JP5610536B2 - 被覆プラスチック成形体及びその製造方法 - Google Patents

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本発明は、ガスバリア薄膜と組合せ可能な被覆プラスチック成形体及びその製造方法に関する。
プラスチックは、透明性、軽量性、耐衝撃性、耐食性及び加工成形性に優れ、価格が安価で、多品種少量生産に対応できるという長所を有するため、食品、飲料、医薬品又は化粧品などを包装する包装材料として適している。しかし、プラスチックは、他の包装材料である金属又はガラスと比べて、ガスバリア性が低く、酸化を嫌う内容物又はビールなどのガスを含有する内容物の包装材料としては適さないという問題があった。
そこで、ガスバリア性を有する薄膜(以降、ガスバリア薄膜ということもある。)を備える被覆プラスチック成形体が提案されている。例えば、プラスチック基材上に、非水溶性樹脂微粒子とシリカ、ジルコニア、アルミナ、チタニアからなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物とからなるコーティング膜を形成したガスバリア性に優れるガスバリア性フィルムが提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。また、基材フィルムと珪素、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ジルコニア、錫などの金属又はそれらの酸化物の薄膜層との間に厚さ0.5〜5.0nmの金属酸化物のアンカーコート層を積層したガスバリア性フィルムが提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。
近年、プラスチック容器にガスバリア性を付与する手段として、プラスチック容器の表面をDLC(Diamond Like Carbon)膜で被覆することが提案されている(例えば、特許文献3又は4を参照。)。DLC膜は、炭素原子及び水素原子による非晶性の三次元構造からなる膜で、硬く、絶縁性に優れ、高屈折率で、非常に滑らかなモルフォロジを有する硬質炭素膜である。特許文献3では、プラズマ化学蒸着(CVD)法によってプラスチック容器の表面に膜厚5〜35nmのダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜を形成している。特許文献4では、高分子基材の表面にメタン‐アルゴン混合ガスを用いるCVDプラズマ処理に供して、炭素中間層膜を形成させ、炭素中間層膜上に更に炭化水素含有ガスを用いるCVDプラズマ処理に供して、ダイヤモンドライクカーボン膜を形成することで、高分子基材表面に密着性に優れたDLC膜を形成する技術を開示している。
しかし、これらのガスバリア薄膜技術は、現在、主として、ポリエチレンテレフタレート(PET)基材で実用化されている一方で、包装容器に限らず産業界全般にわたって使用量が多く、用途の広いポリプロプレン基材、ポリエチレン基材などのポリオレフィン基材では実用化が進んでいない。その理由は、例えば、これらのポリオレフィン基材が、化学的に不活性な高分子からなり、かつ、球晶の性質及び成形性の影響によって、表面が粗くなる傾向にあるためである。そこで、表面の活性化のために、ポリプロピレンフィルムの表面に、プラズマ処理を行う技術が開示されている(例えば、特許文献5を参照。)。表面を平滑化するために、イオンプレーティング法によって酸化ケイ素の蒸着膜を形成する前に、ポリプロピレンフィルムの表面に、樹脂の1種ないし2種をビヒクルの主成分とし、これに、硬化剤を添加してなる硬化性樹脂組成物による耐プラズマ保護層を設ける技術が開示されている(例えば、特許文献6を参照。)。また、ポリオレフィンを主成分とするプラスチック基材上に、アルカリ金属ポリシリケートを主成分とするガスバリア性被膜を形成し、ガスバリア性被膜とプラスチック基材との密着性を向上させるために、アルカリ金属ポリシリケートに、さらに窒素化合物または/及び水溶性高分子を配合させる技術が開示されている(例えば、特許文献7を参照。)。オレフィン系樹脂による基材シートとオレフィン系樹脂による熱可塑性樹脂層との接着強度を強化させるために、シランカップリング剤を添加する技術が開示されている(例えば、特許文献8を参照。)。密着性向上のために、ポリプロピレンフィルム基材の表面にシランカップリング剤とアクリルポリオール及びイソシアネートとの化合物との複合物からなる透明プライマー層を設け、その上に無機酸化物からなる蒸着薄膜層を設ける技術が開示されている(例えば、特許文献9を参照。)。
特開2009−269217号公報 特開2010−605号公報 特開2008−230648号公報 特開2005−2377号公報 特開2008−248374号公報 特開平11−105218号公報 特開2002−113826号公報 特開平8−230113号公報 特開2000−254994号公報 特開平08−53116公報 WO2006/126677号公報
特許文献1に記載のガスバリア性フィルムは、ガスバリア性の向上を目的として、金属アルコキシドを加水分解・重縮合反応させて、ガスバリア性のコーティング膜を構成する金属酸化物の構造体を形成している。この加水分解・重縮合反応には、例えば、110℃で1.5時間の反応時間が必要であるため、処理に時間がかかり、また、基材への熱によるダメージが懸念される。また、ガスバリア性のコーティング膜を、塗工溶液を基材フィルムに塗布・乾燥する、所謂湿式法によって形成するものであり、プラスチックフィルムのような平面形状の対象に成膜するのに適するが、ボトルのような立体形状の対象に成膜するのには適さない。特許文献2又は特許文献6に記載のガスバリア性フィルムでは、薄膜を物理蒸着法を用いて形成されているが、物理蒸着法は、製造装置が高価であり、また成膜速度が遅いため、包装用途としてのプラスチック成形体の製造方法として有効な手段とはいい難い。
特許文献5では、プラズマ処理によってポリプロピレン表面に、いわゆる、弱境界層が生成し、これによりポリプロピレンフィルムと薄膜との密着強度が不足する恐れがある。特許文献7〜特許文献9では、シランカップリング剤は、本来の役割、すなわち、その両端に有するそれぞれ性質の異なる官能基によって、化学的性質の異なる表面に結合することで、両者を結びつける役割で利用されている。しかし、いずれも、ガスバリア薄膜を中間層として用いるものであり、食品又は飲料に直接接触する用途には適用できることには言及していない。
前述の問題点はありながらも、プラスチックボトル表面に塗工溶液を用いて塗布・乾燥する、所謂湿式法は、上述したポリオレフィン基材の表面の不活性さ又は/及び粗さに対して、活性及び平滑性(レベリング)の付与を同時に達成可能な観点で、また、容器の成形性に影響を与えないという観点で、ポリプロプレン基材又はポリエチレン基材にガスバリア薄膜を形成する際に有望な手段となりうる。ただし、用いる塗工溶液は、ポリプロプレン又はポリエチレン及びガスバリア薄膜の両方に密着性があるとともに、薄膜のガスバリア性を発現させる下地層としての性質及び容器生産の速度に追従できる高速処理を可能とできる性質が求められる。さらに、飲料、食品向けの容器に用いるためには、人体に対する安全性が求められる。本発明者らが知る限り、容器のような立体物に応用できる塗工溶液、ガスバリア薄膜の下地層を用いた処理方法及びその結果得られたガスバリア容器は知られていない。
