JP5589214B2 - Ito粉体およびその製造方法、透明導電材用塗料、並びに透明導電膜 - Google Patents

Ito粉体およびその製造方法、透明導電材用塗料、並びに透明導電膜 Download PDF

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Description

本発明は、ITO粉体およびその製造方法、当該ITO粉体を含む透明導電材用塗料、並びに、当該塗料を用いて成膜される透明導電膜に関する。
Snを含有するIn酸化物、すなわちITO(以下、「スズ含有酸化インジウム」と記載する場合もある。)を含む膜は、可視光に対する高い透光性と、導電性とを示すことから、各種表示デバイスや太陽電池などの透明導電膜として用いられている。このITOを含む透明導電膜(以下、ITO膜と記載する場合もある。)の成膜方法としては、スパッタリング法等の物理成膜法、粒子分散液または有機化合物を塗布する塗布法が知られている。
塗布法による塗膜は、スパッタリング法などの物理的方法に比べて導電性が多少低いものの、真空装置などの高価な装置を用いることなく大面積や複雑形状の成膜が可能であり、低コストになる利点がある。更に、この塗布法の中でも、粒子分散液による方法は、塗布膜を熱分解させる必要がある有機化合物塗布法に比べ、比較的低温プロセスで成膜でき、良好な導電性も得られることから、ブラウン管の電磁波シールド膜として広く用いられており、LCDやELなどの表示デバイスへの応用も検討されている。
従来、ITO膜の形成に用いられるITO粒子の製造方法としては、塩化インジウム水溶液、塩化スズ水溶液などのインジウムイオン、および、スズイオンを含む水溶液中に、アンモニア、苛性ソーダなどのアルカリを加えて中和・沈殿させてスズを含有するインジウム水酸化物を生成させ、大気雰囲気または還元性雰囲気で500℃以上の高温で加熱処理(焼成)して結晶化させる方法が提案されている。
ITO粉末の製造方法として、有機物を使用する製法も提案されている。特許文献1では、有機溶媒にインジウム塩とスズ塩とを溶解したした後、ここへアルカリ水溶液を添加してインジウム水酸化物とスズ水酸化物を生成させ、得られたインジウム水酸化物とスズ水酸化物の混合物を乾燥後、加熱処理することが提案されている。
また、本出願人は、水溶液中で作製した水酸化インジウムを200℃から350℃の有機溶媒中で加熱することによって、スズ含有水酸化インジウムが有機溶媒中に溶解し、さらに、析出することによって超微粒子が生成し、当該超微粒子の生成により、ITO粒子の生成温度の低温化と良好な結晶性とを両立させることを提案している(特許文献2参照)。
特開平3−54114号公報 特願2006−101208号
従来のITO粉体の製造方法では、インジウム水酸化物およびスズ水酸化物のコロイド粒子を含有するゾルを乾燥した後、当該乾燥物を加熱処理によって焼結する。しかし、得られた焼結物の粉砕後におけるITO粒子の平均粒径は0.2〜0.4μm(すなわち200nm〜400nm)と非常に粗い。このような粗大ITO粒子の塗料化には、ITO粒子の分散性をよくするために、ビーズミルでの分散工程が行われるが、それでも微細で分散性の良いITO粒子を得るのは困難である。この為、当該粗いITO粒子を含むITO塗料によりITO膜形成を行った場合は、ITO粒子の分散性及び透明性が必ずしも十分ではなかった。さらに、インジウム系水酸化物を高温で焼成する場合には、ITO粒子
は凝集し、場合によっては粒子同士が強く結合して解砕できない程度に凝集し、粗大化してしまう問題があった。だからといって、凝集を抑制するために焼成温度を低下させると、今度は、結晶化が不十分となり、ITO膜形成後に十分な導電性が得られない。
ここで、特許文献1においては、インジウム水酸化物とスズ水酸化物とを有機溶媒にて混合することにより、1次粒子の凝集を低減させるとしている。しかし、その後550℃まで加熱処理している。そして、比較的高温領域である550℃においては、ITO粒子同士が焼結し粗大化してしまう。
一方、本出願人が提案した特許文献2においては、インジウム系水酸化物を有機溶媒に分散させることにより、240℃以上350℃以下の溶媒中で熱処理を行い、ITO粒子間の凝集・焼結がない微細なITO粒子および塗料を合成している。この製造法で作製されたITO粒子はシングルナノレベルの非常に小さいものが得られるが、最大50nm近い粒子も混在するなど、非常に大きな粒子も同時に生成し、ITO粒子の粒子サイズの分布が広くバラツキがあった。
ITO粒子をガラスまたはフィルム基板上に透明導電膜として形成させた際、透明導電膜の膜厚が200nm以上で、ITO粒子サイズに対して4〜5倍ほどに厚い場合は、上記のような50nmに近い粗大なITO粒子が存在しても、膜厚に対して影響が小さい。しかし、膜厚200nm以下の非常に薄い膜を形成させる場合になると、50nm程度の粗大なITO粒子の存在は塗膜厚みのバラツキを生じ、ITO粒子の粒度分布の広さは塗膜表面の粗さの原因となり、塗膜表面の平滑性を損なう。そして、塗膜表面の平滑性を損なうと、光の散乱が生じヘイズが悪化する。
さらに、塗布方式としてインクジェットなどを採用する場合は、ITO粒子が、非常に小さな直径のノズル配管を通過する場合もある。この為、塗料内に含まれる大きなITO粒子がノズルの内に引っかかりヘッド部を詰まらせる原因となるため、粗大なITO粒子は可能な限り含まない方が好ましい。
また、成膜後の透明導電膜において光の散乱を抑えるためには、ITO粒子サイズとしても微細な方が好ましい。ITO粒子を微細化することにより、均質な透明導電膜が形成され易く、ヘイズ等の光学的特性が向上する効果が得られるからである。
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、粒子サイズのバラツキが少なく、透明度が高く、ヘイズの値が小さい透明導電膜を成膜することの出来るITO塗料に用いるITO粒子、当該ITO粒子を含むITO塗料、並びに当該ITO粒子を含む透明導電膜を提供することにある。
本発明者らは、上述の課題を解決をすべく研究を行った結果、有機溶媒中における湿式プロセスによりインジウムを含有した塩と、スズを含有した塩とを加熱分解して、インジウムとスズとを含有した前駆体を形成し、さらに当該前駆体を有機溶媒中で反応させて、粒子分散液としてITO粒子生成させる新規な構成に想到した。そして、これにより粒子サイズのバラツキを低減させ、かつ一次粒子の平均径が20nm以下の非常に微細なITO粒子を得ることを見出し、本発明を完成した。
即ち、上述の課題を解決するための第1の構成は、
