JP2016207750A - デバイスの製造方法 - Google Patents

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圭治 徳永
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Abstract

【課題】遷移金属含有ナノ粒子を用いた電荷輸送層の濡れ性を改善し素子特性を向上するデバイスの製造方法を提供する。【解決手段】基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層を有するデバイスの製造方法であって、遷移金属及び遷移金属化合物の少なくとも1つを含み、沸点が1013.25hPaにおいて350℃以下である保護剤が表面に付着している遷移金属含有ナノ粒子と、溶媒とを含有する電荷輸送層形成用インクを調製する工程と、前記電荷輸送層形成用インクを、前記電極上のいずれかの層上に塗布し、加熱して前記溶媒を除去することにより成膜する工程と、前記成膜された膜上に任意の層が積層される前に、前記成膜された膜を、前記保護剤が気化する条件下で加熱減圧することにより電荷輸送層を形成する工程とを有する、デバイスの製造方法。【選択図】図1

Description

本発明は、遷移金属含有ナノ粒子を用いて正孔注入輸送層や電荷発生層等の電荷輸送層を形成するデバイスの製造方法に関するものである。
電荷輸送層を有する有機物を用いたデバイスは、有機エレクトロルミネセンス素子(以下、有機EL素子という。)、有機トランジスタ、有機太陽電池、有機半導体等、広範な基本素子及び用途への展開が期待されている。また、その他に電荷輸送層を有するデバイスには、量子ドット発光素子、酸化物系化合物太陽電池等がある。
有機EL素子は、発光層に到達した電子と正孔とが再結合する際に生じる発光を利用した電荷注入型の自発光デバイスである。この有機EL素子は、1987年にT.W.Tangらにより蛍光性金属キレート錯体とジアミン系分子とからなる薄膜を積層した素子が低い駆動電圧で高輝度な発光を示すことが実証されて以来、活発に開発されている。
有機EL素子の素子構造は、陰極/有機層/陽極から構成される。この有機層は、初期の有機EL素子においては発光層/正孔注入層とからなる2層構造であったが、現在では、高い発光効率と長駆動寿命を得るために、電子注入層/電子輸送層/発光層/正孔輸送層/正孔注入層とからなる5層構造など、様々な多層構造が提案されている。
これら電子注入層、電子輸送層、正孔輸送層、正孔注入層などの発光層以外の層には、電荷を発光層へ注入・輸送しやすくする効果、あるいはブロックすることにより電子電流と正孔電流のバランスを保持する効果や、光エネルギー励起子の拡散を抑制するなどの効果があるといわれている。
電荷輸送能力および電荷注入能力の向上を目的として、酸化性化合物を、正孔輸送性材料に混合して電気伝導度を高くすることが試みられている。
例えば、特許文献1〜4においては、酸化性化合物すなわち電子受容性化合物として、化合物半導体である金属酸化物が用いられている。注入特性や電荷移動特性が良い正孔注入層を得ることを目的として、例えば五酸化バナジウムや三酸化モリブデンなどの金属酸化物を用いて蒸着法で薄膜を形成したり、或いはモリブデン酸化物とアミン系の低分子化合物との共蒸着により混合膜を形成している。
特許文献5においては、三酸化モリブデンの塗膜形成の試みとして、三酸化モリブデンを物理的に粉砕して作製した微粒子を溶液に分散させてスラリーを作製し、それを塗工して正孔注入層を形成して長寿命な有機EL素子を作製することが記載されている。
特許文献6においては、本出願人により、正孔注入輸送層が、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子を含有するデバイスが開示されている。特許文献6には、正孔注入輸送層に、遷移金属含有ナノ粒子を用いることで、溶液塗布法により正孔注入輸送層を形成でき製造プロセスが容易でありながら、電荷移動錯体を形成可能で正孔注入特性を向上し、且つ、隣接する電極や有機層との密着性にも優れた、安定性の高い膜となると記載されている。
特開2006−155978号公報 特開2007−287586号公報 特許第3748110号公報 特許第2824411号公報 特開2008−041894号公報 特開2009−290204号公報 特開2013−232315号公報
しかしながら、本発明者らは、遷移金属含有ナノ粒子を用いた正孔注入輸送層上に塗布法により発光層や正孔輸送層等を形成することを試みたところ、遷移金属含有ナノ粒子を用いた正孔注入輸送層は、公知の有機材料を用いた正孔注入輸送層と比較して、表面の濡れ性が劣る傾向があることがわかった。濡れ性が悪いと、ハジキが起こり平滑性の悪い膜しか形成できず、短絡の原因になったり正孔注入効率が低下し、素子特性が低下する。さらに本発明者らは検討を行い、遷移金属含有ナノ粒子を用いた正孔注入輸送層の濡れ性不良の要因を突き止めた。すなわち、遷移金属含有ナノ粒子は、中心に遷移金属含有ナノ粒子が存在し、当該ナノ粒子に保護剤が付着した構造であり、正孔注入輸送層は、遷移金属含有ナノ粒子を有機溶剤に分散させたインクを塗布して、有機溶剤を乾燥することにより形成されるが、当該乾燥時の加熱により、遷移金属含有ナノ粒子に付着している保護剤の一部が脱離し、正孔注入輸送層表面に保護剤が露出し、この保護剤が濡れ性に影響を及ぼし、素子特性を低下する原因となっていると考えられた。
特許文献7には、本発明者らが、金属錯体を用いた正孔注入輸送層表面の濡れ性を改善することが可能な有機EL素子の製造方法として、正孔注入輸送層に含まれる金属錯体の配位子に対して溶解性を有する溶剤を用いたリンス処理を行うことにより、濡れ性が向上することを開示している。しかしながら、当該方法によれば、正孔注入輸送層上に上記溶剤を塗布して配位子を除去するような表面処理を行うことから、層表面付近に存在する配位子しか除去されない。また、層表面に溶剤を接触させることから、層の一部が溶解したり表面荒れが発生する恐れもあった。層の一部が溶解したり表面荒れが発生すると素子特性が劣化する恐れがある。当該リンス処理を大面積に対して均等に行うことは困難であった。また、層表面に溶剤を接触させることから、溶剤に不純物を含む場合には層表面に不純物が付着する恐れもあり、リンスに用いる溶剤の管理も重要となる。
上記のような問題を解決して、デバイスの素子特性を更に向上することが望まれている。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、遷移金属含有ナノ粒子を用いた電荷輸送層の濡れ性を改善すると共に、素子特性を向上するデバイスの製造方法を提供することを目的とする。
本発明のデバイスの製造方法は、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層を有するデバイスの製造方法であって、
遷移金属及び遷移金属化合物の少なくとも1つを含み、沸点が1013.25hPaにおいて350℃以下である保護剤が表面に付着している遷移金属含有ナノ粒子と、溶媒とを含有する電荷輸送層形成用インクを調製する工程と、
前記電荷輸送層形成用インクを、前記電極上のいずれかの層上に塗布し、加熱して前記溶媒を除去することにより成膜する工程と、
前記成膜された膜上に任意の層が積層される前に、前記成膜された膜を、前記保護剤が気化する条件下で加熱減圧することにより電荷輸送層を形成する工程と
を有することを特徴とする。
本発明のデバイスの製造方法においては、沸点が1013.25hPaにおいて350℃以下である保護剤が表面に付着している遷移金属含有ナノ粒子と、溶媒とを含有する電荷輸送層形成用インクを、前記電極上のいずれかの層上に塗布し、加熱して前記溶媒を除去することにより成膜する工程において、前記ナノ粒子から前記保護剤が一部脱離する。そして、前記成膜された膜上に任意の層が積層される前に、前記成膜された膜を前記保護剤が気化する条件下で加熱減圧することにより、前記ナノ粒子から一部脱離された保護剤を、膜表面及び膜内部から膜外に除去することが可能になる。当該電荷輸送層表面に存在していた前記脱離された保護剤を除去することによって、濡れ性が向上し、密着性良く表面平滑性に優れた層を積層可能となり、更に、形成された電荷輸送層の内部に存在していた前記脱離された保護剤を除去することによって、電荷輸送性が向上し、これらのことから素子特性が向上すると推定される。
本発明のデバイスの製造方法においては、前記遷移金属含有ナノ粒子に含まれる遷移金属、及び、遷移金属化合物中の遷移金属が、モリブデン、タングステン、及びバナジウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属であることが、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。
また、本発明に係るデバイスの製造方法においては、前記電荷輸送層は、正孔注入輸送層及び電荷発生層の少なくとも1つであることが、好ましい態様として挙げられる。
本発明によれば、遷移金属含有ナノ粒子を用いた電荷輸送層の濡れ性を改善すると共に、素子特性を向上するデバイスの製造方法を提供することができる。
本発明に係るデバイスの製造方法の一例を示す工程図である。 本発明に係るデバイスの製造方法により製造される有機デバイスの基本的な層構成を示す断面概念図である。 本発明に係るデバイスの製造方法により製造されるデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の一例を示す断面模式図である。 本発明に係るデバイスの製造方法により製造されるデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の他の一例を示す断面模式図である。 本発明に係るデバイスの製造方法により製造されるデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の他の一例を示す断面模式図である。 本発明に係るデバイスの製造方法により製造されるデバイスの別の実施形態である有機トランジスタの層構成の一例を示す断面模式図である。 本発明に係るデバイスの製造方法により製造されるデバイスの別の実施形態である有機トランジスタの層構成の他の一例を示す断面模式図である。 本発明に係るデバイスの製造方法により製造されるデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の他の一例を示す断面模式図である。
