JP5666159B2 - 成膜方法 - Google Patents

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Description

この発明は、スパッタリング法を用いてタングステン膜を成膜する方法に関する。
従来から、例えばLSI等の半導体装置の配線には、融点が高く熱的に安定であり、また化学的にも安定であるタングステン(W)がその形成材料として用いられている。これにより、該配線に要求される高い接続信頼性が担保されている。
上記タングステンからなる配線の形成に際してはまず、配線の形成対象である基板の表面を覆うかたちで、あるいは基板の有するコンタクトホールを埋め込むかたちでタングステン膜が形成される。次いで配線の形状に整合した形状からなるレジストがタングステン膜上に形成された後、そのレジストをマスクとしてタングステン膜がエッチングされ、配線が形成される。
上記タングステン膜の形成方法としては一般に、化学的気相成長法、いわゆるCVD法、若しくは物理的気相成長法、いわゆるPVD法のいずれかが用いられる。これらのうち、CVD法としては、上記コンタクトホールの底面にのみタングステン膜を形成する選択CVD法や、コンタクトホールの開口部周縁を含んでその底面や側面にタングステン膜を形成するブランケットCVD法が用いられる。他方、PVD法としては通常、例えば特許文献1に記載のように、膜の構成材料であるタングステンからなるターゲットに、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、あるいはキセノン(Xe)等の希ガスの粒子を衝突させて、ターゲットから放出されたタングステン原子を上記基板面上、あるいは基板の有するコンタクトホールの底面等に堆積させてタングステン膜を形成するスパッタリング法が用いられる。
これら各種CVD法及びスパッタリング法では、スパッタリング法を用いた方が、成膜の対象が大きな基板となった場合でもその成膜面に均一な膜を形成可能であり、タングステン膜の形成工程を経て製造される半導体装置の量産に有利であるという理由から、各種半導体装置の製造において多用されつつある。
特開2003−49264号公報
ところで近年では、上記半導体装置が搭載される物体の大きさなどの制約から、その構成要素である各種素子、電極、及び配線等のより高密度な集積化が進行している。これにより、配線の微細化によるその幅の減少や、多数集積された素子同士を電気的に接続するための配線長の増大が必要となっている。このような制約は、配線の比抵抗を増大させるとともに、その配線によって伝達される電気信号の伝達速度も低下させてしまう。こうした傾向は、高密度に集積化された半導体装置であるほど顕著である。そこで、配線の比抵抗が増大することを抑制するために、上記スパッタリング法により形成されるタングステン膜の比抵抗の更なる低下が望まれている。
一方、スパッタリング法を用いてタングステン膜を形成する際には、タングステン膜が
形成される際の基板の温度が高くなるほど、また、タングステン膜の成長を阻害する不純物濃度が低くなるほど、タングステン膜を構成する結晶粒の粒径が大きくなる。ここで、スパッタリング法により形成されるタングステン膜においては、タングステン膜を構成するこうした結晶粒の粒径が大きくなるほど、そのタングステン膜の比抵抗が一般に低くなる。そのためスパッタリング法を用いてタングステン膜を形成する際には通常、比抵抗を更に低下させるべく、基板の温度を高くするための基板加熱と、上記不純物濃度を低くするためのタングステンターゲットの高純度化とが図られている。このうちタングステンの純度としては例えば、スパッタリング法に用いられるタングステンターゲットとして、それを構成するタングステンの純度が例えば99.999%、あるいはそれ以上となるような高純度のものが用いられている。
しかしながら、通常、タングステンターゲットの内部にはターゲットの製造過程にて除去できない微量の酸素(O)が含まれ、またスパッタを実施する雰囲気にも同雰囲気中から排気できない微量の酸素が含まれる。このような酸素が存在する状態下でタングステンターゲットをスパッタすると、ターゲットが含有する酸素、あるいはスパッタ雰囲気中の酸素によってターゲットから放出されたタングステンの一部が酸化されてしまう。その結果、タングステン膜を構成する構成元素においてタングステンの純度が高くなるとはいえ、酸素とタングステンとが結合した三酸化タングステン(WO)が基板上に堆積されてしまう。そのため、タングステンの結晶粒成長が阻害され、タングステン膜の比抵抗を10μΩ以下というような、近年の集積化に対応できる値にすることができない。
この発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、スパッタリン
グ法を用いて形成されるタングステン膜の比抵抗を低下させることができる成膜方法を提供することにある。
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、タングステンを含有するターゲットを希ガスによりスパッタしてタングステン膜を基板に形成する成膜方法において、前記ターゲットとして、主成分である前記タングステンと添加物であるニッケルとを含有するターゲットと、前記タングステン及び前記ニッケルのいずれか一方からなるターゲットとの2つのターゲットを用い、前記タングステン膜の形成に際しては、これら2つのターゲットを同時にスパッタし、前記タングステン膜におけるニッケルの濃度が、0.001質量%以上且つ1質量%以下となるようにすることをその要旨とする。
上記構成では、タングステンターゲットをスパッタするいわゆるスパッタリング法によりタングステン膜を形成するに際し、タングステンとニッケルとを含むターゲットを用いて、含有するニッケルの濃度が0.001質量%以上且つ1質量%以下であるタングステン膜を形成するようにしている。なお、タングステンを主成分とするターゲットをスパッタして基板にタングステン膜を形成する際には、ターゲットが含有する酸素(O)、あるいはスパッタを実施する雰囲気中に存在する酸素により、ターゲットから放出されたタングステン原子が酸化されることが多い。これにより、上記基板の表面にはタングステンのみからなるタングステン膜が形成されることはもとより、酸素とタングステンとが結合した三酸化タングステン(WO)も析出することになる。
