JP5617381B2 - チタン焼結体およびチタン焼結体の製造方法 - Google Patents
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Description
チタン合金を医療用構造体の材料として用いるためには、人間活動において発生する衝撃に対して長期間耐えるための機械的強度が要求される。
例えば、特許文献1には、含有塩素量、平均粒径およびアスペクト比を規定した焼結チタン合金が開示されているが、延性が低いため、医療用構造体等に応用するには不適当であった。
本発明のチタン焼結体は、チタン系粉末を焼結してなるものであり、
平均粒径が5μm以上50μm以下であり、かつアスペクト比が3以下であるチタンα相の結晶組織を含んでおり、
前記結晶組織の粒径の個数基準の累積分布において、小径側から10%累積時の粒径をD10とし、50%累積時の粒径をD50とし、90%累積時の粒径をD90としたとき、(D90−D10)/D50が1以上1.5以下であり、
酸素含有量が質量比で3000ppm以下であり、
相対密度が96.9%以上99.5%以下であり、
引張強さが917MPa以上であり、
0.2%耐力が775MPa以上であり、
伸びが10%以上であることを特徴とする。
これにより、引張強さと延性とを両立する機械的特性に優れたチタン焼結体が得られる。
また、これにより、結晶組織の粒径がある程度の広がりを有しつつも、比較的揃った状態になる。このような状態であれば、引張強さや曲げ強さと延性とを特に高めることが可能になる。
また、これにより、引張強さと伸びの双方において高い値を有するチタン焼結体が得られる。その結果、極めて耐久性の高い構造部品、医療用構造体等を提供することができる。
これにより、チタン焼結体の引張強さおよび曲げ強さと、延性とを、より高度に両立することができる。
本発明のチタン焼結体では、炭素含有量が質量比で1500ppm以下であることが好ましい。
これにより、チタン焼結体の引張強さおよび曲げ強さと、延性とを、より高度に両立することができる。
これにより、チタン焼結体の機械的特性が著しく低下するのを防止しつつ、チタン焼結体の軽量化を図ることができる。また、チタン焼結体を多孔質化することができるので、例えば、チタン焼結体を各種フィルターや、自動車や飛行機といった軽量化が必要な構造部品に適用することが可能になる。
本発明のチタン焼結体では、さらに、チタンβ相の結晶組織を含んでおり、
前記チタンα相の結晶組織と前記チタンβ相の結晶組織の比率は、2:3以上3:1以下であることが好ましい。
前記コンパウンドを成形し、焼成してチタン焼結体を得る工程と、を有し、
前記チタン焼結体は、平均粒径が5μm以上50μm以下であり、かつアスペクト比が3以下であるチタンα相の結晶組織を含んでおり、前記結晶組織の粒径の個数基準の累積分布において、小径側から10%累積時の粒径をD10とし、50%累積時の粒径をD50とし、90%累積時の粒径をD90としたとき、(D90−D10)/D50が1以上1.5以下であり、酸素含有量が質量比で3000ppm以下であり、相対密度が96.9%以上99.5%以下であり、引張強さが917MPa以上であり、0.2%耐力が775MPa以上であり、伸びが10%以上であることを特徴とする。
これにより、引張強さと延性とを両立する機械的特性に優れたチタン焼結体を効率よく製造することができる。
<チタン焼結体>
本発明のチタン焼結体は、チタン系粉末(チタン粉末またはチタン合金粉末)を所定の形状に成形した後、脱脂、焼成して得られる焼結体である。
また、特に医療用構造体に適用した場合には、施術者の手により、患部の形状に応じて医療用構造体を変形させる場合があり、医療用構造体はある程度のしなやかさを有している必要もある。しかしながら、しなやかさを優先すると引張強さが低下することとなり、両者を両立させることは困難であった。
上記の問題点に鑑み、本発明者は、引張強さ(曲げ強さ)と延性とを両立する機械的特性の高いチタン焼結体について鋭意検討を重ねた。そして、結晶組織の粒径および形状と酸素含有量とを所定の範囲内に制御することにより、上記問題点を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
