以下、本発明の実施形態に係る越水防止装置を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る越水防止装置が、堤防の天端に設置されている様子を示した斜視図である。また、図2は、図1中の矢視II−IIで示した本発明の第1の実施形態に係る越水防止装置の断面図である。なお、越水防止装置20は、堤防10の天端に沿った所定の区間に設置されるが、図1では図面の都合上、越水防止装置20が設置された堤防10の一部区間のみを図示している。
図1に示すように、河川15の両岸には、コンクリート製の堤防10が築造され、洪水による氾濫や陸域の侵食の防止が図られている。この堤防10は、例えば、天端の幅が狭く、法面の勾配が大きい堤防(所謂カミソリ堤)である。本実施形態に係る越水防止装置20は、このような堤防10の越水を防止するために好適な装置である。
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る越水防止装置20は、堤防10の天端に回動可能に取り付けられたデッキ21と、デッキ21に立設された防護柵22と、デッキ21の下面に取り付けられたフロート23と、デッキ21を堤防10の法面から支持する支持材24とを有している。なお、越水防止装置20は、河川15の天端に沿って複数個が連続して配列されている。
デッキ21は、例えば間伐材等から形成された矩形状のウッドデッキであり、堤防10の天端から河川15側へ略水平に張り出すように設置されている。図2に示すように、デッキ21の堤防10側の一辺は、堤防10に固定されたデッキ回動ピース25に回動可能に接続されている。これにより、デッキ21はデッキ回動ピース25を中心に回動することができる。なお、河川15に洪水の恐れがない時(以下、平常時と記す)、デッキ21は堤防10の天端を実質的に拡幅する。そして、デッキ21の上面は滑り止めの塗料が塗布されており、デッキ21は人々が散歩をするための遊歩道として利用することができる。このように、本実施形態に係る越水防止装置20を設置することで、河川15沿いに散歩等に供することができる空間を形成することができ、人々に河川に親しむ機会を与えることができる。
防護柵22は、例えば間伐材等の木材が格子状に組まれて形成されている。防護柵22は、デッキ21の河川15側の縁に沿って立設されており、歩行者のための手すりや転落防止用の柵として利用される。
フロート23は、例えば角柱状に形成された発泡スチロールから構成されており、デッキ21の下面に取り付けられている。河川15の増水によりフロート23の一部が浸水すると、フロート23に浮力が作用する。フロート23は、この浮力によりデッキ21を上方に押上げ、デッキ21をデッキ回動ピース25を中心に回動させる。なお、河川15の流水によるフロート23の破損を防止するためや、耐候性を向上させるために、フロート23の外周面を、合成樹脂製カバーまたはガラス繊維補強樹脂カバー等で覆って保護することも好ましい。
支持材24は、デッキ21を堤防10の法面から支持し、堤防10の天端から張り出したデッキ21の水平状態を保持する。そのため、支持材24は、比較的高強度の材料から構成されることが望ましく、例えば型鋼から構成されている。支持材24の一端は、堤防10の法面に取り付けられた支持材回動ピース26に回動可能に取り付けられている。また、支持材24の他端は、デッキ24に取り付けられた固定ピン27に脱着可能に取り付けられている。そして、河川15の水量が著しく増加した時(以下、洪水時と記す)、越水防止装置20の管理者は、デッキ21に形成された支持フレーム脱着用の開口21a(図1)に手を挿入し、支持材24を固定ピン27から取り外す。これにより、デッキ21の回動を抑制していた支持材24との連結状態が解除され、デッキ21はデッキ回動ピース25を中心に回動することができる。
また、図2に示すように、堤防10とデッキ21との間に形成された隙間には、例えばゴム材料から形成された防水パッキン28が挿入されている。この防水パッキン28は、堤防10とデッキ21との隙間から生じる漏水を抑制する。
なお、前述したように越水防止装置20は、河川15の天端に沿って複数個が連続して配列されている。これら複数の越水防止装置20が一体で河川15の越水を防止するために、隣り合う越水防止装置20は種々の接続材で接続されている。次にこれらの接続材について、図3を用いて説明する。図3は本発明の第1の実施形態に係る越水防止装置の接続部を示す図で、(a)は図1中の“III”で示す部分の拡大斜視図、(b)は図3(a)中の矢視b−bで示した側面図、(b´)は図3(b)で示した接続部の他の例を示した側面図である。
