高圧バッテリと車載電気機器とをDC/DCコンバータを介して接続した場合には、高圧バッテリからモータへの供給電力あるいはモータから高圧バッテリへの回生電力が増加するとDC/DCコンバータのスイッチング素子が発熱してしまう。例えば、電磁サスペンション装置においては、車両が凹凸路面を長時間走行すると、電磁アクチュエータの伸縮動作が続くため、DC/DCコンバータに双方向に大電流が長時間流れる。このため、電磁サスペンション装置は、DC/DCコンバータの過熱損傷を防止するために、アクティブ制御を中断して、モータの通電端子を相互に短絡させる相間短絡処理と、インバータからモータへの電力供給ラインを遮断するモータ開放処理とを交互に行う。しかし、こうした方法でDC/DCコンバータの過熱損傷防止を図ると、電磁サスペンション装置のストッパ当たりが発生する。サスペンション装置は、伸縮ストロークの終端を規制するストッパ部材(バウンドストッパ、リバウンドストッパ)が設けられているが、このストッパ部材が当接する状態が頻繁に発生すると、乗り心地性能やサスペンションの耐久性能の低下に繋がってしまう。
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、車両性能を低下させないように双方向性の直流電圧変換器(DC/DCコンバータ)の発熱を抑制することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、車載バッテリ(200)と車載電気機器(40,50)とを双方向性の直流電圧変換器(100)を介して接続し、前記車載バッテリから出力される電力を前記直流電圧変換器で変圧して前記車載電気機器に供給するとともに、前記車載電気機器で発生した起電力を前記直流電圧変換器で変圧して前記車載バッテリに回生させる車両用電力供給システムにおいて、
前記直流電圧変換器は、前記車載バッテリに接続される1次側巻線と前記車載電気機器に接続される2次側巻線とを有するトランス(130)と、前記1次側巻線に電流を正逆交互に流すための1次側スイッチング回路(110)と、前記2次側巻線に電流を正逆交互に流すための2次側スイッチング回路(120)とを備え、
前記1次側スイッチング回路と前記2次側スイッチング回路は、それぞれスイッチングする部位に、2つのスイッチング素子(S)を並列に接続したスイッチング素子対(111,112,113,114,121,122)を備えたことにある。
本発明の車両用電力供給システムにおいては、車載バッテリから出力される電力を直流電圧変換器で車載電気機器の作動用電圧に変換して車載電気機器に供給するとともに、車載電気機器で発生した起電力(発電電力)を直流電圧変換器で変圧して車載バッテリに回生させる。直流電圧変換器においては、トランスの1次側巻線に車載バッテリが接続され、トランスの2次側巻線に車載電気機器が接続される。1次側巻線には1次側スイッチング回路が設けられており、1次側スイッチング回路の作動により、車載バッテリから供給される電流を1次側巻線に正逆交互に流して2次側巻線に交流電力を供給する一方、2次側巻線から供給される交流電力を直流電力に変換して車載バッテリに回生させる。また、トランスの2次側巻線には2次側スイッチング回路が設けられており、2次側スイッチング回路の作動により、車載電気機器で発生した起電力で2次側巻線に電流を正逆交互に流して1次側巻線に交流電力を供給する一方、1次側巻線から供給された交流電力を直流電力に変換して車載電気機器に供給する。こうして、車載バッテリと車載電気機器との間で、所定電圧に変換された直流電力が双方向に供給される。
直流電圧変換器においては、車載バッテリと車載電気機器との間での相互の電力供給が多いと、1次側スイッチング回路および2次側スイッチング回路のスイッチング素子が発熱してしまう。車載電気機器の作動を制限すれば、スイッチング素子の過熱損傷防止を図ることができるが、車両性能が犠牲となってしまう。そこで、本発明においては、1次側スイッチング回路および2次側スイッチング回路には、それぞれスイッチングする部位に、2つのスイッチング素子を並列に接続したスイッチング素子対を備えている。スイッチング素子対を構成する2つのスイッチング素子に共通の制御信号を入力することにより、両スイッチング回路においては、電流経路が分散されて、各スイッチング素子に流れる電流が半分に低減されるため、各スイッチング素子の発熱を抑えることができる。この結果、本発明によれば、車両性能を低下させずに直流電圧変換器の過熱損傷防止を図ることができる。
本発明の他の特徴は、前記1次側スイッチング回路と前記2次側スイッチング回路とにおける各スイッチング素子対の故障を検出する故障検出手段(140,S11〜S17,S21〜S27)を備えたことにある。
スイッチング素子対を用いて1次側スイッチング回路と2次側スイッチング回路とを構成した場合には、対をなす一方のスイッチング素子がオフ故障(オフ状態に固着されてオン状態にならない故障)しても、他方のスイッチング素子が正常であれば、直流電圧変換器としては、そのまま作動を継続できるため異常を把握することができない。しかし、そうしたケースでは、他方のスイッチング素子に流れる電流が正常時に比べて2倍になるため、そのまま作動を継続させると、正常側のスイッチング素子が過熱損傷するおそれがある。そして、最終的にスイッチング素子対を構成する2つのスイッチング素子の両方が故障した場合には、直流電圧変換器としては、適正な作動を行うことができない。
そこで、本発明においては、故障検出手段が、1次側スイッチング回路と2次側スイッチング回路とにおける各スイッチング素子対の故障を検出する。これにより、スイッチング素子対の一方のスイッチング素子がオフ故障した時点で直流電圧変換器の故障を把握することができ、早い段階で対処することができる。尚、スイッチング素子対を構成するスイッチング素子の両方がオフ故障した場合、あるいは、1つでもオン故障(オン状態に固着されてオフ状態にならない故障)した場合には、直流電圧変換器が適正な作動を行えなくなり、その作動異常を検出することができるため、本発明における故障検出手段は、各スイッチング素子対を構成する2つのスイッチング素子の片側のオフ故障を検出対象とすればよい。
本発明の他の特徴は、前記故障検出手段は、前記車載バッテリと前記1次側スイッチング回路との間を流れる1次側電流値を表す1次側トータル電流情報を取得する1次側トータル電流取得手段(156,S11)と、前記1次側スイッチング回路に設けられた各スイッチング素子対における片側のスイッチング素子に流れる電流値を表す1次側片側素子電流情報を取得する1次側片側素子電流取得手段(151,152,153,154,S11)と、前記車載電気機器と前記2次側スイッチング回路との間を流れる2次側電流値を表す2次側トータル電流情報を取得する2次側トータル電流取得手段(158,S21)と、前記2次側スイッチング回路に設けられた各スイッチング素子対における片側のスイッチング素子に流れる電流値を表す2次側片側素子電流情報を取得する2次側片側素子電流取得手段(161,162,S21)と、前記取得した1次側トータル電流情報と1次側片側素子電流情報とに基づいて、前記1次側スイッチング回路に設けられた各スイッチング素子対の故障を検出する1次側スイッチング素子対故障検出手段(S12〜S17)と、前記取得した2次側トータル電流情報と2次側片側素子電流情報とに基づいて、前記2次側スイッチング回路に設けられた各スイッチング素子対の故障を検出する2次側スイッチング素子対故障検出手段(S22〜S27)とを備えたことにある。
本発明においては、各スイッチング素子対における片側のスイッチング素子に流れる電流と、車載バッテリと1次側スイッチング回路との間を流れる1次側トータル電流と、車載電気機器と2次側スイッチング回路との間を流れる2次側トータル電流とを表す情報を取得することで、各スイッチング素子対におけるスイッチング素子の故障を検出する。例えば、スイッチング素子対における両方のスイッチング素子が正常であれば、片側のスイッチング素子に流れる電流は、トータル電流(1次側トータル電流あるいは2次側トータル電流)の半分となるが、片側のスイッチング素子に流れる電流がトータル電流に等しい場合には、対となるもう一方のスイッチング素子がオフ故障していると判断することができる。また、片側のスイッチング素子に流れる電流がゼロであれば、そのスイッチング素子がオフ故障していると判断することができる。従って、電流センサ等の電流取得手段の数を減らすことができ、低コストにて実施することができる。尚、1次側トータル電流情報や2次側トータル電流情報は、電流センサにより直接的に検出しなくても、例えば、車載電気機器側で検出した電流値、あるいは、制御指令値から取得するようにしてもよい。
本発明の他の特徴は、前記故障検出手段により前記スイッチング素子対における一方のスイッチング素子のオフ故障が検出された場合、前記故障が検出されたスイッチング素子を有する故障スイッチング素子対をオン状態にするオン期間を、前記故障が検出されていないスイッチング素子対であって前記故障スイッチング素子対と交互にオン・オフするスイッチング素子対をオン状態にするオン期間に比べて短くするオン期間比変更手段(140,S31〜S36,S41〜S46)を備えたことにある。
スイッチング素子対における一方のスイッチング素子のオフ故障が検出された場合には、対となるもう片方のスイッチング素子に流れる電流が倍増して過熱しやすくなる。そこで本発明においては、オン期間比変更手段が、故障が検出されたスイッチング素子を有する故障スイッチング素子対をオン状態にするオン期間(オン指令期間)を、故障が検出されていないスイッチング素子対であって故障スイッチング素子対と交互にオン・オフするスイッチング素子対をオン状態にするオン期間に比べて短くする。従って、故障スイッチング素子対における正常側のスイッチング素子に電流の流れる期間が短くなり、当該スイッチング素子の過熱を抑制することができる。
本発明の他の特徴は、前記故障検出手段により検出された前記スイッチング素子対の故障に基づいて、前記車載電気機器の作動を制限する作動制限手段(74)を備えたことにある。
本発明においては、スイッチング素子対の故障が検出された場合、作動制限手段が車載電気機器の作動を、故障が検出されていない場合に比べて制限する。従って、車載バッテリと車載電気機器との間に設けられた直流電圧変換器に流れる電流が低減されて、故障スイッチング素子対における片方の正常なスイッチング素子に流れる電流を低減することができる。従って、各スイッチング回路の過熱損傷防止を図ることができる。
本発明の他の特徴は、前記車載電気機器は、電動モータ(40)を備えており、前記作動制限手段は、前記電動モータに流れる電流の上限値を低くする(S61〜S63)、あるいは、前記電動モータの制御量を低減補正する(S53〜S54)ことにある。
本発明においては、車載電気機器は電動モータを備えている。作動制限手段は、スイッチング素子対の故障が検出された場合、故障が検出されてない場合に比べて、電動モータに流れる電流の上限値を低くする、あるいは、電動モータの制御量を低減補正する。従って、スイッチング素子対の故障が検出された場合には、電動モータに大電流が流れなくなり、結果として、故障スイッチング素子対における片方の正常なスイッチング素子に流れる電流が低減される。従って、直流電圧変換器の各スイッチング回路の過熱損傷防止を図ることができる。
