JP5610394B2 - 有床義歯及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、有床義歯及びその製造方法に関する。
有床義歯とは、土台となる義歯床に人工歯が植立された義歯である。有床義歯は、義歯床の粘膜面を口腔粘膜と密着させて口腔内に装着され、天然歯の喪失によって失われた機能を補う。有床義歯には、部分床義歯と全部床義歯があり、全部床義歯は総義歯とも称される。総義歯は、天然歯が全部喪失した無歯顎に対して作製される。
義歯床の種類としては、金属床とレジン床とがある。義歯作製上の容易さや生体親和性の観点から、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル樹脂からなるレジン床が汎用されている。人工歯の種類としては、レジン歯、陶歯、金属歯がある。レジン床が用いられる場合には、接着性の良さから、同じアクリル樹脂からなるレジン歯が使用されることが多い。
特開平11−139919号公報(特許文献1)の開示によれば、従来、歯肉の毛細血管に近似した模様を再現するために、エンジニアリングプラスチックを床用レジンとして用いた例がある。しかしながら、成形性、価格などPMMAの取り扱い易さから、これらのエンジニアリングプラスチックは床用レジンとして普及することは無かった。また、PMMA製の義歯床は埋没填入法(射出成形)により成形されるのが一般的であるため、義歯床の作製にCAD/CAM技術を応用した例は、特開平6−78937号公報(特許文献2)、特開平6−304190号公報(特許文献3)に記載された方法等、数例しかない。
例えば、特開平6−78937号公報には、精密印象を採取した印象材料の表面形状を、光照射を用いた三次元計測装置によって非接触で計測して、電子データ化された顎堤形状を取得し、CADにより顎堤形状から義歯床の形状モデルを作製し、光造形で有床義歯を作製する有床義歯の作成方法が提案されている。
また、特開平6−304190号公報には、X線CT撮影等で非侵襲的な測定方法により顎骨形状を採取すると共に、印象材料を用いて採取された精密印象から口腔内粘膜面の表面形状を採取して、CADにより粘膜面の表面形状を顎骨形状に基づいて補正して義歯床の形状モデルを設計し、CAMによりNC工作機械で義歯床を作製する方法が提案されている。
特開平11−139919号公報 特開平6−78937号公報 特開平6−304190号公報
しかしながら、従来のアクリル樹脂製のレジン床義歯は、金属床義歯より壊れ易く、汚れが付着し易いという問題がある。義歯汚れには、食物残渣、デンチャープラーク、ステイン(色素沈着)、歯石等があり、何れも水洗だけで除去することは難しい。特に、ステインの除去には、義歯用歯磨又は義歯洗浄剤の使用が必要となる。義歯汚れの放置は、審美性の観点から好ましくない。また、口腔内での細菌の繁殖にも繋がり、口腔衛生上も好ましくない。
また、特開平6−78937号公報、特開平6−304190号公報に記載された従来の有床義歯の作成方法では、顎堤形状や顎骨形状から義歯床の形状モデルを設計しているため、設計誤差が大きくなり、現実的に適合する義歯床を製造するのは困難であると予想される。
本発明は、上記問題を解決するために成されたものであり、本発明の目的は、汚れが付着し難く、汚れが付着しても簡単に汚れを除去でき、耐久性に優れた有床義歯を提供することにある。本発明の他の目的は、有床義歯を精度よく製造することができる有床義歯の製造方法を提供することにある。
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、超高分子量ポリエチレンの成形物を切削加工して所定形状に形成された超高分子量ポリエチレン製の義歯床と、前記義歯床に配列された人工歯と、を備えた有床義歯である。
請求項2の発明は、前記人工歯が前記義歯床の表面に形成された人工歯配列用の凹部に接着された、請求項1に記載の有床義歯である。
請求項3の発明は、前記人工歯がアクリル樹脂製のレジン歯であり、少なくとも前記義歯床の凹部をアクリル樹脂と接着可能に表面改質した後に、表面改質された前記凹部に接着された請求項2に記載の有床義歯である。
請求項4の発明は、前記義歯床の凹部は、前記凹部に超高分子量ポリエチレンに親和性を有する含浸剤を含浸し、含浸剤が含浸された超高分子量ポリエチレンの表面に親水性基を導入し、親水性基が導入された超高分子量ポリエチレンの表面に親水性モノマーをグラフト重合させて表面改質された請求項3に記載の有床義歯である。
請求項5の発明は、前記アクリル樹脂がポリメタクリル酸メチル(PMMA)である請求項3または4に記載の有床義歯である。
請求項6の発明は、義歯床と前記義歯床に配列された人工歯とを備え、前記義歯床と前記人工歯とが、超高分子量ポリエチレンの成形物を切削加工して所定形状に一体形成された有床義歯である。
請求項7の発明は、前記超高分子量ポリエチレンの吸水率が0.01重量%以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の有床義歯である。
請求項8の発明は、請求項1〜5、及び7に記載の有床義歯を製造する有床義歯の製造方法であって、義歯床の三次元形状情報に基づいて、超高分子量ポリエチレンの成形物を切削加工して義歯床を所定形状に形成する工程と、前記義歯床の表面に形成された人工歯配列用の凹部をアクリル樹脂と接着可能に表面改質する工程と、表面改質された前記凹部に人工歯を接着する工程と、を備えた有床義歯の製造方法である。
請求項9の発明は、粘膜面の形態及び咬合高さが修正された修正後の旧義歯の撮影を行い、修正後の旧義歯の撮像データを取得する工程と、人工歯の撮影を行い、人工歯の撮像データを取得する工程と、修正後の旧義歯の撮像データに基づいて修正後の旧義歯の三次元画像を表示し、人工歯の撮像データに基づいて人工歯の三次元画像を表示して、表示された三次元画像において人工歯配列及び粘膜面の形態の最適化を行い、表示された新義歯の三次元画像に基づいて新義歯の三次元形状情報を取得する工程と、表示された新義歯の三次元画像において新義歯から人工歯を取り除き、表示された新義歯の義歯床の三次元画像に基づいて新義歯の義歯床の三次元形状情報を取得する工程と、を更に含む、請求項8に記載の有床義歯の製造方法である。
請求項10の発明は、請求項6に記載の有床義歯を製造する有床義歯の製造方法であって、義歯床及び人工歯を備えた義歯の三次元形状情報に基づいて、超高分子量ポリエチレンの成形物を切削加工して前記義歯床と前記人工歯とを所定形状に一体形成する工程を備えた有床義歯の製造方法である。
請求項11の発明は、粘膜面の形態及び咬合高さが修正された修正後の旧義歯の撮影を行い、修正後の旧義歯の撮像データを取得する工程と、人工歯の撮影を行い、人工歯の撮像データを取得する工程と、修正後の旧義歯の撮像データに基づいて修正後の旧義歯の三次元画像を表示し、人工歯の撮像データに基づいて人工歯の三次元画像を表示して、表示された三次元画像において人工歯配列及び粘膜面の形態の最適化を行い、表示された新義歯の三次元画像に基づいて新義歯の三次元形状情報を取得する工程と、表示された新義歯の三次元画像に基づいて義歯床及び人工歯を備えた義歯の三次元形状情報を取得する工程と、を更に含む、請求項10に記載の有床義歯の製造方法である。
上記の製造方法は、義歯床の粘膜面を調整する粘膜調整材の塗布又は義歯床の改床により、旧義歯の口腔粘膜と接触する粘膜面の形態及び咬合高さを修正する工程と、人工歯の撮影を行い、人工歯のみの撮像データを取得する工程と、旧義歯の三次元画像と人工歯の三次元画像とによって表示された三次元画像において人工歯配列及び粘膜面の形態の最適化を行い、新義歯の三次元画像を表示する工程と、を更に含んでいてもよい。
