JP5532009B2 - 早期錆熟成耐候性鋼材及びその製造方法 - Google Patents

早期錆熟成耐候性鋼材及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、耐候性鋼材の新しい表面処理方法に関し、特に、耐候性鋼に、意匠性付与で用いる目的の良外観の錆を早期に形成させる方法およびその鋼材に関する。
耐候性鋼は、Cu、Ni、Cr、P、Mo等の元素が少量含有された低合金鋼であり、大気中で腐食する過程で、耐候性鋼表面に腐食要因の透過を抑制する保護性の高い錆層が形成する。保護性の錆が形成された耐候性鋼の腐食速度は著しく低下する特徴を有しているため、近年は、構造物のライフサイクルコストを抑える材料として注目されている。
また、保護性の錆色は、落ち着いた褐色の外観を呈し、建築物などの意匠性の材料として使用するニーズも有るが、落ち着いた錆外観になるには時間を要するため、あらかじめ錆色の材料を用意しなければならないという問題がある。
錆を促進させる方法としては、腐食性の物質を塗布して乾燥することが考えられるが、季節によって湿度が異なるため、好ましい色の錆外観を安定して得るは難しい。
このような課題に対し、特許文献1では、pHが2.3以下の酸性腐食液を1回塗布し乾燥させて錆層を生成させ、その後にリン酸塩被膜を形成させることを必須としている。しかし、リン酸塩被膜は簡易な防錆処理(防錆プライマー処理)として知られているものであり、むしろ錆の生成が抑制されてしまう。
また、特許文献2には、鋼材表面をpH2.5 以上7未満の溶液0.10〜5mg/cm2で5〜60分湿潤し次いで乾燥する工程を繰り返すという方法が提案されているが、湿潤と乾燥を繰り返すために、特別な設備が必要とするとともに生産効率が悪いという欠点が有る。
さらに、実使用環境における耐候性鋼材の錆発生促進手段として、水を散布して濡れ渇きを繰り返す方法が知られている。しかし、この方法は湿度の高い夏季であれば、ある程度の錆発生促進効果がえられるものの、通常の耐候性材への適用ではその効果は十分とは言えず、更に、空気の乾燥する冬季にはほとんど効果は認められないという問題があった。
特開平1−142088号公報 特開2001−172773号公報
本発明の目的は、季節に依らず一年を通して、早期に意匠性に優れた錆を生成することができる耐候性鋼材とその製造法を提供することにある。
本発明者らは、前記課題、特に夏季に限らず、冬季のような低湿度環境でも褐色の錆を短期に効率よく形成させための条件について鋭意検討を行い、鉄を溶解させるためのpH制御と、錆形成を促進させるための適切な酸化作用を併用することが有効であることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明の要旨は、
(1) 耐候性鋼材の表面が、少なくとも、モル比で0.1≦Cu/P≦20のCuとP、および塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムから選ばれる1種以上の塩を含む処理層で覆われていることを特徴とする早期錆熟成耐候性鋼材。
(2) 前記処理層中において、Cuが付着量として1〜200mg/m2であり、Pが付着量として1〜30mg/m2であることを特徴とする(1)に記載の早期錆熟成耐候性鋼材。
(3) 前記耐候性鋼材が、P:0.01〜0.15質量%、Cu:0.10〜1.0質量%、及びNi:0.10〜5.0質量%から選ばれた1種以上を含有する鋼よりなることを特徴とする(1)または(2)に記載の早期錆熟成耐候性鋼材。
(4) 前記耐候性鋼材が、付加成分としてさらに、Si:0.10〜1.0質量%、Cr:0.01〜3.0質量%から選ばれた1種以上を含有する鋼よりなることを特徴とする(3)に記載の早期錆熟成耐候性鋼材。
(5) 前記耐候性鋼表面に経時によって形成される錆層が、鋼材に近い側にリチウム、マグネシウム、カルシウムから選ばれる1種以上の元素が存在し、鋼材から遠い側に塩素が存在している構造であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の早期錆熟成耐候性鋼材
(6) 前記錆層が、鋼材に近い側に、更に、クロム、銅、リンから選ばれる1種以上の元素が存在していることを特徴とする(5)に記載の早期錆熟成耐候性鋼材
(7) 耐候性鋼材表面に、pHが2以上2.6未満であり、モル比が0.1≦Cu/P≦20であるCuイオンとリン酸(H3PO4)、および塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムから選ばれる1種以上の塩1〜10質量%を含む処理液を塗布、乾燥させることを特徴とする早期錆熟成耐候性鋼材の製造方法。
