保できる。特に、ミリ波は、波長が短く距離による減衰効果を期待でき、小さいオフセット(伝送チャネルの空間距離が小さい場合)でも干渉が起き難く、場所により異なった伝搬チャネルを実現し易い。
図1に示すように、本実施形態の無線伝送システム1Yは、ミリ波伝送端子、ミリ波伝送線路、アンテナなどを具備する伝送路結合部108,208を「N1+N2」系統有するとともに、ミリ波信号伝送路9を「N1+N2」系統有する。それぞれには、参照子“_@”(@は1〜N1+N2)を付す。これにより、送受信に対するミリ波伝送を独立して行なう全二重の伝送方式が実現できる。
先ず、本実施形態の無線伝送システム1Yが備える機能部分について具体的に説明する。なお、最も好適な例として、各機能部が半導体集積回路(チップ)に形成されている例で説明するが、このことは必須でない。
第1通信装置100Yにはミリ波帯通信可能な半導体チップ103が設けられ、第2通信装置200Yにもミリ波帯通信可能な半導体チップ203が設けられている。
ここでは、ミリ波帯での通信の対象となる信号を、高速性や大容量性が求められる信号のみとし、その他の低速・小容量で十分なものや電源など直流と見なせる信号に関してはミリ波信号への変換対象としない。これらミリ波信号への変換対象としない信号(電源を含む)については、従前と同様の仕組みで基板間の信号の接続をとるようにする。ミリ波に変換する前の元の伝送対象の電気信号を纏めてベースバンド信号と称する。
[第1通信装置]
第1通信装置100Yは、基板102上に、ミリ波帯通信可能な半導体チップ103と伝送路結合部108が搭載されている。半導体チップ103は、LSI機能部104と信号生成部107(ミリ波信号生成部)を一体化したシステムLSI(Large Scale Integrated Circuit)である。図示しないが、LSI機能部104と信号生成部107を一体化しない構成にしてもよい。別体にした場合には、その間の信号伝送に関しては、電気配線により信号を伝送することに起因する問題が懸念されるので、一体的に作り込んだ方が好ましい。別体にする場合には、2つのチップ(LSI機能部104と信号生成部107との間)を近距離に配置して、ワイヤーボンディング長を極力短く配線することで悪影響を低減するようにすることが好ましい。
信号生成部107と伝送路結合部108はデータの双方向性を持つ構成にする。このため、信号生成部107には送信側の信号生成部と受信側の信号生成部を設ける。伝送路結合部108は、送信側と受信側に各別に設けてもよいが、ここでは送受信に兼用されるものとする。
「双方向通信」の実現には、ミリ波の伝送チャネルであるミリ波信号伝送路9が1系統(一芯)の一芯双方向伝送の場合、時分割多重(TDD:Time Division Duplex)を適用する半二重方式と、周波数分割多重(FDD:Frequency Division Duplex )などが適用される。
しかし、時分割多重の場合、送信と受信の分離を時分割で行なうので、第1通信装置100Yから第2通信装置200Yへの信号伝送と第2通信装置200Yから第1通信装置100Yへの信号伝送を同時に行なう「双方向通信の同時性(一芯同時双方向伝送)」は実現されず、一芯同時双方向伝送は、周波数分割多重で実現される。
周波数分割多重は、図1A(1)に示すように、送信と受信に異なった周波数を用いるので、ミリ波信号伝送路9の伝送帯域幅を広くする必要がある。加えて、周波数分割多重で多重伝送(多チャネル化)を実現するには、図1A(2)に示すように、各別の搬送周波数で変調してそれぞれ異なる周波数帯域F_@の範囲の周波数に変換してミリ波の信号を生成し、それら各別の搬送周波数を用いたミリ波信号を同一方向または逆方向に伝送する必要がある。この場合に、送信(図の例では送信側信号生成部110側から受信側信号生成部220への系統)と受信(図の例では送信側信号生成部210側から受信側信号生成部120への系統)に異なった周波数を用いる場合は、図1A(3),図1A(4)に示すように、伝送帯域幅を一層広くする必要がある。
その点、空間分割多重を適用すれば、図1A(5)に示すように、双方向通信の実現だけでなく、多重伝送(多チャネル化)の実現においても、各チャネルに同一周波数帯を適用できるので、伝送帯域幅の制約を受けない利点がある。
半導体チップ103は、直接に基板102上に搭載するのではなく、インターポーザ基板上に半導体チップ103を搭載し、半導体チップ103を樹脂(たとえばエポキシ樹脂など)でモールドした半導体パッケージを基板102上に搭載するようにしてもよい。すなわち、インターポーザ基板はチップ実装用の基板をなし、インターポーザ基板上に半導体チップ103が設けられる。インターポーザ基板には、一定範囲(2〜10程度)の比誘電率を有したたとえば熱強化樹脂と銅箔を組み合わせたシート部材を使用すればよい。
半導体チップ103は伝送路結合部108と接続される。伝送路結合部108は、たとえば、アンテナ結合部やアンテナ端子やマイクロストリップ線路やアンテナなどを具備するアンテナ構造が適用される。なお、アンテナをチップに直接に形成する技術を適用することで、伝送路結合部108も半導体チップ103に組み込むようにすることもできる。
LSI機能部104は、第1通信装置100Yの主要なアプリケーション制御を司るもので、たとえば、相手方に送信したい各種の信号を処理する回路や相手方から受信した種々の信号を処理する回路が含まれる。
信号生成部107(電気信号変換部)は、LSI機能部104からの信号をミリ波信号に変換し、ミリ波信号伝送路9を介した信号伝送制御を行なう。
具体的には、信号生成部107は、送信側信号生成部110および受信側信号生成部120を有する。送信側信号生成部110と伝送路結合部108で送信部(送信側の通信部)が構成され、受信側信号生成部120と伝送路結合部108で受信部(受信側の通信部)が構成される。
送信側信号生成部110は、入力信号を信号処理してミリ波の信号を生成するために、パラレルシリアル変換部114、変調部115、周波数変換部116、増幅部117を有する。なお、変調部115と周波数変換部116は纏めていわゆるダイレクトコンバーション方式のものにしてもよい。
受信側信号生成部120は、伝送路結合部108によって受信したミリ波の電気信号を信号処理して出力信号を生成するために、増幅部124、周波数変換部125、復調部126、シリアルパラレル変換部127を有する。周波数変換部125と復調部126は纏めていわゆるダイレクトコンバーション方式のものにしてもよい。
パラレルシリアル変換部114とシリアルパラレル変換部127は、本構成を適用しない場合に、パラレル伝送用の複数の信号を使用するパラレルインタフェース仕様のものである場合に備えられ、シリアルインタフェース仕様のものである場合は不要である。
パラレルシリアル変換部114は、パラレルの信号をシリアルのデータ信号に変換して変調部115に供給する。変調部115は、伝送対象信号を変調して周波数変換部116に供給する。変調部115は、基本的には、振幅・周波数・位相の少なくとも1つを伝送対象信号で変調するものであればよく、これらの任意の組合せの方式も採用し得る。
たとえば、アナログ変調方式であれば、たとえば、振幅変調(AM:Amplitude Modulation )とベクトル変調がある。ベクトル変調として、周波数変調(FM:Frequency Modulation)と位相変調(PM:Phase Modulation)がある。デジタル変調方式であれば、たとえば、振幅遷移変調(ASK:Amplitude shift keying)、周波数遷移変調(FSK:Frequency Shift Keying)、位相遷移変調(PSK:Phase Shift Keying)、振幅と位相を変調する振幅位相変調(APSK:Amplitude Phase Shift Keying)がある。振幅位相変調としては直交振幅変調(QAM:Quadrature Amplitude Modulation )が代表的である。
ただし、本実施形態では、MIMO処理との関係で、振幅のみを伝送対象信号で変調する方式を採用することにする。
周波数変換部116は、変調部115によって変調された後の伝送対象信号を周波数変換してミリ波の電気信号を生成して増幅部117に供給する。ミリ波の電気信号とは、概ね30GHz〜300GHzの範囲のある周波数の電気信号をいう。「概ね」と称したのはミリ波通信による効果が得られる程度の周波数であればよく、下限は30GHzに限定されず、上限は300GHzに限定されないことに基づく。
周波数変換部116としては様々な回路構成を採り得るが、たとえば、周波数混合回路(ミキサー回路)と局部発振回路とを備えた構成を採用すればよい。局部発振回路は、変調に用いる搬送波(キャリア信号、基準搬送波)を生成する。周波数混合回路は、パラレルシリアル変換部114からの信号で局部発振回路が発生するミリ波帯の搬送波と乗算(変調)してミリ波帯の変調信号を生成して増幅部117に供給する。
増幅部117は、周波数変換後のミリ波の電気信号を増幅して伝送路結合部108に供給する。増幅部117には図示しないアンテナ端子を介して双方向の伝送路結合部108に接続される。
伝送路結合部108は、送信側信号生成部110によって生成されたミリ波の信号をミリ波信号伝送路9に送信するとともに、ミリ波信号伝送路9からミリ波の信号を受信して受信側信号生成部120に出力する。
伝送路結合部108は、アンテナ結合部で構成される。アンテナ結合部は伝送路結合部108(信号結合部)の一例またはその一部を構成する。アンテナ結合部とは、狭義的には半導体チップ内の電子回路と、チップ内またはチップ外に配置されるアンテナを結合する部分をいい、広義的には、半導体チップとミリ波信号伝送路9を信号結合する部分をいう。たとえば、アンテナ結合部は、少なくともアンテナ構造を備える。また、時分割多重で送受信を行なう場合には、伝送路結合部108にアンテナ切替部(アンテナ共用器)を設ける。
アンテナ構造は、ミリ波信号伝送路9との結合部における構造をいい、ミリ波帯の電気信号をミリ波信号伝送路9に結合させるものであればよく、アンテナそのもののみを意味するものではない。たとえば、アンテナ構造には、アンテナ端子、マイクロストリップ線路、アンテナを含み構成される。アンテナ切替部を同一のチップ内に形成する場合は、アンテナ切替部を除いたアンテナ端子とマイクロストリップ線路が伝送路結合部108を構成するようになる。
送信側のアンテナはミリ波の信号に基づく電磁波をミリ波信号伝送路9に輻射する。また、受信側のアンテナはミリ波の信号に基づく電磁波をミリ波信号伝送路9から受信する。マイクロストリップ線路は、アンテナ端子とアンテナとの間を接続し、送信側のミリ波の信号をアンテナ端子からアンテナへ伝送し、また、受信側のミリ波の信号をアンテナからアンテナ端子へ伝送する。
アンテナ切替部はアンテナを送受信で共用する場合に用いられる。たとえば、ミリ波の信号を相手方である第2通信装置200Y側に送信するときは、アンテナ切替部がアンテナを送信側信号生成部110に接続する。また、相手方である第2通信装置200Y側からのミリ波の信号を受信するときは、アンテナ切替部がアンテナを受信側信号生成部120に接続する。アンテナ切替部は半導体チップ103と別にして基板102上に設けているが、これに限られることはなく、半導体チップ103内に設けてもよい。送信用と受信用のアンテナを別々に設ける場合はアンテナ切替部を省略できる。
