JP2015166170A - ガスバリア性積層体 - Google Patents

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Abstract

【課題】無機膜上に原子層堆積法による膜が形成され、高いガスバリア性を有しているばかりか、生産性にも優れたガスバリア性積層体を提供する。【解決手段】無機酸化物層3上に原子層堆積法による極薄金属酸化物膜5が形成されているガスバリア性積層体10であって、無機酸化物層3がSi及びAlの少なくとも一方を含む金属酸化物若しくは金属酸窒化物から形成されており、極薄金属酸化物の密度が4.2g/cm3以上であることを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、原子層堆積法による薄膜が無機膜上に形成されているガスバリア性積層体に関するものである。
各種プラスチック基材の特性、特にガスバリア性を改善するための手段として、プラスチック基材の表面に、ケイ素酸化物などからなる無機バリア層を形成することが知られている(特許文献1)。
ところで、近年において開発され、実用されている各種の電子デバイス、例えば有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)、太陽電池、タッチパネル、電子ペーパーなどでは、電荷のリークを嫌うため、その回路基板などを形成するプラスチック基材或いは回路基板を封止するフィルムなどのプラスチック基材に対して高い水分バリア性が要求されている。上記で述べた無機バリア層は、所謂ガスバリア性樹脂などによって形成される有機膜に比して高いガスバリア性を示すのであるが、膜の性質上、どうしてもピンホールやクラック等の構造的欠陥や、膜を構成するM−O−Mネットワーク中にガスの通り道となるM−OH結合(結合欠陥)が存在しており、この結果、これ単独では、有機EL等の分野で要求されているハイバリア性を満足させることができず、ガスバリア性のさらなる向上が求められている。
また、最近では、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition)と呼ばれる成膜法の研究も進めされており、かかる方法により形成される膜を無機膜上に形成することにより、水分バリア性が向上したガスバリア性積層体も提案されている(特許文献2)。
かかる技術は、無機膜中に存在する欠陥を、該無機膜上に原子層堆積法による膜を形成することにより修復して水分バリア性等のガスバリア性を大きく向上させるというものである。
しかしながら、原子層堆積法(以下、ALD法と呼ぶことがある)による成膜法は、成膜速度が遅いという欠点がある。
即ち、ALD法は、無機膜上にAl化合物等の金属化合物のガスと水蒸気等とを反応ガスとして供給し、該金属酸化物の単分子膜を形成し、次いで反応性ガスをパージした後、再び反応性ガスを供給し、該金属酸化物膜を積み重ねていくという操作を繰り返して行うものであり、このため、目的とするハイバリア性を実現するにはかなりの時間がかかり、このため、生産性が低く、その実用化が妨げられているのが実情である。
特開2000−255579号公報 特開2011−241421号公報
従って、本発明の目的は、無機膜上に原子層堆積法による膜が形成され、高いガスバリア性を有しているばかりか、生産性にも優れたガスバリア性積層体を提供することにある。
本発明者等は、無機膜上に原子層堆積法による膜を形成した場合のガスバリア性について多くの実験を行った結果、ある種の条件を満足する場合には、原子堆積法による膜の厚みを極薄とした場合にも無機膜のガスバリア性を著しく向上させ得るという知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明によれば、無機酸化物層上に原子層堆積法による極薄金属酸化物膜が形成されているガスバリア性積層体であって、該無機酸化物層がSi及びAlの少なくとも一方を含む金属酸化物若しくは金属酸窒化物から形成されており、該極薄金属酸化物膜の膜密度が4.2g/cm以上であることを特徴とするガスバリア性積層体が提供される。
本発明のガスバリア性積層体においては、
