ところで、前記特許文献1に記載された技術のように、時系列の目標加速度に追従するようにスロットル開度の制御を行っている最中は、いわば、アクセル操作に独立してエンジン出力が制御されている。
一方で、自動変速機の変速スケジュールは、一般的には車速とスロットル開度とに基づき、予め設定した変速マップに従って実行されることから、前記の追従制御の実行最中にスロットル開度がアクセル操作とは独立して制御されることに伴い、例えば、極めて短期間にシフトアップが続けて行われドライバにシフトビジー感を与えてしまう一方で、次のシフトアップが、かなり時間を開けて行われる、といった不規則な変速が実行され得る。ドライブフィールの観点からは、車両の加速時には、例えば略同じ時間を開けて規則的にシフトアップが行われることが好ましい。従って、特許文献1に記載された制御装置のように、時系列の目標加速度に追従するようにエンジン出力の制御を行ってドライバに気持ちのいい加速感を与えようとしていても、前述した不規則な変速スケジュールはドライブフィールの低下を招き得る。
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車両の加速感を高め得るように、時系列で設定した目標加速度に追従するようエンジンの出力を制御している最中の、自動変速機の変速スケジュールを適正化することにある。
前述したようにアクセル操作に独立してエンジン出力を制御しているような通常走行時とは異なる制御を行っている最中に、通常走行時と同じ自動変速機の制御を行うことは、不適切な変速制御となる可能性があることから、ここに開示する技術は、時系列で設定した目標加速度に追従するようにエンジンの出力を制御している最中、換言すれば、アクセル操作に対し独立にエンジン出力の制御をしている最中には、通常の自動変速機の制御とは異なる制御を行うことで、自動変速機の変速スケジュールの適正化を図るものである。
具体的に、ここに開示する車両の制御装置は、アクセル操作に対し独立にエンジン出力を制御可能なエンジンと、前記エンジンに駆動連結された自動変速機と、発進又は加速時のアクセル踏み込み操作時に、目標加速度を時系列で設定する目標加速度設定手段と、実加速度が前記設定された時系列の目標加速度に追従するように、前記エンジンの出力を制御するエンジン出力制御手段と、車両の走行状態を検出する走行状態検出手段と、前記検出した走行状態と前記設定された時系列の目標加速度とに基づいて、追従制御を実行する期間と、当該追従制御の実行期間内で行うべき変速回数と、を決定すると共に、当該実行期間内において、変速が時間に対して規則的に行われるように各変速の実行タイミングを設定することによって、前記追従制御をしている最中の、前記自動変速機の目標変速スケジュールを予め設定する目標変速スケジュール設定手段と、前記設定された目標変速スケジュールに従って前記自動変速機の変速を実行する変速制御手段と、を備える。
ここで、「自動変速機」は、例えば歯車変速機構からなる多段変速機、及び、例えばベルト変速機構からなる無段変速機の双方を含み得る。また、自動変速機は、トルクコンバータやフルードカップリング等の、流体を介した動力伝達機構を通じてエンジンに駆動連結されていてもよい。
「走行状態検出手段」は、自動変速機の変速の実行に関係する走行状態を検出する手段であり、ここでいう走行状態としては、車両の走行負荷を例示することができる。走行状態検出手段は、一例として、車両が登坂走行をしているか、又は、降坂走行をしているか、といった走行状態を検出する。また、走行状態検出手段は、例えば車両重量を検出してもよいし、外気温、大気圧、及び、空調装置のオンオフを含む電気負荷の大きさ等の、エンジン出力に影響を与える結果、車両の走行負荷に関連する状態を検出してもよい。
前記「目標変速スケジュール」は、例えば車速とスロットル開度とから、予め設定したマップに基づいて変速の実行を決定する意味での変速スケジュールとは異なり、時系列の目標加速度に追従するようにエンジン出力を制御している最中に、変速を実行するタイミング及びその変速の種類(シフトアップ及びシフトダウン、並びに、その変速段(1→2速、2→3速等))を設定するスケジュールである。例えば多段変速機においては、検出した走行状態と設定された時系列の目標加速度とに基づいて、追従制御を実行する期間と、その制御実行期間の終わりの変速段(以下、期間終わりの変速段を最終変速段という場合がある)とを決定すれば、前記追従制御の実行期間内で、自動変速機の変速(一般的にはシフトアップ)が時間に対し規則的に行われるように、変速タイミングを、追従制御の実行期間内で時間に対し均等に設定することが挙げられる。