図1はこの発明の実施例に係る車両用クラッチ制御装置を全体的に示す概略図である。
以下説明すると、符号10は車両(図示せず)に搭載されるエンジン(ENG)12の出力を入力して変速して車輪14に伝達する変速機を示す。エンジン10は例えばガソリンを燃料とする火花点火式の内燃機関からなり、変速機10は前進5速、後進(RVS)1速の変速段を有する手動変速機からなる。
エンジン12の駆動軸(クランク軸)と変速機10の間にはクラッチ16が介挿される。クラッチ16は機械式摩擦クラッチからなる。
クラッチ16はエンジン12の駆動軸12a、より正確には駆動軸12aに固定されたフライホイール12bに接触可能なドーナツ状のクラッチディスク(摩擦材)16aが円周上に貼り付けられたクラッチプレート16bと、その背後に配置されるクラッチディスク16aと同一形状のプレッシャプレート(摩擦材)16cと、その背後に配置されるダイヤフラム状のスプリング16dを備える。
クラッチディスク16aとプレッシャプレート16cからなる摩擦材はスプリング16dによってエンジン12のフライホイール12bに押圧されることで締結してエンジンの出力を変速機10に伝達する。
車両運転席の床面に運転者の操作(踏み込み)自在に設けられるクラッチペダル20とクラッチ16との機械的な連結は断たれ、クラッチ16はアクチュエータ22を介して操作される。
このように、変速機10は、運転者によるクラッチペダル操作に応じてアクチュエータ22の動作を制御してクラッチ16を断接するようにしたCBW(Clutch by Wire)型の変速機からなる。
変速機10は、エンジン12の駆動軸12aに接続されてエンジン12の出力を入力する入力軸(メインシャフト)10aと、前記入力軸10aと平行に設けられると共に、車輪14に接続される出力軸(カウンタシャフト)10bを備える。入力軸10aと出力軸10bはベアリング10cを介して変速機ケース10dに回転自在に支承される。
入力軸10aには1速ドライブギヤ10eと2速ドライブギヤ10fとRVS(後進)ドライブギヤ10gとが回転不能に配置されると共に、出力軸10bには3速ドライブギヤ10hと4速ドライブギヤ10iと5速ドライブギヤ10jとが回転不能に配置される。
また、出力軸10bには1速ドライブギヤ10eと噛合する1速ドリブンギヤ10kと2速ドライブギヤ10fと噛合する2速ドリブンギヤ10lとが回転可能に配置されると共に、入力軸10aには3速ドライブギヤ10hと噛合する3速ドリブンギヤ10mと4速ドライブギヤ10iと噛合する4速ドリブンギヤ10nと5速ドライブギヤ10jと噛合する5速ドリブンギヤ10oとが回転可能に配置される。
さらに、RVS軸10pにはRVSドライブギヤ10gと噛合可能なRVSギヤ10qがRVS軸10pに対して回転不能に配置されると共に、出力軸10bにはギヤ10rが出力軸10bに対して回転不能に配置される。
ギヤ10rはギヤ10sを介してディファレンシャル機構10tに接続される。ディファレンシャル機構10tはドライブ軸10uを介して車輪14に接続される。
入力軸10aと出力軸10bの付近には1−2速スリーブ10vと3−4速スリーブ10wと5速スリーブ10xとが配置される。これらスリーブ10v,10w,10xは車両運転席に運転者の操作自在に配置されるシフトレバー24にロッドやシフトフォーク(共に図示せず)などを介して機械的に接続される。
シフトレバー24は、1−5速段(ギヤ段)とR(RVS後進)とN(ニュートラル)からなるシフトパターンを有するスロット内を運転者の操作に応じて移動自在に構成される。
クラッチ16が図示の接続位置にある場合、運転者によってシフトレバー24が1速位置に操作されると、それに応じて1−2速スリーブ10vは図1で左動して1速ドリブンギヤ10kを出力軸10bに固定する。
その結果、1速段が確立され、エンジン12の出力はクラッチ16を介して入力軸10aに伝達され、1速ドライブギヤ10e、1速ドリブンギヤ10k、出力軸10b、ギヤ10r、ギヤ10s、ディファレンシャル機構10t、ドライブ軸10u、車輪14へと伝達され、車両を前進方向に走行させる。
シフトレバー24が2速位置に操作されると、1−2速スリーブ10vは図1で右動して2速ドリブンギヤ10lを出力軸10bに固定する結果、2速段が確立され、エンジン12の出力はクラッチ16、入力軸10a、2速ドライブギヤ10f、2速ドリブンギヤ10l、出力軸10b、ギヤ10rへと伝達される。
シフトレバー24が3速位置に操作されると、3−4速スリーブ10wは図1で左動して3速ドリブンギヤ10mを入力軸10aに固定する結果、3速段が確立され、エンジン12の出力はクラッチ16、入力軸10a、3速ドリブンギヤ10m、出力軸10b、3速ドライブギヤ10h、ギヤ10rへと伝達される。