(1)前記無機酸化物層がプラスチック基材上に形成されていること、
(2)前記無機酸化物層のMOH/MO比(MはSiまたはAl)が0.1以下であること、
(3)前記極薄金属酸化物膜がTi、Zr及びHfから選択された少なくとも1種の金属を含むこと、
(4)前記無機酸化物層の厚みd1と前記極薄金属酸化物膜の厚みd2との比(d1/d2)が3〜50であること、
(5)前記極薄金属酸化物膜の厚みd2が0.5〜9nmの範囲にあること、
が好ましい。
本発明のガスバリア性積層体は、プラスチック基材などの基材表面に形成された無機酸化物層上に原子層堆積法による膜(ALD膜)が形成された積層構造を有するものであるが、無機酸化物層がSi或いはAlの酸化物若しくは酸窒化物が形成されており、さらに、この上に形成されたALD膜が、膜密度が4.2g/cm以上である酸化物膜であり且つ無機酸化物層の厚みの1/3以下の極薄であるという点に顕著な特徴を有する。
即ち、ALD膜が極薄であるため、その成膜時間は短くてよく、例えば無機酸化物層との反応及びパージを1サイクルとしたとき、1サイクルで得られる単原子層の厚さを0.2nmとしたなら成膜に要するサイクル数は45以下でよく、従って、本発明のガスバリア性積層体は、ALD膜を備えていながら高い生産性を示す。
さらに、本発明のガスバリア性積層体は、無機酸化物層上に形成されているALD膜が極薄でありながら、極めて高いガスバリア性を示す。例えば、後述する実施例からも理解されるように、本発明に従ってALD膜が無機酸化物層(SiO層)上に形成されている本発明のガスバリア性膜では、このようなALD膜が形成されていないものに比して、水分バリア性が3倍以上、特に40倍以上も向上している。即ち、ALD膜が極薄であるにもかかわらず、ガスバリア性の著しい向上がもたらされることは全く意外であると言わざるを得ない。
本発明において、このようなガスバリア性の著しい向上がもたらされる理由は、明確に解明されているわけではないが、おそらく、無機酸化物層に存在しているピンホールなどの欠陥内部に無機酸化物層よりも高密度の酸化物の分子が選択的に侵入しており、このため、ALD膜の厚みが極薄でありながら、無機酸化物層のピンホール等の欠陥が補修され、著しく高いガスバリア性がもたらされているのではないかと推定している。
本発明のガスバリア性積層体は、水分バリア性等のガスバリア性が著しく向上しているばかりか、生産性にも優れているため、各種電子デバイスの基板や封止層として有用であり、特に有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)パネルへの実用化が期待される。
本発明のガスバリア性積層体の層構造を示す概略断面図である。
<ガスバリア性積層体の層構造>
本発明のガスバリア性積層体の概略断面を示す図1を参照して、全体として10で示すこの積層体は、所定の基材1と、基材1の表面に形成された無機酸化物層3と原子層堆積法により形成された極薄膜5(以下、ALD極薄膜と呼ぶ)とを有している。
基材1;
無機酸化物層3の下地となる基材1としては、特に制限されず、例えば金属やガラスであってもよいが、高いガスバリア性を実現させるという本発明の目的からいって、通常は、プラスチック基材が使用される。このようなプラスチック基材のプラスチックは、それ自体公知の熱可塑性或いは熱硬化性の樹脂から形成されたものであってよい。
このような樹脂の例としては、これに限定されるものではないが、例えば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンあるいはエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン同志のランダムあるいはブロック共重合体等のポリオレフィン、環状オレフィン共重合体など、そしてエチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等のエチレン・ビニル化合物共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α−メチルスチレン・