以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1〜図11は、本発明の第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための平面図および断面図である。図12は、本発明の第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスを用いて形成された窒化物系半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。図1〜図12および図26を参照して、以下に第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスについて説明する。
第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスでは、図1および図2に示すように、まず、(0001)面の表面を有するとともに、低い転位密度を有するn型GaN基板1を準備する。このn型GaN基板1は、約0.3189nm(a軸方向)の格子定数を有する。なお、n型GaN基板1は、本発明の「窒化物系半導体基板」の一例である。そして、電子ビーム蒸着法などを用いて、n型GaN基板1上の所定領域に、約0.4μmの厚みを有するNi層からなるストライプ状(細長状)のマスク層17を形成する。具体的には、マスク層17が、[1−100]方向に延びるように形成する。また、[11−20]方向に隣接するマスク層17間の距離W1を、約50μmに設定するとともに、マスク層17の[11−20]方向の幅W2を、約200μmに設定する。
次に、図3および図4に示すように、Cl2ガスによるRIE(Reactive Ion Etching)法を用いて、マスク層17をエッチングマスクとして、n型GaN基板1の上面から約2μmの深さまでをエッチングする。なお、この場合のエッチング選択比(マスク層17/n型GaN基板1)は、1:10である。また、エッチング条件としては、エッチング圧力:約3.325kPa、プラズマパワー:約200W、エッチング速度:約140nm/sec〜約150nm/secである。これにより、n型GaN基板1に、約50μmの幅W1と、約2μmの深さD1とを有するとともに、[1−100]方向に延びるストライプ状(細長状)の溝部1aが形成される。また、上記のエッチング条件の場合、溝部1aの側面が、n型GaN基板1の上面に対して垂直となる。そして、n型GaN基板1において、溝部1aに挟まれた約200μmの[11−20]方向の幅W2を有する領域1bは、後述する窒化物系半導体素子層10の発光部分に対応する領域となる。なお、n型GaN基板1の領域1bは、本発明の「第1領域」の一例であり、n型GaN基板1の溝部1aが形成された領域は、本発明の「第2領域」の一例である。この後、マスク層17を除去する。
次に、図5および図6に示すように、MOCVD法を用いて、n型GaN基板1の領域1bの上面上、溝部1aの底面および側面上に、バッファ層2を介して、窒化物系半導体素子層10を構成する窒化物形半導体各層(3〜9)を順次形成する。
具体的には、図6に示すように、まず、溝部1aが形成されたn型GaN基板1を、水素および窒素雰囲気の反応炉の中に挿入する。この後、窒化物系半導体各層(2〜9)の窒素原料であるNH3ガスを反応炉内に供給するとともに、基板温度が約1160℃になるまで加熱する。そして、基板温度が約1160℃付近にまで達した時点で、Ga原料であるTMGa(トリメチルガリウム)ガスおよびAl原料であるTMAl(トリメチルアルミニウム)ガスを、キャリアガスとしてのH2ガスを用いて反応炉内に供給することによって、n型GaN基板1上に、約0.8μmの厚みを有するアンドープAl0.01Ga0.99Nからなるバッファ層2を約1.1μm/hの速度で成長させる。この後、TMGaガスおよびTMAlガスと、n型不純物としてのGe原料であるGeH4(モノゲルマン)ガスとを、キャリアガスとしてのH2ガスを用いて反応炉内に供給することによって、バッファ層2上に、約1.8μmの厚みを有するGeがドープされたn型Al0.07Ga0.93Nからなるn型クラッド層3を約1.1μm/hの速度で成長させる。このn型Al0.07Ga0.93Nからなるn型クラッド層3の格子定数は、約0.3184nm(a軸方向)である。なお、n型Al0.07Ga0.93Nからなるn型クラッド層3の格子定数は、GaNの格子定数(約0.3814nm(a軸方向))と、AlNの格子定数(約0.3112nm(a軸方向))とに基づいて算出した値である。なお、n型クラッド層3は、本発明の「窒化物系半導体層」の一例である。さらに、TMGaガスおよびTMAlガスを、キャリアガスとしてのH2ガスを用いて反応炉内に供給することによって、n型クラッド層3上に、約20nmの厚みを有するアンドープAl0.2Ga0.8Nからなるn側キャリアブロック層4を約1μm/hの速度で成長させる。
次に、基板温度を約1160℃から約850℃に下げる。そして、Ga原料であるTEGa(トリエチルガリウム)ガスおよびIn原料であるTMIn(トリメチルインジウム)ガスを、キャリアガスとしてのN2ガスを用いて反応炉内に供給することによって、n側キャリアブロック層4上に、約20nmの厚みを有するアンドープIn0.02Ga0.93Nからなる4つの量子障壁層(図示せず)と、約3.5nmの厚みを有するアンドープIn0.15Ga0.85Nからなる3つの量子井戸層(図示せず)とを交互に約0.25μm/hの速度で成長させる。これにより、4つの量子障壁層と3つの量子井戸層とが交互に積層された多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)構造を有するMQW活性層5が形成される。続けて、MQW活性層5上に、約0.1μmの厚みを有するアンドープIn0.01Ga0.99Nからなるp側光ガイド層6を成長させる。この後、TMGaガスおよびTMAlガスを、キャリアガスとしてのN2ガスを用いて反応炉内に供給することによって、p側光ガイド層6上に、約20nmの厚みを有するアンドープAl0.2Ga0.8Nからなるp側キャリアブロック層7を約1.2μm/hの速度で成長させる。
次に、基板温度を約850℃から約1000℃に加熱する。そして、TMGaガスおよびTMAlガスと、p型不純物としてのMg原料であるMg(C5H5)2(シクロペンタジエニルマグネシウム)ガスとを、キャリアガスとしてのN2ガスを用いて反応炉内に供給することによって、p側キャリアブロック層7上に、約0.45μmの厚みを有するMgがドープされたp型Al0.07Ga0.93Nからなるp型クラッド層8を約1.1μm/hの速度で成長させる。この後、基板温度を約1000℃から約850℃に下げる。そして、TEGaガスおよびTMInガスを、キャリアガスとしてのN2ガスを用いて反応炉内に供給することによって、p型クラッド層8上に、約3nmの厚みを有するアンドープIn0.07Ga0.93Nからなるp側コンタクト層9を約0.25μm/hの速度で成長させる。これにより、n型GaN基板1の領域1bの上面上、溝部1aの底面および側面上に、バッファ層2を介して、窒化物形半導体各層(3〜9)により構成される窒化物系半導体素子層10が形成される。
