JP4424582B2 - スズ含有酸化インジウム粒子とその製造方法、ならびに導電性塗膜と導電性シート - Google Patents
スズ含有酸化インジウム粒子とその製造方法、ならびに導電性塗膜と導電性シート Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、透明導電膜に用いるのに適したスズ含有酸化インジウム粒子に関し、さらに詳しくは新規な粒子形状を有するスズ含有酸化インジウム粒子とその製造方法、ならびにこのスズ含有酸化インジウム粒子を用いた導電性塗膜と導電性シートに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、透明導電性塗料用の材料として、酸化スズ粒子、アンチモン含有酸化スズ粒子、スズ含有酸化インジウム粒子などが知られている。中でも、酸化インジウムにスズを含有させたスズ含有酸化インジウム粒子は、可視光に対する高い透光性と、高い導電性から、静電防止や電磁波遮蔽が要求されるCRT画面、LCD画面などに塗布して使用されている。さらに、この粒子を分散塗布したシートは、その透光性と導電性により、デイスプレー用のみならずタッチパネル用など、広範囲での応用が期待されている。
【0003】
スズ含有酸化インジウムは、可視光に対して透明であると同時に、酸素欠損により導電性を示す半導体であり、酸化インジウム中のスズがSn4+となって電子供給源となり、高い導電性を示すと考えられている。
【0004】
このようなスズ含有酸化インジウム粒子を結合剤中に分散させて塗布して使用する場合、高い透明性を得るためには、通常、粒子径を光の波長の1/2以下にする必要がある。したがって例えば、可視光に対して透明になるためには、粒子径は200nm以下の微粒子である必要がある。
【0005】
スズ含有酸化インジウム粒子の製造方法としては、例えば特許文献1に記載されているように、塩化インジウムと塩化スズの混合水溶液に、アンモニア水または炭酸アンモニウム水溶液などのアルカリ水溶液を加えて共沈水酸化物を作り、この水酸化物を加熱処理してスズ含有酸化インジウムとした後、これを機械的に粉砕して微粒子とする方法が知られている。この特許文献1に記載された例では、熱処理とさらに機械的粉砕により、平均粒子径が0.1μmのスズ含有酸化インジウム粒子が得られている。
【0006】
特許文献2には、上記と方法と同様の方法で、インジウムとスズの共沈水酸化物を作製した後、焼成、粉砕してスズ含有酸化インジウム粒子とする際に、ナトリウムとカリウムの含有量を特定量以下にすることが、高い導電性を得る上で重要であることが記載されている。この例では、粉砕後に、粒子径が0.01〜0.03μmのスズ含有酸化インジウム粒子が得られたことが記載されている。
【0007】
特許文献3には、上述した例と同様に、インジウムとスズの共沈水酸化物を焼成してスズ含有酸化インジウム粒子とする際に、カリウムを存在させると、加熱処理温度を上げても焼結による凝集体が生成しにくいことや、焼成、解砕後に0.12〜0.3μmのスズ含有酸化インジウム粒子が得られたことが記載されている。
【0008】
一方、特許文献4には、酸化インジウムや酸化スズを主成分とする導電性微粒子を用いた電磁波遮蔽膜について記載されており、導電性粒子としては、膜の透明性と粒子の分散性を維持する上で、粒子形状としては粒状でかつ30〜50000オングストロームの粒子が必要であることが記載されている。この特許文献4における実施例1には、粒子形状がサイコロ状であるスズ含有酸化インジウム微粒子の例が記載されている。
【0009】
【特許文献1】
特開昭62−7627号公報
【特許文献2】
特開平5−201731号公報
【特許文献3】
特開2001−220137号公報
【特許文献4】
特開平6−232586号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
スズ含有酸化インジウム粒子の塗膜は、一般的には無機あるいは有機バインダーを溶解した溶媒中にスズ含有酸化インジウム粒子を分散させて塗料とし、この塗料を各種の基材上に塗布して作製される。このとき塗膜の透明性を得るために、粒子は微粒子であること、および塗膜中で均一に分散されることが必要である。
【0011】
一方、微粒子にすると塗料中で粒子が2次凝集体を生成しやすく、均一な分散体を得ることが困難になる。このような凝集体が存在すると、塗膜の導電性が低下するのみならず、透明性も低下する。
【0012】
さらにスズ含有酸化インジウム粒子の本質的な問題として、微粒子にするほど塗膜の電気伝導度つまり導電性が低下するという問題がある。これは、塗布型導電性膜の電気伝導は、粒子間接触を通して電気が流れることにより達成されるが、粒子径が小さくなるにしたがい、粒子の接触部分が大きくなり、抵抗が増加するためである。すなわち、スズ含有酸化インジウム粒子そのものは導電性を有しているが、塗膜としての導電性は粒子間の接触抵抗によりほとんど決まるためである。
【0013】
したがって、透明性を得るためには粒子径をできる限り小さくする必要があるが、粒子径を小さくすると電気抵抗が増加するため、透明性と電気抵抗はトレードオフの関係にある。
【0014】
このため、従来のスズ含有酸化インジウム粒子を用いた塗膜では、透明性と導電性のバランスが取れる適当な粒子径のスズ含有酸化インジウム粒子が使用されている。しかしながら、蒸着やスパッタ法で作製したスズ含有酸化インジウム膜に比べて、その特性において見劣りし、塗布という比較的簡便で低コストの手段を用いて作製できる利点を十分に活かしきれておらず、限られた用途にしか適用できないのが現状である。
【0015】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたもので、塗布型の透明導電膜用の微粒子として、これまで存在しなかった特異な粒子形状を有するスズ含有酸化インジウム粒子およびその製造方法と、このスズ含有酸化インジウム粒子を用いた導電性塗膜および導電性シートを提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するため、鋭意検討した結果、従来のスズ含有酸化インジウム粒子の製造方法とは全く異なる新規な製造方法を完成した。その結果、これまでの製造方法では不可能であった、粒子の形状が板状で、かつ平均粒子径が10nmから100nm(10nm以上100nm以下)の範囲にあり、0.5〜15 mol%のアルミニウムを含有するスズ含有酸化インジウム粒子の開発に成功したものである。
【0017】
