本実施形態では、特徴的な構造を有するインジェクターと、このインジェクターの製造方法の例について、図1〜図12に従って説明する。以下、実施形態について図面に従って説明する。尚、各図面における各部材は、各図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせて図示している。
(第1の実施形態)
第1の実施形態にかかわるインジェクターについて図1〜図7に従って説明する。図1は、インジェクターの構造を示す概略斜視図である。図1に示すように、噴射弁としてのインジェクター1は一方向に長い筒状となっている。インジェクター1の長手方向をX方向とし、X方向と直交する方向をY方向及びZ方向とする。
インジェクター1は、例えば、液体燃料をエンジン等の燃焼室や燃焼室に通じる配管に噴出する装置である。インジェクター1の図中X方向側は投入口2となっている。そして、投入口2には図示しない配管が接続される。そして、配管からインジェクター1の投入口2に燃料等の液体が供給される。液体の種類は特に限定されず水、アルコール、ガソリン、軽油、薬液等を対象とすることができる。本実施形態では例えば、液体はガソリンであり、エンジンにはガソリンエンジンを適用した事例となっている。そして、インジェクター1は液体を各種の装置に噴出することができる。
インジェクター1の図中−X方向にはノズル3が設置されている。ノズル3には多数の噴出孔4が設置され、投入口2に供給された液体が霧状になって噴出される。ノズル3は燃焼室に通ずる配管に設置される。そして、配管内に供給された霧状の液体は配管を流れる気体とともに燃焼室に流動する。
インジェクター1の内部には液体の流れを制御する電磁弁が設置されている。そして、インジェクター1の図中Z方向側にはコネクター5が設置されている。コネクター5は一対の針状の電極5aと電極5aを囲む案内部5bとを備えた雄型のコネクターとなっている。そして、コネクター5は図示しない雌型のコネクターに結合され、電極5aに電流が供給される。電極5aは配線により電磁弁と接続され、電極5aに供給される電力により電磁弁が駆動されて開閉する。
図2はインジェクターの構造を示す模式断面図であり、図1のA−A’線に沿って−Y方向側から見た図である。図2に示すように、インジェクター1はX方向に長い筒状のステータコア6を備えている。ステータコア6の長手方向で投入口2からノズル3に向かう方向を第1方向7とする。
ステータコア6は投入口2側から順に配置された磁性体部としての第1磁性体部6a、非磁性体部6b、磁性体部としての第2磁性体部6cを備えている。非磁性体部6bは環状であり、第1方向7においてステータコア6の中間に位置している。そして、非磁性体部6bは第1磁性体部6aと第2磁性体部6cとの間に設けられている。ステータコア6の内部には投入口2から供給された液体8が満たされている。そして、第1磁性体部6a、非磁性体部6b及び第2磁性体部6cは一体となっている。尚、一体となっている状態は第1磁性体部6aと非磁性体部6bと間で物質が拡散し、非磁性体部6bと第2磁性体部6cと間で物質が拡散している状態である。これにより、ステータコア6の内部に液体が流動するときにもステータコア6から外に液体8が流出することを防止することができる。
非磁性体部6bの材料はチタン合金が用いられている。チタン合金はオーステナイト系ステンレスより磁化率が小さく耐食性のある材料である。尚、オーステナイト系ステンレスは非磁性ステンレスとも称す。従って、非磁性体部6bにオーステナイト系ステンレスを用いるときより、チタン合金を用いる方が磁束線を通し難くすることができる。また、非磁性体部6bをチタン合金にすることにより強度や耐食性を向上させることができる。チタン合金の種類は特に限定されず、機械的強度があり耐食性がある金属であれば良い。
チタン合金は、例えば、Ti−6Al−4V合金、Ti−6Al−7Nb合金、Ti−11.5Mo−6Zr−4.5Sn合金、Ti−13V−11Cr−3Al合金、Ti−8Mo−8V−2Fe−3Al合金、Ti−8Mn合金を用いることができる。他にも、チタン合金は、例えば、Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo合金、Ti−4Al−6V−2Sn合金、Ti−6Al−4V合金を用いることができる。Ti−6Al−4Vは切削や研削等の加工性に優れている。従って、筒の内面を整形して表面粗さを容易に小さくすることができる。さらに、Ti−6Al−4V合金は高強度で耐食性に優れているので、ガソリン用の噴射弁に用いるときにもステータコア6の寿命を長寿命にすることができる。Ti−6Al−7Nb合金は高強度で耐食性に優れているので、ガソリン用の噴射弁に用いるときにもステータコア6の寿命を長寿命にすることができる。従って、非磁性体部6bの材質は、例えば、Ti−6Al−4V合金またはTi−6Al−7Nb合金を好適に用いることができる。本実施形態では、例えば、非磁性体部6bの材質をTi−6Al−4V合金としている。
非磁性体部6bに用いるチタン合金におけるチタンの含有率は質量比率で70%以上95%以下であることが好ましい。チタンの含有率が質量比率で70%以上にすることにより磁化率を著しく下げることが可能となる。また、チタン以外の材料を5%以上にすることにより機械的強度があり耐食性がある金属にすることができる。チタン合金におけるチタンの含有率が質量比率で70%以上90%以下であることが、さらに、好ましい。チタン以外の材料を10%以上にすることによりさらに機械的強度があり耐食性がある金属にすることができる。
非磁性体部6bに用いるチタン合金の主な元素はチタンであり、2番目と3番目に多い質量比率を占める元素は常磁性材料であることが好ましい。チタン合金に強磁性材料や反磁性材料を含むとき磁化率が高くなる。従って、非磁性体部6bのチタン合金の2番目と3番目に多い質量比率を占める元素が常磁性材料のときは強磁性材料や反磁性材料のときに比べて磁化率を小さくすることができる。非磁性体部6bに用いるチタン合金には鉄、ニッケル、コバルト等の強磁性の元素は含まないようにするのが好ましい。さらに、非磁性体部6bに用いるチタン合金には炭素、銅、鉛、銀、水銀等の反磁性の元素は含まないようにするのが好ましい。そして、非磁性体部6bに用いるチタン合金には常磁性の元素を含むのが好ましい。常磁性の元素としては、モリブデン、ジルコニア、錫、バナジウム、クロム、アルミニウム、マンガン、ニオブを用いることができる。
チタンは結晶構造が最密六方晶のα相と体心立方晶のβ相との形態となる。そして、アルミニウム、錫はチタンをα相に安定化する元素であり、ヤング率を高くし高温強度を高くする。モリブデン、バナジウム、ニオブ、クロムはチタン合金をβ相に安定化させる元素であり、静的強度や靱性を高くし、加工性を良くすることができる。ジルコニア、錫はチタンにα相とβ相とに固溶して各相を共存させる。従って、上記の常磁性の元素を組み合わせて比率を調整するのが好ましい。
第1磁性体部6a及び第2磁性体部6cの材料は磁化率と強度とが高い材料であり、ガソリンに対する耐食性があれば良く特に限定されない。第1磁性体部6a及び第2磁性体部6cの材料は、例えば、SUS430、SUS430L、SUS434、SUS436L、SUS444、SUSXM27、SUS447J1等のフェライト系ステンレスを用いることができる。
第1磁性体部6aは第1方向7に延在する第1筒状部6gを備え、第1筒状部6gから半径方向に環状に第1凸部6dが突出している。第1凸部6dは非磁性体部6b側の第1磁性体部6aに位置している。第1凸部6dと第1筒状部6gとは第1磁性体部6aと同じ材質であり、第1磁性体部6aの第1筒状部6gと第1凸部6dとは一体となっている。
同様に、第2磁性体部6cは第1方向7に延在する第2筒状部6hを備え、第2筒状部6hから半径方向に環状に第2凸部6eが突出している。第2凸部6eは非磁性体部6b側の第2磁性体部6cに位置している。第2凸部6eの材質と第2筒状部6hとは第2磁性体部6cと同じ材質であり、第2磁性体部6cの第2筒状部6hと第2凸部6eとは一体となっている。