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のポリビニル化合物、ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の熱可塑性ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフエニレンオキサイドや、その他、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フッ素樹脂、アリル樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ケトン樹脂、アミノ樹脂、或いはポリ乳酸などの生分解性樹脂等を例示することができ、さらに、これらのブレンド物や、これら樹脂が適宜共重合により変性されたものであってもよいし、多層構造を有していてもよい。
特に、透明性が要求される用途においては、上記の中でもPETやPENなどのポリエステル樹脂が好適であり、更に耐熱性も要求される用途においては、ポリカーボネートやポリイミド樹脂が好適である。
勿論、上述した各種の樹脂には、それ自体公知の樹脂配合剤、例えば酸化防止剤、滑剤等が配合されていてもよい。
また、プラスチック基材の形態は、水分や酸素に対するバリア性が十分に発揮されるようなものであれば特に制限されず、用途に応じた適宜の形態を有していればよいが、板状或いはフィルム乃至シートの形態を有している場合が最も一般的である。
さらに、その厚み等は、用途に応じた特性(例えば可撓性、柔軟性、強度等)、適宜の範囲に設定される。
このようなプラスチック基材は、その形態やプラスチックの種類に応じて、射出乃至共射出成形、押出乃至共押出成形、フィルム乃至シート成形、圧縮成形性、注型重合等の公知の成形手段により成形することができる。
無機酸化物層3;
基材1上に形成される無機酸化物層3は、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティングなどに代表される物理蒸着や、プラズマCVDに代表される化学蒸着などによって形成されるが、特に、Siの酸化物や酸窒化物(SiOやSiO)、或いはAlの酸化物や酸窒化物(AlやAl)から形成される。勿論、Siの酸化物や酸窒化物とAlの酸化物と酸窒化物とが混在するものであってもよい。
本発明においては、特に、プラスチック製の基材に対して高い密着性を確保でき、さらに、成膜条件により膜物性を容易にコントロールすることができ、しかも凹凸を有する面にも均一に成膜されるという観点から、プラズマCVDにより形成されることが好ましい。
プラズマCVDによる成膜は、所定の真空度に保持され且つ金属壁でシールドされたプラズマ処理室内に、無機酸化物層を形成すべき基材1を配置し、膜形成する金属若しくは該金属を含む化合物のガス(反応ガス)及び酸化性ガス(通常酸素やNOのガス)を、適宜、アルゴン、ヘリウム等のキャリアガスと共に、ガス供給管を用いて該プラズマ処理室に供給し、この状態でマイクロ波電界や高周波電界などによってグロー放電を発生させ、その電気エネルギーによりプラズマを発生させ、上記化合物の分解反応物を基材1の表面に堆積させることにより行われる。
尚、マイクロ波電界による場合は、導波管等を用いてマイクロ波をプラズマ処理室内に照射することにより成膜が行われ、高周波電界による場合は、プラズマ処理室内の基材1を一対の電極の間に位置するように配置し、この電極に高周波電界を印加して成膜が行われる。
上記の反応ガスとしては、一般に、トリアルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物や有機ケイ素化合物等のガスが使用されるが、有機アルミニウムは自己発火性を有するなど取扱い難いため、有機ケイ素化合物が好適に使用される。
このような有機ケイ素化合物の例としては、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメチルシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等の有機シラン化合物、オクタメチルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン等の有機シロキサン化合物等が使用される。また、これら以外にも、アミノシランやシラザンなどを用いることもでき、この場合には、Siの酸窒化物を主体とする膜を形成することができる。