すなわち、本発明は、平均粒子径が、10nmから100nmの範囲にあるスズ含有酸化インジウム粒子に関するもので、アルカリ水溶液にスズ塩およびインジウム塩の水溶液を添加し、得られたスズとインジウムとを含有してなる水酸化物あるいは水和物に、アルミニウム化合物を加えた後、温度を10〜50℃とし、pHを7〜12として、10〜100時間で熟成し、その後、水の存在下で110〜300℃の温度範囲で加熱処理し、ろ過、乾燥後、さらに200〜1000℃の温度範囲で加熱処理することにより、上記の特異な形状と粒子径を有するスズ含有酸化インジウム粒子を製造するものである。
【0018】
本発明の方法で得られたスズ含有酸化インジウム粒子は、粒子形状が板状であるため、まず塗膜としたときに高い透明性が得られるという大きな特徴がある。これは粒子形状が板状であるため、塗布したときに、粒子の板面が基材面に対して平行となるように並びやすく、その結果、板面の上方から入射する光、つまり基材面に対して垂直な方向から入射する光が透過しやすくなる、光学的な異方性を示すためである。
【0019】
ここで、粒子について板状とは、粒子の板面方向に測定した最大長さを、粒子の厚み方向の長さで割った値(板状比)が3以上のものを指す。したがって、粒子の形状が四角板状あるいは六角板状の場合には、板状比は、板面の対角線方向に測定した最大長さを、粒子の厚さ方向に測定した長さで割った値であり、粒子の形状が円板状の場合には、直径を厚さで割った値となる。また、楕円板状の場合には、板面の長軸の長さを厚さでわった値となる。板状比は、5以上20以下のとき透明性と導電性とのバランスが最適となるため特に好ましい。
【0020】
一方、粒子の板面が基材面に平行になるように並ぶと、粒子間の接触面積も多くなる。これは、従来のスズ含有酸化インジウム粒子においては、形状が粒状あるいは球状であったために、粒子と粒子が点で接触していたのに対して、本発明のスズ含有酸化インジウム粒子においては、形状が板状であるために面で接触し、その結果、接触面積が大幅に増加するためである。したがって、本発明の板状のスズ含有酸化インジウム粒子を用いた塗膜においては、従来の粒状あるいは球状のスズ含有酸化インジウム粒子を用いた塗膜に比べて接触抵抗が小さくなり、その結果、高い電気伝導性が得られることとなる。
【0021】
このように、本発明の板状のスズ含有酸化インジウム粒子は、板状の形状を有することにより、従来の粒状のスズ含有酸化インジウム粒子ではトレードオフ関係にあった塗膜の透明性と電気伝導性とを両立させることが可能になり、長年の課題であったブレークスルーを達成した画期的な導電性粒子である。
【0022】
【0023】
【0024】
このようにして得られた、アルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子(本明細書では、このようなアルミニウムとスズ含有酸化インジウムとを含有した酸化インジム粒子をも、適宜、スズ含有酸化インジウム粒子という)は、粒子の形状が板状で、かつ平均粒子径が10nmから100nmの範囲にある、従来のスズ含有酸化インジウム粒子では得られなかった特異な形状を有し、さらにアルミニウムとスズとの含有により粒子そのもののが高い導電性を示す。
【0025】
本発明の導電性塗膜は、上記のようにして得られたスズ含有酸化インジウム粒子を結合剤中に分散含有させて塗料とし、これを、例えばプラスチックフィルムやプラスチックシートあるいはプラスチック板やガラス板等の基材上に塗布するとによって形成されるものである。基材がシート状もしくはフィルム状または板状のものである場合には、この種の基材上に導電性塗膜を形成することによって導電性シートが得られる。
【0026】
本発明の導電性塗膜およびこれを所定の基材上に形成することにより得られる導電性シートにおいては、従来この種の導電性塗膜や導電性シートに用いられていたスズ含有酸化インジウム粒子の形状が粒状あるいは球状の不定形であったのに対して、粒子形状が板状であるスズ含有酸化インジウムが用いられていることにより、粒子どうしが積層化しやすいため、粒子間の接触面積が増加して、接触抵抗を減少させることができる。また、粒子形状が板状であることから、粒子どうしが積層化して2次粒子化しても、粒子は板面が基材の被塗面(基材面)に対して平行となるように並びやすいため、基材面から垂直方向に入射する光に対して、透過しやすい性質を示す。さらに、球状あるいは粒状形状の粒子に比べて、積層化した板状粒子は、塗膜中に高充填されやすい性質を示す。これらにより、従来の導電性粒子を用いた塗膜や導電性シートでは得られなかった、高い透明性と導電性とをあわせもつ導電性塗膜および導電性シートが実現できる。
【0027】
このように、本発明の導電性塗膜および導電性シートは、
1.形状が板状で、かつ平均粒子径が10〜100nmの範囲にあるスズ含有酸化インジウム粒子を使用し、
2.塗膜中で粒子間の接触面積を増加させることにより、粒子間接触抵抗を減少させ、
3.板状粒子の基材面に平行に並びやすい性質を利用して、粒子の板面が基材面に平行になるように並べることにより、基材面に垂直な方向からの光の透過性を向上させ、
4.板状粒子が積層化しやすい性質を利用して、塗膜中に高充填化することにより、導電性を向上させるものである。
5.また、アルミニウムとスズとを含有させた板状の酸化インジウム粒子(スズ含有酸化インジウム)とすることにより、板状粒子のもつ優れた透明導電性に加えて、粒子そのものに高い導電性を付与するものである。
【0028】
さらにこのように粒子の形状が板状で、かつ粒子の板面方向の平均粒子径が10nmから100nmの範囲にあるスズ含有酸化インジウム粒子を、塗膜中に83〜95重量%の範囲で含有させ、かつ塗膜厚さを3〜10μmの範囲になるように基材上に塗膜を形成することにより、板状形状を有する本発明の粒子の特徴を一段と際立たせることができて、従来の塗膜ではほとんど不可能と考えられていたシートの全光透過率が90%以上の透明性を維持した状態で、同時に表面抵抗率が1000Ω/□以下の導電性を実現することができる。
【0029】
【発明の実施の形態】
〈スズ含有酸化インジウムの製造方法〉
本発明のスズ含有酸化インジウムの製造方法では、まず第一工程として、スズ塩を溶解したアルカリ水溶液にインジウム塩の水溶液を添加することにより、スズとインジウムとを含有してなる水酸化物あるいは水和物(懸濁液)を調整する。得られた水酸化物あるいは水和物を、懸濁液の状態で10〜50℃の温度範囲で熟成する。粒子の形状は、この熟成工程と次の水熱処理工程でほぼ決まるため、この熟成工程は重要である。熟成時のpHは、7〜12の中性から弱アルカリ領域が適当で、時間は10〜100時間が好ましい。
【0030】
