ところで、インバータ回路のスイッチ素子に電界効果トランジスタ(FET)を用いる場合、モータ回転時に電界効果トランジスタのドレイン−ソース間に電流が流れる。モータの高速回転時には、ドレイン−ソース間を流れる電流も大きくなる。この電流が過大である場合、電界効果トランジスタが破損するおそれがある。
本発明は、スイッチ素子として電界効果トランジスタが用いられたインバータ回路と、このインバータ回路に電気的に接続されたモータと、電界効果トランジスタのスイッチング作動を制御する制御手段を備えたモータ制御装置において、モータが高速回転している時に電界効果トランジスタに過大な電流が流れることに起因する電界効果トランジスタの破損を防止することを、その目的とする。
本発明のモータ制御装置は、直流電源に接続され、スイッチ素子として電界効果トランジスタが用いられたインバータ回路と、前記インバータ回路に電気的に接続されたモータと、前記電界効果トランジスタのスイッチング作動を制御する制御手段とを備える。さらに本発明のモータ制御装置は、前記モータに流れる相電流の飽和電流が前記電界効果トランジスタの最大電流以下の電流となるように、前記飽和電流を調整する飽和電流調整手段を含む。
インバータ回路からモータの各相に流れる相電流は、モータが高速で回転すればするほど大きくなり、やがて飽和する。飽和したときの電流を、本明細書では飽和電流と呼ぶ。また、電界効果トランジスタには、その種類によって、破損することなく流すことができる電流の大きさが定められる。破損することなく流すことができる電流の最大値を、本明細書では最大電流と呼ぶ。よって、電界効果トランジスタに最大電流よりも大きい電流が流れた場合、電界効果トランジスタが破損する場合がある。
モータにはインバータ回路が電気的に接続されているので、モータに流れる相電流はインバータ回路にも流れる。本発明によれば、モータに流れる相電流の飽和電流が電界効果トランジスタの最大電流以下の電流となるように、飽和電流が調整されるので、電界効果トランジスタには、最大電流よりも大きい電流は流れない。その結果、電界効果トランジスタに過大な電流が流れることによる電界効果トランジスタの破損が防止される。
前記モータは複数の相を持つのがよい。好ましくは、前記モータは3相モータであるのがよい。
前記飽和電流調整手段は前記モータの電機子コイルであるのがよい。そして、前記電機子コイルは、前記飽和電流が前記最大電流以下の電流となるように、そのインダクタンスが設定されるものであるのがよい。
飽和電流の大きさは、電流の通電経路のインダクタンスに依存する。具体的には、通電経路のインダクタンスが大きくなればなるほど、飽和電流は小さくなる。本発明によれば、電機子コイルのインダクタンスの大きさの設定により、モータが高速回転してモータの各相に流れる相電流が飽和している場合であっても、その飽和電流が電界効果トランジスタの最大電流以下の電流となるように、飽和電流が調整される。よって、電界効果トランジスタには最大電流よりも大きい電流は流れない。このため、電界効果トランジスタに過大な電流が流れることによる電界効果トランジスタの破損が防止される。
また、前記飽和電流調整手段は、前記インバータ回路と前記モータの電機子コイルとの間の通電経路のインダクタンスを変更するインダクタンス変更手段と、前記モータが予め定められた閾値回転速度よりも高い回転速度で回転しているときには、前記モータの飽和電流が前記最大電流以下の電流となるように、前記インダクタンス変更手段を制御するインダクタンス制御手段と、を備える。
本発明によれば、モータの回転速度が閾値回転速度よりも高いときに、モータの飽和電流が電界効果トランジスタの最大電流以下の電流となるように、インバータ回路とモータの電機子コイルとの間の通電経路のインダクタンスが変更制御される。そのため、モータが高速回転してモータの各相に流れる相電流が飽和している場合であっても、電界効果トランジスタには最大電流よりも大きい電流は流れない。その結果、電界効果トランジスタに過大な電流が流れることによる電界効果トランジスタの破損が防止される
この場合、前記インダクタンス変更手段は、予め定められた大きさのインダクタンスを持つ追加コイルと、前記インバータ回路と前記モータの電機子コイルとの電気的な接続状態を、前記追加コイルを介して前記インバータ回路と前記モータの電機子コイルとを接続する第1接続状態と、前記追加コイルを介さずに前記インバータ回路と前記モータの電機子コイルとを接続する第2接続状態とに選択的に切り替える接続状態切替手段と、を備える。そして、前記インダクタンス制御手段は、前記モータが前記閾値回転速度よりも高い回転速度で回転しているときには、前記インバータ回路と前記モータの電機子コイルとの電気的な接続状態が前記第1接続状態であり、前記モータが前記閾値回転速度よりも低い回転速度で回転しているときには、前記インバータ回路と前記モータの電機子コイルとの電気的な接続状態が前記第2接続状態であるように、前記接続状態切替手段を制御する。
