JP5636856B2 - 構造体のシミュレーション方法 - Google Patents

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本発明は、異方性挙動を示す構造体を、コンピュータで解析することに関する。
従来のタイヤは、試作と試験との繰り返しによって開発されていたので、開発効率が悪いという問題点があった。この問題点を解決するために、近年ではコンピュータを用いた数値解析によって、試作品を製造しなくともタイヤの物理的性質、すなわちタイヤの性能を予測することができる手法が提案され、実用化されている。コンピュータを用いた数値解析によってタイヤの性能を予測する場合、タイヤをコンピュータで解析可能な解析モデル化する必要がある。例えば、特許文献1及び特許文献2には、タイヤの粘弾性材料を解析するシミュレーション方法が記載されている。
特許第3668239号公報 特開2007−101499号公報
ここで、タイヤは、ゴムをカーカスやベルトといった補強コードにより補強した構造体である。ここで、補強コードは、異方性挙動を示す部材を含有して構成される。このため、タイヤは、異方性挙動を示すエラストマー構造体となる。このような、異方性挙動を示すエラストマー構造体のモデルのシミュレーション方法としては、異方性部材を均質材料として近似して解析する方法がある。このシミュレーション方法は、モデルの概略の解析を行うことができるが、解析精度に限界がある。また、異方性挙動を示すエラストマー構造体のモデルのシミュレーション方法としては、異方性の偏差項を加えて解析する方法があるが、この方法でも、解析精度に限界がある。また、異方性部材を含有するエラストマー構造体に限定されず、異方性挙動を示す構造体については、同様の問題がある。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、異方性挙動を示す構造体をより高い精度で解析することができるエラストマー構造体のシミュレーション方法を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る構造体のシミュレーション方法は、異方性挙動を示す構造体をソリッド要素でモデル化するモデル化ステップと、前記モデル化ステップでモデル化した構造体のモデルを、異方性関数の不変量を使用した体積項を含むひずみエネルギー関数を用いて解析する演算処理ステップと、を有することを特徴とする。
ここで、前記異方性関数の体積項は、右コーシーグリーン変形テンソルの第4擬似不変量、右コーシーグリーン変形テンソルの第5擬似不変量、あるいは、前記第4擬似不変量及び前記第5擬似不変量の少なくとも一方の偏差成分と、体積変化量または右コーシーグリーン変形テンソルの第3不変量と、を乗じた項であることが好ましい。
また、前記ひずみエネルギー関数は、異方性関数の偏差項として、右コーシーグリーン変形テンソルの第4擬似不変量、右コーシーグリーン変形テンソルの第5擬似不変量、あるいは、前記第4擬似不変量及び前記第5擬似不変量の少なくとも一方の偏差成分で構成された項を含むことが好ましい。
また、前記演算処理ステップは、前記ひずみエネルギー関数として、異方性超弾性ひずみエネルギー関数を用いることが好ましい。
また、前記演算処理ステップは、前記ひずみエネルギー関数のパラメータを、少なくとも2つのモードの数値材料試験結果に基づいて同定することが好ましい。
また、前記構造体は、異方性部材及び前記異方性部材を含有するエラストマー部とで構成されることが好ましい。
また、前記構造体は、異方性挙動を示すエラストマーであることが好ましい。
また、前記構造体のモデルは、車両に装着するタイヤの少なくとも一部のモデルであることが好ましい。
また、前記演算処理ステップは、前記構造体のモデルの解析に用いるひずみエネルギー関数を決定する演算式決定ステップと、前記ひずみエネルギー関数のパラメータを決定するパラメータ決定ステップと、前記パラメータ決定ステップでパラメータを決定した前記ひずみエネルギー関数を用いて、前記構造体のモデルを解析する解析ステップと、を有することが好ましい。
本発明は、異方性挙動を示す構造体を高い精度で解析することができる。