(8) 前記処理液がリン酸(H3PO4)を0.02質量%〜0.15質量%、Cuイオンを0.01〜2.0質量%含有していることを特徴とする(7)に記載の早期錆熟成耐候性鋼材の製造方法。
(9) 前記処理液を、Cuの付着量が1〜200 mg/m2、Pの付着量が1〜30mg/m2となるよう前記耐候性鋼材表面に塗布することを特徴とする(7)または(8)に記載の早期錆熟成耐候性鋼材の製造方法。
(10) 前記耐候性鋼材が、P:0.01〜0.15質量%、Cu:0.10〜1.0質量%、及びNi:0.10〜5.0質量%から選ばれた1種以上を含有する鋼よりなることを特徴とする(7)〜(9)のいずれかに記載の早期錆熟成耐候性鋼材の製造方法。
(11) 前記耐候性鋼材料が、付加成分としてさらに、Si:0.10〜1.0質量%、Cr:0.01〜3.0質量%から選ばれた1種以上を含有する鋼よりなることを特徴とする(10)に記載の早期錆熟成耐候性鋼材の製造方法。
(12) (7)〜(11)のいずれか1項に記載の方法により得た早期錆熟成耐候性鋼材に、水の散布と乾燥を1日に1回以上行うことを特徴とする錆付耐候性鋼材の製造方法。
本発明の早期錆熟成耐候性鋼材は、早期に意匠性のある錆付き耐候性鋼に変化させうるため、景観や意匠性を求められる建築材や構造物に広く利用でき、産業価値を高くする効果を有する。
ここで、早期とは2日から1週間程度のことを云う。また、意匠性とは、建築物の壁などに、塗装せずにそのまま用いても美麗な褐色(焦げ茶色)の落ち着いた錆外観をもたらすものを云う。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明による耐候性鋼材は、その表面が、モル比で0.1≦Cu/P≦20のCuイオンとリン酸、および塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムから選ばれる1種以上の塩を含む処理層で覆われていることを特徴とする、早期錆熟成耐候性鋼材である。
さらに、処理層中に、Cuが付着量として1〜200mg/m2、Pが付着量として1〜30mg/m2含まれていることを特徴とする早期錆熟成耐候性鋼材である。
Pはリン酸により、Cuはその硫酸塩または塩化物から処理層となるため、処理液の濃度および最適pHの関係より、モル比が0.1≦Cu/P≦20の間が好ましい状態の範囲とした。
また、一回あたり均一に処理液で処理するとき、処理液の濃度から、CuとPの付着量は、Cuでは1〜300mg/m2が最適な範囲であり、Pでは1〜30mg/m2が最適な範囲である。表面に処理斑が起きた場合の処理の繰り返しは、3回も繰り返せば十分であることから、Cuが付着量として1〜200mg/m2、Pが付着量として1〜30mg/m2が好ましい範囲である。
本発明の早期錆熟成耐候性鋼材は、早期に錆外観となることが第一の目的であるが、その後長期にわたりその外観を維持することも必要である。そのために基材となる鋼材を耐候性鋼とすることが必要である。特に、前記耐候性鋼材が、P:0.01〜0.15質量%、Cu:0.10〜1.0質量%、及びNi:0.10〜5.0質量%から選ばれた1種以上を含有することが好ましい。また、前記耐候性鋼材が付加成分としてさらに、Si:0.10〜1.0質量%、Cr:0.01〜3.0質量%から選ばれた1種以上をさらに含有すると、より好ましい。
本発明の表面処理耐候性鋼材は、保護性および意匠性の観点から均一に錆を形成させるために、処理剤塗布の前に鋼材表面のミルスケールや脆い錆を除去しておくことが望ましい。ミルスケールはショットブラストやグリットブラストまたはサンドブラストによって除去すればよい。脆い錆の除去はワイヤブラシなどを用いて行えばよい。また、ブラスト処理後の錆びた鋼材については、錆びのうち表面の浮き錆のみを除去しこれに処理を行うことも可能である。
このように随意的に表面処理をして得られる鋼材表面に、pHが2以上2.6未満であり、モル比が0.1≦Cu/P≦20であるCuイオンとリン酸、および塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムから選ばれる1種以上の塩を1質量%〜10質量%含む水溶液を塗布乾燥させることにより、早期錆熟成耐候性鋼材を得ることができる。
この処理液の塗布の方法は、スプレーあるいはローラー、または刷毛塗りなど、一般に塗装などに用いられる方法が適用可能である。