この発明によれば、モータが閾値回転速度よりも高い回転速度で回転しているときは、インバータ回路とモータとの間に追加コイルが介在した通電経路が形成される。追加コイルの介在によって、電流の通電経路のインダクタンスが増加する。インダクタンスの増加により飽和電流が低下する。飽和電流の低下により、モータの高速回転時に電界効果トランジスタに流れる電流が最大電流を越えることが防止される。
前記追加コイルのインダクタンスは、インバータ回路とモータの電機子コイルとの間の電気的な接続状態が第1接続状態であるときに、相電流の飽和電流が電界効果トランジスタの最大電流以下の電流となるように、予め所定の値に設定されているものであるのがよい。
前記閾値回転速度は、インバータ回路とモータの電機子コイルとの間の電気的な接続状態が第2接続状態であるときにモータが回転した場合において、その回転速度が閾値回転速度よりも低い場合に、モータに流れる相電流が最大電流よりも小さくなるように、予め決められるとよい。
また、モータが例えばU相、V相およびW相を持つ3相モータである場合、モータ内にU相電機子コイル、V相電機子コイルおよびW相電機子コイルが設けられている。このような3相モータが用いられる場合、前記追加コイルは、それぞれの電機子コイルに対応した追加コイル(U相追加コイル、V相追加コイル、W相追加コイル)からなる。そして、前記第1接続状態である場合、U相追加コイルを介してインバータ回路とU相電機子コイルが接続され、V相追加コイルを介してインバータ回路とV相電機子コイルが接続され、W相追加コイルを介してインバータ回路とW相電機子コイルが接続される。第2接続状態である場合は、これらの追加コイルはインバータ回路と各電機子コイルとの間の通電経路から遮断される。
また、前記制御手段は、前記モータが予め定められた閾値回転速度よりも高い回転速度で回転しているときに、前記電界効果トランジスタのスイッチング作動頻度が減少するように、前記電界効果トランジスタのスイッチング作動を制御するものであるのがよい。
電界効果トランジスタがスイッチング作動するとき、サージ電流が発生する場合がある。したがって、サージ電流の影響により、電界効果トランジスタに流れる電流が最大電流を越えるおそれがある。特にモータが高速回転して相電流が飽和しているときには、飽和電流調整手段によって飽和電流を最大電流以下の電流となるように調整した場合であっても、飽和電流にサージ電流を加えた電流が最大電流を越える可能性が高い。この点につき、本発明によれば、モータの高速回転時に、制御手段によって、電界効果トランジスタのスイッチング作動頻度、すなわちオンオフ作動の頻度が減少される。スイッチング作動頻度の減少によりサージ電流の発生頻度が減少する。サージ電流の発生頻度を抑えることにより、電界効果トランジスタに流れる電流が最大電流を越えることが抑制される。
この場合、前記制御手段は、前記モータが前記閾値回転速度よりも高い回転速度で回転しているときに、前記電界効果トランジスタの作動状態が固定されるように、前記電界効果トランジスタのスイッチング作動を制御するのがよい。より好ましくは、前記制御手段は、前記モータが前記閾値回転速度よりも高い回転速度で回転しているときに、前記電界効果トランジスタのうち前記直流電源の正極側に接続された電界効果トランジスタの作動状態がオフ状態に固定され、前記直流電源の負極側に接続された電界効果トランジスタの作動状態がオン状態に固定されるように、前記電界効果トランジスタのスイッチング作動を制御するものであるのがよい。
これによれば、モータの高速回転時には、電界効果トランジスタの作動状態が固定される。つまりスイッチング作動が禁止される。よってサージ電流は発生しない。このため、サージ電流の影響によって電界効果トランジスタに流れる電流が最大電流を越えることが防止される。また、インバータ回路を構成する電界効果トランジスタのうち、直流電源の正極側に接続された電界効果トランジスタの作動状態をオフ状態に固定することで、直流電源からモータへの電力の供給が遮断される。また、インバータ回路を構成する電界効果トランジスタのうち、直流電源の負極側に接続された電界効果トランジスタの作動状態をオン状態に固定することで、モータの各電機子コイルが短絡接続される。これによりモータは大きな減衰力を発生する。よって、このモータ制御装置が例えば車両の電動アクティブサスペンションに適用されている場合、車両の振動が減衰力により効果的に減衰される。
なお、本明細書において、速度が「高い」とは、より高速であることを意味し、「低い」とは、より低速であることを意味する。したがって、「モータが閾値回転速度よりも高い回転速度で回転している」、あるいは、「モータの回転速度(回転角速度)が閾値回転速度(閾値回転角速度)よりも高い」とは、モータの回転速度(回転角速度)の大きさ(絶対値)が、閾値回転速度(閾値回転角速度)の大きさ(絶対値)よりも大きいことを意味する。
