JP5531843B2 - 正孔注入輸送層用デバイス材料、正孔注入輸送層形成用インク、正孔注入輸送層を有するデバイス、及びその製造方法 - Google Patents

正孔注入輸送層用デバイス材料、正孔注入輸送層形成用インク、正孔注入輸送層を有するデバイス、及びその製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP5531843B2
JP5531843B2 JP2010168959A JP2010168959A JP5531843B2 JP 5531843 B2 JP5531843 B2 JP 5531843B2 JP 2010168959 A JP2010168959 A JP 2010168959A JP 2010168959 A JP2010168959 A JP 2010168959A JP 5531843 B2 JP5531843 B2 JP 5531843B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
layer
hole injection
transport layer
hole
substrate
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2010168959A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2011049545A (ja
Inventor
滋弘 上野
政人 岡田
洋介 田口
誠司 武
匡哉 下河原
奈苗 多ヶ谷
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Dai Nippon Printing Co Ltd
Original Assignee
Dai Nippon Printing Co Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Dai Nippon Printing Co Ltd filed Critical Dai Nippon Printing Co Ltd
Priority to JP2010168959A priority Critical patent/JP5531843B2/ja
Publication of JP2011049545A publication Critical patent/JP2011049545A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP5531843B2 publication Critical patent/JP5531843B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Classifications

    • HELECTRICITY
    • H10SEMICONDUCTOR DEVICES; ELECTRIC SOLID-STATE DEVICES NOT OTHERWISE PROVIDED FOR
    • H10KORGANIC ELECTRIC SOLID-STATE DEVICES
    • H10K50/00Organic light-emitting devices
    • H10K50/10OLEDs or polymer light-emitting diodes [PLED]
    • H10K50/14Carrier transporting layers
    • H10K50/15Hole transporting layers
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C09DYES; PAINTS; POLISHES; NATURAL RESINS; ADHESIVES; COMPOSITIONS NOT OTHERWISE PROVIDED FOR; APPLICATIONS OF MATERIALS NOT OTHERWISE PROVIDED FOR
    • C09KMATERIALS FOR MISCELLANEOUS APPLICATIONS, NOT PROVIDED FOR ELSEWHERE
    • C09K11/00Luminescent, e.g. electroluminescent, chemiluminescent materials
    • C09K11/08Luminescent, e.g. electroluminescent, chemiluminescent materials containing inorganic luminescent materials
    • C09K11/67Luminescent, e.g. electroluminescent, chemiluminescent materials containing inorganic luminescent materials containing refractory metals
    • C09K11/671Chalcogenides
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C09DYES; PAINTS; POLISHES; NATURAL RESINS; ADHESIVES; COMPOSITIONS NOT OTHERWISE PROVIDED FOR; APPLICATIONS OF MATERIALS NOT OTHERWISE PROVIDED FOR
    • C09KMATERIALS FOR MISCELLANEOUS APPLICATIONS, NOT PROVIDED FOR ELSEWHERE
    • C09K11/00Luminescent, e.g. electroluminescent, chemiluminescent materials
    • C09K11/02Use of particular materials as binders, particle coatings or suspension media therefor
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C09DYES; PAINTS; POLISHES; NATURAL RESINS; ADHESIVES; COMPOSITIONS NOT OTHERWISE PROVIDED FOR; APPLICATIONS OF MATERIALS NOT OTHERWISE PROVIDED FOR
    • C09KMATERIALS FOR MISCELLANEOUS APPLICATIONS, NOT PROVIDED FOR ELSEWHERE
    • C09K11/00Luminescent, e.g. electroluminescent, chemiluminescent materials
    • C09K11/06Luminescent, e.g. electroluminescent, chemiluminescent materials containing organic luminescent materials
    • HELECTRICITY
    • H05ELECTRIC TECHNIQUES NOT OTHERWISE PROVIDED FOR
    • H05BELECTRIC HEATING; ELECTRIC LIGHT SOURCES NOT OTHERWISE PROVIDED FOR; CIRCUIT ARRANGEMENTS FOR ELECTRIC LIGHT SOURCES, IN GENERAL
    • H05B33/00Electroluminescent light sources
    • H05B33/12Light sources with substantially two-dimensional radiating surfaces
    • H05B33/14Light sources with substantially two-dimensional radiating surfaces characterised by the chemical or physical composition or the arrangement of the electroluminescent material, or by the simultaneous addition of the electroluminescent material in or onto the light source
    • HELECTRICITY
    • H10SEMICONDUCTOR DEVICES; ELECTRIC SOLID-STATE DEVICES NOT OTHERWISE PROVIDED FOR
    • H10KORGANIC ELECTRIC SOLID-STATE DEVICES
    • H10K50/00Organic light-emitting devices
    • H10K50/10OLEDs or polymer light-emitting diodes [PLED]
    • H10K50/14Carrier transporting layers
    • HELECTRICITY
    • H10SEMICONDUCTOR DEVICES; ELECTRIC SOLID-STATE DEVICES NOT OTHERWISE PROVIDED FOR
    • H10KORGANIC ELECTRIC SOLID-STATE DEVICES
    • H10K2102/00Constructional details relating to the organic devices covered by this subclass
    • H10K2102/10Transparent electrodes, e.g. using graphene
    • H10K2102/101Transparent electrodes, e.g. using graphene comprising transparent conductive oxides [TCO]
    • H10K2102/103Transparent electrodes, e.g. using graphene comprising transparent conductive oxides [TCO] comprising indium oxides, e.g. ITO
    • HELECTRICITY
    • H10SEMICONDUCTOR DEVICES; ELECTRIC SOLID-STATE DEVICES NOT OTHERWISE PROVIDED FOR
    • H10KORGANIC ELECTRIC SOLID-STATE DEVICES
    • H10K50/00Organic light-emitting devices
    • H10K50/10OLEDs or polymer light-emitting diodes [PLED]
    • H10K50/17Carrier injection layers