シフトレバー24が4速位置に操作されると、3−4速スリーブ10wは図1で右動して4速ドリブンギヤ10nを入力軸10aに固定する結果、4速段が確立され、エンジン12の出力はクラッチ16、入力軸10a、4速ドリブンギヤ10n、4速ドライブギヤ10i、出力軸10b、ギヤ10rへと伝達される。
シフトレバー24が5速位置に操作されると、5速スリーブ10xは図1で左動して5速ドリブンギヤ10oを入力軸10aに固定する結果、5速段が確立され、エンジン12の出力はクラッチ16、入力軸10a、5速ドリブンギヤ10o、5速ドライブギヤ10j、出力軸10b、ギヤ10rへと伝達される。
シフトレバー24がR(RVS)位置に操作されると、RVSギヤ10qは図1で左動してRVSドライブギヤ10gと噛合する結果、後進1速段が確立され、エンジン12の出力はクラッチ16、入力軸10a、RVSドライブギヤ10g、RVSギヤ10q、1−2速スリーブ10v、出力軸10b、ギヤ10r、ギヤ10s、ディファレンシャル機構10t、ドライブ軸10u、車輪14へと伝達され、車両を後進方向に走行させる。
上記したアクチュエータ22について説明すると、アクチュエータ22は電動モータ22aとマスタシリンダ(油圧シリンダ)22bとスレーブシリンダ22c(油圧シリンダ)と、レリーズフォーク22dと、レリーズピボット22eからなる。
電動モータ22aは例えばDCモータからなり、車両搭載バッテリ(図2に「BATT」と示す)から通電されて回転する。電動モータ22aの回転はボールスクリュー(図示せず)を介してマスタシリンダ22bのピストンロッド22b1に連結される。
マスタシリンダ22bの内部にはピストンロッド22b1の他端に取り付けられたピストン22b2が摺動自在に収容される。ピストン22b2はボールスクリューを介して直線運動に変換された電動モータ22aの回転に応じてマスタシリンダ22bの内部を移動する。
マスタシリンダ22bにおいてピストン22b2で形成される油室にはリザーバ22b3から作動油(ブレーキオイル)が供給される。マスタシリンダ22bは配管22b4を介してスレーブシリンダ22cに接続される。
スレーブシリンダ22cの内部にはピストン22c1が摺動自在に収容される。スレーブシリンダ22cにおいてピストン22c1で形成される油室には配管22b4を介してマスタシリンダ22bから作動油が供給される。
ピストン22c1はピストンロッド22c2に一端に取り付けられると共に、ピストンロッド22c2の他端はレリーズフォーク22dに連結される。レリーズフォーク22dは変速機ケース10dに固定されるレリーズピボット22eを介してクラッチ16のスプリング16dに連結される。
アクチュエータ22にあっては、電動モータ22aが通電されて通電量に応じた量だけ回転すると、その回転はボールスクリューを介してマスタシリンダ22bからスレーブシリンダ22cに油圧として伝えられ、回転量に相当する距離だけスレーブシリンダ22cのピストンロッド22c2はストローク(前進あるいは後退)してレリーズフォーク22dを前後方向に駆動する。
図示の如く、レリーズピボット22eはレリーズフォーク22dの中央位置よりもクラッチ16に接近して配置されるので、そこを支点とするレリーズフォーク22dの移動は増力されてクラッチ16のスプリング16dに伝達される。
よって電動モータ22aが例えば正転方向に回転させられると、スレーブシリンダ22cのピストンロッド22c2は回転量に相当する分だけ前方にストローク(前進)し、レリーズフォーク22dを駆動してスプリング16dを押圧してクラッチ16(のクラッチプレート16b)をエンジン12の駆動軸12aから離間する方向に駆動する。
他方、電動モータ22aが逆転方向に回転させられると、スレーブシリンダ22cのピストンロッド22c2は回転量に相当する分だけ後方にストローク(後退)する。その結果、クラッチ16(のクラッチプレート16b)はスプリング16dの付勢力によってエンジン12の駆動軸12aに押圧される締結位置に向けて移動する。
さらに電動モータ22aが逆転方向に回転させられると、スレーブシリンダ22cのピストンロッド22c2とレリーズフォーク22dはさらに後方に移動してスプリング16dを押圧する力が零となると、クラッチ16は図示の接続位置に復帰する。
マスタシリンダ22bの付近にはピストンストロークセンサ30が配置され、マスタシリンダ22b内のピストン22b2の移動を通じてアクチュエータ22のストローク量(レリーズフォーク22dの移動量)に応じた出力を生じる。