以下、本発明の様々な実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、各実施形態に係るモータ制御装置が用いられた電動アクティブサスペンション装置の概略図である。
この電動アクティブサスペンション装置は、各車輪にそれぞれ取り付けられた電動アクチュエータ10と、各電動アクチュエータ10に対応して設けられたインバータ回路70と、サスペンションECU50とを備える。各インバータ回路70は、車載バッテリ(直流電源)100に電気的に接続される。
各電動アクチュエータ10は、3相モータ11と、3相モータ11の回転動作を上下動作に変換する例えばボールネジ機構などの変換機構12を備える。3相モータ11は、インバータ回路70を介してバッテリ100から供給される電流により回転駆動する。3相モータ11は、サスペンションECU50がインバータ回路70の各スイッチ素子を制御することで、駆動制御される。3相モータ11、インバータ回路70およびサスペンションECU50が、本発明のモータ制御装置に相当する。
3相モータ11が回転駆動すると、その回転動作が変換機構12によって上下動作に変換される。変換機構12の上下動作により電動アクチュエータ10が伸縮する。電動アクチュエータ10の伸縮に伴い、その電動アクチュエータ10が取り付けられている車輪が上下動する。車輪がアクティブに上下動することにより、車両走行時における路面変位が車体に伝達されることが防止される。
(参考例)
図2は、図1に示す電動アクティブサスペンション装置に用いられているモータ制御装置を表す図である。このモータ制御装置は、本発明の参考例に係るモータ制御装置である。図2に示すように、モータ制御装置1は、直流電源たるバッテリ100に電気的に接続されたインバータ回路70と、3相モータ11と、サスペンションECU50とを備える。3相モータ11は、U相電機子コイルUcoil、V相電機子コイルVcoil、W相電機子コイルWcoilを持つ。各電機子コイルの一端は星型結線され、他端はそれぞれインバータ回路70に接続される。
インバータ回路70は、スイッチ素子としての電界効果トランジスタUH,UL,VH,VL,WH,WLを備える。各電界効果トランジスタには帰還ダイオードが逆並列接続される。インバータ回路70は、電界効果トランジスタUHとULが直列接続されたスイッチ直列回路と、電界効果トランジスタVHとVLが直列接続されたスイッチ直列回路と、電界効果トランジスタWHとWLが直列接続されたスイッチ直列回路が、並列接続されることにより構成される。電界効果トランジスタUH,VH,WHのドレイン側はバッテリ100の正極側に接続される。また、電界効果トランジスタUL,VL,WLのソース側、およびバッテリ100の負極側がボディアースされる。これにより、電界効果トランジスタUL,VL,WLのソース側、およびバッテリ100の負極側が同電位とされ、実質的に、電界効果トランジスタUL,VL,WLのソース側がバッテリ100の負極側に接続される。
電界効果トランジスタUHのソースと電界効果トランジスタULのドレインとの間を結ぶ配線部分UPに、3相モータ11のU相電機子コイルUcoilが接続される。電界効果トランジスタVHのソースと電界効果トランジスタVLのドレインとの間を結ぶ配線部分VPに、3相モータ11のV相電機子コイルVcoilが接続される。電界効果トランジスタWHのソースと電界効果トランジスタWLのドレインとの間を結ぶ配線部分WPに、3相モータ11のW相電機子コイルWcoilが接続される。
各電界効果トランジスタのゲートはサスペンションECU50に電気的に接続される。サスペンションECU50から各電界効果トランジスタのゲートに制御信号が出力されることにより、各電界効果トランジスタのスイッチング作動が制御(例えばデューティ制御)される。
サスペンションECU50は、RAM,ROM,CPUなどからなるマイクロコンピュータにより構成され、インバータ回路70を介して3相モータ11を駆動制御することにより、電動アクチュエータ10の動作を制御する。また、サスペンションECU50には、様々なセンサが接続されている。例えば、車体の上下加速度を検出する上下加速度センサや、電動アクチュエータ10の基準位置からの伸縮変位量(ストローク変位量)を検出するストロークセンサや、3相モータ11の回転角度を検出する回転角センサが、サスペンションECU50に取り付けられている。サスペンションECU50は、これらセンサの検出値に基づき、内部のROMなどに記憶されている所定の制御ルーチン(例えば乗り心地制御ルーチンや操向安定性制御ルーチン)を実行して、3相モータ11に流すべき目標電流を演算する。そして、3相モータ11に目標電流が流れるように、インバータ回路70の各電界効果トランジスタに制御信号を出力する。各電界効果トランジスタは制御信号を受けてスイッチング作動する。このような各電界効果トランジスタのスイッチング作動の制御によって3相モータ11が駆動制御される。