次に、熟成後の懸濁液に対して、アルカリ水溶液を添加することにより、懸濁液のpHを弱アルカリ領域に調整し、その後110〜300℃の温度範囲で水熱処理を行う。この水熱処理が終了した段階で、粒子の形状は、ほぼ決定される。この水熱処理の温度が110℃より低い場合は、水熱処理の効果は少なく、一方300℃より高い場合は、結晶化が進みすぎて、粒子が大きくなる傾向にある。塗膜としたときに、透明性と導電性が共に良好になるスズ含有酸化インジウム粒子を得るには、水熱処理温度は110〜300℃が適当であり、より好ましくは130〜250℃である。
【0031】
上記スズ含有酸化インジウム粒子の水酸化物あるいは水和物を得る工程において、スズ塩を溶解したアルカリ水溶液にインジウム塩の水溶液を添加し、スズとインジウムとを含有した水酸化物あるいは水和物を得た後、0.5〜15 mol%のアルミニウム化合物を添加することにより、その後の水熱処理および加熱処理工程を通してアルミニウムがスズ含有酸化インジウム粒子中に置換され、粒子の導電性がさらに向上する。
【0032】
次に、第二工程として、水洗、ろ過、乾燥し、まず200〜1000℃の範囲で空気中加熱処理を行う。この加熱処理により、脱水が起こると同時に酸化物への結晶変態が起こり、インジウムの一部がスズで置換されたスズ含有酸化インジウムとなる。この加熱処理温度は、200℃より低いと脱水酸化ならびに置換が不十分となり、導電性が発現しにくくなる。一方この温度が1000℃より高いと、粒子間焼結が生じやすくなり、塗料化するときの分散性が低下するため、好ましくない。
【0033】
この加熱処理後のスズ含有酸化インジウム粒子において、導電性は発現するが、さらに還元雰囲気中、200℃から500℃の温度範囲で還元処理を行うことにより、導電性は、よりいっそう向上する。これは、還元により酸素欠損が増加するため、In3+がSn4+で置換されることによる電子伝導の他に、酸素欠損により生じた空孔によっても導電性が発現するためであると考えられる。
【0034】
このようにスズ含有酸化インジウム粒子の製造において、形状、粒子径を整えることを目的とする工程と、その材料が本来有する物性を最大限に引き出すことを目的とする工程とを分離するという、全く新規な発想により、これまでの製造方法では不可能であった、粒子の形状が板状で、かつ平均粒子径が、10nmから100nmの範囲にあるスズ含有酸化インジウム粒子の開発に成功したものである。
【0035】
〈製造方法の詳細〉
以下、上記の製造方法についてさらに詳細に説明する。
【0036】
(1)沈殿物の作製:
塩化インジウム、硝酸インジウム、硫酸インジウムなどのインジウム塩を溶解した水溶液を作製する。これとは別に、アルカリ溶液を作製する。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水溶液などである。このアルカリ溶液に、塩化スズ、硝酸スズなどの硫酸スズなどのスズ塩を溶解する。これらのスズ塩およびインジウム塩のうち、板状のスズ含有酸化インジウム粒子を得る上で、塩化物を使用することが最も好ましい。
【0037】
次に前記スズ塩を溶解したアルカリ水溶液にインジウム塩水溶液を滴下して、スズとインジウムとを含有した水酸化物あるいは水和物の沈殿物を生成する。この沈殿物を含む懸濁液のpHは、7〜12の範囲に調整することが好ましく、弱アルカリ領域のpH:7.5〜10に調製することがより好ましい。
【0038】
(2)熟成:
上記の懸濁液を10℃から50℃の温度範囲において、10時間から100時間の範囲で熟成する。この温度より低いと熟成の効果は少なく、高すぎると板状以外の形状の粒子が生成しやすくなる。熟成時間は、10時間より少ないと熟成の効果が少なく、100時間以上熟成しても、熟成の効果が飽和するため、あまり意味がない。熟成温度と熟成時間は、相互に関係しており、通常は熟成温度が低いほど長時間熟成することが好ましい。この熟成工程は、次に述べる水熱処理工程と共に、最終目的物質であるスズ含有酸化インジウム粒子の形状を決める重要な工程である。
【0039】
スズ含有酸化インジウム粒子の前駆体であるスズ含有水酸化インジウムの形状は、この熟成工程と次の水熱処理工程でほぼ決定されるが、傾向としては、熟成温度が低いと、前駆体であるスズ含有水酸化インジウム粒子の粒子径は小さく、高いと粒子径は大きくなる。
【0040】
またアルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子とするには、上記沈殿物を含む懸濁液に、アルミニウムに換算して0.5〜15 mol%のアルミニウム化合物を加えた後、pHを7〜12の範囲に調整する。
【0041】
なお、これ以降の工程は、スズ含有酸化インジウム粒子もアルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子も同じ工程により作製されるため、以後の説明では、粒子としてはアルミニウム非含有のスズ含有酸化インジウム粒子のみについて記載する。
【0042】
(3)水熱処理:
上述の熟成工程で得られたスズとインジウムとを含有してなる水酸化物あるいは水和物は、次に水熱処理を施す。熟成により、pHが若干変化するため、熟成後の懸濁液にアルカリ水溶液を添加することにより、懸濁液のpHを8〜12、より好ましくは9〜11の範囲に再調整する。その後、オートクレーブ等を用いて水熱処理を行う。この水熱処理において、上記の沈殿物を含む懸濁液に、そのままNaOH水溶液などによりpHを調製して水熱処理を施しても構わないが、水洗により、上記沈殿物以外の生成物や残存物を除去し、その後NaOHなどにより再度pH調整することが好ましい。この時のpHの値も、弱アルカリ領域が好ましく、この領域以外のpHでは、結晶成長が不十分になり不定形の粒子が生成したり、粒状の粒子が生成しやすくなる。
【0043】
水熱処理温度は、110℃から300℃の範囲とするのが適当である。水熱処理温度が、この温度より低いと、板状形状を有するスズとインジウムとを含有してなる水酸化物あるいは水和物が得られにくくなるおそれがあり、この温度より高いと発生圧力が高くなるため、装置が高価なものとなり、あまりメリットはない。
【0044】
水熱処理時間は、1時間から4時間の範囲が好ましい。水熱処理時間が短すぎると、板状形状への成長が不十分になり、水熱処理時間が長すぎても特に問題となることはないが、製造コストが高くなるだけで、意味がない。
【0045】
水熱処理後のスズとインジウムとを含有してなる水酸化物あるいは水和物粒子は、ろ過、乾燥した後、加熱処理を行うが、ろ過する前に、水洗によりpHを6〜9の付近の中性領域に調整しておくことが好ましい。これは、水洗により水溶性のNaイオンが除去されるためである。このようなNaイオンが加熱処理後に残存すると、粒子の電気抵抗が高くなる可能性があるため、極力除去しておくことが好ましい。
