JP5620886B2 - 杭基礎構造 - Google Patents

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Description

本発明は、杭基礎構造に関する。
杭頭部の合理的な接合方式として、杭頭部の固定度を低下させ、杭頭部の回転を許容する杭頭半剛接合構法が開発されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。杭頭半剛接合を採用すると、地震時に生じる杭頭部の曲げモーメントが剛接合の場合よりも小さくなるので、杭の損傷を抑制することが可能となる。
特開2007−23602号公報
青島一樹、他5名、「杭頭半剛接合構法「F.T.Pile構法」の開発」、大成建設技術センター報、大成建設株式会社、2004年、第37号、p11-1〜11-8
図8に示すように、上部構造物および基礎には、慣性力H,H’(地震時の加速度応答に質量を乗じて方向を逆転させたもの)が作用するところ、この慣性力H,H’は、通常、「各杭における杭頭せん断力Qの総和」と「基礎の根入れ部に作用する地盤反力(図示略)」との合計値と釣り合っている。ここで、せん断力は、曲げモーメントを深さ方向に微分した値(=曲げモーメントの変化率)であるから、杭頭せん断力Qは、杭頭部における曲げモーメントの変化率と等しくなる。なお、基礎部の根入れが浅い場合若しくは表層が軟弱な地盤では、「基礎の根入れ部に作用する地盤反力」は小さく、慣性力HとH’の和は、各杭における杭頭せん断力Qの総和と略等しくなる。
杭頭せん断力Qを小さくできれば、慣性力H,H’を小さくすることができるが、杭頭半剛接合を採用した場合、杭頭部の曲げモーメントについては低減されるものの、杭頭せん断力Q(=杭頭部における曲げモーメントの変化率)については剛接合の場合とさほど変わらないので、杭頭半剛接合を採用しただけでは、建物躯体に入力される地震動(慣性力)はさほど小さくならない。
このような観点から、本発明は、建物躯体に入力される地震動を低減することが可能な杭基礎構造を提供することを課題とする。
上記課題を解決する第一の発明は、杭と、前記杭に支持される基礎とを備える杭基礎構造であって、前記杭は、下段杭部と、前記下段杭部に載置された上段杭部とを有し、前記下段杭部の杭主筋は、前記上段杭部に定着されておらず、前記上段杭部の杭主筋は、前記下段杭部に定着されておらず、前記下段杭部と前記上段杭部との境界を跨ぐようにせん断伝達部材が配置されており、前記下段杭部と前記上段杭部との接合部の固定度が低減されており、かつ、前記上段杭部と前記基礎との接合部の固定度が低減されており、前記上段杭部の周囲に、地盤反力を低下させるための緩衝層が配置されている、ことを特徴とする。なお、上段杭部の全部(全長)を前記緩衝層で囲んでもよいし、上段杭部の高さ方向の一部だけを前記緩衝層で囲んでもよい。
上段杭部の周囲に緩衝層(例えば、発泡プラスチックなどの緩衝材や空隙など)を配置すれば、上段杭部に作用する地盤反力をゼロとみなし得る結果、建物躯体の周期が「建物躯体の高さが緩衝層の深さ分だけ高くなった」かのように長周期化するので、短周期成分を主体とする地震動が作用する場合であれば、建物躯体の地震時応答を低減することが可能となる。さらに、上段杭部の上端部とその下端部において、曲げモーメントが低減することから、上段杭部の曲げモーメントの変化率が小さくなり、建物躯体の地震時応答(すなわち、慣性力H,H’)をさらに低減することが可能となる。
上記課題を解決する第二の発明は、杭と、前記杭に支持される基礎とを備える杭基礎構造であって、前記杭は、下段杭部と、前記下段杭部に載置された上段杭部とを有し、前記下段杭部の杭主筋は、前記上段杭部に定着されておらず、前記上段杭部の杭主筋は、前記下段杭部に定着されておらず、前記下段杭部と前記上段杭部との境界を跨ぐようにせん断伝達部材が配置されており、前記下段杭部と前記上段杭部との接合部の固定度が低減されており、かつ、前記上段杭部と前記基礎との接合部の固定度が低減されており、前記上段杭部の周囲に、減衰を発生させる粘性材が配置されている、ことを特徴とする。
