JP5544655B2 - 打抜き加工方法、プレス成形品の製造方法、打抜き加工用金型およびプレス成形品 - Google Patents

打抜き加工方法、プレス成形品の製造方法、打抜き加工用金型およびプレス成形品 Download PDF

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Description

本発明は、2つの面が劣角を成す劣角部を有するプレス成形品の打抜き加工方法、プレス成形品の製造方法、打抜き加工用金型およびプレス成形品に関する。
従来から、原動機と同原動機によって回転駆動される被動体との間には、原動機の駆動力を被動体に伝達または遮断するために摩擦クラッチ装置や、同原動機による回転運動を制動するためにブレーキ装置がそれぞれ設けられている。これらの摩擦クラッチ装置やブレーキ装置は、回転駆動する平板環状の摩擦プレート体に平板環状のプレッシャプレート体を押し付けることにより前記回転駆動力の伝達または回転運動の制動を行なっている。
このような摩擦クラッチ装置やブレーキ装置における摩擦プレート体は、例えば、下記特許文献1に示すように、一般に、平板環状の材料プレートの内周部に内歯をプレス加工により打抜き加工した芯金プレートの表裏面に紙製の摩擦材を貼り付けて製造される。
特開平09−324824号公報
しかしながら、芯金プレートの内周部(または外周部)に歯部が形成された摩擦プレート体においては、芯金プレートの打抜き工程によって芯金プレートの内周部(または外周部)に形成した凸状の歯部に欠けやクラックが生じることがある。特に、歯部が内周部に形成されるとともに、材料プレートがダイカスト成形により成形された芯金プレートにおいては、打抜き加工時に歯部が損傷し易い。これは、歯部が内周部に形成された芯金プレートにおいては、材料プレートのダイカスト成形時に歯部に十分な取り代が形成されるため、歯部の打抜き加工時に大きな力が歯部の劣角部に作用するためと考えられる。この場合、劣角部とは、互いに隣接する2つの面が劣角を成して1つの頂点を形成する所謂出隅部分であり、歯部の角部などが相当する。
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、互いに隣接する2つの面が劣角を成す劣角部を有するプレス成形品を精度良く打抜き加工により成形することができる打抜き加工方法、プレス成形品の製造方法、打抜き加工用金型およびプレス成形品を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、互いに隣接する2つの面が劣角を成す劣角部を有するプレス成形品を材料の打抜き加工により成形する打抜き加工方法において、プレス成形品における劣角部をせん断加工する刃部が、劣角部を構成する一方の面をせん断加工する第1の劣角部せん断刃部と、第1の劣角部せん断刃部に対して材料の打ち抜き方向前方または後方に形成され、劣角部を構成する他方の面をせん断加工する第2の劣角部せん断刃部とを備える打抜き加工用金型を用意しておき、プレス成形品における劣角部を、劣角部を構成する一方の面を打抜き加工用金型における第1の劣角部せん断刃部によってせん断加工する第1の劣角部せん断加工ステップと、第1の劣角部せん断加工ステップの開始後に、劣角部を構成する他方の面を打抜き加工用金型における第2の劣角部せん断刃部によってせん断加工することにある。
このように構成した本発明の特徴によれば、プレス成形品は、互いに隣接する2つの面が劣角を成す劣角部が、同劣角部を構成する一方の面をせん断加工する第1の劣角部せん断加工ステップと、この第1の劣角部せん断加工ステップの開始後に他方の面をせん断加工する第2の劣角部せん断加工ステップとにより順次加工されて成形される。すなわち、プレス成形品における劣角部は、同劣角部を構成する2つの面が同時に加工されるのではなく、2つの面の加工が1面ずつ順次加工開始される。これにより、プレス成形品の打抜き加工時(プレス加工時)に劣角部に作用する力が面ごとに分散されるため、劣角部の損傷を防止することができる。この結果、プレス成形品における劣角部およびその周辺部分を精度良く打抜き加工することができる。