本発明の目的は、プラスチック成形体の表面をガスバリア層としての役割、密着層としての役割及び薄膜の性能を良好に発現させる下地層としての役割を有する層で被覆することで、プラスチック成形体の材質に関わりなく、ガスバリア性を向上できる被覆プラスチック成形体を提供することである。また、本発明の第二の目的は、高価な機材を必要としない製造装置を用いて、安全かつ高速に、ガスバリア性を向上できる被覆プラスチック成形体の製造方法を提供することである。
本発明者らは、アミノ基を有するカップリング剤を、カップリング剤として使用するのではなく、プラスチック成形体の表面を被覆する硬化層の原料として縮合反応させることで、硬化層が、密着層としての役割と薄膜の性能を良好に発現させる下地層としての役割とを果たし、しかも、硬化層自体がガスバリア性を有することを見出し、本発明を完成させた。
本発明に係る被覆プラスチック成形体は、プラスチック成形体と該プラスチック成形体の表面に、縮合反応の反応物として一般式(化1)で表される化合物だけ溶剤を用いずに縮合反応させて形成した硬化層と、該硬化層上に、化学気相成長法又は物理気相成長法で形成した薄膜とを備え、前記硬化層は、一般式(化1)においてMの元素濃度を1とした場合に、元素濃度比で、Oを3.0〜4.5、Cを3.0〜16.5、Nを0.5〜2.5含有する層であることを特徴とする。プラスチック成形体と薄膜との間に、硬化層を介することで、薄膜の密着性を向上することができる。また、実質無色で、かつ、高いバリア性及び弱酸性〜中性域における水溶液中の物理化学的安定性(以降、本明細書では、耐内容物性ということもある。)を有する層とすることができる。
(化1)R−M−(CH(OR´)3−n
一般式(化1)において、Mは珪素又は金属を表す。Rはアミノ基を有する炭化水素鎖を表す。R´は炭素数1〜4のアルキル基を表す。また、nは、0,1又は2を表す。
本発明に係る被覆プラスチック成形体では、一般式(化1)で表される化合物が、N‐2‐(アミノエチル)‐3‐アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N‐2‐(アミノエチル)‐3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、3‐アミノプロピルトリメトキシシラン又はN‐フェニル‐3‐アミノプロピルトリメトキシシランである形態を包含する。
本発明に係る被覆プラスチック成形体では、前記プラスチック成形体が、ポリプロピレン、ポリエチレン又はこれらの混合物である形態を包含する。プラスチック成形体が、化学的に不活性で、かつ、比較的粗い表面を有する材料であっても、ガスバリア性を付与することができる。
本発明に係る被覆プラスチック成形体では、前記薄膜が、ガスバリア薄膜であることが好ましい。さらに高いガスバリア性を付与することができる。
本発明に係る被覆プラスチック成形体では、前記ガスバリア薄膜が、DLC膜、SiC膜又は酸化物膜である形態を包含する。
本発明に係る被覆プラスチック成形体では、前記プラスチック成形体が、容器である形態を包含する。容器の内壁面又は外壁面の少なくとも一方を被覆することで、内容物の保存性に優れる容器とすることができる。
本発明に係る被覆プラスチック成形体の製造方法は、プラスチック成形体の表面に、縮合反応の反応物として一般式(化1)で表される化合物だけを用い、溶剤を用いない塗布液を塗布して塗布層を形成する塗布工程と、一般式(化1)で表される化合物の縮合反応を進めて、前記塗布層を硬化して硬化層を形成する硬化工程とを順に有し、前記塗布工程の後に、更に、前記塗布層上に、薄膜を形成する成膜工程を有し、前記硬化層は、一般式(化1)においてMの元素濃度を1とした場合に、元素濃度比で、Oを3.0〜4.5、Cを3.0〜16.5、Nを0.5〜2.5含有する層であることを特徴とする。プラスチック成形体と薄膜との間に、硬化層を形成することで、薄膜の密着性又は/及びガスバリア性を向上することができる。
(化1)R−M−(CH (OR´) 3−n
一般式(化1)において、Mは珪素又は金属を表す。Rはアミノ基を有する炭化水素鎖を表す。R´は炭素数1〜4のアルキル基を表す。また、nは、0,1又は2を表す。
本発明に係る被覆プラスチック成形体の製造方法では、前記成膜工程は、一般式(化1)で表される化合物が縮合反応を完了する前に行う工程であることが好ましい。薄膜のガスバリア性をより高めることができる。
本発明に係る被覆プラスチック成形体の製造方法では、前記硬化工程は、0℃以上40℃以下で行う工程であることが好ましい。この温度範囲内であれば、縮合反応が、急速に起こるのを防止して、クラックのない硬化層を形成することができ、また、実用的な時間内に縮合反応を完了させることができる。
本発明は、プラスチック成形体の表面をガスバリア層としての役割、密着層としての役割及び薄膜の性能を良好に発現させる下地層としての役割を有する層で被覆することで、プラスチック成形体の材質に関わりなく、ガスバリア性を向上できる被覆プラスチック成形体を提供することができる。また、本発明は、高価な機材を必要としない製造装置を用いて、安全かつ高速に、ガスバリア性を向上できる被覆プラスチック成形体の製造方法を提供することができる。
本実施形態に係る被覆プラスチック成形体の一例を示す断面図である。 本実施形態に係る被覆プラスチック成形体の別の例を示す断面図である。
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
図1は、本実施形態に係る被覆プラスチック成形体の一例を示す断面図である。本実施形態に係る被覆プラスチック成形体90は、プラスチック成形体と該プラスチック成形体の表面に、縮合反応の反応物として一般式(化1)で表される化合物だけ溶剤を用いずに縮合反応させて形成した硬化層と、該硬化層上に、化学気相成長法又は物理気相成長法で形成した薄膜とを備え、前記硬化層は、一般式(化1)においてMの元素濃度を1とした場合に、元素濃度比で、Oを3.0〜4.5、Cを3.0〜16.5、Nを0.5〜2.5含有する層である
(化1)R−M−(CH(OR´)3−n
一般式(化1)において、Mは珪素又は金属を表す。Rはアミノ基を有する炭化水素鎖を表す。R´は炭素数1〜4のアルキル基を表す。また、nは、0,1又は2を表す。