本発明の他の特徴は、前記車載電気機器は、電磁サスペンション装置に設けられ、バネ上部材とバネ下部材との間の相対移動に対する推進力および減衰力を発生する電動モータ(40)を備えており、前記作動制限手段は、前記故障検出手段により前記2次側スイッチング回路のみにおいてスイッチング素子の故障が検出されている場合には、前記電動モータで発生した起電力による前記電動モータから前記車載バッテリへの電力回生のみが制限されるように前記電動モータの作動を制限する(S100)ことにある。
本発明の車両用電力供給システムは、電磁サスペンション装置に設けられる電磁アクチュエータを構成する電動モータに、車載バッテリから電力供給するとともに、電動モータで発生した起電力を車載バッテリに回生するシステムである。電磁サスペンション装置においては、車載バッテリから出力される電力を直流電圧変換器の1次側スイッチング回路の作動により所定電圧に変換して電動モータに供給することにより、バネ上部材(車体)とバネ下部材(車輪)との相対移動に対する推進力を発生する。また、外部入力によりバネ上部材とバネ下部材とがストローク運動して電動モータが回されて起電力を発生すると、この起電力を直流電圧変換器の2次側スイッチング回路の作動により所定電圧に変換して車載バッテリに回生させることにより減衰力を発生する。
従って、2次側スイッチング回路におけるスイッチング素子対の故障が検出されている場合には、電動モータから車載バッテリへの電力回生時に2次側スイッチング回路の発熱が問題となる。そこで、本発明においては、作動制限手段は、2次側スイッチング回路のみにおいてスイッチング素子対の故障が検出されている場合、電動モータから車載バッテリへの電力回生のみが制限されるように電動モータの作動を制限する。これにより、2次側スイッチング回路の過熱損傷が防止される。
この場合、1次側スイッチング回路は、故障していないため、車載バッテリから電動モータへの電力供給を制限しなくても、過熱の心配は無い。そこで、作動制限手段は、車載バッテリから電動モータへの電力供給時においては電動モータの作動を制限しない(通常時に比べて制限しない)。これにより、電磁サスペンション装置においては、適正な推進力を発生することができる。
例えば、作動制限手段は、電動モータから車載バッテリに電力回生している状況かを判別する状況判別手段を備え、状況判別手段により判別された電力供給状況に基づいて、電動モータから車載バッテリへの電力回生時に電動モータの作動を制限すればよい。
本発明の他の特徴は、前記車載電気機器は、電磁サスペンション装置に設けられ、バネ上部材とバネ下部材との間の相対移動に対する推進力および減衰力を発生する電動モータ(40)を備えており、前記作動制限手段は、前記故障検出手段により前記1次側スイッチング回路のみにおいてスイッチング素子対の故障が検出されている場合には、前記車載バッテリから前記電動モータへの電力供給のみが制限されるように前記電動モータの作動を制限する(S90)ことにある。
本発明においては、1次側スイッチング回路におけるスイッチング素子対の故障が検出されている場合には、車載バッテリから電動モータへの電力供給時に1次側スイッチング回路の発熱が問題となる。そこで、作動制限手段は、1次側スイッチング回路のみにおいてスイッチング素子対の故障が検出されている場合、車載バッテリから電動モータへの電力供給のみが制限されるように電動モータの作動を制限する。これにより、1次側スイッチング回路の過熱損傷が防止される。
この場合、2次側スイッチング回路は、故障していないため、電動モータから車載バッテリへの電力回生を制限しなくても、過熱の心配は無い。そこで、作動制限手段は、電動モータから車載バッテリへの電力回生時においては電動モータの作動を制限しない(通常時に比べて制限しない)。これにより、電磁サスペンション装置においては、適正な減衰力を発生することができる。
例えば、作動制限手段は、電動モータが車載バッテリから電力供給を受けている状況か否かを判別する状況判別手段を備え、状況判別手段により判別された電力供給状況に基づいて、車載バッテリから電動モータへの電力供給時に電動モータの作動を制限すればよい。
本発明の他の特徴は、前記電動モータで発生した起電力により前記電動モータから前記車載バッテリに回生される電力が設定閾値(Wref)を超える場合に、前記電動モータの相間を短絡させて前記電力回生を不能にする相間短絡手段(S106〜S109)を備え、前記作動制限手段は、前記設定閾値を低くすること(S101)により前記電力回生を制限することにある。
電動モータは、外力により回されると起電力を発生し、その起電力が車載バッテリに回生される。この場合、回生電力が大きいとモータ駆動回路や車載バッテリの負担が大きくなるため、相間短絡手段は、回生電力が設定閾値を超える場合に、電動モータの通電端子間を短絡させて、電動モータ内に還流電流を流して起電力が外部に供給されないようにする。
作動制限手段は、2次側スイッチング回路のスイッチング素子対の故障が検出された場合には、相間短絡手段が相間短絡を開始する回生電力の閾値である設定閾値を通常よりも低くする。これにより、電動モータで起電力が発生した場合には、その起電力があまり大きくならないうちに相間短絡が行われるようになり、電動モータから車載バッテリへの電力回生が制限される。この結果、2次側スイッチング回路の過熱損傷が防止される。
尚、上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件を前記符号によって規定される実施形態に限定させるものではない。
以下、本発明の一実施形態に係る車両用電力供給システムについて説明する。本実施形態においては、電磁サスペンション装置の電力供給システムについて説明する。本実施形態における電磁サスペンション装置の電力供給システムを備えた車両は、ハイブリッド車両である。ハイブリッド車両の場合、車載電源として、車両走行用の電気アクチュエータである主機モータの電源としての高圧バッテリ(主機バッテリと呼ばれる)と、一般の車両負荷に使用される低圧バッテリ(補機バッテリと呼ばれる)とを備えている。本実施形態においては、ハイブリッドシステムで使用される高圧バッテリを利用して電磁サスペンション装置に電力供給するシステムを構成している。
図1は、本実施形態に係る電磁サスペンション装置の電力供給システムを表す概略構成図である。電磁サスペンション装置は、4組のサスペンション本体10(右前輪サスペンション本体10FR、左前輪サスペンション本体10FL、右後輪サスペンション本体10RR、左後輪サスペンション本体10RL)と、各サスペンション本体10に対応したモータ駆動ユニット50(右前輪駆動ユニット50FR、左前輪駆動ユニット50FL、右後輪駆動ユニット50RR、左後輪駆動ユニット50RL)と、サスペンション制御装置70とを備える。4組のサスペンション本体10FR,10FL,10RR,10RLは、各車輪WFR,WFL,WRR,WRLと車体Bとの間にそれぞれ設けられる。
各モータ駆動ユニット50は、直流電圧変換器であるDC/DCコンバータ100を介して高圧バッテリ200と接続されている。従って、本実施形態の電力供給システムは、電磁サスペンション装置と、DC/DCコンバータ100と、高圧バッテリ200とを主要部として備えている。
以下、4組のサスペンション本体10FL,10FR,10RL,10RRについては、前後左右を区別する場合を除いてサスペンション本体10と呼び、駆動ユニット50FL,50FR,50RL,50RRについては、前後左右を区別する場合を除いてモータEDU50と呼び、車輪WFL,WFR,WRL,WRRについては、前後左右を区別する場合を除いて車輪Wと呼ぶ。また、サスペンション制御装置70をサスペンションECU70と呼ぶ。
図2は、サスペンション本体10の部分概略断面図である。図示するように、サスペンション本体10は、エアバネ装置20と、電磁アクチュエータ30とを備える。エアバネ装置20は、車輪Wを支持するロアアームLAと車体Bとの間に設けられ、空気の弾性(圧縮性)を利用して路面から受ける衝撃を吸収し乗り心地を高めるとともに車体Bの重量を弾性的に支持する。このエアバネ装置20に支えられる側、つまり車体B側の部材がバネ上部材であり、エアバネ装置20を支持する側、つまり車輪W側の部材がバネ下部材である。電磁アクチュエータ30は、エアバネ装置20の上下振動に対して減衰力だけでなく推進力をも発生させるもので、バネ下部材とバネ上部材との間にエアバネ装置20と並列に設けられる。
電磁アクチュエータ30は、同軸状に配置されるアウタシリンダ31およびインナシリンダ32と、インナシリンダ32の内側に設けられるボールネジ機構35と、ボールネジ機構35を動作させる電動モータ40とを備える。本実施形態においては、電動モータ40として、3相DCブラシレスモータを用いる。
アウタシリンダ31とインナシリンダ32とは、同軸異径パイプで構成され、インナシリンダ32の外周に軸方向へ摺動可能にアウタシリンダ31が設けられる。図中、符号33,34は、アウタシリンダ31内にインナシリンダ32を摺動可能に支持する軸受である。
ボールネジ機構35は、電動モータ40の回転動作により回転するボールネジ36と、ボールネジ36に形成された雄ネジ部分37に螺合する雌ネジ部分38を有するボールネジナット39とからなる。ボールネジナット39は、図示しない回り止めにより、その回転運動ができないように規制されている。従って、このボールネジ機構35においては、ボールネジ36の回転運動がボールネジナット39の上下軸方向の直線運動に変換され、逆に、ボールネジナット39の上下軸方向の直線運動がボールネジ36の回転運動に変換される。
ボールネジナット39の下端は、アウタシリンダ31の底面に固着されている。また、インナシリンダ32の上端は、取付プレート41に固定される。この取付プレート41は、電動モータ40のモータケーシング42に固定されるとともに、その中央に形成した貫通孔43にボールネジ36が挿通される。ボールネジ36は、モータケーシング42内においてモータ軸と連結されるとともに、インナシリンダ32内の軸受44によって回転可能に支持される。
この電磁アクチュエータ30は、高圧バッテリ200からの電力供給により電動モータ40が回転すると、モータ軸と連結されたボールネジ36が回転する。ボールネジ36の回転によってボールネジナット39が軸方向移動し、ボールネジナット39の軸方向移動に伴い、アウタシリンダ31が下方に押し下げられ、あるいは、上方に引き上げられる。これによりバネ上部材とバネ下部材との間の相対距離が変化する。このようにして、電動モータ40は、高圧バッテリ200からの電力供給によりボールネジ機構35を伸縮させて、バネ上部材とバネ下部材との間の相対移動に対する推進力を発生する。この推進力は、例えば、乗り心地が向上するように制御される。
また、外力(路面入力など)がサスペンション本体10に加えられた場合、この外力がアウタシリンダ31に働いて、アウタシリンダ31の運動がボールネジナット39に伝達される。これによりボールネジナット39が軸方向に移動し、ボールネジ36が回転する。ボールネジ36の回転により電動モータ40が回される。このとき電動モータ40は、ロータに設けた永久磁石(図示略)の磁束がステータに設けた電磁コイルを横切ることによって、電磁コイルに誘導起電力を発生させて発電機として作用し、バネ上部材とバネ下部材との間の相対移動に対する抵抗力(減衰力)を発生する。これによりバネ上部材とバネ下部材との間の相対振動が抑制される。この場合、高圧バッテリ200には、電動モータ40で発生した誘導起電力により回生電流が流れる。