ここで、本願発明者らは、こうした三酸化タングステンの析出が、基板の成膜面におけるタングステン原子の表面拡散を阻害し、タングステン膜を構成するタングステンの結晶粒の粒径を小さくさせることで、タングステンそのものの密度を低下させてしまい、ひいては、その比抵抗を増大させているとの考察から、三酸化タングステンの生成量、あるいはスパッタされたタングステンと反応する酸素の低減を試みた。
その過程において、以下のような方法を用いることによって、より低い比抵抗を有するタングステン膜が形成可能であることを見出した。すなわち、同一の温度条件下においてタングステンよりも酸化されやすい元素の1つであるニッケルをタングステンが主成分となるターゲットに添加する。そしてタングステン膜に含有されるニッケル濃度が0.001質量%以上且つ1質量%以下となるように、該ターゲットをスパッタする。これによって、ニッケルが添加されてないターゲットを用いて形成したタングステン膜と比較して、より低い比抵抗を有するタングステン膜が形成可能であることを見出した。これは、ターゲットの形成時に混入し、スパッタにより該ターゲットから放出された酸素や、スパッタ雰囲気中に含まれる酸素そのものがニッケルと結合するためと考えられる。あるいは、これら酸素によるタングステンの酸化物である三酸化タングステンがニッケルにより還元され、それによって上記基板の成膜面上に析出する三酸化タングステンの生成量が低減されるためと考えられる。そしてニッケルが添加されたタングステンターゲットを用いて、ニッケルの濃度が0.001質量%以上且つ1質量%以下のタングステン膜が形成されると
きのスパッタ雰囲気であれば、そこに含まれるニッケル原子の数量によって、上記のような作用、つまり酸素とニッケルの結合や三酸化タングステンの還元が可能となる。
なお、上記比抵抗の低下とともに、形成されたタングステン膜の密度の増大、すなわち結晶粒の粒径の拡大も確認されている。このことから、こうして三酸化タングステンの生成量が低減されることで、上記基板の成膜面におけるタングステン結晶粒の粒成長が促進されて、タングステン結晶粒の粒径が拡大することにより、タングステン膜の比抵抗が低下するものと考えられる。
ちなみに、形成されたタングステン膜に含まれるニッケルの濃度が0.001質量%未満の場合、またニッケルの濃度が1質量%より大きくなる場合には、上述するようなタングステン膜の比抵抗の低下が認められない。ニッケルの濃度が0.001質量%未満の場合には、スパッタによりターゲットから放出されたニッケルと上記酸素との反応機会が少なく、該ニッケルによる酸素の還元作用が十分でないために、三酸化タングステンの生成反応とそれの堆積とが進行してしまい、タングステン膜の比抵抗が低下しないと考えられる。他方、ニッケルの濃度が1質量%より大きくなると、タングステン膜に含まれるニッケルの量が過剰となり、この過剰なニッケルが却って基板の成膜面におけるタングステン原子の表面拡散を阻害するため、比抵抗の増大を招くことになると考えられる。
そこで、上記成膜方法のように、タングステンが主成分となるターゲットにニッケルを添加させ、これをスパッタして形成されるタングステン膜のニッケルの濃度が、酸化されたニッケルも含んで0.001質量%以上且つ1質量%以下となるようにすれば、スパッタ時に存在する酸素そのもの、及びこれにより酸化されたタングステンの少なくとも一方が該ニッケルにより還元される。すなわち、ニッケルと上記酸素とを反応させることで、基板表面に析出する三酸化タングステンの量が低減され、タングステン膜の密度低下を抑制し、ひいては、その比抵抗を低下させることができる。
また、上記方法によれば、タングステン膜の構成材料であるタングステンを主成分として、また、酸素を還元するニッケルを添加物として含有するターゲットと、これらタングステン及びニッケルのいずれか一方からなるターゲットとの2つのターゲットを用いるため、これらターゲットのそれぞれに対するスパッタ条件を制御することにより、スパッタ雰囲気中の上記タングステンとニッケルの存在割合、ひいては形成されるタングステン膜中に含まれるニッケルの濃度を制御することが可能である。すなわち、タングステンターゲット中に含有される酸素量や、スパッタ雰囲気中に含まれる酸素量に上記2つのターゲットそれぞれのスパッタ量を対応付けることで、三酸化タングステンの生成量がより低減されるとともに、ニッケルの含有濃度も適切なタングステン膜を形成することが可能となる。
本発明の参考例に係る成膜方法が実施されるマグネトロン式スパッタ装置の断面構造を示す断面図。 タングステン膜に含有されるニッケルの質量%濃度と該タングステン膜の比抵抗との関係を示すグラフ。 (a)参考例に係る成膜方法にて形成されたタングステン膜の走査型電子顕微鏡(SEM)による拡大像を撮影した画像(b)比較例のタングステン膜の走査型電子顕微鏡(SEM)による拡大像を撮影した画像。 本発明の実施の形態に係る成膜方法が実施されるマグネトロン式スパッタ装置の断面構造を示す断面図。
参考例
以下に、本発明の参考例に係る成膜方法をマグネトロン式スパッタ装置にて実施されるスパッタリング処理に適用した形態について図1〜図3を参照して説明する。
図1は、本参考例のスパッタリング処理が実施されるマグネトロン式スパッタ装置の断面構造を示している。同図1に示されるように、マグネトロン式スパッタ装置10は、筐体となるチャンバ本体11を有しており、該チャンバ本体11の内部には、当該マグネトロン式スパッタ装置10におけるスパッタリング処理の対象物が収容されるスパッタ室11aが形成されている。このチャンバ本体11は、これに接続された供給配管ILを介してスパッタ室11aと連通するガス供給部20を有している。このガス供給部20は、スパッタガスとしてのアルゴン(Ar)ガスを所定の流量に調整して上記スパッタ室11aに供給する。また、同チャンバ本体11は、これに接続された排気配管OLを介してターボ分子ポンプやドライポンプなどからなる排気部21を有してもいる。この排気部21は、スパッタ室11aにガス供給部20から供給されるアルゴンを排気することによって、該スパッタ室11a内の圧力を10−3Paにまで減圧することができる。