図1は、タイヤの回転軸を通る子午断面を示す断面図である。 図2は、本実施形態に係るタイヤモデルの解析装置の構成を示す説明図である。 図3は、異方性挙動を示すエラストマー構造体のモデルを模式的に示す斜視図である。 図4は、異方性挙動を示すエラストマー構造体のモデルの変形を模式的に示す斜視図である。 図5は、図4に示すモデルの正面図である。 図6は、異方性挙動を示すエラストマー構造体のモデルを従来の変形を模式的に示す斜視図である。 図7は、図6に示すモデルの正面図である。 図8は、解析装置による処理工程の一例を示すフロー図である。 図9は、異方性部材を含有するエラストマー構造体のモデルを模式的に示す斜視図である。 図10は、異方性部材のモデルを模式的に示す斜視図である。 図11は、エラストマー構造体のモデルと計測値との応力とひずみとの関係を示すグラフである。
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の内容によりこの発明が限定されるものではない。また、以下の構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。本発明の適用対象は、異方性部材と当該異方性部材を含有するエラストマー部とを含有するタイヤであれば適用でき、空気入りタイヤに限られるものではない。以下においては、説明の便宜上、特に断りのない限り空気入りタイヤをタイヤという。なお、本発明の適用対象は、タイヤ、異方性部材と当該異方性部材を含有するエラストマー部とを含有する構造体にも限定されず、異方性挙動を示す構造体であればよい。
図1は、タイヤの回転軸を通る子午断面を示す断面図である。図1に示すように、タイヤ1の子午断面には、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4、ビードコア5が現れている。タイヤ1は、母材であるゴムを、強化材であるカーカス2、ベルト3、あるいはベルトカバー4等の補強コードによって補強した複合材料の構造体である。ここで、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4等の、金属繊維や有機繊維等のコード材料で構成される補強コードの層を、コード層という。
カーカス2は、タイヤ1に空気を充填した際に圧力容器としての役目を果たす強度メンバーであり、その内圧によって荷重を支え、走行中の動的荷重に耐えるようになっている。ベルト3は、キャップトレッド6とカーカス2との間に配置されたゴム引きコードを束ねた補強コードの層である。なお、バイアスタイヤの場合にはブレーカと呼ぶ。ラジアルタイヤにおいて、ベルト3は形状保持及び強度メンバーとして重要な役割を担っている。
ベルト3の接地面G側には、ベルトカバー4が配置されている。ベルトカバー4は、例えば有機繊維材料を層状に配置したものであり、ベルト3の保護層としての役割や、ベルト3の補強層としての役割を持つ。ビードコア5は、内圧によってカーカス2に発生するコード張力を支えているスチールワイヤの束である。ビードコア5は、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4及びキャップトレッド6とともに、タイヤ1の強度部材となる。キャップトレッド6の接地面G側には、溝7が形成される。これによって、雨天走行時の排水性を向上させる。また、タイヤ1の側部はサイドウォール8と呼ばれており、ビードコア5とキャップトレッド6との間を接続する。また、キャップトレッド6とサイドウォール8との間はショルダー部Shである。次に、本実施形態に係るタイヤモデル(エラストマー構造体モデル)の解析方法を実行する装置について説明する。
図2は、本実施形態に係るタイヤモデルの解析装置の構成を示す説明図である。図2に示すタイヤモデルの解析装置(以下、モデル解析装置という)50は、コンピュータで解析可能な構造体のモデルを解析するものである。ここで、本実施形態のモデル解析装置50が解析対象とする構造体は、異方性挙動を示す構造体のうち、ゴム等の弾性部材を含有するエラストマー構造体である。なお、エラストマー構造体としては、母材と複数のモノフィラメント素線を撚った撚り線とが組み合わされるとともに、構造物に埋め込まれて、その構造物を補強するエラストマー構造体がある。なお、このようなエラストマー構造体では、撚り線が異方性挙動を示す部材となり、エラストマー構造体の全体が異方性挙動を示す。なお、モデル解析装置50は、エラストマー構造体として、タイヤ全体を解析対象とすることも、タイヤの一部(例えば、タイヤを構成する部材、ベルト、カーカス)を解析対象とすることもできる。
