しかし、上述した従来のロータリソレノイド装置(片励磁ロータリソレノイド)は、次のような解決すべき課題が存在した。
第一に、この種のロータリソレノイドでは、マグネットロータの回動範囲をトルクの比較的大きい範囲に設定する場合、その回動範囲は双安定領域となる。図7は、従来のロータリソレノイドの磁気モーメント角度対トルク特性を示す。図7に示すように、トルクの比較的大きい回動範囲として、第一位置(角度)Xfと第二位置(角度)Xs間を設定した場合、通電により、マグネットロータを第一位置Xfから第二位置Xsへ回動させた後、通電を解除しても、マグネットロータは第二位置Xsで停止した状態を維持する。結局、マグネットロータを第一位置Xfへ復帰させるには、リターンスプリング等のバネを付設し、このバネにより強制的に戻す必要がある。図8に示すMr,Rr,Sfは、従来のロータリソレノイドにバネを付設した場合の特性であり、Mrは通電時(ON時)における磁気モーメント角度対トルク特性線、Rrは通電解除時(OFF時)における磁気モーメント角度対トルク特性線、Sfはバネ自身の特性を示す。図8に示すように、バネを付設した場合、通電時には、バネの位置エネルギを蓄えながら回動することになり、特性線Mrのように、第二位置Xsに近づくに従ってトルクが大きく低下し、かつ安定した良好なトルク特性(トルク性能)を得ることができない。さらに、第二位置Xsから第一位置Xfへ戻す際にも、磁気吸引力に対し反対方向へバネにより戻すため、特性線Rrのように、通電解除時におけるマグネットロータの回動開始からのトルクが小さくなり、第一位置Xfに復帰する時間が長くなる。
なお、従来のロータリソレノイドであっても回動範囲(動作位置)を変更すれば、双安定領域を回避することができる。即ち、図7において、回動範囲を第一位置Xfeと第二位置Xse間に変更すれば、バネを付設しなくても磁気吸引力のみで復帰させることも可能である。しかし、この場合、磁気モーメントを有効に使用できないため、特に、通電開始からのトルクが大きく低下してしまう新たな問題を生じる。
第二に、ロータリソレノイド本体に対して、少なくともリターンスプリング等のバネを含むリターン機構を追加的に付設する必要があるため、無用な機械的損失を付加することになる。したがって、消費電力の増加及び動作効率の低下を招くとともに、バネの弾性がマグネットロータの動作(回動変位)に付加されるため、バネの経時的劣化(ズレやヘタリ等)により物性が変化した際には、ロータリソレノイド装置自身の性能変化を招く。しかも、部品点数が増えるため、これに伴うコストアップ,生産性低下及び大型化(省スペース性の低下)も招く。
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した片励磁ロータリソレノイドの提供を目的とするものである。
本発明に係る片励磁ロータリソレノイド1は、上述した課題を解決するため、シャフト2sに少なくとも一対の異極を有するマグネット2mを設けたマグネットロータ部2と、マグネット2mの外周面2mfに対向する内周面3pf,3qfを有し、かつ位置が固定された少なくとも一対のヨーク3p,3qを有するステータ部3と、コイルボビン4bに巻回したコイル4cによりヨーク3p,3qに磁極を発生させるコイルユニット部4とを備え、マグネットロータ部2を、コイル4cへの通電により第一位置Xfから第二位置Xsまで回動変位させ、かつ通電の解除により第二位置Xsから第一位置Xfへ復帰させる片励磁ロータリソレノイドであって、一対のヨーク3p,3qをそれぞれブロック体として一体形成し、マグネットロータ部2の通電時の回動方向Fmを前方としたときに、ヨーク3p,3qの内周面3pf,3qfにおける後端位置から前方へ、当該内周面3pf,3qfの周方向Ffの長さLm…に対して1/2以下となり、かつ当該内周面3pf,3qfとマグネット2mの外周面2mf間のギャップGr…よりも広いギャップGi…を形成する切欠状のエアギャップ形成部5p,5qを設け、他方、コイルボビン4bに設けた押圧片部13p,13qにより、一方のヨーク3pを軸方向Fsに押圧してステータ部3を構成するケーシング12の軸方向Fs両端に有する一方の端面部12sに当接させ、かつ他方のヨーク3qを軸方向Fsに押圧して他方の端面部12tに当接させるとともに、コイルボビン4bに設けた規制凸条部14p…,14q…をヨーク3p,3qの外周面3pr,3qrに当接させ、かつ当該ヨーク3p,3qの内周面3pf,3qfをシャフト2sを支持する軸受部24s,24tの外周面に当接させてヨーク3p,3qの径方向Frにおける位置決めを行う構成を備えることを特徴とする。
この場合、発明の好適な態様により、片励磁ロータリソレノイド1には、マグネットロータ部2の回動範囲Zrを第一位置Xfと第二位置Xs間に規制する規制機構11を設けることができる。
このような構成を有する本発明に係る片励磁ロータリソレノイド1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
(1) ヨーク3p,3qの内周面3pf,3qfにおける後端位置から前方への所定範囲Lpにわたって当該内周面3pf,3qfとマグネット2mの外周面2mf間のギャップGr…よりも広いギャップGi…を形成する切欠状のエアギャップ形成部5p,5qを設けたため、マグネットロータ部2に対して、トルクの比較的大きい回動範囲Zrを設定する場合であっても、通電により第一位置Xfから第二位置Xsへ回動させた後、通電を解除しても、マグネットロータ部2におけるマグネット2mの磁力は、広いギャップGi…側ではなく、狭いギャップGr…側に引き付けられることになり、磁気吸引力のみで第一位置Xfへ復帰させることができる。したがって、バネを含むリターン機構が不要になるため、第二位置Xsに近づくに従ってトルクが大きく低下する不具合を解消でき、安定した良好なトルク特性(トルク性能)を得ることができるとともに、通電解除時におけるマグネットロータ部2の回動開始からの十分なトルクを確保でき、第一位置Xfへの復帰時間が長くなる不具合も解消できる。
(2) 片励磁ロータリソレノイド1を構成するに際し、少なくともバネを含むリターン機構の付設が不要になるため、無用な機械的損失の発生を回避でき、消費電力の低減及び動作効率の向上に寄与できるとともに、バネの弾性がマグネットロータ部2の動作(回動変位)に付加されないため、バネの経時的劣化(ズレやヘタリ等)により物性が変化した際における片励磁ロータリソレノイド1自身の性能変化を回避できる。加えて、部品点数の削減によるコストダウン,生産性向上及び小型化(省スペース性の向上)にも寄与できる。
(3) エアギャップ形成部5p,5qは、内周面3pf,3qfの周方向Ffの長さLm…に対して1/2以下に選定したため、本発明に係る片励磁ロータリソレノイド1の良好なトルク特性(トルク性能)を確保する観点から望ましいパフォーマンスを確実に得ることができる。
(4) コイルボビン4bに設けた押圧片部13p,13qにより、一方のヨーク3pを軸方向Fsに押圧してステータ部3を構成するケーシング12の軸方向Fs両端に有する一方の端面部12sに当接させ、かつ他方のヨーク3qを軸方向Fsに押圧して他方の端面部12tに当接させてなるため、各ヨーク3p,3qを、対応する各端面部12s,12tに確実に圧接させ、もって、接触に伴う無用な損失増加を回避できる。