Description

本発明は、エネルギー照射により濡れ性が変化すると共に正孔注入輸送性を有する正孔注入輸送層用デバイス材料、並びに、当該デバイス材料を用いた正孔注入輸送層形成用インク、正孔注入輸送層を有するデバイス、及びその製造方法に関するものである。
正孔注入輸送層を有するデバイスとしては、有機エレクトロルミネセンス素子(以下、有機EL素子という。)、有機トランジスタ、有機太陽電池、有機半導体等の有機デバイス、またその他に、量子ドット発光素子、酸化物系化合物太陽電池等、広範な基本素子及び用途への展開が期待されている。
例えば、有機EL素子は、発光層に到達した電子と正孔とが再結合する際に生じる発光を利用した電荷注入型の自発光デバイスである。有機EL素子の素子構造は、現在では、高い発光効率と長駆動寿命を得るために、電子注入層/電子輸送層/発光層/正孔輸送層/正孔注入層とからなる5層構造など、様々な多層構造が提案されている。
これら電子注入層、電子輸送層、正孔輸送層、正孔注入層などの発光層以外の層には、電荷を発光層へ注入・輸送しやすくする効果、あるいはブロックすることにより電子電流と正孔電流のバランスを保持する効果や、光エネルギー励起子の拡散を抑制するなどの効果があるといわれている。
電荷輸送能力および電荷注入能力の向上を目的として酸化性化合物を、正孔輸送性材料に混合して電気伝導度を高くすることが試みられている。
特許文献1〜4においては、酸化性化合物すなわち電子受容性化合物として、化合物半導体である金属酸化物が用いられている。例えば五酸化バナジウムや三酸化モリブデンなどの金属酸化物を用いて蒸着法で薄膜を形成したり、或いはモリブデン酸化物とアミン系の低分子化合物との共蒸着により混合膜を形成している。
非特許文献1においては、5酸化バナジウムの塗膜形成の試みとして、酸化性化合物すなわち電子受容性化合物として、オキソバナジウム(V)トリ−i−プロポキシドオキシドを溶解させた溶液を用い、それと正孔輸送性高分子との混合塗膜の形成後に水蒸気中で加水分解させてバナジウム酸化物として、電荷移動錯体を形成させる作製方法が挙げられている。
特許文献5においては、三酸化モリブデンの塗膜形成の試みとして、三酸化モリブデンを物理的に粉砕して作製した微粒子を溶液に分散させてスラリーを作製し、それを塗工して正孔注入層を形成することが記載されている。
しかしながら、特許文献1〜5及び非特許文献1で開示されたような酸化性材料を正孔輸送性材料に用いても、長寿命素子の実現は困難であるか、更に寿命を向上させる必要があった。特許文献1〜4で開示されている金属酸化物では、ある程度正孔注入特性は向上するものの、隣接する有機化合物層との界面の密着性が不十分になり、寿命特性に悪影響を及ぼしていると考えられる。
特許文献5には平均粒径20nmの酸化モリブデン微粒子を溶媒に分散させたスラリーを用いて、スクリーン印刷法により電荷注入層を作製した旨の記述がある。しかしながら、特許文献5のようにMoO粉末を粉砕する方法だと、例えば10nm程度の正孔注入層を形成する要求に対して10nm以下のスケールで粒径のそろった微粒子を作製することは、実際には非常に困難である。また、粉砕されて作製される酸化モリブデン微粒子は、凝集させることなく溶液中に安定的に分散させることが非常に困難である。微粒子の溶液化が不安定であると、塗布膜作製の際に凹凸の大きな平滑性が悪い膜しか形成できず、デバイスの短絡の原因となる。蒸着法でしか薄膜形成できないと、発光層をインクジェット法等の溶液塗布法で塗り分けて形成しても、結局、溶液塗布法の利点を活かすことができないという問題がある。すなわち、親液性となるモリブデン酸化物によって各発光層の間の隔壁(バンク)の撥液性を損なわないために、無機化合物のモリブデン酸化物を含有する正孔注入層あるいは正孔輸送層を、高精細マスクを用いて蒸着する必要があり、結局コストや歩留まりの点から、溶液塗布法の利点を活かすことができなかった。さらに、無機化合物のモリブデン酸化物は酸素欠損型の酸化物半導体で、電気伝導性は酸化数+6のMoOよりも酸化数+5のMoは常温で良導体であるが大気中では不安定であり、容易に熱蒸着できる化合物は、MoOあるいはMoOなどの安定な価数をもつ酸化化合物に限定される。
成膜性や薄膜の安定性は素子の寿命特性と大きく関係する。一般的に有機EL素子の寿命とは、一定電流駆動などで連続駆動させたときの輝度半減時間とし、輝度半減時間が長い素子ほど長駆動寿命であるという。
一方、EL素子等を用いたディスプレイの製造にあっては、一般に、発光層等のパターニングがなされている。発光層等のパターニング方法としては、材料をシャドウマスクを介して蒸着する方法、インクジェットによる塗り分け方法、発光色素を転写する方法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法等の種々のパターニング方法が提案されている。インクジェットによる塗り分け方法では、高精細な微細パターンを得るために、隔壁(バンク)を形成して、隔壁表面をフッ素ガス等のプラズマ処理により撥インク処理すること(例えば、特許文献6参照)や撥液性材料を用いて隔壁を形成すること(例えば、特許文献7参照)が提案されている。さらに、発光層のパターニング方法として、高精細なパターンの形成を可能とする、光触媒を用いる方法(例えば、特許文献8)や、真空紫外光を用いる方法(例えば、特許文献9)も提案されている。
上記のような隔壁表面をフッ素ガス等のプラズマ処理により撥インク処理する方法によると、当該撥インク処理の耐熱性が低く、その後のプロセスに問題が生じる。例えば、撥インク処理後に隔壁の開口部に層を形成する際にかかる比較的高温(例えば200℃)の加熱によって、隔壁部に導入されたフッ素が脱離して隔壁部が親インク化され、更に層を積層することができずにデバイスの特性が低くなるという問題があった。また、撥液性材料を用いて隔壁を形成する場合においても、多くの撥液性材料は、比較的高温の加熱によりフッ素が脱離しやすく、耐性がないため、上記と同様の問題があった。また、このような隔壁においては、隔壁の頂部は撥インク性であるが側面を親インク性とすることはできなかった。
また、上記の光触媒を用いる方法および真空紫外光を用いる方法では、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及んだ部分または真空紫外光が照射された部分にて、液体の接触角が低下するように濡れ性が変化することを利用している。すなわち、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及んだ部分または真空紫外光が照射された部分が親液性領域となり、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及ばない部分または真空紫外光が照射されない部分が撥液性領域となることを利用している。そのため、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及んだ部分または真空紫外光が照射された部分の上に発光層等が形成されることになる。しかしながら、濡れ性が変化する層が正孔輸送性等を有する場合には、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及んだ部分または真空紫外光が照射された部分にて材料が劣化し、正孔輸送性等が損なわれるという問題があった。
特開2006−155978号公報 特開2007−287586号公報 特許第3748110号公報 特許第2824411公報 特開2008−041894号公報 特許第3951445号公報 特開昭59−75205号公報 特開2004−71286号公報 特開2007−178783号公報
SID 07 DIGEST p.1840-1843 (2007)
上記の光触媒を用いる方法および真空紫外光を用いる方法は、エネルギーの照射のみで濡れ性の違いによるパターンを形成することができることから、発光層等のパターニングに要する手間を大幅に省略することができる点で有用な方法である。しかしながら、従来、上記の光触媒を用いる方法および真空紫外光を用いる方法に適用しても、紫外光等のエネルギー照射に対する耐性が高く正孔注入輸送性が損なわれない材料であって、且つ、加熱プロセス時に親液性及び撥液性のパターニング性が損なわれない材料が、存在しなかった。
同時に、溶液塗布法により正孔注入輸送層を形成可能で製造プロセスが容易でありながら、正孔注入輸送性に優れ、デバイスの長寿命を達成可能な正孔注入輸送材料が望まれていた。
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、エネルギー照射により濡れ性が変化すると共に、プロセス耐性が高く、且つ、優れた正孔注入輸送性を有し、溶液塗布法により正孔注入輸送層を形成可能な正孔注入輸送層用デバイス材料、及び当該デバイス材料を用いた正孔注入輸送層用インクを提供することを目的とする。
また、本発明の更なる目的は、上記正孔注入輸送層用デバイス材料を用いて親液性領域及び撥液性領域からなるパターンを形成することにより、正孔注入輸送層上に積層される層をパターニング可能で、且つ、長寿命を達成可能なデバイス及びその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、表面にフッ素含有有機化合物が付着している遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターが、光触媒作用や真空紫外光照射により濡れ性が変化可能な上、プロセス耐性が高いこと、並びに、溶液塗布法により層を形成でき製造プロセスが容易でありながら、正孔注入特性を向上し、且つ、隣接する電極や有機層との密着性にも優れた、安定性の高い膜となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の正孔注入輸送層用デバイス材料は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターの表面に、フッ素含有有機化合物が付着していることを特徴とする。
本発明の正孔注入輸送層用デバイス材料においては、前記遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターに含まれる、遷移金属酸化物中の遷移金属として、モリブデン、タングステン、及びバナジウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むことが、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。
本発明の正孔注入輸送層用デバイス材料においては、前記フッ素含有有機化合物が、フッ素化アルキル基を含有することが、エネルギー照射による濡れ性の変化が良好で、優れたパターニングが得られる点から好ましい。
本発明の正孔注入輸送層形成用インクは、上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料と、有機溶媒とを含有することを特徴とする。
本発明に係るデバイスの製造方法の第一の実施態様は、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスの製造方法であって、
パターン状に第一電極層が形成された基板上に、上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料を含有する正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程と、
基体上に少なくとも光触媒を含有する光触媒含有層が形成されている光触媒含有層基板を、前記正孔注入輸送層に対して、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及び得る間隙をおいて配置した後、パターン状にエネルギー照射することにより、前記正孔注入輸送層表面に濡れ性の変化した濡れ性変化パターンを形成する濡れ性変化パターン形成工程とを有することを特徴とする。
また、本発明に係るデバイスの製造方法の第二の実施態様は、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスの製造方法であって、
パターン状に電極層が形成された基板上に、上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料を含有する正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程と、
パターン状に真空紫外線を照射することにより、前記正孔注入輸送層表面に濡れ性の変化した濡れ性変化パターンを形成する濡れ性変化パターン形成工程とを有することを特徴とする。
本発明のデバイス及びその製造方法によれば、正孔注入輸送層が、撥液性のフッ素含有有機化合物が付着している材料を含有するので、光触媒の作用又は真空紫外線の照射によって、このフッ素含有有機化合物が分解除去されることで、エネルギーの照射部分と未照射部分とで濡れ性に大きな差を生じさせることができる。濡れ性が変化し得る正孔注入輸送層に、光触媒含有層を介してエネルギーを照射又は真空紫外線の照射することにより、濡れ性変化パターンを形成し、この濡れ性変化パターンの濡れ性の違いを利用することにより、容易に、当該正孔注入輸送層上にパターン状の層を積層することができる。
本発明のデバイス及びその製造方法によれば、正孔注入輸送層に含有される上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料中に含まれる遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターが、濡れ性変化パターン形成工程に用いられる紫外光に耐性を有するため、優れた正孔注入輸送性が、濡れ性変化パターン形成工程を経ても劣化されず、損なわれないというメリットを有する。また、上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料は、比較的高温(例えば200℃)の加熱にも耐性があるため、加熱プロセス時に濡れ性変化パターンが損なわれず、正孔注入輸送層上に何層もパターン状に積層する工程が可能である。更に、本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料は、耐熱性や耐光性が高く劣化し難いため、本発明の製造方法で製造されたデバイスの寿命も向上する。
本発明のデバイスの製造方法においては、前記正孔注入輸送層形成工程において、上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料と、有機溶媒とを含有する正孔注入輸送層形成用インクを調製する工程と、当該正孔注入輸送層形成用インクを酸素存在下で加熱する工程を有することが、製造プロセスが容易で、且つ、正孔注入輸送層性が良好な点から好ましい。
本発明のデバイスの製造方法の第一の実施態様においては、前記正孔注入輸送層形成工程前に、前記パターン状に第一電極層が形成された基板上の前記第一電極層のパターン間に、絶縁層や隔壁等の仕切部を形成する仕切部形成工程を有していても良い。
また、本発明のデバイスの製造方法の第一の実施態様においては、前記第一電極層が形成された基板が透光性基板であって、前記仕切部が濡れ性変化パターン形成工程にて照射されるエネルギー線を反射または吸収する仕切部であって、前記濡れ性変化パターン形成工程において、前記透光性基板側から前記エネルギー照射することにより、前記正孔注入輸送層表面に濡れ性の変化した濡れ性変化パターンを形成することが好ましい。このような場合には、照射されるエネルギー線を反射または吸収する仕切部がマスクと同様の機能を果たし、別途マスクを用意しなくても、正孔注入輸送層にパターン状にエネルギー照射を行うことが可能である。本発明の正孔注入輸送層に用いられる正孔注入輸送層用デバイス材料は透過率が高くUV照射でも素子特性が劣化し難いので、このような正孔注入輸送層の背面からのエネルギー照射も可能になる。
本発明のデバイスの製造方法の第一の実施態様においては、前記濡れ性変化パターン形成工程において、パターン状にエネルギー照射する方法が、マスクを用いてエネルギー照射する方法であっても良いし、紫外レーザーをパターン状にスキャンしてエネルギー照射する方法であっても良い。
本発明のデバイスの第一の実施態様は、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスであって、
前記正孔注入輸送層が、上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料を含有し、前記正孔注入輸送層の表層部の前記正孔注入輸送層用デバイス材料のフッ素含有有機化合物が分解除去されていることを特徴とする。
また、本発明のデバイスの第二の実施態様は、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスであって、
パターン状に第一電極層が形成された基板上の前記第一電極層のパターン間に、仕切部を有し、前記仕切部の開口部内の前記第一電極層上及び前記仕切部上に連続した正孔注入輸送層を有し、
前記仕切部の開口部内の前記第一電極層上及び前記仕切部の側部上の正孔注入輸送層においては、上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料の少なくとも一部のフッ素含有有機化合物が分解除去されており、且つ、前記絶縁層の頂部上の正孔注入輸送層は上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料を含有していることを特徴とする。
本発明のデバイスは、正孔注入輸送層が、少なくとも一部のフッ素含有有機化合物が分解除去された上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料を含有するため、製造プロセスが容易でありながら、正孔注入輸送性に優れ、長寿命を達成可能である。本発明のデバイスは、前記本発明に係るデバイスの製造方法によって得ることができるものである。
本発明のデバイスは、少なくとも発光層を含む有機層を含有する有機EL素子として好適に用いられる。
本発明によれば、エネルギー照射により濡れ性が変化すると共に、プロセス耐性が高く、且つ、優れた正孔注入輸送性を有し、溶液塗布法により正孔注入輸送層を形成可能な正孔注入輸送層用デバイス材料、及び当該デバイス材料を用いた正孔注入輸送層用インクを提供することが可能である。
本発明に係るデバイスの製造方法によれば、製造プロセスが容易でありながら、正孔注入輸送層の良好な濡れ性変化パターンを利用でき、優れた正孔注入輸送層を得ることができるので、長寿命を達成可能なデバイスを提供することが可能である。
本発明に係るデバイスは、製造プロセスが容易でありながら、正孔注入輸送性に優れ、長寿命を達成可能である。
図1(A)〜図1(C)は、本発明のデバイスの製造方法の一例を示す工程図である。 図2(A)〜図2(C)は、本発明のデバイスの製造方法の他の例を示す工程図である。 図3(A)〜図3(C)は、本発明のデバイスの製造方法の他の例を示す工程図である。 図4(A)〜図4(C)は、本発明のデバイスの製造方法の他の例を示す工程図である。 図5は、本発明に係るデバイスの一部のデバイス用基板の例を示す概略断面図である。 図6(A)〜図6(B)は、本発明に用いられる光触媒含有層基板の例を示す概略断面図である。 図7(A)〜図7(B)は、本発明に係るデバイスの一部のデバイス用基板の例を示す概略断面図である。 図8は、本発明のデバイスの一例を示す概略断面図である。 図9は、本発明のデバイスの他の例を示す概略断面図である。 図10は、本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。 図11は、本発明の有機EL素子において濡れ性変化の実験を示す概略断面図である。 図12(A)〜図12(B)は、本発明に用いられる絶縁層と隔壁が形成されたITO基板の一例であり、図12(A)は一部拡大概略断面図を示し、図12(B)は一部拡大概略平面図を示す。 図13は、合成例5で得られたフッ素含有有機化合物F−1の1H NMRスペクトルである。 図14は、合成例6で得られたフッ素含有有機化合物F−2の1H NMRスペクトルである。 図15は、合成例7で得られたフッ素含有有機化合物F−3の1H NMRスペクトルである。 図16は、合成例8で得られたフッ素含有有機化合物F−4の1H NMRスペクトルである。
I.正孔注入輸送層用デバイス材料
本発明の正孔注入輸送層用デバイス材料は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターの表面に、フッ素含有有機化合物が付着していることを特徴とする。
本発明の正孔注入輸送層用デバイス材料は、表面にフッ素含有有機化合物が付着している遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターであるため、エネルギー照射に伴う光触媒の作用や真空紫外光の照射等により、表面に付着しているフッ素含有有機化合物を分解して除去可能であることにより、撥液性から親液性に濡れ性が変化する材料である。本発明の正孔注入輸送層用デバイス材料を用いると、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及んだ部分または真空紫外光が照射された部分が親液性領域となり、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及ばない部分または真空紫外光が照射されない部分が撥液性領域となる。本発明の正孔注入輸送層用デバイス材料は、エネルギー照射に伴う光触媒の作用や真空紫外光の照射等により、表面に付着しているフッ素含有有機化合物は分解除去されるが、遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスター自体は、紫外光や比較的高温の加熱にも耐性があるため、遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターが有する優れた正孔注入輸送性が、エネルギー照射、光触媒の作用時及び加熱時等のプロセス時に損なわれないというメリットがある。更に、本発明の正孔注入輸送層用デバイス材料は、フッ素を分解する光触媒処理等の処理を経ることによって、酸化されてイオン化ポテンシャルが大きくなり、正孔注入性が向上するというメリットがある。
また、本発明の正孔注入輸送層用デバイス材料は、無機化合物のモリブデン酸化物を用いる場合と異なり、遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスター表面に保護剤として少なくともフッ素含有有機化合物を含む有機部分を含有するため、隣接する有機層との界面の密着性も良好となる。通常、本発明の正孔注入輸送層用デバイス材料を用いた正孔注入輸送層の少なくとも表層部のフッ素含有有機化合物を分解して親液性領域とした上に、別の有機層が積層される態様で用いられるため、隣接する有機層との界面においてフッ素含有有機化合物由来の撥液性の影響もなくなり、界面の密着性が優れたものになる。
また、遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターは含まれる遷移金属酸化物又は遷移金属化合物の反応性が高く、電荷移動錯体を形成しやすいと考えられる。そのため、本発明の正孔注入輸送層用デバイス材料は、低電圧駆動、高電力効率、長寿命なデバイスを実現可能な正孔注入輸送層を形成することが可能である。
更に、本発明の正孔注入輸送層用デバイス材料に用いられる遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターは、無機化合物のモリブデン酸化物等を用いる場合と異なり、表面に保護剤として少なくともフッ素含有有機化合物を含む有機部分を含有するため、溶剤に分散性を有する。そのため、溶液塗布法によって薄膜形成が可能であることから、基板に正孔注入輸送層から発光層等の積層する有機層までを順次塗布プロセスのみで形成でき、製造プロセス上のメリットが大きい。それ故、無機化合物のモリブデン酸化物の場合のように正孔注入層を高精細なマスク蒸着等で蒸着した後に、正孔輸送層や発光層を蒸着法又は溶液塗布法で形成し、さらに第二電極を蒸着するようなプロセスと比較して、単純であり、低コストでデバイスを作製できる利点がある。
以下、本発明の正孔注入輸送層用デバイス材料の構成を順に説明する。
<遷移金属含有ナノ粒子及び遷移金属含有ナノクラスター>
本発明の正孔注入輸送層用デバイス材料に含まれる遷移金属含有ナノ粒子は、少なくとも遷移金属酸化物を含むものである。なおここで、ナノ粒子とは、直径がnm(ナノメートル)オーダー、すなわち1μm未満の粒子をいう。
少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子は、単一構造であっても複合構造であっても良く、コア・シェル構造、合金、島構造等であっても良い。遷移金属含有ナノ粒子内には処理条件によって様々な価数の遷移金属原子や化合物、例えば遷移金属の炭化物、硫化物、ホウ化物、セレン化物、ハロゲン化物、錯体等を含んでいても良い。
一方、本発明の正孔注入輸送層用デバイス材料に含まれる、遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノクラスターは、少なくとも遷移金属原子と酸素原子が複数集まって特定の構造単位を形成している原子団、当該原子団を含む化合物、又は当該化合物の集合体をいう。ナノクラスターとは、その形状の最長部がnm(ナノメートル)オーダー、すなわち1μm未満のものをいう。
本発明の遷移金属含有ナノクラスターは、化学的に合成されたポリオキソメタレート(POM)を含有する巨大分子であることが好ましい。POMとはオキソ酸からなるポリ酸構造を有する。この化学的に合成されたPOMを含有する遷移金属含有ナノクラスターは、巨大な分子であるため、大きさと重量は分子量で規定され、一つ一つのクラスター形状や大きさは、異性体が存在するものの、基本的には同じであることが特徴である。また化学的に合成されたPOMを含有する遷移金属含有ナノクラスターは、電気的性質がアニオンで、各クラスターの特性がそれぞれ同様となる。という特徴がある。例えば、今回実施例で使用したNa15[MoVI 126Mo 28O462H14(H2O)70]0.5[MoVI 124Mo 28O457H14(H2O)68]0.5・400H2Oクラスター({Mo154}の1種)の場合には、分子はドーナツ形状をしていて直径は約4nmである。さらに、このモリブデン酸化物ナノクラスターは、1つ1つの分子内に6価(MoVI)と5価のモリブデン(MoV)が共存する混合原子価ポリオキソメタレートであり、アニオンクラスターになるという特徴もある。
本願において、遷移金属含有ナノ粒子及び遷移金属含有ナノクラスター中には、遷移金属酸化物が必ず含まれる。遷移金属酸化物が必ず含まれることにより、イオン化ポテンシャルの値が最適になったり、不安定な酸化数+0の金属からの酸化による変化をあらかじめ抑制しておくことにより、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させることが可能になる。中でも、遷移金属含有ナノ粒子及び遷移金属含有ナノクラスターは、酸化数の異なる遷移金属酸化物が共存して含まれることが好ましい。酸化数の異なる遷移金属酸化物が共存して必ず含まれることにより、酸化数のバランスによって正孔輸送や正孔注入性が適度に制御されることにより、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させることが可能になる。
本発明で用いられる遷移金属含有ナノ粒子及び遷移金属含有ナノクラスターに含まれる、遷移金属、又は、遷移金属化合物に含まれる遷移金属は、周期表で第3族〜第11族の間に存在する金属元素の総称である。遷移金属は、具体的には例えば、モリブデン、タングステン、バナジウム、レニウム、ニッケル、銅、チタン、白金、銀等が挙げられる。
中でも、前記遷移金属含有ナノ粒子及び遷移金属含有ナノクラスターに含まれる、遷移金属酸化物中の遷移金属は、モリブデン、タングステン、及びバナジウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むことが、反応性が高いことから、電荷移動錯体を形成し易く、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。
前記遷移金属含有ナノ粒子及び遷移金属含有ナノクラスターに含まれる金属は、単一金属であっても良いし、2種以上含まれていても良い。ナノ粒子中に金属が2種以上含まれる態様としては、2種以上の金属微粒子又は金属酸化物微粒子が複合して含まれていても良いし、2種以上の金属が合金として含まれていても良い。
なお、遷移金属含有ナノ粒子及び遷移金属含有ナノクラスターに含まれる金属は、少なくとも遷移金属が含まれれば、非遷移金属が含まれていても良い。
2種以上の金属を含むことにより、正孔輸送性や正孔注入性を互いに補い合ったり、光触媒性を付与したり、薄膜の屈折率や透過率を制御するなど他の機能を併せ持つ正孔注入輸送層を形成できるというメリットがある。
本発明で用いられる遷移金属含有ナノ粒子に含まれる、遷移金属酸化物は、遷移金属及び遷移金属化合物中に30モル%以上含まれることが好ましく、更に、50モル%以上含まれることが駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。
本発明で用いられる遷移金属含有ナノクラスターとしては、下記式で表されるポリオキソメタレートを用いることができる。
[XxMyOz]n-
ここで、Xは第13−18族から選ばれる少なくとも1種の元素、コバルト、又は希土類から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Mは第4−11族から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素又はアルミニウムであり、少なくともXかMのいずれかに遷移金属元素が含まれる。Oは酸素原子を表す。
Mは、例えば、Mo、W、Cr、V、Nb、Fe、Ta、Alなどが挙げられる。Xは、例えば、P、As、Si、B、Coなどが挙げられる。xは0以上の整数であり、yは1以上の整数であり、zは1以上の整数である。x=0の場合は、イソポリ酸であり、xが1以上の整数の場合は、ヘテロポリ酸である。また、上記X及びMは、それぞれ独立に、1種単独でもよいし、2種以上含まれていても良い。
イソポリ酸の具体例は、[Mo6O19]2-、[Mo10O32]4-などが挙げられる。ヘテロポリ酸の具体例としては、[PMo12O40]3-、[BW12O40]5-、[SbW6O24]8- 、[SiV2W10O40]6-、[V18O44N3]n-、[PWnMomO40]3-(n+m=12、n,mは0,1,2,3・・・)、[SiWnMomO40]4-(n+m=12、n,mは0,1,2,3・・・,[PVnWmO40]r-(n+m=1, n=1,2,3,4, r-n=3)、[PVnMomO40]r-(n+m=12、n=1,2,3,4,r-n=3)などが挙げられる。通常のMoO3のなどのモリブデン酸化物の組成式がMoVI nO3nに対し、[MoVI 6O19]2-などのポリ酸はMonO3n+m (m=1,2,3,・・・)と、同じ6価のモリブデンでも、ポリ酸は酸素が多く、アニオン状態に寄与している。これらのアニオンクラスターは通常対カチオンと共に水和物として存在しており、例えば、[BW12O40]5-の場合は、K5[BW12O40]・13H2Oとして存在することが知られている。
本発明で用いられる遷移金属含有ナノクラスターの金属酸化物クラスターの構造としては、例えば、ケギン型、ドーソン型、アンダーソン型などを用いることができる。POMは遷移金属イオンに酸化物イオンが4〜6個配位することができるので、四面体、四角錐、八面体などの多面体を基本単位とし、それらが積み重なって構成される。原子と構造の組み合わせから、非常に多くの分子構造が考えられ、さらにα、β、γ、σ体などの構造異性体も存在する。
本発明で用いられる遷移金属含有ナノクラスターとしては、還元された混合原子価ポリオキソメタレートも用いることができる。どのPOMでも、還元反応により、容易に混合原子価状態をとることができる。例えば、[PMoVI 12O40]3-は、[PMoVI 11 MoO40]3-や[PMoVI 10 Mo 2O40]4-に還元でき、分子内に異なる原子価を持つ構造をとることができる。POMは、例えばドナー性ゲスト分子などにより還元することができる。還元されたアニオンは、一電子ごとに安定に還元されるという特徴があり、通常のMoO3などのモリブデン酸化物とは異なる。
本発明で用いられる遷移金属含有ナノクラスターとしては、上記の構造を組み合わせた、巨大な混合原子価POMを用いることができる。例えば本実施例で用いたクラスターとしてNa15[MoVI 126Mo 28O462H14(H2O)70]0.5[MoVI 124Mo 28O457H14(H2O)68]0.5・400H2Oが挙げられる。これらは分子構造が複雑なために、簡便的な表記法として、分子内に含まれる遷移金属で代表してこの構造を{Mo154}と表記する方法が一般に用いられる。本発明に適用できる遷移金属含有ナノクラスターとしては、例えば、球形状の{Mo132}、リング形状である{Mo142}、{Mo154}、及び{Mo176}、ホイール形状の{Mo248}、レモン形状の{Mo368}が好適に用いられる。その他に、[PMo6O19]2-、[PMo12O40]3-等も用いることができる。
また、タングステンやバナジウムを含む遷移金属含有ナノクラスターとしては、例えば、[KAs4W40(VO)2O140]23-、Mo8V2O28・7H2O、 [alpha-P2W18O62]6- 、[alpha-P2W17V(V)O62]7-、[alpha-1,2,3-P2W15V(V) 3O62] 9-、[[alpha-PW12O40]3−W)、[alpha-P W11V(V)O40]4-、[alpha-1,2-PW10V(V) 2O40] 5-、[alpha-1,2,3-PW9V(V) 3O40] 6-、[alpha-1,4,9-PW9V(V) 3O40] 6-、[V10O28]6-等が挙げられる。なお、上記記載において“V(V)”は5価のバナジウムを表わす。
上記以外にも、2種以上の遷移金属元素を含む、例えば、{Mo132}の一部をタングステンで置換した{W72Mo60}を用いることができる。その他、{Mo57V6}、{Mo57Fe6}、{Mo72Cr30}、{W72Mo60}、{Ag2Mo8}等も用いることができる。
本発明で遷移金属含有ナノクラスターとして用いられる混合原子価POMは、POMを化学反応で還元して合成して、異なる原子価を持つ金属を導入(例えば、Moの6価にMoの5価を導入)して結合させているので、構造的に安定で、取り込まれた異なる原子価を持つ金属(例えば、Moの5価)も安定に存在できる。異なる原子価が安定に存在し、安定したアニオン状態を維持できるので、寿命特性に優れた正孔注入層を形成することができる。一方、通常のMoO3のなどのモリブデン酸化物の場合は、モリブデンのほとんどがMoVIであり、組成式だとMonO3nとなる。しかし蒸着時の酸素欠損やスラリー形成時の物理的な粉砕により生じた粒子表面などに存在する酸素欠陥などによりMonO3n-mになり、Moも多少存在するかもしれない。しかし、MoO3で導入されるMoは酸素欠陥により生じるので、不均一であり不安定である。
本発明で用いられる遷移金属含有ナノクラスターは、化学的に合成されたPOMを含有する金属酸化物クラスターのように、多くのクラスターは対カチオンを含有することができる。対カチオンとしてはH+、Na+、K+を好適に用いることができる。またカチオン性有機物あるいはイオン性液体を用いることもできる。
遷移金属含有ナノクラスター内には合成条件によって様々な酸化数の遷移金属原子や遷移金属化合物、例えば遷移金属の硫化物、ホウ化物、セレン化物、ハロゲン化物や、配位子、非遷移金属原子等を含んでいても良い。
<表面に付着したフッ素含有有機化合物>
本発明の正孔注入輸送層用デバイス材料は、前記少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターの表面に、フッ素含有有機化合物が付着している。