エアバネ装置20は、この電磁アクチュエータ30の外周に設けられるもので、モータケーシング42の外周を囲む円筒状の上部ケース21と、アウタシリンダ31の外周面を囲む下部ケース22と、両ケース21,22を気密状態で連結するゴムを主成分としたダイアフラム23とを備え、これらのケース21,22とダイアフラム23とによりアウタシリンダ31、インナシリンダ32、モータケーシング42の外周に空気室24を形成する。上部ケース21および下部ケース22は、それぞれモータケーシング42およびアウタシリンダ31の外周面に気密的に溶接固定されることで、空気室24を密閉状態にする。
上部ケース21には、この空気室24内に空気を供給したり空気室24内から空気を排出したりする給排口としてのノズル25が設けられる。このノズル25には、図示しない給排装置が接続され、ノズル25からの給排気により空気室24内の空気圧が調整されるようになっている。
このように構成されたサスペンション本体10は、上部ケース21の上面で弾性材料からなるアッパーサポート26を介して車体Bに取り付けられる。
モータEDU50は、各サスペンション本体10FL,10FR,10RL,10RRの近傍に設けられ、サスペンションECU70とCAN通信によって通信可能に接続されており、サスペンションECU70から出力された制御信号を入力し、その制御信号に従って目標モータ力が発生するように電動モータ40を駆動制御する。モータEDU50は、図3に示すように、モータ駆動回路である3相インバータ51と、マイクロコンピュータを主要部として備えたモータ制御部52を備えている。モータ制御部52は、サスペンションECU70から出力された制御信号に基づいてPWM制御信号を生成し、そのPWM制御信号を3相インバータ51に出力する。
3相インバータ51は、上アーム回路を構成する3つのスイッチング素子S1,S2,S3と、下アーム回路を構成する3つのスイッチング素子S4,S5,S6とを直列に接続して備え、スイッチング素子S1−S4間、スイッチング素子S2−S5間、スイッチング素子S3−S6間からモータ駆動ラインL1,L2,L3を引き出して構成される。このモータ駆動ラインL1,L2,L3は、電動モータ40のU相端子,V相端子,W相端子に接続される。
また、3相インバータ51には、U相,V相,W相に流れる電流を個々に検出する電流センサ53と、U相,V相,W相の電圧を検出する電圧センサ54とが設けられている。電流センサ53は、検出した3相の電流値を表すモータ電流iu,iv,iw(これらを総称してモータ電流iuvwと呼ぶ)をモータ制御部52に出力する。電圧センサ54は、検出した3相の電圧値を表すモータ電圧Vu,Vv,Vw(これらを総称してモータ電圧Vuvwと呼ぶ)をモータ制御部52に出力する。
3相インバータ51は、DC/DCコンバータ100の2次側に接続される。DC/DCコンバータ100は、後述するように、高圧バッテリ200の出力を降圧して4組の3相インバータ51に供給するだけでなく、電動モータ40で発生した起電力を昇圧して高圧バッテリ200に回生させる機能を備えた双方向性の直流電圧変換器である。
モータ制御部52は、サスペンションECU70から出力された目標モータ力fmotor*(後述する)を表す制御御信号と、電流センサ53により検出されるモータ電流iuvwとに基づいて、電動モータ40に目標モータ力fmotor*に応じた電流が流れるようにデューティ比を設定したPWM制御信号を生成して3相インバータ51に出力する。これにより、スイッチング素子S1〜S6のデューティ比が制御されて、目標モータ力fmotor*に応じた電流が電動モータ40に流れて、電動モータ40が目標モータ力を発生する。この場合、高圧バッテリ200の電力がDC/DCコンバータ100を介して3相インバータ51に供給される状態と、電動モータ40で発生した起電力がDC/DCコンバータ100を介して高圧バッテリ200に回生される状態とが存在するが、何れの状態においても、3相インバータ51のスイッチング素子S1〜S6のデューティ比制御により電動モータ40で発生する力が目標モータ力fmotor*に制御される。
また、モータEDU50には、相間開放用リレーユニット55が設けられる。相間開放用リレーユニット55は、モータ駆動ラインL1,L2,L3にそれぞれ相間開放用のリレーR1,R2,R3を設けたものである。各リレーR1,R2,R3は、モータ制御部52から出力されるリレー駆動信号により、オン状態(閉)あるいはオフ状態(開)に切り替えられる。
高圧バッテリ200は、本実施形態においては定格電圧288Vのものが使用される。この高圧バッテリ200の+端子に高圧電源ライン201が接続され、−端子にグランドライン202が接続される。DC/DCコンバータ100は、その一次側が、この高圧電源ライン201とグランドライン202とを介して高圧バッテリ200に接続される。DC/DCコンバータ100の2次側は、降圧電源ライン203とグランドライン204とを介してモータEDU50の3相インバータ51に接続される。DC/DCコンバータ100は、高圧バッテリ200の出力電圧(288V)を、例えば46Vにまで降圧し、その降圧した電力を各モータEDU50の3相インバータ51に供給する。尚、図3,図4においては、記載を省略しているが、DC/DCコンバータ100の2次側には、降圧電源ライン203とグランドライン204とを介して4つのモータEDU50が並列に接続されている。
サスペンションECU70は、マイクロコンピュータを主要部として備えるとともに、CAN通信によって4つのモータEDU50とDC/DCコンバータ100とに通信可能に接続される。サスペンションECU70は、車両状態に基づいて4輪分の電動モータ40の制御量(目標モータ力fmotor*)を個別に演算し、演算した制御量を各モータEDU50に指令する。制御量の演算方法は、4輪とも同様であるため、ここでは1輪分について説明する。
サスペンションECU70には、各サスペンション本体10が取り付けられている位置(各輪位置)にそれぞれ設けられたバネ上加速度センサ61、バネ下加速度センサ62、ストロークセンサ63が接続されている。バネ上加速度センサ61は、バネ上部材に設けられており、バネ上部材の各輪位置における上下方向に沿った加速度(バネ上上下加速度)を検出し、バネ上上下加速度G2を表す検出信号を出力する。バネ下加速度センサ62は、ロアアームなどのバネ下部材に設けられており、そのバネ下部材の上下方向に沿った加速度(バネ下上下加速度)を検出し、バネ下上下加速度G1を表す検出信号を出力する。ストロークセンサ63は、サスペンション本体10のストローク変位量(バネ上部材とバネ下部材との間の間隔の変化量、つまり、電磁アクチュエータ30の伸縮量)を検出し、ストローク変位量xSを表す検出信号を出力する。
また、サスペンションECU70には、横加速度センサ64が接続されている。横加速度センサ64は、車体に発生する横加速度を検出し、横加速度Gyを表す検出信号を出力する。
次に、サスペンションECU70の行う処理について説明する。図3の上段は、サスペンションECU70におけるマイクロコンピュータが行う制御処理を表す機能ブロック図である。各機能部は、マイクロコンピュータのROMに記憶された制御プログラムを所定の演算周期で繰り返し実行することにより実現されるものである。サスペンションECU70は、振動減衰制御力演算部71と、ロール抑制制御力演算部72と、目標モータ力演算部73と、補正演算部74とを備えている。
振動減衰制御力演算部71は、バネ上加速度センサ61の出力する検出信号を入力し、バネ上上下加速度G2を時間で積分することにより、バネ上部材の上下方向に沿った速度であるバネ上上下速度x2’を演算し、このバネ上上下速度x2’に予め設定されたバネ上ゲインC2(減衰係数に相当する)を乗算することにより、バネ上部材の振動を減衰するように働くバネ上減衰制御力(C2・x2’)を演算する。また、バネ下加速度センサ62の出力する検出信号を入力し、バネ下上下加速度G1を時間で積分することにより、バネ下部材の上下方向に沿った速度であるバネ下上下速度x1’を演算し、このバネ下上下速度x1’に予め設定されたバネ下ゲインC1(減衰係数に相当する)を乗算することにより、バネ下部材の振動を減衰するように働くバネ下減衰制御力(C1・x1’)を演算する。振動減衰制御力演算部71は、次式に示すように、バネ上減衰制御力(C2・x2’)からバネ下減衰制御力(C1・x1’)を減算して振動減衰制御力fvを演算する。
fv=C2・x2’−C1・x1’
この振動減衰制御力fvは、スカイフックダンパ理論に基づく制御と、擬似的なグランドフック理論に基づく制御とにより、バネ上部材およびバネ下部材の振動を減衰させるために必要とされる力を計算したものである。振動減衰制御力演算部71は、算出した振動減衰制御力fvを目標モータ力演算部73に出力する。この場合、振動減衰制御力fvは、その値の符号(正・負)により、電磁アクチュエータ30を作動させる方向(収縮/伸長)が設定される。尚、上記演算に当たっては、バネ上加速度センサ61およびバネ下加速度センサ62の出力する検出信号に対してローパスフィルタ処理を行って高周波成分を除去するようにするとよい。
ロール抑制制御力演算部72は、横加速度センサ64の出力する検出信号を入力し、次式に示すように、横加速度Gyに予め設定されたロールゲインKroを乗算することによりロール抑制制御力froを算出し、算出したロール抑制制御力froを目標モータ力演算部73に出力する。
fro=Kro・Gy
車両の旋回時においては、ロールモーメントによって旋回内輪側のバネ上部材とバネ下部材との相対距離が拡がり、旋回外輪側のバネ上部材とバネ下部材との相対距離が縮まる。そこで、ロール抑制制御力演算部72は、旋回内輪側のバネ上部材とバネ下部材との相対距離の拡がりを抑制し、旋回外輪側のバネ上部材とバネ下部材との相対距離の縮まりを抑制するように電磁アクチュエータ30に発生させる力を上記式のように演算する。従って、旋回内輪側の電磁アクチュエータ30で発生させるロール抑制制御力froと、旋回外輪側の電磁アクチュエータ30で発生させるロール抑制制御力froとは、その方向(正負)が逆となる。尚、車体に発生する横加速度は、操舵角と車速とに基づいて推定するようにしてもよい。
目標モータ力演算部73は、振動減衰制御力演算部71から出力された振動減衰制御力fvと、ロール抑制制御力演算部72から出力されたロール抑制制御力froとを加算することで、バネ上部材とバネ下部材とのあいだに作用させるべき必要作用力である目標モータ力fmotor*を演算する。
fmotor*=fv+fro
目標モータ力演算部73は、演算した目標モータ力fmotor*を補正演算部74に出力する。補正演算部74は、DC/DCコンバータ100から故障診断信号を入力し、故障診断信号がDC/DCコンバータ100において故障が検出されていることを表す信号である場合には、目標モータ力fmotor*を補正し、補正された制御量を新たな目標モータ力fmotor*に置き換えて出力する。また、故障診断信号がDC/DCコンバータ100において故障が検出されていないことを表す信号である場合には、目標モータ力演算部73から入力した目標モータ力fmotor*を補正することなくそのまま出力する。この補正演算部74による補正処理については、DC/DCコンバータ100の故障検出処理と併せて後述する。