ITO粉体を構成するITO粒子の1次粒子の体積平均粒径が9.0nm以下で、全てが1次粒子径20nm以下のITO粒子であることを特徴とするITO粉体である。
第2の構成は、
ITO粉体の比表面積が61.5m /g以上であることを特徴とする第1の構成に記載のITO粉体である。
第3の構成は、
X線回折から得られる結晶子径が9.7nm以下であることを特徴とする第1または第2の構成に記載のITO粉体である。
第4の構成は、
ITO粉体を構成するITO粒子の1次粒子の体積平均粒径が9.0nm以下で、全てが1次粒子径20nm以下のITO粒子であるITO粉体の製造方法であって、
インジウムを含む塩とスズを含む塩とを有機溶媒中に溶解し、当該有機溶媒を、前記インジウムを含む塩およびスズを含む塩の分解温度以上、250℃以下で加熱して、当該インジウムを含む塩とスズを含む塩とを加熱分解し、インジウムとスズとを含む前駆体を作製する第1の工程と、
前記インジウムとスズとを含む前駆体を、200℃以上350℃以下で加熱した有機溶媒中で加熱処理し、ITO粒子を生成させる第2の工程とを、有し、
前記第1の工程に用いる有機溶媒は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、の中から1種もしくは2種以上選ばれる少なくとも一つ以上の溶媒であり、
前記第2の工程に用いる有機溶媒は、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、の中から1種もしくは2種以上選ばれる少なくとも一つ以上の溶媒である、ことを特徴とするITO粉体の製造方法である。
第5の構成は、
前記塩は、硝酸塩であることを特徴とする第4の構成に記載のITO粉体の製造方法である。
第6の構成は、
第1から第3の構成のいずれかに記載のITO粉体を含むことを特徴とする透明導電材用塗料である。
第7の構成は、
透明導電材用塗料を200℃以下で乾燥したとき生成するITO粉体の比表面積が50m/g以上であることを特徴とする第6の構成に記載の透明導電材用塗料である。
第8の構成は、
第6または第7の構成に記載の透明導電材用塗料を用いて製造されることを特徴とする透明導電膜である。
本発明に係るITO粒子は、粒径が小さい上に、粒子径のバラツキが少なく、ITO粒子間の凝集・焼結がない。この為、当該ITO塗料により成膜された透明導電膜は、透明度が高く、ヘイズの値が小さく均一な塗膜面を形成できる。
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
透明導電膜においては、その透明性が重要な特性である。膜が透明であるための条件としては、入射光に対して反射が少なく、可視域での吸収がなく散乱が無いことが要求される。散乱に関しては、散乱源となる粉体が1種類の物質であるならば、当該粉体の粒子径と対象光の波長とに依存し、ミー散乱、レイリー散乱の式により計算できる。
ここで、ミー散乱は、粒子の大きさが波長に比べて無視できない場合の光の散乱をいい、粒子の大きさが、波長の1/10程度より大きい場合に問題となる。一方、波長に対する粒子径が十分小さい場合は、レイリー散乱が支配要因となる。本発明に係る粒子の場合は、レイリー散乱の領域である。そこで、以下、レイリー散乱について説明する。
一般に、対象光の波長の2分の1に相当する粒子径の粉体が、最も散乱が大きい。粉体の粒子径が、この粒子径から外れ、さらに対象光の波長に比べて小さくなると、以下のレイリー散乱式により、粒子径の6乗に比例して散乱は急激に小さくなる。
Ks=(4π/3λ)×d×[(M−1)/(M+2)]
Ks:散乱係数、λ:波長、d:粒子径、M=n/n
:物質の屈折率、n:媒体の屈折率
ここで、可視域の波長が0.4〜0.8μmであることより、粉体の粒子径を0.9μm以下にし、均一に分散させることで、この粒子からなる粉体を可視光に対して透明にすることができることが判る。
本実施形態のITO粉体は、1次粒子径が20nm以下の粒子が個数割合で90%以上である。本発明者らは、ITO粒子が上述の構成を備えることにより、当該ITO粒子を含む透明導電膜において、光学特性の1つであるヘイズの値が改善されるとともに、全光線透過率も増加することを見出した。尚、全光線透過率とは、物体(本実施形態では当該ITO粒子を含む透明導電膜)に光を照射した際、当該物体に反射されることなく、当該物体を透過した光の割合のことである。
本発明者らは、本実施形態のITO粉体が、上述の構成に加えて、さらに1次粒子径が15nm以下の個数割合が90%以上であると、さらにヘイズの値を改善出来ることを見出した。
本実施形態で作成したITO粒子を含むITO塗料は、ITO粒子の分散性が良好である。従来のITO塗料においては、ITO粒子の分散性向上のために分散剤が添加されている。しかし、本実施形態にかかるITO粉体を用いた場合は、ITO粒子が微粒子であ
って、且つ、粒子間の接触がなく独立した粒子として存在するので、分散剤を使用せずとも、均一でムラがなくヘイズの値の低いITO塗膜を得ることができる。
(本実施形態に係るITO粒子の生成機構)
本実施形態に係るITO粒子の生成機構について説明する。
本実施形態に係るITO粒子は、インジウムを含む無機塩と、スズを含む無機塩とを有機溶媒中に溶解させ、当該有機溶媒を、前記インジウムを含む塩およびスズを含む塩の分解温度以上、250℃以下の有機溶媒中で加熱分解して、インジウムとスズとを含む前駆体を作製する第1の工程と、第1の工程で得た前駆体を、200℃以上、350℃以下の有機溶媒中で加熱処理することでITO粒子を生成させる第2の工程を経て、生成したITO粒子である。
ここで、インジウムを含む塩およびスズを含む塩の分解温度とは、金属元素と酸基とが結合しているこれらの塩を加熱したとき、両方の塩において金属元素と酸基とが分離する温度のことをいう。
本出願人が特許文献2で提案した、有機溶媒中で加熱処理を行うITO粒子の製造方法では、まず、水溶液中でスズを含有するインジウム水酸化物を作製し、スズ含有インジウム水酸化物を有機溶媒に分散させ、240℃以上350℃以下の有機溶媒中で熱処理を行い、ITO粒子および塗料を合成していた。この製造方法で得られるITO粒子は、シングルナノレベルの微細な粒子である。しかし、最大50nm近い粒子も混在するなど、非常に大きな粒子も同時に生成しており、ITO粒子の平均粒子径に対して粒子サイズの分布が広くバラツキがあった。
これに対し、本実施形態に係るITO粒子の生成においては、インジウムとスズとを含む塩を直接有機溶媒中に溶解させ、当該有機溶媒を前記インジウムを含む塩およびスズを含む塩の分解温度以上、250℃以下の加熱により熱分解し、インジウムとスズとを含む前駆体を有機溶媒中に生成させる第1の工程を有する。
