ここで、好適には、前記自動クラッチは、例えばエンジンと車両用変速機との間の動力伝達経路を断続するための乾式摩擦クラッチであり、アクチュエータは油圧によって制御される油圧アクチュエータで構成される。
また、好適には、自動クラッチの温度変化方向は、自動クラッチのクラッチディスクの表面温度を逐次検出し、その表面温度の時間変化が正負何れであるに基づいて判断される。例えば表面温度の時間変化が正である場合には、温度上昇(クラッチ加熱)と判断され、負である場合には、温度下降(クラッチ冷却)と判断される。
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の概略構成を説明する骨子図で、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両用のものであり、走行用駆動源としてのエンジン12、自動クラッチ14、車両用変速機16、および終減速機18等を備えた自動MT(Automatic Manual Transmisson)である。
車両用変速機16は、常時噛合型の平行二軸式変速機であり、終減速機18と共に共通のハウジング20内に配設されてトランスアクスルを構成しており、そのハウジング20内に所定量だけ充填された潤滑油に浸漬され、終減速機18と共に潤滑されるようになっている。車両用変速機16は、平行な1対の入力軸24、出力軸26間にギヤ比が異なり、且つ常時噛み合う複数対の変速ギヤ対28a〜28eが配設されると共に、それらの変速ギヤ対28a〜28eに対応して複数の噛合クラッチ30a〜30eが設けられた平行軸式常時噛合型変速機構と、それらの噛合クラッチ30a〜30eの3つのクラッチハブスリーブ32a、32b、32cの何れかを選択的に移動させて変速段を切り換えるシフト・セレクトシャフト34とを備えており、前進5速の変速段が成立させられるようになっている。入力軸24および出力軸26にはさらに後進ギヤ対36が配設され、図示しないカウンタシャフトに配設された後進用アイドル歯車と噛み合わされることにより後進変速段が成立させられるようになっている。なお、入力軸24は、スプライン部35によって自動クラッチ14のクラッチ出力軸37に連結されていると共に、出力軸26には、出力歯車38が配設されて終減速機18のリングギヤ40と噛み合わされている。
上記噛合クラッチ30a〜30eは何れも常時噛合式の同期噛合クラッチであり、シフト・セレクトシャフト34によって、噛合クラッチ30eが係合されることにより変速比(入力軸24の回転数/出力軸26の回転数)が最も大きい第1変速段が成立させられ、噛合クラッチ30dが係合されることにより変速比が2番目に大きい第2変速段が成立させられ、噛合クラッチ30cが係合されることにより変速比が3番目に大きい第3変速段が成立させられ、噛合クラッチ30bが係合されることにより変速比が4番目に大きい第4変速段が成立させられ、噛合クラッチ30aが係合されることにより変速比が最も小さい第5変速段が成立させられる。また、シフト・セレクトシャフト34は、予め設定されている変速マップに基づいて所定の変速段への変速指令が出力されると、図示しない電動モータ等によってその変速段の対応するシフト・セレクト位置へ電気的にシフト・セレクト切替される。
終減速機18は傘歯車式のもので、図1に示される1対のサイドギヤ42R、42Lにはそれぞれドライブシャフト44R、44Lがスプライン嵌合などによって連結され、左右の前輪(駆動輪)46R、46Lを回転駆動させる。
図2に、図1の自動クラッチ14を制御するための構成を概略的に示す。本発明の車両用自動クラッチに対応する自動クラッチ14は乾式単板の摩擦クラッチであり、エンジン12のクランクシャフト50に取り付けられたフライホイール52、クラッチ出力軸37に接続されたクラッチディスク56、クラッチカバー58に設けられたプレッシャプレート60、プレッシャプレート60をフライホイール52側へ付勢することによりクラッチディスク56を挟圧して動力伝達するためのダイヤフラムスプリング62、本発明のアクチュエータとして機能する油圧式のクラッチレリーズシリンダ64、そのクラッチレリーズシリンダ64によりレリーズフォーク66を介してフライホイール52側(図において右側)へ移動させられることにより、ダイヤフラムスプリング62の内端部をフライホイール52側(図において右側)へ変位させて自動クラッチ14を解放(遮断)するためのレリーズスリーブ68を有して構成されている。