尚、上述した有機金属化合物は、単独でも或いは2種以上の組合せでも用いることができる。
本発明においては、上記のようにして形成される無機酸化物層3のMOH/MO比(M=SiまたはAl)が0.1以下に調整されていることが好ましい。即ち、このモル比は、無機酸化物層3に存在している結合欠陥の割合を示すものであり、このモル比が大きいほど(MOHが多い)結合欠陥が多く、モル比が小さいほど(MOHが少ない)結合欠陥が少ないことを示す。即ち、結合欠陥が存在している部分では、M−O−Mのネットワークが切れてMOHが生成しているからである。
このようなMOH/MO比の値は、成膜雰囲気や成膜条件によって調整することができ、例えば、CVD法により成膜を行う場合には、グロー放電のためのマイクロ波や高周波の出力を高くすることにより、膜の酸化度を高め、MOH/MO比の値を上記範囲内に調整し、ピンホールを少なくすることができる。
尚、MOH/MO比をゼロにすることが理想的であるが、MOH/MO比が小さすぎる場合、膜の可撓性が著しく低下し、脆く割れやすくなるため、少なくともは0.001以上に留めておくことが好ましく、0.005以上に留めておくことが特に好ましい。
即ち、本発明では、無機酸化物層3のMOH/MO比の値が上記範囲内に設定され、結合欠陥がある程度低減されている場合に、後述するALD極薄膜5によるガスバリア性向上効果が最大限に発揮される。
また、本発明において、CVD法ではグロー放電のための出力を高出力とすることにより、膜の酸化度を高め、MOH/MO比の値を上記範囲内に調整することができることは上述したとおりであるが、この場合、無機酸化物中のOH基による基材とのインタラクション(化学的結合や水素結合)が少なくなり、プラスチック製の基材に対する密着性が損なわれることがある。かかる不都合を回避するため、成膜開始時は、低出力でCVD法による成膜を行い、プラスチック製の基材1との界面近傍に位置する膜中の有機成分の量を増大させ、これにより、この部分での基材との親和性を高めることで、プラスチック製の基材1との密着性を高めるのがよい。低出力で成膜を行った後は、高出力で成膜を行い、結合欠陥を少なくし、MOH/MO比が上記範囲内となるように調整すればよい。
さらに、上述した無機酸化物層3の厚みd1は、ガスバリア性積層体10の用途や要求されるガスバリア性のレベルによっても異なるが、一般的には、10−2g/m/day以下、特に10−3g/m/day以下の水蒸気透過度が確保できる程度の厚みとするのがよく、4乃至500nm、特に30乃至400nm程度の厚みを有していればよい。
ALD極薄膜5;
上記の無機酸化物層3上に形成されるALD極薄膜5は、原子層堆積法(ALD法)によって形成される極薄の金属酸化物膜であり、膜密度4.2g/cm以上の金属酸化物により形成されている。
このような金属酸化物膜の例としては、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、二酸化ハフニウム、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化バナジウム、五酸化ニオブ、五酸化タンタル、三酸化タングステン等が例示でき、これら金属酸化物を単独でも或いは2種類以上を組み合わせて用いることが出来る。
例えば、上記金属Xのアルコキシドのガスを原料として使用し、該原料ガス(プリカーサーと呼ばれる)を無機酸化物層3上に供給する。これにより、無機酸化物層3に存在しているMOH(MはSi,Al)とプリカーサーとが反応し、M−O−Xにより原料ガスの金属が無機酸化物層3の表面に結合することとなる。
次いで、Ar等の不活性ガスをパージガスとして使用し、副生したアルコールと未反応のプリカーサーをパージする。
この後に、反応ガス(O, HO等)をパージしながら供給する。これにより、無機酸化物層3の表面には、X−O−Xのネットワークが形成され、上記金属Xの酸化物の超薄膜が形成されることとなる。