また、本発明の他の特徴は、前記打抜き加工方法において、材料は、ダイカスト用アルミニウム合金であることにある。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、プレス成形品を構成する材料は、ダイカスト用アルミニウム合金で構成されている。すなわち、一般に、ダイカスト用アルミニウム合金は、良好な鋳造精度を確保するために粘性が低く設定されており、機械的性質の一つである伸びが低い所謂低じん性材料である。このため、低じんせい材料を打抜き加工する場合においては、劣角部に欠けやクラックが生じやすい。しかし、本発明における打抜き加工方法によれば、劣角部を構成する2つの面が1面ずつ順次加工されるため、劣角部の損傷を有効に防止することができる。
また、本発明の他の特徴は、前記打抜き加工方法において、プレス成形品は、相手部材と噛合って動力を伝達するための歯部が形成された動力伝達部品であり、劣角部は、前記歯部の角部であることにある。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、プレス成形品は、相手部材と噛合って動力を伝達するための歯部が形成された動力伝達部品であり、劣角部は、前記歯部の角部であるため、動力伝達部品における歯部を精度良く打抜き加工することができる。この場合、動力伝達部品は、例えば、原動機と同原動機によって回転駆動される被動体との間に配置される摩擦クラッチ装置やブレーキ装置における摩擦プレート体やプレッシャプレート体が相当する。また、一般的な機械構成要素である歯車、セレーションおよびスプラインなども動力伝達部品として考えられる。
また、本発明は、打抜き加工方法の発明として実施できるばかりでなく、プレス成形品の製造方法、打抜き加工用金型およびプレス成形品の発明としても実施できるものである。
具体的には、プレス成形品の製造方法は、互いに隣接する2つの面が劣角を成す劣角部を有するプレス成形品の製造方法において、プレス成形品における劣角部をせん断加工する刃部が、劣角部を構成する一方の面をせん断加工する第1の劣角部せん断刃部と、第1の劣角部せん断刃部に対して材料の打ち抜き方向前方または後方に形成され、劣角部を構成する他方の面をせん断加工する第2の劣角部せん断刃部とを備える打抜き加工用金型を用意しておき、劣角部を構成する一方の面を打抜き加工用金型における第1の劣角部せん断刃部によってせん断加工する第1の劣角部せん断加工ステップと、第1の劣角部せん断加工ステップの開始後に、劣角部を構成する他方の面を打抜き加工用金型における第2の劣角部せん断刃部によってせん断加工する第2の劣角部せん断加工ステップとを含むようにする。
また、打抜き加工用金型は、互いに隣接する2つの面が劣角を成す劣角部を有するプレス成形品を材料の打抜き加工により成形するための打抜き加工用金型において、プレス成形品における劣角部をせん断加工する刃部が、劣角部を構成する一方の面をせん断加工する第1の劣角部せん断刃部と、第1の劣角部せん断刃部に対して前記材料の打ち抜き方向前方または後方に形成され、劣角部を構成する他方の面をせん断加工する第2の劣角部せん断刃部とを備えるようにする。
また、プレス成形品は、互いに隣接する2つの面が劣角を成す劣角部が材料の打抜き加工により成形されたプレス成形品において、劣角部は、プレス成形品における劣角部をせん断加工する刃部が、劣角部を構成する一方の面をせん断加工する第1の劣角部せん断刃部と、第1の劣角部せん断刃部に対して材料の打ち抜き方向前方または後方に形成され、劣角部を構成する他方の面をせん断加工する第2の劣角部せん断刃部とを備える打抜き加工用金型でせん断加工されたものであって、劣角部を構成する一方の面に第1の劣角部せん断刃部によってせん断加工が開始された後に同劣角部を構成する他方の面が第2の劣角部せん断刃部によってせん断加工されて成形されているようにする。
(A),(B)は本発明の一実施形態に係る打抜き加工用金型の全体構成を概略的に示しており、(A)は打抜き加工用金型の平面図であり、(B)は打抜き加工用金型の側面図である。 図1に示す打抜き加工用金型によって製作される摩擦プレート体の外観を概略的に示す平面図である。 図1に示す打抜き加工用金型が装着されるプレス装置の外観を模式的に示す正面図である。 図3に示すプレス装置で打抜き加工される材料プレートの外観の概略を示す平面図である。 (A),(B)は本発明の一実施形態に係る打抜き加工方法による加工過程を図3に示すプレス装置の作動過程によって説明するための模式図である。 図4に示す材料プレートにおいて、第1の劣角部せん断加工ステップによって除去される部分を示す平面図である。 図4に示す材料プレートにおいて、第2の劣角部せん断加工ステップによって除去される部分を示す平面図である。 (A)〜(C)は従来技術と本発明に係る打抜き加工方法との作動上の相違を説明するための図であり、(A)は従来技術による打抜き加工時の様子を示す断面図であり、(B)は本発明に係る打抜き加工方法における第1の劣角部せん断加工ステップによる打抜き加工時の様子を示す断面図であり、(C)は本発明に係る打抜き加工方法における第2の劣角部せん断加工ステップによる打抜き加工時の様子を示す断面図である。 (A),(B)は本発明の変形例に係る打抜き加工方法による打抜き加工過程を示しており、(A)は本発明の変形例に係る打抜き加工方法における第1の劣角部せん断加工ステップによる打抜き加工時の様子を示す断面図であり、(B)は本発明の変形例に係る打抜き加工方法における第2の劣角部せん断加工ステップによる打抜き加工時の様子を示す断面図である。 (A),(B)は本発明の他の変形例に係る打抜き加工方法による打抜き加工過程を示しており、(A)は本発明の他の変形例に係る打抜き加工方法における第1の劣角部せん断加工ステップによる打抜き加工時の様子を示す断面図であり、(B)は他の本発明の変形例に係る打抜き加工方法における第2の劣角部せん断加工ステップによる打抜き加工時の様子を示す断面図である。
以下、本発明に係る打抜き加工方法の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1(A),(B)は、本発明に係る打抜き加工方法に用いられる打抜き加工用金型100の外観を示しており、(A)は打抜き加工用金型100の平面図であり、(B)は打抜き加工用金型100の側面図である。なお、本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。この打抜き加工用金型100は、図示しない摩擦クラッチ装置を構成する摩擦プレート体を打抜き加工する際に用いられる加工工具である。また、摩擦クラッチ装置は、二輪自動車(オートバイ)における原動機であるエンジン(図示せず)の駆動力を被動体である車輪(図示せず)に伝達または遮断するための機械装置であり、同エンジンと変速機(トランスミッション)(図示せず)との間に配置されるものである。
(摩擦プレート体10の構成)
打抜き加工用金型100の理解を助けるため、まず、打抜き加工用金型100を用いて成形される摩擦プレート体10について簡単に説明しておく。摩擦プレート体10は、図示しない摩擦クラッチ装置内においてエンジンからの回転駆動力によって回転駆動する円板体である。この摩擦プレート体10は、詳しくは図2に示すように、平板環状の芯金プレート11上に摩擦材12および油溝13を備えて構成されている。芯金プレート11は、摩擦プレート体10の基部となる板状部材であり、アルミニウム合金(例えば、ADC12)を鋳造することにより成形(所謂ダイカスト成形)されている。
摩擦材12は、摩擦クラッチ装置内において摩擦プレート体10に押し付けられる図示しないクラッチプレートとの摩擦力を向上させるための紙製の小片部材であり、芯金プレート11の側面に貼り付けられている。より具体的には、摩擦材12は、芯金プレート11における環状部分の径方向の幅に対応する長さの長方形状および三角形状の2つの形状でそれぞれ構成されている。なお、図2においては、摩擦材12にハッチングを施して示している。これらの摩擦材12は、互いに所定の隙間を介して配置されることにより、各摩擦材12間の隙間によって油溝13を形成している。油溝13は、クラッチオイルが通る油路として機能する溝であり、摩擦材12の厚さに対応する深さで形成されている。
また、芯金プレート11の内周面には、エンジンからの回転駆動力を受けるために相手部材に形成された外歯状の外歯スプライン(図示せず)に対して嵌合する内歯状のスプライン14が形成されている。スプライン14は、相手部材に形成された外歯スプラインの歯先部分に対応する凹状の歯底面14aと、同外歯スプラインの側面部に対応する側面14bと、同外歯スプラインの歯底部に対応する凸状の歯先面14cとで構成されている。
(打抜き加工用金型100の構成)
打抜き加工用金型100は、前記摩擦プレート体10を構成する芯金プレート11を打抜き加工するための所謂パンチであり、ダイス鋼(例えば、SKD11)を略円柱状に成形して構成されている。打抜き加工用金型100は、互いに異なる2つの外径で構成された段付き円柱状の本体部101の外周面に第1のせん断刃部102と第2のせん断刃部103とがそれぞれ形成されて構成されている。