以下、本発明のデバイスの製造方法について、詳細に説明する。
本発明のデバイスの製造方法は、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層を有するデバイスの製造方法であって、
遷移金属及び遷移金属化合物の少なくとも1つを含み、沸点が1013.25hPaにおいて350℃以下である保護剤が表面に付着している遷移金属含有ナノ粒子と、溶媒とを含有する電荷輸送層形成用インクを調製する工程(電荷輸送層形成用インク調製工程)と、
前記電荷輸送層形成用インクを、前記電極上のいずれかの層上に塗布し、加熱して前記溶媒を除去することにより成膜する工程(成膜工程)と、
前記成膜された膜上に任意の層が積層される前に、前記成膜された膜を、前記保護剤が気化する条件下で加熱減圧することにより電荷輸送層を形成する工程(電荷輸送層形成工程)と
を有することを特徴とする。
なお、本発明において電荷輸送層とは、正孔及び電子の少なくとも1つを輸送する機能を有する層であり、電荷注入機能や電荷発生機能を有していても良い。
本発明における遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層は、中でも、正孔注入輸送層、及び電荷発生層の少なくとも1つとして好適に用いられる。なお、本発明において電荷発生層とは、電界が形成されるときに、正孔と電子を発生する層であるが、その発生界面は、電荷発生層内でもよく、また電荷発生層と他層の界面もしくはその近傍でも良い。
本発明のデバイスの製造方法について図面を参照しながら説明する。
図1(A)〜(E)は、本発明のデバイスの製造方法の一例を示す工程図である。まず、遷移金属及び遷移金属化合物の少なくとも1つを含み、沸点が1013.25hPaにおいて350℃以下である保護剤が表面に付着している遷移金属含有ナノ粒子と、溶媒とを含有する電荷輸送層形成用インクを調製する(図示せず)。一方で、図1(A)に示すように、電極1を備えた基板7を準備する。次に、図1(B)に示すように、電極1上に、前記電荷輸送層形成用インクを、塗布し、加熱して前記溶媒を除去することにより成膜し、電荷輸送層前駆層11を形成する。当該加熱工程により、前記電荷輸送層前駆層11において、前記遷移金属含有ナノ粒子の表面に付着していた前記保護剤の一部が脱離し、脱離した保護剤12が存在するようになると推定される。次いで、図1(C)に示すように、前記成膜された電荷輸送層前駆層11上に任意の層が積層される前に、前記成膜された電荷輸送層前駆層11を、加熱減圧装置内20で前記保護剤が気化する条件下で加熱減圧することにより、遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層2を形成する。当該保護剤が気化する条件下で加熱減圧する工程において、前記脱離した保護剤12が電荷輸送層2の外に除去されると推定される。続いて、図1(D)に示すように、デバイスの種類によって様々な機能を発揮する任意の層13を、前記電荷輸送層2上に積層する。次いで図1(E)に示すように、任意の層13上に電極6を形成する。このようにして、デバイス100が作製される。
本発明のデバイスに用いられる遷移金属含有ナノ粒子は、含まれる遷移金属又は遷移金属化合物の反応性が高く、例えば正孔輸送性化合物との間で、或いは遷移金属含有ナノ粒子同士で、電荷移動錯体を形成し易いと推定される。また、遷移金属含有ナノ粒子は、無機化合物の遷移金属酸化物と異なり、ナノ粒子中に保護剤として有機部分を含むため、隣接する有機層との界面の密着性も良好となると考えられる。
しかしながら、遷移金属含有ナノ粒子を用いた電荷輸送層は、公知の有機材料を用いた電荷輸送層と比較して、表面の濡れ性が劣る傾向があることがわかった。濡れ性が悪いと、ハジキが起こり平滑性の悪い膜しか形成できず、短絡の原因になったり例えば正孔注入効率が低下し、素子特性が低下する。
これは、保護剤が表面に付着している遷移金属含有ナノ粒子と、溶媒とを含有する電荷輸送層形成用インクを、前記電極上のいずれかの層上に塗布し、加熱して前記溶媒を除去することにより成膜する工程において、前記ナノ粒子から前記保護剤が一部脱離することや元々余剰の保護剤が膜中に存在することが原因と考えられた。当該一部脱離された保護剤や余剰の保護剤が、電荷輸送層表面に露出して電荷輸送層表面の濡れ性に影響を及ぼすと共に、電荷輸送層内部に存在して素子特性を低下する原因となっていると考えられた。保護剤は、遷移金属含有ナノ粒子の表面に安定的に付着させるために、遷移金属含有ナノ粒子に含まれる遷移金属及び遷移金属化合物の少なくとも1つと連結する作用を有する連結基を、通常有する。しかし、当該連結基は、一部脱離された保護剤や余剰の保護剤の状態においては、遷移金属及び遷移金属化合物の少なくとも1つと連結していないことから、電荷担体を捕捉し易い傾向があり、素子特性を低下する原因となっていると考えられた。
それに対して、本発明のデバイスの製造方法によれば、加熱して前記溶媒を除去することにより成膜する工程において、前記ナノ粒子から前記保護剤が一部脱離しても、前記成膜された膜上に任意の層が積層される前に、前記成膜された膜を前記保護剤が気化する条件下で加熱減圧することにより、前記ナノ粒子から一部脱離された保護剤や余剰の保護剤を、膜表面及び膜内部から、膜外に除去することが可能になる。当該電荷輸送層表面に存在していた前記脱離された又は余剰の保護剤を除去することによって、層表面の濡れ性が向上し、表面平滑性に優れた層を密着性良く積層可能となる。更に、形成された電荷輸送層の内部に存在していた前記脱離された又は余剰の保護剤やその他保護剤由来の不純物等が除去されることによって、形成された電荷輸送層の電荷輸送性が向上する。このように、表面平滑性に優れた層を電荷輸送層上に密着性良く積層可能となり、且つ、形成された電荷輸送層の電荷輸送性が向上することから素子特性が向上すると推定される。
なお、このような現象は、遷移金属及び遷移金属化合物の少なくとも1つを含み、沸点が1013.25hPaにおいて350℃以下である保護剤が表面に付着している遷移金属含有ナノ粒子と溶剤とを含むインクを用いて塗布法により成膜した場合に特有の現象である。本発明はこのような特有の課題を前記成膜された膜上に任意の層が積層される前に、前記成膜された膜を前記保護剤が気化する条件下で加熱減圧することにより、解決したものである。
本発明の、成膜された膜を前記保護剤が気化する条件下で加熱減圧する方法によれば、特許文献7のリンス処理法に比べて、膜内部に存在する保護剤が除去できることにより素子特性が更に向上するほか、プロセスが容易であり生産性が高くなる。
なお、電荷移動錯体を形成していることは、例えば、1H NMR測定により、遷移金属含有ナノ粒子を電荷輸送性化合物の溶液へ混合した場合、電荷輸送性化合物の6〜10ppm付近に観測される芳香環に由来するプロトンシグナルの形状やケミカルシフト値が、遷移金属含有ナノ粒子を混合する前と比較して変化する現象が観測されることによって示唆される。
以下、本発明に係るデバイスの製造方法の各工程について詳細に説明する。
1.電荷輸送層形成用インク調製工程
本発明における電荷輸送層形成用インク調製工程は、遷移金属及び遷移金属化合物の少なくとも1つを含み、沸点が1013.25hPaにおいて350℃以下である保護剤が表面に付着している遷移金属含有ナノ粒子と、溶媒とを含有する電荷輸送層形成用インクを調製する工程である。
(1)遷移金属含有ナノ粒子
本発明に用いられる特定の遷移金属含有ナノ粒子は、遷移金属及び遷移金属化合物の少なくとも1つを含み、沸点が1013.25hPaにおいて350℃以下である保護剤が表面に付着している遷移金属含有ナノ粒子である。
本発明に係る遷移金属含有ナノ粒子は、単に遷移金属化合物が粉砕されて形成された粒子と異なり、ナノ粒子表面において、沸点が1013.25hPa、すなわち1気圧において350℃以下である保護剤が表面に付着している。当該保護剤は、通常炭素数が1以上の有機化合物であり、保護剤に含まれる有機基は上記特定の遷移金属化合物の表面を覆うように配置されるため、有機溶剤との親和性が高くなり、有機溶剤に分散性を有するようになり、また、分散安定性が高いものとなる。なおここで、ナノ粒子とは、直径がnm(ナノメートル)オーダー、すなわち1μm未満の粒子をいう。
遷移金属及び遷移金属化合物の少なくとも1つを含む遷移金属含有ナノ粒子は、単一構造であっても複合構造であっても良く、コア・シェル構造、合金、島構造等であっても良い。遷移金属含有ナノ粒子に含まれる遷移金属化合物としては、酸化物、硫化物、炭化物、ホウ化物、セレン化物、ハロゲン化物、錯体等が挙げられる。本願において、遷移金属含有ナノ粒子中には、遷移金属酸化物が含まれることが好ましい。遷移金属酸化物が必ず含まれることにより、イオン化ポテンシャルの値が最適になったり、不安定な酸化数+0の金属からの酸化による変化をあらかじめ抑制しておくことにより、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させることが可能になるからである。中でも、遷移金属含有ナノ粒子中に酸化数の異なる遷移金属酸化物が共存して含まれることが好ましい。酸化数の異なる遷移金属酸化物が共存して必ず含まれることにより、酸化数のバランスによって正孔輸送や正孔注入性が適度に制御されることにより、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させることが可能になるからである。なお、ナノ粒子内には処理条件によって様々な価数の遷移金属原子や化合物、例えば酸化物やホウ化物など、が混在していても良い。