第1凸部6d及び第2凸部6eの外周側の面には絶縁部としての絶縁膜9が設置されている。さらに、第2凸部6eを向く側の第1凸部6dの面にも絶縁膜9が設置されている。さらに、第1凸部6dを向く側の第2凸部6eの面にも絶縁膜9が設置されている。さらに、第1凸部6dと第2凸部6eとの間の第1磁性体部6a及び非磁性体部6bの外周側の面にも絶縁膜9が設置されている。
そして、第1凸部6dと第2凸部6eとの間の第1磁性体部6a及び非磁性体部6bの外周側にはソレノイドコイル10が設置されている。換言すれば、第1凸部6d及び第2凸部6eはソレノイドコイル10を挟む場所に設置されている。ソレノイドコイル10とステータコア6との間には絶縁膜9が配置されている為、ソレノイドコイル10の皮膜が破れてもソレノイドコイル10とステータコア6との間で電流が流れることを防止することができる。
ソレノイドコイル10の外周側にはソレノイドコイル10の外周面を覆ってコイルカバー部11が設置され、コイルカバー部11は第1凸部6d及び第2凸部6eと接触するように設置されている。コイルカバー部11はステータコア6に圧入しても良く、レーザー溶接して固定しても良い。他にもコイルカバー部11がステータコア6にネジ止めされても良い。コイルカバー部11とステータコア6とは隙間なく密着させるのが好ましい。
そして、ソレノイドコイル10を向く面のコイルカバー部11にも絶縁膜12が設置されている。つまり、第1凸部6dと第2凸部6eとの間においてソレノイドコイル10と接触する場所には絶縁膜9及び絶縁膜12が設置されている。これにより、ソレノイドコイル10の皮膜が破れてもソレノイドコイル10とステータコア6との間で電流が流れることを防止することができる。
コイルカバー部11の外周側の一部と第1磁性体部6aの外周側はコネクター5のコネクター本体部5cに覆われている。コネクター本体部5cは外装の機能を有し、操作者がインジェクター1を把持し易い形状となっている。コネクター5の内部にはソレノイドコイル10と電極5aとを電気的に接続する配線13が設置されている。コネクター5の案内部5b及びコネクター本体部5cの材質は絶縁性があって形状を成形し易い材料であれば良く特に限定されない。本実施形態では絶縁性のある樹脂材料を用いている。
投入口2側のステータコア6の外周には第1パッキン14が設置されている。そして、第1パッキン14の投入口2側にはステータコア6の外周に第1パッキン保持リング15が設置されている。第1パッキン保持リング15の外径は第1パッキン14の内径より大きくなっており、第1パッキン14がステータコア6から離脱することを第1パッキン保持リング15が防止する。第1パッキン14は弾性材料からなり弾力性を有している。そして、投入口2側を図示しない配管に挿入したとき、液体8が配管から漏洩しないようになっている。
第2凸部6eのノズル3側のステータコア6の外周には第2パッキン16が設置されている。そして、第2パッキン16のノズル3側にはステータコア6の外周に第2パッキン保持リング17が設置されている。第2パッキン保持リング17の外径は第2パッキン16の内径より大きくなっている。これにより、第2パッキン16がステータコア6から離脱することを第2パッキン保持リング17が防止する。第2パッキン16は弾性材料からなり弾力性を有している。そして、インジェクター1のノズル3側を側面に孔が形成された図示しない配管の孔に挿入するとき、インジェクター1が配管の孔を塞ぐようになっている。そして、第2パッキン16が配管内を流れる気体が漏洩するのを防止する。
ステータコア6の第1方向7側の端にはノズル3を支持するノズル支持部材18が設置されている。そして、ノズル支持部材18を囲むようにノズル3が設置されている。従って、ステータコア6はノズル支持部材18を介してノズル3と接続している。ノズル3は有底筒状体であり、板状の部材を組み合わせた形態となっている。そして、ノズル3自体は剛性が小さく、ノズル支持部材18に設置されることにより剛性を有する。ノズル支持部材18の形状は略筒状であり、ノズル支持部材18の内部を液体8が流動可能になっている。
ステータコア6、ソレノイドコイル10、コイルカバー部11、コネクター5、ノズル支持部材18等により筒状の基体部19が構成されている。次に、基体部19の内部を説明する。投入口2側のステータコア6の内周にはフィルター20が設置されている。フィルター20は投入口2に供給される液体8に含まれる固形物を漉す機能を備えている。そして、固形物により噴出孔4が目詰まりすることを防止する。
ステータコア6の内周にはフィルター20側から第1方向7に向けてバネ力調整円筒21、円筒コイルバネ22、可動子23が配置されている。そして、可動子23には円筒弁24が設置され、可動子23及び円筒弁24によりノズル弁が構成されている。円筒弁24の形状は有底円筒形であり、開閉弁として機能する部位である。バネ力調整円筒21は円筒状の部材でありステータコア6に投入口2側から圧入されている。そして、投入口2からの距離が調整可能になっている。
バネ力調整円筒21の端と接して円筒コイルバネ22が設置され、円筒コイルバネ22の端と接して可動子23が設置されている。円筒コイルバネ22はバネ力調整円筒21と可動子23とに挟まれている。可動子23はステータコア6の内周に沿って第1方向7に移動可能に設置されている。そして、円筒コイルバネ22は可動子23を第1方向7に付勢する。バネ力調整円筒21の第1方向7の位置を調整することにより円筒コイルバネ22が可動子23を付勢する力を調整することが可能になっている。
円筒弁24は可動子23側が可動子23に固定され、第1方向7側がノズル支持部材18に摺動可能に支持されている。これにより、円筒弁24は可動子23と連動して第1方向7に往復移動することが可能になっている。円筒弁24は第1方向7側の側面に孔24aが設置されている。そして、液体8は円筒弁24の内部から孔24aを通過して噴出孔4に向かって流動することが可能になっている。
円筒弁24は第1方向7側の端面と側面との間に円錐形の面を備えている。円筒弁24の円錐形の面を第1接触面24bとする。そして、ノズル支持部材18において第1接触面24bと対向する場所の面も円錐形となっている。ノズル支持部材18の円錐形の面を第2接触面18aとする。
第1接触面24bと第2接触面18aとは平行な面となっている。そして、円筒弁24が円筒コイルバネ22により付勢されて第1方向7へ移動するとき、第1接触面24bと第2接触面18aとが密着する。このとき、ノズル支持部材18の内部では円筒弁24の内部から噴出孔4に通ずる流路が遮断される。
図3は可動子の動作を説明するための模式図である。図3に示すように、ソレノイドコイル10を囲んでステータコア6及びコイルカバー部11が設置され、ソレノイドコイル10、ステータコア6及びコイルカバー部11により電磁石26が構成されている。そして、ステータコア6の非磁性体部6bの内側では第1磁性体部6aが第1方向7に張出している。そして、第1磁性体部6aと非磁性体部6bとが接する場所が段差6fとなっている。
ソレノイドコイル10に通電されるとき、ステータコア6及びコイルカバー部11の中を磁束線25が通過する磁気回路が形成される。詳しくは、磁束線25は第1凸部6d、第1筒状部6gにおけるソレノイドコイル10の内側、段差6fを通過する。そして、段差6fからステータコア6の外に出て可動子23に入る。次に、可動子23から第2磁性体部6cの第2筒状部6hに入り、第2凸部6eを通過する。続いて、第2凸部6eからコイルカバー部11に入りコイルカバー部11から第1凸部6dに入って ソレノイドコイル10の周囲を1周する。
段差6fは磁束線25が第1磁性体部6aから出る場所であり、段差6fではN極となる。第2磁性体部6cの第2筒状部6hは磁束線25が入る場所であり、第2磁性体部6cではS極となる。そして、可動子23は段差6fに近い場所がS極に着磁され、第2磁性体部6cに近い場所がN極に着磁されている。