このような本発明によれば、引張強さと延性とを高度に両立するチタン焼結体が得られる。
以下、このチタン焼結体について詳述する。
チタン基合金は、例えば、チタンの他に、アルミニウム、バナジウム、ニオブ、ジルコニウム、タンタル、モリブデン、鉄等の金属元素を含む合金である。具体的には、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−7Nb、Ti−6Al−2Nb−1Ta、Ti−15Zr−4Nb−4Ta、Ti−3Al−2.5V、Ti−13Nb―13Zr、Ti−15Mo−5Zr−3Al、Ti−12Mo−6Zr−2Fe、Ti−15Mo等が挙げられる。このうち、引張強さや曲げ強さと、延性とのバランスからTi−6Al−4Vが好ましく用いられる。
前述したチタンα相は、通常、針状の結晶組織になり易い。針状の結晶組織を多く含んでいると、クリープ特性が向上し、曲げや引張に対する強さが高まるものの、相対的に延性が低下する。このような結晶組織が支配的であると、チタン焼結体の延性は不十分になる。
この理由の1つは、チタンα相のアスペクト比が前記範囲内であれば、チタンα相の形状が十分に等方的な形状になるため、従来の針状の結晶組織のような異方的な形状である場合に比べて、あらゆる方向から加わる外力に対して結晶内の転位や結晶粒界の破壊・ずれが起き易いことにあると考えられる。この結晶内の転位や結晶粒界の破壊・ずれにより、チタン焼結体に延性が付与されると考えられる。
また、酸素含有量を前記範囲内としたことにより、チタン酸化物の生成が抑制される。チタン酸化物は、通常、結晶組織の外周部に偏析し、結晶粒界の破壊・ずれを抑制すると考えられる。このため、酸素含有量を抑えることによって、チタン焼結体に延性が付与されるのである。
本発明者は、上記にように推察されるメカニズムに基づき、曲げや引張に対する強さと延性とを高度に両立し得る条件を、チタンα相の結晶組織の平均粒径、アスペクト比および酸素含有量について見出したのである。
なお、酸素含有量は、好ましくは2000ppm以下とされる。
なお、チタン焼結体中の酸素含有量は、例えば、原子吸光分析装置、ICP発光分光分析装置、酸素窒素同時分析装置、炭素硫黄同時分析装置等により測定することができる。
この場合、チタンα相とチタンβ相の比率は、特に限定されないが、2:3以上3:1以下であるのが好ましく、1:1以上2:1以下であるのがより好ましい。これにより、引張強さと延性とをとりわけ高度に両立することができる。
なお、チタンα相とチタンβ相の比率は、例えば、X線回折法により測定することができる。
なお、窒素はチタンα相を安定化させる元素であるため、チタン焼結体の化学的安定性を確保する観点から、下限値を10ppm程度(好ましくは20ppm程度)に設定するのが好ましい。
なお、炭素はチタンα相を安定化させる元素であるため、チタン焼結体の化学的安定性を確保する観点から、下限値を20ppm程度(好ましくは50ppm程度)に設定するのが好ましい。
なお、チタン焼結体を製造する場合、後に詳述するが、チタン系粉末と有機バインダーとの混合物を所定の形状に成形した後、脱脂、焼成を行う。このとき、有機バインダーの組成を調整したり、成形圧力を調整することにより、チタン焼結体の表層領域には空孔が含まれないようにすることができる。すなわち、内部のコア領域には空孔が含まれているものの、その外表面を覆うように、空孔を含まない表層領域が形成されているチタン焼結体が得られる。
なお、後述する粉末冶金用コンパウンドを用い、チタン焼結体を粉末冶金法で製造すれば、コンパウンドの流動性および保形性が高いため、成形型に接している部分には、表層領域に相当する緻密な層が形成される。
なお、表層領域の除去は、いかなる方法で行うようにしてもよく、その方法の例として、機械加工、レーザー加工、エッチング等が挙げられる。
なお、引張強さと伸びとのバランスを考慮すると、引張強さの上限は1300MPa程度とされる。すなわち、引張強さがこの上限値以下であれば、上述したような範囲で示される十分な伸びが確保され、十分な作用・効果が得られる。
