JP5631864B2 - 成形体、その製造方法、電子デバイス用部材及び電子デバイス - Google Patents

成形体、その製造方法、電子デバイス用部材及び電子デバイス Download PDF

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Description

本発明は、ガスバリア性、透明性、耐屈曲性、帯電防止性及び表面平滑性に優れる成形体、その製造方法、この成形体からなる電子デバイス用部材、及びこの電子デバイス用部材を備える電子デバイスに関する。
従来、プラスチックフィルム等の高分子成形体は、低価格であり、加工性に優れるため、所望の機能を付与して種々の分野で用いられている。
例えば、近年、液晶ディスプレイやエレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ等のディスプレイには、薄型化、軽量化、フレキシブル化等を実現するために、基板として、ガラス板に代えて、透明プラスチックフィルムを用いることが検討されている。
例えば、特許文献1には、透明プラスチックフィルムに無機化合物からなるガスバリア層が形成されたガスバリアフィルムが提案されている。しかし、この文献に記載されたガスバリアフィルムは、無機化合物薄膜にピンホールが発生し、ピンホール発生部のガスバリア性が極度に低下するという問題があった。また、フィルムを丸めたり折り曲げたりすると、ガスバリア層にクラックが発生してガスバリア性が低下するという問題もあった。さらに、ガスバリア層の表面平滑性に劣り、ガスバリア性層上に他の層を形成した時に、形成された他の層にピンホールが発生しやすく、電子デバイス用部材として十分な信頼性が得られないという問題もあった。
また、特許文献2には、プラスチック基材に非晶質のダイヤモンド状炭素膜を形成したガスバリアフィルムが提案されている。しかし、この文献に記載されたガスバリアフィルムは透明性が低いため、特にディスプレイ用途等に用いるには困難な場合があった。
一方、特許文献3には、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化層及びダイヤモンドライクカーボン被膜を有する成形体が提案されている。そこには、硬化層上に、プラズマイオン注入法によりダイヤモンドライクカーボン被膜を形成する技術が記載されている。
しかしながら、この文献に記載された技術により得られる成形体は、耐透湿性に優れるものの、充分なガスバリア性を有するものではない。
特開2006−297737号公報 特開平6−344495号公報 特開2007−283726号公報
本発明は、上記した従来技術に鑑みてなされたものであり、ガスバリア性、透明性、耐屈曲性、帯電防止性及び表面平滑性に優れる成形体、その製造方法、この成形体からなる電子デバイス用部材、並びにこの電子デバイス用部材を備える電子デバイスを提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層を表面部に有する成形物の、前記ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層の表面部に、炭化水素系化合物のイオンを注入することにより、目的とする成形体を簡便かつ効率よく製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
かくして本発明の第1によれば、下記(1)〜(3)の成形体が提供される。
(1)ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層に、炭化水素系化合物のイオンが注入されて得られる層を有することを特徴とする成形体。
(2)ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層に、プラズマイオン注入法により、炭化水素系化合物のイオンが注入されて得られる層を有することを特徴とする(1)に記載の成形体。
(3)40℃、相対湿度90%雰囲気下での水蒸気透過率が1.5g/m/day以下であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の成形体。
本発明の第2によれば、下記(4)、(5)の成形体の製造方法が提供される。
(4)ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層を表面部に有する成形物の、前記ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層の表面部に、炭化水素系化合物のイオンを注入する工程を有する(1)に記載の成形体の製造方法。
(5)ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層を表面部に有する長尺の成形物を一定方向に搬送しながら、前記ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層に、炭化水素系化合物のイオンを注入することを特徴とする(4)に記載の成形体の製造方法。
本発明の第3によれば、下記(6)の電子デバイス用部材が提供される。
(6)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の成形体からなる電子デバイス用部材。
本発明の第4によれば、下記(7)の電子デバイスが提供される。