この第1の工程を経ることによって、上述の、水溶液中でスズ含有水酸化インジウム水酸化物を作製し有機溶媒中に溶解・分散させる方法や、有機溶媒中でインジウムを含む塩とスズを含む塩とをアルカリで中和させ、スズ含有水酸化インジウムを分散させる方法、と比較すると、有機溶媒中で直接インジウム塩とスズ塩とを熱分解させて前駆体を作製することにより、より微細な前駆体を有機溶媒中に均一に分散させることが可能である。
この結果、有機溶媒中での加熱分解により生成する前駆体は非常に微細であり、X線回折法による結晶相の同定を試みるも正確な同定は出来ない。おそらく有機溶媒中有で得られる前駆体は、ズズを含有するインジウム水酸化物、インジウムオキシ水酸化物、または、溶媒とインジウム有機化合物との単一体もしくは混合物と推定される。
本実施形態に係るITO粒子の生成で使用できる塩としては、加熱すると塩の分解が起こり酸化物、オキシ水酸化物、水酸化物となる塩が好ましい。具体的に示すと、インジウム含む塩としては、インジウム成分原料として、硝酸インジウム、硫酸インジウム、リン酸インジウム、塩化インジウム等の無機塩、酢酸インジウム、シュウ酸インジウム、酒石酸インジウム、インジウムアルコキシド等の有機塩が挙げられ、これらは単一であってもよく、混合して使用しても良い。
また、スズを含む塩としては、硝酸スズ、硫酸スズ、リン酸スズ、塩化スズ等の無機塩、酢酸スズ、シュウ酸スズ、酒石酸スズ、スズメトキシド、スズエトキシド、スズプロポキシド、スズブトキシド等のスズアルコキシドなどの有機塩が挙げられ、これらは、単一であってもよく、混合して使用しても良い。
インジウムやスズを含む塩として有機金属塩でも良いが、有機金属塩は無機塩と比べると高価である。また、一般的に有機塩は親水性が弱く、本実施形態に係る親水性の有機溶媒中に溶解させた際、有機溶媒に対する溶解度が足りずに溶け残りができる、または2層
に分かれる、など、有機溶媒中に均一に塩が分散しない場合がある。従って、安価に入手でき、親水性の強い無機塩が好ましい原料である。
そして、前記インジウムを含む塩およびスズを含む塩として、分解温度が250℃以下の原料を用いることが好ましい。これは、ITO粒子の生成温度が250℃付近のため、前記インジウムを含む塩およびスズを含む塩として、分解温度を250℃以下の原料を用いることで、インジウムとスズとが前駆体を経由せず、塩の分解とともに直接ITOを生成することを、回避できるからである。
このため、前記インジウムを含む塩およびスズを含む塩の原料としては、硝酸インジウム、硝酸スズ、酢酸インジウム、酢酸スズ、シュウ酸インジウム、酒石酸インジウムが好ましく、もっとも好ましいのは硝酸インジウム、硝酸スズである。これら原料の加熱分解により溶媒中のpHが酸性側から中性側に変動し、他の溶媒中の金属イオンが同時に析出し、スズ含有インジウム微細な前駆体の沈殿が生成する。
原料となる塩は、結晶体の塩を直接有機溶媒中に溶解しても良く、結晶体の塩を溶解した水溶液を用いても良い。ただし、原料中に含まれる水分は少ない方が好ましい。その理由として、原料中の水分が多いと原料の熱分解時に有機溶媒中に含まれる水分に再溶解・析出し、均一で微細な前駆体の形成を妨げるおそれがあること、さらに高温加熱時に含まれる当該水分を蒸発させる量の熱量を加えなければならないため、余計なエネルギーを費やすこととなるからである。
次に、第1の工程で得たスズ含有インジウム前駆体を、有機溶媒中で200〜350℃という低温で熱処理する第2の工程をとることにより、ズズ含有インジウム前駆体をITO粒子とする。第1の工程でズズ含有インジウム前駆体が非常に微細でかつ均一に分散していることにより、第2の工程において各々の粒子が微細なITO粒子となり、非常に微細でかつ均一なサイズの粒子が得られる。
本実施形態に関する第1の工程においては、沸点が100℃から350℃以下の有機溶媒を用いればよい。原料として用いるインジウム塩とズズ塩との分解温度が低ければ、低い沸点の有機溶媒を選択すればよく、原料塩の分解温度により適時選択すればよい。また、第2の工程においては、沸点が200℃以上の有機溶媒を用いればよい。これは、有機溶媒中の加熱処理でITO粒子の生成がなされるため、有機溶媒の沸点が200℃以上であれば、当該有機溶媒が反応系外に揮発することを回避できるからである。従って、本実施形態にて使用する有機溶媒は、その沸点が200℃以上、好ましくは230℃以上であればよい。
ITO粒子の生成に要する製造は、当該生成温度が低温であるほど、その設備、電力費を削減できるため、製造コストが安価になるメリットがある。ところが、一般的には、ITO粒子を低温生成させると、その結晶性が悪くなってしまうと考えられている。しかし、本実施形態に係るITO粒子の生成では、低温生成と良好な結晶性とを両立させることができた。その理由は定かではないが、前駆体の段階で超微粒子を均一に分散が生成させることにより、エネルギーの効率が上がり、ITO粒子の生成温度の低温化が実現できたのではないかと考えられる。
さらに、本実施形態に係るITO粒子の生成で使用できる有機溶媒は、1分子当たりに、少なくともOH基を1個以上持つ溶媒が好ましい。中でも多価アルコールが好ましく、さらに好ましくは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1.2−プロピレングリコール、1.3−ブチレングリコール、2.3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリンが挙げられる。しか
し、これに限らず、その有機溶媒の沸点が第1の工程においては、沸点が100℃から350℃以下、第2の工程では、200℃以上、さらに好ましくは230℃以上の、多価アルコールまたは、その誘導体であればよく、またイオン性液体でもよい。これは、出発原料となる塩の親水性が強いため、OH基を有するか、または、イオン性の有機溶媒であれば、当該粒子表面に吸着され易くなり、最終的なITO粒子の分散性が良くなる為ではないかと考えられる。勿論、これらの有機溶媒は1種のみではなく、2種以上を混合して用いても良い。さらに好ましくは、50体積%以上の水を溶解出来る、親水性の強い水溶性の有機溶媒を用いればよい。
上述したように、本実施形態に係るITO粒子の生成に用いる有機溶媒は、分子一個あたりにOH基を一個以上持つものであることが好ましいが、当該有機溶媒が、分子一個あたりにOH基を一個以上持つことで、異なる効果も発揮する。それは、当該有機溶媒中に存在するOH基がスズ含有酸化インジウムからO(酸素)を奪って、これを還元し、酸素欠陥を生成させる効果である。当該生成した酸素欠陥に起因して、生成するITO粒子中にキャリアが発生するので導電性が向上する。
