JP5600992B2 - 耐候性に優れた表面処理耐食性鋼材 - Google Patents
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これら上記特許文献に示された鋼材は、飛来塩分の多い環境において大気中で長期間曝されると十分な耐候性が得られないという問題点があった。したがって、このような環境において高耐食性を維持する鋼材が強く望まれていた。すなわち、長期の耐食性が必要とされる橋梁においても、ライフサイクルコストのミニマム化の要求が高く、ライフサイクルマネジメントを考える上で非常に重要となる。
Fe3++e−→Fe2+ (Fe3+の還元反応) ・・・・(2)
そして、この反応以外にも、次のカソード反応(3)、(4)も併発する。
2H2O+O2+4e−→4OH− ・・・・(3)
2H++2e−→H2 ・・・・(4)
アノード反応:Fe→Fe2++2e− (Feの溶解反応) ・・・(5)
従って、腐食の主な総括反応は、次の(6)式のとおりである。
2Fe3++Fe→3Fe2+ ・・・・(6)
上記(6)式の反応により生成したFe2+は、空気酸化によってFe3+に酸化され、生成したFe3+は再び酸化剤として作用し、腐食を加速する。この際、Fe2+の空気酸化の反応速度は低pH環境では一般に遅いが、濃厚塩化物溶液中では加速され、Fe3+が生成され易くなる。このようなサイクリックな反応のため、飛来塩分量が非常に多い環境では、Fe3+が常に供給され続け、鋼の腐食が加速され、耐食性が著しく劣化することになることが判明した。
(a)Snは、Sn2+として溶解し、2Fe3++Sn2+→2Fe2++Sn4+なる反応によりFe3+の濃度を低下させることで、(6)式の反応を抑制する。Snには、さらに(5)式に示されたアノード溶解を抑制するという作用もある。
(f)Nはアンモニアとして溶解し、腐食界面のpHを上昇させる作用を有する。飛来塩分量の多い環境では、上記Fe3+の加水分解によりpHが低下するが、Nを含有させることにより、腐食界面のpHは中和により低下が抑制され、耐候性および塗膜剥離性が向上する。
(1)化学組成が、質量%で、C:0.001%以上0.20%以下,Si:2.5%以下,Mn:0.5%超2.5%以下,P:0.03%以下,S:0.005%以下,Ni:0.05%以下,Cr:0.01%以上3.0%以下,Al:0.003%以上0.1%以下,N:0.001%以上0.1%以下,Sn:0.01%以上0.50%以下,ならびに残部Feおよび不可避的不純物からなる基材と、当該基材上に、全被膜質量に基づいて、5質量%以上19質量%以下の3価クロムイオン、1質量%以上のアニオン、およびバインダー成分を有する保護性さび層の生成を促進する被膜とを備えることを特徴する表面処理鋼材。
(3)前記基材の化学組成が、さらに質量%で、Ti:0.3%以下,Nb:0.1%以下,Mo:1.0%以下,W:1.0%以下,V:1.0%以下,Ca:0.1%以下,Mg:0.1%以下の元素のうち1種または2種以上を有する上記(1)または(2)に記載の表面処理鋼材。
(6)膜厚が20μm以上1000μm以下であって3価クロムイオンを含まない塗膜層を、前記被膜層上に備える上記(1)から(5)のいずれかに記載の表面処理鋼材。
本発明に係る表面処理鋼材は、下記の化学組成を有する鋼材を基材とし、さらに、下記の成分を含有する被膜をその基材上に備える。
本発明に係る表面処理鋼材の基材をなす鋼材に含まれる合金元素の作用効果を、その含有量の限定理由とともに、説明する。なお、合金元素の含有量「%」は、いずれも「質量%」を意味する。
Cは、鋼の強度を確保するために必要な合金元素であるが、多量に含有させると鋼材の溶接性が劣化する。したがって、C含有量は0.20%を上限とする。また、0.001%未満になると所定の強度が確保できないので、下限は0.001%とする。望ましい範囲は、0.005%以上0.15%以下である。
Siは、製鋼時の脱酸に必要な合金元素である。同じく脱酸剤としての働きをするAlを含有する場合には、特に添加をしなくてもよいが、Al含有量が0.005%未満の場合には、0.4%以上含有させるのが望ましい。一方、2.5%を超えてSiを含有させると、鋼の靱性が損なわれる。したがって、Siの含有量は2.5%以下とする。また、Siには耐候性を向上させる効果もある。この効果を得たい場合には、0.1%以上添加するのが好ましい。