また、チタン焼結体の0.2%耐力は、750MPa以上であるのが好ましい。
なお、チタン焼結体の引張強さ、伸びおよび0.2%耐力は、それぞれJIS Z 2241に規定の金属材料引張試験方法にしたがって測定される。
次に、本発明のチタン焼結体を粉末冶金法により製造する方法(本発明のチタン焼結体の製造方法)について説明する。
チタン焼結体の製造方法は、チタン系粉末と粉末冶金用バインダー組成物とを混練し、粉末冶金用コンパウンドを調製する混練工程と、このコンパウンドを所望の形状に成形する成形工程と、得られた成形体を脱脂する脱脂工程と、得られた脱脂体を焼成する焼成工程とを有する。以下、各工程について順次説明する。
まず、チタン系粉末と粉末冶金用バインダー組成物とを用意し、これらを混練して粉末冶金用コンパウンドを調製する。
((チタン系粉末))
ここで、チタン焼結体の製造に用いるチタン系粉末、バインダー組成物および粉末冶金用コンパウンドについて順次説明する。
また、本発明に用いられるチタン系粉末の平均粒径は、好ましくは1μm以上30μm以下、より好ましくは3μm以上20μm以下とされ、さらに好ましくは3μm以上10μm以下とされる。このような粒径のチタン系粉末は、成形時の圧縮性の低下を避けつつ、最終的に十分に緻密な焼結体を製造可能なものとなる。
なお、平均粒径が前記下限値未満である場合、チタン系粉末が凝集し易くなり、成形時の圧縮性が著しく低下するおそれがある。一方、平均粒径が前記上限値を超える場合、粉末の粒子間の隙間が大きくなり過ぎて、最終的に得られる焼結体の緻密化が不十分になるおそれがある。
また、本発明に用いられる金属粉末の比表面積は、特に限定されないが、0.06m2/g以上であるのが好ましく、0.08m2/g以上であるのがより好ましく、0.1m2/g以上であるのがさらに好ましい。このように比表面積の広いチタン系粉末であれば、表面の活性(表面エネルギー)が高くなるため、より少ないエネルギーの付与でも容易に焼結することができる。したがって、成形体を焼結する際に、より短時間で焼結することができる。その結果、低温での焼成であっても焼結体の緻密化を図ることができる。
N量は0.02以下であるのが好ましく、0.01以下であるのがより好ましい。
C量は0.02以下であるのが好ましく、0.01以下であるのがより好ましい。
O量は0.25以下であるのが好ましく、0.20以下、さらには0.15以下であるのが好ましい。
なお、上記化学成分の量の単位は、いずれも質量%である。
このうち、チタン系粉末には、アトマイズ法により製造されたものを用いるのが好ましい。アトマイズ法によれば、前記したような極めて微小な平均粒径のチタン系粉末を効率よく製造することができる。また、粒径のバラツキが少なく、粒径の揃ったチタン系粉末を得ることができる。したがって、このようなチタン系粉末を用いることにより、焼結体における気孔の生成を確実に防止することができ、密度の向上を図ることができる。
また、アトマイズ法で製造されたチタン系粉末は、比較的真球に近い球形状をなしているため、バインダーに対する分散性や流動性に優れたものとなる。このため、造粒粉末を成形型に充填して成形する際に、その充填性を高めることができ、最終的により緻密な焼結体を得ることができる。
一方、バインダー組成物は、少なくとも炭化水素系樹脂とワックスとを含むものである。
((炭化水素系樹脂))
炭化水素系樹脂は、炭素原子と水素原子とで構成される高分子化合物である。このような炭化水素系樹脂は、バインダー組成物中において、ワックスよりも熱分解温度が高いものであり、高温時でも成形体の形状を維持することに寄与する。
炭化水素系樹脂は、炭素原子同士の結合状態に応じて、飽和炭化水素系樹脂、不飽和炭化水素系樹脂等に分類される。また、炭素原子の結合形態に応じて、鎖状炭化水素系樹脂、環状炭化水素系樹脂等にも分類される。
