従来より、車両用の手動変速機のケースに組付・固定されるS&Sシャフトアッセンブリが広く知られている(例えば、特許文献1を参照)。係るS&Sシャフトアッセンブリの一例として、本出願人は、従来より、図24に示すS&Sシャフトアッセンブリを製造している。
図24に示すS&Sシャフトアッセンブリは、変速機のケースに固定される固定部材110と、S&Sシャフト120と、シフトガイドプレート130と、カムプレート140とを備えている。以下、後述する図4に示すパターンでシフトレバーが操作される車両、即ち、前進用に6つの変速段、後進用に1つの変速段を備えた車両を想定する。図4に示すパターンにおいて、点oの位置を「ニュートラル位置」と呼ぶ。点a,b,c,d,e,f,gの位置をそれぞれ、「1速シフト位置」、「2速シフト位置」、「3速シフト位置」、「4速シフト位置」、「5速シフト位置」、「6速シフト位置」、「リバースシフト位置」と呼ぶ。点h,i,jの位置をそれぞれ、「LOWセレクト位置」、「HIGHセレクト位置」、「リバースセレクト位置」と呼ぶ。図4では、シフトレバーはニュートラル位置にある。以下、図4に示すようなシフトパターンにおいて、シフトレバーの横方向の操作を「セレクト操作」と呼び、シフトレバーの縦方向の操作を「シフト操作」と呼ぶ。
S&Sシャフト120は、シフトレバーのセレクト操作に応じて、突起部111と接続された図示しない動力伝達部材(ワイヤ等)から受ける駆動力により、固定部材110に対して軸方向に移動するように、固定部材110に支持されている。また、S&Sシャフト120は、シフトレバーのシフト操作に応じて、突起部112と接続された図示しない動力伝達部材(ワイヤ等)から受ける駆動力により、固定部材110に対して軸周りに回動するように、固定部材110に支持されている。また、S&Sシャフト120には、径方向外側に突出するインナーレバー121(この例では2本)が固設されている。
シフトガイドプレート130は、S&Sシャフト120の側面に固定されている。シフトガイドプレート130の外側面には、径方向外側に突出する複数の突出部131が形成されている。複数の突出部131の側面は、変速機のケース内に固定された部材に固定されたガイドピンと係合する(後述する図25を参照)。
カムプレート140も、シフトガイドプレート130と同様、S&Sシャフト120の側面に固定されている。カムプレート140の外側面には、カム曲面Pが形成されている。カム曲面Pでは、軸方向の位置に応じてS&Sシャフト120の軸心からの距離が変化する。このカム曲面Pは、変速機のケース内においてS&Sシャフト120の径方向にのみ移動可能に配置され且つ弾性力により径方向の内側に向けて付勢される押圧部材(押圧ピン等)により、径方向の内側に向けて常時押圧されている(後述する図26を参照)。以下、「軸方向」を「セレクト方向」と呼び、「軸方向と直角の方向」を「シフト方向」と呼ぶこともある。
以上より、シフトレバーのセレクト操作又はシフト操作に応じて、各インナーレバー121とシフトガイドプレート130とカムプレート140とは一体で、固定部材110に対してセレクト方向又はシフト方向に移動する。
以上説明したS&Sシャフトアッセンブリが、手動変速機のケースに組付・固定される。手動変速機の組み付け完了状態では、セレクト方向に沿って複数配置されたシフトヘッド(以下、「ヘッド」と呼ぶ。)のそれぞれが、シフト方向において、インナーレバー121と係合し得る状態にある。そして、シフトレバーがシフト操作における中立位置にある状態においてシフトレバーのセレクト操作により、インナーレバー121と係合する対象となる1つのヘッドが選択される。
以下、或るヘッドについて「選択」とは、そのヘッドがインナーレバー121と係合する対象となる状態を指す。そして、シフトレバーのシフト操作によりシフトレバーが中立位置から対応する変速段のシフト完了位置まで移動することにより、インナーレバー121が選択された1つのヘッドをシフト方向に押し、ヘッドが中立位置からシフト方向に沿って移動し、対応する変速段が達成される。