上記のプロセスを1サイクルとして、繰り返し行うことにより、目的とするALD極薄膜5が形成されることとなる。即ち、2サイクル目では、再度、プリカーサーの供給、パージ、反応ガスの供給を繰り返すわけである。
尚、上記のようにしてALD極薄膜5を形成するに際して、プリカーサーとしては、前記金属Xのアルコキシドやアミド化合物が使用されるが、特に耐熱性の低いプラスチック基材を用いる場合は、蒸気圧が高く、低温で成膜が可能なテトラターシャリーブチルアルコキシドの使用が好ましい。
このようにして無機酸化物層3上にALD極薄膜5が形成されるのであるが、かかる極薄膜5は、無機酸化物層3上に存在するMOHを起点として形成されており、このMOHは、無機酸化物層3表面に結合末端として存在する。また、無機酸化物層3上に少なからず存在する、ピンホール等の欠陥内部の内壁部には結合末端のMOHが多量に存在している。ALDの原料ガス及び反応ガスは、こうした欠陥の奥深くにも入り込むことが出来るため、欠陥の内部で特に成膜が進行する。即ち、本発明では、結合末端のOH基が多量に存在する欠陥部内部から成膜が進行することで、無機酸化物層3上の欠陥が選択的にALD極薄膜5によって修復されており、この結果、膜密度4.2g/cm以上であればALD極薄膜5の厚みが極めて薄いにも関わらず、無機酸化物層3のガスバリア性を大きく向上させることができるのである。
本発明において、かかるALD極薄膜5の厚みは、無機酸化物層3の厚みに応じて適宜変更することが好ましく、例えば、無機酸化物層3の厚みd1が厚いほどALD極薄膜5の厚みd2を厚く設定し、無機酸化物層3の厚みd1が薄ければ、ALD極薄膜5の厚み金属酸化物膜の厚みd2を薄くすることができる。即ち、無機酸化物層3の厚みd1が厚いほど、該層3のガスバリア性は高いが、反面、クラックの欠陥が多くなり、このような欠陥がガスバリア性に与える影響が大きく、これを回避するために、ALD極薄膜5の厚みも厚くすることが望ましく、無機酸化物層3の厚みd1が薄い場合には、クラックの欠陥部も少なく、ピンホールの欠陥に対する修復だけで良いため、その修復に要するALD極薄膜5の厚みd2は薄くてもよいこととなる。
上記のような観点から、本発明では、無機酸化物層の厚みd1とALD極薄膜5の厚みd2との比(d1/d2)が3〜50、特に6〜50の範囲に設定されることが好ましい。
また、本発明では、生産性を高めるという観点から、ALD極薄膜5の厚みd2を0.5〜9nmの範囲に設定し、これに基づいて、無機酸化物層3の厚みd2等を設定することが望ましい。即ち、厚みd2が上記範囲内にあるようなALD極薄膜5は、前述した製造プロセスのサイクル数が45以下で成膜でき、高い生産性を確保することができるからである。
さらに、上述したALD極薄膜5は、Ti、ZrまたはHfから選択された金属Xを含む酸化物が、反応性、コスト及びガスバリア性向上効果の観点から好適であり、中でもコストの点でTi或いはZrがより好適であり、反応性とガスバリア性向上効果の点で、Zrが最適である。
その他の層;
本発明のガスバリア性積層体10は、上述したように、無機酸化物層3上にALD極薄膜5が設けられているという基本構造を有しているが、例えば水分バリア性等のガスバリア性が損なわれず且つ生産性が大きく損なわれない限りにおいて、ALD極薄膜5の上に、適宜有機層を設け、これにより、表面平滑性、印刷適性、耐候性、表面保護等の特性を付与することができる。
このような有機層は、ALD極薄膜5に対して高い密着性を確保し得るものであれば任意の樹脂で形成されていてよく、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、シクロオレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ハロゲン系樹脂などを使用できる。
また、上記のような有機層を形成した後、さらに、その上に、酸素に対するバリア性をさらに向上させるために、エチレン−ビニルアルコール共重合体や芳香族ポリアミドなどからなる酸素バリア層を設けることもできるし、鉄、コバルト等の遷移金属を含む酸素吸収性層を設けることも可能である。あるいは水蒸気に対するバリア性をさらに向上させるために、ポリオレフィンやシクロオレフィンにゼオライト等を分散させた水蒸気吸収性層を設けることも可能である。