硬化層92は、構成元素として、M(珪素又は金属)、O(酸素)、C(炭素)、N(窒素)及びH(水素)を含む。本実施形態に係る被覆プラスチック成形体90では、硬化層92は、Mの元素濃度を1とした場合に、元素濃度比で、Oを3.0〜4.5、Cを3.0〜16.5、Nを0.5〜2.5含有する層であることが好ましい。より好ましくは、Mの元素濃度を1とした場合に、元素濃度比で、Oを3.1〜4.2、Cを3.3〜16.2、Nを0.9〜2.1含有する。Oの元素濃度及びCの元素濃度を前記範囲とすることで、飲料又は食品に多い弱酸性〜中性域の内容物に直接又は間接に接触しても物理化学的に安定な層とすることができる。また、Nの元素濃度を前記範囲とすることで、硬化層92自体のガスバリア性向上効果を得ることができる。さらに、プラスチック成形体91と硬化層92との密着性を確保することができる。また、硬化層92上に、薄膜を形成する場合において、薄膜の密着性を確保することができる。M、O、C及びN元素濃度は、各種元素分析法によって測定することができる。例えば、X線光電子分光分析(XPS分析)による方法、走査型電子顕微鏡(SEM)に併設されているエネルギー分散型蛍光X線分析(EDX)装置を用いる方法である。
プラスチック成形体91を構成する樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シクロオレフィンコポリマー樹脂(COC、環状オレフィン共重合)、アイオノマー樹脂、ポリ‐4‐メチルペンテン‐1樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン‐ビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、又は、4弗化エチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン樹脂である。これらは、1種を単層で、又は2種以上を積層して用いることができる。
本実施形態に係る被覆プラスチック成形体90では、プラスチック成形体91が、ポリプロピレン、ポリエチレン又はこれらの混合物であることがより好ましい。ポリプロピレンは、例えば、ホモポリマー、ランダム重合ポリマー、ブロック重合ポリマーを包含する。ポリエチレンは、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)である。また、ポリプロピレン、ポリエチレン又はこれらの混合物は、ポリプロピレン、ポリエチレンを主成分としていれば、特に限定されない。例えば、ポリプロピレン若しくはポリエチレンと前記したポリプロピレン若しくはポリエチレン以外の樹脂とのポリマーアロイ又はポリプロピレン若しくはポリエチレンに酸化防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、軟化剤などの各種助剤を添加したものである。
本実施形態に係る被覆プラスチック成形体90では、プラスチック成形体91が、容器又はフィルムである形態を包含する。容器としては、蓋、栓若しくはシールして使用する容器、又はそれらを使用せず開口状態で使用する容器を含む。開口部の大きさは、内容物に応じて適宜設定することができる。容器は、剛性を適度に有する所定の肉厚を有する容器と剛性を有さないシート材によって形成された容器とを含む。内容物としては、例えば、水、お茶、清涼飲料、炭酸飲料又は果汁飲料などの飲料、液体、粘性体、粉末又は固体状の食品である。また、容器は、リターナブル容器又はワンウェイ容器のどちらであってもよい。また、フィルムとしては、長尺なシート状物、カットシートを含む。フィルムは、延伸又は未延伸であるかを問わない。本実施形態では、プラスチック成形体91の形状は、目的及び用途に応じて適宜設定をすることができ、特に限定されない。また、本発明は、プラスチック成形体91の製造方法に制限されない。
プラスチック成形体91の厚さは、目的及び用途に応じて適宜設定することができ、特に限定されない。プラスチック成形体91が、例えば、飲料用ボトルなどの容器であるには、ボトルの肉厚は、100〜500μmであることが好ましく、より好ましくは、150〜300μmである。また、プラスチック成形体91が、包装袋を構成するフィルムである場合には、フィルムの厚さは、3〜200μmであることが好ましく、より好ましくは、10〜100μmである。
プラスチック成形体91が、容器である場合には、硬化層92は、その内壁面若しくは外壁面のいずれか一方又は両方に設ける。また、プラスチック成形体91が、フィルムである場合には、硬化層92は、片面又は両面に設ける。特に、プラスチック成形体91が飲料又は食品向けの容器である場合、硬化層92を容器の内壁面に形成すると、容器壁に溶存する酸素等と内容物との反応、内容物から容器壁への内容物香気成分の収着など、内容物の品質劣化を効果的に抑制できる。一方、硬化層92を容器の外壁面に形成すると、より簡易に硬化層92を形成することができる。特に、容器材質がポリプロピレンなどの耐熱性の樹脂からなる場合、煮沸殺菌などの熱処理を可能にする耐熱性容器とすることができ、特にガスバリア性向上を行う意義が高い。
図2は、本実施形態に係る被覆プラスチック成形体の別の例を示す断面図である。本実施形態に係る被覆プラスチック成形体90では、硬化層92上に、薄膜93を更に備えることが好ましい。薄膜93の種類は、特に限定されず、付与すべき機能に応じて適宜選択できる。薄膜93を形成した場合、硬化層92は、中間層となる。そして、プラスチック成形体91が、例えば、ポリプロピレン又はポリエチレンのように微細な凹凸のある表面を有する場合においても、硬化層92がその表面を平滑化して、薄膜93の成膜に適した表面にすることができる。よって、得られる薄膜93の性能を良好に発現させることができる。
本実施形態に係る被覆プラスチック成形体90では、薄膜93が、ガスバリア薄膜であることが好ましい。本実施形態に係る被覆プラスチック成形体90は、図1に示すように、硬化層92だけを設けた状態で、高いガスバリア性を発揮するが、更にガスバリア薄膜を設けることで、ガスバリア性をより高めることができる。ガスバリア薄膜の種類は、特に限定はないが、ガスバリア性以外に、耐熱性及び非収着性を有し、プラスチック成形体91の長所を生かし、また、不足する性能を補うことができる点で、DLC膜、SiC膜、SiCO膜、SiCN膜、SiCNO膜であることが好ましい。また、本実施形態に係る被覆プラスチック成形体90では、より高いガスバリア性を有する点で、ガスバリア薄膜が、DLC膜、SiC膜又は酸化物膜であることが好ましい。
薄膜93の厚さは、5〜100nmであることが好ましい。より好ましくは、10〜80nmである。5nm未満であると、ガスバリア性又はその他の機能が得られない場合がある。100nmを超えると、内部応力によりクラックが生じ、ガスバリア性又はその他の機能が低下する場合がある。
薄膜93は、各種公知の手法で形成することができる。公知の手法は、例えば、プラズマCVD法、発熱体CVD法などの化学気相成長(CVD)法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理気相成長(PVD)法である。なお、本明細書では、発熱体CVD法は、発熱体CVD法、Cat‐CVD法又はホットワイヤーCVD法と呼ばれるCVD法をいう。プラスチック成形体91が、飲料又は食品向け容器である場合には、プラズマCVD法又は発熱体CVD法であることがより好ましい。これらは、立体的な各種容器形状に対して応用可能で、かつ、他の手法と比較して低コストに成膜することができる。
