カーボンナノチューブは、グラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有しており、1層に巻いたものを単層カーボンナノチューブ、多層に巻いたものを多層カーボンナノチューブ、その中で特に2層に巻いたものを2層カーボンナノチューブという。また、特殊な形状としてカップスタック型と呼ばれる底をくり抜いたカップを重ねた形状のチューブや、竹節構造を有したバンブー型ナノチューブや、カーボンナノコーンと呼ばれるコーン型のナノチューブも存在し、本発明で使用するカーボンナノチューブは一般にカーボンナノチューブと呼ばれるこれらのいずれを用いてもよく、組み合わせても良い。また、一本の形状が途中から変わっていても良い。
カーボンナノチューブの形態は、高分解能透過型電子顕微鏡で調べることができる。グラファイトの層は、透過型電子顕微鏡でまっすぐにはっきりと見えるほど好ましいが、グラファイト層は乱れている部分があっても構わない。少量で高い導電性を有する膜を形成するための分散液を得たい場合は、グラファイト化度の高く、直線性の高いカーボンナノチューブを選択するのが好ましい。
一般にカーボンナノチューブは層数が少ないほどグラファイト化度の高いカーボンナノチューブを合成し易い傾向がある。したがって特殊な形状のカーボンナノチューブよりも単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブといった一般的なカーボンナノチューブを使用するのが好ましく、なかでも単層カーボンナノチューブと2層カーボンナノチューブが好ましく、丈夫で直線性が高いという点で2層カーボンナノチューブを用いるのが最も好ましい。
ここでいう単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブとは、100本中51本以上がそれぞれ単層、2層、多層であるカーボンナノチューブであるものをいう。100本中51本以上の数え方は、透過型電子顕微鏡でカーボンナノチューブの層数が観測できる程度の測定倍率(例えば日本電子製 JEM−2100を使用するなら、測定倍率30万倍から80万倍)で画像を取り込み、画像をA4サイズになる大きさで打ち出して行う。その時20nmの縮尺が3cmから10cmの大きさになるように画像を取り込んで計測する。1つの視野中でカーボンナノチューブの層数、外径が観測できる全てのカーボンナノチューブについて層数と外径を評価し、本数が100本に到達するまで視野を変えていく。一つの試料で100本の測定ができない場合には、新しい試料を用意して同様の評価を続けることによって100本数える。
カーボンナノチューブ選択の別の指標として、カーボンナノチューブの純度を表すラマン分光分析によるG/D比を用いても良い(GバンドとDバンドの高さ比;Gバンドはカーボンナノチューブの結晶化度が高いほど高くなり、Dバンドはアモルファスカーボンの様な炭素不純物の存在量やカーボンナノチューブの欠損の量が多くなると高くなる)。ラマンG/D比は不純物の量とカーボンナノチューブ自身の結晶化度の両方を同時に測定してしまう値ではあるが、不純物が少なくなっても、カーボンナノチューブの結晶化度が高くなってもG/D比は高くなるので、G/D比が高いほど導電性は高いカーボンナノチューブのバルク体となる。従って、本発明で使用するカーボンナノチューブのG/D比は高いほど好ましい。G/D比は測定に用いる光の波長によって変わる値であるので、目安として、例えば耐電防止目的に使用するのであれば、633nm光を用いて測定した場合、G/D比は5以上あるのが好ましく、10以上であればより好ましく、更に好ましくは20以上である。50以上であれば最も好ましい。上限としては生産性を無視すれば現状の技術ではどこまでもG/D比の高いカーボンナノチューブを製造可能であるため、適宜、必要に応じて調製すると良いが、G/D比が20から200あれば、例えば帯電防止目的であれば十分性能を発揮する。20以下でも効果を発揮するが、塗布時の膜圧を厚く塗る必要があり、透明性を必要とする用途には使いにくい。
また、カーボンナノチューブの外径は細いほど好ましい、外径が細いほどカーボンナノチューブの長軸方向への電流が流れやすく、外形が太いと電流が拡散しやすくなるためである。カーボンナノチューブの外形は好ましくは平均外径が100nm以下であり、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは10nm以下であり、中でも外径4nm以下、特に3nm以下のカーボンナノチューブは、G/D比が高くなる傾向が強く、特に好ましい。最上に好ましくは2nm以下のカーボンナノチューブが最も直線性が高く、高G/D比となり易いため好適である。G/D比の高いカーボンナノチューブは表面が均一で綺麗であるため、分散剤との相互作用も全体的に均一となり分散し易く、少ない分散剤量でカーボンナノチューブが分散するため好ましい。平均外径は前記TEM観測によって層数を数えた方法で、100本の外径から算出した算術平均値のことである。
カーボンナノチューブを合成する方法は種々存在するが、化学的気相成長(CVD)法による合成法だと2層カーボンナノチューブが合成しやすい。直径の制御は担体に担持させる触媒の粒径を制御することによって合成される2層カーボンナノチューブの直径を制御することが出来る。触媒の粒径を小さくして担持させるほど、直径の細いカーボンナノチューブが合成できる。担持させる触媒の粒径は文献既知の方法で初めから触媒の微粒子を合成しておいて担体に担持させても良いし、触媒前駆体となる金属イオンの薄膜を担体に塗布しておき、加熱によって金属イオンを担体表面で粒子化させてもよい。このときの加熱の仕方で担体上の粒子の大きさは変化する。急激に加熱するほど小さな粒子を多く造ることが出来る。