なお、3相モータ11の電圧方程式は一般に、下記(1)式により表される。
ただし、
(1)式をd,q軸座標系に変換した場合、電圧方程式は、(2)式のように表される。
ただし、
(2)式をd軸電流idおよびq軸電流iqについて整理し、ラプラス変換することにより、d軸電流Id(s)およびq軸電流Iq(s)が、(3)式のように表される。
また、3相モータ11により発生されるトルクTe(s)は、下記(4)式により表される。
(3)式および(4)式において、Lapはラプラス変換を表す。
電動アクチュエータ10のストローク速度(ストローク変位量の時間微分値)が高速になると、3相モータ11も高速で回転する。3相モータ11が高速で回転すると、3相モータ11に流れる相電流も大きくなる。
図3は、電動アクチュエータ10のストローク速度に対する相電流の変化特性を表すグラフである。図からわかるように、ストローク速度が増加すると、相電流も増加する。また、電機子コイルのインピーダンス(誘導リアクタンス)は回転角速度ωが高ければ高いほど(ストローク速度が高ければ高いほど)大きくなる。電機子コイルのインピーダンスは抵抗として作用する。そのため、ストローク速度が増加するにつれて、相電流の増加率は、電機子コイルのインピーダンスの影響により小さくなる。そして、相電流はある値に飽和する。飽和した相電流を本明細書では飽和電流Isatと呼ぶ。飽和電流Isatは、3相モータ11のモータ特性から、予め求められる。
3相モータ11の各電機子コイルに流れる相電流は、インバータ回路70の各電界効果トランジスタにも流れる。電界効果トランジスタは、そのドレイン−ソース間を流れる電流の最大値が最大電流Imaxとして定められており、最大電流Imaxを越えた電流が流れた場合に、電界効果トランジスタが破損する可能性が高まる。したがって、電界効果トランジスタの破損を防止するためには、相電流の飽和電流Isatが最大電流Imax以下になるようにしなければならない。
図4および図5は、電動アクチュエータ10のストローク速度を、1秒間に0m/sから3m/sまで加速した場合における、相電流の時間変化を表すグラフである。図4は、3相モータ11のd軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqを6×e−4[H]に設定した場合における、相電流の時間変化、図5は、3相モータ11のd軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqを3×e−4[H]に設定した場合における、相電流の時間変化、をそれぞれ表す。
図4および図5からわかるように、相電流は、時間が経過するにつれて、つまり3相モータ11の回転角速度(回転速度)が増加するにつれて大きくなり、やがてある電流値に飽和する。図4に示す場合、飽和電流Isatは約50Aである。一方、図5に示す場合、飽和電流Isatは約90Aである。したがって、飽和電流Isatと電機子コイルのインダクタンスとの間に相関関係が存在することがわかる。
図6は、電機子コイルのインダクタンスに対する飽和電流Isatの変化特性を表すグラフである。このグラフからわかるように、飽和電流Isatは、インダクタンスが大きくなればなるほど小さくなる。このことから、本実施形態では、飽和電流Isatが電界効果トランジスタの最大電流Imax以下となるように、3相モータ11の各電機子コイルのインダクタンスが予め設定される。例えば、電界効果トランジスタの最大電流が60Aである場合、d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqが6×e−4[H]となるように、各電機子コイルのインダクタンスが予め設定される。こうすることにより、飽和電流Isatが50Aになる。飽和電流が50Aである場合、インバータ回路70の各電界効果トランジスタには50Aよりも大きい電流は流れない。よって、電界効果トランジスタに60A以上の過大な電流が流れることによる電界効果トランジスタの破損が防止される。
(第1実施形態)
図7は、本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置を示す図である。このモータ制御装置は、図2にて示した参考例に係るモータ制御装置に、追加コイルおよびスイッチを付加することにより構成される。したがって、図2に示したモータ制御装置と同一の構成要素については、同一の符号で示すことにより、その具体的説明を省略する。