補正演算部74は、目標モータ力fmotor*に対応する制御信号をモータEDU50に出力する。これにより、モータEDU50においては、3相インバータ51のスイッチング素子S1〜S4のデューティ比が制御されることにより、目標モータ力fmotor*に応じた電流が電動モータ40に流れて、電動モータ40が目標モータ力fmotor*を発生する。この場合、サスペンション本体10が実際に伸縮している方向と、目標モータ力fmotor*で表される電磁アクチュエータ30の制御方向とが同じである場合には、DC/DCコンバータ100を介して高圧バッテリ200からモータEDU50に電力が供給されて電動モータ40が駆動されて推進力を発生する。一方、サスペンション本体10が実際に伸縮している方向と、目標モータ力fmotor*で表される電磁アクチュエータ30の制御方向とが逆になる場合には、電動モータ40で発生する起電力がDC/DCコンバータ100を介して高圧バッテリ200に回生される。これにより、電動モータ40は、モータコイルに回生電流が流れてサスペンション本体10のストローク運動に対する制動力、つまり、減衰力を発生する。
図17は、サスペンション本体10のストローク速度と目標モータ力fmotor*との関係を表している。図17において、薄く塗りつぶした領域が電動モータ40から高圧バッテリ200に電力回生される領域である。例えば、回生領域1は、サスペンション本体10が伸長動作しているときに、伸長させない方向に目標モータ力fmotor*が設定される領域となり、回生領域2は、サスペンション本体10が収縮動作しているときに、収縮させない方向に目標モータ力fmotor*が設定される領域となる。また、消費領域1は、サスペンション本体10が収縮動作しているときに、収縮させる方向に目標モータ力fmotor*が設定される領域となり、消費領域2は、サスペンション本体10が伸長動作しているときに、伸長させる方向に目標モータ力fmotor*が設定される領域となる。図中、直線Aは、モータ短絡特性線を表し、電動モータ40の各相を短絡させた場合に発生する荷重特性を表す。従って、電動モータ40の電力回生により発生できる減衰力は、モータ短絡特性線Aと横軸との間の範囲となる。電磁アクチュエータ30をアクティブ制御した場合には、一般的に、図の軌跡Bに沿って、ストローク速度に応じた目標モータ力fmotor*が設定される。
次に、DC/DCコンバータ100について説明する。上述したように電磁アクチュエータ30をアクティブ制御した場合には、例えば、車両が凹凸路面を長時間走行すると、電磁アクチュエータ30の伸縮動作が続くため、DC/DCコンバータ100に双方向に大電流が長時間流れる。このため、DC/DCコンバータ100の発熱が大きくなってDC/DCコンバータ100が過熱損傷するおそれがある。DC/DCコンバータ100の発熱状態に応じて、電磁アクチュエータ30のアクティブ制御を中断すれば、DC/DCコンバータ100の過熱損傷防止を図る事ができるが車両性能が犠牲となってしまう。そこで本実施形態のDC/DCコンバータ100は、こうした課題を解決する回路構成を採用している。
DC/DCコンバータ100は、図4に示すように、1次側巻線131と2次側巻線132とを備えたトランス130と、1次側巻線131に接続される1次側スイッチング回路110と、2次側巻線132に接続される2次側スイッチング回路120と、スイッチ制御部140とを備えたフルブリッジ方式の直流−直流電圧変換器である。1次側スイッチング回路110は、高圧電源ライン201とグランドライン202とを介して高圧バッテリ200に接続され、高圧バッテリ200から1次側巻線131に電流を正逆交互に流す一方、電力回生時には2次側巻線132から供給された交流電力を直流に整流する。2次側スイッチング回路120は、降圧電源ライン203とグランドライン204とを介して3相インバータ51に接続され、1次側巻線131から供給された交流電力を直流に整流する一方、電力回生時には3相インバータ51から2次側巻線132に正逆交互に電流を流す。
1次側スイッチング回路110は、2つのスイッチング素子Sを並列に接続した4つのスイッチング素子対(第1スイッチング素子対111、第2スイッチング素子対112、第3スイッチング素子対113、第4スイッチング素子対114)を備えている。本実施形態においては、各スイッチング素子対111〜114を構成する2つのスイッチング素子Sとして、それぞれMOS―FETが使用されるが、他のスイッチング素子を用いることも可能である。
第1スイッチング素子対111と第2スイッチング素子対112とは直列に接続され、その直列接続された回路により高圧電源ライン201とグランドライン202とを電気的に接続する。第3スイッチング素子対113と第4スイッチング素子対114も直列に接続されて、その直列接続された回路により高圧電源ライン201とグランドライン202とを電気的に接続する。第1スイッチング素子対111と第2スイッチング素子対112との接続部には、トランス130の1次側巻線131の一端が接続され、第3スイッチング素子対113と第4スイッチング素子対114との接続部には、1次側巻線131の他端が接続される。
各スイッチング素子対111〜114におけるスイッチング素子Sには、寄生ダイオードが組み込まれている。各スイッチング素子対111〜114は、この寄生ダイオードが、高圧電源ライン201からグランドライン202への電流の流れを阻止し、グランドライン202から高圧電源ライン201への電流の流れを許容する向きとなるように各スイッチング素子Sを接続して備えている。尚、寄生ダイオードとは別のダイオードを上記の向きに各スイッチング素子Sに並列に設けてもよい。
各スイッチング素子対111〜114には、スイッチ制御部140から出力されるPWM制御信号がそれぞれ独立して入力される。この場合、各スイッチング素子対111〜114を構成する2つのスイッチング素子Sには、互いに共通のPWM制御信号が入力される。従って、対をなす2つのスイッチング素子Sは、同時にオン・オフするように構成されている。
また、1次側スイッチング回路110は、スイッチング素子対111、112,113,114における片側のスイッチング素子Sに流れる電流を検出する電流センサ151,152,153,154を備えている。電流センサ151〜154は、検出した電流値を表す検出信号をスイッチ制御部140に出力する。以下、第1スイッチング素子対111に設けられた電流センサ151により検出される電流値を第1素子電流i11と呼び、第2スイッチング素子対112に設けられた電流センサ152により検出される電流値を第2素子電流i12と呼び、第3スイッチング素子対113に設けられた電流センサ153により検出される電流値を第3素子電流i13と呼び、第4スイッチング素子対114に設けられた電流センサ154により検出される電流値を第4素子電流i14と呼ぶ。
また、1次側スイッチング回路110には、高圧電源ライン201に、第1スイッチング素子対111との接続位置よりも高圧バッテリ200側にチョークコイル181が設けられている。また、高圧電源ライン201には、1次側電圧センサ155と、1次側電流センサ156が設けられている。1次側電圧センサ155は、グランドライン202に対する高圧電源ライン201の電位を検出し、その検出信号をスイッチ制御部140に出力する。1次側電圧センサ155で検出される電圧値を1次側電圧V1と呼ぶ。1次側電流センサ156は、高圧バッテリ200とDC/DCコンバータ100の1次側巻線131との間を流れる電流を検出し、その検出信号をスイッチ制御部140に出力する。1次側電流センサ156で検出される電流値を1次側トータル電流i1と呼ぶ。
2次側スイッチング回路120は、2つのスイッチング素子Sを並列に接続した2つのスイッチング素子対(第1スイッチング素子対121、第2スイッチング素子対122)を備えている。各スイッチング素子対121,122のスイッチング素子Sとしては、1次側スイッチング回路110のスイッチング素子Sと同様にMOS―FETが使用されるが、他のスイッチング素子を用いることも可能である。
第1スイッチング素子対121は、トランス130の2次側巻線132の一方端とグランドライン204とを電気的に接続し、第2スイッチング素子対122は、トランス130の2次側巻線132の他方端とグランドライン204とを電気的に接続する。トランス130の2次側巻線132の中間点は、降圧電源ライン203に接続される。各スイッチング素子対121,122は、寄生ダイオードが、降圧電源ライン203からグランドライン204への電流の流れを阻止し、グランドライン204から降圧電源ライン203への電流の流れを許容する向きとなるように各スイッチング素子Sを接続して備えている。トランス130の2次側巻線132において、中間点から一方端までの部分と、中間点から他方端までの部分とを区別する場合には、前者を2次側巻線132aと呼び、後者を2次側巻線132bと呼ぶ。
各スイッチング素子対121,122には、スイッチ制御部140から出力されるPWM制御信号がそれぞれ独立して入力される。この場合、各スイッチング素子対121,122を構成する2つのスイッチング素子Sには、互いに共通のPWM制御信号が入力される。従って、対をなす2つのスイッチング素子Sは、同時にオン・オフするように構成されている。
また、2次側スイッチング回路120は、各スイッチング素子対121,122における片側のスイッチング素子Sに流れる電流を検出する電流センサ161,162を備えている。電流センサ161,162は、検出した電流値を表す検出信号をスイッチ制御部140に出力する。以下、第1スイッチング素子対121に設けられた電流センサ161により検出される電流値を第1素子電流i21と呼び、第2スイッチング素子対122に設けられた電流センサ162により検出される電流値を第2素子電流i22と呼ぶ。
また、2次側スイッチング回路120には、降圧電源ライン203にチョークコイル182が設けられ、更に、チョークコイル182よりもモータEDU50側の降圧電源ライン203とグランドライン204との間にはコンデンサ183が設けられている。また、降圧電源ライン203には、2次側電圧センサ157と、2次側電流センサ158が設けられている。2次側電圧センサ157は、グランドライン204に対する降圧電源ライン203の電位を検出し、その検出信号をスイッチ制御部140に出力する。2次側電圧センサ157で検出される電圧値を2次側電圧V2と呼ぶ。2次側電流センサ158は、モータEDU50とDC/DCコンバータ100の2次側巻線132との間を流れる電流を検出し、その検出信号をスイッチ制御部140に出力する。2次側電流センサ158で検出される電流値を2次側トータル電流i2と呼ぶ。
2次側スイッチング回路120とモータEDU50との間には、電力消費回路190が設けられている。この電力消費回路190は、抵抗素子191とスイッチング素子192とが直列に接続されて、その直列接続された回路により降圧電源ライン203とグランドライン204とを電気的に接続する。スイッチング素子192は、スイッチ制御部140から出力される制御信号によりオン/オフ状態が切り替えられ、通常は、オフ状態に維持されるが、モータEDU50からDC/DCコンバータ100側に出力される回生電力が設定値よりも大きい場合には、スイッチ制御部140によりオン状態に切り替えられる。これにより、回生電力の一部が抵抗素子191の発熱として消費され、DC/DCコンバータ100、高圧バッテリ200に流れる回生電流を低減する。尚、電力消費回路190は、必ずしも設ける必要は無い。