次に、一般式(化1)で表される化合物について説明する。
一般式(化1)において、Mは、珪素(Si)又は金属である。金属は、チタン(Ti)、ジルニウム(Zr)であることが好ましい。本実施形態では、Mが、珪素であることが、特に好ましい。安価な化合物とすることができ、また、得られる硬化層92を安全、かつ、比較的柔軟な構造にすることができる。
一般式(化1)において、Rは、アミノ基を有する炭化水素鎖である。アミノ基は、−NH,=NH又は−NH−である。アミノ基は、炭化水素鎖の末端にあることがより好ましい。Rは、直鎖状で、炭素数が3〜5であることが好ましい。これによって、得られる硬化層92を比較的緻密、かつ、柔軟な構造にすることができる。
一般式(化1)において、R´は炭素数1〜4のアルキル基である。R´は、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基である。この中で、R´がメチル基であることがより好ましい。すなわち、OR´が、メトキシ基であることが好ましい。なお、R′として、アセチル基又はアシル基を有する構造にすることもできるが、硬化速度の観点から、アルキル基とすることが好ましい。
一般式(化1)において、nは、0,1又は2を表す。nは、1であることが好ましく、0であることがさらに好ましい。
一般式(化1)で表される化合物は、公知のアミン系カップリング剤を利用することができる。例えば、N‐2‐(アミノエチル)‐3‐アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N‐2‐(アミノエチル)‐3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、N‐2‐(アミノエチル)‐3‐アミノプロピルトリエトキシシラン、3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、3‐アミノプロピルトリエトキシシラン、N‐フェニル‐3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、3‐アミノプロピルトリメトキシチタン、3‐アミノプロピルトリメトキシジルコニウムである。この中で、Mが珪素であり、かつ、OR´がメトキシ基である点で、N‐2‐(アミノエチル)‐3‐アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N‐2‐(アミノエチル)‐3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、N‐フェニル‐3‐アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。また、Mが珪素であり、かつ、OR´がメトキシ基であり、かつ、nが0である点で、3‐アミノプロピルトリメトキシシランが特に好ましい。
一般式(化1)で表される化合物が、3‐アミノプロピルトリメトキシシランなどのように、Mが珪素であり、かつ、OR´がメトキシ基であり、かつ、nが0であると、硬化層92をガスバリア性が高く、かつ、緻密な構造にすることができる。一方で、比較的硬質でクラックが生じやすい構造となる傾向はあるが、前述した通り、炭化水素鎖の構造を適切にすることで、得られる中間層の柔軟性を確保し、かつ、硬化時のクラック発生を抑制することができる。
総合して、一般式(化1)で表される化合物は、一般的にアミン系カップリング剤として用いられるものであり、安全で、かつ、比較的安価に入手することができる。あわせて、一定のガスバリア性向上効果を期待できる。また、アミノ基を含有することで、ポリプロプレン又はポリエチレンとの密着性を確保することができる。さらに、薄膜との密着性にも優れ、より高いガスバリア性を確保できる。さらに、一般式(化1)において、OR´をメトキシ基とし、nを0とし、Rを前記の炭素数を有する炭化水素鎖を含有することで、アミノ基を含有する化合物全体を常温・常圧下で安定に保存可能な構造とできる。そして、プラスチック成形体91の表面に、一般式(化1)で表される化合物からなる塗布液を塗布すると、一般式(化1)で表される化合物は、常温・常圧下で特別な硬化開始剤なしに縮合反応が進行して、塗布層が硬化し、硬化層92を形成することができる。これらの諸物性に関連して、硬化層92は、高価な機材を用いることなく安価に、かつ、高速で形成することができる。
硬化層92は、ガスバリア層としての役割、プラスチック成形体91と薄膜93との密着層としての役割及び薄膜の性能を発現させる下地層としての役割をもつ。硬化層92において、一般式(化1)からなる化合物の分子中のアルコキシシラン構造(−Si−OR´)が、例えば、空気中の水分によって、加水分解して、シラノール基(−Si−OH)を形成すると、分子間で縮合反応によってシロキサン結合(Si−O−Si)が形成される。このシロキサン結合が三次元のネットワークを形成することで、理由は定かではないが、硬化層92が、プラスチック成形体91との高い密着性及び高いガスバリア性を発揮する。さらに、プラスチック成形体91がポリプロピレン又はポリエチレンなどの凹凸を有する表面上に、硬化層92が形成されることによって、表面を平滑化して、成膜に適した表面となり、その上に形成される薄膜性能(例えば、薄膜がガスバリア薄膜である場合には、ガスバリア性)を良好に発現させることができる。一般式(化1)で表される化合物は、一般的にアミン系カップリング剤として用いられるものであるが、カップリング剤は、一般的に、分子構造の両端にそれぞれ性質の異なる官能基を有し、それぞれの官能基が、化学的な性質の異なる表面(例えば、有機物の表面と無機物の表面)に結合することで、両者を結びつける役割をもつ。よって、主としてガスバリア薄膜を形成するためのプライマー層又はアンカーコート層として利用されることが多い。そして、このような一般的な利用方法では、例えば、有機物がポリプロピレン又はポリエチレンである場合には、これらに結合しやすい官能基としてビニル基又はメタクリロキシ基を有するカップリング剤が適していることが知られている。しかし、本発明では、アミノ基を有するカップリング剤を選択することから、このアミノ基を有するカップリング剤をカップリング剤としての一般的な利用方法で使用するものではないといえる。本発明では、アミノ基を有するカップリング剤を使用することで、その理由は定かではないが、硬化層92が、密着層としての役割だけでなく、硬化層92自体が高いガスバリア性を有するガスバリア層として、また、プラスチック成形体91の表面を平滑化して薄膜を形成するための下地層として作用する。
次に、プラスチック成形体91の表面に形成する硬化層92を形成する方法について説明する。
本実施形態に係る被覆プラスチック成形体の製造方法は、縮合反応の反応物としてプラスチック成形体の表面に、一般式(化1)で表される化合物だけを用い、溶剤を用いない塗布液を塗布して塗布層を形成する塗布工程と、一般式(化1)で表される化合物の縮合反応を進めて、前記塗布層を硬化して硬化層を形成する硬化工程とを順に有し、前記塗布工程の後に、更に、前記塗布層上に、薄膜を形成する成膜工程を有し、前記硬化層は、一般式(化1)においてMの元素濃度を1とした場合に、元素濃度比で、Oを3.0〜4.5、Cを3.0〜16.5、Nを0.5〜2.5含有する層である