また、カーボンナノチューブの長さは、合成条件や分散条件を変えることによって調整することが可能である。合成時の反応時間を長くすれば長めのカーボンナノチューブを得ることが出きる。また、合成中に酸素を含む化合物(例えばアルコールや水など)を混ぜながらカーボンナノチューブを合成すると、触媒を被覆している炭素不純物が燃やされて触媒寿命が延びるため、長めのカーボンナノチューブが合成出来る。この方法、例えば触媒,第51巻1号, 2−7(2009)ではスーパーグロースなる方法でカーボンナノチューブを合成している。分散時間を長くすれば通常短めのカーボンナノチューブを得ることが出来る。また、酸化剤の混ざった溶液中でカーボンナノチューブを加熱することによって短くすることも可能である。
本発明における多糖類はカーボンナノチューブの分散剤として用いられる。ここでいう多糖類とは単糖分子がグリコシド結合によって2個以上縮合した糖のことであり、これらの官能基を変換したり、修飾したりした誘導体も含める。より具体的には、例えば、デンプン、グリコーゲン、アガロース、ペクチンや、植物細胞壁にあるセルロースや、ペクチン、節足動物・菌類の外骨格にあるキチン、藻類の細胞にあるアガロース(寒天)やカラギーナン、あるいは微生物が分泌するゲル状物質キサンタンガムなどが挙げられる。
修飾された多糖類の誘導体としてはカルボキシメチルセルロース類などが、ダイセルファインケム株式会社、日本製紙ケミカル株式会社、第一工業製薬株式会社などから、種々の分子量やエーテル化度、イオン性の異なるカルボキシメチルセルロース類を購入することができる。
理由は定かではないが、αグリコシド結合が多い多糖類よりもβグリコシド結合が多い多糖類の方が、分散剤として用いた場合にカーボンナノチューブの水への分散性は良く、多糖類としては好ましいのはβグリコシド結合によって縮合した多糖類であり、好ましい多糖類はセルロース系の誘導体である。中でも、アニオン性のセルロース誘導体であるカルボキシメチルセルロース類が最もカーボンナノチューブの高濃度、高分散に適している。
パーフルオロアルキル基を有する水溶性化合物はカーボンナノチューブ水分散液の表面張力を低下させるために使用する。表面張力を低下させる能力はフッ素系の界面活性剤が最も好ましい。パーフルオロ基を有する水溶性化合物を用いる理由は、気−液界面の空気側にフッ化炭素鎖が配向しやすいため水の表面がテフロン(登録商標)類似の低い表面張力を呈するからである。フッ化炭素基はファンデルワールス力が小さいため、分子間力が非常に弱く、分子の凝集力が弱いため表面張力が非常に低くなる。従って、パーフルオロ基を有する水溶性化合物は、疎水性基が短くても低濃度側で高い界面活性を呈す。なかでもフッ素系界面活性剤と呼ばれる水溶性化合物が特に好ましく、フッ素系界面活性剤の臨界ミセル濃度は同炭素数の炭化水素系界面活性剤よりも桁違いに低く、極めて微量でも表面張力を大きく低下させるからである。
また、分散剤と表面張力を低下させる試薬の組み合わせは、種々考えられるが、単にカーボンナノチューブの分散剤と界面活性剤などを混ぜ合わせると、分散剤の溶解性が変化する、溶解時の分子形態が変化する、界面活性剤の方が分散剤よりカーボンナノチューブへの親和性が強く、分散剤と界面活性剤が入れ替わってしまい分散液の特性が変化する、カーボンナノチューブが凝集するといった、様々な問題が生じる。
本発明において多糖類とパーフルオロアルキル基を有する水溶性化合物の組み合わせが良い理由は明確になっていないが、以下のような理由によると考えている。水溶性のフッ素系化合物は水の表面張力を低下させる界面活性作用を有し、カーボンナノチューブとの相互作用が比較的弱いので、カーボンナノチューブの分散剤と置き換わりにくい。ただし、添加した水溶性のフッ素系化合物よりカーボンナノチューブとの相互作用が弱い分散剤を使用していた場合は本発明で使用しているパーフルオロアルキル基を有する水溶性化合物を添加すると、分散剤と置き換わろうとする作用が働き、分散剤がカーボンナノチューブ表面から剥がれてしまい、カーボンナノチューブが凝集する。本発明では、カーボンナノチューブとの相互作用の強さが、多糖類>パーフルオロアルキル基を有する水溶性化合物となっているため安定なカーボンナノチューブ水分散液となっていると考えられる。また、パーフルオロアルキル基を有する水溶性化合物はカーボンナノチューブ水分散液の表面張力を低下させるだけでなく、基材に塗布した際の液−固界面張力も低下させる効果があり、この効果によって本発明のカーボンナノチューブ水分散液は種々の樹脂、ガラス、金属等へ塗布する事が可能となる。
また、多糖類とパーフルオロアルキル基を有する水溶性化合物の組み合わせとしてより具体的に好ましい組み合わせは、ノニオン性の多糖類を分散剤として用いた場合は、ノニオン性のパーフルオロアルキル基を有する水溶性化合物を用いるのが良く、カチオン性の多糖類の場合はカチオン性のパーフルオロアルキル基を有する水溶性化合物と組み合わせ、アニオン性の多糖類の場合はアニオン性のパーフルオロアルキル基を有する水溶性化合物と組み合わせるのが良い。アニオン性、カチオン性、ノニオン性の組み合わせが異なる場合、カーボンナノチューブ水分散液の安定性が悪くなる。ノニオン性同士の組み合わせは、不純物の混入によって電荷バランスが崩れた時の影響を受けやすいので、好ましくはアニオン性同士の組み合わせかカチオン性同士の組み合わせを用いるのが好適である。
組み合わせの別の指標としては、多糖類とパーフルオロアルキル基を有する水溶性化合物それぞれのゼータ電位を測定し、マイナスの値を示すもの、0となるもの、プラスとなるものをそれぞれ同じ電荷同士で組み合わせると良く、両性イオンの物質を用いる場合にはゼータ電位を基準とするのが好ましい。