更に、旧義歯の撮影を行い、旧義歯の撮像データを取得する工程と、旧義歯の撮像データに基づいて旧義歯の三次元画像を表示し、人工歯のみのデータに基づいて人工歯の三次元画像を表示して、旧義歯の三次元画像と人工歯の三次元画像とによって表示された新義歯の三次元画像に基づいて新義歯の三次元形状情報を取得する工程と、表示された新義歯の三次元画像に基づいて義歯床及び人工歯を備えた義歯の三次元形状情報を取得する工程と、義歯床及び人工歯を備えた義歯の三次元形状情報に基づいて、樹脂を所定形状の義歯床と人工歯とに一体形成する工程と、を備えた有床義歯の製造方法を開示する。
上記の製造方法は、義歯床の粘膜面を調整する粘膜調整材の塗布又は義歯床の改床により、旧義歯の口腔粘膜と接触する粘膜面の形態及び咬合高さを修正する工程と、人工歯の撮影を行い、人工歯のみの撮像データを取得する工程と、旧義歯の三次元画像と人工歯の三次元画像とによって表示された三次元画像において人工歯配列及び粘膜面の形態の最適化を行い、新義歯の三次元画像を表示する工程と、を更に含んでいてもよい。
本発明によれば、汚れが付着し難く、汚れが付着しても簡単に汚れを除去でき、耐久性に優れた有床義歯、を提供することができる。また、本発明によれば、有床義歯を精度よく製造することができる有床義歯の製造方法を、提供することができる。
総義歯の外観を示す斜視図である。 上顎義歯を咬合面側から見た平面図である。 上顎義歯を粘膜面側から見た平面図である。 総義歯の装着状態を示す部分断面図である。 人工歯が義歯床に接着された状態を示す断面図である。 人工歯と義歯床との接着工程を説明する工程図である。 人工歯と義歯床との接着工程を説明する工程図である。 旧義歯を装着した患者をCT撮影したときのCT撮像データから得られた三次元画像である。 上顎義歯のCT撮像データから得られた三次元画像である。 前歯用人工歯の写真画像である。 臼歯用人工歯の写真画像である。 人工歯のCT撮像データから得られた三次元画像である。 人工歯のCT撮像データから得られた三次元画像である。 新総義歯の三次元形状モデルを設計する様子を示す図である。 新総義歯の三次元形状モデルの画像46を示す図である。 新総義歯の義歯床の三次元形状モデルの画像48を示す図である。 義歯床が作製される様子を示す図である。 義歯床が作製される様子を示す図である。 は義歯床に人工歯が取り付けられる様子を示す図である。 義歯床に人工歯が取り付けられる様子を示す図である。 各試験片の防汚性能の評価結果を示すグラフである。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
<有床義歯の構成>
(総義歯の概略構成)
図1は総義歯の外観を示す斜視図である。図2Aは上顎義歯を咬合面側から見た平面図であり、図2Bは上顎義歯を粘膜面側から見た平面図である。図1に示すように、上下無歯顎の患者に適用される総義歯10は、上顎義歯12と下顎義歯14とが、相互に咬合するように構成されている。上顎義歯12は、義歯床16と、義歯床16の咬合面側に植立された複数の人工歯18と、を備えている。下顎義歯14は、義歯床20と、義歯床20の咬合面側に植立された複数の人工歯22と、を備えている。
図2A及び図2Bに示すように、上顎義歯12は、平面視が唇側を頂角とし且つ咽喉側を底辺とする略三角形である。義歯床16は、人工歯を咬合させる側が咬合面16Aであり、口腔粘膜と密着させる側が粘膜面16Bである。義歯床16の咬合面16Aは、底辺以外の二辺に沿った外周部が凸状に隆起し、底辺周辺及び中央部が窪んでいる。
義歯床16の凸状に隆起した部分には、複数の人工歯18が植立されている。複数の人工歯18は、天然歯と同様に、唇側から咽喉側に向って略左右対称に配列されている。一方、義歯床16の粘膜面16Bは、咬合面16Aとは反対に、底辺以外の二辺に沿った外周部が凹状に窪み、底辺周辺及び中央部が隆起している。
なお、図示は省略するが、下顎義歯14も平面視が略三角形である。下顎義歯14の義歯床20は、人工歯を咬合させる側が咬合面20A、口腔粘膜と密着させる側が粘膜面20Bである(図3参照)。概略的には上顎義歯12と同様の構造であるため、以下では説明を省略する。
(総義歯の装着状態)
図3は総義歯の装着状態を示す部分断面図である。上顎義歯12及び下顎義歯14からなる総義歯10は、患者の口腔内において、上顎の顎堤24と下顎の顎堤30との間に装着される。上顎の顎堤24は、上顎骨26と上顎骨26を覆う歯肉28とで構成されている。上顎義歯12の義歯床16の粘膜面16Bは、口腔粘膜である歯肉28と密着するように装着される。同様に、下顎の顎堤30は、下顎骨32と下顎骨32を覆う歯肉34とで構成されている。下顎義歯14の義歯床20の粘膜面20Bは、口腔粘膜である歯肉34と密着するように装着される。なお、顎堤は、歯槽堤とも称される。
図3では、見易くするために、粘膜面16Bと歯肉28、粘膜面20Bと歯肉34を離間して図示しているが、両者は密着するように装着される。天然歯の喪失後は、顎骨の吸収が進み顎堤24及び30は退縮する。このため、総義歯10の作製後に長期間が経過すると、義歯と口腔粘膜との密着性が損なわれて、義歯による疼痛や咬合不良等の装着不具合を生じる場合がある。このような場合に、旧義歯の問題点が解消されるように、旧義歯の人工歯配列及び粘膜面の形態を修正して、新しい総義歯を作製する必要が生じる。
(義歯床の材料及び加工方法)
義歯床16及び義歯床20は、超高分子量ポリエチレンの成形物を切削加工して形成されたレジン床である。超高分子量ポリエチレンとは、一般に、熱可塑性樹脂に分類され、重量平均分子量が約100万〜約800万と極めて大きい高密度ポリエチレンのことをいう。Ultra High Molecular Weight Polyethyleneを省略して、UHPE、UHMWPE又はPE−UHMWと称される。以下では「PE−UHMW」と略称する。
PE−UHMWは、低圧重合法によりエチレンを重合して製造されている。反応時間を長くすることで、超高分子量化することができる。熱可塑性樹脂は、高分子量化するほど流動性が低下する。日本工業規格(JIS-K-6936-1)によれば、同規格を適用するPE−UHMWは、熱可塑性樹脂の流動性を示す尺度であるメルトマスフローレート(MFR)が、190℃、21.6kgでの測定において0.1g/10min未満のポリエチレン材料と定義されている。本発明において「超高分子量ポリエチレン」とは、上記の日本工業規格が適用されるPE−UHMWを意味するものとする。
PE−UHMWは、その分子量の高さから、例えば、吸水率が低く寸法安定性に優れる、幅広い温度領域において耐衝撃性に優れる、耐磨耗性に優れ自己潤滑性を備える、耐薬品性に優れる、比重が軽い、耐候性に優れる、生体親和性に優れる等、種々の特徴を備えている。これらの特徴から、人工関節や義肢用材料等の医療用材料としても使用されている。医療用材料の用途には、重量平均分子量が500万以上のPE−UHMWが使用されている。
PE−UHMWの成形物は、板状(プレート)、厚板状(ブロック)、薄板状(シート)、丸棒状(ロッド)等の形態で市場に供給されている。PE−UHMWの溶融時の流動性は極めて低く、射出成形には適していない。このため、PE−UHMWの成形物は、PE−UHMWの粉体を、圧縮成形又は中空成形(ブロー成形)して製造されている。なお、市販されているPE−UHMWの粉体は、平均粒径が25μm〜30μmの微粒子であり、懸濁重合法により製造されている。