例えば、クラッチレリーズシリンダ64の油圧室内に作動油が供給されない状態では、ダイヤフラムスプリング62の付勢力によってプレッシャプレート60がクラッチディスク56を押圧するに従い、自動クラッチ14が接続される。また、クラッチレリーズシリンダ64の油圧室内に作動油が供給されると、ピストン70が移動し、レリーズフォーク66を介してレリーズスリーブ68がフライホイール52側(図において右側)に移動させられ、レリーズスリーブ68がダイヤフラムスプリング62の内周端を押圧する。これに従い、ダイヤフラムスプリング62の付勢力が低下するため、プレッシャプレート60がクラッチディスク56を押圧する力が弱くなり、自動クラッチ14のトルク容量が低下する。そして、レリーズスリーブ68の移動位置(クラッチストローク位置clts)が所定量に到達すると、プレッシャプレート60がクラッチディスク56を押圧しなくなり、自動クラッチ14が開放される。このクラッチレリーズシリンダ64への作動油量が制御されることで、レリーズスリーブ68の移動位置(クラッチストローク位置clts)が制御される。
電子制御装置84は、マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う。電子制御装置84には、エンジン回転速度センサ86からエンジン回転速度Neを表す信号、クラッチ出力軸回転速度センサ88からクラッチ出力軸37の回転速度(出力軸回転速度Nc)を表す信号、スロットル弁開度センサ96からスロットル弁開度θthを表す信号、冷媒温度検出センサ90からの自動クラッチ14の冷媒温度thrすなわち自動クラッチ14を冷却する外気温度(雰囲気温度)thrを表す信号、ストロークセンサ92からのクラッチストローク位置cltsを表す信号が供給される。また、図示しない車速センサからの車速Vを表す信号、吸入空気量センサから吸入空気量Qを表す信号、エンジン冷却水温センサからエンジン水温を表す信号、レバーポジションセンサからレバーポジションを表す信号、アクセル開度センサからアクセル開度Accを表す信号、ブレーキスイッチからフットブレーキのON、OFFを表す信号等が供給される。なお、クラッチストロークセンサ92は、レリーズスリーブ68の移動位置を検出するセンサであり、本実施例では、レリーズスリーブ68の後述するクランプ点clampからの移動位置をクラッチストローク位置cltsと定義する。
そして、上記信号に従って、電子制御装置84は、エンジン12の図示しない燃料噴射弁の燃料噴射量や噴射時期を制御したり、図示しないイグナイタにより点火プラグの点火時期を制御したり、電動モータ等のスロットルアクチュエータにより電子スロットル弁96の開度θthを開閉制御したりして、エンジン12の出力状態を制御する。また、電子制御装置84は、走行状態に応じた車両用変速機16の変速制御および変速制御時の自動クラッチ14の断続状態を制御する。なお、自動クラッチ14の断続状態の制御は、クラッチレリーズシリンダ64に供給される作動油の油圧制御によって実行される。このクラッチレリーズシリンダ64に供給される作動油の油圧は、リニアソレノイドバルブ98によって制御可能に構成されており、電子制御装置84は、リニアソレノイドバルブ98に自動クラッチ14の断続状態制御時の油圧制御指令を出力する。なお、クラッチレリーズシリンダ64を制御するリニアソレノイドバルブ98を含む詳細な油圧回路図については、図2においては省略されている。
ところで、自動クラッチ14の断続状態を制御するに際して、自動クラッチ14が完全係合されるクランプ点clampおよび自動クラッチ14の半係合(スリップ係合)が開始されるタッチ点touchが求められ、その求められたクランプ点clampおよびタッチ点touchに基づいて自動クラッチ14のトルク容量が予め設定された値で変化するように制御される。図3は、クラッチストローク位置cltsと自動クラッチ14のトルク容量Tcとの関係を示している。クランプ点clampがクラッチストローク位置cltsの基準位置(図において零位置)とされると、クラッチストローク位置cltsが増加するに従って、ダイヤフラムスプリング62による付勢力が低下してプレッシャプレート60がクラッチディスク56を押圧する力が弱くなるため、自動クラッチ14のクラッチトルク容量が漸減する。そして、クラッチストローク位置cltsがタッチ点touchに到達すると、クラッチトルク容量Tcが零となる。ここで、自動クラッチ14が完全係合されるクランプ点clampについて詳述すると、クラッチレリーズシリンダ64の油圧が抜かれることで、ダイヤフラムスプリング62が自己の弾性復帰力によって元の形状の復帰した際のレリーズスリーブ68の位置に対応している。また、自動クラッチ14の半係合(スリップ係合)が開始されるタッチ点touchについて詳述すると、スリップ係合が開始されることで、例えば自動クラッチ14の接続を開始した際にエンジン回転速度Neに変化が生じるときのレリーズスリーブ68の位置に対応している。