上記スパッタ室11aには、当該マグネトロン式スパッタ装置10におけるスパッタ処理の対象物である例えばシリコンからなる基板Sが載置され、これをスパッタ室11a内の所定の位置に固定するステージ12が配設されている。該ステージ12には加熱機構(図示略)が設けられており、スパッタリング処理時にはこの加熱機構によって、ステージ12に載置された基板Sの温度が200〜550℃に維持される。また、スパッタ室11aの内壁には、略円筒状に形成されてステージ12の上方を囲うように防着板13が配設されており、スパッタ室11aにおけるスパッタリング処理の実施時には該防着板13によって、スパッタ室11aの内壁へのスパッタ粒子の付着が抑制される。
他方、ステージ12の直上には、円盤状に形成されたタングステン(W)を主成分とするターゲットTが配設されるとともに、該ターゲットTの上側には、ターゲット電極30が配設されている。このターゲット電極30は、これと接合されたターゲットTを上記基板Sに対向させ、これらターゲットTと基板Sとの間を所定の距離、例えば100mm以下に保持している。また、同ターゲット電極30は、これに接続された外部電源FGからの所定の直流電力をターゲットTに供給する。なお、こうして外部電源FGからターゲット電極30に直流電力が供給されると、上記スパッタ室11aにプラズマが生成されるとともに、該ターゲット電極30が、プラズマ空間に対して負電位を有するカソードとして機能することで、上記ターゲットTに向けて上記スパッタガス由来の正イオンを飛行させ、これをスパッタさせる。
こうしたターゲット電極30の上側に配設された磁気回路31は、円盤状に形成されて、その中心がターゲットTの中心と対向するように配置されたマグネットプレート32を有しており、このマグネットプレート32の下側には、外側磁石M1と内側磁石M2とが搭載されている。加えて、同マグネットプレート32は、上記磁気回路31に内設される回転モータMの駆動軸に駆動連結されて、この回転モータMの回転駆動に同期して、自身の中心を回転中心として回転運動する。なお、こうしたマグネットプレート32に搭載された上記外側磁石M1と内側磁石M2とは、それぞれネオジウム−鉄−ボロン系の磁石であるとともに、上記マグネットプレート32の回転軸に対して偏心したリング状に形成されて、外側磁石M1が内側磁石M2の周りを囲うように配設されている。また、外側磁石M1の下側、換言すればターゲットT側の磁極と内側磁石M2の下側、換言すればターゲットT側の磁極とは、ターゲットTの表面から10mm等の所定の距離だけ上方に離間する位置に配設されて、それぞれが逆極性を有している。すなわち、例えば外側磁石M1の下側の磁極がS極であるとき、内側磁石M2の下側の磁極はN極となる。
そのため、内側磁石M2の下側の磁極から出る磁力線は、ターゲットTを介して上記スパッタ室11a内に入った後、該ターゲットTの表面近傍で湾曲して上記外側磁石M1の下側の磁極に入ることになる。すなわち、上記外側磁石M1と内側磁石M2とは、ターゲットTの表面に漏洩磁場を形成し、該ターゲットTの面方向に沿う磁場である水平磁場をターゲットTの表面に形成する。こうして外側磁石M1と内側磁石M2とにより形成される水平磁場は、上記回転モータMの回転時には、ターゲットTの表面の全体にわたり走査されるものであり、且つ上記ターゲット電極によるスパッタ室内にプラズマの生成時には、ターゲットTの表面近傍にプラズマを捕捉させてプラズマ密度を増加させるものである。
こうしたマグネトロン式スパッタ装置10にてスパッタリング処理が実施される際にはまず、スパッタリング処理の対象となる基板Sがスパッタ室11aに搬入される。次いで
、このスパッタ室11aにガス供給部32から所定の流量のスパッタガス、例えばアルゴンガスが供給された後、上記排気部21によりスパッタ室11aが0.1〜2Paに減圧される。そして、上記磁気回路31に設けられた回転モータMが駆動され、マグネットプレート32に搭載された外側磁石M1と内側磁石M2との協働によって、ターゲットTの表面に水平磁場が形成される。その後、上記外部電源FGにより上記ターゲット電極30に所定の電力が印加されることで、高密度のプラズマによりターゲットTがスパッタされる。こうしたターゲットTのスパッタにより生じたタングステン粒子は、上記基板Sの表面、すなわち基板SにおけるターゲットTと対向する側の面に入射し、ひいては基板Sの表面にタングステン膜が例えば50nmの厚さで形成されることになる。
上述のようなスパッタリング処理により処理対象物、主に基板の表面に配線材料としてのタングステン膜を形成する際には通常、極めて高純度な、例えば質量%濃度にして99.99質量%、あるいは99.999質量%が主成分であるタングステン(W)からなるターゲットを用い、これをスパッタしてタングステン膜を形成する。ちなみに、こうした高純度なタングステンターゲットには、不純物である鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ウラン(U)、及びトリウム(Th)等の金属が、総量として0.001質量%から0.01質量%程度含まれている。
また、上記高純度タングステンターゲットは、これら金属元素だけでなく酸素をも含んでいる。これは、該タングステンターゲットが、粒子状のタングステンを焼結して製造されるものであることから、タングステン粒子に吸着された環境中の酸素が、これら粒子を焼結してターゲットを形成した後もその内部に残存するためである。
このように不純物を含有するタングステンターゲットをアルゴンガス等によってスパッタした場合、ターゲット中のタングステンがスパッタ雰囲気中に放出されることはもとより、上記不純物である各種金属や酸素もスパッタされてスパッタ雰囲気中に放出されることになる。こうしてスパッタされたタングステンのうち、その多くは単体のタングステンとして基板の表面に付着してタングステン膜を形成する。一方、スパッタにより生成されたタングステンの中には、基板の表面に付着する以前に、同じくスパッタされた酸素と反応して三酸化タングステン(WO)を形成するものも少なからず存在する。なお、このようにタングステンと反応する酸素としては、上記不純物としてターゲットが含有する酸素に限らず、ターゲットと基板との間に存在する酸素、換言すれば気相としてスパッタ雰囲気中に含まれる酸素も挙げられる。
本願発明者らは、こうして三酸化タングステンが基板上に析出すると、この析出した三酸化タングステンにより基板の成膜面におけるタングステン原子の表面拡散が阻害され、タングステン膜を構成するタングステンの密度の低下、ひいては、その比抵抗の増大を招くことを見出した。上述のように、高集積化されたデバイスにおいては、配線材料の比抵抗の増大が配線における信号伝達の遅延を招き、ひいてはデバイスとしての応答性の低下をも招くことになる。つまり、デバイスの応答性を担保し、また、デバイスにおける今後の更なる高集積化に対応するためには、タングステン膜を配線材料として用いる場合、その更なる低比抵抗化が必要となる。