(化1)R−M−(CH (OR´) 3−n
一般式(化1)において、Mは珪素又は金属を表す。Rはアミノ基を有する炭化水素鎖を表す。R´は炭素数1〜4のアルキル基を表す。また、nは、0,1又は2を表す。

一般式(化1)で表される化合物は、安定で適度な粘性を有する化合物であることから、溶剤を用いずに、一般式(化1)で表される化合物からなる塗布液を、プラスチック成形体91の表面上に塗布することができる。そして、溶媒を用いないので、塗布後の乾燥において、溶媒が揮発する際に形成される空孔によって、ガスバリア性が低下することがない。塗布工程は、常圧又は減圧下において、プラスチック成形体91の表面に層形成できる手法であることが好ましい。その塗布方法は、特に限定されず、塗布又は噴霧と呼ばれる各種手法を用いることができる。具体例としては、バーコートによる塗布、スピンコートによる塗布、スプレーコートによる塗布、真空中での蒸発又は噴霧、塗布液に浸漬する方法である。塗布層の厚さは、特に限定はないが、塗布層を硬化して得られる硬化層92の厚さが、0.5nm〜100μmとなるようにすることが好ましい。より好ましくは、5nm〜30μmである。特に好ましくは50nm〜300nmである。0.5nm未満では、均一な硬化層92が得られない場合がある。100μmを超えると、硬化時間が増加して、不経済である。表面の活性化といった表面改質効果は単分子層であっても得られるが、5nm以上の厚さとすることで高い密着性向上の効果を安定的に得ることができる。ポリプロピレン又はポリエチレンは、前述のとおり、球晶の性質及び成形性の影響によって、表面が粗くなる傾向にあるが、50nm以上の厚さとすることで表面の平滑化効果及び硬化層92自体のガスバリア性発現の効果が得られやすい。一方で、厚さが100μmを超えると、硬化時間の増加及び経済性の低下が顕著となってくる。
塗布工程に先立って、プラスチック成形体91の表面上に、塗布液が均一に分布するように、濡れ性を高める処理を行うことが好ましい。具体例としては、窒素、酸素又はアルゴンによるプラズマ処理、コロナ放電、オゾン処理、その他各種薬剤処理である。このなかで、窒素プラズマ処理がより好ましい。プラスチック成形体91の表面を粗くすることなく、濡れ性及び硬化層92の密着性の向上効果が得られやすい。
一般式(化1)で表される化合物は、プラスチック成形体91の表面に塗布して、常温・常圧の環境下に放置すると、特別な硬化開始剤の添加なしに、縮合反応が進行して、硬化していく。本実施形態に係る被覆プラスチック成形体の製造方法では、硬化工程は、0℃以上40℃以下で行う工程であることが好ましい。より好ましくは、10℃以上30℃以下である。0℃未満では、硬化に時間がかかりすぎて、現実的な生産方法となりにくい。特に、包装容器用途では現実的でなくなる。40℃を超えると、硬化が急速に進むため、得られる層にクラックが生じやすくなり、ガスバリア性向上効果、その他の機能が低下する場合がある。よって、縮合反応を促進させるために、高温で保持するなどの促進工程を行わないことが好ましい。硬化に必要な時間は、硬化工程を行う温度に応じて異なるが、例えば、30〜500分であることが好ましい。
次に、薄膜93を形成する方法を説明する。
本実施形態に係る被覆プラスチック成形体の製造方法では、塗布工程の後に、更に、塗布層上に、薄膜93を形成する成膜工程を有することが好ましい。本実施形態では、薄膜93を成膜する方法は、特に限定されず、薄膜93の種類に応じて、適宜選択することができる。例えば、薄膜93が、DLC膜である場合には、主としてプラズマCVD法によって成膜することができ、例えば、特開平8−53116号公報、特開平8−53117号公報、特開平9−272567号公報又は特開平10−226884号公報がある。また、薄膜が、SiC膜又は酸化物膜である場合には、発熱体CVD法によって成膜することができ、例えば、WO2006/126677号公報、特開2008−127053号公報、特開2008−127054号公報がある。
本実施形態に係る被覆プラスチック成形体の製造方法では、成膜工程は、一般式(化1)で表される化合物が縮合反応を完了する前に行う工程であることが好ましい。縮合反応を完了する前に成膜工程を行うことで、縮合反応が完了した後に成膜工程を行う場合よりも、より高いガスバリア性を生じさせることができる。具体的には、塗布工程後、実質的な乾燥及び促進工程なしに、所定の時間内に成膜工程を行うことが好ましい。所定の時間内とは、例えば、5分以内であることが好ましく、より好ましくは、1分以内である。このように、縮合反応を促進させるための促進工程を経ずに、塗布工程と成膜工程とを連続的に行うことで、ガスバリア性を高めることができる。このとき、縮合反応が完了する前の硬化層上に直接薄膜を形成しても、ガスバリア性等の機能を有する薄膜が得られ、エージングが不要となる。よって、特別な促進工程及びエージング工程を必要としないため、高速で、かつ、安価に被覆プラスチック成形体の製造を実施することができる。また、硬化工程は、成膜工程において同時に進行するため、また、成膜工程後に完了させることができるようになるため、総工程時間を短縮することができる。特に、成膜工程後は、成膜した表面は乾燥及び硬化した状態にあるとみなせるため、成膜後のプラスチック成形体を容易に取り扱えるようになる。
次に、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
(実施例1)
(プラスチック成形体の作製工程)
プラスチック成形体として、100μm厚のポリプロピレン製フィルムを用いた。ポリプロピレン製フィルムは、シグマアルドリッチ社製ポリプロピレン(分子量19万)を0.25g、市販のプレス機(As One Corporation社製 AH‐2003)を用いて、まずステンレス板の間の型に180℃、5分の条件で弱めに挟んだ後、挟み込む圧力を15MPaに増加させて180℃、5分の条件で0.1mmの厚さのフィルムに成形した。
(親水処理工程)
得られたフィルムの片面を、まずは、プラズマイオンボンバードメント装置(真空デバイス社製 PIB‐10)内で、出力についてハードモードを選択して空気プラズマにより90秒間処理し、親水化した。その際の電流表示値は10mAであった。
(塗布工程)
親水処理面に、スピンコーター(mikasa社製 MS‐A100)を用いて、3000rpm、10分の条件で、塗布液として、一般式(化1)で表される化合物である3‐アミノプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製KBM903)50μlを用い、約200nmの厚さにスピンコートして塗布層を形成した。
(硬化工程)
塗布層を23℃の室内で8時間硬化させて、被覆プラスチック成形体を得た。
(実施例2)