塗布する量は、鋼材が均一に濡れる塗布量であれば、例えば0.1〜5mg/cm2(鋼材表面1cm2当たり0.10〜5mg)で、十分な効果が発現できる。乾燥は、室温、例えば25℃±15℃、で行うのが良い。加熱乾燥すると、乾燥が早くなり鋼材との充分に反応しない可能性があるからである。
溶液のpHの適正範囲について、pHが2未満では、酸性が強くなりすぎて、鋼材表面に防食性のリン酸塩結晶が生成されるために本発明の目的を達成しなくなる。
一方、pHが2.6を越えると、鋼材面の鉄の溶解性が悪くなり、処理液の濡れ性が劣るため、均一な処理となり難く、錆の生成が促進されないだけでなく、均一な錆形成がなされにくくなるからである。
本発明で用いるCuイオンは、鉄に対して酸化作用をもたらすために選択されるものである。硫酸銅、塩化銅などを用いることができる。硝酸銅を用いた場合には、硝酸イオンが鉄の不動態化をもたらし、錆生成が早くならないこと、危険性の観点から本発明の対象から除外される。
鉄よりも電気化学的電位が貴のCu2+イオン以外のCo2+、Ni2+、Ag+金属イオンも酸化作用のあるイオンとして用いられるが、価格面などから銅が最も望ましい。
CuとPのモル比について、0.1≦Cu/P≦20とすることで、鋼材に対して酸化作用を示すCuイオンと溶解作用をもたらす酸の割合の関係より、この範囲が好ましい範囲であることを明らかにした。
Cu/Pのモル比が0.1未満では、Cuイオンの量が少なく、錆を形成させるのに充分な促進作用が得られない。
一方、Cu/Pの比が20を超えると、鋼材表面の大部分がCuで覆われてしまうため、やはり錆の形成が抑制されるからCu/Pは20以下とする。
また、付着量は、上記の条件を満たし、1回あたりCuが1〜200 mg/m2、Pが1〜30mg/m2の範囲で付着するのが望ましい。
塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムから選ばれる1種以上の塩を1〜10質量%を含むことで、夏季の高湿度な季節に限らず、冬季の湿度が低い空気が乾燥した場合でも、見た目に落ち着いた褐色の錆外観を短期かつ安定的に得ることができる。
塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、これらの塩の飽和塩水の平衡湿度が、相対湿度でそれぞれ、15%、33.6%、32.3%と低いため、冬季のような低湿度環境でも乾燥が遅くなるために湿度が高い季節と同様に褐色の錆が形成されると考えられる。
これらの塩の処理液中の好ましい添加量範囲は、添加量が1質量%以下では効果が少なく、10質量%以上ではほぼ効果が一定となるから1〜10質量%である。さらに好ましくは3〜5質量%である。
Cuイオンとリン酸、および塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムから選らばれる1種以上の塩を含む水溶液を、鋼材表面に塗布し自然乾燥させて1日放置すると、ほぼ均一で褐色の錆外観が達成できる。その後、屋外などで水の散布と乾燥を繰り返すことで均一な褐色の錆が安定して形成される。この錆安定化のための水散布により処理皮膜中の塩素イオンの大半は流出するが、処理皮膜中に残留する塩素イオン濃度が高いと最終的な錆の性質に悪影響をもたらす可能性があるため、目的とする褐色の錆が形成された後には十分に表面を水洗することが望ましい。
以上のような処理をされた鋼材の形成過程を通して、通常の鋼材暴露の過程で生成される黄色の流れ錆も形成されることなく、ほぼ均一で美麗な褐色外観の鋼材を得ることができる。
本発明の早期錆熟成耐候性鋼材が経時によってその鋼材表面に形成する錆層は、褐色の外観を有しており、基材となる鋼材に含まれる成分濃度よりも高濃度のCuとPを含有している。また、錆層の鋼材に近い側にCrの濃化もみられる。この錆層は飽和塩水平衡湿度の低い、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどにより適度に制御された乾燥条件のもと、リン酸との共存下において、Cuイオンにより鉄およびCrが酸化され緻密な錆の結晶が成長することで形成される。この緻密で褐色の錆が成長することで黄色い錆の形成が抑制されているものと考えられる。
さらに、本発明の早期錆の形成において、処理液成分である塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムから選ばれる1種以上に由来すると考えられるリチウム、カルシウム、マグネシウムから選ばれる1種以上が錆層の鋼材に近い側に、塩素が錆層の鋼材から遠い側(表層部分)にそれぞれ別々に存在する構造になることがEPMA(電子線マイクロアナライザ)により解った。