(7)前記(6)に記載の電子デバイス用部材を備える電子デバイス。
本発明の成形体は、ガスバリア性、透明性、耐屈曲性、帯電防止性及び表面平滑性に優れるものである。よって、本発明の成形体は、フレキシブルなディスプレイ、太陽電池等の電子デバイス用部材として好適に用いることができる。
本発明の製造方法によれば、本発明の成形体を簡便かつ効率よく製造することができる。
本発明の電子デバイス用部材は、優れたガスバリア性、透明性等を有するため、ディスプレイ、太陽電池等の電子デバイスに好適に用いることができる。
本発明に使用するプラズマイオン注入装置の概略構成を示す図である。 本発明に使用するプラズマイオン注入装置の概略構成を示す図である。
以下、本発明を、1)成形体、2)成形体の製造方法、並びに、3)電子デバイス用部材及び電子デバイスに項分けして詳細に説明する。
1)成形体
本発明の成形体は、ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層(以下、「ポリオルガノシロキサン系化合物層」ということがある。)に、炭化水素系化合物のイオンが注入されて得られる層(以下、「イオン注入層」という。)を有することを特徴とする。
ここで、ポリオルガノシロキサン系化合物は、シロキサン結合〔−(O−Si)−O−〕を有する繰り返し単位を持つケイ素含有高分子化合物を意味する。
ポリオルガノシロキサン系化合物の主鎖構造に制限はなく、直鎖状、ラダー状、籠状のいずれであってもよい。
例えば、前記直鎖状の主鎖構造としては下記式(a)で表される構造が、ラダー状の主鎖構造としては下記式(b)で表される構造が挙げられ、籠状の主鎖構造としては下記式(c)で表される構造が例示される。
Figure 0005631864
Figure 0005631864
Figure 0005631864
式中、Rx、Ry、Rzは、それぞれ独立して、水素原子、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換若しくは置換基を有するアリール基等の非加水分解性基を表す。ただし、式(a)中のRxが2つとも水素原子であることはない。また、式(a)中の複数のRx、式(b)中の複数のRy、及び式(c)の複数のRzは、それぞれ同一でも相異なっていてもよい。
無置換若しくは置換基を有するアルキル基のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等の炭素数1〜10のアルキル基が挙げられる。
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基等の炭素数2〜10のアルケニル基が挙げられる。
前記アルキル基及びアルケニル基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシル基;チオール基;エポキシ基;グリシドキシ基;(メタ)アクリロイルオキシ基;フェニル基、4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基等の無置換若しくは置換基を有するフェニル基;等が挙げられる。
無置換又は置換基を有するアリール基のアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基が挙げられる。
前記アリール基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;ヒドロキシル基;チオール基;エポキシ基;グリシドキシ基;(メタ)アクリロイルオキシ基;フェニル基、4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基等の無置換若しくは置換基を有するアリール基;等が挙げられる。
これらの中でも、Rx、Ry、Rzとしては、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又はフェニル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基が特に好ましい。
本発明においては、ポリオルガノシロキサン系化合物としては、前記式(a)で表される直鎖状の化合物、又は前記式(b)で表されるラダー状の化合物が好ましく、入手容易性、及び優れたガスバリア性を有するイオン注入層を形成できる観点から、前記式(a)で表される直鎖状の化合物がより好ましく、前記式(a)において2つのRxがともにメチル基であるポリジメチルシロキサンが特に好ましい。
ポリオルガノシロキサン系化合物は、加水分解性官能基を有するシラン化合物を重縮合する、公知の製造方法により得ることができる。
加水分解性官能基を有するシラン化合物は、目的とするポリオルガノシロキサン系化合物の構造に応じて適宜選択・使用すればよい。加水分解性官能基を有するシラン化合物の具体例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等の2官能シラン化合物;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルジエトキシメトキシシラン等の3官能シラン化合物;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、テトラs−ブトキシシラン、メトキシトリエトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、トリメトキシエトキシシラン等の4官能シラン化合物等が挙げられる。