これらの各層は、公知の手段、例えば、公知の手段、例えば共押出、コーティング、適当な接着剤を用いてのドライラミネーション等により容易に形成することができる。
さらに、上記の有機層等の上に、無機酸化物層を蒸着により形成してガスバリア層をより向上させることもできる。かかる無機酸化物層は、前述した無機酸化物層3と同じものであってよい。
<用途>
本発明のガスバリア性積層体10は、ALD極薄膜5により無機酸化物層3のガスバリア性、例えば水分に対するバリア性や酸素に対するバリア性が高められており、しかも、生産性にも優れていることから、各種の電子デバイス、例えば有機EL素子、太陽電池、電子ペーパーなどの電子回路を封止するためのフィルムとして好適に使用することができ、さらには、基材1としてPET、PEN、ポリカーボネート、ポリイミド樹脂等の透明性に優れたプラスチック製のフィルムが使用されている場合には、この上に、透明電極を形成し、その上に発光層などを有する有機ELの発光素子や太陽電池の光発電素子を形成することもできる。
本発明のガスバリア性積層体の優れた性能を、以下の実験例により説明する。
<MOH/MO比の測定>
MOH/MO比は膜の品質を表し、値が小さい程、膜中の結合欠陥が少なく緻密な膜である。MOH/MO比の測定は、成膜をした基材の成膜面をフーリエ変換赤外分光光度計で測定して算出する。差スペクトル法により赤外吸収スペクトルを測定した結果、ケイ素酸化膜は、930〜1060cm−1付近に赤外吸収ピークがあり、波数930cm−1付近のSiOH基の吸収ピーク高さ(A1)を求め、更に波数1060cm−1付近のSiO基の吸収ピーク高さ(A2)を求め、A1/A2からSiOH/SiOの赤外吸光度比(A)を求めた。アルミ酸化膜は、950〜1130cm−1付近に赤外吸収ピークがあり、波数1130cm−1付近のAlOH基の吸収ピーク高さ(B1)を求め、更に波数950cm−1付近のAlO基の吸収ピーク高さ(B2)を求め、B1/B2からAlOH/AlOの赤外吸光度比(B)を求めた。
<膜厚及び膜密度の測定>
X線反射率分析法によって、成膜面に極浅い角度でX線を入射させ、その入射角対鏡面方向に反射したX線強度プロファイルを測定し、得られたプロファイルをシミュレーション結果と比較し、シミュレーションパラメータを最適化することによって、膜厚及び膜密度を決定した。
<水蒸気バリア性の測定>
成膜をしたプラスチック基材の40℃、相対湿度90%RHにおける水蒸気透過度を、水蒸気透過度測定装置(Modern Control社製、PERMATRAN-W 3/30)を用いて測定した。
また、水蒸気透過度測定装置の測定限界未満の水蒸気透過度は、特開2010―286285号公報に記載の方法に基づき、以下のような方法で測定している。
試料のガスバリア性積層体の無機バリア層面に、真空蒸着装置(日本電子株式会社製、JEE−400)を用いて、真空蒸着により300nmの厚みのCa薄膜(水腐食性金属の薄膜)を形成し、さらに、Ca薄膜を覆うように540nmの厚みのAl蒸着膜(水不透過性金属薄層)を成膜して試料片を作製した。
尚、Ca薄膜は、金属カルシウムを蒸着源として使用し、所定のマスクを介しての真空蒸着により、1mmφの円形部分6箇所に形成した。また、Al蒸着膜は、上記のマスクを真空状態のまま取り去り、装置内のAl蒸着源から引き続き真空蒸着を行うことにより成膜した。
上記のようにして形成された試料を、吸湿剤としてシリカゲル(吸湿能力 300mg/g)を充填したガス不透過性カップに装着し、固定リングで固定して評価用ユニットとした。
このようにして作製された評価用ユニットを、40℃90%に雰囲気調整された恒温恒湿槽に520〜720時間保持した後、レーザー顕微鏡(Carl Zeiss社製、レーザスキャン顕微鏡)により試料のCa薄膜の腐食状態を観察し、金属カルシウムの腐食量から水蒸気透過度を算出した。
<ALDによるバリア向上効果の評価>