この際、第1実施形態では、[1−100]方向(図5参照)に延びる溝部1aの側面上に形成された窒化物形半導体各層(2〜9)の厚みは、それぞれ、n型GaN基板1の領域1b上に形成された窒化物系半導体各層(2〜9)の厚みよりも小さくなる。このため、約0.3189nmの格子定数を有するn型GaN基板1と、約0.3184nmの格子定数を有するn型Al0.07Ga0.93Nからなるn型クラッド層3との間の格子定数差に起因してn型クラッド層3に歪みが生じたとしても、その歪みが溝部1aの側面上に位置するn型クラッド層3の厚みが小さい部分に集中するので、n型GaN基板1の領域1b上に位置するn型クラッド層3に生じる歪みが緩和される。これにより、図5に示すように、n型クラッド層3に生じる歪みが大きいことに起因して、n型クラッド層3に発生するクラック19a〜19cの量が増大するという不都合が発生するのが抑制される。したがって、n型クラッド層3を含む窒化物系半導体素子層10に発生するクラック19a〜19cの量が増大するのも抑制される。
また、第1実施形態では、[11−20]方向に延びるように発生するクラック19a、[1−210]方向(図26参照)に延びるように発生するクラック19bおよび[−2110]方向(図26参照)に延びるように発生するクラック19cが、[1−100]方向に延びる溝部1aに対応する領域と交差するので、クラック19a〜19cが溝部1aに対応する領域を横切って伝播するのが抑制される。
この後、窒化物系半導体素子層10が形成されたn型GaN基板1を反応炉内から取り出す。
次に、図7に示すように、プラズマCVD法を用いて、p側コンタクト層9上のn型GaN基板1の領域1bに対応する所定領域に、SiO2膜からなるストライプ状(細長状)のマスク層18を形成する。具体的には、マスク層18が、[1−100]方向(図5参照)に延びるように形成する。また、マスク層18の[11−20]方向(図5参照)の幅を、約1.5μmに設定する。
次に、図8に示すように、Cl2ガスによるRIE法を用いて、マスク層18をエッチングマスクとして、p側コンタクト層9およびp型クラッド層8の上面から約0.4μmの厚み分をエッチングする。これにより、p型クラッド層8の凸部とp側コンタクト層9とにより構成されるとともに、[1−100]方向(図5参照)に延びるストライプ状(細長状)のリッジ部11が形成される。また、リッジ部11は、約1.5μmの[11−20]方向(図5参照)の幅と、約0.402μmの突出高さとを有するように形成される。このリッジ部11は、電流通路になるとともに、このリッジ部11の下方が発光部分となる。また、p型クラッド層8の凸部以外の平坦部の厚みは、約0.05μmとなる。この後、マスク層18を除去する。
次に、図9に示すように、プラズマCVD法を用いて、全面上に、約0.2μmの厚みを有するSiO2膜を形成した後、そのSiO2膜のリッジ部11に対応する領域を除去することによって、リッジ部11に対応する領域に開口部12aを有する電流ブロック層12を形成する。
次に、図10に示すように、電子ビーム蒸着法を用いて、リッジ部11を構成するp側コンタクト層9上に、p側オーミック電極13を形成する。このp側オーミック電極13を形成する際には、下層から上層に向かって、約1nmの厚みを有するPt層と、約10nmの厚みを有するPd層とを順次形成する。この後、電子ビーム蒸着法を用いて、電流ブロック層12上に、p側オーミック電極13の上面に接触するように、p側パッド電極14を形成する。このp側パッド電極14を形成する際には、下層から上層に向かって、約30nmの厚みを有するTi層と、約150nmの厚みを有するPd層と、約3μmの厚みを有するAu層とを順次形成する。
次に、図11に示すように、n型GaN基板1の裏面を、後述する劈開工程において劈開しやすい厚みになるまで研磨する。この後、電子ビーム蒸着法を用いて、n型GaN基板1の裏面上の所定領域に、n側オーミック電極15と、約300nmの厚みを有するAu層からなるn側パッド電極16とを順次形成する。なお、n側オーミック電極15を形成する際には、n型GaN基板1の裏面側から順に、約6nmの厚みを有するAl層と、約10nmの厚みを有するPd層とを形成する。
最後に、図11に示した構造体において、[1−100]方向(図5参照)にn型GaN基板1の溝部1aの中心に沿って素子分離するとともに、[11−20]方向(図5参照)に素子を各チップに劈開することによって、図12に示すような第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子が形成される。
なお、図12に示すように、第1実施形態の製造プロセスにより形成された窒化物系半導体レーザ素子において、n型GaN基板1の溝部1a(図11参照)は、上記した素子分離工程により垂直な側面を有する段差部1cとなる。すなわち、第1実施形態の製造プロセスにより形成された窒化物系半導体レーザ素子では、n型GaN基板1の段差部1cの側面上に形成された窒化物形半導体各層(2〜9)の厚みが、それぞれ、n型GaN基板1の領域1b上に形成された窒化物系半導体各層(2〜9)の厚みよりも小さくなる。
第1実施形態では、上記のように、n型GaN基板1上にバッファ層2を介して窒化物系半導体素子層10を形成する際に、溝部1aの側面上に形成されるn型Al0.07Ga0.93Nからなるn型クラッド層3の厚みが、n型GaN基板1の領域1b上に形成されるn型クラッド層3の厚みよりも小さくなるように形成することによって、約0.3189nmの格子定数を有するn型GaN基板1と、約0.3184nmの格子定数を有するn型Al0.07Ga0.93Nからなるn型クラッド層3との間の格子定数差に起因してn型クラッド層3に歪みが生じたとしても、その歪みが溝部1aの側面上に位置するn型クラッド層3の厚みが小さい部分に集中するので、n型GaN基板1の領域1b上に位置するn型クラッド層3に生じる歪みを緩和することができる。これにより、n型クラッド層3に生じる歪みが大きいことに起因して、n型クラッド層3に発生するクラック19a〜19cの量が増大するという不都合が発生するのを抑制することができる。したがって、n型クラッド層3を含む窒化物系半導体素子層10に発生するクラック19a〜19cの量が増大するのも抑制することができるので、クラック19a〜19cにより窒化物系半導体素子層10の発光部分に供給されないリーク電流が増大するとともに、クラック19a〜19cにより光導波が妨げられるという不都合が発生するのを抑制することができる。その結果、窒化物系半導体レーザ素子の特性および歩留りの低下を抑制することができる。
また、第1実施形態では、n型GaN基板1に溝部1aを形成する際に、溝部1aの側面がn型GaN基板1の上面に対して垂直となるように形成することによって、n型GaN基板1上にバッファ層2を介してn型クラッド層3を形成する際に、n型クラッド層3の構成材料(AlGaN)が溝部1aの側面上に堆積されにくくなるので、容易に、溝部1aの側面上に形成されるn型クラッド層3の厚みを、n型GaN基板1の領域1b上に形成されるn型クラッド層3の厚みよりも小さくすることができる。