また、ポリオルガノシロキサン系化合物として、剥離剤、接着剤、シーラント、塗料等として市販されている市販品をそのまま使用することもできる。
ポリオルガノシロキサン系化合物層は、ポリオルガノシロキサン系化合物の他に、本発明の目的を阻害しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、硬化剤、他の高分子、老化防止剤、光安定剤、難燃剤等が挙げられる。
ポリオルガノシロキサン系化合物層中の、ポリオルガノシロキサン系化合物の含有量は、優れたガスバリア性を有するイオン注入層を形成できる観点から、50重量%以上であるのが好ましく、70重量%以上であるのがより好ましい。
ポリオルガノシロキサン系化合物層を形成する方法としては、特に制約はなく、例えば、ポリオルガノシロキサン系化合物の少なくとも一種、所望により他の成分、及び溶剤等を含有する、ポリオルガノシロキサン系化合物層形成用組成物を、適当な基材の上に塗布し、得られた塗膜を乾燥し、必要に応じて加熱等して形成する方法が挙げられる。基材としては、後述する他の層の素材からなるフィルムを用いることができる。
形成されるポリオルガノシロキサン系化合物層の厚みは、特に制限されないが、通常30nm〜100μmである。
前記イオン注入層は、ポリオルガノシロキサン系化合物層に、炭化水素系化合物のイオン(以下、単に「イオン」ということがある。)が注入されて得られるものである。
炭化水素系化合物のイオンを生成する原料ガスとしては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等のアルカン系ガス類;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン等のアルケン系ガス類;ペンタジエン、ブタジエン等のアルカジエン系ガス類;アセチレン、メチルアセチレン等のアルキン系ガス類;ベンゼン、トルエン、キシレン、インデン、ナフタレン、フェナントレン等の芳香族炭化水素系ガス類;シクロプロパン、シクロヘキサン等のシクロアルカン系ガス類;シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロアルケン系ガス類;等が挙げられる。
これらのガスは、一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、本発明の目的とする成形体をより簡便に得られる観点から、炭素数1〜3の炭化水素化合物のガスが好ましく、メタンガス、エチレンガス、アセチレンガスが特に好ましい。
イオンの注入量は、形成する成形体の使用目的(必要なガスバリア性、透明性等)等に合わせて適宜決定すればよい。
イオンを注入する方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、電界により加速されたイオン(イオンビーム)を照射する方法、プラズマ中のイオンを注入する方法等が挙げられる。なかでも、本発明においては、簡便にガスバリア性成形体が得られることから、後者の、プラズマ中のイオンを注入する方法(以下、「プラズマイオン注入法」という。)が好ましい。
プラズマイオン注入法は、後述するように、プラズマ中に曝した、ポリオルガノシロキサン系化合物層を表面に有する成形物に、負の高電圧パルスを印加することにより、プラズマ中のイオンを前記層の表面部に注入してイオン注入層を形成する方法である。
イオン注入される部分の厚みは、注入条件により制御することができ、成形体の使用目的に応じて適宜決定すればよいが、通常、0.1〜1000nmである。
イオンが注入されたことは、X線光電子分光分析(XPS)を用いて表面から10nm付近の元素分析測定を行うことによって確認することができる。
本発明の成形体の形状は、特に制限されず、例えば、フィルム状、シート状、直方体状、多角柱状、筒状などが挙げられる。後述するごとき電子デバイス用部材として用いる場合には、フィルム状、シート状であることが好ましい。本発明の成形体がフィルム状物である場合、フィルムの厚みは特に限定されず、目的とする電子デバイスの用途によって適宜決定することができる。
本発明の成形体は、イオン注入層のみからなるものであってもよいし、さらに他の層を含むものであってもよい。また、他の層は、単層でも、同種又は異種の2層以上であってもよい。他の層としては、例えば、ポリオルガノシロキサン系化合物以外の材料からなる基材が挙げられる。
前記他の層の素材は、成形体の目的に合致するものであれば特に制限されず、例えば、
ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系ポリマー、芳香族系重合体等が挙げられる。
これらの中でも、透明性に優れ、汎用性があることから、ポリエステル、ポリアミド又はシクロオレフィン系ポリマーが好ましく、ポリエステル又はシクロオレフィン系ポリマーがより好ましい。
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート等が挙げられる。
ポリアミドとしては、全芳香族ポリアミド、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン共重合体等が挙げられる。