中でも、本発明に用いられる特定の遷移金属含有ナノ粒子は、遷移金属酸化物、遷移金属炭化酸化物、遷移金属窒化酸化物及び遷移金属硫化酸化物よりなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属化合物を含むことが、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させることが可能になる点から好ましい。
遷移金属炭化酸化物、遷移金属窒化酸化物及び遷移金属硫化酸化物においては、遷移金属炭化物、遷移金属窒化物及び遷移金属硫化物のそれぞれにおいて、少なくとも一部が酸化されていれば良い。好ましくは、遷移金属炭化物、遷移金属窒化物及び遷移金属硫化物のそれぞれにおいて、表層1nm程度が酸化されていることが好ましい。
本発明で用いられる遷移金属含有ナノ粒子に含まれる、遷移金属、及び、遷移金属化合物に含まれる遷移金属としては、具体的には例えば、モリブデン、タングステン、バナジウム、レニウム、ニッケル、銅、チタン、白金、銀等が挙げられる。
中でも、前記遷移金属含有ナノ粒子に含まれる、遷移金属、及び、遷移金属化合物中の遷移金属が、モリブデン、タングステン、及びバナジウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属であることが、反応性が高いことから、電荷移動錯体を形成し易く、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。
保護剤は、沸点が1013.25hPaにおいて350℃以下である保護剤を選択して用いる。沸点が1013.25hPaにおいて350℃以下である保護剤であれば、後述する加熱減圧装置により、沸点が1013.25hPaにおいて350℃以下である保護剤が気化する条件を容易に設定可能であり、後述する加熱減圧する工程において、層表面及び層内部に存在する、前記脱離した保護剤が電荷輸送層の外に除去される。
除去され易くなる点から、保護剤は、沸点が1013.25hPaにおいて340℃以下であることが好ましい。
一方で、電荷輸送層形成用インクから溶剤を乾燥することにより電荷輸送層前駆層を成膜する際に、電荷輸送層形成用インクに含まれる溶剤と同時に保護剤が完全に除去されることを抑制する点から、保護剤の1013.25hPaにおける沸点は、電荷輸送層形成用インクにおいて組み合わせて用いられる溶剤の1013.25hPaにおける沸点よりも15℃以上高いことが好ましく、更に30℃以上高いことが好ましい。保護剤の1013.25hPaにおける沸点は、具体的には130℃以上であることが好ましい。
沸点が1013.25hPaにおいて350℃以下である保護剤を適宜選択して用いられれば、特に限定されないが、遷移金属含有粒子の表面保護と分散安定性の点から、前記遷移金属及び遷移金属化合物の少なくとも1つと連結する作用を生ずる連結基を有する炭素数が1以上の有機化合物であることが好ましい。
保護剤は、沸点が1013.25hPaにおいて350℃以下である限り、低分子化合物であっても良いし、高分子化合物であっても良いが、溶解性や分散安定性の点から、分子量が1000以下程度の低分子化合物であることが好ましい。
連結基としては、遷移金属及び遷移金属化合物の少なくとも1つと連結する作用を有すれば、特に限定されない。連結には、吸着や配位も含まれるが、イオン結合、共有結合等の化学結合であることが好ましい。
連結基としては、水酸基、スルホンアミド基、及び下記一般式(1a)〜(1o)で示される官能基よりなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
(式中、Z、Z及びZは、各々独立にハロゲン原子又はアルコキシ基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表わす。)
保護剤において、前記連結基の数は、分子内に1つ以上であればいくつであっても良い。しかしながら、より均一なナノ粒子を得たい場合には、連結基と後述する親水性基は別の置換基を採用し、連結基は保護剤の1分子内に1つであることが好ましい。
更に、保護剤が、前記連結基の他に、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、シラノール基、スルホ基、スルホン酸塩及びアンモニウム基よりなる群から選択される1種以上の親水性基を有する場合、保護剤が連結基によって上記特定の遷移金属化合物に連結されると、保護剤に含まれる親水性基は上記特定の遷移金属化合物の表面を覆った有機基上に配置されるため、ナノ粒子表面が親水性になって、親水性溶剤に分散性を有するようになり、また、分散安定性が高いものとなる。
本発明においては、当該遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層の機能と、上下に隣接する層との関係から、保護剤の連結基以外の部分が、疎水性を有する場合と親水性が有する場合を適宜選択すればよい。
当該遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層と隣接する有機層との密着性向上などにより、膜の分散安定性が向上し、長駆動寿命化に寄与する点からは、保護剤の連結基以外の部分が、疎水性であることが好ましい。
一方、当該遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層の下層となる層が疎水性溶剤に溶解し易い傾向がある場合、或いは、当該遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層上に、疎水性溶剤を用いた溶液塗布法で有機層を隣接して形成する場合等には、保護剤が、前記連結基の他に前記親水性基を有することが好ましい。
なお、親水性溶剤とは、ある割合で水と相溶する溶剤である。親水性溶剤としては、水、又は、水への溶解度(20℃)が5g/L以上であることを目安として、特に限定されることなく用いることができる。親水性溶剤は、任意の割合で水と混合可能な溶剤であることが好ましい。
一方、疎水性溶剤としては、水への溶解度(20℃)が5g/L未満であることを目安とすることができる。
保護剤に含まれる有機基としては、炭素数1以上の有機基であるが、好ましくは1〜30であり、好ましくは炭素数が2以上であり、より好ましくは2〜30、より更に好ましくは2〜25、特に好ましくは4〜25の直鎖、分岐、又は環状の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基、炭素数6〜40、より好ましくは12〜34、より更に好ましくは12〜26の芳香族炭化水素基及び複素環基、並びに、これらの構造の組み合わせが挙げられる。なお、ここでの炭素数は、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、及び複素環基の置換基の炭素数は含まれない。
長駆動寿命化に寄与する点から、保護剤の連結基以外の部分が、疎水性であるようにするためには、4〜25の直鎖、分岐、又は環状の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基、炭素数6〜40、より好ましくは12〜34、より更に好ましくは12〜26の芳香族炭化水素基及び複素環基、並びに、これらの構造の組み合わせが特に好ましい。
中でも、有機基としては、連結基に直接結合する部分に環状構造などの嵩高い構造をもたないもの、すなわち脂肪族炭化水素基であることが、連結基を介して保護剤が表面を保護する際に欠陥なく密に保護できる点から、好ましく、また直鎖構造にて炭素数が1以上存在することが、ナノ粒子のコアの遷移金属化合物間の距離を十分に保つことができナノ粒子同士の凝集を防ぐことができる点から、好ましい。
一方で、保護剤が、有機基として、芳香族炭化水素基及び複素環基の少なくとも1種を含む場合には、電荷輸送性を有したり、隣接する電荷輸送性化合物との密着性向上等により、膜の分散安定性を向上することができる。
芳香族炭化水素及び複素環としては、具体的には例えば、ベンゼン、トリフェニルアミン、フルオレン、ビフェニル、ピレン、アントラセン、カルバゾール、フェニルピリジン、トリチオフェン、フェニルオキサジアゾール、フェニルトリアゾール、ベンゾイミダゾール、フェニルトリアジン、ベンゾジアチアジン、フェニルキノキサリン、フェニレンビニレン、フェニルシロール、及びこれらの構造の組み合わせ等が挙げられる。
また、本発明の効果を損なわない限り、芳香族炭化水素及び複素環の少なくとも1つを含む構造に置換基を有していても良い。置換基としては、例えば、炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。
保護剤に、親水性基と連結基の両方ともを含む場合、連結基と親水性基は、同種の置換基であっても良いが、1分子中に、少なくとも、連結基の機能を果たす置換基と、親水性基の機能を果たす置換基とが1個ずつ含まれることが好ましい。ただし連結基と親水性基が同一の場合には保護剤が連結基を複数有することになり、連結基を介してナノ粒子同士が結合し凝集することが懸念されるため、安定した分散性を維持する点からは、保護剤において、連結基と親水性基はそれぞれ異なる方が好ましい。保護剤に親水性を付与する場合、ナノ粒子と結合しにくい1個以上の親水性基と、ナノ粒子に結合しやすい1個の連結基とが、保護剤に含まれることが更に好ましい。
保護剤に、親水性基と連結基の両方ともを含む場合、中でも親水性基としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、スルホ基、スルホン酸塩及びアンモニウム基よりなる群から選択される1種以上であることが、遷移金属化合物と連結する力が比較的弱い点から好ましく、更に、水酸基、カルボキシル基、チオール基、スルホ基及びスルホン酸塩よりなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
また、保護剤が、分子量1000以下のような低分子化合物である場合には、ナノ粒子表面を覆っている保護剤の厚みが薄いため、遷移金属含有化合物表面が隣接層化合物と接近し相互作用しやすく、遷移金属含有化合物が電荷注入性の向上に寄与しやすいというメリットが期待でき、好ましい。保護剤の分子量の下限としては、特に限定されないが、50以上であることを目安とすることができる。
