JP5567782B2 - 炭素繊維含有皮膜およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は炭素繊維含有皮膜およびその製造方法に関するものである。詳しく述べると本発明は、基材に対し非常に高い密着性を有し、炭素繊維が本来有する耐磨耗性、熱伝導率、導電性を高く発揮してなる炭素繊維含有皮膜およびその製造方法に関するものである。
従来、各種製品表面に、良好な導電性、耐摩耗性等の機能を付与する上で、塗膜等のコーティング層を形成することが行われている。
例えば、加熱調理器具、電磁波調理器具等の家庭用品の分野においては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体等の含フッ素系樹脂コーティングにより、耐熱性の防汚コーティング層を形成することが広く行われている。また、テレビ、パーソナルコンピュータ、デジタルカメラ、携帯音楽プレーヤー、携帯電話等の電化製品においては、導電性ないし制電性を有する薄肉の部品等を得る上で、基板上に対し導電性ないし制電性のコーティング層を形成することが望まれている。さらに、例えば、自動車製造業、その他の各種製品製造業において、その製品表面には、一般に塗装が施されているが、このような製品表面の塗装においても、美的外観を付与することに留まらず、各種機能性を付与することが所望されている。
従来、耐熱性および防汚性の皮膜としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンに代表される含フッ素樹脂コーティングが広く用いられている。しかしながら、このような含フッ素樹脂コーティングは強度的に十分なものとはならず、また熱伝導性の面でも改良の余地のあるものであり、その改善のために種々の検討が行われている。また、導電性ないし制電性皮膜としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー等の皮膜形成成分に、導電性の高いフィラー等を配合したものが知られている。導電性フィラーとしては、金属繊維及び金属粉末、カーボンブラック、炭素繊維などが一般に用いられているが、金属繊維及び金属粉末を導電性フィラーとして用いた場合、耐食性に劣り、また機械的強度が得にくいという欠点がある。一方、炭素繊維を導電性フィラーとして使用する場合、一般の補強用炭素繊維では、所望の強度、弾性率はある程度の量を配合することにより達成することができるが、導電性に関しては十分なものとはならず、所期の導電性を得ようとすると高充填を必要とするため、元の樹脂本来の物性を低下させてしまう。
近年、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」とも記する。)に代表されるカーボンナノ構造体などの微細炭素繊維が開発されており、これを熱可塑性エラストマー等の皮膜形成成分中に配合しようとする試みも行われている(例えば、特許文献1参照。)
カーボンナノ構造体を構成するグラファイト層は、通常では規則正しい六員環配列構造を有し、その特異な電気的性質とともに、化学的、機械的および熱的に安定した性質を持つ物質である。従って、皮膜形成成分中に、このような微細炭素繊維を均一かつ安定に分散配合することにより、前記したような物性を生かすことができれば、コーティング皮膜の熱伝導性、機械的強度の向上が望め、同時に導電性ないし制電性等の改善も可能となる。
しかしながら、このようなCNT等のカーボンナノ構造体は、非常に微細であり、隣接するカーボンナノ構造体間のファンデルワールス力による凝集が生じやすい。また、一方で、カーボンナノ構造体は、極めて軽量のものであり、かつこのようにある程度凝集が生じたとしても非常に嵩高のものであり、このようなカーボンナノ構造体を、分散性良くコーティング組成物中に配合することは非常に困難であった。
このため、従来、分散液を調製するにしても、ある程度の良好な分散性を確保する上では、分散液中におけるCNT濃度が比較的低濃度のもの、具体的には、例えば、1質量%から10質量%程度の分散液しか作れず、加熱によりコーティング層中より溶媒成分を乾燥除去しても、得られる皮膜における残留バインダーとCNTの割合は、10対0.1程度以下になり、CNTの特徴である、耐摩耗性、熱伝導率、導電性を十分に生かすことが困難であった。
また、特許文献2には、耐熱性基材の上にポリイミド樹脂をバインダーとしてを塗布する工程、カーボンナノチューブまたはカーボンナノチューブとポリイミド樹脂バインダー(ただしカーボンナノチューブよりもバインダーが少量となるようにする)を分散させた塗液を塗布する工程、を順に含むことを特徴とするカーボンナノチューブコーティング膜の製造方法により、耐熱性基材の上にポリイミド樹脂を介してカーボンナノチューブが固定されている耐熱性カーボンナノチューブコーティング膜であって、前記カーボンナノチューブは前記ポリイミド樹脂よりも少量であって導電層表面に局在化しており、かつ前記カーボンナノチューブの一部が前記ポリイミド樹脂に埋め込まれて固定されており、他の一部はポリイミド樹脂から露出していることを特徴とする耐熱性カーボンナノチューブコーティング膜が開示されている。
この技術は、CNTを皮膜表面側に局在化させることで高い導電性を得、一方基材との接合界面側は実質的にバインダー樹脂のみとして密着性を高めようとしているものであり、同文献には、CNTの一部がバインダーに埋もれて固定されていることにより、CNTは外力が加わっても導電層から剥がれることなく密着性に優れている。さらに他の一部がバインダーから露出していることによりCNT同士がバインダーに阻害されることなく直接接触することができ、高い導電性が得られるとのことが謳われている。