(5) コイルボビン4bに設けた規制凸条部14p…,14q…をヨーク3p,3qの外周面3pr,3qrに当接させ、かつ当該ヨーク3p,3qの内周面3pf,3qfをシャフト2sを支持する軸受部24s,24tの外周面に当接させてヨーク3p,3qの径方向Frにおける位置決めを行うようにしたため、マグネットロータ部2に対する各ヨーク3p,3qの位置決めを正確かつ容易に行うことができるとともに、各ヨーク3p,3qの固定を確実に行うことができる。
(6) 好適な態様により、マグネットロータ部2の回動範囲Zrを第一位置Xfと第二位置Xs間に規制する規制機構11を設ければ、マグネットロータ部2の回動範囲Zrを確実に規制することができる。
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
まず、本実施形態に係る片励磁ロータリソレノイド1の構成について、図1〜図5を参照して説明する。
2は、マグネットロータ部であり、シャフト2sと、このシャフト2sの中間位置に設けたマグネット2mを備える。マグネット2mは、円筒形に形成し、シャフト2sの中間位置の径方向に貫通させた断面C形のスプリングピン21に、一端側のU形係合孔が係合して回り止めされる。例示のマグネット2mは、径方向の一方がS極、他方がN極となる。これにより、シャフト2sに一対の異極(N極とS極)を有するマグネット2mを設けたマグネットロータ部2が構成される
3は、ステータ部であり、マグネット2mの外周面2mfに対向する位置に固定して配した一対のヨーク3p,3qと、ロータリソレノイド1の外郭となるケーシング12を備える。各ヨーク3p,3qとケーシング12は、磁性材により形成する。ヨーク3p,3qは、図1及び図3に示すように、周方向Ffに沿って円弧状に湾曲した形状を有し、所定の厚さを有する矩形のブロック体として焼結材等により一体形成する。また、図2及び図3に示すように、一方のヨーク3pは軸方向Fsにおける一端を平坦端面3phに形成し、他端を傾斜端面3psに形成するとともに、他方のヨーク3qも軸方向Fsにおける一端を平坦端面3qhに形成し、他端を傾斜端面3qsに形成する。
一方、上述したヨーク3p,3qの形態は基本形態である。本実施形態では、マグネットロータ部2の通電時の回動方向Fmを前方としたときに、図1及び図3に示すように、ヨーク3p,3qの磁極面となる内周面3pf,3qfにおける後端位置から前方への所定範囲Lp…にわたって、当該内周面3pf,3qfとマグネット2mの外周面2mf間のギャップGr…よりも広いギャップGi…を形成する切欠状のエアギャップ形成部5p,5qをそれぞれ設けた。エアギャップ形成部5p,5qの所定範囲Lp…としては、内周面3pf,3qfの周方向Ffの長さLm…に対して1/2以下に選定する。これにより、本発明に係る片励磁ロータリソレノイド1の良好なトルク特性(トルク性能)を確保する観点から望ましいパフォーマンスを確実に得ることができる。
なお、このようなエアギャップ形成部5p,5qの形状及び形態は、任意に実施可能である。図1及び図3に例示したギャップGi…は、内周面3pf,3qfの後端位置から前方へ同一幅に形成したが、その他、図4(a)に示すように、内周面3pf,3qfの後端位置から前方へ行くに従って、ギャップGi…の幅が漸次狭くなる形状に形成してもよいし、図4(b)に示すように、エアギャップ形成部5p,5qの空間に対して、他の異なる素材により形成した充填部材5ps,5qsを収容した形態により構成してもよい。このように、エアギャップ形成部5p,5qは、片励磁ロータリソレノイド1の特性や用途等に合わせて任意の形状及び形態により実施できる。
他方、ケーシング12は、図2に示すように、一端に端面部12tを一体に有する円筒状のケーシング本体部12mと、このケーシング本体部12mの他端口を閉塞する平盤状のカバー部12cの組合わせにより構成する。これにより、カバー部12cは、ケーシング本体部12mの他端口を閉塞する部位が端面部12sとなり、この端面部12sよりも外側が取付部23,23となる。また、一方の端面部12sの中央にはシャフト2sの前側を回動自在に支持する軸受部24sを固定するとともに、他方の端面部12tの中央にはシャフト2sの後側を回動自在に支持する軸受部24tを固定する。