また、第1実施形態では、n型GaN基板1に溝部1aを形成する際に、溝部1aが[1−100]方向に延びるように形成することによって、[11−20]方向に延びるように発生するクラック19a、[1−210]方向に延びるように発生するクラック19bおよび[−2110]方向に延びるように発生するクラック19cが、[1−100]方向に延びる溝部1aに対応する領域と交差するので、クラック19a〜19cが溝部1aに対応する領域を横切って伝播するのを抑制することができる。
(第2実施形態)
図13および図14は、本発明の第2実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための平面図である。図15は、本発明の第2実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスを用いて形成された窒化物系半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。図13〜図15および図26を参照して、この第2実施形態では、上記第1実施形態と異なり、n型GaN基板に、[11−20]方向に延びるストライプ状(細長状)の溝部を形成する場合について説明する。
この第2実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスでは、図13に示すように、まず、図1〜図4に示した第1実施形態と同様のプロセスを用いて、n型GaN基板21に、約50μmの幅W11と、約2μmの深さとを有するとともに、n型GaN基板21の上面に対して垂直な側面を有するストライプ状(細長状)の溝部21aを形成する。ただし、この第2実施形態では、溝部21aが、[11−20]方向に延びるように形成する。また、[1−100]方向に隣接する溝部21a間の距離W12を、後述する劈開工程において形成される劈開面間の距離(共振器長)よりも大きい距離に設定する。そして、n型GaN基板21において、溝部21aに挟まれた領域21bは、後述する窒化物系半導体素子層30の発光部分に対応する領域となる。なお、n型GaN基板21は、本発明の「窒化物系半導体基板」の一例である。また、n型GaN基板21の領域21bは、本発明の「第1領域」の一例であり、n型GaN基板21の溝部21aが形成された領域は、本発明の「第2領域」の一例である。
なお、第2実施形態のn型GaN基板21は、上記第1実施形態のn型GaN基板1と同様、(0001)面の表面を有するとともに、低い転位密度を有する。また、n型GaN基板21は、約0.3189nmの格子定数を有する。
この後、図6に示した第1実施形態と同様のプロセスを用いて、n型GaN基板21の領域21bの上面上、溝部21aの底面および側面上に、バッファ層22を介して、窒化物系半導体素子層30を形成する。この際、n型GaN基板21側から順に、バッファ層22、n型クラッド層23、n側キャリアブロック層24、MQW活性層25、p側光ガイド層26、p側キャリアブロック層27、p型クラッド層28およびp側コンタクト層29を形成する。なお、上記した各層(22〜29)を形成する際には、上記第1実施形態の窒化物系半導体各層(2〜9)と同じ厚みおよび組成となるように形成する。すなわち、n型GaN基板21上にバッファ層22を介して形成されるn型クラッド層23は、n型Al0.07Ga0.93Nにより構成され、かつ、約0.3184nmの格子定数を有するように形成される。なお、n型クラッド層23は、本発明の「窒化物系半導体層」の一例である。
この際、第2実施形態では、上記第1実施形態と同様、[11−20]方向に延びる溝部21aの側面上に形成された窒化物形半導体各層(22〜29)の厚みは、それぞれ、n型GaN基板21の領域21b上に形成された窒化物系半導体各層(22〜29)の厚みよりも小さくなる。このため、n型クラッド層23に生じる歪みが溝部21aの側面上に位置するn型クラッド層23の厚みが小さい部分に集中するので、n型GaN基板21の領域21b上に位置するn型クラッド層23に生じる歪みが小さくなる。これにより、n型クラッド層23に発生するクラック39a〜39cの量が増大するのが抑制されるとともに、n型クラッド層23を含む窒化物系半導体素子層30に発生するクラック39a〜39cの量が増大するのも抑制される。
また、第2実施形態では、[1−210]方向(図26参照)に延びるように発生するクラック39bおよび[−2110]方向(図26参照)に延びるように発生するクラック39cが、[11−20]方向に延びる溝部21aに対応する領域と交差するので、クラック39bおよび39cが溝部21aに対応する領域を横切って伝播するのが抑制される。
次に、図14に示すように、図7〜図11に示した第1実施形態と同様のプロセスを用いて、[1−100]方向(図13参照)に延びるリッジ部31を形成した後、開口部32aを有する電流ブロック層32(図15参照)、p側オーミック電極33およびp側パッド電極34を順次形成する。また、n型GaN基板21の裏面上の所定領域に、n側オーミック電極15およびn側パッド電極16を順次形成する。なお、図14の断面図は、[1−100]方向に延びる線に沿った断面図である。この第2実施形態では、溝部21aが[11−20]方向(図13参照)に延びるように形成されているので、[1−100]方向に延びるリッジ部31は、溝部21aと直交する。また、リッジ部31は、電流通路になるとともに、リッジ部31の下方が発光部分となる。また、電流ブロック層32、p側オーミック電極33およびp側パッド電極34を形成する際には、上記第1実施形態の電流ブロック層12、p側オーミック電極13およびp側パッド電極14と同じ厚みおよび組成となるように形成する。
この後、図14に示した構造体において、[1−100]方向(図13参照)に素子分離するとともに、[11−20]方向(図13参照)に素子を各チップに劈開する。この際、劈開されたチップの劈開面間の距離(図14の共振器長L)が、溝部21a間の距離W12(図13参照)よりも小さくなるように、n型GaN基板21の領域21bに対応する所定領域(図14の破線に対応する領域)を[11−20]方向に沿って劈開する。これにより、図15に示すような第2実施形態による窒化物系半導体レーザ素子が形成される。
なお、図15に示すように、第2実施形態の製造プロセスにより形成された窒化物系半導体レーザ素子では、上記した劈開工程により溝部21aに対応する部分が全て除去されている。このため、第2実施形態による窒化物系半導体レーザ素子では、上記第1実施形態の窒化物系半導体レーザ素子と異なり、n型GaN基板21に段差部が存在しない。
第2実施形態では、上記のように、n型GaN基板21上にバッファ層22を介して窒化物系半導体素子層30を形成する際に、溝部21aの側面上に形成されるn型Al0.07Ga0.93Nからなるn型クラッド層23の厚みが、n型GaN基板21の領域21b上に形成されるn型クラッド層23の厚みよりも小さくなるように形成することによって、上記第1実施形態と同様、n型クラッド層23に生じる歪みが溝部21aの側面上に位置するn型クラッド層23の厚みが小さい部分に集中するので、n型GaN基板21の領域21b上に位置するn型クラッド層23に発生するクラック39a〜39cの量が増大するのを抑制することができるとともに、n型クラッド層23を含む窒化物系半導体素子層30に発生するクラック39a〜39cの量が増大するのも抑制することができる。その結果、上記第1実施形態と同様、クラック39a〜39cによりリーク電流が増大するとともに、クラック39a〜39cにより光導波が妨げられるという不都合が発生するのを抑制することができるので、窒化物系半導体レーザ素子の特性および歩留りの低下を抑制することができる。