具体例を挙げると、2速で走行していると仮定し、最終変速段が6速になる場合には、追従制御の実行期間を5つの期間に等分割して、その各分割タイミングで、自動変速機のシフトアップ(2→3速、3→4速、4→5速、5→6速)を行うように変速タイミングを設定することになる一方、2速で走行していると仮定し、最終変速段が4速になる場合には、追従制御の実行期間を3つの期間に等分割して、その各分割タイミングで、自動変速機のシフトアップ(2→3速、3→4速)を行うように変速タイミングを設定することになる。
前記の構成によると、発進又は加速時のアクセル踏み込み操作時には、目標加速度を時系列で設定し、実加速度が設定された時系列の目標加速度に追従するようにエンジンの出力が制御される。目標加速度を時系列で設定することは、所望の加速度波形を演出し得るため、車両の加速感を高め得る。
一方で、時系列の目標加速度に基づく追従制御は、アクセル操作とは独立したエンジン出力制御となり得るため、通常走行時の自動変速機の制御をそのまま実行したのでは、変速タイミングが不適切になる可能性があるものの、前記の構成では、車両の走行状態と設定した時系列の目標加速度とに基づいて、追従制御の最中の自動変速機の目標変速スケジュールを設定し、設定したスケジュールに従って自動変速機の変速を実行する。例えば、前述したように、追従制御の実行期間内で、自動変速機の変速が、概略同じ時間間隔で規則的に実行される。こうして、例えばドライブフィールの低下を回避して追従制御の最中の自動変速機の制御を適正化し得る。また、時系列の目標加速度の波形全体の加速度変化を考慮して変速スケジュールを設定することによって、当該追従制御に期間内においてバランス良く、適切に変速を実行し得る。
前記制御装置は、少なくとも、前記発進又は加速時のアクセル踏み込み操作時における、実加速度の立ち上がり時の加速度履歴を獲得する加速度履歴獲得手段をさらに備え、前記目標加速度設定手段は、前記実加速度履歴に基づいて前記立ち上がりを経由した後の、時系列の目標加速度を設定すると共に、前記目標変速スケジュール設定手段は、前記立ち上がりを経由した後の目標変速スケジュールを設定する、としてもよい。
こうすることで、車両加速時の過渡現象である加速度の立ち上がり履歴を踏まえた上で、加速後半の目標加速度を時系列で設定することが可能となり、この目標加速度によってエンジン出力を制御することで、所望の加速度波形、特に「加速の立ち下がりの持続性」が安定して得られる。具体的には、いわゆる「成り行き」状態によって、前記立ち上がりを経由した後に加速度が急激に低下することを回避するように、加速後半において、加速度を略直線状で緩やかに低下させることが実現し得る。
また、加速度の立ち上がり履歴を踏まえて適切に設定した、略直線状で緩やかに低下する目標加速度に対応するように、目標変速スケジュールを適正化し得る。
前記制御装置は、実加速度の履歴を獲得する加速度履歴獲得手段と、前記設定された目標変速スケジュールに従って前記自動変速機の所定の変速を実行する際の、当該変速に要する時間を予測する変速時間予測手段と、前記所定の変速を実行する際に、時系列の目標加速度を再設定する目標加速度再設定手段と、をさらに備え、前記目標加速度再設定手段は、前記所定の変速の実行前までの実加速度履歴と、前記予測変速時間とに基づいて、当該変速の実行前後で実加速度の変化が滑らかになるように、前記時系列の目標加速度を設定する、としてもよい。
前述した追従制御を行っている最中の自動変速機の変速実行時において、特に多段変速機では、その変速の実行中は加速度の追従制御(エンジン出力制御)が困難乃至不可能である。そのため、変速の実行前後で、実加速度の変化が大きくなり、得られる加速度波形に段差が生じる可能性がある。このことは、前述したように、加速後半において、実加速度を略直線状で緩やかに低下させることを阻害する。特に変速の実行が複数回、予定される場合は、加速度波形に複数個の段差が生じてしまい、加速感を大きく損ねる。
これに対し、前記の構成では、変速の実行前までの実加速度履歴と、予測した変速時間とに基づいて、変速の実行前後で実加速度の変化が滑らかになるように、時系列の目標加速度を再設定する。このことは、変速の実行前後における加速度波形の段差の発生を、抑制乃至回避し得る。