4は、コイルユニット部であり、合成樹脂素材により一体形成したコイルボビン4bとこのコイルボビン4bにマグネットワイヤWを巻回して構成したコイル4cを備える。これにより、コイル4cへの通電により、ヨーク3p,3qに磁極(S極,N極)を発生させることができる。コイルボビン4bは、図1及び図2に示すように、筒状のボビン本体部25と、このボビン本体部25の両端に一体形成した鍔状(フランジ状)のボビンバリア部26s,26tを備える。また、ボビン本体部25の内周面における180〔゜〕対向位置は、各ヨーク3q,3pをそれぞれ保持するヨーク仮保持部となる。この場合、ボビン本体部25の内周面から突出形成し、かつ180〔゜〕対向位置に配した一対の規制凸部31,32の両側がそれぞれヨーク仮保持部となり、各規制凸部31,32の両側に各ヨーク3q,3pがそれぞれ仮保持される。なお、各ヨーク3q,3pに対する正規の位置決めは、軸受部24s,24tの周面に形成した段差等に対して、各ヨーク3q,3pの周方向一端とエアギャップ形成部5p,5qの段差を係止させ、各ヨーク3q,3pの周方向Ffの位置を規制(位置決め)している。
さらに、規制凸部31,32間におけるボビン本体部25の内周面には、各ヨーク3p,3qを軸方向Fsに押圧して各端面部12s,12tにそれぞれ当接(圧接)させる押圧片部13p,13qをそれぞれ設けるとともに、ヨーク3p,3qの外周面3pr,3qrに当接(圧接)して当該ヨーク3p,3qの径方向Frにおける位置決めを行う規制凸条部14p…,14q…をそれぞれ設ける。
一方の押圧片部13pは、ボビン本体部25の一端側(一方のボビンバリア部26s側)における内周面から直角に突出する突出片部28pとこの突出片部28pの中央からボビンバリア部26sに至る複数のリブ状の加圧片部29p…からなる。これにより、ヨーク3pを傾斜端面3ps側から規制凸部31と32間における一方のヨーク仮保持部内に挿入すれば、図2に示すように、傾斜端面3psに突出片部28pの先端縁が当接する。この際、ヨーク3pの平坦端面3phがボビン本体部25におけるボビンバリア部26sから僅かに突出するように、上述したヨーク3pの軸方向Fsの長さを選定すればよい。また、他方の押圧片部13qは、ボビン本体部25の他端側(他方のボビンバリア部26t側)における内周面から直角に突出する突出片部28qとこの突出片部28qの中央からボビンバリア部26tに至る加圧片部29qからなり、上述した押圧片部13p側と同様に構成する。
他方、規制凸部31と32間における一方のヨーク仮保持部におけるボビン本体部25の内周面には、離間した一対の規制凸条部14p,14pを一体形成する。これにより、ヨーク3pを、規制凸部31と32間における一方のヨーク仮保持部に挿入すれば、規制凸条部14p…がヨーク3pの外周面3prに当接し、ヨーク3pに対して径方向Frの位置決めを行うことができる。また、規制凸部31と32間における他方のヨーク仮保持部におけるボビン本体部25の内周面には、離間した一対の規制凸条部14q,14qを一体形成する。これにより、ヨーク3qを、規制凸部31と32間における他方のヨーク仮保持部に挿入すれば、規制凸条部14q…がヨーク3qの外周面3qrに当接し、ヨーク3qに対して径方向Frの位置決めを行うことができる。