保護剤は、ナノ粒子を溶剤に分散可能とする点から、用いられる溶剤への溶解度(20℃)が10g/L以上であることが好ましく、更に50g/L以上であることが好ましい。
本発明の特定の遷移金属含有ナノ粒子において、遷移金属及び遷移金属化合物の合計と、保護剤との含有比率は、用途により適宜選択され、特に限定されないが、遷移金属及び遷移金属化合物の合計100質量部に対して、保護剤が10〜40質量部であることが好ましい。
本発明に用いられる特定の遷移金属含有ナノ粒子の平均粒径は、特に限定されるものではなく、例えば、0.5nm〜999nmとすることができ、用途により適宜選択されればよい。平均粒径は、0.5nm〜50nmであることが好ましく、中でも0.5nm〜20nmであることが好ましい。20nm以下の薄膜を形成する場合には、さらに、15nm以下であることが好ましく、特に1nm〜10nmの範囲内であることが好ましい。粒径が小さすぎるものは、製造が困難であるからである。一方、粒径が大きすぎると、単位質量当たりの表面積(比表面積)が小さくなり、所望の効果が得られない可能性があり、さらに薄膜の表面粗さが大きくなりショートが多発するおそれがあるからである。
ここで平均粒径は、動的光散乱法により測定される個数平均粒径であるが、電荷輸送層に分散された状態においては、平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて得られた画像から、ナノ粒子が20個以上存在していることが確認される領域を選択し、この領域中の全てのナノ粒子について粒径を測定し、平均値を求めることにより得られる値とする。
本発明に用いられる特定の遷移金属含有ナノ粒子の製造方法は、上述した遷移金属含有ナノ粒子を得ることができる方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、遷移金属錯体と上記保護剤を有機溶剤中で反応させるなどの液相法等が挙げられる。例えば、特開2011−119681、再表2012/018082、特開2012-069963を参考にして、適宜調製することができる。
(2)溶媒
インクに用いられる溶媒としては、前記遷移金属含有ナノ粒子と、必要に応じて添加される正孔輸送性化合物などのその他成分とが良好に溶解乃至分散すれば特に限定されない。
前記遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層の機能と、上下に隣接する層との関係から、保護剤の連結基以外の部分が、疎水性を有する場合と親水性が有する場合を適宜選択するのに合わせて、疎水性溶剤か、親水性溶剤を適宜選択すればよい。例えば、電荷輸送層の下層が、電荷輸送層形成時に疎水性溶剤を用いても溶解しなければ、電荷輸送層は疎水性溶剤を用いて形成しても良い。
疎水性溶剤や低極性溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、ドデシルベンゼン、シクロヘキサノン、テトラリン、メシチレン、アニソール、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン、クロロホルム、o−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、アセトニトリル等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
一方、親水性溶剤としては、具体例として、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、エチルヘキサノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、12−アミノ−1−ドデカノ−ル、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
また、互いに相溶する溶剤同士であれば、上記疎水性溶剤と親水性溶剤との混合溶剤を適宜選択しても良い。
本発明の電荷輸送層形成用インクにおいて、前記遷移金属含有ナノ粒子は、後述する正孔輸送性化合物を含有しない場合、インク中の全固形分に対して90質量%以上であることが好ましく、更に95質量%以上であることが好ましく、より更に99質量%以上であることが好ましい。ここで、固形分とは溶剤以外の成分をいい、液状の低分子化合物も含まれる。
また、本発明の電荷輸送層形成用インクにおいて、溶剤を含めたインク全量中に前記遷移金属含有ナノ粒子を0.1質量%以上含有することが好ましく、更に、厚膜化する場合には、0.6質量%以上20質量%以下含有することが好ましい。
(3)その他の成分
本発明に用いられる電荷輸送層形成用インクは、遷移金属含有ナノ粒子と溶媒のみからなるものであっても良いが、更に他の成分を含有していても良い。
例えば、更に正孔輸送性化合物を含有することが、遷移金属ナノ粒子と電荷移動錯体を形成して、駆動電圧の低下や素子寿命を更に向上させる点から、好ましい。
正孔輸送性化合物としては、従来公知の正孔輸送性化合物を適宜選択して用いればよい。例えばアミン系化合物、アントラセン系化合物、カルバゾール系化合物、チオフェン系化合物、フルオレン系化合物、ジスチリルベンゼン系化合物、スピロ化合物等を挙げることができる。
正孔輸送性化合物としては、前記遷移金属ナノ粒子と電荷移動錯体を形成し易く、電荷輸送層としての機能を良好にしやすい点から、アミン系化合物が好適に用いられる。
当該アミン系化合物としては、低分子化合物の他、高分子化合物も好適に用いられる。本発明の電荷輸送層においては、溶液塗布法により安定な膜を形成することを目的として、アミン系化合物としては有機溶剤に溶解しやすく且つ化合物が凝集し難い安定な塗膜を形成可能な高分子化合物を用いることが好ましい。重量平均分子量が2000以上のアミン系化合物を適宜選択して用いることが好ましい。
当該アミン系化合物としては、正孔輸送性材料や電荷輸送性材料として用いられている公知のアミン系化合物を適宜選択して用いることができる。
本発明で用いられるアミン系化合物としては、芳香族アミン化合物であることが好ましく、各種芳香族アミン誘導体を用いることが好ましい。芳香族アミン化合物としては、中でもトリフェニルアミン構造を部分構造として含むトリアリールアミン誘導体であることが好ましい。
芳香族アミン化合物の具体例としては、N,N’−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン)(α−NPD)、4,4',4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4’,4”−トリス(N−(2−ナフチル)−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(2−TNATA)などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スピロ化合物等の電子供与性化合物を更に分子内に含んでいても良い。
また、アミン系高分子化合物としては、例えば芳香族アミン誘導体を繰り返し単位に含む重合体を挙げることができる。当該重合体は、更にアントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スピロ化合物等の電子供与性化合物を繰り返し単位に含む共重合体であっても良い。
アミン系高分子化合物としては、中でも、下記一般式(1)で示される化合物であることが、隣接する有機層との密着安定性が良好になりやすい点から好ましい。
(式(1)において、Ar〜Arは、相互に同一であっても異なっていてもよく、共役結合に関する炭素原子数が6個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の芳香族炭化水素基、または共役結合に関する炭素原子数が4個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の複素環基を示す。nは1〜10000、mは0〜10000であり、n+m=10〜20000である。また、2つの繰り返し単位の配列は任意である。)
また、2つの繰り返し単位の配列は任意であり、例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。
nの平均は、5〜5000であることが好ましく、更に10〜3000であることが好ましい。また、mの平均は、5〜5000であることが好ましく、更に10〜3000であることが好ましい。また、n+mの平均は、10〜10000であることが好ましく、更に20〜6000であることが好ましい。
上記一般式(1)のAr〜Arにおいて、芳香族炭化水素基における芳香族炭化水素としては、具体的には例えば、ベンゼン、フルオレン、ナフタレン、アントラセン、及びこれらの組み合わせ、並びにそれらの誘導体、更に、フェニレンビニレン誘導体、スチリル誘導体等が挙げられる。また、複素環基における複素環としては、具体的には例えば、チオフェン、ピリジン、ピロール、カルバゾール、及びこれらの組み合わせ、並びにそれらの誘導体等が挙げられる。
上記一般式(1)のAr〜Arが置換基を有する場合、当該置換基は、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基やアルケニル基であることが好ましい。
上記一般式(1)で示される化合物として、具体的には例えば、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−co−(N,N’−ビス{4−ブチルフェニル}−ベンジジンN,N’−{1,4−ジフェニレン})]が好適な化合物として挙げられる。
本発明の電荷輸送層形成用インクが、更に正孔輸送性化合物を含む場合、当該正孔輸送性化合物は、正孔輸送性の向上の点から、前記遷移金属含有ナノ粒子100重量部に対して、100重量部以上であることが好ましく、更に150重量部以上であることが好ましく、一方、高電圧化抑制、正孔注入性の確保の点から、前記遷移金属含有ナノ粒子100重量部に対して、1000重量部以下であることが好ましく、更に500重量部以下であることが好ましい。