スイッチ制御部140は、マイクロコンピュータおよびスイッチ駆動回路を主要部として備えている。スイッチ制御部140は、高圧バッテリ200の電力を降圧してモータEDU50に供給する場合には、1次側スイッチング回路110を作動させる。この場合、スイッチ制御部140は、第1スイッチング素子対111と第4スイッチング素子対114とをオン、第2スイッチング素子対112と第3スイッチング素子対113とをオフにした状態(以下、第1通電路と呼ぶ)と、第1スイッチング素子対111と第4スイッチング素子対114とをオフ、第2スイッチング素子対112と第3スイッチング素子対113とをオンにした状態(以下、第2通電路と呼ぶ)とを交互に切り替えることにより、1次側巻線131に正逆交互に電流を流す。これにより、2次側巻線132に降圧された高周波の交流電圧が発生する。
こうしたスイッチング動作時においては、第1通電路が形成される時間と、第2通電路が形成される時間とは同じ長さに設定されている。従って、8つのスイッチング素子Sには、1次側巻線131に流れる電流の半分が同じ時間だけ流れることになる。
スイッチ制御部140は、1次側スイッチング回路110を上記のように作動させているときには、2次側スイッチング回路120の2つのスイッチング素子対121,122をオフ状態に維持する。1次側スイッチング回路110で第1通電路が形成されているときには、2次側スイッチング回路120では図4に実線矢印で示すように、第2スイッチング素子対122の寄生ダイオードに電流が流れて降圧電源ライン203からモータEDU50に電流が流れる。また、1次側スイッチング回路110で第2通電路が形成されているときには、2次側スイッチング回路120では図4に破線矢印で示すように、第1スイッチング素子対121の寄生ダイオードに電流が流れて降圧電源ライン203からモータEDU50に電流が流れる。これにより、モータEDU50に直流電力が供給される。
モータ制御部52は、2次側電圧センサ157で検出される2次側電圧V2を読み込み、この2次側電圧V2が設定電圧になるように、各スイッチング素子対111〜114のデューティ比を調整する。電磁アクチュエータ30の伸縮により電動モータ40が発電機として作用した時には、2次側電圧V2が上昇する。モータ制御部52は、2次側電圧V2の上昇を検出したときには、電動モータ40で発生した起電力を高圧バッテリ200に回生させるために、2次側スイッチング回路120を作動させる。
モータ制御部52は、2次側スイッチング回路120を作動させるときには、1次側スイッチング回路110の作動を停止して、4つのスイッチング素子対111〜114をオフ状態に維持する。モータ制御部52は、2次側スイッチング回路120の第1スイッチング素子対121をオン、第2スイッチング素子対122をオフにした状態(第1回生通電路と呼ぶ)と、第1スイッチング素子対121をオフ、第2スイッチング素子対122をオンにした状態(第2回生通電路と呼ぶ)とを交互に切り替える。この場合、2次側スイッチング回路120で第1回生通電路が形成されているときには、回生電流は、降圧電源ライン203からトランス130の2次側巻線132a,第1スイッチング素子対121を通ってグランドライン204に流れる(図4の破線矢印の反対方向)。また、2次側スイッチング回路120で第2回生通電路が形成されているときには、回生電流は、降圧電源ライン203からトランス130の2次側巻線132b,第2スイッチング素子対122を通ってグランドライン204に流れる(図4の実線矢印の反対方向)。
これにより、2次側巻線132に回生電流が正逆交互に流れ、1次側巻線131に昇圧された高周波の交流電圧が発生する。こうしたスイッチング動作時においては、第1回生通電路が形成される時間と、第2回生通電路が形成される時間とは同じ長さに設定されている。従って、4つのスイッチング素子Sには、2次側巻線132に流れる電流の半分が同じ時間だけ流れることになる。
このように構成されたDC/DCコンバータ100によれば、1次側スイッチング回路110においてはスイッチング素子対111〜114で電流経路が2つに分散され、2次側スイッチング回路120においてはスイッチング素子対121〜122で電流経路が2つに分散される。このため、各スイッチング素子Sに流れる電流は、各巻線131,132に流れる電流の半分に低減される。
従って、車両が凹凸路面を長時間走行して電磁アクチュエータ30の伸縮動作が続く場合のように、DC/DCコンバータ100に双方向に大電流が長時間流れる状況であっても、各スイッチング素子Sの発熱を抑制することができる。これにより、電動モータ40を3相インバータ52から切り離して回生電流がDC/DCコンバータ100に流れないようにするモータ開放処理を行わなくてすむ。従って、電磁アクチュエータ30の伸縮ストロークを機械的に規制するストッパ当たりが低減され、乗り心地性能の低下、および、電磁アクチュエータ30の耐久性の低下を防止することができる。これらの結果、本実施形態によれば、電磁サスペンション装置の性能を低下させずにDC/DCコンバータ100の過熱損傷防止を図ることができる。
ところで、スイッチング素子対111〜114,121〜122を用いて1次側スイッチング回路110,2次側スイッチング回路120を構成した場合には、対をなす一方のスイッチング素子Sがオフ故障しても、DC/DCコンバータ100としては、そのまま電圧変換動作を継続できる。しかし、そうしたケースでは、他方のスイッチング素子Sに流れる電流が正常時に比べて2倍になるため、そのまま作動を継続させると、正常側のスイッチング素子Sが過熱損傷するおそれがある。対をなす他方のスイッチング素子Sまでもオフ故障した場合には、その時点から、DC/DCコンバータ100としては、適正な作動を行うことができない。
そこで、本実施形態の電力供給システムは、1次側スイッチング回路110と2次側スイッチング回路120とにおける各スイッチング素子対111〜114,121〜122の故障を検出する機能、および、故障検出に応じた故障対処機能を備えている。以下、スイッチング素子対111〜114,121〜122に関して個別に特定しない場合には、それらを単にスイッチング素子対SPと呼ぶ。
まず、1次側スイッチング回路110の故障検出処理について説明する。図5は、スイッチ制御部140のマイクロコンピュータが実行する1次側スイッチング回路故障検出ルーチンを表す。この1次側スイッチング回路故障検出ルーチンは、1次側スイッチング回路110を作動させて高圧バッテリ200の電力を降圧してモータEDU50に供給しているときに、所定の周期で繰り返し実行される。スイッチ制御部140は、まず、ステップS11において、1次側電流センサ156で検出される1次側トータル電流i1と、1次側スイッチング回路110に設けられる4つの電流センサ151,152,153,154で検出される第1素子電流i11,第2素子電流i12,第3素子電流i13,第4素子電流i14を読み込む。続いて、ステップS12において、変数nの値を「1」に設定する。続いて、ステップS13において、第n素子電流i1nが、1次側トータル電流i1の半分の値(i1/2)にほぼ等しいか否かを判断する。この場合、n=1であるため、第1素子電流i11が1次側トータル電流i1の半分の値(i1/2)にほぼ等しいか否かについて判断される。
スイッチング素子対SPを構成する2つのスイッチング素子Sが正常であれば、2つのスイッチング素子Sには互いに同じ電流値の電流が流れる。従って、電流センサ151〜154にて検出される電流値は、1次側トータル電流i1の半分になる。また、スイッチング素子対SPを構成する2つのスイッチング素子Sの片側がオフ故障している場合には、当該故障している側のスイッチング素子Sには電流が流れず、故障していない側のスイッチング素子Sには1次側トータル電流i1が流れる。従って、片側のスイッチング素子Sに流れる電流値を検出することで、スイッチング素子対SPにおける個々のスイッチング素子Sの故障の有無を判定することができる。
スイッチ制御部140は、第n素子電流i1nが、1次側トータル電流i1の半分の値(i1/2)にほぼ等しいと判断した場合には(S13:Yes)、ステップS14において、変数nの値を1だけインクリメントし、続く、ステップS15において、インクリメントした変数nが「4」を超えたか否かを判断し、「4」を超えない場合には、その処理をステップS13に戻して同様の処理を繰り返す。従って、第1素子電流i11〜第4素子電流i14に関して、順次、1次側トータル電流i1の半分の値(i1/2)にほぼ等しいか否かについての判断が繰り返される。
そして、第n素子電流i1nが、1次側トータル電流i1の半分の値(i1/2)の近傍ではない場合(例えば、i1n=0、あるいは、i1n=i1となる場合)には、ステップS16において、第nスイッチング素子対SPが故障していると判定する。この場合、i1n=0である場合には、電流センサが設けられている側のスイッチング素子Sがオフ故障、電流センサが設けられていない側のスイッチング素子Sが正常であると判定し、i1n=i1である場合には、電流センサが設けられている側のスイッチング素子Sが正常、電流センサが設けられていない側のスイッチング素子Sがオフ故障していると判定する。
スイッチ制御部140は、4つのスイッチング素子対SPの故障の有無を判定すると、続くステップS17において、故障診断結果を表す故障診断信号をサスペンションECU70に出力して本ルーチンを一旦終了する。この故障診断信号は、1次側スイッチング回路110において故障しているスイッチング素子対SPの数を表すもので、正常であれば「0」を表す信号となる。
尚、1次側スイッチング回路110および2次側スイッチング回路120との何れにおいても、スイッチング素子Sが1つでもオン故障している場合、あるいは、スイッチング素子対SPを構成する2つのスイッチング素子Sが両方ともオフ故障している場合には、DC/DCコンバータ100の電圧制御を適正に行うことができない。このため、スイッチ制御部140は、電圧制御が不能となったことを検出した場合には、1次側スイッチング回路故障検出ルーチン、および、後述する2次側スイッチング回路故障検出ルーチンを実行することなく、1次側スイッチング回路110および2次側スイッチング回路120の作動を停止し、サスペンションECU70にフェイル信号を出力する。従って、本実施形態におけるDC/DCコンバータ100の故障検出処理に関しては、1次側スイッチング回路110および2次側スイッチング回路120におけるスイッチング素子対SPの一方のスイッチング素子Sのオフ故障を検出対象としている。
尚、DC/DCコンバータ100の作動を停止させた場合には、例えば、通常の電気負荷に電源供給する車載バッテリである低圧バッテリ(図示略)とモータEDU50とを接続するように、電力供給ラインを切り替えるようにしてもよい。
次に、2次側スイッチング回路120の故障検出処理について説明する。図6は、スイッチ制御部140のマイクロコンピュータが実行する2次側スイッチング回路故障検出ルーチンを表す。この2次側スイッチング回路故障検出ルーチンは、2次側スイッチング回路120を作動させてモータEDU50から出力される回生電力を昇圧して高圧バッテリ200に供給しているときに、所定の周期で繰り返し実行される。スイッチ制御部140は、まず、ステップS21において、2次側電流センサ158で検出される2次側トータル電流i2と、2次側スイッチング回路120に設けられる2つの電流センサ161,162で検出される第1素子電流i21,第2素子電流i22を読み込む。続いて、ステップS22において、変数mの値を「1」に設定する。続いて、ステップS23において、第m素子電流i2mが、2次側トータル電流i2の半分の値(i2/2)にほぼ等しいか否かを判断する。この場合、m=1であるため、第1素子電流i21が2次側トータル電流i2の半分の値(i2/2)にほぼ等しいか否かについて判断される。