シクロオレフィン系ポリマーとしては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素化物が挙げられる。その具体例としては、アペル(三井化学社製のエチレン−シクロオレフィン共重合体)、アートン(JSR社製のノルボルネン系重合体)、ゼオノア(日本ゼオン社製のノルボルネン系重合体)等が挙げられる。
本発明の成形体が他の層を含む積層体である場合、イオン注入層の配置位置は特に限定されないが、効率よく製造できること等の理由から、イオン注入層を表面に有するのが好ましい。また、本発明の成形体が、イオン注入層を表面に有する場合、イオン注入層は、他の層の片面のみに形成されていても、他の層の両面に形成されていてもよい。
本発明の成形体は、ガスバリア性、透明性、耐屈曲性、帯電防止性及び表面平滑性に優れる。
本発明の成形体がガスバリア性に優れることは、本発明の成形体の水蒸気等のガスの透過率が、イオンが注入されていないものに比して、格段に小さいことから確認することができる。例えば、40℃、相対湿度90%雰囲気下での水蒸気透過度、すなわち、40℃において、相対湿度90%の調湿室から成型体(フィルム)を通過してくる水蒸気量は、1.5g/m/day以下が好ましい。
成形体の水蒸気等の透過率は、公知のガス透過率測定装置を使用して測定することができる。
本発明の成形体は可視光透過率が高く、透明性に優れる。本発明の成形体の波長550nmの可視光透過率は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。なお、成形体の可視光透過率は、公知の紫外可視近赤外分光透過率計を使用して測定することができる。
本発明の成形体は耐屈曲性に優れる。本発明の成形体が耐屈曲性に優れることは、例えば、成形体をステンレスの棒に、イオン注入面を外側にして巻きつけ、周方向に10往復させても、成形体が劣化しない(クラック等が発生しない)ことで確認することができる。
本発明の成形体は帯電防止性に優れる。本発明の成形体が帯電防止性に優れることは、例えば、電荷減衰度測定装置により成形体を帯電させ、その初期帯電圧が50%に減衰するまでの時間(半減期)を測定し、それが短時間であることから確認することができる。
また、高抵抗率計を用いて表面抵抗を測定し、その値が小さいことからも確認することができる。本発明の成形体の表面抵抗は、通常1.1×1014Ω/□以下、好ましくは1.0×1010Ω/□〜1.05×1014Ω/□である。
また、本発明の成形体は表面平滑性にも優れる。本発明の成形体が表面平滑性に優れることは、例えば、測定領域1×1μm及び25×25μmにおける表面粗さRa値(nm)を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定することにより確認することができる。1×1μmにおけるRa値は、0.35nm以下であるのが好ましく、0.3nm以下であるのがより好ましく、25×25μmにおけるRa値は、3nm以下であるのが好ましく、2.3nm以下であるのがより好ましい。
2)成形体の製造方法
本発明の成形体の製造方法は、ポリオルガノシロキサン系化合物層を表面部に有する成形物の、前記ポリオルガノシロキサン系化合物層に、炭化水素系化合物のイオンを注入する工程を有することを特徴とする。
炭化水素系化合物のイオンとしては、前記1)成形体の項で例示したのと同様のものが挙げられる。
本発明の成形体の製造方法においては、ポリオルガノシロキサン系化合物層を表面部に有する長尺の成形物を一定方向に搬送しながら、ポリオルガノシロキサン系化合物層に、炭化水素系化合物のイオンを注入させて成形体を製造することが好ましい。この製造方法によれば、例えば、長尺の成形物を巻き出しロールから巻き出し、それを一定方向に搬送しながらイオンを注入し、巻き取りロールで巻き取ることができるので、イオンが注入されて得られる成形体を連続的に製造することができる。
長尺の成形物の形状はフィルム状であり、ポリオルガノシロキサン系化合物層のみでもよいし、他の層を含むものであってもよい。他の層としては、ポリオルガノシロキサン系化合物以外の材料からなる基材が挙げられ、前述の他の層と同様のものを使用することができる。
成形物の厚さは、巻き出し、巻き取り及び搬送の操作性の観点から、1μm〜500μmが好ましく、5μm〜300μmがより好ましい。
本発明の成形体の製造方法において、ポリオルガノシロキサン系化合物層にイオン注入する方法としては、特に限定されない。なかでも、プラズマイオン注入法により前記層の表面部にイオン注入層を形成する方法が好ましい。
プラズマイオン注入法は、例えば、炭化水素系化合物のガスを含む雰囲気下でプラズマを発生させ、ポリオルガノシロキサン系化合物層に負の高電圧パルスを印加することにより、該プラズマ中に、炭化水素系化合物のイオンを発生させ、このイオンをポリオルガノシロキサン系化合物層の表面部に注入して行うことができる。
プラズマイオン注入法としては、(A)外部電界を用いて発生させたプラズマ中に存在するイオンを、前記層の表面部に注入する方法、又は(B)外部電界を用いることなく、前記層に印加する負の高電圧パルスによる電界のみで発生させたプラズマ中に存在するイオンを、前記層の表面部に注入する方法が好ましい。
前記(A)の方法においては、イオン注入する際の圧力(プラズマイオン注入時の圧力)を0.01〜1Paとすることが好ましい。プラズマイオン注入時の圧力がこのような範囲にあるときに、簡便にかつ効率よく均一なイオン注入層を形成することができ、透明性、ガスバリア性を兼ね備えたイオン注入層を効率よく形成することができる。