第1のせん断刃部102は、本体部101の小径側外周部に円柱状に形成されている。この第1のせん断刃部102は、摩擦プレート体10を構成する芯金プレート11の内周部にスプライン14の一部を形成する刃であり、同スプライン14の刃先円に対応した外径の円柱状に形成されている。すなわち、第1のせん断刃部102は、芯金プレート11の内周部に形成されるスプライン14における歯先面14cを成形する。この第1のせん断刃部102の厚さは、芯金プレート11の内周部に形成するスプライン14の軸線方向の長さ、換言すればスプライン14が形成される芯金プレート11の厚さより厚く形成されている。
一方、第2のせん断刃部103は、本体部101の大径側外周部に歯車状に形成されている。この第2のせん断刃部103は、摩擦プレート体10を構成する芯金プレート11の内周部に内歯状のスプライン14の一部を形成する刃であり、同スプライン14の形状に対応した歯形状に形成されている。具体的には、第2のせん断刃部103は、芯金プレート11の内周部に形成されるスプライン14における歯底面14aおよび側面14bをそれぞれ成形する刃であり、これらの部分に対応する歯形状にそれぞれ形状に形成されている。
また、この打抜き加工用金型100には、打抜き加工用金型100を後述するプレス装置200に取り付けるための4つのネジ孔104および2つの位置決め孔105がそれぞれ本体部101を軸線方向に貫通した状態で形成されている。この打抜き加工用金型100は、一般的な金型の製作工程、すなわち、切削加工による成形工程、熱処理による硬化工程および研削加工による仕上げ工程などを経て製作される。そして、このように構成された打抜き加工用金型100は、図3に示すように、プレス装置200に装着される。
(プレス装置200の構成)
プレス装置200は、芯金プレート11の内周部に打抜き加工用金型100などの金型を強圧してスプライン14を成形するための機械加工装置である。プレス装置200は、平板状の基台201上にダイス202を備えている。ダイス202は、打抜き加工用金型100と協同して芯金プレート11の内周部にスプライン14を成形するフランジ状の金型であり、打抜き加工用金型100と同様のダイス鋼(例えば、SKD11)で構成されている。このダイス202は、その上面に加工対象物である材料プレート15(スプライン14が形成される前の芯金プレート11)を位置決めした状態で載置する載置部202aが形成されているとともに、内周部にスプライン14を成形するための歯形状の刃部202bを備えている。
基台201上におけるダイス202の外側には、2本の支柱203が起立した状態でそれぞれ固定的に設けられている。支柱203は、スリーブ204を介して平板状の上側ベース205を図示上下方向に沿って摺動可能な状態で支持する棒状部材である。上側ベース205は、打抜き加工用金型100を図示上下方向に沿って変位可能に支持する板状部材であり、上側ベース205を上下方向に駆動するための図示しない油圧駆動装置によって支持されている。この上側ベース205の下面中央部には、支持プレート206を介して打抜き加工用金型100が取り付けられている。この場合、打抜き加工用金型100は、第1のせん断刃部102側がダイス202に対向する向きで支持プレート206に取り付けられている。
また、上側ベース205の下面における打抜き加工用金型100の外側には、コイルスプリング207を介してワーク押さえ板208が支持されている。ワーク押さえ板208は、芯金プレート11に対するスプライン14の打抜き加工時において、ダイス202上における載置部202a内にセットされる芯金プレート11を押さえるためのリング状部材である。また、このプレス装置200は、油圧駆動装置などを制御する制御装置なども備えているが、本発明に直接関わらないため、その説明は省略する。
(打抜き加工用金型100の作動)
次に、上記のように構成した打抜き加工用金型100を用いた打抜き加工方法の作動について説明する。まず、作業者は、図4に示すように、芯金プレート11の内周部にスプライン14を加工する前の材料プレート15を用意する。この材料プレート15は、アルミニウム合金(例えば、ADC12)をダイカスト成形により平板環状に成形される。この場合、材料プレート15の内径は、プレス装置200によって形成されるスプライン14(図において破線で示す)の歯先円(スプライン14の形成後の内径)より小さい径に形成されている。これは、材料プレート15をダイカスト成形する際、材料プレート15の内周側に所謂抜き勾配を形成する必要があるためである。