パーフルオロアルキル基を有する水溶性化合物の例としては、パーフルオロアルキル基を有する、アルコール基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ポリエチレングリコール基から選択される基を有する化合物が挙げられる。特に好ましくは、一般にフッ素系界面活性剤と呼ばれる化合物を使用すると、添加量が少量で高い効果を得られる。フッ素系界面活性剤を用いると、好ましい条件下では、添加量としてカーボンナノチューブ分散液全量に対して10wt%以下で効果を発揮し、より好適な条件では5wt%で効果を発揮し、更に好適な条件下では1wt%以下の添加量で効果を発揮し、最も好適な条件下では0.5wt%以下の添加量で効果を発揮する。更に最適な条件下では0.1wt%以下の添加量で効果を発揮する。あまりに低濃度になると効果がなくなり、下限はせいぜい0.001wt%である。
パーフルオロアルキル基を有する水溶性化合物として界面活性剤を用いる場合、別の指標として、臨界ミセル濃度を測定し、臨界ミセル濃度以上の濃度で添加すると、効果を十分に得ることが可能である。ただし、界面活性剤は一般的には導電性を示さない物質が多いため、特に好ましい添加量としては臨界ミセル濃度付近の濃度で用いるのが良い。
中でも臨界ミセル濃度が5wt%〜0.001wt%の範囲、より好ましくは1wt%〜0.001wt%の範囲にある界面活性剤を使用すると、少ない添加量で効果を発揮するので好ましい。
フッ素系界面活性剤のうち、ある種のものは大日本インキ化学工業社からメガファック(Megafac)Fなる商品名で、旭硝子社からサーフロン(Surflon)なる商品名で、ミネソタ・マイニング・アンド・マニファクチュアリング・カンパニー社からフルオラッド(Fluorad)FCなる商品名で、インペリアル・ケミカル・インダストリー社からモンフロール(Monflor)なる商品名で、イー・アイ・デュポン・ネメラス・アンド・カンパニー社からゾニルス(Zonyls)なる商品名で、ファルベベルケ・ヘキスト社からリコベット(Licowet)VPFなる商品名で、また、ネオス社製からフタージェント(FTERGENT)なる商品名でそれぞれアニオン性、ノニオン性、カチオン性の化合物が市販されている。
アニオン性であれば、大日本インキ社製のメガファックスF−410、ネオス社製のフタージェント100、フタージェント150CH、フタージェントA、旭硝子社のサーフロンS−211などが挙げられる。
非イオン性フッ素系界面活性剤としては、例えば、大日本インキ社製のメガファックス144D、同F444、同TF−2066、旭硝子社製のサーフロンS−141、同145、同241、ネオス社製のフタージェント251等を挙げることができ、また、両性フッ素系界面活性剤としては、例えば、旭硝子社製のサーフロンS−131、同132等を挙げることができる。これらのうちから好適に選択するとよいが、分散剤がアニオン性のカルボキシメチルセルロース類である場合はアニオン性のフッ素化合物を選択するのが最も好ましい。
パーフルオロアルキル基の部分の構造は、直鎖、枝分かれ、環状、様々ではあるが、中でも枝分かれ状の構造がフッ素化合物同士の相互作用が弱くなり、表面張力が低下し易いため好ましい。また、パーフルオロアルキル基の炭素数については、分子構造中の親水基が1つの場合は2〜20個程度が好ましく、より好ましくは3〜12個程度が好適である。この様なフッ素化合物としては、例えばネオス株式会社製のフタージェントなる試薬が挙げられる。
本発明のカーボンナノチューブ水分散液は20℃における表面張力が70mN/m以下であることが好ましい。カーボンナノチューブ水分散液の表面張力は低ければ低いほど各種基材への塗れ性が良くなるため好ましい。好ましくは60mN/m以下であるが、より好ましくは50mN/m以下、更に好ましくは40mN/m以下であると、はじきやムラが少なくなり好ましい。ムラを更に少なくしたい場合は34mN/m以下に調製するのが好ましく、30mN/m以下がより好ましく、最も好ましい表面張力の値は25mN/m以下である。表面張力は例えば自動接触角計(協和界面科学株式会社製)を用いて測定することが出来る。
塗布方法にもよるが、ムラを少なくしたい場合は、カーボンナノチューブ水分散液の粘度を低くするとムラが生じにくくなる。塗布方法によっても基準は変わるが、例えば、東機産業株式会社製のE型粘度計(RE−80L)を用いた場合で25℃、50rpm、2min間、1°34′×R24のローターで測定した場合、100mPa・s以下である事が好ましく、より好ましくは60mPa・s以下であり、更に好ましくは30mPa・s以下、最も好ましくは10mPa・s以下であり、更に最も好ましい値は6mPa・s以下である。下限について塗布性の観点からは特に制限はなく、低い方が好ましいが、膜厚をコントロールしやすい観点では、粘度は1mPa・s以上であることが好ましい。
粘度、表面張力は分散剤に用いた多糖類と添加剤であるパーフルオロアルキル基を有する水溶性化合物の量を変えることによって調整することが可能である。
また、本発明のカーボンナノチューブ水分散液を用いれば、好適な条件下では1.0×102〜1.0×1013Ω/□の導電膜を形成することが可能であり、膜厚をコントロールする事によってこの範囲で表面抵抗値を調製可能である。膜厚のコントロールはディップコートであるならば引き上げ速度の調製で、スピンコートであるならば回転数の調整で、ロール、ブレード等のコーターを使用するならば、コーターの種類を変えることで調製可能である。好適な条件下では1.0×102〜1.0×1013Ω/□の範囲での調製が可能であり、別の好適な条件下では1.0×102〜1.0×1010Ω/□の範囲での調製が可能であり、さらに別の好適な条件下では1.0×102〜1.0×108Ω/□の範囲での調製が可能であり、また別の好適な条件下では1.0×102〜1.0×107Ω/□の範囲での調製が可能であり、さらにまた別の好適な条件下では1.0×102〜1.0×106Ω/□の範囲での調製が可能であり、より別の好適な条件下では1.0×102〜1.0×105Ω/□の範囲での調製が可能であり、最も好適な条件下では1.0×102〜1.0×104Ω/□の範囲での調製が可能である。表面抵抗値は例えばロレスタEP(株式会社ダイアインスツルメンツ社製、MCP−T360)を使用して表面抵抗値を測定することが出来る。