図3(a)に示すように、越水防止装置20の上面には、隣り合う越水防止装置20を接続する水密板29が取り付けられている。水密板29は、例えばゴム材料から構成され、隣り合う越水防止装置20の隙間から河川水が流出するのを防止する。
また、図3(b)に示すように、デッキ21の上面には、水密板29に覆われるように、隙間をあけて隣り合う越水防止装置20を連結する連結材30が取り付けられている。連結材30は、隣接する越水防止装置20間で生じるねじれ等を抑制し、複数の越水防止装置20が一体で機能するように、越水防止装置20間を強固に連結する。そのため、連結材は比較的高強度の線材等の材料から構成されるのが好ましく、例えばワイヤやチェーン等から構成されている。なお、図3(b)に示すように、水密板29は、連結材30に比べて、越水防止装置20の接続方向(図3(b)中の左右方向)に撓んだ状態で取り付けられている。そのため、隣り合う越水防止装置20間に生ずるねじれ等により発生する力は、大部分が連結材30の引張作用により受け持たれ、水密板29にはほとんど作用しない。これにより、水密板29の損傷を防止し、水密板29による防水効果を維持することができる。なお、水密板29及び連結材30を、デッキ21の下面に取り付けても同様の効果が得られることは言うまでもない。
また、水密板29及び連結材30の機能を一つの部材により実現してもよい。例えば、図3(b´)に示すように、水密板29による防水機能、及び連結材30による連結機能を兼ね備えた水密板29´を用いて、隣り合う越水防止装置20を接続してもよい。このような水密板29´は、ある程度の伸縮性と引張強度を有する材料から構成されるのが好ましく、例えば硬質のゴム材料等から構成されている。
また、デッキ21を遊歩道として利用する人々にとって、防護柵22は手摺としても利用できることが好ましい。そのため、図3(a)に示すように、隣り合う防護柵22を伸縮継手31で接続して、防護柵22の連続性が確保されている。伸縮継手31は、例えばその中央部が蛇腹状に形成された継手である。
次に、本発明の第1の実施形態に係る越水防止装置20の具体的な動作について図4を用いて説明する。図4は、本発明の第1の実施形態に係る越水防止装置が越水を防止している様子を動作順((a)〜(d))に示した断面図である。なお図4は簡略化のため、片側の堤防10に設置された越水防止装置20のみを示している。
図4(a)は、平常時の越水防止装置20の断面図を示している。図に示すように、河川15の水面はフロート23の下方にあり、デッキ21は堤防10の天端から河川15側に張り出した状態で支持材24により支持されている。
図4(a)に示した状態から、河川の流量が増加し洪水の恐れがあると判断されると、管理者は支持材24の一端を固定ピン27から取り外す。そして、図4(b)に示すように、フロート23の一部が河川15に浸水すると、フロート23に浮力が作用する。フロート23は、作用した浮力によりデッキ21を上方に押上げる。これにより、デッキ21はデッキ回動ピース25を中心に回動する。
図4(b)に示した状態から、さらに河川15の流量が増加すると、フロート23は河川15の流量の増加に伴い上昇し、デッキ21をさらに回動させる(図4(c))。図4(c)に示した位置までデッキ21が回動すると、デッキ21には図中矢印で示す方向に静水圧が作用する。この静水圧は、デッキ21の回動を促進させる方向に力を作用させる。すなわち、フロート23に浮力が作用する初期の段階でデッキ21を回動させることができれば、その後は静水圧の作用によりデッキ21の回動は促進されることになる。
図4(c)に示した状態からさらに河川15の流量が増加すると、やがて図4(d)に示すように、デッキ21は略鉛直の姿勢になるまで立ち上がる。すなわち、越水防止装置20は、最大でデッキ21の幅分だけ堤防10の天端に立ち上がらせることができる。なお、デッキ21が略鉛直の姿勢になった状態で回動が止まるように、デッキ回動ピース25には図示しないストッパが形成されている。
次に、本発明の実施形態に係る越水防止装置20が奏する効果について説明する。
平常時に、堤防10の天端から河川15側へ略水平にデッキ21を張り出させることにより、堤防10の天端が実質的に拡幅される。このように拡幅された天端は人々が散歩をするための遊歩道として利用したり、災害時における避難路または輸送路として利用することができる。このように、河川15沿いに散歩等に利用することができる空間を形成して人々に河川15に親しむ機会を与えることができるとともに、災害時の救援や復興に役立てることができる。