また、図25に示すように、手動変速機の組み付け完了状態では、シフトレバーのセレクト操作又はシフト操作に応じて、ガイドピンのシフトガイドプレート130に対する位置が、セレクト方向又はシフト方向に移動する。図25における点a〜jは、図4に示す点a〜jにそれぞれ対応している。例えば、シフトレバーが3速シフト位置にある場合(3速のシフト完了状態)、ガイドピンのシフトガイドプレート130に対する位置は、図25の点cの位置となる。
図25に示すように、複数の突出部131は、各変速段のシフト完了状態において、ガイドピンに対してセレクト方向に隣接する位置にて「対応する突出部131」の側面がガイドピンと係合し得るようにシフトガイドプレート130に配置されている。この結果、シフトガイドプレート130(の複数の突起部131)は、各変速段のシフト完了状態においてS&Sシャフト120のセレクト方向の移動を規制する機能を達成している。これにより、シフトレバーが各変速段のシフト位置にある状態におけるセレクト操作によるシフトレバーの移動が規制されて、シフトレバーの操作フィーリングが向上する。以下、シフトガイドプレート130によるこの機能を「セレクト操作規制機能」と呼ぶ。
更には、図26に示すように、手動変速機の組み付け完了状態では、シフトレバーのセレクト操作又はシフト操作に応じて、前記押圧ピン(押圧部材)のカムプレート140に対する位置が、セレクト方向又はシフト方向に移動する。図26における点a〜jは、図4に示す点a〜jにそれぞれ対応している。例えば、シフトレバーが3速シフト位置にある場合(3速のシフト完了状態)、押圧ピンのカムプレート140に対する位置は、図26の点cの位置となる。
上述したように、押圧ピンは、変速機のケース内においてS&Sシャフトの径方向にのみ移動可能に配置されている。加えて、押圧ピンの背面が弾性部材(スプリング等)により径方向の内側に押されることで、押圧ピンの先端(例えば、半球状の先端面)がカム曲面Pを径方向の内側に向けて常時押圧している。また、図26に示すように、カム曲面Pでは、セレクト方向の位置に応じてS&Sシャフト120の軸心からの距離が変化している。即ち、カム曲面Pは、セレクト方向に対して傾斜している。この傾斜と、押圧ピンのカム曲面Pに対する押圧力とに起因して、S&Sシャフトにはセレクト方向の力が発生する。以下、この力を「ディテント力」と呼ぶ。
カム曲面上における押圧ピンの押圧位置における軸心からの距離が大きいほど、押圧ピンの押圧力が大きくなり、従って、ディテント力が大きくなる。このディテント力により、シフトレバーのセレクト操作の操作力が調整される機能が達成される。以下、カムプレート140によるこの機能を「セレクト操作力調整機能」と呼ぶ。
ところで、上述したS&Sシャフトアッセンブリでは、セレクト操作規制機能を達成するためのシフトガイドプレート130と、セレクト操作力調整機能を達成するためのカムプレート140とが個別に設けられている。このことが、製造コスト増大の一因となっていた。
以上のことを鑑み、本発明の目的は、S&Sシャフトアッセンブリにおいて、セレクト操作規制機能及びセレクト操作力調整機能を共に達成しつつ、且つ安価なものを提供することにある。
本発明に係るS&Sシャフトアッセンブリは、変速機のケース(ハウジング)に固定される固定部材と、S&Sシャフトと、カムプレートとを備える。S&Sシャフトは、シフトレバーのセレクト操作に応じて前記固定部材に対して軸方向(セレクト方向)に移動するとともにシフトレバーのシフト操作に応じて前記固定部材に対して軸周りに回動するように配設される。S&Sシャフトには、径方向外側に突出するインナーレバーが固設されている。
カムプレートは、S&Sシャフトの側面に固定される。カムプレートの外側面は、軸方向(セレクト方向)の位置に応じてS&Sシャフトの軸心からの距離が変化するカム曲面を含む。このカム曲面は、前記ケース内においてS&Sシャフトの径方向にのみ移動可能に配置され且つ弾性力(弾性部材)により前記径方向の内側に向けて付勢される押圧部材により、前記径方向の内側に向けて常時押圧される。
このS&Sシャフトアッセンブリでは、シフトレバーが前記シフト操作における中立位置にある状態において前記セレクト操作に応じて、前記軸方向(セレクト方向)に沿って並列に複数配置されたシフトヘッドのうち前記インナーレバーと係合する1つのシフトヘッドが選択され得る。前記シフト操作により前記シフトレバーが前記中立位置から対応する変速段のシフト完了位置まで移動することにより、前記インナーレバーが前記選択された1つのシフトヘッド(の凹部)を前記軸方向と直角のシフト方向に押して、前記シフトヘッドが前記シフト方向に沿って移動し、対応する変速段が達成される。