実施例1において、塗布工程で用いる塗布液として、3‐アミノプロピルトリメトキシシランに替えて一般式(化1)で表される化合物であるN‐2‐(アミノエチル)‐3‐アミノプロピルメチルジメトキシシラン(信越シリコーン社製 KBM602)を使用した以外は、実施例1と同様にして、被覆プラスチック成形体を得た。
(実施例3)
実施例1において、塗布工程で用いる塗布液として、3‐アミノプロピルトリメトキシシランに替えて一般式(化1)で表される化合物であるN‐2‐(アミノエチル)‐3‐アミノプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製 KBM603)を使用した以外は、実施例1と同様にして、被覆プラスチック成形体を得た。
(実施例4)
実施例1において、硬化工程を、70℃、35秒間の高温処理により促進させた以外は、実施例1と同様にして、被覆プラスチック成形体を得た。
(実施例5)
実施例1の被覆プラスチック成形体の硬化層上に、薄膜としてDLC膜を形成した。DLC膜の形成は、次に説明する成膜工程によって行った。
(成膜工程)
実施例1の被覆プラスチック成形体を、500mlのPETボトル(高さ200mm、胴外径66mm、口部外径24mm、口部内径22mm、肉厚300μm及び樹脂量29g)の内壁面に沿って、硬化層を容器内部空間側に向けた状態で固定し、特許文献10に開示されるプラズマCVD成膜装置を用いて、20nmのDLC膜を形成した。その際、PETボトルを真空チャンバ内に収容し、5.0Paに到達するまで減圧した。次いで、アセチレンガスを80sccmの流量で供給し、13.56MHzの高周波電力800Wを2秒間印加した。成膜後、PETボトルから被覆プラスチック成形体を取り出して、実施例5の被覆プラスチック成形体を得た。
(実施例6)
実施例5において、実施例2の被覆プラスチック成形体を用いた以外は、実施例5と同様にして、被覆プラスチック成形体を得た。
(実施例7)
実施例5において、実施例3の被覆プラスチック成形体を用いた以外は、実施例5と同様にして、被覆プラスチック成形体を得た。
(実施例8)
実施例1において、硬化工程として成膜工程前に23℃の室内で8時間硬化させる処理を行わず、塗布工程後、直ちに、成膜工程を行い、その後23℃の室内に8時間放置するかたちで硬化工程を完了して、実施例8の被覆プラスチック成形体を得た。成膜工程は、実施例5と同様にして行った。
(実施例9)
実施例1において、ポリプロピレン製フィルムに替えてポリエチレン製フィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして被覆プラスチック成形体を得た。ポリエチレン製フィルムは、実施例1のプラスチック成形体の作製工程において、ポリプロピレン樹脂に替えて、シグマアルドリッチ社製の高密度ポリエチレン樹脂(分子量12.5万)を5g用い、プレス機で使用する温度を150℃とした以外は、ポリプロピレン製フィルムと同様にして作製した。
(実施例10)
実施例5において、実施例9の被覆プラスチック成形体を用いた以外は、実施例5と同様にして、被覆プラスチック成形体を得た。
(実施例11)
実施例1において、ポリプロピレン製フィルムに替えてPETフィルム(東レ社製 ルミラー)を用いた以外は、実施例1と同様にして被覆プラスチック成形体を得た。
(実施例12)
実施例5において、実施例11の被覆プラスチック成形体を用いた以外は、実施例5と同様にして、被覆プラスチック成形体を得た。
(実施例13)
実施例1の被覆プラスチック成形体の硬化層上に、薄膜として酸化珪素(SiO)膜を形成した。SiO膜は、次の成膜工程によって形成した。すなわち、プラズマCVD装置(SAMCO社製 PD‐10装置)を用いて、平行平板の一方に実施例1の被覆プラスチック成形体の硬化層を反応室側に向けた状態で固定し、トリメチルシラン40sccm及び酸素60sccmの混合ガスに、13.56MHzの高周波電力200Wを150秒印加し、プラズマCVD法によって、50nmの酸化珪素薄膜を形成した。
(実施例14)
実施例1の被覆プラスチック成形体の硬化層上に、薄膜として炭化珪素(SiC)膜を形成した。SiC膜は、次の成膜工程によって形成した。すなわち、特許文献11の図1に記載された装置を用いて、30nmの炭化珪素膜を、発熱体CVD法によって形成した。具体的には、実施例1の被覆プラスチック成形体を、500mlのPETボトルの内壁面に沿って、硬化層を容器内部空間側に向けた状態で固定し、該PETボトルを真空チャンバ6内に収容し、1.0Paに到達するまで減圧した。次いで、熱触媒体18として、φ0.5mm、長さ43cmのモリブデンワイヤーを2本用い、熱触媒体18に直流電流を24V印加し、2000℃に発熱させた。その後、ガス流量調整器を用いて、原料ガスとして50sccmのビニルシランを供給し、硬化層上に酸素及び水素を含む炭化珪素膜を堆積させた。成膜後、PETボトルから被覆プラスチック成形体を取り出して、実施例14の被覆プラスチック成形体を得た。
(比較例1)
実施例1において、塗布工程及び硬化工程を行っていないポリプロピレン製フィルムを比較例1とした。
(比較例2)
実施例1において、塗布工程及び硬化工程を行わず、ポリプロピレン製フィルムの親水処理面上に、DLC膜を形成した。DLC膜の形成は、実施例5の成膜工程を同様にして行った。
(比較例3)
実施例1において、親水処理工程後、さらに酸素プラズマによって2秒間処理した処理面にDLC膜を形成した。酸素プラズマ処理は、プラスチック成形体を500mlのPETボトル(高さ200mm、胴外径66mm、口部外径24mm、口部内径22mm、肉厚300μm及び樹脂量29g)の内壁面に沿って、硬化層を容器内部空間側に向けた状態で固定し、特許文献10に開示されるプラズマCVD成膜装置を用いて行った。その際、PETボトルを真空チャンバ内に収容し、5.0Paに到達するまで減圧した。次いで、酸素ガスを80sccmの流量で供給し、13.56MHzの高周波電力800Wを2秒間印加した。また、その後のDLC膜形成は、酸素ガスの供給を停止し、真空状態を維持した状態から、アセチレンガスを80sccmの流量で供給し、13.56MHzの高周波電力800Wを2秒間印加し、20nmのDLC膜を形成した。成膜後、PETボトルから被覆プラスチック成形体を取り出して、比較例3の被覆プラスチック成形体を得た。
(比較例4)
実施例1において、親水処理工程後、さらに窒素プラズマによって2秒間処理した処理面にDLC膜を形成した。窒素プラズマ処理及びその後のDLC膜形成は、比較例3の酸素プラズマ処理において、酸素ガスに替えて窒素ガスを使用した以外は、比較例3と同様にして行った。
(比較例5)
比較例2において、DLC膜に替えて、SiOx膜を形成した。SiOx膜の形成は、実施例13の成膜工程を同様にして行った。
(比較例6)
実施例1において、塗布工程で用いる塗布液として、3‐アミノプロピルトリメトキシシランに替えて3‐グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越シリコーン社製 KBE403)を使用した以外は、実施例1と同様にして被覆プラスチック成形体を作製し、この被覆プラスチック成形体の硬化層上に、実施例5と同様にして、DLC膜を形成した。