【0046】
また、上記のスズとインジウムとを含有してなる水酸化物あるいは水和物粒子に、さらに珪酸ナトリウムなどの珪素化合物を添加して、シリカ処理を施しても良い。このシリカ処理は、最終目的物であるスズ含有酸化インジウム粒子の形状を板状に保持する上で、効果的である。このシリカの処理量は、最終目的物であるスズ含有水酸化インジウム粒子に対して、0.1〜5重量%が好ましい。この範囲より少ないと、形状保持の効果が小さくなるおそれがあり、また多いと、絶縁体であるシリカの被覆量が多くなるおそれがあり、その結果、スズ含有水酸化インジウム粒子の導電性が低下する可能性がある。
【0047】
(4)加熱処理:
上記の水熱処理により得られたスズとインジウムとを含有してなる水酸化物あるいは水和物粒子は、これに加熱処理を施すことにより、インジウムの一部がスズで置換されたスズ含有酸化インジウム粒子となる。雰囲気は特に限定されないが、空気中加熱が、最も製造コストが掛からないため、好ましい。加熱処理温度は200℃から1000℃の範囲であり、300℃から800℃の範囲がより好ましい。このような温度範囲において、本発明の特徴である板状形状が維持できるからである。
【0048】
加熱温度が200℃より低いと、インジウムがスズで置換された結晶構造となりにくく、スズの酸化物とインジウムの酸化物の混合物のような構造になり、十分な電気伝導性が得られにくくなる。一方、加熱温度が、1000℃より高いと、板状粒子どうしが焼結しやすくなり、塗料にする時に、十分な分散性が得られにくくなる結果、塗膜の透明性が低下するおそれがある。
【0049】
この加熱処理により、スズ含有酸化インジウム粒子が得られるが、さらに加熱処理後に、水洗などにより未反応物や残存物を除去すると、より電気伝導性の良好なスズ含有酸化インジウム粒子が得られるため、最終工程で水洗することが好ましい。
【0050】
(5)還元処理:
上記のようにして得られたスズ含有酸化インジウム粒子は、この状態でも導電性を示すが、さらに導電性を高めるために、還元性雰囲気中で還元することが好ましい。還元温度は、200℃から500℃の温度範囲が好ましい。この温度より高いと、インジウムの還元が過剰に進行して金属インジウムが分離析出してくるおそれがあるだけでなく、粒子間の焼結がおこるおそれがあるため、好ましくない。この温度より低いと、還元による導電性向上のための有意な効果が得られないおそれがある。また還元雰囲気としては水素ガス、一酸化炭素ガス、真空雰囲気など、特に限定されるものではないが、水素ガスが最も簡易な還元性ガスとして用いられる。このようにして得られたスズ含有酸化インジウム粒子は、粒子の形状が板状で、かつ粒子の板面方向の平均粒子径が10nmから100nmの範囲となり、塗膜としたときに、優れた透明性と導電性を発揮する。
【0051】
〈塗料の作製方法〉
導電性塗膜を形成するための塗料を調整するにあたっては、上記のようにして得られたスズ含有酸化インジウム粒子を結合剤(バインダー)溶液中に添加して、分散させる。スズ含有酸化インジウム粒子を分散させる結合剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体、ニトロセルロース、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などがあり、これらの中から、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。とくに、塩化ビニル系樹脂とポリウレタン樹脂は、分散性の良好な樹脂として好ましく使用される。ポリウレタン樹脂としては、例えば、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタンなどがあげられる。
【0052】
スズ含有酸化インジウム粒子の分散性を向上するための分散剤を添加することもできる。分散剤としては、従来から公知のものをいずれも使用することができる。
【0053】
上記塗料の調製に用いる有機溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶剤、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの炭酸エステル系溶剤、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶剤のほか、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。また分散方法としては、特に限定されるものではなく、ボールミル、サンドミル、ピイントコンデイショナー等各種の分散方法を適用できる。
【0054】
〈塗布の方法〉
上記で作製した塗料を製膜する場合、プラスチックフィルムや紙など薄膜支持体上に製膜する場合、ダイコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、カーテンコーター、ブロックコーター等従来から公知の方法を使用することができる。特にダイコーターを使用した場合は塗料が薄膜支持体上に押し出され、その後コーター出口のダイリップ部分で塗料に支持体走行方向へのシェアがかかるので、板面が薄膜支持体の面と平行に並びやすくなるため、シートの透明性および導電性の向上には有効である。このため、ダイコーターを使用するのが、より好ましい。また、ガラスあるいは硬質樹脂のような硬質基板に製膜する場合、スクリーン印刷等従来から公知の方法を用いることができる。
【0055】
本発明の板状のスズ含有酸化インジウム粒子は、その特異な粒子形状により、塗膜としたときに、従来の球状あるいは粒状のスズ含有酸化インジウム粒子では得られない優れた透明性と導電性を示すが、塗膜中の含有量が83〜95重量%となるように結合剤溶液中に添加して、分散させると、本発明のスズ含有酸化インジウム粒子の特徴をよりより際立足せることができる。すなわち、従来塗膜では不可能と考えられてきた極めて高いレベルの透明導電性を実現できる。なお、ここで言う含有量とは、スズ含有酸化インジウム粒子と結合剤の他の各種の添加剤など、導電性シート(透明導電性シート)とした後に塗膜中に残る固形分中に占めるスズ含有酸化インジウム粒子の重量割合を示す。含有量が83重量%より小さい場合でも、本発明の板状のスズ含有酸化インジウム粒子を用いることにより、従来の粒状形状のスズ含有酸化インジウム粒子に比べて、十分に優れた透明導電性が得られることは言うまでもないが、含有量を83重量%以上にすることにより、透明性、導電性ともに、従来の球状あるいは粒状のスズ含有酸化インジウム粒子を用いた塗膜を遥かに凌駕するものとなる。一方、含有量が95重量%より多くなると、導電性はさらに向上するが、透明性において、従来の球状あるいは粒状のスズ含有酸化インジウム粒子を用いた塗膜に比べて、優位性は確保できるもののその程度は小さくなる。