本発明の電荷輸送層形成用インクにおいて、前記遷移金属含有ナノ粒子と、前記正孔輸送性化合物との合計量が、インク中の全固形分に対して90質量%以上であることが好ましく、更に95質量%以上であることが好ましく、より更に99質量%以上であることが好ましい。
なお、本発明の電荷輸送層形成用インクにおいて、前記遷移金属含有ナノ粒子と、正孔輸送性化合物とは、それぞれ、1種単独で用いられても良いし、2種以上混合して用いられても良い。
本発明の電荷輸送層形成用インクには、本発明の効果を損なわない限り、その他の成分を含んでいても良い。例えば、各種バインダー樹脂や硬化性樹脂や塗布性改良剤などの添加剤を含んでいても良い。バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。また、熱または光等により硬化するバインダー樹脂を含有していてもよい。熱または光等により硬化する材料としては、電荷輸送性化合物において分子内に硬化性の官能基が導入されたもの、あるいは、硬化性樹脂等を使用することができる。具体的に、硬化性の官能基としては、アクリロイル基やメタクリロイル基などのアクリル系の官能基、またはビニレン基、エポキシ基、イソシアネート基等を挙げることができる。硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂であっても光硬化性樹脂であってもよく、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、シランカップリング剤等を挙げることができる。
2.成膜工程
本発明における成膜工程は、前記電荷輸送層形成用インクを、前記電極上のいずれかの層上に塗布し、加熱して前記溶媒を除去することにより成膜し、電荷輸送層前駆層を形成する。当該加熱工程により、前記電荷輸送層前駆層において、前記遷移金属含有ナノ粒子の表面に付着していた前記保護剤の一部が脱離し、脱離した保護剤が存在するようになると推定される。
前記電荷輸送層形成用インクを、前記電極上のいずれかの層上に塗布し、酸素存在下で加熱することにより、前記電荷輸送層形成用インクに含まれていた遷移金属含有ナノ粒子の遷移金属及び遷移金属化合物の少なくとも1つを遷移金属酸化物とすることができる。このように、当該成膜工程を酸素存在下で行うことにより、電荷輸送層形成用インク中に遷移金属酸化物を含まない遷移金属含有ナノ粒子を用いたとしても、当該遷移金属含有ナノ粒子の酸化物化工程と兼ねることにより、溶剤溶解性のない遷移金属酸化物を含有する層を、蒸着法を用いることなく溶液塗布法を用いて形成することが可能である。電荷輸送層形成用インク中に、遷移金属酸化物を含む遷移金属ナノ粒子を含有する場合には、必ずしも酸素存在下で加熱する必要はない。しかし、遷移金属酸化物を含む遷移金属ナノ粒子を酸素存在下で加熱することにより、更に酸化物化を進行させ、適宜電荷注入輸送性等を向上させることも可能である。また、酸化物化工程を有することにより、膜強度を向上させることも可能である。もしも、当該成膜工程時に減圧加熱乾燥を行うと、当該酸化物化工程を兼用することはできなくなる。減圧下では、酸素存在下での加熱に比べて酸化に必要な酸素が大幅に少なくなるからである。また、もしも当該成膜工程時に減圧加熱乾燥を行うと、溶媒を除去する際に膜表面が荒れ易く、或いは膜強度が不十分になり、素子特性が低下し易い傾向がある。
前記電極上のいずれかの層上とは、デバイスの層構成により適宜選択されれば良い。デバイスの層構成は、後でより詳細に説明するが、例えば、本発明で製造されるデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の一例として、図3のように、電極1の表面に正孔注入輸送層として遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層2が積層される場合、前記電極上になり、例えば、図4のように、電極1の表面に補助層として正孔注入層4bが形成され、当該正孔注入層4bの表面に遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層2が積層される場合、前記電極上の正孔注入層上となる。また、例えば本発明で製造されるデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の別の一例として、図8のように、基板7上に第一電極1と、第二電極6と、前記第一電極1及び第二電極6の間に配置された、発光層(5−1、5−2、・・・5−n)を含む発光ユニット(3−1、3−2、・・・3−n)を2つ以上と、隣接する発光ユニット間に配置される電荷発生層(2−1、2−2、・・・2−n)として遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層を有する構成の場合、前記電極上のいずれかの層上とは、発光ユニット上となり、より具体的には、発光層上や、発光層に積層された電子輸送層上が挙げられる。
塗布法としては、前記電荷輸送層形成用インクを所定の膜厚で塗布することができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、ノズルコーティング法等が挙げられる。薄膜で平滑な電荷輸送層を得たい場合には、スピンコート法が好適に用いられる。また、電荷輸送層のパターンを得る場合には、基板上に位置選択的に電荷輸送層を形成可能なインクジェット法が好適に用いられる。また、大面積にて電荷輸送層を形成するような場合には、ディップコート法が好適に用いられる。
前記電荷輸送層形成用インクを所定の膜厚で塗布後、加熱して前記電荷輸送層形成用インク中に含まれる前記溶媒を除去することにより、成膜する。ここでの加熱は、インク中に含まれる前記溶媒を除去することを目的とし、減圧下ではなく、常圧、すなわち、ほぼ1気圧(1013.25hPa)で行う。
加熱温度としては、十分に溶媒を除去して残留溶媒を抑制する点から、電荷輸送層形成用インクにおいて組み合わせて用いられる溶剤の1013.25hPaにおける沸点よりも10℃以上高いことが好ましく、更に30℃以上高いことが好ましい。同時に酸化物化を進行させる点からは、加熱温度は、130℃以上であることが好ましく、更に150℃以上であることが好ましく、より更に180℃以上であることが好ましい。
一方、電荷輸送層形成用材料が分解することを抑制する点からは、加熱温度は300℃以下であることが好ましく、更に250℃以下であることが好ましい。
また、加熱時間は、前記電荷輸送層形成用インク中に含まれる前記溶媒を除去することができるように適宜設定されれば良いが、例えば、1〜120分であることが好ましく、更に3〜60分であることが好ましい。
溶媒を除去するための加熱の他に、次の電荷輸送層形成工程前に、更に酸化物化処理を施しても良い。酸化物化する手段としては、例えば、加熱、光照射、活性酸素を作用させる工程などが挙げられ、これらを適宜併用しても良い。酸化物化は、効率的に酸化を行うため、酸素存在下で実施されることが好ましい。
光照射工程を用いる場合には、光照射手段としては、紫外線を露光する方法等が挙げられる。
活性酸素を作用させる工程を用いる場合には、活性酸素を作用させる手段としては、紫外線によって活性酸素を発生させて作用させる方法や、酸化チタンなどの光触媒に紫外線を照射することによって活性酸素を発生させて作用させる方法が挙げられる。
加熱量、光照射量、活性酸素量により、遷移金属含有ナノ粒子の正孔輸送性化合物に対する相互作用や遷移金属含有ナノ粒子同士の相互作用に違いが生じるため、適宜調節することが好ましい。
3.電荷輸送層形成工程
本発明における電荷輸送層形成工程は、前記成膜された膜上に任意の層が積層される前に、前記成膜された膜を、前記保護剤が気化する条件下で加熱減圧することにより、遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層を形成する工程である。
前記成膜された膜上に任意の層が積層される前に、前記成膜された膜を前記保護剤が気化する条件下で減圧しながら加熱することにより、前記成膜工程時に一部脱離した保護剤を、膜表面及び膜内部から、膜外に除去することができ、任意の層を密着性良く表面平滑性に優れた状態で積層できる。
溶媒を除去するための加熱の他に、更に酸化物化処理を施す場合には、当該酸化物化処理によって保護剤が脱離し得るため、当該酸化物化処理を行った後に、加熱減圧工程を行うことが、効果的である。
前記保護剤が気化する条件になるように、減圧の程度と温度を適宜設定するようにする。
減圧の程度は、特に制限されるものではないが、好ましくは、10000Pa以下、より好ましくは5000Pa以下である。減圧が不十分であると、保護剤を膜内部から膜外に除去し難くなる場合がある。なお、減圧の下限は、特に制限されるものではないが、工業的に汎用されている装置では、1×10−5〜10−6Pa程度が下限である。
なお、本発明の減圧効果による沸点の下げ幅や真空引きの時間の長さの点からは、減圧は1Pa以上とすることが好ましい。
加熱温度は、特に制限されるものではないが、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上である。加熱温度が低すぎると、保護剤を膜内部から膜外に除去し難くなる場合がある。また、保護剤は沸点が常圧の1013.25hPaにおいて350℃以下であるので、減圧すれば350℃未満で気化し得る。加熱温度が高すぎると、電荷輸送層形成用材料が分解する恐れがあることから、加熱温度は、好ましくは300℃以下であり、より好ましくは250℃以下である。
減圧しながら加熱する時間は、電荷輸送層の大きさや、膜厚などによって適宜選定されれば良いが、通常、好ましくは1〜120分間、より好ましくは3〜60分間である。処理時間が短すぎると、保護剤を膜内部から膜外に除去し難くなる場合があり、長すぎると、工程作業時間に無駄が生じる場合がある。