また、本実施形態に係る越水防止装置20は、浮力を受けて上昇するフロート23がデッキ21を上方に押上げて堤防10の天端に起立させることで、越水防止機能を発揮する。そのため、特別な動力源や装置を必要とせず、デッキ21と支持材24との連結状態を解除するだけで、越水防止機能を発揮させることができる。これにより、洪水時に迅速に越水防止装置20の越水防止機能を作動させることができる。
また、上述したように、隣り合う越水防止装置20を、水密板29、連結材30、及び伸縮継手31で接続している。これにより、隣り合う越水防止装置20間からの漏水を防止することができるとともに、越水防止装置20間に生じるねじれを抑制することができる。
また、洪水時に、越水防止装置20は堤防10の天端に起立するため、起立した越水防止装置20を視認した人は、河川15の水位が高いレベルにあると認識することができる。そのため、越水防止装置20の回動状況を確認することで、前もって洪水の危険性を察知することができ安全な場所に避難することができる。なお、本実施形態に係る越水防止装置20は、デッキ21の上面に防護柵22が立設されているため、防護柵22が最も視認しやすくなる。そのため、堤防10の天端が目線よりも上方にある場合においても、防護柵22の回動状況を確認することができれば、河川15の状態を把握することが可能である。
また、フロート23が河川15から浮力を受けて浮いた状態にある場合、越水防止装置20は河川15の流れの影響により大きく揺動する。そこで、越水防止装置20に鈴などの揺動により音を発生させる器具を取付けておくことで、周辺の人々に河川の水位が高いレベルにあることを知らせることができる。なお、フロート23の寸法(例えばフロート高さh等)や配置、デッキ21や防護柵22の重量等を、越水防止装置20の設計条件に適切に組み入れることで、河川15の水位レベルと越水防止装置20の回動状況とを関連付けておくことが好ましい。そして、越水防止装置20の動作を周知させておくことで周辺住民の洪水に対する意識レベルを高めることができる。
ところで、上記実施形態では、支持材24の一端が固定ピン27に脱着可能に取り付けられた越水防止装置20について説明した。しかしながら、支持材24の取り付け方法は、上述の形態に限定されるものではない。図5は、本発明の第2の実施形態に係る越水防止装置が越水を防止している様子を動作順((a)〜(c))に示した断面図である。なお、本実施形態に係る越水防止装置40は、支持材24´と支持材24´と取り合う固定ピン27´の構成が上記実施形態の越水防止装置20と異なっており、他の構成は同じである。そのため、図5においては、上記実施形態に係る越水防止装置20と同様の部品については同じ符号を付している。また、本実施形態に係る越水防止装置40を説明するにあたり、上述の第1の実施形態に係る越水防止装置20と異なる点を中心に説明する。
図5(a)に示すように、堤防10の天端から水平に張り出したデッキ21の裏面には、例えば丸鋼をUの字状に加工した固定ピン27´が取り付けられている。この固定ピン27´と取り合う支持材24´の一端には、Uの字状に切りかかれた凹部24aが形成されている。そして、固定ピン27´が支持材24´の凹部24´aに差し込まれることで、デッキ21は支持材24´により水平に支持されている(図5(a))。
図5(a)に示した状態から河川15の流量が増加していくと、やがて河川15の水面がフロート23に達し、フロート23に浮力が作用する。フロート23は、浮力によりデッキ21を上方に押上げ、デッキ21をデッキ回動ピース25を中心に回動させる(図5(b))。なお、固定ピン27´は、支持材24´に形成された凹部24´aに挿入されているだけであるため、デッキ21の回動に伴って徐々に凹部24´から抜け出てくる。そして、さらに越水防止装置40の回動量が大きくなると、固定ピン27´は凹部24´から完全に抜け出すことになる(図5(c))。
このように、本実施形態に係る越水防止装置40では、越水防止装置40の回動により、支持材24´と固定ピン27´との接続状態が自動的に解除される。そのため、洪水時に予め支持材24´と固定ピン27´との接続状態を解除しておくという作業が不要となる。なお、平常時において越水防止装置40の振動等により凹部24´aから固定ピン37´が抜け落ちないように、凹部24´aの深さは十分に確保しておくのがよい。