また、第2実施形態では、n型GaN基板21に溝部21aを形成する際に、溝部21aが[11−20]方向に延びるように形成することによって、[1−210]方向に延びるように発生するクラック39bおよび[−2110]方向に延びるように発生するクラック39cが、[11−20]方向に延びる溝部21aに対応する領域と交差するので、クラック39bおよび39cが溝部21aに対応する領域を横切って伝播するのを抑制することができる。
なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
(第3実施形態)
図16は、本発明の第3実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための平面図である。図16および図26を参照して、この第3実施形態では、上記第1および第2実施形態と異なり、n型GaN基板に、[1−100]方向および[11−20]方向の2方向に延びるストライプ状(細長状)の溝部を格子状に形成する場合について説明する。
この第3実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスでは、図16に示すように、まず、図1〜図4に示した第1実施形態と同様のプロセスを用いて、n型GaN基板41に、約50μmの幅W21と、約2μmの深さとを有するとともに、n型GaN基板41の上面に対して垂直な側面を有するストライプ状(細長状)の溝部41aおよび41bを形成する。ただし、この第3実施形態では、溝部41aを[1−100]方向に延びるように形成し、かつ、溝部41bを[11−20]方向に延びるように形成することによって、溝部41aおよび41bを格子状に配置する。また、[11−20]方向に隣接する溝部41a間の距離W22を、約200μmに設定する。また、[1−100]方向に隣接する溝部41b間の距離W23を、後の劈開工程において形成される劈開面間の距離(共振器長)よりも大きい距離に設定する。そして、n型GaN基板41において、溝部41aおよび41bに囲まれた領域41cは、後述する窒化物系半導体素子層40のリッジ部(図示せず)の下方に位置する発光部分に対応する領域となる。なお、n型GaN基板41は、本発明の「窒化物系半導体基板」の一例である。また、n型GaN基板41の領域41cは、本発明の「第1領域」の一例であり、n型GaN基板41の溝部41aおよび41bが形成された領域は、本発明の「第2領域」の一例である。
なお、第3実施形態のn型GaN基板41は、上記第1実施形態のn型GaN基板1と同様、(0001)面の表面を有するとともに、低い転位密度を有する。また、n型GaN基板41は、約0.3189nmの格子定数を有する。
この後、図6に示した第1実施形態と同様のプロセスを用いて、n型GaN基板41の領域41cの上面上、溝部41aおよび41bの各々の底面および側面上に、バッファ層(図示せず)を介して、窒化物系半導体素子層40を形成する。なお、窒化物系半導体素子層40を形成する際には、上記第1実施形態の窒化物系半導体素子層10と同じ構造を有するように形成する。すなわち、第3実施形態の製造プロセスにより形成された窒化物系半導体素子層40は、n型GaN基板41上にバッファ層を介して形成されたn型クラッド層(図示せず)を含む。また、窒化物系半導体素子層40を構成するn型クラッド層は、n型Al0.07Ga0.93Nからなるとともに、約0.3184nmの格子定数を有する。
この際、第3実施形態では、上記第1実施形態と同様、[1−100]方向に延びる溝部41aおよび[11−20]方向に延びる溝部41bの各々の側面上に形成された窒化物形半導体各層の厚みは、n型GaN基板41の領域41c上に形成された窒化物系半導体各層の厚みよりも小さくなる。このため、窒化物系半導体素子層40を構成するn型クラッド層に生じる歪みが溝部41aおよび41bの各々の側面上に位置するn型クラッド層の厚みが小さい部分に集中するので、n型GaN基板41の領域41c上に位置するn型クラッド層に生じる歪みを小さくすることができる。これにより、n型クラッド層に発生するクラック49a〜49cの量が増大するのが抑制されるとともに、n型クラッド層を含む窒化物系半導体素子層40に発生するクラック49a〜49cの量が増大するのも抑制される。
また、第3実施形態では、[11−20]方向に延びるように発生するクラック49a、[1−210]方向(図26参照)に延びるように発生するクラック49bおよび[−2110]方向(図26参照)に延びるように発生するクラック49cが、[1−100]方向に延びる溝部41aに対応する領域と交差するので、クラック49a〜49cが溝部41aに対応する領域を横切って伝播するのが抑制される。さらに、[1−210]方向に延びるように発生するクラック49bおよび[−2110]方向に延びるように発生するクラック49cは、[11−20]方向に延びる溝部41bに対応する領域とも交差するので、クラック49bおよび49cが溝部41bに対応する領域を横切って伝播するのも抑制される。
なお、第3実施形態のこの後の製造プロセスは、上記第1実施形態と同様である。すなわち、第3実施形態の窒化物系半導体素子層40には、[11−20]方向に延びる溝部41bと直交し、かつ、溝部41aの延びる方向と同じ[1−100]方向に延びるリッジ部(図示せず)が形成される。
第3実施形態では、上記のように、n型GaN基板41上にバッファ層を介して窒化物系半導体素子層40を形成する際に、溝部41aおよび41bの各々の側面上に形成されるn型Al0.07Ga0.93Nからなるn型クラッド層の厚みが、n型GaN基板41の領域41c上に形成されるn型クラッド層の厚みよりも小さくなるように形成することによって、上記第1実施形態と同様、n型クラッド層に生じる歪みが溝部41aおよび41bの各々の側面上に位置するn型クラッド層の厚みが小さい部分に集中するので、n型GaN基板41の領域41c上に位置するn型クラッド層に発生するクラック49a〜49cの量が増大するのを抑制することができるとともに、n型クラッド層を含む窒化物系半導体素子層40に発生するクラック49a〜49cの量が増大するのも抑制することができる。その結果、上記第1実施形態と同様、クラック49a〜49cによりリーク電流が増大するとともに、クラック49a〜49cにより光導波が妨げられるという不都合が発生するのを抑制することができるので、窒化物系半導体レーザ素子の特性および歩留りの低下を抑制することができる。
また、第3実施形態では、n型GaN基板41に、[1−100]方向および[11−20]方向の2方向に延びるストライプ状(細長状)の溝部41aおよび41bを格子状に形成することによって、[11−20]方向に延びるように発生するクラック49a、[1−210]方向に延びるように発生するクラック49bおよび[−2110]方向に延びるように発生するクラック49cが、[1−100]方向に延びる溝部41aに対応する領域と交差するので、クラック49a〜49cが溝部41aに対応する領域を横切って伝播するのを抑制することができる。さらに、[1−210]方向に延びるように発生するクラック49bおよび[−2110]方向に延びるように発生するクラック49cは、[11−20]方向に延びる溝部41bに対応する領域とも交差するので、クラック49bおよび49cが溝部41bに対応する領域を横切って伝播するのも抑制することができる。