義歯床16及び義歯床20に用いられる床用レジンとしては、上記の日本工業規格が適用されるPE−UHMWを使用することができる。生体親和性に優れるPE−UHMWは、口腔内に装着される有床義歯の床用レジンに適している。医療用材料の用途に使用されている実績から、重量平均分子量が500万以上のPE−UHMWがより好適である。義歯床16及び義歯床20は、これらPE−UHMWのブロックやロッド等の形態の成形物を、切削加工して形成される。PE−UHMWの成形物として、例えば、クオドランド社製の商品名「チルレン」等を用いることができる。
一般に、石膏型を用いた射出成形により成形されるPMMA製のレジン床は、成形後に収縮するので型通りに作製することが難しい。これに対し、PE−UHMW製のレジン床は、成形物の切削加工により作製されるので収縮がなく、精度よく作製することができる。また、PMMA製のレジン床であっても、本実施の形態に従った製造工程によれば、精度よく作製できるようになる。なお、成形物の切削加工は、後述するCAD/CAMで作成された制御情報(NCデータ)に基づいて、NC工作機械を稼働させて行うことができる。
(義歯床材料の物性値の比較)
ここで、汎用の床用レジンであるポリメタクリル酸メチル(PMMA)と、本発明の床用レジンである超高分子量ポリエチレン(PE−UHMW)とを、床用レジンとして重要視される種々の項目について比較した。結果を下記表1に示す。なお、PE−UHMWとしては、重量平均分子量が500万以上の医療用PE−UHMWを用いている。
Figure 0005610394
上記の物性値は、主にアメリカ材料試験協会規格(ASTM)に基づく試験で得られた値である。また、耐弱酸性等の項目では、◎は約20℃、50℃、80℃において、ほとんど浸食されないことを表し、○は高濃度にて溶解することを表し、×は溶解するということを表す。
表1から以下のことが分かる。PE−UHMWはPMMAと比べて「吸水率」が極めて小さく、その成形物(レジン床)は表面張力が高く、汚れが付着し難く、細菌も発生し難い。また、PE−UHMWはPMMAと比べて「衝撃強度」や「曲げ強さ」が極めて高く、その成形物(レジン床)は壊れ難い。また、PE−UHMWはPMMAと比べて「比重」が軽く、その成形物(レジン床)の軽量化が図れる。更に、PE−UHMWはPMMAと比べて「耐薬品性(耐強アルカリ性等)」に優れ、その成形物(レジン床)は洗浄剤に対する耐久性に優れている。
特に、PE−UHMW製のレジン床は、PE−UHMWの「吸水率」が極めて小さいという特性により、他のレジン床に比べて、汚れが付着し難く、汚れが付着しても簡単に汚れを除去できるという優れた効果を発揮する。この防汚性能は、審美性、耐久性、口腔衛生等の観点から、有床義歯においては最も重要な性能である。また、PE−UHMW製のレジン床は、PE−UHMWの「衝撃強度」や「曲げ強さ」が極めて高いという特性により、他のレジン床に比べて壊れ難い。この通り、PE−UHMW製のレジン床は、防汚性能に優れると共に壊れ難いので、本発明によれば、従来に比べて非常に耐久性に優れた有床義歯を提供することができるようになる。
義歯床16及び義歯床20は、審美性の観点から、通常は、歯肉に近い色調に着色されている。レジン床の着色には、PE−UHMWと同様に、生体適合性に優れる色材(顔料、染料、色素)を使用する。レジン床の着色は、PE−UHMWの成形物の作製時に行ってもよく、PE−UHMWの成形物の切削加工後に行ってもよい。
成形物の作製時に着色する場合には、PE−UHMWの粉体に色材を添加して、圧縮成形又は中空成形を行う。色材の添加量は、成形材料全体に対し約1重量%以下であり、他の物性に与える影響は殆どない。成形物の切削加工後に着色する場合には、PE−UHMWの表面改質を行い、液状の色材を表層から内部まで含浸させる。
(人工歯の種類と配列)
人工歯18及び人工歯22は、PE−UHMW製のレジン床の咬合面側の凸部に植立される。人工歯の種類としては、レジン歯、陶歯、金属歯がある。従来、PMMA等のアクリル樹脂からなるレジン床が汎用されていたため、レジン床との接着性の良さ、適度な硬度から、総義歯にはPMMA等のアクリル樹脂からなるレジン歯が使用されている。PMMA製のレジン歯は、高圧重合法により製造されており、PMMA製のレジン床より硬度が高く、吸水率が低い。
人工歯18及び人工歯22は、前歯用と臼歯用とに分類されている。また、義歯の作製時に、患者の嗜好等に応じて選択できるように、種々のサイズ、色調、形態(例えば、丸型、四角型、卵型)の人工歯が市販されている。前歯部においては、主に審美性、発音機能(例えば、サ行の発音)を考慮して、人工歯配列が行われる。臼歯部においては、主に義歯の安定性と咀嚼機能を考慮して、人工歯配列が行われる。
また、人工歯18及び人工歯22は、PE−UHMW製のレジン歯としてもよい。PE−UHMW製のレジン歯は、PE−UHMW製のレジン床と同様に吸水率が低く、防汚性能に優れている。同じ材料からなるレジン歯とレジン床とは接着が容易である。或いは、PE−UHMW製の人工歯は、PE−UHMWの成形物を切削加工して義歯床と一体に形成することもできる。人工歯と義歯床とを一体形成することで、人工歯と義歯床との接着自体が不要となり、有床義歯としての耐久性が更に向上する。なお、この場合には、成形物の切削加工後に、義歯床16及び義歯床20を歯肉に近い色調に着色すると共に、人工歯18及び人工歯22を、天然歯に近い色調に着色する。
(人工歯と義歯床との接着方法)
図4は人工歯が義歯床に接着された状態を示す断面図である。下顎義歯14を例として説明すると、義歯床20の咬合面20Aはその表面が改質されて、咬合面20Aの近傍には表面改質部分20Cが形成されている。人工歯22は、接着剤36を介して、義歯床20の表面改質部分20Cに接着されている。接着剤36としては、4−META/MMA−TBBレジン等の歯科用の接着性レジンセメントを用いることができる。
4−META/MMA−TBBレジンは、4−メタクリルオキシエチルトリメリット酸無水物(4−META)を溶解したメチルメタクリレート(MMA)に、トリ−n−ブチルボラン(TBB)を重合開始剤として含む触媒(キャタリスト)を添加して、ポリメチルメタクリレート(PMMA)と混合することで、MMAモノマーを重合させる重合性接着剤である。例えば、サンメディカル社の「スーパーボンド」が知られている。
次に、人工歯と義歯床との接着方法について詳しく説明する。図5A及び図5Bは人工歯と義歯床との接着工程を説明する工程図である。まず、図5Aに示すように、義歯床20の咬合面20Aの表面を改質して、咬合面20Aの近傍に表面改質部分20Cを形成する。義歯床20の表面改質を行うのは、義歯床20を構成するPE−UHMWの表面は疎水性(非極性)であり、人工歯22を構成するPMMAとの接着性が低いためである。
次に、図5Bに示すように、義歯床20の表面改質部分20Cの表面に、接着剤36Aを塗布する。人工歯22を義歯床20上に位置合せして配置し、接着剤36Aにより人工歯22を表面改質部分20Cに密着させて、人工歯22を義歯床20上に固定する。これにより、図4に示す接着構造が完成する。なお、上顎義歯12についても、同様にして、PMMA製の人工歯18を、PE−UHMW製の義歯床16上に固定することができる。
ここで、義歯床16及び義歯床20の表面改質に適用する、PE−UHMW(成形物)の表面改質方法について説明する。PE−UHMWの表面改質は、(1)含浸剤を含浸する含浸処理工程、(2)親水性基を導入する活性化処理工程、(3)単量体をグラフト化する工程の3工程により行われる。以下、工程(1)〜(3)の各々について説明する。
(1)含浸処理