モデル解析装置50は、本実施形態に係る構造体モデルの解析方法(シミュレーション方法)を実行して、構造体のモデルを解析する。モデル解析装置50は、処理部50pと記憶部50mとを備えて構成される。処理部50pと記憶部50mとは、入出力部(I/O)59を介して接続してある。処理部50pは、モデル作成部51と、演算式決定部52と、パラメータ決定部53と、解析部54とを含んで構成される。これらが本実施形態に係るエラストマー構造体モデルの作成方法を実行する。モデル作成部51と、演算式決定部52と、パラメータ決定部53と、解析部54とは、入出力部59に接続されており、相互にデータをやり取りできるように構成されている。また、モデル解析装置50には、入出力装置60が接続されており、これに入力装置61及び表示装置62が接続される。入出力装置60は、入出力部(I/O)59を介してエラストマー構造体モデルの作成に必要な情報を処理部50pや記憶部50mへ入力する。
モデル作成部51は、例えば、解析対象の構造体のモデルを作成する。モデル作成部51は、タイヤのベルトを解析対象とする場合は、複数のモノフィラメント素線と母材とで構成されるモデルをエラストマー構造体モデルとして作成する。また、モデル作成部51は、構造体のモデルを解析可能な状態にする。具体的には、モデル作成部51は、構造体のモデルを、四面体ソリッド要素、五面体ソリッド要素、六面体ソリッド要素等のソリッド要素等、コンピュータで取り扱い得る3次元要素に分割するソリッドモデルとする。なお、ソリッドモデルとは、3次元モデリングの一技法により作成されるモデルである。ソリッドとは固体を意味し、ワイヤーフレームモデルやサーフェイスモデルでは表現できない立体の内部構造の表現ができるものである。ソリッドモデルは、立体の面だけでなく、面で囲まれる中身の情報も備える。
演算式決定部52は、モデル作成部51が作成したモデルの解析に用いる演算式、つまり、モデルの変形等の解析に用いるひずみエネルギー関数を決定する。なお、演算式決定部52は、モデルを構成する部材の材料に基づいて、ひずみエネルギー関数を決定しても、予め入力され、設定されている値に基づいて、ひずみエネルギー関数を決定してもよい。
パラメータ決定部53は、演算式決定部52で決定したひずみエネルギー関数に用いるパラメータを決定する。なお、パラメータ決定部53は、予め記憶されている試験結果を用いて、同定を行い、パラメータを決定する。
解析部54は、モデル作成部51で作成した構造体のモデルを、演算式決定部52で決定した演算式と、パラメータ決定部53で決定したパラメータとを用いて、数値解析する。
記憶部50mには、後述する本実施形態に係るエラストマー構造体のシミュレーション方法の処理手順を含むコンピュータプログラムや、各種のデータ等が格納されている。ここで、記憶部50mは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、不揮発性のメモリ、ハードディスク装置、あるいはこれらの組み合わせにより構成できる。また、処理部50pは、メモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成できる。
上記コンピュータプログラムは、処理部50pが備えるモデル作成部51、演算式決定部52、パラメータ決定部53、演算部54等へ既に記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、本実施形態に係るエラストマー構造体モデルのシミュレーション方法の処理手順を実現できるものであってもよい。また、このモデル解析装置50は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、処理部50pが備えるモデル作成部51、演算式決定部52、パラメータ決定部53、演算部54との機能を実現するものであってもよい。
つぎに、モデル解析装置50が用いる演算式、つまり、演算式決定部52で決定の対象となる演算式についてより詳細に説明する。モデル解析装置50は、構造体のモデルの解析に用いるひずみエネルギー関数Wとして、下記(式1)に示す関数を用いる。
Figure 0005636856