伝送路結合部108には受信側信号生成部120が接続される。受信側信号生成部120は、伝送路結合部108によって受信したミリ波の電気信号を信号処理して出力信号を生成するために、増幅部124、周波数変換部125、復調部126、シリアルパラレル変換部127、単一化処理部128を有する。なお、周波数変換部125と復調部126は纏めていわゆるダイレクトコンバーション方式のものにしてもよい。
受信側の増幅部124は、伝送路結合部108に接続され、アンテナによって受信された後のミリ波の電気信号を増幅して周波数変換部125に供給する。周波数変換部125は、増幅後のミリ波の電気信号を周波数変換して周波数変換後の信号を復調部126に供給する。復調部126は、周波数変換後の信号を復調してベースバンドの信号を取得しシリアルパラレル変換部127に供給する。
シリアルパラレル変換部127は、シリアルの受信データをパラレルの出力データに変換してLSI機能部104に供給する。
このように半導体チップ103を構成すると、入力信号をパラレルシリアル変換して半導体チップ203側へ伝送し、また半導体チップ203側からの受信信号をシリアルパラレル変換することにより、ミリ波変換対象の信号数が削減される。
第1通信装置100Yと第2通信装置200Yの間の元々の信号伝送がシリアル形式の場合には、パラレルシリアル変換部114およびシリアルパラレル変換部127を設けなくてもよい。
また、本実施形態の無線伝送システム1Yの特徴として、第1通信装置100Yにおいて、受信側信号生成部120には、N1系統の全てに共有されるMIMO処理部603が、復調部126とシリアルパラレル変換部127との間に設けられている。同様に、第2通信装置200Yにおいて、受信側信号生成部220には、N2系統の全てに共有されるMIMO処理部604が、復調部226とシリアルパラレル変換部227との間に設けられている。MIMO処理部603,604の詳細については後述する。
ここでは、基本的な構成について説明しているが、これは一例に過ぎず、送信側信号生成部110、受信側信号生成部120、送信側信号生成部210、受信側信号生成部220を半導体チップ103,203に収容する形態は図示したものに限定されない。たとえば、送信側信号生成部110と受信側信号生成部120をそれぞれ1系統収容した信号生成部107のみの半導体チップ103と、送信側信号生成部210と受信側信号生成部220をそれぞれ1系統収容した信号生成部207のみの半導体チップを使用してシステムを構成してもよい。また、送信側信号生成部110、受信側信号生成部120、送信側信号生成部210、受信側信号生成部220をそれぞれ各別の半導体チップ103,203に収容してシステムを構成してもよい。それらの変形によっては、N1=N2=Nとしてシステムを構成することもある。
また、半導体チップ103,203に収容する機能部を如何様にするかは、第1通信装置100Y側と第2通信装置200Y側を対にして行なう必要はなく、任意の組合せにしてもよい。たとえば、第1通信装置100Y側は送信側のN1系統分と受信側のN2系統分を1チップに収容した形態を採るが、第2通信装置200Y側は、送信側信号生成部210、受信側信号生成部220をそれぞれ各別の半導体チップ203に収容したものとしてもよい。
因みに、本実施形態では、各系統の復調部126とシリアルパラレル変換部127の間に全系統に共有のMIMO処理部603を設け、各系統の復調部226とシリアルパラレル変換部227の間に全系統に共有のMIMO処理部604を設けるので、受信系に関してはN1系統分やN2系統分を1チップ化したものを使用するのが好適である。受信系に関して、系統別のチップを使用することを排除するものではないが、その場合、各系統別の受信系のチップとMIMO処理部603,604を収容したチップ(受信系の何れか1つのチップに収容してもよい)との間で、復調部126とシリアルパラレル変換部127または復調部226とシリアルパラレル変換部227の間に、MIMO処理部603,604を介在させるためのチップ外配線が必要になる。
一方、送信系に関しては、そのような制約はないので、複数系統を1チップ化したものであるのか系統別のチップであるのかは基本的には問題とならない。ただし、好ましくは、各チャネルの搬送信号の周波数を共通化(同一に)する上では、複数系統を1チップ化したものとするのがよい。
各系統の搬送周波数は同一でもよいし異なっていてもよい。たとえば、誘電体伝送路や中空導波路の場合はミリ波が内部に閉じこめられるのでミリ波干渉を防ぐことができ、同一周波数でも全く問題ない。自由空間伝送路の場合は、自由空間伝送路同士がある程度隔てられていれば同一でも問題ないが、近距離の場合には異なっていた方がよい。ただし、受信側でのMIMO処理を効果的に行なうためや復調機能部の回路規模を小さくする上では、ミリ波信号伝送路9の形態に関わらず(自由空間伝送路であっても)、搬送周波数を共通化することが好ましい。
たとえば、双方向通信を実現するには、空間分割多重の他に、時分割多重を行なう方式や周波数分割多重などが考えられる。1系統のミリ波信号伝送路9を有し、データ送受信を実現する方式として、時分割多重により送受信を切り替える半二重方式、周波数分割多重により送受信を同時に行なう全二重方式の何れかが採用される。
ただし、時分割多重の場合は、送信と受信とを並行して行なうことができないという問題がある。また、図1A(1)〜(3)に示したように、周波数分割多重の場合は、ミリ波信号伝送路9の帯域幅を広くしなければならないという問題がある。
これに対し、空間分割多重を適用する本実施形態の無線伝送システム1Yでは、複数の信号伝送系統(複数チャネル)において、搬送周波数の設定を同一にでき、搬送周波数の再利用(複数チャネルで同一周波数を使用すること)が容易になる。ミリ波信号伝送路9の帯域幅を広くしなくても信号の送受信を同時に実現できる。同方向に複数の伝送チャネルを使用して、同一周波数帯域を同一時間に使用すると通信速度の増加が可能となる。
N種(N=N1=N2)のベースバンド信号に対してミリ波信号伝送路9がN系統の場合に、双方向の送受信を行なうには、送受信に関して時分割多重や周波数分割多重を適用しなければならない。これに対して、空間分割多重の適用では、2N系統のミリ波信号伝送路9を使用するので、双方向の送受信に関しても別系統のミリ波信号伝送路9を使用した(全て独立の伝送路を使用した)伝送を行なうことができる。つまり、ミリ波帯での通信の対象となる信号が送受信にN種ある場合に、時分割多重、周波数分割多重、符号分割多重などの多重化処理を行なわなくても、それらを2N系統の各別のミリ波信号伝送路9で伝送することができる。
[第2通信装置]
第2通信装置200Yは、概ね第1通信装置100Yと同様の機能構成を備える。各機能部には200番台の参照子を付し、第1通信装置100Yと同様・類似の機能部には第1通信装置100Yと同一の10番台および1番台の参照子を付す。送信側信号生成部210と伝送路結合部208で送信部が構成され、受信側信号生成部220と伝送路結合部208で受信部が構成される。
LSI機能部204は、第2通信装置200Yの主要なアプリケーション制御を司るもので、たとえば、相手方に送信したい各種の信号を処理する回路や相手方から受信した種々の信号を処理する回路が含まれる。
[接続と動作]
入力信号を周波数変換して信号伝送するという手法は、放送や無線通信で一般的に用いられている。これらの用途では、α)どこまで通信できるか(熱雑音に対してのS/Nの問題)、β)反射やマルチパスにどう対応するか、γ)妨害や他チャネルとの干渉をどう抑えるかなどの問題に対応できるような比較的複雑な送信器や受信器などが用いられている。これに対して、本構成で使用する信号生成部107,207は、放送や無線通信で一般的に用いられる複雑な送信器や受信器などの使用周波数に比べて、より高い周波数帯のミリ波帯で使用され、波長λが短いため、周波数の再利用がし易く、近傍で多くのデバイス間での通信をするのに適したものが使用される。
本構成では、従来の電気配線を利用した信号インタフェースとは異なり、前述のようにミリ波帯で信号伝送を行なうことで高速性と大容量に柔軟に対応できるようにしている。たとえば、高速性や大容量性が求められる信号のみをミリ波帯での通信の対象としており、システム構成によっては、通信装置100Y,200Yは、低速・小容量の信号用や電源供給用に、従前の電気配線によるインタフェース(端子・コネクタによる接続)を一部に備えることになる。
信号生成部107は、LSI機能部104から入力された入力信号を信号処理してミリ波の信号を生成する。信号生成部107は、たとえば、マイクロストリップライン、ストリップライン、コプレーナライン、スロットラインなどの伝送線路で伝送路結合部108に接続され、生成されたミリ波の信号が伝送路結合部108を介してミリ波信号伝送路9に供給される。
伝送路結合部108は、アンテナ構造を有し、伝送されたミリ波の信号を電磁波に変換し、電磁波を送出する機能を有する。伝送路結合部108はミリ波信号伝送路9と結合されており、ミリ波信号伝送路9の一方の端部に伝送路結合部108で変換された電磁波が供給される。ミリ波信号伝送路9の他端には第2通信装置200Y側の伝送路結合部208が結合されている。ミリ波信号伝送路9を第1通信装置100Y側の伝送路結合部108と第2通信装置200Y側の伝送路結合部208の間に設けることにより、ミリ波信号伝送路9にはミリ波帯の電磁波が伝搬するようになる。
ミリ波信号伝送路9には第2通信装置200Y側の伝送路結合部208が結合されている。伝送路結合部208は、ミリ波信号伝送路9の他端に伝送された電磁波を受信し、ミリ波の信号に変換して信号生成部207(ベースバンド信号生成部)に供給する。信号生成部207は、変換されたミリ波の信号を信号処理して出力信号(ベースバンド信号)を生成しLSI機能部204へ供給する。
ここでは第1通信装置100Yから第2通信装置200Yへの信号伝送の場合で説明したが、第2通信装置200YのLSI機能部204からの信号を第1通信装置100Yへ伝送する場合も同様に考えればよく双方向にミリ波の信号を伝送できる。
ここで、基本構成の無線伝送システム1Yとの対比で、先ず、電気配線を介して信号伝送を行なう信号伝送システムでは、次のような問題がある。
i)伝送データの大容量・高速化が求められるが、電気配線の伝送速度・伝送容量には限界がある。
ii)伝送データの高速化の問題に対応するため、配線数を増やして、信号の並列化により一信号線当たりの伝送速度を落とすことが考えられる。しかしながら、この対処では、入出力端子の増大に繋がってしまう。その結果、プリント基板やケーブル配線の複雑化、コネクタ部や電気的インタフェースの物理サイズの増大などが求められ、それらの形状が複雑化し、これらの信頼性が低下し、コストが増大するなどの問題が起こる。
iii)映画映像やコンピュータ画像等の情報量の膨大化に伴い、ベースバンド信号の帯域が広くなるに従って、EMC(電磁環境適合性)の問題がより顕在化してくる。たとえば、電気配線を用いた場合は、配線がアンテナとなって、アンテナの同調周波数に対応した信号が干渉される。また、配線のインピーダンスの不整合などによる反射や共振によるものも不要輻射の原因となる。このような問題を対策するために、電子機器の構成が複雑化する。
iv)EMCの他に、反射があると受信側でシンボル間での干渉による伝送エラーや妨害の飛び込みによる伝送エラーも問題となってくる。
これに対して、基本構成の無線伝送システム1Yは、電気配線ではなくミリ波で信号伝送を行なうようにしている。LSI機能部104からLSI機能部204に対する信号は、ミリ波信号に変換され、ミリ波信号は伝送路結合部108,208間をミリ波信号伝送路9を介して伝送する。