ここで、スパッタリング処理に際してタングステンと共にスパッタされる不純物金属のうち、ニッケルはタングステンよりも酸化されやすい性質を有する。そのため、該ニッケルは、ターゲットと基板との間のスパッタ雰囲気中に存在する酸素と反応して、ニッケル酸化物(NiO)を形成するばかりでなく、酸化されたタングステン、すなわち上記三酸化タングステンとも反応してこれを還元する。こうしてニッケルによりスパッタ雰囲気中の酸素が捕捉される、あるいは一旦酸化されたタングステンが還元されて再び単体に戻る
ことにより、微量ながら基板上、あるいは基板に形成されたタングステン膜上に析出する三酸化タングステンが低減される。
また、上記不純物金属に含まれる他の金属がスパッタ雰囲気中にて酸素と衝突した場合には、これら金属も酸化物を形成し、これによっても三酸化タングステンの生成量が低減される。ただし、これら元素は、タングステンよりも酸化されにくい性質を有していることから、これら元素の酸化物が上記基板に付着する以前にタングステンと衝突した場合、タングステンの酸化反応が惹起され、これにより生成された三酸化タングステンが基板上、あるいは既に形成されたタングステン膜上に付着する可能性もある。また、上記高純度タングステンターゲットに含まれる不純物金属により、上記酸素の捕捉反応が惹起されつつタングステン膜の形成が進行するとはいえ、この不純物金属がターゲットに含有される濃度、換言すれば上記スパッタによりスパッタ雰囲気中に放出される量は極めて微量であって、ターゲットの形成時にタングステン粒子に吸着した酸素を捕捉するに足る程ではない。
そこで、本参考例においては、主成分としてのタングステンに、上記不純物として含まれる濃度以上の濃度となるようにニッケルを添加したタングステンとニッケルとの混合物
からなるターゲットTを用い、これをスパッタして生成されたタングステン膜中に、ニッケルが0.001質量%以上且つ1質量%以下の濃度で含有されるようなスパッタ雰囲気中でタングステン膜の形成を行うようにしている。すなわち、混合物のターゲットTをスパッタすることで、スパッタ雰囲気中に放出されたニッケルにより、ターゲットTから放出された酸素とスパッタ雰囲気中に気相として含有される酸素、つまりはいずれにせよターゲットTと基板Sとの間に存在する酸素を捕捉する、あるいは、こうした酸素により酸化されたタングステンを還元する。そして、こうした酸素を捕捉する反応やタングステンの還元反応により生成された酸化ニッケルも含んで、基板上に形成されたタングステン膜に含有されるニッケルの濃度が0.001質量%以上且つ1質量%以下となるようにしている。結局のところ、上記濃度にてニッケルを含むタングステン膜を形成可能なスパッタ雰囲気中に含まれるニッケル原子の量であれば、上記酸素の捕捉や三酸化タングステンの還元により、形成されたタングステン膜の比抵抗を低下させることができるようになる。
図2は、本参考例に係るスパッタリング処理によって成膜されたタングステン膜に含有されるニッケルの質量%濃度と、該タングステン膜が有する比抵抗との関係を示している。同図2に示されるように、基板S上に形成されたタングステン膜に含有されるニッケルの濃度が0.001質量%未満である場合には、該タングステン膜の比抵抗が単調に低下していることが認められた。これは、形成されたタングステン膜に含まれるニッケルの濃度が0.001質量%未満となるスパッタ雰囲気を形成するようなスパッタリング処理の条件では、ターゲットTと基板Sとの間のスパッタ雰囲気中に該ターゲットTから放出されるニッケル原子の量が、こうしたスパッタ雰囲気中に存在して、且つタングステンの酸化に寄与し、ひいては形成されるタングステン膜の比抵抗を増大させる一因となる酸素の量に対して少ないためである。すなわち、タングステン膜に含有されるニッケルの濃度が増大されるように、上記スパッタ雰囲気中に放出されるニッケルの量を増加させることにより、タングステン膜の比抵抗の更なる低下が可能であることから、スパッタ雰囲気中に含まれるニッケルの量がより多くなるように、スパッタリング処理の条件を改善すべきニッケル濃度の範囲であると言える。
他方、タングステン膜に含有されるニッケルの濃度が1質量%より大きい場合には、上述したニッケルの濃度が0.001質量%未満である場合とは逆に、タングステン膜の比抵抗が単調に増加していることが認められた。これは、タングステン膜中のニッケル濃度が1質量%よりも大きくなるようにしたことで、スパッタ雰囲気中にニッケルを含有させ
ることによる上記効果、すなわち、三酸化タングステンの生成量を低減することで、基板S表面でのタングステン原子の表面拡散を向上させる効果よりも、酸化ニッケル及び単体のニッケルによる上記基板S表面でのタングステン原子の表面拡散の阻害効果が大きくなり、これによりタングステンの密度が低下するためと考えられる。
これら濃度範囲、正確にはタングステン膜に含有されるニッケルの濃度が0.001質量%未満の範囲である場合、及び1質量%よりも大きい範囲である場合と比較し、このニッケルの濃度が酸化ニッケルも含んで0.001質量%以上且つ1質量%である場合には、タングステン膜の比抵抗にほとんど変化がないことが認められた。しかも、該比抵抗は、上記単調減少と単調増加との間に挟まれた極小値にて推移している。故に、タングステン膜の比抵抗を低下させるためには、形成されたタングステン膜に含有されるニッケルの濃度が0.001質量%以上且つ1質量%以下となるスパッタ雰囲気を形成するようなスパッタリング処理の条件とすることが有効であると言える。これは、タングステン膜に含有されるニッケルの濃度が0.001質量%以上且つ1質量%となるようなスパッタ雰囲気中に放出されているニッケルの量であれば、該ニッケルによる上述のような酸素の捕捉作用及びタングステンの還元作用により三酸化タングステンの生成量を低減と、こうして酸化されたニッケルや単体のニッケルによるタングステン原子の表面拡散の阻害とが平衡であり、結果としてタングステン膜の比抵抗が極小値となるためであると考えられる。