本発明の正孔注入輸送層用デバイス材料において「付着」とは、有機溶剤中に分散しても、剥離しない程度に、フッ素含有有機化合物が遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスター表面に固定していることをいう。「付着」には、吸着や配位も含まれるが、イオン結合、共有結合等の化学結合であることが好ましい。「付着」の態様は、遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターの表面の全体をフッ素含有有機化合物が被覆するように付着している態様であっても良いし、表面の一部にフッ素含有有機化合物が付着している態様であっても良い。
本発明の正孔注入輸送層用デバイス材料においては、特に遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスター表面に、少なくともフッ素含有有機化合物を含む有機化合物が付着しているので、特許文献5のような単に遷移金属酸化物が粉砕されて形成された粒子と異なり、ナノ粒子又はナノクラスターの分散安定性が非常に高いものとなり、均一性の高いnmオーダーの薄膜を形成することができる。そのため本発明の正孔注入輸送層用デバイス材料で形成された薄膜は、経時安定性及び均一性が高いためショートし難い。更に、隣接する電極や有機層との密着性に優れるようになる。
表面に付着したフッ素含有有機化合物の種類は適宜選択され、特に限定されない。フッ素含有有機化合物としては、フッ素以外のヘテロ原子を含んでいても良い、直鎖、分岐、又は環状の飽和又は不飽和炭化水素に含まれる水素の一部又は全部をフッ素で置換した有機化合物が挙げられる。従来正孔注入輸送材料として用いられていたヘテロ原子を含んでいても良い有機化合物に含まれる水素の一部又は全部をフッ素で置換した有機化合物であっても良い。或いは、従来正孔注入輸送材料として用いられていたヘテロ原子を含んでいても良い有機化合物にフッ素含有有機化合物を含む置換基を導入した化合物であっても良い。
フッ素含有有機化合物としては、具体的には、直鎖、分岐、又は環状のアルキル基、アリール基の水素の一部又は全部をフッ素化したフッ素化アルキル基やフッ素化アリール基、及びこれらの組み合わせが挙げられる。フッ素化アルキル基の炭素数は、特に限定されないが、2〜10が好ましく、更に4〜6が好ましい。また、フッ素化アリール基、又はフッ素化アリール化アルキル基等のフッ素化アルキル基とフッ素化アリール基の組み合わせの炭素数も、特に限定されないが、6〜12が好ましく、更に6〜9が好ましい。
前記フッ素含有有機化合物としては、フッ素化アルキル基を含有することが、エネルギー照射による濡れ性の変化が良好で、優れたパターニングが得られる点から好ましい。
また、フッ素含有有機化合物としては、−NH−、−N=、−S−、−O−、−NH(C=O)−、−O−(C=O)−、−O−(SO2)−、−O−(C=O)−O−、−S−(C=O)−O−、−SiR−(C=O)−O−、−SiR−のような、複素環を形成していないヘテロ原子を含むことが、エネルギー照射によってフッ素有機化合物が分解されやすいため、濡れ性変化パターン形成工程で感度が向上する点から好ましい。
中でも、C2n+12m−[mは0〜20の整数、nは1〜20の整数であり、m+nは1〜30である。]で表されるフッ素化アルキル基は、高い撥油性を維持する点、及び、mが1以上の時、エーテル結合など他の元素に結合する場合に直接C2n+1と結合するよりもC2mを介した方が、化合物の安定性が高まる点から好ましい。一方で、エーテル結合など他の元素に結合する場合に直接C2n+1と結合する場合には、エネルギー照射によってフッ素有機化合物が分解されやすいため、濡れ性変化パターン形成工程で感度が向上し、正孔注入輸送層表面の残留有機成分が少なくなることにより、薄膜界面の密着性が向上し、素子特性が向上する点から好ましい。nは、更に2〜10の整数、よりさらに4〜6の整数であることが好ましい。mは0〜10の整数、よりさらに2〜8の整数であることが好ましい。
前記フッ素化アルキル基のフッ素化率(アルキル基中のフッ素原子の割合)は、好ましくは50〜100%、さらに好ましくは80〜100%であり、特に水素原子をすべてフッ素原子で置換したパーフルオロアルキル基が、高い撥油性を発現させる点から好ましい。
また、芳香族炭化水素及び/又は複素環を含むフッ素含有有機化合物は、フッ素含有有機化合物の沸点を上げることができる点から好ましい。例えば、本発明のフッ素含有有機化合物が付着している正孔注入輸送層用デバイス材料の合成温度の制約を広げることができたり、デバイスを作製する場合の高温プロセス温度を高く設定可能という利点がある。
また、芳香族炭化水素及び/又は複素環は電荷輸送性を有することが多いため、芳香族炭化水素及び/又は複素環を含むフッ素含有有機化合物により作製した正孔注入輸送層中の電荷移動度を高く維持できるので、低電圧化をはじめとする高効率化に対して利点がある。後述するフッ素含有有機化合物を分解するような処理により、膜の表層部のフッ素含有有機化合物は除去されるが、膜の内部には芳香族炭化水素及び/又は複素環を含むフッ素含有有機化合物が残るため、電荷輸送性が高い方が高効率化に寄与し得る。
また、例えば有機EL素子等の有機デバイスの各層には通常芳香族炭化水素及び/又は複素環電荷輸送性材料が含まれるため、隣接する有機層と正孔注入輸送層の密着性の向上を考慮すると、芳香族炭化水素及び/又は複素環の構造を含むことが長駆動寿命化に寄与する点から好ましい。
フッ素化アルキル基の例としては、下記構造が挙げられる。
CF−、CFCF−、CHFCF−、CF(CF−、CF(CF−、CF(CF−、CF(CF−、CF(CF−、CF(CF−、CF(CF−、CF(CF−、CF(CF11−、CF(CF15−、CFCHCH−、CFCFCHCH−、CHFCFCHCH−、CF(CFCHCH−、CF(CFCHCH−、CF(CFCHCH−、CF(CFCHCH−、CF(CFCHCH−、CF(CFCHCH−、CF(CFCHCH−、CF(CFCHCH−、CF(CF11CHCH−、CF(CF15CHCH−、CF(CFO(CF)CF−、CF(CFO(CF)CFCFO(CF)CF−、CF(CFO(CF)CFCFO(CF)CFCFO(CF)CFCFO(CF)CF−、CF(CFO(CF)CF−。以上は、直鎖構造を例示したが、イソプロピル基など分岐構造であっても良い。
芳香族炭化水素及び/又は複素環を含むフッ素含有有機化合物の例としては、ペンタフルオロフェニル基、2,3,5,6−テトラフルオロフェニル基、3,4,5−トリフルオロフェニル基、2,4−ジフルオロフェニル基、3,4−ジフルオロフェニル基、3,5−ジフルオロフェニル基、ノナフルオロビフェニル基、α,α,α,2,3,5,6−ヘプタフルオロ−p−トリル基、ヘプタフルオロナフチル基、(トリフルオロメチル)フェニル基、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、ペンタフルオロフェニルメチル基、2,3,5,6−テトラフルオロフェニルメチル基、3,4,5−トリフルオロフェニルメチル基、2,4−ジフルオロフェニルメチル基、3,4−ジフルオロフェニルメチル基、3,5−ジフルオロフェニルメチル基、ノナフルオロビフェニルメチル基、α,α,α,2,3,5,6−ヘプタフルオロ−p−トリルメチル基、ヘプタフルオロナフチルメチル基、(トリフルオロメチル)フェニルメチル基、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルメチル基、4,4’,4”−トリフルオロトリチル基等が挙げられる。
フッ素含有有機化合物としては、遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターの表面保護と分散安定性の点から、遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターの表面に、前記遷移金属及び/又は遷移金属化合物と連結する作用を生ずる連結基を用いて付着されていることが好ましい。すなわち、フッ素含有有機化合物の末端に連結基が含まれる保護剤によって、遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターの表面にフッ素含有有機化合物が付着していることが好ましい。
連結基としては、遷移金属及び/又は遷移金属化合物と連結する作用を有すれば、特に限定されない。連結には、吸着や配位も含まれるが、イオン結合、共有結合等の化学結合であることが好ましい。保護剤中の連結基の数は分子内に1つ以上であればいくつであっても良い。しかしながら、溶液への溶解性や分散安定性、撥油性の発現性を考慮すると、連結基は保護剤の1分子内に1つであることが好ましい。連結基の数が1分子内に1つの場合は、保護剤は粒子と結合するか、2分子反応で二量体を形成して反応が停止する。当該二量体については、遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターとの密着性が弱いため、遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターの調製工程に洗い流す工程を付与すると容易に取り除くことができる。また、連結基の数が1分子内に2つ以上存在するとナノ粒子同士が連結されてインク中で粒子が凝集し易くなる恐れがある。
当該連結基としては、例えばカルボキシル基、アミノ基、水酸基、チオール基、アルデヒド基、スルホン酸基、アミド基、スルホンアミド基、リン酸基、ホスフィン酸基、P=O基などの親水性基、または、アンモニウム塩、イミダゾリウム塩、ピリジウム塩、スルフォニウム塩、ホスフォニウム塩、モルフォリニウム塩、ピペリジニウム塩などのイオン性液体などが挙げられる。連結基としては、以下の式(1a)〜(1n)で示される官能基より選択される1種以上であることが好ましい。
(式中、Z、Z及びZは、それぞれ独立にハロゲン原子、又はアルコキシ基を表す。)
本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料に好適に用いられる、フッ素含有有機化合物の末端に連結基が含まれる保護剤としては、例えば、下記一般式(I)で表わされる保護剤が挙げられる。
一般式(I)
Y−Q−(A’−FQ’)−(A−FQ)
(一般式(I)において、Yは前記連結基を表す。Qは、直鎖、分岐又は環状の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂肪族複素環基、芳香族複素環基又はこれらの組み合わせ、或いは直接結合を表す。A及びA’はそれぞれ独立に、−NH−、−N=、−S−、−O−、−NH(C=O)−、−O−(C=O)−、−O−(SO2)−、−O−(C=O)−O−、−S−(C=O)−O−、−SiR−(C=O)−O−、−SiR−、又は直接結合を表し、当該Rは水素又は直鎖、分岐又は環状の脂肪族炭化水素基を表す。FQ及びFQ’はそれぞれ独立に、は、前記フッ素含有有機化合物を表す。また、nは0又は1以上の整数である。)
上記A及び/又はA’が、−NH−、−N=、−S−、−O−、−NH(C=O)−、−O−(C=O)−、−O−(SO2)−、−O−(C=O)−O−、−S−(C=O)−O−、−SiR−(C=O)−O−、−SiR−である場合には、エネルギー照射によってA及び/又はA’の部分で切断されやすく、FQで表わされるフッ素有機化合物が分解されやすいため、濡れ性変化パターン形成工程の感度が向上する点から好ましい。
また、Qが、芳香族炭化水素基や芳香族複素環基を含む場合には、正孔注入輸送層における電荷移動度を高くすることに寄与できるので、低電圧化をはじめとする高効率化に対して利点がある。後述するフッ素含有有機化合物を分解するような処理により、A及び/又はA’において切断される場合には、フッ素含有有機化合物FQは分解除去されるが、芳香族炭化水素及び/又は複素環を含むQの部分は、遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターの表面に残るため、Qが電荷輸送性が高い場合には、デバイスの高効率化に寄与し得る。
FQは1価のフッ素含有有機化合物基であり、FQ’は2価のフッ素含有有機化合物基である。
nが1以上の場合はエネルギー照射によってA’の部分で切断されやすく、FQで表わされるフッ素有機化合物が分解されやすくなる。nが1以上の場合としては、例えば、-O-(CH2p-O-(CH22-(CF2q- CF3などが挙げられる。
nは5以下であることが好ましく、更に4以下であることが分解速度が速くなる点から好ましい。
前記一般式(I)で表わされる保護剤としては、例えば、以下の構造が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(n及びn’は1〜5の整数、m及びm’は0又は1〜5の整数、lは0又は1〜5の整数である。Yは、前記式(1a)〜(1n)で示される官能基のいずれかである。)
(nは1〜5の整数、mは0又は1〜5の整数、lは0又は1〜5の整数である。Yは、前記式(1a)〜(1n)で示される官能基のいずれかである。)
(nは1〜5の整数、lは0又は1〜5の整数である。Yは、前記式(1a)〜(1n)で示される官能基のいずれかである。)
また、表面に付着したフッ素含有有機化合物は、高分子化合物であっても使用可能であるが、分子量が1000以下であることが好ましい。分子量が大きくなるとフッ素含有有機化合物1分子内の有機成分に対する連結基の割合が小さくなるため、ナノ粒子と結合する確率が小さくなり、分散性が悪くなったり、粒径の均一性の制御が難しかったり、粒径が大きくなってしまう恐れがある。また、表面に付着したフッ素含有有機化合物の分子量が大きくなると、デバイスにした時に、残留する有機成分の割合が多くなり、高電圧化するなど特性に悪影響を及ぼす恐れがある。更に、光触媒処理する際に、有機成分を分解するのに時間がかかり、スループットが悪くなる恐れがある。
なお、表面に付着したフッ素含有有機化合物の分子量は、分子量分布を有しない場合には、化合物そのものの分子量を意味し、分子量分布を有する場合にはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算値である重量平均分子量を意味する。
本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料において、遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターの表面には少なくともフッ素含有有機化合物が付着しているが、フッ素含有有機化合物ではない有機化合物が付着していても良い。
このようなフッ素含有有機化合物ではない有機化合物には、製法上フッ素含有有機化合物を含む保護剤を置換する前に遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターの表面に存在していた保護剤や、フッ素を含まない電荷輸送性化合物、架橋性を有する化合物、溶解性を制御するための化合物等が含まれる。
本発明で用いられる遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターにおいて、遷移金属化合物及び遷移金属と、その表面に付着しているフッ素含有有機化合物を含む有機化合物との含有比率は、適宜選択され、特に限定されないが、遷移金属化合物及び遷移金属原子100重量部に対して、表面に付着しているフッ素含有有機化合物を含む有機化合物が10〜200重量部、更に10〜20重量部で仕込まれることが好ましい。
また、1つの遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターにおいて、遷移金属原子とフッ素含有有機化合物の含有割合は、粒子乃至クラスターの大きさにより表面積が変わるため、適宜選択されることが好ましい。遷移金属原子とフッ素含有有機化合物分子のモル比は、10:1〜1:5、更に5:1〜1:2の範囲で選択されることが好ましい。これらの比率は、例えば、NMR法やX線光電子分光法により、求めることができる。
また、本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料において、表面に付着しているフッ素含有有機化合物の量は、当該正孔注入輸送層用デバイス材料を用いて形成された層の撥液性に対する要求に対して適宜選択しても良い。
例えば、表面張力28.5mN/mの液体の接触角が25°以上となるように、より好ましくは45°以上、さらに好ましくは55°以上となるように選択することが挙げられる。
本発明で用いられる正孔注入輸送層用デバイス材料の平均粒径は、特に限定されるものではなく例えば0.5nm〜999nmの範囲内であるが、0.5nm〜50nmの範囲内、中でも0.5nm〜20nmの範囲内であることが好ましい。本発明で用いられる正孔注入輸送層用デバイス材料の平均粒径は、更に、15nm以下であることが好ましく、特に1nm〜10nmの範囲内であることが好ましい。粒子径が1nm以下になると動的光散乱法などの分解能を超えているため、粒子の存在を実証することや安定に製造することが困難であるからである。一方、粒子径が大きすぎると、単位重量当たりの表面積(比表面積)が小さくなり、所望の効果が得られない可能性があり、さらに薄膜の表面粗さが大きくなりショートが多発する恐れがあるからである。
ここで平均粒径は、動的光散乱法により測定される個数平均粒径であるが、正孔注入輸送層に分散された状態においては、平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて得られた画像から、遷移金属含有ナノ粒子が20個以上存在していることが確認される領域を選択し、この領域中の全ての遷移金属含有ナノ粒子について粒径を測定し、平均値を求めることにより得られる値とする。
なお、球状でないナノクラスターにおいて、粒径は、最長径、例えばドーナツ型の場合には外円の直径をいい、レモン型の場合は長軸の長さをいう。
本発明で用いられる正孔注入輸送層用デバイス材料の製造方法は、上述した遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターの表面にフッ素含有有機化合物が付着したものを得ることができる方法であれば、特に限定されるものではない。フッ素含有有機化合物が表面に付着した遷移金属含有ナノ粒子の製法としては、例えば、遷移金属錯体と、フッ素含有有機化合物の末端に連結基を有する保護剤を有機溶媒中で反応させるなどの液相法等が挙げられる。遷移金属錯体と、フッ素含有有機化合物を含まない保護剤を有機溶媒中で反応させた後、フッ素含有有機化合物を含まない保護剤の一部又は全部をフッ素含有有機化合物を含む保護剤に置換しても良い。ナノ粒子を製造する際の有機溶媒中の反応温度としては、150〜300℃、更に220〜280℃であることが好ましい。
また、フッ素含有有機化合物が表面に付着した遷移金属含有ナノクラスターの製法としては、遷移金属含有ナノクラスターを合成後、カチオン交換などでフッ素含有有機化合物の末端に連結基を有する保護剤を付着させるなどの方法が挙げられる。カチオン交換に用いる塩は、前述のアンモニウム塩などのイオン性液体が好適に用いられる。この場合、対アニオンには無機アニオンおよび有機アニオン共に用いることができる。
II.正孔注入輸送層用インク
本発明に係る正孔注入輸送層形成用インクは、前記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料と、有機溶媒とを含有することを特徴とする。
本発明に係る正孔注入輸送層形成用インクは、必要に応じて、さらに他の化合物を含んでいても良い。前記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料と有機溶媒に、例えば、後述するような正孔輸送性化合物、及び、正孔のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤などの添加剤を添加し、溶解乃至分散して正孔注入輸送層形成用インクを調製しても良い。
インクに用いられる有機溶媒としては、遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターと、必要に応じて含有するその他成分とが良好に溶解乃至分散すれば特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、テトラリン、メシチレン、アニソール、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン、クロロホルム、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、ジフェニルエーテル、シクロヘキシルベンゼン、1−メチルナフタレン等が挙げられる。
また本発明では、遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターの表面にフッ素含有有機化合物が付着しているため、フッ素系の溶媒が好適に用いられる。例えば、トリフルオロメチルベンゼン、ヘプタフルオロ−n−酪酸エチル、ヘプタフルオロ−n−酪酸メチル、1,1,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、1,1,3,3-ヘキサフルオロ-2-フェニル-2-プロパノール、1H,1H-トリフルオロエタノール、1H,1H,3H-テトラフルオロプロパノール、1H,1H,5H-オクタフルオロペンタノールなど前記溶媒の全部あるいは一部をフッ素化したものを用いることができる。以上の溶媒は単独で用いても、複数を混ぜ合わせた共溶媒にして用いて用いることもできる。
本発明に係る正孔注入輸送層形成用インクは、表面にフッ素含有有機化合物が付着した少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターと有機溶媒を混合して調製しても良い。また、表面にフッ素含有有機化合物が付着した遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターと有機溶媒を混合し、前記遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスター中に含まれる遷移金属及び/又は遷移金属化合物を遷移金属酸化物に酸化させて、本発明に係る正孔注入輸送層形成用インクを得ても良い。上記酸化させる方法としては、酸素存在下で加熱、又は光照射などが挙げられる。
酸化させる方法として加熱する場合には、加熱手段としては、ホットプレート上で加熱する方法やオーブン中で加熱する方法などが挙げられる。加熱温度としては、50〜250℃が好ましい。
酸化させる方法として光照射する場合には、光照射手段としては、紫外線を露光する方法等が挙げられる。
加熱温度や光照射量により、遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターの相互作用に違いが生じるため、適宜調節することが好ましい。
本発明に係る正孔注入輸送層形成用インク中における前記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料の含有量は、目的に応じて適宜調整可能であり、特に限定されないが、例えばインク全量中に0.1〜10.0重量%程度が好ましい。
III.デバイスの製造方法
本発明に係るデバイスの製造方法の第一の態様は、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスの製造方法であって、
パターン状に第一電極層が形成された基板上に、前記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料を含有する正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程と、
基体上に少なくとも光触媒を含有する光触媒含有層が形成されている光触媒含有層基板を、前記正孔注入輸送層に対して、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及び得る間隙をおいて配置した後、パターン状にエネルギー照射することにより、前記正孔注入輸送層表面に濡れ性の変化した濡れ性変化パターンを形成する濡れ性変化パターン形成工程とを有することを特徴とする。
また、本発明に係るデバイスの製造方法の第二の態様は、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスの製造方法であって、
パターン状に電極層が形成された基板上に、前記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料を含有する正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程と、
パターン状に真空紫外線を照射することにより、前記正孔注入輸送層表面に濡れ性の変化した濡れ性変化パターンを形成する濡れ性変化パターン形成工程とを有することを特徴とする。
本発明によれば、正孔注入輸送層が、撥液性のフッ素含有有機化合物が付着している材料を含有するので、光触媒の作用又は真空紫外線の照射によって、このフッ素含有有機化合物が分解されフッ素が除去されることで、エネルギーの照射部分と未照射部分とで濡れ性に大きな差を生じさせることができる。濡れ性が変化し得る正孔注入輸送層に、光触媒含有層を介してエネルギーを照射又は真空紫外線の照射することにより、濡れ性変化パターンを形成し、この濡れ性変化パターンの濡れ性の違いを利用することにより、容易に、当該正孔注入輸送層上にパターン状のデバイス層を塗布法により積層することができる。
本発明によれば、正孔注入輸送層に含有される上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料中に含まれる遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターが、濡れ性変化パターン形成工程に用いられる紫外光に耐性を有するため、優れた正孔注入輸送性が、濡れ性変化パターン形成工程を経ても劣化されず、損なわれないというメリットを有する。更に、光触媒処理等の濡れ性変化パターン形成工程を経ることにより、上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料はイオン化ポテンシャルが大きくなり、正孔注入性が向上する。本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料が、耐熱性や耐光性が高く劣化し難く、濡れ性変化パターン形成工程を経ることにより正孔注入性が向上するため、本発明の製造方法で製造されたデバイスは、寿命も向上する。
また、本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料は、比較的高温(例えば200℃)の加熱にも耐性があるため、加熱プロセス時に濡れ性変化パターンが損なわれず、正孔注入輸送層上に何層もパターン状に積層する工程を行うことができる。
本発明に係るデバイスは、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスである。
本発明に係るデバイスには、有機EL素子、有機トランジスタ、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、有機半導体を包含する有機デバイスのほか、正孔注入輸送層を有する量子ドット発光素子、酸化物系化合物太陽電池等も含まれる。
本発明のデバイスの製造方法について図面を参照しながら説明する。
図1(A)〜図1(C)は、本発明のデバイスの製造方法の一例を示す工程図である。まず、図1(A)に示すように、基板2上に第一電極層3をパターン状に形成し、この第一電極層3上に上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料を含有する正孔注入輸送層4を形成する(正孔注入輸送層形成工程)。次に、図1(B)に示すように、基体22と、この基体22上にパターン状に形成された遮光部23と、遮光部23を覆うように基体22上に形成され、光触媒を含有する光触媒含有層24とを有する光触媒含有層基板21を準備する。次いで、光触媒含有層基板21を、正孔注入輸送層4に対して、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及び得る間隙をおいて配置した後、光触媒含有層基板21を介して正孔注入輸送層4に対してパターン状にエネルギー線27を照射する。エネルギー線27の照射により、図1(C)に示すように、光触媒含有層24に含有される光触媒の作用から、正孔注入輸送層4の露光部では、正孔注入輸送層4の少なくとも表層部の正孔注入輸送層デバイス材料の表面に存在するフッ素含有有機化合物が分解除去された、正孔注入輸送層のフッ素分解部5が形成され、正孔注入輸送層4の露光部の表面に親液性領域11が形成される。一方、正孔注入輸送層4の未露光部では、正孔注入輸送層24の表層部の正孔注入輸送層デバイス材料の表面に存在するフッ素含有有機化合物がそのまま残り、撥液性領域12となる(濡れ性変化パターン形成工程)。このようにして、デバイス用基板1が得られる。その後、デバイス用基板1上の親液性領域11上に、少なくともデバイスに必要なパターン状の層を積層し、第二電極層を積層し、デバイスを製造することができる。
図2(A)〜図2(C)は、本発明のデバイスの製造方法の他の例を示す工程図である。
まず、図2(A)に示すように、基板2上に第一電極層3をパターン状に形成し、パターンの開口部に仕切り部(隔壁6a)を形成し、第一電極層3および仕切り部(隔壁6a)の上に上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料を含有する正孔注入輸送層4を形成する(正孔注入輸送層形成工程)。ここで、基板2が透光性基板であって、前記仕切部(隔壁6a)が濡れ性変化パターン形成工程にて照射されるエネルギー線を反射または吸収する仕切部である。次に、図2(B)に示すように、基体22と、この基体22上に形成された光触媒を含有する光触媒含有層24とを有する光触媒含有層基板21を準備する。次いで、光触媒含有層基板21を、正孔注入輸送層4に対して、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及び得る間隙をおいて配置した後、透光性基板である基板2側からエネルギー線27を照射する。この態様の場合、仕切部(隔壁6a)がエネルギー線を反射または吸収するので、仕切部(隔壁6a)が形成されていない箇所はエネルギー線27が照射され、仕切部(隔壁6a)が形成されている箇所はエネルギー線27が照射されない。エネルギー線27の照射により、図2(C)に示すように、光触媒含有層24に含有される光触媒の作用から、正孔注入輸送層4の露光部では、正孔注入輸送層4の少なくとも表層部の正孔注入輸送層デバイス材料の表面に存在するフッ素含有有機化合物が分解除去された、正孔注入輸送層のフッ素分解部5が形成され、正孔注入輸送層4の露光部の表面に親液性領域11が形成される。一方、正孔注入輸送層4の未露光部では、正孔注入輸送層24の表層部の正孔注入輸送層デバイス材料の表面に存在するフッ素含有有機化合物がそのまま残り、撥液性領域12となる(濡れ性変化パターン形成工程)。このようにして、デバイス用基板1が得られる。その後、デバイス用基板1上の親液性領域11上に、デバイスに必要なパターン状のデバイス層を塗布法により積層することが可能で、その後第二電極層を積層し、デバイスを製造することができる。
図2(A)〜図2(C)における製造方法の場合には、照射されるエネルギー線を反射または吸収する仕切部がマスクとして機能するため、光触媒含有基板中の遮光部や別途フォトマスクをわざわざ準備しなくても、正孔注入輸送層にパターン状にエネルギー照射を行うことが可能であり、製造プロセス上のメリットが大きい。本発明の正孔注入輸送層に用いられる正孔注入輸送層用デバイス材料は、従来の有機化合物系の正孔注入輸送材料と比べて紫外光波長領域の透過率が高いので、このような正孔注入輸送層の背面からのエネルギー照射も可能になる。
図3(A)〜図3(C)は、本発明のデバイスの製造方法の他の例を示す工程図である。
まず図3(A)に示すように、基板2上に第一電極層3をパターン状に形成し、パターンの開口部に仕切り部(隔壁6a)を形成し、第一電極層3および仕切り部(隔壁6a)の上に上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料を含有する正孔注入輸送層4を形成する(正孔注入輸送層形成工程)。次に、図3(B)に示すように、基体22と、この基体22上に形成された光触媒を含有する光触媒含有層24とを有する光触媒含有層基板21を準備する。次いで、光触媒含有層基板21を、正孔注入輸送層4に対して、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及び得る間隙をおいて配置した後、光触媒含有層基板21を介して正孔注入輸送層4に対して紫外レーザー光28をパターン状にスキャンして照射する。紫外レーザー光28の照射により、図3(C)に示すように、光触媒含有層24に含有される光触媒の作用から、正孔注入輸送層4の露光部では、正孔注入輸送層4の少なくとも表層部の正孔注入輸送層デバイス材料の表面に存在するフッ素含有有機化合物が分解除去された、正孔注入輸送層のフッ素分解部5が形成され、正孔注入輸送層4の露光部の表面に親液性領域11が形成される。一方、正孔注入輸送層4の未露光部では、正孔注入輸送層24の表層部の正孔注入輸送層デバイス材料の表面に存在するフッ素含有有機化合物がそのまま残り、撥液性領域12となる(濡れ性変化パターン形成工程)。このようにして、デバイス用基板1が得られる。その後、デバイス用基板1上の親液性領域11上に、デバイスに必要なパターン状のデバイス層を塗布法により積層することが可能で、その後第二電極層を積層し、デバイスを製造することができる。
図4(A)〜図4(C)は、本発明のデバイスの製造方法の他の例を示す工程図である。
まず、図4(A)に示すように、基板2上に第一電極層3をパターン状に形成し、パターンの開口部に仕切り部(隔壁6a)を形成し、第一電極層3および仕切り部(隔壁6a)の上に上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料を含有する正孔注入輸送層4を形成する(正孔注入輸送層形成工程)。次に、図4(B)に示すように、メタルマスク30を正孔注入輸送層4の表面に配置し、メタルマスク30を介して正孔注入輸送層4に対して真空紫外光29を照射する。真空紫外光29の照射により、図4(C)に示すように、正孔注入輸送層4の露光部では、正孔注入輸送層4の少なくとも表層部の正孔注入輸送層デバイス材料の表面に存在するフッ素含有有機化合物が分解除去された、正孔注入輸送層のフッ素分解部5が形成され、正孔注入輸送層4の露光部の表面に親液性領域11が形成される。一方、正孔注入輸送層4の未露光部では、正孔注入輸送層24の表層部の正孔注入輸送層デバイス材料の表面に存在するフッ素含有有機化合物がそのまま残り、撥液性領域12となる(濡れ性変化パターン形成工程)。このようにして、デバイス用基板1が得られる。その後、デバイス用基板1上の親液性領域11上に、デバイスに必要なパターン状のデバイス層を塗布法により積層することが可能で、その後第二電極層を積層し、デバイスを製造することができる。
このように、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及んだ部分または真空紫外光が照射された部分では、正孔注入輸送層4の少なくとも表層部に親液性領域11が形成される。これは、正孔注入輸送層4の少なくとも表層部中の正孔注入輸送層デバイス材料の表面に存在するフッ素含有有機化合物が、エネルギー照射に伴う光触媒の作用または真空紫外光の照射等により分解除去されることでフッ素分解部が形成され、表面にフッ素含有有機化合物が存在する正孔注入輸送層が有する撥液性に対して、親液性を有する領域となるためであると考えられる。したがって、図1(C)、図2(C)、図3(C)及び図4(C)に例示するように正孔注入輸送層4の構成材料中のフッ素が分解除去された正孔注入輸送層のフッ素分解部5の表面からなる親液性領域11と、正孔注入輸送層4の構成材料中のフッ素が分解除去されず、親液性領域11以外の領域である撥液性領域12とからなるパターンを形成することができる。
なお、「親液性領域」とは、撥液性領域よりも液体の接触角が小さい領域をいい、正孔注入輸送層上に隣接して形成される層形成用インク等に対する濡れ性の良好な領域である。また、「撥液性領域」とは、親液性領域よりも液体の接触角が大きい領域をいい、上記層形成用インク等に対する濡れ性が悪い領域である。