本発明のカーボンナノチューブ水分散液はカーボンナノチューブの濃度が3.0×10−3wt%の時、粒度分布測定をおこなった際のメディアン径が100nmから4000nmの範囲内であることが好ましい。メディアン径が小さいほどカーボンナノチューブの分散性が良い事を示しているが、カーボンナノチューブが高度に分散している分散液中では、メディアン径はカーボンナノチューブの長さも反映した値となり、余り小さいとカーボンナノチューブの長さが短いということになり、短いカーボンナノチューブは膜を形成した際に、カーボンナノチューブ同士の接点が多くなり、長いカーボンナノチューブと比べて導電性が劣るようになるため、メディアン径は小さすぎない方が良い。また、塗布方法にもよるが、大きすぎると分散液を塗布した際に塗りムラが生じ易くなる。よって、メディアン径は適度な範囲が存在する。好ましいメディアン径は100nmから4000nmだが、より好ましくは200nmから3000nmであり、更に好ましくは300nmから2000nmであり、最も好ましくは400nmから1500nmである。粒度分布測定は、例えばカーボンナノチューブの濃度が3.0×10−3wt%になるようにイオン交換水で希釈して、大塚電子株式会社製のゼータ電位・粒径測定システムELS−Z1/Z2を用いて測定することが出来、粒径の制御は分散時間を調整することでおこなうことが可能である。
本発明のカーボンナノチューブ水分散液を用いれば、透明性を必要とする基材に塗布した場合でも、高い透明性と優れた外観の透明導電膜を形成可能である。本発明のカーボンナノチューブ水分散液を塗布乾燥後、透過率を縦横それぞれ1cm間隔で9点以上測定した場合、透過率の上限と下限の差が1%以内となる。好適な条件で塗布した場合は0.5%以内となり、更に好適な条件下で塗布した場合は0.3%以内となる。
本発明のカーボンナノチューブ水分散液の調製方法については、分散剤として多糖類、添加剤としてパーフルオロアルキル基を有する水溶性化合物を用いる限り、特に制限はなく、多糖類とカーボンナノチューブとパーフルオロアルキル基を有する水溶性化合物を混合後、分散処理をしてもかまわないが、好ましくは多糖類によってカーボンナノチューブを分散後、パーフルオロアルキル基を有する水溶性化合物を混合するのが好適である。分散手法は特に制限がなく、カーボンナノチューブが分散すれば良い。ビーズミル、ボールミル、ロールミル、粉砕ミル、撹拌ホモジナイザー、超音波ホモジナイザーなどが好適であるが、最も効率よく分散できるという点で、超音波ホモジナイザーを用いた分散方法が好ましい。混合方法にも特に制限はなく、必要量を混合後、分散処理をすればよいが、予め、それぞれの試薬の希釈溶液を調製してから混合するのも良い。
分散条件として分散時間を長くするほどカーボンナノチューブは分散していくため、前記、粒度分布測定によるメディアン径は分散時間が長くなるほど小さくなる。
かくして得られる本発明のカーボンナノチューブ水分散液は、多種多様な基材に塗布可能であり、少量で優れた透明性と帯電防止性を有する導電性膜形成用の塗液とすることが可能であり、帯電防止インクとして極めて実用的に用いることができる。
また、本発明のカーボンナノチューブ水分散液の基材への塗布方法は特に制限は無く、ディップコート、スピンコート、ロールコート、スプレーコートなど、基材の形状に合わせて無理のない塗布方法を選択すると良い。本発明のカーボンナノチューブ水分散液は好適な条件では、どの様な塗布方法を用いても塗りムラなく均一に塗布することが可能だが、好ましい条件下では、例えば、ディップコートなら引き上げ速度の調整、スピンコートなら滴下量と回転数の調整、ロールコートなら塗布厚みの調整、スプレーコートなら塗布量の調整で種々の基材へ形状にとらわれず、均一に塗布することが可能である。
ここで言う種々の基材とは、一般に樹脂、金属およびガラスと呼ばれる具材であり、より具体的には、例えば樹脂では、熱可塑性樹脂として、炭化水素系プラスチックでは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、結晶性ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリブタジエン、スチレンブタジエン樹脂、極性ビニル系プラスチックでは、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリルスチレン共重合体(AS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、アイオノマー、アクリロニトリル塩素化ポリエチレンスチレン共重合体(ACS)、ポリメチルメタクリレート(アクリル樹脂、PMMA)、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンポリテトラフルオロエチレン共重合体、線状構造プラスチックでは、ポリアセタール(ポリオキシメチレン)、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート(Uポリマー)、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシベンゾイル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、その他液晶ポリエステルなどが挙げられ、セルロース系プラスチックでは酢酸セルロース、酢酪酸セルロース、セロファン、セルロイドなどが挙げられ、熱可塑性エラストマーではスチレン・ブタジエン系、ポリオレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、1,2−ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル系、アイオノマーなどが挙げられる。