特に加速後半において複数回の変速を実行しながら、加速度を略直線状で緩やか低下させる場合、変速の実行前後における実加速度の変化を小さくすることは、加速後半における加速度波形の全体を、略直線状で滑らかな波形に形成し得る。このことは加速感の向上の上で、特に有効となり得る。
前記エンジン出力制御手段は、少なくともスロットル開度を制御するものであり、前記エンジン出力制御手段は、前記自動変速機の所定の変速を実行する際に、前記スロットル開度を、前記所定の変速の完了直後に要求される要求スロットル開度に変更すると共に、前記変速の実行最中には前記要求スロットル開度に固定する、としてもよい。
前述したように変速実行中はエンジン出力の制御が困難乃至不可能であることから、例えば変速の完了直後に、変速実行後の変速比及び目標加速度に応じてスロットル開度を制御しようとしたのでは、スロットル開度の変化が急激になって制御が不安定になり得る。そこで、変速の際(変速の開始直前、開始と同時、又は開始直後)に、スロットル開度を、予め変速の完了直後に要求される要求スロットル開度に変更すると共に、変速実行中はその要求スロットル開度を維持することにより、変速の際のスロットル開度の制御の不安定性が回避されて、制御がスムーズになり得る。
以上説明したように、前記の制御装置によると、発進又は加速時のアクセル踏み込み操作時に、設定した時系列の目標加速度に実加速度が追従するようにエンジンの出力を制御することで、所望の加速度波形を演出して、車両の加速感を高め得る。一方で、車両の走行状態と時系列の目標加速度とに基づいて、追従制御の最中の自動変速機の目標変速スケジュールを設定し、設定したスケジュールに従って自動変速機の変速を実行することで、追従制御の最中の自動変速機の制御を適正化し得る。
以下、車両の制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。図1は車両のパワートレイン及び制御装置の全体ブロック図である。図1においては、パワートレインPTにおける駆動力の伝達経路を示しており、このパワートレインPTは、駆動力を発生するエンジン11と、このエンジン11に対し、駆動力伝達経路の下流側に設置したトルクコンバータ12と、このトルクコンバータ12に、駆動力伝達経路の上では並列に配置されるロックアップクラッチ13と、トルクコンバータ12及びロックアップクラッチ13からの出力を受けて変速を行う歯車変速機構(例えば前進6速の多段自動変速機)14と、この歯車変速機構14からの出力を受けて左右に駆動力を配分する差動装置15と、差動装置15からの駆動力を受ける左右の駆動輪16,16とを備えている。
車両の制御装置CRは、エンジン11の出力やロックアップクラッチ13の断接、さらには歯車変速機構14の変速状態を制御する装置である。車両の制御装置CRは、ドライバのアクセルペダル(図示せず)の踏み込み状態や踏み込み量、踏み込み速度等を検出するアクセルセンサ31と、車両の前後G、具体的には車両の実加速度を検出する車両Gセンサ32と、これら各センサ31,32からのセンサ信号を取り入れて演算処理するコントローラ2とを備えている。
コントローラ2は、例えば通常のマイクロコンピュータであり、図示は省略するが、少なくともCPU、ROM、RAM、I/Oインターフェース回路、及びデータバスを備えて構成される。コントローラ2は、エンジン11、ロックアップクラッチ13、歯車変速機構14等に対して制御信号を出力するものであり、図2に示すように、その機能ブロックとして、エンジン出力制御部(エンジン出力制御手段)21、変速制御部(変速制御手段)22、目標加速度設定部(目標加速度設定手段)23、目標変速スケジュール設定部(目標変速スケジュール設定手段)24、加速度履歴獲得部(加速度履歴獲得手段)25、走行状態検出部(走行状態検出手段)26、目標加速度再設定部(目標加速度再設定手段)27、及び、変速時間予測部(変速時間予測手段)28を少なくとも備えている。