撥液性領域の液体の接触角は、親液性領域の液体の接触角よりも、表面張力28.5mN/mの液体を用いた場合に、10°以上高いことが好ましく、中でも20°以上高いことが好ましく、特に40°以上高いことが好ましい。
また、撥液性領域では、表面張力28.5mN/mの液体の接触角が25°以上であることが好ましく、より好ましくは45°以上、さらに好ましくは55°以上である。撥液性領域は撥液性が要求される部分であるため、上記液体の接触角が小さすぎると、撥液性が十分でなく、撥液性領域にも上記層形成用インク等が付着する可能性があるからである。
一方、親液性領域では、表面張力28.5mN/mの液体の接触角が20°以下であることが好ましく、より好ましくは10°以下、さらに好ましくは5°以下である。上記液体の接触角が高すぎると、上記層形成用インク等が濡れ広がりにくくなる可能性があり、隣接して形成される層等が欠ける等の可能性があるからである。
なお、液体の接触角は、種々の表面張力を有する液体の接触角を接触角測定器(協和界面科学(株)製 CA−Z型)を用いて測定(マイクロシリンジから液滴を滴下して5秒後)し、その結果から、もしくはその結果をグラフにして求めることができる。この測定に際しては、種々の表面張力を有する液体として、純正化学株式会社製のぬれ指数標準液を用いることとする。
1.正孔注入輸送層形成工程
本発明における正孔注入輸送層形成工程は、パターン状に第一電極層が形成された基板上に、前記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料を含有する正孔注入輸送層を形成する工程である。
(正孔注入輸送層の形成方法)
正孔注入輸送層の形成方法としては、パターン状に第一電極層が形成された基板上の全面に、前記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料を成膜することが可能な方法であれば特に限定されるものではない。例えば、前記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料と、有機溶媒とを含有する正孔注入輸送層形成用インクを調製し、当該インクを用いて塗布して層を形成するウェットプロセスがプロセス優位性の点から好ましい。また、当該インクを用いて塗布して形成された層を転写する転写法も用いることができる。なお、パターン状に第一電極層が形成された基板上であれば、当該第一電極層上に例えば別途正孔注入層が形成された上に、本発明の正孔注入輸送層が形成されてもよい。
前記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料と、有機溶媒とを含有する正孔注入輸送層形成用インクは、前記「II.正孔注入輸送層形成用インク」の箇所で説明したものと同様に調製することができる。正孔注入輸送層形成用インク中に、上述のようなその他の成分を適宜添加することにより、その他の成分を更に含む正孔注入輸送層を形成することができる。
また、塗布する前に当該正孔注入輸送層形成用インクを酸素存在下で加熱する工程を有していても良い。この場合、正孔注入輸送層用デバイス材料中の遷移金属酸化物量が増加し、正孔注入輸送性が向上する場合がある。あるいは遷移金属含有ナノ粒子の外郭が酸化されて安定化し、駆動耐性が高まる場合がある。
正孔注入輸送層形成用インクを塗布する方法としては、基板の全面に均一に上記の材料を成膜できる方法であればよく、例えば、ダイコート法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、ビードコート法、スプレーコート法、バーコート法、グラビアコート法、ブレードコート法、キャスト法、インクジェット法、ノズルプリンティング法、エアロゾル法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法等を挙げることができる。
また、正孔注入輸送層形成用インクを塗布した後は、乾燥処理を行ってもよい。乾燥方法としては、一般的な乾燥方法を用いることができ、例えば加熱する方法が挙げられる。加熱する方法としては、例えば、オーブンのような特定の空間全体を加熱する装置内を通過または静置させる方法、熱風を当てる方法、遠赤外線等により直接的に加熱する方法、あるいはホットプレートで加熱する方法等を用いることができる。酸素存在下で加熱すると、層中に含まれる前記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料中の遷移金属酸化物の含有量が増加し、正孔注入輸送性が向上する場合がある。
正孔注入輸送層の膜厚は、目的や隣接する層により適宜決定することができるが、通常0.1〜1000nm、好ましくは1〜500nmである。
また、上記正孔注入輸送層の仕事関数は5.0〜6.0eV、更に5.0〜5.8eVであることが、正孔注入効率の点から好ましい。
(基板)
基板は、光を透過する透光性であってもよく、透光性でなくてもよい。例えば、本発明のデバイスにおいて、基板側から光を取り出す場合や、本発明のデバイスを作製する過程において、親液性領域および撥液性領域からなるパターンを形成する際に基板側からエネルギーを照射する場合には、基板は透光性であることが好ましい。透光性基板としては、例えば、石英、ガラス等を挙げることができる。透光性が必要とされない場合の基板としては、アルミニウムおよびその合金等の金属、プラスチック、織物、不織布等を用いることができる。
(第一電極層)
本発明に用いられる第一電極層は、パターン状に基板上に形成されているものである。
第一電極層を形成する材料としては、導電性を有する材料であれば特に限定されるものではない。
また、第一電極層を形成する材料としては、透明性を有していてもよく、有さなくてもよい。例えば、本発明のデバイスにおいて、基板側から光を取り出す場合や、本発明のデバイスを作製する過程において、親液性領域および撥液性領域からなるパターンを形成する際に基板側からエネルギーを照射する場合には、第一電極層は透明性を有することが好ましい。導電性および透明性を有する材料としては、In−Zn−O(IZO)、In−Sn−O(ITO)、ZnO−Al、Zn−Sn−O等を好ましいものとして例示することができる。一方、例えば、本発明のデバイスにおいて、基板の反対側から光を取り出す場合には、第一電極層に透明性は要求されない。この場合、導電性を有する材料として、金属を用いることができ、具体的には、Au、Ta、W、Pt、Ni、Pd、Cr、あるいは、Al合金、Ni合金、Cr合金等を挙げることができる。
第一電極層はパターン状に形成されている。第一電極層の成膜方法としては、一般的な電極の成膜方法を用いることができ、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法等を挙げることができる。また、第一電極層のパターニング方法としては、フォトリソグラフィー法を挙げることができる。
2.濡れ性変化パターン形成工程
本発明における濡れ性変化パターン形成工程は、前記正孔注入輸送層表面に濡れ性(wetting)の変化した濡れ性変化パターンを形成する工程である。
正孔注入輸送層表面に濡れ性変化パターンを形成するための、パターン状にエネルギー照射する方法としては、正孔注入輸送層に含有される材料をパターン状に分解できる方法であれば特に限定されるものではないが、通常、エネルギー照射によって、酸素ラジカルなどの活性酸素種を発生させることができる方法が用いられる。この活性酸素種の強力な酸化・還元力により、正孔注入輸送層に含有される材料の表面に付着しているフッ素含有有機化合物を分解することができるからである。
本発明における濡れ性変化パターン形成工程としては、(1)光触媒を含有する光触媒含有層を有する光触媒含有層基板を用い、パターン状にエネルギー照射することに伴う光触媒の作用によって正孔注入輸送層に含有される材料のフッ素を分解除去することにより、フッ素が分解除去された親液性領域、及びフッ素が分解除去されていない撥液性領域からなるパターンを形成する工程、および、(2)真空紫外光をパターン状に照射することによって、正孔注入輸送層に含有される材料のフッ素を分解除去することにより、フッ素が分解除去された親液性領域、及びフッ素が分解除去されていない撥液性領域からなるパターンを形成する工程が挙げられる。また、例えば、パターン状の開口部を有するマスクを介して電子線またはプラズマ等を照射する方法や、マスクを介して真空中で酸素ラジカルを吹きつける方法等を用いることもできる。
親液性領域は、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及んだ部分または真空紫外光が照射された部分において、上記正孔注入輸送層に含有される正孔注入輸送層用デバイス材料の表面に付着されたフッ素含有有機化合物が分解され、フッ素が除去された、正孔注入輸送層のフッ素分解部である。
親液性領域は、正孔注入輸送層用デバイス材料の表面に付着されたフッ素含有有機化合物が含有されていない、または、正孔注入輸送層にもともと含有されていた材料の表面に付着されたフッ素含有有機化合物の量と比較して、親液性領域はフッ素含有有機化合物が少ない量含有されている。
また、親液性領域が、正孔注入輸送層に含有される正孔注入輸送層用デバイス材料の表面に付着されたフッ素含有有機化合物が分解され、フッ素が除去されたものであることは、例えば、素子部と隔壁部の正孔注入輸送層のフッ素の分布をTOF−SIMSなどで分析して比較することにより確認することができる。
親液性領域および撥液性領域の形成位置としては、所望のパターンに発光層等のデバイスの機能層をパターニング可能であれば特に限定されるものではない。例えば第一電極層がパターン状に形成されている場合には、親液性領域が第一電極層のパターン上に配置され、撥液性領域が、図1(C)のように第一電極層のパターンの開口部上に配置されていることが好ましい。
また、例えば図5に示すように、第一電極層3が形成された基板2上に仕切部(隔壁6a)が形成されている場合には、仕切部(隔壁6a)の頂部P1上に撥液性領域12が配置され、仕切部(隔壁6a)の側部P2上および仕切部(隔壁6a)の開口部P3上に親液性領域11が配置されていることが好ましい。このような正孔注入輸送層上に隣接する層を作製する際に、仕切部の頂部上に配置された撥液性領域上には隣接する層のインクが付着せずに層が形成されないので、正孔注入輸送層上に隣接する層等を精度良くパターニングすることができるからである。
さらに、従来のような撥液性材料を用いた隔壁や撥液化処理された隔壁では、隔壁の頂部だけでなく側部も撥液性を有するものとなるため、仕切部の側部から発光層が物理的に剥離したり、発光層等の厚みの薄い箇所や発光層等が形成されない箇所が発生したりするという不具合があった。これに対し、本発明においては、仕切部の側部上には親液性領域が配置され得るので、仕切り部の側部から発光層が物理的に剥離したり、発光層等の厚みの薄い箇所や発光層等が形成されない箇所が発生したりするのを抑制することができる。
上記仕切部が形成されている場合、撥液性領域の形成位置としては、仕切部の頂部上であればよく、図5に例示するように、仕切部(隔壁6a)の頂部P1のみに撥液性領域12が配置されていてもよく、或いは、図示しないが、仕切部(隔壁6a)の頂部P1および側部P2の一部分に撥液性領域12が配置されていてもよい。前者の場合、撥液性領域は、仕切部の頂部の全体に形成されていてもよく、仕切部の頂部の一部分に形成されていてもよい。また、後者の場合、デバイスの設計に適宜合わせて、正孔注入輸送層上にパターニングされて積層される層用のインクの表面が平坦となった場合に想定される高さより低い位置まで撥液性領域12が形成されていてもよいし、当該高さより高い位置まで撥液性領域12が形成されていてもよい。
また、親液性領域および撥液性領域のパターン形状としては、正孔注入輸送層上に所望のパターン状に積層される層をパターニング可能であれば特に限定されるものではない。例えば第一電極層がパターン状に形成されている場合、親液性領域および撥液性領域のパターン形状は、第一電極層のパターン形状に応じて適宜選択される。具体的には、第一電極層がストライプ状に形成されている場合、この第一電極層のストライプパターンに対応して、親液性領域もストライプ状に形成される。また、画素に対応して第一電極層がモザイク状に形成されている場合、親液性領域はストライプ状に形成されていてもよく、格子状やモザイク状に形成されていてもよい。
以下、濡れ性変化パターン形成工程について、上記(1)、(2)の方法をそれぞれ説明する。
(1)光触媒作用を用いる方法
エネルギー照射に伴う光触媒の作用を利用する方法は、基体上に少なくとも光触媒を含有する光触媒含有層が形成されている光触媒含有層基板を用い、上記光触媒含有層基板を、上記正孔注入輸送層に対して、エネルギーの照射に伴う光触媒の作用がおよび得る間隙をおいて配置した後、パターン状にエネルギーを照射する方法である。
エネルギー照射に伴う光触媒の作用により正孔注入輸送層に含有される材料が正孔注入輸送層用デバイス材料の表面に付着されたフッ素含有有機化合物が分解される機構については、必ずしも明確ではないが、エネルギー照射によって光触媒含有層に含有される光触媒が酸化還元反応を引き起こし、これによって生成されたスーパーオキサイドラジカル(・O2-)やヒドロキシラジカル(・OH)などの活性酸素種が、上記フッ素含有有機化合物正に作用を及ぼすことにより、フッ素含有有機化合物が分解物となり、この分解物が揮発除去されることで、正孔注入輸送層に含有される正孔注入輸送層用デバイス材料の表面に付着されたフッ素含有有機化合物が分解され、フッ素が除去された領域を形成することができると考えられる。
以下、光触媒含有層基板および光触媒含有層基板を用いて正孔注入輸送層に光触媒の作用を及ぼす方法について説明する。
(光触媒含有層基板)
本発明に用いられる光触媒含有層基板は、基体上に少なくとも光触媒を含有する光触媒含有層が形成されているものである。
光触媒含有層の形成位置としては、図2(B)に例示するように、基体22上の全面に光触媒含有層24が形成されていてもよく、図6(A)に例示するように、基体22上に光触媒含有層24がパターン状に形成されていてもよい。
光触媒含有層がパターン状に形成されている場合には、光触媒含有層を正孔注入輸送層に対して所定の間隙をおいて配置し、エネルギーを照射する際に、フォトマスク等を用いてパターン照射する必要がなく、全面に照射することにより、正孔注入輸送層に含有される材料が分解された撥液性領域をパターン状に形成することができる。また、この場合、エネルギーの照射方向としては、光触媒含有層と正孔注入輸送層とが面する部分にエネルギーが照射されれば、いかなる方向であってもよい。さらには、照射されるエネルギーも、平行光等の平行なものに限定されない。
また、光触媒含有層基板には、遮光部がパターン状に形成されていてもよい。パターン状の遮光部を有する光触媒含有層基板を用いた場合には、エネルギー照射に際して、フォトマスクを用いたり、レーザー光による描画照射を行ったりする必要がない。したがって、この場合には、光触媒含有層基板とフォトマスクとの位置合わせが不要であることから、簡便な工程とすることができ、また描画照射に必要な高価な装置も不要であることから、コスト的に有利となる。
遮光部の形成位置としては、図1(B)に例示するように、基体22上に遮光部23がパターン状に形成され、この遮光部23上に光触媒含有層24が形成されていてもよく、図6(B)に例示するように、基体22上に光触媒含有層24が形成され、この光触媒含有層24上に遮光部23がパターン状に形成されていてもよく、図示しないが、基体の光触媒含有層が形成されていない側の表面に遮光部がパターン状に形成されていてもよい。
基体上に遮光部が形成されている場合、および、光触媒含有層上に遮光部が形成されている場合は、フォトマスクを用いる場合と比較すると、光触媒含有層と正孔注入輸送層とが間隙をおいて配置される部分の近傍に、遮光部が配置されることになるので、基体内等におけるエネルギーの散乱の影響を少なくすることができる。このため、エネルギーのパターン照射を極めて正確に行うことが可能となる。
また、基体の光触媒含有層が形成されていない側の表面に遮光部が形成されている場合は、例えばフォトマスクを遮光部の表面に着脱可能な程度に密着させることができるので、デバイスの製造を小ロットで変更するような場合に好適である。
光触媒含有層基板としては、具体的には、特開2000−249821号公報等に記載されている光触媒含有層側基板と同様とすることができる。
(光触媒含有層基板と正孔注入輸送層の配置)
本発明においては、光触媒含有層基板を、正孔注入輸送層に対して、エネルギー照射に伴う光触媒の作用がおよび得る間隙をおいて配置する。なお、間隙とは、光触媒含有層および正孔注入輸送層が接触している状態も含むものとする。
光触媒含有層と正孔注入輸送層との間隔は、具体的には、200μm以下であることが好ましい。光触媒含有層と正孔注入輸送層とを所定の間隔をおいて配置することにより、酸素、水および光触媒作用により生じた活性酸素種が脱着しやすくなるからである。
上記間隔は、パターン精度が極めて良好であり、光触媒の感度も高く、分解除去の効率が良好である点を考慮すると、0.2μm〜20μmの範囲内であることがより好ましく、さらに好ましくは1μm〜10μmの範囲内である。
一方、例えば300mm×300mmを超える大面積のデバイスを製造する場合には、上述したような微細な間隙を光触媒含有層基板と正孔注入輸送層との間に設けることは極めて困難である。さらに光触媒含有層に付着する汚れなどの生産性の低下も懸念される。したがって、比較的大面積のデバイスを製造する場合は、上記間隙は、50μm〜150μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは80μm〜120μmの範囲内である。上記間隙を上記範囲とすることにより、パターンがぼやける、あるいはずれる等のパターン精度の低下を抑制することができ、また光触媒の感度が悪化して分解除去の効率が悪化するのを抑制することができるからである。
また、上記のような比較的大面積に対してエネルギー照射する際には、エネルギー照射装置内の光触媒含有層基板と正孔注入輸送層との位置決め装置における間隙の設定を、10μm〜200μmの範囲内、特に25μm〜75μmの範囲内に設定することが好ましい。上記間隙の設定値を上記範囲とすることにより、パターン精度の大幅な低下や光触媒の感度の大幅な悪化を招くことなく、かつ光触媒含有層基板と正孔注入輸送層とを接触させずに配置することができるからである。
なお、上述のような間隙をおいた配置状態は、少なくともエネルギー照射の間だけ維持されればよい。
(エネルギー照射)
エネルギー照射に用いる光の波長は、通常、450nm以下の範囲で設定され、好ましくは380nm以下の範囲で設定される。これは、上述したように、光触媒含有層に用いられる好ましい光触媒が二酸化チタンであり、この二酸化チタンにより光触媒作用を活性化させるエネルギーとして、上記の波長の光が好ましいからである。
エネルギー照射に用いることができる光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマランプ、その他種々の光源を挙げることができる。
また、パターン状にエネルギーを照射する方法としては、これらの光源を用い、フォトマスクを介してパターン照射する方法の他、エキシマ、YAG等のレーザーを用いてパターン状に描画照射する方法を用いることもできる。
エネルギー照射に際してのエネルギーの照射量は、光触媒含有層中の光触媒の作用により電荷注入輸送層表面の濡れ性が変化するのに必要な照射量とする。
この際、光触媒含有層を加熱しながらエネルギー照射することが好ましい。感度を上昇させことができ、効率的に濡れ性を変化させることができるからである。具体的には、基板およびマスクを30℃〜80℃の範囲内で加熱することが好ましい。基板とマスクの温度差は、露光精度の観点からできるだけ小さい方が良いが、1℃以内であることが好ましい。
エネルギー照射方向は、光触媒含有層基板に遮光部が形成されているか否か、あるいは、デバイスの光の取り出し方向等により決定される。例えば、光触媒含有層基板に遮光部が形成されており、光触媒含有層基板の基体が透明である場合は、光触媒含有層基板側からエネルギー照射が行なわれる。また例えば、光触媒含有層がパターン状に形成されている場合には、エネルギー照射方向は、上述したように、光触媒含有層と正孔注入輸送層とが面する部分にエネルギーが照射されれば、いかなる方向であってもよい。さらに例えば、フォトマスクを用いる場合は、フォトマスクが配置された側からエネルギーが照射される。この場合、フォトマスクが配置された側が透明である必要がある。
エネルギー照射に伴う光触媒の作用を利用する方法においては、光触媒含有層基板を用い、パターン状にエネルギーを照射する態様の具体例としては、以下のものが挙げられる。
基体22上の全面に光触媒含有層24が形成されている場合には、フォトマスクを介してパターン状にエネルギーを照射するか、或いは、図2(B)に例示するように、マスクとして、エネルギー線を反射または吸収する仕切部を有する透光性基板側(正孔注入輸送層の背面側)から照射してパターン状にエネルギーを照射する。また、図3(B)に例示するように基体22上の全面に光触媒含有層24が形成されている場合であって、レーザーを用いてパターン状に描画照射しても良い。また、図6(A)に例示するように基体22上に光触媒含有層24がパターン状に形成されている場合には、マスクとして光触媒含有層基板を用いることによりパターン状にエネルギーを照射する。さらに、図1(B)に例示するように遮光部23がパターン状に形成されている場合には、マスクとして光触媒含有層基板を用いることによりパターン状にエネルギーを照射する。
光触媒含有層基板を用いて正孔注入輸送層に光触媒の作用を及ぼす方法としては、具体的には、特開2000−249821号公報等に記載されている光触媒含有層側基板を用いて特性変化層に光触媒の作用を及ぼす方法と同様とすることができる。
(2)パターン状に真空紫外光を照射する方法
パターン状に真空紫外光を照射する方法は、マスクとして真空紫外光用マスクを用い、エネルギーとして真空紫外光を照射する方法が挙げられる。
真空紫外光の照射により、正孔注入輸送層に含有される材料が正孔注入輸送層用デバイス材料の表面に付着されたフッ素含有有機化合物が分解される機構については、必ずしも明確ではないが、正孔注入輸送層に真空紫外光が照射されると、正孔注入輸送層に含有されるフッ素含有有機化合物の分子結合が、真空紫外光の作用により切断されたり、また酸素の存在下、酸素が励起されて発生するオゾンや酸素原子ラジカルがフッ素含有有機化合物に作用を及ぼすことにより、フッ素含有有機化合物が分解物となり、この分解物が揮発除去されたりすることで、フッ素が除去されたフッ素分解部を形成することができると考えられる。
真空紫外光の波長は、酸素と作用することにより酸素ラジカルを発生できる範囲内であれば特に限定されるものでないが、通常100nm〜250nmの範囲内であることが好ましく、中でも150nm〜200nmの範囲内であることが好ましい。波長が上記範囲よりも長いと、酸素ラジカルの発生効率が低くなり、正孔注入輸送層に含有される材料の分解除去効率が低下してしまうおそれがあるからである。また、波長が上記範囲よりも短いと、安定した真空紫外光の照射が困難となる可能性があるからである。
上記波長範囲の真空紫外光の照射に用いられる光源としては、例えば、エキシマランプ、低圧水銀ランプ、その他種々の光源を挙げることができる。
また、真空紫外光の照射量としては、上記親液性層形成用層を除去できる範囲内であれば特に限定されるものではなく、正孔注入輸送層に含有される材料の種類や、上記真空紫外光の波長等によって適宜調整すればよい。
真空紫外光の照射の際に用いられる真空紫外光用マスクとしては、真空紫外光をパターン状に透過することができるものであればよく、例えば、パターン状の開口部を有するメタルマスクや、真空紫外光を透過することができる透明基材と、透明基材上にパターン状に形成され、真空紫外光を遮光することができる遮光部とを有するマスクを挙げることができる。
メタルマスクの材料としては、上記真空紫外光を遮光することができるものであればよく、例えば、特開2007−178783号公報等に記載されたものを用いることができる。
一方、透明基材としては、真空紫外光を透過することができるものであればよく、例えば、石英基板等を用いることができる。また、遮光部を構成する遮光材料としては、クロム、酸化クロム等の金属が挙げられる。
真空紫外光は指向性の無い分散光であることから、真空紫外光用マスクを介して真空紫外光を照射する場合は、この真空紫外光用マスクを正孔注入輸送層にできるだけ接近させ、真空紫外光が正孔注入輸送層と真空紫外光用マスクとの間に回折しないようにすることが好ましい。
中でも、隔壁や絶縁層等の仕切部が形成されていない場合には、真空紫外光用マスクを正孔注入輸送層にできるだけ接近させ、かつ、真空紫外光用マスクが正孔注入輸送層に接触しないように、真空紫外光用マスクを配置することが好ましい。
一方、隔壁や絶縁層等の仕切部が形成されている場合には、真空紫外光用マスクを正孔注入輸送層にできるだけ接近させ、かつ、真空紫外光用マスクが正孔注入輸送層に接触するように、真空紫外光用マスクを配置してもよく、また真空紫外光用マスクを正孔注入輸送層にできるだけ接近させ、かつ、真空紫外光用マスクが正孔注入輸送層に接触しないように、真空紫外光用マスクを配置してもよい。隔壁や絶縁層等の仕切部が形成されている場合であって、透明基材上に遮光部がパターン状に形成された真空紫外光用マスクを用いる場合には、真空紫外光用マスクを正孔注入輸送層に密着するように固定することができる。
(3)濡れ性変化パターンの調整方法
仕切部の頂部上に位置する正孔注入輸送層の部分にエネルギーを照射する場合であって、マスクとして透過領域および遮光領域を有するマスクを用いる場合には、仕切部の頂部の面積に対するマスクの透過領域の面積の比率、および、正孔注入輸送層およびマスク間の距離の少なくともいずれか一方を調整して、正孔注入輸送層側の表面での液体の接触角が仕切部の側部側から頂部側に向かって高くなるように、撥液性領域を形成してもよい。
例えば、上記のエネルギー照射に伴う光触媒の作用を利用する方法の場合であって、光触媒含有基板にて遮光部がパターン状に形成されている場合、基体上に遮光部が設けられている遮光領域と、この遮光領域以外の領域であり、基体上に光触媒含有層のみが設けられた透過領域と有する光触媒含有層基板を用いることができる。この場合、仕切部(隔壁6a)の頂部の面積S1に対する光触媒含有層基板の透過領域の面積S2の比率、および、正孔注入輸送層および光触媒含有層基板間の距離Dの少なくともいずれか一方を調整することにより、正孔注入輸送層側の表面での液体の接触角が仕切部(隔壁6a)の側部側から頂部側に向かって高くなるように、撥液性領域12を形成することができる。
また例えば、上記の真空紫外光を照射する方法の場合、仕切部(隔壁6a)の頂部の面積S1に対するメタルマスクの透過領域の面積S2の比率を調整することにより、正孔注入輸送層側の表面での液体の接触角が仕切部(隔壁6a)の側部側から頂部側に向かって高くなるように、撥液性領域12を形成することができる。
これは、光の回折現象と立体角の効果によるものである。前者は、仕切部の頂部の面積に対するマスクの透過領域の面積の比率、および、正孔注入輸送層およびマスク間の距離の少なくともいずれか一方を調整することで、光の回折現象等により、正孔注入輸送層に照射されるエネルギーの照射量に勾配が生じ、その結果、正孔注入輸送層に含有される材料が分解される量に勾配が生じる。後者に関して、仕切部の頂部では光の入射に対して垂直であるのに対し、仕切部の側部では角度をもつために立体角が小さくなり、光の見かけの照射量が小さくなり、その結果、正孔注入輸送層に含有される材料が分解される量に勾配が生じる。これにより、正孔注入輸送層側の表面にて、液体の接触角が仕切部の側部側から頂部側に向かって高くなるように、液体の接触角に傾斜をもたせることができるのである。
また、隔壁のように膜厚が比較的厚い仕切部の場合、仕切部の頂部側から側部側に向かって、正孔注入輸送層とマスクとの距離が徐々に広くなることから、この正孔注入輸送層とマスクとの距離に応じて、液体の接触角に傾斜をもたせることもできる。
仕切部の頂部の面積に対するマスクの透過領域の面積の比率を調整することにより、液体の接触角に傾斜を生じさせる場合には、仕切部の頂部の面積よりもマスクの透過領域の面積を同等か大きくすることが好ましい。これにより、仕切部の頂部および側部の境界付近に位置する領域にて、液体の接触角に傾斜をつけやすくなるからである。
3.仕切部形成工程
本発明においては、必要に応じて、前記正孔注入輸送層形成工程前に、前記パターン状に第一電極層が形成された基板上の前記第一電極層のパターン間に、仕切部を形成する仕切部形成工程を有していても良い。
仕切部としては、例えば、隔壁および絶縁層が挙げられる。図2(A)、図3(A)、図4(A)の隔壁6aとして例示するように、仕切部としては、隔壁及び絶縁層の両方の機能を果たすものが一体となって形成されても良い。以下、隔壁および絶縁層に分けて説明する。
本発明に係るデバイスにおいて、この仕切部が形成された部分は、通常、非発光領域となる。
(1)隔壁
本発明においては、図2(A)、図3(A)、図4(A)に例示するように、第一電極層3が形成された基板2上に、隔壁6aがパターン状に形成されていてもよい。通常、第一電極層がパターン状に形成されている場合には、隔壁6aは第一電極層3のパターンの開口部に形成される。
隔壁は、正孔注入輸送層上に形成される層をパターン状に塗り分けるために設けられるものである。
隔壁の形成材料としては、特に限定されるものではなく、有機材料であってもよく、無機材料であってもよく、一般的に有機EL素子等のデバイスにおける隔壁に用いられる材料を使用することができる。
有機材料としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−塩化ビニル共重合体、エチレン−ビニル共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ABS樹脂、ポリメタクリル酸樹脂、エチレン−メタクリル酸樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル、ポリビニルアルコール、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリビニルブチラール、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミック酸樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂等が挙げられる。
無機材料としては、例えば、SiO2などを挙げることができる。
隔壁の高さとしては、0.01μm〜50μm程度とすることができる。
また、絶縁層上に別途、隔壁が形成されている場合、隔壁の幅としては、図7(A)に例示するように、隔壁6aの幅が第一電極層3のパターン間の幅よりも狭くてもよく、図7(B)に例示するように、隔壁6aの幅が第一電極層3のパターン間の幅よりも広くてもよい。
また、隔壁の形成方法としては、フォトリソグラフィー法、印刷法等の一般的な方法を
用いることができる。
(2)絶縁層
本発明においては、図7(A)及び図7(B)に例示するように、第一電極層3が形成された基板2上に、絶縁層6bがパターン状に形成されていてもよい。通常、第一電極層がパターン状に形成されている場合には、絶縁層6bは第一電極層3のパターンの開口部に形成され、かつ、第一電極層のパターンの端部を覆うように形成される。図7(A)及び図7(B)においては、絶縁層6b上に隔壁6aも形成されているが、絶縁層6bのみが形成され、隔壁6aが形成されていない態様であっても良い。
絶縁層は、隣接する第一電極層のパターン間での導通や、第一電極層および第2電極層
間での導通を防ぐために設けられるものである。
絶縁層の形成材料としては、絶縁性を有するものであれば特に限定されるものではなく、有機材料であってもよく、無機材料であってもよく、一般的に有機EL素子等のデバイスにおいて絶縁層に用いられる材料を使用することができる。
また、絶縁層の形成方法としては、フォトリソグラフィー法、印刷法等の一般的な方法
を用いることができる。
絶縁層の膜厚としては、10nm〜50μm程度とすることができる。
4.その他の工程
デバイスの製造方法における、その他の工程については、各デバイスに応じて、従来公知の工程を適宜用いることができる。
本発明の必須成分である第二電極層としても、各デバイスに応じて、従来公知の材料を適宜採用して、従来公知の工程により適宜形成すれば良い。本発明のデバイスにおいて、第二電極層は、金属又は金属酸化物で形成されることが好ましく、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物などの金属酸化物により形成することができる。
電極は、通常、基板上にスパッタリング法、真空蒸着法などの方法により形成されることが多いが、塗布法やディップ法等の湿式法により形成することもできる。電極の厚さは、各々の電極に要求される透明性等により異なる。透明性が必要な場合には、電極の可視光波長領域の光透過率が、通常、60%以上、好ましくは80%以上となることが望ましく、この場合の厚さは、通常10〜1000nm、好ましくは20〜500nm程度である。
IV.デバイス
本発明に係るデバイスの第一の態様は、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスであって、
前記正孔注入輸送層が、前記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料を含有し、前記正孔注入輸送層の表層部の前記正孔注入輸送層用デバイス材料のフッ素含有有機化合物が分解除去されていることを特徴とする。
また、本発明に係るデバイスの第二の態様は、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスであって、
パターン状に第一電極層が形成された基板上の前記第一電極層のパターン間に、仕切部を有し、前記仕切部の開口部内の前記第一電極層上及び前記仕切部上に連続した正孔注入輸送層を有し、
前記仕切部の開口部内の前記第一電極層上及び前記仕切部の側部上の正孔注入輸送層においては、前記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料の少なくとも一部のフッ素含有有機化合物が分解除去されており、且つ、前記絶縁層の頂部上の正孔注入輸送層は前記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料を含有していることを特徴とする。
上記本発明のデバイスはいずれの態様も、前記本発明に係るデバイスの製造方法によって得ることができるものである。
以下、本発明に係るデバイスの層構成について、図面を参照しながら説明する。
図8は、本発明に係るデバイスの第一の態様の基本的な層構成を示す断面概念図である。本発明のデバイス10の基本的な層構成は、基板2上に対向する2つの電極(3及び9)と、その2つの電極(3及び9)間に配置された正孔注入輸送層4を含み、当該正孔注入輸送層4が、前記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料を含有し、前記正孔注入輸送層の表層部の前記正孔注入輸送層用デバイス材料のフッ素含有有機化合物が分解除去されている、正孔注入輸送層のフッ素分解部5を含む。そして前記第一電極層3上及び仕切り部6aの側部上に存在する正孔注入輸送層4の表層部に親液性領域11、及び仕切部6aの頂部上に撥液性領域12からなるパターンが形成されている。上記正孔注入輸送層4の親液性領域11上に、デバイスの機能の中心となる層(以下、機能層と称呼する。)や、当該機能層の補助的な層(以下、補助層と称呼する。)を含むデバイス層7が形成されている。
基板7は、デバイスを構成する各層を形成するための支持体であり、必ずしも電極1の表面に設けられる必要はなく、デバイスの最も外側の面に設けられていればよい。
正孔注入輸送層4は、少なくとも前記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料を含有し、電極3からデバイス層7への正孔の注入及び/又は輸送を担う層である。
デバイス層7は、正孔注入輸送されることにより、デバイスの種類によって様々な機能を発揮する層であり、単層からなる場合と多層からなる場合がある。デバイス層7が多層からなる場合は、機能層や、補助層を含んでいる。例えば、有機EL素子の場合、正孔注入輸送層の表面に更に積層される正孔輸送層が補助層に該当し、当該正孔輸送層の表面に積層される発光層が機能層に該当する。