無線伝送のため、配線形状やコネクタの位置を気にする必要がないため、レイアウトに対する制限があまり発生しない。ミリ波による信号伝送に置き換えた信号については配線や端子を割愛できるので、EMCの問題から解消される。一般に、通信装置100Y,200Y内部で他にミリ波帯の周波数を使用している機能部は存在しないため、EMCの対策が容易に実現できる。
第1通信装置100Yと第2通信装置200Yを近接した状態での無線伝送であり、固定位置間や既知の位置関係の信号伝送であるため、次のような利点が得られる。
1)送信側と受信側の間の伝搬チャネル(導波構造)を適正に設計することが容易である。
2)送信側と受信側を封止する伝送路結合部の誘電体構造と伝搬チャネル(ミリ波信号伝送路9の導波構造)を併せて設計することで、自由空間伝送より、信頼性の高い良好な伝送が可能になる。
3)無線伝送を管理するコントローラ(本例ではLSI機能部104)の制御も一般の無線通信のように動的にアダプティブに頻繁に行なう必要はないため、制御によるオーバーヘッドを一般の無線通信に比べて小さくすることができる。その結果、小型、低消費電力、高速化が可能になる。
4)製造時や設計時に無線伝送環境を校正し、個体のばらつきなどを把握すれば、そのデータを参照して伝送することでより高品位の通信が可能になる。
5)反射が存在していても、固定の反射であるので、小さい等化器で容易にその影響を受信側で除去できる。等化器の設定も、プリセットや静的な制御で可能であり、実現が容易である。
また、波長の短いミリ波帯での無線通信であることで、次のような利点が得られる。
a)ミリ波通信は通信帯域を広く取れるため、データレートを大きくとることが簡単にできる。
b)伝送に使う周波数が他のベースバンド信号処理の周波数から離すことができ、ミリ波とベースバンド信号の周波数の干渉が起こり難い。
c)ミリ波帯は波長が短いため、波長に応じてきまるアンテナや導波構造を小さくできる。加えて、距離減衰が大きく回折も少ないため電磁シールドが行ない易い。
d)ミリ波では(特に固定位置間や既知の位置関係の信号伝送との併用時は)、容易に遮蔽でき、外部に漏れないようにできる。
本実施形態では、無線伝送システムの一例として、ミリ波帯で通信を行なうシステムを例示したが、その適用範囲はミリ波帯で通信を行なうものに限定されない。ミリ波帯を下回る周波数帯や、逆にミリ波帯を超える周波数帯での通信を適用してもよい。たとえばマイクロ波帯を適用してもよい。ただし、筐体内信号伝送や機器間信号伝送において、MIMO処理(逆行列演算処理)を採用するという点においては、各種部材の大きさと波長との関係において、過度に波長が長くも短くもないミリ波帯を使用するのが最も効果的であると考えられる。
<空間分割多重の適用手法>
図2は、本実施形態で採用する「空間分割多重」の適正条件(適用条件)を説明する図である。図2Aは、「空間分割多重」を適用するためのミリ波信号伝送路9の構造の概要を示した図(イメージ図)である。
[空間分割多重の適正条件]
図2には、空間分割多重を適用する場合の適正条件の設定の仕方が示されている。たとえば、図2(1)に示すように、自由空間の伝播損失Lは、距離をd、波長をλとして“L[dB]=10log10((4πd/λ)2)…(A)”で表すことができる。
図2に示すように、空間分割多重の通信を2種類考える。図では送信器を「TX」、受信器を「RX」で示している。参照子「_100」は第1通信装置100Y側であり、参照子「_200」は第2通信装置200Y側である。図2(2)は、第1通信装置100Yに、2系統の送信器TX_100_1,TX_100_2を備え、第2通信装置200Yに、2系統の受信器RX_200_1,RX_200_2を備える。つまり、第1通信装置100Y側から第2通信装置200Y側への信号伝送が送信器TX_100_1と受信器RX_200_1の間および送信器TX_100_2と受信器RX_200_2の間で行なわれる。つまり、第1通信装置100Y側から第2通信装置200Y側への信号伝送が2系統で行なわれる態様である。
一方、図2(3)は、第1通信装置100Yに、送信器TX_100と受信器RX_100を備え、第2通信装置200Yに、送信器TX_200と受信器RX_200を備える。つまり、第1通信装置100Y側から第2通信装置200Y側への信号伝送が送信器TX_100と受信器RX_200の間で行なわれ、第2通信装置200Y側から第1通信装置100Y側への信号伝送が送信器TX_200と受信器RX_100の間で行なわれる。送信用と受信用に別の通信チャネルを使用する考え方で、同時に双方からデータの送信(TX)と受信(RX)が可能な全二重通信(Full Duplex )の態様である。
指向性のないアンテナを使用して、必要DU[dB](所望波と不要波の比)を得るために必要なアンテナ間距離d1と空間的なチャネル間隔(具体的には自由空間伝送路9Bの離隔距離)d2の関係は、式(A)より、“d2/d1=10(DU/20)…(B)”となる。
たとえば、DU=20dBの場合は、d2/d1=10となり、d2はd1の10倍必要となる。通常は、アンテナにある程度の指向性があるため、自由空間伝送路9Bの場合であっても、d2をもっと短く設定することができる。
たとえば、通信相手のアンテナとの距離が近ければ、各アンテナの送信電力は低く抑えることができる。送信電力が十分低く、アンテナ対同士が十分離れた位置に設置できれば、アンテナ対の間での干渉は十分低く抑えることができる。特に、ミリ波通信では、ミリ波の波長が短いため、距離減衰が大きく回折も少ないため、空間分割多重を実現し易い。たとえば、自由空間伝送路9Bであっても、空間的なチャネル間隔(自由空間伝送路9Bの離隔距離)d2を、アンテナ間距離d1の10倍よりも少なく設定することができる。
ミリ波閉込め構造を持つ誘電体伝送路や中空導波路の場合、内部にミリ波を閉じこめて伝送できるので、空間的なチャネル間隔(自由空間伝送路の離隔距離)d2を、アンテナ間距離d1の10倍よりも少なくでき、特に、自由空間伝送路9Bとの対比ではチャネル間隔をより近接させることができる。
[空間分割多重用のミリ波信号伝送路の構造例]
図2Aには、空間分割多重用のミリ波信号伝送路の構造例が示されている。伝送チャネルの多チャネル化を図る際、空間分割多重を適用しない場合は、たとえば周波数分割多重を適用して各チャネルでは異なる搬送周波数を使用することが考えられるが、空間分割多重を適用すれば、同一の搬送周波数でも干渉の影響を受けずに同時に信号伝送ができる。
つまり「空間分割多重」は、ミリ波信号(電磁波)を伝送可能な3次元空間において、複数系統の独立したミリ波信号伝送路9を形成するものであればよく、自由空間中に複数系統の自由空間伝送路9Bを、干渉しない距離を保って構成すること(図2A(1)を参照)に限定されない。
たとえば、図2A(2)に示すように、自由空間中に複数系統の自由空間伝送路9Bを設ける場合に、伝送チャネル間での干渉を抑えるために、電波伝搬を妨げる構造物(ミリ波遮蔽体MX)を伝送チャネル間に配置してもよい。ミリ波遮蔽体MXは導電体であるか否かは問わない。
複数系統のミリ波信号伝送路9のそれぞれは、たとえば、自由空間伝送路9Bとして、たとえば筐体内の空間を伝搬する構成にすることが考えられる。ただし、自由空間であることに限定されず、ミリ波閉込め構造の形態を採ってもよい。ミリ波閉込め構造としては、導波管、伝送線路、誘電体線路、誘電体内などの導波構造で構成し、ミリ波帯域の電磁波を効率よく伝送させる特性を有するものとするのが望ましい。
たとえば、図2A(3)に示すように、一定範囲の比誘電率と一定範囲の誘電正接を持つ誘電体素材を含んで構成された誘電体素材を含んで構成された誘電体伝送路9Aを採用し得る。たとえば、筐体内の全体に誘電体素材を充填することで、伝送路結合部108と伝送路結合部208の間には、自由空間伝送路ではなく誘電体伝送路9Aが配されるようになるし、また、伝送路結合部108のアンテナと伝送路結合部208のアンテナの間を誘電体素材で構成されたある線径を持つ線状部材である誘電体線路で接続することで誘電体伝送路9Aを構成することも考えられる。
「一定範囲」は、誘電体素材の比誘電率や誘電正接が、本構成の効果を得られる程度の範囲であればよく、その限りにおいて予め決められた値のものとすればよい。つまり、誘電体素材は、本構成の効果が得られる程度の特性を持つミリ波を伝送可能なものであればよい。誘電体素材そのものだけで決められず伝送路長やミリ波の周波数とも関係するので必ずしも明確に定められるものではないが、一例としては、次のようにする。
誘電体伝送路9A内にミリ波の信号を高速に伝送させるためには、誘電体素材の比誘電率は2〜10(好ましくは3〜6)程度とし、その誘電正接は0.00001〜0.01(好ましくは0.00001〜0.001)程度とすることが望ましい。このような条件を満たす誘電体素材としては、たとえば、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、シリコーン系、ポリイミド系、シアノアクリレート樹脂系からなるものが使用できる。誘電体素材の比誘電率とその誘電正接のこのような範囲は、特段の断りのない限り、本構成で同様である。
誘電体伝送路9Aでミリ波閉込め構造にする場合、図2A(4)に示すように、その外周にミリ波信号の外部放射を抑える金属部材などの導電体の遮蔽材(ミリ波遮蔽材MY)を設けて、ミリ波の外部放射を抑えるようにしてもよい。ミリ波遮蔽材MYは、好ましくは基板上の固定電位(たとえば接地電位)にする。ミリ波遮蔽材MYを導電体とすることで、導電体でない場合よりも確実に遮蔽ができる。
ミリ波閉込め構造の他の例としては、周囲が遮蔽材で囲まれ内部が中空の構造の中空導波路9Lとしてもよい。たとえば、図2A(5)に示すように、周囲が遮蔽材の一例である導電体MZで囲まれ内部が中空の構造にする。導電体MZの囲いは、対向して配置された2枚の基板の何れに設けてもよい。導電体MZによる囲いと基板との間の距離L(導電体MZの端から相対する基板までの隙間の長さ)はミリ波の波長に比べて十分小さい値に設定する。囲い(遮蔽材)を導電体MZとすることで導電体でない場合よりも確実に遮蔽ができる。
図2A(2)と図2A(5)の対比では、中空導波路9Lは、自由空間伝送路9Bにおいてミリ波遮蔽体MXを配置した構造に似通っているが、アンテナを取り囲むようにミリ波遮蔽材の一例である導電体MZが設けられる点が異なる。導電体MZの内部が中空であるので誘電体素材を使用する必要がなく低コストで簡易にミリ波信号伝送路9を構成できる。導電体MZは、好ましくは基板上の固定電位(たとえば接地電位)にする。
中空導波路9Lは、基板上の導電体MZで囲いを形成することに限らず、たとえば、図2A(6)に示すように、比較的厚めの基板に穴(貫通でもよいし貫通させなくてもよい)を開けて、その穴の壁面を囲いに利用するように構成してもよい。穴の断面形状は、円形・三角・四角など任意である。この場合、基板が遮蔽材として機能する。穴は、対向して配置された2枚の基板の何れか一方であってもよいし双方であってもよい。穴の側壁は導電体で覆われていてもよいし、覆われてなくてもよい。穴を貫通させる場合には、半導体チップの裏面にアンテナを配置する(取り付ける)とよい。穴を貫通させずに途中で止める(非貫通穴とする)場合、穴の底にアンテナを設置すればよい。
誘電体伝送路9Aおよび中空導波路9Lは、囲いによってミリ波が誘電体伝送路9Aや中空導波路9Lの中に閉じ込められるため、ミリ波の伝送損失が少なく効率的に伝送できる、ミリ波の外部放射を抑える、EMC対策がより楽になるなどの利点が得られる。