このように、上記タングステン膜のニッケルの濃度が酸化されたニッケルも含んで0.001質量%以上且つ1質量%以下となるようにすることで、換言すれば、こうしたニッケル含有濃度のタングステン膜を形成可能なスパッタ雰囲気にて、上記マグネトロン式スパッタ装置におけるスパッタリング処理を実施することにより、スパッタ時に基板SとターゲットTとの間に存在する酸素そのもの、及びこれにより酸化されたタングステン、つまり三酸化タングステンの少なくとも一方が該ニッケルにより還元されるようになる。すなわち、ニッケルと上記酸素とを反応させることで、基板S表面に析出する三酸化タングステンの量が低減することで、タングステン膜の密度低下を抑制し、ひいては、その比抵抗を低下させることが可能となる。
なお、こうしたニッケルの含有濃度が0.001質量%以上且つ1質量%以下となるタングステン膜を形成可能なスパッタ雰囲気を上記スパッタ室11aに形成するためには、上記主成分であるタングステンと、添加物であるニッケルとの混合物からなるターゲットとして、上記形成されるタングステン膜のニッケル含有濃度と同一の濃度でニッケルが添加されたターゲット、すなわち、ニッケルの添加濃度が0.001質量%以上且つ1質量%以下であるターゲットを用いるようにすればよい。
ここで、こうしたスパッタリング処理の効率の指標として、スパッタされたターゲットの形成材料の原子数を、ターゲットに入射した粒子数で除算したスパッタ率と呼ばれるパラメータが多用されている。こうしたスパッタ率は、ターゲットに入射する粒子の種類、同粒子が有するエネルギー、同粒子のターゲットに対する入射角度等、ターゲットに入射する粒子、換言すれば上記スパッタ室11aに供給されるスパッタガス由来のプラズマに依存するとともに、ターゲットを形成する材料にも依存する。
参考例においては、上述のように、スパッタガスとしてアルゴンガスが用いられているとともに、ターゲットTとしてタングステンとニッケルとの混合物が用いられている。つまり、上記スパッタ率を左右する要素に鑑みれば、ターゲットTの形成材料としては異なる2つの元素が含まれているものの、タングステンに対して均一にニッケルが分布していると仮定すれば、全タングステン原子に対するアルゴンイオンのエネルギー及び入射角度の分布と、全ニッケル原子に対するアルゴンイオンのエネルギー及び入射角度の分
布とで比較した場合、これらの分布はほぼ同じ傾向を有すると見なすことができる。故に、上記ターゲットTを用いたときのスパッタ率は、該ターゲットTを構成する2つの材料のみに依存して決定されていると見なすことができる。また、本参考例のように、ターゲットTが異なる2つの材料、すなわち主成分としてのタングステンと添加物としてのニッケルとから形成されているとはいえ、これら材料同士のスパッタ率がほぼ同一であれば、ターゲットTの組成がそのまま、これをスパッタして形成されるタングステン膜に反映さ
れることになる。しかしながら、これらタングステンとニッケルとの間のスパッタ率が異なる場合であっても、ターゲットTの組成を、これのスパッタにより生成されるタングステン膜に所望する組成、すなわち本参考例では、タングステンに対するニッケルの含有濃度が0.001質量%以上且つ1質量%以下とすることで、ニッケルの含有濃度がこうした範囲内となるタングステン膜を形成しやすくはなる。これにより、先の図2におけるタングステン膜に含有されるニッケルの濃度を、ターゲットに含有されるニッケルの濃度として、これをスパッタして形成されたタングステン膜の比抵抗を測定すると、同図2に示されるグラフと同様の傾向が得られる。
図3は、上述のスパッタリング処理により形成したタングステン膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で拡大の上、この拡大像を撮影したものである。図3(a)はニッケル含有濃度が0.01質量%であるタングステン膜の表面を拡大して撮影した画像であり、図3(b)はニッケル含有濃度が1.5質量%である比較例としてのタングステン膜の表面を拡大して撮影した画像である。なお、図3(a)及び図3(b)の画像は、各タングステン膜において同一の面積を撮影したものである。
図3(a)に示されるように、ニッケルの含有濃度が0.01質量%であるタングステン膜は、比較的大きく成長した結晶粒が互いに結合して構成されていることが分かる。つまり、タングステン膜の形成に際しては、上記三酸化タングステン、酸化ニッケル、あるいは単体のニッケルによって、基板Sの表面におけるタングステンの表面拡散が阻害されることが抑制されて、タングステンの結晶粒の成長阻害も抑制され、ひいてはタングステン密度の高い膜が形成されたと言える。なお、上記ニッケル含有濃度が0.001質量%以上且つ1質量%以下の範囲に含まれるタングステン膜であれば概ねこの図3(a)に示されるような膜構造となる。
他方、図3(b)に示されるように、ニッケルの含有濃度が上記0.001質量%以上且つ1質量%以下の範囲に含まれないタングステン膜は、小さい結晶粒が互いに結合して構成され、先の図3(a)に示される画像よりも、単位面積あたりの結晶粒の数が多いことが分かる。つまり、タングステン膜の形成に際しては、上記酸化ニッケルあるいはニッケルによって、基板Sの表面におけるタングステンの表面拡散が阻害されることで、タングステンの結晶粒の成長も阻害され、ひいてはタングステン密度の低い膜が形成されたと言える。なお、上記ニッケル含有濃度が、0.001質量%未満であって、1質量%より大きい範囲に含まれるタングステン膜であれば概ねこの図3(b)に示されるような膜構造となる。また、同ニッケル含有濃度が、0.001質量%よりも小さくなる程、あるいは、1質量%よりも大きくなる程、タングステン膜を構成する結晶粒の粒径は小さくなる傾向にある。これは、上記濃度からの距離が大きくなる程、基板Sの表面におけるタングステン元素の表面拡散の阻害度合いが大きくなるためと考えられる。
試験例1]
以下、本参考例に係る成膜方法について試験例に基づき具体的に説明する。
主成分としてのタングステンと添加物としてのニッケルとを含有し、該ニッケルの含有濃度が0.001質量%であるターゲットを用い、以下の各条件にてスパッタリング処理を実施した。
(A)
・アルゴンガス圧力 0.1Pa
・基板温度 550℃
・印加電力 4kW
・膜厚 100nm
(B)
・アルゴンガス圧力 0.5Pa
・基板温度 500℃
・印加電力 4kW
・膜厚 100nm
(C)
・アルゴンガス圧力 1.0Pa
・基板温度 550℃
・印加電力 4kW
・膜厚 100nm