なお、第3実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
(第4実施形態)
図17〜図19は、本発明の第4実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。図20は、本発明の第4実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスを用いて形成された窒化物系半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。図17〜図20および図26を参照して、この第4実施形態では、上記第1〜第3実施形態と異なり、n型GaN基板に形成する溝部の開口幅を、溝部の底面から開口端に向かって徐々に大きくする場合について説明する。
この第4実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスでは、図17に示すように、まず、(0001)面の表面を有するとともに、低い転位密度を有するn型GaN基板51を準備する。このn型GaN基板51は、約0.3189nmの格子定数を有する。なお、n型GaN基板51は、本発明の「窒化物系半導体基板」の一例である。そして、プラズマCVD法を用いて、n型GaN基板51上の所定領域に、約0.5μmの厚みを有するSiO2膜からなるストライプ状(細長状)のマスク層65を形成する。具体的には、マスク層65が、所定の方向(たとえば、[1−100]方向)に延びるように形成する。また、隣接するマスク層65間の距離W31を、約50μmに設定するとともに、マスク層65の幅W32を、約200μmに設定する。
次に、図18に示すように、Cl2ガスによるRIE法を用いて、マスク層65をエッチングマスクとして、n型GaN基板51の上面から約2μmの深さまでをエッチングする。なお、この場合のエッチング選択比(マスク層65/n型GaN基板51)は、1:10である。また、エッチング条件としては、エッチング圧力:約3.325kPa、プラズマパワー:約200W、エッチング速度:約140nm/sec〜約150nm/secである。これにより、n型GaN基板51に、約50μmの幅(開口端の幅)W31と、約2μmの深さD31とを有するとともに、所定の方向([1−100]方向)に延びるストライプ状(細長状)の溝部51aが形成される。なお、エッチングマスクとしてSiO2膜からなるマスク層65を用いるとともに、上記したエッチング条件でn型GaN基板51をエッチングした場合、溝部51aの断面形状は、メサ形状となる。すなわち、溝部51aの開口幅が、溝部51aの底面から開口端に向かって徐々に大きくなる。具体的には、溝部51aの底面と側面とがなす角度αが、約40°となる。そして、n型GaN基板51において、溝部51aに挟まれた約200μmの幅W32を有する領域51bは、後述する窒化物系半導体素子層60の発光部分に対応する領域となる。なお、n型GaN基板51の領域51bは、本発明の「第1領域」の一例であり、n型GaN基板51の溝部51aが形成された領域は、本発明の「第2領域」の一例である。この後、マスク層65を除去する。
次に、図19に示すように、図6に示した第1実施形態と同様のプロセスを用いて、n型GaN基板51の領域51bの上面上、溝部51aの底面および側面上に、バッファ層52を介して、窒化物系半導体素子層60を形成する。この際、n型GaN基板51側から順に、バッファ層52、n型クラッド層53、n側キャリアブロック層54、MQW活性層55、p側光ガイド層56、p側キャリアブロック層57、p型クラッド層58およびp側コンタクト層59を形成する。なお、上記した各層(52〜59)を形成する際には、上記第1実施形態の窒化物系半導体各層(2〜9)と同じ厚みおよび組成となるように形成する。すなわち、n型GaN基板51上にバッファ層52を介して形成されるn型クラッド層53は、n型Al0.07Ga0.93Nにより構成され、かつ、約0.3184nmの格子定数を有するように形成される。なお、n型クラッド層53は、本発明の「窒化物系半導体層」の一例である。
ここで、第4実施形態では、溝部51aの断面形状がメサ形状であることにより、n型GaN基板51上にバッファ層52を介してn型Al0.07Ga0.93Nからなるn型クラッド層53を形成する際に、n型クラッド層53の構成材料の一部であるGaが溝部51aの傾斜した側面側へ移動しやすくなると考えられる。このため、溝部51aの側面上に形成されるn型クラッド層53のAl組成比が、n型GaN基板51の領域51b上に形成されるn型クラッド層53のAl組成比よりも低くなる。具体的には、n型GaN基板51の領域51b上に形成されるn型クラッド層53のAl組成比が約7%であるのに対して、溝部51aの側面上に形成されるn型クラッド層53のAl組成比が約6.6%となる。この場合、溝部51aの側面上に位置するn型クラッド層53のAl組成比が低い部分の格子定数がn型GaN基板51の格子定数に近づくので、溝部51aの側面上に位置するn型クラッド層53のAl組成比が低い部分において、n型GaN基板51とn型クラッド層53との間の格子定数差が小さくなる。このため、約0.3189nmの格子定数を有するn型GaN基板51と、約0.3184nmの格子定数を有するn型Al0.07Ga0.93Nからなるn型クラッド層53との間の格子定数差に起因してn型クラッド層53に歪みが生じたとしても、その歪みが溝部51aの側面上に位置するn型クラッド層53のAl組成比が低い部分において緩和されるので、n型クラッド層53に生じる歪みが小さくなる。これにより、n型クラッド層53に発生するクラックの量が増大するのが抑制されるとともに、n型クラッド層53を含む窒化物系半導体素子層60に発生するクラックの量が増大するのも抑制される。
この後、図7〜図11に示した第1実施形態と同様のプロセスを用いて、[1−100]方向(図26参照)に延びるリッジ部61を形成した後、開口部62aを有する電流ブロック層62、p側オーミック電極63およびp側パッド電極64を順次形成する。また、n型GaN基板51の裏面上の所定領域に、n側オーミック電極15およびn側パッド電極16を順次形成する。なお、第4実施形態では、溝部51aが[1−100]方向(図26参照)に延びるように形成されているので、[1−100]方向に延びるリッジ部61は、溝部51aとは交差しない。このリッジ部61は、電流通路になるとともに、このリッジ部61の下方が発光部分となる。また、電流ブロック層62、p側オーミック電極63およびp側パッド電極64を形成する際には、上記第1実施形態の電流ブロック層12、p側オーミック電極13およびp側パッド電極14と同じ厚みおよび組成となるように形成する。
この後、上記第1実施形態と同様の素子分離および劈開を行うことによって、図20に示すような第4実施形態による窒化物系半導体レーザ素子が形成される。