ここで、(式1)において、「dev」は、偏差項を示し、「vol」は、体積項を示す。また、「iso」は、等方性関数(等方性ひずみエネルギー関数)を示し、「aniso」は、異方性関数(異方性ひずみエネルギー関数)を示す。つまり、(式1)に示すひずみエネルギー関数Wは、等方性関数の偏差項と、等方性関数の体積項と、異方性関数の偏差項に加え、異方性関数の体積項を含んで構成されている。
ここで、本実施形態のひずみエネルギー関数は、異方性関数の体積項としては、右コーシーグリーン変形テンソルの第4擬似不変量、右コーシーグリーン変形テンソルの第5擬似不変量、あるいは、前記第4擬似不変量及び前記第5擬似不変量の少なくとも一方の偏差成分と、体積変化量または右コーシーグリーン変形テンソルの第3不変量と、を乗じた項を用いる。
ここで、右コーシーグリーン変形テンソルをCとし、構造テンソルをMとした時、第4擬似不変量Iと、第5擬似不変量Iは、それぞれ、I=tr(CM)、I=tr(Cof(CM))となる。また、体積変化率Jは、J=det(C)となり、第3不変量Iは、I=Jとなる。
さらに、第4擬似不変量の偏差成分は、下記(式2)となり、第5擬似不変量の偏差成分は、下記(式3)となる。
Figure 0005636856
Figure 0005636856
なお、右コーシーグリーン変形テンソルCは、変形勾配テンソルをFとしたとき、C=FFと表すことができる。なお、変形勾配テンソルFは、変形前の座標をX,変形後の座標をxとした時、下記(式4)となる。
Figure 0005636856
また、構造テンソルMは、補強方向を表す1階の単位テンソルをaとした時、下記(式5)となる。
Figure 0005636856
次に、異方性関数の偏差項は、右コーシーグリーン変形テンソルの第4擬似不変量、右コーシーグリーン変形テンソルの第5擬似不変量、あるいは、前記第4擬似不変量及び前記第5擬似不変量の少なくとも一方の偏差成分で構成された項を含むものである。
また、等方性のひずみエネルギー関数、つまり、等方性関数の偏差項と、体積項は、第1不変量、第2不変量、第1不変量の偏差成分、第2不変量の偏差成分、伸長比、第3不変量、体積変化率の少なくとも1つを用いた項で表現される。なお、第1不変量Iと、第2擬似不変量Iは、それぞれ、I=tr(C)、I=tr(Cof(C))となる。さらに、第1不変量の偏差成分は、下記(式6)となり、第2擬似不変量の偏差成分は、下記(式7)となる。
Figure 0005636856
Figure 0005636856
なお、等方性ひずみエネルギー関数としては、例えば、多項式形式、Mooney−Rilin形式、Neo−Hookean形式、Ogden形式、Arruda−Boyce形式、Van der Waals形式等を用いることができる。なお、等方性ひずみエネルギー関数は、これには限定されない。なお、ひずみエネルギー関数の異方性の項は、等方性ひずみエネルギー関数としても用いる形式に対応した形式とすることが好ましい。つまり、等方性のひずみエネルギー関数に異方性の体積項または、体積項及び偏差項を加えることで、異方性のひずみエネルギー関数を構築することができる。
ここで、Mooney−Rilin形式を用いた場合、本実施形態のひずみエネルギー関数は、下記(式8)となる。なお、下記(式8)中、C10、C01、D、μ、α、β、ω、Dは、モデルの構成、形状、材料に基づいて決定されるパラメータである。各パラメータは、モデルに対応した試験(材料パラメータ実験試験や、シミュレーション対象の複合材料の数値解析結果)を用いて同定する。
Figure 0005636856
これに対して、等方性のひずみエネルギー関数に、Mooney−Rilin形式を用い、かつ、異方性関数の体積項を用いない場合のひずみエネルギー関数は、下記(式9)となる。
Figure 0005636856
なお、等方性のひずみエネルギー関数として、Neo−Hookean形式を用いた場合、本実施形態のひずみエネルギー関数は、下記(式10)となる。
Figure 0005636856
次に、本実施形態のひずみエネルギー関数を用いた変形解析について、図3から図7を用いて説明する。ここで、図3は、異方性挙動を示すエラストマー構造体のモデルを模式的に示す斜視図である。また、図4は、異方性挙動を示すエラストマー構造体のモデルの変形を模式的に示す斜視図であり、図5は、図4に示すモデルの正面図である。また、図6は、異方性挙動を示すエラストマー構造体のモデルの従来の変形を模式的に示す斜視図であり、図7は、図6に示すモデルの正面図である。