次に、作業者は、材料プレート15をプレス装置200にセットしてスプライン14の打抜き加工を行う。具体的には、作業者は、ダイカスト成形された材料プレート15をプレス装置200におけるダイス202の載置部202a上にセットした後、プレス装置200における図示しない操作子を操作することによりプレス装置200(制御部)に打抜き加工の開始を指示する。この指示に応答してプレス装置200は、図示しない油圧駆動装置を駆動させて上側ベース205をダイス202に向って下降させる。
これにより、打抜き加工用金型100は、上側ベース205の下降に従ってダイス202側に向って変位を開始する。そして、ワーク押さえ板208がダイス202上にセットされた材料プレート15を押圧した直後に打抜き加工用金型100の第1のせん断刃部102が材料プレート15の内側部分を強圧する。この場合、第1のせん断刃部102は、図5(A)に示すように、打抜き加工用金型100が更に下降することにより材料プレート15を貫通する。これにより、第1のせん断刃部102は、図6に示すように、材料プレート15の内側部S1を除去してスプライン14の歯先面14cとなる新たな内周部を成形する。なお、図6においては、第1のせん断刃部102によって除去されるリング状の内側部S1をハッチングで示している。すなわち、この第1のせん断刃部102による打抜き加工が、本発明に係る第1の劣角部せん断加工ステップに相当する。
一方、第1のせん断刃部102が材料プレート15を貫通すると同時に第2のせん断刃部103は材料プレート15の内側部分を強圧する。この場合、第2のせん断刃部103は、図5(B)に示すように、打抜き加工用金型100が更に下降することにより材料プレート15を貫通する。これにより、第2のせん断刃部103は、図7に示すように、材料プレート15の内側部S2を歯型状に除去して、同材料プレート15の内周部にスプライン14の歯底面14aおよび側面14bを成形する。なお、図7においては、第2のせん断刃部103によって除去される歯型状の内側部S2をハッチングで示している。すなわち、この第2のせん断刃部103による打抜き加工が、本発明に係る第2の劣角部せん断加工ステップに相当する。そして、これら第1のせん断刃部102および第2のせん断刃部103による打抜き加工によって材料プレート15の内周部にスプライン14の全体が成形される。
このように、スプライン14における歯先面14cと歯底面14aおよび側面14bとが別工程で成形されることにより、スプライン14を構成する各歯部に欠けやクラックなどの損傷を生じさせることなく打抜き加工することができる。すなわち、互いに隣接する2つの面が劣角を成して1つの頂点を形成する劣角部(所謂出隅部)を打抜き加工する際、劣角部を構成する2つの面を1つの面ごとに順次せん断加工することで劣角部(所謂出隅部)に損傷を生じさせることなく打抜き加工している。
そして、このように劣角部に損傷を生じさせることなく打抜き加工できる理由は、以下の理由によるものと考えられる。すなわち、従来技術においては、図8(A)に示すように、スプライン14における歯底面14a、側面14bおよび歯先面14cは、パンチPによって同時にせん断加工される。このため、スプライン14における劣角部(図において破線円で囲んだ部分)には、側面14bに作用する引張力(図において矢印で示す)と歯先面14cに作用する引張力(図において矢印で示す)とが同時に作用する。このため、スプライン14における劣角部には、非常に大きな引張力(図において矢印で示す)が作用するため、この部分を起点として欠けやクラックなどの損傷が生じやすいと考えられる。
一方、スプライン14における歯先面14cのみをせん断加工する場合においては、図8(B)に示すように、材料プレート15の内周面には、主として第1のせん断刃部102の強圧方向側に引き込む引張力(図において矢印で示す)のみが作用する。また、スプライン14における歯底面14aおよび側面14bをせん断加工する場合においても、図8(C)に示すように、材料プレート15の内周面には、主として第2のせん断刃部103の強圧方向に引き込む引張力(図において矢印で示す)のみが作用する。すなわち、スプライン14の歯部における劣角部は、歯先面14cに作用する引張力または側面14bに作用する引張力の一方の引張力のみしか作用しないため、欠けやクラックなどの損傷が抑えられると考えられる。