Mnは、低コストで鋼の強度を高める作用効果を有する元素であり、鋼中のSの含有量が低い場合には、一般に高飛来塩分環境における耐候性を向上させる作用を有する。しかしながら、鋼中のSと結合してMnSを形成し、このMnSが腐食の起点となり、耐食性、ひいては耐候性を劣化させる。また、機構は不明であるが、Niと共存する場合にはMnの含有量が2.5%を超えると耐候性が劣化する。したがって、Mnの含有量は2.5%以下とする。望ましくは1.5%以下とする。なお、構造用鋼としての強度を維持するためには、Mnを0.5%を超えて含有させる必要がある。
Pは、不純物として含有されるが、濃厚な塩化物環境での過度のPの含有は耐候性を劣化させるため、できるだけ少なくする必要がある。したがって、その含有量は0.03%未満とする。
Sは、不純物として含有されるが、Mnと結合すると非金属介在物のMnSを形成して腐食の起点となり易く、耐候性を劣化させる。したがって、Sの含有はできるだけ少なくする必要があるので、その上限は0.005%とする。
Niは、一般的に飛来塩分の多い環境下での耐候性を著しく向上させる元素として従来から鋼中に添加され、Ni系高耐候性鋼として開発・実用化されてきている。しかし、理由は定かではないが、Snと複合添加した場合には、耐食性の改善効果がないばかりか、Snによる耐候性改善効果を低下させるという悪影響が現れる。したがって、Niの含有はできるだけ少なくする必要があり、不純物として含有されるとしても、Ni含有量は0.05%未満とする必要がある。
Crは、飛来塩分がそれほど多くない環境では保護性さびの形成による耐候性の向上が期待できるが、飛来塩分量が多い環境において鋼のアノード溶解反応を促進し耐候性を劣化させる。ところが、Snを含有する場合には、飛来塩分量が多い環境においても、Cr含有による耐候性の向上効果が発揮される。この効果は含有量0.01%以上で発揮されるが、3.0%を超えると局部腐食感受性が高まるとともに、溶接性が劣化する。したがって、Cr含有量は0.01%以上3.0%以下とする必要がある。なお、Crの含有量の望ましい範囲は0.05%以上1.0%以下である。
Alは、鋼の耐候性の向上に寄与するとともに、脱酸剤の役割を果たす。耐候性を向上させるために、0.003%以上含有させる。一方、Al含有量が0.1%を超えると鋼が脆化しやすくなる。したがって、Al含有量は0.003%以上0.1%以下とする。
Nは、アンモニアとなって溶解し酸と中和する作用があり、飛来塩分の多い環境におけるFe3+の加水分解によるpH低下を抑制することで、塩分環境における耐候性を向上させる効果を有する。この効果はNを0.001%以上含有させることにより得られ、0.1%を超えると飽和する。したがって、Nの含有量は0.001〜0.1%とする。含有量の望ましい範囲は0.002%以上0.08%以下である。
Snは、Sn2+となって溶解し、酸性の塩化物溶液中でのインヒビター作用によりpHの低下したアノードでの腐食を抑制する作用を有する。また、Fe3+を速やかに還元させ、酸化剤としてのFe3+濃度を低減する作用を有することにより、Fe3+の腐食促進作用を抑制するので、飛来塩分の多い環境における耐候性を向上させる。これらの作用は、Snを0.01%以上含有させることにより得られ、0.50%を超えると飽和する。したがって、Snの含有量は0.01%以上0.50%とする。Snの含有量の望ましい範囲は0.03%以上0.20%である。
Cu:0.05%以下
Cuは、一般的に耐候性を向上させる基本元素とされ、ほとんどの高耐候性鋼や耐食鋼に添加されているが、高飛来塩分下の比較的ドライな環境においては、むしろ耐食性を低下させる。また本発明で規定する含有量のSnと共存すると鋼材製造時に割れが生じる原因にもなる。したがって、Cuの含有はできるだけ少ないことが好ましく、不純物として含有されるとしても、Cu含有量は0.05%以下とする必要がある。
本発明のようにSnを含有する鋼の場合には、Cuと共存すると耐候性の低下がする場合がある。また、鋼材を製造する際、Cuの含有による圧延割れの原因ともなる。このため、Sn含有量に対するCu含有量の比(Cu/Sn比)を1以下とする必要がある。