前記(B)の方法は、減圧度を高くする必要がなく、処理操作が簡便であり、処理時間も大幅に短縮することができる。また、前記層全体にわたって均一に処理することができ、負の高電圧パルス印加時にプラズマ中のイオンを高エネルギーで層の表面部に連続的に注入することができる。さらに、radio frequency(高周波、以下、「RF」と略す。)や、マイクロ波等の高周波電力源等の特別の他の手段を要することなく、層に負の高電圧パルスを印加するだけで、層の表面部にイオン注入層を均一に形成することができる。
前記(A)及び(B)のいずれの方法においても、負の高電圧パルスを印加するとき、すなわちイオン注入するときのパルス幅は、1〜15μsecであるのが好ましい。パルス幅がこのような範囲にあるときに、透明で均一なイオン注入層をより簡便にかつ効率よく形成することができる。
また、プラズマを発生させるときの印加電圧は、好ましくは−1kV〜−50kV、より好ましくは−1kV〜−30kV、特に好ましくは−5kV〜−20kVである。印加電圧が−1kVより大きい値でイオン注入を行うと、イオン注入量(ドーズ量)が不十分となり、所望の性能が得られない。一方、−50kVより小さい値でイオン注入を行うと、イオン注入時に成形体が帯電し、また成形体への着色等の不具合が生じ、好ましくない。
層の表面部にプラズマ中のイオンを注入する際には、プラズマイオン注入装置を用いる。
プラズマイオン注入装置としては、具体的には、(α)ポリオルガノシロキサン系化合物層(以下、「イオン注入する層」ということがある。)に負の高電圧パルスを印加するフィードスルーに高周波電力を重畳してイオン注入する層の周囲を均等にプラズマで囲み、プラズマ中のイオンを誘引、注入、衝突、堆積させる装置(特開2001−26887号公報)、(β)チャンバー内にアンテナを設け、高周波電力を与えてプラズマを発生させてイオン注入する層周囲にプラズマが到達後、イオン注入する層に正と負のパルスを交互に印加することで、正のパルスでプラズマ中の電子を誘引衝突させてイオン注入する層を加熱し、パルス定数を制御して温度制御を行いつつ、負のパルスを印加してプラズマ中のイオンを誘引、注入させる装置(特開2001−156013号公報)、(γ)マイクロ波等の高周波電力源等の外部電界を用いてプラズマを発生させ、高電圧パルスを印加してプラズマ中のイオンを誘引、注入させるプラズマイオン注入装置、(δ)外部電界を用いることなく高電圧パルスの印加により発生する電界のみで発生するプラズマ中のイオンを注入するプラズマイオン注入装置等が挙げられる。
これらの中でも、処理操作が簡便であり、処理時間も大幅に短縮でき、連続使用に適していることから、(γ)又は(δ)のプラズマイオン注入装置を用いるのが好ましい。
以下、前記(γ)及び(δ)のプラズマイオン注入装置を用いる方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、前記(γ)のプラズマイオン注入装置を備える連続的プラズマイオン注入装置の概要を示す図である。
図1(a)において、1aはポリオルガノシロキサン系化合物層を表面部に有する長尺のフィルム状の成形物(以下、「フィルム」という。)、11aはチャンバー、20aはターボ分子ポンプ、3aはイオン注入される前のフィルム1aを送り出す巻き出しロール、5aはイオン注入されたフィルム(成形体)1bをロール状に巻き取る巻取りロール、2aは高電圧印加回転キャン、6aはフィルムの送り出しロール、10aはガス導入口、7aは高電圧パルス電源、4はプラズマ放電用電極(外部電界)である。図1(b)は、前記高電圧印加回転キャン2aの斜視図であり、15は高電圧導入端子(フィードスルー)である。
本実施形態で用いるポリオルガノシロキサン系化合物層を表面部に有する長尺のフィルム1aは、基材(その他の層)上に、ポリオルガノシロキサン系化合物層を形成したフィルムである。
図1に示す連続的プラズマイオン注入装置においては、フィルム1aは、チャンバー11a内において、巻き出しロール3aから図1中矢印X方向に搬送され、高電圧印加回転キャン2aを通過して、巻き取りロール5aに巻き取られる。フィルム1aの巻取りの方法や、フィルム1aを搬送する方法等は特に制約はないが、本実施形態においては、高電圧印加回転キャン2aを一定速度で回転させることにより、フィルム1aの搬送を行っている。また、高電圧印加回転キャン2aの回転は、高電圧導入端子15の中心軸13をモーターにより回転させることにより行われる。
高電圧導入端子15、及びフィルム1aが接触する複数の送り出し用ロール6a等は絶縁体からなり、例えば、アルミナの表面をポリテトラフルオロエチレン等の樹脂で被覆して形成されている。また、高電圧印加回転キャン2aは導体からなり、例えば、ステンレス等で形成することができる。
フィルム1aの搬送速度は適宜設定できる。フィルム1aが巻き出しロール3aから搬送され、巻き取りロール5aに巻き取られるまでの間にフィルム1aの表面部(ポリオルガノシロキサン系化合物層)にイオン注入され、所望のイオン注入層が形成されるだけの時間が確保される速度であれば、特に制約されない。フィルムの巻取り速度(ライン速度)は、印加電圧、装置規模等にもよるが、通常0.1〜3m/min、好ましくは0.2〜2.5m/minである。
まず、チャンバー11a内をロータリーポンプに接続されたターボ分子ポンプ20aにより排気して減圧とする。減圧度は、通常1×10−4Pa〜1Pa、好ましくは1×10−3Pa〜1×10−2Paである。