リチウムはEPMAの分析対象外であるため、GDS(グロー放電分光分析)により存在状態の確認を行った。GDSは試料表面の凹凸等の影響を受けるという問題はあるが、EPMA測定データのあるMg等についてGDS分析を行った結果と同じような挙動を示していることから、同じように鋼材界面近傍に存在しているものとすることができる。
Pを含む上記の元素が鋼材表面の錆層中に存在することで、早期に良好な褐色外観を有する錆層が形成されるとともに緻密で安定な錆層となるため、腐食因子となる塩素元素が錆層内部に侵入することなく、表層部にとどまっているためと考えられる。
本発明に用いられる鋼材は耐候性鋼材である。即ち、最終的な形態として無処理の状態で保護性の錆に変化しうる耐候性鋼材であれば特に限定されず、一般的な耐候性鋼材として知られているJISのSMA、SPA−H、SPA−C、ニッケル系高耐候性鋼などが用いられる。
前述のように安定錆形成能を有する耐候性鋼材であれば、その組成は特に限定されるものではないが、特にP:0.01〜0.15質量%、Cu:0.10〜1.0質量%、及びNi:0.10〜5.0質量%から選ばれた1種以上を含有すると、安定錆の早期形成、形成される錆の意匠性の点で好ましい。付加成分としてさらに、Si:0.10〜1.0質量%、Cr:0.01〜3.0質量%から選ばれた1種以上をさらに含有するとより好ましい。
以下、本発明を実施例に基づいて、具体的に説明する。
表1〜3に示す実施例1〜25、および比較例1〜22に示す水準では、一般耐候性鋼(JIS SMA 400AW)と3%Niのニッケル系高耐候性鋼(JIS SMA400W−MOD)のミルスケールつき鋼材から得た試験片(150mm×75mm×5mm)に、ブラスと処理によりミルスケールを除去した後に、表1〜3に示す組成の処理液を、湿度の低い1月の実験室内(相対湿度約35%、平均気温20℃)で鋼材表面が均一に濡れるように1回刷毛塗りした。
一部の試験片は、そのまま放置し、翌日に乾燥後の外観を評価した。続いて、さらに試験片を大気中に暴露し、毎日噴霧器で水道水を散布して7日後の外観を評価した。
評価は目視により行い、評価基準としては、◎:全面に均一外観の褐色錆、○:ほぼ全面が褐色錆で一部に点状の黄色錆、△:全面が黄色錆、×:ほとんど錆無し、とした。
その結果を表1、2に示す。
表1、2に示す試験の結果、一般耐候性鋼材(SMA材)と3%Niのニッケル系高耐候性鋼材(3Ni鋼)に対してほぼ同じ効果を示すのがわかる。
比較例1の、ブラストしたままの鋼材では、冬季では水を散布してもほとんど錆が生成しない。
比較例2〜3の、Cuイオンだけの場合は、Cuが析出してめっきとなり、暴露試験での良好な錆は得られにくいのがわかる。
比較例4〜7の、リン酸のみの場合は、pHが高い溶液の場合(比較例4〜6)には、塩を添加しても添加しなくても錆生成への効果は無く、比較例7の場合にはリン酸塩と思われる白色の表面となり、錆の生成も促進されなかった。
比較例9〜15より、リン酸とCuが共存しても、Cu/Pの比が本発明から外れる場合には効果が無いのがわかる。
比較例8、16は、Cu/Pの比が適当な範囲にあるが、塩の添加の無いと、褐色の錆外観は1週間では形成されないことがわかる。
比較例17〜18より、pHが低くなり、リン酸が多くなると、リン酸結晶の性質となるために、錆の生成が遅くなる結果となることがわかる。
実施例1〜22で、pHが2〜2.6の範囲、Cu/Pの比が適当な範囲に有り、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムの1種以上が適当に有ると、翌日には褐色した錆外観となるのがわかる。さらに、1週間後には、ほぼ均一な良い外観が得られるのがわかる。
Figure 0005532009
Figure 0005532009
続いて、処理液を刷毛塗りした残りの試験片を容器内に入れて、25℃で、相対湿度90%が4時間、相対湿度60%が4時間の繰り返しながら、1日後、と7日後に外観評価を行った。結果を表3に示す。
表3によると、リン酸とCuイオンの両方が無い比較例19,リン酸が無い比較例20の場合は、褐色な外観が得られず、また、Cuイオンが無い比較例21の場合には、均一な褐色な外観が得られないのが解る。リン酸とCuイオンが本発明の範囲にあるが、塩の添加の無い比較例22は、7日後には錆層は形成されるが、実施例23−25よりも塗布1日後の外観では劣り、添加した塩の効果が確認できる。