マスタシリンダ22bとスレーブシリンダ22cを接続する配管22b4の適宜位置には油圧センサ32が配置され、その部位の油圧(作動油の圧力)に応じた出力を生じる。
車両運転席床面に配置されるクラッチペダル20の付近にはクラッチペダルストロークセンサ20aが配置され、運転者によるクラッチペダル20の操作量を示す出力(電圧)を生じる。
車両運転席床面にクラッチペダル20と並んで配設されるブレーキペダル34の付近にはブレーキスイッチ34aが配置されて運転者によるブレーキペダル34の踏み込み(ブレーキ操作)がなされる度に信号を出力すると共に、アクセルペダル36の付近にはアクセル開度センサ36aが配置されて運転者によるアクセルペダル36の踏み込み量に応じた出力を生じる。
変速機10の入力軸10aの付近には第1の回転数センサ40が配置されて入力軸10aの回転数NMを示す出力を生じると共に、ドライブ軸10uの付近には第2の回転数センサ42が配置されてドライブ軸10uの回転数、即ち、車速を示す出力を生じる。
上記した、ピストンストロークセンサ30を除く、大部分のセンサの出力はFI−ECU(Electronic Control Unit。電子制御ユニット)46に入力される。FI―ECU46はマイクロコンピュータを備え、車両運転席付近の適宜位置に配置されるケース(図示せず)内に収容される。
アクチュエータ22のマスタシリンダ22bのケース(図示せず)にはPCB(Print Circuit Board。電子回路基板)50が配置され、その上にCCU(Clutch Control Unit)52が搭載される。CCU52もマイクロコンピュータを備えるECUからなる。
図2はFI−ECU44とCCU52などの詳細を示すブロック図である。
図示の如く、上記したセンサのうち、ピストンストロークセンサ30とクラッチペダルストロークセンサ20aと油圧センサ32の出力はCCU52に入力される。
CCU52はクラッチペダルストロークセンサ20aの出力(電圧値)を適宜な特性に従って変換して運転者によるクラッチペダル20の踏み込み(ストローク)量を検出すると共に、(所定の時間当たりの)踏み込み変化量を算出する。
即ち、クラッチペダルストロークセンサ20aが生じる、「運転者によるクラッチペダル20の操作量を示す出力」は、クラッチペダル20の踏み込み量と踏み込み変化量の双方を含む出力を意味する。
CCU52はFI−ECU44とCAN(Controller Area Network)を介して通信自在に接続され、検出されたクラッチペダル20の操作踏み込み量と、算出されたクラッチペダル20の踏み込み変化量と、検出されたアクチュエータ22の油圧とをFI−ECU46に出力する。
図示は省略するが、FI−ECU46はクランク角センサ、絶対圧センサなどの出力も入力され、それらからエンジン回転数NE、吸気管内絶対圧PBA(エンジン負荷)を検出し、エンジン12のFI(Fuel Injection。燃料噴射)、点火時期などの動作を制御する。
FI−ECU46はまた、第2の回転数センサ42の出力と減速比から出力軸10bの回転数NCを算出し、その回転数NCと第1の回転数センサ40の出力(入力軸10aの回転数NM)との比から変速比を算出する。
FI−ECU46はさらに、CCU52から送られるクラッチペダル20の踏み込み量などに基づいて目標クラッチ容量(クラッチ伝達トルク)を決定し、CCU52に出力する。CCU52は決定されたクラッチ容量となるようにアクチュエータ22の電動モータ22aの通電量を決定して通電回路52aから電動モータ52に通電する。
このように、FI−ECU46はCCU52の通電回路52aを介してアクチュエータ22の電動モータ22aに通電してアクチュエータ22の(スレーブシリンダ22cのピストンロッド22c2の)ストロークを制御することでクラッチ16の容量を締結(クラッチ接)と開放(クラッチ断または切り)とその間の半クラッチ状態の間で制御する。
図3はアクチュエータ22のストローク(Actストローク)に対するクラッチ容量の特性を示す説明図である。この明細書で「クラッチ容量」はクラッチ16が伝達可能なトルク、即ち、クラッチ伝達トルクを意味する。
図示の如く、クラッチ容量は、Actストロークが零でクラッチ16が締結(クラッチ接)されるとき最大となり、Actストロークが切り(クラッチ断。切れ点位置)に向けて増加するにつれて減少し、切り(開放)のとき零となる。図3に示す特性が実験を通じて理論クラッチ容量として予め設定され、CCU52のマイクロコンピュータのメモリに格納される。
図2の説明に戻ると、PCB50上において通電回路52aの付近には温度センサ54が配置され、PCB50の温度、より具体的には通電回路52aのパワートランジスタなどの構成部品の温度を示す出力を生じる。