このコントローラ2は、アクセルペダルの踏み込み量等を検出することで、ドライバの加速要求を判別して、このドライバの加速要求を満足するように、エンジン11や歯車変速機構14等を制御する。具体的にエンジン出力制御部21は、図示しないエレキスロットルのスロットル開度、点火プラグの点火タイミング、燃料噴射弁の燃料噴射量等を変化させることで、エンジン11の出力を制御するようにしている。より詳細には、アクセルペダルの踏み込み量と実加速度とを検出することで、車両の目標加速度を算出して、この車両の目標加速度に車両の実加速度が追従するように、いわゆるフィードバック制御で、エンジン11の出力を制御するようにしている。尚、フィードバック制御の制御方法は、一般的なPI制御で行う。もっとも、PID制御等で行ってもよい。また、コントローラ2は、通常の車両走行時(後述する、時系列の目標加速度に基づく追従制御でないとき)には、予め設定されかつ、このコントローラ2に記憶されている変速マップに従って、車速及びスロットル開度に基づいて、歯車変速機構14の変速制御を実行する。
図3は、前記制御装置CRが実行する、パワートレインPTの制御フローチャートであり、以下、図2に示すコントローラ2の機能ブロックと、図3に示すフローチャートとを参照しながら、制御装置CRによるパワートレインPTの制御について説明する。先ず、ステップS31では、コントローラ2が各種信号を読み込む。アクセルセンサ31や車両Gセンサ32からドライバの加速要求や車両の運転状態を読み込む。尚、その他、図示しない車速センサやシフトセンサや舵角センサやクランク角センサ等から、車両の運転状態の各種信号を検出するようにしてもよい。さらに、詳細は後述するが車両の走行状態の検出に必要な各種の信号の読み込みも行われる(走行状態検出部26)。
次に、ステップS32ではアクセル踏み込みか否かを判定する。具体的には、ドライバが所定値以上にアクセルペダルを踏み込んでいるかを判定する。この時、アクセルペダルの開度は、中開度(パーシャル開度)でほぼ一定の状態であることが求められる(図5の最下図のアクセル開度の変化も参照)。これは、アクセルペダルの全開時やアクセルペダルの開度変動時では、立ち下がりの加速制御を安定的に行うことができないからである。ステップS32で、アクセルペダルの踏み込みを検出しなかった場合(NOの場合)には、そのままリターンに移行して、次の制御に備える。一方、ステップS32でアクセルペダルの踏み込みを検出した場合(YESの場合)には、ステップS33に移行する。
ステップS33では、加速度の検出値を獲得する。すなわち、アクセルペダルが踏み込まれた際には、エレキスロットルのスロットル開度が開放されて、エンジン出力が高まるため、このエンジン出力の高まりによって大きくなる車両の実加速度を獲得する。続くステップS34では、この加速度の検出値を蓄積する。この加速度の検出値を蓄積することで、実際に車両の生じた実加速度の履歴を持つことができる(加速度履歴獲得部25)。このため、加速前半で、実際に車両にどのような加速度の立ち上がりが生じたかを判別することができる。
その後、ステップS35では、フラグFが1であるか否かを判定する。フラグFは、後述するように、加速度のピーク値を経由して加速後半に移行したときに「1」にされるフラグである。フラグFが1であるときにはステップS39に移行する一方、フラグFが1でないときにはステップS36に移行する。ここでは、フラグFが1でないとして、以下の説明を続ける。
ステップS36では加速度のピーク値か否かを判定する。具体的には、図4の上図に示すように、加速度の増加が少なくなり、加速度の値が変化しない又は減少する場合には、その時点を加速度のピーク値(図4のP参照)と判定する。ステップS36において、加速度のピーク値と判定しなかった場合(NOの場合)には、まだ加速の立ち上がり状態であるため、ステップS33に戻って、加速度の検出値を獲得する。一方、加速度のピーク値と判定した場合(YESの場合)には、ステップS37に移行する。
ステップS37では前記のフラグFを1にし、その後のステップS38で、実加速度の履歴から目標加速度を時系列で設定する(目標加速度設定部23)。具体的に目標加速度設定部23は、図示は省略するが、予め設定されてコントローラ2に記憶されているマップに基づいて、時系列の目標加速度を算出する。このマップでは、例えば、加速前半の実加速度の履歴によって、加速後半の加速度の立ち下がり勾配が一定比率で変化するような目標加速度の時系列データ(時々刻々変化する複数の値)を設定している。こうして、図4の上図に例示するように、直線状に緩やかな下り勾配となった目標加速度の時系列データが設定される。