前記の冬季屋外の結果と上記の結果を総合すると、実施例では、夏冬の季節や湿度の影響なく良好な錆外観を得る効果があることがわかる。
Figure 0005532009
以上のように、pHの適正範囲(2〜2.6)で、適当な0.1≦Cu/P≦20の範囲で、さらに適当な塩の添加によりほぼ均一な意匠性の錆外観を1週間ほどまでに生成できることがわかる。
次に、以上の例で得られた錆層の構造について解析した。
良好な錆外観の得られた実施例2、3の断面を、EPMAで分析した結果、塩素元素が地鉄から遠い側に存在し、塩化物として入れた中のカチオン元素(Mg、Caのいずれか)、リンが地鉄に近い側に存在していることが解った。
一方、比較例5、比較例9の同様の分析の結果では、アニオン元素の塩素とその対のカチオン元素(Mg)はほぼ同じ位置に分布していることが解った。
この結果から、地鉄に近い側にカチオン元素とリン(P)が存在する錆構造となることで、錆の安定化にあまり良くないアニオン元素の塩素が入りにくいために鋼材から遠い側に存在し、その結果良好な外観の錆が形成されると考えられる。
本発明による早期錆熟成耐候性鋼材は、季節の影響が少なく、非常に短期に褐色の錆外観とることから、早期に意匠性の求められる建築物や土木構造物の鋼材として提供することができる。

Claims (12)

  1. 耐候性鋼材の表面が、少なくとも、モル比で0.1≦Cu/P≦20のCuとP、および塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムから選ばれる1種以上の塩を含む処理層で覆われていることを特徴とする早期錆熟成耐候性鋼材
  2. 前記処理層中において、Cuが付着量として1〜200mg/m2であり、Pが付着量として1〜30mg/m2であることを特徴とする請求項1に記載の早期錆熟成耐候性鋼材
  3. 前記耐候性鋼材が、P:0.01〜0.15質量%、Cu:0.10〜1.0質量%、及びNi:0.10〜5.0質量%から選ばれた1種以上を含有する鋼よりなることを特徴とする請求項1または2に記載の早期錆熟成耐候性鋼材。
  4. 前記耐候性鋼材が、付加成分としてさらに、Si:0.10〜1.0質量%、Cr:0.01〜3.0質量%から選ばれた1種以上を含有する鋼よりなることを特徴とする請求項3に記載の早期錆熟成耐候性鋼材。
  5. 前記耐候性鋼表面に経時によって形成される錆層が、鋼材に近い側にリチウム、マグネシウム、カルシウムから選ばれる1種以上の元素が存在し、鋼材から遠い側に塩素が存在している構造であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の早期錆熟成耐候性鋼材
  6. 前記錆層が、鋼材に近い側に、さらに、クロム、銅、リンから選ばれる1種以上の元素が存在している構造であることを特徴とする請求項5に記載の早期錆熟成耐候性鋼材
  7. 耐候性鋼材表面に、pHが2以上2.6未満であり、モル比が0.1≦Cu/P≦20であるCuイオンとリン酸(H3PO4)、および塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムから選ばれる1種以上の塩1〜10質量%を含む処理液を塗布、乾燥させることを特徴とする早期錆熟成耐候性鋼材の製造方法。
  8. 前記処理液がリン酸(H3PO4)を0.02質量%〜0.15質量%、Cuイオンを0.01〜2.0質量%含有していることを特徴とする請求項7に記載の早期錆熟成耐候性鋼材の製造方法。
  9. 前記処理液を、Cuの付着量が1〜200mg/m2、Pの付着量が1〜30mg/m2となるよう前記耐候性鋼材表面に塗布することを特徴とする請求項7または8に記載の早期錆熟成耐候性鋼材の製造方法。
  10. 前記耐候性鋼材が、P:0.01〜0.15質量%、Cu:0.10〜1.0質量%、及びNi:0.10〜5.0質量%から選ばれた1種以上を含有する鋼よりなることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の早期錆熟成耐候性鋼材の製造方法。
  11. 前記耐候性鋼材が、付加成分としてさらに、Si:0.10〜1.0質量%、Cr:0.01〜3.0質量%から選ばれた1種以上を含有する鋼よりなることを特徴とする請求項10に記載の早期錆熟成耐候性鋼材の製造方法。
  12. 請求項7〜11のいずれか1項に記載の方法により得た早期錆熟成耐候性鋼材に、水の散布と乾燥を1日に1回以上行うことを特徴とする錆付耐候性鋼材の製造方法。
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