温度センサ54の出力もCCU52に送られる。CCU52は温度センサ54の出力からアクチュエータ22の電動モータ22aの通電による発熱(異常)、即ち、電動モータ22aの異常の発生の有無を監視する。
図4はFI−ECU46の動作、具体的にはクラッチ制御、より具体的にはアクチュエータ22のストローク(Actストローク)の決定を示すフロー・チャートである。図示のプログラムはFI−ECU46によって所定時間、例えば10msecごとに実行される。
以下説明すると、S10においてクラッチペダル20の基準補正を行う。クラッチペダル20のストローク(踏み込み量)はクラッチペダルストロークセンサ20aの出力(電圧)から検出されるが、ペダルストッパなどの製造バラツキによる半クラッチ位置のバラツキをなくすため、S10においてはクラッチペダル20が踏み込まれたときのセンサ出力をスケーリングして基準補正を行う。
次いでS12に進み、通常クラッチ制御を実行する。これは運転者のクラッチペダル20の操作(踏み込み)に応じてアクチュエータ22を動作させてクラッチ16を締結、開放あるいは半クラッチ状態に制御する通常の制御である。
次いでS14に進み、クラッチ16の温度を推定する。
図5はその温度推定処理を示す説明図である。図示の如く、クラッチ16の推定温度は、PP推定温度、即ち、クラッチ16のプレッシャプレート16cの推定温度を求め、それに係数A,Bを用いて算出される。
PP推定温度は図示の式に従って算出される。式中のQはクラッチ吸収エネルギであり、以下の式に従って算出される。
Q=TRQENG×(NE−NM)/60×2π×0.01
上記でTRQENG:エンジントルク(エンジン回転数NEと吸気管内絶対圧PBAなどの負荷からマップ検索して得られるエンジン12の出力トルク)、NM:入力軸10aの回転数である。Cppはプレッシャプレート16bの熱容量、係数A,Bは実測から求められる値である。
図4フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS16に進み、PCB温度判定を行う。
図6はその処理を説明するタイム・チャートである。
S16の処理は、PCB50上に配置された温度センサ54から検出される温度の変化量が所定値(図示せず)を超える場合(図6(a))、あるいは温度センサ54から検出される温度がしきい値を超える場合(図6(b))にあるか否か判断することで行う。
図6(a)に示す所定値を超える場合は具体的には、所定時間、例えば同図において時刻t1からt2の間の検出温度の変動幅が所定値(図示せず)より大きくなると共に、収束しない場合である。
図6(b)に示す如く、しきい値はヒステリシスを設けて制御ハンチングが生じないこととする。図示は省略するが、図6(a)の場合も所定値にヒステリシスを設けることとする。
図4フロー・チャートにおいては次いでS18に進み、温度保護を実施すべきか否か判断する。具体的には、クラッチ16とアクチュエータ22の少なくともいずれかが温度上昇を抑制すべき温度上昇抑制制御を必要とするか否かの要否を判断する。
より具体的には、S14で推定されたクラッチ温度が所定値を超えるか否か判断し、所定値を超えると判断されるとき、S18の判断は肯定されてS20に進み、温度保護制御(温度上昇抑制制御)を実施する。
あるいはS16の判定においてPCB温度の変化量が所定値を超えると判定されたか、PCB温度自体がしきい値を超えると判定されたとき、S18の判断は肯定されてS20に進み、温度保護制御(温度上昇抑制制御)を実施する。
図7はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
以下説明すると、S100においてクラッチ自動制御中か否か判断する。ここで「クラッチ自動制御」は、クラッチ16のアクチュエータ22による制御を、図3に示す特性に従って運転者によるクラッチペダル操作とは独立に行う制御を意味する。
S100で否定されるときは以降の処理をスキップする。即ち、運転者のクラッチペダル操作に所定時間内に追従させる。
その結果、図4フロー・チャートの後述するS32の処理において目標クラッチ容量に基づいてアクチュエータ22のストロークが決定され、それに従ってアクチュエータ22がクラッチ16を締結方向、開放方向(あるいは半クラッチ状態)に駆動される。
他方、S100で肯定されるときはS102に進み、目標クラッチ容量が所定値以上か否か判断する。所定値はクラッチ16がエンジン12の駆動軸12aに締結あるいはほぼ締結、より正確にはクラッチ16が駆動軸12aに完全に締結あるいはほぼ完全に締結されることに相当する値を意味する。