2次側スイッチング回路120においても、スイッチング素子対SPを構成する2つのスイッチング素子Sが正常であれば、2つのスイッチング素子Sには互いに同じ電流値の電流が流れる。従って、電流センサ161,162にて検出される電流値は、2次側トータル電流i2の半分になる。また、スイッチング素子対SPを構成する2つのスイッチング素子Sの片側がオフ故障している場合には、当該故障している側のスイッチング素子Sには電流が流れず、故障していない側のスイッチング素子Sには2次側トータル電流i2が流れる。従って、片側のスイッチング素子Sに流れる電流値を検出することで、スイッチング素子対SPのスイッチング素子Sの故障の有無を判定することができる。
スイッチ制御部140は、第m素子電流i2mが、2次側トータル電流i2の半分の値(i2/2)にほぼ等しいと判断した場合には(S23:Yes)、ステップS24において、変数mの値を1だけインクリメントし、続く、ステップS25において、インクリメントした変数mが「2」を超えたか否かを判断し、「2」を超えない場合には、その処理をステップS23に戻して同様の処理を繰り返す。従って、第2素子電流i22に関して、2次側トータル電流i2の半分の値(i2/2)にほぼ等しいか否かについての判断が行われる。
そして、第m素子電流i2mが、2次側トータル電流i2の半分の値(i2/2)の近傍でない場合(例えば、i2m=0、あるいは、i2m=i2となる場合)には、ステップS26において、第mスイッチング素子対SPが故障していると判定する。この場合、i2m=0である場合には、電流センサが設けられている側のスイッチング素子Sがオフ故障、電流センサが設けられていない側のスイッチング素子Sが正常であると判定し、i2m=i2である場合には、電流センサが設けられている側のスイッチング素子が正常、電流センサが設けられていない側のスイッチング素子Sがオフ故障している判定する。
スイッチ制御部140は、2つのスイッチング素子対SPの故障の有無を判定すると、続くステップS27において、故障診断結果を表す故障診断信号をサスペンションECU70に出力して本ルーチンを一旦終了する。この故障診断信号は、2次側スイッチング回路120において故障しているスイッチング素子対SPの数を表すもので、正常であれば「0」を表す信号となる。
この故障検出処理によれば、電流センサをスイッチング素子S毎に設けなくても、個々のスイッチング素子Sの故障を検出することができるため、DC/DCコンバータ100の構成が複雑にならず、低コストにて実施することができる。
尚、スイッチ制御部140は、1次側スイッチング回路110あるいは2次側スイッチング回路120において故障が検出された場合には、図示しない車両の警告ランプ等の警告装置を作動させて運転者に故障を知らせる。これにより、運転者は、スイッチング素子対SPにおける片側のスイッチング素子Sが故障している段階で、車両修理を手配することができる。このため、スイッチング素子対SPを構成する2つのスイッチング素子Sがともにオフ故障してしまう2重故障の発生を防止することができる。
また、本実施形態においては、スイッチング素子対SPの片側のスイッチング素子Sに流れる電流を検出することで電流センサの数を少なくする構成を採用しているが、片側ではなく各スイッチング素子対SPの両方のスイッチング素子Sに流れる電流を個々に電流センサで検出するようにしてもよい。この場合には、1次側スイッチング回路110あるいは2次側スイッチング回路120において、各電流センサで検出された電流値を互いに比較して故障を判定することができる。
また、2次側トータル電流i2の検出に関しては、2次側電流センサ158による直接的な検出に代えて、サスペンションECU70が演算する目標モータ力fmotor*から推定するようにしてもよい。また、モータEDU50が電流センサ53により検出するモータ電流iuvwから推定するようにしてもよい。尚、電力消費回路190を作動させている場合には、推定電流値から、抵抗素子191に流れる電流分を減算するとよい。この電流分は、抵抗素子の抵抗値(既知)と、2次側電圧センサ157で検出される2次側電圧V2とから求めることができる。
同様に、1次側トータル電流i1の検出に関しても、1次側電流センサ156による直接的な検出に代えて、サスペンションECU70が演算する目標モータ力fmotor*から推定するようにしてもよいし、モータEDU50が電流センサ53により検出するモータ電流iuvwから推定するようにしてもよい。この場合、1次側トータル電流i1は、2次側トータル電流の推定値とDC/DCコンバータ100の変圧比から算出できる。
次に、スイッチング素子対SPの故障が検出された場合における、DC/DCコンバータ100内での処理について説明する。図7は、スイッチ制御部140のマイクロコンピュータの実行する1次側オン期間比変更制御ルーチンを表す。この1次側オン期間比変更制御ルーチンは、上述した1次側スイッチング回路故障検出ルーチンと並行して所定の周期で繰り返し実行される。尚、オン期間比変更制御ルーチンにおいても、スイッチング素子対SPの故障とは、対をなす一方のスイッチング素子Sのオフ故障を意味している。
スイッチ制御部140は、まず、ステップS31において、1次側スイッチング回路110におけるスイッチング素子対SPの故障が検出されているか否かを判断する。そして、4つのスイッチング素子対SP全てについて故障が検出されていない場合には、ステップS32において、図9(a)に示すように、第1通電路のオン期間と第2通電路のオン期間との比を同一にする。つまり、第1スイッチング素子対111と第4スイッチング素子対114とをオン、第2スイッチング素子対112と第3スイッチング素子対113とをオフにした第1通電路が形成される期間と、第1スイッチング素子対111と第4スイッチング素子対114とをオフ、第2スイッチング素子対112と第3スイッチング素子対113とをオンにした第2通電路が形成される期間との比を等しくする。
また、ステップS31において、「No」と判断した場合には、ステップS33において、第1スイッチング素子対111と第4スイッチング素子対114との少なくとも一方に故障が検出され、第2スイッチング素子対112と第3スイッチング素子対113には故障が検出されていないかについて判断する。スイッチ制御部140は、故障の検出されたスイッチング素子対が、第1スイッチング素子対111、あるいは、第4スイッチング素子対114、あるいは、その両者である場合には(S33:Yes)、ステップS34において、図9(b)に示すように、第1通電路のオン期間(第1スイッチング素子対111と第4スイッチング素子対114とをオンする期間)を第2通電路のオン期間(第2スイッチング素子対112と第3スイッチング素子対113とをオンする期間)に比べて短くする。つまり、第1通電路を形成する期間を第2通電路を形成する期間に比べて短くする。例えば、スイッチング周期Tの30%を第1通電路のオン期間とし、スイッチング周期Tの70%を第2通電路のオン期間として設定する。この場合、第1通電路のオン期間と第2通電路のオン期間とを交互に切り替えるスイッチング周期Tに関しては、正常時におけるスイッチング周期Tと同一である。
また、ステップS33において、「No」と判断した場合には、ステップS35において、第2スイッチング素子対112と第3スイッチング素子対113との少なくとも一方に故障が検出され、第1スイッチング素子対111と第4スイッチング素子対114には故障が検出されていないかについて判断する。スイッチ制御部140は、故障の検出されたスイッチング素子対が、第2スイッチング素子対112、あるいは、第3スイッチング素子対113、あるいは、その両者である場合には(S35:Yes)、ステップS36において、図9(c)に示すように、第2通電路のオン期間を第1通電路のオン期間に比べて短くする。つまり、第2通電路を形成する期間を第1通電路を形成する期間に比べて短くする。例えば、スイッチング周期Tの70%を第1通電路のオン期間とし、スイッチング周期Tの30%を第2通電路のオン期間として設定する。この場合、第1通電路のオン期間と第2通電路のオン期間とを交互に切り替えるスイッチング周期Tに関しては、正常時におけるスイッチング周期Tと同一である。
また、ステップS35において、「No」と判断した場合、つまり、第1スイッチング素子対111と第4スイッチング素子対114との少なくとも一方、および、第2スイッチング素子対112と第3スイッチング素子対113の少なくとも一方に故障が検出されている場合には、その処理をステップS32に進めて、第1通電路のオン期間と第2通電路のオン期間との比を同一にする。
スイッチ制御部140は、ステップS32,S34,S36により第1通電路のオン期間と第2通電路のオン期間との比を設定すると、1次側オン期間比変更制御ルーチンを一旦終了する。そして、所定の周期で上述した処理を繰り返す。
次に、2次側オン期間比変更処理について説明する。図8は、スイッチ制御部140のマイクロコンピュータが実行する2次側オン期間比変更制御ルーチンを表す。この2次側オン期間比変更制御ルーチンは、上述した2次側スイッチング回路故障検出ルーチンと並行して所定の周期で繰り返し実行される。
スイッチ制御部140は、まず、ステップS41において、2次側スイッチング回路120におけるスイッチング素子対SPの故障が検出されているか否かを判断する。そして、2つのスイッチング素子対SPのいずれにも故障が検出されていない場合には、ステップS42において、第1回生通電路のオン期間と第2回生通電路のオン期間との比を同一にする。つまり、第1スイッチング素子対121をオン、第2スイッチング素子対122をオフにした第1回生通電路が形成される期間と、第1スイッチング素子対121をオフ、第2スイッチング素子対122をオンにした第2回生通電路が形成される期間との比を等しくする。
また、ステップS41において、「No」と判断した場合には、ステップS43において、第1スイッチング素子対121のみ故障が検出されているか否かについて判断する。スイッチ制御部140は、故障の検出されたスイッチング素子対が、第1スイッチング素子対121のみである場合には(S43:Yes)、ステップS44において、第1回生通電路のオン期間(第1スイッチング素子対121をオンする期間)を第2回生通電路のオン期間(第2スイッチング素子対122をオンする期間)に比べて短くする。つまり、第1回生通電路を形成する期間を第2回生通電路を形成する期間に比べて短くする。例えば、スイッチング周期Tの30%を第1回生通電路のオン期間とし、スイッチング周期Tの70%を第2回生通電路のオン期間として設定する。この場合、第1回生通電路のオン期間と第2回生通電路のオン期間とを交互に切り替えるスイッチング周期Tに関しては、正常時におけるスイッチング周期Tと同一である。