従って、ソレノイドコイル10に通電するとき、可動子23は段差6f側に移動する。これにより、可動子23及び円筒弁24は第1方向7と反対の方向に移動する。次に、ソレノイドコイル10への通電を停止するとき、可動子23に作用する磁力が消滅する。そして、可動子23は円筒コイルバネ22により付勢されているので可動子23及び円筒弁24は第1方向7へ移動する。つまり、ソレノイドコイル10に通電するとき、円筒弁24は第1方向7と反対の方向に移動する。そして、ソレノイドコイル10へ通電しないとき、円筒弁24は第1方向7に移動する。
非磁性体部6bの材質はチタン合金であるので非磁性体部6bはフェライト系ステンレスより磁化率が低くなっている。これにより、非磁性体部6bを通過する磁束が少なくなり、ほとんどの磁束は第1磁性体部6aから非磁性体部6bの外部を通過して第2磁性体部6cに入る。これにより、可動子23に及ぼす磁力が大きくなるのでソレノイドコイル10に通電する電力が小さくても効率よく可動子23を移動させることができる。
図4は円筒弁の動作を説明するための模式図である。図4(a)は円筒弁24が開いた状態を示し、図4(b)は円筒弁24が閉じた状態を示している。図4(a)に示すように、ソレノイドコイル10が通電されるとき可動子23に磁力が作用し、可動子23及び円筒弁24は第1方向7と反対の方向に移動する。これにより、ステータコア6内の液体8は孔24aを通過し、次に、第2接触面18aと第1接触面24bとの間を通過する。そして、液体8は噴出孔4から噴出される。
図4(b)に示すように、ソレノイドコイル10に通電されないとき可動子23及び円筒弁24は円筒コイルバネ22に付勢されて第1方向7に移動する。これにより、第2接触面18aと第1接触面24bとが密着し、ステータコア6内の液体8は第2接触面18aと第1接触面24bとの間を通過できなくなる。従って、液体8はステータコア6内に留まるので、液体8は噴出孔4から噴出されない。
次に上述したステータコア6の製造方法について図5〜図7にて説明する。図5は、ステータコアの製造方法を示すフローチャートであり、図6及び図7はステータコアの製造方法を説明するための模式図である。図5のフローチャートにおいて、ステップS1は非磁性体部成形工程に相当し、金型に原料を注入して非磁性体部6bを形成する工程である。次にステップS2に移行する。ステップS2は、非磁性体部脱脂工程に相当し、成形した非磁性体部6bを加熱してバインダーを除去する工程である。次にステップS3に移行する。
ステップS3は、磁性体部成形工程に相当する。この工程では、金型に非磁性体部6bを設置し、磁性体部の原料を注入して第1磁性体部6a及び第2磁性体部6cを成形する工程である。次にステップS4に移行する。ステップS4は、磁性体部脱脂工程に相当し、成形した第1磁性体部6a及び第2磁性体部6cを加熱してバインダーを除去する工程である。次にステップS5に移行する。
ステップS5は、アルミナ塗布工程に相当し、バインダーを除去したステータコア6にアルミナ粉を分散させた溶液を塗布する工程である。次にステップS6に移行する。ステップS6は、アルミナ乾燥工程に相当し、ステータコア6に塗布した溶液を乾燥して除去する工程である。次にステップS7に移行する。
ステップS7は、焼成工程に相当し、バインダーを除去したステータコア6を焼成する工程である。次にステップS8に移行する。ステップS8は、コイル巻線工程に相当し、ステータコア6を芯にしてコイル線を巻く工程である。以上の工程により ソレノイドコイル10が設置されたステータコア6が完成する。このフローチャートが示すようにステータコア6はMIM法(Metal Injection Molding)を用いて形成される。このMIM法は、比較的小型のものや、複雑で微細な形状の部品を最終形状に近い形状で製造することができ、用いる金属粉末の特性を十分に生かすことができるという利点を有する。
次に、図6及び図7を用いて、図5に示したステップと対応させて、製造方法を詳細に説明する。図6(a)はステップS1の非磁性体部成形工程に対応する図である。図6(a)に示すように、ステップS1において、非磁性体部6bの形状に非磁性成形体28を形成する。
この工程では、チタン合金を構成する金属の金属粉末及び有機バインダーを用意する。非磁性体部6bの材質をTi−6Al−4Vとするので、チタン、アルミニウム、バナジウムの金属粉末を用意する。チタン以外の元素は重量%で、アルミニウムが5.5〜6.75%、バナジウムが3.5〜4.5%となっている。尚、配合する比率は、この比率に限らずチタン合金の強度、耐食性等の条件に合わせて変更しても良い。
これらの材料を混練機により混練し、混練物(組成物)を得る。この混練物中には金属粉末が均一に分散している。また、金属粉末と有機バインダーとは、互いに化学反応しないものであるのが好ましい。金属粉末の平均粒径としては、特に限定されないが、1〜100μmであるのが好ましく、1〜6μmであるのがより好ましい。特に、金属粉末として平均粒径が6μm以下の微粉末を用いることにより、焼結体の結晶組織の粒径である結晶粒径を著しく小さくすることができるので、焼結体の密度を高くすることができる。チタンの融点は1668℃であり、鉄の融点である1538℃より高い温度となっている。従って、チタンの金属粉末の粒径を鉄より小さくして焼結し易くするのが好ましい。
ここで、金属の機械的強度は、結晶粒径の1/2乗に反比例して高まることが経験的に知られている。すなわち、結晶粒径を小さくすることにより、金属の機械的強度を飛躍的に高めることができる。これは、微細な結晶組織の集合体では、亀裂の進展が抑制され破壊確率が低下するためと考えられる。したがって、金属粉末として平均粒径が6μm以下の微粉末を用いることにより得られた焼結体は、機械的強度に優れたものとなる。
さらに、特に、比表面積が200m2/kg以上の金属粉末を用いるのが好ましく、400〜900m2/kg程度の金属粉末を用いるのがより好ましい。このように比表面積の広い金属粉末は、表面の活性(表面エネルギー)が高くなり、より低いエネルギーの付与でも容易に焼結することができる。したがって、ステップS7の焼成工程において、インジェクター1を短時間で焼結させることができる。
また、金属粉末は、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、高速回転水流アトマイズ法等のアトマイズ法、還元法、カルボニル法、粉砕法により製造されたものを用いることができる。そして、アトマイズ法により製造されたものを用いるのが好ましい。アトマイズ法によれば、極めて微小な金属粉末を効率よく製造することができる。また、アトマイズ法で製造された金属粉末は、真球に比較的近い球形状をなしているため分散性や流動性に優れており、成形時に混練物を成形型に充填する際、その充填性を高めることもできる。
有機バインダーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、等を用いることができる。他にも、有機バインダーとしては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、またはこれらの共重合体等の各種樹脂や、各種ワックス、パラフィン、ステアリン酸等の高級脂肪酸、高級アルコール、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド等が挙げられる。さらに、これらのうち2種以上を混合して用いても良い。
このうち、有機バインダーはポリオレフィンを主成分とするものが好ましい。ポリオレフィンは、還元性ガスによる分解性が比較的高い。このため、ポリオレフィンを有機バインダーの主成分として用いた場合、ステップS2の非磁性体部脱脂工程において非磁性成形体28をより短時間で確実に脱脂することができる。
また、有機バインダーの含有量は、混練物全体の2〜20wt%程度であるのが好ましく、5〜10wt%程度であるのがより好ましい。有機バインダーの含有率が前記範囲内であることにより、成形性よく非磁性成形体28を形成することができる。さらに、非磁性成形体28の金属粒子の密度を高め、非磁性成形体28の形状の安定性等を特に優れたものとすることができる。また、これにより、非磁性成形体28を脱脂した後の脱脂体との大きさの差、いわゆる収縮率を小さくすることができる。その結果、脱脂体を焼結した焼結体の寸法精度を向上させることができる。