次に、ガス導入口10aよりチャンバー11a内に、メタンガス等のイオン注入用のガス(以下、「イオン注入用ガス」ということがある。)を導入して、チャンバー11a内を減圧イオン注入用ガス雰囲気とする。
次いで、プラズマ放電用電極4(外部電界)によりプラズマを発生させる。プラズマを発生させる方法としては、マイクロ波やRF等の高周波電力源等による公知の方法が挙げられる。
一方、高電圧導入端子15を介して高電圧印加回転キャン2aに接続されている高電圧パルス電源7aにより、負の高電圧パルス9aが印加される。高電圧印加回転キャン2aに負の高電圧パルスが印加されると、プラズマ中のイオンが誘因され、高電圧印加回転キャン2aの周囲のフィルムの表面に注入される(図1(a)中、矢印Y)。
前述のように、イオン注入する際の圧力(チャンバー11a内のプラズマガスの圧力)は、0.01〜1Paであるのが好ましく、イオン注入するときのパルス幅は、1〜15μsecであるのが好ましく、高電圧印加回転キャン2aに負の高電圧を印加する際の印加電圧は、−1kV〜−50kVであるのが好ましい。
次に、図2に示す連続的プラズマイオン注入装置を使用して、ポリオルガノシロキサン系化合物層を表面部に有するフィルムの、前記ポリオルガノシロキサン系化合物層にイオン注入する方法を説明する。
図2に示す装置は、前記(δ)のプラズマイオン注入装置を備える。このプラズマイオン注入装置は、外部電界(すなわち、図1におけるプラズマ放電用電極4)を用いることなく印加する高電圧パルスによる電界のみでプラズマを発生させるものである。
図2に示す連続的プラズマイオン注入装置においては、フィルム(フィルム状の成形物)1cは、前記図1の装置と同様に高電圧印加回転キャン2bを回転させることによって、巻き出しロール3bから図2中矢印X方向に搬送され、巻き取りロール5bに巻き取られる。なお、6bは送り出し用ロールである。
図2に示す連続的プラズマイオン注入装置では、前記フィルムのポリオルガノシロキサン系化合物層の表面部へのイオン注入は次のように行われる。
まず、図1に示すプラズマイオン注入装置と同様にしてチャンバー11b内にフィルム1cを設置し、チャンバー11b内をロータリーポンプに接続されているターボ分子ポンプ20bにより排気して減圧とする。そこへ、ガス導入口10bよりチャンバー11b内に、メタンガス等のイオン注入用ガスを導入して、チャンバー11b内を減圧イオン注入用ガス雰囲気とする。
イオン注入する際の圧力(チャンバー11b内のプラズマガスの圧力)は、10Pa以下、好ましくは0.01〜5Pa、より好ましくは0.01〜1Paである。
次に、フィルム1cを、図2中Xの方向に搬送させながら、高電圧導入端子を介して高電圧印加回転キャン2bに接続されている高電圧パルス電源7bから高電圧パルス9bを印加する。
高電圧印加回転キャン2bに負の高電圧が印加されると、高電圧印加回転キャン2bの周囲のフィルム1cに沿ってプラズマが発生し、そのプラズマ中のイオン注入用ガスのイオンが誘因され、高電圧印加回転キャン2bの周囲の成形体フィルム1cの表面に注入される(図2中、矢印Y)。フィルム1cのポリオルガノシロキサン系化合物層の表面部にイオン注入用ガスのイオンが注入されると、フィルム表面部にイオン注入層が形成され、フィルム状の積層体1dが得られる。
高電圧印加回転キャン2bに負の高電圧を印加する際の印加電圧、パルス幅及びイオン注入する際の圧力は、図1に示す連続的プラズマイオン注入装置の場合と同様である。
図2に示すプラズマイオン注入装置では、プラズマを発生させるプラズマ発生手段を高電圧パルス電源によって兼用しているため、RFやマイクロ波等の高周波電力源等の特別の他の手段を要することなく、負の高電圧パルスを印加するだけで、プラズマを発生させ、フィルムのポリオルガノシロキサン系化合物層の表面部にプラズマ中のイオンを注入し、イオン注入層を連続的に形成し、フィルムの表面部にイオン注入層が形成された成形体を量産することができる。
3)電子デバイス用部材及び電子デバイス
本発明の電子デバイス用部材は、本発明の成形体からなることを特徴とする。従って、本発明の電子デバイス用部材はガスバリア性に優れるので、水蒸気等のガスによる素子の劣化を防ぐことができる。さらに、透明性、耐屈曲性、帯電防止性及び表面平滑性に優れるので、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ等のディスプレイ部材;太陽電池用部材;等として好適である。太陽電池用部材としては、透明性は必要ではないが、ガスバリア性が要求される太陽電池用バックシートにも好適に用いることができる。
本発明の電子デバイスは、本発明の電子デバイス用部材を備える。具体例としては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、電子ペーパー、太陽電池等が挙げられる。
本発明の電子デバイスは、本発明の成形体からなる電子デバイス用部材を備えているので、ガスバリア性、透明性、耐屈曲性、帯電防止性及び表面平滑性に優れる。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例になんら限定されるものではない。
用いたプラズマイオン注入装置、水蒸気透過率測定装置と測定条件、可視光透過率測定装置、耐屈曲性試験の方法、帯電圧測定装置、表面抵抗率測定装置、及び表面平滑性評価は以下の通りである。なお、用いたプラズマイオン注入装置は外部電界を用いてイオン注入する装置である。