このうち、本発明に用いられる炭化水素系樹脂は、ポリオレフィン樹脂およびポリスチレン樹脂を含んでいるのが好ましい。ポリオレフィン樹脂は、成形体に保形性を付与するとともに、熱分解性が比較的高いため、脱脂の際に成形体中から容易に除去することができる。したがって、ポリオレフィン樹脂は、速やかな脱脂とそれによる焼結性の向上に寄与するものである。また、ポリオレフィン樹脂の融点は、比較的はっきりしており、融点を超えると急激に溶融する。一方、ポリスチレン樹脂は、ポリオレフィン樹脂よりも軟化温度が低く、かつその軟化温度は比較的広い温度範囲に及ぶ。このため、ポリオレフィン樹脂と混合して用いられることにより、バインダー組成物全体が急激に軟化してしまい、成形体の保形性が低下するのを防止することができる。
結晶性樹脂と非結晶性樹脂との混合比は、特に限定されないが、結晶性樹脂よりも非結晶性樹脂を多くするのが好ましく、具体的には、結晶性樹脂100重量部に対して、非結晶性樹脂101重量部以上300重量部以下とするのが好ましい。
また、炭化水素系樹脂としては、その融点が100℃以上400℃以下のものが好ましく用いられ、200℃以上300℃以下のものがより好ましく用いられる。
ワックスは、結晶性の高分子を比較的多く含み、その重量平均分子量は樹脂よりも小さいものとされ、好ましくは5000以上、より好ましくは10000以上小さいものとされる。したがって、ワックスは、成形体を脱脂する際には、炭化水素系樹脂よりも低温域で溶融、分解し、成形体に流路を形成する。その後、より高温域に達すると、今度は炭化水素系樹脂の分解が始まり、その分解物は前記流路を介して成形体の外部に放出されることとなる。このようにして流路を介して炭化水素系樹脂を除去すれば、炭化水素系樹脂の分解物が成形体に亀裂を作りつつ外部に放出され、成形体が破損するのを防止することができる。これにより、成形体の形状を確実に維持することができる。
このうち、天然ワックスとしては、例えば、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ろう、ホホバ油のような植物系ワックス、みつろう、ラノリン、鯨ろうのような動物系ワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシンのような鉱物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムのような石油系ワックス等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、ワックスとしては、その融点が30℃以上200℃以下のものが好ましく用いられ、50℃以上150℃以下のものがより好ましく用いられる。
粉末冶金用バインダー組成物は、必要に応じて、環状エーテル基を有する単量体と、この単量体と共重合可能なモノマーとを共重合してなるコポリマーを含むのが好ましい。このようなコポリマーを含むことにより、環状エーテル基を有する単量体がチタン系粉末に対して優れた密着性を有する一方、この単量体と共重合するモノマーを適宜選択することにより、炭化水素系樹脂やワックスに対する相溶性をも高めることができる。すなわち、このようなコポリマーは、チタン系粉末と炭化水素系樹脂およびワックスとの濡れ性を高め、粉末冶金用コンパウンド中における相互の分散性を高めることに寄与する。このようなコンパウンドは、均質なものとなるため、焼結性の均一な焼結体を得ることにつながる。
コポリマーの重量平均分子量は、1万以上40万以下であるのが好ましく、3万以上30万以下であるのがより好ましい。コポリマーの重量平均分子量を前記範囲内とすることにより、コポリマーの熱分解性が著しく低下するのを防止しつつ、粉末冶金用コンパウンドの流動性と成形体の保形性とを高度に両立することができる。
また、コポリマーの含有量は、質量比で、ワックスの含有量の10%以上100%以下程度であるのが好ましく、15%以上80%以下程度であるのがより好ましく、20%以上50%以下程度であるのがさらに好ましい。コポリマーの含有量を前記範囲内とすることにより、チタン系粉末と炭化水素系樹脂およびワックスとの濡れ性を特に高めることができる。その結果、粉末冶金用コンパウンド中におけるチタン系粉末およびバインダー組成物の分散性を特に高めることに寄与する。
