JP5565724B2 - カプセルフリー熱間静水圧プレスによるAl2O3/Mo2Nコンポジットの製造方法 - Google Patents
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また、金属窒化物とセラミックスのコンポジットを作製する際には、市販の金属窒化物を購入し、これをセラミックスと混合し、次に焼結しなければならなかった。この焼結プロセスでは金属窒化物が高温下で分解したりする場合も多く、希望するコンポジットを作製することは困難であった。
窒化モリブデンMo2Nは、インドールの水素化脱窒素反応(HDN)や、チオフェンの真空ガスオイル水素化脱硫反応(HDS)の活性触媒として使用されているが、その物性に関しての知見はほとんどなく、物性、特性として未知の部分が多く存在している。Mo2Nの合成方法としては、H3PMo12O40・26H2OとNH3の間での反応(非特許文献1)、MoO3とNH3の反応(非特許文献2)、レーザー促進窒化反応(非特許文献3)、Li3NもしくはNaN3とMoCl5との反応(非特許文献4)、オートクレーブ中でのMoCl5とNaN3との反応(非特許文献5)等が報告されている。
本発明者等は、種々検討を行なった結果、HIP容器内に成形体(または金属粒子をセラミックス粉体に混合した成形体)を設置し、セラミックスの母相(マトリックス)が閉気孔となる温度・時間まで、比較的低圧の窒素ガス雰囲気下で熱処理して金属粒子を窒化し、閉気孔体になったら、高圧のガスをHIP容器内に導入し、高圧ガス雰囲気下で熱処理することで、相対密度95%以上の高密度のセラミックス/金属窒化物コンポジットが作製できることを見い出して、本発明を完成した。
工程A:モリブデン粉末と粉体状のアルミナを、アルミナ:窒化モリブデンの体積比が99/1〜60/40となるようにして混合し、得られた混合粉末を用いて成形体を製造する工程、
工程B:前記工程Aで得られた成形体を、熱間静水圧プレスの実施に適した容器内に設置して圧力20〜50MPaの窒素ガス雰囲気下で、徐々に昇温させて1400〜1600℃の温度で一次熱処理を行い、当該一次熱処理により得られる焼結体の組織を閉気孔として前記モリブデン粉末を窒化させる工程、及び
工程C:前記工程Bの後、圧力100MPa以上の窒素ガスを前記容器内に導入して1200〜1800℃の温度を一定時間維持して二次熱処理を行い、相対密度95%以上のAl 2 O 3 /Mo 2 Nコンポジットを製造する工程
とを含むことを特徴とし、図1には本発明の製法のフローチャートが示されている。
特に、本発明の製法においては、Al2O3/Mo混合圧粉体をHIPを用いて高温高窒素圧下で処理し、さらにこのMoの窒化とAl2O3の焼結により圧粉体の相対密度を上げて開気孔を無くし、カプセルフリーで高圧N2を圧力媒体として用いることで、緻密で高密度のAl2O3/Mo2Nコンポジットを製造することが可能である。
第1の工程Aでは、最初に、出発原料としての金属粉末とセラミックス粉末を、チッ化後に金属の全てが金属チッ化物になると仮定した量でそれぞれ秤量し、混合して混合粉末とするが、原料としてアルミナ粉末とモリブデン粉末を使用する場合、アルミナ:窒化モリブデンの体積比が99/1〜60/40、好ましくは99/1〜80/20となるようにして秤量を行なう。これは、窒化モリブデンの割合が40体積%を超えると焼結体の密度が低くなって強度が低下するためである。尚、本発明では、出発原料として市販のものが利用可能であり、モリブデン粉末の他、チタン粉末を使用することもでき、セラミックス粉末としてはアルミナ粉末の他、酸化ジルコニウム粉末を使用することもできる。
本発明における金属粉末とセラミックス粉末との混合方法は、均質な混合が達成できる方法であれば特に限定されるものではないが、遊星ボールミルにより酸化ジルコニウム製のポットとボールを用いてアルコール中で一定時間湿式混合を行うのが好ましい。得られた混合物は乾燥を行った後、整粒し、金型成形により所望の形状の成形体とする。この成形体は、ついで冷間静水圧プレス(CIP)処理しても良い。
本発明の製法におけるHIP処理を実施するのに適した装置としては、例えば図2に示されるようなカプセルフリーHIP装置が挙げられ、この図2には、カーボンるつぼ内の試料の設置状態が示されており、窒素ガスは、カーボンるつぼの上方から直接、及び/又は下方から粒子径の大きなアルミナ粉末を通して供給される。