S102で肯定されるときは以降の処理をスキップする(運転者のクラッチペダル操作に所定時間内に追従させる)一方、否定されるときはS104に進み、目標クラッチ容量を徐々に、換言すれば所定時間より長い時間内にクラッチペダル操作量に移行(置換)する。
図8はS104の処理を説明するタイム・チャートである。
図示の如く、S102で肯定されて目標クラッチ容量が所定値と判断される(あるいはS100で否定されてクラッチ自動制御中にないと判断される)ときは、同図に符号aで示す如く、所定時間(10msec)内、即ち、次のプログラムループ時に運転者のクラッチペダル操作に追従するように目標クラッチ容量を補正する。
他方、S102で否定されて目標クラッチ容量が所定値ではないと判断されるときはS104に進み、同図に符号bで示す如く、目標クラッチ容量をステップ状に、具体的には図4フロー・チャートがプログラムループ(所定時間)度に1ステップずつ増減するように長い時間をかけてクラッチペダル操作量に移行(置換)する。
このように目標クラッチ容量を階段状に増減することにより、エンジントルクTRQENGの急変を回避でき、制御切替時の急激なクラッチ締結や開放を抑制することができ、運転者に予期しない違和感を与えるのを回避することができる。
図4フロー・チャートの説明に戻ると、一方、S18で否定されるときはS22に進み、クラッチ特性補正1を実行する。これはクラッチ16の磨耗、劣化によって図3に示すクラッチ容量特性を補正する処理である。
図9はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
以下説明すると、S200において第2の回転数センサ42とクラッチペダルストロークセンサ20aとブレーキスイッチ34aとアクセル開度センサ36aによって検出された車速と、クラッチペダル20の位置と、ブレーキ操作の有無と、アクセル開度とギヤ段情報とを読み込む。ギヤ段情報は第1、第2の回転数センサ40,42の出力から求められる。
次いでS202に進み、クラッチ特性補正条件の成立の有無を判定する。具体的には、運転者によってクラッチペダル20が踏まれていず(完全締結)、ブレーキペダル34とアクセルペダル36も踏まれておらず、ギヤ段が4速か5速の高速段(換言すれば変速比が所定値(例えば1)以下)にあり、車速が適宜設定されるしきい値以上にあるか否か判定する。
換言すれば、アクセルペダル36の開度が所定開度(零度)以下で車速が所定車速以上の減速状態にあるか否か判定する。これらの条件が全て満足されるとき、クラッチ特性補正条件は成立する。
尚、ギヤ段を4,5速の高速段としたが、これは車重などによって相違する。また車速のしきい値はクラッチスリップ制御によってエンジンブレーキが抜けるような違和感を生じることがない値で、一般走行路の法定上限車速なども考慮して設定されるが、ディファレンシャル機構10tまでの減速比、車重、走行抵抗などによっても相違することになる。
S202で否定されるときはS204に進み、目標クラッチ容量を完全締結と決定する一方、肯定されるときはS206に進み、車両の減速が安定しているか否か判断する。これはS202で述べたクラッチ特性補正条件が所定時間にわたって成立し続けているか否か判断することで行う。
S206で否定されるときはS204に進む一方、肯定されるときはS208に進み、クラッチ16を開放方向に駆動してスリップさせる目標スリップ量フィードバック制御を実行する。
図9の説明を続ける前に、図10から図12を参照してクラッチ特性の補正を説明する。図10は図1のクラッチ16とクラッチペダル20の関係を模式的に示す説明図、図11は図9の処理を説明するタイム・チャート、図12は図9の処理をより詳細に説明するタイム・チャートである。
即ち、図10の下部に示す如く、クラッチ16が初期(新品)のときはペダル0%(クラッチペダル20の踏み込み零)から切れ点位置(クラッチ16が完全開放される位置)までのペダル踏み込み範囲は図示の通りとする。
しかしながら、摩擦材の経時的な劣化に伴ってクラッチ16の高さが減少すると、同図上部に示す如く、ペダル0%から切れ点までのペダル踏み込み範囲が増加する。換言すれば、クラッチ16を切るまでのActストロークの量が増加する。
従って、この実施例にあっては、図11に示す如く、車両が自然な減速状態にあるとき、クラッチ16を微小量スリップさせるクラッチスリップ制御を実行して切れ点位置を求め、求めた切れ点位置に基づいて(図4フロー・チャートのS30において)クラッチ容量特性を補正するようにした。クラッチスリップ制御は1回の減速で1回のみ行う。尚、この明細書で車両走行中のクラッチ特性の補正を「学習」という。