【0056】
〈塗膜の作製方法〉
本発明の導電性塗膜は、上記のようにして得られたスズ含有酸化インジウム粒子分散塗料を基板上に塗布することにより作製される。塗布方法は、特に限定されるものではないが、例えばダイコーター、バーコーター、アプリケータ、スクリーン塗布、グラビア塗布などを採用することができる。透明な導電性塗膜を形成するための基材(透明な基材もしくは基板)としては、特に限定されるものではなく、従来から使用されている基材をすべて使用できる。具体的には例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリオレフイン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフオン、アラミド、芳香族ポリアミドなどからなる、厚さが通常3〜300μmのフイルムまたはシートを用いることができる。基材もしくは基板は、特にフレキシブルである必要はなく、ガラス板のような硬質のものも使用できる。
【0057】
このようにして形成される塗膜の厚さは、特に限定されるものではなく、要求される透明性と導電性とを考慮して決定されるものであり、本発明の板状のスズ含有酸化インジウム粒子を用いることにより、従来の粒状のスズ含有酸化インジウム粒子を用いたものに比べて、十分に優位性のある透明性と導電性が得られる。その場合、塗膜の厚さを3〜10μmとすると、特にその効果が大きく、従来の粒状のスズ含有酸化インジウム粒子を用いた塗膜を凌駕する特性のものが得られる。
【0058】
【実施例】
以下、本発明の実施例にについて説明する。
【0059】
〈参考例1〉
0.385モルの水酸化ナトリウムを800mlの水に溶解して、アルカリ水溶液を調整した。ついで、このアルカリ水溶液に0.013モルの塩化スズ(II)五水和物を溶解させた。これとは別に、0.119モルの塩化インジウム(III)四水和物を400mlの水に溶解して、塩化インジウムの水溶液を調整した。前者の塩化スズを溶解させたアルカリ水溶液に、後者の塩化インジウムの水溶液を滴下して、スズとインジウムとを含有してなる水酸化物あるいは水和物の沈殿物を作製した。このときのpHは7.9であった。この沈殿物を懸濁液の状態で20℃で48時間熟成させたのち、pHが7.6になるまで水洗した。
【0060】
次に、この沈殿物の懸濁液に水酸化ナトリウムの水溶液を添加して、pHを10.0に調整し、オートクレーブに仕込み、180℃で4時間、水熱処理を施した。得られた水熱処理生成物を、pHが7.6になるまで水洗した後、ろ過し、90℃で空気中乾燥した後、乳鉢で軽く解砕して、スズ含有水酸化インジウム粒子の前駆体を得た。
【0061】
得られたスズ含有水酸化インジウム前駆体粒子に、空気中300℃で2時間の加熱処理を行ってスズ含有酸化インジウム粒子とし、さらに、水素気流中250℃で1時間の還元処理を行った。
【0062】
還元処理後のスズ含有水酸化インジウム粒子について、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、平均粒子径は、30nmの円形ないしは四角板状の粒子であることがわかった。このスズ含有水酸化インジウム粒子のX線回折スペクトルを図1に、また、20万倍で撮影した透過電子顕微鏡写真を図2に示す。X線回折スペクトルは、インジウムの一部がスズで置換されることにより僅かに格子定数が変化しているが、ほぼ酸化インジウムに対応する単一の回折パターンを示すことから、インジウムの一部がスズに置換された単一の物質であることがわかる。
【0063】
〈参考例2〉
参考例1のスズ含有酸化インジウム粒子の合成方法において、塩化スズを溶解したアルカリ水溶液に、塩化インジウムの水溶液を滴下して、スズとインジウムとを含んでなる水酸化物あるいは水和物の沈殿物を作製したのちの、沈殿物を懸濁液の状態で20℃で48時間熟成させる工程に代えて、沈殿物を懸濁液の状態で40℃で24時間熟成し、かつ、水洗後、オートクレーブに仕込む前のpHを10.0から10.5に変更した以外は、参考例1と同様にして、スズとインジウムとを含有する水酸化物あるいは水和物を作製し、水熱処理を行った後、水洗、ろ過、乾燥後して、スズ含有水酸化インジウム粒子を作製し、さらに、参考例1と同様に加熱および還元処理を施して、スズ含有酸化インジウム粒子を作製した。
【0064】
このスズ含有酸化インジウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、参考例1と同じく、酸化インジウムに特有のX線回折パターンとなっていることがわかった。さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、平均粒子径が55nmの円形ないしは四角板状の粒子であった。このスズ含有水酸化インジウム粒子の20万倍で撮影した透過電子顕微鏡写真を図3に示す。
【0065】
〈実施例3〉
参考例1におけるスズ含有水酸化インジウム粒子の合成方法において、スズとインジウムとを含有してなる水酸化物あるいは水和物の沈殿物を作製した後、この沈殿物に、最終生成物においてアルミニウム換算で5 mol%となるようにアルミニウム化合物を加え、この沈殿物を20℃で懸濁液の状態で約20時間熟成させた。
【0066】
次に、この沈殿物の懸濁液に水酸化ナトリウムの水溶液を添加して、pHを10.0に再調整し、オートクレーブに仕込み、200℃で2時間、水熱処理を施した。
【0067】
得られた水熱処理生成物をpH7.8になるまでろ過洗浄し、90℃で空気中乾燥したのち乳鉢で軽く解砕し、空気中600℃で1時間の加熱処理後、250℃、水素雰囲気中で還元処理を行ってアルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子とした。加熱処理後、未反応物や残存物を除去するために、さらに超音波分散機を使って水洗し、ろ過乾燥した。
【0068】
得られたアルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子について、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、平均粒子径が50nmの円板状ないしは四角板状の粒子であることがわかった。
【0069】
このアルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子のX線回折スペクトルを図4に、また、20万倍で撮影した透過電子顕微鏡写真を図5に示す。X線回折スペクトルは、単一構造の物質から構成されていることを示しており、アルミニウムとスズで置換された酸化インジウムとなっていることがわかる。