第一の発明では、建物躯体の周期が長周期化する結果、基礎部および上段杭部上端の変形が増大する。第二の発明では、上段杭部の周囲に粘性材(例えば、エラストマー、ベントナイト、アスファルト、オイルなど)を配置した結果、変形の増大した上段杭部と粘性材の相互作用によって減衰が発生するようになるので、建物躯体の地震時応答を低減することが可能となる。すなわち、第二の発明によれば、第一の発明の効果(建物躯体の周期が長周期化する効果、上段杭部の曲げモーメントの変化率が小さくなることにより、建物躯体の地震応答が減少する効果)に加えて、減衰の効果により建物躯体の地震応答を低減することが可能となる。なお、上段杭部の全部(全長)を前記緩衝層または前記粘性材で囲んでもよいし、上段杭部の高さ方向の一部だけを前記緩衝層または前記粘性材で囲んでもよい。
上記課題を解決する第三の発明は、杭と、前記杭に支持される基礎とを備える杭基礎構造であって、前記杭は、下段杭部と、前記下段杭部に載置された上段杭部とを有し、前記下段杭部の杭主筋は、前記上段杭部に定着されておらず、前記上段杭部の杭主筋は、前記下段杭部に定着されておらず、前記下段杭部と前記上段杭部との境界を跨ぐようにせん断伝達部材が配置されており、前記下段杭部と前記上段杭部との接合部の固定度が低減されており、かつ、前記上段杭部と前記基礎との接合部の固定度が低減されており、前記上段杭部の周囲に、地震時に液状化する地盤材料が配置されている、ことを特徴とする。
第三の発明は、前記上段杭部が地下水に囲まれる条件下において好適である。かかる条件下において、前記上段杭部の周囲に、地震時に液状化する地盤材料(例えば、緩い砂、低塑性のシルト、非塑性のシルトなど)を配置してもよい。なお、上段杭部の全部(全長)を前記地盤材料で囲んでもよいし、上段杭部の高さ方向の一部だけを前記地盤材料で囲んでもよい。緩い砂等を配置すれば、地震時に液状化が発生し、上段杭部に作用する地盤反力が低下する結果、建物躯体の固有周期が長周期化するので、短周期成分を主体とする地震動が作用する場合であれば、建物躯体の地震時応答を低減することが可能となる。また、上段杭部と液状化地盤の相互作用によって減衰が発生するようになるので、建物躯体の地震時応答を低減することが可能となる。すなわち、地震時に液状化する地盤材料を上段杭部の周囲に配置すれば、前記緩衝層や前記粘性材を配置した場合と同様の効果が期待できる。なお、建物の周囲を止水壁などで囲い、地下水位を意図的に高くしておいてもよい。
上記課題を解決する第四の発明は、杭と、前記杭に支持される基礎とを備える杭基礎構造であって、前記杭は、下段杭部と、前記下段杭部に載置された上段杭部とを有し、前記下段杭部の杭主筋は、前記上段杭部に定着されておらず、前記上段杭部の杭主筋は、前記下段杭部に定着されておらず、前記下段杭部と前記上段杭部との境界を跨ぐようにせん断伝達部材が配置されており、前記下段杭部と前記上段杭部との接合部の固定度が低減されており、かつ、前記上段杭部と前記基礎との接合部の固定度が低減されている、ことを特徴とする。
原地盤の表層が軟弱(例えば、液状化地盤、N値10以下の砂質土、N値5以下の粘性土など)である場合には、効果の程度に違いはあるが、前記緩衝層や前記粘性材を配置した場合と同様の効果が期待できる。