また、上述した実施形態では、堤防10の法面に接続された支持材24,24´を用いて、堤防10の天端から張り出したデッキ21を支持する構成について説明したが、本発明はこのような形態に限定されるものではない。次に、デッキ21を支持するための他の方法について図6を参照して説明する。図6は、本発明の第3の実施形態に係る越水防止装置が越水を防止している様子を動作順((a)〜(b))に示した断面図である。なお、本実施形態に係る越水防止装置50に関しても、上述した形態と異なる点を中心に説明する。
図6(a)に示すように、デッキ21は、デッキ回動ピース25に回動可能に接続されるとともに、堤防10の天端に形成された台座32に支持されて、天端から河川15側へ略水平に張り出している。台座32は、例えば鉄筋コンクリート製で、堤防10の天端の縁に沿うように突出して形成されている。なお、平常時における越水防止装置20に作用する断面力を低減するために、デッキ回動ピース25と台座32との間の距離は可能な限り大きくとるのがよい。そのため、図6(a)に示すように、デッキ回動ピース25は堤防10の天端の端部近傍(図6(a)中の右側)に配置されている。
図6(a)に示した状態から河川15の流量が増加すると、やがて河川15の水面がフロート23に達し、フロート23に浮力が作用する。フロート23は、作用した浮力によりデッキ21を押し上げ、デッキ21をデッキ回動ピース25を中心に回動させる(図6(b))。なお、デッキ21は、天端に形成された台座32には固定されていないため、河川15の水面の上昇に伴い自動的に回動する。
本実施形態に係る越水防止装置50では、デッキ21を支持するための支持部材の設置が不要となるため、越水防止装置20の製造コストの低減を図ることができる。また、作動した越水防止装置50を再び設置する場合に、起立した越水防止装置を回動させて元の状態(平常時の状態)に戻すだけでよい。そのため、越水防止装置50を設置するための労力を低減することができる。
次に、本発明の第4の実施形態に係る越水防止装置について説明する。図7は、本発明の第4の実施形態に係る越水防止装置が越水を防止している様子を動作順((a)〜(c))に示した断面図である。本実施形態に係る越水防止装置60は、デッキ21を支持するブラケット61が堤防10に取り付けられている点と、堤防10の天端とデッキ21の上面との間に段差Hが形成されている点とに特徴がある。
ブラケット61は、アンカーボルト62により堤防10の法面に取り付けられ、平常時に略水平方向に張り出したデッキ21を支持する。ブラケット61は、河積の減少を抑制するため、内部が空洞になるように例えばL型鋼等の型鋼により枠体状に形成されている。なお、ブラケット61は、デッキ21の配列方向(堤防10に沿った方向)に連続させて形成してもよいし、所定の間隔毎に堤防10に取り付けてもよい。
次に、越水防止装置60の動作について説明する。図7(a)に示すように平常時、デッキ21は、堤防10から略水平に張出した状態でブラケット61に支持されている。そして、図7(a)に示した状態から河川15の流量が増加していくと、やがて河川15の水面がフロート23に達し、デッキ21はデッキ回動ピース25を中心に回動する(図7(b))。なお、デッキ21はブラケット61に固定されていないため、河川15の水位の上昇とともに自動的にデッキ回動ピース25を中心に回動することができる。
さらに、図7(b)に示した状態から河川15の水位が上昇すると、やがて図7(c)に示すように、デッキ21は略鉛直の姿勢になるまで立ち上がる。この時、デッキ21は、前述の段差Hの形成部に設けられた防水パッキン28に当接することで、その回動が制限される。これにより、デッキ回動ピース25に設けられたストッパ(不図示)に作用する力は軽減され、ストッパの破損が防止される。
次に、本発明の第5の実施形態に係る越水防止装置70について説明する。図8は、第5の実施形態に係る越水防止装置の断面図を示しており、(a)は平常時における越水防止装置、(b)は洪水時における越水防止装置を示している。また、図9は、第5の実施形態に係る越水防止装置の斜視図である。なお、越水防止装置を施工するにあたっては、多数基の越水防止装置70が堤防に沿って配設されるが、図9においては、そのうちの隣接する2基(1基ごとの防水板の分かれ目は防水板が分断されている箇所)の越水防止装置70に着目している。