前記押圧部材の前記カムプレートのカム曲面に対する押圧力に起因してS&Sシャフトに前記軸方向(セレクト方向)の力(ディテント力)が発生する。このディテント力により、前記セレクト操作の操作力を調整する機能(セレクト操作力調整機能)が達成される。
このS&Sシャフトアッセンブリの特徴は、以下の点にある。即ち、前記シフトレバーが前記各変速段のシフト完了位置にある場合(即ち、各変速段のシフト完了状態)に対応する前記カム曲面上における前記押圧部材の押圧位置(シフト完了押圧位置)に対して前記軸方向(セレクト方向)の両側に隣接する前記カム曲面上のそれぞれの位置にて、径方向外側に突出する突出部がそれぞれ形成されている。
前記各突出部の頂部における前記軸心からの距離は、前記各突出部に対して前記軸方向に隣接する前記シフト完了押圧位置における前記軸心からの距離よりも大きく、且つ、「前記軸方向(セレクト方向)の位置が前記各突出部の頂部に対応するとともに前記シフト方向の位置が前記シフトレバーの前記中立位置に対応する前記カム曲面上における位置」における前記軸心からの距離よりも大きく構成される。各変速段のシフト完了状態において、前記各突出部と前記押圧部材との係合により、S&Sシャフトの前記軸方向(セレクト方向)の移動を規制する機能(セレクト操作規制機能)が達成され得る。
上記構成によれば、カムプレートと押圧部材との協働により、セレクト操作力調整機能もセレクト操作規制機能も共に達成され得る。即ち、上述した図24に示したS&Sシャフトアッセンブリにおけるシフトガイドプレート130に相当する部材が省略され得る。従って、セレクト操作規制機能及びセレクト操作力調整機能を共に達成しつつ、且つ安価なS&Sシャフトアッセンブリを提供することができる。
上記本発明に係るS&Sシャフトアッセンブリでは、前記各シフト完了押圧位置における前記軸心からの距離が、「前記軸方向(セレクト方向)の位置が前記各シフト完了押圧位置に対応するとともに前記シフト方向の位置が前記シフトレバーの前記中立位置に対応する前記カム曲面上における位置」における前記軸心からの距離と等しく構成され得る。
また、上記本発明に係るS&Sシャフトアッセンブリでは、複数の前記シフト完了押圧位置が、前記カム曲面上において、前記シフトレバーのシフトパターンにおける隣接する前記シフト完了位置同士の間の距離に対応する間隔だけそれぞれ離れて前記軸方向(セレクト方向)に並んで存在し、前記軸方向(セレクト方向)において隣接する前記シフト完了押圧位置同士の間の前記カム曲面上のそれぞれの位置に前記各突出部がそれぞれ形成され得る。
以下、本発明の実施形態に係るS&Sシャフトアッセンブリ、並びに、このS&Sシャフトアッセンブリが組み付けられた手動変速機について図面を参照しつつ説明する。
(構成)
図1〜図3に示すように、本発明の実施形態に係るS&Sシャフトアッセンブリは、手動変速機のケース(ハウジング、図示せず)に固定される固定部材10と、S&Sシャフト20と、インターロックプレート30A,30Bと、プレート40と、カムプレート50と、を備えている。図1〜図3において、微細な薄いドットで示された部分はインターロックプレート30A,30Bに対応し、微細な濃いドットで示された部分はプレート40に対応している(他の図においても同様)。
この実施形態は、図4に示すパターンでシフトレバーが操作される車両、即ち、前進用に6つの変速段、後進用に1つの変速段を備えた車両に適用される。この実施形態でも、背景技術の欄で述べた図4に示すパターンについての種々の呼び名が適用される。
再び図1〜図3を参照すると、固定部材10は、ボルト及びナット等の周知の締結手段の一つを用いて、図示しない手動変速機のケースに固定される。
S&Sシャフト20は、突起部11,12と接続されたそれぞれの動力伝達部材(ワイヤ等)を介して、シフトレバー側のリンク機構と接続されている。S&Sシャフト20は、シフトレバーのセレクト操作に応じて、突起部11と接続された動力伝達部材から受ける駆動力により、固定部材10に対して軸方向に移動するように、固定部材10に支持されている。また、S&Sシャフト20は、シフトレバーのシフト操作に応じて、突起部12と接続された動力伝達部材から受ける駆動力により、固定部材10に対して軸周りに回動するように、固定部材10に支持されている。この支持態様は、S&Sシャフト20が固定部材10に対して軸方向に移動可能且つ軸周りに回動可能である限りにおいて如何なる態様であってもよい。