また、混練物中に、可塑剤が添加されていてもよい。この可塑剤としては、例えば、DOP(Dioctyl phthalate)、DEP(Dietyl phthalate)、DBP(Dibutyl phthalate)等のフタル酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、セバシン酸エステル等が挙げられ、これらのうちの1種を用いても良く、または2種以上を混合して用いても良い。さらに、混練物中には、金属粉末、有機バインダー、可塑剤の他に、例えば、酸化防止剤、脱脂促進剤、界面活性剤等の各種添加物を添加しても良い。
混練条件は、用いる金属粉末の金属組成や粒径、有機バインダーの組成、及びこれらの配合量等の諸条件により異なるが、その一例を挙げれば、混練温度:50〜200℃程度、混練時間:15〜210分程度とすることができる。また、混練物は、必要に応じてペレット(小塊)化される。ペレットの粒径は、例えば、1〜15mm程度とされる。
次に、混練物を成形して、非磁性成形体28を製造する。まず、混練物または混練物より造粒されたペレットを用いて、射出成形機により射出成形し、所望の形状、寸法の非磁性成形体28を製造する。このようにして得られた非磁性成形体28は、有機バインダー中に、金属粉末がほぼ均一に分散した状態となっている。尚、非磁性成形体28の形状寸法は、ステップS2の非磁性体部脱脂工程及びステップS7の焼成工程による収縮分を見込んで決定される。
射出成形の成形条件としては、用いる金属粉末の金属組成や粒径、有機バインダーの組成及びこれらの配合量等の諸条件により異なるが、その一例を挙げれば、材料温度は、好ましくは80〜200℃程度、射出圧力は、好ましくは2〜30MPa(20〜300kgf/cm2)程度とされる。
図6(b)はステップS2の非磁性体部脱脂工程に対応する図である。ステップS2では非磁性成形体28に対し、脱脂処理を施す。脱脂処理は脱バインダー処理とも称す。その結果、図6(b)に示す非磁性脱脂体29を得る。非磁性脱脂体29は、非磁性成形体28と相似形状をなし寸法が収縮したものである。より具体的には、非磁性脱脂体29は、円環状となっている。
非磁性成形体28に対する脱脂処理は、酸化性雰囲気、不活性雰囲気、減圧雰囲気、還元性雰囲気のうちのいずれの雰囲気中で行ってもよいが、還元性雰囲気中で行うのが好ましい。これにより、非磁性成形体28中の有機バインダーを速やかに分解し、非磁性成形体28中から除去することができる。これにより、得られる非磁性脱脂体29中の有機バインダーの残存量を極めて少なく抑えることができる。その結果、ステップS7の焼成工程において、炭素含有量が少ない焼結体を得ることができる。また、脱脂処理を還元性雰囲気中で行うことにより、非磁性成形体28中に含まれる金属粉末の酸化を確実に防止するという利点もある。
還元性雰囲気が含む還元性ガスとしては、例えば、水素、一酸化炭素のようなガスの他、アンモニア分解ガスのような混合ガスを用いることもできる。このうち、還元性ガスは、水素ガスであるのが好ましい。水素ガスは、還元作用が強いため、非磁性成形体28中の有機バインダーをより速やかに分解することができる。このため、非磁性成形体28に対する脱脂処理をより高速かつ十分に行うことができ、ステップS7の焼成工程で得られる焼結体中の炭素量の増加を確実に防止することができる。
また、水素ガスを構成する水素分子は、その分子サイズが非常に小さいため、非磁性成形体28中の隙間に容易に侵入することができる。このため、水素ガスによれば、非磁性成形体28の内部に存在する有機バインダーも容易に分解・除去することができ、焼結体の表層部はもちろん、中心部においても、炭素量の増加を確実に防止することができる。
さらに、水素ガスは、熱伝導率が非常に高いので、加熱源から発生した熱を非磁性成形体28に効率よく伝達するとともに、加熱された非磁性成形体28を効率よく放熱することができる。その結果、非磁性成形体28の加熱・冷却を効率よく行うことができるという利点もある。還元性雰囲気は、還元性ガスのみで構成されていてもよいが、他のガスを含む場合、窒素、ヘリウム、アルゴンのような不活性ガスを含んでいるのが好ましい。これらの不活性ガスは、還元性ガスによる有機バインダーの分解作用を阻害するのを防止するとともに、還元性雰囲気の安全性が増すので、その取り扱いを容易にすることができる。
還元性雰囲気が含む還元性ガスの濃度は、特に限定されないが、50vol%以上であるのが好ましく、70vol%以上であるのがより好ましい。これにより、還元性雰囲気の安全性を担保しつつ、還元性ガスによる有機バインダーの分解作用が十分に発揮される。尚、例えば、アンモニア分解ガスの場合、その成分は、水素ガスと窒素ガスの混合ガスであり、水素ガス(還元性ガス)の濃度は、75vol%である。
また、脱脂処理において、非磁性成形体28を加熱する際の温度(加熱温度)は、有機バインダーの分解開始温度等によって若干異なるが、100〜750℃程度であるのが好ましく、150〜600℃程度であるのがより好ましい。これにより、還元性ガスによる有機バインダーの分解作用が十分に発揮され、非磁性成形体28の脱脂を高速かつ十分に行うことができる。
また、非磁性成形体28を加熱する時間である加熱時間は、非磁性成形体28の体積等に応じて若干異なるが、加熱温度を前記範囲内とした場合、0.1〜20時間程度とするのが好ましく、0.5〜15時間程度とするのがより好ましい。これにより、非磁性成形体28の脱脂を必要かつ十分に行うことができる。さらに、非磁性成形体28を加熱する際の平均加熱速度は、1〜10℃/分程度であるのが好ましい。
ステップS2は、脱脂条件の異なる複数の過程に分けて行うことにより、非磁性成形体28中の有機バインダーをより速やかに、そして、非磁性成形体28中に残存させないように分解・除去することができる。この過程の数は特に限定されない。本実施形態では2つの過程を有する例について説明する。
ステップS2は、非磁性成形体28中から有機バインダーの一部を除去する第1の脱脂過程と、該第1の脱脂過程を経た非磁性成形体28中から有機バインダーの残部を除去する第2の脱脂過程とを有する。このように、複数の段階を経て有機バインダーを除去することにより、有機バインダーを徐々に除去することができる。これにより、脱脂の進行が非磁性成形体28の一部に偏ることなく、均一に脱脂を行うことができる。
ところで、第1の脱脂過程では、非磁性成形体28中から有機バインダーの一部を除去する方法であれば、いかなる方法によって有機バインダーが除去されてもよい。具体的な方法としては、例えば、非磁性成形体28を加熱する方法、有機バインダーを溶解する溶媒に非磁性成形体28を接触させる方法等が挙げられる。
非磁性成形体28を加熱する場合、その加熱温度は、150〜350℃程度であるのが好ましい。このような比較的低温で非磁性成形体28を加熱することにより、非磁性成形体28中の有機バインダーの全部が急激に分解・気化するのを防止することができる。これにより、気化した有機バインダーが非磁性成形体28の外部に放出される際に、非磁性成形体28に変形をもたらし、その結果、非磁性成形体28の保形性が低下するのを防止することができる。
また、非磁性成形体28の加熱雰囲気としては、例えば、酸化性雰囲気、不活性雰囲気、還元性雰囲気、減圧雰囲気等が挙げられるが、特に、減圧雰囲気であるのが好ましい。これにより、減圧された雰囲気の作用により、非磁性成形体28中の比較的揮発し易い成分の除去を優先して行うことができる。このため、非磁性成形体28中の有機バインダーを段階的に除去することができ、非磁性成形体28の保形性をより高めることができる。