第二電極層9は、対向する電極1との間に正孔注入輸送層4とデバイス層7が存在する箇所に少なくとも設けられる。また、必要に応じて、図示しない第三の電極を有していてもよい。これらの電極間に電場を印加することにより、デバイスの機能を発現させることができる。
図9は、本発明に係るデバイスの第二の態様の基本的な層構成を示す断面概念図である。本発明のデバイスの基本的な層構成は、パターン状に第一電極層3が形成された基板2上の前記第一電極層3のパターン間に、仕切部6aを有し、前記仕切部6aの開口部内の前記第一電極層3上及び前記仕切部6a上に連続した正孔注入輸送層(4及び5)を有し、前記仕切部6aの開口部内の前記第一電極層3上及び前記仕切部6aの側部上の正孔注入輸送層4においては、前記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料の少なくとも一部のフッ素含有有機化合物が分解除去されて、正孔注入輸送層のフッ素分解部5になっており、且つ、前記仕切部の頂上の正孔注入輸送層4は、フッ素が分解されておらず、前記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料を含有している。なお、図9は、前記仕切部6aの開口部内の前記第一電極層3上及び前記仕切部6aの側部上の正孔注入輸送層4においては、前記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料の全部のフッ素含有有機化合物が分解除去されて、正孔注入輸送層のフッ素分解部5になっている図を示している。
そして前記第一電極層3上及び仕切り部6aの側部上に存在する正孔注入輸送層のフッ素分解部5が親液性領域11、及び仕切部6aの頂部上に撥液性領域12からなるパターンが形成されている。上記正孔注入輸送層4の親液性領域11上に、デバイス層7が形成されている。更に、第二電極層9が、基板2上に2つの電極(3及び9)が対向し、その2つの電極(3及び9)間に配置された正孔注入輸送層4を有するように、形成されている。
なお、前記仕切部6aの開口部内の前記第一電極層3上及び前記仕切部6a上に連続した正孔注入輸送層(4及び5)は、正孔注入輸送層に別層として設けられた界面がない。正孔注入輸送層のフッ素分解部5は、正孔注入輸送層4と同じ材料から正孔注入輸送層用デバイス材料の少なくとも一部のフッ素含有有機化合物が分解除去された部分として、正孔注入輸送層にパターン状に含まれるものである。
本発明に係るデバイスは、上記のように、正孔注入輸送層のフッ素分解部5(親液性領域11)上に、デバイス層7が形成されている。本発明に係る正孔注入輸送層のフッ素分解部5に含まれている正孔注入輸送層用デバイス材料は、フッ素を分解する光触媒処理等の処理を経ることによって、酸化されてイオン化ポテンシャルが大きくなり、正孔注入性が高くなっている。本発明のデバイスは、このように正孔注入性が向上した正孔注入輸送上にデバイス層が形成されているため、製造プロセスが容易でありながら、正孔注入輸送性に優れ、長寿命を達成可能である。
尚、本発明のデバイスの層構成は、上記例示に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
本発明のデバイスにおいて、第一電極層、第二電極層、正孔注入輸送層、及び、当該正孔注入輸送層に用いられる正孔注入輸送層用デバイス材料については、上記の「I.正孔注入輸送層用デバイス材料」、「II.正孔注入輸送層用インク」、「III.デバイスの製造方法」において記載したのと同様であっても良い。更にデバイスに含まれるデバイス層(機能層や補助層)については、後述するデバイスの具体例において、詳細に述べる。
ここでは、正孔注入輸送層について、さらに補足する。
<正孔注入輸送層>
本発明のデバイスにおける正孔注入輸送層は、少なくとも上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料を含有するものである。当該正孔注入輸送層は、正孔注入輸送層用デバイス材料のみからなるものであっても良いが、更に他の成分を含有していても良い。
その他の成分として、上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料以外の正孔輸送性化合物としては、本発明の効果が損なわれない限り、正孔輸送性を有する化合物であれば、適宜用いることができる。ここで、正孔輸送性とは、公知の光電流法により、正孔輸送による過電流が観測されることを意味する。
正孔輸送性化合物としては、低分子化合物の他、高分子化合物も好適に用いられる。正孔輸送性高分子化合物は、正孔輸送性を有し、且つ、ゲル浸透クロマトグラフィーのポリスチレン換算値による重量平均分子量が2000以上の高分子化合物をいう。本発明の正孔注入輸送層においては、溶液塗布法により安定な膜を形成することを目的として、正孔輸送性材料としては有機溶媒に溶解しやすく且つ化合物が凝集し難い安定な塗膜を形成可能な高分子化合物を用いることが好ましい。
正孔輸送性化合物としては、特に限定されることなく、例えばアリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スピロ化合物等を挙げることができる。アリールアミン誘導体の具体例としては、N,N’−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン)(α−NPD)、4,4',4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4’,4”−トリス(N−(2−ナフチル)−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(2−TNATA)など、カルバゾール誘導体としては4,4−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)など、フルオレン誘導体としては、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)−9,9−ジメチルフルオレン(DMFL−TPD)など、ジスチリルベンゼン誘導体としては、4−(ジ−p−トリルアミノ)−4’−[(ジ−p−トリルアミノ)スチリル]スチルベン(DPAVB)など、スピロ化合物としては、2,7−ビス(N−ナフタレン−1−イル−N−フェニルアミノ)−9,9−スピロビフルオレン(Spiro−NPB)、2,2’,7,7’−テトラキス(N,N−ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン(Spiro−TAD)などが挙げられる。
また、正孔輸送性高分子化合物としては、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン誘導体等を用いることができる。ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン誘導体等の導電性高分子は、酸によりドーピングされていてもよい。更に、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スピロ化合物等を繰り返し単位に含む重合体を挙げることができる。
本発明の正孔注入輸送層において、上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料以外の正孔輸送性化合物が用いられる場合には、当該正孔輸送性化合物の含有量は、上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料100重量部に対して、10〜10000重量部であることが、正孔注入輸送性を高くし、且つ、膜の安定性が高く長寿命を達成する点から好ましい。
また、本発明の正孔注入輸送層は、本発明の効果を損なわない限り、バインダー樹脂や硬化性樹脂や塗布性改良剤などの添加剤を含んでいても良い。バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。また、熱または光等により硬化するバインダー樹脂を含有していてもよい。熱または光等光等により硬化する材料としては、上記正孔輸送性化合物において分子内に硬化性の官能基が導入されたもの、あるいは、硬化性樹脂等を使用することができる。具体的に、硬化性の官能基としては、アクリロイル基やメタクリロイル基などのアクリル系の官能基、またはビニレン基、エポキシ基、イソシアネート基等を挙げることができる。硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂であっても光硬化性樹脂であってもよく、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、シランカップリング剤等を挙げることができる。
<有機EL素子>
本発明のデバイスの一実施形態として、少なくとも本発明の正孔注入輸送層及び発光層を含む有機層を含有する、有機EL素子が挙げられる。
以下、有機EL素子を構成する各層について、図10を用いて順に説明する。
図10は、本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。図10に例示する有機EL素子31は、基板2上に第1電極層3がパターン状に形成され、第1電極層3のパターンの開口部に隔壁6aが形成され、第1電極層3および隔壁6aの上に正孔注入輸送層4が形成され、この正孔注入輸送層4の表層部の前記正孔注入輸送層用デバイス材料のフッ素含有有機化合物が分解除去されてフッ素除去層5が形成されており、フッ素除去層5の表面に親液性領域11、および隔壁6aの頂上部に撥液性領域12からなるパターンが形成され、さらに、親液性領域11上に形成された発光層32と、発光層32上に形成された電子注入輸送層33と、電子注入輸送層33上に形成された第2電極層34とを有している。
図10においては、図示されていないが、正孔注入輸送層の親液性領域11と発光層32との間に、更に正孔輸送層が形成されていても良い。
上記図10においては、第一電極層3は陽極、第二電極層34は陰極として機能する。上記有機EL素子は、陽極と陰極の間に電場を印加されると、正孔が陽極から正孔注入輸送層4を経て発光層32に注入され、且つ電子が陰極から発光層に注入されることにより、発光層5の内部で注入された正孔と電子が再結合し、素子の外部に発光する機能を有する。
素子の外部に光を放射するため、発光層の少なくとも一方の面に存在する全ての層は、可視波長域のうち少なくとも一部の波長の光に対する透過性を有することを必要とする。また、発光層と電極6(陰極)の間には、必要に応じて電子注入輸送層33が設けられる。
以下、本発明に係る有機EL素子の各層について詳細に説明する。
なお、基板、電極層については、上記デバイスの説明において挙げたものを用いることができる。
(正孔注入輸送層、正孔輸送層、及び正孔注入層)
本発明のデバイスにおいて必須成分である、上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料又はその分解物を含有する正孔注入輸送層以外にも、更に正孔注入輸送層、正孔輸送層、及び正孔注入層が、発光層と第一電極層の間に適宜形成されても良い。上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料又はその分解物を含有する正孔注入輸送層の上に更に正孔輸送層を積層し、その上に発光層を積層してもよいし、正孔注入層の上に更に上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料又はその分解物を含有する正孔注入輸送層を積層し、その上に発光層を積層してもよい。
本発明の必須成分の正孔注入輸送層の上に更に正孔輸送層を積層する場合に、正孔輸送層に用いられる正孔輸送性化合物は、特に限定されず、上述した正孔注入輸送層の補足に記載したような正孔注入輸送性化合物を適宜選択して用いることができる。本発明の必須成分の正孔注入輸送層に、上記本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料又はその分解物とは異なる正孔注入輸送性化合物を更に含む場合には、隣接する正孔輸送層には、当該本発明の必須成分の正孔注入輸送層に含まれる正孔輸送性化合物と同じ化合物を用いることが、本発明の必須成分の正孔注入輸送層と正孔輸送層の界面の密着安定性を向上させ、長駆動寿命化に寄与する点から好ましい。
正孔輸送層は、正孔注入輸送性化合物を用いて、後述の発光層と同様方法で形成することができる。正孔輸送層の膜厚は、通常0.1〜1μm、好ましくは1〜500nmである。
また、正孔注入層の上に更に本発明の必須成分の正孔注入輸送層を積層する場合に、正孔注入層に用いられる正孔注入材料は特に限定されず、従来公知の化合物を用いることができる。例えば、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
正孔注入層は、正孔注入材料を用いて、後述の発光層と同様方法で形成することができる。正孔注入層の膜厚は、通常1nm〜1μm、好ましくは2nm〜500nm、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
さらに、正孔注入特性を考慮すると、第一電極層側から発光層5に向かって各層の仕事関数(HOMO)の値が階段状に大きくなるような正孔注入性材料及び正孔輸送性材料を選択して、各界面での正孔注入のエネルギー障壁をできるだけ小さくし、第一電極層と発光層の間の大きな正孔注入のエネルギー障壁を補完することが好ましい。
(発光層)
発光層32は、図10に示すように、第一電極層3が形成された基板2と第二電極層34との間の、上記正孔注入輸送層上の親液性領域11上に形成される。
本発明の発光層に用いられる材料としては、通常、発光材料として用いられている材料であれば特に限定されず、蛍光材料およびりん光材料のいずれも用いることができる。具体的には、色素系発光材料、金属錯体系発光材料等の材料を挙げることができ、低分子化合物または高分子化合物のいずれも用いることができる。
[色素系発光材料の具体例]
色素系発光材料としては、例えば、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、(フェニルアントラセン誘導体、)、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、シクロペンタジエン誘導体、シロール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、スチルベン誘導体、スピロ化合物、チオフェン環化合物、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリアゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、ピラゾリンダイマー、ピリジン環化合物、フルオレン誘導体、フェナントロリン類、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体等を挙げることができる。またこれらの2量体や3量体やオリゴマー、2種類以上の誘導体の化合物も用いることができる。
これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
[金属錯体系発光材料の具体例]
金属錯体系発光材料としては、例えばアルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体等、あるいは中心金属にAl、Zn、Be等または、Tb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダール、キノリン構造等を有する金属錯体を挙げることができる。
これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
[高分子系発光材料の具体例]
高分子系発光材料としては、分子内に上記低分子系材料を分子内に直鎖あるいは側鎖あるいは官能基として導入されたもの、重合体およびデンドリマー等を使用することができる。
例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレノン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、及びそれらの共重合体等を挙げることができる。
[ドーパントの具体例]
上記発光層中には、発光効率の向上や発光波長を変化させる等の目的でドーピング材料を添加してもよい。高分子系材料の場合は、これらを分子構造の中に発光基として含んでいても良い。このようなドーピング材料としては、例えばペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクドリン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体を挙げることができる。またこれらにスピロ基を導入した化合物も用いることができる。
これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
本発明においては、発光層の材料としては蛍光発光する低分子化合物または高分子化合物や、燐光発光する低分子化合物または高分子化合物のいずれをも用いることができる。本発明において、発光層を設ける下地層が本発明の上記正孔注入輸送層である場合、当該正孔注入輸送層は電荷移動錯体を形成して溶液塗布法に用いたキシレン等の非水系溶媒に不溶になる傾向があり、発光層の材料としては、キシレン等の非水系溶媒に溶解しやすく溶液塗布法により層を形成する高分子型材料を用いることが可能である。この場合、蛍光発光する高分子化合物または蛍光発光する低分子化合物を含む高分子化合物や、燐光発光する高分子化合物または燐光発光する低分子化合物を含む高分子化合物を好適に用いることができる。
発光層は、正孔注入輸送層表面の濡れ性変化パターンを利用して、発光材料を用いて溶液塗布法により形成することができる。溶液塗布法は、上述のデバイスの製造方法の項目において説明したのと同様の方法を用いることができる。正孔注入輸送層表面の濡れ性変化パターンを利用して正孔輸送層など他の層が形成される場合、蒸着法や転写法で作製しても良い。蒸着法は、例えば真空蒸着法の場合には、発光層の材料を真空容器内に設置されたルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10‐4Pa程度にまで排気した後、ルツボを加熱して、発光層の材料を蒸発させ、ルツボと向き合って置かれた基板、第一電極層、正孔注入輸送層、及び正孔輸送層の積層体の上に発光層を形成させる。転写法は、例えば、予めフィルム上に溶液塗布法又は蒸着法で形成した発光層を、第一電極層上に設けた正孔注入輸送層に貼り合わせ、加熱により発光層を正孔注入輸送層上に転写することにより形成される。
発光層の膜厚は、通常、1〜500nm、好ましくは20〜1000nm程度である。本発明は、正孔注入輸送層を溶液塗布法で形成することが好適であり、正孔注入輸送層表面の濡れ性変化パターンを利用して、発光層も溶液塗布法で形成することができるので、この場合、プロセスコストを下げることができるという利点がある。
なお、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、有機半導体等、有機トランジスタのその他の有機デバイス、正孔注入輸送層を有する量子ドット発光素子、酸化物系化合物太陽電池等についても、正孔注入輸送層を上記本発明に係る正孔注入輸送層とすれば、その他の構成は特に限定されず、適宜公知の構成と同じであって良い。
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。尚、実施例中、部は特に特定しない限り重量部を表す。また、層又は膜の厚みは平均膜厚で表わされている。
以下の合成例1〜4において、本発明の正孔注入輸送層用デバイス材料である、表面にフッ素含有有機化合物が付着している遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターを得た。
[合成例1]
次の手順で、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11−ヘプタデカフルオロウンデシルアミンで保護されたモリブデン含有ナノ粒子を合成した。25 ml三ッ口フラスコ中に、n−オクチルエーテル 3.2 g(東京化成工業株式会社製)を量り取り、攪拌しながら減圧し、低揮発成分除去のために室温(24℃)にて1.5時間放置した。真空下から大気雰囲気へ変更し、モリブデンヘキサカルボニル 0.2 g(関東化学株式会社製)、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11−ヘプタデカフルオロウンデシルアミン 0.4 g(Fluka社製)を添加した。この混合液をアルゴンガス雰囲気とし、攪拌しながら250℃まで加熱し、その温度を1時間維持した。その後、この混合液を室温(24℃)まで冷却し、アルゴンガス雰囲気から大気雰囲気へ変更した後、エタノール 5 gを添加し、遠心分離によって沈殿物を反応液から分離した。その後、得られた沈殿物をクロロホルム、エタノールで洗い、乾燥することにより、黒色のモリブデン含有ナノ粒子の精製物を得た。
[合成例2]
次の手順で、4-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシル)ベンジルアミンで保護されたモリブデン含有ナノ粒子を合成した。25 ml三ッ口フラスコ中に、n-オクチルエーテル 6.4 g(東京化成工業株式会社製)を量り取り、攪拌しながら減圧し、低揮発成分除去のために室温(24℃)にて2.5時間放置した。真空下から大気雰囲気へ変更し、モリブデンヘキサカルボニル 0.4 g(関東化学株式会社製)、4-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシル)ベンジルアミン 0.9 g(Aldrich社製)を添加した。この混合液をアルゴンガス雰囲気とし、攪拌しながら250℃まで加熱し、その温度を1時間維持した。その後、この混合液を室温(24℃)まで冷却し、アルゴンガス雰囲気から大気雰囲気へ変更した後、エタノール 10 gを添加し、遠心分離によって沈殿物を反応液から分離した。その後、得られた沈殿物をクロロホルム、エタノールで洗い、乾燥することにより、黒色のモリブデン含有ナノ粒子の精製物を得た。
[合成例3]
次の手順で、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11−ヘプタデカフルオロウンデシルアミンで保護されたタングステン含有ナノ粒子を合成した。25 ml三ッ口フラスコ中に、n-オクチルエーテル 6.4 g(東京化成工業株式会社製)を量り取り、攪拌しながら減圧し、低揮発成分除去のために室温(24℃)にて3時間放置した。真空下から大気雰囲気へ変更し、タングステンヘキサカルボニル 0.4 g(Aldrich社製)、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11−ヘプタデカフルオロウンデシルアミン 0.8 g(Fluka社製)を添加した。この混合液をアルゴンガス雰囲気とし、攪拌しながら250℃まで加熱し、その温度を1時間維持した。その後、この混合液を室温(24℃)まで冷却し、アルゴンガス雰囲気から大気雰囲気へ変更した後、エタノール 10 gを添加し、遠心分離によって沈殿物を反応液から分離した。その後、得られた沈殿物をクロロホルム、エタノールで洗い、乾燥することにより、茶色のタングステン含有ナノ粒子の精製物を得た。
[合成例4]
{Mo154クラスター}Na15[MoVI 126Mo 28O462H14(H2O)70]0.5[MoVI 124Mo 28O457H14(H2O)68]0.5・400H2Oクラスターの合成方法
100mLナス型フラスコに磁気撹拌子を入れ、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物(3.04g)、蒸留水(25mL)、35%塩酸(2.47mL)を加えた。ついで亜ジチオン酸ナトリウム(0.15g)を加え、室温で24時間撹拌した。その後、5日完静置し、析出した濃青色の固体をろ過し、冷水で洗浄した。濃青色油状物をサンプル瓶に移し、デシケーター内で乾燥させ濃青色固体の水溶性のモリブデン酸化物クラスター(以下、簡略化して「Moクラスター」という)(1.46g)を得た。Moクラスターが合成できていることは、フーリエ変換赤外分光法(FT−IR法)とラマン分光法により確認した。FT−IR法には、VARIAN社製FT−IR装置(FTS6000)を用い、KBr法で測定した。FT−IR法にて、各波長における強度分布を測定することによりモリブデン酸化物クラスターを構成する元素の種類と結合状態(原子団;部分構造)及びその量を分析した。その結果、波数:νcm−1,1617、974、912、820、747、632、557に吸収が観測された。吸収のある波数の値は、非特許文献1の“Synthetic Metals”,(1997),vol.85,p.1229−1232に示されている水溶性Mo154クラスターに特徴的な吸収波数と一致した。
ラマン分光法には、HORIBA社製レーザラマン分光装置LabRAM HR−800Lを用いた。514nmレーザーを用い、グレーティングが1800本、積算回数10回の条件で測定した。
その結果、下記の波数に吸収が観察され、モリブデンと酸素の結合があることが確認された。resonance Raman bands (solid; λe = 514nm):ν(cm−1)= 997,824,666,465,379,339,290,242,216,199,154,129,119.
合成したMoクラスター1の平均粒子径を測定するためMoクラスター1(Mo154)を蒸留水に0.4重量%溶解させ、超音波で1時間溶解させた後に80度水浴で10分、さらに超音波で1時間溶解させ、0.2μmフィルターでろ過した溶液を測定した。
測定強度L.I.0.045の時に、個数平均粒径MN(Mean Number Diameter)は4nmであった。Mo154はドーナツ型をしていて直径が約4nmといわれており、個数平均粒径の4nmの測定結果とほぼ一致している。
上記で合成したMo154クラスターにトリエチル(1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロ−n−オクチル)アンモニウム アイオダイド塩をカチオン交換法で吸着させた。Mo154クラスター水溶液0.5wt%(濃紺)とトリエチル(1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロ−n−オクチル)アンモニウム アイオダイド塩のシクロヘキサノン溶液0.5wt%(薄黄)を混合させて、60℃で1時間加熱したところ、シクロヘキサノン溶液中に紺色の成分が微少量抽出された。このシクロヘキサノン溶液成分のみを取り出して、合成例4の正孔注入輸送層形成用インキを得た。
[合成例5]
(1)フッ素含有有機化合物F-1の合成
ジクロロメタン溶媒中で、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(東京化成社製)を用いて、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7−トリデカフルオロヘプタン酸(アルドリッチ社製)と1,4−ジアミノブタン(東京化成社製)との縮合反応を行い、フッ素含有有機化合物F-1を合成した。なお、得られたフッ素含有有機化合物の構造は、1H NMR(日本電子社製 α−400)および質量分析(日本電子社製 JMS600)により特定した。得られた化合物F-1の分子量が質量分析により434であること、及び1H NMRより、下記構造式の化合物が合成されていることを確認した。取得したNMRスペクトルを図13に示す。
(2)フッ素含有有機化合物F-1で保護されたモリブデン含有ナノ粒子の合成
100 ml三ッ口フラスコ中に、n-オクチルエーテル 6.4 g(東京化成工業株式会社製)を量り取り、攪拌しながら減圧し、低揮発成分除去のために室温(24℃)にて1.5時間放置した。真空下から大気雰囲気へ変更し、モリブデンヘキサカルボニル 0.2 g(関東化学株式会社製)、フッ素含有有機化合物F-1 0.7 gを添加した。この混合液をアルゴンガス雰囲気とし、攪拌しながら220℃まで加熱し、その温度を30分間維持した。その後、この混合液を室温(24℃)まで冷却し、アルゴンガス雰囲気から大気雰囲気へ変更した後、エタノール 5 gを添加し、遠心分離によって沈殿物を反応液から分離した。その後、得られた沈殿物をクロロホルム、エタノールで洗い、乾燥することにより、黒色のモリブデン含有ナノ粒子の精製物を得た。
[合成例6]
(1)フッ素含有有機化合物F-2の合成
クロロホルム中、トリエチルアミン存在下で、1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロ−n−オクチルヨージド(東京化成社製)と2-アミノエタンチオール(東京化成社製)との縮合反応を行い、フッ素含有有機化合物F-2を合成した。得られた化合物F-2の分子量が質量分析により423であること、及び1H NMRより、下記構造式の化合物が合成されていることを確認した。取得したNMRスペクトルを図14に示す。
(2)フッ素含有有機化合物F-2で保護されたモリブデン含有ナノ粒子の合成
合成例5のモリブデン含有ナノ粒子の合成において、フッ素含有有機化合物F-1を用いる代わりに、フッ素含有有機化合物F-2を用いた以外は、合成例5と同様にして、黒色のモリブデン含有ナノ粒子の精製物を得た。
[合成例7]
(1)フッ素含有有機化合物F-3の合成
水素化アルミニウムリチウムを用いて、合成例1で得られたフッ素含有有機化合物F-1を還元することにより、フッ素含有有機化合物F-3を得た。得られた化合物F-3の分子量が質量分析により420であること、及び1H NMRより、下記構造式の化合物が合成されていることを確認した。取得したNMRスペクトルを図15に示す。
(2)フッ素含有有機化合物F-3で保護されたモリブデン含有ナノ粒子の合成
合成例5のモリブデン含有ナノ粒子の合成において、フッ素含有有機化合物F-1を用いる代わりに、フッ素含有有機化合物F-3を用いた以外は、合成例5と同様にして、黒色のモリブデン含有ナノ粒子の精製物を得た。
[合成例8]
(1)フッ素含有有機化合物F-4の合成
2,3,3,3-テトラフルオロ-2-(1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロポキシ)プロパン酸ナトリウム(アルドリッチ社製)をジクロロメタン溶媒中、ピリジン共存下でシアヌル酸フルオライド(アルドリッチ社製)を反応させることにより酸フッ化物に変換した。ジクロロメタン溶媒中で、当該酸フッ化物と1,4-ジアミノブタンとの縮合反応を行うことにより、フッ素含有有機化合物F-4を合成した。得られた化合物F-4の分子量が質量分析により400であること、及び1H NMRより、下記構造式の化合物が合成されていることを確認した。取得したNMRスペクトルを図16に示す。
(2)フッ素含有有機化合物F-4で保護されたモリブデン含有ナノ粒子の合成
合成例5のモリブデン含有ナノ粒子の合成において、フッ素含有有機化合物F-1を用いる代わりに、フッ素含有有機化合物F-4を用いた以外は、合成例5と同様にして、黒色のモリブデン含有ナノ粒子の精製物を得た。
[比較合成例1]
次の手順で、n−ヘキサデシルアミンで保護されたモリブデン含有ナノ粒子を合成した。25ml三ッ口フラスコ中に、n−ヘキサデシルアミン 0.8g(関東化学株式会社製)、n−オクチルエーテル 12.8g(東京化成工業株式会社製)を量り取り、攪拌しながら減圧し、低揮発成分除去のために室温(24℃)にて1hr放置した。真空下から大気雰囲気へ変更し、モリブデンヘキサカルボニル 0.8g(関東化学株式会社製)を添加した。この混合液をアルゴンガス雰囲気とし、攪拌しながら280℃まで加熱し、その温度を1h維持した。その後、この混合液を室温(24℃)まで冷却し、アルゴンガス雰囲気から大気雰囲気へ変更した後、エタノールを20g滴下した。次いで、遠心分離によって沈殿物を反応液から分離した後、下記に示す手順で再沈殿による精製を行った。
すなわち、沈殿物をクロロホルム3gと混合して分散液とし、この分散液にエタノール6gを滴下することにより精製された沈殿物を得た。
このようにして得られた再沈殿液を遠心分離し、沈殿物を反応液から分離した後、乾燥することにより、黒色のモリブデン含有ナノ粒子の精製物を得た。
<粒径の測定>
合成例1〜3、5〜8及び比較合成例1で得られた遷移金属含有ナノ粒子の一次粒径は、日立ハイテクノロジー社製の超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡S−4800を用いて測定した。測定用試料は、遷移金属含有ナノ粒子分散溶液を市販の支持膜付きのマイクログリッド上に数滴滴下し、溶媒を減圧乾燥させることによって作製した。粒子像観察は、走査型透過電子顕微法(STEM)モードにて行った。観察された明るい粒子の20個の平均値を平均粒径とした。観察している粒径は、保護剤を除いた遷移金属含有ナノ粒子の平均粒径であると考えられる。
合成例1で作製したナノ粒子の平均粒径は、7nmであった。合成例2で作製したナノ粒子の平均粒径は、9nmであった。合成例3で作製したナノ粒子の平均粒径は、15nmであった。合成例5で作製したナノ粒子の平均粒径は、6nmであった。合成例6で作製したナノ粒子の平均粒径は、6nmであった。合成例7で作製したナノ粒子の平均粒径は、8nmであった。合成例8で作製したナノ粒子の平均粒径は、5nmであった。比較合成例1で作製したナノ粒子の平均粒径は、6nmであった。
<遷移金属含有ナノ粒子の結晶構造の測定>
粉末X線回折法にて上記で得られたモリブデン含有ナノ粒子の結晶構造を同定した。測定装置にはリガク社製RINT-1500を用い、測定用試料はモリブデン含有ナノ粒子粉末をガラス上にのせて作製した。X線源としてはCuKα線を用い、管電圧50 kV、管電流250 mAの条件で実施した。2θ/θスキャン法でスキャン速度が毎分2°、ステップ角が0.05°の条件で測定した。
合成例1〜2、5〜8および比較合成例1で得られたモリブデン含有ナノ粒子はいずれも、2θ=37.8、43.7、63.4、75.7、79.9°に鋭いピークが観察された。データベースJCPDS card No.15−0457の値から、作製したモリブデン含有ナノ粒子はMoCやMoCを主体とする炭化Moナノ粒子であることがわかった。
なお、合成例3で得られたタングステン含有ナノ粒子のXRDチャートはブロードであり結晶構造を特定できなかった。アモルファスなナノ粒子が形成されていると推測される。
<膜厚の測定>
膜厚は、洗浄済みのITOつきガラス基板上に、測定しようとする材料で形成した層を単層として形成し、カッターナイフで段差を作製してから、段差の高さをプローブ顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製、Nanopics1000)を用い、タッピングモードで測定した。
<イオン化ポテンシャルの測定>
本発明でのイオン化ポテンシャルの値は、光電子分光装置AC−1(理研計器製)を用いて測定した仕事関数の値を適用した。測定は、洗浄済みのITO付きガラス基板(三容真空社製)上に、測定しようとする材料で形成した層を単層として形成し、前記の光電子分光装置AC−1で光電子が放出されるエネルギー値で決定した。測定条件としては、50nWの光量で0.05eV刻みで行った。