図7に示すように、電界効果トランジスタUHとULとの間の配線部分UPに配線HU1が接続される。配線HU1にスイッチSWUが接続される。また、3相モータ11のU相電機子コイルUcoilの他端に配線HU2が接続される。配線HU2は分岐し、一方の分岐配線HU21にはU相追加コイルLUが設けられる。他方の分岐配線HU22には何も設けられていない。スイッチSWUは、配線HU1と分岐配線HU21との接続と、配線HU1と分岐配線HU22との接続とを、選択的に切り替える。配線HU1と分岐配線HU21が接続された場合、U相電機子コイルUcoilとU相追加コイルLUが直列接続される。つまり、配線HU1と分岐配線HU21が接続された場合、インバータ回路70中の配線部分UPとモータ11のU相電機子コイルUcoilとの電気的な接続状態が、U相追加コイルLUを介して両者が接続される第1接続状態になる。一方、配線HU1と分岐配線HU22が接続された場合、配線部分UPとU相電機子コイルUcoilとの間の通電経路からU相追加コイルLUが遮断される。つまり、配線HU1と分岐配線HU22が接続された場合、インバータ回路70中の配線部分Upとモータ11のU相電機子コイルUcoilとの電気的な接続状態が、U相追加コイルLUを介さずに両者が接続される第2接続状態になる。したがって、スイッチSWUは、インバータ回路70の配線部分UPと3相モータ11のU相電機子コイルUcoilとの電気的な接続状態を、第1接続状態と第2接続状態とに選択的に切り替える接続状態切替手段である。
電界効果トランジスタVHとVLとの間の配線部分VPに配線HV1が接続される。配線HV1にスイッチSWVが接続される。また、3相モータ11のV相電機子コイルVcoilの他端に配線HV2が接続される。配線HV2は分岐し、一方の分岐配線HV21にはV相追加コイルLVが設けられる。他方の分岐配線HV22には何も設けられていない。スイッチSWVは、配線HV1と分岐配線HV21との接続と、配線HV1と分岐配線HV22との接続とを、選択的に切り替える。配線HV1と分岐配線HV21が接続された場合、V相電機子コイルVcoilとV相追加コイルLVが直列接続される。つまり、配線HV1と分岐配線HV21が接続された場合、インバータ回路70中の配線部分VPとモータ11のV相電機子コイルVcoilとの電気的な接続状態が、V相追加コイルLVを介して両者が接続される第1接続状態になる。一方、配線HV1と分岐配線HV22が接続された場合、配線部分VPとV相電機子コイルVcoilとの間の通電経路からV相追加コイルLVが遮断される。つまり、配線HV1と分岐配線HV22が接続された場合、インバータ回路70中の配線部分Vpとモータ11のV相電機子コイルVcoilとの電気的な接続状態が、V相追加コイルLVを介さずに両者が接続される第2接続状態になる。したがって、スイッチSWVは、インバータ回路70の配線部分VPと3相モータ11のV相電機子コイルVcoilとの電気的な接続状態を、第1接続状態と第2接続状態とに選択的に切り替える接続状態切替手段である。
電界効果トランジスタWHとWLとの間の配線部分WPに配線HW1が接続される。配線HW1にスイッチSWWが接続される。また、3相モータ11のW相電機子コイルWcoilの他端に配線HW2が接続される。配線HW2は分岐し、一方の分岐配線HW21にはW相追加コイルLWが設けられる。他方の分岐配線HW22には何も設けられていない。スイッチSWWは、配線HW1と分岐配線HW21との接続と、配線HW1と分岐配線HW22との接続とを、選択的に切り替える。配線HW1と分岐配線HW21が接続された場合、W相電機子コイルWcoilとW相追加コイルLWが直列接続される。つまり、配線HW1と分岐配線HW21が接続された場合、インバータ回路70中の配線部分WPとモータ11のW相電機子コイルWcoilとの電気的な接続状態が、W相追加コイルLWを介して両者が接続される第1接続状態になる。一方、配線HW1と分岐配線HW22が接続された場合、配線部分WPとW相電機子コイルWcoilとの間の通電経路からW相追加コイルLWが遮断される。つまり、配線HW1と分岐配線HW22が接続された場合、インバータ回路70中の配線部分Wpとモータ11のW相電機子コイルWcoilとの電気的な接続状態が、W相追加コイルLWを介さずに両者が接続される第2接続状態になる。したがって、スイッチSWWは、インバータ回路70の配線部分WPと3相モータ11のW相電機子コイルWcoilとの電気的な接続状態を、第1接続状態と第2接続状態とに選択的に切り替える接続状態切替手段である。
また、各スイッチが、インバータ回路70と各電機子コイルとの電気的な接続状態を、第1接続状態と第2接続状態とに選択的に切り替えることにより、インバータ回路70と各電機子コイルとの間の通電経路のインダクタンスが追加コイルの有無により変化する。したがって、各スイッチおよび各追加コイルは、上記通電経路のインダクタンスを変更するインダクタンス変更手段である。
各スイッチSWU,SWV,SWWの作動はサスペンションECU50により制御される。本実施形態では、サスペンションECU50は、モータ11の回転角速度に基づいて各スイッチSWU,SWV,SWWを制御する。図8は、各スイッチSWU,SWV,SWWの作動を制御するためにサスペンションECU50が実行するスイッチ制御ルーチンの一例を表すプログラムフローチャートである。この制御ルーチンは、車両のイグニッションスイッチがON状態であるときに、所定の短時間ごとに繰り返し実行される。