ここで、OH基を多く有する化合物という観点から、有機溶媒としては分子一個あたりにOH基を2個以上もつポリオールが好ましい。
ただし、好ましい有機溶媒はポリオールに限られる訳ではなく、多価アルコール、または、その誘導体でも良い。さらには、有機溶媒自体に当初の時点においてOH基が無くても、原料中に含有される水分等の存在により加水分解を起こし、結果的にアルコールが生成するタイプの有機溶媒であっても良い。このタイプの有機溶媒としては、例えば、オレイン酸、オレイルアミンがある。また、上述した有機溶媒は、カルボン酸基、アミン基を含んでいても良い。
以上のことから、本実施形態に係るITO粒子生成における好ましい有機溶媒の例として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールの中から選ばれる少なくとも一つ以上の有機溶媒が挙げられる。中でも、常温で液体であること、かつ安価であること等の観点を考慮すると、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコールが、より好ましい。
なお、酸素欠損を持たないITO粒子は、一般的に白色または黄色の粒子であるが、酸素欠損を持つことにより緑色または青色の粒子となる。本実施形態に係るITO粒子はすべて青色系の粒子であり、酸素欠陥を有するITO粒子が生成していることが判明した。
(本実施形態に係るスズ含有酸化インジウムを含む透明導電材用塗料)
本実施形態に係るスズ含有酸化インジウムを含む透明導電材用塗料において溶媒は、水、極性をもつ有機溶媒、または、それらの混合溶媒が好ましく用いられる。これは、ITO粒子表面が極性を持ち、且つ親水性であるため、透明導電材用塗料を形成しているときには、溶媒中に水のような極性溶媒が存在することが好ましいからである。
本実施形態に係るITO粒子を含む塗料においても、当該塗料を静置したときに、ITO粒子が沈降しないことが求められる。ここにいう沈降とは、当該塗料を、遠心分離器を用いて3000rpm、30分間分離させたときに、塗料溶媒が沈降層と透明な上澄み層とに分離することをいう。ITO粒子を含む塗料において粒子が沈降するということは、当該粒子が凝集したか、または、初めから粗大粒子が形成されていたことが考えられる。そして、ITO粒子を含む塗料において、ITO粒子の凝集や当初からの粗大粒子が存在することは、当該塗料を用いてITO塗膜を形成した際に膜厚の不均一が生じ、導電性の低下や、ヘイズの値の増加につながる。従って、ITO粒子を含む塗料においては、IT
O粒子がブラウン運動のみで分散し、沈降せずにいる状態が理想である。
本実施形態に係る透明導電材用塗料は、本実施形態に係るITO粉体と、水、極性をもつ有機溶媒、または、それらの混合溶媒とを含み、静置してもITO粒子が沈降しないものである。当該塗料を用いることで、均一な塗膜を成膜することが出来、当該均一な塗膜を焼成することによって、ヘイズが低く、導電性が良好な導電性塗膜が得られる。
〔本実施形態のITO粉体の製造方法〕
次に、本実施形態のITO粒子の製造方法について説明する。
<原料>
本実施形態に係るITO粒子の生成で使用できる塩としては、加熱すると塩の分解が起こり酸化物、オキシ水酸化物、水酸化物となる塩が好ましい。具体的に示すと、インジウム含む塩としては、インジウム成分原料として、硝酸インジウム、硫酸インジウム、リン酸インジウム、塩化インジウム等の無機塩、酢酸インジウム、シュウ酸インジウム、酒石酸インジウム、インジウムアルコキシド等の有機塩が挙げられ、これらは単一であってもよく、混合して使用しても良い。また同様に、スズを含む塩としては、硝酸スズ、硫酸スズ、リン酸スズ、塩化スズ等の無機塩、酢酸スズ、シュウ酸スズ、酒石酸スズ、スズメトキシド、スズエトキシド、スズプロポキシド、スズブトキシド等のスズアルコキシドなどの有機塩が挙げられ、これらは、単一であってもよく、混合したものでもよい。
さらに、原料として硝酸インジウム、硝酸スズ、酢酸インジウム、酢酸スズ、シュウ酸インジウム、酒石酸インジウム等、250℃以下の加熱とともに分解し、酸化物、オキシ水酸化物、水酸化物となる原料を混合させておく。特に好ましい原料としては硝酸インジウムが挙げられる。
<前駆体形成工程>
本実施形態に係るITO粒子の生成工程として、まず、インジウムとスズとを含む前駆体を得る第1の工程を経る。第1の工程では、前記で示した原料を有機溶媒中に溶解させ、インジウムまたはスズを含む前駆体を、当該有機溶媒を前記インジウムを含む塩およびスズを含む塩の分解温度以上、250℃以下の有機溶媒中で加熱分解させインジウムを主成分とした前駆体を得る。
第1の工程で用いる有機溶媒について、さらに説明する。
第1の工程で用いる有機溶媒は、その沸点が100℃以上、350℃以下であれば良い。そして、本実施形態で用いる有機溶媒は、少なくとも1分子当たりにOH基を1個以上持つ溶媒が好ましい。中でも多価アルコールが好ましく、さらに好ましいのは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールである。しかしこれらの溶媒に限られず、沸点が100℃以上200℃以下である等のアルコール、(たとえば、へキシルアルコール、ヘプタノール)、または多価アルコール、または、多価アルコールの誘導体、さらにはイオン性液体でも良い。これらの有機溶媒は、1種のみではなく、2種以上を混合して用いても良い。出発原料であるインジウムを含む塩、または、スズを含む塩の分解温度が低ければ低い沸点の有機溶媒を選択すればよく、原料として用いるインジウム塩およびスズ塩の分解温度より高い沸点をもつ有機溶媒を選択すればよい。さらに、原料として用いるインジウム塩およびスズ塩は親水性であるため、親水性の有機溶媒を用いることで、当該有機溶剤が粒子表面に吸着され、作製されるITO粒子の分散性の向上に寄与しているのであると考えられる。
原料となるインジウム塩およびスズ塩は、各々の結晶塩を直接有機溶媒中に溶解しても良いが、各々の結晶塩が溶解した水溶液を用いても良い。ただし、原料中に含まれる水分は少ない方が好ましい。その理由として、原料中の水分が多いと、原料の加熱分解時に含
まれる水分にこれらの原料が再溶解・析出し、微細な前駆体の形成を妨げるおそれがあること、高温加熱時に水分の蒸発熱分の熱量を余分に加えなければならないため、余計なエネルギーを費やすこと、等による。
これら原料の加熱分解により、溶媒中のpHは酸性側から中性側に変動する為、溶媒中の他の金属イオンも同時に析出してくる。たとえば、溶媒中にインジウム硝酸塩と塩化スズを混合させておくと、加熱とともに硝酸イオンが分解を起こしてNOxガスとなり、有機溶媒中から気体となって除かれる。それとともに溶媒中にはズズイオンが析出し、スズ含有インジウム前駆体の沈殿が生成する。