上述した実施形態に係る越水防止装置では、デッキ21(例えば図1)により河川15の堤防を越えようとする水をせき止めていた。一方、本実施形態に係る越水防止装置70は、フレーム71の下面(歩行者が歩行する面とは反対側の面)に取り付けられた防水板72と防水膜73とにより河川の水をせき止める。なお、本実施形態に係る越水防止装置70は、上述した実施形態に係る越水防止装置と共通する点も多いため、異なる構成を中心に説明するものとする。
図8、9に示すように、本実施形態に係る越水防止装置70は、敷板95と、敷板95を支持するフレーム71と(敷板95とフレーム71とで上述の実施形態のデッキ21(例えば図1)に相当する)、フロート23と、ブラケット75と、越水防止装置70の回動量を制限するストッパ74と、河川の水をせき止める防水板72及び防水膜73とを備えている。
敷板95は、矩形状に形成された、例えば熱可塑性木質複合木材(商品名:アイン・スーパーウッド、東播商事株式会社製)から構成されている。この熱可塑性木質複合木材は、不用木材や廃プラスチックなどの廃棄物を分解、元の素材を再現し、微粉化された木粉と混合・溶解させて再生させた木材である。敷板95は、第1の実施形態に係る越水防止装置のものと同様、散歩をするための歩道等として利用される。
フレーム71は、例えば溝形鋼が格子状に組まれて形成されており、敷板95の下面を支持する。フレーム71は、その一辺に沿ってデッキ回動ピース25が取り付けられており、このデッキ回動ピース25を中心に回動する。なお、デッキ回動ピース25は、フレーム71が上下にばたつくことを制限するためにラチェット構造とすることもできる。
フロート23は、上記実施形態と同様に発泡スチロールから形成されている。フロート23は、例えばガラス繊維強化プラスチック(GFRP)製のカバー78で覆われ、このカバー78が、ボルト等の固定具を介して防水板72に取り付けられ、フロート23が保持されている。また、フロート23は、フレーム71に取り付けられた複数のアイボルト(不図示)に掛渡されたベルト等(図示せず)により吊持されてもよい。
ブラケット75は、例えばH形鋼から形成され、堤防10の法面に取り付けられてフレーム71等を支持する。
ストッパ74は、図8(b)に示すように、越水防止装置が平常時の状態から所定量回動した際に、越水防止装置70の側面と当接して越水防止装置70の回動を制限する。越水防止装置70は、その側面がストッパ74と当接するとそれ以上は回動することができない。すなわち、図8(b)に示した状態は、越水防止装置70が最も起立した状態を示している。越水防止装置70は、図8(b)に示した状態から河川の水位が低下していくと、最も起立した状態から自動的に倒伏して平常時の状態に戻ることができる。なお、ストッパ74の越水防止装置70と当接する面は、例えば合成ゴム等から形成されている。
防水板72は、例えば、矩形状の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)から形成されており、1基の越水防止装置70毎にフレーム71の下面に1枚取り付けられている。防水板72は、図8、9に示すように、堤防に沿う方向における幅がフレーム71と略同一で、堤防10に沿う方向と直交する方向における幅は、フレーム71よりも狭い寸法に設定されている。このような防水板72は、一辺が、フレーム71の先端側(越水防止装置70が張出した側)の辺に略一致し、複数のボルト72aによりフレーム71に固定されている。なお、防水板72は、CFRPの他、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、ポリプロピレンハニカムプレート等、軽量で耐水圧が15.5KN/m2程度有するものから形成することができる。
防水膜73は、例えば、ポリエステル基布に塩化ビニル樹脂をコーティングした布地(商品名:ウルトラマックス、平岡織染株式会社製)から形成されている。防水膜73は、複数の越水防止装置70に対応する大きさの布地から形成されており、一枚の布地が複数の越水防止装置70にわたって取り付けられている。図9に示すように、防水膜73は、一部が堤防10の法面にかかり、平鋼(不図示)等があてがわれてアンカーボルト(不図示)等により堤防10の法面に固定されている。また防水膜73は、ブラケット75の上面で折り返された状態で、ボルト75aによりブラケット75の上面に固定されている。ブラケット75上で折り返された防水膜73は、端辺がフレーム71と防水板72との間に狭持されている。なお、防水膜73は、ゴム材料から構成することもできる。