含浸処理とは、PE−UHMWに対し親和性を有する化合物を、PE−UHMWの軟化点以下の温度でPE−UHMWの表面に接触させて、上記化合物をPE−UHMWの表面から含浸させる処理である。含浸させる化合物を含浸剤と呼ぶ。含浸剤は、溶液又は分散液の状態で用いてもよい。PE−UHMWに対する含浸剤としては、トルエン、キシレン、α-クロロナフタレン、ジクロロベンゼン、デカヒドロナフタレン等の有機溶剤を用いることができる。また、オルトヒドロキシビフェニール(室温で固体)をメタノール等の有機溶剤に溶解した溶液を、含浸剤として用いることができる。
この含浸処理工程では、含浸剤がPE−UHMWの非結晶領域にしみ込んで、成形物内部に隙間を形成する工程と言える。PE−UHMWの表面は、実質的には変質しない。例えば、含浸剤として有機溶剤を用いた場合でも、PE−UHMWは有機溶剤に溶解しない。含浸処理は、次に施す活性化処理、グラフト化処理等を容易にする作用がある。
次に、PE−UHMWに対する含浸剤の含浸量の好ましい範囲を重量増加率で示す。PE−UHMWの厚さが100μm未満の場合には0.1〜40重量%である。PE−UHMWの厚さが100μm以上の場合には、PE−UHMWの表面から深さ100μm以内の部分について0.1〜40重量%である。厚さや直径が約20mm以下のPE−UHMWの場合には、簡便的に、含浸量を0.1〜10重量%程度とするのが好ましい。
含浸処理の時間や温度等の条件は、含浸剤の含浸量が上記の好適範囲となるように、処理対象の形状等に応じて適宜選択される。例えば、試験片などPE−UHMWの成形品の場合には、室温〜70℃の含浸剤に5分〜30分程度浸漬した後に、PE−UHMWの成形品を遠心脱水器にかけて含浸剤を飛散させ、含浸剤がある程度まで除去されて表面が見かけ上乾燥した状態になったところで含浸処理を終了する。遠心脱水器による脱液後に、乾燥機を用いてPE−UHMWの成形品を乾燥してもよい。残存する含浸剤は、後続の活性化処理工程、グラフト化工程の後に行われる洗浄により除去される。
(2)活性化処理
活性化処理とは、PE−UHMWの表面にカルボニル基等の親水性基を導入するための処理である。親水基はカルボニル基に限られない。カルボニル基以外に、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等の酸素あるいは窒素などを含む官能基または不飽和結合等を導入してもよい。活性化処理の好適な方法としては、プラズマ処理、オゾン処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、高圧放電処理等の各種処理を挙げることができる。表面全体を活性化処理する場合には、電磁波の照射を伴わないオゾン処理が好適である。
活性化処理の程度は、PE−UHMWの強度を損なわないように適宜調整する。PE−UHMWの表面改質を行うには、カルボニル基等の親水性基が導入されたことが確認できる程度に処理されていれば十分である。例えば、カルボニル基は、赤外線吸収スペクトル(IR)の1710cm−1付近に、C=O結合に基づく吸収を有している。従って、カルボニル基を導入する場合には、IRでPE−UHMWの表面の1710cm−1付近の吸収度を観測する。1710cm−1付近の吸収度が、処理前の吸収度に比べて1%〜2%増加した時点で、カルボニル基の導入が確認されたものとして、活性化処理を終了すればよい。
(3)グラフト化
グラフト化は、前処理(含浸処理及び活性化処理)をしたPE−UHMWの表面において、親水性モノマー(単量体)をグラフト重合する処理である。親水性モノマーとしては、アクリル酸やメタクリル酸を用いることができる。モノマー及び重合開始剤を含む溶液、又はモノマー蒸気を反応容器に満たす。重合開始剤としては、硝酸二セリウムアンモニウム(IV)、過硫酸カリウム等の水溶性の重合開始剤が好適に用いられる。
加熱グラフト重合の場合には、PE−UHMWをこの反応容器内に入れ、容器内を反応温度まで加熱してグラフト重合を行う。光グラフト重合の場合には、PE−UHMWをこの反応容器内に入れ、PE−UHMWの表面に紫外線照射して光グラフト重合を行う。或いは、切削加工されたPE−UHMWの表面形状に応じて、表面改質したい部分にモノマー等を含む溶液を塗布し、加熱又は紫外線照射によりグラフト重合を行う。
なお、グラフト化が終了した後は、PE−UHMWを洗浄装置で洗浄して、残存する含浸剤、未反応モノマー、溶剤等を除去する。洗浄には、含浸剤、モノマー及び溶剤を溶解し、PE−UHMWを溶解しない溶剤を用いる。洗浄方法としては、流液洗浄、浸漬洗浄、スプレー洗浄等の洗浄方法を、適宜使用することができる。必要に応じて、加熱洗浄や超音波洗浄を行ってもよい。洗浄後は、PE−UHMWを遠心脱水器にかけて液体成分を除去し、乾燥機を用いてPE−UHMWを所定の程度まで乾燥する。
<有床義歯の製造方法>
次に、上記の本発明に係る有床義歯の製造方法の一実施の形態について説明する。
(従来の作製方法)
ここで、従来の総義歯治療の基本的な流れを簡単に説明する。
(1)患者が適合しなくなった旧義歯を持って来院すると、歯科医師は患者の症状を問診し、口腔検査、X線検査、機能検査等を行い、旧義歯の問題点を診断する。(2)次に、患者の上下顎の概形印象を採取し、概形印象から患者にあった個人トレーを作製する。(3)次に、個人トレーを用いて精密な印象を採取する。
(4)次に、採取された精密印象に基づいて、個々の患者に適合した上下別個の石膏模型を作製する。これらの石膏模型上で、上下顎の咬み合わせを再現するための咬合床を作製する。(5)次に、患者の口腔内を診て上下顎の顎間関係を観察し、患者の顎間関係を咬合床で再現する。(6)次に、患者と共に口腔内を診て、患者と材料や色調について相談をしながら、多種用意されている人工歯の中から何れかを選択する。
(7)次に、(5)にて作製した咬合床上に人工歯を配列して蝋義歯を作製する。(8)次に、作製した蝋義歯を患者に試適して評価を行い、必要な修正を行う。(9)次に、埋没填入法を用いてワックスを床用レジンに置き換えて、総義歯が完成する。(10)完成した総義歯を口腔内に装着して、最終的な評価を行う。
上述した通り、従来の総義歯治療は、歯科医師による検査・診断、歯科衛生士による補助作業、歯科技工士等による技工作業と、多数の関係者による分業で進められる。また、検査、印象採取、試適等のために患者は何度も来院しなければない。このため、従来は総義歯が完成するまでに、非常に長い期間を要していた。
(CAD/CAM技術の応用した作製方法)
本実施の形態では、上記で説明した構造の総義歯10を、CAD/CAM技術を応用して作製する方法について説明する。また、PMMA製の義歯床を備えた旧総義歯から、PE−UHMW製の義歯床を備えた新総義歯10を作製する場合について説明する。新総義歯10が本発明に係る総義歯に相当する。新総義歯10については、図1〜図5と同じ構成部分には同じ符号を付して説明を省略する。以下では、本実施の形態に係る製造方法を7工程に分けて説明する。
(1)旧義歯の修正
まず、患者が現在使用している義歯(旧義歯)の診査を行う。診査の結果、必要に応じて旧総義歯を修正する。旧総義歯の修正は、上下義歯床の粘膜面の形態修正により行う。PMMA製の義歯床の粘膜面の形態修正(ティッシュコンディショニング)は、ティッシュコンディショナーと称される粘膜調整材を用いて行うことができる。粘膜調整材を用いて、不足部分にPMMA樹脂を追加し、余剰部分のPMMA樹脂を研磨等で除去する。これにより咬合高さも修正される。なお、粘膜調整材を用いるのではなく、義歯床の改床によって粘膜面の形態及び咬合高さを修正することもできる。また、例えば旧義歯が割れてしまったために新義歯が必要になる場合には、割れた旧義歯を単に接着すれば足りるので、粘膜面の形態や咬合高さを修正しなくても良い。