以下では、図3に示す構造体モデル100を解析対象とした場合について説明する。ここで、構造体モデル100は、補強材の配向方向が矢印102である。また、構造体モデル100は、ゴムにスチールコードが挿入されている構造物、つまり、母材と介在物の構成が著しくことなる構造物のモデルである。また、本実施形態では、構造体モデル100が、矢印104の方向、つまり、補強材の配向方向に1軸伸長試験を行った場合について、解析を行った。
モデル解析装置50により、本実施形態のひずみ関数エネルギー、例えば、上記(式8)のひずみエネルギー関数を用いて、構造体モデル100の1軸伸長試験を解析すると、解析して算出される解析結果は、図4及び図5に点線で示すモデル112となる。ここで、モデル112は、構造体が引っ張られる方向の長さが、モデル100よりも長くなる。また、モデル112は、引っ張り方向に直交する方向の面積が、モデル100よりも小さくなる、つまり、引っ張り方向に直交する方向には、収縮する。このモデル112は、ポワソン比が正の変形となり、物理的に整合な状態となる。
これに対して、モデル解析装置50により、異方性関数の体積項を考慮しないひずみ関数エネルギー、例えば、上記(式9)のひずみエネルギー関数を用いて、構造体モデル100の1軸伸長試験を解析すると、解析して算出される解析結果は、図6及び図7に点線で示すモデル122となる。ここで、モデル122は、構造体が引っ張られる方向の長さが、モデル100よりも長くなる。また、モデル122は、引っ張り方向に直交する方向の面積が、モデル100よりも大きくなる、つまり、引っ張り方向に直交する方向に膨張する。このため、モデル122は、ポワソン比が負の変形となり、モデル100よりも体積が大きくなってしまい、物理的に不整合な状態となる。
このように、ひずみエネルギー関数に異方性関数の不変量を使用した体積項を用いることで、異方性挙動を示す構造体の変形をより適切に解析することができる。具体的には、第4擬似不変量I、右コーシーグリーン変形テンソルの第5擬似不変量I、あるいは、第4擬似不変量及び第5擬似不変量の少なくとも一方の偏差成分と、体積変化量Jまたは第3不変量Iと、を乗じた項を用いることで、力が作用する方向に直交する方向の変形も適切に解析することができ、構造体の解析をより正確に解析することができる。また、異方性挙動を示す構造体の変形等をより正確に解析できることで、異方性挙動を示す構造体を含有する構造体の解析をより高い精度で解析することができる。例えば、異方性挙動を示す補強ベルト等を含有する空気入りタイヤの変形等をより高い精度で解析することができる。
なお、上記実施形態では、ひずみエネルギー関数に等方性関数の項を含む式としたが、本発明はこれに限定されない。ひずみエネルギー関数は、等方性関数の項を含まない式とすることもできる。また、異方性関数の偏差項も必ずしも含まなくてもよい。なお、上記実施形態のように、等方性関数の体積項と偏差項、異方性関数の体積項と偏差項を備えるひずみエネルギー関数を用いることで、より高い精度での解析が可能となる。
また、異方性関数の偏差項としては、本実施形態のように、右コーシーグリーン変形テンソルの第4擬似不変量、右コーシーグリーン変形テンソルの第5擬似不変量、あるいは、前記第4擬似不変量及び前記第5擬似不変量の少なくとも一方で構成された項を含むものを用いることが好ましい。
また、ひずみエネルギー関数は、上述したように、右コーシーグリーン変形テンソルの各項で構成された、体積項、偏差項を用いることが好ましいが、これに限定されず、異方性関数の体積項を含む各種ひずみエネルギー関数を用いることができる。
また、ひずみエネルギー関数としては、異方性超弾性ひずみエネルギー関数を含むことが好ましい。つまり、異方性超弾性ひずみエネルギー関数に異方性関数の体積項を加えることが好ましい。これにより、より適切に解析を行うことができる。
次に、モデル解析装置50による解析処理の工程(手順)について説明する。ここで、図8は、解析装置による処理工程の一例を示すフロー図である。まず、モデル解析装置50は、ステップS101として、モデル作成部51により、解析対象の構造体のモデルを作成する。具体的には、構造体モデルの外形形状を作成し、その後、構造体モデルを複数の3次元要素に分割して、解析可能なモデルとする。なお、構造体モデルは、1つの部材で構成したモデルでも、複数の部材を組み合わせたモデルとしてもよい。また、複数の部材を1つの部材に近似したモデルとしてもよい。