(プラズマイオン注入装置)
RF電源:型番号「RF」56000、日本電子社製
高電圧パルス電源:「PV−3−HSHV−0835」、栗田製作所社製
(水蒸気透過率測定装置)
透過率測定器:「L89−500」、LYSSY社製
測定条件:40℃、相対湿度90%
(可視光透過率測定装置)
紫外可視近赤外分光透過率計(UV−3600、島津製作所社製)を用いて波長550nmにおける透過率を測定した。
(耐屈曲性試験)
3mmφステンレスの棒に、得られた成形体のイオン注入面(比較例1、比較例2はシリコーン剥離剤層側、比較例3はポリフェニルシルセスキオキサン層側、比較例4は窒化ケイ素膜側)を外側にして成形体を巻きつけ、周方向に10往復させた後、光学顕微鏡(倍率2000倍、キーエンス社製)でクラック発生の有無を観察した。クラックの発生が認められなかった場合を「なし」、クラックの発生が認められた場合を「あり」と評価した。
(帯電圧測定装置)
電荷減衰度測定装置(STATIC HONESTMETER TypeS−5109、シシド静電気社製)を用いて、ターンテーブル上に、得られた成形体のイオン注入面(比較例1、比較例2はシリコーン剥離剤層側、比較例3はポリフェニルシルセスキオキサン層側、比較例4は窒化ケイ素膜側)を上にして設置し、出力電圧10kVの電圧の印加し、回転数1300rpmで回転させながら帯電し、初期帯電圧(mV)、半減期(初期帯電圧が50%に減衰するまでの時間)、及び60秒後の帯電圧を測定した。半減期は、60秒以上である場合「60秒以上」とした。
(表面抵抗測定装置)
高抵抗率計(ハイレスターUP MCP−HT450、三菱化学社製)を用いて、得られた成形体のイオン注入面(比較例1、比較例2はシリコーン剥離剤層側、比較例3はポリフェニルシルセスキオキサン層側、比較例4は窒化ケイ素膜側)の表面抵抗を測定した。表面抵抗値は、1.0×1015Ω/□以上の場合「1.0×1015Ω/□」とした。
(表面平滑性評価)
原子間力顕微鏡(AFM)(「SPA300 HV」、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて測定領域1×1μm(1μm□)及び25×25μm(25μm□)における、得られた成形体のイオン注入面の表面粗さRa値(nm)を測定した。
(実施例1)
基材としてのポリエチレンテレフタレートフィルム(「PET38T−300」、三菱樹脂社製、厚さ38μm)(以下、「PETフィルム」という。)に、ポリオルガノシロキサン系化合物としてシリコーン剥離剤1(「KS847」、ポリジメチルシロキサンを主成分とするシリコーン樹脂、信越化学工業社製)を塗布し、120℃で2分間加熱して、PETフィルム上に厚さ100nmのポリジメチルシロキサンを含む層を形成して成形物を得た。次に、図1に示すプラズマイオン注入装置を用いてポリジメチルシロキサンを含む層の表面に、メタン(CH)をプラズマイオン注入して成形体1を作製した。
プラズマイオン注入の条件を以下に示す。
・Duty比:0.5%
・繰り返し周波数:1000Hz
・印加電圧:−10kV
・RF電源:周波 13.56MHz、印加電力 1000W
・チャンバー内圧:0.2Pa
・パルス幅:5μsec
・処理時間(イオン注入時間):5分間
・ガス流量:100ccm
(実施例2)
ポリオルガノシロキサン系化合物としてシリコーン剥離剤1の代わりに、フェニルトリメトキシシラン(東京化成工業社製、以下、「シリコーン剥離剤2」という。)を用いた以外は、実施例1と同様にして成形体2を作製した。
(実施例3)
ポリオルガノシロキサン系化合物としてシリコーン剥離剤1の代わりに、ポリフェニルシルセスキオキサン(SR−23、小西化学工業社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして成形体3を作製した。
(実施例4)
イオン注入用ガスとして、メタンの代わりにアセチレンを用いた以外は、実施例1と同様にして成形体4を作製した。
(実施例5)
イオン注入用ガスとして、メタンの代わりにアセチレンを用いた以外は、実施例2と同様にして成形体5を作製した。
(実施例6)
イオン注入用ガスとして、メタンの代わりにアセチレンを用いた以外は、実施例3と同様にして成形体6を作製した。
(実施例7)
イオン注入用ガスとして、メタンの代わりにトルエンを用いた以外は、実施例1と同様にして成形体7を作製した。
(実施例8)
イオン注入用ガスとして、メタンの代わりにトルエンを用いた以外は、実施例2と同様にして成形体8を作製した。
(実施例9)
イオン注入用ガスとして、メタンの代わりにトルエンを用いた以外は、実施例3と同様にして成形体9を作製した。
(実施例10)
イオン注入用ガスとして、メタンの代わりにエチレンを用いた以外は、実施例1と同様にして成形体10を作製した。
(参考例1)
イオン注入用ガスとして、メタンの代わりにアルゴンを用いた以外は、実施例1と同様にして成形体1rを作製した。
(参考例2)
イオン注入用ガスとして、メタンの代わりにアルゴンを用いた以外は、実施例2と同様にして成形体2rを作製した。
(参考例3)
イオン注入用ガスとして、メタンの代わりにアルゴンを用いた以外は、実施例3と同様にして成形体3r作製した。
(比較例1)
イオン注入を行わない以外は、実施例1と同様にして成形体を作製した。すなわち、PETフィルム上にシリコーン剥離剤1の層を形成し、成形体1cとした。
(比較例2)