また、コポリマーとしては、その融点が30℃以上150℃以下のものが好ましく用いられ、50℃以上100℃以下のものがより好ましく用いられる。
ここで、粉末冶金用バインダー組成物は、上述した炭化水素系樹脂の含有量が、質量比で、ワックスの含有量の1倍以上2倍以下となるよう、これらの成分を含み、かつ、粉末冶金用バインダー組成物中に含まれる酸素の含有量が20質量%以下であるのが好ましい。
これは、バインダー組成物中の酸素含有量を低く抑えたために、バインダーからチタン系粉末に移動する酸素の量が抑えられたことに起因すると考えられる。すなわち、バインダーが酸素供給源になることが防止される。
なお、バインダー組成物中の酸素含有量が前記上限値を上回ると、チタン系粉末に多くの酸素が供給されることとなり、チタン系粉末の酸化を招くおそれがある。そして、チタン焼結体の機械的特性を低下させるおそれがある。
バインダー組成物中の酸素含有量は、例えば、ガスクロマトグラフィーにより測定することができる。
ここで、炭化水素系樹脂の含有量が多過ぎると、成形体を脱脂する際に、一度に多量の炭化水素系樹脂が分解されることとなり、成形体に割れ等が発生する。そこで、ワックスと炭化水素系樹脂の存在比を上記の範囲に最適化することにより、脱脂の際の昇温過程において、ワックスと炭化水素系樹脂とが順次溶融、分解されるため、成形体に割れ等を発生させることなく、これらの成分を効率よく除去することができる。その結果、割れ等の発生を防止して寸法精度の高いチタン焼結体を製造することができる。
なお、炭化水素系樹脂の含有量は、前述したように、質量比で、好ましくはワックスの含有量の1倍以上2倍以下とされるが、より好ましくは1.2倍以上1.8倍以下とされる。
さらに、粉末冶金用バインダー組成物中には、必要に応じて、酸化防止剤等の添加物を添加するようにしてもよい。
粉末冶金用コンパウンドは、チタン系粉末と、粉末冶金用バインダー組成物とを混練してなるものであるが、チタン系粉末とバインダー組成物との混合比は、チタン系粉末100重量部に対して、バインダー組成物1重量部以上30重量部以下程度とするのが好ましく、3重量部以上20重量部以下程度とするのがより好ましい。これにより、コンパウンドには十分な流動性が付与され、成形型の形状が確実に転写されるとともに、得られた成形体には十分な保形性が付与されるので、転写された形状を確実に保持することができる。その結果、最終的には、焼結密度が高くかつ寸法精度の高いチタン焼結体が得られる。
混練条件は、用いるチタン系粉末の粒径、チタン系粉末とバインダー組成物との混合比等の諸条件により異なるが、その一例を挙げると、混練温度:50〜200℃、混練時間:15〜210分とすることができる。
次に、調製した粉末冶金用コンパウンドを用いて、成形を行う。これにより、所望の形状、寸法の成形体を製造する。
成形方法としては、例えば、射出成形、圧縮成形、押出成形等が挙げられるが、ここでは、射出成形法により成形体を製造する場合について説明する。
成形に先立って、粉末冶金用コンパウンドには、必要に応じてペレット化処理を施すようにしてもよい。ペレット化処理は、ペレタイザー等の粉砕装置を用い、コンパウンドを粉砕する処理である。これにより得られたペレットは、平均粒径が1mm以上10mm以下程度とされる。
なお、製造される成形体の形状寸法は、以後の脱脂および焼結による収縮分を見込んで決定される。
また、得られた成形体に対して、必要に応じ、機械加工、レーザー加工等の後加工を施すようにしてもよい。
次に、得られた成形体に対して脱脂処理を施す。これにより、成形体中に含まれる粉末冶金用バインダー組成物を除去(脱脂)して、脱脂体が得られる。
この脱脂処理は、特に限定されないが、非酸化性雰囲気中、例えば真空または減圧状態下(例えば1×10−6Torr以上1×10−1Torr以下(1.33×10−4Pa以上13.3Pa以下))、または、窒素ガス、アルゴンガス等のガス中で、熱処理を行うことによりなされる。
また、脱脂工程(熱処理)における処理時間(熱処理時間)は、0.5時間以上20時間以下であるのが好ましく、1時間以上10時間以下であるのがより好ましい。