(比較例7)
実施例1において、塗布工程で用いる塗布液として、3‐アミノプロピルトリメトキシシランに替えて3‐メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製 KBM503)を使用した以外は、実施例1と同様にして被覆プラスチック成形体を作製し、この被覆プラスチック成形体の硬化層上に、実施例5と同様にして、DLC膜を形成した。
(比較例8)
実施例1において、塗布工程で用いる塗布液として、3‐アミノプロピルトリメトキシシランに替えて3‐メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製 KBM803)を使用した以外は、実施例1と同様にして被覆プラスチック成形体を作製した。
(比較例9)
実施例5において、比較例8の被覆プラスチック成形体を用いた以外は、実施例5と同様にして、被覆プラスチック成形体の硬化層上に、DLC膜を形成した。
(比較例10)
実施例1において、塗布工程で用いる塗布液として、3‐アミノプロピルトリメトキシシランに替えてビニルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製 KBM1003)を使用した以外は、実施例1と同様にして被覆プラスチック成形体を作製し、この被覆プラスチック成形体の硬化層上に、実施例5と同様にして、DLC膜を形成した。
(比較例11)
実施例1において、塗布工程で用いる塗布液として、3‐アミノプロピルトリメトキシシランに替えてp‐スチリルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製 KBM1403)を使用した以外は、実施例1と同様にして被覆プラスチック成形体を作製し、この被覆プラスチック成形体の硬化層上に、実施例5と同様にして、DLC膜を形成した。
(比較例12)
実施例1において、塗布工程で用いる塗布液として、3‐アミノプロピルトリメトキシシランに替えてヘキサメチルジシロキサン(信越シリコーン社製 HMDS3)を使用した以外は、実施例1と同様にして被覆プラスチック成形体を作製し、この被覆プラスチック成形体の硬化層上に、実施例5と同様にして、DLC膜を形成した。
(比較例13)
実施例1において、塗布工程で用いる塗布液として、3‐アミノプロピルトリメトキシシランに替えてヘキサメチルジシラザン(信越シリコーン社製 KF96L065CS)を使用した以外は、実施例1と同様にして被覆プラスチック成形体を作製し、この被覆プラスチック成形体の硬化層上に、実施例5と同様にして、DLC膜を形成した。
(比較例14)
実施例1において、塗布工程で用いる塗布液として、3‐アミノプロピルトリメトキシシランに替えてチタンテトライソプロポキシド(マツモト交商社製 TA‐10)を使用した以外は、実施例1と同様にして被覆プラスチック成形体を作製し、この被覆プラスチック成形体の硬化層上に、実施例5と同様にして、DLC膜を形成した。
(比較例15)
実施例1において、塗布工程で用いる塗布液として、3‐アミノプロピルトリメトキシシランに替えてチタンテトラノルマルブトキシド(マツモト交商社製 TA‐25)を使用した以外は、実施例1と同様にして被覆プラスチック成形体を作製し、この被覆プラスチック成形体の硬化層上に、実施例5と同様にして、DLC膜を形成した。
(比較例16)
実施例9において、塗布工程及び硬化工程を行っていないポリエチレン製フィルムを比較例16とした。
(比較例17)
実施例11において、塗布工程及び硬化工程を行っていないPETフィルムを比較例17とした。
得られた実施例及び比較例の被覆プラスチック成形体又はプラスチック成形体の組成を表1に示す。これらについて、次の方法で評価を行った。
(元素濃度)
実施例1,2及び3について、硬化層の元素濃度を測定した。元素濃度は、硬化層の表面を走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 SU1510)で1000倍に拡大した視野(100μm四方)において、EDX装置(堀場製作所社製 EMAX X‐Max)を用いてEDX解析を行った。EDX解析の条件は次のとおりである。解析は、観察する部分を変えて4箇所について行った。Mの元素濃度を1としたときのO,C及びNの元素濃度の比を表2に示す。
加速電圧:8.0kV
測定圧:60Pa
プローブ電流:67.0μA
(ガスバリア性‐BIF)
酸素透過度は、酸素透過度測定装置(型式:Oxtran 2/21、Modern Control社製)を用いて、23℃、90%RHの条件にて測定し、測定開始から5時間コンディションし、測定開始から6時間経過後の値とした。ガスバリア性の向上率をBIF(Barrier Improvement Factor)で評価した。BIFは数1で求めた。評価結果を表3に示す。
(数1)BIF=[未被覆のプラスチック成形体の酸素透過度]/[実施例又は比較例の被覆プラスチック成形体の酸素透過度]
数1において、未被覆のプラスチック成形体の酸素透過度は、被覆プラスチック成形体がPPフィルムのときは、比較例1のサンプルの酸素透過度、プラスチック成形体がPEフィルムのときは、比較例16のサンプルの酸素透過度、プラスチック成形体がPETフィルムのときは、比較例17のサンプルの酸素透過度とした。
(密着性)
pH4.01(25℃)のフタル酸塩pH標準液(品番:168−12145、和光純薬工業社製)を50℃に加温したところへ、被覆プラスチック成形体を20mm×20mmに切断した試験片を浸漬し、浸漬直後及び浸漬10日後の表面状態をレーザ顕微鏡(型式:VK‐9510、キーエンス社製)を用いて視野100μm×100μmにおける膜の剥離の有無を観察し、弱酸性水溶液に対する薄膜の外観評価を行った。また、同様に、pH6.83(25℃)のリン酸塩pH標準液(品番:165−12155、和光純薬工業社製)を用いて、中性域水溶液に対する薄膜の外観評価を行った。なお、観察前には試験片を水溶液中で穏やかに揺らして、剥離の有無を観察しやすくした。評価基準は次のとおりである。評価結果を表3に示す。
○:剥離なし(実用レベル)
△:一部に剥離あり(実用不適)
×:全体的に剥離あり(実用不適)
Figure 0005610536
Figure 0005610536
Figure 0005610536