S&Sシャフト20には、径方向外側に突出する2本のインナーレバー21A,21Bが固設されている。S&Sシャフト20に対してインナーレバー21A,21Bが突出する方向は同じである。インナーレバー21A,21Bは、インナーレバーが形成された「S&Sシャフト本体とは別の部材」をS&Sシャフト本体に組み付けることにより、S&Sシャフト20に固設されてもよいし、1つの部材を削りだし等により加工してS&Sシャフト20に形成されてもよい。
インターロックプレート30A,30Bは、S&Sシャフト20の軸方向移動と共に固定部材10に対して軸方向に移動し、且つ、固定部材10に対して軸周りに回動不能に、固定部材10及びS&Sシャフト20に、それぞれ個別に支持されている。インターロックプレート30A(30B)は、支持部31A(31B)と、係合部32A(32B)と、規制部33A(33B)を備えている。
支持部31A(31B)は、S&Sシャフト20に対して、軸周りに相対回転可能且つ軸方向に相対移動不能に、S&Sシャフト20に支持されている。これにより、支持部31A(31B)は、インターロックプレート30A(30B)のS&Sシャフト20に対する軸方向の相対移動を規制(禁止)する機能を達成している。
係合部32A(32B)は、支持部31A(31B)に対して固設されている。係合部32A(32B)には、軸方向に平行な溝が形成されている。各溝にプレート40が嵌合されている。プレート40の上端(Z軸正方向の端)は、プレート40が軸方向に沿うように、周知の固定方法の1つ(例えば、圧入)により固定部材10に固定されている。これにより、係合部32A(32B)(及び、プレート40)は、インターロックプレート30A(30B)の固定部材10に対する軸周りの回転を規制(禁止)する機能を達成している。
規制部33A(33B)は、支持部31A(31B)に対して固設されている。規制部33A(33B)は、軸方向に沿って延びる平板状を呈している。規制部33A(33B)には、軸方向と直角の方向に延びるスリット34A(34B)が形成されている。スリット34A(34B)は、軸方向において規制部33A(33B)を分断している。
インナーレバー21A(21B)はそれぞれ、軸方向と直角方向に移動可能に、スリット34A(34B)の内部を貫通してスリット34A(34B)から突出している。即ち、規制部33A(33B)は、インナーレバー21A(21B)に対して軸方向の両側に隣接するそれぞれの位置にて軸方向に延びている。以下、「軸方向」を「セレクト方向」と呼び、「軸方向と直角の方向」を「シフト方向」と呼ぶこともある。
カムプレート50は、S&Sシャフト20の側面に固定されている。カムプレート50の外側面は、セレクト方向の位置に応じてS&Sシャフト20の軸心からの距離が変化するカム曲面Pを含む。即ち、カム曲面Pは、セレクト方向に対して傾斜している。後述するように、カム曲面P上の所定の位置には、径方向外側に突出する複数の突出部51が形成されている。
カムプレート50は、シャフト本体に組み付けられる「S&Sシャフト本体とは別の部材」に取り付けられてもよいし、シャフト本体に直接取り付けられてもよい。以下、カムプレート50が、インナーレバー21Aが固設されたスリーブ22に取り付けられる場合の一例について、図5を参照しながら説明する。
図5に示すように、カムプレート50には、カム曲面Pが存在しない位置において、径方向(プレートの厚さ方向)に貫通する第1ノック穴52が形成されている。また、カムプレート50の内側面には、セレクト方向に延びる(貫通する)溝53が形成されている。この溝53は、径方向外側に向けて(内側面から外側面に向けて)窪んでいて、溝53の(シフト方向の)幅は、径方向外側ほど広い。
一方、円筒状を呈したスリーブ22の外側面には、セレクト方向に延びる突起23と、径方向に貫通する第2ノック穴24とが形成されている。この突起23は、径方向外側に向けて突出していて、突起23の(シフト方向の)幅は、径方向外側ほど幅が広い。