粘膜調整材として、バリウム等のX線不透過物質を含む粘膜調整材を用いることが好ましい。X線不透過物質を含む粘膜調整材を用いて修正を行うと、次の工程のCT撮影において、修正された旧総義歯のCT撮像データを精度よく取得することができる。なお、以下では「上顎義歯12」を作製する例について説明するが、同様の方法を用いて「下顎義歯14」を作製することができる。
(2)旧義歯のCT撮影
次に、X線不透過物質を含む粘膜調整材を用いて修正された旧総義歯を、X線CT装置の撮像位置に固定配置してCT撮影を行い、修正された旧総義歯のCT撮像データを取得する。CTはコンピュータ断層撮影(computed tomography)の略である。X線CT装置は、X線を用いてCT撮影を行う撮像装置と、撮像装置の各部を制御すると共にCT撮影で得られたX線吸収値等の分布データを画像化してCT撮像データを得るコンピュータシステムと、で構成されている。
歯科用のX線CT装置としては、吉田製作所社製のX線CT診断装置「ファインキューブ」を用いることができる。歯科用のX線CT装置には、CT撮影時に患者の頭部を挟んで固定する頭部固定装置が設けられている。この頭部固定装置により、患者の頭部が撮像装置に固定される。撮像装置は、X線コーンビームを照射するX線照射部と、透過X線を検出するX線検出部とを備えている。X線照射部とX線検出部とは、固定された患者の頭部を挟んで対向するように配置されている。撮像装置が患者の頭部の周囲を1回転することで、頭部のCT撮影が行われる。例えば、上記の頭部固定装置により、修正された旧総義歯を撮像位置に固定配置して、CT撮影を行うことができる。
以下では、コンピュータ(システム)は、CPU、ROM、RAM、ハードディスク等のメモリ、ハードディスクドライブ等のデータ入力装置、マウスやキーボード等の入力装置、及びディスプレイ等の表示装置を備えているものとして説明する。
近時のX線CT装置には、X線CT診断装置「ファインキューブ」と同様に、画像再構成処理を行う画像処理用ソフトウエアが搭載されている。CT撮像データの画像再構成処理により、三次元画像データ(ボリュームデータ)と断層画像データ(スライスデータ)とを取得することができる。また、取得した画像データを、ダイコム(DICOM:Digital Imaging and COmmunication in Medicine)形式で保存することができる。DICOMは、医用画像と通信の標準規格である。
また、DICOM形式の画像データは、閲覧用ソフトウエアであるDICOMビューワを用いて表示することができる。即ち、画像形式で規格化することで互換性を備え、DICOMビューワが搭載されたコンピュータを用いることで、コンピュータに接続されたディスプレイ等の表示装置(以下、「ディスプレイ」という。)に、CT撮像画像、三次元画像、断層画像など種々の形態の画像を表示することができる。これらの表示画像により、各種診断を行うことができる。
図6は総義歯を装着した患者の頭部をCT撮影したときのCT撮像データから得られた三次元画像である。歯科用のX線CT装置は、通常、このような三次元画像を取得するのに使用される。ディスプレイには、患者の骨格38A、上顎義歯38B、及び下顎義歯38Cの三次元形状を表す画像38が表示されている。また、断面38Dの空間位置座標を指定することにより、断面38Dで切断したときの断層画像を表示することもできる。
図7は修正された上顎義歯を撮像位置に固定配置してCT撮影したときのCT撮像データから得られた上顎義歯の三次元画像である。図7に示すように、ディスプレイには、上顎義歯40Aの三次元形状を表す画像40が表示されている。修正された旧総義歯を患者に装着せずに撮像位置に固定配置してCT撮影を行い、修正された旧総義歯のCT撮像データを直接取得することで、図6に示す三次元画像から骨格や不要部分を消し去る等、画像処理の手間を省くことができる。また、患者もX線を照射されずに済む。
なお、三次元画像は、CT撮影したときのCT撮像データから得るだけでなく、MRI(magnetic resonance imaging)によって取得することもできる。MRIは磁気を利用して撮影するので、X線と比べてまったく人体に害がない点で優れている。そのため、修正された旧総義歯を患者に装着してMRI撮影を行えば、患者に装着したまま安全にMRI撮像データを取得することができる。
また、空間位置座標での回転角度を指定することにより、異なる角度から見た画像を表示することができる。図7では、骨格や不要部分を表示せず、上顎義歯40Aを上方から見下ろした画像とすることで、義歯床40Bの粘膜面の形態が見易くなり、人工歯40Cの臼歯部の配列が見易くなっている。
(3)人工歯のCT撮影
次に、新総義歯10に使用する予定の人工歯18及び人工歯22を、X線CT装置の撮像位置に固定配置してCT撮影を行い、人工歯のみのCT撮像データを取得する。図8は人工歯の写真画像(二次元画像)である。人工歯18及び人工歯22は、PMMAアクリル樹脂からなるレジン歯である。人工歯18及び人工歯22は、前歯用と臼歯用とに分けて市販されている。図8Aは前歯用人工歯の写真画像であり、図8Bは臼歯用人工歯の写真画像である。なお、人工歯の三次元画像を表示できるデータがすでにあれば、撮像データを取得する必要はない。
上述した通り、CT撮像データの画像再構成処理により、三次元画像データと断層画像データとを取得することができる。また、取得した画像データを、DICOM形式で保存することができる。また、DICOMビューワを用いて、ディスプレイに、CT撮像画像、三次元画像、断層画像など種々の形態の画像を表示することができる。
図9A及び図9Bは人工歯をCT撮影したときのCT撮像データから得られた三次元画像である。図9Aに示すように、ディスプレイには、前歯用人工歯の三次元形状を表す画像42Aが表示されている。また、図9Bに示すように、ディスプレイには、臼歯用人工歯の三次元形状を表す画像42Bが表示されている。
(4)CADによる新義歯のマスターデータの作成
次に、三次元CADソフトウエアを用いて、修正された旧総義歯及び人工歯のCT撮像データを計測データとして、新総義歯10の三次元形状モデルを設計する。得られた新総義歯10の三次元形状モデルの形状データ(マスターデータ)を取得する。
CADとは、コンピュータ支援による設計(Computer Aided Design)の略称である。三次元CADソフトウエアとしては、ダッソー・システムズ社製の「キャティア(CATIA)」等を使用することができる。「CATIA」は汎用されている三次元CADソフトウエアである。近時のインプラント技術の普及により、歯科技工の分野でもCAD/CAMシステムが広く取り入れられるようになった。このため、歯科技工専用の三次元CADソフトウエアも開発されている。これら歯科技工専用の三次元CADソフトウエアを使用することもできる。
従来のCAD/CAM技術を用いた例では、従来の作製方法の工程(4)で得られた石膏模型の三次元形状を、接触式又は非接触式で計測して光学印象を得ていた。非接触式の計測には、レーザ光を用いて計測を行い光学印象を取得する方法と、CCDカメラによる複数の撮影画像から光学印象を取得する方法とがある。これに対し、本実施の形態では、石膏模型の計測データではなく、修正された旧総義歯及び人工歯のCT撮像データから三次元形状の計測データを得ている。CT撮影によれば、短時間で三次元形状の計測を済ませることができる。
まず、コンピュータ上で三次元CADソフトウエアを起動し、修正された旧総義歯のCT撮像データ及び人工歯のCT撮像データを取り込んで、CAD用の三次元画像データに変換する。コンピュータに接続されたディスプレイの画面には、コンピュータにより作り出された仮想空間(三次元画像)が表示される。この仮想空間上で、旧総義歯の三次元形状の計測データを修正し、新総義歯10の三次元形状モデルを設計する。