また、このような熱処理による脱脂は、種々の目的(例えば、脱脂時間の短縮等の目的)で、複数の工程(段階)に分けて行ってもよい。この場合、例えば、前半を低温で、後半を高温で脱脂するような方法や、低温と高温を繰り返し行う方法等が挙げられる。
また、上記のような脱脂処理後に、得られた脱脂体に対して、例えば、ばり取りや、溝等の微小構造の形成等の目的で、各種後加工を施してもよい。
なお、粉末冶金用バインダー組成物は、脱脂処理によって成形体から完全に除去されなくてもよく、例えば、脱脂処理の完了時点で、その一部が残存していてもよい。
次に、脱脂処理が施された脱脂体を焼成する。これにより、脱脂体が焼結し、焼結体が得られる。
焼成条件は、特に限定されないが、非酸化性雰囲気中、例えば真空または減圧状態下(例えば1×10−6Torr以上1×10−2Torr以下(1.33×10−4Pa以上133Pa以下))、または、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス中で、熱処理を行うことによりなされる。これにより、チタン系粉末が酸化してしまうのを防止することができる。
また、容器と脱脂体との間は、できるだけ密着することなく、十分な隙間を有しているのが好ましい。
なお、焼成工程を行う雰囲気は、工程の途中で変化してもよい。例えば、最初に減圧雰囲気とし、途中で不活性雰囲気に切り替えるようにしてもよい。
また、焼成工程は、前述の脱脂工程と連続して行うのが好ましい。これにより、脱脂工程は、焼結前工程を兼ねることができ、脱脂体に予熱を与えて、脱脂体をより確実に焼結させることができる。
また、焼成時間は、0.5時間以上20時間以下であるのが好ましく、1時間以上15時間以下であるのがより好ましい。
また、上記のような焼成工程後に、得られた焼結体に対して、例えば、ばり取りや、溝等の微小構造の形成等の目的で、機械加工、放電加工、レーザー加工、エッチング等を施してもよい。
HIP処理の条件としては、例えば、温度が850℃以上1100℃以下、時間が1時間以上10時間以下とされる。
また、加圧圧力は、50MPa以上であるのが好ましく、100MPa以上であるのがより好ましい。
加えて、チタン焼結体が高い延性を有していることにより、例えば医療用構造体を患部に適用する際に、施術者が患部の形状に合わせて医療用構造体の形状を手で調整することも可能になるため、施術が容易になるという利点もある。
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
1.焼結体の製造
(実施例1)
まず、ガスアトマイズ法により製造された平均粒径6μmのTi合金粉末を用意した。なお、用いたTi合金粉末の組成は、Ti−6Al−4Vである。
次いで、得られたペレットを用い、材料温度:130℃、射出圧力:10.8MPa(110kgf/cm2)という成形条件で、射出成形機にて成形を行った。これにより、成形体を得た。なお、成形体の形状は、焼結後に20mm×20mmの立方体となる形状とした。
次に、脱脂体に対して、温度:600℃で昇温を開始し1000℃まで昇温、時間:3時間、雰囲気:アルゴン減圧という焼成条件で焼成処理を施した。これにより、焼結体を得た。
なお、焼成処理は、Ti−6Al−4V製の容器内に脱脂体を収納した状態で行った。
Ti合金粉末の平均粒径およびバインダー組成物の組成を、表1に示すように変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にして焼結体を得た。
(比較例1〜3)
Ti合金粉末の平均粒径およびバインダー組成物の組成を、表1に示すように変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にして焼結体を得た。
2.1 焼結密度の評価
各実施例、各参考例および各比較例で得られた焼結体について、アルキメデス法(JIS Z 2501に規定)に準じた方法により密度を測定した。また、測定された焼結密度と、金属粉末の真密度から、焼結体の相対密度を算出した。