尚、このような減圧雰囲気による第1の脱脂過程を経た非磁性成形体28には、揮発し易い成分が除去されてなる空孔が生じる。この空孔は、非磁性成形体28の外部と連通しているため、後に詳述する第2の脱脂過程では、この空孔を介して、有機バインダーの分解物を非磁性成形体28から除去することができる。これにより、非磁性成形体28の中心部まで確実に脱脂処理を行うことができる。このような減圧雰囲気の圧力は、特に限定されないが、1×10-1〜1×10-5[Pa]程度であるのが好ましく、1×10-2〜1×10-4[Pa]程度であるのがより好ましい。これにより、前記のような作用・効果がより顕著なものとなる。
第2の脱脂過程では第1の脱脂過程を経た非磁性成形体28を還元性雰囲気中で加熱して、有機バインダーの残部を除去する。非磁性成形体28の加熱温度は、400〜600℃程度であるのが好ましい。これにより、非磁性成形体28が焼結することなく、還元性ガスによる有機バインダーの分解作用が十分に発揮され、非磁性成形体28の脱脂処理を確実に行うことができる。
尚、この第2の脱脂過程では、非磁性成形体28に形成された空孔を介して有機バインダーが除去される。このとき、空孔内に還元性ガスが侵入して有機バインダーの分解を促進するが、この空孔の内径は非常に小さいため、還元性ガスの種類によっては、空孔内に侵入し難いものもある。ところが、還元性ガスとして水素ガスを用いることにより、このような小さな空孔へも、還元性ガスが容易に侵入することができる。また、ステップS1で用いた金属粉末は、平均粒径が6μm以下と非常に小さいため、上記の空孔の内径もさらに小さいものになると考えられるが、そのような特に小さな空孔へも、水素ガスであれば容易に侵入することができる。
このようにして有機バインダーを除去し、非磁性脱脂体29を得る。この非磁性脱脂体29は、炭素含有率が、金属粉末の炭素含有率をより忠実に反映した焼結体を得るのに適したものとなる。すなわち、非磁性脱脂体29の炭素含有率と、ステップS1で用いた金属粉末の炭素含有率との差を、より小さくすることができる。炭素は反磁性として作用するので、炭素含有率を小さくすることによりチタン合金の磁化率を下げる効果がある。
図6(c)はステップS3の磁性体部成形工程に対応する図である。図6(c)に示すように、ステップS3において、ステータコア成形体30を形成する。ステップS3ではステップS1と同様に、磁性体部を構成する金属粉末及び有機バインダーを用意する。これらの材料を混練機により混練し、混練物(組成物)を得る。以下、磁性体部の材質をSUS430とする例を示す。SUS430は18クロムステンレスとも称される。磁性体部を構成する金属粉末の主な元素は鉄である。鉄以外の元素は重量%で、クロムが16〜18%、マンガンが1.0%以下、シリコンが0.75%以下、炭素が0.12%以下、燐が0.04%以下、硫黄が0.03%以下となっている。
金属粉末の製造方法、有機バインダーの組成及び製造方法、混成方法はステップS1と略同様であり、説明を省略する。尚、鉄はチタンより融点が低いので、チタンの金属粒子より鉄の金属粒子の粒径を大きくするのが好ましい。これにより、ステップS7の焼成工程における金属粒子の焼成状態を同じ状態に調整することができる。次に、成形用の金型に非磁性脱脂体29を設置する。金型は複数の部品に分離可能となっている。そして、複数の金型部品を分離し金型に非磁性脱脂体29を設置した後で各金型部品を合体させる。続いて、金型に混練物を溶融して注入する。つまり、インサート成形法を行う。尚、成形条件はステップS1と略同様であり、説明を省略する。その結果、ステータコア成形体30が形成される。ステータコア成形体30では非磁性脱脂体29が中央に位置し、非磁性脱脂体29を挟むように磁性脱脂体30aが設置されている。
図6(d)はステップS4の磁性体部脱脂工程、ステップS5のアルミナ塗布工程及びステップS6のアルミナ乾燥工程に対応する図である。図6(d)に示すように、ステップS4において、ステータコア成形体30を脱脂してステータコア脱脂体31を製造する。尚、ステータコア成形体30を脱脂する方法や製造条件はステップS2と同様であり、説明を省略する。
ステップS5では、アルミナ粉末を用意し、分散媒に分散させたアルミナ溶液を作成する。分散媒の種類は特に限定されず、アルミナ粉末が分散でき、蒸発した後に残らない液体であれば良い。例えば、純水やアルコール等を用いることができる。アルコール等揮発性のある液体を用いる方が乾燥時間を短くでき、乾燥中にアルミナ粉末が移動し難くなるので好ましい。
次に、ステータコア脱脂体31にアルミナ溶液を塗布する。塗布方法は特に限定されないが、例えば、アルミナ溶液を浸した筆やスポンジ等を用いて塗布することができる。他にも、オフセット印刷やシルクスクリーン印刷を応用して塗布することができる。アルミナ溶液を塗布する場所はステータコア6に絶縁膜9を設置する場所と同じ場所である。
ステップS6では、塗布したアルミナ溶液を乾燥させる。乾燥方法や乾燥条件は分散媒が蒸発すれば良く特に限定されない。例えば、アルコールを用いるときには20℃の乾燥した空気を循環させて20分程で乾燥させることができる。その結果、絶縁膜9を設置する場所には焼結前絶縁膜31aが形成される。
図6(e)はステップS7の焼成工程に対応する図である。図6(e)に示すように、ステップS7ではステータコア脱脂体31を焼成炉で焼結してステータコア6を形成する。ステータコア6は、ステータコア脱脂体31と相似形状をなすものである。
焼結により、金属粉末は、粒子同士の界面で拡散が生じ粒成長して結晶組織となる。このとき、磁性脱脂体30aの金属粉末と非磁性脱脂体29の金属粉末との界面でも拡散が生じ粒成長して結晶組織となる。これにより、全体的に緻密な、すなわち低空孔率で高密度の焼結体となる。焼成温度は、特に限定されないが、1000〜1400℃程度であるのが好ましく、1100〜1350℃程度であるのがより好ましく、1200〜1350℃程度であるのがさらに好ましい。このような温度でステータコア脱脂体31を焼成することにより、結晶組織が必要以上に肥大化するのを防止することができる。その結果、微小な結晶組織を有し、機械的特性及び化学的特性に優れたステータコア6が得られる。
尚、焼成温度が推奨温度範囲の下限値を下回ると、全体または部分的に焼結が不十分となるため、得られるステータコア6の機械的特性や表面粗さが低下するおそれがある。一方、焼成温度が推奨温度範囲の上限値を上回ると、焼結が必要以上に進行する。これにより、結晶組織が肥大化し、得られるステータコア6の機械的特性が低下するおそれがある。焼成温度を推奨温度範囲とする場合には焼成時間は0.2〜7時間程度であるのが好ましく、1〜4時間程度であるのがより好ましい。焼成を推奨温度範囲の焼成温度で行うことにより、ステータコア脱脂体31の焼結をより確実に最適化して、結晶組織の肥大化を確実に防止しつつ焼結させることができる。その結果、極めて微小な結晶組織を得ることができる。
焼成の際の雰囲気は、特に限定されないが、水素、一酸化炭素のような還元性雰囲気、窒素、ヘリウム、アルゴンのような不活性雰囲気、これら各雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が挙げられる。このような雰囲気で焼結されたステータコア6は、その炭素含有率が、金属粉末の炭素含有率をより忠実に反映したものとなる。その結果、ステータコア6は非磁性体部6bを第1磁性体部6aと第2磁性体部6cとが挟んで一体となった形態となる。そして、第1凸部6dと第2凸部6eとの間にはステータコア6の表面に絶縁膜9が形成される。以上のステップによりステータコア6を得ることができる。
図7はステップS8のコイル巻線工程に対応する図である。図7(a)に示すように、ステップS8において、ステータコア6を巻線機32に設置する。巻線機32は第1回転機構33とステータコア6を着脱可能に把持するチャック34を備えている。第1回転機構33はモーター、減速機、回転速度制御装置等からなる。そして、操作者がステータコア6をチャック34に固定する。