図10は新総義歯の三次元形状モデルを設計する様子を示す図である。図10に示すように、CAD用の三次元画像データに基づいて、修正された旧総義歯44Aの三次元形状を表す画像44をディスプレイに表示する。仮想空間上で、旧総義歯44Aの三次元形状から再配列が必要な人工歯44Cを取り除く。人工歯18の三次元形状を表す画像(図面の着色部分)を用いて、仮想空間上に表示された義歯床44Bに対して人工歯配列を行う。即ち、仮想空間上で、CT撮像データを参照して、咬合平面の高さや咬合関係が適切な状態となるようにシミュレーションを行いながら、旧総義歯の人工歯44Cの代わりに、新しい人工歯18を義歯床44Bに再配列する。
図11は新総義歯の三次元形状モデルの画像46を示す図である。上述した手順によって、仮想空間上で、新総義歯10の三次元形状モデル46Aが完成する。新総義歯10の三次元形状モデル46Aは、義歯床の三次元形状モデル46Bと、人工歯の三次元形状モデル46Cとで構成されている。新総義歯10の三次元形状モデル46Aの形状データは、マスターデータとしてメモリに記憶される。
(5)CADによる新義歯の義歯床データの作成
次に、三次元CADソフトウエアを用いて、新総義歯10の三次元形状モデルから、義歯床の形状データを取得する。図12は新総義歯の義歯床の三次元形状モデルの画像48を示す図である。三次元CADソフトウエアを用いて、新総義歯10の三次元形状モデルから人工歯を取り除き、義歯床の三次元形状モデル48Aを設計する。義歯床の三次元形状モデル48Aは、咬合面48B側に配列されていた人工歯が取り除かれ、人工歯が取り除かれた跡には複数の凹部48Cが形成されている。この義歯床の三次元形状モデル48Aの形状データは、マスターデータと関連付けてメモリに記憶される。
(6)CAMによる新義歯の義歯床の切削加工
次に、三次元CAMソフトウエアを用いて、義歯床の三次元形状モデル48Aの形状データから、切削工具が移動する経路(ツールパス)の計算を行い、計算値をNC工作機械を制御するための制御情報(NCデータ)に変換する。CAMとは、コンピュータ支援製造(Computer Aided Manufacturing)の略称である。三次元CAMソフトウエアとしては、CNCソフトウエア社製の「マスターカム(Mastercam)」等を使用することができる。そして、三次元CAMソフトウエアで生成されたNCデータを、マシニングセンタに送信する。
マシニングセンタは、多種多様な切削工具を使用して自動的に製品を加工するコンピュータ数値制御(CNC:Computerized Numerical Control)化された設備である。マシニングセンタとしては、ヤマザキ・マザック社製の5軸制御マシニングセンタ「VARIAXIS 200」等を用いることができる。5軸制御マシニングセンタを用いることで、工作機械の5軸(X軸、Y軸、Z軸、及び工具の姿勢)を同時に制御しながら、複雑な曲面を加工することができる。
図13A及び図13Bは義歯床が作製される様子を示す図である。図13Bは図13Aの部分拡大図である。上記のマシニングセンタにおいて、NCデータに基づいて、超高分子量ポリエチレン(PE−UHMW)のブロック50が切削加工されて、PE−UHMW製の上顎義歯用の義歯床16Tが作製される。即ち、PE−UHMWブロック50から、義歯床16Tが削り出される。
なお、PE−UHMWブロック50は、無着色の樹脂ブロックであり、PE−UHMWブロック50からは、無着色の義歯床16Tが得られる。また、義歯床16Tの粘膜面側には、人工歯18を配列するための複数の凹部16Tαが形成されている。また、図13では、PE−UHMWブロック50から義歯床16Tが削り出される様子を見易くするために、義歯床16TとPE−UHMWブロック50とが連結されている形状としたが、実際には、削り出しが終了した段階で、義歯床16Tとブロック50とは分離されている。
(7)人工歯の取り付け
図14A及び図14Bは義歯床に人工歯が取り付けられる様子を示す図である。図14Bは図14Aの部分拡大図である。最後に、無着色の義歯床16Tに人工歯18を取り付ける。これにより、無着色の義歯床16Tを備えた上顎義歯12Tが得られる。上顎義歯12Tの義歯床16Tを歯肉色に着色して、新総義歯10の一部である上顎義歯12が完成する。
まず、メモリに記憶しておいたマスターデータを読み出して、新総義歯10の三次元形状モデルの画像をディスプレイに表示する。表示された画像の人工歯配列を参照しながら、無着色の義歯床16Tに人工歯18を仮配置する。複数の凹部16Tαの各々は、配置される人工歯18の形状と合致するように形成されているので、仮配置することで適合性を確認することができる。一旦、仮配置したPMMA製の人工歯18を取り外す。
次に、PE−UHMW製の義歯床16Tの表面について、上述した通り、(1)含浸処理工程、(2)親水性基を導入する活性化処理工程、(3)単量体をグラフト化する工程の3工程を施し、アクリル樹脂と接着可能になるようにPE−UHMWの表面改質を行う。本実施の形態では、義歯床16Tを形成した後で着色するため、PE−UHMW製の義歯床16Tの表面全面について表面改質を行う。
ここで、表面改質の各工程の一例を詳細に説明する。以下に説明する各工程の処理条件は一例であり、PE−UHMW製の義歯床16Tの形態等に応じて、各工程の処理条件を適宜最適化することができる。
まず、PE−UHMW製の義歯床16Tを、70℃に加熱したトルエンに15分間浸漬して、義歯床16Tの表面にトルエン(含浸剤)を含浸させる。次に、義歯床16Tをメタノールで軽く濯いでから、表面の余分な含浸剤を紙でふき取り、室温で5分間放置して乾燥させる。
次に、オゾン処理により義歯床16Tの表面に活性化処理を施す。含浸処理した義歯床16Tを、硬質ガラス製の反応容器内に入れる。オゾン発生器で発生させたオゾンを、オゾン発生速度が約1.0(g/時間)となるように反応容器内に導入して、義歯床16Tに対し約2時間かけてオゾン処理を行う。オゾン処理が終了した後に、義歯床16Tを反応容器から取り出す。
次に、オゾン処理された義歯床16Tの表面にグラフト化を施す。硬質ガラス製の反応容器に、水180mlにアクリル酸1.0mlと硝酸二セリウムアンモニウム(IV)20mgとを溶解させた水溶性を満たす。オゾン処理された義歯床16Tをこの水溶液に浸す。400ワットの高圧水銀灯を用いて、20cmの距離から義歯床16Tの表面に紫外線を照射する。反応温度を30℃に維持しながら、紫外線を2時間にわたり照射して光グラフト重合を行う。グラフト化が終了した後は、義歯床16Tを反応容器から取り出す。
次に、グラフト化された義歯床16Tを、60℃の洗剤水溶液を満たした洗浄装置(浸漬容器)に浸漬する。60℃で10分間にわたり浸漬洗浄を行った後、更に流水洗浄を行い、未反応モノマー等を除去する。更に、遠心脱水器にかけて水分を除去し、所定の程度まで乾燥する。これにより、義歯床16Tの表面が親水化され、アクリル樹脂と接着可能になる。また、染料や色素を含浸させて着色することが可能となる。
表面改質された凹部16Tα(図13参照)の各々の表面に、重合性接着剤であるサンメディカル社製の歯科用接着性レジンセメント「スーパーボンド」を塗布する。人工歯18を仮配置した通りに配置しなおし、未硬化の接着剤により表面改質された凹部16Tαの各々に密着させる。「スーパーボンド」は、口腔内で使用できる歯科用接着剤であり、上述した通り、重合開始剤を含むキャタリストを添加したモノマーにポリマーを加えると重合する。接着剤を重合させて、人工歯18を義歯床16T上に固定する。