上記各発明では、杭を下段杭部と上段杭部とに分離し、杭頭部および杭地中部の二箇所において固定度が低減されているが、このようにすると、杭頭部および杭地中部の二箇所(上段杭部の上端部および下端部)において曲げモーメントが低減する結果、上段杭部に発生する曲げモーメントの変化が緩やかになり、上段杭部に発生するせん断力が小さくなるので、建物躯体に入力される地震動を低減することが可能となる。また、接合部分における減衰効果も期待できる。なお、「固定度が低減されている」とは、固定度を緩和する機構、換言すれば、「剛接合」と比べて固定度が低くなる機構(例えば、半剛接合やピン接合など)が採用されていることを意味する。上記各発明においては、例えば、杭頭部および杭地中部の両方を「半剛接合」としてもよいし、杭地中部を「半剛接合」とし、杭頭部を「ピン接合」としてもよい。
また、杭頭部および杭地中部の二箇所(上段杭部の上端部および下端部)において、曲げモーメントに頭打ちが生じる機構を採用すれば、上段杭部に発生するせん断力が頭打ちする機構となるため、建物躯体に入力される地震動にも頭打ちが生じる。その結果、想定以上の巨大な地震に対しても、建物躯体に入力される地震動を制限することが可能となり、建物躯体の安全性を確保できる。
なお、例えば、下段杭部の上端面に上段杭部を載置しただけでも「半剛接合」になるところ、この場合には、両者の接触面に作用する摩擦力を介してせん断力が伝達されるようになるので、最大摩擦力を超えるようなせん断力が作用すると、下段杭部が横方向に移動し、上段杭部との間に軸ズレが生じる虞がある。
これに対し、前記下段杭部と前記上段杭部との境界部分にせん断伝達部材を配置すると、地震力に起因して前記上段杭部に発生したせん断力がせん断伝達部材を介して前記下段杭部に伝達されるようになるので、摩擦力のみによってせん断力を伝達する場合に比べて、下段杭部と上段杭部とに軸ズレが生じ難くなる。
なお、基礎の根入れ部の周囲に比較的固い地盤が存在する場合や、基礎の根入れ部に作用する地盤反力を限りなくゼロに近づけたい場合には、上記基礎の根入れ部の周囲に、前記緩衝層を配置することができる。
なお、上記基礎の根入れ部の周囲に、前記粘性材を配置した場合、面積の広い基礎と粘性材との相互作用により、より大きな減衰効果が期待でき、建物躯体の地震時応答をより一層低減することができる。
なお、地下水の水位が地表面に近い場合、上記基礎の根入れ部の周囲に、前記地震時に液状化する地盤材料を配置することができる。この場合、地震時には、基礎の根入れ部の周囲に配置したその地盤材料が液状化するため、基礎の根入れ部に作用する地盤反力を低減することが可能となる。また、面積の広い基礎とその液状化した地盤材料との相互作用により、より大きな減衰効果が期待でき、建物躯体の地震時応答をより一層低減することができる。なお、止水壁などを用いて建物の周囲を囲い、地下水位を意図的に地表面近くまで高めてもよい。
なお、基礎根入れ部の周囲に配置する緩衝層及び粘性材及び地震時に液状化する地盤材料は、基礎根入れ部の全周及び全深度に配置してもよいし、部分的に配置してもよいし、あるいはそれらを併用して用いても良い。
なお、本発明は、支持杭(支持層まで達する杭)だけでなく、摩擦杭にも適用することができる。
本発明によれば、建物躯体に入力される地震動を低減することが可能となり、ひいては、杭に作用する慣性力を低減することも可能となる。
本発明の実施形態に係る杭基礎構造を示す模式図である。 本発明の実施形態に係る杭基礎構造を示す拡大図であって、(a)は縦断面図、(b)は(a)のX2−X2断面図、(c)は(a)のX1−X1断面図である。 (a)〜(d)は本発明の実施形態に係る杭基礎構造の構築手順を示す図である。 (a)は本発明の実施形態に係る杭基礎構造における地震時の曲げモーメント分布を示す模式図、(b),(c),(d)は比較例に係る杭基礎構造における地震時の曲げモーメント分布を示す模式図である。 (a)は本発明の実施形態に係る杭基礎構造の変形例を示す縦断面図、(b)は(a)の分解図である。 (a)は本発明の実施形態に係る杭基礎構造の他の変形例を示す縦断面図、(b)は(a)の分解図である。 本発明の実施形態に係る杭基礎構造のさらに他の変形例を示す縦断面図である。 建物躯体に作用する慣性力と杭頭せん断力の関係を説明するための模式図である。