また、ステップS43において、「No」と判断した場合には、ステップS45において、第2スイッチング素子対122のみ故障が検出されているか否かについて判断する。スイッチ制御部140は、故障の検出されたスイッチング素子対が、第2スイッチング素子対122のみである場合には(S45:Yes)、ステップS46において、第2回生通電路のオン期間を第1回生通電路のオン期間に比べて短くする。つまり、第2回生通電路を形成する期間を第1回生通電路を形成する期間に比べて短くする。例えば、スイッチング周期Tの70%を第1回生通電路のオン期間とし、スイッチング周期Tの30%を第2回生通電路のオン期間として設定する。この場合、第1回生通電路のオン期間と第2回生通電路のオン期間とを交互に切り替えるスイッチング周期Tに関しては、正常時におけるスイッチング周期Tと同一である。
また、ステップS45において、「No」と判断した場合、つまり、第1スイッチング素子対121と第2スイッチング素子対122との両方に故障が検出されている場合には、その処理をステップS42に進めて、第1回生通電路のオン期間と第2回生通電路のオン期間との比を同一にする。
スイッチ制御部140は、ステップS42,S44,S46により第1回生通電路のオン期間と第2回生通電路のオン期間との比を設定すると、2次側オン期間比変更制御ルーチンを一旦終了する。そして、所定の周期で上述した処理を繰り返す。
次に、スイッチング素子対SPの故障が検出された場合における、サスペンションECU70の処理について説明する。上述したように、DC/DCコンバータ100のスイッチ制御部140は、1次側,2次側スイッチング回路故障検出ルーチンを実行するたびに故障診断信号をサスペンションECU70に出力する。サスペンションECU70においては、補正演算部74に故障診断信号が入力される。補正演算部74は、故障診断信号に基づいて目標モータ力を補正する。以下、補正演算部74により実行される目標モータ力補正処理について説明する。
図10は、補正演算部74により実行される目標モータ力補正ルーチンを表す。目標モータ力補正ルーチンは、所定の短い周期で繰り返し実行される。補正演算部74は、ステップS51において、DC/DCコンバータ100のスイッチ制御部140の出力する故障診断信号を入力する。続いて、ステップS52において、1次側スイッチング回路110の故障診断信号で表される数と、2次側スイッチング回路120の診断故障信号で表される数を加算してDC/DCコンバータ100におけるスイッチング素子対の故障数を算出する。続いて、ステップS53において、故障数に応じた制御ゲインKを設定する。制御ゲインKは、故障数が「0」の場合には、「1」(K=1)に設定され、故障数が多くなるほど小さな値(0<K<1)に設定される。この制御ゲインKと故障数との関係は、予め、サスペンションECU70のメモリに記憶されている。
続いて、補正演算部74は、ステップS54において、目標モータ力演算部73で演算された目標モータ力fmotor*に制御ゲインKを乗算し、その乗算結果(K・fmotor*)を新たな目標モータ力fmotor*に設定する。従って、DC/DCコンバータ100のスイッチング素子対SPの故障数が多いほど小さくなるように目標モータ力fmotor*が補正される。補正演算部74は、新たな目標モータ力fmotor*を演算すると、ステップS55において、目標モータ力fmotor*に対応する制御信号をモータEDU50に出力して目標モータ力補正ルーチンを一旦終了する。
DC/DCコンバータ100においては、スイッチング素子対SPの片側のスイッチング素子Sがオフ故障している場合には、もう一方のスイッチング素子に2倍の電流が流れることになるが、この目標モータ力補正ルーチンが実行されることにより、通常時(正常時)に比べて目標モータ力fmotor*が小さな値に設定され、結果的に、その電流が制限される。これにより、スイッチング素子Sの発熱が抑えられ、対となる両方のスイッチング素子Sが故障して、DC/DCコンバータ100の作動が停止するという不具合を極力回避することができる。
以上説明した本実施形態の電磁サスペンション装置の電力供給システムによれば、DC/DCコンバータ100のスイッチング回路110,120をスイッチング素子対SPで構成したため、DC/DCコンバータ100の過熱損傷を防止できる。従って、電磁サスペンション装置によるアクティブ制御を継続することができ、適正な乗り心地性能、操縦安定性能を維持することができるとともに、サスペンションストロークを規制するストッパ当たりの増加を防止できる。
また、スイッチング素子対SPにおける片側のスイッチング素子Sがオフ故障した場合であっても、その故障を検出することができる。また、仮に、片側のスイッチング素子Sがオフ故障した場合であっても、目標モータ力fmotor*を補正して電動モータ40の作動を制限するため、正常側のスイッチング素子Sに大きな電流が流れない。このため、正常側のスイッチング素子Sまでも故障してDC/DCコンバータ100が作動不能になってしまうという不具合を防止できる。
また、スイッチング素子対SPの故障数が多いほど、目標モータ力fmotor*を正常時に比べて小さくなるように補正するため、DC/DCコンバータ100に流れる電流を一層適正に制限することができる。
また、1次側,2次側オン期間比変更制御ルーチンを実行して、故障スイッチング素子対SPのオン期間を、故障が検出されていないスイッチング素子対SPのオン期間に比べて短くするため、故障スイッチング素子対SPにおける正常側のスイッチング素子Sに電流の流れる期間が短くなり、当該スイッチング素子Sの過熱をさらに抑制することができる。このため、DC/DCコンバータ100内において、複数のスイッチング素子Sの発熱状態をバランスさせることができ、特定のスイッチング素子Sの負荷が大きくなってしまうことがない。
これらの結果、DC/DCコンバータ100の過熱損傷防止を図りながら、電磁サスペンション装置の性能をできるだけ発揮させることができる。
<変形例1>
上述した目標モータ力補正ルーチンにおいては、制御ゲインKにより目標モータ力fmotor*を補正する構成であるが、それに代えて、目標モータ力fmotor*の上限値を可変する構成であってもよい。その変形例について、図11を用いて説明する。図11は、目標モータ力上限制限ルーチンを表す。この制御ルーチンは、上述の目標モータ力補正ルーチンにおけるステップS53,S54に代えて、ステップS61,S62,S63の処理を行うものである。以下、目標モータ力補正ルーチンと同じ処理については同一のステップ番号を付けて説明を省略し、相違する部分について説明する。
補正演算部74は、ステップS52において、DC/DCコンバータ100におけるスイッチング素子対SPの故障数を算出すると、ステップS61において、その故障数に応じた上限目標モータ力flimを設定する。上限目標モータ力flimは、目標モータ力fmotor*の上限値を表すもので、故障数が「0」の場合には、通常上限値flim0に設定され、故障数が多くなるほど小さな値flim(<flim0)に設定される。この上限目標モータ力flimと故障数との関係は、予め、サスペンションECU70のメモリに記憶されている。
続いて、補正演算部74は、ステップS62において、目標モータ力演算部113で演算された目標モータ力fmotor*が上限目標モータ力flimよりも大きいか否かを判断する。目標モータ力fmotor*が上限目標モータ力flimよりも大きい場合には、ステップS63において、目標モータ力fmotor*を上限目標モータ力flimに変更する(fmotor*←flim)。一方、目標モータ力fmotor*が上限目標モータ力flim以下である場合には、ステップS63の処理をスキップして目標モータ力fmotor*を変更しない。こうして、新たな目標モータ力fmotor*を演算すると、ステップS55において、目標モータ力fmotor*に対応する制御信号をモータEDU50に出力して目標モータ力補正ルーチンを終了する。
この変形例1においては、DC/DCコンバータ100のスイッチング素子対SPの故障が検出されている場合には、DC/DCコンバータ100に流れる上限電流が制限されてスイッチング素子Sの発熱が抑えられる。このため、変形例1においても、実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
<変形例2>
上述した例は、何れも故障診断信号をサスペンションECU70に出力して、目標モータ力fmotor*を可変する構成であるが、それに代えて、モータEDU50のモータ制御部52で電流を制限するようにしてもよい。例えば、DC/DCコンバータ100のスイッチ制御部140は、ステップS17およびステップS27において、故障診断信号をモータEDU50のモータ制御部52に出力する。そして、モータ制御部52は、図12に示す上限電流設定ルーチンを実施する。モータ制御部52は、ステップS71において、故障診断信号を入力し、ステップS72において、DC/DCコンバータ100におけるスイッチング素子対SPの故障数を算出する。続いて、ステップS73において、故障数に応じた上限電流ilimを設定する。この場合、上限電流ilimは、故障数が多くなるほど小さな値に設定される。この上限電流ilimと故障数との関係は、予め、モータ制御部52のメモリに記憶されている。
モータ制御部52は、ステップS74において、サスペンションECU70から出力される制御信号の目標モータ力fmotor*に対応する目標電流i*が上限電流ilimよりも大きい場合には、ステップS75において、目標電流i*を上限電流値ilim設定し、目標電流i*が上限電流値以下である場合には、ステップS75の処理をスキップして目標電流i*を変更しない。このように、上限電流制限処理は、サスペンションECU70、モータEDU50の何れにおいても実施することができる。
<変形例3>
また、制御ゲインKによる補正をモータEDU50側で行うこともできる。例えば、モータEDU50のモータ制御部52は、故障診断信号に基づいてスイッチング素子対SPの故障数を算出し、その故障数に応じた制御ゲインKを設定する。そして、サスペンションECU70から出力される制御信号の目標モータ力fmotor*に制御ゲインKを乗算し、この目標モータ力fmotor*に応じた目標電流を電動モータ40に流す。これにより、DC/DCコンバータ100に流れる電流が制限されて、スイッチング素子Sの発熱を抑制することができる。
<変形例4>
上述した例においては、DC/DCコンバータ100のスイッチング素子対SPの故障数に応じて制御ゲインKあるいは上限値を設定しているが、故障数に関わらず故障の有無に応じて設定するものであってもよい。例えば、DC/DCコンバータ100のスイッチング素子対SPに故障が発生している場合には、故障数に関わらず、目標モータ力fmotor*に一定の制御ゲインK(<1)を乗算する構成であってもよい。例えば、制御ゲインKを0.5に設定した場合、片側の正常なスイッチング素子Sには、通常時(故障発生前)と変わらない大きさの電流が流れることになり、スイッチング素子Sの発熱を適正に抑制することができる。また、DC/DCコンバータ100のスイッチング素子対SPに故障が発生している場合には、故障数に関わらず、通常時よりも小さな一定の上限電流ilimを設定する構成であってもよい。
<変形例5>