第1の工程で生成した前駆体のスラリーは、有機溶媒とともに、そのまま第2の工程で使用しても良い。しかし、当該前駆体スラリーを固液分離にて採集し、洗浄して不純物イオンを除去することが、純度を高めたスズ含有インジウム前駆体のケーキが得られるので好ましい構成である。このとき洗浄剤としては、不純物イオンが溶解し易い純水等の洗浄剤を、単独または有機溶媒と混合させて使用しても良いが、次工程での分散を考慮すると、本実施形態で使用する有機溶媒と同様の有機溶媒を、単独で用いる洗浄が好ましい。
<熱処理工程>
次に、第1の工程で得たスズ含有インジウム前駆体を、有機溶媒中で200〜350℃という低温で熱処理する第2の工程をとることにより、ズズ含有インジウム前駆体からITO粒子と生成させる。
第2の工程で用いる有機溶媒について、さらに説明する。
第2の工程で用いる有機溶媒は、その沸点が200℃以上、350℃以下であれば良い。これは、スズ含有酸化インジウム粉体の生成が、有機溶媒中の加熱処理でなされるため、有機溶媒の沸点が200℃以上であれば、当該有機溶媒が加熱分解し、反応系外に揮発することを回避できるからである。従って、本実施形態にて使用する有機溶媒は、その沸点が200℃以上、好ましくは230℃以上であればよい。そして、本実施形態で用いる有機溶媒は、第1の工程と同様、少なくとも1分子当たりにOH基を1個以上持つ溶媒が好ましい。中でも多価アルコールが好ましく、さらに好ましいのは、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリプロピレングリコールである。しかしこれらの溶媒に限られず、沸点が200℃以上350℃以下であるアルコール、または多価アルコール、または、多価アルコールの誘導体、さらにはイオン性液体でも良い。これらの有機溶媒は、1種のみではなく、2種以上を混合して用いても良い。
本実施形態に係るITO粒子生成の際に使用される雰囲気ガスは、不活性ガスおよび/または還元性ガスである。好ましくは、一酸化炭素、窒素、水素、希ガス、アンモニアガスである。さらに好ましくは、窒素、水素が挙げられる。これらの雰囲気ガスは、1種類の使用でも良いが2種類以上を混合して使用しても良い。
<加熱処理装置>
本実施形態で使用される加熱装置として、例えば、マントルヒーター、リボンヒーター、オイルバス等が挙げられる。尤も、350℃まで加熱可能ならば、多様な加熱装置が適用可能である。
<反応器>
本実施形態で使用される反応器は、350℃に耐えうる反応器であればよい。但し、加熱処理中に有機溶媒が蒸気となって若干揮発することを考慮すると、0.1MPaの圧力下でも密閉状態を保持し、還流手段を有する反応器であることが好ましい。
<固液分離>
固液分離は、有機溶媒中での加熱処理後に生成したITO粒子を回収する工程である。
当該固液分離には、遠心分離法や吸引ろ過法が適用可能だが、本実施形態で生成したITO粒子は分散性が良いので、吸引ろ過法を適用する場合は、凝集剤を添加するなどして2次凝集を起こさせる必要がある。従って、余分な薬剤の添加を避ける観点からは、遠心分離法の適用が好ましいと考えられる。当該遠心分離の条件例としては、3000rpm、30minが挙げられる。
<洗浄>
洗浄は、生成したITO粒子から不純物を除去するために実施される。具体的には、上述した有機溶媒中での加熱処理後に、遠心分離法等によりITO粒子と有機溶媒とを分離し、当該分離されたITO粒子へ洗浄液を添加する。洗浄液としては、純水、極性を持った有機溶媒、または、それらの混合液等が好ましく適用できる。当該洗浄液を添加した後に、ITO粒子を洗浄するための超音波分散を行う。このとき、ホモミキサー等による強制撹拌を併用してもよい。超音波分散後は、再度遠心分離機にかけて固液分離する。このときの遠心分離の条件例として、3000rpm、30minがあげられる。上述した、遠心分離−洗浄液添加−超音波分散を1洗浄単位とし、当該洗浄単位を繰り返し実施することにより、ITO粒子中の不純物を低減することができる。繰り返しの回数は、1回以上、好ましくは3回以上である。
<溶媒置換>
生成したITO粒子への洗浄を終了した後、ITO分散液を得るために、溶媒置換を実施する。溶媒置換する際の置換液は、その沸点が300℃以下、好ましくは200℃以下である溶媒が使用できる。沸点が300℃以下であれば、ITO塗布液を塗布して塗膜焼成する際に、当該溶媒が揮発し、残留しないので、結果的に表面抵抗値が増大せず、ヘイズの悪化を回避できるからである。ITO分散液を得るための溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、シクロヘキサノール、及びテルピネオール等のアルコール類、エチレングリコール、及びプロピレングリコール等のグリコール類、アセトン、メチルエチルケトン、及びジエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、及び酢酸ベンジル等のエステル類、メトキシエタノール、及びエトキシエタノール等のエーテルアルコール類、ジオキサン、及びテトラヒドロフラン等のエーテル類、N ,N − ジメチルホルムアミド等の酸アミド類、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、及びドデシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、及びトリメチルペンタン等の長鎖アルカン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、および、シクロオクタン等の環状アルカン等のような常温で液体のものを適宜選択して使用すればよい。当該溶媒置換も、洗浄のところで説明した、「遠心分離−洗浄液添加−超音波分散」の1洗浄単位を適用して実施すれば良い。
[本実施形態に係るITO分散液を用いた塗膜の製造方法例]
本実施形態に係るITO分散液の塗膜化に際しては、スクリーン印刷、スピンコート、ディップコート、ロールコート、刷毛コート、スプレーコート等の公知の方法を用いることが出来る。また、当該ITO分散液を基板上に塗布する場合には、当該基板材料として、有機高分子、プラスチック、ガラス等をあげることができるが、当該基板形状としてはフィルム状のものが一般的である。特に、タッチパネルのようにフレキシビリティを要求される基板には高分子フィルムが好ましく、当該高分子フィルムには、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンタフタレート(PEN)、ポリイミド、アラミド、