図5に示すように、カムプレート50の溝53が、スリーブ22の突起23に嵌合される。その後、第1、第2ノック穴52,24にノックピン60が通される。これにより、カムプレート50のスリーブ22への取り付けが完了する。そして、カムプレート50が取り付けられたスリーブ22がシャフト本体の側面にスプライン嵌合等により嵌合・固定される。これにより、S&Sシャフト20において、シャフト本体と、インナーレバー21Aと、カムプレート50とが一体化される。なお、図1〜図3に示す例では、インナーレバー21Bも、インナーレバー21Aと同様、シャフト本体に嵌合・固定されるスリーブに固設されている。
以上、シフトレバーのセレクト操作又はシフト操作に応じて、インナーレバー21A,21Bとカムプレート50とは一体で、固定部材10に対してセレクト方向又はシフト方向に移動する。一方、インターロックプレート30A(30B)は、シフトレバーのセレクト操作に応じて固定部材10に対してセレクト方向に移動する一方、シフトレバーのシフト操作がなされてもシフト方向に移動しない。
(作動)
以上説明したS&Sシャフトアッセンブリが、手動変速機のケースに組付・固定される。手動変速機の組み付け完了状態では、図6に模式的に示すように、フォークシャフト71〜74にそれぞれ固定されたシフトヘッド(以下、「ヘッド」と呼ぶ。)81〜84が、セレクト方向に沿って並列に複数(この例では4つ)配置される。ヘッド81〜84はそれぞれ、3速−4速シフト用ヘッド、1速−2速シフト用ヘッド、5速−6速シフト用ヘッド、リバース用ヘッドである。各ヘッド(各フォークシャフト)について、図6に示す位置を「中立位置」と呼ぶ。図6に示す状態は、シフトレバーがニュートラル位置にある状態に対応する。
ヘッド81〜84の全てが中立位置にある状態(図6に示す状態)では、手動変速機はニュートラル状態にある。ニュートラル状態にてヘッド81(フォークシャフト71)が中立位置から図中左(右)方向にシフト完了位置まで移動すると、手動変速機が4速(3速)シフト状態となる。ニュートラル状態にてヘッド82(フォークシャフト72)が中立位置から図中左(右)方向にシフト完了位置まで移動すると、手動変速機が2速(1速)シフト状態となる。ニュートラル状態にてヘッド83(フォークシャフト73)が中立位置から図中左(右)方向にシフト完了位置まで移動すると、手動変速機が6速(5速)シフト状態となる。ニュートラル状態にてヘッド84(フォークシャフト74)が中立位置から図中左方向にシフト完了位置まで移動すると、手動変速機がリバースシフト状態となる。
なお、各フォークシャフトが移動すると、図示しないシフトフォークを介して変速段切換用の対応するスリーブが移動する。この結果、対応する変速段のギヤ列からなる動力伝達経路が形成され、対応する変速段が達成されるようになっている。係る構成としては、周知のものの一つが使用される。
ヘッド81〜84にはそれぞれ凹部が形成されている。ヘッド81,82の凹部は、シフト方向において、インナーレバー21A又はインターロックプレート30A(具体的には、規制部33A)と係合する。ヘッド83,84の凹部は、シフト方向において、インナーレバー21B又はインターロックプレート30B(具体的には、規制部33B)と係合する。
シフトレバーがシフト操作における中立位置にある場合において、セレクト操作により、インナーレバー21A,21Bのうちの1つと係合する対象となるヘッドが選択される。以下、或るヘッドについて「選択」とは、そのヘッドがインナーレバーと係合する対象となる状態を指す。そして、シフト操作によりシフトレバーが中立位置から「対応する変速段のシフト位置」まで移動することにより、インナーレバー21A,21Bのうちの1つが「選択された1つのヘッド」をシフト方向に押す。この結果、ヘッドが中立位置からシフト完了位置まで移動し、対応する変速段が達成される。
また、図7に示すように、手動変速機の組み付け完了状態では、カムプレート50のカム曲面Pは、押圧ピンの先端により、径方向内側に向けて常時押圧される。この押圧ピンは、手動変速機のケース内においてS&Sシャフト20の径方向にのみ移動可能に配置されている。換言すれば、押圧ピンは、固定部材10に対してセレクト方向及びシフト方向には移動不能に且つ径方向にのみ移動可能に、且つ、押圧ピンの軸線がS&Sシャフト20の軸線と直角に交わるように、配置されている。この押圧ピンの背面は、弾性部材(スプリング等)により径方向内側に向けて常時付勢されている。この押圧ピンの先端は、半球状等を呈している。