防水膜73は、図8(b)に示すように、最も起立した状態となった越水防止装置70に対応することができる寸法に設定されている。そのため、図8(a)に示すように越水防止装置70が平常時の場合には、防水膜73は、折り畳まれた状態でフレーム71下に収容される。なお、越水防止装置70が起立した状態から元の状態に戻る際に、防水膜73が折り畳まれた状態に戻れるように、防水膜73には例えば折り目が予め形成されているか、あるいは折り目を誘発する複数の線材(不図示)が一方の面に平行に取り付けられている。なお、防水膜73がブラケット75上で折り返された状態で固定されることにより、越水防止装置70の動作時にデッキ回動ピース25への巻き込みが防止される。また、デッキ回動ピース25に、防水膜73の巻き込み防止のためのカバーを取り付けてもよい。
また、防水膜73は、隣接する越水防止装置70間に張設された接続部73aを有している。この接続部73aは、隣接する越水防止装置70のフレーム71と防水板72とにそれぞれ挟まれ、隣接する越水防止装置70の隙間からの漏水を防止する。後述するように、隣接する越水防止装置70間には回動量にズレが生じるため、接続部73aは撓んだ状態で越水防止装置70間に設置されている。なお、防水膜73は、予め接続部73aが形成された状態で製造してもよいし(すなわち、接続部73aが突出した状態で防水膜73を製造する)、接続部73aを別途製造し、接着剤により防水膜73に接続した構成としてもよい。
このように、防水板72がフレーム71の下面に取り付けられるとともに、防水膜73が堤防10の法面から防水板72にかけて設置されることで、上昇した河川の水は、防水板72と防水膜73とによりせき止められる。
なお、本実施形態に係る越水防止装置70は、堤防10に沿って複数の越水防止装置70が設置されるため、隣接する越水防止装置70間で回動量が異なり両者にズレが生じる。このようなズレが生ずると、複数の越水防止装置70は一体となって防水機能を果たすことができない。そこで、本実施形態に係る越水防止装置70は、隣接する越水防止装置70間に生ずるズレを、所定量に制限する構成を備えている。
図9に示すように、本実施形態に係る越水防止装置70は、1基ごとに第1の連結部76と第2の連結部77とを備えている。第1の連結部76はフレーム71の1つの頂部(図9中の左上部)に、第2の連結部77はフレーム71の他の1つの頂部(図9中の右上部)に設けられている。
図9の“X部”は、第1の連結部材支持部76と第2の連結部材支持部77とが隣接している部分である。図10は“X部”の拡大図を示しており、(a)は側面図、(b)は(a)中の矢視b−bで示した側面図を示している。
第1の連結部材支持部76、及び第2の連結部材支持部77はそれぞれが鋼材から形成されている。第2の連結部材支持部77には、ボルト79を挿通するためのボルト孔77aが間隔をあけて2箇所形成されている。このボルト孔77aは、挿通されるボルト79の径に対して通常の孔径(ボルト径の+1〜2mm程度)で形成されている。このように、間隔をあけて2つのボルト孔77aを形成することで、挿通されたボルト79のガタツキが抑制される。
一方、第1の連結部材支持部76には、図10中の上下方向に長軸が向けられた長孔76aが形成されている。この長孔76aは、図10(b)に示すように、第2の連結部材支持部77に根元部が固定支持されたボルト79の先端が長孔76aの中央に位置した場合(隣接する越水防止装置70間にズレが生じていない場合)から図中上下方向にそれぞれボルト79が移動可能な領域を形成する。本実施形態では、長孔76aに上下方向にそれぞれ50mmのボルト移動可能領域が設定されている。
第1の連結部材支持部76側には、ボルト79と螺合するナット76bと、このナット76bと第1の連結部材支持部76との間に位置する摺動ワッシャ76cとが設けられている。ナット76bは、ボルト79と強固に締め付けられていない状態で、公知のゆるみ止め機構(不図示)が取り付けられている。これにより、隣接する越水防止装置70間に回動ズレが生じた場合、ボルト79のゆるみを抑制しながら、ボルト79を長孔76内で移動可能な状態とすることができる。
このように、本実施形態に係る越水防止装置70が、第1の連結部材支持部76と第2の連結部材支持部77とを備えることにより、隣接する越水防止装置70間に生ずる回動ズレを50mm以内に制限することができる。
本実施形態に係る越水防止装置70が奏する効果については、上記の実施形態に係る越水防止装置と同様である。特に、本実施形態に係る越水防止装置70においては、第1の連結部材支持部76と第2の連結部材支持部77とを備えることにより、隣接する越水防止装置70間に生ずる回動ズレを所定量に制限することができる。また、防水板72と防水膜73とにより、増水した河川の水を確実にせき止めることができる。