イオン注入を行わない以外は、実施例2と同様にして成形体を作製した。すなわち、PETフィルム上にシリコーン剥離剤2の層を形成し、成形体2cとした。
(比較例3)
イオン注入を行わない以外は、実施例3と同様にして成形体を作製した。すなわち、PETフィルム上にポリフェニルシルセスキオキサンの層を形成し、成形体3cとした。
(比較例4)
PETフィルムに、スパッタリング法により、厚さ50nmの窒化ケイ素(Si)の膜を設け、成形体4cを作製した。
(比較例5)
PETフィルムにポリオルガノシロキサン系化合物を塗布しない以外は、実施例1と同様にして成形体を作製した。すなわち、PETフィルムの表面にメタンをプラズマイオン注入して成形体5cとした。
(比較例6)
PETフィルムにポリオルガノシロキサン系化合物を塗布しない以外は、実施例4と同様にして成形体を作製した。すなわち、PETフィルムの表面にアセチレンをプラズマイオン注入して成形体6cとした。
(比較例7)
PETフィルムに、ポリオルガノシロキサン系化合物を塗布しない以外は、実施例7と同様にして成形体を作製した。すなわち、PETフィルムの表面にトルエンをプラズマイオン注入して成形体7cとした。
実施例1〜10、参考例1〜3、及び比較例5〜7において、イオン注入層が形成されていることを、XPS(測定装置:アルバックファイ社製)を用いて表面から10nm付近の元素分析測定を行うことによって確認した。
また、実施例1〜10、参考例1〜3及び比較例1〜7で得られた成形体1〜10、1r〜3r、1c〜7cにつき、水蒸気透過率の測定、耐屈曲性試験、可視光透過率の測定、帯電圧測定、及び表面抵抗の測定を行った。結果を下記第1表に示す。
Figure 0005631864
また、実施例1〜10、参考例1〜3及び比較例1〜7で得られた成形体1〜10、1r〜3r、1c〜7cにつき、表面平滑性評価試験を行った。結果を下記第2表に示す。
Figure 0005631864
第1表からわかるように、実施例1〜10の成形体1〜10は、比較例1〜3、5〜7の成形体1c〜3c、5c〜7cに比して、水蒸気透過率が小さく、優れたガスバリア性を有していた。また、実施例4〜10の成形体4〜10は、比較例1〜5の成形体1c〜5cに比して、帯電圧および表面抵抗値が小さく、優れた帯電防止性を有していた。
また、耐屈曲性試験において、実施例1〜10の成形体はクラックの発生がみられず、無機膜を形成した比較例4の成形体4cに比して、耐折り曲げ性に優れていることがわかる。
さらに第2表からわかるように、実施例1〜10の成形体1〜10は、比較例1〜7の成形体1c〜7cに比して、表面平滑性に優れていた。
以上のことから、炭化水素系化合物のイオン注入を適切な条件で行うことにより、ガスバリア性、透明性、帯電防止性、耐屈曲性及び表面平滑性のすべてに優れる成形体が得られることがわかる。
1a、1c…フィルム状の成形物、1b、1d…フィルム状の成形体、2a、2b…回転キャン、3a、3b…巻き出しロール、4…プラズマ放電用電極、5a、5b…巻き取りロール、6a、6b…送り出し用ロール、7a、7b…パルス電源、9a、9b…高電圧パルス、10a、10b…ガス導入口、11a、11b…チャンバー

Claims (7)

  1. ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層に、アルケン系ガス類、アルカジエン系ガス類、アルキン系ガス類、及び芳香族炭化水素系ガス類から選ばれる炭化水素系化合物のイオンが注入されて得られる層を有することを特徴とする成形体。
  2. ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層に、プラズマイオン注入法により、アルケン系ガス類、アルカジエン系ガス類、アルキン系ガス類、及び芳香族炭化水素系ガス類から選ばれる炭化水素系化合物のイオンが注入されて得られる層を有することを特徴とする請求項1に記載の成形体。
  3. 40℃、相対湿度90%雰囲気下での水蒸気透過率が1.5g/m/day以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の成形体。
  4. ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層を表面部に有する成形物の、前記ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層の表面部に、アルケン系ガス類、アルカジエン系ガス類、アルキン系ガス類、及び芳香族炭化水素系ガス類から選ばれる炭化水素系化合物のイオンを注入する工程を有する請求項1に記載の成形体の製造方法。
  5. ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層を表面部に有する長尺の成形物を一定方向に搬送しながら、前記ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層に、アルケン系ガス類、アルカジエン系ガス類、アルキン系ガス類、及び芳香族炭化水素系ガス類から選ばれる炭化水素系化合物のイオンを注入することを特徴とする請求項4に記載の成形体の製造方法。
  6. 請求項1〜3のいずれかに記載の成形体からなる電子デバイス用部材。
  7. 請求項6に記載の電子デバイス用部材を備える電子デバイス。
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