ガスバリア積層体において、無機酸化物層上にALD法により極薄金属酸化物層5を施すことで、バリア性が3倍以上に向上している場合を○、バリア性が10倍以上に向上している場合を◎、バリア性が3倍未満のものを×とした。
(実施例1)
ケイ素酸化物成膜;
周波数27.12MHz、最大出力2kWの高周波出力電源、マッチングボックス、直径300mm、高さ450mmの金属型円筒形プラズマ成膜室、成膜室を真空にする真空式ポンプを有するCVD装置を用いた。プラスチック基材は120mm角で100μmの厚みのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。成膜室内の給電電極にプラスチック基材を設置し、真空式ポンプで排気口1より排気を行いながら、該給電電極の近傍のガス吹き出し口1から原料ガスとして、ヘキサメチルジシロキサンを3sccm、酸素を45sccm導入後、高周波発振器により300Wの出力で高周波を発振させ、50秒間プラズマ処理をおこないプラスチック基材の一方の面にケイ素酸化膜を被覆した。
極薄ジルコニウム酸化物ALD成膜;
基材上にケイ素酸化膜を被覆後、真空成膜室にアルゴンガスを60sccmで5秒間導入し、前記ケイ素酸化膜被膜時の余剰ガスをパージした。その後、原料ガスとしてジルコニウムテトラターシャリブトキシドをキャリアガスのアルゴンガスと共に、20sccmで2秒間導入した(キャリアガスを除いた原料の供給量は0.01g/minとした)。次にアルゴンガスを60sccmで5秒間導入し、真空成膜室内をパージした後、反応ガスとして水蒸気を10sccmで2秒間導入した。ここまでをALDの1サイクルとし、計20サイクル繰り返すことで、ケイ素酸化物層上に原子20層分の極薄ジルコニウム酸化物層を有するポリエチレンテレフラレートフィルム、即ちガスバリア積層体を得た。
(実施例2)
実施例1において、ケイ素酸化物成膜工程で、原料ガスとして前記ガスに加えてアンモニアガスを10sccmで導入し、ケイ素酸窒化物層とする以外は実施例1と同様の方法でガスバリア積層体を得た。
(実施例3)
実施例1において、ALD原料ガスとしてジエチル亜鉛を用いて極薄亜鉛酸化物を成膜する以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア積層体を得た。
(実施例4)
実施例1において、ALD原料ガスとしてテトラキスジメチルアミノチタンを用いて極薄チタン酸化物を成膜する以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア積層体を得た。
(実施例5)
実施例1において、ALD原料ガスとしてテトラキスエチルメチルアミノハフニウムを用いて極薄ハフニウム酸化物を成膜する以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア積層体を得た。
(実施例6)
実施例1において、ケイ素酸化物成膜工程で、高周波発振器の出力を100Wとする以外は実施例1と同様の方法でガスバリア積層体を得た。
(実施例7)
実施例1において、ケイ素酸化物成膜工程で、プラズマ処理の時間を100秒とし、極薄ジルコニウム酸化物成膜工程で、ALDサイクルを5回とする以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア積層体を得た。
(実施例8)
実施例1において、極薄ジルコニウム酸化物成膜工程で、ALDサイクルを100回とする以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア積層体を得た。
(実施例9)
実施例1において、極薄ジルコニウム酸化物成膜工程で、ALDサイクルを80回とする以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア積層体を得た。
(実施例10)
実施例1において、極薄ジルコニウム酸化物成膜工程で、ALDサイクルを5回とする以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア積層体を得た。
(実施例11)