合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いた正孔注入輸送層のイオン化ポテンシャルは5.4eVであった。合成例2で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いた正孔注入輸送層のイオン化ポテンシャルは5.4eVであった。合成例3で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いた正孔注入輸送層のイオン化ポテンシャルは5.6eVであった。合成例4で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いた正孔注入輸送層のイオン化ポテンシャルは5.8eVであった。合成例5で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いた正孔注入輸送層のイオン化ポテンシャルは5.4eVであった。合成例6で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いた正孔注入輸送層のイオン化ポテンシャルは5.4eVであった。合成例7で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いた正孔注入輸送層のイオン化ポテンシャルは5.4eVであった。合成例8で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いた正孔注入輸送層のイオン化ポテンシャルは5.4eVであった。比較合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いた正孔注入輸送層のイオン化ポテンシャルは5.0eVであった。
<吸収スペクトルの測定>
吸収スペクトルは、洗浄済みの石英基板上に、測定しようとする材料で形成した層を単層として形成し、この薄膜付基板とリファレンスの石英基板との光学吸収の差を、UV−3100PC(日立製)を用いて測定した。
合成例1〜3、5〜8で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料の薄膜(15nm)の254nmの波長での透過率はいずれも85%と高い値であった。合成例4で得られた正孔注入輸送層の254nmの波長での透過率は80%と高い値であった。
<液体の接触角の測定>
液体の接触角は接触角測定器(協和界面科学(株)製、全自動接触角計(DM700))を用いて測定した。標準溶液としてキシレン(表面張力28.5mN/m)を用い、マイクロシリンジから2マイクロリットルの液滴を滴下してから5秒後の接触角を測定した。
<正孔注入輸送層の表面分析>
X線光電子分光法(XPS)にて、遷移金属含有ナノ粒子に含まれる遷移金属の価数とフルオロアルキル基の有無を測定した。測定にはKratos社製ESCA−3400型を用いた。測定に用いたX線源としては、MgKα線を用いた。モノクロメーターは使用せず、加速電圧10kV、フィラメント電流20mAの条件で測定した。
≪素子特性の実験≫
本発明の有機EL素子は、透明陽極付ガラス基板の上に、表面にフッ素含有有機化合物が付着しているMo含有ナノ粒子を含む正孔注入輸送層を形成した後に光触媒処理を施し、その後に正孔輸送層、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、陰極の基本層構成を有するように製膜して積層し、封止して緑発光の有機EL素子として作製し、その有機EL素子の特性、及び濡れ性を評価した。
[実施例1]
パターン形成されたITO付ガラス基板(三容真空社製、ITO膜厚:150nm)を、中性洗剤、超純水の順番に超音波洗浄し、UVオゾン処理を施した。
次に、上記基板の上に正孔注入輸送層として、遷移金属含有ナノ粒子薄膜を、下記正孔注入輸送層形成用インクを用いてスピンコート法により塗布形成した。正孔注入輸送層形成用インクは、合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料0.012gをヘプタフルオロ−n−酪酸エチル3.0gに溶解させて0.4wt%の溶液を調製した。塗膜形成後はホットプレート上200℃で乾燥させた。乾燥後の膜厚は15nmであった。
次に、光触媒含有層付きフォトマスクを調製した。合成石英基板上に透過領域と遮光領域を形成したフォトマスクを用意した。このフォトマスク上に、下記組成の光触媒含有層形成用塗工液をスピンコーターにより塗布し、150℃で10分間の加熱乾燥処理を施し、加水分解・重縮合反応を進行させて硬化させ、光触媒がオルガノシロキサン中に強固に固定された、膜厚100nmの透明な光触媒含有層を形成した。
(光触媒含有層形成用塗工液)
・二酸化チタン(石原産業(株)製、ST−K01) 2重量部
・オルガノアルコキシシラン(東芝シリコーン(株)製、TSL8113) 0.4重量部
・イソプロピルアルコール 3重量部
次に、上記で調製した光触媒含有層付きフォトマスクを介して正孔注入輸送層を露光して、親液性領域および撥液性領域からなるパターンを形成した。高圧水銀灯と、光触媒含有層付きフォトマスクおよび基板の位置調整機構とを備える紫外露光装置を用い、光触媒含有層付きフォトマスクの光触媒含有層と正孔注入輸送層との間の距離が100μmになるように調整した後、光触媒含有層付きフォトマスクの裏面側から254nmの光の露光量が5J/cm2となるように3分間露光した。
次に処理された正孔注入輸送層の上に、正孔輸送層として、ポリビニルカルバゾール(PVK)(分子量70万)薄膜をスピンコート法により塗布形成した。塗工液は、PVKを1,2-ジクロロエタンに溶解させて調製した。塗膜形成後はホットプレート上150℃で乾燥させた。乾燥後の膜厚は20nmであった。
次に、上記正孔輸送層の上に、トリス[2−(p−トリル)ピリジン)]イリジウム(III)(Ir(mppy)3)を発光性ドーパントとして含有し、4,4’−ビス(9−カルバゾリル−2,2’ジメチルビフェニル(CDBP)をホストとして含有する発光層薄膜をスピンコート法により塗布形成した。塗工液は、ホストであるCDBPとドーパントであるIr(mppy)3の重量比が20:1で含有した状態で、乾燥後の合計膜厚が40nmになるように、トルエンに溶解させて調製した。塗膜形成後はホットプレート上100℃で乾燥させた。
上記発光層の上に、正孔ブロック層を蒸着形成した。正孔ブロック層はブロック形成材料にビス(2−メチル−8−キノリラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム錯体(BAlq)を用い、抵抗加熱法により真空中(圧力:1×10−4Pa)でBAlq蒸着膜の膜厚が15nmになるように蒸着形成した。
上記正孔ブロック層の上に、電子輸送層を蒸着形成した。電子輸送層は、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)を抵抗加熱法により真空中(圧力:1×10−4Pa)でAlq3蒸着膜の膜厚が20nmになるように蒸着形成した。
作製した透明陽極付きガラス基板/正孔注入輸送層/正孔輸送層/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層の電子輸送層上に、さらに、電子注入層及び陰極を順次蒸着形成した。電子注入層は、LiF(厚み:0.5nm)を、陰極は、Al(厚み:100nm)を順次抵抗加熱蒸着法により真空中(圧力:1×10−4Pa)で蒸着膜を形成した。
陰極形成後、低酸素、低湿度状態のグローブボックス内にて無アルカリガラスとUV硬化型エポキシ接着剤を用いて封止し、幅mmのライン状にパターニングされた陽極と、この陽極に直交するように幅mmのライン状に形成された電子注入層、陰極を備える実施例1の有機EL素子を作製した。
これらの素子を、10mA/cmで駆動させて、発光輝度とスペクトルをトプコン社製の分光放射計SR−2を測定した。上記実施例及び比較例において作製した有機EL素子は、いずれもIr(mppy)由来の緑色に発光した。測定結果を表1に示す。なお、電流効率は駆動電流と輝度から算出して求めた。
有機EL素子の寿命特性は、定電流駆動で輝度が経時的に徐々に低下する様子を観察して評価した。ここでは初期輝度2000cd/mに対して保持率が50%の輝度に劣化するまでの時間(hr.)を寿命(LT50)とした。
更に、上述のように、正孔注入輸送層に対して、光触媒処理前後の濡れ性と、イオン化ポテンシャルの評価を行った。これらの結果も合わせて表1に示す。
[実施例2]
実施例1において、正孔注入輸送層として、合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いる代わりに、合成例2で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いて正孔注入輸送層(膜厚:15nm)を形成した以外は、実施例1と同様に素子を作製し、素子特性の評価、並びに、正孔注入輸送層の濡れ性及びイオン化ポテンシャルの評価を行った。
[実施例3]
実施例1において、正孔注入輸送層として、合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いる代わりに、合成例3で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いて正孔注入輸送層(膜厚:15nm)を形成した以外は、実施例1と同様に素子を作製し、素子特性の評価、並びに、正孔注入輸送層の濡れ性及びイオン化ポテンシャルの評価を行った。
[実施例4]
実施例1において、露光用光源として253nmの紫外光の代わりに、真空紫外光を用いて露光した以外は、実施例1と同様に素子を作製し、素子特性の評価、並びに、正孔注入輸送層の濡れ性及びイオン化ポテンシャルの評価を行った。この際、メタルマスク側から波長172nmの真空紫外光を、光の露光量が5J/cm2になるように、露光した。
[実施例5]
実施例1において、正孔注入輸送層として、合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いる代わりに、比較合成例1で得られた遷移金属含有ナノ粒子と合成例3で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いて正孔注入輸送層(膜厚:10nm)を形成した以外は、実施例1と同様に素子を作製し、素子特性の評価、並びに、正孔注入輸送層の濡れ性及びイオン化ポテンシャルの評価を行った。比較合成例1と合成例3の材料が混合された正孔注入輸送層形成用インクは、ヘプタフルオロ-n-酪酸エチルとシクロヘキサノンの混合溶媒(重量比1:1)4.0gに比較合成例1と合成例3の材料の重量比が1:1になるように合計0.016gを溶解させて、乾燥後の膜厚が15nmになるように溶液の濃度を調整した。
[実施例6]
実施例1において、正孔注入輸送層として、合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いる代わりに、合成例4で得られた正孔注入輸送層形成用インクを用いて薄膜(膜厚:5nm以下)を形成した以外は、実施例1と同様に素子を作製し、素子特性の評価、並びに、正孔注入輸送層の濡れ性及びイオン化ポテンシャルの評価を行った。
[実施例7]
実施例1において、正孔注入輸送層として、合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いる代わりに、合成例5で得られた正孔注入輸送層形成用インクを用いて薄膜(膜厚:5nm以下)を形成した以外は、実施例1と同様に素子を作製し、素子特性の評価、並びに、正孔注入輸送層の濡れ性及びイオン化ポテンシャルの評価を行った。
[実施例8]
実施例1において、正孔注入輸送層として、合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いる代わりに、合成例6で得られた正孔注入輸送層形成用インクを用いて薄膜(膜厚:5nm以下)を形成した以外は、実施例1と同様に素子を作製し、素子特性の評価、並びに、正孔注入輸送層の濡れ性及びイオン化ポテンシャルの評価を行った。
[実施例9]
実施例1において、正孔注入輸送層として、合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いる代わりに、合成例7で得られた正孔注入輸送層形成用インクを用いて薄膜(膜厚:5nm以下)を形成した以外は、実施例1と同様に素子を作製し、素子特性の評価、並びに、正孔注入輸送層の濡れ性及びイオン化ポテンシャルの評価を行った。
[実施例10]
実施例1において、正孔注入輸送層として、合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いる代わりに、合成例8で得られた正孔注入輸送層形成用インクを用いて薄膜(膜厚:5nm以下)を形成した以外は、実施例1と同様に素子を作製し、素子特性の評価、並びに、正孔注入輸送層の濡れ性及びイオン化ポテンシャルの評価を行った。
[比較例1]
実施例1において、正孔注入輸送層として、合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いる代わりに、比較合成例1で得られた遷移金属含有ナノ粒子を用いて薄膜(膜厚:15nm)を形成した以外は、実施例1と同様に素子を形成し、素子特性の評価、並びに、正孔注入輸送層の濡れ性及びイオン化ポテンシャルの評価を行った。比較合成例1で得られた遷移金属含有ナノ粒子の正孔注入輸送層形成用インクは、シクロヘキサノンの溶媒に比較合成例1の材料を、乾燥後の膜厚が15nmになるように溶解させて作製した。
[比較例2]
実施例1において、正孔注入輸送層として、合成例1の化合物膜の代わりに、PEDOT/PSS(スタルク社製AI4083)と4-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロデシル)ベンジルアミンをスピンコート法で積層薄膜を形成した以外は、実施例1と同様に素子を形成し、素子特性の評価、並びに、正孔注入輸送層の濡れ性及びイオン化ポテンシャルの評価を行った。PEDOT/PSS層はPEDOT/PSS溶液を蒸留水で薄めて、乾燥後の膜厚が15nmになるように溶解させて作製した。次にヘプタデカフルオロデシルベンジルアミンを、ヘプタフルオロ−n−酪酸エチルに0.4wt%溶解させた溶液を用いて、塗布形成して薄膜を乾燥させた。乾燥後の膜厚は計測不能で5nm以下であった。
[比較例3]
比較例2において、正孔注入輸送層に光触媒マスクつきマスクを介さずに253nmの紫外光のみを照射した以外は、比較例5と同様に素子を作製し、素子特性の評価、並びに、正孔注入輸送層の濡れ性及びイオン化ポテンシャルの評価を行った。
[比較例4]
比較例2において、正孔注入輸送層に光触媒処理を施さなかった以外は、比較例2と同様に素子を作製し、素子特性の評価、並びに、正孔注入輸送層の濡れ性及びイオン化ポテンシャルの評価を行った。
[参考例1]
実施例1において、正孔注入輸送層に光触媒処理を施さなかった以外は、実施例1と同様に素子を作製し、素子特性の評価、並びに、濡れ性及びイオン化ポテンシャルの評価を行った。
[参考例2]
実施例2において、正孔注入輸送層に光触媒処理を施さなかった以外は、実施例1と同様に素子を作製し、素子特性の評価、並びに、濡れ性及びイオン化ポテンシャルの評価を行った。
[参考例3]
実施例3において、正孔注入輸送層に光触媒処理を施さなかった以外は、実施例1と同様に素子を作製し、素子特性の評価、並びに、濡れ性及びイオン化ポテンシャルの評価を行った。
[評価]
実施例1と参考例1を比較すると、光触媒処理後に接触角は58°から5°以下に低下し、イオン化ポテンシャルは5.4eVから5.6eVに上昇している。さらに素子特性では光触媒処理後に寿命が5時間から7時間に向上している。光触媒処理によってフルオロアルキル成分が分解されたことと、Mo混合ナノ粒子の表面が酸化されたことにより表面が改質されて、特性が改善したものと推測される。この結果は、実施例2と参考例2の比較、および実施例3と参考例3の比較においても、同様に特性が改善されたと示される結果が得られている。
実施例4と参考例1を比較すると、真空紫外光照射により接触角は58°から5°以下に低下し、イオン化ポテンシャルは5.4eVから5.5eVに上昇している。さらに素子特性では真空紫外光照射後に寿命が5時間から5.5時間に向上している。真空紫外光照射によりフルオロアルキル成分が分解されたことと、Mo混合ナノ粒子の表面が真空紫外光で発生したオゾンにより酸化されたことにより表面が改質されて、特性が改善したものと推測される。
実施例1と実施例5を比較すると、実施例5では駆動電圧が1V減少している。この結果は、実施例5ではフルオロアルキルつきのW含有ナノ粒子が、表面張力が小さく、薄膜形成時に浮き上がり、フルオロアルキルなしのMo含有ナノ粒子がITO側に多く存在し、フルオロアルキルつきのW含有ナノ粒子が正孔輸送層側に多く存在するような濃度勾配をもつ膜が形成されていることが示唆される。Mo含有ナノ粒子よりもW含有ナノ粒子の方のイオン化ポテンシャルが大きいため、ホールの注入性が高くなって低電圧化したものと推測される。
また、実施例同士を比較すると、実施例10が、輝度、電流効率及び寿命のいずれも優れていた。これは、エーテル結合を持つフッ素成分が分解しやすく、正孔注入輸送層表面の残留有機成分が少なくなることにより、薄膜界面の密着性が向上し、素子特性が向上したのではないかと推定される。
実施例1と比較例1を比較すると、フッ素化アルキル基つきの実施例1の方が、長鎖アルキルつきの比較例1よりも1V低電圧駆動であり寿命も長い。この結果はフルオロアルキル基が付くことによってイオン化ポテンシャルが大きくなるため、ホールの注入性が高くなって低電圧化し、長寿命化したものと推測される。
比較例2〜4を比較すると、正孔注入輸送層に一般的な有機系正孔注入材料であるPEDOT/PSSを用いた場合には、光照射および、光触媒処理により、高電圧化し寿命が短くなっていることがわかる。この結果は光照射および光触媒処理によって、PEDOT/PSSが酸化あるいは分解されて、正孔注入性や駆動耐性が劣化したものと考えられる。
実施例6と比較例4を比較すると、実施例6のMoクラスターにおいても実施例1のMoナノ粒子の場合と同様に撥油性がコントロールでき、PEDOT/PSSを用いた場合よりも高特性が得られている。
≪濡れ性変化の実験≫
[実施例11]
図11に示すように、ITO透明電極(陽極)42が形成されたガラス基板41の上に、正孔注入輸送層43として合成例で作製したフッ素含有有機化合物が表面に付着したMo含有ナノ粒子の薄膜をスピンコート法で10nm形成し、基体上に遮光部と光触媒含有層とが形成された光触媒含有層基板(光触媒含有層付きフォトマスク50)を用いてパターン露光し、露光部と非露光部の濡れ性を接触角測定により調べた。
まず、透明電極として酸化インジウム錫(ITO)の薄膜(厚み:150nm)を用いた。ITO付ガラス基板(三容真空社製)を、中性洗剤、超純水の順に超音波洗浄し、UVオゾン処理を施した。
次に、上記基板の上に正孔注入輸送層として、Mo含有ナノ粒子薄膜をスピンコート法により塗布形成した。正孔注入輸送層形成用インクは、合成例1で得られたMo含有ナノ粒子をヘプタフルオロ−n−酪酸エチルに溶解させて調製した。塗膜形成後はホットプレート上200℃で乾燥させた。乾燥後の膜厚は15nmであった。キシレンに対する正孔注入輸送層表面の接触角は58°であった。
次に、光触媒含有層付きフォトマスク50を調製した。合成石英基板51上に透過領域52と遮光領域53を設けるようにクロムマスク54を形成したフォトマスクを用意した。このフォトマスク上に、下記組成の光触媒含有層形成用塗工液をスピンコーターにより塗布し、150℃で10分間の加熱乾燥処理を施し、加水分解・重縮合反応を進行させて硬化させ、光触媒がオルガノシロキサン中に強固に固定された、膜厚100nmの透明な光触媒含有層55を形成した。合成石英基板51上の端部に光触媒含有層55を形成しない透過領域56が設けられた。
(光触媒含有層形成用塗工液)
・二酸化チタン(石原産業(株)製、ST−K01) 2重量部
・オルガノアルコキシシラン(東芝シリコーン(株)製、TSL8113) 0.4重量部
・イソプロピルアルコール 3重量部
次に、上記で調製した光触媒含有層付きフォトマスクを介して正孔注入輸送層を露光して、親液性領域および撥液性領域からなるパターンを形成した。高圧水銀灯と、光触媒含有層付きフォトマスクおよび基板の位置調整機構とを備える紫外露光装置を用い、光触媒含有層付きフォトマスク50の光触媒含有層55と正孔注入輸送層43との間の距離が100μmになるように調整した後、光触媒含有層付きフォトマスク50の裏面側から254nmの光の露光量が5J/cm2となるように3分間露光した。
続いて、正孔注入輸送層上の露光部と非露光部との液体の静的接触角を接触角計(協和界面科学社製)により測定した。液体にはキシレン(表面張力:28.5mN/m)を使用した。
[実施例12]
実施例11において、露光用光源として253nmの紫外光の代わりに、真空紫外光を用いて露光した以外は、実施例11と同様に親液性領域および撥液性領域からなるパターンを形成し、濡れ性の評価を行った。この際、メタルマスク側から波長172nmの真空紫外光を、光の露光量が5J/cm2になるように、撥液性領域および親液性領域からなるパターンを形成した。
[実施例13]
実施例11において、正孔注入輸送層として、合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いる代わりに、合成例2で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いて正孔注入輸送層(膜厚:15nm)を形成した以外は、実施例11と同様に新液性領域および撥液性領域からなるパターンを形成し、濡れ性の評価を行った。
[参考例4]
実施例11において、光触媒処理をせずに、正孔注入輸送層をホットプレートで200℃1hr.加熱した以外は、実施例11と同様に薄膜を形成し、濡れ性の評価を行った。
[参考例5]
参考例4において、正孔注入輸送層として、合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いる代わりに、合成例2で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いて正孔注入輸送層(膜厚:15nm)を形成した以外は、参考例4と同様に薄膜を形成し、濡れ性の評価を行った。
[参考例6]
参考例4において、正孔注入輸送層として、合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いる代わりに、合成例3で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いて正孔注入輸送層(膜厚:15nm)を形成した以外は、参考例4と同様に薄膜を形成し、濡れ性の評価を行った。
[参考例7]
参考例4において、正孔注入輸送層として、合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いる代わりに、合成例4で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いて正孔注入輸送層(膜厚:15nm)を形成した以外は、参考例4と同様に薄膜を形成し、濡れ性の評価を行った。
[比較例5]
参考例4において、正孔注入輸送層として、合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いる代わりに、PEDOT/PSS(スタルク社製AI4083)と4-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロデシル)ベンジルアミンをスピンコート法で積層薄膜を形成した以外は、参考例4と同様に素子を形成し、濡れ性の評価を行った。PEDOT/PSS層はPEDOT/PSS溶液を蒸留水で薄めて、乾燥後の膜厚が15nmになるように溶解させて作製した。次にヘプタデカフルオロデシルベンジルアミンを、ヘプタフルオロ−n−酪酸エチルに0.4wt%溶解させた溶液を用いて、塗布形成して薄膜を乾燥させた。乾燥後の膜厚は計測不能で5nm以下であった。
[評価]
実施例11〜13について、光照射前の正孔注入輸送層の表面である領域I、図11に示す、光が照射され、光触媒が作用した領域II、未露光部で光触媒が作用しなかった領域III、及び、光が照射されたが、光触媒は作用しなかった領域IVにおける液体の接触角を下記表2に示す。
また、参考例4〜7、及び比較例5について、正孔注入輸送層の200℃加熱前及び後における液体の接触角を下記表3に示す。
実施例11〜13において、領域II(光触媒の存在下で光照射)のキシレンの接触角がすべて5°以下に下がっている。この結果はフォトマスク上で発生したスーパーオキサイドラジカルまたはヒドロキシラジカルによりフルオロアルキル基成分が分解され、親液化したものと考えられる。これらの表面のXPS測定では、フルオロアルキル基が除去されていることが観測された。一方、領域III(未露光部)では液体の接触角はすべて初期の領域Iと同じであった。未露光部と露光部の撥液性のコントラストは20°以上あるため、本プロセスによりインクの塗り分けができることがわかる。また、実施例11および13において領域IVの露光のみの箇所では、254nmの光で材料は分解されておらず、光触媒の存在が必要であることがわかる。これらの表面のXPS測定ではフルオロアルキル基が未処理の膜と同程度残っていることが観測された。一方、実施例12の領域IVの露光部では接触角が22°であり、未露光部と比較して36°下がっている。未露光部と露光部の撥液性のコントラストは20°以上あるため、真空紫外光の場合は光触媒が無くても塗り分けができることがわかる。これらの表面のXPS測定ではフルオロアルキル基が少量残っていることが観測された。真空紫外光の場合は直接C−C結合が光のエネルギーにより切れているものと推測される。従って、実施例12の領域IIでは光触媒の効果と光による直接分解の2つの効果が期待される。
参考例4〜7において、本発明に係る正孔注入輸送層用デバイス材料は加熱によってそれぞれ10°程度接触角が低下していることが観察されたが、未露光部と比較してコントラストは20°以上あるため、塗り分けが可能であることがわかる。従って、正孔輸送層の乾燥や熱硬化プロセスで高温の加熱が必要な場合も撥油性が維持できることがわかる。一方、比較例5では加熱により撥液性が完全に損なわれており、加熱により塗り分けが不可能になることがわかる。
≪発光層がパターニングされたデバイスの作製≫
[実施例14]
絶縁層と隔壁が形成されたITO基板(図12(A)に一部拡大概略断面図及び図12(B)に上から見た一部拡大概略平面図が示されている)上に、正孔注入輸送層を形成し、正孔注入輸送層に対して光触媒つきフォトマスクで露光して濡れ性パターニングを施し、親液性部である隔壁間に正孔輸送層と発光層をインクジェット法で塗布形成し、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、陰極の基本層構成を有するように製膜して積層し、封止して緑発光の有機EL素子として作製し、その有機EL素子の発光面を観察した。発光層は緑と青の2色で塗り分けた。
まず、図12(A)及び図12(B)に示されるような格子状の絶縁層とライン状の隔壁が形成されたITO基板を、中性洗剤、超純水の順番に超音波洗浄し、最後にUVオゾン処理を施した。
次に、上記基板の上に正孔注入輸送層として、Mo含有ナノ粒子薄膜をスピンコート法により塗布形成した。正孔注入輸送層形成用インクは、合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料0.012gをヘプタフルオロ−n−酪酸エチル3.0gに溶解させて0.4wt%の溶液を調製した。塗膜形成後はホットプレート上200℃で乾燥させた。乾燥後の膜厚は10nmであった。隔壁構造の無い平坦部で接触角を測ったところ、キシレンに対する正孔注入輸送層表面の接触角は58°であった。
次に、図12(B)に示す開口部が90μmになるようにライン状の遮光領域が形成されたフォトマスクを用い、開口部がライン状の隔壁上に位置するように調整して、基板に対して露光し、撥液性のコントラストの高い濡れ性パターニングを施した。高圧水銀灯と、光触媒含有層付きフォトマスクおよび基板の位置調整機構とを備える紫外露光装置を用い、光触媒含有層付きフォトマスクの光触媒含有層と正孔注入輸送層との間の距離が100μmになるように調整した後、光触媒含有層付きフォトマスクの裏面側から254nmの光の露光量が5J/cm2となるように3分間露光した。露光部であり、かつ隔壁構造の無い平坦部分で接触角を測ったところ、キシレンに対する正孔注入輸送層表面の接触角は5°以下であり、親液化していた。
次に、隔壁の間に形成された親液性領域に下記組成の正孔輸送層形成用塗工液をインクジェット法により塗布して正孔輸送層を形成した。塗膜形成後、窒素中200℃で60分乾燥させた。乾燥後の膜厚が30nmになるようにインクの塗出量を調整した。
(正孔輸送層形成用塗工液)
・ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB) 1.8重量部
・メチルアニソール 98.2重量部
次に、隔壁の間に形成された正孔輸送層の上に下記組成の緑発光層形成用塗工液を1ライン置きにインクジェット法により塗布し、続いて緑発光層形成用塗工液を塗布しなかったラインに青発光層形成用塗工液をインクジェット法により塗布して、1ライン置きに緑と青が配列した発光層を形成した。塗膜形成後、窒素中100℃で30分乾燥させた。乾燥後の膜厚が40nmになるようにインクの塗出量を調整した。
(緑発光層形成用塗工液)
・2-メチル-9,10-ビス(ナフタレン-2-イル)アントラセン(MADN) 1.8重量部
・9,10-ビス[N,N-ジ-(p-トリル)-アミノ]アントラセン(TTPA) 0.02重量部
・安息香酸エチル 98重量部
(青発光層形成用塗工液)
・2-メチル-9、10-ビス(ナフタレン-2-イル)アントラセン(MADN) 1.8重量部
・1−tert−ブチル−ペリレン(TBP) 0.02重量部
・安息香酸エチル 98重量部
上記発光層の上に、正孔ブロック層を一様に蒸着形成した。正孔ブロック層はブロック形成材料にビス(2−メチル−8−キノリラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム錯体(BAlq)を用い、抵抗加熱法により真空中(圧力:1×10−4Pa)でBAlq蒸着膜の膜厚が15nmになるように蒸着形成した。
上記正孔ブロック層の上に、電子輸送層を蒸着形成した。電子輸送層は、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)を抵抗加熱法により真空中(圧力:1×10−4Pa)でAlq3蒸着膜の膜厚が20nmになるように蒸着形成した。
作製した透明陽極付きガラス基板/正孔注入輸送層/正孔輸送層/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層の電子輸送層上に、さらに、電子注入層及び陰極を順次蒸着形成した。電子注入層は、LiF(厚み:0.5nm)を、陰極は、Al(厚み:100nm)を順次抵抗加熱蒸着法により真空中(圧力:1×10−4Pa)で蒸着膜を形成した。
陰極形成後、低酸素、低湿度状態のグローブボックス内にて無アルカリガラスとUV硬化型エポキシ接着剤を用いて封止した。
発光層を塗布した後に、蛍光顕微鏡により発光層の観察を行ったところ、緑と青が混色することなくきれいに塗り分けができていることが確認できた。さらに、作製したデバイスの発光面を顕微鏡で観察したところ、青と緑が1ライン置きに発光するデバイスが作製できていることを確認された。各ピクセルのピクセル内の発光は一様で、ピクセル間の発光ばらつきが小さく、非常に精度高く塗り分けができていることが確認された。
本実施例では緑と青の2色を塗り分けたが、本実施例の方法に従えば、原理的には3色、4色にも容易に拡張することができ、RGBの塗り分けパネルの作製にも容易に適用可能である。
[実施例15]
実施例14において、露光用光源として253nmの紫外光の代わりに、真空紫外光を用いて露光し、光触媒付きのフォトマスクの代わりに光触媒なしのフォトマスクを使用した以外は、実施例14と同様にして実施例15の有機EL素子を作製した。この際、フォトマスク側から波長172nmの真空紫外光を、光の露光量が5J/cm2になるように、撥液性領域および親液性領域からなるパターンを形成した。
作製したデバイスの発光面を顕微鏡で観察したところ、青と緑が1ライン置きに発光するデバイスが作製できていることを確認された。各ピクセルのピクセル内の発光は一様で、ピクセル間の発光ばらつきは小さく、非常に精度高く塗り分けできていることが確認された。
本実施例では緑と青の2色を塗り分けたが、本実施例の方法に従えば、原理的には3色、4色にも容易に拡張することができ、RGBの塗り分けパネルの作製にも容易に適用可能である。
[実施例16]
実施例14において、合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いる代わりに、合成例2で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いた以外は、実施例14と同様にして実施例16の有機EL素子を作製した。
作製したデバイスの発光面を顕微鏡で観察したところ、青と緑が1ライン置きに発光するデバイスが作製できていることを確認された。各ピクセルのピクセル内の発光は一様で、ピクセル間の発光ばらつきは小さく、非常に精度高く塗り分けできていることが確認された。
[実施例17]
実施例14において、絶縁層と隔壁が形成されたITO基板の代わりに、絶縁層のみで隔壁が形成されていないITO基板を用いた以外は、実施例14と同様にして実施例17の有機EL素子を作製した。
発光層を塗布した後に、蛍光顕微鏡により発光層の観察を行ったところ、隔壁構造が無いにもかかわらず、インキが決壊することなく緑と青が混色することなくきれいに塗り分けできていることが確認できた。さらに、作製したデバイスの発光面を顕微鏡で観察したところ、青と緑が1ライン置きに発光するデバイスが作製できていることを確認された。各ピクセルのピクセル内の発光は一様で、ピクセル間の発光ばらつきは小さく、非常に精度高く塗り分けできていることが確認された。
本実施例では緑と青の2色を塗り分けたが、本実施例の方法に従えば、原理的には3色、4色にも容易に拡張することができ、RGBの塗り分けパネルの作製にも容易に適用可能である。
[実施例18]
実施例14において、光触媒付きフォトマスクがクロムパターン付きではなく、クロムパターンがまったく無いフォトマスクを用い、254nmの露光を光触媒含有層付きフォトマスクの裏面側からではなく、ITO基板側から15J/cm2となるように9分間露光した以外は、実施例14と同様にして実施例18の有機EL素子を作製した。
作製したデバイスの発光面を顕微鏡で観察したところ、青と緑が1ライン置きに発光するデバイスが作製できていることを確認された。各ピクセルのピクセル内の発光は一様で、ピクセル間の発光ばらつきは小さく、非常に精度高く塗り分けできていることが確認された。
合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料は254nmでの透過率が高く、更に、先の実施例で示したように254nmのUV照射で素子特性が劣化することは無いので、背面からの露光に有利であることを示している。
[比較例6]
実施例14において、合成例1で得られた正孔注入輸送層用デバイス材料を用いる代わりに、PEDOT/PSS(スタルク社製AI4083)と4−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロデシル)ベンジルアミンをスピンコート法で積層薄膜を形成した以外は、実施例14と同様に、比較例6の有機EL素子を作製した。PEDOT/PSS層はPEDOT/PSS溶液を蒸留水で薄めて、乾燥後の膜厚が15nmになるように溶解させて作製した。次にヘプタデカフルオロデシルベンジルアミンを、ヘプタフルオロ−n−酪酸エチルに0.4wt%溶解させた溶液を用いて、塗布形成して薄膜を乾燥させた。乾燥後の膜厚は計測不能で5nm以下であった。
作製したデバイスの発光面を顕微鏡で観察したところ、青と緑のインキの混色がひどく、ピクセル間の発光ばらつきはひどく悪く、撥油性層がまったく機能していないことが確認された。
1 デバイス用基板
2 基板
3 第一電極層
4 正孔注入輸送層
5 正孔注入輸送層のフッ素分解部
6a 仕切部(隔壁)
6b 仕切部(絶縁層)
11 親液性領域
12 撥液性領域
21 光触媒含有層基板
22 基体
23 遮光部
24 光触媒含有層
27 エネルギー線
28 レーザー
29 真空紫外光
30 メタルマスク
31 有機EL素子
32 発光層
33 電子注入輸送層
34 第二電極層
41 ガラス基板
42 ITO透明電極(陽極)
43 正孔注入輸送層
50 光触媒含有層付きフォトマスク
51 合成石英基板
52 透過領域
53 遮光領域
54 クロムマスク
55 光触媒含有層
56 光触媒含有層を形成しない透過領域
60 絶縁層と隔壁が形成されたITO基板
61 ガラス基板
62 ITO透明電極(陽極)
63 仕切部(絶縁層)
64 仕切部(隔壁)