しかしながら、このような構成によれば、確かに基板とCNT含有皮膜との接合界面における密着性は向上するものではあるが、CNTが局在化した皮膜表面側においては、バインダーによってCNTが十分に保持されることなく、外力によって容易に脱落してしまうものである。また、上記したように分散液を調製する上でのCNTの配合量には限界があり、CNT配合量を大きくした場合、CNTが局在化した皮膜表面側での面方向におけるCNTの均一分散は期待できず、面内における耐摩耗性、導電性等に大きなバラツキが生じる結果となると思われる。
米国特許第5098771号明細書 特開2008−200613号公報
従って、本発明は、上記したような従来技術における問題点を鑑み、CNTが高い含有量で均一に分散された新規な炭素繊維含有皮膜およびその製造方法を提供することを課題とするものである。本発明は、また、基材に対し非常に高い密着性を有し、炭素繊維が本来有する耐磨耗性、導電性を高く発揮してなる炭素繊維含有皮膜およびその製造方法を提供することを課題とするものである。本発明はさらに、基材に対し非常に高い密着性を有し、炭素繊維が本来有する耐磨耗性、導電性を高く発揮する共に、これらの機能あるいは別途の機能がさらに高められてなる炭素繊維含有皮膜およびその製造方法を提供することを課題とするものである。
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究および検討を重ねた結果、基材表面に、CNTとバインダー成分を含有してなるコーティング組成物を塗布してコーティング層を形成後、このコーティング層に含まれるバインダー成分の分解温度以上の温度で加熱すると、バインダー成分の分解によってコーティング層に含まれるCNTの含有比率が高まり、コーティング層内におけるCNTの均一分散性を保ちつつCNTの再凝集化が達せられることから、耐摩耗性、導電性等が非常に高く、かつこれらの特性の面内均一性も良好である皮膜が得られることが明らかとなった。さらに驚くべきことに、このようにして得られた皮膜は、基材に対して極めて高い密着性を示し、基材と皮膜間で実質的に層間剥離が不能であるような一体化が得られることが見出された。
上記課題を解決する本発明に係る炭素繊維含有皮膜の製造方法は、このような知見に基づきなされたものであり、基材表面に、炭素繊維とバインダー成分を含有してなるコーティング組成物を塗布してコーティング層を形成する工程と、形成されたコーティング層をこのコーティング層に含まれるバインダー成分の分解温度以上の温度で焼成する工程とを有することを特徴とするものである。
本発明はまた、コーティング組成物における炭素繊維の含有量が、バインダー成分の不揮発分に対して0.5〜20質量%であり、また最終的に得られる炭素樹脂含有皮膜における炭素繊維の含有量が、皮膜全質量の1.5〜70質量%であることを特徴とするに炭素繊維含有皮膜の製造方法を示すものである。
本発明はさらに、最終的に得られる炭素樹脂含有皮膜における炭素繊維の含有量が、皮膜全質量の1.5〜30質量%であることを特徴とする炭素繊維含有皮膜の製造方法を示すものである。
本発明はさらに、バインダー成分がイソシアネート化合物またはエポキシ化合物を含むものであることを特徴とする炭素繊維含有皮膜の製造方法を示すものである。
本発明はさらに、炭素繊維がカーボンナノチューブであることを特徴とする炭素繊維含有皮膜の製造方法を示すものである。
本発明はまた、焼成工程がコーティング層に含まれるバインダー成分の分解温度ないし分解温度+200℃の範囲内の温度で行われるものであることを特徴とする炭素繊維含有皮膜の製造方法を示すものである。
本発明はさらに、コーティング組成物中に、含フッ素樹脂を添加することを特徴とする炭素繊維含有皮膜の製造方法を示すものである。
本発明はさらに、コーティング組成物中には、界面活性剤および分散剤は添加されていないことを特徴とする炭素繊維含有皮膜の製造方法を示すものである。
本発明はさらに、基材としてポリイミド樹脂を用いるものである炭素繊維含有皮膜の製造方法を示すものである。
また、上記課題を解決する本発明に係る炭素繊維含有皮膜は、炭素繊維を皮膜全質量の1.5〜70質量%の割合で含有し、また当該皮膜の皮膜形成成分がバインダー樹脂の熱分解産物を含有することを特徴とするものである。
本発明はさらに、炭素樹脂含有皮膜における炭素繊維の含有量が、皮膜全質量の1.5〜30質量%であることを特徴とする炭素繊維含有皮膜を示すものである。
本発明はさらに、前記バインダー樹脂の熱分解産物がポリイソシアネートの熱分解産物またはエポキシ樹脂の熱分解産物であることを特徴とする炭素繊維含有皮膜を示すものである。
本発明はさらに、炭素繊維がカーボンナノチューブであることを特徴とする炭素繊維含有皮膜を示すものである。
本発明はさらに、炭素樹脂含有皮膜が、含フッ素樹脂樹脂を含有することを特徴とする炭素繊維含有皮膜を示すものである。
本発明によれば、上記したように、基材表面に、炭素繊維とバインダー成分を含有してなるコーティング組成物を塗布してコーティング層した後、形成されたコーティング層をこのコーティング層に含まれるバインダー成分の分解温度以上の温度で焼成するすることにより炭素含有皮膜を形成するものであるために、コーティング組成物としては、その組成物中における炭素繊維の良好な分散性が得られる比較的低い配合量のものを用いても、コーティング層を形成後、加熱処理を行いバインダー成分に熱分解を生じさせることで、コーティング層内におけるバインダー成分割合を低減し、炭素繊維の良好な分散性を保ったままで皮膜中における炭素繊維の割合を高めることが可能となる。
これにより、得られる炭素繊維含有皮膜は、炭素繊維量が多く、従来のものよりも、耐摩耗性、導電性等に優れた炭素繊維含有皮膜となるものである。さらに、バインダー成分が熱分解することにより生じた、この炭素繊維含有皮膜のマトリックスは、基材に対し極めて高い密着性を発揮すると共に、配合された炭素繊維に対しても極めて高い密着性および保持性を発揮するため、基材よりの炭素繊維含有皮膜の剥離、あるいは炭素繊維含有皮膜からの炭素繊維の脱落等も生じず、基材表面に付与する機能性皮膜として優れた特性を発揮するものである。