なお、図20に示すように、第4実施形態の製造プロセスにより形成された窒化物系半導体レーザ素子において、n型GaN基板51の溝部51a(図19参照)は、上記した素子分離工程により傾斜した側面を有する段差部51cとなる。すなわち、第4実施形態の製造プロセスにより形成された窒化物系半導体レーザ素子では、n型GaN基板51の段差部51cの側面上に形成されたn型クラッド層53のAl組成比が、n型GaN基板51の領域51b上に形成されたn型クラッド層53のAl組成比よりも低くなる。
第4実施形態では、上記のように、n型GaN基板51上にバッファ層52を介して窒化物系半導体素子層60を形成する際に、溝部51aの側面上に形成されるn型クラッド層53のAl組成比が、n型GaN基板51の領域51b上に形成されるn型クラッド層53のAl組成比よりも低くなるように形成することによって、約0.3189nmの格子定数を有するn型GaN基板51と、約0.3184nmの格子定数を有するn型Al0.07Ga0.93Nからなるn型クラッド層53との間の格子定数差に起因してn型クラッド層53に歪みが生じたとしても、その歪みが溝部51aの側面上に位置するn型クラッド層53のAl組成比が低い部分において緩和されるので、n型クラッド層53に生じる歪みを小さくすることができる。これにより、n型クラッド層53に生じる歪みが大きいことに起因して、n型クラッド層53に発生するクラックの量が増大するという不都合が発生するのを抑制することができる。したがって、n型クラッド層53を含む窒化物系半導体素子層60に発生するクラックの量が増大するのを抑制することができるので、クラックにより窒化物系半導体素子層60の発光部分に供給されないリーク電流が増大するとともに、クラックにより光導波が妨げられるという不都合が発生するのを抑制することができる。その結果、窒化物系半導体レーザ素子の特性および歩留りの低下を抑制することができる。
また、第4実施形態では、n型GaN基板51に溝部51aを形成する際に、溝部51aの開口幅が溝部51aの底面から開口端に向かって徐々に大きくなるように形成することによって、n型GaN基板51上にバッファ層52を介してn型Al0.07Ga0.93Nからなるn型クラッド層53を形成する際に、n型クラッド層53の構成材料の一部であるGaがAlに比べて成膜表面を移動しやすいことにより、Gaが溝部51aの側面側へ移動しやすくなると考えられるので、容易に、溝部51aの側面上に形成されるn型クラッド層53のAl組成比を、n型GaN基板51の領域51b上に形成されるn型クラッド層53のAl組成比よりも小さくすることができる。
なお、第4実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
(第5実施形態)
図21は、本発明の第5実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。図21を参照して、この第5実施形態では、上記第4実施形態と異なり、n型GaN基板に形成する溝部の開口幅を、溝部の底面から開口端に向かって徐々に小さくする場合について説明する。
この第5実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスでは、図21に示すように、まず、図1〜図4に示した第1実施形態と同様のプロセスを用いて、n型GaN基板71に、約2μmの深さD41を有するとともに、所定の方向に延びるストライプ状(細長状)の溝部71aを形成する。ただし、この第5実施形態では、n型GaN基板71に溝部71aを形成する際に、エッチング装置の基台(図示せず)にn型GaN基板71を斜めに設置するとともに、n型GaN基板71を回転させながらエッチングすることによって、溝部71aの断面形状が逆メサ形状になるように形成する。すなわち、溝部71aの開口幅が、溝部71aの底面から開口端に向かって徐々に小さくなるように形成する。具体的には、溝部71aの開口端の幅W41が約50μmになるように、かつ、溝部71aの底面の幅W42が約53μmになるように形成する。また、隣接する溝部71a間の距離W43を、約200μmに設定する。そして、n型GaN基板71において、溝部71aに挟まれた約200μmの幅W43を有する領域71bは、窒化物系半導体素子層のリッジ部(図示せず)の下方に位置する発光部分に対応する領域となる。なお、n型GaN基板71は、本発明の「窒化物系半導体基板」の一例である。また、n型GaN基板71の領域71bは、本発明の「第1領域」の一例であり、n型GaN基板71の溝部71aが形成された領域は、本発明の「第2領域」の一例である。
なお、第5実施形態のn型GaN基板71は、上記第1実施形態のn型GaN基板1と同様、(0001)面の表面を有するとともに、低い転位密度を有する。また、n型GaN基板71は、約0.3189nmの格子定数を有する。
なお、第5実施形態のこの後の製造プロセスは、上記第1実施形態と同様である。
第5実施形態では、上記のように、n型GaN基板71に溝部71aを形成する際に、溝部71aの開口幅が溝部71aの底面から開口端に向かって徐々に小さくなるように形成することによって、n型GaN基板71上に窒化物系半導体層を形成する際に、溝部1aの側面がn型GaN基板1の上面に対して垂直である第1実施形態に比べて、窒化物系半導体層の構成材料が溝部71aの側面上に堆積されにくくなるので、より容易に、溝部71aの側面上に形成される窒化物系半導体層の厚みを、n型GaN基板71の領域71b上に形成される窒化物系半導体層の厚みよりも小さくすることができる。
なお、第5実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
(第6実施形態)
図22は、本発明の第6実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。図22を参照して、この第6実施形態では、上記第4および第5実施形態と異なり、n型GaN基板に形成される溝部の側面が段差部を有する場合について説明する。
この第6実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスでは、図22に示すように、まず、図1〜図4に示した第1実施形態と同様のプロセスを用いて、n型GaN基板81に、所定の方向に延びるストライプ状(細長状)の溝部81aを形成する。ただし、この第6実施形態では、溝部81aを形成するためのエッチング工程を2回行う。具体的には、1回目のエッチング工程で、約50μmの幅W51と、約1μmの深さD51とを有する1つ目の溝部を形成する。この後、2回目のエッチング工程で、1回目のエッチング工程で形成された1つ目の溝部の底部に、約30μmの幅W52と、約1μmの深さD52とを有する2つ目の溝部を形成する。これにより、n型GaN基板81に、約50μmの幅(開口端の幅)W51と、約2μmの深さD53とを有するとともに、側面が段差部を有する溝部81aが形成される。また、隣接する溝部81a間の距離W53を、約200μmに設定する。そして、n型GaN基板81において、溝部81aに挟まれた約200μmの幅W53を有する領域81bは、窒化物系半導体素子層のリッジ部(図示せず)の下方に位置する発光部分に対応する領域となる。なお、n型GaN基板81は、本発明の「窒化物系半導体基板」の一例である。また、n型GaN基板81の領域81bは、本発明の「第1領域」の一例であり、n型GaN基板81の溝部81aが形成された領域は、本発明の「第2領域」の一例である。