実施例1〜実施例14は、いずれも、ガスバリア性が向上しており、また、密着性が良好で、かつ、弱酸性〜中性域における耐内容物性を有していることが確認できた。実施例1〜4は、プラスチック成形体上に、硬化層を備える被覆プラスチック成形体であるが、硬化層だけでもガスバリア性が向上しており、硬化層が密着層としてだけでなく、ガスバリア層としても作用することが確認できた。プラスチック成形体がPETである実施例11では、BIFが1.7であったが、プラスチック成形体がポリプロピレンである実施例1では、BIFが127.9、プラスチック成形体がポリエチレンである実施例9では、BIFが47.3であった。このように、本発明に係る被覆プラスチック成形体では、プラスチック成形体がポリプロピレン又はポリエチレンである場合において、顕著なガスバリア性向上の効果が得られることが確認できた。そもそも、PETは、比較例1、比較例16及び比較例17からわかるように、ポリプロピレン又はポリエチレンよりも、素材自体が有するガスバリア性が高いため、実施例11のようにBIFは小さい結果となった。しかし、実施例12のように硬化層上にガスバリア薄膜を形成することで、酸素透過率が1.9cc/m・日に低下し、硬化層の下地層としての効果によって、ガスバリア薄膜のガスバリア性を良好に発現させることができた。
特に、実施例1は、高いガスバリア性を有していた。実施例2と実施例3とを比較すると、実施例3の方が、BIFが大きかった。一般式(化1)において、nを0として、M(実施例3ではSi)にメトキシ基が3つ結合している化合物を用いることで、より大きなガスバリア性向上効果があることが確認できた。実施例4では、縮合反応を促進させるために、高温処理を行ったが、実施例1と実施例4とを比較すると、実施例1の方が、高いガスバリア性を有していた。縮合反応を促進させるための高温処理などの促進工程を行わないことが好ましいことが確認できた。実施例5と実施例8とを比較すると、実施例8の方が、BIFが大きく、成膜工程を縮合反応が完了する前に行うことによって、ガスバリア性を更に向上させることができることが確認できた。そして、塗布工程と成膜工程との間に硬化工程を行う時間を設けなくとも、硬化工程が、成膜工程において同時に進行するため、また、成膜工程後に完了するようにできるため、総工程時間を顕著に短縮できることが確認できた。このことは、有意なコスト削減につながる。
比較例2は、ポリプロピレン製フィルムの親水処理面上にDLC膜を形成したが、BIFが2未満で、実施例5〜8のようなガスバリア性向上効果を得ることができなかった。また、実施例5〜8で見られたような水溶液中での密着性を得ることができなかった。比較例3は、酸素プラズマによる処理面上にDLC膜を形成したが、BIFが2未満であり、ガスバリア性向上効果を得ることができなかった。比較例4は、窒素プラズマによる処理面上にDLC膜を形成したが、BIFは2.1に留まり、やはり実施例5〜8のようなガスバリア性向上効果を得ることができなかった。比較例5は、ポリプロプレン製フィルムの親水処理面上にSiOx膜を形成したが、BIFが2未満で、実施例13で見られたような水溶液中での密着性を得ることができなかった。また、ガスバリア性向上効果を得ることができなかった。比較例6、比較例7、比較例9〜比較例15は、アミノ基を有しないカップリング剤を用いて硬化層及びDLC膜を形成したが、いずれも、実施例5〜8で見られたような、顕著なガスバリア性向上は見られず、下地層としての効果は不十分であった。特に、比較例7又は比較例10で用いたカップリング剤は、一般にポリプロピレン基材との密着に優れるとされているメタクリロキシ基又はビニル基を有するカップリング剤であるが、いずれも、DLC膜によるガスバリア性向上には下地層として有意な効果を発揮しなかった。
本発明に係る被覆プラスチック成形体は、ガスバリア性及び弱酸性〜中性域における耐内容物性を有するから、特に、水、お茶、清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料などの飲料用容器や、錠剤その他の固形物の医薬品容器、食品容器を構成する包装材料として適している。
90 被覆プラスチック成形体
91 プラスチック成形体
92 硬化層
93 薄膜

Claims (9)

  1. プラスチック成形体と該プラスチック成形体の表面に、縮合反応の反応物として一般式(化1)で表される化合物だけ溶剤を用いずに縮合反応させて形成した硬化層と、該硬化層上に、化学気相成長法又は物理気相成長法で形成した薄膜とを備え
    前記硬化層は、一般式(化1)においてMの元素濃度を1とした場合に、元素濃度比で、Oを3.0〜4.5、Cを3.0〜16.5、Nを0.5〜2.5含有する層であることを特徴とする被覆プラスチック成形体。
    (化1)R−M−(CH(OR´)3−n
    一般式(化1)において、Mは珪素又は金属を表す。Rはアミノ基を有する炭化水素鎖を表す。R´は炭素数1〜4のアルキル基を表す。また、nは、0,1又は2を表す。
  2. 一般式(化1)で表される化合物が、N‐2‐(アミノエチル)‐3‐アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N‐2‐(アミノエチル)‐3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、3‐アミノプロピルトリメトキシシラン又はN‐フェニル‐3‐アミノプロピルトリメトキシシランであることを特徴とする請求項1に記載の被覆プラスチック成形体。
  3. 前記プラスチック成形体が、ポリプロピレン、ポリエチレン又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の被覆プラスチック成形体。
  4. 前記薄膜が、ガスバリア薄膜であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の被覆プラスチック成形体。
  5. 前記ガスバリア薄膜が、DLC膜、SiC膜又は酸化物膜であることを特徴とする請求項に記載の被覆プラスチック成形体。
  6. 前記プラスチック成形体が、容器であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一つに記載の被覆プラスチック成形体。
  7. プラスチック成形体の表面に、縮合反応の反応物として一般式(化1)で表される化合物だけを用い、溶剤を用いない塗布液を塗布して塗布層を形成する塗布工程と、
    一般式(化1)で表される化合物の縮合反応を進めて、前記塗布層を硬化して硬化層を形成する硬化工程とを順に有し、
    前記塗布工程の後に、更に、前記塗布層上に、薄膜を形成する成膜工程を有し、
    前記硬化層は、一般式(化1)においてMの元素濃度を1とした場合に、元素濃度比で、Oを3.0〜4.5、Cを3.0〜16.5、Nを0.5〜2.5含有する層であることを特徴とする被覆プラスチック成形体の製造方法。
    (化1)R−M−(CH (OR´) 3−n
    一般式(化1)において、Mは珪素又は金属を表す。Rはアミノ基を有する炭化水素鎖を表す。R´は炭素数1〜4のアルキル基を表す。また、nは、0,1又は2を表す。
  8. 前記成膜工程は、一般式(化1)で表される化合物が縮合反応を完了する前に行う工程であることを特徴とする請求項に記載の被覆プラスチック成形体の製造方法。
  9. 前記硬化工程は、0℃以上40℃以下で行う工程であることを特徴とする請求項7又は8に記載の被覆プラスチック成形体の製造方法。
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