モデル解析装置50は、ステップS101でモデルを作成したら、ステップS102として、演算式決定部52により、構造体モデルの解析に用いる演算式、つまり、ひずみエネルギー関数を決定する。なお、使用するひずみエネルギー関数は、予め設定されているひずみエネルギー関数を一義的に選択しても、構造体モデルの条件に基づいて、選択してもよい。
モデル解析装置50は、ステップS102で演算式を決定したら、ステップS103として、パラメータ決定部53により、パラメータを決定する。つまり、ステップS102で決定したひずみエネルギー関数のパラメータをモデルの条件に基づいて決定する。つまり、パラメータ決定部53は、構造体モデルの条件と、予め算出してある数値材料試験の結果等を比較して、ひずみエネルギー関数のパラメータの同定を行う。
以下、図9から図11を用いて、パラメータの同定について説明する。ここで、図9は、異方性部材を含有するエラストマー構造体のモデルを模式的に示す斜視図であり、図10は、異方性部材のモデルを模式的に示す斜視図である。また、図11は、エラストマー構造体のモデルと計測値との応力とひずみとの関係を示すグラフである。
図9に示すエラストマー構造体のモデルは、補強コードの母材のソリッドモデルである母材ソリッドモデル210と、補強コードの撚り線を構成する複数のモノフィラメント素線のソリッドモデルである素線ソリッドモデル221とで構成される。なお、複数の素線ソリッドモデル221により撚り線のソリッドモデルである撚り線ソリッドモデル220が構成される。
母材ソリッドモデル210は、直方体形状であり、両端面210Ta、210Tbに、複数の素線ソリッドモデル221の両端面が現れる孔211が設けられる。図10に示すように、撚り線ソリッドモデル220は、複数本(本実施形態では3本)の素線ソリッドモデル221が螺旋状に撚り合わされて構成される。また、本実施形態では、エラストマー構造体のモデルを、異方性超弾性材料とする。
モデル解析装置50は、図9に示すようなエラストマー構造体のモデルを用いて、数値材料試験を行い、試験結果として応力とひずみとの関係の記憶しておく。モデル解析装置50は、パラメータの決定時に、パラメータを調整しつつ、ひずみエネルギー関数を用いて、応力とひずみとの関係を算出し、この数値材料試験と、ひずみエネルギー関数による算出結果とを比較することで、パラメータを同定する。具体的には、モデル解析装置50は、図11に示すように、数値材料試験の結果と、本実施形態のひずみエネルギー関数を用いて算出した異方性超弾性材料の算出結果とが一致するパラメータを算出し、算出したパラメータを同定したパラメータとする。
なお、母材ソリッドモデル210は、マルチスケールシミュレーションに適したエラストマー構造体モデルを作成するという観点からは直方体形状であることが好ましいが、複数の母材ソリッドモデル210を組み合わせたとき、隙間なく組み合わせることができる形状であればよい。このような形状としては、例えば、正六角柱形状があり、母材ソリッドモデル210を正六角柱形状としてもよい。
モデル解析装置50は、ステップS103でパラメータを決定したら、ステップS104として、解析部54により構造体モデルの解析を行う。具体的には、ステップS102で決定し、ステップS103でパラメータを決定したひずみエネルギー関数を用いて、構造体モデルの解析を行う。なお、解析部54は、ひずみエネルギー関数に加え、数値計算に必要な各種条件(材料定数、収束条件等)を用いて、構造体モデルの解析を行う。モデル解析装置50は、ステップS104で解析を行ったら、解析結果を出力し、処理を終了する。なお、構造体の解析として、例えば、変形解析、振動解析等、種々の解析を行うことができる。また、構造体としてタイヤを用いる場合は、転動解析、振動解析等を行うことができる。モデル解析装置50は、以上のようにして、構造体のシミュレーションを行う。
ここで、ひずみエネルギー関数の各パラメータは、少なくとも2つのモードの数値材料試験結果から同定することが好ましい。これにより、シミュレーションを高精度で実施することができる。ここで、少なくとも2つのモードとしては、1方向補強構造の場合、補強方向と反補強方向の1軸伸長モードを含むことが好ましい。また、数値材料試験は,少なくとも2つ以上の材料で構成される不均質な構造を有限要素でモデル化したモデルの数値解析とすることが好ましい。これにより、複合部材の解析を近似して行うことができる。例えば、タイヤベルト材のモデルの場合、上記実施形態のように、撚り構造モデルの試験結果を同定の対象とすることが好ましい。また、モデル解析装置50は、パラメータを同定するために必要なだけの変形モードの数値材料試験を予め実施し、記憶しておくことが好ましい。また、モデル解析装置50は、数値材料試験を解析時に行い、パラメータを決定してもよい。