なお、スプライン14における歯底面14aおよび側面14bをせん断加工する場合、スプライン14の歯部における入隅部においては、歯底面14aに作用する引張力と、側面14bに作用する引張力とが互いに向かい合って圧縮力となる。このため、スプライン14の歯部における入隅部においては、欠けやクラックなどの損傷が抑えられると考えられる。
そして、打抜き加工用金型100の第2のせん断刃部103が材料プレート15を貫通して、材料プレート15の内周部にスプライン14が成形された場合には、プレス装置200は油圧駆動装置の作動を制御して上側ベース205を上昇させる。これにより、材料プレート15から打抜き加工用金型100が離隔される。したがって、作業者は、ダイス202の載置部202a上からスプライン14が形成された材料プレート15、すなわち、芯金プレート11を取り外すことにより、スプライン14の打抜き加工が終了する。
そして、作業者は、スプライン14が形成された芯金プレート11に対して摩擦プレート10を製作するための他の工程、具体的には、芯金プレート11の側面部に摩擦材12を貼り付けるとともに油溝13を形成する工程や検査工程を経て摩擦プレート10を完成させる。これらの摩擦プレート10を完成させるための他の工程については、本発明に直接関わらないため、その説明は省略する。また、他の材料プレート15に対してスプライン14の打抜き加工を行う場合には、作業者は、前記と同様に、ダイカスト成形された材料プレート15をダイス202の載置部202a上にセットして加工を行う。
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、芯金プレート11は、互いに隣接する2つの面が劣角を成す劣角部である歯部が、同歯部を構成する一方の面である歯先面14cをせん断加工する第1の劣角部せん断加工ステップと、この第1の劣角部せん断加工ステップの開始後に他方の面である歯底面14aおよび側面14bをせん断加工する第2の劣角部せん断加工ステップとにより順次加工されて成形される。すなわち、芯金プレート11における劣角部は、同劣角部を構成する2つの面が同時に加工されるのではなく、2つの面の加工が1面ずつ順次加工開始される。これにより、芯金プレート11の打抜き加工時(プレス加工時)に劣角部に作用する力が面ごとに分散されるため、劣角部の損傷を防止することができる。この結果、芯金プレート11における劣角部およびその周辺部分を精度良く打抜き加工することができる。
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、下記に示す各変形例においては、上記実施形態と同様の構成部分には対応する符号を付して、その説明は省略する。
例えば、上記実施形態においては、スプライン14における歯先面14cをせん断加工した後、同スプライン14における歯底面14aおよび側面14をせん断加工するように構成した。すなわち、本発明に係る第1の劣角部せん断加工ステップにおいてスプライン14における歯先面14cをせん断加工し、第2の劣角部せん断加工ステップにおいてスプライン14における歯底面14aおよび側面14をせん断加工するように構成した。しかし、スプライン14における歯先面14c、歯底面14aおよび側面14bを切断する順序は、上記実施形態に限定されるものではない。すなわち、本発明に係る第1の劣角部せん断加工ステップにおいてスプライン14における歯底面14aおよび側面14をせん断加工し、第2の劣角部せん断加工ステップにおいてスプライン14における歯先面14cをせん断加工するように構成しても良いことは当然である。
この場合、上記実施形態においては、打抜き加工用金型100における第1のせん断刃部102は、第2のせん断刃部103に対して材料プレート15の打抜き方向のおける前方側に形成した。しかし、上記したように、スプライン14における歯底面14aおよび側面14をせん断加工した後に歯先面14cをせん断加工する場合においては、打抜き加工用金型100は、第2のせん断刃部103に対して第1のせん断刃部102を材料プレート15の打抜き方向のおける後方側に形成するようにする。すなわち、打抜き加工用金型100における第1のせん断刃部102が、本発明に係る第1の劣角部せん断刃部に相当し、打抜き加工用金型100における第2のせん断刃部103が、本発明に係る第2の劣角部せん断刃部に相当する。