Tiは、TiCを形成してCを固定することによって、クロム炭化物の形成を抑制して耐候性を向上させる。また、TiSの形成によりSを固定することによって、腐食の起点となるMnSの形成を抑える。しかしながら、Tiの含有量が0.3%を超えると、この効果が飽和するだけでなく、鋼材のコストが上昇するので、その含有量の上限は0.3%とする。なお、この効果を確実に発現させるために、Tiを0.01%以上含有させることが好ましい。
Nbには、Tiと同様、NbCを形成することによって、クロム炭化物の形成を抑制して耐候性を向上させる効果がある。しかしながら、Nbの含有量が0.1%を超えると、この効果が飽和するだけでなく、鋼材のコストが上昇するので、その含有量の上限は0.1%とする。なお、この効果を確実に発現させるために、Nbを0.01%以上含有させることが好ましい。
Moは、溶解してオキシ酸イオンMoO4 2−の形でさびに吸着し、さび層中の塩化物イオンの透過を抑制し、耐候性を向上させる効果がある。しかしながら、Moの含有量が1.0%を超えると、この効果が飽和するだけでなく、鋼材のコストが上昇するので、その含有量の上限は1.0%とする。なお、この効果を確実に発現させるために、Moを0.01%以上含有させることが好ましい。
Wは、Moと同様、溶解して酸素酸イオンWO4 2−の形でさびに吸着し、さび層中の塩化物イオンの透過を抑制し、耐食性を向上させる効果がある。しかしながら、Wの含有量が1.0%を超えると、この効果が飽和するだけでなく、鋼材のコストが上昇するので、その含有量の上限は1.0%とする。なお、この効果を確実に発現させるために、Wを0.01%以上含有させることが好ましい。
Vは、MoやWと同様、溶解して酸素酸イオンVO3 2−の形でさびに吸着し、さび層中の塩化物イオンの透過を抑制し、耐候性を向上させる効果がある。しかしながら、Vの含有量が1.0%を超えると、この効果が飽和するだけでなく、鋼材のコストが上昇するので、その含有量の上限は1.0%とする。なお、この効果を確実に発現させるために、Vを0.01%以上含有させることが好ましい。
Caは、鋼中に酸化物の形で存在し、腐食反応部における界面のpHの低下を抑制して、腐食の促進を抑える効果がある。しかしながら、Caの含有量が0.1%を超えると、この効果が飽和するだけでなく、鋼材のコストが上昇するので、その含有量の上限は0.1%とする。なお、この効果を確実に発現させるために、Caを0.0001%以上含有させることが好ましい。
Mgは、Caと同様、腐食反応部における界面のpHの低下を抑制し、耐食性を向上させる効果がある。しかしながら、Mgの含有量が0.1%を超えると、この効果が飽和するだけでなく、鋼材のコストが上昇するので、その含有量の上限は0.1%とする。なお、この効果を確実に発現させるために、Mgを0.0001%以上含有させることが好ましい。
REM(ランタニドの15元素にYおよびScを合わせた17元素の総称)の一種または二種以上を鋼の溶接性を向上させる目的で含有させることができる。しかしながら、REMの総含有量が0.02%を超えると、この効果が飽和するだけでなく、鋼材のコストが上昇するので、その総含有量の上限は0.02%とする。なお、この効果を確実に発現させるために、REMを0.0001%以上含有させることが好ましい。
本発明に係る表面処理鋼材は、上記の基材上に次の成分を含有し、保護性さび層の生成を促進する被膜を備える。ここで、この被膜は、基材の表面に直接形成されていてもよいし、被膜と基材との間に保護性さび層が形成されていてもよい。
A)3価クロムイオン
本発明に係る被膜は3価クロムイオン(以下、「Cr3+」と記す。)を含有する。このCr3+は次のように、基材と被膜との間(被膜が部分的に剥離した部分においては基材上)に形成される保護性さび層の生成を促進する機能を有する。
飛来塩分の多い環境においてβ−FeOOHの生成抑制のさらなる効果を得るためには、被膜が1質量%以上のアニオンを含有する必要がある。含有するアニオンとしては、硫酸イオン、硝酸イオンに加え、クエン酸やプロピオン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸等の有機酸のイオンうち1種類または2種類以上を使用することができる。好ましいアニオンは、有機酸、特にクエン酸や酒石酸などのヒドロキシポリカルボン酸のアニオンである。
本発明に係る被膜は、上記のCr3+およびアニオンに加えて、被膜が被膜形状を維持するために、バインダーとなる成分(本発明において、「バインダー成分」という。)を含有する。