巻線機32は第2回転機構35と第2回転機構35が回転させるコイル線供給ドラム36を備えている。コイル線供給ドラム36にはコイル線37が巻き取られている。そして、コイル線供給ドラム36とステータコア6との間にはコイル線37を供給する位置を制御するコイル線ガイド棒38が設置されている。そして、コイル線ガイド棒38は直動機構39に設置され、直動機構39はコイル線ガイド棒38を図中左右に往復移動させる。コイル線ガイド棒38にはコイル線37が通過する貫通孔38aが設置されている。
操作者はステータコア6をチャック34に固定し、コイル線37の端をステータコア6に固定する。次に、操作者が巻線機32を起動する。巻線機32はステータコア6とコイル線供給ドラム36とを所定の回転数で回転させる。そして、直動機構39がコイル線ガイド棒38を往復移動させる。これにより、ステータコア6では第1凸部6dと第2凸部6eとの間にコイル線37が整列して巻き取られる。そして、ステータコア6に所定の長さのコイル線37が巻き取られた後、操作者はコイル線37を切断し、ステータコア6をチャック34から分離する。その結果、図7(b)に示すように ソレノイドコイル10が設置されたステータコア6が完成する。
上述したように、本実施形態によれば、以下の効果を有する。
(1)本実施形態によれば、非磁性体部6bの材質はチタン合金である。チタン合金はオーステナイト系ステンレスより磁化率が小さく耐食性のある材料である。従って、非磁性体部6bにオーステナイト系ステンレスを用いるときより、磁束線を通し難くすることができる。また、チタンは合金にすることによりチタンより強度や耐食性を向上させることができる。従って、ステータコア6は非磁性体部6bの磁化率を小さくし、強度及び耐食性を向上させることができる。
(2)本実施形態によれば、非磁性体部6bにおけるチタン合金のチタンの含有率が質量比率で70%以上となっている。このとき、チタンにより磁化率をオーステナイト系ステンレスに比べて確実に小さくすることができる。また、チタン以外の物質を含むことによりステータコア6はチタンより強度及び耐食性を向上させることができる。
(3)本実施形態によれば、非磁性体部6bの材質であるチタン合金の主な元素はチタンであり、チタンは磁化率を小さくすることができる。そして、2番目と3番目に多い質量比率を占める元素は常磁性材料となっている。チタン合金に強磁性材料や反磁性材料を含むとき磁化率が高くなる。従って、非磁性体部6bのチタン合金は2番目と3番目に多い質量比率を占める元素が強磁性材料や反磁性材料のときに比べて磁化率を小さくすることができる。
(4)本実施形態によれば、非磁性体部6bの材質であるチタン合金はTi−6Al−4VまたはTi−6Al−7Nb合金を好適に用いることができる。Ti−6Al−4V合金は切削や研削等の加工性に優れている。従って、ステータコア6の内面を整形して表面粗さを容易に小さくすることができる。さらに、Ti−6Al−4V合金は高強度で耐食性に優れているので、ガソリン用のインジェクター1に用いるときにステータコア6の寿命を長寿命にすることができる。Ti−6Al−7Nb合金は高強度で耐食性に優れているので、ガソリン用のインジェクター1に用いるときにステータコア6の寿命を長寿命にすることができる。
(5)本実施形態によれば、第1磁性体部6a及び第2磁性体部6cにはフェライト系ステンレスが用いられている。フェライト系ステンレスは強度と耐食性があるのでガソリン用のインジェクター1を長寿命にすることができる。そして、フェライト系ステンレスは磁化率が高いのでチタン合金の非磁性体部6bと組み合わせることにより性能の良い磁気回路を形成することができる。
(6)本実施形態によれば、ステータコア6では第1磁性体部6a、非磁性体部6b及び第2磁性体部6cが一体となっている。従って、ステータコア6の内部に液体8が流動するときにも第1磁性体部6aと非磁性体部6bとの間から液体8がステータコア6の外に流出することを防止することができる。さらに、ステータコア6の内部に液体8が流動するときにも非磁性体部6bと第2磁性体部6cとの間から液体8がステータコア6の外に流出することを防止することができる。
(第2の実施形態)
次に、ステータコアの特徴的な製造方法の一実施形態について図8及び図9を用いて説明する。本実施形態が第1の実施形態と異なるところは、インサート成形法でなく2色成形法を用いた点にある。尚、第1の実施形態と同じ点については説明を省略する。
図8は、ステータコアの製造方法を示すフローチャートであり、図9はステータコアの製造方法を説明するための模式図である。図8のフローチャートにおいて、ステップS11は成形工程に相当し、金型に原料を注入してステータコア6の成形体を形成する工程である。次にステップS12に移行する。ステップS12は、脱脂工程に相当し、成形した成形体を加熱してバインダーを除去する工程である。次にステップS5に移行する。ステップS5〜ステップS8は第1の実施形態と同様であり説明を省略する。そして、以上の工程により ソレノイドコイル10が設置されたステータコア6が完成する。
次に、図9を用いて、図8に示したステップと対応させて、製造方法を詳細に説明する。図9(a)〜図9(c)はステップS11の成形工程に対応する図である。図9(a)に示すように、ステップS11において、射出成形機41には成型用金型42が設置されている。成型用金型42は主に8個の部位から構成されている。詳しくは、成型用金型42は円柱状の第1金型42aと第2金型42bとを備えている。第1金型42aと第2金型42bとは同軸上に配置されている。第1金型42a及び第2金型42bの図中下側には第3金型42c、第4金型42d及び第5金型42eが設置されている。さらに、第1金型42a及び第2金型42bの図中上側には第6金型42f、第7金型42g及び第8金型42hが設置されている。
第3金型42cと第6金型42fとが図中上下方向に接するとき、第3金型42cと第6金型42fとが第1金型42aの一部を囲む。そして、第1金型42a、第3金型42c及び第6金型42fに囲まれた空間の形状は円筒形になる。同様に、第4金型42dと第7金型42gとが図中上下に接するとき、第4金型42dと第7金型42gとが第1金型42a及び第2金型42bの一部を囲む。そして、第1金型42a、第2金型42b、第4金型42d及び第7金型42gに囲まれた空間の形状は円筒形になる。
さらに、第5金型42eと第8金型42hとが図中上下に接するとき、第5金型42eと第8金型42hとが第2金型42bの一部を囲む。そして、第2金型42b、第5金型42e及び第8金型42hに囲まれた空間の形状は円筒形となる。第6金型42fには第1湯口42iが設置され、第8金型42hには第2湯口42jが設置されている。
図9(b)に示すように、続いて、射出成形機41は磁性体部を構成する材料の混練物を溶融して金型の第1湯口42i及び第2湯口42jに注入する。成形条件はステップS3と同様であり、説明を省略する。その結果、第1磁性体部6aと相似形の第1成形体43aが形成され、第2磁性体部6cと相似形の第2成形体43bが形成される。この状態では第4金型42d及び第7金型42gにより第1成形体43aと第2成形体43bとは分離されている。
図9(c)に示すように、続いて、射出成形機41は第4金型42d及び第7金型42gを移動する。次に、射出成形機41は第4金型42dと交換して第9金型42kを配置し、第7金型42gと交換して第10金型42mを配置する。
第9金型42kと第10金型42mとが図中上下に接するとき、第9金型42kと第10金型42mとが第1金型42a及び第2金型42bの一部を囲むようになる。そして、第1金型42a、第2金型42b、第9金型42k及び第10金型42mに囲まれた空間の形状は円筒形になる。
第4金型42dと第7金型42gとが接するとき第4金型42dと第7金型42gとの間には円柱状の空間ができる。同様に、第9金型42kと第10金型42mとが接するとき第9金型42kと第10金型42mとの間には円柱状の空間ができる。そして、第9金型42kと第10金型42mとに囲まれた空間の直径は第4金型42dと第7金型42gとに囲まれた空間の直径より長くなっている。