また、上記実施形態においては、1つの打抜き加工用金型100によってスプライン14の歯先面14c、歯底面14aおよび側面14bを打抜き加工するように構成した。換言すれば、上記実施形態においては、第1の劣角部せん断ステップと第2の劣角部せん断ステップとを1つの打抜き加工用金型100によって実行するように構成した。しかし、第1の劣角部せん断ステップと第2の劣角部せん断ステップとをそれぞれの打抜き加工用金型で加工するように構成してもよい。すなわち、第1のせん断刃部102のみからなる打抜き加工用金型と、第2のせん断刃部103のみからなる打抜き加工用金型とをそれぞれ用意して第1の劣角部せん断ステップと第2の劣角部せん断ステップとをそれぞれ実行することもできる。
また、上記実施形態においては、打抜き加工用金型100における第1のせん断刃部102の厚さ、換言すれば、第2のせん断刃部103に対する打抜き方向前方側への突出量は、芯金プレート11(材料プレート15)の厚さより長く形成した。これにより、材料プレート15に対してスプライン14を形成する際、第1のせん断刃部102が材料プレート15を貫通すると同時に第2のせん断刃部103が材料プレート15に接触してせん断加工を開始する。しかし、第2の劣角部せん断加工ステップの開始タイミングは、第1の劣角部せん断加工ステップの開始タイミングより遅れていれば良く、必ずしも、第2の劣角部せん断加工ステップの開始タイミングが第1の劣角部せん断加工ステップの完了後である必要はない。すなわち、打抜き加工用金型100における第1のせん断刃部102の厚さは、芯金プレート11(材料プレート15)の厚さより薄い厚さであってもよい。なお、この場合、第1のせん断刃部102によるせん断加工と、第2のせん断刃部103によるせん断加工とが一時的に同時に行なわれることになる。
また、上記実施形態においては、材料プレート15の内周部に成形するスプライン14の歯先面14cは、第1のせん断刃部102によるせん断加工によって正規の寸法値に成形するようにした。しかし、必ずしも、第1のせん断刃部102によるせん断加工によって歯先面14cを正規の寸法値に成形する必要はない。すなわち、第1の劣角部せん断加工ステップにおいて、歯先面14cに所定量の取り代を残してせん断加工した後、第2の劣角部せん断加工ステップにおいて歯先面14cを含めて歯底面14aおよび側面14bをせん断加工するようにしてもよい。すなわち、劣角部に生じる欠けやクラックなどの損傷は、劣角部から除去する取り代量が多いほど生じやすい。したがって、第1の劣角部せん断加工ステップにおいては、少なくとも、第2の劣角部せん断加工ステップにて悪影響を与えない範囲の量だけ除去するように構成すればよい。
また、上記実施形態においては、摩擦プレート体10を構成する芯金プレート11にスプライン14を打抜き加工する例について説明した。しかし、本発明に係る打抜き加工方法、プレス成形品の製造方法、打抜き加工用金型およびプレス成形品は、芯金プレート11以外のプレス成形品、すなわち、互いに隣接する2つの面が劣角を成す劣角部を有するプレス成形品に広く適用することができることは当然である。したがって、例えば、プレス成形品の材質がダイカスト用アルミニウム合金に限定されるものではないし、劣角部がスプライン14における歯部の角部に限定されるものでもない。
例えば、図9(A),(B)に示すように、プレス成形品300の端面に三角形状の突出する劣角部310を打抜き加工する場合においては、劣角部310を構成する一方の面である第1面311を第1のせん断刃部102でせん断加工した後に、劣角部310を構成する他方の面である第2面312を第2のせん断刃部103でせん断加工するようにする。
また、例えば、図10(A),(B)に示すように、プレス成形品400の端面に劣角部が複数存在する突出部410を打抜き加工する場合においては、突出部410を構成する面のうち、互いに隣接しない面ごとにせん断加工するようにする。例えば、突出部410を構成する第1面411、第2面412a,412bおよび第3面413a,413bのうち、第1のせん断刃部102では第1面411と第3面413a,413bとを同時にせん断加工する。そして、第2のせん断刃部103においては、第1面411と第3面413a,413bとの間に存在する第2面412a,412bをせん断加工するようにすればよい。
P…パンチ、S1,S2…内周部、