本発明の実施形態に係る杭基礎構造は、図1に示すように、杭Pと、杭Pに支持される基礎Fと、杭Pの周囲に配置された緩衝材Bとを備えている。本実施形態では、杭Pが「支持杭(支持層Gまで達する場所打ちコンクリート杭)」であり、基礎Fが「べた基礎」である場合を例示するが、本発明を適用し得る杭および基礎の形式を限定する趣旨ではない。
杭Pは、支持層Gから立ち上がる下段杭部1と、下段杭部1の上側に設けられた上段杭部2と、下段杭部1と上段杭部2との境界部分に設けられたせん断伝達部材3(図2参照)とを備えている。
下段杭部1の下端部(底部)は、支持層Gに根入れされており、下段杭部1の上端部は、上段杭部2の下端部に半剛接合されている。なお、本実施形態では、杭Pの鉛直支持力を高めるべく下段杭部1の底部を拡径しているが、底部を拡径しない構成を採用しても勿論差し支えない。
下段杭部1は、場所打ちコンクリート杭と同様の方法によって構築した鉄筋コンクリート製の棒状構造体であり、図2の(a)および(c)に示すように、鉄筋籠1aとコンクリート部1bとを備えている。
鉄筋籠1aは、杭主筋とフープ筋とで構成されている。図2の(a)に示すように、鉄筋籠1aの上端は、コンクリート部1bの上端面(打継面)と同じレベルかそれよりも下側に位置している。下段杭部1の杭主筋は、コンクリート部1bの上端面から突出しておらず、上段杭部2には定着されていない。これは、下段杭部1と上段杭部2とを半剛接合とするためである。なお、定着長さ以下であれば、コンクリート部1bの上端面から杭主筋を突出させてもよい。
上段杭部2は、その軸力が下段杭部1に伝達されるように配置されている。本実施形態の上段杭部2は、下段杭部1と同軸になるように配置されている。上段杭部2の下端部は、下段杭部1の上端部に半剛接合されており、上段杭部2の上端部は、基礎Fに半剛接合されている。
上段杭部2は、下段杭部1の上に載置された鉄筋コンクリート製の棒状構造体であり、図2の(b)にも示すように、鉄筋籠2a、コンクリート部2bおよび捨て型枠2cを備えている。
鉄筋籠2aは、杭主筋とフープ筋とで構成されている。図2の(a)に示すように、鉄筋籠2aの上端は、コンクリート部2bの上端面と同じレベルかそれよりも下側に位置しており、鉄筋籠2aの下端は、コンクリート部2bの下端面と同じレベルかそれよりも上側に位置している。上段杭部2の杭主筋は、コンクリート部2bの上下の端面から突出しておらず、基礎Fおよび下段杭部1のいずれにも定着されていない。これは、上段杭部2の端部の固定度を低減するためである。なお、定着長さ以下であれば、コンクリート部2bの上下の端面から杭主筋を突出させてもよい。
コンクリート部2bは、コンクリート部1bに載置された状態(コンクリート部1bと縁が切れた状態)となるよう、下段杭部1のコンクリートが硬化した後に構築する。
捨て型枠2cは、上段杭部2の全長に亘って配置されている。図2の(b)にも示すように、捨て型枠2cは、円筒状を呈しており、鉄筋籠2aを取り囲むように配置されている。本実施形態の捨て型枠2cは、鋼材(鋼管)あるいは木材からなり、棒状の固定部材2dを介して鉄筋籠2aに固定されている。
せん断伝達部材3は、図2の(a)に示すように、複数本の芯鉄筋からなる。すなわち、本実施形態においては、下段杭部1と上段杭部2との接触面の摩擦抵抗と、複数の芯鉄筋(せん断伝達部材3)とによってせん断力が伝達される。芯鉄筋は、下段杭部1と上段杭部2との境界部分を跨ぐように配筋されており、下段杭部1の上部および上段杭部2の下部に定着されている。なお、せん断伝達部材3によって伝達される曲げモーメントが大きくならないよう、芯鉄筋は、杭Pの中心部に配筋することが好ましい。芯鉄筋としては、異形棒鋼が用いられるが、せん断伝達部材3における変形性能とエネルギー吸収性能を高めたい場合には、低降伏点軟鋼や極低降伏点軟鋼を用いてもよい。