また、モデル解析装置50は、異方性挙動を示す構造体を適切に解析できることで、マルチスケールシミュレーションをより高い精度で行うことができる。ここで、マルチスケールシミュレーションとは、ミクロ構造とマクロ構造とを連携させて解析することを可能にするものである。マルチスケールシミュレーションでは、例えば、顕微鏡レベルの材料の現象と、構造全体の現象とを関連付けて解析を行うような、桁違いにスケールが異なる2つの事象が関連し合っている問題を解析する。
マルチスケールシミュレーションは、公知の汎用有限要素解析ソルバー、例えばABAQUS、Inc社製汎用有限要素解析プログラムを用いることができる。タイヤにおけるマルチスケールシミュレーションの一例としては、例えば、不均質材料の力学特性を求めるためのミクロモデルを用いたシミュレーション、例えば、不均質材料の一軸引張、圧縮試験等の引張、圧縮試験のシミュレーションが実行され、また、ゴム材料で構成されたタイヤを構造体としたタイヤのマクロモデルを用いた力学挙動のシミュレーションが実行される。したがって、本実施形態のモデル解析装置50を用い、不均質材料である異方性部材を含有する構造体を高い精度で解析できることで、マクロモデルを高い精度で解析することができる。
具体的には、タイヤを解析対象の構造体とした場合、エラストマー構造体である補強コード、あるいはトレッドゴムやビードゴム等のゴム材料を不均質材料(異方性挙動を示す構造体、または異方性部材)とし、マクロモデルとしてタイヤモデルが作成される。そして、タイヤへの内圧充填の力学挙動を再現する内圧充填シミュレーションや、内圧が充填されたタイヤを地面に押し付けて荷重を負荷したときの力学挙動を再現する接地シミュレーションが実行される。このとき、本実施形態のモデル解析装置50を用い、構造体の解析を行うことで高い精度でモデルの解析を行うことができる。
さらに、構造体の上記力学挙動時、不均質材料のミクロ領域がどのような挙動を示しているかを再現するために、ミクロモデルを用いた力学挙動のシミュレーションを実行する場合、例えば、マクロモデルを用いたシミュレーション結果をミクロモデルに与えて、ミクロモデルにおける応力やひずみ等を計算する場合に、より高い精度で解析を実行することができる。
なお、構造体としては、タイヤの一部を対象とすることができ、例えば、エラストマー構造体として、補強コード(例えば、補強ベルトやカーカス等)を対象とすることができる。ここで、補強コードは、母材(例えば、ゴム)と、複数のモノフィラメント素線を撚った撚り線とが組み合わされて構成される。また、補強コードは、有機繊維コード、スチールコード、ガラスコードを含む。また、モノフィラメントは、エラストマー構造体を構成する1本の要素である。例えば、補強コードがスチールコードである場合、モノフィラメントは各素線である。また、このような補強コードを、異方性挙動を示す部材として、補強コードが埋め込まれた構造物(例えば、タイヤ等)を解析対象とすることもできる。
また、モデル解析装置50は、構造体として、本実施形態のように、異方性挙動を示すエラストマーを用いることが好ましい。これにより、異方性のエラストマーの有限変形解析を精度良く実施することができる。また、異方性のエラストマーとしては、ゴム製品(タイヤ、ホース、繊維配向ゴム等)や生体材料が例示される。
さらに、モデル解析装置50は、本実施形態のように、構造体をタイヤとし、タイヤのシミュレーション(解析)を行うことが好ましい。これにより、異方性挙動を示すタイヤのFEM解析を精度良く実施することができる。
以上のように、本発明に係る構造体モデルのシミュレーション方法は、タイヤの補強材である補強コードのような異方性挙動を示すエラストマー構造体を、コンピュータで解析することに有用である。
1 タイヤ
2 カーカス
3 ベルト
4 ベルトカバー
50 モデル解析装置(エラストマー構造体モデルの解析装置)
50m 記憶部
50p 処理部
51 モデル作成部
52 演算式決定部
53 パラメータ決定部
54 解析部