切れ点位置の検出を減速状態で行うのは、減速状態であれば、クラッチスリップ制御を実行しても、エンジン回転数の急激な落ち込みやエンジンブレーキ力の低下を招いて運転者に違和感を与えることがないからである。
図9フロー・チャートの説明に戻ると、S208で目標スリップ量フィードバック制御、即ち、アクチュエータ22を介してクラッチ16を開放方向に駆動して微小量スリップさせるクラッチスリップ制御を開始し、S210に進み、目標スリップ量まで到達したか否か判断し、否定されるときはS212に進み、スリップ実行目標クラッチ容量を決定する。
具体的には、図11(c)(d)と図12に示す如く、クラッチ16のスリップ量が目標値となるまでスリップ量をフィードバックするようにアクチュエータ22を駆動する。
他方、S210で肯定されるときはS214に進み、スリップが安定しているか否か判断する。即ち、図11タイム・チャートに示す「滑り安定タイマ」により判定される、フィードバック制御によるスリップが安定した切れ点位置の検出が可能な状態にあるか、より正確には図12に示すような状態にあるか否か判断する。
S214で否定されるときはS212に進む一方、肯定されるときはS216に進み、クラッチ16の切れ点位置を検出する。
即ち、クラッチスリップ制御が実行されている間にエンジン回転数NEと入力軸回転数NMの差が所定値になったとき、クラッチ16が開放されたと判断してそのときのアクチュエータ22の駆動位置(ストローク量)をクラッチ切れ点位置として検出する。
次いでS218に進み、磨耗量補正値を決定する。具体的には、検出された切れ点から図10に示すような理論クラッチ容量特性の補正値αを決定する。
次いでS220に進み、磨耗量補正が終了したか否か判断し、否定されるときはS212に進む一方、肯定されるときはS222に進み、スリップ解除目標クラッチ容量を決定する。即ち、補正のために実行していたスリップ制御を徐々に終了するように目標クラッチ容量を決定する。
図4フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS24に進み、クラッチ特性補正2を実行する。
図13はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
以下説明すると、S300においてクラッチスリップ中か、即ち、クラッチ16をスリップ(半クラッチ)させる制御が実行中か否か判断し、否定されるときはS302に進み、クラッチ特性補正なしとして以降の処理をスキップする。即ち、特性の補正はスリップ時に理論クラッチ容量と実クラッチ容量の差を算出して行うことから否定されるときは以降の処理を中止する。
S300において肯定されるときはS304に進み、(図4フロー・チャートのS14で検出された)クラッチ温度により補正可能なエンジントルク範囲を検索する。
図14は補正可能なエンジントルク範囲(補正許可)を示す説明図である。図示のように斜線で示す、しきい値a,bの上下の領域が補正可能なエンジントルク範囲とされる。換言すれば、エンジン12が極低トルク域(クリープなど)にあるときは特性を補正しないようにした。
図13フロー・チャートにあっては次いでS306に進み、エンジントルクが検索された補正可能範囲にあるか否か判断し、否定されるときはS302に進む一方、肯定されるときはS308に進み、クラッチ差回転により補正実施カウンタ値の単位値を検索する。クラッチ差回転はエンジン回転数NEから入力軸回転数NMを減算して算出される。
図15はクラッチ差回転に対する補正実施カウンタ値の単位値の特性を示す説明図である。「単位値」は図13フロー・チャート(より正確には図4フロー・チャート)が実行される度にカウントアップされるときの値を意味する。
図示の如く、単位値はクラッチ差回転が小さいほど小さいと共に、登坂発進、スポーツ(図1の変速機10の特性が経済性よりもスポーツ性を重視して設定されている場合)など走行特性が増加するにつれて+方向に減少するように設定される。
逆に単位量はクラッチ差回転が−方向に増加するダウンシフトの場合も減少するように設定される。即ち、クラッチ差回転が小さい範囲(通常)は単位値が大きく設定されるために、特性の補正(学習)頻度が増加する。
図13フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS310に進み、検索された単位値でカウントアップされたカウンタの合計値がしきい値に到達したか否か判断する。
図16はしきい値の特性を示す説明図である。図示の如く、しきい値はクラッチ差回転に対して設定され、クラッチ差回転が増加するにつれて補正頻度が増加するように設定される。