従って、第1金型42a及び第2金型42bと第9金型42k及び第10金型42mとの間には空洞が形成される。そして、第10金型42mには第3湯口42nが設置されている。続いて、射出成形機41は非磁性体部6bを構成する材料の混練物を溶融して成型用金型42の第3湯口42nに注入する。成形条件はステップS1と同様であり、説明を省略する。
その結果、第1成形体43aと第2成形体43bと間に非磁性体部6bと相似形の第3成形体43cが形成される。第3成形体43cは第1成形体43aと密着するとともに第2成形体43bとも密着して形成される。第1成形体43a、第2成形体43b及び第3成形体43cにより成形体43が構成される。
図9(d)はステップS12の脱脂工程に対応する図である。図9(d)に示すように、ステップS12において、成形体43を脱脂してステータコア脱脂体44を製造する。尚、成形体43を脱脂する方法や製造条件はステップS2と同様であり、説明を省略する。以降、ステップS5〜ステップS8が行われ、ステータコア6が完成する。ステップS5〜ステップS8の方法や製造条件は第1の実施形態と同様であり、説明を省略する。
上述したように、本実施形態によれば、以下の効果を有する。
(1)本実施形態によれば、ステータコア6では第1磁性体部6a、非磁性体部6b及び第2磁性体部6cが一体となっている。従って、ステータコア6の内部に液体8が流動するときにも第1磁性体部6aと非磁性体部6bとの間から液体8がステータコア6の外に流出することを防止することができる。さらに、ステータコア6の内部に液体8が流動するときにも非磁性体部6bと第2磁性体部6cとの間から液体8がステータコア6の外に流出することを防止することができる。
(2)本実施形態によれば、成型用金型42にて第1成形体43a、第2成形体43b及び第3成形体43cが成形される。従って、生産性よく成形体43を製造することができる。
(3)本実施形態によれば、非磁性体部6bの材質はチタン合金である。チタン合金はオーステナイト系ステンレスより磁化率が小さく耐食性のある材料である。従って、非磁性体部6bにオーステナイト系ステンレスを用いるときより、磁束線を通し難くすることができる。また、チタンは合金にすることによりチタンより強度や耐食性を向上させることができる。従って、ステータコア6は非磁性体部6bの磁化率がオーステナイト系ステンレスより小さく、チタンより強度及び耐食性を向上させることができる。
(第3の実施形態)
次に、特徴的な構造を有するステータコアの一実施形態について図10のインジェクターの構造を示す模式断面図を用いて説明する。本実施形態が第1の実施形態と異なるところは、第2凸部6eに相当する部位がコイルカバー部11に相当する部位に設置されている点にある。尚、第1の実施形態と同じ点については説明を省略する。
図10に示すように、インジェクター46はX方向に長く延在する筒状のステータコア47を備えている。ステータコア47は磁性体部としての第1磁性体部47a、非磁性体部47b及び磁性体部としての第2磁性体部47cを備えている。第1磁性体部47a及び非磁性体部47bは第1の実施形態における第1磁性体部6a及び非磁性体部6bと同様の機能と形状とを備えている。そして、非磁性体部47bの材質はチタン合金であり、第1磁性体部47a及び第2磁性体部47cの材質はフェライト系ステンレスになっている。
第1磁性体部47aは第1方向7に延在する筒状部47gと第1凸部47dを備えている。第1凸部47dは非磁性体部47b側の第1磁性体部47aに位置し、筒状部47gから半径方向に環状に突出している。第1凸部47dの材質と筒状部47gとは同じ材質であり、第1磁性体部47aでは筒状部47gと第1凸部47dとが一体となっている。そして、第1磁性体部47aの他の部分及び非磁性体部47bは第1の実施形態の第1磁性体部6a及び非磁性体部6bと同じであり、説明を省略する。
第2磁性体部47cは円筒状の形状となっている。第1凸部47dの第1方向7側及び非磁性体部47bの外周側にはソレノイドコイル10が巻線されたボビン48が設置されている。ソレノイドコイル10は円環状に形成され、ボビン48の内径は非磁性体部47b及び第2磁性体部47cの外径と略同じ長さとなっている。従って、ボビン48をノズル3側からステータコア47に挿入することが可能になっている。
ボビン48の第1方向7側と外周側にはコイルカバー部49が設置されている。そして、ソレノイドコイル10はステータコア47とコイルカバー部49とにより覆われている。従って、ソレノイドコイル10に通電するとき、磁束線がステータコア47とコイルカバー部49とを通る磁気回路が形成される。コイルカバー部49はステータコア47に圧入しても良く、レーザー溶接して固定しても良い。他にもコイルカバー部49がステータコア47にネジ止めされても良い。コイルカバー部49とステータコア47とは隙間なく密着させるのが好ましい。
ソレノイドコイル10の外周側と向き合う場所のコイルカバー部49には絶縁膜50が配置されている。このため、ソレノイドコイル10の皮膜が破れてもソレノイドコイル10とステータコア47との間で電流が流れることを防止することができる。
上述したように、本実施形態によれば、以下の効果を有する。
(1)本実施形態によれば、非磁性体部47bの材質はチタン合金である。チタン合金はオーステナイト系ステンレスより磁化率が小さく耐食性のある材料である。従って、非磁性体部47bにオーステナイト系ステンレスを用いるときより、磁束線を通し難くすることができる。また、チタンは合金にすることによりチタンより強度や耐食性を向上させることができる。従って、ステータコア47は非磁性体部47bの磁化率が小さく、チタンより強度及び耐食性を向上させることができる。
(2)本実施形態によれば、ステータコア47にソレノイドコイル10が設置されたボビン48を挿入することができる。従って、容易にステータコア47とボビン48とを組み立てることができる。
(第4の実施形態)
次に、特徴的な構造を有するステータコアの一実施形態について図11のインジェクターの構造を示す模式断面図を用いて説明する。本実施形態が第1の実施形態と異なるところは、第1凸部6dに相当する部位がコイルカバー部11に相当する部位に設置されている点にある。尚、第1の実施形態と同じ点については説明を省略する。
図11に示すように、インジェクター53はX方向に長く延在する筒状のステータコア54を備えている。ステータコア54は磁性体部としての第1磁性体部54c、非磁性体部54b及び磁性体部としての第2磁性体部54aを備えている。非磁性体部54b及び第1磁性体部54cは第1の実施形態における非磁性体部6b及び第2磁性体部6cと同様の機能と形状とを備えている。そして、非磁性体部54bの材質はチタン合金であり、第1磁性体部54c及び第2磁性体部54aの材質はフェライト系ステンレスになっている。
第1磁性体部54cは第1方向7に延在する筒状部54hと第1凸部54eを備えている。第1凸部54eは非磁性体部54b側の第1磁性体部54cに位置し、筒状部54hから半径方向に環状に突出している。第1凸部54eの材質は筒状部54hと同じ材質であり、第1磁性体部54cの筒状部54hと第1凸部54eとは一体となっている。そして、第1磁性体部54cの他の部分及び非磁性体部54bは第1の実施形態の第2磁性体部6c及び非磁性体部6bと同じであり、説明を省略する。
第2磁性体部54aは円筒状の形状となっている。第1凸部54eの第1方向7と反対側の第2磁性体部54a及び非磁性体部54bの外周側にはソレノイドコイル10が巻線されたボビン48が設置されている。ソレノイドコイル10は円環状に形成され、ボビン48の内径は非磁性体部54b及び第2磁性体部54aの外径と略同じ長さとなっている。従って、ボビン48は投入口2側からステータコア54に挿入することが可能になっている。
ボビン48の第1方向7の反対側と外周側にはコイルカバー部55が設置されている。そして、ソレノイドコイル10はステータコア54とコイルカバー部55とにより覆われている。従って、ソレノイドコイル10に通電するとき、磁束線がステータコア54とコイルカバー部55とを通る磁気回路が形成される。