また、ステップS38では、加速後半における、換言すれば前記で設定した時系列の目標加速度に基づく追従制御を行う期間内の、目標変速スケジュールの設定を行う(目標変速スケジュール設定部24)。この目標変速スケジュール設定部24は、走行状態検出部26が検出した車両の走行状態と、目標加速度設定部23が設定した時系列の目標加速度とに基づいて、歯車変速機構14の変速スケジュールを設定する。
走行状態検出部26が検出する車両の走行状態は、歯車変速機構14の変速の実行に関係する状態であり、具体的には車両の走行負荷である。走行状態検出部26は、一例として、車両が登坂走行をしているか、又は、降坂走行をしているか等の走行状態を検出するようにしてもよい。こうした登坂路や降坂路の検出は、公知の様々な手法を採用し得る。一例を挙げると、路面勾配の情報を含んだ地図情報と自車両の走行位置を検出するGPS(Global Positioning System)との組み合わせによって、登坂路及び降坂路の検出が可能である。また、走行状態検出部26は、車両重量を検出してもよい(例えばサスペンションに取り付けたセンサによって検出してもよい)。さらに、例えば空調装置のオンオフを含む電気負荷の大きさ、外気温度、大気圧、及び外部負荷等の、エンジン出力に影響を与え、その結果、車両の走行負荷に関連する種々の状態を検出してもよい。
目標変速スケジュール設定部24が設定する目標変速スケジュールは、前記の時系列の目標加速度に追従するようにエンジン出力を制御している最中に、変速を実行する時間的なタイミング及びその変速の種類(シフトアップ及びシフトダウン、並びに、その変速段(1→2速、2→3速等))を設定するスケジュールである。目標変速スケジュール設定部24は、具体的には、追従制御の実行期間内においては、同じ時間間隔で変速が実行されるように、各変速の実行タイミングを設定する。このことにより、加速後半においては、変速が規則的に実行されるようになり、ドライブフィールの向上に寄与する。
より詳細に、前記走行状態検出部26が検出する車両の走行状態(走行負荷)によって、追従制御の実行期間の終了時点での変速段(最終変速段)が設定されるため、現在の変速段と最終変速段との段数差から、追従制御の実行期間内で変速すべき段数が設定される。例えば図4に一例を示すように、登坂路走行時は走行負荷が相対的に高く、最終変速段は相対的に低くなる(例えば4速)。これに対し、降坂路走行時は走行負荷が相対的に低く、最終変速段は相対的に高くなる(例えば6速)。一方で、目標加速度設定部23によって、時系列の目標加速度が設定されることで、追従制御の実行期間が特定される。目標変速スケジュール設定部24は、追従制御実行期間内において実行すべき変速回数(シフトアップ回数)と、前記追従制御の実行期間とから、各変速が時間に関して規則的に行われるように、各変速の実行タイミングを設定する。つまり、図4の例では、登坂路走行時には、最終変速段が4速に設定され、現在の段数(2速)から、2回シフトアップを行わなければならない。そこで、目標変速スケジュール設定部24は、追従制御実行期間を3つの期間に等分割して、その各分割タイミングで、歯車変速機構14のシフトアップ(2→3速、及び、3→4速)を実行するように、変速スケジュールを設定する。これに対し、降坂路走行時には、最終変速段が6速に設定され、現在の段数(2速)から、4回シフトアップを行わなければならない。そこで、目標変速スケジュール設定部24は、追従制御実行期間を5つの期間に等分割して、その各分割タイミングで、歯車変速機構14のシフトアップ(2→3速、3→4速、4→5速、及び、5→6速)を実行するように、変速スケジュールを設定する。
こうして、ステップS38において、加速後半における時系列の目標加速度及び目標変速スケジュールを設定すれば、図3のフローはリターンする。リターン後のステップS35では、前述したようにフラグF=1であるため、フローはステップS39に移行する。
ステップS39では、設定した目標変速スケジュールに従って実行される変速中であるか否かを判定し、変速中である場合(YESの場合)はステップS313に移行する一方、変速中でない場合(NOの場合)はステップS310に移行する。ここでは、変速中でないとして説明を続ける。
ステップS310では、設定した目標変速スケジュールに従って実行される変速の開始タイミングであるか否かを判定する。前述したように、追従制御の実行期間中は、必要な変速(シフトアップ)が時間について定期的に行われることから、このステップでは変速を実行するタイミングが到達したか(例えば、初回の変速は追従制御に実行開始から所定の時間が経過したか、2回目以降の変速は前回の変速実行から所定の時間が経過したか、と言い換えることが可能である)を判定することになる。変速開始のタイミングである場合は、ステップS312に移行する一方、変速開始タイミングでない場合は、ステップS311に移行する。