ミリ波閉込め構造のさらなる他の例としては、ミリ波信号(電磁波)を伝送可能な3次元空間が誘電体素材(有体物)から構成されている場合に、誘電体素材中に複数系統の独立したミリ波信号伝送路9(詳しくは誘電体伝送路9A:以下この段落において同様)を形成するものでもよい。たとえば、電子回路部品を搭載したプリント基板自体を誘電体素材で構成し、そのプリント基板を誘電体伝送路9Aとして利用することが考えられる。この際に、その基板内に独立した複数の誘電体伝送路9Aを形成することが考えられる。
空間分割多重にする際には、一部は自由空間伝送路9Bで対処し、他の一部は誘電体伝送路9Aや中空導波路9Lなどのミリ波閉込め構造を持つもので対処するなど、ミリ波信号伝送路9も各種のものを組み合わせたシステム構成にすることも考えられる。
<変調および復調>
図3は、通信処理系統における変調機能部および復調機能部の構成例を説明する図である。
[変調機能部]
図3(1)には、送信側に設けられる変調機能部8300の構成が示されている。伝送対象の信号(たとえば12ビットの画像信号)はパラレルシリアル変換部114により、高速なシリアル・データ系列に変換され変調機能部8300に供給される。
変調機能部8300としては、変調方式に応じて様々な回路構成を採り得るが、たとえば、振幅のみを変調する方式であれば、周波数混合部8302と送信側局部発振部8304を備えた構成を採用すればよい。
送信側局部発振部8304(第1の搬送信号生成部)は、変調に用いる搬送信号(変調搬送信号)を生成する。周波数混合部8302(第1の周波数変換部)は、パラレルシリアル変換部8114(パラレルシリアル変換部114と対応)からの信号で送信側局部発振部8304が発生するミリ波帯の搬送波と乗算(変調)してミリ波帯の変調信号を生成して増幅部8117(増幅部117と対応)に供給する。変調信号は増幅部8117で増幅されアンテナ8136から放射される。
[復調機能部]
図3(2)および図3(3)には、受信側に設けられる復調機能部8400の構成が示されている。復調機能部8400は、送信側の変調方式に応じた範囲で様々な回路構成を採用し得るが、ここでは、変調機能部8300の前記の説明と対応するように、振幅のみが変調されている方式の場合で説明する。
図3(2)に示すように第1例の復調機能部8400は、振幅検波回路8403の一例として2入力型の周波数混合部8402(ミキサー回路)を備え、受信したミリ波信号(の包絡線)振幅の二乗に比例した検波出力を得る自乗検波回路を用いる。
図示した例では、周波数混合部8402の後段にフィルタ処理部8410とクロック再生部8420(CDR:クロック・データ・リカバリ /Clock Data Recovery)とシリアルパラレル変換部8127(S−P:シリアルパラレル変換部127と対応)が設けられている。フィルタ処理部8410には、たとえば低域通過フィルタ(LPF)が設けられる。
アンテナ8236で受信されたミリ波受信信号は可変ゲイン型の増幅部8224(増幅部224と対応)に入力され振幅調整が行なわれた後に復調機能部8400に供給される。振幅調整された受信信号は周波数混合部8402の2つの入力端子に同時に入力され自乗信号が生成され、フィルタ処理部8410に供給される。周波数混合部8402で生成された自乗信号は、フィルタ処理部8410の低域通過フィルタで高域成分が除去されることで送信側から送られてきた入力信号の波形(ベースバンド信号)が生成され、クロック再生部8420に供給される。
クロック再生部8420(CDR)は、このベースバンド信号を元にサンプリング・クロックを再生し、再生したサンプリング・クロックでベースバンド信号をサンプリングすることで受信データ系列を生成する。生成された受信データ系列はシリアルパラレル変換部8227(S−P)に供給され、パラレル信号(たとえば12ビットの画像信号)が再生される。クロック再生の方式としては様々な方式があるがたとえばシンボル同期方式を採用する。
なお、振幅検波回路8403は、図3(3)に示す第2例のように、自乗検波回路に代えて自乗特性を有しない単純な包絡線検波回路を使用することも考えられる。自乗検波回路では入出力特性の2次歪みが問題となり得るが包絡線検波回路ではその問題がないという利点がある。
<多チャネル化と空間分割多重との関係>
図4は、多チャネル化と空間分割多重との関係において、干渉対策の緩和を図る基本的な仕組みを説明する図である。
多チャネル化を図る一手法としては、図1〜図2で説明したように空間分割多重を適用することも考えられるが、異なる搬送周波数を異なる通信送受対が用いることが考えられる。つまり周波数分割多重で多チャネル化は実現される。全二重双方向化も異なる搬送周波数を用いれば容易に実現でき、電子機器の筐体内で複数の半導体チップ(送信側信号生成部110と受信側信号生成部220の組や送信側信号生成部210と受信側信号生成部120の組)が独立して通信するような状況も実現できる。
[問題点]
周波数分割多重で多チャネル化を採ると、図1Aにて示した周波数多重の説明から理解されるように、ミリ波信号伝送路9の全体の使用帯域をかなり広くする必要がある。自由空間伝送路9Bであればこの要求に応え得るが、誘電体伝送路9Aのような帯域幅が限られた伝送路では問題となる。
一方、機器内や機器間の無線伝送では空間分割多重の適用が容易であり、各チャネルで同じ搬送周波数を使えるため伝送帯域幅の制約から解放される利点がある。ただし、空間分割多重では、図2Aにて説明したような干渉対策が必要となる。たとえば、図2A(1)に示したような自由空間伝送路9Bでは、送信(受信)アンテナ間の距離を十分とることが肝要となる。しかし、このことはチャネル間距離に制約があることを意味し、狭い空間内に多数のアンテナ対(伝送チャネル)を配置する必要があるときには問題となる。
別の干渉対策手法としては、たとえば図2A(2)に示したように送信(受信)アンテナ間に電波伝搬を妨げる構造を採ることが考えられる。また、図2A(3)〜(6)に示したように、誘電体伝送路9Aや中空導波路9Lなどのような閉込め構造を採用することでチャネル間距離を縮めることが考えられる。しかしながらこれらの手法は、自由空間伝送路9Bに比べるとコストアップになる難点がある。
[問題点の対策原理]
そこで、本実施形態の無線伝送システム1においては、空間分割多重により多重伝送を実現する場合において、ミリ波信号伝送路9を自由空間伝送路9Bとした場合でも、干渉対策の要求度合いを緩和することのできるシステムにすることを提案する。「干渉対策の要求度合いを緩和」とは、ミリ波遮蔽体MXなしでもチャネル間距離を短縮できるようにすることや、干渉対策を軽減することができることを意味する。
基本的な考え方は、図1にも示したが、図4に示すように、受信側において、MIMO処理部603,604を設けて、ベースバンド信号処理の側面から干渉対策をとることで、アンテナ間隔を狭くできるようにする。
MIMO処理部603,604は、複数のアンテナ136(送信アンテナ)のそれぞれと対応する複数の送信対象信号のそれぞれに対して、アンテナ136とアンテナ236(受信アンテナ)との間におけるミリ波信号伝送路9(伝送空間)の伝達特性に基づく補正演算を行なう伝達特性補正部の一例である。伝達特性はチャネル行列で表わされ、補正演算としては、各チャネルの伝送対象信号に対して逆行列演算を行なうことになる。
その補正演算(逆行列演算)の意義は、復調信号に対して伝達特性分を補正することで、処理済み信号としては、伝達特性の影響を排除した送信対象信号を取得できるようにすることである。各チャネルの変調方式が同じ場合は、アンテナ236で受信される不要波に基づく復調成分が完全に相殺される。各チャネルの変調方式が異なる場合には、不要波の成分が完全に相殺されると言うことにはならないが復調処理の対応によりその影響を受けないようにできる。
ここで、本実施形態のMIMO処理部603,604におけるMIMO処理は、各アンテナにおける送受間の直接波のみを対象とするMIMO処理である点に特徴がある。このことは、通常考えられる機器間や筐体内での無線伝送におけるMIMO処理では、筐体内の部品や壁などによって送信側から送信された電波が反射・回折し、複数の経路から同一の電波が受信側に届くというマルチパス対策のため、1つの受信アンテナが同じ送信アンテナから発せられた直接波とは異なる経路を辿った反射波も対象とした複数の受信信号を扱う信号処理となるのと大きく異なる。
これは、機器内や機器間での無線信号伝送において波長が比較的短いミリ波(あるいはマイクロ波)を使用することで、空間分割多重が適用されているミリ波信号伝送路9が形成される空間には、無線伝送に対して実質的に邪魔になる障害物がないようにすることができ、その場合は、反射波の影響を考慮する必要は殆どないと言えるからである。
マルチパス環境下では、複数の経路からの電波を受信側において受信すると、複数の経路の距離が異なることにより、送信側からの電波が受信側に到達するのに要する時間が経路によって異なる。このため、位相がずれた複数の電波が受信側で受信され、その結果、受信信号の波形が歪み、信号を復号できなくなる虞れがある。その対策としてMIMO処理を適用することが考えられる。この場合、当然にチャネル行列の考え方も、マルチパス対策に適合したものとなる。
しかしながら、本実施形態のMIMO処理は、このようなマルチパス対策のためのMIMO処理とは異なり、チャネル行列の考え方も、マルチパス対策用のものとは異なる。
ただし、反射波が豊富にある環境下ではチャネル行列の逆行列は解き易いが、直接波のみが存在して反射波が全く存在しない実環境下では、チャネル行列の逆行列が得難くなるということが懸念される。本実施形態では、アンテナ配置を制約することで、チャネル行列の逆行列が得難くなることを防止する。
その際には、詳しくは後述するが、本実施形態では、MIMO処理で必要となる掛算器(増幅器の要素)と加算器の数を低減できるようにアンテナ配置(送信側および受信側の各アンテナ間隔)を決められたものに設定し、それに応じた受信側でのMIMO処理にする。つまりMIMO処理数を低減できるようにアンテナ配置を決め、それに合わせた直接波のみを対象とする受信側でのMIMO処理にすると言うことである。
これらの関係によっては、復調機能部8400において直交検波や同期検波の要否が左右される。直交検波や同期検波が不要な条件であれば、包絡線検波や自乗検波を適用し得るようになる。詳細は後述するが、本実施形態では、直交検波や同期検波が不要な条件となるように送信側の各アンテナ136と受信側の各アンテナ236のアンテナ間距離を設定することで、包絡線検波や自乗検波を適用する構成を採る。
何れにしても、受信側にMIMO処理を適用することで、自由空間伝送路9Bとした場合の干渉対策の要請を緩和し、また、各チャネルの搬送周波数を共通化することで受信側においてベースバンドでMIMO処理を行ない、さらに、アンテナ配置を制約することでMIMO処理量(逆行列演算量)を削減する。
後述の実施形態では、各チャネルの搬送周波数を共通化するがこのことは必須でない。各チャネルの搬送周波数が少なくとも同期した関係にあればよい。空間分割多重の基本的な考え方としては、通常、搬送信号の周波数を共通化(同一に)する。送信側の搬送信号の周波数を共通化すると各チャネルで搬送周波数の影響が確実に同じになるため、ベースバンド領域でのMIMO処理を確実かつ効率的に行なうことができる。搬送周波数がチャネルによって異なる場合には、受信側では、各搬送周波数に対応した復調回路や周波数選択フィルタをチャネルごとに設けるなどの対処が必要になりシステム規模が大きくなる。これらの点においては、各チャネルの搬送周波数を共通にすることの利点が大きい。