ここで、クランプ点clampについて着目すると、クランプ点clampは、自動クラッチ14のクラッチディスク56の表面温度thc(以下、クラッチ温度thcと記載)に応じて変化する。例えば、クラッチディスク56のクラッチ温度thcが高くなると、クラッチディスク56が膨張するため、クラッチディスク56の外周側と当接するダイヤフラムスプリング62の姿勢が変化する。これに従い、ダイヤフラムスプリング62の内周端と当接するレリーズスリーブ68の位置が変化するため、クランプ点clampが変化する。これに対して、従来では、自動クラッチ14のクラッチディスク56のクラッチ温度thcを逐次推定し、そのクラッチ温度thcに基づいてクランプ点clampを補正していた。しかしながら、クラッチ加熱時と冷却時とでは、過渡的な温度変化が支配的な熱勾配が大きい状況と定常的な温度変化が支配的な熱勾配が小さい状況という違いがあり、クラッチディスク56だけでなく、クラッチカバー58やフライホイール52の状態にも違いが生じる。したがって、同じクラッチ温度thcであっても、クラッチ加熱時と冷却時とでクランプ点clampに違いが生じる。図4は、クラッチディスク56の温度thc(クラッチ温度thc)に対するクランプ点clampの位置を示している。図4に示すように、実線で示すクラッチ加熱時では、例えば略一定の勾配でクランプ点clampが増加するのに対して、破線で示すクラッチ冷却時では、クランプ点clampが急激に変化している。このように、同じクラッチ温度thcであっても、クラッチ加熱時と冷却時とでクランプ点clampが相違する。本実施例では、電子制御装置84は、クラッチディスク56のクラッチ温度thcの温度変化方向すなわちクラッチ加熱時・冷却状態に応じてクランプ点clampの補正量を変更することで、クランプ点clampの精度を高めて自動クラッチ14の制御精度を向上する。
図5は、電子制御装置84の制御作動の要部を説明するための機能ブロック線図である。なお、図5において、一点鎖線で囲まれる各手段が電子制御装置84の主な機能を示すものである。クラッチ制御手段100は、車両用変速機16の変速指令が出力されると、自動クラッチ14が最適なトルク容量で変化するように自動クラッチ14のクラッチストローク位置cltsを制御(クラッチ断続制御)する。このとき、自動クラッチ14が完全係合されるクランプ点clampを基準とし、このクランプ点clampからのクラッチストローク位置cltsと自動クラッチ14のトルク容量Tcとの予め求められて記憶された関係に基づいて、自動クラッチ14のトルク容量Tcが好適に変化するようにクラッチストロークcltsが制御される。
クランプ点補正手段102は、前記クラッチ制御手段100において必要となるクランプ点clampを、クラッチディスク56のクラッチ温度thcの温度変化方向に応じて適宜補正する。ここで、クラッチディスク56のクラッチ温度thcは、クラッチ温度推定手段104によって逐次推定的に算出される。
クラッチ温度推定手段104は、クラッチ出力軸回転速度センサ88によって検出されるクラッチ出力軸37の回転速度Nc(以下、出力軸回転速度Nc)、エンジン回転速度センサ86によって検出されるエンジン回転速度Ne、エンジントルクTe等から予め記憶されている公知の関係に基づいてクラッチディスク56のクラッチ温度thcを算出する。なお、エンジントルクTeは、例えば予め設定されて記憶されているエンジン回転速度Neおよび吸入空気量(燃料噴射量)から構成されるエンジントルクマップ(2次元マップ)に基づいて、実際のエンジン回転速度Neおよび吸入空気量(燃料噴射量)からエンジントルクTeが求められる。また、トルクセンサで直接エンジントルクTeを検出しても構わない。
クラッチディスク56のクラッチ温度thcが算出されると、クラッチ加熱冷却判断手段106は、クラッチディスク56が加熱中であるか否かを判断する。クラッチ加熱冷却判断手段106は、クラッチ温度推定手段104によって算出されたクラッチディスク56のクラッチ温度thcと前回のタイムステップにおいて算出されたクラッチディスク56のクラッチ温度thcmとの温度差Δthc(=thc−thcm)を算出する。そして、その算出された温度差Δthcが正である場合、クラッチディスク56のクラッチ温度thcの温度変化方向が上昇状態(正の状態)にある、すなわち自動クラッチ14が加熱状態にあると判断する。一方、温度Δthcが負である場合、クラッチディスク56のクラッチ温度thcの温度変化方向が下降状態(負の状態)にある、すなわちクラッチが冷却状態にあると判断する。