実施例1において、ケイ素酸化物成膜工程で、プラズマ処理の時間を10秒とし、極薄ジルコニウム酸化物成膜工程で、ALDサイクルを2回とする以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア積層体を得た。
(実施例12)
アルミ酸化物成膜;
周波数27.12MHz、最大出力2kWの高周波出力電源、マッチングボックス、直径300mm、高さ450mmの金属型円筒形プラズマ成膜室、成膜室を真空にする真空式ポンプを有する高周波マグネトロンスパッタリング装置を用いた。プラスチック基材は120mm角で100μmの厚みのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。成膜室内の給電電極にアルミニウムターゲットを設置し、対向電極側にプラスチック基材を設置し、真空式ポンプで排気口1より排気を行いながら、該給電電極の近傍のガス吹き出し口1からアルゴンガスを100sccm、酸素を25sccm導入後、高周波発振器により300Wの出力で高周波を発振させ、300秒間スパッタリング処理をおこないプラスチック基材の一方の面にアルミ酸化膜を被覆した。
極薄ジルコニウム酸化物ALD成膜;
基材上にアルミ酸化膜を被覆後、真空成膜室にアルゴンガスを60sccmで5秒間導入し、前記アルミ酸化膜被膜時の余剰ガスをパージした。その後、原料ガスとしてジルコニウムテトラターシャリブトキシドをキャリアガスのアルゴンガスと共に、20sccmで2秒間導入した(キャリアガスを除いた原料の供給量は0.01g/minとした)。次にアルゴンガスを60sccmで5秒間導入し、真空成膜室内をパージした後、反応ガスとして水蒸気を10sccmで2秒間導入した。ここまでをALDの1サイクルとし、計20サイクル繰り返すことで、アルミ酸化物層上に原子20層分の極薄ジルコニウム酸化物層を有するポリエチレンテレフラレートフィルム、即ちガスバリア積層体を得た。
(比較例1)
実施例1において、ALD成膜を行わず、ケイ素酸化物膜のみを有するガスバリア積層体を得た。
(比較例2)
実施例3において、ALD成膜を行わず、ケイ素酸窒化物膜のみを有するガスバリア積層体を得た。
(比較例3)
実施例6において、ALD成膜を行わず、ケイ素酸化物膜のみを有するガスバリア積層体を得た。
(比較例4)
実施例7において、ALD成膜を行わず、ケイ素酸化物膜のみを有するガスバリア積層体を得た。
(比較例5)
実施例11において、ALD成膜を行わず、ケイ素酸化物膜のみを有するガスバリア積層体を得た。
(比較例6)
実施例12において、ALD成膜を行わず、アルミ酸化物膜のみを有するガスバリア積層体を得た。
(比較例7)
実施例1において、ALD原料ガスとしてトリメチルアルミニウムを用いて極薄アルミ酸化物を成膜する以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア積層体を得た。
1:基材
3:無機酸化物層
5:ALD極薄膜(原子層堆積法による極薄金属酸化物膜)
10:ガスバリア性積層体

Claims (6)

  1. 無機酸化物層上に原子層堆積法による極薄金属酸化物膜が形成されているガスバリア性積層体であって、該無機酸化物層がSi及びAlの少なくとも一方を含む金属酸化物若しくは金属酸窒化物から形成されており、該極薄金属酸化物の密度が4.2g/cm以上であることを特徴とするガスバリア性積層体。
  2. 前記無機酸化物層がプラスチック基材上に形成されている請求項1に記載のガスバリア性積層体。
  3. 前記無機酸化物層のMOH/MO比(MはSiまたはAl)が0.1以下である請求項1または2に記載のガスバリア性積層体。
  4. 前記極薄金属酸化物膜がTi、Zr及びHfから選択された少なくとも1種の金属を含む請求項1〜3の何れかに記載のガスバリア性積層体。
  5. 前記無機酸化物層の厚みd1と前記極薄金属酸化物膜の厚みd2との比(d1/d2)が3〜50である請求項1〜4の何れかに記載のガスバリア性積層体。
  6. 前記極薄金属酸化物膜の厚みd2が0.5〜9nmの範囲にある請求項5に記載のガスバリア性積層体。
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