実施例において作製したポリイミド基板上に炭素繊維含有皮膜を形成した試料の断面性状を示す走査イオン顕微鏡写真である。 (a)、(b)はそれぞれ、同試料の炭素繊維含有皮膜部位を拡大した走査イオン顕微鏡写真である。 (a)、(b)はそれぞれ、別の実施例において作製したポリイミド基板上に炭素繊維含有皮膜を形成した試料の炭素繊維含有皮膜部位を拡大した走査イオン顕微鏡写真である。 実施例において得られた炭素繊維含有皮膜のマトリックス部分(樹脂成分)のフーリエ変換赤外スペクトルチャートである。
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明に係る炭素繊維含有皮膜の製造方法は、基材表面に、炭素繊維とバインダー成分を含有してなるコーティング組成物を塗布してコーティング層を形成する工程と、形成されたコーティング層をこのコーティング層に含まれるバインダー成分の分解温度以上の温度で焼成する工程とを有することを特徴とする。
まず、本発明に係る炭素繊維含有皮膜を得る上で、用いられる各原料について説明する。
(1)炭素繊維
本発明において用いられる炭素繊維としては、特に限定されるものではないが、カーボンナノ構造体を用いることが望ましい。
カーボンナノ構造体は、主として、炭素の六員環配列構造を有する構造体であって、この構造体の三次元のディメンションのうち少なくとも1つの寸法がナノメートルの領域にある、たとえば、数〜数100nm程度のオーダーを有する、ものが代表的なものである。
この炭素の六員環配列構造としては、代表的には、シート状のグラファイト(グラフェンシート)を例示することができ、さらには、たとえば、炭素の六員環に五員環もしくは七員環が組み合わされた構造等をも含むことができる。
より具体的には、例えば、一枚のグラフェンシートが筒状に丸まってできる直径数nm程度の単層カーボンナノチューブや、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層した多層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブの端部が円錐状で閉じたカーボンナノホーンなどが例示される。さらに、このカーボンナノホーンが直径100nm程度の球状の集合体となったカーボンナノホーン集合体、炭素の六員環配列構造を有するカーボンオニオン等や、炭素の六員環配列構造中に五員環が導入されたフラーレンやナノカプセル等も包含される。これらの微細炭素繊維は、上記したような種類の単独体とすることも、あるいは、2種以上の混合体とすることも可能である。また、本発明においては、このような微細炭素繊維を粉砕処理したものも用いることができる。このうち、特に、平均直径15〜100nmのカーボンナノチューブ(CNT)を用いることが望ましい。
これら、CNTの製造方法としては、触媒金属超微粒子を触媒として炭化水素等の有機化合物をCVD法で化学分解させ、生成炉内の微細炭素繊維核、中間生成物及び生成物である繊維の滞留時間を短くして繊維を得た上で、高温熱処理することが、好ましいカーボンナノチューブを製造する好適な方法である。
これらのCNTを得るため、具体的には、触媒の遷移金属または遷移金属化合物および硫黄または硫黄化合物の混合物と、原料炭化水素を雰囲気ガスとともに300℃以上に加熱してガス化して生成炉に入れ、800〜1300℃、好ましくは1000〜1300℃の範囲の一定温度で加熱して触媒金属の微粒子生成の改善と炭化水素の分解によりCNTを合成する。生成したCNTは、未反応原料、非繊維状炭化物、タール分および触媒金属を含んでいる。
次に、得られたCNT中に含まれる未反応原料、非繊維状炭化物、タール分等を除去し、CNTのグラファイト構造を高めるために、CNTを1段または多段の高温熱処理にかける。1段で行う場合は、CNTを雰囲気ガスとともに熱処理炉に送り、まず800〜1200℃の範囲の温度に加熱して未反応原料やタール分などの揮発分を気化して除き、その後2400〜3000℃の範囲の温度でCNTの多層構造の形成を改善すると同時にCNTに含まれる触媒金属を蒸発させて除去し、精製されたCNTを得る。
高温熱処理を2段で行う場合は、CNTを雰囲気ガスとともに800〜1200℃の範囲の温度に加熱保持された第1の熱処理炉に送り、未反応原料やタール分などの揮発分を気化して除いたCNTを得る。次に揮発分を除去されたCNTを第2の2400〜3000℃の範囲の温度に加熱保持された第2の熱処理炉に雰囲気ガスとともに送り、CNTの多層構造の形成を改善すると同時に触媒金属を蒸発させて除去し、精製CNTとする。
以上の製法において、原料有機化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素、一酸化炭素(CO)、エタノール等のアルコール類などが使用できる。雰囲気ガスには、アルゴン、ヘリオム、キセノン等の不活性ガスや水素を用いることができる。
また、触媒としては、鉄、コバルト、モリブデンなどの遷移金属あるいはフェロセン、酢酸金属塩などの遷移金属化合物と硫黄あるいはチオフェン、硫化鉄などの硫黄化合物の混合物を使用する。
(2)コーティング組成物
本発明においては、炭素繊維含有皮膜を形成する上で、まず上記したようなCNTに代表される炭素繊維とバインダー成分を含有するコーティング組成物を調製し、これを基材上にコーティングして膜状に展開する。