ポリカーボネート等のフィルムを用いることが出来る。
当該基板材料上に成膜された本実施形に係るITO粉体を含む透明導電膜は、透明度が高く、ヘイズの値が小さい透明導電膜であった。
(実施例1)
インジウム濃度が22.79wt%の硝酸インジウム水溶液(In(NO)32.8gと、塩化スズ(SnCl・2HO)1.68gとを秤量し、トリエチレングリコール190mlに溶解し、硝酸インジウムと塩化スズとを含むトリエチレングリコール混合溶液を調製した。なお、当該混合溶液においてスズの濃度はインジウムとスズの合計に対して10mol%となっている。
当該混合溶液を室温中で十分に撹拌し、反応容器内に窒素を毎分200mL流しながら、室温から125℃まで2℃/minの昇温速度で加熱し、130℃に到達後1時間保持した。130℃に到達直後硝酸インジウムの分解が起こり、昇温開始直後は透明であった混合溶液は、NOxガスと水蒸気の排出とともに白濁し、スズ含有インジウム前駆体を生成した。その後、混合溶液を室温まで冷却した後、生成したスズ含有インジウム懸濁物を濾過収集し、トリエチレングリコール100mlにより洗浄して、スズ含有インジウム前駆体を得た。なお反応開始直後の溶液pHは0.90であったが、反応終了直後の溶液pHは3.40であった。
次に、当該インジウムを主成分とした前駆体を再度トリエチレングリコール190mlに添加して撹拌し、前駆体をトリエチレングリコール中に分散させた。当該混合溶液を室温中でさらに十分に撹拌し、反応容器内に窒素を毎分200mL流しながら、室温から280℃まで2℃/minの昇温速度で加熱し、270℃に到達後4時間保持した。また、当該加熱中はトリエチレングリコールの蒸発を防ぐため、反応容器にコンデンサーを取り付け、トリエチレングリコールを還流しながら反応させた。
加熱、保温が終了したら、反応物を室温まで冷却した後、これを取り出して遠沈菅に分取し、遠心分離を3000rpm、30分間行って固液分離を行った。なお、反応終了時の溶媒の色は青色をしており、酸素欠陥を有するITO粒子の生成が確認できた。
当該固液分離の後、反応物からトリエチレングリコールを除去し、代わりにヘキサノールを添加して超音波分散を行った後、「遠心分離−洗浄液添加−超音波分散」の1洗浄単位を3回実施した。その後、洗浄溶媒をエタノールに替え、「遠心分離−洗浄液添加−超音波分散」を実施した。本実施例おいては、洗浄用の溶媒と分散用の溶媒とに、同じエタノールを使用したので、洗浄完了と同時に溶媒置換も完了し、ITO分散液を得た。
実施例1に係るITO粒子の粒子特性を評価する為、前記ITO分散液を大気中70℃にて乾燥させ、ITO粉体を得た。このITO粉体に対し、以下の特性測定を実施した。当該測定結果を表1に示す。
<1次粒子粒径(直径)の測定方法>
ITO粒子の粒径測定は、当該ITO粒子のTEM写真における1次粒子の画像の大きさを測定することにより粒子の体積平均径と、最大径とを算出した。このとき、複数の1次粒子が重なっている場合は、測定対象外とした。尤も、単純に1次粒子表面で接触している複数の1次粒子は、その複数1次粒子の輪郭が容易に分かるため測定対象とした。また、TEM写真は20万倍の写真を使用した。測定に際しては、当該ITO1次粒子において長さが最大となる部分を決め、当該部分の長さを測定し、その測定値を直径(粒径)とした。なお、測定対象とする1次粒子の数は100個とした。
ここで、体積平均径の算出方法について、詳細に説明する。
測定対象とした1次粒子の直径から立方体近似として1次粒子の体積を算出し、1次粒
子の体積の平均値から体積平均径を算出した。
実施例1に係るITO粒子を撮影した倍率が20万倍のTEM写真(視野:350×250nm)である図1に示す。
<個数割合の算出方法>
個数割合の算出方法では、ITOの1次粒子数を100個測定した際の、所定粒径を有するITO粒子の存在割合を算出した。例えば、ITOの1次粒子を100個測定して、1次粒子径が10nm以下の粒子が50個測定されたとすると、その個数割合は50%とした。
<BET値の測定方法>
BET測定は、測定器としてカンタクロム社製のMONOSORBを用い、B.E.T式1点法により求めた。
<BET径の測定方法>
BET径(比表面積)は以下の式により求めた。
(BET径)=6/(ρ×10×BET値)×10
但し、ρ:粒子の密度=7.2g/cm、BET値:(m/g)
<結晶子径の測定方法>
X線源はCuのKα1線を用い、(222)回折ピークの半価幅とピークの位置から次式(Scherrerの式)により求めた。
t=0.9×λ/(B×cosθ)
但し、t:結晶子径、λ:CuのKα1線の波長、B:半価幅、θ:回折角
実施例1で得られたITO粒子を前記測定方法で評価した結果、一次粒子の体積平均粒径は7.2nm、最大径は8.5nm、20nm以下の1次粒子径を有するITO粒子の個数割合は100%、BET径は13.3nm、結晶子径は7.33nmであった。
<塗膜化方法>
ガラス基板(26×76×0.8mm)を、スピンコーター(ABLE社製)により300rpmの回転数で回転させ、そこに実施例1に係るITO分散液5ccを10秒かけて滴下し、コートした。なお、実施例1に係るITO分散液は、ITO粒子濃度が10wt%となるように調製されたエタノール分散液である。当該コート後、ガラス基板を取り出し60℃で10分間大気乾燥させた。乾燥後、乾燥機から取り出し、窒素雰囲気にて300℃まで昇温させて1時間保持した後、自然冷却し、ITO塗布ガラス基板を得た。得られたITO塗布ガラス基板におけるITO塗膜の膜厚は100nmであった。
<表面抵抗値の測定方法>
上述の塗膜化方法で作製したITO塗布ガラス基板の表面抵抗値を測定した。測定には三菱化学社製のロレスタHP MCP−T410を用い、四端子法にて測定した。測定値は、3.0×10Ω/□であった。
<ヘイズ、全光線透過率の測定方法>
上述の塗膜化方法で作製したITO塗布ガラス基板の、ヘイズの値、全光線透過率を測定した。ヘイズの値の測定は、測定器として日本電色社製 濁度計 NDH 2000を用いた。使用したガラス基板は、MATSUNAMI GLASS社製のMICRO SLLIDE GLASS、品番S−1111(サイズ:26×76×0.8)である。
一方、実施例1に係るITO塗布ガラス基板のヘイズ値、全光線透過率を表2に示す。
ただし、ガラス基板のみで測定すると、ヘイズが0.13%、全光線透過率が90.50%であった。
本実施例記載の全光線透過率において、ガラス基板上に透明導電膜を塗膜化した試料の全光線透過率が、塗料を塗膜せずガラス基板のみで測定した全光線透過率より高くなる場合があった。