最後に、表面改質された義歯床16Tの表面に、色材を表層から内部まで含浸させて、義歯床16Tを歯肉色に着色する。これにより、新総義歯10の上顎義歯12が完成する。上述した通り、同様の方法を用いて、新総義歯10の下顎義歯14を作製することができる。一般に、レジン床の着色には、酸化鉄(赤色)と酸化チタン(白色)を適当な割合にて混合し、色材として用いられる。義歯床16Tを着色する色材としては、PE−UHMWに好適な市販の赤色色材、白色色材を、適宜混合して使用することができる。また、上述した通り、色材は生体適合性に優れるものが好ましい。
なお、工程(4)において、新総義歯10の三次元形状モデル46Aを、複数作製しておくこともできる。複数の新総義歯10の三次元形状モデルに応じて、ラピッドプロトタイピング等により試適用の総義歯を複数作製し、患者に試適した後に最も適合する新総義歯10の三次元形状モデルを選択して、選択された三次元形状モデルに基づいて、工程(5)〜工程(7)を行って、PE−UHMW製の義歯床を備えた新総義歯10を作製することもできる。
また、PE−UHMWの成形物を切削加工して人工歯と義歯床とをPE−UHMWで一体形成する場合には、まず、上記工程(1)〜(4)を実施する。次に、工程(5)を省略し、工程(6)において、工程(4)で得られた新総義歯10の三次元形状モデル46Aの形状データ(マスターデータ)から、ツールパスの計算を行い、計算値をNCデータ)に変換する。そして、生成されたNCデータをマシニングセンタに送信する。マシニングセンタにおいては、NCデータに基づいて、透明なPE−UHMWのブロックが切削加工されて、PE−UHMW製の人工歯と義歯床とを備えた上顎義歯が作製される。即ち、PE−UHMWブロックから、透明なPE−UHMWで一体形成された上顎義歯が削り出される。
工程(7)の人工歯の取り付けは不要となる。しかしながら、上顎義歯に着色を施すために、工程(7)と同様にしてPE−UHMWの表面全面について表面改質を行い、表面改質された表面に染料を表層から内部まで含浸させて上顎義歯に着色を施す。上顎義歯の義歯床を歯肉に近い色調に着色すると共に、人工歯を天然歯に近い色調に着色する。これにより、総PE−UHMWの上顎義歯が完成する。同様の方法を用いて、総PE−UHMWの下顎義歯を作製することができる。
また、PMMA製の義歯床を備えた新総義歯を作製する場合には、まず、上記工程(1)〜(5)を実施する。次に、工程(6)において、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)のブロックを切削加工して、義歯床を削り出す。そして、工程(7)で人工歯を取り付けるが、義歯床も人工歯もPMMA製であれば接着性の問題がないため、義歯床の表面改質工程を省略する。
なお、PMMAの成形物を切削加工して人工歯と義歯床とをPMMAで一体形成する場合は、PE−UHMWの成形物を切削加工して人工歯と義歯床とをPE−UHMWで一体形成する場合と同じ工程となる。ただし、義歯床や、人工歯と義歯床との一体形成品は、樹脂成形物の切削加工ではなく、樹脂の積層加工、光造形等によっても形成できる。また、PE−UHMW又はPMMAに限らず、各種の熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を使用でき、例えばABS樹脂、ポリアセタール樹脂、フッ素樹脂等を使用できる。そして特に、フッ素樹脂を使用すれば、優れた防汚性能が得られる。
(従来の作製方法との比較)
本実施の形態では、CAD/CAM技術を応用して総義歯を作製することで、従来の作製方法に比べて、総義歯の作製工程を大幅に簡略化でき、短期間で総義歯を作製することができる。また、従来の作製方法に比べて、患者の来院回数を減らすことができ、歯科医師及び患者の双方の負担を軽減することができる。
また、本実施の形態では、粘膜調整材を用いて義歯床の粘膜面の形態修正(ティッシュコンディショニング)を行って旧総義歯の修正を行う。CADにより、この修正された旧総義歯の三次元形状の計測データに基づいて、新総義歯の三次元形状モデルを設計することで、CADによる設計誤差を低減し、CAD/CAM技術を応用して、現実的に適合する義歯床を製造することが可能となる。
また、本実施の形態では、CADにより新総義歯の三次元形状モデルを設計する際に、レーザ照射による光学計測装置等による石膏模型の計測データではなく、修正された旧総義歯及び人工歯のCT撮像データから三次元形状の計測データを得ている。CT撮影によれば、短時間で三次元形状の計測を済ませることができる。また、CT撮影により計測精度が高くなり、CAD/CAMによる義歯床の作製精度を、飛躍的に向上させることができる。
また、本実施の形態では、超高分子量ポリエチレン(PE−UHMW)のブロックが、NC工作機械により切削加工されて、PE−UHMW製の上顎義歯用の義歯床が削り出される。従って、石膏型を用いた射出成形により成形される従来のPMMA製の義歯床のように成形時に収縮することがなく、精度よく義歯床を作製することができる。換言すれば、CAD/CAM技術を応用した本実施の形態の製造方法は、PE−UHMW製の義歯床であってもPMMA製の義歯床であっても、義歯床の製造に最も適した方法ということができる。CAD/CAM技術を応用した方法で、総PE−UHMW又は総PMMAの上下顎義歯をPE−UHMWブロック又はPMMAブロックから切削加工により削り出す場合には、人工歯を接着する際の位置ずれも発生せず、義歯全体を更に精度よく作製することができる。
なお、上記の実施の形態では、CAD/CAM技術を応用して総義歯を作製する方法について説明したが、有床義歯に超高分子量ポリエチレン(PE−UHMW)を用いれば、有床義歯の防汚性能を高めることができる。そのため、材料としてPE−UHMWを用いる場合には、PE−UHMW製の義歯床を備える有床義歯を製造可能な限り、従来公知の他の製造方法で製造することもできる。例えば、CADにより新総義歯の三次元形状モデルを設計する際に、石膏模型の計測データを用いてもよい。
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
本発明の有床義歯の床用レジンとして使用する超高分子量ポリエチレン(PE−UHMW)について、5mm×10mm×2mmの直方体の試験片を用意した。試験片は、クオドランド・イーピーピー(EPP)・ジャパン社製の商品名「チルレン」成形品から切り出したものである。PE−UHMWの重量平均分子量は約500万であり、試験片は圧縮成形にて成形されたものである。用意した試験片を用いて、後述する方法で防汚性能の評価を行った。結果を図15に示す。
(比較例1)
従来の有床義歯の床用レジンとして使用されているポリメタクリル酸メチル(PMMA)について、5mm×10mm×2mmの板状の試験片を用意した。試験片は、ジーシー(GC)社製の商品名「アクロン」を用い射出成形により作製した。用意した試験片を用いて、後述する方法で防汚性能の評価を行った。結果を図15に示す。
(防汚性能の評価方法)
各試験片の防汚性能の評価は、カレー溶液浸漬による着色試験により行った。浸漬液には、蒸留水50mlに対してカレー粉10gを溶解させたカレー溶液を用いた。カレー粉としては、ヱスビー食品株式会社製の「S&B spicy curry powder」を用いた。
実施例1及び比較例1で用意した試験片の各々を、上記のカレー溶液に常温で90時間浸漬し、カレー溶液浸漬後に洗浄を行った。洗浄条件は、流水洗浄、食器用洗剤による浸漬洗浄の2種類とした。食器用洗剤としては、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン社製の台所用洗浄剤「ジョイ」を用い、0.5重量%の水溶液に1時間浸漬して、浸漬洗浄を行った。