コーティング組成物中に配合されるバインダー成分としては、特に限定されるものではなく各種のものを用いることができる。しかしながら、本発明においては、コーティング組成物を膜状に展開してコーティング層を形成後に、後述するようにこのバインダー成分の熱分解温度以上に加熱して、バインダー成分を熱分解させるものであるため、この加熱焼成工程において、バインダー成分が熱可塑性を有し高い流動化を呈するものであると、コーティング層中に分散された炭素繊維の自由移動度が高くなり、炭素繊維が必要以上に凝集して、得られる皮膜内における炭素繊維の均一分散性が低下する虞れがあるために、バインダー成分としては、熱可塑性のものよりも、熱硬化性ないし架橋硬化性のものであることが好ましい。
熱硬化性ないし架橋硬化性のバインダー成分としては、一般的に知られる各種熱硬化性ないし架橋硬化性樹脂を挙げることができ、バインダー組成物中におけるバインダー成分は、このような樹脂の未架橋ポリマー、または、そのモノマー、オリゴマーないしプレポリマー等の形態で存在し得る。具体的には例えば、各種イソシアネート化合物(ポリイソシアネートを包含する。)、メラミンホルムアルデヒド初期縮合物、尿素ホルマリン初期縮合物、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、変性アクリル樹脂、アルキッド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ロジン系樹脂、マレイン酸樹脂、変性ポリアミド樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂等のロジン変性樹脂、石油樹脂等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。また、例えば、酸化でんぷん、リン酸エステル化でんぷん等の多糖類、並びにゼラチン、カゼイン、にかわ、及びコラーゲン等のタンパク質等の天然高分子物質、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ビスコース、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等の繊維素誘導体等の半合成品、部分アセタール化ポリビニルアルコール、アリル変性ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、及びポリビニルイソブチルエーテル等の変性ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸エステル部分けん化物等の部分変性高分子物質、スチレンブタジエン共重合体、カルボキシ変性スチレンブタジエン共重合体、アクリロニトリルブタジエン共重合体、アクリル酸メチルブタジエン共重合体、及びエチレン酢酸ビニル共重合体等のゴムないしラテックス類、シリコーン系エラストマーおよびシリコーン系ゴム等のシリコーン系樹脂等を用いることも可能である。これらは単独であるいは複数種組み合わせて用いることができる。
このうち好ましくは、イソシアネート化合物およびエポキシ樹脂である。
イソシアネート化合物としては、コーティング組成物の調製の容易性から、特に、水性イソシアネート化合物が望ましい。水性イソシアネート化合物は、一分子中に1個以上のイソシアネート基を有する有機ポリイソシアネートを、ポリエチレンオキサイド、カルボキシル基またはスルホン酸基等の各種親水性基によって変性して自己乳化型にした形態、または界面活性剤などによって強制乳化して水分散可能にした形態の化合物である。
上記有機ポリイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、水素添加トルエンジイソシアネートまたはテトラメチレンキシリレンジイソシアネート等が挙げられるが、特に限定されない。これらは、単独で使用されても、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
また、有機ポリイソシアネートから誘導される種々のプレポリマー類等、さらには、こ
れらの有機ポリイソシアネート中のイソシアネート基を、それぞれ、アルコール類、フェノール類、オキシム類、メルカプタン類、アミド類、イミド類またはラクタム類などでブロック化せしめた形態の化合物、すなわち、いわゆるブロック化ポリイソシアネート化合物もまた好適に用いられ得る。
コーティング組成物中は、必要に応じて、分散媒ないし溶媒を含有することができる。
使用される分散媒ないし溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、大豆油、トルエン、キシレン、シンナー、ブチルアセテート、メチルアセテート、メチルイソブチルケトン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸セロソルブ、酢酸アミル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶剤、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素系溶剤、ミネラルスピリット、ソルベントナフサ等の石油系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶剤、脂肪族炭化水素、塩化メチレン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、HCFC−141B,HCFC−225、ブロモプロパン、クロロホルム等のハロ化合物系溶剤、N−メチルピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ニ塩基酸エステル(DBE),3−エトキシプロピオン酸エチル(EEP)、DMC(ジメチルカーボネート)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