本実施形態に係る片励磁ロータリソレノイド1は、次のように組立てることができる。まず、コイルボビン4bにコイル4cを巻回したコイルユニット部4を用意し、コイルボビン4bにおける規制凸部31と32間における両側のヨーク仮保持部に各ヨーク3p,qをそれぞれ装着する。即ち、一方のヨーク3pは規制凸部31と32間における一方のヨーク仮保持部に挿入する。この際、ヨーク3pの傾斜端面3ps側をボビンバリア部26s側から挿入する。また、他方のヨーク3qは規制凸部31と32間における他方のヨーク仮保持部に挿入する。この際、ヨーク3qの傾斜端面3qs側をボビンバリア部26t側から挿入する。これにより、図2に示すように、ヨーク3pの傾斜端面3psが突出片部28pの先端縁に当接するとともに、ヨーク3pの外周面3prが規制凸条部14p…に当接し、他方、ヨーク3qの傾斜端面3qsが突出片部28qの先端縁に当接するとともに、ヨーク3qの外周面3qrが規制凸条部14q…に当接する。
次いで、ヨーク3p,3qを装着したコイルユニット部4を、図2に示すように、ケーシング本体部12mの内部に収容するとともに、さらに、マグネットロータ部2をボビン本体部25の内部に収容し、シャフト2sの後側をケーシング本体部12mに固定した軸受部24tに挿通させることにより、マグネット2mをヨーク3pと3q間に位置させる。また、カバー部12cをケーシング本体部12mの他端口の縁部に装着し、当該他端口を閉塞する。この際、シャフト2sの前側をカバー部12cに予め固定した軸受部24sに挿通させる。そして、ケーシング本体部12mの他端口の縁部に一体形成した複数の押止片(不図示)を略直角に折曲してカバー部12cを押さえ、ケーシング本体部12mとカバー部12cを一体化させる。
ところで、ヨーク3pの平坦端面3phは、ボビン本体部25のボビンバリア部26sから僅かに突出させているため、ケーシング本体部12mにカバー部12cを固定した際には、ヨーク3pは端面部12tにより押圧され、平坦端面3phは、ボビンバリア部26sの位置まで押し込まれ、押圧片部13pにおける突出片部28pの先端縁に傾斜端面3psが圧接する。この際、傾斜端面3psの圧接により、ヨーク3pは、シャフト2s側にも押圧され、ヨーク3pの内側面が軸受部24tの外周面にも圧接する。また、ヨーク3q側においても同様の作用が生じ、ヨーク3qは端面部12sにより押圧され、平坦端面3qhは、ボビンバリア部26tの位置まで押し込まれ、押圧片部13qにおける突出片部28qの先端縁に傾斜端面3qsが圧接するとともに、ヨーク3qの内側面は軸受部24sの外周面にも圧接する。このように、コイルボビン4bには、ヨーク3p,3qを軸方向Fsに押圧して端面部12s,12tに当接させる一対の押圧片部13p,13qをそれぞれ設けたため、各押圧片部13p,13qにより各ヨーク3p,3qを押圧できる。この結果、各ヨーク3p,3qを、対応する各端面部12s,12tに確実に圧接させることができ、もって、接触に伴う無用な損失増加を回避できる。
さらに、ヨーク3pの外周面3prは、二つの規制凸条部14p…に当接(圧接)するとともに、ヨーク3pの内周面3pfは、軸受部24s,24tの外周面に当接(圧接)して径方向Frの位置決めが行われる。また、ヨーク3q側においても同様の作用が生じ、ヨーク3qの外周面3qrは、二つの規制凸条部14q…に当接(圧接)するとともに、ヨーク3qの内周面3qfは、軸受部24s,24tの外周面に当接(圧接)して径方向Frの位置決めが行われる。このように、コイルボビン4bには、ヨーク3p,3qの外周面3pr,3qrに当接して当該ヨーク3p,3qの径方向Frの位置決めを行う規制凸条部14p…,14q…をそれぞれ設けたため、マグネットロータ部2に対する各ヨーク3p,3qの位置決めを正確かつ容易に行うことができるとともに、各ヨーク3p,3qの固定を確実に行うことができる。