MIMO処理は、一般に複素数演算(あるいはそれに相当する処理)が必要となり回路規模が大きくなってしまう。これに対して、直接波のみを対象とする点に着目してアンテナ配置を制約するとともに、それに合わせた信号処理にすることで、MIMO処理量(逆行列演算量)を削減できるようになる。
図4(1)に示した第1例は、N系統に対して、受信側が1チップ構成であり、送信側は変調機能部8300(MOD)を収容した半導体チップ103を系統別に使用する構成(N対1の構成)である。しかしながら、このことは受信側にMIMO処理を適用する場合の必須要件ではない。
たとえば、図4(2)に示す第2例は、受信側が1チップ構成であり、また、送信側も1チップ構成の1対1の構成である。第2例の構成を採る場合、送信側が1チップ構成であることから、送信側信号生成部110内の変調機能部8300は、系統別に送信側局部発振部8304を備えることは必須でない。すなわち、送信側局部発振部8304を1系統のみ設け、残りの系統は、送信側局部発振部8304で生成された搬送信号そのものを使って周波数変換(変調)するとよい。
図4(3)に示す第3例は、送信側が1チップ構成であり、受信側は系統別のチップを使用する構成(1対Nの構成)である。図4(4)に示す第4例は、送信側は系統別のチップを使用する構成であり、受信側も系統別のチップを使用する構成(N対Nの構成)である。第3例や第4例の場合、各系統の復調機能部8400(DEMOD)とシリアルパラレル変換部8227との間に、全系統に共有されるMIMO処理部604を設けることになる。
以下、MIMO処理を行なう本実施形態の無線伝送システム1について、MIMO処理に着目して、具体的に説明する。なお、以下では特段の断りのない限り、説明を簡単にするため、第1通信装置100から第2通信装置200への片方向の通信で説明する。また、送信系のチップ構成としては、最適な形態として、M系統分の送信側信号生成部110(変調機能部8300を収容)を1つの半導体チップ103に収容する場合で示す。受信系に関しても、最適な形態として、M系統分の全ての受信側信号生成部220(復調機能部8400を収容)を1つの半導体チップ203に収容する場合で示す。つまり、M系統分の送信側信号生成部110を収容した1つの半導体チップ103を搭載している第1通信装置100から、M系統分の受信側信号生成部220を収容した1個の半導体チップ203を搭載した第2通信装置200への片方向の通信で説明する。
<受信側に適用するMIMO処理の概要>
図5〜図13Aは、受信側に適用するMIMO処理の概要を説明する図である。ここで、図5は、受信側に適用するMIMO処理の演算を説明する図である。図6は、受信側に適用するMIMO処理の演算手法の基本を説明する図である。図7は、2チャネルのときの受信側のMIMO処理の基本を説明する図である。図8は、2チャネルにおけるパス差とチャネル行列の関係を説明する図である。図9は、2チャネルの場合のアンテナ配置の制約条件の参考例(第1例と記す)を説明する図である。図10は、2チャネルの場合のアンテナ配置の本実施形態(第2例と記す)の制約条件を説明する図である。図11は、アンテナが指向性に依存した位相特性を持つ場合のパス差Δdの調整(補正)方法を説明する図である。図12〜図12Aは、アンテナ対が3つ以上の場合へのMIMO処理の適用手法を説明する図である。図13は、送受信のアンテナが3次元状に配置される場合への適用手法を説明する図である。図13Aは、受信側のMIMO処理をデジタル処理で行なう場合の基本的な構成を説明する図である。
[MIMO処理の演算]
図5には、本実施形態で適用するMIMO処理の演算手法の考え方が示されている。図中において、空間分割多重における伝送チャネルをM本とするべく、アンテナ136,236をそれぞれM本にする。送信側の各アンテナ136からは、対向して配置された受信側のアンテナ236へミリ波信号が伝送される。
図5中において、実線で示しているのは、アンテナ136_aから、そのアンテナ136_aに対して対向配置されたアンテナ236_aへ直接に伝達される所望波である。点線で示しているのは、アンテナ136_aから、そのアンテナ136_aに対して対向配置されていない他のアンテナ236_bへ直接に伝達される不要波(干渉波)である。所望波および不要波の何れも、アンテナ136_aからアンテナ236_a,236_bへ直接に伝達される直接波である。
ここで、MIMO処理演算に適用されるチャネル行列Hは、式(1−1)で示される。M行M列のチャネル行列Hにおいて、行列要素hi,jの内で、i=jの要素は所望波に関する要素であり、i≠jの要素は不要波に関する要素である。また、このときの受信信号rは式(1−2)で示される。なお、sは送信信号、vはノイズである。
図5(2)に示すように、MIMO処理部604における受信側でのMIMO処理では、チャネル行列Hの逆行列H^-1(受信信重み行列とも称する)を受信信号rに掛ける。その結果、受信側では、送信対象信号s(+ノイズ成分H^-1・v)が得られる。送信対象信号sは変調前のベースバンド信号である。
これからも分かるように、受信側において復調後にベースバンド領域でMIMO処理を適用すれば、干渉波の影響を受けない送信対象信号sを取得できる。この結果、空間分割多重により多重伝送を実現する場合において、ミリ波信号伝送路9を自由空間伝送路9Bとした場合でも、干渉対策の要求度合いを緩和でき、干渉対策が不要になる、または、干渉対策を軽減することができる。
逆行列H^-1に基づくMIMO処理部604での逆行列演算は、受信側のアンテナ236で受信される不要波に基づく成分が相殺されるように、所望波と不要波が混在した受信信号の復調出力に対して、ベースバンド領域で不要波に基づく成分と逆の成分を重畳する処理となる。
[受信側に適用するMIMO処理と搬送周波数の関係]
図6には、受信側に適用するMIMO処理と搬送周波数の関係が示されている。第1通信装置100は、変調機能部8300として、チャネル別に振幅検波周波数混合部8302を備えている。この例では、各チャネル(系統)の周波数混合部8302は振幅を変調する方式であって直交変調を採っていない。そして、変調機能部8300は、全チャネルに共有される送信側局部発振部8304を1つ有している。送信側局部発振部8304で生成された搬送信号そのものを各チャネルの周波数混合部8302が使って変調を行なう。この構成は、送信側の半導体チップ103が1チップ構成であるので都合がよい。
第2通信装置200は、復調機能部8400として、チャネル別に振幅検波回路8403を備えている。振幅検波回路8403は、直交検波や同期検波を採用せず、単純に振幅変調波の振幅成分を復調する方式のもので、たとえば包絡線検波回路や自乗検波回路を採用する。
全チャネルに共有される送信側局部発振部8304を1つ設け、送信側局部発振部8304で生成された搬送信号そのものを各チャネルの周波数混合部8302が使って変調を行なうようにすると、各系統で搬送周波数の影響が同じになる。空間分割多重の基本的な利点を活かすべく全系統の搬送周波数を共通化することで、各系統で搬送周波数の影響が同じになるため受信側においてベースバンド領域でMIMO処理が行なえるようになる。
[アンテナ配置の制約とMIMO処理量の関係]
図7〜図10には、アンテナ配置の制約とMIMO処理量(逆行列演算量)の関係が示されている。
たとえば、図7には、最も単純な構成として、2チャネル(アンテナ対が2つ)の場合が示されている。図7(1)に示すように、送信側の半導体チップ103には、アンテナ136_1,136_2が設けられ、半導体チップ203にはアンテナ136_1と正対するようにアンテナ236_1が設けられ、アンテナ136_2と正対するようにアンテナ236_2が設けられている。なお、アンテナ136はアンテナ8136と等価であり、アンテナ236はアンテナ8236と等価である。以下、この点は他の記載においても同様である。
「正対」とは、アンテナが指向性に依存した位相特性を持たないようにアンテナ対が配置されていることを意味する。換言すると、所望波のアンテナ136からの放射角や対応するアンテナ236への入射角がゼロであることを意味する。この「正対」やアンテナの指向性に依存した位相特性などについての詳細は後で説明する。以下では、特段の断りのない限り、アンテナ対が「正対」の状態で配置されるものとする。
所望波と関係するアンテナ間距離はd1である。すなわち、半導体チップ103のアンテナ136_1と半導体チップ203のアンテナ236_1との間の正対距離はd1であり、同じく、半導体チップ103のアンテナ136_2と半導体チップ203のアンテナ236_2との間の正対距離もd1である。一方、不要波と関係するアンテナ間距離はd2である。すなわち、半導体チップ103のアンテナ136_1と半導体チップ203のアンテナ236_2との間の距離はd2であり、同じく、半導体チップ103のアンテナ136_2と半導体チップ203のアンテナ236_1との間の距離もd2である。
アンテナ136_1から送信された所望波は、直接にアンテナ236_1で受信される。アンテナ136_2から送信された所望波は、直接にアンテナ236_2で受信される。アンテナ136_1から送信された不要波は、直接にアンテナ236_2で受信される。アンテナ136_2から送信された不要波は、直接にアンテナ236_1で受信される。
距離d1<距離d2であるから、アンテナ136_1,136_2の送信レベルが同じであっても、距離減衰により、アンテナ236_1(236_2)で受信される所望波の受信レベルの方がアンテナ236_2(236_1)で受信される不要波の受信レベルよりも大きい。このことはチャネル行列の逆行列が必ず存在することの要因ともなっている。
MIMO処理は、一般に複素数演算(あるいはそれに相当する処理)が必要となり回路規模が大きくなってしまう。たとえば、図7(1)に示すようなアンテナ対が2つの場合においては、図7(2)に示すような汎用的に考えられる回路構成が採られる。QPSKなどのように2軸変調(I成分とQ成分の変調)を行なう場合、後述のパス条件設定をしないと、実数乗算は16個(=2・2・2^2)、加算は12個が必要である。3チャネルになると、実数乗算は2・2・3^2個必要で、一般にMチャネルになると、実数乗算は2・2・M^2個必要になる。ASK方式やBPSK方式などのように1軸変調の場合は、Mチャネルでは実数乗算は2・M^2個必要になる。
図8には、2チャネル(アンテナ対が2つ)の場合における所望波のアンテナ間距離d1と不要波のアンテナ間距離d2との距離差Δd(=d2−d1:パス差Δdと称する)とチャネル行列の関係の基本事項が示されている。
図8(1)は、送信側の2つのアンテナ136_1,136_2から受信側の2つのアンテナ236_1,236_2とにおける所望波と不要波の関係を示しており、実線が所望波であり点線が不要波である。図8(2)は、チャネル行列Hやその逆行列H^-1の要素の実数項(cos項)の状況を位相との関係で示している。図8(3)は、チャネル行列Hやその逆行列H^-1の要素の虚数項(sin項)の状況を位相との関係で示している。
2つの送信信号を、S1(t)=A1・exp(jωt)、S2(t)=A2・exp(jωt)とする。所望波に対する不要波の距離減衰要素をα(0≦α<1)とする。搬送信号の周波数をfo、波長をλcとする。所望波の送受信アンテナ間距離d1を「d」、不要波の送受信アンテナ間距離d2を「d+Δd」とする。「Δd」は所望波と不要波の到達距離差(パス差)であり、これを時間に置き換えてΔtとおく。