緩衝材Bは、上段杭部2に作用する地震時の地盤反力を低減する緩衝層として機能するものであり、上段杭部2の周辺地盤よりも剛性の低い材料からなる。本実施形態の緩衝材Bは、発泡プラスチック(例えば、発泡スチロール、発泡ポリプロピレンなど)からなり、捨て型枠2cの外周面に接着されている。なお、図示は省略するが、型枠2cの内周面に緩衝材Bを接着してもよい。また、緩衝材Bに代えて、単なる空隙を緩衝層としてもよい。
基礎Fは、上段杭部2の上に載置された鉄筋コンクリート製の構造体である。基礎Fは、上段杭部2に載置された状態(上段杭部2と縁が切れた状態)となるよう、上段杭部2のコンクリートが硬化した後に構築する。なお、基礎Fの浮き上がりが懸念される場合には、上段杭部2に芯鉄筋(引張り伝達部材)を配筋し、上段杭部2の上端面から突出させた芯鉄筋を基礎Fに定着すればよい。芯鉄筋によって伝達される曲げモーメントが大きくならないよう、芯鉄筋は、上段杭部2の中心部に配筋することが好ましい。
上記した杭基礎構造の構築方法は、図3の(a)〜(d)に示すとおりである。以下、図3を参照しつつ詳細に説明する。
まず、図3の(a)に示すように、アースオーガー等の掘削装置(図示略)で地盤を掘削し、掘削孔Hを形成する。掘削孔Hには安定液を満たし、孔壁の崩落を防止する。なお、掘削孔Hのうち、上段杭部2を形成する部分は拡径する。すなわち、緩衝材Bの設置スペースを確保すべく上段杭部2に対応する大径部H2を拡径するとともに、下段杭部1の外径に対応する大きさの小径部H1を形成する。なお、大径部H2の形成方法に制限はないが、掘削孔Hを形成する際にケーシングパイプを使用する場合には、緩衝材の設置スペースを考慮した径のケーシングパイプを用いればよい。この場合、ケーシングパイプは、小径部H1と大径部H2との境界部分まで挿入しておく。
掘削孔Hを形成したら、図3の(b)に示すように、せん断伝達部材3(複数の芯鉄筋)が組み込まれた鉄筋籠1aを掘削孔Hの小径部H1に建て込み、小径部H1の上端までコンクリートを打設する。なお、小径部H1の上端に、スライムなどが混入した脆弱部が形成される虞がある場合には、コンクリートを余分に打設した後、バキュームなどで吸引する必要がある。
小径部H1に打設したコンクリートが硬化し、コンクリート部1bが形成されたら、図3の(c)に示すように、緩衝材Bと捨て型枠2cとが周設された鉄筋籠2aを掘削孔Hの大径部H2に建て込む。
その後、下段杭部1の上端面(コンクリート部1bの打継面)の上にコンクリートを打設し、所定強度に達するまで養生すると、図3の(d)に示すように、コンクリート部2bが形成され、もって、下段杭部1と上段杭部2とが半剛接合された杭Pが形成される。なお、捨て型枠2cは、そのまま残置する。
続いて、図示は省略するが、上段杭部2の上において基礎Fの配筋を行い、基礎Fとなるコンクリートを打設すると、上段杭部2と半剛接合された基礎Fが形成される。なお、図1に示すように、基礎Fの周囲にも緩衝材Bを配置する。基礎Fの周囲に緩衝材Bを配置すれば、基礎Fに作用する地盤反力が生じないようになる。
本実施形態に係る杭基礎構造によれば、地震時の杭Pおよび基礎Fに水平変位量に応じた地盤反力が作用するところ、上段杭部2および基礎Fの周囲に変形抵抗の小さい緩衝材Bを配置しているので、上段杭部2および基礎Fに作用する地盤反力が低下し、上段杭部2が「地上階の柱」に近い状態となる。その結果、建物を高層化したかのように建物躯体の固有周期が長周期化し、さらには、地上階に比べて1m2あたりの質量が大きい地下階(基礎F)の影響により、建物躯体の固有周期が長周期化するようになるので、短周期成分を主体とする地震動が作用する場合であれば、建物躯体の地震時応答を低減することが可能となる。なお、上段杭部2には大きな地盤反力が作用しないので、上段杭部2における曲げモーメント分布は、直線状になる。