この変形例5においては、DC/DCコンバータ100におけるスイッチング素子対SPの故障発生個所に応じてサスペンションECU70における処理を変更する。上述したように1次側スイッチング回路110は、高圧バッテリ200の電力をモータEDU50に供給する場合に作動し、2次側スイッチング回路120は、電動モータ40で発生した起電力を高圧バッテリ200に回生させる場合に作動する。従って、この変形例5では、1次側スイッチング回路110のスイッチング素子対SPに故障が検出された場合には、高圧バッテリ200からモータEDU50への電力供給を制限し、2次側スイッチング回路120のスイッチング素子対SPに故障が検出された場合には、モータEDU50から高圧バッテリ200への電力回生を制限する。
図13は、サスペンションECU70の補正演算部74により実行される目標モータ力補正ルーチンを表す。目標モータ力補正ルーチンは、所定の短い周期にて繰り返される。補正演算部74は、まず、ステップS81において、DC/DCコンバータ100のスイッチ制御部140の出力する故障診断信号を入力する。続いて、ステップS82において、故障診断信号に基づいて、DC/DCコンバータ100のスイッチング素子対SPに故障が検出されているか否かを判断する。補正演算部74は、故障が検出されていない場合には(S82:No)、ステップS83において、目標モータ力演算部113で演算された目標モータ力fmotor*を補正することなく、そのままモータEDU50に出力して本ルーチンを一旦終了する。
一方、故障が検出されている場合には(S82:Yes)、ステップS84において、故障診断信号に基づいてスイッチング素子対SPの故障個所を判断する。故障個所が1次側スイッチング回路110である場合には、ステップS90において、電力消費制限制御処理を実行する。故障個所が2次側スイッチング回路120である場合には、ステップS100において、電力回生制限制御処理を実行する。故障個所が、1次側スイッチング回路110と2次側スイッチング回路120との両方である場合には、ステップS110において、双方向制限制御を実行する。
双方向制限制御としては、図10または図11に示す目標モータ力補正ルーチンを実行すればよい。あるいは、モータEDU50側で電流制限処理(図12)を実行するようにすればよい。
電力消費制限制御処理は、図14に示す電力消費制限制御ルーチンにしたがって実行される。この電力消費制限制御ルーチンは、上記の目標モータ力補正ルーチンのステップS90の処理として組み込まれたサブルーチンである。補正演算部74は、ステップS91において、ストロークセンサ63により検出されるストローク変位量xSを読み込み、このストローク変位量xSを時間で微分することによりストローク速度xS’を計算する。続いて、ステップS92において、ストローク速度xS’と目標モータ力演算部113で演算された目標モータ力fmotor*とから、現在のサスペンション制御における制御領域を判定する。制御領域は、図17に示すように、ストローク速度xS’と目標モータ力fmotor*とから決まる。
続いて、補正演算部74は、ステップS93において、制御領域が消費領域であるか否かを判断する。制御領域が消費領域1あるいは消費領域2である場合には(S93:Yes)、ステップS94において、目標モータ力演算部113で演算された目標モータ力fmotor*に制御ゲインK(0<K<1)を乗算し、その乗算結果(K・fmotor*)を新たな目標モータ力fmotor*に設定する。この制御ゲインKは、予め設定されてメモリに記憶されているが(例えば、K=0.5)、上述したように故障数に応じて変更するようにしてもよい。一方、制御領域が消費領域1あるいは消費領域2でない場合には(S93:No)、目標モータ力fmotor*を補正しない。補正演算部74は、ステップS95において、目標モータ力fmotor*に対応する制御信号をモータEDU50に出力して電力消費制限制御ルーチンを終了する。
従って、制御領域が消費領域1あるいは消費領域2である場合には、高圧バッテリ200からモータEDU50に供給される電流が低減されるため、1次側スイッチング回路110のスイッチング素子Sの発熱を抑えることができる。また、電力回生時には、目標モータ力fmotor*が補正されないため、十分な減衰力を得ることができる。この場合、2次側スイッチング回路120は故障していないため、スイッチング素子対SPでの電流分散により発熱が抑制される。
尚、この例では、目標モータ力fmotor*を、制御ゲインKを乗算することにより補正しているが、上述した変形例(S61,S62,S63)のように、上限目標モータ力flimを通常時よりも小さくするようにしても良い。この場合には、高圧バッテリ200からモータEDU50に供給される電流の上限値が抑えられる。これにより、1次側スイッチング回路110のスイッチング素子Sの発熱を抑えることができる。
また、目標モータ力fmotor*をゼロ(fmotor*=0)に設定するようにしてもよい。この場合には、減衰力のみを制御するセミアクティブ制御を実行することになる。
また、電動モータ40に流れる上限電流の制限は、補正演算部74からモータEDU50に対して目標モータ力fmotor*を出力するときに、上限電流の低減指令を併せて出力するようにしてもよい。
次に、ステップS100の電力回生制限制御処理について説明する。図15は、補正演算部74が実行する電力回生制限制御ルーチンを表す。この電力回生制限制御ルーチンは、上記の目標モータ力補正ルーチンのステップS100の処理として組み込まれたサブルーチンである。補正演算部74は、ステップS101において、相間短絡開始閾値Wrefを、通常時(2次側スイッチング回路120の故障が検出されていない時)の閾値W0に代えて、故障用閾値Wlowに変更する(Wref←Wlow)。この故障用閾値Wlowは、通常時の閾値W0よりも小さな値に設定されている。続いて、ステップS102において、故障用閾値Wlowに設定した相間短絡開始閾値WrefをモータEDU50に出力して電力回生制限制御ルーチンを一旦終了する。この場合、補正演算部74は、相間短絡開始閾値Wrefに加えて、目標モータ力演算部113で演算された目標モータ力fmotor*を補正することなくそのままモータEDU50出力する。
図16は、モータEDU50のモータ制御部52で実行される電力回生制限制御ルーチンを表す。この電力回生制限制御ルーチンは、所定の短い周期で繰り返し実行される。モータ制御部52は、ステップS105において、サスペンションECU70の補正演算部74から出力される相間短絡開始閾値Wrefを読み込む。続いて、ステップS106において、電流センサ53により検出されるモータ電流iuvwと電圧センサ54により検出されるモータ電圧Vuvwを読み込む。続いて、ステップS107において、モータ電流iuvwとモータ電圧Vuvwから回生電力Wxを計算する。この場合、モータ電流iuvwの流れる方向から電力回生状態が電力消費状態かを判断することができる。電力消費状態の場合には、回生電力Wxの値は、ゼロに設定される(Wx=0)。
モータ制御部52は、続くステップS108において、回生電力Wxと相間短絡開始閾値Wrefとを比較し、回生電力Wxが相間短絡開始閾値Wrefよりも大きいか否かを判断する。回生電力Wxが相間短絡開始閾値Wrefよりも大きいと判断した場合には(S108:Yes)、ステップS109において、3相インバータ51の降圧電源ライン203側のスイッチング素子S1,S2,S3をオン状態にし、グランドライン204側のスイッチング素子S4,S5,S6をオフ状態にする。これにより、電動モータ40の通電端子間が短絡する。この相間短絡状態においては、電動モータ40で発生した起電力により電動モータ40の端子間に電流が還流し、3相インバータ51からDC/DCコンバータ100には回生電流が流れなくなる。このときモータコイルに流れる電流の大きさに比例した制動力が電動モータ40に発生し、電磁アクチュエータ30の伸縮動作(ボールネジ機構の伸縮動作)が減衰する。
一方、モータ制御部52は、回生電力Wxが相間短絡開始閾値Wref以下であると判断した場合には(S108:No)、ステップS109の処理をスキップする。つまり、電動モータ40の相間短絡処理を行わない。従って、電動モータ40から高圧バッテリ200への電力回生が実施される。
モータ制御部52は、この電力回生制限制御ルーチンを所定の短い周期で繰り返し実行する。従って、回生電力Wxが相間短絡開始閾値Wrefを超えている間は、電動モータ40の相間短絡処理が行われ、DC/DCコンバータ100に回生電流が流れなくなる。
このサスペンションECU70およびモータEDU50における電力回生制限制御ルーチンによれば、DC/DCコンバータ100の2次側スイッチング回路120が故障した場合には、相間短絡開始閾値Wrefが通常よりも小さな値に設定されるため、相間短絡処理の開始タイミングが早められる。これにより、大きな回生電流がDC/DCコンバータ100を経由して高圧バッテリ200に流れることがない。この結果、2次側スイッチング回路120のスイッチング素子対SPに流れる電流が制限され、故障したスイッチング素子Sと対をなすスイッチング素子Sの発熱を抑制することができる。また、高圧バッテリ200からモータEDU50への電力供給は制限されないため、電磁アクチュエータ30においては、十分な推進力を発生することができる。
尚、相間短絡処理を実行すると電動モータ40が発熱するため、適宜、相間開放用リレーユニット55のリレーR1,R2,R3をオフ状態にして電動モータ40を電源から開放状態にするとよい。この場合には、電動モータ40のコイルに電流が流れなくなるため、モータ過熱を防止することができる。
また、電力回生制限制御処理は、相間短絡処理に限るものではなく、例えば、電力消費制限制御ルーチン(図14)と同様に制御領域を判断して、制御領域が回生領域1あるいは回生領域2となる場合に、目標モータ力fmotor*を低減補正するようにしてもよい。この場合、例えば、図14の電力消費制限制御ルーチンのステップS93を、制御領域が回生領域1あるいは回生領域2であるか否かを判断する処理に変更すればよい。
以上、本実施形態の電磁サスペンション装置の電力供給システムについて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、スイッチング素子対SPの故障が検出されている場合には、目標モータ力fmotor*を制御ゲインKを用いて低減補正する処理(=目標電流を低減補正する処理)と、目標モータ力fmotor*の上限値を低減する処理(=目標電流の上限値を低減する処理)との両方を行うようにしてもよい。
また、本実施形態は、DC/DCコンバータ100を介して高圧バッテリ200と電磁サスペンション装置との間で電力を相互に供給する電力供給システムであるが、例えば、電磁サスペンション装置に代えて電動パワーステアリング装置等の他の車載電気機器においても適用することができる。電動パワーステアリング装置の場合には、ステアリング機構に設けられた電動モータを駆動するモータ駆動回路(例えば、3相インバータ)にDC/DCコンバータ100から電力を供給すればよい。
また、本実施形態においては、1つのDC/DCコンバータ100に4つのモータEDU50を並列に接続する構成を採用しているが、高圧バッテリ200に4つのDC/DCコンバータ100の1次側を並列に接続し、それぞれのDC/DCコンバータ100の2次側にモータEDU50を接続する構成を採用することもできる。
また、本実施形態においては、高圧バッテリ200の出力する電力をDC/DCコンバータ100で降圧して車載電気機器に供給するシステムであるが、本発明は、低圧バッテリの出力する電力をDC/DCコンバータで昇圧して車載電気機器に供給するシステムにおいても採用することもできる。