上記加熱減圧工程に使用する装置は、特に制限されるものではなく、例えば装置内を減圧すると共に、気化した保護剤を回収するトラップを備えた真空ポンプと、装置内を所望の温度に加熱する加熱装置とを備えた加熱減圧装置などを使用すればよい。常圧で加熱処理して成膜後、前記成膜された膜上に任意の層が積層される前に、前記成膜された膜を、上記加熱減圧装置内に搬入し、装置内を減圧すると共に、所定の温度に加熱することによって、膜表面及び膜内部に存在する一部脱離した保護剤を気化すると共に、当該保護剤を膜表面及び膜内部から除去することができる。
上記加熱手段としては、ホットプレート、電熱線、ランプ、オーブン、マイクロ波、乾燥炉、赤外線放射装置等を挙げることができる。本工程においては、なかでも、ホットプレート、オーブンであることが好ましい。前記成膜された膜を平面視上均一に加熱することが容易であるからである。このため、本工程を経て形成される電荷輸送層を平坦性に優れたものとすることができるからである。
また、上記加熱手段の上記成膜された膜に対する配置としては、上記成膜された膜を下方から加熱するように、上記加熱手段が上記成膜された膜の下方に配置されるものであっても良く、上記成膜された膜を上方から加熱するように、上記加熱手段が上記成膜された膜の上方に配置されるものであっても良い。また、上記成膜された膜を上下の両面から加熱するように、上記成膜された膜の下方と上方とに配置されるものであってもよい。
加熱減圧することにより形成された、遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層の膜厚は、目的や隣接する層により適宜決定することができるが、通常0.1〜1000nm、好ましくは1〜500nmである。
遷移金属含有ナノ粒子を含み、前記正孔輸送性化合物を含有しない場合、電荷輸送層の膜厚は、より好ましくは1〜50nmであり、更に好ましくは1〜30nmである。
遷移金属含有ナノ粒子、及び前記正孔輸送性化合物を含有する場合、電荷輸送層の膜厚は、より好ましくは1〜100nmであり、更に好ましくは1〜50nmである。
加熱減圧を経て形成された遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層は、表面における液体の接触角が前記溶媒を除去する加熱処理後加熱減圧処理前と比較して、小さくなることが好ましい。すなわち、遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層は、表面における液体の接触角が加熱減圧処理前と比較して、小さくなるように加熱減圧することが好ましい。
前記接触角が小さくなることが好ましい液体としては、遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層の上に積層される層の層形成用材料の良溶媒であることが、当該電荷輸送層の上に積層される層の濡れ性が良好になる点から好ましい。遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層表面の濡れ性が悪化すると、当該表面に蒸着膜を積層しても密着性が悪くなる傾向があり、遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層表面の濡れ性が良好になると、当該表面に蒸着膜を積層しても密着性が良くなる傾向がある。なお、当該層形成用材料が、25℃で0.1質量%以上溶解する溶媒であれば、当該層形成用材料の良溶媒と判断することができる。例えば、当該電荷輸送層の上に、正孔輸送層が積層される場合には、前記溶剤としては、正孔輸送層形成用材料の良溶媒である芳香族炭化水素基を含む溶剤であることが好ましい。芳香族炭化水素基を含む溶剤としては、トルエン、キシレン、アニソール、メシチレン、o−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、及び安息香酸エチルよりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
なお、本発明において液体の接触角は、接触角測定器(例えば、協和界面科学社、DM700)を用いて測定した。所望の溶剤をマイクロシリンジから2マイクロリットルを滴下して、θ/2法に従って接触角を測定した。
デバイスの製造方法における、その他の工程については、従来公知の工程を適宜用いることができる。
4.デバイスの構成
以下、本発明に係るデバイスの製造方法により製造されるデバイスの層構成について説明する。
本発明で製造されるデバイスは、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された、遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層を有するデバイスである。
本発明に係るデバイスには、有機EL素子、有機トランジスタ、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、有機半導体を包含する有機デバイスのほか、正孔注入輸送層等の電荷輸送層を有する量子ドット発光素子、酸化物系化合物太陽電池等も含まれる。
図2は本発明で製造される有機デバイスの基本的な層構成を示す断面概念図である。本発明のデバイスの基本的な層構成は、基板7上に対向する2つの電極(1及び6)と、その2つの電極(1及び6)間に配置され、遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層2を含む有機層3を有する。
基板7は、デバイスを構成する各層を形成するための支持体であり、必ずしも電極1の表面に設けられる必要はなく、デバイスの最も外側の面に設けられていればよい。
電荷輸送層2は、少なくとも遷移金属含有ナノ粒子を含有し、電極1から有機層3への少なくとも電荷の輸送を担う層である。
有機層3は、電荷輸送されることにより、デバイスの種類によって様々な機能を発揮する層であり、単層からなる場合と多層からなる場合がある。有機層が多層からなる場合は、有機層は、電荷輸送層の他に更に、デバイスの機能の中心となる層(以下、機能層と称呼する。)や、当該機能層の補助的な層(以下、補助層と称呼する。)を含んでいる。例えば、有機EL素子の場合、遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層の表面に更に積層される正孔輸送層が補助層に該当し、当該正孔輸送層の表面に積層される発光層が機能層に該当する。
電極6は、対向する電極1との間に電荷輸送層2を含む有機層3が存在する場所に設けられる。また、必要に応じて、図示しない第三の電極を有していてもよい。これらの電極間に電場を印加することにより、デバイスの機能を発現させることができる。
図3は、本発明で製造されるデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の一例を示す断面模式図である。本発明の有機EL素子は、電極1の表面に正孔注入輸送層として遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層2が積層され、当該電荷輸送層2の表面に補助層として正孔輸送層4a、機能層として発光層5が積層された形態を有する。
図4は、本発明で製造されるデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の別の一例を示す断面模式図である。本発明の有機EL素子は、電極1の表面に補助層として正孔注入層4bが形成され、当該正孔注入層4bの表面に遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層2、機能層として発光層5が積層された形態を有する。
図5は、本発明で製造されるデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の別の一例を示す断面模式図である。本発明の有機EL素子は、電極1の表面に正孔注入輸送層として遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層2、機能層として発光層5が順次積層された形態を有する。
なお、上記図3〜図5においては、遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層2、正孔輸送層4a、正孔注入層4bのそれぞれが、単層ではなく複数層から構成されているものであっても良い。
上記図3〜図5においては、電極1は陽極、電極6は陰極として機能する。上記有機EL素子は、陽極と陰極の間に電場を印加されると、正孔が陽極から正孔注入輸送層である遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層2及び正孔輸送層4を経て発光層5に注入され、且つ電子が陰極から発光層に注入されることにより、発光層5の内部で注入された正孔と電子が再結合し、素子の外部に発光する機能を有する。
素子の外部に光を放射するため、発光層の少なくとも一方の面に存在する全ての層は、可視波長域のうち少なくとも一部の波長の光に対する透過性を有することを必要とする。また、発光層と電極6(陰極)の間には、必要に応じて電子輸送層及び/又は電子注入層が設けられていてもよい(図示せず)。
図6は、本発明で製造されるデバイスの別の実施形態である有機トランジスタの層構成の一例を示す断面模式図である。この有機トランジスタは、基板7上に、電極9(ゲート電極)と、対向する電極1(ソース電極)及び電極6(ドレイン電極)と、電極9、電極1、及び電極6間に配置された前記有機層としての有機半導体層8と、電極9と電極1の間、及び電極9と電極6の間に介在する絶縁層10を有し、電極1と電極6の表面に、正孔注入輸送層として遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層2が形成されている。
上記、有機トランジスタは、ゲート電極における電荷の蓄積を制御することにより、ソース電極−ドレイン電極間の電流を制御する機能を有する。