各実施例、各参考例および各比較例で得られた焼結体について、その伸び、引張強さおよび0.2%耐力を測定した。なお、伸び、引張強さおよび0.2%耐力の測定は、それぞれ、JIS Z 2241に規定の金属材料引張試験方法に準じて行った。
2.3 酸素含有量、窒素含有量および炭素含有量の測定
各実施例、各参考例および各比較例で得られた焼結体について、その酸素含有量および窒素含有量を酸素窒素同時分析装置(LECO社製、TC−136)により測定し、炭素含有量を炭素硫黄同時分析装置(LECO社製、CS−200)により測定した。
以上、2.1〜2.3の評価結果を表1に示す。
なお、表には示していないが、Ti−6Al−4Vの粉末に代えて、Ti−6Al−7Nbの粉末について、上記と同様の条件で焼結体を製造した。その結果、Ti−6Al−4Vの粉末の場合と同様、各実施例で得られた焼結体では、酸素含有量が低く、焼結密度が高いことが認められ、さらには、伸び(延性)と、引張強さおよび0.2%耐力と、の両立が図られていることも認められた。
実施例4で得られた焼結体について、その断面を光学顕微鏡で観察した。得られた観察像を図1に示す。
図1から明らかなように、実施例4で得られた焼結体では、結晶組織の粒径がそろっており、かつアスペクト比が小さいことが認められる。なお、X線回折の結果、この結晶組織(図1にて淡色に見える領域)がチタンα相であることがわかった。
また、他の実施例で得られた焼結体についても、図1に示す観察像と同様の観察結果が得られた。
Claims (7)
- チタン系粉末を焼結してなるものであり、
平均粒径が5μm以上50μm以下であり、かつアスペクト比が3以下であるチタンα相の結晶組織を含んでおり、
前記結晶組織の粒径の個数基準の累積分布において、小径側から10%累積時の粒径をD10とし、50%累積時の粒径をD50とし、90%累積時の粒径をD90としたとき、(D90−D10)/D50が1以上1.5以下であり、
酸素含有量が質量比で3000ppm以下であり、
相対密度が96.9%以上99.5%以下であり、
引張強さが917MPa以上であり、
0.2%耐力が775MPa以上であり、
伸びが10%以上であることを特徴とするチタン焼結体。 - 窒素含有量が質量比で1000ppm以下である請求項1に記載のチタン焼結体。
- 炭素含有量が質量比で1500ppm以下である請求項1または2に記載のチタン焼結体。
- 空孔を含むものであり、空孔率が0.5%以上5%以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のチタン焼結体。
- 空孔を含まない表層領域と、前記表層領域の内側に位置し、空孔を含む内部領域と、を有する請求項1ないし4のいずれか1項に記載のチタン焼結体。
- さらに、チタンβ相の結晶組織を含んでおり、
前記チタンα相の結晶組織と前記チタンβ相の結晶組織の比率は、2:3以上3:1以下である請求項1ないし5のいずれか1項に記載のチタン焼結体。 - 平均粒径が1μm以上30μm以下であり、かつ、タップ密度が2.6g/cm 3 以上であるチタン系粉末と、ワックスに対して炭化水素系樹脂を質量比で1倍以上2倍以下の割合で含み酸素含有量が20質量%以下であるバインダー組成物と、を含むコンパウンドを用意する工程と、
前記コンパウンドを成形し、焼成してチタン焼結体を得る工程と、を有し、
前記チタン焼結体は、平均粒径が5μm以上50μm以下であり、かつアスペクト比が3以下であるチタンα相の結晶組織を含んでおり、前記結晶組織の粒径の個数基準の累積分布において、小径側から10%累積時の粒径をD10とし、50%累積時の粒径をD50とし、90%累積時の粒径をD90としたとき、(D90−D10)/D50が1以上1.5以下であり、酸素含有量が質量比で3000ppm以下であり、相対密度が96.9%以上99.5%以下であり、引張強さが917MPa以上であり、0.2%耐力が775MPa以上であり、伸びが10%以上であることを特徴とするチタン焼結体の製造方法。
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