スイッチ制御ルーチンが起動すると、サスペンションECU50は、まず図のステップ(以下、ステップ番号をSと略記する)10にて、各電動アクチュエータ10の3相モータ11に取り付けられている回転角センサが検出した3相モータ11の回転角θを入力する。次いで、S11にて、入力した回転角θを時間微分することにより、回転角速度(回転速度)ωを演算する。続いてサスペンションECU50はS12にて、演算した回転角速度ωが閾値回転角速度(閾値回転速度)ωthよりも高いか否かを判断する。閾値回転角速度は、以下のようにして、予め求められる。
図9は、3相モータ11の回転角速度ωに対する相電流の変化特性を表すグラフである。このグラフの横軸は回転角速度ωであり、縦軸は相電流である。また、グラフ中、線Aは、インバータ回路70と3相モータ11の各電機子コイルとの電気的な接続状態が全て第1接続状態である場合における相電流の変化特性を表し、線Bは、インバータ回路70と3相モータ11の各電機子コイルとの電気的な接続状態が全て第2接続状態である場合における相電流の変化特性を表す。このグラフからわかるように、第1接続状態である場合も第2接続状態である場合も、回転角速度ωが高くなればなるほど相電流は大きくなるが、回転角速度ωが増加するにつれて相電流の増加率が減少し、やがて相電流は飽和する。また、第1接続状態である場合は、各電機子コイルに各追加コイルが直列接続されるために、各追加コイルが通電経路から遮断される第2接続状態である場合に比較して、通電経路のインダクタンスが大きい。このため、第1接続状態である場合における相電流の飽和電流Isat1は、第2接続状態である場合における相電流の飽和電流Isat2より小さい。
また、グラフの縦軸中、Imaxで示される電流の大きさは、インバータ回路70を構成する電界効果トランジスタの最大電流を表す。第1接続状態である場合、相電流の飽和電流Isat1は最大電流Imaxよりも小さい。一方、第2接続状態である場合、相電流の飽和電流Isat2は最大電流Imaxよりも大きい。
閾値回転角速度ωthは、インバータ回路70と3相モータ11の各電機子コイルとの電気的な接続状態が全て第2接続状態である場合における相電流の変化特性(線B)から求められる。具体的には、インバータ回路70と3相モータ11の各電機子コイルとの電気的な接続状態が全て第2接続状態であるときに3相モータに流れる相電流が最大電流Imaxに等しいときの回転角速度が、閾値回転角速度ωthとして求められる。
サスペンションECU50は、図8のS12にて、回転角速度ωが閾値回転角速度ωth以下であると判断した場合(S12:No)、S14に進み、インバータ回路70と3相モータ11の各電機子コイルとの電気的な接続状態が全て第2接続状態となるように、各スイッチを制御する。これにより、配線HU1と分岐配線HU22が接続され、配線HV1と分岐配線HV22が接続され、配線HW1と分岐配線HW22が接続されるように、各スイッチSWU,SWV,SWWがサスペンションECU50により制御される。
一方、S12にて、回転角速度ωが閾値回転角速度ωthよりも高いと判断した場合(S12:Yes)、S13に進み、インバータ回路70と3相モータ11の各電機子コイルとの電気的な接続状態が全て第1接続状態となるように、各スイッチを制御する。これにより、配線HU1と分岐配線HU21が接続され、配線HV1と分岐配線HV21が接続され、配線HW1と分岐配線HW21が接続されるように、各スイッチSWU,SWV,SWWがサスペンションECU50により制御される。その後、サスペンションECU50は、このルーチンを一旦終了する。
サスペンションECU50がこのようなスイッチ制御ルーチンを実行することにより、3相モータ11の回転角速度ωが閾値回転角速度ωth以下であるときには、インバータ回路70と3相モータ11の各電機子コイルとの電気的な接続状態が全て第2接続状態とされる。一方、回転角速度ωが閾値回転角速度ωthよりも高い(大きい)ときには、インバータ回路70と3相モータ11の各電機子コイルとの電気的な接続状態が全て第1接続状態とされる。
図10は、上述したスイッチ制御が行われた場合における、3相モータ11の回転角速度ωに対する相電流の変化特性を表すグラフである。この図からわかるように、3相モータ11の回転角速度ωが閾値回転角速度ωth以下の領域では、相電流の変化特性は、図9の線Bにより表される特性であり、回転角速度ωが閾値回転角速度ωthよりも高い領域では、相電流の変化特性は、図9の線Aにより表される特性である。