また、熱硬化性樹脂として、ホルムアルデヒド樹脂ではホルムアルデヒドとの縮合反応で架橋・硬化を行うタイプ、フェノール樹脂ではフェノール樹脂原料に充填剤と強化剤を加えて樹脂原料とする原料を加熱し、三次元化な架橋を形成して硬化させるタイプ、アミノ樹脂(ユリア樹脂,メラミン樹脂,ベンゾグアナミン樹脂)では縮合相手が、それぞれ尿素、メラミン、グアナミンなどが挙げられる。架橋型樹脂では架橋をホルムアルデヒドとの縮合以外の反応を利用するタイプ。不飽和ポリエステル樹脂では不飽和脂肪酸(無水フタル酸,無水マレイン酸など)と2価アルコール(エチレングリコールなど)との不飽和ポリエステルの主鎖中の2重結合にスチレンをビニル共重合して架橋させたタイプの樹脂、ジアリルフタレート樹脂(アリル樹脂)では、無水フタル酸とアリルアルコールとのジアリルエステルをスチレン、酢酸ビニルなどで架橋・硬化させたタイプの樹脂。アルキド樹脂では多価アルコールと2価カルボン酸と1価の高級脂肪酸とをエステル結合したポリエステルタイプの樹脂。グリセリン(多価アルコール)と無水フタル酸とを重付加・重縮合し、架橋・硬化するグリプタル樹脂も含まれる。エポキシ樹脂ではエチレンオキシドなどのオキシランの開環反応と重合・架橋反応を利用した樹脂(硬化には,アミンや酸無水物などの硬化剤を使う)タイプ。主なエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、多官能基エポキシ樹脂、脂環状エポキシ樹脂(主な硬化剤はジアミン,ポリアミン,ポリアミド,ビニルフェノール,無水有機酸(無水フタル酸,無水トリメリット酸,無水ピロメリット酸))が挙げられ、ウレタン樹脂(ポリウレタン)では、グリコールとジイソシアネートとからなるポリウレタン(熱可塑性樹脂)を三次元化したものと、しないものなどが挙げられ。ケイ素樹脂(シリコーン)ではガラスを構成するケイ素骨格にメチル基やベンゼン環などの有機性基を導入してできる樹脂で,ゴム状のものから硬い樹脂まで挙げられる。
金属では、鉄、鋼、ニッケル、銅、亜鉛、鉛、ステンレス、その他合金などが挙げられ、ガラスは硼酸ガラス、パイレックス(登録商標)、石英ガラスなどが挙げられる。 本発明の2層カーボンナノチューブ分散液の粘度は1mPa・sから10mPa・sであることが好ましい。粘度は分散液中の溶質量の影響を受けるが、2層カーボンナノチューブを用いた場合は、前記範囲であると、より均一に塗りやすく、好適である。粘度が高すぎると均一になりにくくなる傾向がみられる。また、粘度が低すぎると膜厚をコントロールしにくくなるため、粘度は1mPa・s以上であることが好ましい。粘度は、例えば東機産業株式会社性のE型粘度計(RE−80L)を使用して測定する事が可能である。
本発明に用いるカーボンナノチューブの製造方法については特に制限はないが、G/D比が高く、また外径の細い2層カーボンナノチューブが簡便に製造できる方法として、例えば以下のようにして製造することが可能である。
担体に鉄を担持した粉末状の触媒を、反応器内で炭素含有化合物と500〜1200℃で接触させる。反応器は、上記カーボンナノチューブが得られる限りどの様なものを用いても構わないが、均質なカーボンナノチューブが得られるという点で縦型反応器を用いるのが好ましい。縦型反応器とは、鉛直方向(以下「縦方向」称する場合もある)に設置された反応器を有し、該反応器の一方の端部から他方の端部に向けた方向に炭素含有化合物が流通し、該炭素含有化合物が、カーボンナノチューブ製造用触媒で形成される触媒層を通過する態様で流通し得る機構を備えたものである。反応器は、例えば管形状を有する反応器を好ましく用いることができる。なお、上記において、鉛直方向とは、鉛直方向に対して若干傾斜角度を有する方向をも含む(例えば水平面に対し90°±15°、好ましくは90°±10°)。最も好ましいのは鉛直方向である。なお、炭素含有化合物の供給部および排出部は、必ずしも反応器の端部である必要はなく、炭素含有化合物が、その流通過程で触媒層を通過すればよい。
触媒は、縦型反応器中、反応器の水平断面方向全面に存在させた状態にあるのが好ましい。このようにすることにより、触媒と炭素含有化合物を有効に接触させることができる。横型反応器の場合、このような状態にするには、重力がかかる関係上、触媒を左右から挟み込む必要がある。しかし、カーボンナノチューブの生成反応の場合、反応するに従って触媒上にカーボンナノチューブが生成して、触媒の体積が増加するので、左右から触媒を挟みこむ方法よりも縦型反応器中、反応器の水平断面方向全面に存在させた状態にある方が好ましい。本発明では反応器を縦型にし、反応器内にガスが透過できる台を設置して、その上に触媒を置くことによって、触媒を両側から挟みこむことなく、反応器の断面方向に均一に触媒を存在させることができる。本発明において、触媒を縦型反応器の水平断面方向全面に存在させた状態とは、水平断面方向に全体に触媒が広がっていて触媒底部の台が見えない状態を言う。反応器は耐熱性であることが好ましく、石英製、アルミナ製等の耐熱材質からなることが好ましい。
反応器内に設置された触媒層の下部、もしくは上部から炭素含有化合物を通過させて、触媒と接触させ、反応させることによりカーボンナノチューブを生成する。触媒と炭素含有化合物とを接触させる温度は、500〜1200℃である。温度は、600〜950℃がより好ましく、さらに好ましくは700℃〜900℃の範囲である。温度が低すぎると、カーボンナノチューブの収率が悪くなる。また温度が高すぎると、使用する反応器の材質に制約があると共に、カーボンナノチューブ同士の接合が始まり、カーボンナノチューブの形状のコントロールが困難になる。炭素含有化合物を接触させながら反応器を反応温度にしてもよいし、熱による前処理終了後、反応器を反応温度にしてから、炭素含有化合物の供給を開始しても良い。