Claims (8)

  1. 異方性挙動を示す構造体をソリッド要素でモデル化するモデル化ステップと、
    前記モデル化ステップでモデル化した構造体のモデルを、異方性関数の不変量を使用した体積項を含むひずみエネルギー関数を用いて解析する演算処理ステップと、を有し、
    前記ひずみエネルギー関数Wは、等方性関数の偏差項と、等方性関数の体積項と、異方性関数の偏差項に加え、異方性関数の体積項を含み、偏差項を「dev」で示し、体積項を「vol」で示し、等方性ひずみエネルギー関数を「iso」で示し、異方性ひずみエネルギー関数を「aniso」で示す場合、下記式(1)で表すことができる関数とし、
    Figure 0005636856
    前記異方性関数の体積項は、右コーシーグリーン変形テンソルの第4擬似不変量、右コーシーグリーン変形テンソルの第5擬似不変量、あるいは、前記第4擬似不変量及び前記第5擬似不変量の少なくとも一方の偏差成分と、体積変化率または右コーシーグリーン変形テンソルの第3不変量と、を乗じた項を含み、
    右コーシーグリーン変形テンソルをCとし、構造テンソルをMとした時、
    第4擬似不変量I は、I =tr(CM)となり、
    第5擬似不変量I は、I =tr(Cof(CM))となり、
    体積変化率Jは、J=det(C)となり、
    さらに、第4擬似不変量の偏差成分は、下記(式2)となり、
    Figure 0005636856
    第5擬似不変量の偏差成分は、下記(式3)となり、
    Figure 0005636856
    右コーシーグリーン変形テンソルCは、変形勾配テンソルをFとしたとき、C=F Fと表すことができ、
    変形勾配テンソルFは、変形前の座標をX,変形後の座標をxとした時、下記(式4)となり、
    Figure 0005636856
    構造テンソルMは、補強方向を表す1階の単位テンソルをaとした時、下記(式5)となる
    Figure 0005636856
    ことを特徴とする構造体のシミュレーション方法。
  2. 前記ひずみエネルギー関数は、異方性関数の偏差項として、右コーシーグリーン変形テンソルの第4擬似不変量、右コーシーグリーン変形テンソルの第5擬似不変量、あるいは、前記第4擬似不変量及び前記第5擬似不変量の少なくとも一方の偏差成分で構成された項を含むことを特徴とする請求項1に記載の構造体のシミュレーション方法。
  3. 前記演算処理ステップは、前記ひずみエネルギー関数として、異方性超弾性ひずみエネルギー関数を用いることを特徴とする請求項1または2記載の構造体のシミュレーション方法。
  4. 前記演算処理ステップは、前記ひずみエネルギー関数のパラメータを、少なくとも2つのモードの数値材料試験結果に基づいて同定することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の構造体のシミュレーション方法。
  5. 前記構造体は、異方性部材及び前記異方性部材を含有するエラストマー部とで構成されることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の構造体のシミュレーション方法。
  6. 前記構造体は、異方性挙動を示すエラストマーであることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の構造体のシミュレーション方法。
  7. 前記構造体のモデルは、車両に装着するタイヤの少なくとも一部のモデルであることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の構造体のシミュレーション方法。
  8. 前記演算処理ステップは、前記構造体のモデルの解析に用いるひずみエネルギー関数を決定する演算式決定ステップと、
    前記ひずみエネルギー関数のパラメータを決定するパラメータ決定ステップと、
    前記パラメータ決定ステップでパラメータを決定した前記ひずみエネルギー関数を用いて、前記構造体のモデルを解析する解析ステップと、を有することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の構造体のシミュレーション方法。
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