また、回転角速度ωが閾値回転角速度ωth以下の低速回転領域では、回転角速度ωが増加するにつれて相電流も大きく増加するが、相電流が最大電流Imaxを越えることはない。また、回転角速度ωが閾値回転角速度ωthよりも高い高速回転領域では、相電流が飽和するが、飽和電流Isat1が最大電流Imaxよりも小さい。したがって、この領域でも、相電流が最大電流Imaxを越えることがない。
本実施形態によれば、3相モータ11が高速回転している時(回転角速度ωが閾値回転角速度ωthよりも高い時)は、インバータ回路70の各配線部分UP,VP,WPと各電機子コイルUcoii,Vcoil,Wcoilとの電気的な接続状態が、各追加コイルLU,LV,LWを介して各配線部分UP,VP,WPと各電機子コイルUcoii,Vcoil,Wcoilとを接続する第1接続状態とされる。これにより、インバータ回路70と各電機子コイルUcoii,Vcoil,Wcoilとの間に各追加コイルLU,LV,LWが介在した通電経路が形成される。各追加コイルの介在によって、電流経路のインダクタンスが増加する。インダクタンスの増加により、相電流の飽和電流が最大電流Imaxよりも小さくされる。このため3相モータ11が高速回転している時でも相電流の飽和電流が最大電流Imaxを越えることはない。その結果、3相モータ11の高速回転時にインバータ回路70を構成する電界効果トランジスタに過大な電流が流れることによる電界効果トランジスタの破損が防止される。
なお、本実施形態では、3相モータ11の回転角速度ωが閾値回転角速度ωthよりも高いときに、各追加コイルを各電機子コイルに直列接続してインダクタンスを増加させているが、インダクタンスが過大であると、3相モータ11に流れる電流が小さすぎて所定のトルクが3相モータ11から出力されず、さらに電流の追従性が悪化するといった問題が生じる。したがって、各電機子コイルに接続されるべき各追加コイルのインダクタンスは、それを各電機子コイルに接続したときに、つまりインバータ回路70と各電機子コイルとの電気的な接続状態が全て第1接続状態であるときに、3相モータ11が所定のトルクを出力し得るような電流が3相モータ11に流れるように、設定されていると良い。好ましくは、第1接続状態であるときに、3相モータ11に流れる相電流の飽和電流Isat1が、電界効果トランジスタの最大電流Imax未満であって、且つ最大電流Imaxに非常に近い値となるように、各追加コイルのインダクタンスを設定するのが良い。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態に係るモータ制御装置の構成は、上記参考例にて説明した図2のモータ制御装置と同一の構成であるため、具体的説明は省略する。なお、本実施形態においても、3相モータ11の各電機子コイルのインダクタンスは、飽和電流Isatが最大電流Imax以下となるように、予め設定されている。
本実施形態においては、インバータ回路70の各電界効果トランジスタがスイッチング作動するときに発生するサージ電流によって、電界効果トランジスタに流れる電流が最大電流Imaxを越えることを防止するために、3相モータ11が低速で回転しているか高速で回転しているかによって、インバータ回路70を構成する電界効果トランジスタのスイッチング作動の制御が変更される。
図11は、各電界効果トランジスタのスイッチング作動を制御するためにサスペンションECU50が実行する制御ルーチンの一例を表すプログラムフローチャートである。この制御ルーチンは、車両のイグニッションスイッチがON状態であるときに、所定の短時間ごとに繰り返し実行される。
この制御ルーチンが起動すると、サスペンションECU50は、まず図のS20にて、各電動アクチュエータ10の3相モータ11に取り付けられている回転角センサが検出した回転角θを入力する。次いで、S21にて、入力した回転角θを時間微分することにより、回転角速度ωを演算する。続いてサスペンションECU50は、演算した回転角速度ωに基づいて、電動アクチュエータ10のストローク速度Vを演算し(S22)、さらに、演算したストローク速度Vが閾値速度Vthよりも高いか否かを判断する(S23)。なお、ストローク速度Vは、3相モータ11の回転角速度ωに比例する。したがって、サスペンションECU50は、S23にて、回転角速度ωが閾値回転角速度ωthよりも大きいか否かを判断してもよい。
図14は、車両が凹凸路面を走行するときに、所定の制御理論(例えばスカイフック理論)に基づいて電動アクチュエータ10を駆動制御した場合における、電動アクチュエータ10のストローク速度Vと3相モータ11に流れる相電流との関係を示したグラフである。このグラフからわかるように、ストローク速度Vが高くなるにつれて(ストローク速度の大きさが大きくなるにつれて)相電流も大きくなる。この相電流は、実際には、電界効果トランジスタのスイッチング制御により得られる制御電流に、電界効果トランジスタのスイッチング作動時(特にオンからオフへの切り替え時)に発生するサージ電流が加えられた電流である。サージ電流は、電界効果トランジスタに流される制御電流が大きいほど大きい。したがって、飽和電流Isatが電界効果トランジスタの最大電流Imax以下になるように3相モータ11の各電機子コイルのインダクタンスを設定した場合であっても、ストローク速度Vが高い場合には、サージ電流の影響が大きくなり、図に示すように相電流が最大電流Imaxを越えるおそれがある。本実施形態では、サージ電流の影響が小さい所定の電流に対応するストローク速度が閾値速度Vthとして予め定義される。また、閾値速度Vthに対応する3相モータ11の回転角速度が閾値回転角速度ωthと定義される。