また、本実施形態に係る杭基礎構造によれば、上段杭部2の周囲に緩衝材Bを設けると同時に、杭Pを下段杭部1と上段杭部2とに分離し、杭頭部および杭地中部の二箇所を半剛接合)としているので、杭頭を剛接合とした杭P1(図4の(b)参照)、杭頭のみを半剛接合とした杭P2(図4の(c)参照)および杭頭部のみを半剛とし杭の上部に緩衝材を設けた杭P3(図4の(d)参照)に比べて、上段杭部2に発生する曲げモーメントの勾配(≒上段杭部2に発生するせん断力Qa)が緩やかになり(図4の(a)参照)、杭Pの杭頭せん断力Qaが杭P1,P2,P3の杭頭せん断力Qb,Qc,Qdよりも小さくなる結果、建物躯体に入力される地震力Ha(≒基礎Fに入力される杭頭せん断力Qa)が、杭P1,P2,P3において建物躯体に入力される地震力Hb(≒Qb),Hc(≒Qc),Hd(≒Qd)よりも小さくなる。すなわち、本実施形態に係る杭基礎構造によれば、前記した建物躯体の長周期化による地震応答の低減効果に加えて、杭頭部および杭地中部(上段杭部2の下端部)を半剛接合したことにより、建物躯体へ入力される地震力を低減する効果が得られる。また、杭Pの杭頭せん断力Qaが杭P1,P2,P3の杭頭せん断力Qb,Qc,Qdよりも小さくなることから、合理的な杭の設計を行うことができる。
また、杭頭部および杭地中部の二箇所(上段杭部の上端部および下端部)において、曲げモーメントに頭打ちが生じる半剛接合を採用すれば、杭頭部と杭地中部とで曲げモーメントが頭打ちするため、杭Pの曲げモーメントの傾き(≒Qa)が頭打ちするようになる。すなわち、建物躯体に入力される地震力Haが頭打ちする構造となり、想定以上の巨大な地震に対しても、建物躯体の被害を回避することが可能となる。
なお、本実施形態に係る杭基礎構造では、基礎Fの周囲に緩衝材Bを配置し、基礎Fに地盤反力が生じないようにしたが、建物躯体の周期が極端に長周期化することにより、基礎Fに生じる地盤反力が建物躯体の慣性力と反対方向に作用し、建物躯体の応答を低減する効果が期待できる場合には、基礎Fの周囲に緩衝材Bを設置しなくてもよい。
また、本実施形態に係る杭基礎構造によれば、地震力に起因して上段杭部2に発生したせん断力が、下段杭部1の上端面との摩擦抵抗に加えて、せん断伝達部材3(複数の芯鉄筋)を介して下段杭部1に伝達されるようになるので、下段杭部1と上段杭部2とに軸ズレが生じ難くなる。なお、せん断伝達の機構は、図示のものに限定されることはなく、適宜変更してもよい。例えば、図示は省略するが、下段杭部1の杭主筋を、上段杭部2のコンクリート部2bに定着されない長さ(コンクリートの定着長よりも短い長さ)だけ突出させ、当該突出部分によってせん断力を伝達してもよい。また、軸ズレ等が懸念されないような場合には、せん断伝達部材3を省略してもよい。
なお、本実施形態では、上段杭部2の周囲に緩衝材Bを配置した場合を例示したが、緩衝材Bに代えて、減衰を発生させる粘性材を配置してもよい。上段杭部2の周囲に粘性材を配置すれば、上段杭部2と粘性材の相互作用によって減衰が発生するようになるので、建物躯体の地震時応答を低減することが可能となる。なお、粘性材は、捨て型枠2cの外周面に取り付けておき、捨て型枠2cとともに掘削孔Hに挿入すればよい。
また、地下水位が高い場合には、緩衝材Bに代えて、地震時に液状化する地盤材料(例えば、緩い砂、低塑性のシルト、非塑性のシルトなど)を挿入してもよい。上段杭部2の周囲に設置した緩い砂等が地震時に液状化すれば、上段杭部2に作用する地盤反力が低減するため、緩衝材Bを配置した場合と同等の効果が期待できる。また、上段杭部2と液状化地盤の相互作用によって減衰が発生するようになるので、より一層建物躯体の地震時応答を低減することが可能となる。なお、液状化する地盤材料は、鉄筋籠2aと捨て型枠2cの設置後に、その外周部に投入すればよい。
本実施形態では、杭Pが現場打ちコンクリート杭である場合を例示したが、図5〜図7に示す杭P1〜P3のように、既製杭にて構成してもよい。