クラッチ断続判断手段108は、自動クラッチ14が冷却状態にあると判断された場合、自動クラッチ14が切断状態(開放状態)にあるか否かを判断する。クラッチ断続判断手段108は、クラッチストローク位置cltsが予め設定されているタッチ点touchよりも大きいか否かに基づいて、自動クラッチ14の断続状態を判断する。例えば、クラッチストローク位置cltsがタッチ点touchよりも小さい場合、自動クラッチ14が接続(半係合を含む)された状態、すなわち自動クラッチ14がトルク容量Tcを有する状態と判断される。一方、クラッチストローク位置cltsがタッチ点touchよりも大きい場合、自動クラッチ14が切断された状態、すなわち自動クラッチ14のトルク容量Tcが零の状態と判断される。
クラッチ加熱冷却判断手段106によって自動クラッチ14が加熱状態・冷却状態のいずれの状態にあるかが判断されると共に、クラッチ断続判断手段108によって自動クラッチ14の断続状態が判断されると、クランプ点設定手段102は、それらの判断結果に応じたクランプ点clampを補正する際に必要な補正係数を設定する。この補正係数は、記憶手段110に記憶されている冷媒温度thrからなる関係マップから求められる。この補正係数が冷媒温度thrに応じて変更されることで、クランプ点clampの補正量が変化する。なお、本実施例では、上記関係マップが自動クラッチ14の加熱時・冷却時とで別個に求められて記憶され、自動クラッチ14の冷却時においては、自動クラッチ14の接続時と切断時とでさらに別個に求められて記憶されている。すなわち、本実施例では、3つの関係マップが記憶手段110に記憶されており、自動クラッチ14の状態に応じた関係マップに基づいて補正係数が求められる。
図6に、冷媒温度thrによって変化する補正係数の関係マップの一例(例えばクラッチ加熱時)を示す。図6においては、例えば冷媒温度thrが高温になると、補正係数が大きくなっている。上記関係マップは、予め実験的に求められ、自動クラッチ14の物理現象に適合した傾向となるように設定される。また、熱流体解析による精緻な計算によって補正係数が求められても構わない。そして、推定された冷媒温度thrに対する補正係数が補間法等によって求められる。この図6に示す関係マップが、自動クラッチ14の加熱時、冷却時(クラッチ切断時)、および冷却時(クラッチ接続時)の3つの態様毎に実験的に求められる。なお、図6においては、冷媒温度thrが高くなるに従って補正係数が高くなっているが、必ずしも全てのクラッチにおいてそのようになるとは限らない。図6は一例であって、クラッチの構造や車両の形式など多様な要因によって補正係数の傾向や大きさは変化するため、クラッチの構造や車両の形式等が変化すると、その都度関係マップを実験等によって求めなければならない。
クランプ点補正手段102は、自動クラッチ14の加熱・冷却状態(すなわち温度変化方向)および自動クラッチ14の断続状態に応じた関係マップに基づく補正係数、その時の温度変化Δthcから、下式(1)〜下式(3)に基づいてクランプ点clampを算出する。なお、下式(1)〜下式(3)は、各関係マップ毎に区別して示した計算式である。具体的には、式(1)は、クラッチ加熱時すなわち温度上昇時のクランプ点clampを求める計算式に対応し、式(2)は、クラッチ冷却時すなわち温度下降時であって、且つ、クラッチ切断時のクランプ点clampを求める計算式に対応し、式(3)は、クラッチ冷却時(温度下降時)であって、且つ、クラッチ接続時のクランプ点clampを求める計算式に対応している。式(1)〜式(3)において、clampmは、前回のタイムステップにおいて求められたクランプ点に対応し、Δthcは、今回推定されたクラッチディスク56のクラッチ温度thcと前回推定されたクラッチディスク56のクラッチ温度thcmとの温度差(Δthc=thc−thcm)に対応し、Amap(thr)は、クラッチ加熱時(クラッチ温度上昇時)に使用される関係マップによって求められる補正係数に対応し、B1map(thr)は、クラッチ冷却時(クラッチ温度下降時)であって特にクラッチ切断時に使用される関係マップによって求められる補正係数に対応し、B2map(thr)は、クラッチ冷却時(クラッチ温度下降時)であって特にクラッチ接続時に使用される関係マップによって求められる補正係数に対応している。この式(1)〜式(3)において、右辺第二項が補正量(Amap(thr)×Δthc、B1map(thr)×Δthc、B2map(thr)×Δthc)に対応する。この補正量が関係マップの補正係数の変化に応じて変更される。すなわち、自動クラッチ14の加熱・冷却(温度変化方向)、クラッチの断続状態、冷媒温度thrに応じた補正量に変更される。