サスペンションECU50は、S23にて、ストローク速度Vが閾値速度Vth以下であると判断した場合(S23:No)、S25に進み、インバータ回路70の各電界効果トランジスタを通常制御する。「通常制御」とは、例えば、スカイフック理論などの所定の制御理論に基づき、路面変位に応じて電動アクチュエータ10を伸縮作動させるべく3相モータ11を駆動するための、一般的な電界効果トランジスタのスイッチング制御である。図12に、電界効果トランジスタを通常制御した場合における、各電界効果トランジスタのスイッチングの状態を示す。図において、黒塗りで示した部分は、オン状態であることを表す。各電界効果トランジスタのスイッチングの作動を通常制御することにより、3相モータ11が所定のモータトルクを発生するように回転駆動する。
一方、S23にて、ストローク速度Vが閾値速度Vthよりも高いと判断した場合(S23:Yes)、サスペンションECU50はS24に進み、インバータ回路70の各電界効果トランジスタを短絡制御する。「短絡制御」とは、3相モータ11内の各電機子コイルが電気的に接続されるように、インバータ回路70の各電界効果トランジスタをスイッチング作動させる制御である。図13に、短絡制御した場合における各電界効果トランジスタのスイッチングの状態を示す。図において、黒塗りで示した部分は、オン状態であることを表す。この図に示すように、短絡制御時には、バッテリ100の正極側に接続された各電界効果トランジスタ(UH,VH,WH)の作動状態はオフ状態に固定され、バッテリ100の負極側に接続された各電界効果トランジスタ(UL,VL,WL)の作動状態はオン状態に固定される。
短絡制御時には、各電界効果トランジスタのスイッチング作動が停止されるので、スイッチング作動に伴うサージ電流は発生しない。また、バッテリ100の正極側に接続された各電界効果トランジスタ(UH,VH,WH)の作動状態はオフ状態に固定されるので、バッテリ100から3相モータ11への電力の供給が遮断される。さらに、バッテリ100の負極側に接続された各電界効果トランジスタ(UL,VL,WL)の作動状態はオン状態に固定されるので、3相モータ11内の各電機子コイルがバッテリ100の負極側に接続された各電界効果トランジスタ(UL,VL,WL)を介して短絡接続される。このため3相モータ11の回転に対する減衰力が発生する。この減衰力によって、電動アクチュエータ10の振動が減衰される。
図15は、本実施形態による制御を実行した場合における、ストローク速度Vと相電流との関係を表す図である。図からわかるように、ストローク速度が閾値速度Vthよりも高い場合には、短絡制御によって各電界効果トランジスタのスイッチング作動が停止されてサージ電流の発生が防止されるため、サージ電流の影響によって相電流が最大電流を越えることが防止される。
サスペンションECU50は、S24またはS25により電界効果トランジスタのスイッチング作動の制御方式を決定した後は、このルーチンを一旦終了する。
図16は、通常制御を行った場合における、相電流の大きさを示す図である。また、図17は、ストローク速度Vが閾値速度Vthよりも高いときに短絡制御を行った場合における、相電流の大きさを示す図である。これらの図の横軸は時間であり、縦軸は相電流である。両図を比較してわかるように、通常制御を行った場合(図16)、電流の最大値(絶対値)が60A付近にまで達する。これに対し、ストローク速度Vが閾値速度Vthよりも高いときに短絡制御を行った場合(図17)、電流の最大値が50A以下である。このことから、本実施形態に示した制御を実行することによってサージ電流が低減され、その結果、電界効果トランジスタに流れる電流を最大電流Imax(例えば50A)未満に抑えることができることがわかる。
以上、本発明の様々な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記第2実施形態にて説明した電界効果トランジスタのスイッチング作動制御を、上記第1実施形態にて説明したモータ制御装置に適用しても良い。この場合、第2実施形態における閾値速度Vthは、第1実施形態における閾値回転角速度ωthに対応する速度とすればよい。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、変形可能である。