図7は、本発明で製造されるデバイスの実施形態である有機トランジスタの別の層構成の一例を示す断面模式図である。この有機トランジスタは、基板7上に、電極9(ゲート電極)と、対向する電極1(ソース電極)及び電極6(ドレイン電極)と、電極9、電極1、及び電極6間に配置された前記有機層として遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層2を形成して有機半導体層8とし、電極9と電極1の間、及び電極9と電極6の間に介在する絶縁層10を有している。この例においては、遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層2が有機半導体層8となっている。
また、図8は、本発明で製造されるデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の別の一例を示す断面模式図である。当該別の一例の有機EL素子の基本的な層構成は、基板7上に電極1と、電極6と、前記電極1及び電極6の間に配置された、発光層を含む発光ユニットn個(発光層5−1を含む発光ユニット3−1、発光層5−2を含む発光ユニット3−2、発光層5−3を含む発光ユニット3−3・・・発光層5−nを含む発光ユニット3−n)と発光ユニットを2つ以上と、隣接する発光ユニット3−1及び発光ユニット3−2の間に配置される電荷発生層として遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層2−1、隣接する発光ユニット3−2及び発光ユニット3−3の間に配置される電荷発生層として遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層2−2、・・・電荷発生層として遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層2−(n−1)とを有する。この例では、発光ユニットがn個積層され、電荷発生層として遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層は、各隣接する発光ユニット間に配置されてn−1個積層されている。
本発明において発光ユニット数nは、1〜6が好ましいが、中でも1〜4が好ましく、更に1〜3が好ましい。
基板7は、有機EL素子を構成する各層を形成するための支持体であり、必ずしも電極1の表面に設けられる必要はなく、有機EL素子の最も外側の面に設けられていればよい。
前記発光ユニットは、少なくとも発光層を含み、有機EL素子の種類によって様々な機能を発揮する層であり、単層からなる場合と多層からなる場合がある。発光ユニットは、発光層の他に、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層、更に、EL素子に用いられる公知の機能層を適宜含んでいても良い。
尚、本発明のデバイスの層構成は、上記例示に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
(1)遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層
本発明における遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層は、正孔及び電子の少なくとも1つを輸送する機能を有する層であり、電荷注入機能や電荷発生機能を有していても良いものである。上述のようなデバイスにおいて、少なくとも電荷輸送機能を有する層として種々応用可能である。本発明における遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層は、中でも、正孔注入輸送層、及び電荷発生層として好適に用いられる。
従来、溶液塗布法では安定して形成できなかった電荷発生層を、溶液塗布法によって安定して形成することができるので、発光層ユニット、及び電荷発生層と、順次塗布プロセスのみで形成することが可能である。そのため、蒸着プロセスを含むプロセスと比較して、単純であり、低コストで有機EL素子を作製できる利点がある。
正孔注入輸送層、及び電荷発生層として用いられる場合、本発明に用いられる遷移金属含有ナノ粒子が電荷移動錯体を形成しやすいように、遷移金属含有ナノ粒子と正孔輸送性化合物とが接触する態様であることが好ましい。
本発明における遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層は、遷移金属含有ナノ粒子と正孔輸送性化合物を含有する混合層であっても良いし、遷移金属含有ナノ粒子を主成分として含有する層と、正孔輸送性化合物を含有する層とが隣接して積層された複数層からなるものであっても良い。更に、本発明における遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層は、遷移金属含有ナノ粒子を主成分として含有する層と、遷移金属含有ナノ粒子と正孔輸送性化合物を含有する層とが隣接して積層された層からなるものであっても良い。
隣接して積層される層に含まれる正孔輸送性化合物としては、上述の電荷輸送層形成用インクで述べたものと同様のものを用いることができる。
また、遷移金属含有ナノ粒子を主成分として含有する層において、「主成分として」は固形分中50質量%以上を含有することを表し、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。
電荷発生層として用いられる場合、中でも、遷移金属含有ナノ粒子を主成分として含有する層と、正孔輸送性化合物を含有する層とが隣接して積層された層であることが、電荷発生層としての機能が向上し、発光効率、輝度、寿命を向上する点から好ましい。
遷移金属含有ナノ粒子を主成分として含有する層と、正孔輸送性化合物を含有する層とが隣接して積層された層の方がこのような機能が向上するのは、前記遷移金属含有ナノ粒子に含まれる前記特定の遷移金属の膜密度が高くなるためと推定される。
一方で、前記遷移金属含有ナノ粒子と、前記正孔輸送性化合物とを含有する混合層1層からなるものを電荷発生層とする場合には、省プロセスとなり、生産性が向上する。
本発明の電荷輸送層において、遷移金属含有ナノ粒子を主成分として含有する層と、正孔輸送性化合物を含有する層とが隣接して積層された層である場合には、前記遷移金属含有ナノ粒子を主成分として含有する層と、前記正孔輸送性化合物を含有する層との膜厚の比は、1:0.1〜1:50であることが電荷輸送機能の点から好ましい。
本発明の電荷輸送層が、電荷発生層として形成される場合、上記電荷発生層が、遷移金属含有ナノ粒子を主成分として含有する層と、正孔輸送性化合物を含有する層とが隣接して積層された層の場合、前記遷移金属含有ナノ粒子を主成分として含有する層は陽極側に配置し、アミン系化合物等の正孔輸送性化合物を含有する層は陰極側に配置することが電荷発生機能の点から好ましい。一般的に、アミン系化合物等の正孔輸送性化合物は、前記遷移金属含有ナノ粒子よりも真空準位側、すなわちLUMOが高く、電子ブロック層や正孔輸送層として機能し得るため、前記遷移金属含有ナノ粒子を主成分として含有する層を陽極側に配置した方が電荷発生層から発生した電子を陽極側の発光層へ移動させることが容易になり、且つ、アミン系化合物等の正孔輸送性化合物を含有する層を陰極側に配置した方が電荷発生層から発生した正孔を陰極側の発光層へ移動させることが容易になるからである。
(2)基板
基板は、本発明のデバイスの支持体になるものであり、例えばフレキシブルな材質であっても、硬質な材質であってもよい。具体的に用いることができる材料としては、例えば、ガラス、石英、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエステル、ポリカーボネート等を挙げることができる。
これらのうち、合成樹脂製の基板を使用する場合には、ガスバリア性を有することが望ましい。基板の厚さは特に限定されないが、通常、0.5〜2.0mm程度である。
(3)電極
本発明のデバイスは、基板上に対向する2つ以上の電極を有する。
本発明のデバイスにおいて、電極は、金属又は金属酸化物で形成されることが好ましく、公知の材料を適宜採用することができる。通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物などの金属酸化物により形成することができる。
電極は、通常、基板上にスパッタリング法、真空蒸着法などの方法により形成されることが多いが、塗布法やディップ法等の湿式法により形成することもできる。電極の厚さは、各々の電極に要求される透明性等により異なる。透明性が必要な場合には、電極の可視光波長領域の光透過率が、通常、60%以上、好ましくは80%以上となることが望ましく、この場合の厚さは、通常10〜1000nm、好ましくは20〜500nm程度である。
本発明においては、電極上に、電荷注入材料との密着安定性を向上させるために、更に金属層を有していても良い。金属層は金属が含まれる層をいい、上述のような通常電極に用いられる金属や金属酸化物から形成される。
その他にも、国際公開公報2012−132126号の段落0062〜0097に記載の材料や方法を適宜選択して用いることができる。
(4)その他の層
本発明のデバイスは、必要に応じて、更に従来公知のデバイスの機能の中心となる層や、当該機能層の補助的な層を有していてもよい。以下、具体例を挙げるがこれらに限定されるものではない。
<発光層>
発光層は、発光材料により形成される。本発明の発光層に用いられる発光材料としては、有機EL素子に用いられる一般的な発光材料であれば特に限定されるものではなく、蛍光材料および燐光材料のいずれも用いることができる。具体的には、色素系発光材料、金属錯体系発光材料等の材料を挙げることができる。また、発光材料は、低分子化合物および高分子化合物のいずれも用いることができる。例えば、特開2010−272891号公報の段落0094〜0100や、国際公開公報2012−132126号の段落0053〜0060に記載の材料や方法により形成することができる。
また、有機発光層中には、発光効率の向上や発光波長を変化させる等の目的でドーパントを添加してもよい。このようなドーパントとしては、有機発光層に用いられる一般的なものを挙げることができる。