Claims (14)

  1. 少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターの表面に、フッ素含有有機化合物が付着していることを特徴とする、正孔注入輸送層用デバイス材料。
  2. 前記遷移金属含有ナノ粒子又は遷移金属含有ナノクラスターに含まれる、遷移金属酸化物中の遷移金属として、モリブデン、タングステン、及びバナジウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むことを特徴とする、請求項1に記載の正孔注入輸送層用デバイス材料。
  3. 前記フッ素含有有機化合物が、フッ素化アルキル基を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の正孔注入輸送層用デバイス材料。
  4. 前記請求項1乃至3のいずれかに記載の正孔注入輸送層用デバイス材料と、有機溶媒とを含有することを特徴とする、正孔注入輸送層形成用インク。
  5. 基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスの製造方法であって、
    パターン状に第一電極層が形成された基板上に、前記請求項1乃至3のいずれかに記載の正孔注入輸送層用デバイス材料を含有する正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程と、
    基体上に少なくとも光触媒を含有する光触媒含有層が形成されている光触媒含有層基板を、前記正孔注入輸送層に対して、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及び得る間隙をおいて配置した後、パターン状にエネルギー照射することにより、前記正孔注入輸送層表面に濡れ性の変化した濡れ性変化パターンを形成する濡れ性変化パターン形成工程とを有することを特徴とする、デバイスの製造方法。
  6. 前記正孔注入輸送層形成工程前に、前記パターン状に第一電極層が形成された基板上の前記第一電極層のパターン間に、仕切部を形成する仕切部形成工程を有することを特徴とする、請求項5に記載のデバイスの製造方法。
  7. 前記第一電極層が形成された基板が透光性基板であって、前記仕切部が濡れ性変化パターン形成工程にて照射されるエネルギー線を反射または吸収する仕切部であって、前記濡れ性変化パターン形成工程において、前記透光性基板側からエネルギー照射することにより、前記正孔注入輸送層表面に濡れ性の変化した濡れ性変化パターンを形成することを特徴とする、請求項6に記載のデバイスの製造方法。
  8. 前記濡れ性変化パターン形成工程において、パターン状にエネルギー照射する方法が、マスクを用いてエネルギー照射する方法であることを特徴とする、請求項5乃至7のいずれかに記載のデバイスの製造方法。
  9. 前記濡れ性変化パターン形成工程において、パターン状にエネルギー照射する方法が、紫外レーザーをパターン状にスキャンしてエネルギー照射する方法であることを特徴とする、請求項5乃至7のいずれかに記載のデバイスの製造方法。
  10. 基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスの製造方法であって、
    パターン状に電極層が形成された基板上に、前記請求項1乃至3のいずれかに記載の正孔注入輸送層用デバイス材料を含有する正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程と、
    パターン状に真空紫外線を照射することにより、前記正孔注入輸送層表面に濡れ性の変化した濡れ性変化パターンを形成する濡れ性変化パターン形成工程とを有することを特徴とする、デバイスの製造方法。
  11. 前記正孔注入輸送層形成工程において、前記請求項1乃至3のいずれかに記載の正孔注入輸送層用デバイス材料と、有機溶媒とを含有する正孔注入輸送層形成用インクを調製する工程と、当該正孔注入輸送層形成用インクを酸素存在下で加熱する工程を有することを特徴とする、請求項5乃至10のいずれかに記載のデバイスの製造方法。
  12. 基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスであって、
    前記正孔注入輸送層が、前記請求項1乃至3のいずれかに記載の正孔注入輸送層用デバイス材料を含有し、前記正孔注入輸送層の表層部の前記正孔注入輸送層用デバイス材料のフッ素含有有機化合物が分解除去されていることを特徴とする、デバイス。
  13. 基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスであって、
    パターン状に第一電極層が形成された基板上の前記第一電極層のパターン間に、仕切部を有し、前記仕切部の開口部内の前記第一電極層上及び前記仕切部上に連続した正孔注入輸送層を有し、
    前記仕切部の開口部内の前記第一電極層上及び前記仕切部の側部上の正孔注入輸送層においては、前記請求項1乃至3のいずれかに記載の正孔注入輸送層用デバイス材料の少なくとも一部のフッ素含有有機化合物が分解除去されており、且つ、前記仕切部の頂部上の正孔注入輸送層は前記請求項1乃至3のいずれかに記載の正孔注入輸送層用デバイス材料を含有していることを特徴とする、デバイス。
  14. 前記デバイスが、少なくとも発光層を含む有機層を含有する有機EL素子である、請求項12又は13に記載のデバイス。
JP2010168959A 2009-07-31 2010-07-28 正孔注入輸送層用デバイス材料、正孔注入輸送層形成用インク、正孔注入輸送層を有するデバイス、及びその製造方法 Active JP5531843B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2010168959A JP5531843B2 (ja) 2009-07-31 2010-07-28 正孔注入輸送層用デバイス材料、正孔注入輸送層形成用インク、正孔注入輸送層を有するデバイス、及びその製造方法