以上の工程を経て本実施形態に係る片励磁ロータリソレノイド1を組立てることができる。他方、以上の工程を経て得られた片励磁ロータリソレノイド1は、実質的にはロータリソレノイド本体を構成するため、片励磁ロータリソレノイド1を使用するに際しては、マグネットロータ部2の回動範囲Zrを第一位置Xfと第二位置Xs間に規制する規制機構11を設ける。この場合、規制機構11としては、図5に示すように、外部に突出したシャフト2sにレバー状の係合部41を固定するとともに、片励磁ロータリソレノイド1の外部に、第一位置Xfに対応した第一ストッパ部42fと第二位置Xsに対応した第二ストッパ部42sをそれぞれ固定して配することにより、規制機構11を構成する。これにより、マグネットロータ部2の回動範囲Zrを確実に規制することができる。
次に、本実施形態に係る片励磁ロータリソレノイド1の全体動作について、図5〜図8を参照して説明する。
図6は本実施形態に係る片励磁ロータリソレノイド1の磁気モーメント角度対トルク特性を示す。今、係合部41は、図5(a)に示すように、第一位置Xf側に位置し、第一ストッパ部42fに当接した状態にあるものとする。この場合、通電は解除されているが、マグネット2mの磁極は、それぞれ対面(対向)するヨーク3p,3q間の磁気吸引力により吸引されて位置が保持されている。このときのトルクは、図6中、特性線Riの第一位置(角度)Xfにおけるトルクとなり、概ね−0.05〔Nm〕である。したがって、係合部41は、第一ストッパ部42fに当接し、かつ0.05〔Nm〕のトルクで圧接している。
一方、この状態において、コイル4cに通電すれば、各ヨーク3p,3qに、図5(b)に示す磁極(S極,N極)がそれぞれ発生する。これにより、異極同士は吸引し、同極同士は反発するため、マグネットロータ部2は、図中、時計方向(回動方向Fm)に回動変位し、係合部41は、第二ストッパ部42sに係止する図5(b)の位置で停止する。通電時(ON時)のトルクは、図6に示す特性線Miに沿って変化する。また、係合部41が第二ストッパ部42sに係止するトルクは、図6中、特性線Miの第二位置(角度)Xsにおけるトルクとなり、概ね0.13〔Nm〕である。したがって、係合部41は第二ストッパ部42sに当接し、かつ0.13〔Nm〕のトルクで圧接している。
他方、この状態でコイル4cに対する通電を解除すれば、各ヨーク3p,3qにおける磁極は消失する。これにより、マグネットロータ部2におけるマグネット2mの磁極は、それぞれ対面(対向)するヨーク3p,3q間の磁気吸引力により吸引されることにより、図中、反時計方向に回動変位、即ち、係合部41が第二ストッパ部42sから第一ストッパ部42f側に回動変位し、係合部41が第一ストッパ部42fに係止する図5(a)の位置に復帰して停止する。通電解除時(OFF時)のトルクは、図6に示す特性線Riに沿って変化する。また、通電を解除した時点におけるトルクは、図6中、特性線Riの第二位置(角度)Xsにおけるトルクとなり、概ね−0.7〔Nm〕である。したがって、0.7〔Nm〕のトルク(磁気吸引力)によりマグネットロータ部2の回動が開始し、第一位置Xf側に戻される。即ち、マグネットロータ部2におけるマグネット2mの磁力は、広いギャップGi…側ではなく最も狭いギャップGr…側に引き付けられることになり、磁気吸引力のみで第一位置Xfへ復帰させることができる。
図8は、本実施形態に係る片励磁ロータリソレノイド1と従来技術に係る片励磁ロータリソレノイドを対比して示す磁気モーメント角度対トルク特性を示している。Mi,Riは、本実施形態に係る片励磁ロータリソレノイド1の特性線を示し、Miは通電時(ON時)、Riは通電解除時(OFF時)である。したがって、基本的には、図6に示した特性線Mi,Riと同じである。一方、Mr,Rrは、従来技術に係る片励磁ロータリソレノイドの特性線を示し、Mrは通電時(ON時)、Rrは通電解除時(OFF時)である。また、Sfはバネ自身の特性を示す。なお、例示する従来技術に係る片励磁ロータリソレノイドは、エアギャップ切欠部が無くかつバネ付のタイプであるが、従来製品の意味であって全体のソレノイド特性(ディメンション)は異なる。