すなわち、図5〜図7に示す下段杭部4は、既製コンクリート杭からなり、遠心成形により形成した中空コンクリート部4aと、コンクリート部4aの上端部に装着された鋼製キャップ4bとを備えている。同様に、上段杭部5は、既製コンクリート杭からなり、遠心成形により形成した中空コンクリート部5aと、コンクリート部5aの下端部に装着された鋼製キャップ5bとを備えている。図5〜図7のいずれの形態においても、下段杭部4および上段杭部5は、半剛状態で接合されている。また、図示は省略するが、上段杭部5と基礎は、半剛状態で接合されている。
図5の(a)に示す杭P1には、外嵌リング形式のせん断伝達部材6が配置されている。せん断伝達部材6は、図5の(b)に示すように、筒状部6aと仕切部6bとを備えた鋼製部材からなり、鋼製キャップ4b,5bに接合される。せん断伝達部材6において変形性能と減衰性能を高めたい場合には、低降伏点軟鋼や極低降伏点軟鋼を用いてもよい。
筒状部6aは、下段杭部4の上端部の外周面および上段杭部5の下端部の外周面を包囲し得る形状を有していて、それらに固定されるが、下段杭部4と上段杭部5との接合状態を剛とするものではなく、回転を許容している。その結果、上段杭部5と下段杭部4の接合条件が半剛接合となる。筒状部6aによって下段杭部4および上段杭部5を拘束すると、摩擦力のみによってせん断力を伝達する場合(下段杭部4の上に上段杭部5を載せ置いただけの場合)に比べて、下段杭部4と上段杭部5とに軸ズレが生じ難くなる。
仕切部6bは、筒状部6aの内側の高さ方向の中間部に設けられていて、下段杭部4の上端面と上段杭部5の下端面との間に介設される。下段杭部4と上段杭部5との間に仕切部6bを配置すると、せん断伝達部材6の位置決めが容易になるとともに、上下方向へのズレを防止することができる。
なお、本実施形態では、仕切部6bと下段杭部4との間に、弾性部材6cを介設している。弾性部材6cは、コンクリートよりも弾性係数(変形係数)の小さい弾性体(ゴムや樹脂等)や粘性材などからなる。弾性部材6cを配置すると、下段杭部4と上段杭部5との境界部分において両者が回転し易くなり、より一層固定度が低下するので、境界部分に発生する曲げモーメントが低下するようになり、ひいては、基礎に入力される杭頭せん断力(建物躯体に入力される地震力)が小さくなる。また、弾性部材6cに粘性材を用いれば、その減衰効果による上部構造物の応答低減効果も期待できる。
杭P1を地盤中に設置するには、まず、掘削装置で地盤を掘削して掘削孔を形成するとともに、掘削孔を根固め液と杭周固定液とで満たし、その後、せん断伝達部材6を介して連結した下段杭部4および上段杭部5を掘削孔に建て込めばよい。なお、図示は省略するが、上段杭部5の周囲に緩衝材や粘性材料などを配置する場合には、掘削孔の上部(上段杭部5が挿入される部分)を拡径するとともに、上段杭部5の外周面に緩衝材や粘性材料などを予め固定しておき、上段杭部5とともに掘削孔内に挿入すればよい。また、上段杭部5の周囲に緩い砂を配置する場合には、掘削孔の上部を拡径しておき、上段杭部5を挿入した後に、その周囲に緩い砂を投入すればよい。
図5においては、下段杭部4および上段杭部5に外嵌する形式のせん断伝達部材6を例示したが、図6および図7に示すように、下段杭部4および上段杭部5の中空部内に配置する形式のせん断伝達部材7,8を使用してもよい。
図6の(a)に示すせん断伝達部材7は、下段杭部4および上段杭部5の一方(図5では下段杭部4)の中空部内に配置された球座7aと、他方(図5では上段杭部5)の中空部内に配置された受け座7bとを備えて構成されている。
球座7aは、図6の(b)に示すように、球面に成形された凸面部71と、鋼製キャップ4bに接合されるフランジ72とを有している。受け座7bは、球座7aの凸面部に対応する凹面部73と、鋼製キャップ5bに接合されるフランジ74とを有している。球座7aの凸面部71は、下段杭部4の上端面から突出し、受け座7bの凹面部73に面接触する。