鉄を担持する担体は、マグネシアが好ましい。触媒である鉄を、担体であるマグネシアに担持させることにより、鉄の粒径をコントロールしやすく、また高密度で鉄が存在しても高温下でシンタリングが起こりにくい。そのため、高品質なカーボンチューブを効率よく多量に合成することができる。さらに、マグネシアは酸性水溶液に溶けるので、酸性水溶液で処理するだけでマグネシアおよび鉄の両者を取り除くこともできるため、精製工程を簡便化することができる。
マグネシアは、市販品を使用しても良いし、合成したものを使用しても良い。マグネシアの好ましい製法としては、金属マグネシウムを空気中で加熱する、水酸化マグネシウムを850℃以上に加熱する、炭酸水酸化マグネシウム3MgCO3・Mg(OH)2・3H2Oを950℃以上に加熱する等の方法がある。
触媒に担持する鉄は、0価の状態とは限らない。反応中は0価の金属状態になっていると推定できるが、広く鉄を含む化合物または鉄種でよい。例えば、ギ酸鉄、酢酸鉄、トリフルオロ酢酸鉄、クエン酸アンモニウム鉄、硝酸鉄、硫酸鉄、ハロゲン化物鉄などの有機塩または無機塩、エチレンジアミン4酢酸錯体やアセチルアセトナート錯体のような錯塩などが用いられる。また鉄は微粒子であることが好ましい。微粒子の粒径は0.5〜10nmであることが好ましい。鉄が微粒子であると外径の細いカーボンナノチューブが生成しやすい。
マグネシアに鉄を担持させる方法は、特に限定されない。例えば、担持したい鉄の塩を溶解させた非水溶液(例えばエタノール溶液)中または水溶液中に、マグネシアを含浸し、攪拌や超音波照射などにより充分に分散混合した後、乾燥させる方法(含浸法)を用いることができる。さらに空気、酸素、窒素、水素、不活性ガスおよびそれらの混合ガスから選ばれたガス中または真空中で高温(300〜1000℃)で加熱することにより、マグネシアに鉄を担持させてもよい。
鉄担持量は、多いほどカーボンナノチューブの収量が上がるが、多すぎると鉄の粒子径が大きくなり、生成するカーボンナノチューブが太くなる。鉄担持量が少ないと、担持される鉄の粒子径が小さくなり、外径が細く、かつ外径分布も比較的狭いカーボンナノチューブが得られるが、収率が低くなる傾向がある。最適な鉄担持量は、マグネシアの細孔容量や外表面積、担持方法によって異なるが、マグネシアに対して0.1〜20重量%の鉄を担持することが好ましい。
カーボンナノチューブを生成させる反応の前に、触媒に熱による前処理を行ってもよい。熱による前処理の時間は、特に限定しないが、長すぎるとマグネシア上で金属の凝集が起こり、それに伴い外径の太いカーボンナノチューブが生成することがあるので、120分以内が好ましい。前処理の温度は、触媒活性が発揮されれば反応温度以下でも構わないし、反応温度と同じでも、反応温度以上でも構わない。熱による前処理を行うことにより、触媒をより活性な状態にすることもある。熱による前処理、およびカーボンナノチューブを生成させる反応は、減圧もしくは大気圧で行うことが好ましい。
触媒と炭素含有化合物の接触を減圧で行う場合は、真空ポンプなどで反応系を減圧にすることができる。また大気圧で前処理や反応を行う場合は、炭素含有化合物と希釈ガスを混合した、混合ガスとして触媒と接触させてもよい。
希釈ガスとしては、特に限定されないが、酸素ガス以外のものが好ましく使用される。酸素は爆発の可能性があるので通常使用しないが、爆発範囲外であれば使用しても構わない。希釈ガスとしては、窒素、アルゴン、水素、ヘリウム等が好ましく使用される。これらのガスは、炭素含有化合物の線速や濃度のコントロールおよびキャリヤガスとして効果がある。水素は、触媒金属の活性化に効果があるので好ましい。アルゴンの如き分子量が大きいガスは、アニーリング効果が大きく、アニーリングを目的とする場合には好ましい。特に窒素およびアルゴンが好ましい。
使用する炭素含有化合物は、G/D比の高い2層カーボンナノチューブ集合体が得られるならば、特に限定されないが、好ましくは炭化水素または酸素含有炭素化合物を使うとよい。炭化水素は芳香族であっても、非芳香族であってもよい。芳香族の炭化水素では、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセンまたはこれらの混合物などを使用することができる。また、非芳香族の炭化水素では、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、エチレン、プロピレンもしくはアセチレン、またはこれらの混合物等を使用することができる。酸素含有炭素化合物としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールのごときアルコール類;アセトンのごときケトン類;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドのごときアルデヒド類;トリオキサン、ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルのごときエーテル類;酢酸エチルなどのエステル類;一酸化炭素またはこれらの混合物であってもよい。これらの中でも、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパンおよびプロピレンから選ばれた化合物が純度の高いカーボンナノチューブを得られる点で好ましい炭素含有化合物である。特にメタンを用いるとグラファイト化度の高い2層カーボンナノチューブが得られるので好ましい。これらは常温、常圧中で気体であるため、ガスとして供給量を規定して反応に供しやすい。他の炭素含有化合物は常圧で反応を行う場合、気化などの工程を追加する必要がある。
以上のように生成したカーボンナノチューブを気相中で酸化処理すると優先的に単層カーボンナノチューブやアモルファスカーボンが焼成され、除去される。それによって、G/D比の高い2層カーボンナノチューブが得られる。