clamp=clampm+Amap(thr)×Δthc・・・・(1)
clamp=clampm+B1map(thr)×Δthc・・・・(2)
clamp=clampm+B2map(thr)×Δthc・・・・(3)
クランプ点補正手段102は、式(1)〜式(3)に基づいてクランプ点clampを算出すると、算出されたクランプ点clampを新しいクランプ点clampに補正(設定)する。そして、クラッチ制御手段100は、設定されたクランプ点clampを基準として、自動クラッチ14を制御する。
クランプ点学習手段112は、所定の条件においてクランプ点clampの学習制御を実施する。具体的には、自動クラッチ14を切断状態から接続状態に戻した際、具体的には、クラッチレリーズシリンダ64の油圧を抜いた際に実施され、クラッチレリーズシリンダ64の油圧を抜いて所定時間経過後のレリーズスリーブ68の位置がクランプ点clampの学習値clampsに設定される。この学習値clampsは実際のクランプ点clampと等しくなる。そして、このクランプ点学習手段112によって求められた学習値clampsは、クランプ点補正手段102によって求められたクランプ点clampに優先される。すなわち、クランプ点学習手段112によって学習値clampsが求められると、その値がクランプ点clampに設定され、クランプ点clampが正確な値に修正される。
タッチ点学習手段114は、クランプ点clampを基準として、自動クラッチ14の半係合(スリップ係合)が開始されるクラッチストローク位置cltsをタッチ点touchとして学習する。タッチ点学習手段114は、例えば車両停止時に実施され、自動クラッチ14の切断状態から自動クラッチ14の係合制御を非常に遅い係合速度で開始し、その際に自動クラッチ14の半係合が検出された地点をタッチ点touchとして学習させる。なお、自動クラッチ14の半係合は、例えば自動クラッチ14の半係合の開始時点において変化するクラッチ回転速度Ncを検出することで検出される。ここで、タッチ点学習手段114によるタッチ点touchの学習時は、クランプ点補正手段102の実施が禁止される。タッチ点touchは、クランプ点clampを基準としたクラッチストローク位置cltsであるため、クランプ点clampが変動すると、タッチ点touchの学習時間が不要に伸びたり、学習値に影響を与える可能性があるためである。
図7は、電子制御装置84の制御作動の要部すなわち自動クラッチ14の加熱・冷却等の条件に応じてクランプ点clampを補正することで、自動クラッチ14の制御性を向上させることができる制御作動を説明するためのフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
先ず、クラッチ加熱冷却判断手段106およびクラッチ温度推定手段104に対応するステップSA1(以下、ステップを省略する)において、クラッチディスク56のクラッチ温度thcが算出され、その温度変化に基づいて自動クラッチ14が加熱状態であるか否かが判断される。SA1が肯定される場合、クランプ点補正手段102に対応するSA2において、自動クラッチ14の加熱時(温度上昇時)のクランプ点clampが前述した式(1)によって算出され、クランプ点clampが算出された値に補正される。
一方、SA1が否定される場合、クラッチ断続判断手段108に対応するSA3において、クラッチストローク位置cltsがタッチ点touchよりも小さいか否かに基づいて、自動クラッチ14が切断状態にあるか否かを判断する。SA3が肯定される場合、クランプ点補正手段102に対応するSA4において、クラッチ冷却時(温度下降時)であって、且つ、クラッチ切断時におけるクランプ点clampが前述した式(2)によって算出され、クランプ点clampが算出された値に補正される。SA3が否定される場合、クランプ点補正手段102に対応するSA5において、クラッチ冷却時であって、且つクラッチ接続時におけるクランプ点clampが前述した式(3)によって算出され、クランプ点clampが算出された値に補正される。
図8は、クランプ点補正手段102よって逐次補正されるクランプ点clampの時間変化を示している。図8において、横軸が時間変化を示し、縦軸がクランプ点clampを示している。なお、図8においては、クラッチディスク56のクラッチ温度thcが2点鎖線で示すように変化した場合のクランプ点clampを一例に示している。