本発明に係る被膜は、上記成分以外に、ベンガラ、二酸化チタン、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、α−FeOOH、酸化鉄等の着色顔料ならびにタルク、シリカ、マイカ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の体質顔料をそれぞれ1種または2種以上を含有してもよい。
これらの任意配合成分の含有量は、上記の必須成分の機能を阻害しない範囲で、その被膜に求められる特性などに応じて適宜設定される。
本発明に係る被膜の厚さは5〜50μmとすることが好ましい。被膜の厚みがこの範囲であると、塩化物環境でも適切な保護性さび層が早期に生成する。より好ましい被膜厚みは20〜50μmの範囲内である。
上記の本発明に係る被膜を形成するための表面処理剤の組成および表面処理剤を用いた皮膜形成方法について説明する。
こうして形成された被膜の上に、上層として通常の塗装を乾燥膜厚で20〜1000μmになるように行うことも可能であり、特に飛来塩分量が高い場合には好適である。すなわち、従来の重防食塗装の下地処理として本発明の表面処理剤を用いると、塗装寿命の延長が可能である。上層の塗膜層の組成は特に制限されないが、例えばエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、フタル酸樹脂、ブチラール樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等の有機樹脂塗料をこの塗膜層の形成に使用できる。上層の塗膜層には、公知の体質顔料、着色顔料も添加することができる。さらに公知の防錆顔料も添加することもできる。なお、この上層の塗膜層の下層をなす被膜がCr3+を含有するため、塗膜層はCr3+を含有していなくてもよい。環境保護の観点からクロム成分の使用量の規制が厳しくなっている現状を考慮すれば、被膜に比べて膜厚が大きくなる傾向を有する上層の塗膜層はCr3+を含有しないことが好ましい。
得られた表面処理試験片をSAE(Society of Automotive Engineers)J2334試験により評価した。SAEJ2334試験は、次に示す乾湿繰り返しの条件で行う加速試験であり、腐食形態が大気暴露試験に類似しているとされている(長野博夫、山下正人、内田仁著:環境材料学、共立出版(2004)、p.74参照)。本試験は、飛来塩分量が1mddを超えるような厳しい腐食環境を模擬する試験である。
塩分付着:0.5質量%NaCl、0.1質量%CaCl2、0.075質量%NaHCO3水溶液浸漬、0.25時間、
乾燥:60℃、50%RH、17.75時間
を1サイクル(合計24時間)とした。
Claims (6)
- 化学組成が、質量%で、C:0.001%以上0.20%以下,Si:2.5%以下,Mn:0.5%超2.5%以下,P:0.03%以下,S:0.005%以下,Ni:0.05%以下,Cr:0.01%以上3.0%以下,Al:0.003%以上0.1%以下,N:0.001%以上0.1%以下,Sn:0.01%以上0.50%以下,ならびに残部Feおよび不可避的不純物からなる基材と、
当該基材上に、全被膜質量に基づいて、5質量%以上19質量%以下の3価クロムイオン、1質量%以上のアニオン、およびバインダー成分を有する保護性さび層の生成を促進する被膜と
を備えることを特徴する表面処理鋼材。 - 前記基材の化学組成が、さらに質量%で、Cu:0.05%以下を有するとともに、Sn含有量に対するCu含有量の比が1以下である、請求項1記載の表面処理鋼材。
- 前記基材の化学組成が、さらに質量%で、Ti:0.3%以下,Nb:0.1%以下,Mo:1.0%以下,W:1.0%以下,V:1.0%以下,Ca:0.1%以下,Mg:0.1%以下の元素のうち1種または2種以上を有する請求項1または2に記載の表面処理鋼材。
- 前記基材の化学組成が、さらに質量%で、REM:0.02%以下を有する請求項1から3のいずれかに記載の保護性さび層生成促進する表面処理鋼材。
- 前記被膜の膜厚が5μm以上50μm以下である請求項1から4のいずれかに記載の表面処理鋼材。
- 膜厚が20μm以上1000μm以下であって3価クロムイオンを含まない塗膜層を、前記被膜層上に備える請求項1から5のいずれかに記載の表面処理鋼材。
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