図7及び図8に示すように、押圧ピンのカム曲面Pに対する押圧位置は、シフトレバーのセレクト操作又はシフト操作に応じて、セレクト方向又はシフト方向に移動する。図7及び図8における点a〜jは、図4に示す点a〜jにそれぞれ対応している。例えば、シフトレバーが4速シフト位置にある場合(4速のシフト完了状態)、押圧ピンのカム曲面Pに対する押圧位置は、図7及び図8の点dの位置となる。
以下、説明の便宜上、シフトレバーが各変速段のシフト完了位置にある場合(即ち、各変速段のシフト完了状態)に対応するカム曲面P上における押圧ピンの押圧位置を、各変速段の「シフト完了押圧位置」と呼ぶ。本例では、シフト完了押圧位置は、点a〜g(合計で7つの点)に対応する。即ち、複数の「シフト完了押圧位置」が、カム曲面P上において、シフトレバーのシフトパターンにおける隣接するシフト完了位置同士の間の距離に対応する間隔だけそれぞれ離れてセレクト方向に2列に並んで存在している。また、S&Sシャフト20の軸心を簡単に「軸心」と呼ぶ。
図7及び図8に示すように、各「シフト完了押圧位置」に対してセレクト方向の両側に隣接するカム曲面P上のそれぞれの位置において、S&Sシャフト20の径方向外側に突出する突出部51がそれぞれ形成されている。換言すれば、セレクト方向において隣接する「シフト完了押圧位置」同士の間のカム曲面P上のそれぞれの位置に、各突出部51がそれぞれ形成されている。
各突出部51の頂部における「軸心」からの距離は、その突出部51に対してセレクト方向に隣接する2つの「シフト完了押圧位置」における「軸心」からの距離よりも大きい。加えて、各突出部51の頂部における「軸心」からの距離は、「セレクト方向の位置がその突出部51の頂部に対応するとともにシフト方向の位置がシフトレバーの中立位置に対応するカム曲面P上における位置」における「軸心」からの距離よりも大きい。また、各「シフト完了押圧位置」における「軸心」からの距離は、「セレクト方向の位置がその「シフト完了押圧位置」に対応するとともにシフト方向の位置がシフトレバーの中立位置に対応するカム曲面P上における位置」における「軸心」からの距離と等しい。以下、各変速段について、より具体的に説明していく。
シフトレバーがニュートラル位置にある場合、図6に示すように、インナーレバー21Aが1つのヘッド81と係合している。即ち、インナーレバー21Aにより、1つのヘッド81が選択される。この状態では、手動変速機はニュートラル状態にある。また、この状態では、図9に示すように、カム曲面P上における押圧ピンの押圧位置は、図8の点oの位置となる。
シフトレバーがニュートラル位置から4速シフト位置に操作されると、図10に示すように、インナーレバー21Aがヘッド81の凹部をシフト方向(図中左方向)に押すことにより、ヘッド81(従って、フォークシャフト71)が中立位置からシフト方向(図中左方向)に沿ってシフト完了位置まで移動する。この結果、手動変速機が4速シフト状態となる。この状態では、図11に示すように、カム曲面P上における押圧ピンの押圧位置は、図8の点dの位置となる。
同様に、シフトレバーがニュートラル位置から3速シフト位置に操作されると、図12に示すように、ヘッド81(従って、フォークシャフト71)が中立位置からシフト方向(図中右方向)に沿ってシフト完了位置まで移動する。この結果、手動変速機が3速シフト状態となる。この状態では、図13に示すように、カム曲面P上における押圧ピンの押圧位置は、図8の点cの位置となる。
なお、実際には、シフトレバーのシフト操作に応じて、カムプレート50(従って、カム曲面P)がS&Sシャフト20の軸線を中心に回転するが、説明の便宜上、図11,13では、シフトレバーのシフト操作に応じて、カムプレート50が押圧ピンに対して並進するように記載している(後述する図15,17,19,21,23についても同様)。