Applications Claiming Priority (3)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2009179440 2009-07-31
JP2009179440 2009-07-31
JP2010168959A JP5531843B2 (ja) 2009-07-31 2010-07-28 正孔注入輸送層用デバイス材料、正孔注入輸送層形成用インク、正孔注入輸送層を有するデバイス、及びその製造方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2011049545A JP2011049545A (ja) 2011-03-10
JP5531843B2 true JP5531843B2 (ja) 2014-06-25

Family

ID=43529411

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2010168959A Active JP5531843B2 (ja) 2009-07-31 2010-07-28 正孔注入輸送層用デバイス材料、正孔注入輸送層形成用インク、正孔注入輸送層を有するデバイス、及びその製造方法

Country Status (6)

Country Link
US (1) US9102872B2 (ja)
EP (1) EP2461388A4 (ja)
JP (1) JP5531843B2 (ja)
KR (1) KR101570265B1 (ja)
CN (1) CN102473850B (ja)
WO (1) WO2011013759A1 (ja)

Families Citing this family (30)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
KR101407880B1 (ko) * 2009-10-27 2014-06-16 다이니폰 인사츠 가부시키가이샤 전이 금속 화합물 함유 나노 입자 및 그 제조 방법, 정공 주입 수송층용 잉크, 및 정공 주입 수송층을 갖는 디바이스 및 그 제조 방법
WO2012111462A1 (ja) * 2011-02-15 2012-08-23 コニカミノルタホールディングス株式会社 有機エレクトロルミネッセンス素子及び照明装置
JP5919739B2 (ja) * 2011-11-10 2016-05-18 コニカミノルタ株式会社 有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法
JP5860301B2 (ja) * 2012-02-16 2016-02-16 住友化学株式会社 ナノマテリアル組成物及びこれを用いたナノマテリアル含有層の形成方法
KR102064551B1 (ko) * 2012-03-28 2020-01-09 삼성전자주식회사 이산화탄소 흡착제, 그 제조 방법 및 이를 포함하는 이산화탄소 포집 모듈
EP2963699A4 (en) * 2013-02-26 2016-08-10 Nissan Chemical Ind Ltd CARGO TRANSPORT PAINT
CN105637980B (zh) * 2013-07-11 2017-07-04 柯尼卡美能达株式会社 有机电致发光元件的制造方法及制造装置、以及有机电致发光模块
KR102102705B1 (ko) * 2013-12-04 2020-04-21 엘지디스플레이 주식회사 유기전계발광표시장치
JP6176224B2 (ja) * 2013-12-25 2017-08-09 日亜化学工業株式会社 半導体素子及びそれを備える半導体装置、並びに半導体素子の製造方法
KR20160009120A (ko) * 2014-07-15 2016-01-26 한양대학교 산학협력단 유기 링킹 물질을 갖는 무기막 구조체, 및 그 제조 방법
JP6630053B2 (ja) 2015-03-25 2020-01-15 スタンレー電気株式会社 電子デバイスの製造方法
JP6473361B2 (ja) * 2015-03-25 2019-02-20 スタンレー電気株式会社 電子デバイスの製造方法、および、電子デバイス
JP6491032B2 (ja) 2015-04-24 2019-03-27 スタンレー電気株式会社 抵抗器の製造方法、および、抵抗器
WO2016208596A1 (ja) * 2015-06-22 2016-12-29 住友化学株式会社 有機電子素子の製造方法及び正孔注入層の形成方法
US20170054100A1 (en) * 2015-08-19 2017-02-23 Rohm And Haas Electronic Materials Llc Method of preparing a hole transport layer having improved hole mobility
US11871655B2 (en) * 2016-05-10 2024-01-09 Lg Chem, Ltd. Organic electroluminescent device and manufacturing method therefor
KR102186092B1 (ko) 2016-11-07 2020-12-03 주식회사 엘지화학 코팅 조성물 및 이를 포함하는 유기전계 발광소자
CN107123751B (zh) * 2017-04-28 2019-04-16 武汉华星光电技术有限公司 一种柔性有机发光二极管显示器及其制作方法
CN107768528B (zh) * 2017-09-13 2019-10-29 北京大学深圳研究生院 氟代醇溶剂在制备钙钛矿光电器件中的应用
KR102375620B1 (ko) * 2017-10-16 2022-03-16 엘지디스플레이 주식회사 발광다이오드 및 이를 포함하는 발광장치
JP6440802B1 (ja) * 2017-11-08 2018-12-19 住友化学株式会社 有機デバイスの製造方法
CN109810574A (zh) * 2017-11-21 2019-05-28 深圳Tcl工业研究院有限公司 无机纳米材料印刷油墨及其制备方法和应用
CN109810568A (zh) * 2017-11-21 2019-05-28 Tcl集团股份有限公司 无机纳米材料印刷油墨及其制备方法和应用
CN109810573A (zh) * 2017-11-21 2019-05-28 Tcl集团股份有限公司 无机纳米材料印刷油墨及其制备方法和应用
CN109810570A (zh) * 2017-11-21 2019-05-28 Tcl集团股份有限公司 无机纳米材料印刷油墨及其制备方法和应用
CN109810572A (zh) * 2017-11-21 2019-05-28 深圳Tcl工业研究院有限公司 无机纳米材料印刷油墨及其制备方法和应用
CN109735167B (zh) * 2019-01-08 2021-11-05 京东方科技集团股份有限公司 一种空穴注入层墨水、有机电致发光器件及其制作方法
CN112018264B (zh) * 2020-09-01 2023-04-28 合肥鑫晟光电科技有限公司 一种发光基板及其制备方法
CN112646418A (zh) * 2020-12-21 2021-04-13 广东聚华印刷显示技术有限公司 量子点油墨、量子点发光二极管的制备方法以及显示装置
WO2023152972A1 (ja) * 2022-02-14 2023-08-17 シャープディスプレイテクノロジー株式会社 発光デバイスおよびその製造方法

Family Cites Families (24)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPS5975205A (ja) 1982-10-25 1984-04-27 Seiko Epson Corp カラ−フイルタの製造方法
JP2824411B2 (ja) 1995-08-25 1998-11-11 株式会社豊田中央研究所 有機薄膜発光素子
JP3951445B2 (ja) 1998-05-15 2007-08-01 セイコーエプソン株式会社 有機el素子、表示装置、光学装置、有機el素子の製造方法、表示装置の製造方法、および光学装置の製造方法
JP3679943B2 (ja) 1999-03-02 2005-08-03 大日本印刷株式会社 パターン形成体の製造方法
KR20010085420A (ko) * 2000-02-23 2001-09-07 기타지마 요시토시 전계발광소자와 그 제조방법
JP4165692B2 (ja) 2002-08-05 2008-10-15 大日本印刷株式会社 エレクトロルミネッセント素子の製造方法
US7078276B1 (en) 2003-01-08 2006-07-18 Kovio, Inc. Nanoparticles and method for making the same
JP3748110B1 (ja) 2003-09-26 2006-02-22 株式会社半導体エネルギー研究所 発光装置およびそれを用いた電子機器
JP4963172B2 (ja) * 2004-10-22 2012-06-27 株式会社半導体エネルギー研究所 複合材料及び発光素子
JP2006155978A (ja) 2004-11-26 2006-06-15 Seiko Epson Corp 有機el装置の製造方法、および電子機器
EP1867080A4 (en) 2005-03-23 2009-08-12 Semiconductor Energy Lab COMPOSITE MATERIAL, MATERIAL FOR A LIGHT-EMITTING ELEMENT, LIGHT-EMITTING ELEMENT, LIGHT-EMITTING EQUIPMENT AND ELECTRONIC EQUIPMENT
JP5008324B2 (ja) * 2005-03-23 2012-08-22 株式会社半導体エネルギー研究所 複合材料、発光素子用材料、発光素子、発光装置及び電子機器。
JP2007178783A (ja) 2005-12-28 2007-07-12 Dainippon Printing Co Ltd パターン形成体の製造方法、および、パターン形成体製造装置
JP2007287586A (ja) 2006-04-19 2007-11-01 Matsushita Electric Ind Co Ltd 有機エレクトロルミネッセント素子の製造方法、有機エレクトロルミネッセント素子、これを用いた表示装置および露光装置
JP4904903B2 (ja) * 2006-04-20 2012-03-28 大日本印刷株式会社 有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法
KR101415018B1 (ko) 2006-04-28 2014-07-04 가부시키가이샤 한도오따이 에네루기 켄큐쇼 안트라센 유도체, 및 안트라센 유도체를 사용하는 발광 소자, 발광 장치 및 전자 기기
JP2008041894A (ja) 2006-08-04 2008-02-21 Matsushita Electric Ind Co Ltd 有機エレクトロルミネッセント素子およびその製造方法
JP2008153159A (ja) 2006-12-20 2008-07-03 Dainippon Printing Co Ltd 有機エレクトロルミネッセンス素子およびその製造方法
KR100863905B1 (ko) * 2007-01-15 2008-10-17 삼성에스디아이 주식회사 함불소계 화합물 및 이를 이용한 유기 발광 소자
WO2008117633A1 (en) * 2007-03-23 2008-10-02 Semiconductor Energy Laboratory Co., Ltd. Composition, method for fabricating light-emitting element, light-emitting element, light-emitting device, and electronic device
US8093806B2 (en) 2007-06-20 2012-01-10 Semiconductor Energy Laboratory Co., Ltd. Light-emitting device, method for manufacturing the same, and electronic apparatus
JP2009087781A (ja) * 2007-09-28 2009-04-23 Dainippon Printing Co Ltd エレクトロルミネッセンス素子およびその製造方法
CN103107289B (zh) * 2008-04-28 2015-08-26 大日本印刷株式会社 用于形成空穴注入传输层的含过渡金属的纳米粒子及其制造方法
US8860009B2 (en) 2008-04-28 2014-10-14 Dai Nippon Printing Co., Ltd. Device comprising positive hole injection transport layer, method for producing the same and ink for forming positive hole injection transport layer

Also Published As

Publication number Publication date
KR101570265B1 (ko) 2015-11-18
US9102872B2 (en) 2015-08-11
WO2011013759A1 (ja) 2011-02-03
EP2461388A4 (en) 2014-09-03
KR20120052948A (ko) 2012-05-24
CN102473850A (zh) 2012-05-23
CN102473850B (zh) 2015-02-11
US20120119200A1 (en) 2012-05-17
JP2011049545A (ja) 2011-03-10
EP2461388A1 (en) 2012-06-06

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP5531843B2 (ja) 正孔注入輸送層用デバイス材料、正孔注入輸送層形成用インク、正孔注入輸送層を有するデバイス、及びその製造方法
JP5560996B2 (ja) 正孔注入輸送層用デバイス材料、正孔注入輸送層形成用インク、正孔注入輸送層を有するデバイス、及びその製造方法
EP2495781B1 (en) Nanoparticle containing transition metal compound, ink for hole injection/transport layer, device having hole injection/transport layer, and method for producing same
US9252381B2 (en) Organic electronic device and method for producing the same
JP5572920B2 (ja) 有機エレクトロルミネッセンス素子用基板および有機エレクトロルミネッセンス素子ならびにそれらの製造方法
JP5783179B2 (ja) 遷移金属化合物含有ナノ粒子及びその製造方法、遷移金属化合物含有ナノ粒子分散インク及びその製造方法、並びに正孔注入輸送層を有するデバイス及びその製造方法
JP5104538B2 (ja) 有機エレクトロルミネッセンス素子用基板および有機エレクトロルミネッセンス素子ならびにそれらの製造方法
JP5699323B2 (ja) モリブデン化合物ナノ粒子およびその製造方法、モリブデン化合物ナノ粒子分散インク、デバイスおよびその製造方法
JP2011171243A (ja) 有機エレクトロルミネッセンス素子およびその製造方法
JP2016207750A (ja) デバイスの製造方法
JP6492565B2 (ja) 有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法、及び有機エレクトロルミネッセンス照明装置の製造方法
JP6503699B2 (ja) 有機エレクトロルミネッセンス素子、及びその製造方法、並びに有機エレクトロルミネッセンス照明装置
Hippola OLEDs: Light extraction and deep blue emission
JP2017098172A (ja) 電荷輸送層形成用インクの製造方法、デバイスの製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20130524

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20140123

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20140225

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20140305

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20140325

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20140407

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 5531843

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150