例えば、金属としてモリブデンを使用し、工程BにおけるHIP条件が1500℃/20MPa/1hで、工程CにおけるHIP条件が1500℃/200MPa/1hである場合、アルミナ:窒化モリブデンの体積比が99/1〜60/40の組成の成形体からは相対密度96%以上の焼結体が得られ、アルミナ:窒化モリブデンの体積比が99/1〜80/20の組成の成形体からは相対密度98%以上の焼結体(Al2O3/Mo2Nコンポジット)が得られる。
出発原料としてAl2O3粉末(大明化学工業社製、TM-DAR:平均粒径Ps〜0.1 μm、比表面積:14.5m2/g、純度≧99.9%)とMo粉末(日本新金属社製、Mo-H, Ps〜0.6μm、純度≧99.8%)を用いた。各種粉末を、チッ化後Moが全てMo2Nになると仮定し、Al2O3/Mo2N=100/0〜40/60 vol%となるよう、Al2O3とMoをAl2O3/Mo=100/0〜43.6/56.4 vol%の配合比で秤量した(表1参照)。遊星ボールミルにより酸化ジルコニウム製のポットとボール(1mmφ)を用いてメタノール中にて30分間湿式混合・解砕を行なった。大気中100℃で乾燥して得られた混合粉末を整粒(開口径<44μm)後、一軸金型成形(内径20mm/10Mpa)し、ついで冷間静水圧(245Mpa)プレス処理した。以下の表1には、245 Mpaの静水圧プレス成形により製造された粉末成形体の組成及び密度が示されている。
焼結後試料の結晶相の同定は、粉末X線回折(XRD、リガク社製:RINT-2500)を用い、生成したコンポジット中のMo2Nの大気中での安定性を、示差熱分析(DTA)および熱重量分析(TG)の測定(島津製作所社製:DTG-60H)により検証した。その際、高純度α‐Al2O3を標準物質として用い、大気中にて室温から1000℃まで昇温速度10℃/minで測定を行った。
Al2O3/Mo2N=100/0〜40/60 vol%相当の焼結体破面を、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM、日本電子社製:JEOL7000)により微細構造を観察し、平均結晶粒径をインターセプト法(M.I. Mendelson; “Average Grain Size in Polycrystalline Ceramics”, J. Am. Ceram.Soc., 52 (1969) 443-446)により求め、アルキメデス法により嵩密度を測定した。機械的特性測定用試験片(〜3×4×15 mm3)を焼結体からダイヤモンドカッターで切り出し、4側面を鏡面研磨(ダイヤモンド砥粒:1〜3μmφ)した。機械的特性としてスパン8mm、クロスヘッドスピード0.5 mm/minで3点曲げ強度(σb)を測定し、荷重19.6 N、保持時間15 sでビッカース硬度(Hv)及びIF法(K. Niihara, R. Morena, D.P. H. Hasselman,“Evaluation of KIC of Brittle Solids by the Indentation Method with Low Crack-to-Indent Ratios”, J. Mater. Sci. Lett., 1 (1982) 13-16)により破壊靱性値(KIC)を評価した。試験片(〜3×4×8 mm3)を用いて、パルスエコーオーバーラップ法(S.P. Dodd, M. Cankurtaran, B. James: ”Ultrasonic determination of the elastic and nonlinear acoustic properties of transition-metal carbide cermics:TiC and TaC”, J. Mer. Sci., 38 (2003) 1107-1115)によりヤング率の測定を行なった。また、Xeフラッシュアナライザー(Netzsch:LFA447 Nanoflash)を用いて熱拡散率(δ)を評価した。
3.1 Mo2Nの生成・分解