ステップS311では、ステップS38で設定した目標加速度の時系列データに基づいて、エンジン出力をフィードバック制御する。具体的には、車両の実加速度が目標加速度となるように、スロットル開度や点火タイミング等を変化させてエンジン出力を制御する(エンジン出力制御部21)。この場合、多くの場合は、エンジン出力を増加方向に制御することになる。なぜなら、一般的なエンジンは、スロットル開度量が一定であると、エンジン回転数が高回転側に移行したときにエンジントルクが低下するため、エンジン回転数が高回転側に移行する加速後半では、車両の実加速度が低下する。このため、高めに設定した目標加速度よりも実加速度の方が低下し、こうした加速後半の車両の実加速度の低下を補うため、前記の制御装置CRでは、目標加速度に実加速度が追従するように、エンジン出力をフィードバック制御で制御しているのである。
こうして目標加速度の追従制御を行っている最中に、設定した変速の実行タイミングになったときには、ステップS310においてYESの判定となり、ステップS312に移行することになる。ステップS312では、これまでの実加速度の履歴(加速度履歴獲得部25により獲得される履歴)と、これから実行する変速に要する時間(変速時間予測部28によって予測される予測変速時間)とに基づいて、変速完了後の時系列の目標加速度を再設定する(目標加速度再設定部27)。この目標加速度の再設定について、図5を参照しながら説明する。図5は、図4に示す加速度波形の加速後半、つまり追従制御期間内において、所定の変速を実行するタイミング付近の加速度波形を拡大して描いている(図5の上図)。尚、図5の上図は、理解容易のために、加速度の変化の傾きを誇張して描いている。同図において太実線は、設定している時系列の目標加速度の例を示しており、前述したように、この目標加速度は、略直線状で緩やかな勾配を有している。同図における黒丸は、実加速度の変化の例を示しており、追従制御により、その履歴(同図の細実線参照)は、目標加速度に沿うように略直線状で緩やかな勾配を有している。
ここで、歯車変速機構14が変速を実行している期間は、加速度の追従制御(エンジン出力制御)が困難乃至不可能である。そのため、例えば変速完了時に、その時点での目標加速度(図5における「実際の変速完了点」参照)となるようにエンジン出力の制御を行ったのでは、同図に一点鎖線で示すように、変速の実行前後で、実加速度の変化が大きくなり、得られる加速度波形に段差が生じる可能性がある。このことは、前述したように、加速後半において加速度を略直線状に緩やかに低下させることを阻害する。特に追従制御期間内において、変速の実行が複数回、予定される場合は、加速度波形に複数個の段差が生じてしまい、加速感を大きく損ねてしまう。
またそのように加速度波形に段差が生じてしまうような場合は、変速完了直後にスロットル開度が大きく変更制御されることにもなるので、スロットル開度制御が安定しなくなる虞もある。
そこで、目標加速度再設定部27は、変速の実行前後の加速度波形の段差を無くしてその変化を滑らかにすべく、変速実行前に目標加速度を再設定する。具体的には、先ず、変速時間予測部28が、これから実行する変速の種類(つまり、何速から何速への変速であるか)に基づいて変速に要する時間(変速時間)を予測し、これによって実際の変速完了タイミングを把握する。目標加速度再設定部27は、実際の変速完了タイミングに対し、所定の遅れ時間だけ遅れた時点での目標加速度を、変速完了時の目標加速度であると擬似的にみなし(図5の「疑似変速完了点」参照)、変速開始直前の実加速度から、疑似変速完了点に至るように目標加速度を再設定する(同図の破線参照)。こうすることで、再設定した目標加速度は、変速の実行前後で滑らかに変化するようになり、段差の発生が抑制される。