次に、本発明の第6の実施形態に係る越水防止装置について説明する。図11は本発明の第6の実施形態に係る越水防止装置の斜視図である。本実施形態に係る越水防止装置80は、第5の実施形態に係る越水防止装置70と異なり、フレーム71の下面に防水板72(図9)は設置せず、フレーム71の下面全体を防水膜73で覆っている。その他の構成は、第5の実施形態に係る越水防止装置70の構成と同じである。
図11に示すように、本実施形態における防水膜73は、堤防10の法面からフレーム71先端にまで到達する寸法に形成され、フレーム71の先端側の端辺で平鋼(不図示)等があてがわれボルト73aにより固定されている。防水膜73は、複数の越水防止装置70に対応する大きさの布地から形成されており、一枚の布地が複数の越水防止装置80にわたって取り付けられている。上述したように、隣接する越水防止装置80は、50mmずつの相対的なズレが許容される。そのため隣接する越水防止装置80のズレが生じた際、防水膜73が引っ張られないように、越水防止装置80の隣接部近傍で防水膜73を余らせた状態で取り付けられている。
本実施形態に係る越水防止装置80が奏する効果については、上記の実施形態に係る越水防止装置と同様である。特に、本実施形態に係る越水防止装置80においては、堤防10の法面からフレーム71にまで覆う防水膜73が設置されることにより、増水した河川の水を確実にせき止めることができる。
次に、本発明の第7の実施形態に係る越水防止装置について説明する。図12は本発明の第7の実施形態に係る越水防止装置の斜視図、図13は、本発明の第7の実施形態に係る越水防止装置の堤防側の端部に着目した図で、(a)は図12中の矢視XIII−XIIで示した側面図、(b)は図13(a)中の矢視b−bで示した断面図、(c)は図13(a)中の矢視c−cで示した断面図を示している。
本実施形態に係る越水防止装置90は、上記第5,6の実施形態に係る越水防止装置と異なり、デッキ回動ピース25(図9、図11)に水密性を持たせることで、堤防10の法面からフレーム71にかけての防水膜73(図9、図11)は省略している。その他の構成については、第5,6の実施形態に係る越水防止装置70の構成と同様である。
図12に示すように、本実施形態に係る越水防止装置90は、第1の摺動材91と、この第1の摺動材91上を摺動する第1の摺動ピース93と、第2の摺動材92と、この第2の摺動材92上を摺動する第2の摺動ピース94とを備えている。
第1の摺動材91は、図13に示すように、堤防10上に所定の間隔をあけて複数個設置されている。第1の摺動材91は、例えばプラスチック素材(商品名:MCナイロン、日本ポリペンコ株式会社製)から構成されており、その一部は円弧状に形成されている(図13(b))。
第1の摺動ピース93は、例えば、鋼板を円弧状に曲げ加工することで形成されており、フレーム71の下面に取り付けられている。第1の摺動ピース93は、第1の摺動材91の円弧状に形成された部位を滑り、越水防止装置90を回動させる。
第2の摺動材92は、フレームに取り付けられた第1の摺動ピース93間に設けられている。第2の摺動材92は、例えばプラスチック素材(商品名:MCナイロン、日本ポリペンコ株式会社製)から構成されており、その一部は円弧状に形成されている(図13(c))。
第2の摺動ピース94は、例えば、鋼板を円弧状に曲げ加工することで形成されており、堤防10上に取り付けられている。第2の摺動ピース94は、第2の摺動材92の円弧状に形成された部位を滑り、越水防止装置90を回動させる。
図13に示すように、第1の摺動材91と第2の摺動材92とは間隔をあけずに設置されている。これにより、越水防止装置90と堤防10との隙間からの漏水が防止される。また、第1の摺動ピース93、及び第2の摺動ピース94の両側面には、摺動材93a、94aが取り付けられている。これにより、第1の摺動ピース93と第2の摺動ピース94との間の摩擦が低減され、越水防止装置90の回動をスムーズに行えることができる。
前述したように、本実施形態に係る越水防止装置90においては、堤防10の法面からフレーム71にかけての防水膜は省略されており、防水膜73はフレーム全面を覆うようにフレーム71の下面にボルト73aで固定されている。なお、上述した実施形態に係る越水防止装置と同様、防水膜73は、隣接する越水防止装置90間のズレに対応するために、越水防止装置90の隣接部近傍を余らせた状態で取り付けられている。