Al2O3/Mo=91.24/8.76 vol%(表1:Al2O3/Mo2N=90/10vol%相当)の成形体をそのまま、温度/窒素圧/保持時間=1500℃/16または20MPa/1hの条件でHIP処理を行い、得られた試料のXRD分析により、Mo2N相の生成条件を調べた。図4(a) に示すようにN2圧力P(N2)が16 MPaでは完全にMoのチッ化反応が進んでおらず、試料の結晶相はAl2O3(JCPDS#46-1212)、Mo(JCPDS#42-1120)、正方晶のδ-Mo2N(JCPDS#25-1368)の3相が存在していたが、P(N2)=20 MPaでは全てのMoはチッ化してδ-Mo2N相となった(図4(b))。なお、このAl2O3/Mo2N=90/10vol%相当のAl2O3/Mo成形体では、理論上はP(N2)〜6 MPa相当のN2で完全にチッ化してMo2Nが生成するはずであるが、入手した金属Mo粒子表面の吸着酸素や水分等が粒子表面を遮蔽し、Mo2N生成のための実効的なP(N2)が高くなったと推定される。よって本実験で使用したMo粒子は1500℃/20MPa/1hの条件で完全に窒化し、δ-Mo2Nが生成することが分かった。1500℃/20MPa/1h処理後のコンポジット(Al2O3/Mo2N=90/10vol%)の相対密度は〜93%であり、組織は開気孔から閉気孔に変化していた。また、後述するがAl2O3/Moの組成により生成するMo2N相が変化し、Al2O3/Mo2N=99/1、97/3、60/40、40/60 vol%組成では、立方晶のγ-Mo2N(JCPDS#25-1366)相が、Al2O3/Mo2N=95/5、90/10、80/20 vol%組成では、正方晶のδ-Mo2Nが生成していた。比較のためMo粒子のみを成形し、同条件でN2-HIPを行うと焼結体表面のみがチッ化し、全体が均質にチッ化したMo2Nは得られなかった。
DTAおよびTGよりδ-Mo2Nの大気中での分解温度について分析をおこなった(図5)。450℃付近で発熱ピーク(DTA)が確認され、その後なだらかな重量増加ピーク(TG)が確認された。これはMo2NからMoO2への酸化反応に対応している。その後、750°C程度まで重量増加が認められ、それ以上の高温では急激な重量減少を示した。これはMoO2が昇華性のMoO3へと変化し、分解気化しているためと考えられる。Si3N4、AlN、BN、TiNなどの代表的な窒化物に比べ分解温度が低いのは、Moが窒素に対して不安定であるためであると考えられる。
前述のように、各種混合比率(Al2O3/Mo=100/0〜43.56/56.44 vol%)の成形体を図3に示すHIP条件で処理した。焼結体の相対密度は、第1段階(図3(i)〜(ii))のP(N2)が16 MPaの場合は、HIP処理(1500℃/16MPa/1h-1500℃/200MPa/1h)終了後の試料の結晶相は全てAl2O3とMo2Nであり、Al2O3/Mo2N=100/0 vol%組成の試料の相対密度が〜99.4%に達したが、Mo2N量が増えると、順次相対密度は低下し、90/10 vol%組成以降は93.0〜89.0%となった。一方、第1段階(図3(i)〜 (ii))のP(N2)が20 MPaの場合も、焼結体はAl2O3、Mo2Nの2相のみからなりMoO2、MoO3などの不純物は検出されなかった。しかし、Mo2N相はコンポジットの組成によって変化し、Al2O3/Mo2N=97/3 vol%の試料および60/40 vol%の試料では、低密度相(9.474Mg/m3)のγ-Mo2Nが生成し、Al2O3/Mo2N=90/10 vol%の試料では高密度相(9.688Mg/m3)であるδ-Mo2Nが生成していた(図6)。1500℃/20MPa/1h の後に1500℃/200MPa/1h加熱を行うカプセルフリーN2HIP処理により製造されたAl2O3/Mo2Nコンポジット材料の特性を以下の表2に示す。
第1段階のHIPのP(N2)が16 MPaでは、焼結体が緻密化されなかった理由は、焼結体内に残存した金属Mo粒子がAl2O3の焼結性を阻害したと考えられる。また、第一段階のP(N2)を20 MPaから200 MPaにすると、HIP焼結後に得られたコンポジットの密度は〜92%に留った。これは気孔内に残留するP(N2)が高く、第二段階の同一圧力のN2ガスでは緻密化できなかったと推定された。
カプセルフリーHIP(1500℃/20MPa/1h-1500℃/200MPa/1h)の条件で作製した、Al2O3/Mo2Nコンポジットの破面のSEM写真を、図8(a)〜(f)に示す。(a)は二次電子像(Secondary Electron Image: SEI)であり、均質なAl2O3粒子が観察される。図8(b)〜(f)の反射電子像(Back-Scattered Electron Image: BEI)では、平均質量が大きいMo2N粒子の方が相対的に白く見え、マトリックスのAl2O3から識別され、Al2O3粒子境界のMo2N粒子の分散の様子が確認できる。平均結晶粒径GsはMo2Nの比率が増加するにつれて、Al2O3では4.91から3.81μmφと粒成長が抑制され、Mo2Nは1.83から2.93μmφと若干粒成長していることが確認された(表2)。Al2O3/Mo2N=60/40 vol%以降の試料でAl2O3とMo2Nの粒径が共に大きく変化しているのは、焼結体に開気孔が存在し、焼結体中に貫入するN2のガス圧が高くなっていることが要因と考えられる。