カーボンナノチューブの気相中での酸化処理方法は、酸化性を有する気体の存在下にカーボンナノチューブ集合体をさらす工程である。上記酸化性の気体とは、処理温度にカーボンナノチューブ集合体をさらしたときに、カーボンナノチューブ集合体に対して酸化性を示す気体であれば特に制限はないが、一酸化炭素、二酸化炭素、オゾン、酸素、または空気などが挙げられる。気体の組成は、これらの気体の混合気体であっても、その他カーボンナノチューブ集合体に対して酸化性を示さない気体(不活性ガス)が混合されていてもかまわない。
気相中での酸化処理は、カーボンナノチューブの燃焼ピークよりあまりにも低い温度で焼成処理を行った場合、単層カーボンナノチューブは焼成されず、除去されない場合が多いため、カーボンナノチューブ組成物を示差熱分析したときのカーボンナノチューブの燃焼ピーク温度−50℃以上の温度で行うのがより好ましい。また、カーボンナノチューブは、通常石英管を反応管として合成される場合が多く、この場合は、酸化処理の温度は、1200℃以下であるのが好ましく、より好ましくは1000℃以下でおこなうのが好適である。酸化処理を1200℃を越える温度でおこなう場合は、使用する装置の材質を、それに耐えるように選択することが望ましい。また、カーボンナノチューブの燃焼ピーク温度よりあまりにも高い温度で酸化処理を行うと、今度は生成カーボンナノチューブ全てが焼成されて消失してしまう。よってカーボンナノチューブの燃焼ピーク温度付近で酸化処理するのが好ましく、カーボンナノチューブの燃焼ピーク温度±25℃付近で酸化処理するのがより好ましい。
酸化処理は電気炉でおこなっても良いし、カーボンナノチューブ合成後に、反応器内を空気雰囲気または空気の濃度を不活性ガスで低くしておこなってもよい。酸化処理は、電気炉でおこなう場合には通常約10g程度で行い、それに満たない少量の場合は、可能な量で行う。酸化処理時間は特に限定されない。通常は1時間から10時間の間で行うことが好ましい。
この様にして合成されたカーボンナノチューブは好適な条件下ではG/D比が30から200、より好適な条件下では40から200、更に好適な条件下では50から200である2層カーボンナノチューブを製造可能である。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は例示のために示すものであって、いかなる意味においても、本発明を限定的に解釈するものとして使用してはならない。
<参考>
[カーボンナノチューブ製造用触媒調製例]
クエン酸アンモニウム鉄(緑色)(和光純薬工業社製)2.459gをメタノール(関東化学社製)500mLに溶解した。この溶液に、軽質マグネシア(岩谷社製)を100g加え、室温で60分間攪拌し、40℃から60℃で攪拌しながら減圧乾燥してメタノールを除去し、軽質マグネシア粉末に金属塩が担持された触媒を得た。
[カーボンナノチューブ製造例]
図1に示した流動床縦型反応装置でカーボンナノチューブを合成した。図1は前記流動床縦型反応装置の概略図である。
反応器100は内径32mm、長さは1200mmの円筒形石英管である。中央部に石英焼結板101を具備し、石英管下方部には、不活性ガスおよび原料ガス供給ライン104、上部には廃ガスライン105および、触媒投入ライン103を具備する。さらに、反応器を任意温度に保持できるように、反応器の円周を取り囲む加熱器106を具備する。加熱器106には装置内の流動状態が確認できるよう点検口107が設けられている。
触媒12gを取り、密閉型触媒供給器102から触媒投入ライン103を通して、石英焼結板101上に触媒調製例1で示した触媒108をセットした。次いで、原料ガス供給ライン104からアルゴンガスを1000mL/分で供給開始した。反応器内をアルゴンガス雰囲気下とした後、温度を850℃に加熱した(昇温時間30分)。
850℃に到達した後、温度を保持し、原料ガス供給ライン104のアルゴン流量を2000mL/分に上げ、石英焼結板上の固体触媒の流動化を開始させた。加熱炉点検口107から流動化を確認した後、さらにメタンを95mL/分(メタン濃度4.5vol%で反応器に供給開始した。該混合ガスを90分供給した後、アルゴンガスのみの流通に切り替え、合成を終了させた。
加熱を停止させ室温まで放置し、室温になってから反応器から触媒とカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ組成物を取り出した。
この触媒付きカーボンナノチューブ組成物の示差熱分析による燃焼ピーク温度は456℃であった。
この触媒付きカーボンナノチューブ組成物23.4gを磁性皿(150φ)に取り、予め446℃まで加熱しておいたマッフル炉(ヤマト科学社製、FP41)にて大気下、446℃で2時間加熱した後、マッフル炉から取り出した。次に、触媒を除去するため、カーボンナノチューブ組成物を6Nの塩酸水溶液に添加し、室温で1時間攪拌した。濾過して得られた回収物を、さらに6Nの塩酸水溶液に添加し、室温で1時間攪拌した。これを濾過し、数回水洗した後、濾過物を120℃のオーブンで一晩乾燥することでマグネシアおよび金属が除去されたカーボンナノチューブ組成物を57.1mg得ることができた。上記工程を繰り返し、以下の工程に供した。
一方、マッフル炉で消失した炭素量を調べるため、マッフル炉で加熱していない触媒付きのカーボンナノチューブ組成物5.2gを6Nの塩酸水溶液に添加し、室温で1時間攪拌した。濾過して得られた回収物を、さらに6Nの塩酸水溶液に添加し、室温で1時間攪拌した。これを濾過し、数回水洗した後、濾過物を120℃のオーブンで一晩乾燥してカーボンナノチューブ組成物が107.2mg得られた。
これを基に換算すると、マッフル炉中での炭素の消失量は88%であった。また、この様にして得られたカーボンナノチューブ組成物を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、カーボンナノチューブ総本数(100本)のうち88本を2層カーボンナノチューブが占めていた。この時の層数評価のサンプルは以下のように準備した。カーボンナノチューブ0.5mgとエタノール2mLを2mLサンプル瓶に入れ、超音波バス(ULTRASONIC CLEANER yamato 2510を使用)を用いて、15分間超音波照射をおこなった。カーボンナノチューブが分散したエタノール溶液をマイクログリッド(STEM 150Cuグリッド、カーボン補強済、グリッドピッチ150μm)上に滴下して乾燥した。この様に試料の塗布されたグリッドを透過型電子顕微鏡(日本電子製 JEM−2100)に設置し、測定を行った。測定倍率は40万倍で行った。加速電圧は100kVである。得られた測定像から100本のカーボンナノチューブの層数と直径を測定した。