受信側のアンテナ236_1の受信信号R1(t)は、対向するアンテナ136_1からの所望波と対向していないアンテナ136_2からの不要波の合成となり、式(2−1)で示される。受信側のアンテナ236_2の受信信号R2(t)は、対向するアンテナ136_2からの所望波と対向していないアンテナ136_1からの不要波の合成となり、式(2−2)で示される。
式(2−1)および式(2−2)において、e(−jωΔt)を「D」(=cosωΔt−jsinωΔt)と置き換えると、式(3−1)、式(3−2)が得られる。
そして、式(3−2)から、式(4−1)に示すチャネル行列Hと、式(4−2)に示す逆行列H^-1が得られる。式(4−2)中において、detH=1−(α・D)^2である。
この場合、パス差Δdに一定の条件を設定すれば、チャネル行列Hの各要素は、実数項(cos項)または虚数得項(sin項)のみとなる。また、距離減衰要素αの存在により、チャネル行列Hの逆行列H^-1が必ず求められ、逆行列H^-1の各要素も、実数項(cos項)または虚数項(sin項)のみとなる。
たとえば、2チャネルの場合のチャネル行列Hにおいて正規化して考えた場合、所望波の要素(1行1列、2行2列)はパス差Δdに関わらずそれぞれ実数項(=1)である。これに対して、不要波の要素(1行2列、2行1列)はパス差Δdによって、実数項のみ、虚数項のみ、「実数項+虚数項」の何れかとなる。
たとえば、「Δd=(n/2+1/4)λc(nは0または1以上の正の整数)」を満たす場合(パス条件1と称する)、パス差Δdは位相的にはπ/2の奇数倍の関係となり、実数項(cos項)はゼロとなるため虚数項(sin項)のみとなる。パス条件1の関係からズレると「実数項+虚数項」となるが、パス条件1の関係に近いときには、虚数項成分に対する実数項成分が遙かに小さく、実質的に虚数項のみとして扱ってもよい。つまり、Δd=(n/2+1/4)λcを完全に満たすことが最適であるが、この関係から多少ずれていても構わない。本明細書で「虚数項のみ」とは、このような多少のズレがある場合も含むものとする。
ここで、詳細には、nが0または偶数の場合は、虚数項は「+1」となるので、不要波は所望波に対して、パス差で位相がπ/2だけ回る。このとき、「detH=1−(α・D)^2=1−(α・−j)^2>1」であるからチャネル行列Hの逆行列H^-1が存在し得る。送信側のMIMO処理では、「−α・D=−j・α」となるから、不要成分が所望成分に対して位相的には「−π/2」となるようにする。
一方、nが奇数の場合は、虚数項は「−1」となるので、不要波は所望波に対して、パス差で位相が−π/2だけ回る。このとき、「detH=1−(α・D)^2=1−(α・j)^2>1」であるからチャネル行列Hの逆行列H^-1が存在し得る。送信側のMIMO処理では、「−α・D=j・α」となるから、不要成分が所望成分に対して位相的には「π/2」となるようにする。
また、「Δd=(n/2)λc(nは1以上の正の整数)」を満たす場合(パス条件2と称する)、パス差Δdは位相的にはπの整数倍の関係となり、虚数項(sin項)はゼロとなるため実数項のみとなる。パス条件2の関係からズレると「実数項+虚数項」となるが、パス条件の関係に近いときには、実数項成分に対する虚数項成分が遙かに小さく、実質的に実数項のみとして扱ってもよい。つまり、Δd=(n/2)λcを完全に満たすことが最適であるが、この関係から多少ずれていても構わない。本明細書で「実数項のみ」とは、このような多少のズレがある場合も含むものとする。
ここで、詳細には、nが偶数の場合は、実数項は「+1」となるので、不要波は所望波に対して、パス差で位相が2πだけ回る(つまり同相・同極性となる)。このとき、「detH=1−(α・D)^2=1−(α・1)^2>1」であるからチャネル行列Hの逆行列H^-1が存在し得る。送信側のMIMO処理では、「−α・D=−α」となるから、不要成分が所望成分に対して位相的には「−π」(つまり同相・逆極性)となるようにする。
一方、nが奇数の場合は、実数項は「−1」となるので、不要波は所望波に対して、パス差で位相がπだけ回る(つまり同相・逆極性となる)。このとき、「detH=1−(α・D)^2=1−(α・−1)^2>1」であるからチャネル行列Hの逆行列H^-1が存在し得る。送信側のMIMO処理では、「−α・D=α」となるから、不要成分が所望成分に対して位相的には「2π」(つまり同相・同極性)となるようにする。
つまり、アンテナ136(送信アンテナ)とアンテナ236(受信アンテナ)との間における所望波のアンテナ間距離d1と不要波のアンテナ間距離d2の差が、自由空間伝送路9Bの伝達特性を規定するチャネル行列H(やその逆行列H^-1も)の不要波の各要素が、実質的に、実数項のみまたは虚数項のみで表わし得るように設定されているものとすればよい。
このようなパス差Δdの設定値に基づく特徴に着目して、アンテナ配置を前記のパス条件1またはパス条件2を満たすようにする。こうすることで、チャネル行列の不要波の要素を虚数項のみまたは実数項のみとすることができる。その結果として、MIMO処理部604における逆行列演算処理を簡略化できるようになる。特に、本実施形態では、実数項のみとなるパス条件2を満たすようにすることで、復調機能部8400が、直交検波回路を使用せずに構成できるようにする。
〔パス条件1の場合〕
図9には、2チャネル(アンテナ対が2つ)の場合における、アンテナ配置の制約条件の参考例(第1例のアンテナ配置と称する)が示されている。第1例のアンテナ配置は、パス差Δdを前述のパス条件1を満たすようにするものである。つまり、所望波のアンテナ間距離d1と不要波のアンテナ間距離d2との距離差Δd(パス差Δd)が「(n/2+1/4)λc」の関係に近づくようにするものである。
パス差Δdがパス条件1を満たす場合、図8でも説明したが、図9(1−2)に示すように、チャネル行列Hは実数項Reまたは虚数項Imのみの成分となるし、その逆行列H^-1も実数項Re’または虚数項Im’のみの成分となる。つまり、1行1列と2行2列の所望波の要素は実数項のみであり、1行2列と2行1列の不要波の要素は虚数項のみである。そのため、MIMO処理量が削減できる。
なお、虚数項Im’(直交成分)が存在するので、本構成例を適用しない場合の変調方式が、たとえばASK方式やBPSK方式などのように、元々は直交成分を伴わない変調のときであっても、復調機能部8400としては直交成分の復調回路(つまり直交検波回路)が必要となる。
図9(1−3)には、変調方式をBPSK方式とする場合に対しての、パス条件1を適用してMIMO処理する場合の各チャネルの受信信号の状態が示されている。図示のように、第1チャネルch1の成分は、本来(所望信号用)の所望波のI軸成分(Ch1_I)と第2チャネルch2による不要信号用の不要波のQ軸成分(Ch2_Q’)の合成としてアンテナ236_1が受信することになる。第2チャネルch2の成分は、本来(所望信号用)の所望波のI軸成分(Ch2_I)と第1チャネルch1による不要信号用の不要波のQ軸成分(Ch1_Q’)の合成としてアンテナ236_2が受信することになる。図からも分かるように、所望波と不要波が直交しているので、復調機能部8400としては直交検波回路が必要となる。受信側でのMIMO処理では、所望信号に対して直交成分として現われる不要波の成分をキャンセルするので、復調機能部8400としては直交検波回路が必要である。
図9(2)には、図9(1−3)に対応する第1例(参考例)のMIMO処理部604Aとその前段回路(アンテナ236、増幅部8224、復調機能部8400)が示されている。
復調機能部8400は、搬送信号を生成する受信側局部発振部8404を各チャネルに共通に備えるとともに、直交検波回路8460をチャネル別に具備している。各直交検波回路8460は、I軸成分を復調する周波数混合部8402_I、Q軸成分を復調する周波数混合部8402_Q、再生搬送信号の位相を90度(π/2)シフトする移相器8462を有する。周波数混合部8402_Iには受信側局部発振部8404から再生搬送信号が供給される。周波数混合部8402_Qには受信側局部発振部8404からの再生搬送信号が移相器8462でπ/2シフトされた後に供給される。復調機能部8400は、伝送チャネルごとに、所望信号に関する受信信号(所望波)と不要信号に関する受信信号(不要波)を直交検波する。これによって、チャネルごとに、所望信号と不要信号が各別に復調される。
第1チャネル用の直交検波回路8460は、周波数混合部8402_Iの復調出力をフィルタ処理部8410_Iに供給し、周波数混合部8402_Qの復調出力をフィルタ処理部8410_Qに供給する。フィルタ処理部8410_Iからは所望成分となる第1チャネルch1の復調信号CH1_Iが出力され、フィルタ処理部8410_Qからは第1チャネルに対して不要成分となる第2チャネルch2の復調信号CH2_Q’が出力される。
第2チャネル用の直交検波回路8460も同様に、周波数混合部8402_Iの復調出力をフィルタ処理部8410_Iに供給し、周波数混合部8402_Qの復調出力をフィルタ処理部8410_Qに供給する。フィルタ処理部8410_Iからは所望成分となる第2チャネルch2の復調信号CH2_Iが出力され、フィルタ処理部8410_Qからは第2チャネルに対して不要成分となる第1チャネルch1の復調信号CH1_Q’が出力される。
MIMO処理部604Aは、アナログ処理で逆行列演算処理を行なうもので、4つの乗算器612,614,616,618と2つの加算器615,619を有する。乗算器612には、第1チャネルのフィルタ処理部8410_Iから出力される復調信号CH1_Iが入力され、乗算器614には、第2チャネルのフィルタ処理部8410_Qから出力される復調信号CH1_Q’が入力される。乗算器616には、第1チャネルのフィルタ処理部8410_Qから出力される復調信号CH2_Q’が入力され、乗算器618には、第2チャネルのフィルタ処理部8410_Iから出力される復調信号CH2_Iが入力される。
乗算器612は、所望信号となる第1チャネルch1の復調信号CH1_Iに逆行列の1行1列の成分(実数項Re’)を掛ける(増幅する)。乗算器614は、第2チャネルch2に対しては不要信号となる第1チャネルch1の復調信号CH1_Q’に逆行列の1行2列の成分(虚数項Im’)を掛ける(増幅する)。乗算器616は、第1チャネルch1に対しては不要信号となる第2チャネルch2の復調信号CH2_Q’に逆行列の2行1列の成分(虚数項Im’)を掛ける(増幅する)。乗算器618は、所望信号となる第2チャネルch2の復調信号CH2_Iに逆行列の2行2列の成分(実数項Re’)を掛ける(増幅する)。なお、行列の成分が負のときは反転増幅する。
加算器615,619は、自チャネルで所望波として受信され復調された自チャネル分の信号と、他チャネルで不要波として受信され復調された自チャネル分の信号を加算する。こうすることで、自チャネルの所望波の復調成分と他チャネルでは不要波に基づく不要信号として扱われる復調成分を合成することで、自チャネルの送信対象信号を取得する。
具体的には、加算器615は、自チャネル用の信号処理において所望波として受信され復調された第1チャネル分の信号Ch1_Re’ と、第2チャネル用の信号処理において不要波として受信され復調された第1チャネル分の信号Ch1_Im’ を加算する。こうすることで、自チャネルの所望波の復調成分Ch1_Re’ と他チャネルでは不要波に基づく不要信号として扱われる復調成分Ch1_Im’ を合成することで、第1チャネルの送信対象信号を取得する。