図13フロー・チャートにおいてS310で否定されるときはS312に進み、単位値でカウントアップしてプログラムを一旦終了する一方、肯定されるときはS314に進み、エンジントルク変動がしきい値未満か否か判断する。
S314で否定されるときはエンジン12の出力が安定していないと判断してS302に進み、クラッチトルク補正なしとする一方、肯定されるときはS316に進み、理論クラッチ容量と実クラッチ容量の差を算出する。
図17は図13フロー・チャートの処理を説明するタイム・チャート、図18は理論クラッチ容量と実クラッチ容量の差の算出を示す説明図である。
この実施例にあっては、図17に示す如く、エンジントルクTRQENGがしきい値以上のとき(エンジントルクが補正可能範囲内にあるとき)、検索された単位値でカウントアップし、カウントアップされた合計値がしきい値に達したとき、図18に示すように理論クラッチ容量と実クラッチ容量の差を算出し、理論クラッチ容量を同図に矢印で示すように補正するようにした。
図18の処理を説明すると、エンジン12から出力されるエンジントルクTRQENGから、予め設定されたクラッチ容量特性より得られる理論クラッチ容量(伝達トルク)TRQCLTHを減算して理論クラッチ容量に対する実クラッチ容量の差を算出する。
より具体的には、エンジントルクから理論クラッチ容量とエンジンイナーシャIeとクラッチ差回転Δrpm/dtを減算して理論クラッチ容量に対する実クラッチ容量の差を算出する。
図13フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS318に進み、理論クラッチ容量と実クラッチ容量の差より補正係数を検索し、S320に進み、クラッチ温度より補正ゲインを検索する。
図19は理論クラッチ容量と実クラッチ容量の差に対して設定される補正係数の特性を示す説明図、図20はクラッチ温度に対して設定される補正ゲインの特性を示す説明図である。図19に示す如く、補正係数は差が零のときは1.0に設定されると共に、差が正負に増加するにつれて正負の方向に増加するように設定される。
また、図20に示す如く、補正ゲインはクラッチ温度が比較的低い間は1.0に設定されると共に、クラッチ温度がそれから昇温するにつれて減少するように設定される。S318,S320の処理では図示の特性から補正係数と補正ゲインが検索される。
図13フロー・チャートにあっては次いでS322に進み、クラッチ特性補正量を以下のように決定(算出)する。
クラッチ特性補正量=補正係数×補正ゲイン
次いでS324に進み、カウンタをリセットしてプログラムを終了する。
図4フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS26に進み、ショック低減制御を実行する。
図21はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
以下説明すると、S400において第2の回転数センサ42とクラッチペダルストロークセンサ20aによって検出された車速とクラッチペダル20の位置を読み込む。
次いでS402に進み、ショック低減制御条件の成立の有無を判定する。この条件は、クラッチペダル20が踏まれていず(完全締結)、車速が零ではないときに成立する。
S402で否定されるときはS404に進み、目標クラッチ容量を完全締結相当値と決定してプログラムを終了する一方、肯定されるときはS406に進み、ショック低減制御が実行中か否か判断する。
初めてS406に進むときはその判断は否定されてS408に進み、車速とギヤ段から車両がクルーズ中か減速中か否か判断する。「クルーズ」はブレーキペダル34が操作されず、アクセルペダル36が一定の低開度に操作されている走行状況、「減速」はブレーキペダル34の操作の有無に関わらず、車速が減少する走行状況を意味する。
ここで、図22以降を参照して図21フロー・チャートの処理を説明する。図22はエンジン回転数の変化、図23は図21フロー・チャートの処理、図24はそのときのアクセル開度とクラッチ待機位置などを説明するタイム・チャートである。
図21の処理は高アクセル開度かつ低速ギヤ段で走行しているとき、アクセルペダル36が大きく踏み込まれて図22に示すようにエンジン回転数NEが急増したとき、入力軸回転数NMを低く抑制するようにした。
具体的には、図23に示す如く、クラッチ容量がエンジントルクを上回るようにクラッチ16をスリップ制御し、図23の最下部に示すように斜線で示す領域において過剰トルクを抑制するようにした。
図21フロー・チャートの説明に戻ると、S408で肯定されるときはS410に進み、車速とギヤ段からクラッチ16の待機位置(図24に示す)を検索し、S412に進み、同様に車速とギヤ段からアクセルペダル変化量判定しきい値を検索する。