ソレノイドコイル10の外周側と向き合う場所のコイルカバー部55には絶縁膜56が配置されている。このため、ソレノイドコイル10の皮膜が破れてもソレノイドコイル10とステータコア54との間で電流が流れることを防止することができる。
上述したように、本実施形態によれば、以下の効果を有する。
(1)本実施形態によれば、非磁性体部54bの材質はチタン合金である。チタン合金はオーステナイト系ステンレスより磁化率が小さく耐食性のある材料である。従って、非磁性体部54bにオーステナイト系ステンレスを用いるときより、磁束線を通し難くすることができる。また、チタンは合金にすることによりチタンより強度や耐食性を向上させることができる。従って、ステータコア54は非磁性体部54bの磁化率が小さく、チタンより強度及び耐食性を向上させることができる。
(2)本実施形態によれば、ステータコア54にソレノイドコイル10が設置されたボビン48を挿入することができる。従って、容易にステータコア54とボビン48とを組み立てることができる。
(第5の実施形態)
次に、特徴的な構造を有するステータコアの一実施形態について図12のインジェクターの構造を示す模式断面図を用いて説明する。本実施形態が第1の実施形態と異なるところは、コイルの両側面をコイルカバー部が覆う点にある。尚、第1の実施形態と同じ点については説明を省略する。
図12に示すように、インジェクター59はX方向に長く延在する筒状のステータコア60を備えている。ステータコア60は第1磁性体部60a、非磁性体部60b及び第2磁性体部60cを備えている。第1磁性体部60aは第1の実施形態における第1磁性体部6aと同様の材質であり、略同様の機能と形状とを備えている。第1磁性体部60aは第1の実施形態における第1磁性体部6aから第1凸部6dを除いた形状となっている。
非磁性体部60bは第1の実施形態における非磁性体部6bと同様な機能と形状とを備え、材質はチタン合金である。第2磁性体部60cは第1の実施形態における第2磁性体部6cと同様の材質であり、略同様の機能と形状とを備えている。第2磁性体部60cは第1の実施形態における第2磁性体部6cから第2凸部6eを除いた形状と略同じ形状となっている。
ステータコア60は円筒状の形状となっている。非磁性体部60bの外周側にはソレノイドコイル10が巻線されたボビン48が設置されている。ソレノイドコイル10は円環状に形成され、ボビン48の内径は非磁性体部60b及び第1磁性体部60aの外径と略同じ長さとなっている。従って、ボビン48を投入口2側からステータコア60に挿入することが可能になっている。
ボビン48の第1方向7の反対側と外周側にはコイルカバー部としての第1コイルカバー部61が設置されている。ボビン48の第1方向7側と第1コイルカバー部61の外周側にはコイルカバー部としての第2コイルカバー部62が設置されている。ソレノイドコイル10はステータコア60、第1コイルカバー部61及び第2コイルカバー部62により覆われている。従って、ソレノイドコイル10に通電するとき、磁束線がステータコア60、第1コイルカバー部61及び第2コイルカバー部62を通る磁気回路が形成される。
ソレノイドコイル10の外周側と向き合う場所の第1コイルカバー部61には絶縁膜63が配置されている。このため、ソレノイドコイル10の皮膜が破れてもソレノイドコイル10と第1コイルカバー部61との間で電流が流れることを防止することができる。
ステータコア60へのソレノイドコイル10の組み立ては次のように行う。まず、投入口2側からステータコア60にソレノイドコイル10が設置されたボビン48を挿入する。次に、投入口2側からステータコア60に第1コイルカバー部61を挿入し、配線13を第1コイルカバー部61の内側から外へ配置する。第1コイルカバー部61にはあらかじめ絶縁膜63が設置されている。続いて、第1方向7側からステータコア60に第2コイルカバー部62を挿入する。次に、レーザー溶接等の方法を用いて第1コイルカバー部61をステータコア60に固定する。続いてレーザー溶接、かしめ等の方法を用いて第2コイルカバー部62をステータコア60及び第1コイルカバー部61に固定する。以上の手順によりソレノイドコイル10がステータコア60、第1コイルカバー部61、第2コイルカバー部62に囲まれた構造が完成する。
上述したように、本実施形態によれば、以下の効果を有する。
(1)本実施形態によれば、非磁性体部60bの材質はチタン合金である。チタン合金はオーステナイト系ステンレスより磁化率が小さく耐食性のある材料である。従って、非磁性体部60bにオーステナイト系ステンレスを用いるときより、磁束線を通し難くすることができる。また、チタンは合金にすることによりチタンより強度や耐食性を向上させることができる。従って、ステータコア60は非磁性体部60bの磁化率が小さく、チタンより強度及び耐食性を向上させることができる。
(2)本実施形態によれば、ステータコア60にソレノイドコイル10が設置されたボビン48を挿入することができる。続いて、ボビン48を覆うように第1コイルカバー部61と第2コイルカバー部62とを容易に設置することができる。従って、ステータコア60に磁気回路を容易に構成することができる。
尚、本実施形態は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により種々の変更や改良を加えることも可能である。変形例を以下に述べる。
(変形例1)
前記第1の実施形態では、第1磁性体部6aと第2磁性体部6cとは同じ材質を用いた。第1磁性体部6aと第2磁性体部6cとは異なる材質を用いても良い。第2磁性体部6cの内面では可動子23が摺動するので硬度が高くなるように元素を加えても良い。さらに、第2磁性体部6cの内面を研削等により表面粗さを小さくしても良い。可動子23を摺動し易くすることができる。
(変形例2)
前記第1の実施形態では、ステータコア6のソレノイドコイル10側には絶縁膜9が設置された。絶縁膜9に変えて絶縁性のあるシートや板を用いても良い。設計し易い厚みに変更しても良い。厚みのあるほうが絶縁の耐圧を大きくすることができる。また、絶縁膜9を薄くするときには、ソレノイドコイル10を設置する場所の体積を大きくすることができる。これにより、可動子23に作用させる磁力を強くすることができる。
(変形例3)
前記第1の実施形態では、段差6fの極がN極となり、第2磁性体部6cの極がS極となった。そして、可動子23は段差6fに近い場所がS極に着磁され、第2磁性体部6cに近い場所がN極に着磁されていた。段差6fの極と第2磁性体部6cの極におけるN極とS極とを入れ替えても良い。そして、可動子23は段差6fに近い場所をN極に着磁し、第2磁性体部6cに近い場所をS極に着磁する。この場合でも、可動子23に同様の磁力を作用させることができる。
(変形例4)
前記第1の実施形態では、ステップS2の非磁性体部脱脂工程において成形した非磁性体部6bを加熱してバインダーを除去した。ステップS1の非磁性体部成形工程で成形した成形品が型崩れし難く、扱い易いときには、ステップS2を省略しても良い。そして、成形した非磁性体部6bを脱脂せずにステップS3の磁性体部成形工程で使用しても良い。ステップS2を削減できるので、生産性良くステータコア6を製造することができる。
(変形例5)
前記第2の実施形態では、第1成形体43aと第2成形体43bとを成形した後に第3成形体43cを成形した。第3成形体43cを成形した後で第1成形体43aと第2成形体43bとを成形しても良い。この場合にも同様に成形体43を成形することができる。製造し易い順番にて成形しても良い。また、成形順番を変えることで金型の複雑さが低減できるときには成形順番をかえて製造し易い金型にすることができる。
(変形例6)
前記第5の実施形態では、ステータコア60と第2コイルカバー部62とを別の部品として製造して組み立てた。MIM法を用いてステータコア60と第2コイルカバー部62と一体にして形成しても良い。そして、投入口2側からステータコア60にボビン48と第1コイルカバー部61とを挿入して組み立てても良い。ステータコア60と第2コイルカバー部62との間で界面が形成されないので、磁気抵抗を小さくすることができる。