例えば、本実施例1の全光線透過率は90.72%であり、塗膜していないガラス基板の全光線透過率である90.50%よりも高くなっている。この原因は定かではないが、ガラス基板へ塗料を塗膜したことで、濁度計の光源からの光の反射が抑えられたのに対し、ガラス基板のみであると、光源からの光が反射してしまうので、見掛け上、塗膜を施した場合の方が、ガラス基板のみの場合より全光線透過率が高く測定されたものと考えられる。しかし、当該塗膜の全光線透過率は、少なくともガラス基板の全光線透過率90.50%以上であると考えられる。
他方、塗料を塗膜せずガラス基板のみで測定した全光線透過率より、ガラス基板上に透明導電膜を塗膜化した試料の全光線透過率が低い値を示す場合は、当該低い値を示す全光線透過率が、当該塗膜の全光線透過率を示していると考えられる。
<塗膜面の表面粗度の測定方法>
上述の塗膜化方法で作製したITO塗布ガラス基板の平均粗度(Ra)と最大粗度(Rmax)とを測定した。測定には株式会社小坂研究所製 非接触二・三次元微細形状測定器 ET−30HK、粗度の解析には、株式会社小坂研究所製 表面粗さ解析装置 AY−31を使用した。
実施例1に係る塗膜の平均粗度は5nm、最大粗度は30nmであった。
(実施例2)
第1の工程の熱処理温度を125℃とし、第2の工程の熱処理温度を270℃とした以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係るITO分散液とITO粉体とを得た。得られたITO分散液、ITO粉体に対し、実施例1と同様の測定を行った。当該測定結果を表1に示す。
実施例2で得られたITO粒子を実施例1と同様に粒子を測定した結果、一次粒子の体積平均粒径は7.6nm、最大径は9.1nm、20nm以下の1次粒子径を有するITO粒子の個数割合は100%、BET径は13.8nm、結晶子径は7.8nmであった。
(参考例1)
ITO粒子合成の際の有機溶媒をトリエチレングリコールからテトラエチレングリコールとした以外は、実施例1と同様にして、参考例1に係るITO分散液とITO粉体とを得た。得られたITO分散液、ITO粉体に対し、実施例1と同様の測定を行った。当該測定結果を表1に示す。
参考例1で得られたITO粒子を実施例1と同様に粒子を測定した結果、一次粒子の体積平均粒径は13.1nm、最大径は15.1nm、20nm以下の1次粒子径を有するITO粒子の個数割合は100%、BET径は15.2nm、結晶子径は12.9nmであった。
(参考例2)
ITO粒子合成の際の有機溶媒をトリエチレングリコールからポリエチレングリコール(平均分子量400)とし、第1の工程の熱処理温度を140℃で行った以外は、実施例
1と同様にして、参考例2に係るITO分散液とITO粉体とを得た。得られたITO分散液、ITO粉体に対し、実施例1と同様の測定を行った。当該測定結果を表1に示す。
参考例2で得られたITO粒子を実施例1と同様に粒子を測定した結果、一次粒子の体積平均粒径は10.8nm、最大径は15.8nm、20nm以下の1次粒子径を有するITO粒子の個数割合は100%、BET径は14.6nm、結晶子径は11.3nmであった。
(実施例3)
第1の工程の有機溶媒をエチレングリコールとし、前駆体の洗浄およびITO粒子合成の際の有機溶媒を実施例1と同様トリエチレングリコールとした以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係るITO分散液とITO粉体とを得た。得られたITO分散液、ITO粉体に対し、実施例1と同様の測定を行った。当該測定結果を表1に示す。
実施例3で得られたITO粒子を実施例1と同様に粒子を測定した結果、一次粒子の体積平均粒径は9.0nm、最大径は10.1nm、20nm以下の1次粒子径を有するITO粒子の個数割合は100%、BET径は12.1nm、結晶子径は9.3nmであった。
(比較例1)
インジウム濃度が20.29wt%の塩化インジウム水溶液(InCl)187.4gと、塩化スズ(SnCl)11.9gとを秤量し純水に溶解して、塩化インジウムと塩化スズとの混合溶液2.9Lを調製した。なお、当該混合溶液においてスズの濃度はインジウムとスズの合計に対して10mol%となっている。
一方、濃度25wt%のNH水溶液230gを純水1770gで希釈し、液温を20℃とした。なお、当該NH水溶液において、NH量は、前記塩化インジウムと塩化スズとの混合溶液を中和するのに必要な量の3倍当量である。
当該NH水溶液を撹拌し、ここに前記塩化インジウムと塩化スズとの混合溶液を30分間かけて添加し、スズ含有水酸化インジウムの懸濁液とした。生成したスズ含有水酸化インジウムの懸濁物を遠心分離法により濾過収集し、純水により洗浄して、スズ含有水酸化インジウムのケーキを得た。当該スズ含有水酸化インジウムのケーキを100℃で6時間、乾燥して、インジウムを主成分とした前駆体(スズ含有水酸化インジウム)を得た。
当該インジウムを主成分とした前駆体(スズ含有水酸化インジウム)を乾燥重量で10g秤量してセパラブルフラスコに充填し、さらにトリエチレングリコールを240ml添加して撹拌し、インジウムを主成分とした前駆体をトリエチレングリコール中に分散させた。ここで、フラスコに蓋をして、当該トリエチレングリコール中へ窒素ガスを30分間吹き込み、フラスコ内をガスパージした。当該窒素吹き込みと併行して、撹拌回転数を300rpmに設定して当該トリエチレングリコールを攪拌し、さらに、室温から300℃まで2℃/minの昇温速度で加熱し、300℃に到達後2時間保持し比較例1に係るITO粉体を得た。
比較例1で得られたITO粒子を実施例1と同様に粒子を測定した結果、一次粒子の体積平均粒径は20.5nm、最大径は48.5nm、20nm以下の1次粒子径を有するITO粒子の個数割合は80%、BET径は23.2nm、結晶子径は33.9nmであった。当該測定結果を表1に示す。
なお、比較例1に係るITO粒子の倍率が20万倍のTEM写真(視野:350×250nm)を図2に示す。
比較例1に係る塗膜のヘイズは0.72、全光透過率は89.90%、平均粗度は6nm、最大粗度は120nmであった。当該測定結果を表2に示す。
次に実施例4から6においては、出発原料を変えて試料を作製し試験を行った。
(実施例4)
出発原料を塩化スズから硝酸スズに変化させた以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係るITO分散液とITO粉体とを得た。なお、硝酸スズとして、スズ濃度が11.10wt%の硝酸スズ水溶液7.75gを用いた。
そして、実施例4で得られたITO粒子を実施例1と同様に粒子を測定した結果、一次粒子の体積平均粒径は8.1nm、最大径は10.1nm、20nm以下の1次粒子径を有するITO粒子の個数割合は100%、BET径は8.6nm、結晶子径は8.4nmであった。当該測定結果を表1に示す。