の極性溶媒、あまに油、きり油、オイチシカ油、サフラワー油等の乾性油を加工したボイル油等の油脂系溶剤、その他、スチレンモノマー、アクリル酸エステルモノマー等の各種モノマー、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジブチル(DBP)等の各種可塑化剤およびこれらの任意の混合物等、あるいは、水、あるいは、水と、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶剤、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のグリコールエーテル系溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン付加重合体、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール等のアルキレングリコール、グリセリン、2−ピロリドン等の水溶性有機溶剤との混合物などを用いることができるが、これらに何ら限定されるものではない。なお、良好な分散性を得る上では、このうち、エステル系、エーテル系、グリコール系、オキシエチレン又はオキシプロピレン付加重合体系、グリコールエーテル系等の溶媒が望ましく、特に、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテートが望ましい。
また、コーティング組成物中には必要に応じて分散剤を配合することもできる。分散剤としては、代表的には、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤などの各種界面活性剤を挙げることができる。このような界面活性剤としても、特に限定されるものではないが、炭素繊維に対する分散安定性という観点から見れば、例えば、エステルアミド型ジアルキルアミン塩等を用いることが望ましい。
しかしながら、本発明において用いられるコーティング組成物は、これら分散剤ないし界面活性剤を配合されていないものであることが望ましい。すなわち、これらの分散剤を配合せずとも、コーティング組成物中における炭素繊維の配合量が少ないこともあって、炭素繊維の十分に均一な分散性を得ることができ、かつ最終的に得られる炭素繊維含有皮膜において、これらの分散剤ないし界面活性剤の残留成分による皮膜特性の低下の懸念がなくなるためである。
また、コーティング組成物中に配合される炭素繊維の割合としては、炭素繊維がコーティング組成物において、良好な分散性を発揮しかつコーティング可能な粘度となるものであれば、特に限定されるものではないが、バインダー成分の不揮発分に対して0.5〜20質量%、より好ましくは1〜10質量%程度であることが望ましい。
コーティング組成物中に炭素繊維を添加しこれを分散させる際の分散方法としては、特に限定されるものではなく、従来、公知の各種の方法を単独であるいは複数組み合わせて、採択することは可能である。例えば、超音波処理、各種撹拌装置を用いた攪拌処理などを用いることができる。撹拌装置としては、単純なバドル、撹拌羽根等を有する手動ないし電動等の撹拌機、ビーズミルに代表されるメディアミル、その他各種のものを用いることができる。
コーティング組成物中には、さらに、得られる炭素繊維含有皮膜の各種機能性を高めるために、上記したような炭素繊維およびバインダー成分に加えて、種々の成分を配合することができる。
例えば、得られる炭素繊維含有皮膜に低摩擦性を発揮させるために、含フッ素樹脂を配合することが可能である。含フッ素樹脂としては、特に限定されるものではなく、フルオロオレフィン系樹脂、フルオロエーテル系樹脂、およびフルオロアルキル(メタ)アクリレート系樹脂等の公知の含フッ素樹脂より1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。
なお、コーティング組成物中におけるバインダー成分の主成分として、例えば、イソシアネート化合物のような熱硬化型樹脂ないし熱架橋型樹脂を配合し、後述するようなコーティング層形成後の加熱焼成によって、当該熱硬化型樹脂ないし熱架橋型樹脂の熱分解産物により強固な皮膜を形成する場合、この含フッ素樹脂としては、熱可塑性のものであっても良い。低摩擦性を発揮させる上でのコーティング組成物中における含フッ素樹脂の配合量としては、バインダー成分の不揮発分の10〜50質量%、より好ましくは20〜30質量%程度であることが望ましい。バインダー成分の不揮発分の10質量%より少ないと、当該含フッ素樹脂の添加による低摩擦性機能の改善があまり期待できず、一方、バインダー成分の不揮発分の50質量%を超えると、後述する加熱焼成工程を経た後において、十分に強固な皮膜とならなかったり、また、最終的に得られる炭素繊維含有皮膜における炭素繊維の良分散性が低下する虞れがあるためである。
ところで、含フッ素樹脂そのものは、一般的に、各種基材に対し密着性が悪くプライマーを必要とし、直接密着させることは困難である、また焼成温度が、比較的高温なためプライマーに使われる樹脂に耐熱性が求められる等の問題が従来より知られているが、本発明に係る製造方法によれば、このような含フッ素樹脂をバインダー組成物中に一部配合することによって、含フッ素樹脂による低摩擦性という特性を、基材に対して極めて優れた密着性を有する炭素繊維含有皮膜において付与することが可能である。
(3)基材
本発明において、上記したようなコーティング組成物を塗布される基材としては、甲術するような加熱焼成工程に耐えるだけの耐熱性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリエステル等の各種耐熱性プラスチック、シリコーンゴム、シリコーン変性耐熱ゴム、含フッ素ゴム、アクリルゴム等の各種耐熱性ゴムなどの有機物や、ガラス、金属、セラミックス等の各種無機物を用いることができる。