10…摩擦プレート体、11…芯金プレート、12…摩擦材、13…油溝、14…スプライン、14a…歯底面、14b…側面、14c…歯先面、15…材料プレート、
100…打抜き加工用金型、101…本体部、102…第1のせん断刃部、103…第2のせん断刃部、
200…プレス装置、201…基台、202…ダイス、203…支柱、204…スリーブ、205…上側ベース、206…支持プレート、207…コイルスプリング、208…ワーク押さえ板、
300,400…プレス成形品、劣角部…310、突出部…410。

Claims (6)

  1. 互いに隣接する2つの面が劣角を成す劣角部を有するプレス成形品を材料の打抜き加工により成形する打抜き加工方法において、
    前記プレス成形品における劣角部をせん断加工する刃部が、
    前記劣角部を構成する一方の面をせん断加工する第1の劣角部せん断刃部と、
    前記第1の劣角部せん断刃部に対して前記材料の打ち抜き方向前方または後方に形成され、前記劣角部を構成する他方の面をせん断加工する第2の劣角部せん断刃部とを備える打抜き加工用金型を用意しておき、
    前記プレス成形品における前記劣角部を、
    前記劣角部を構成する一方の面を前記打抜き加工用金型における前記第1の劣角部せん断刃部によってせん断加工する第1の劣角部せん断加工ステップと、
    前記第1の劣角部せん断加工ステップの開始後に、前記劣角部を構成する他方の面を前記打抜き加工用金型における前記第2の劣角部せん断刃部によってせん断加工する第2の劣角部せん断加工ステップとを含んでせん断加工することを特徴とする打抜き加工方法。
  2. 請求項1に記載した打抜き加工方法において、
    前記材料は、ダイカスト用アルミニウム合金であることを特徴とする打抜き加工方法。
  3. 請求項1または請求項2に記載した打抜き加工方法において、
    前記プレス成形品は、相手部材と噛合って動力を伝達するための歯部が形成された動力伝達部品であり、
    前記劣角部は、前記歯部の角部であることを特徴とする打抜き加工方法。
  4. 互いに隣接する2つの面が劣角を成す劣角部を有するプレス成形品の製造方法において、
    前記プレス成形品における劣角部をせん断加工する刃部が、
    前記劣角部を構成する一方の面をせん断加工する第1の劣角部せん断刃部と、
    前記第1の劣角部せん断刃部に対して材料の打ち抜き方向前方または後方に形成され、前記劣角部を構成する他方の面をせん断加工する第2の劣角部せん断刃部とを備える打抜き加工用金型を用意しておき、
    前記劣角部を構成する一方の面を前記打抜き加工用金型における前記第1の劣角部せん断刃部によってせん断加工する第1の劣角部せん断加工ステップと、
    前記第1の劣角部せん断加工ステップの開始後に、前記劣角部を構成する他方の面を前記打抜き加工用金型における前記第2の劣角部せん断刃部によってせん断加工する第2の劣角部せん断加工ステップとを含むことを特徴とするプレス成形品の製造方法。
  5. 互いに隣接する2つの面が劣角を成す劣角部を有するプレス成形品を材料の打抜き加工により成形するための打抜き加工用金型において、
    前記プレス成形品における劣角部をせん断加工する刃部が、
    前記劣角部を構成する一方の面をせん断加工する第1の劣角部せん断刃部と、
    前記第1の劣角部せん断刃部に対して前記材料の打ち抜き方向前方または後方に形成され、前記劣角部を構成する他方の面をせん断加工する第2の劣角部せん断刃部とを備えることを特徴とする打抜き加工用金型。
  6. 互いに隣接する2つの面が劣角を成す劣角部が材料の打抜き加工により成形されたプレス成形品において、
    前記劣角部は、
    前記プレス成形品における劣角部をせん断加工する刃部が、
    前記劣角部を構成する一方の面をせん断加工する第1の劣角部せん断刃部と、
    前記第1の劣角部せん断刃部に対して材料の打ち抜き方向前方または後方に形成され、前記劣角部を構成する他方の面をせん断加工する第2の劣角部せん断刃部とを備える打抜き加工用金型でせん断加工されたものであって、
    前記劣角部を構成する一方の面に前記第1の劣角部せん断刃部によってせん断加工が開始された後に同劣角部を構成する他方の面が前記第2の劣角部せん断刃部によってせん断加工されて成形されていることを特徴とするプレス成形品。
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