上記HIP処理した試料について3点曲げ強度(σb)、ビッカース硬度(Hv)、および破壊靭性値(KIC)を測定評価した。結果を図9(a)〜(c)に示す。微細構造を反映し、σb、Hv、KIC全てにおいて、Al2O3/Mo2N=90/10 vol%組成の試料(高密度:〜98.6%、微細結晶粒子:Al2O3〜4.70μm、Mo2N〜1.88μm)が最高値、σb=573 MPa、Hv=20.3 GPa、KIC=5.00 MPa・m1/2を示し、Al2O3のモノリシック材(σb=457 MPa、Hv=19.2 GPa、KIC=4.43 MPa・m1/2)より高い値が得られた。
表2に示すように、微細構造の均質性を評価する指標であるPoisson 比は0.24と略一定であり、Mo2N粒子の分散が均質であることを支持している。なお、従来のAl2O3セラミックスのPoisson 比の報告例は0.26である(W.J. Lackey, D.P. Stinton, G.A. Schaffhauserr, L.L. Fehrenbacher: “Ceramic Coatings for Advanced Heat Engines --- A Review and Projection,” Adv. Ceram. Mat., 2[1] (1987) 24-30)。室温から300℃まで、非線形回帰計算を用いて評価した熱拡散率(δ)は、セラミックスに典型的な絶対温度Tの逆数(1/T)に比例する温度依存性を示し、Mo2Nの添加量の増加とともに室温付近ではδが小さくなる傾向を示したが(δ:0.11→0.096 cm2/s)、300℃近傍では、熱拡散率は組成に依存せず略一定値(〜0.037 cm2/s )となった(表2)。
コンポジットのヤング率(E)は、図10に示すようにMo2Nの含有率υ(0≦υ≦1)に略直線的に比例し、E= -230υ+403という一次関数で近似された。なお、白丸は実測値、黒丸は相対密度で除した校正値である。この式とVoigt model(Eu=V2E2+(1−V1)E1)からAl2O3セラミックスのEは〜403 GPaと算出され、Mo2NのEは〜200 GPaと推定された。Al2O3のEの報告値は、例えばW.J. Lackey等による上記先行文献では380 GPaであり、良い一致をみている。
多孔質の成形体を、N2圧力を制御した2段階のカプセルフリーHIP処理し、窒素に対して安定な金属Moを高圧下でチッ化させる合成同時焼結により、相対密度98%以上の高密度Al2O3/Mo2Nコンポジットを作製した。Mo2NをAl2O3の粒界に均一分散させたAl2O3/Mo2N=90/10 vol%組成の試料は、3点曲げ強度σb: 573 MPa、ビッカース硬度Hv: 20.3 GPaおよび破壊靭性値KIC: 5.00 MPa・m1/2、ヤング率: 394 GPaとAl2O3のモノリシック材に比べ高い値を示した。
Claims (1)
- カプセルフリー熱間静水圧プレスにより相対密度95%以上のAl 2 O 3 /Mo 2 Nコンポジットを製造するための方法であって、当該製法が、
工程A:モリブデン粉末と粉体状のアルミナを、アルミナ:窒化モリブデンの体積比が99/1〜60/40となるようにして混合し、得られた混合粉末を用いて成形体を製造する工程、
工程B:前記工程Aで得られた成形体を、熱間静水圧プレスの実施に適した容器内に設置して圧力20〜50MPaの窒素ガス雰囲気下で、徐々に昇温させて1400〜1600℃の温度で一次熱処理を行い、当該一次熱処理により得られる焼結体の組織を閉気孔として前記モリブデン粉末を窒化させる工程、及び
工程C:前記工程Bの後、圧力100MPa以上の窒素ガスを前記容器内に導入して1200〜1800℃の温度を一定時間維持して二次熱処理を行い、相対密度95%以上のAl 2 O 3 /Mo 2 Nコンポジットを製造する工程
とを含むことを特徴とする、カプセルフリー熱間静水圧プレスによるAl 2 O 3 /Mo 2 Nコンポジットの製造方法。
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