上記(A)〜(C)のいずれの条件にてスパッタリング処理を実施しても、これにより形成されたタングステン膜が含有するニッケルの濃度は、0.001質量%となった。また、その比抵抗を測定したところ、先の図2に示される値であった。
試験例2]
主成分としてのタングステンと添加物としてのニッケルとを含有して且つ、該ニッケルの含有濃度が0.01質量%であるターゲットを用い、以下の各条件にてスパッタリング処理を実施した。
(A)
・アルゴンガス圧力 0.1Pa
・基板温度 550℃
・印加電力 4kW
・膜厚 100nm
(B)
・アルゴンガス圧力 0.5Pa
・基板温度 550℃
・印加電力 4kW
・膜厚 100nm
(C)
・アルゴンガス圧力 1.0Pa
・基板温度 550℃
・印加電力 4kW
・膜厚 100nm
上記(A)〜(C)のいずれの条件にてスパッタリング処理を実施しても、これにより形成されたタングステン膜が含有するニッケルの濃度は、0.01質量%となった。また、その比抵抗を測定したところ、先の図2に示される値であった。
以上説明したように、この参考例によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
(1)タングステンが主成分となるターゲットTにニッケルを添加させ、これをスパッタして形成されるタングステン膜のニッケルの濃度が、酸化されたニッケルも含んで0.001質量%以上且つ1質量%以下となるようにした。これにより、スパッタ時に基板SとターゲットTとの間に存在する酸素そのもの、及びこれにより酸化されたタングステン、つまり三酸化タングステンの少なくとも一方が該ニッケルにより還元されるようになる。すなわち、ニッケルと上記酸素とを反応させることで、基板S表面に析出する三酸化タングステンの量が低減されるため、タングステン膜の密度低下を抑制し、ひいては、その比抵抗を低下させることが可能となる。
(2)タングステン膜の構成材料であるタングステンを主成分として、また、スパッタ雰囲気中に存在する酸素、及びタングステンとともに酸化物を構成する酸素等と反応するニッケルを添加物として含有する単一のターゲットTを用いることにした。これにより、単一のターゲットTをスパッタするのみで、基板Sの成膜面におけるタングステン原子の表面拡散を阻害する酸化タングステンを低減させつつ、タングステン膜を形成することができ、当該成膜処理を簡素化することができる。
(3)ニッケルの濃度が0.001質量%以上且つ1質量%以下であるタングステン膜
をスパッタにより形成するに際し、主成分としてタングステンを含有するとともに、添加物としてニッケルを含有するターゲットTにおけるニッケルの濃度を、上記タングステン膜と同一の0.001質量%以上且つ1質量%以下とした。これにより、上記タングステン膜の形成を容易とすることができる。つまり、上記組成のタングステン膜を形成するためのスパッタ雰囲気の形成、正確には、該スパッタ雰囲気中のタングステンの濃度とニッケルの濃度とをより容易に適切なものとすることが可能となる。
[実施の形態]
以下に、本発明に係る成膜方法をマグネトロン式スパッタ装置にて実施されるスパッタリング処理に適用した実施の形態について図4を参照して説明する。なお、同図4では、先の図1に示されるマグネトロン式スパッタ装置10が備える各種部材等と対応するものには同一の符号を付している。また、以下には、この図4を用いて上記参考例から変更した点を特に記載する。
図4は、本実施の形態のスパッタリング処理が実施されるマグネトロン式スパッタ装置の断面構造を示している。同図4に示されるように、マグネトロン式スパッタ装置10は、先の図1に示されるマグネトロン式スパッタ装置10と同様、筐体となるチャンバ本体11を有し、その内部にはスパッタ室11aが形成されている。またチャンバ本体11は、これに接続される供給配管ILを介してガス供給部20に連結されるとともに、排気配管OLを介して排気部21に連結されている。
他方、スパッタ室11aには、これに搬入された基板Sをスパッタ室11aの所定の位置に固定するステージ12が設けられている。また、同ステージ12における基板載置面上には、基板Sの載置領域に対応した開口部を有するとともに、スパッタ室11aの内壁にまで至る下側防着板13aが配設されている。こうした下側防着板13aは、スパッタ室11aでのスパッタリング処理時には、生成されたスパッタ粒子がスパッタ室11aの内壁に付着することを抑制する。加えて、ステージ12は、その下部に設けられたステージ用モータ14の出力軸に駆動連結されており、これらステージ12及びステージ用モータ14の中心を通る中心軸Aを回転中心として、該ステージ12の上面に載置された基板Sをその周方向に回転させる。このようにステージ用モータ14によってステージ12共々基板Sが回転されることにより、基板Sの上面内におけるスパッタ粒子の分布が均一化されるようになる。
また、上記チャンバ本体11には、これに内設されたステージ12の斜め上方に、2つのターゲット電極30a,30bを有するとともに、これらターゲット電極30a,30bのそれぞれには外部電源FGa,FGbが接続されている。これら外部電源FGa,FGbは、それぞれ対応するターゲット電極30a,30bに対し所定の直流電力を供給する。これらターゲット電極30a,30bの下側にはそれぞれターゲットTa,Tbが搭載されており、例えば、ターゲット電極30aに搭載されたターゲットTaは、上記参考例にて用いられたターゲットTと同一のもの、つまり、主成分であるタングステンと添加物であるニッケルとの混合物からなるターゲットである。他方、ターゲット電極30bに搭載されたターゲットTbは、タングステンからなるターゲット、若しくはニッケルからなるターゲットである。これらターゲットTa,Tbはそれぞれ、スパッタ室11aに露出する円盤状に形成されるとともに、その内表面の法線が上記基板Sの法線、例えば上記中心軸Aに対して22°等の所定の角度だけ傾斜させた状態で当該マグネトロン式スパッタ装置10に設けられている。
他方、上記ターゲット電極30a,30bの上側には、磁気回路31a,31b及び回転モータMa,Mbが搭載されている。これら磁気回路31a,31bは、それぞれ対応する上記ターゲットTa,Tbの内表面に沿って水平磁場であるマグネトロン磁場を形成し、これによりこれらターゲットTa,Tbがスパッタされるときには、該ターゲットTa,Tbの近傍に高密度のプラズマを生成させることになる。また、これら磁気回路31a,31bは、それぞれ対応する回転モータMa,Mbの出力軸に駆動連結されて、該回転モータMa,Mbの駆動に同期して対応するターゲットTa,Tbの面方向に沿って回転する。なお、これら回転モータMa,Mbがこのように回転することで、それぞれ対応する磁気回路31a,31bのマグネトロン磁場をこれに対応するターゲットTa,Tbの全周にわたって移動させることにより、そのエロージョン、つまりターゲット面におけるスパッタの程度が均一化されるようになる。