また、実施例1及び比較例1で用意した試験片の各々を、上記のカレー溶液に常温で216時間浸漬し、カレー溶液浸漬後に義歯用洗浄剤による洗浄を行った。洗浄剤として小林製薬社製の入れ歯洗浄剤「タフデント」を用い、使用方法に従って「タフデント」1錠を150mlの水に溶かした水溶液に試験片を22時間浸漬して、浸漬洗浄を行った。
浸漬(洗浄)前後の試験片の色差ΔEを色差計により測定した。測定に際しては、試験片の背後に白色紙を置いて標準白板の代わりとした。色差計としては、コニカ-ミノルタ社製の「color reader CR-13」を用いた。色差ΔEは、浸漬前後の試験片の色をL*a*b*表色系による色空間座標上の2点として座標化したときの、色空間座標上での2点間の距離を表す。色差ΔEの値が大きいほど、着色度合いが大きいことを意味する。
(防汚性能の評価結果)
図15は各試験片の防汚性能の評価結果を示すグラフである。
カレー溶液浸漬後に流水洗浄を行った場合には、比較例1に係るPMMA製の試験片では、ΔE=18.3660012であるのに対し、実施例1に係るPE−UHMW製の試験片では、ΔE=10.48236615であった。実施例1に係る試験片では、比較例1に係る試験片に比べ、ΔEの値が小さくなり、着色度合いが比較例の約6割と顕著に低下していることが分かる。即ち、実施例1に係る試験片は、汚れが水洗で簡単に除去でき、汚れ自体が付きにくいことが分かる。
カレー溶液浸漬後に食器用洗剤による浸漬洗浄を行った場合には、比較例1に係るPMMA製の試験片では、ΔE=14.9969997であるのに対し、実施例1に係るPE−UHMW製の試験片では、ΔE=4.75394573であった。実施例1に係る試験片では、比較例1に係る試験片に比べ、ΔEの値が小さくなり、着色度合いが比較例の約3割と顕著に低下していることが分かる。即ち、実施例1に係る試験片は、汚れが付きにくく、汚れが付着しても食器用洗剤で簡単に汚れを除去できることが分かる。
カレー溶液浸漬後に義歯用洗浄剤による浸漬洗浄を行った場合には、比較例1に係るPMMA製の試験片では、ΔE=11.30928822であるのに対し、実施例1に係るPE−UHMW製の試験片では、ΔE=2.071231518であった。実施例1に係る試験片では、比較例1に係る試験片に比べ、ΔEの値が小さくなり、着色度合いが比較例の約2割と顕著に低下していることが分かる。即ち、実施例1に係る試験片は、汚れが付きにくく、汚れが付着しても義歯用洗浄剤で簡単に汚れを除去できることが分かる。
以上説明した通り、カレー溶液浸漬による着色試験の結果から明らかなように、実施例1に係るPE−UHMW製の試験片では、比較例1に係るPMMA製の試験片に比べ、汚れが水洗で簡単に除去でき、汚れ自体が付きにくいことが分かる。また、仮に汚れが付着しても、食器用洗剤や義歯用洗浄剤で簡単に汚れを除去できることが分かる。
上記では、各試験片の防汚性能の評価を、カレー溶液浸漬による着色試験で行った。カレー溶液による義歯の着色は、義歯表面に蛋白質が付着したことに相当する。義歯表面に蛋白質が付着していると、そこにさらに着色物質や細菌が付着して、口腔内での細菌の繁殖にも繋がる。即ち、上記の防汚性能の評価結果は、PE−UHMWで作製されたレジン床及び有床義歯が、防汚性に優れること示すだけでなく、抗菌性に優れることを示すものである。
また、「衝撃強度」や「曲げ強さ」が高いPE−UHMWで作製されたレジン床及び有床義歯は、PMMA製のレジン床義歯と比較すると、落下等による衝撃を受けても破損し難い。同時に、PE−UHMWで作製されたレジン床及び有床義歯は、上述した通り、汚れが付着し難く汚損し難い。即ち、PE−UHMWで作製されたレジン床を備えた有床義歯及びPE−UHMWで作製された有床義歯は、優れた耐久性を発揮する。

Claims (11)

  1. 超高分子量ポリエチレンの成形物を切削加工して所定形状に形成された超高分子量ポリエチレン製の義歯床と、前記義歯床に配列された人工歯と、を備えた有床義歯。
  2. 前記人工歯が前記義歯床の表面に形成された人工歯配列用の凹部に接着された、請求項1に記載の有床義歯。
  3. 前記人工歯がアクリル樹脂製のレジン歯であり、少なくとも前記義歯床の凹部をアクリル樹脂と接着可能に表面改質した後に、表面改質された前記凹部に接着された請求項2に記載の有床義歯。
  4. 前記義歯床の凹部は、前記凹部に超高分子量ポリエチレンに親和性を有する含浸剤を含浸し、含浸剤が含浸された超高分子量ポリエチレンの表面に親水性基を導入し、親水性基が導入された超高分子量ポリエチレンの表面に親水性モノマーをグラフト重合させて表面改質された請求項3に記載の有床義歯。
  5. 前記アクリル樹脂がポリメタクリル酸メチル(PMMA)である請求項3または4に記載の有床義歯。
  6. 義歯床と前記義歯床に配列された人工歯とを備え、前記義歯床と前記人工歯とが、超高分子量ポリエチレンの成形物を切削加工して所定形状に一体形成された有床義歯。
  7. 前記超高分子量ポリエチレンの吸水率が0.01重量%以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の有床義歯。
  8. 請求項1〜5、及び7に記載の有床義歯を製造する有床義歯の製造方法であって、
    義歯床の三次元形状情報に基づいて、超高分子量ポリエチレンの成形物を切削加工して義歯床を所定形状に形成する工程と、
    前記義歯床の表面に形成された人工歯配列用の凹部をアクリル樹脂と接着可能に表面改質する工程と、
    表面改質された前記凹部に人工歯を接着する工程と、
    を備えた有床義歯の製造方法。
  9. 粘膜面の形態及び咬合高さが修正された修正後の旧義歯の撮影を行い、修正後の旧義歯の撮像データを取得する工程と、
    人工歯の撮影を行い、人工歯の撮像データを取得する工程と、
    修正後の旧義歯の撮像データに基づいて修正後の旧義歯の三次元画像を表示し、人工歯の撮像データに基づいて人工歯の三次元画像を表示して、表示された三次元画像において人工歯配列及び粘膜面の形態の最適化を行い、表示された新義歯の三次元画像に基づいて新義歯の三次元形状情報を取得する工程と、
    表示された新義歯の三次元画像において新義歯から人工歯を取り除き、表示された新義歯の義歯床の三次元画像に基づいて新義歯の義歯床の三次元形状情報を取得する工程と、
    を更に含む、請求項8に記載の有床義歯の製造方法。
  10. 請求項6に記載の有床義歯を製造する有床義歯の製造方法であって、
    義歯床及び人工歯を備えた義歯の三次元形状情報に基づいて、超高分子量ポリエチレンの成形物を切削加工して前記義歯床と前記人工歯とを所定形状に一体形成する工程を備えた有床義歯の製造方法。
  11. 粘膜面の形態及び咬合高さが修正された修正後の旧義歯の撮影を行い、修正後の旧義歯の撮像データを取得する工程と、
    人工歯の撮影を行い、人工歯の撮像データを取得する工程と、
    修正後の旧義歯の撮像データに基づいて修正後の旧義歯の三次元画像を表示し、人工歯の撮像データに基づいて人工歯の三次元画像を表示して、表示された三次元画像において人工歯配列及び粘膜面の形態の最適化を行い、表示された新義歯の三次元画像に基づいて新義歯の三次元形状情報を取得する工程と、
    表示された新義歯の三次元画像に基づいて義歯床及び人工歯を備えた義歯の三次元形状情報を取得する工程と、
    を更に含む、請求項10に記載の有床義歯の製造方法。
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