本実施形態に係る越水防止装置90においては、越水防止装置90の回動手段に水密性を持たせることで、防水膜73はフレーム71の下面のみに設けられている。これにより、堤防10の天端を越えようとする水をせき止めることが可能となる。なお、本実施形態に係る越水防止装置90が奏する効果については、上記の実施形態に係る越水防止装置と同様である。なお、本実施形態に係る越水防止装置90では、フレーム71の下面に防水膜73を取り付けたが、防水手段として防水板を取り付けてもよい。
上述の実施形態においては、隣接する越水防止装置、及び隣接する越水防止装置間の防水処理について説明した。ここでは、堤防に沿って配設された多数基の越水防止装置のうち、端部に配設された第7の実施形態に係る越水防止装置90の構成について説明する。なお、図14は、本発明の第7の実施形態に係る越水防止装置のうち、端部に配設された越水防止装置に着目した図で、(a)は斜視図、(b)は図14(a)中の矢視b−bで示した側面図を示している。
図14に示すように、堤防10に沿って配設された多数基の越水防止装置90のうち、端部(例えば、橋詰めとの擦り付け部近傍)の越水防止装置90に隣接するように、コンクリート壁96が設けられている。このコンクリート壁96は、堤防10を横断するように設けられている。
端部に配された越水防止装置90には、コンクリート壁96に面する側の側面に沿って、水密ゴム97が取り付けられている。水密ゴム97は、例えば、断面がL型のクロロプレンゴムから形成されており、図14(b)に示すように、平鋼98等があてがわれてボルト99によりフレーム71に取り付けられている。このようにして取り付けられた水密ゴム97は、折り畳まれた状態で越水防止装置90とコンクリート壁96との間に介在する。そして、水密ゴム97は、上昇した河川水の水圧によりコンクリート壁96に押し付けられ、河川水が堤内地へ漏出するのを防止する。なお、水密ゴム97は、硬度50°〜60°程度のクロロプレンゴムから形成することで、耐候性、耐油性の向上、越水防止装置90の回動に合わせて適度な追随性を確保することができる。
このように、端部に配設された越水防止装置90の近傍にコンクリート壁96を設けるとともに、越水防止装置90とコンクリート壁96との間に水密ゴム97を介在させることで、上昇した河川水を止水することが可能となる。なお、越水防止装置90の端部の止水については、第7の実施形態に係る越水防止装置90を例に説明したが、上述した他の実施形態に係る越水防止装置における場合にも、同様に採用することができる。また、コンクリート壁96は、既設の橋台等であってもよい。
ところで、上述してきた実施形態においては、天端幅が狭く、法面の勾配が大きなコンクリート製の堤防に越水防止装置を適用する場合について説明したが、盛土でかさあげされた堤防においても同様に適用することができる。図15は、本発明の第8の実施形態に係る越水防止装置を示した図であり、(a)は堤防の天端に設置された越水防止装置の断面図、(b)は越水防止装置の斜視図を示している。
図15(a)に示すように、堤防10には、天端から掘削され、内面を例えばモルタル層で保護された越水防止装置100を収容するための収容空間101が形成されている。越水防止装置100は、上述した実施形態に係る越水防止装置と同様に、上面に滑り止め加工が施されたデッキ21と、デッキ21の下面に取り付けられたフロート23とを有している。越水防止装置100は、堤防10の天端に回動可能に取り付けられており、平常時には収容空間101に収容されている。そのため、平常時にはデッキ21の上面は堤防10の天端と面一となっており、デッキ21の上面を河川利用者の歩行路として利用することができる。
河川15が平常時の状態から増水し、水位が堤防10の天端位置よりも高くなると、堤防10の天端に形成された収容空間101に水が入り込み、フロート23が浸水する。浸水したフロート23は浮力を受け、デッキ21を堤防10の天端に起立させる。これにより、起立したデッキ21は堤防10の天端を越えようとする水をせき止める。
本実施形態に係る越水防止装置100においては、平常時にデッキ21は堤防10の天端と面一である。そのため、デッキ21上を歩行路として利用することができ、越水防止装置100が河川利用の支障となることはない。また、河川15の水位上昇に伴い、自動的にデッキ21が堤防10の天端に起立するため、洪水時に迅速に越水防止装置を作動させることができる。