【0070】
〈実施例4〉
実施例3のアルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子の合成方法において、水熱処理後の懸濁液に、水熱処理生成物であるスズ、インジウム、アルミニウムを含む水酸化物あるいは水和物に対して、珪酸ナトリウム換算で1重量%の珪酸ナトリウム溶液を添加し、攪拌しながら塩酸を加えてpHが7.4になるまで調整した以外は、実施例3と同様にして、アルミニウムとスズとを含有する酸化インジウムの水酸化物あるいは水和物を含んだ沈殿を生成させ、水洗、ろ過、乾燥後、加熱処理して、シリカで表面処理したアルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子を作製した。
【0071】
このアルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、実施例3と同じく、アルミニウムとスズで置換された酸化インジウムとなっていることがわかった。さらに、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子径が55nmの四角形状の粒子であった。
【0072】
〈実施例5〉
実施例3のアルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子の合成方法において、加えるアルミニウム化合物の量を、アルミニウム換算で8 mol%にした以外は、実施例3と同様にして、アルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子を作製した。
【0073】
このアルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、実施例3と同じく、アルミニウムとスズで置換された酸化インジウムとなっており、また透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子径が50nmの円板状ないしは四角形状の板状の粒子であった。
【0074】
〈比較例1〉
参考例1のスズ含有酸化インジウム粒子の合成方法において、スズおよびインジウムを含有する水酸化物あるいは水和物の沈殿を生成した後、熟成および水熱処理を行うことなく、この沈殿物をそのまま水洗し、ろ過、乾燥した。さらに、参考例1と同様に、加熱および還元しスズ含有酸化インジウム粒子を作製した。
【0075】
このスズ含有水酸化インジウム粒子は、X線回折スペクトルからは、参考例1と同様、酸化インジウムに特有のパターンとなっていることが認められたが、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子径は、50〜200nmの広い範囲に分布しており、粒子形状に特定の形状が認められない粒状ないしは不定形であった。
【0076】
〈比較例2〉
実施例3のアルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子の合成方法において、スズおよびインジウムを含有する水酸化物あるいは水和物の沈殿を生成した後、アルミニウム化合物を加え、熟成後、水熱処理を行わずに、そのままろ過洗浄した以外は、実施例3と同様にして乾燥した後、加熱処理して、アルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子を作製した。
【0077】
このアルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子は、X線回折の結果から、単一相であり、アルミニウムとスズで置換された酸化インジウムとなっていることが認められるが、透過電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子径が100〜200nmの粒状あるいは不定形の粒子であり、加熱による焼結が見られた。
【0078】
〈比較例3〉
導電性について、本発明の板状のスズ含有酸化インジウム粒子と市販のスズ含有酸化インジウム粒子とを比較するために、市販のスズ含有酸化インジウム粒子を比較例3とした。この市販のスズ含有酸化インジウム粒子は、透過電子顕微鏡で観察すると、球状に近い粒状の形状をしており、その平均粒子径は約30nmであった。
【0079】
参考例1〜2に係る各板状のスズ含有酸化インジウム粒子、実施例3〜5に係る各板状のアルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子、および比較例1〜2に係る粒状あるいは不定形のスズ含有酸化インジウム粒子およびアルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子、さらに比較例3に係る市販の球状あるいは粒状のスズ含有酸化インジウム粒子について体積抵抗率を調べた。体積抵抗率は、三菱化学株式会社製のロレスタPAシステム(MCP−PD41)を用いて、四端子法により測定した。測定条件は、粉体密度2.7g/cm3 ・容器径φ2cm・端子間距離3mmである。これらの体積抵抗率の評価結果を表1にまとめて示す。
【0080】
【表1】
【0081】
表1では、体積抵抗率の値が小さいほど、導電性に優れた粒子であることを示す。表1から明らかなように、各実施例で得られた板状のスズ含有酸化インジウム粒子およびアルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子は、比較例1および2で得られた不定形のスズ含有酸化インジウム粒子に比べて高い導電性を示す。これは、比較例の粒子は粒子径が大きいためだけでなく、粒子サイズ分布が広いために、均一な粒子間接触が困難になり、その結果粒子間の接触抵抗が大きくなって大きな粒子の体積抵抗率を示すと考えられる。
【0082】
一方、粒子径分布が比較的良好で、かつ粒子径も小さい市販品である比較例3のスズ含有酸化インジウム粒子では、本発明の参考例1、2に示す板状のスズ含有酸化インジウム粒子と遜色のない導電性を示す。しかし、比較例3のスズ含有酸化インジウム粒子と比べても、本発明の板状のアルミニウムとスズを含有する酸化インジウム粒子は、さらに1〜2桁電気抵抗が低く、極めて優れた導電性を示す。これは、スズ含有酸化インジウム粒子をさらにアルミニウムで置換することにより、粒子そのものの導電性が飛躍的に向上したことを示している。
【0083】
既述したように、粒子形状を板状にすることの効果は、塗膜とすることにより顕著に表れる。そこで、塗膜化して、透明導電性膜としての効果を調べた。