ここで、目標加速度の再設定は、変速開始直前の実加速度と疑似変速完了点とを直線で結ぶことで設定してもよいし、適宜の曲線で結ぶことで設定してもよい。また、前記の遅れ時間は、例えば変速開始前の、目標加速度と実加速度との偏差(図5参照)の大きさに応じて、偏差が大きいほど遅れ時間を長く設定するようにしてもよい。また、遅れ時間の設定の際には、前記予測した変速時間の長さを加味してもよい。尚、目標加速度の再設定の手法は、ここに記載した手法に限定されるものではない。例えば変速開始前までの加速度履歴と、目標加速度と、予測した変速時間とに基づき、変速の実行前後の適当なサンプリング点を設定すると共に、それらのサンプリング点を種々の補間法を用いて補間することにより、変速の実行前後で目標加速度が滑らかになるように、目標加速度を再設定してもよい。
こうしてステップS312において、変速の開始前に目標加速度を再設定すれば、フローはリターンをするが、変速制御部22は歯車変速機構14の所定の変速を実行することから、リターン後のステップS39ではYESの判定となり、ステップS313に移行することになる。ステップS313では、変速の実行中に、スロットル開度を、変速完了直後に要求されるスロットル開度(要求スロットル開度)に固定する(エンジン出力制御部21)。つまり、前述したように、変速実行中は、エンジン出力の制御が困難乃至不可能であることから、例えば変速の完了直後に、変速実行後の変速比及び目標加速度に応じてエンジン出力の制御をすべく、スロットル開度を制御したのでは、スロットル開度の変化が急激になって制御が不安定になり得る。そこで、変速の開始直前、開始と同時、又は開始直後に、スロットル開度を、変速の完了直後に要求される要求スロットル開度に予め変更すると共に、変速実行中はその要求スロットル開度で固定する。ここで、要求スロットル開度は、変速完了直後の目標加速度及び変速段(例えば、トルクコンバータを含めた変速比)に基づいて算出したエンジントルクと、クランク角センサから得られるエンジン回転数とから、予め設定されてコントローラ2に記憶されている、エンジントルク、エンジン回転数及びスロットル開度のマップ(図示省略)を利用して設定すればよい。こうして、図5の中図に示すように、変速実行中は、変速完了直後の要求スロットル開度に固定され、このことにより、変速の実行時におけるスロットル開度の制御がスムーズになり得る。尚、図3のフローでは省略しているが、変速実行中は、変速ショックを低減する観点から、例えば点火リタード等による、エンジン11のトルクダウン制御が実行される。
こうして、設定した時系列の目標加速度の終了時点まで、例えば加速度が0になるまで、目標加速度の追従制御、及び、目標変速スケジュールに基づく変速制御が実行されることになる。これにより、特に加速後半においては、加速度が略直線状に緩やかに低下し、ドライバに長期間に亘り加速感を与えつつ、規則的な変速(つまり、シフトアップ)が組み合わされて、ドライバに気持ちのいい加速感を与えることが実現する。
このように、前記の構成では、時系列の目標加速度についての追従制御を実行している期間内においては、車速とスロットル開度とに基づく通常の変速制御を行わずに、変速の実行が規則的になるよう変速スケジュールを設定している。これにより、車両の加速感を高め得るようにアクセル操作とは独立してエンジンの出力を制御している最中の、自動変速機の変速スケジュールが適正化され、その追従制御期間内の全体においてバランス良く変速を実行することが可能になる。
また、その変速の実行前後において実加速度の段差が無くなるように、変速の実行の際には目標加速度を再設定することにより、加速後半の加速度波形の全体を、直線状に滑らかにすることが可能になり、加速度の急変等を回避して、気持ちのよい加速感をドライバに与え得る。
さらに、変速実行中は、スロットル開度を、変速完了直後の要求スロットル開度に固定することによって、追従制御の実行が困難な変速の実行前後において、スロットル開度の制御をスムーズに行い得るようになる。
尚、前記のパワートレインPTにおいて、歯車式の多段変速機構14に代えて、例えばベルト式等の無段変速機構を採用してもよい。さらにエンジン11の出力制御も、エレキスロットルのスロットル開度制御に限定されず、種々の制御を採用し得る。例えば吸気タイミングや排気タイミングを位相可変装置によって変更したり、吸気の過給量を過給機によって変更したりすることで、エンジン11の出力制御を実現してもよい。
加えて、時系列の目標加速度の設定は、加速後半の加速度の立ち下がり時に限定されず、例えばアクセルの踏み込み量に応じて、加速前半の加速度の立ち上がり、加速度のピーク値、及び加速後半の加速度の立ち下がりを全て含んだ、加速開始から加速終了までの全体の目標加速度を時系列で設定してもよい。