下段杭部4と上段杭部5との境界部分に球座タイプのせん断伝達部材7を介設すれば、両者が回転し易くなる(両者の固定度が低下する)ので、境界部分に発生する曲げモーメントが低下するようになり、ひいては、基礎に入力される杭頭せん断力(建物躯体に入力される地震力)が小さくなる。また、球座7aの凸面部71が受け座7bの凹面部73に入り込んだ状態となるので、下段杭部4の上に上段杭部5を載せ置いただけの場合に比べて、下段杭部4と上段杭部5とに軸ズレが生じ難くなる。
なお、下段杭部4の上端面と上段杭部5の下端面との間には、弾性部材7cを介設している。弾性部材7cは、コンクリートよりも弾性係数(変形係数)の小さい弾性材(ゴムや樹脂等)や粘性材などからなる。弾性部材7cに粘性材を用いれば、その減衰効果により、建物躯体の応答低減効果が期待できる。
図7に示すせん断伝達部材8は、下段杭部4に配置された支持部材8aと、下段杭部4および上段杭部5の中空部内に形成されたコンクリート部8bと、コンクリート部8b内に配筋された軸方向鉄筋8cと、を備えて構成されている。
支持部材8aは、下段杭部4の中空部内に挿入された有底円筒状の型枠部と、型枠部の開口縁部に形成されたフランジ部とを備えている。型枠部は、コンクリート部8bの型枠となる部分であり、コンクリート部8bが落下することを防止している。フランジ部は、下段杭部4と上段杭部5とによって挟持される。
コンクリート部8bは、柱状を呈しており、軸方向鉄筋8cは、コンクリート部8bの中央部に配筋されている。コンクリート部8bの下半部は、下段杭部4の上端部に入り込んでおり、コンクリート部8bの上半部は、上段杭部5の下端部に入り込んでいる。なお、コンクリート部8bを形成するには、支持部材8が装着された下段杭部4に上段杭部5を突き合わせ、突き合わせた状態を維持しつつ、上段杭部5の中空部内にコンクリートを打設すればよい。
P 杭
1 下段杭部
2 上段杭部
3 せん断伝達部材
F 基礎
B 緩衝材(緩衝層)
P1〜P3 杭
4 下段杭部
5 上段杭部
6〜8 せん断伝達部材

Claims (3)

  1. 杭と、
    前記杭に支持される基礎とを備える杭基礎構造であって、
    前記杭は、下段杭部と、前記下段杭部に載置された上段杭部とを有し、
    前記下段杭部の杭主筋は、前記上段杭部に定着されておらず、
    前記上段杭部の杭主筋は、前記下段杭部に定着されておらず、
    前記下段杭部と前記上段杭部との境界を跨ぐようにせん断伝達部材が配置されており、
    前記下段杭部と前記上段杭部との接合部の固定度が低減されており、かつ、前記上段杭部と前記基礎との接合部の固定度が低減されており、
    前記上段杭部の周囲に、地盤反力を低下させるための緩衝層、減衰を発生させる粘性材または地震時に液状化する地盤材料が配置されていることを特徴とする杭基礎構造。
  2. 杭と、
    前記杭に支持される基礎とを備える杭基礎構造であって、
    前記杭は、下段杭部と、前記下段杭部に載置された上段杭部とを有し、
    前記下段杭部の杭主筋は、前記上段杭部に定着されておらず、
    前記上段杭部の杭主筋は、前記下段杭部に定着されておらず、
    前記下段杭部と前記上段杭部との境界を跨ぐようにせん断伝達部材が配置されており、
    前記下段杭部と前記上段杭部との接合部の固定度が低減されており、かつ、前記上段杭部と前記基礎との接合部の固定度が低減されていることを特徴とする杭基礎構造。
  3. 前記基礎の根入れ部の周囲に、地盤反力を低下させるための緩衝層、減衰を発生させる粘性材または地震時に液状化する地盤材料が配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の杭基礎構造。
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