また、この時のカーボンナノチューブの波長633nmによるラマン分光分析の結果、G/D比は75であった。
実施例中、カーボンナノチューブの合成と各種物性評価は以下の方法で行った。
[ラマン分光分析によるカーボンナノチューブの性状評価]
共鳴ラマン分光計(ホリバ ジョバンイボン製 INF−300)に粉末試料を設置し、633nmのレーザー波長を用いて測定を行った。測定に際しては3箇所、別の場所にて分析を行い、G/D比はその相加平均で表した。
[表面張力測定]
表面張力は自動接触角計(協和界面科学株式会社製)を用いて測定した。表面張力は25℃で懸滴法によって6回測定した平均値を表面張力の値とした。
[粘度測定]
粘度はE型粘度計RE−80L(東機産業株式会社製)を使用し、液量1mLで標準ローターを用い、25℃、50rpmで、2分間測定した。
[透過率測定]
カーボンナノチューブの光透過率はU−2001型ダブルビーム分光光度計(株式会社 日立製作所製)で550nm光を用いて測定した。
<実施例1>
カーボンナノチューブ水分散液の調製
カーボンナノチューブ製造例で示した2層カーボンナノチューブ15mgを量り取り、アニオン性分散剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(シグマアルドリッチジャパン社製low viscosityタイプ)45mgとイオン交換水10gを混合し、氷浴で冷やしながら、超音波分散機(SONIC MATERIALS INC社製、MODEL:VC130、ULTRASONIC PROCESSOR)を使用して、装置表示20Wで3分間分散した。得られたカーボンナノチューブ分散液にパーフルオロアルキル基を有する水溶性化合物として、アニオン性のフッ素系界面活性剤であるフタージェント100(ネオス株式会社製)を75mgとイオン交換水65gを加え、撹拌子で約30分撹拌することによって、カーボンナノチューブ水分散液を得た。粘度は2.03mPa・s(25℃)、粒度分布測定によるメディアン径は651nmであった。分散液の安定性とPETフィルム(ルミラーU35)に対する濡れ性を調べた結果を表1に示す。濡れ性は、PETフィルム上に帯形状にカーボンナノチューブ水分散液を塗布し、乾燥(60℃、15分)時に帯形状を保ったまま乾燥した場合を塗布出来た(○)帯形状が変化した状態で乾いた場合を塗布できずにはじいた(×)と判断した。
<実施例2>
実施例1で調製したカーボンナノチューブ水分散液を用いて、種々の5cm角に切り出した基材に対する濡れ性を調べた。また、基材をカーボンナノチューブ水分散液に浸けた後、垂直にした状態で風乾し、表面抵抗値を調べた。また、ハードコート後、不織布(PET製)で30秒間基材を擦り、スチールウールの付着性を調べた。スチールウールが付着しなかった場合を○とした。結果を表2に示す。ハードコートは和光ケミカル社製スーパーハードを使用した。
PET=ポリエチレンテレフタレート、PE=ポリエチレン、PP=ポリプロピレン、エポキシ樹脂=ビスフェノールAをジアミノフェニルスルホンで硬化させた硬化物
<実施例3>
実施例1と同様に分散液を調製し、カーボンナノチューブの量を0.02wt%に固定し、分散剤と添加剤(表3にはFTと表記)の比率を変えたカーボンナノチューブ水分散液を調製した。調製したカーボンナノチューブ水分散液に5cm角に切り出したPETフィルム(ルミラーU35)を浸し、引き上げ後、垂直な状態で風乾し、ムラの発生を観察した。カーボンナノチューブ水分散液の粘度、表面張力と塗りムラの有無(外観)の関係を調べた(表3)。フィルムを縦横それぞれ1cm間隔で16点測定した時の透過率の高い部分と低い部分の差が0.3%以内を外観○、0.3〜0.5%以内を外観△、0.5%以上の差があった場合を外観×と表記した。CNTの濃度は0.02wt%で調製した。また、ハードコート後、不織布(PET製)で30秒間基材を擦り、スチールウールの付着性を調べた。スチールウールが付着しなかった場合を○とした。結果を表2に示す。ハードコートは和光ケミカル社製スーパーハードを使用した。
<実施例4>
実施例1において、カーボンナノチューブとして名城ナノカーボン社製の単層カーボンナノチューブ15mgを用い、パーフルオロアルキル基を有する水溶性化合物として、アニオン性のフッ素系界面活性剤であるフタージェント150CHを75mg用いた意外は、同様にしてカーボンナノチューブ水分散液を調製した。結果を表1に示す。
<比較例1>
実施例1においてフタージェント100の代わりにアニオン性の炭化水素系界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸(東京化成株式会社製、ハード型)を用いてカーボンナノチューブ水分散液を調製した。結果を表1に示す。
<比較例2>
実施例1においてフタージェント100の代わりにノニオン性の炭化水素系界面活性剤であるトリトンX−100を用いてカーボンナノチューブ水分散液を調製した。結果を表1に示す。
<比較例3>
実施例1においてカルボキシメチルセルロースの代わりにポリスチレンスルホン酸ナトリウムエン(アルドリッチジャパンより購入、分子量100万)を用いてカーボンナノチューブ水分散液を調製した。結果を表1に示す。
<比較例4>
比較例1で調整したカーボンナノチューブ水分散液の種々の基材への濡れ性を調べた。濡れた場合を○、濡れなかった場合を×としるした。結果を表4に記す。