(4)製造工程
次に、本発明に係る炭素繊維含有皮膜の製造方法の各工程につき、説明する。
本発明の製造方法においては、まず、基板表面に、上記したような炭素繊維を所定の割合で含有するコーティング組成物を塗布し、基板表面にコーティング層を形成する。
コーティング組成物を基板上に塗布する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、スプレー法、浸漬法、刷毛塗り、ドクターブレード法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、印刷法等の各種公知の手法を用いることができる。
また、コーティングにおいては、所期の厚さのコーティング層を形成する上で、そのコーティングを複数回繰り返すことで、所期の膜厚まで堆積させることが可能である。すなわち、コーティング組成物を膜状に展開して炭素繊維含有塗膜層を形成する場合において、1回のコーティングにおいて形成するコーティング層の膜厚としては、例えば、乾燥後において5〜20μm程度となるようにすることが望ましい。すなわち、これよりも薄肉あるいは厚肉では、いずれも均一なコーティングを行うことが困難となるためである。
コーティング組成物を基材表面にコーティングしてコーティング層を形成後、必要に応じて、コーティング層を乾燥工程に付して、コーティング層に含まれる分散媒ないし溶媒等の揮発成分を除去した後、コーティング層に含まれるバインダー成分の分解温度以上の温度で焼成し、バインダー成分の不揮発成分を熱分解させて、バインダー成分量を低下させ、コーティング層における炭素繊維の含有割合を高める。
この焼成工程における加熱温度としては、コーティング層に含まれるバインダー成分の分解温度ないし分解温度+200℃の範囲、特に、バインダー成分の分解温度ないし分解温度+130℃程度であることが望ましい。
このような温度範囲であると、バインダー成分の不揮発分の熱分解が良好に進行する一方で、当該不揮発分の炭化が進み、皮膜自体が破壊されてしまう虞れも少ないためである。
なお、最終的に得られる炭素繊維含有皮膜における炭素繊維含有量は、この加熱温度を高く設定するないし処理時間を長く設定することによって、高めることが可能であり、所望する炭素繊維含有量に応じて、温度および処理時間を適宜変更すれば良い。
(5)炭素繊維含有皮膜
このようにして得られる本発明に係る炭素繊維含有皮膜は、炭素繊維を皮膜全質量の1.5〜70質量%、特に皮膜全質量の1.5〜30質量%という高い割合で含有し、また当該皮膜の皮膜形成成分がバインダー樹脂の熱分解産物を含有することを特徴とするものである。
すなわち、本発明に係る炭素繊維含有皮膜は、上記したように使用されるコーティング組成物中における炭素繊維含有量は、炭素繊維の均一分散が可能であるような比較的低濃度のものであっても、焼成工程を付すことによって、コーティング層中に含まれる揮発成分のみならず不揮発成分も熱分解によって一部揮散させ、最終的に得られる炭素含有皮膜におけるバインダー成分量を低下させ、結果的に炭素繊維の含有量を非常に高いものとすることができる。しかも、このようにして得られる炭素繊維含有皮膜中における炭素繊維の分散性は、上記のような工程を経るために、極めて優れたものであり、炭素繊維含有皮膜中において炭素繊維は高い含有量であるにも関らず均一分散されたものである。
このため本発明に係る炭素繊維含有皮膜は、配合された炭素繊維の有する特性を十分に享受し、耐摩耗性、熱伝導性、導電性等に優れた皮膜となる。さらに、バインダー成分が熱分解することにより生じた、この炭素繊維含有皮膜のマトリックスは、基材に対し極めて高い密着性を発揮すると共に、配合された炭素繊維に対しても極めて高い密着性および保持性を発揮するため、基材よりの炭素繊維含有皮膜の剥離、あるいは炭素繊維含有皮膜からの炭素繊維の脱落等も生じず、基材表面に付与する機能性皮膜として優れた特性を発揮する。
以下本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。
実施例1
まず、炭素繊維としてのCNT(ナノカーボンテクノロジーズ社製、平均直径68nm、平均長さ8μm、嵩密度は0.004g/cm)、バインダー成分としての水性ポリイソシアネ−ト(レジン)(サンペイント製)、および溶媒としてジエチレングリコールエチルエーテルアセテートを用いてコーティング組成物を調製した。
コーティング組成物中の水性イソシアネート(レジン)の不揮発分は、31.6質量%とした。また、水性イソシアネート不揮発分に対しCNT1.2質量%を、サンペイント製横型ミルを使用して分散させた。得られたコーティング組成物は、グラインドゲージで確認したところ、異物15μm〜20μm(1個/cm)に吸着したCNTは見られたが、ガラスに少量を取り確認したところ、透明な状態であり完全に分散に近い状態を確認できた。
このようにして調製されたコーティング組成物を、基板としてのアルミニウム板およびポリイミドシート(カネカ製)上に、スプレーガンにて、それぞれ均一に塗布した。なお、塗布量は、1.259gであった。
その後、このようにしてコーティング層を形成された基材を、乾燥炉にて380℃にて60分焼成しCNT含有皮膜を得た。得られたCNT含有皮膜は、0.235gであり、これは、水性イソシアネート溶液の不揮発分0.398gよりも少なく水性イソシアネート由来のポリウレタンが熱分解し、CNTの含有量が約2質量%であるCNT含有皮膜を得たことになる。
なお、コーティングの時点で半透明であったコーティング膜が、焼成後不透明になっていることからも、イソシアネート化合物の分解があったことがわかる。