一方、上記チャンバ本体11のスパッタ室11aには更に、該スパッタ室11aの上側全体を覆うことで、スパッタリング処理時に発生するスパッタ粒子がスパッタ室11aの内壁に付着することを抑制する上側防着板13bが配設されている。しかも、この上側防着板13bは、スパッタ室11aの内壁にスパッタ粒子が付着することを抑制するばかりでなく、上記2つのターゲットTa,Tbの一方から生成されたスパッタ粒子が、他方のターゲットTa,Tbに付着することを抑制する機能をも有している。すなわち、一方のターゲットTa,Tb由来のスパッタ粒子によって他方のターゲットTa,Tbが汚染されることを抑制でき、スパッタリング処理に係る条件の精度が低下することを抑制できる。また、こうした上側防着板13bは、上記ターゲットTa,Tbのそれぞれと対向する領域にシャッター部SHa,SHbを有している。これらシャッター部SHa,SHbは、それぞれ対応するターゲットTa,Tbに上記外部電源FGa,FGbから所定の電力が供給されることに同期して開放されることで、該ターゲットTa,Tbと対向する領域を開口させて、該ターゲットTa,Tbを用いたスパッタリング処理が実施できるようにする。他方、これらシャッター部SHa,SHbは、それぞれ対応するターゲットTa,Tbに上記所定の電力が供給されていないときには閉塞されて、これらターゲットTa,Tbと対向する領域を閉口させて、ターゲットTa,Tbを用いたスパッタリング処理が実施できないようにする。
こうしたマグネトロン式スパッタ装置10においてスパッタリング処理を実施する際にはまず、上記ガス供給部20からスパッタ室11aにスパッタガスである例えばアルゴンガスが供給される。次いで、排気部21により該スパッタ室11aの圧力が例えば0.1〜2Paに調整される。その後、2つのターゲット電極30a,30bにこれらに対応する外部電源FGa,FGbから同時に直流電力を供給し、2つのターゲットTa,Tbを同時にスパッタさせる。こうしてターゲットTa,Tbがスパッタされることにより生じたスパッタ粒子、すなわちタングステン粒子とニッケル粒子とが上記基板Sの表面に堆積し、ひいては該基板S上にニッケルを含有するタングステン膜が例えば50nmの厚さで形成される。
上述のように、本実施の形態においては、上記参考例と異なり、2つのターゲットTa,Tbを用いるとともに、これを同時にスパッタして上記タングステン膜を形成するようにしている。これら2つのターゲットTa,Tbのうち、例えばターゲットTaには上記参考例と同様のターゲット、すなわち、主成分としてのタングステンと添加物としてのニッケルとからなる混合物であり、しかも、このニッケルを0.001質量%以上且つ1質量%以下の濃度で含有するターゲットを用いている。他方、もう1つのターゲットTbとしては、主成分としてニッケルを含有するターゲットを用いている。そして、これら2つのターゲットTa,Tbに同時に直流電力を印することで、これらターゲットTa,Tbのスパッタを同時に行う。これにより、上記マグネトロン式スパッタ装置10のスパッタ室11a、つまりスパッタ雰囲気を、0.001質量%以上且つ1質量%以下の濃度でニッケルが含有されるタングステン膜の形成が可能な組成とする用にしている。なお、本実施の形態では、上記2つのターゲットTa,Tbを用いてタングステン膜を形成しており、これら各ターゲットTa,Tbにおけるスパッタ率は、これらのそれぞれに接続され
た外部電源FGa,FGbから印加される直流電流を変更することで、すなわち、上記アルゴンガスの励起度合いを変更すると、これに伴い変化する。そのため、例えばあるスパッタリング処理の条件では、タングステンよりもニッケルのスパッタ率が低く、形成されたタングステン膜に含有されるニッケルの濃度が0.001質量%を未満となる場合には、このときよりもターゲットTbに接続された外部電源FGbの印加電力を大きくすればよい。他方、タングステンよりもニッケルのスパッタ率が高く、形成されるタングステン膜のニッケル含有濃度が1質量%より大きくなる場合には、上記外部電源FGbの印加電力を小さくすればよい。
このように、本実施の形態によれば、2つのターゲットTa,Tbを用いたスパッタリング処理により、タングステン膜を形成しているため、これらターゲットTa,Tbのそれぞれに対するスパッタ条件、例えば上記ターゲットTa,Tbのそれぞれに印加される直流電流を制御することにより、スパッタ雰囲気中のタングステンとニッケルの存在割合、ひいては形成されるタングステン膜中に含まれるニッケルの濃度を制御することが可能である。すなわち、タングステン膜に含有されるニッケルの濃度にかかる自由度を向上でき、例えば、タングステンターゲット中に含有される酸素量や、スパッタ雰囲気中に含まれる酸素量に上記2つのターゲットTa,Tbそれぞれのスパッタ量を対応付けることで、三酸化タングステンの生成量がより低減されるとともに、ニッケルの含有濃度も適切なタングステン膜を形成することが可能となる。
こうした実施の形態に係るスパッタリング処理によってタングステン膜を形成した場合であっても、タングステン膜が含有するニッケル濃度と該タングステン膜の比抵抗との間には、先の図2に示される関係が成立する。すなわち、本実施の形態によるように、タングステン膜に含有されるニッケルの濃度が0.001質量%以上且つ1質量%以下の範囲となるスパッタ雰囲気を形成可能なスパッタリング処理の条件によれば、上記三酸化タングステンの生成量を低減し、タングステン膜の比抵抗を低下することができる。
また、この実施の形態に係るスパッタリング処理によって形成されたタングステン膜であれば、上記参考例と同様、先の図3(a)に示されるような構造を有するタングステン膜が形成される。
[実施例
以下、本発明に係る成膜方法について実施例に基づき具体的に説明する。
主成分としてのタングステンと添加物としてのニッケルとを含有して且つ、該ニッケルの含有濃度が0.001質量%であるターゲット(混合物ターゲット)とニッケルからなるターゲットとを用い、以下の各条件にてスパッタリング処理を実施した。
(A)