【0084】
〈参考例6、7および比較例4、5〉
参考例1、2で得られた板状のスズ含有酸化インジウム粒子、比較例1で得られた不定形のスズ含有酸化インジウム粒子、および比較例3の市販の球状〜粒状のスズ含有酸化インジウム粒子を用いて、それぞれ、以下の成分の塗布液を攪拌、混合した後、遊星ボールミル(フリッチェ製)を用いて4時間分散させて塗布液を調整した。この塗布液を厚さが50μmの基材であるPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に、アプリケータを使用して乾燥後の厚さが2μmになるように塗布した。
【0085】
・スズ含有酸化インジウム粒子 80部
・塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体 15部
(日本ゼオン社製MR−110)
・ポリウレタン樹脂 5部
(東洋紡社製バイロンUR8300)
・メチルエチルケトン 75部
・トルエン 75部
・シクロヘキサノン 60部
【0086】
得られた各塗膜について、全光透過性と導電性を調べた。全光透過性については、入射光強度に対する透過光強度の割合を測定(使用装置;日本分光社製紫外可視分光光度計)することにより評価し、導電性については、四端子法により電気抵抗を測定(使用装置;三菱化学社製抵抗率計、ロレスターGP)して評価した。なお、光透過性は基材の影響を受けるため基材のみの光透過性と、この基材を含む塗膜のそれぞれについて測定し、基材の影響を除いた塗膜のみの状態で評価した。この評価法は参考例8以降に示す塗膜についても適用した。
【0087】
評価結果を表2にまとめて示す。なお、表2で示す塗膜は、使用したスズ含有酸化インジウム粒子の種類のみが異なり、他の条件は全て同じにして作製している。そこで、透明導電性に与える粒子のみの影響をより明確に比較できるようにするために、表2に示した塗膜の全光透過性および表面抵抗については、比較例3の市販の球状〜粒状のスズ含有酸化インジウム粒子を用いて作製した塗膜の全光透過率および表面抵抗率をそれぞれ100とし、これとの相対値(%)で示した。全光透過性の数値は大きいほど透明性が良好で、また表面抵抗は、数字が小さいほど導電性が良好であることを示している。
【0088】
【表2】
【0089】
表2から明らかなように、本発明の実施例で得られた板状のスズ含有酸化インジウム粒子を用いた塗膜は、比較例3に係る市販の球状〜粒状のスズ含有酸化インジウム粒子を用いた塗膜に比べて、全光透過性は良好で、かつ表面抵抗率も低いことがわかる。これは、本発明のスズ含有酸化インジウム粒子が板状形状を有するため、塗布したときに、板面が基材の被塗面(基材表面)に平行になるように並びやすく、その結果、光が透過しやすく、かつ粒子どうしが面で接触することにより接触抵抗が小さくなるためと考えられる。
【0090】
一方、比較例1の不定形のスズ含有酸化インジウム粒子を用いた塗膜では、ある程度の透明性は得られるが、表面抵抗は、本発明のスズ含有酸化インジウム粒子を用いた塗膜に比べて1桁以上大きかった。
【0091】
次に、本発明の板状のスズ含有酸化インジウム粒子を塗膜に使用したときの効果を、より際立たせるために、この粒子を塗膜中に高充填した場合や、さらに塗膜にカレンダー処理を行った場合の透明性と導電性を調べた。
【0092】
〈参考例8〉
参考例1の板状のスズ含有酸化インジウム粒子を用いて、以下の塗布液成分を攪拌、混合した後、遊星ボールミル(フリッチェ製)を用いて8時間分散させて塗布液を調整した。この塗布液を厚さが50μmの基材であるPETフイルム上にバーコータを使用して塗布し、塗膜を形成した。この塗膜の乾燥後の厚さは4.2μmであった。
【0093】
・スズ含有酸化インジウム粒子 88部
・塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体 8部
(日本ゼオン社MR−110)
・ポリウレタン樹脂 4部
(東洋紡社製バイロンUR8300)
・メチルエチルケトン 75部
・トルエン 75部
・シクロヘキサノン 60部
【0094】
得られた塗膜について、全光透過性と導電性を調べた。全光透過性については、入射光強度に対する透過光強度の割合(全光透過率)を測定(使用装置;日本分光社製紫外可視分光光度計)することで評価し、導電性については、四端子法により表面抵抗率を測定(使用装置;三菱化学社製抵抗率計、ロレスターGP)して評価した。評価結果を表3に示す。
【0095】
〈実施例9〉
実施例3で得られた板状のアルミニウムとスズを含有する酸化インジウム粒子を用いて、参考例8と同様の方法で塗布液を作製し、塗膜とした。この塗膜の厚さは、4.6μmであった。この塗膜について、全光透過性と導電性を調べた結果を表3に示す。
【0096】
〈参考例10〉
参考例8で作製した塗膜にさらにカレンダー処理を行った。カレンダー処理条件は、温度;80℃で、線圧;50×9.8N/cm(50kg/cm)とした。カレンダー後の塗膜の厚さは、3.8μmであった。このカレンダー処理後の塗膜について、全光透過性と導電性を調べた結果を表3に示す。
【0097】
〈参考例11〉
参考例8において、スズ含有酸化インジウム粒子、塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体およびポリウレタン樹脂の添加量を、それぞれ88部、8部および4部から、83部、11部および6部に変更した以外は、参考例8と同じスズ含有酸化インジウム粒子を用い、参考例8と同じ方法により、塗膜を作製した。得られた塗膜の厚さは、4.0μmであった。この塗膜について、全光透過性と導電性を調べた結果を表3に示す。
【0098】
〈参考例12〉
参考例8において、スズ含有酸化インジウム粒子、塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体およびポリウレタン樹脂の添加量を、それぞれ88部、8部および4部から、93部、5部および2部に変更した以外は、参考例8と同じスズ含有酸化インジウム粒子を用い、参考例8と同じ方法により、塗膜を作製した。得られた塗膜の厚さは、4.4μmであった。この塗膜について、全光透過性と導電性を調べた結果を表3に示す。
【0099】
〈参考例13〉
参考例8において作製した塗布液を、参考例8と同様の方法により、乾燥後の厚さが8.1μmになるように塗布した。この塗膜について、全光透過性と導電性を調べた結果を表3に示す。
【0100】
〈比較例6〉
スズ含有酸化インジウム粒子として、比較例3に示した市販の球状〜粒状の形状のものを使用して、参考例8と同様の方法で塗膜を作製した。得られた塗膜の厚さは、4.5μmであった。この塗膜について、全光透過性と導電性を調べた結果を表3に示す。