同様に、加算器619は、自チャネル用の信号処理において所望波として受信され復調された第2チャネル分の信号Ch2_Re’ と、第1チャネル用の信号処理において不要波として受信され復調された第2チャネル分の信号Ch2_Im’ を加算する。こうすることで、自チャネルの所望波の復調成分Ch2_Re’ と他チャネルでは不要波に基づく不要信号として扱われる復調成分Ch2_Im’ を合成することで、第2チャネルの送信対象信号を取得する。
このように、本構成を適用しない場合の変調方式をBPSK方式とする場合において、アンテナ2本の場合には、パス条件1を適用して受信側でMIMO処理することで、MIMO処理部604Aにおける逆行列演算における実数乗算は4個で済むし、加算器は2個になる。本構成のパス条件1を適用しない場合に対して実数乗算数を1/4倍にできるし、加算数を低減できる。
〔パス条件2の場合〕
図10には、2チャネル(アンテナ対が2つ)の場合における、本実施形態のアンテナ配置の制約条件(第2例のアンテナ配置と称する)が示されている。第2例のアンテナ配置は、パス差Δdを前述のパス条件2を満たすようにするものである。つまり、所望波のアンテナ間距離d1と不要波のアンテナ間距離d2との距離差Δd(パス差Δd)が「(n/2)λc」の関係に近づくようにするものである。
パス差Δdがパス条件2を満たす場合、図8でも説明したが、図10(1−2)に示すように、チャネル行列Hは実数項Re,Re”のみの成分となるし、その逆行列H^-1も実数項Re’,Re”’のみの成分となる。つまり、1行1列と2行2列の所望波の要素は実数項のみであるし、1行2列と2行1列の不要波の要素も実数項のみである。そのため、MIMO処理量が削減できる。
この場合、虚数項(直交成分)が存在しないので、本構成例を適用しない場合の変調方式が、たとえばASK方式のように、元々は直交成分を伴わない変調のときであれば、復調機能部8400としては直交成分の復調回路(つまり直交検波回路)が不要になる。
図10(1−3)には、本構成例を適用しない場合の変調方式をASK方式とする場合に対しての、パス条件2を適用してMIMO処理する場合の各チャネルの送信信号の状態が示されている。図示のように、第1チャネルch1の成分は、本来(所望信号用)の所望波のI軸成分(Ch1_I)と第2チャネルch2による不要信号用の不要波のI軸成分(Ch2_I’)の合成としてアンテナ236_1が受信することになる。第2チャネルch2の成分は、本来(所望信号用)の所望波のI軸成分(Ch2_I)と第1チャネルch1による不要信号用の不要波のI軸成分(Ch1_I’)の合成としてアンテナ236_2が受信することになる。図からも分かるように、受信側でのMIMO処理では、所望波に対して同相成分として現われる不要信号の成分をキャンセルすればよく、復調機能部8400としては直交検波回路が不要である。
図10(2)には、図10(1−3)に対応する第2例のMIMO処理部604Bとその前段回路(アンテナ236、増幅部8224、復調機能部8400)が示されている。
復調機能部8400は、チャネルごとに振幅検波回路8403を備える。先にも説明したが、本実施形態の振幅検波回路8403は同期検波方式ではなく包絡線検波や自乗検波により、伝送チャネルごとに、所望波に関する信号と不要波に関する信号を復調する。
第1チャネル用の振幅検波回路8403は所望信号となる第1チャネルch1と不要信号となる第2チャネルch2の復調出力をフィルタ処理部8410に供給する。フィルタ処理部8410からは所望信号となる第1チャネルch1の成分CH1_Iと不要信号となる第2チャネルch2の成分CH2_I’の合成成分が出力される。
第2チャネル用の振幅検波回路8403も同様に、所望信号となる第2チャネルch2と不要信号となる第1チャネルch1の復調出力をフィルタ処理部8410に供給する。フィルタ処理部8410からは所望信号となる第2チャネルch2の成分CH2_Iと不要信号となる第1チャネルch1の成分CH1_I’の合成成分が出力される。
MIMO処理部604Bは、アナログ処理で逆行列演算処理を行なうもので、4つの乗算器622,624,626,628と2つの加算器625,629を有する。乗算器622,626には、第1チャネルのフィルタ処理部8410から出力される復調信号CH1_I+CH2_I’が入力され、乗算器624,628には、第2チャネルのフィルタ処理部8410から出力される復調信号CH2_I+CH1_I’が入力される。
乗算器622は、復調信号CH1_I+CH2_I’に逆行列の1行1列の成分(実数項Re’)を掛ける(増幅する)。乗算器624は、復調信号CH2_I+CH1_I’に逆行列の1行2列の成分(実数項Re”’)を掛ける(増幅する)。乗算器626は、復調信号CH1_I+CH2_I’に逆行列の2行1列の成分(実数項Re”’)を掛ける(増幅する)。乗算器628は、復調信号CH2_I+CH1_I’に逆行列の2行2列の成分(実数項Re’)を掛ける(増幅する)。なお、行列の成分が負のときは反転増幅する。
加算器625,629は、自チャネルで所望波として受信され復調された自チャネル分の復調信号と自チャネルで不要波として受信され復調された他チャネル分の復調信号の合成成分に対してのゲインR’補正分と、他チャネルで所望波として受信され復調された他チャネル分の復調信号と他チャネルで不要波として受信され復調された自チャネル分の復調信号の合成成分に対してのゲインR”’補正分を加算する。こうすることで、自チャネルでの復調処理で復調された他チャネルの復調成分をキャンセルすることで、自チャネルの送信対象信号を取得する。
具体的には、加算器625は、乗算器622から出力される信号Ch1_Re’+Ch2_Re’と乗算器624から出力される信号Ch2_Re”’+Ch1_Re”’を加算する。これによって、第2チャネルからの不要波に基づく干渉成分がキャンセルされるとともに、第1チャネルの送信対象信号が取得される。
同様に、加算器629は、乗算器628から出力される信号Ch2_Re’+Ch1_Re’と乗算器626から出力される信号Ch1_Re”’+Ch2_Re”’を加算する。これによって、第1チャネルからの不要波に基づく干渉成分がキャンセルされるとともに、第2チャネルの送信対象信号が取得される。
このように、本構成例を適用しない場合の変調方式をASK方式とする場合において、アンテナ2本の場合には、パス条件2を適用して受信側でMIMO処理することで、MIMO処理部604Bにおける逆行列演算における実数乗算は4個で済むし、加算器は2個で済む。本実施形態のパス条件2を適用しない場合に対して、実数乗算数を1/4倍にできるし、加算数を低減できる。復調機能部8400は、直交成分の復調回路(直交検波回路)が不要であり、自乗検波や包絡線検波を適用した振幅検波回路8403を使用できるので、図9に示したパス条件1の場合の構成よりも受信側の回路構成が簡易になる。
[指向性に依存した位相特性について]
図11には、アンテナが指向性に依存した位相特性を持つ場合の対処方法が示されている。図7〜図10の説明は、アンテナが指向性に依存した位相特性を持たないようにアンテナ対が配置されている「正対」の状態のものであった。これに対して、アンテナ対が指向性に依存した位相特性φaを持つ場合は、パス差Δd以外に、この位相特性φaの影響も考慮する必要がある。基本的には、次のようにして、位相特性φaの影響を補正して考えればよい。
図11中において、θ1は第1チャネルについての所望波のアンテナ136_1からの放射角と対応する(第1のアンテナ対を構成する)アンテナ236_1への入射角である。また、θ1は第2チャネルについての所望波のアンテナ136_2からの放射角と対応する(第2のアンテナ対を構成する)アンテナ236_2への入射角でもある。ここで、θ1はゼロに近い値としている。一方、θ2は第1チャネルについての不要波のアンテナ136_2からの放射角と対応するアンテナ236_1への入射角である。また、θ1がゼロに近いので、θ2は第2チャネルについての不要波のアンテナ136_1からの放射角と対応するアンテナ236_2への入射角でもある。
詳細な式の導出過程の説明は割愛するが、位相特性φaの影響分を距離に換算して表すと式(5−1)に示すようになる。この影響分を考慮した上でパス条件1を算出し直すと式(5−2)で示される。この影響分を考慮した上でパス条件2を算出し直すと式(5−3)で示される。何れも、パス差Δdは、位相特性φaの影響分が補正されることが分かる。
[3チャネル以上への適用]
図12〜図12Aには、アンテナ対が3つ以上の場合への対処方法が示されている。アンテナ対が3つ以上になった場合でも、パス差Δdをパス条件1を満たすようにすることでアンテナ対が2つのときと同様に、チャネル行列とその逆行列は、実数項または虚数項のみの成分となる。つまり、i=jの所望波の要素は実数項Reとなるし、i≠jの不要波の要素は虚数項Imとなる。
また、図12Aに示すように、アンテナ対が3つ以上になった場合でも、パス差Δdをパス条件2を満たすようにすることでアンテナ対が2つのときと同様に、チャネル行列とその逆行列は、実数項のみの成分となる。つまり、i=jの所望波の要素は実数項Reとなるし、i≠jの不要波の要素も実数項Reとなる。図12Aにて、丸で括っている組合せが、制約条件の考慮の対象となるものである。
一般にMチャネルになると、チャネル行列から推測されるように、パス条件1,2の何れも、実数乗算は、QPSKなどのような2軸変調では2・M^2個必要になるし、ASK方式やBPSK方式などのような1軸変調ではM^2個必要になる。このことは、アンテナ対が3つ以上の場合に、単純に、2つのときと同様の考えをそのまま適用していては、実数乗算の演算量がアンテナ対数の自乗で増えてしまうことを意味する。
そこで、本実施形態では、アンテナ対が3つ以上の場合には、そのアンテナ配置の特徴に基づき、実数乗算数がチャネル数の自乗とならないように(実数乗算数の増加を抑えるように)する。具体的には、隣接するアンテナからの干渉波の影響が一番大きいという点と、その他のアンテナからの干渉波は比較的小さいという点に着目する。これにより、隣接するアンテナからの不要波(干渉波)を考慮してアンテナ間隔を決めて、これを他のアンテナについても適用するようにする。
こうすることで、たとえば、パス条件1を適用する場合は、両端を除く内側のチャネルでは、所望波のアンテナ136についての実数項と、その両側の不要波のアンテナ136についての虚数項のみを考えればよくなる。つまり、i番目のチャネルに着目したとき、i番目のアンテナ136_iからアンテナ236_iへの所望波と、i−1番目のアンテナ136_i-1からアンテナ236_iへの不要波およびi+1番目のアンテナ136_i+1からアンテナ236_iへの不要波についてのみ考えればよい。そのため、チャネル行列やその逆行列は、i行では、i列の所望波の要素は実数項であり、i−1列とi+1列の不要波の要素は虚数項であり、その他の不要波の要素はゼロとなる。
パス条件2を適用する場合は、両端を除く内側のチャネルでは、所望波のアンテナ136についての実数項と、その両側の不要波のアンテナ136についての実数項のみを考えればよくなる。つまり、i番目のチャネルに着目したとき、i番目のアンテナ136_iからアンテナ236_iへの所望波と、i−1番目のアンテナ136_i-1からアンテナ236_iへの不要波およびi+1番目のアンテナ136_i+1からアンテナ236_iへの不要波についてのみ考えればよい。そのため、チャネル行列やその逆行列は、i行では、i列の所望波の要素は実数項であり、i−1列とi+1列の不要波の要素も実数項であり、その他の不要波の要素はゼロとなる。