次に、シフトレバーがLOWセレクト位置にある場合について説明する。この場合、インナーレバー21Aにより、1つのヘッド82が選択される。シフトレバーがLOWセレクト位置から2速シフト位置に操作されると、図14に示すように、ヘッド82(従って、フォークシャフト72)が中立位置からシフト方向(図中左方向)に沿ってシフト完了位置まで移動する。この結果、手動変速機が2速シフト状態となる。この状態では、図15に示すように、カム曲面P上における押圧ピンの押圧位置は、図8の点bの位置となる。
同様に、シフトレバーがLOWセレクト位置から1速シフト位置に操作されると、図16に示すように、ヘッド82(従って、フォークシャフト72)が中立位置からシフト方向(図中右方向)に沿ってシフト完了位置まで移動する。この結果、手動変速機が1速シフト状態となる。この状態では、図17に示すように、カム曲面P上における押圧ピンの押圧位置は、図8の点aの位置となる。
次に、シフトレバーがHIGHセレクト位置にある場合について説明する。この場合、インナーレバー21Bにより、1つのヘッド83が選択される。シフトレバーがHIGHセレクト位置から6速シフト位置に操作されると、図18に示すように、ヘッド83(従って、フォークシャフト73)が中立位置からシフト方向(図中左方向)に沿ってシフト完了位置まで移動する。この結果、手動変速機が6速シフト状態となる。この状態では、図19に示すように、カム曲面P上における押圧ピンの押圧位置は、図8の点fの位置となる。
同様に、シフトレバーがHIGHセレクト位置から5速シフト位置に操作されると、図20に示すように、ヘッド83(従って、フォークシャフト73)が中立位置からシフト方向(図中右方向)に沿ってシフト完了位置まで移動する。この結果、手動変速機が5速シフト状態となる。この状態では、図21に示すように、カム曲面P上における押圧ピンの押圧位置は、図8の点eの位置となる。
次に、シフトレバーがリバースセレクト位置にある場合について説明する。この場合、インナーレバー21Bにより、1つのヘッド84が選択される。シフトレバーがリバースセレクト位置からリバースシフト位置に操作されると、図22に示すように、ヘッド84(従って、フォークシャフト74)が中立位置からシフト方向(図中左方向)に沿ってシフト完了位置まで移動する。この結果、手動変速機がリバースシフト状態となる。この状態では、図23に示すように、カム曲面P上における押圧ピンの押圧位置は、図8の点gの位置となる。
以下、インターロックプレート30A,30Bの機能について説明する。図6,10,12,14,16,18,20,22に示すように、選択されていない残りのヘッドの凹部はそれぞれ、インターロックプレート30A,30Bの何れか(具体的には、規制部33A,33Bの何れか)と係合している。ここで、インターロックプレート30A,30Bは、シフト方向に移動しない。従って、何らかの原因により、選択されていないヘッドに対してシフト方向の外力が加えられても、選択されていないヘッドのシフト方向への移動は規制(禁止)される。このように、インターロックプレート30A,30B(規制部33A,33B)は、選択されていないヘッドを中立位置に固定する機能(即ち、インターロック機能)を達成している。
このように、シフトレバーが図4に示すパターンに沿って正常に操作される場合、1つのヘッドが選択され、残りのヘッドがインターロックプレート30A,30Bの何れか(規制部33A,33Bの何れか)のインターロック機能により中立位置に固定される。一方、実際には、シフトレバーが図4に示すパターンからずれたパターンで異常に操作される場合も発生し得る。このような場合、2つのヘッドが同時に選択され得る。以下、この状態を「二重選択状態」と呼ぶ。
二重選択状態においても、選択された2つのヘッドのうちの少なくとも1つがインターロックプレートと係合する。この結果、インナーレバー、並びに、選択された2つのヘッドのシフト方向の移動が規制される。このように、インターロックプレート30A,30B(規制部33A,33B)のインターロック機能によれば、二重選択状態に起因して2つのヘッドがシフト完了位置まで同時に移動する現象(所謂「二重シフト」)の発生も抑制され得る。