前述したように、従来の片励磁ロータリソレノイドでは、トルクが比較的大きくなる回動範囲を設定しようとする場合、その回動範囲は双安定領域となるため、通電を解除した際にマグネットロータを第一位置Xfまで戻すには、リターンスプリング等のバネにより強制的に戻す必要がある。この結果、通電時には、バネの位置エネルギを蓄えながら回動することになり、特性線Mrで示すように、第二位置Xsに近づくに従ってトルクが大きく低下し、良好なトルク特性(トルク性能)を得ることができない。また、第一位置Xfまで戻す際には、回動方向Fmにおける磁気吸引力に抗して、バネにより戻す必要があるため、特性線Rrのように、通電解除時におけるマグネットロータの回動開始からのトルクが小さくなり、第一位置Xfに復帰する時間が長くなる。
これに対して、本実施形態に係る片励磁ロータリソレノイド1では、特性線Miで示すように、通電時のトルクは全領域において、0.1〔Nm〕以上の安定した大きさを確保するとともに、特性線Riで示すように、通電解除時のトルクも−0.1〔Nm〕前後の比較的安定した大きさを確保している。そして、これらの特性(Mi,Ri)は、復帰用のバネを付設すること無しで得ることができる。
このように、本実施形態に係る片励磁ロータリソレノイド1によれば、ヨーク3p,3qの内周面3pf,3qfにおける後端位置から前方への所定範囲Lpにわたって当該内周面3pf,3qfとマグネット2mの外周面2mf間のギャップGr…よりも広いギャップGi…を形成する切欠状のエアギャップ形成部5p,5qを設けたため、マグネットロータ部2に対して、トルクの比較的大きい回動範囲Zrを設定する場合であっても、通電により第一位置Xfから第二位置Xsへ回動させた後、通電を解除しても、マグネットロータ部2におけるマグネット2mの磁力は、広いギャップGi…側ではなく、狭いギャップGr…側に引き付けられることになり、磁気吸引力のみで第一位置Xfへ復帰させることができる。したがって、バネを含むリターン機構が不要になるため、第二位置Xsに近づくに従ってトルクが大きく低下する不具合を解消でき、安定した良好なトルク特性(トルク性能)を得ることができるとともに、通電解除時におけるマグネットロータ部2の回動開始からの十分なトルクを確保でき、第一位置Xfへの復帰時間が長くなる不具合も解消できる。また、片励磁ロータリソレノイド1を構成するに際し、少なくともバネを含むリターン機構の付設が不要になるため、無用な機械的損失の発生を回避でき、消費電力の低減及び動作効率の向上に寄与できるとともに、バネの弾性がマグネットロータ部2の動作(回動変位)に付加されないため、バネの経時的劣化(ズレやヘタリ等)により物性が変化した際における片励磁ロータリソレノイド1自身の性能変化を回避できる。加えて、部品点数の削減によるコストダウン,生産性向上及び小型化(省スペース性の向上)にも寄与できる。
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
例えば、片励磁ロータリソレノイド1の基本形態は、図1〜図5に示した形態に限定されるものではなく、ステータ部3の形態やコイルユニット部4の形態は、同様の機能を有する各種形態により実施できる。一方、一対の異極は、二極に限定されるものではなく、四極や六極など、その極数は限定されない。また、規制機構11は、同様の機能を有する公知の各種形態の規制機構を利用できるとともに、例示の規制機構11は、片励磁ロータリソレノイド1の外部に付設した形態であるが、片励磁ロータリソレノイド1の内部、即ち、ケーシング12の内部に設けてもよい。