パス条件1,2の何れも、両端のチャネルにおける実数乗算数は2つであり、両端のチャネルを除く内側のチャネルにおける実数乗算数は3つであり、本手法を適用しない場合よりもMIMO処理量を削減できる。
つまり、Mチャネルの場合(Mは3以上の整数)、パス条件1,2の何れも、実数乗算は、QPSKなどのような2軸変調では2・{2・2+(M−2)・3}個となるし、ASK方式やBPSK方式などのような1軸変調では{2・2+(M−2)・3}個となる。このことは、アンテナ対が3つ以上の場合に、2つのときと同様の考えを単純にそのまま適用した場合に対して、実数乗算の演算量を低減できることを意味する。
[3次元配置への適用]
図13は、図5から図12Aにて説明した受信側に適用するMIMO処理の、送受信のアンテナが3次元状に配置される場合への適用手法を説明する図である。
図5から図12Aにて説明した事項は、図13(1)に示すように、送信側のアンテナ136と受信側のアンテナ236が2次元状に配置される場合への適用事例であった。
しかしながら、本実施形態の受信側のMIMO処理量を低減する仕組みは、送受信のアンテナが2次元状に配置される場合に限らず、図13(2)に示すように、送受信のアンテナが3次元状に配置される場合にも同様に適用できる。
たとえば、図13(2)では、送信側の半導体チップ103には、7つのアンテナ136_1〜136_7が距離Gを隔てて設けられ、各アンテナ136_@と正対するように半導体チップ203_@にはアンテナ236_@が設けられている。アンテナ236_@も距離Gを隔てて設けられる。
図では、送信側の半導体チップ103から受信側の半導体チップ203への所望波のみを示しているが、対向配置されていないアンテナ間での不要波については、前述の2次元配置の場合と同様に考えればよい。そして、3次元配置の場合においても、所望波と不要波のパス差Δdを前述のパス条件2となるようにすることで、それぞれ前述と同様の作用効果が得られる。
因みに、半導体チップ103における各アンテナ136に対して、半導体チップ203の各アンテナ236が配置される箇所は、基本的には、半導体チップ103(各アンテナ136)の平面に対して平行な平面上である。各アンテナ136同士や各アンテナ236同士で形成される最小セルは正三角形になる。
所望波と隣接する両隣のアンテナからの不要波(干渉波)を考慮する場合、図13(2)に示すように、3次元に適用されるチャネル行列は正六角形での状態に着目すればよいことになる。たとえば、正六角形の中心のアンテナ136_1,236_1間を所望波のチャネルと考える。つまり、送信側の正六角形の中心のアンテナ136_1から同じく受信側の正六角形の中心のアンテナ236_1へ所望波が伝達される。このとき、アンテナ236_1の不要波の解析対象となる隣接するアンテナは、正六角形の頂点に配置されたアンテナ136_2〜136_7となる。
[デジタルのMIMO処理]
図13Aには、受信側のMIMO処理をデジタル処理で行なう場合の基本的な手法が示されている。参考例としてのパス条件1を満たすようにアンテナ配置を設定する場合の図9(2)に示した構成や、パス条件2を満たすようにアンテナ配置を設定する場合の図10(2)に示した構成はMIMO処理部604(604A,604B)がアナログ処理に対応する場合で示している。
しかしながら、MIMO処理部604における逆行列演算はアナログ回路を想定することに限らず、処理速度が間に合えばデジタル信号処理で行なってもよい。この場合、復調機能部8400から出力される復調処理後またはフィルタ処理部8410から出力されるLPF処理後のアナログ信号をデジタル信号に変換してMIMO処理部604に供給するように対処すればよい。
たとえば、図13A(1)は参考例としてのパス条件1に対応した図9(2)に対する対処例を示し、図13A(2)は本実施形態で採用するパス条件2に対応した図10(2)に対する対処例を示す。何れも、フィルタ処理部8410とMIMO処理部604との間にAD変換器632(ADC)を介在させている。その他の点は変更がない。図示しないが、LPF処理もデジタルで行なう場合には、復調機能部8400とフィルタ処理部8410との間にAD変換器632を介在させればよい。
<受信MIMOシステム>
図14〜図15Aは、図5から図13Aにて説明した受信側に適用するMIMO処理の具体的な適用例(受信MIMOシステムと称する)を説明する図である。図14に示す第1実施形態の受信MIMOシステム4Aは、パス条件を規定する「n」が偶数(n=2m:mは正の整数)の場合に対応した構成であり、図14Aに示す第2実施形態の受信MIMOシステム4Bは、パス条件を規定する「n」が奇数(n=2m−1:mは正の整数)の場合に対応した構成である。図14および図14Aでは、M系統に対して、送信側が1チップ構成であり、受信側も1チップ構成の1対1の構成であるが、受信側を半導体チップ203を系統別に使用する1対Nの構成としてもよい。図15は、パス条件2の場合における受信側のアンテナ236で受信される所望波と不要波の合成信号の状況を説明する図である。図15Aは、包絡線検波と自乗検波の相違を説明する図である。
本実施形態の受信MIMOシステム4Aは、受信側では、復調機能部8400の振幅検波回路8403は、直交検波や同期検波を適用せずに、包絡線検波や自乗検波を適用する点に特徴がある。また、包絡線検波や自乗検波との組合せを考慮してM系統の全てを振幅のみを変調する方式(ここではASK方式)とする。
アンテナ配置に関してはパス差Δdがパス条件2を満たすようにする、つまり、パス差Δd=(n/2)λcの関係に近付くように、各アンテナ136,236を配置する。パス条件2を適用するので、MIMO処理部604としては、図10(2)に示した第2例のMIMO処理部601Bが使用される。
より好ましくは、図14に示す第1実施形態のように、パス条件2において、特にnが偶数(つまりΔd=mλc)となるようにする。もちろん、図14Aに示す第2実施形態のように、パス条件2において、nが奇数(つまりΔd=(m−1/2)λc)となるようにすることを排除するものではない。
包絡線検波は、図15(1)に示すように、入力信号の包絡線をそのまま出力するが、自乗検波は、図15(2)に示すように、入力信号の包絡線を自乗したものを出力する。よって、図15(3)に示すように、受信信号に対して、包絡線検波出力は線形であるが、自乗検波では入力信号のレベルによって自乗の影響の出方が変わり、自乗検波出力は非線形である。そのため、自乗検波では、線形処理を行なう通常のMIMO処理では結果が多少不正確になる難点がある。また、図15(3)から分かるように、自乗検波は、受信信号レベルが小さいときには、復調出力が顕著に小さくなってしまうため、所望波と不要波の合成信号レベルが小さくなるケースでは採用し難い。
このため、不正確さ(非線形性)を許容できない場合には、包絡線検波出力にMIMO処理を組合せて使用するのがよいし、不正確さを許容できる場合には、自乗検波にMIMO処理を組合せて使用することもでき、図14に示す第1実施形態の構成を採ることになる。
一方、「n」が奇数の場合には合成信号の平均値が小さくなるので包絡線検波との組合せが好ましく自乗検波との組合せは事実上採り難いため、図14Aに示す第2実施形態の構成を採ることになる。
ここで、図8から推測されるように、パス差Δd=(n/2)λcの関係においてはnが偶数の場合と奇数の場合で、受信される合成信号の平均レベルの大きさが影響される。具体的には、図15A(1)に示すように、nが偶数(EVEN)の場合は、図8にて示したように実数項(cos項)は正であるから(位相遅れがないので:同相になるので)、所望波と不要波は同相で現われるため、実効的なASKの搬送信号成分は大きくなる。つまり、受信側のアンテナ236で受信される合成信号の平均値が必ず大きくなる。合成信号の位相が逆転することはあり得ない。
たとえば、理解し易いようにASKの一例としてOOKの場合を考える。所望波が「1」のときには所望波レベルよりも不要波レベルの方が小さいので不要波が「1」でも合成信号の位相が逆転することはない。よって、復調機能部8400で包絡線検波や自乗検波を行なっても、所望波と不要波の合成信号の復調が適正にできる。変調度に関わらず(OOKの適用でも)、受信信号の位相が反転しないため、包絡線検波および自乗検波の何れにおいても、振幅情報が保持されそれぞれの信号が受信できる。
パス条件2の適用において「n」が偶数の場合には、所望波と不要波の合成信号の平均値が大きくなるので、図14に示す第1実施形態のように、包絡線検波との組合せは当然の如く採り得るし、不正確さを許容できる場合には、自乗検波との組合せも採り得る。
一方、図15A(2)に示すように、nが奇数(ODD)の場合は、図8にて示したように実数項(cos項)は負であるから(πの位相遅れがあるので:逆相になるので)、所望波に対して不要波は逆相で現われるので、実効的なASKの搬送信号成分はレベルが小さくなる。つまり、受信側のアンテナ236で受信される合成信号の平均値が小さくなる。
したがって、「n」が奇数の場合は、受信側のアンテナ236における所望波と不要波が逆相関係となり、それらの合成信号の位相が逆転し得るため、受信信号(合成信号)は、あたかもBPSKの如くになり得る。
たとえば、理解し易いようにASKの一例としてOOKの場合を考える。OOKの場合において、所望波が「0」のときに不要波が「1」であれば合成信号の位相が逆転する。したがって、このままでは、復調機能部8400で包絡線検波や自乗検波を行なうと、所望波と不要波の合成信号の復調が適正にできないことになる。
これらを踏まえると、パス条件2を適用する場合に、復調機能部8400で包絡線検波や自乗検波を行なう場合、「n」を偶数(n=2m)に設定してパス差Δdがmλcの関係に近付くようにアンテナを配置し、図14に示す第1実施形態の構成を採用するのが望ましい。こうすることで、所望波と干渉波の位相を揃えることができ、所望波と干渉波の振幅情報は包絡線検波や自乗検波を通しても維持される。この場合でも、パス条件2の適用例であり、チャネル行列Hやその逆行列H^-1は実数のみの成分となり、MIMO処理量を削減できる。
一方、パス条件2を適用する場合に「n」を奇数(n=2m−1)に設定してパス差Δdが(m−1/2)λcの関係に近付くようにアンテナを配置すると、受信信号のレベル低下や位相反転が起こり得る。よって、このままでは、図14Aに示す第2実施形態の構成の採用も難しい。
しかしながら、パス差Δdがパス条件2を満たし、かつ「n」を奇数(n=2m−1)に設定する場合でも、図15A(3)に示すように、所望波と不要波の合成信号の位相反転が起きないように、予め送信側にて変調度を落としておくことで対処可能である。具体的には、図15A(3−1)に示すように、アンテナ236で受信される所望波の最小信号レベルをa、アンテナ236で受信される不要波の最大信号振幅レベルをbとしたとき、a>bを満たすように変調度を設定するのがよい。
送信側で不要波の信号成分の受信振幅に相当する分だけ変調度を落とすことで、図15A(3−2)に示すように、パス条件2の適用において「n」を奇数とする場合でも、所望波と不要波の合成信号の位相反転を防止でき、合成信号の復調に確実に対応できる。
変調度を落とすため実態としてはOOKの適用は無理であるが、受信信号の位相が反転しないように変調度を適正に設定することで、包絡線検波および自乗検波の何れにおいても、振幅情報が保持されそれぞれの信号が受信できるようになる。なお、所望波と不要波の合成信号のレベルが小さくなるので、図14Aに示す第2実施形態の構成のように、実態としては包絡線検波の適用に限られ自乗検波の適用は無理と言ってよい。