【0101】
【表3】
【0102】
表3から明らかなように、各実施例で得られたスズ含有酸化インジウム粒子およびアルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子を用いた塗膜は、市販のスズ含有酸化インジウム粒子を用いた比較例6の塗膜に比べて、全光透過性、導電性ともに大幅に優れている。これは、各実施例で得られたスズ含有酸化インジウム粒子がいずれも板状形状を有するため、塗布したときに、粒子どうしが板面で接触することで接触面積が大きくなり、その結果、粒子間の接触抵抗が低くなって、高い導電性が得られたと考えられる。
【0103】
また実施例9のアルミニウムとスズを含有する酸化インジウム粒子を用いた塗膜の導電性は、粒子の状態で測定した体積抵抗の差異ほど、顕著な差異は認められないが、粒子そのものの優れた導電性を反映して、塗膜においても板状形状と相まってさらに優れた導電性を示す。
【0104】
透明性に関しては、本発明の塗膜は、粒子の板面が基材面に平行になるように並びやすくなる結果、基材面に垂直な方向の光が透過しやすくなり、優れた全光透過性を示す。
【0105】
粒子の含有率が高くなると導電性は向上するが、透過性は低下する傾向を示す。しかし、本発明の板状のスズ含有酸化インジウム粒子を用いた塗膜では、83〜95重量%含有させても、90%以上の優れた透明性と、1000Ω/□以下の優れた導電性を示す。
【0106】
また、塗膜厚さが厚くなるほど導電性は向上するが、透過性は低下する傾向を示す。しかし、本発明の板状のスズ含有酸化インジウム粒子を用いた塗膜では、3〜10μmの塗膜厚さの範囲においても、90%以上の優れた透明性と、1000Ω/□以下の優れた導電性を示した。このような優れた透明性と導電性を同時に実現した透明導電膜は、これまで存在せず、本発明の板状のスズ含有酸化インジウム粒子およびアルミニウムとスズとを含有した酸化インジウム粒子を用い、塗膜中の含有量を83〜95重量%にして、塗膜厚さを3〜10μmの範囲にした塗膜において、初めて実現したものである。一方、粒子サイズが球状〜粒状の市販のスズ含有酸化インジウム粒子を用いた比較例6の塗膜では、粒子サイズが30nmと小さいため、比較的良好な透明性を示すが、導電性は、明らかに本発明の塗膜より劣る。
【0107】
【発明の効果】
以上のように、本発明のスズ含有酸化インジウム粒子は、従来のスズ含有酸化インジウム粒子とは全く異なり、粒子が板状形状を有しており、その結果、この粒子を用いた塗膜は、従来のスズ含有酸化インジウム粒子を用いた塗膜に比べて、透明性と導電性を飛躍的に向上させることができる。
【0108】
また本発明の製造方法は、従来の製造法とは全く異なる新規な製造方法であり、その結果得られるスズ含有酸化インジウム粒子およびアルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子は、粒子の形状が板状で、かつ平均粒子径が10nmから200nmの範囲にある。このような粒子は、従来の方法では得ることが不可能であったものであり、本発明により初めて開発に成功したものである。
【0109】
本発明で得られたスズ含有酸化インジウム粒子は、透明導電性塗膜用として最適であり、これまでの塗布型透明導電性膜の常識を打ち破るものであり、その産業上の利用価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 参考例1で得られた板状のスズ含有酸化インジウム粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図2】 参考例1で得られた板状のスズ含有酸化インジウム粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図3】 参考例2で得られた板状のスズ含有酸化インジウム粒子の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
【図4】 実施例3で得られた板状のアルミニウムとスズとを含有する酸化インジウム粒子(スズ含有酸化インジウム粒子)のX線回折スペクトルを示した図である。
【図5】 実施例3で得られた板状のアルミニウムとスズを含有する酸化インジウム粒子(スズ含有酸化インジウム)の透過電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)を示した図である。
Claims (10)
- 粒子の形状が板状で、かつ粒子の板面方向の平均粒子径が10nmから100nmの範囲にあり、
0.5〜15 mol%のアルミニウムを含有したことを特徴とするスズ含有酸化インジウム粒子。 - 粒子の形状が多角板状である、請求項1記載の板状のスズ含有酸化インジウム粒子。
- 粒子の形状が円板状ないし楕円板状である、請求項1記載の板状のスズ含有酸化インジウム粒子。
- 粒子の形状が四角板状である、請求項1記載の板状のスズ含有酸化インジウム粒子。
- 請求項1に記載したスズ含有酸化インジウムを製造する方法であって、
アルカリ水溶液にスズ塩およびインジウム塩の水溶液を添加し、得られたスズおよびインジウムを含有する水酸化物あるいは水和物にアルミニウム化合物を加えた後、温度を10〜50℃とし、pHを7〜12として、10〜100時間で熟成し、その後、水の存在下で110〜300℃の温度範囲で加熱処理し、ろ過、乾燥後、さらに200〜1000℃の温度範囲で加熱処理することを特徴とするスズ含有酸化インジウム粒子の製造方法。 - 請求項1ないし4のいずれかに記載したスズ含有酸化インジウム粒子と、これを分散結合する結合剤とを含有してなる導電性塗膜。
- 基材上に導電性塗膜を形成してなる導電性シートであって、
前記塗膜が、請求項1ないし4のいずれかに記載したスズ含有酸化インジウム粒子と、これを分散結合する結合剤とを含有してなる導電性シート。 - 基材上に導電性塗膜を形成してなる導電性シートであって、
前記塗膜の厚さが3〜10μmであり、
前記塗膜中に、導電性粒子として、請求項1ないし4のいずれかに記載したスズ含有酸化インジウム粒子が、前記塗膜を構成する固形分中83〜95重量%の範囲で含有されており、
当該シートの全光透過率が90%以上で、かつ表面抵抗率が1000Ω/□以下である導電性シート。 - 基材はプラスチックまたはガラスである、請求項7または8記載の導電性シート。
- 基材は板状である、請求項7ないし9のいずれかに記載の導電性シート。
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