次いでS414に進み、検出されたアクセル開度がしきい値(S412で検索されたアクセルペダル変化量判定しきい値)を超えるか否か判断する。S414で否定されるときはS416に進み、スリップ量フィードバック中(後述)か否か判断し、否定されるときはS418に進み、ショック低減クラッチ容量を図示の式に従って決定する。
他方、S414で肯定されるときはS420に進み、クラッチスリップ量がしきい値を超えるか否か判断し、否定されるときはS416に進む一方、肯定されるときはS422に進み、上記したショック低減制御を実行する。
次いでS424に進み、スリップ量によるクラッチ締結量フィードバック制御を実行し、S426に進み、目標クラッチ容量を決定する。尚、S406で肯定されるときはS414に進むと共に、S416で肯定されるときはS422に進む。
図4フロー・チャートに戻ると、次いでS28に進み、歯打ち音低減制御を実行する。これは、所定の走行状況においてクラッチ16を滑らせて変速機10のギヤのバックラッシュによる騒音を低減する制御である。
次いでS30に進み、S22,S24で得られた補正値によって図3に示す理論クラッチ容量の特性を補正する。具体的には図9フロー・チャートのS218で決定された磨耗量補正値と、図13フロー・チャートのS322で決定されたクラッチ特性補正量とから図3に示す理論クラッチ容量の特性を補正する。
次いでS32に進み、算出された目標クラッチ容量から図3に示す理論クラッチ容量の特性に従ってActストロークを決定して終わる。このとき、特性が補正されていれば補正された特性に従ってActストロークが決定されるのはいうまでもない。
上記した如く、この実施例にあっては、車両に搭載されるエンジン12の出力を入力して変速して車輪14に伝達する変速機10と、前記エンジン12の駆動軸12aと変速機10の間に介挿され、スプリング16dによって前記エンジン12の駆動軸12aに押圧されることで締結して前記エンジンの出力を前記変速機に伝達する機械式摩擦クラッチ16と、前記車両の運転席に設けられたクラッチペダル20と、運転者による前記クラッチペダル20の操作量を示す出力を生じるクラッチペダルストロークセンサ20aと、前記クラッチ16に接続され、前記クラッチ16を開放方向または締結方向に駆動するアクチュエータ22と、少なくとも前記クラッチペダルストロークセンサ20aの出力に基づいて前記アクチュエータ22の動作を制御するアクチュエータ制御手段(FI−ECU46)とを備えた車両用クラッチ制御装置において、前記クラッチ16の温度を推定するクラッチ温度推定手段(S14)と、前記エンジン12から出力されるエンジントルクTRQENGから予め設定されたクラッチ容量特性より得られる理論クラッチ容量TRQCLTHを減算して前記理論クラッチ容量に対する実クラッチ容量の差を算出するクラッチ容量差算出手段(S24,S300からS316)と、前記算出された差に基づいて補正係数を算出する補正係数算出手段(S24,S318)と、前記推定されたクラッチの温度に基づいてゲイン(補正ゲイン)を算出するゲイン算出手段(S24,S320)と、前記算出された補正係数とゲインで前記クラッチ容量特性を補正する特性補正手段(S24,S322,S30)とを備えると共に、前記特性補正手段は、前記変速機10の入力軸回転数NMと前記エンジン12の駆動軸回転数NEの差(クラッチ差回転)を検出し、前記検出された差に基づいて前記クラッチ容量特性を補正する頻度を相違させる(S308からS312)如く構成したので、理論クラッチ容量に対する実クラッチ容量の差を算出し、算出された差に基づいて補正係数を算出すると共に、推定されたクラッチ16の温度に基づいて(補正)ゲインを算出し、それらから補正することで、クラッチ容量特性を適正に補正することができる。
また、前記特性補正手段は、前記推定されたクラッチ温度及び前記実クラッチ容量に基づいて前記特性の補正が可能なエンジントルク範囲を検索し、前記エンジントルクが前記検索されたエンジントルク範囲内にあるとき、前記算出された補正係数と(補正)ゲインで前記クラッチ容量特性を補正する(S304,S306)如く構成したので、クラッチ容量特性を、誤りなく適正に補正することができる。
また、前記特性補正手段は、前記エンジントルクの変動が所定範囲を超えるとき、前記クラッチ容量特性の補正を中止する(S306,S302)如く構成したので、同様にクラッチ容量特性を、誤りなく適正に補正することができる。
尚、上記において、変速機の構造はクラッチで締結あるいは開放される限り、例示した構成に止まらず、どのような構成であっても良い。