なお、第6実施形態のn型GaN基板81は、上記第1実施形態のn型GaN基板1と同様、(0001)面の表面を有するとともに、低い転位密度を有する。また、n型GaN基板81は、約0.3189nmの格子定数を有する。
なお、第6実施形態のこの後の製造プロセスは、上記第1実施形態と同様である。
第6実施形態では、上記のように、n型GaN基板に所定の方向に延びるストライプ状(細長状)の溝部81aを形成し、かつ、その溝部81aの側面に段差部を設けることによって、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
たとえば、上記第1〜第6実施形態及び以下に示す第7、第8実施形態では、n型GaN基板を用いたが、本発明はこれに限らず、p型窒化物系半導体基板を用いるとともに、p型窒化物系半導体基板上に、p型窒化物系半導体層、活性層およびn型窒化物系半導体層を順次形成するようにしてもよい。
また、上記第1〜第6実施形態及び以下に示す第7、第8実施形態では、GaN基板を用いたが、本発明はこれに限らず、GaN基板以外の窒化物系半導体基板を用いてもよい。GaN基板以外の窒化物系半導体基板としては、たとえば、AlGaN、AlN、AlGaInNまたはAlGaInBNからなる窒化物系半導体基板がある。
また、上記第1〜第6実施形態及び以下に示す第7、第8実施形態では、n型GaN基板に、底面を有する溝部を形成するようにしたが、本発明はこれに限らず、n型GaN基板に、底面を有しない溝部を形成してもよい。たとえば、図23に示すように、n型GaN基板91に、断面形状がV字状の溝部91aを形成してもよい。なお、n型GaN基板91は、本発明の「窒化物系半導体基板」の一例である。このように構成すれば、上記第4実施形態と同様、MOCVD法などを用いてn型GaN基板91上にAlGaN層を形成する際に、AlGaN層の構成材料であるGaがV字状の断面形状を有する溝部91aの内面側へ移動しやすくなると考えられる。これにより、容易に、溝部91aの内面上に形成されるAlGaN層のAl組成比を、溝部91a以外の領域上に形成されるAlGaN層のAl組成比よりも低くすることができる。また、n型GaN基板91の溝部91aが形成された領域以外の領域91bは、窒化物系半導体素子層のリッジ部の下方に位置する発光部分に対応する領域となる。なお、n型GaN基板91の領域91bは、本発明の「第1領域」の一例であり、n型GaN基板91の溝部91aが形成された領域は、本発明の「第2領域」の一例である。
また、上記第1〜第6実施形態及び以下に示す第7、第8実施形態では、窒化物系半導体各層の結晶成長を、MOCVD法を用いて行ったが、本発明はこれに限らず、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法、および、TMAl、TMGa、TMIn、NH3、ヒドラジン、SiH4、GeH4およびMg(C5H5)などを原料ガスとして用いるガスソースMBE(Molecular Beam Epitaxy)法などを用いて結晶成長を行ってもよい。
また、上記第1〜第6実施形態及び以下に示す第7、第8実施形態では、GaN基板の(0001)面上に、窒化物系半導体層を形成したが、本発明はこれに限らず、GaN基板の他の面方位の面上に、窒化物系半導体層を形成してもよい。たとえば、(1−100)や(11−20)面などの(H、K、−H−K、0)面上に、窒化物系半導体層を形成してもよい。この場合、発光層にピエゾ電場が発生しないので、発光層の発光効率を向上させることができる。以下に、この一例である第7、第8実施形態について説明する。
(第7実施形態)
図27は、本発明の第7実施形態に係る窒化物系半導体レーザ素子を説明するための平面図であり、図28は図27における400−400線に沿った断面図である。本実施形態に係る窒化物系半導体レーザ素子が第1実施形態に係る半導体レーザ素子と異なる点は
、基板として(11−20)面の表面を有するn型GaN基板101を用いる点、及び溝部101aが[1−100]方向に延びるように形成されている点である。
本実施形態においても、図1〜図4に示した第1実施形態と同様のプロセスを用いて、
n型GaN基板101に、約50μmの幅W71と、約2μmの深さとを有するとともに、n型GaN基板101の上面に対して垂直な側面を有するストライプ状(細長状)の溝部101aが形成されている。ただし、前述の通り本実施形態においてはn型GaN基板101が(11−20)面を有しており、溝部101aは[1−100]方向に延びるように形成されている。
そして、n型GaN基板上101上には、第1実施形態と同様のプロセスを用いて窒化物系半導体素子層70が形成されている。この窒化物系半導体素子層70は、第1実施形態と同様に、基板101側からn型クラッド層、活性層、p型クラッド層を有している。
窒化物系半導体素子層70に含まれるn型クラッド層には一般にAlGaN層が用いられており、このAlGaN層とn型GaN基板との格子定数差は基板の結晶軸の方向によって異なっている。例えば、Al0.07Ga0.93NとGaNのa軸方向の格子定数は夫々約0.3184nm、約0.3189nmであり、その比は0.9984である。一方c軸方向の格子定数は夫々約0.5172nm,0.5186nmであり、その比は0.9973である。このようにAl0.07Ga0.93NとGaNの格子定数比はa軸方向で0.9984、c軸方向で0.9973であり、c軸方向の方が1からのずれが大きい。このため、面内の軸方向がa軸だけの(0001)面を有するGaN基板を用いた第1〜第6実施形態に比べ、面内の軸方向としてc軸方向を含む(11−20)面を有するGaN基板を用いた本実施形態の方が、AlGaN層に加わる歪みや応力が大きくなる。このため本実施形態に係る窒化物系半導体レーザ素子では、第1〜第6実施形態に係る窒化物系半導体レーザ素子に比べ、AlGaN層にクラックが発生しやすく、その結果窒化物系半導体素子層70にクラックが発生し易い。
そこで、本願にあっては基板101に設ける溝部101aを[1−100]方向に延びるように設けている。
即ち、[1−100]方向はm軸方向に相当し、結晶構造的にm軸方向の歪み或いは応力の大きさはa軸方向の歪みあるいは応力の大きさと略等しい。従って、(11−20)面を有する基板を用いた場合にあっては、[1−100]m軸方向よりも[0001]c軸方向の方が歪み或いは応力が大きいため、[1−100]方向と交差する方向よりも、[0001]方向と交差する方向にクラックが発生し易い。従って、本実施形態のように[0001]方向と交差する[1−100]軸方向に沿って溝部101aを設けることにより、[0001]方向と交差する方向に発生するクラックの伝搬を効果的に抑制することができる。このように、本実施形態においては多数のクラックが発生する方向のクラックの伝搬を抑制するようにしたので、より大きな効果が得られる。