図8に示すように、クランプ点clampは、実際には、実線の曲線で示すように連続的に変化する。また、クランプ点clampは、クラッチディスク56のクラッチ温度thcと略同様に、温度上昇と共に増加する一方、温度低下と共に減少する。図8において複数個の「●」は、学習値を示している。この学習値は実際のクランプ点clampと等しくなるため、実線で示す曲線上の値をとる。また、学習値は、所定の条件下(クラッチ接続時)でしか学習されないため、学習値のみではクランプ点clampは離散化され、実線の折れ線で示す値をとることとなる。この学習値間のクランプ点clampがクランプ点補正手段102によって補正されることで、曲線で示す実際のクランプ点clampに近い値に近似される。
図8において、破線が従来すなわちクラッチディスク56のクラッチ温度thcのみによって補正された場合(従来)のクランプ点clampを示し、一点鎖線がクランプ点補正手段102によって補正された場合(本実施例)のクランプ点clampを示している。図に示すように、例えばクラッチディスク56のクラッチ温度thcが上昇した場合には、従来と本実施例とで大きな変化は見られない。しかしながら、クラッチディスク56のクラッチ温度thcが下降した場合には、一点鎖線で示すように、破線で示す従来に比べてクランプ点clampの減少勾配が大きくなっている。具体的には、本実施例では、クラッチ温度上昇時に比べてクラッチ温度下降時は、クランプ点clampの変化勾配が大きくなるように補正係数が設定されることで、クランプ点clampの減少勾配が大きくなっている。これに対して、従来では、クラッチディスク56のクラッチ温度下降時であってもクラッチ温度上昇時と同じ変化勾配でクランプ点clampが補正されている。従来では、クラッチディスク56の温度上昇時と下降時とで、補正係数が変化しないに従いクランプ点clampの補正量が変化しないためである。本実施例では、クラッチ温度上昇時と下降時とで、補正係数が変化するに従って補正量が変更されるため、クランプ点clampの変化勾配(補正量)が変化している。
これより、本実施例では、クラッチディスク56の温度下降時において、クランプ点clampが、従来に比べて曲線で示すクランプ点clampに近い値に補正される。すなわち、本実施例では、従来に比べてクランプ点clampの精度が向上している。また、クランプ点学習手段112によってクランプ点clampが学習されると、その学習値は補正によるクランプ点clampに優先されている。例えば図8のt1時点において、補正によって求められるクランプ点clampをクランプ点clampA、学習によって求められるクランプ点clampをクランプ点clampBとすると、クランプ点clampBがクランプ点clampAに優先してクランプ点clampとして使用される。これより、クランプ点補正手段102によって補正しきれない値が、クランプ点学習手段112による学習値によって、正確な値であるクランプ点clampに修正される。
上述のように、本実施例によれば、自動クラッチ14の温度変化方向に応じてクランプ点clampの補正量が変更されるため、自動クラッチ14の温度変化傾向(加熱・冷却状態)に応じた最適な補正量でクランプ点clampが補正される。したがって、自動クラッチ14のクラッチ温度thcのみに基づいた補正に比べてクランプ点clampが正確となるに従い、自動クラッチ14の制御精度がさらに向上する。
また、本実施例によれば、自動クラッチ14の温度変化方向が冷却方向である場合には、自動クラッチ14の断続状態に応じてクランプ点clampの補正量が変更されるため、クラッチ冷却変化時の自動クラッチ14の断続状態に応じた最適な補正量でクランプ点clampが補正される。したがって、クランプ点clampがさらに正確な値に補正されるため、自動クラッチ14の制御精度がさらに向上する。
また、本実施例によれば、自動クラッチ14の冷媒温度thrに応じてクランプ点clampの補正量が変更されるため、その冷媒温度thrに応じた最適な補正量でクランプ点clampが補正される。したがって、クランプ点clampがさらに正確な値に補正されるため、自動クラッチ14の制御精度がさらに向上する。
また、本実施例によれば、クランプ点clampの学習時に求められたクランプ点clampの学習値clampsは、補正によるクランプ点clampに優先して使用されるため、補正によって修正しきれない値が学習値によって修正され、クランプ点が正確な値となる。