次に、カムプレート50の機能について説明する。上述のように、カム曲面Pの「軸心」からの距離は、セレクト方向の位置に応じて変化する。即ち、カム曲面Pは、セレクト方向に対して傾斜している。この傾斜と、押圧ピンのカム曲面Pに対する押圧力とに起因して、S&Sシャフト20にはセレクト方向の力(ディテント力)が発生する。他方、カム曲面P上における押圧ピンの押圧位置における「軸心」からの距離が大きいほど、押圧ピンの押圧力が大きくなる。従って、ディテント力が大きくなる。換言すれば、カム曲面Pの「軸心」からの距離についてのセレクト方向における推移を調整することで、シフトレバーのセレクト操作における位置とディテント力の大きさとの関係が調整され得、この結果、シフトレバーのセレクト操作の操作力を調整する機能(セレクト操作力調整機能)が達成される。なお、実際には、シフトレバーのセレクト操作の操作力は、カムプレート50と押圧ピンとの協働によるディテント力に加え、シフトレバーの回動中心軸にねじりトルクを直接付与する弾性部材の付勢力によっても調整され得る。
加えて、上述のように、カム曲面P上において、各「シフト完了押圧位置」(点a〜g)に対してセレクト方向の両側に隣接するカム曲面P上のそれぞれの位置において、S&Sシャフト20の径方向外側に突出する突出部51がそれぞれ形成されている。各突出部51の頂部における「軸心」からの距離は、その突出部51に対してセレクト方向に隣接する2つの「シフト完了押圧位置」における「軸心」からの距離よりも大きい。従って、各変速段のシフト完了状態において、シフトレバーのセレクト操作がなされると、押圧ピンが対応する突出部51を乗り越えようとする。このとき、このセレクト操作によるシフトレバーの移動(従って、S&Sシャフト20の移動)を阻止する方向の大きいディテント力が発生する。よって、各変速段のシフト完了状態において、シフトレバーのセレクト方向の移動を規制する機能(セレクト操作規制機能)が達成される。この結果、シフトレバーの操作フィーリングが向上する。
(作用・効果)
以下、本発明の実施形態に係るS&Sシャフトアッセンブリの作用・効果について説明する。上記実施形態によれば、カムプレート50と押圧ピンとの協働により、「セレクト操作力調整機能」も「セレクト操作規制機能」も共に達成され得る。即ち、背景技術の欄で述べた図24に示したS&Sシャフトアッセンブリにおけるシフトガイドプレート130(及び、ガイドピン)に相当する部材が省略され得る。従って、「セレクト操作規制機能」及び「セレクト操作力調整機能」を共に達成しつつ、且つ安価なS&Sシャフトアッセンブリを提供することができる。
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、カムプレート50カム曲面Pを押圧する押圧部材として押圧ピンが使用されているが、前記押圧部材として球が使用されてもよい。
また、上記実施形態では、カム曲面P上における各「シフト完了押圧位置」における「軸心」からの距離が、「セレクト方向の位置がその「シフト完了押圧位置」に対応するとともにシフト方向の位置がシフトレバーの中立位置に対応するカム曲面P上における位置」における「軸心」からの距離と等しくされているが、等しくなくてもよい。
また、上記実施形態では、S&Sシャフト20において2つのインナーレバーが形成されているが、S&Sシャフト20において1つのみ、或いは3つ以上のインナーレバーが形成されていてもよい。
また、上記実施形態では、インナーレバー21A,21B又はインターロックプレート30A,30B(規制部33A,33B)と係合する対象として、4つのヘッドが存在するが、2つ、3つ、或いは、5つ以上のヘッドが存在していてもよい。また、4つのヘッドのセレクト方向における配置順序、位置関係等が異なっていてもよい。
また、上記実施形態では、インターロックプレート30A,30Bの共通の1つの回転止め部材としてプレート40が使用されているが、共通の1つの回転止め部材として、プレートに代えてピンが採用されてもよい。この場合、係合部32A(32B)に軸方向に平行な貫通孔が形成され、各貫通孔にピンが嵌合される。
加えて、上記実施形態では、カムプレート50がスリーブ22に取り付けられ、スリーブ22がシャフト本体に組み付けられることで、カムプレート50がS&Sシャフト20に固定されているが、カムプレート50がシャフト本体に直接取り付け・固定されてもよい。この場合、前記第2ノック穴と前記突起とはシャフト本体に直接形成される。