(実施例5)
出発原料を塩化スズから酢酸スズに変化させた以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係るITO分散液とITO粉体とを得た。
そして、実施例5で得られたITO粒子を実施例1と同様に粒子を測定した結果、一次粒子の体積平均粒径は7.1nm、最大径は9.9nm、20nm以下の1次粒子径を有するITO粒子の個数割合は100%、BET径は9.5nm、結晶子径は9.7nmであった。当該測定結果を表1に示す。
(実施例6)
出発原料を硝酸インジウム溶液から硝酸インジウム結晶に変化させた以外は、実施例1と同様にして、実施例6に係るITO分散液とITO粉体とを得た。
硝酸インジウム三水和物結晶(In(NO・3HO)23.07gと、塩化スズ(SnCl・2HO)1.68gとを秤量し、トリエチレングリコール溶液に溶解させた。前記以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例6に係るITO分散液とITO粉体とを得た。
そして、実施例6に係るITO粒子に対し、実施例1と同様の測定を行った結果、一次粒子の体積平均粒径は7.5nm、最大径は8.6nm、20nm以下の1次粒子径を有するITO粒子の個数割合は100%、BET径は8.5nm、結晶子径は7.2nmであった。当該測定結果を表1に示す。
(評価)
実施例1〜3、参考例1、2と、比較例1とについて評価する。表1および表2から明らかなように、実施例1〜3、参考例1、2では、粒子特性において、体積平均粒径、最大径、BET径、結晶子径のいずれも20nm以下であり、20nm以下の1次粒子径を有するITO粒子の個数割合が100%、さらに実施例1,2,3では、15nm以下の1次粒子径を有するITO粒子の個数割合も100%である超微粒子状のITO粒子が得られた。
さらに、これらの実施例1〜3、参考例1、2に係るITO分散液を用いて作製したITO膜の塗膜特性は、ヘイズが0.6%以下の範囲にあり、全光線透過率も90%以上であり、ヘイズが低く、全光線透過率の高い塗膜であった。
さらに、出発原料を変化させた実施例4〜6においても、実施例1〜3、参考例1、2と同様に、体積平均粒径、最大径、BET径、結晶子径のいずれも20nm以下であり、20nm以下の1次粒子径を有するITO粒子の個数割合が100%、15nm以下の1次粒子径を有するITO粒子の個数割合も100%である超微粒子状のITO粒子が得られた。これらの実施例4〜6に係るITO分散液を用いて作製したITO膜の塗膜特性についても同様にヘイズが低く、全光線透過率の高い塗膜であった。したがって、250℃以下で分解を起こす出発原料を用いる限り、出発原料を変化させても実施例1〜3、参考例1、2と同様の結果を得ることが可能であることが判明した。
一方、比較例1は、粒子特性において平均粒径、最大径、BET径、結晶子径は、いずれも20nm以上であり、実施例と比較して粗大なものとなった。
さらに、比較例1に係るITO分散液を用いて作製したITO膜の塗膜特性は、ヘイズが0.6%以上であり、全光線透過率も90%以下であり、ヘイズが低く、全光線透過率の高い塗膜が得られた。即ち、実施例と比較して、ヘイズが高く、全光線透過率も低い塗膜であることが判明した。
また、実施例と比較例の塗膜後の表面粗度について比較すると、平均粗度では大きな差はないが、最大粗度については実施例に係わる塗膜面は比較例に比べ、格段に小さい値が得られており、すなわち本実施例に係わるITO粒子からなる透明導電膜は平滑性にすぐれた塗膜が得られることが判明した。
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。材料として本実施例ではスズ含有酸化インジウム(ITO)であるが、アンチモン添加酸化錫(ATO)、アルミニウム添加酸化亜鉛、フッ素添加酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、ITO、ATO等の透明導電膜粒子の合成にも利用可能である。また、本実施例で得たITO超微粒子の一部を透明で導電性を有する公知の化合物で置換してもよい。
実施例1に係るITO粒子のTEM写真である。 比較例1に係るITO粒子のTEM写真である。

Claims (8)

  1. ITO粉体を構成するITO粒子の1次粒子の体積平均粒径が9.0nm以下で、全てが1次粒子径20nm以下のITO粒子であることを特徴とするITO粉体。
  2. ITO粉体の比表面積が61.5m /g以上であることを特徴とする請求項1に記載のITO粉体。
  3. X線回折から得られる結晶子径が9.7nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のITO粉体。
  4. ITO粉体を構成するITO粒子の1次粒子の体積平均粒径が9.0nm以下で、全てが1次粒子径20nm以下のITO粒子であるITO粉体の製造方法であって、
    インジウムを含む塩とスズを含む塩とを有機溶媒中に溶解し、当該有機溶媒を、前記インジウムを含む塩およびスズを含む塩の分解温度以上、250℃以下で加熱して、当該インジウムを含む塩とスズを含む塩とを加熱分解し、インジウムとスズとを含む前駆体を作製する第1の工程と、
    前記インジウムとスズとを含む前駆体を、200℃以上350℃以下で加熱した有機溶媒中で加熱処理し、ITO粒子を生成させる第2の工程とを、有し、
    前記第1の工程に用いる有機溶媒は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、の中から1種もしくは2種以上選ばれる少なくとも一つ以上の溶媒であり、
    前記第2の工程に用いる有機溶媒は、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、の中から1種もしくは2種以上選ばれる少なくとも一つ以上の溶媒である、ことを特徴とするITO粉体の製造方法。
  5. 前記塩は、硝酸塩であることを特徴とする請求項4に記載のITO粉体の製造方法。
  6. 請求項1から3のいずれかに記載のITO粉体を含むことを特徴とする透明導電材用塗料。
  7. 透明導電材用塗料を200℃以下で乾燥したとき生成するITO粉体の比表面積が50m/g以上であることを特徴とする請求項6に記載の透明導電材用塗料。
  8. 請求項6または7に記載の透明導電材用塗料を用いて製造されることを特徴とする透明導電膜。
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