また、本実施形態においては、第4実施形態のように、n型GaN基板に形成する溝部の開口幅を、溝部の底面から開口端に向かって徐々に大きくすることが好ましい。このように溝部101aの断面形状がメサ形状であることにより、n型GaN基板101上にAlGaN層を含む窒化物半導体素子層70を形成する際に、AlGaN層の構成材料の一部であるGaが溝部101aの傾斜した側面側へ移動しやすくなると考えられる。このため、溝部101aの側面上に形成されるAlGaN層のAl組成比が、n型GaN基板101の領域101b上に形成されるAlGaN層のAl組成比よりも低くなる。具体的には、AlGaN層としてAl組成比が約7%の層を形成する場合、n型GaN基板101の領域101b上に形成されるAlGaN層のAl組成比が約7%であるのに対して、溝部101aの側面上に形成されるAlGaN層のAl組成比が約1.4%となる。この場合、溝部101aの側面上に位置するAlGaN層のAl組成比が低い部分の格子定数がn型GaN基板101の格子定数に近づくので、溝部101aの側面上に位置するAlGaN層のAl組成比が低い部分において、n型GaN基板101とAlGaN層との間の格子定数差が小さくなる。このため、n型GaN基板101と、窒化物半導体素子層70中のAlGaN層との間の格子定数差に起因してAlGaN層に歪みが生じたとしても、その歪みが溝部101aの側面上に位置するAlGaN層のAl組成比が低い部分において緩和されるので、AlGaN層に生じる歪みが小さくなる。これにより、AlGaN層に発生するクラックの量が増大するのが抑制されるとともに、AlGaN層を含む窒化物系半導体素子層70に発生するクラックの量が増大するのも抑制される。
(第8実施形態)
図29は、本発明の第8実施形態に係る窒化物系半導体レーザ素子を説明するための平面図であり、図30は図29における500−500線に沿った断面図である。本実施形態に係る窒化物系半導体レーザ素子が第1実施形態に係る半導体レーザ素子と異なる点は
、基板として(1−100)面の表面を有するn型GaN基板201を用いる点、及び溝部201aが[11−20]方向に延びるように形成されている点である。
本実施形態においても、図1〜図4に示した第1実施形態と同様のプロセスを用いて、n型GaN基板201に、約50μmの幅W71と、約2μmの深さとを有するとともに、n型GaN基板201の上面に対して垂直な側面を有するストライプ状(細長状)の溝部201aが形成されている。ただし、前述の通り本実施形態においてはn型GaN基板201が(1−100)面を有しており、溝部201aは[11−20]方向に延びるように形成されている。
そして、n型GaN基板上101上には、第1実施形態と同様のプロセスを用いて窒化物系半導体素子層80が形成されている。この窒化物系半導体素子層80は、第1実施形態と同様に、基板201側からn型クラッド層、活性層、p型クラッド層を有している。
本実施形態で用いるGaN基板201も、第7実施形態と同様に、面内方向にc軸方向を含んでいる。このため、面内の軸方向がa軸だけの(0001)面を有するGaN基板を用いた第1〜第6実施形態に比べ、面内の軸方向としてc軸方向を含む(1−100)面を有するGaN基板を用いた本実施形態の方が、AlGaN層に加わる歪みや応力が大きくなる。このため本実施形態に係る窒化物系半導体レーザ素子も、第1〜第6実施形態に係る窒化物系半導体レーザ素子に比べ、AlGaN層にクラックが発生しやすく、その結果窒化物系半導体素子層80にクラックが発生し易い。
そこで、本願にあっては基板101に設ける溝部101aを[11−200]方向に延びるように設けている。
即ち、[11−20]方向はa軸方向に相当するので、(1−100)面のGaN基板を用いた本実施形態にあっては、[11−20]方向と交差する方向よりも、[0001]方向と交差する方向にクラックが発生し易い。従って、本実施形態のように[0001]方向と交差する[11−20]軸方向に沿って溝部101aを設けることにより、[0001]方向と交差する方向に発生するクラックの伝搬を効果的に抑制することができる。このように、本実施形態においては多数のクラックが発生する方向のクラックの伝搬を抑制するようにしたので、より大きな効果が得られる。
また、本実施形態においては、第4実施形態のように、n型GaN基板に形成する溝部の開口幅を、溝部の底面から開口端に向かって徐々に大きくすることが好ましい。このように溝部201aの断面形状がメサ形状であることにより、n型GaN基板201上にAlGaN層を含む窒化物半導体素子層80を形成する際に、AlGaN層の構成材料の一部であるGaが溝部201aの傾斜した側面側へ移動しやすくなると考えられる。このため、溝部201aの側面上に形成されるAlGaN層のAl組成比が、n型GaN基板201の領域201b上に形成されるAlGaN層のAl組成比よりも低くなる。具体的には、AlGaN層としてAl組成比が約7%の層を形成する場合、n型GaN基板201の領域201b上に形成されるAlGaN層のAl組成比が約7%であるのに対して、溝部201aの側面上に形成されるAlGaN層のAl組成比が約0.7%となる。この場合、溝部201aの側面上に位置するAlGaN層のAl組成比が低い部分の格子定数がn型GaN基板201の格子定数に近づくので、溝部201aの側面上に位置するAlGaN層のAl組成比が低い部分において、n型GaN基板201とAlGaN層との間の格子定数差が小さくなる。このため、n型GaN基板201と、窒化物半導体素子層80中のAlGaN層との間の格子定数差に起因してAlGaN層に歪みが生じたとしても、その歪みが溝部201aの側面上に位置するAlGaN層のAl組成比が低い部分において緩和されるので、AlGaN層に生じる歪みが小さくなる。これにより、AlGaN層に発生するクラックの量が増大するのが抑制されるとともに、AlGaN層を含む窒化物系半導体素子層80に発生するクラックの量が増大するのも抑制される。
また、上記第1〜第8実施形態では、(0001)面、(1−100面)および(11−20)面の表面を有するGaN基板を用いたが、これらの面から約1.0°以下の範囲内でオフしている窒化物系半導体基板を用いてもよい。
また、上記第1〜第8実施形態では、MQW構造の活性層を用いたが、本発明はこれに限らず、量子効果を有しない大きな厚みを有する単層または単一量子井戸構造の活性層であっても同様の効果を得ることができる。
また、上記第4,7,8実施形態では、n型GaN基板に形成されるメサ形状の断面形状を有する溝部の底面と側面とがなす角度α(図18参照)を、約40°にしたが、本発明はこれに限らず、溝部の底面と側面とがなす角度αが、約15°以上であればよい。なお、溝部の側面の傾斜が緩やかな方が、溝部の側面上に形成される窒化物系半導体層(AlGaN層)のAl組成比を、溝部以外の領域上に形成される窒化物系半導体層(AlGaN層)のAl組成比に比べてより低くすることができる。
また、上記第4,7,8実施形態では、溝の断面形状を(0001)面に関してほぼ面対称になるように構成したが、非対称になるように構成しても良い。即ち、図18において、溝部51aの底面と側面とがなす角度αを左右で異なる角度としてもよい。
また、上記第7,8実施形態において、[0001]方向と垂直な方向に延びる溝に加えて、[0001]方向に延びる溝をさらに形成し、格子状の溝としても良い。
また、溝部の深さはAlGaNから構成されるn型層の厚みあるいはAlGaNから構成されるp型層の厚みより大きい値であることが好ましく、0.5μm〜30μmの範囲が好ましい。
また、溝部の幅はAlGaNから構成されるn型層の厚みあるいはAlGaNから構成されるp型層の厚みより大きい値であることが好ましく、5μm〜400μmの範囲が好ましい。
また、発光部分に対応する領域の幅は、10μm〜400μmの範囲が好ましい。