なお確認のため水性イソシアネートが反応し凝固する200℃にてサンプルを取り出し確認した所、コーティング膜は、半透明であり、導電性は、1×1012Ω〜6×1014Ωであった。そのサンプルを、380℃で60分焼成すると、膜は不透明となり、導電性は、3000〜8000Ωへと変化していた。
このことから水性イソシアネート由来のポリウレタンが分解する段階でCNTの凝集が起こり、高い導電性を持ったCNT含有皮膜が得られることが確認できた。
また得られたCNT含有皮膜は、JISのクロスカット法に準拠した密着性テストにおいて、基板としてのアルミニウム板およびポリイミドシートのいずれに対しても、全く剥離性を示さず、非常に高い密着性を有することが確認された。殊に、ポリイミドシート上に形成したCNT含有皮膜は、鋼製の鋭利なピン先にて強く引っ掻いても剥離が生じず、それ以上に力を加えると、ポリイミドシート側が構造破壊されるのみであった。
また、ポリイミドシート上に形成されたCNT含有皮膜の断面を、集束イオンビーム(FIB)/走査イオン顕微鏡(SIM)により観察した。図1は、得られたFIB加工領域全体の顕微鏡写真であり、また図2は、CNT含有皮膜部位の顕微鏡写真である。図2に示すようにCNT含有皮膜全体に、CNTは均一に分散していることが確認できた。
なお、FIB/SIM観察条件は以下の通りであった。
装置:日立製作所製 集束イオンビーム加工観察装置FB−2000A
イオン種:Gaイオン
加速電圧:30KV
加工条件:ビームアパーチャーφ200μm
表面保護:Wデポジット
さらに得られたCNT含有皮膜のマトリックス部分(樹脂成分)をフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)により分析した。その結果、図4に示すようにCNT含有皮膜の樹脂分は、ポリエーテル系ポリウレタンおよびポリエステル系ポリウレタンの吸収スペクトルとは異なり、ウレタン結合(NHCOO)由来の1700cm−1付近のピークと1500cm−1付近のピークのうち1500cm−1付近のピークが発現せず、1700cm−1〜1600cm−1付近のブロードなピークが出現しており、イソシアネート化合物由来のポリウレタンが熱分解された熱分解産物が生成していることが確認された。
なおFT−IRは次の条件により測定された。
装置:パーキンソンエルマ製Spectrum One FT-IR/Multi Scope マイクロスコープ赤外顕微鏡システム
測定モード:顕微透過法(ダイヤモンドセル使用)
分析能:8cm−1
積算回数:64回
実施例2
まず、炭素繊維としてのCNT(ナノカーボンテクノロジーズ社製、平均直径68nm、平均長さ8μm、嵩密度は0.004g/cm)、バインダー成分としての水性ポリイソシアネ−ト(レジン)(サンペイント製)、および溶媒としてジエチレングリコールエチルエーテルアセテートを用いてコーティング組成物を調製した。
コーティング組成物中の水性イソシアネート(レジン)の不揮発分は、28質量%とした。また、水性イソシアネート不揮発分に対しCNT2.85質量%を、サンペイント製横型ミルを使用して分散させた。得られたコーティング組成物は、グラインドゲージで確認したところ、異物5μm(1個/cm)に吸着したCNTは見られたが、ガラスに少量を取り確認したところ、透明な状態であり完全に分散に近い状態を確認できた。
このようにして調製されたコーティング組成物を、基板としてのアルミニウム板およびポリイミドシート(カネカ製)上に、スプレーガンにて、それぞれ均一に塗布した。なお、塗布量は、2gであった。
その後、このようにしてコーティング層を形成された基材を、乾燥炉にて380℃にて60分焼成しCNT含有皮膜を得た。得られたCNT含有皮膜は、0.32gであり、これは、水性イソシアネート溶液の不揮発分0.56gよりも少なく水性イソシアネート由来のポリウレタンが熱分解し、CNTの含有量が約5質量%であるCNT含有皮膜を得たことになる。
この膜の導電性は、600Ωであり、実施例1に比較してCNT量が増えることにより、電気抵抗値が下がることが確認された。
また得られたCNT含有皮膜は、JISのクロスカット法に準拠した密着性テストにおいて、実施例1において得られたものと同様に、基板としてのアルミニウム板およびポリイミドシートのいずれに対しても、全く剥離性を示さず、非常に高い密着性を有することが確認された。殊に、ポリイミドシート上に形成したCNT含有皮膜は、鋼製の鋭利なピン先にて強く引っ掻いても剥離が生じず、それ以上に力を加えると、ポリイミドシート側が構造破壊されるのみであった。
また、ポリイミドシート上に形成されたCNT含有皮膜の断面を、集束イオンビーム(FIB)/走査イオン顕微鏡(SIM)により観察した。図3に示すようにCNT含有皮膜全体に、CNTは均一に分散していることが確認できた。なお、FIB/SIM観察条件は、実施例1と同様のものであった。
実施例3
まず、炭素繊維としてのCNT(ナノカーボンテクノロジーズ社製、平均直径68nm、平均長さ8μm、嵩密度は0.004g/cm)、バインダー成分としての水性ポリイソシアネ−ト(レジン)(サンペイント製)、および溶媒としてジエチレングリコールエチルエーテルアセテートを用いてコーティング組成物を調製した。
コーティング組成物中の水性イソシアネート(レジン)の不揮発分は、31.6質量%とした。また、水性イソシアネート不揮発分に対しCNT1.2質量%を、サンペイント製横型ミルを使用して分散させた。
さらに、このコーティング組成物に対し、含フッ素樹脂(デュポン製、PTFE852-201)を水性イソシアネート不揮発分に対し20質量%となるように添加して撹拌した。
このようにして調製されたコーティング組成物を、基板としてのアルミニウム板上に、スプレーガンにて、均一に塗布した。なお、塗布量は、3.6gであった。