また、本実施例によれば、自動クラッチ14の半係合が開始されるタッチ点touchの学習時は、クランプ点clampの補正が禁止されるため、タッチ点touchの学習時間が不要に伸びたり、学習値に影響を与えることを防止できる。
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
図9は、本発明の他の実施例である電子制御装置84の制御作動の要部すなわち自動クラッチ14の加熱・冷却(クラッチ温度thcの温度変化方向)に応じてクランプ点clampを補正することで、自動クラッチ14の制御性を向上させることができる制御作動を説明するためのフローチャートである。本実施例では、自動クラッチ14の加熱・冷却(温度変化方向)に応じて補正係数が変更される一方、クラッチ冷却時であっても自動クラッチ14の断続状態に応じて補正係数が変化しない。また、冷媒温度thrに拘わらず補正係数が一定に設定されている。
図9において、クラッチ加熱冷却判断手段106に対応するステップSB1(以下、ステップを省略する)において、自動クラッチ14が加熱状態(クラッチ温度上昇状態)にあるか否かが判断される。SB1が肯定される場合、クランプ点補正手段102に対応するSB2において、クラッチ加熱時(温度上昇時)に適用される下式(4)に基づいてクランプ点clampが算出される。ここで、Aはクラッチ加熱時の補正係数であり、予め実験等によって求められた一定値である。さらに、clampmは前回のタイムステップにおいて算出されたクランプ点であり、Δthcは今回推定時のクラッチディスク56のクラッチ温度thcと前回推定時のクラッチディスク56のクラッチ温度thcmとの温度差(Δthc=thc−thcm)を示している。下式(4)によってクランプ点clampが算出されると、そのクランプ点clampが新たなクランプ点clampに補正される。
clamp=clampm+A×Δthc・・・・(4)
一方、SB1が否定される場合、クランプ点補正手段102に対応するSB3において、クラッチ冷却時(温度下降時)に適用される下式(5)に基づいてクランプ点clampが算出される。ここで、Bはクラッチ冷却時の補正係数であり、予め実験等によって求められた一定値である。下式(5)によってクランプ点clampが算出されると、そのクランプ点clampが新たなクランプ点clampに設定(補正)される。
clamp=clampm+B×Δthc・・・・(5)
上記のように、自動クラッチ14の加熱・冷却(温度変化方向)に応じて補正量が変更される場合であっても、クラッチディスク56のクラッチ温度thcのみに基づいて補正される場合に比較して、精度良くクランプ点clampが補正される。
上述のように、本実施例によれば、自動クラッチ14の加熱・冷却(温度変化傾向)に応じてクランプ点clampの補正量が変更されるため、クランプ点clampが自動クラッチの温度のみに基づいた補正に比べて正確な値となる。したがって、クランプ点がさらに正確な値に補正されるため、自動クラッチ14の制御精度がさらに向上する。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、自動クラッチ14のクラッチ温度thcが計算的に求められていたが、温度センサによって直接検出するものであっても構わない。
また、前述の実施例では、自動クラッチ14の冷却時のみ自動クラッチ14の断続状態に応じて補正量が変更されているが、加熱時においても自動クラッチ14の断続状態に応じて補正量が変更される構成であっても構わない。
また、前述の実施例では、クラッチストローク位置cltsを、レリーズスリーブ68の移動位置と定義したが、クラッチレリーズシリンダ64のピストン70の移動位置をクラッチストローク位置cltsに定義して実施することもできる。
また、前述の実施例では、クラッチレリーズシリンダ64は油圧式アクチュエータで構成されているが、必ずしも油圧式に限定されず、例えば電動式のアクチュエータで構成されても構わない。
また、前述の実施例では、アクチュエータとして単動式の油圧アクチュエータが使用されているが、アクチュエータの形式は特に限定されず、例えば複動式のアクチュエータやCSC(コンセントリックスレーブシリンダ)など他の形式のアクチュエータが使用されても構わない。
また、前述の実施例では、自動クラッチ14は乾式単板の摩擦クラッチであったが、乾式単板に限定されず、例えば湿式多板クラッチなど、本発明は摩擦式の自動クラッチであれば適用することができる。なお、湿式である場合には、冷媒は油であることから、冷媒温度が油温に変更される。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。