・アルゴンガス圧力 0.1Pa
・基板温度 550℃
・混合物ターゲットへの印加電力 4kW
・ニッケルターゲットへの供給電力 4kW
・膜厚 100nm
(B)
・アルゴンガス圧力 0.51Pa
・基板温度 550℃
・混合物ターゲットへの印加電力 4kW
・ニッケルターゲットへの供給電力 4kW
・膜厚 100nm
(C)
・アルゴンガス圧力 1.0Pa
・基板温度 550℃
・混合物ターゲットへの印加電力 4kW
・ニッケルターゲットへの供給電力 4kW
・膜厚 100nm
上記(A)〜(C)のいずれの条件にてスパッタリング処理を実施しても、これにより形成されたタングステン膜が含有するニッケルの濃度は、0.01質量%となった。また、その比抵抗を測定したところ、先の図2に示される値であった。
[実施例
主成分としてのタングステンと添加物としてのニッケルとを含有して且つ、該ニッケルの含有濃度が0.01質量%であるターゲットを用い、以下の各条件にてスパッタリング処理を実施した。
(A)
・アルゴンガス圧力 0.1Pa
・基板温度 550℃
・混合物ターゲットへの印加電力 4kW
・ニッケルターゲットへの供給電力 4kW
・膜厚 100nm
(B)
・アルゴンガス圧力 0.5Pa
・基板温度 550℃
・混合物ターゲットへの印加電力 4kW
・ニッケルターゲットへの供給電力 4kW
・膜厚 100nm
(C)
・アルゴンガス圧力 1.0Pa
・基板温度 550℃
・混合物ターゲットへの印加電力 4kW
・ニッケルターゲットへの供給電力 4kW
・膜厚 100nm
上記(A)〜(C)のいずれの条件にてスパッタリング処理を実施しても、これにより形成されたタングステン膜が含有するニッケルの濃度は、0.01質量%となった。また、その比抵抗を測定したところ、先の図2に示される値であった。
以上説明したように、この実施の形態によれば、以下に記載の効果が得られるようになる。
(4)タングステン膜の構成材料であるタングステンを主成分として、また、酸素を還元するニッケルを添加物として含有するターゲットTaと、ニッケルのからなるターゲットTbとの2つのターゲットTa,Tbを用いるようにした。これにより、これらターゲットTa,Tbのそれぞれに対するスパッタ条件を制御することにより、スパッタ雰囲気中のタングステンとニッケルの存在割合、ひいては形成されるタングステン膜中に含まれるニッケルの濃度を制御することが可能である。すなわち、タングステン膜に含有される
ニッケルの濃度にかかる自由度を向上でき、例えば、タングステンターゲット中に含有される酸素量や、スパッタ雰囲気中に含まれる酸素量に上記2つのターゲットTa,Tbそれぞれのスパッタ量を対応付けることで、三酸化タングステンの生成量がより低減されるとともに、ニッケルの含有濃度も適切なタングステン膜を形成することが可能となる。
なお、上記参考例及び実施の形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・スパッタガスはアルゴンガスに限らず、他の希ガス、例えばクリプトン(Kr)ガスやキセノン(Xe)ガス等であってもよい。
参考例び実施の形態では、ターゲット電極30,30a,30bの上部に磁気回路31,31a,31b等を備えるマグネトロン式スパッタ装置10を用いることにした。これに限らず、この磁気回路31,31a,31b等を備えていない、いわゆる直流電力式スパッタ装置を用いるようにしてもよい。
参考例にて用いるターゲットTは、主成分であるタングステンと、添加物であるニッケルとを含有するとともに、該ターゲットTにおけるニッケルの含有濃度が0.001質量%以上且つ1質量%以下の範囲となるようにした。これに限らず、ターゲットTはタングステンとニッケルとの混合物であればよく、こうしたターゲットを用いて形成されたタングステン膜が含有するニッケルの濃度が0.001質量%以上且つ1質量%以下の範囲となるようにスパッタリング処理の条件等の調整が可能であれば、上記ニッケルの含有濃度は任意である。
上記実施の形態にて用いるターゲットTa,Tbのうち、片方のターゲットTaが、主成分であるタングステンと、添加物であるニッケルとを含有して且つ、該ターゲットTaにおけるニッケルの含有濃度が0.001質量%以上且つ1質量%以下の範囲となるようにした。これに限らず、ターゲットTaはタングステンとニッケルとの混合物であればよく、こうしたターゲットと、ニッケルからなるもう1つのターゲットとを用いて形成されたタングステン膜が含有するニッケルの濃度が0.001質量%以上且つ1質量%以下の範囲となるようにスパッタリング処理の条件等の調整が可能であれば、上記ニッケルの
含有濃度は任意である。
上記実施の形態では、タングステンとニッケルの混合物からなるターゲットTaと、ニッケルからなるターゲットTbとを同時にスパッタしてタングステン膜を形成するようにした。これに限らず、ターゲットTaに含有されるニッケルの濃度に応じて、より詳細には、ターゲットTaに含有されるニッケルの濃度が1質量%よりも大きい場合等に、もう1つのターゲットがタングステンからなるターゲットとしてもよい。
10…マグネトロン式スパッタ装置、11…チャンバ本体、11a…スパッタ室、12…ステージ、13…防着板、13a…下側防着板、13b…上側防着板、14…ステージ用モータ、20…ガス供給部、21…排気部、30,30a、30b…ターゲット電極、31,31a,31b…磁気回路、32…マグネットプレート、FG,FGa,FGb…外部電源、IL…供給配管、M,Ma,Mb…回転モータ、M1…外側磁石、M2…内側磁石、OL…排気配管、S…基板、SHa,SHb…シャッター部、T,Ta,Tb…ターゲット。

Claims (1)

  1. タングステンを含有するターゲットを希ガスによりスパッタしてタングステン膜を基板に形成する成膜方法において、
    前記ターゲットとして、主成分である前記タングステンと添加物であるニッケルとを含有するターゲットと、前記タングステン及び前記ニッケルのいずれか一方からなるターゲットとの2つのターゲットを用い
    前記タングステン膜の形成に際しては、これら2つのターゲットを同時にスパッタし、
    前記タングステン膜におけるニッケルの濃度が、0.001質量%以上且つ1質量%以下となるようにする
    ことを特徴とする成膜方法。
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