その後、乾燥炉にて380℃にて30分焼成しCNT含有皮膜を得た。得られたCNT含有皮膜は、0.875gであり、これは、水性イソシアネート溶液の不揮発分と含フッ素樹脂の不揮発分の合計量1.245よりも少なく、水性イソシアネートが熱分解し、CNTの含有量が約2.9質量%であるCNT含有皮膜を得たことになる。
得られたCNT含有皮膜の耐摩耗性を調べた。
なお耐摩耗性は、新東科学株式会社表面性測定機(TYPE:14T)を使用し、荷重400g、回転数160/毎分、約251.2cm/min、回転径φ50mmという条件下で、10分運転後重量測定し、これを繰り返すことにより行われた。そして比較対照として、別途形成した含フッ素樹脂(デュポン製PTFE852-201)のみの皮膜(アルミニウム基板上に、プライマー(デュポン製463N1101)を塗布後、PTFE852-201を塗布し380℃で30分焼成)の磨耗と等しい磨耗が得られるまで磨耗試験を繰り返した。
得られた結果を表1に示す。表1に示すように、比較対照のものと比べて、耐摩耗性で3倍以上の塗膜が確認された。このとき電気抵抗値も4.7kΩであり、導電性が確認できた。
実施例4
添加する含フッ素樹脂としてデュポン製、PTFE463N12001を用いた以外は実施例3と同様にしてCNT含有皮膜を形成し、得られたCNT含有皮膜の耐摩耗性を調べた。
なお耐摩耗性は、比較対照として、別途形成した含フッ素樹脂(デュポン製PTFE463N12001)のみの皮膜(アルミニウム基板上に、プライマー(デュポン製463N1101)を塗布後、PTFE463N12001を塗布し380℃で30分焼成)を用いた以外は、実施例3とおけるものと同様の機器、条件下にて行った。
得られた結果を表1に示す。表1に示すように、比較対照のものと比べて、耐摩耗性で5倍以上の塗膜が確認された。このとき電気抵抗値も5.2kΩであり、導電性が確認できた。
実施例5
添加する含フッ素樹脂としてデュポン製、PFA500CLを用いた以外は実施例3と同様にしてCNT含有皮膜を形成し、得られたCNT含有皮膜の耐摩耗性を調べた。
なお耐摩耗性は、比較対照として、別途形成した含フッ素樹脂(デュポン製PFA500CL)のみの皮膜(アルミニウム基板上に、プライマー(デュポン製463N1101)を塗布後、PFA500CLを塗布し380℃で30分焼成)を用いた以外は、実施例3とおけるものと同様の機器、条件下にて行った。
得られた結果を表1に示す。表1に示すように、比較対照のものと比べて、耐摩耗性で3倍以上の塗膜が確認された。このとき電気抵抗値も5.2kΩであり、導電性が確認できた。

Claims (13)

  1. 基材表面に、炭素繊維とバインダー成分を含有してなるコーティング組成物を塗布してコーティング層を形成する工程と、形成されたコーティング層をこのコーティング層に含まれるバインダー成分の分解温度以上の温度で焼成する工程とを有する素繊維含有皮膜の製造方法であって、前記コーティング組成物における炭素繊維の含有量が、バインダー成分の不揮発分に対して0.5〜20質量%であり、また最終的に得られる炭素繊維含有皮膜における炭素繊維の含有量が、皮膜全質量の1.5〜70質量%であることを特徴とする炭素繊維含有皮膜の製造方法。
  2. 最終的に得られる炭素繊維含有皮膜における炭素繊維の含有量が、皮膜全質量の1.5〜30質量%であることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維含有皮膜の製造方法。
  3. バインダー成分がイソシアネート化合物またはエポキシ化合物を含むものであることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素繊維含有皮膜の製造方法。
  4. 前記炭素繊維がカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維含有皮膜の製造方法。
  5. 焼成工程がコーティング層に含まれるバインダー成分の分解温度ないし分解温度+200℃の範囲内の温度で行われるものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の炭素繊維含有皮膜の製造方法。
  6. コーティング組成物中に、含フッ素樹脂を添加することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の炭素繊維含有皮膜の製造方法。
  7. コーティング組成物中には、界面活性剤および分散剤は添加されていないことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の炭素繊維含有皮膜の製造方法。
  8. 基材としてポリイミド樹脂を用いるものである請求項1〜7のいずれかに記載の炭素繊維含有皮膜の製造方法。
  9. 炭素繊維を皮膜全質量の1.5〜70質量%の割合で含有し、また当該皮膜の皮膜形成成分がバインダー樹脂の熱分解産物を含有することを特徴とする炭素繊維含有皮膜。
  10. 炭素繊維含有皮膜における炭素繊維の含有量が、皮膜全質量の1.5〜30質量%であることを特徴とする請求項9に記載の炭素繊維含有皮膜。
  11. 前記バインダー樹脂の熱分解産物がポリイソシアネートの熱分解産物またはエポキシ樹脂の熱分解産物であることを特徴とする請求項9または10に記載の炭素繊維含有皮膜。
  12. 炭素繊維がカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の炭素繊維含有皮膜。
  13. 炭素繊維含有皮膜が、含フッ素樹脂を含有することを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の炭素繊維含有皮膜。
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