発光層の膜厚は、通常、1nm〜500nm、好ましくは20nm〜1000nm程度である。
<正孔注入輸送層、正孔輸送層、及び正孔注入層>
正孔注入輸送層、正孔輸送層、及び正孔注入層は、発光層と陽極である電極の間に適宜形成される。正孔注入輸送層の上に更に正孔輸送層を積層し、その上に発光層を積層してもよいし、正孔注入層の上に更に正孔注入輸送層を積層し、その上に発光層を積層してもよいし、電極の上に、正孔注入輸送層を積層しその上に発光層を積層してもよい。
正孔注入輸送層、正孔輸送層、及び正孔注入層に用いられる材料としては、公知の材料を適宜選択して用いればよい。
正孔注入層、正孔注入輸送層、正孔輸送層の膜厚はそれぞれ、目的や隣接する層により適宜決定することができるが、通常0.1nm〜1μm、好ましくは1nm〜500nm、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
さらに、正孔注入特性を考慮すると、陽極側から発光層に向かって各層の仕事関数の値が階段状に大きくなるような正孔注入材料及び正孔輸送材料を選択して、各界面での正孔注入のエネルギー障壁をできるだけ小さくし、電極と発光層の間の大きな正孔注入のエネルギー障壁を補完することが好ましい。
<電子注入輸送層、電子輸送層、及び電子注入層>
電子注入輸送層、電子輸送層、及び電子注入層は、発光層と陰極である電極の間に適宜形成される。発光層の上に電子輸送層を積層し、当該電子輸送層の上に更に電子注入層を積層してもよい。
電子注入輸送層、電子輸送層、及び電子注入層に用いられる材料としても、公知の材料を適宜選択して用いればよい。例えば、バソキュプロイン、バソフェナントロリン、フェナントロリン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピリジン誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)等の金属錯体、及びこれらの高分子誘導体を挙げることができる。例えば、8−キノリノラトリチウム(Liq)等の8−キノリノール誘導体のアルカリ金属塩の層を形成し、当該層上に代表的熱還元性金属であるアルミニウムを適量真空蒸着してなる層を有するのが好適な構成の一つである。この時、アルミニウム金属はアルカリ金属イオン(LiqではLi+)をin−situ還元反応するので自らは酸化状態に変化して、アルミニウムイオン含有化合物となる。さらに還元されて生成したLi金属は近傍に存在する電子輸送性有機物(例えばAlq)と電子の授受による酸化還元反応によって((Li+Alq→)Li+ + Alq-(ラジカルアニオン))の電荷移動錯体を形成する。
その他にも、国際公開公報2012−132126号の段落0031〜0052、及び0098〜0104に記載の材料や方法を適宜選択して用いることができる。
本発明のデバイスとして、有機EL素子に2つ以上の発光ユニットが含まれる場合に、各発光ユニットは同じであっても、異なっていても良い。各発光ユニットに含まれる層構成が異なっていても良いし、各層に含まれる材料が異なっていても良い。
発光ユニット1つの厚みは、適宜調整されれば良いが、30〜200nmであることが好ましい。
本発明に係るデバイスの別の実施形態として、有機トランジスタを形成する場合に、有機半導体層を形成する材料としては、ドナー性(p型)の、従来公知の低分子あるいは高分子の有機半導体材料が使用できる。
上記有機半導体材料としては、例えば、特開2009−290204号公報の段落0126に記載の材料により形成することができる。
本発明の遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層を含有する有機トランジスタを形成する場合であっても、前記有機半導体層8を構成する化合物としては、正孔輸送性化合物、中でも正孔輸送性高分子化合物を用いることが、本発明の遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層と有機半導体層の界面の密着安定性を向上させ、長駆動寿命化に寄与する点から好ましい。
ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極と、絶縁層については、特に限定されず、例えば特開2009−290204号公報の段落0129〜0131に記載の材料を用いて形成することができる。
なお、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、有機半導体等のその他の有機デバイス、正孔注入輸送層を有する量子ドット発光素子、酸化物系化合物太陽電池等についても、正孔注入輸送層を上記本発明に係る正孔注入輸送層とすれば、その他の構成は特に限定されず、適宜公知の構成と同じであって良い。
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。尚、実施例中、部は特に特定しない限り重量部を表す。また、層又は膜の厚みは平均膜厚で表わされている。
[合成例1]
次の手順で、n−ヘキサデシルアミンで保護されたモリブデン含有ナノ粒子を合成した。25ml三ッ口フラスコ中に、n−ヘキサデシルアミン 0.8g(関東化学株式会社製)、n−オクチルエーテル 12.8g(東京化成工業株式会社製)を量り取り、攪拌しながら減圧し、低揮発成分除去のために室温(24℃)にて1hr放置した。真空下から大気雰囲気へ変更し、モリブデンヘキサカルボニル 0.8g(関東化学株式会社製)を添加した。この混合液をアルゴンガス雰囲気とし、攪拌しながら280℃まで加熱し、その温度を1h維持した。その後、この混合液を室温(24℃)まで冷却し、アルゴンガス雰囲気から大気雰囲気へ変更した後、エタノールを20g滴下した。次いで、遠心分離によって沈殿物を反応液から分離した後、下記に示す手順で再沈殿による精製を行った。
すなわち、沈殿物をクロロホルム3gと混合して分散液とし、この分散液にエタノール6gを滴下することにより精製された沈殿物を得た。
このようにして得られた再沈殿液を遠心分離し、沈殿物を反応液から分離した後、乾燥することにより、黒色のモリブデン含有ナノ粒子の精製物を得た。当該モリブデン含有ナノ粒子の保護剤は、n−ヘキサデシルアミン(沸点が1013.25hPaにおいて330℃)である。
[粒子径の測定]
合成例1で得られたモリブデン含有ナノ粒子の粒子径を動的光散乱法にて測定した。測定には動的光散乱測定装置(日機装株式会社製、ナノトラック粒度分布測定装置 UPA−EX150)を用いた。測定試料として、モリブデン含有ナノ粒子をクロロホルムに分散させた溶液(濃度:4.6mg/ml)を用いた。合成例1のモリブデン含有ナノ粒子についての個数平均粒径は6.2nmであった。
[結晶構造の測定]
粉末X線回折法にて合成例1の黒色の粉末の結晶構造を同定した。測定装置には(株)リガク製のRINT−1500を用い、測定用試料は測定対象の黒色の粉末をガラス上にのせて作製した。X線源としてはCuKα線を用い、管電圧50kV、管電流250mAの条件で実施した。2θ/θスキャン法でスキャン速度が毎分2°、ステップ角が0.05°の条件で測定した。
合成例1で得られた黒色の粉末はいずれも、2θ=37.8、43.7、63.4、75.7、79.9°に鋭いピークが観察された。データベースJCPDS card No.15−0457の値から、作製した黒色の粉末はMoCあるいはMoCを主体とする粒子であることがわかった。
[モリブデン含有ナノ粒子の価数の測定]
X線光電子分光法にて合成例1で得られたモリブデン含有ナノ粒子の価数を測定した。測定にはKratos社製ESCA−3400型を用いた。測定に用いたX線源としては、AlKα線を用いた。モノクロメーターは使用せず、加速電圧10kV、フィラメント電流20mAの条件で測定した。
測定試料は、アルミホイル上に合成例1のモリブデン(Mo)含有ナノ粒子粉末を置き、その上からカーボンテープを貼り付けた試料台を押し付けて作製した。このモリブデン含有ナノ粒子は合成から1日後に測定された。
Moの酸化数が+4であるMoOの3d5/2に帰属されるスペクトル(ピーク位置229.5eV)と、Moの酸化数が+6であるMoOの3d 5/2に帰属されるスペクトル(ピーク位置232.5eV)が観測された。酸化モリブデンのピークが支配的である理由は、通常XPSの場合には表面から深さ1nm程度しか測定できないため、酸化された表面を主に観察しているものと推定される。
[実施例1]
ガラス基板の上に透明陽極、正孔注入輸送層としてMo含有ナノ粒子を含有する電荷輸送層と正孔輸送性化合物を含有する層との積層体、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、陰極の順番に、下記の手順に従って成膜して積層し、最後に封止して有機EL素子を作製した。透明陽極以外は水分濃度0.1ppm以下、酸素濃度0.1ppm以下の窒素置換グローブボックス内で作業を行った。
まず、陽極として酸化インジウム錫(ITO)の薄膜(厚み:150nm)付きのガラス基板(三容真空社製)を用いた。当該ガラス基板(25mm×25mmサイズ)のITO膜をストリップ状にパターン形成し、得られた基板を、中性洗剤、超純水の順に超音波洗浄し、UVオゾン処理を施した。
次に、上記の合成例1で得られた沸点が1013.25hPaにおいて330℃の保護剤が表面に付着しているMo含有ナノ粒子を、シクロヘキサノン中に0.5重量%の濃度で溶解させ、電荷輸送層形成用インク1を調製した。
前記電荷輸送層形成用インク1を、洗浄されたITOガラス基板の上にスピンコート法により塗布することにより薄膜を形成し、常圧、大気中で200℃、30分加熱して前記溶媒を除去し、成膜した。
続いて、前記成膜された膜について、2.0kPa(15mmHg)の減圧下、230℃で、30分加熱処理を行うことによって、Mo含有ナノ粒子を含む電荷輸送層を形成した。
次に、前記Mo含有ナノ粒子を含む電荷輸送層の上に、共役系の高分子材料であるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)薄膜(厚み:20nm)を形成した。キシレンにTFBを0.5重量%の濃度で溶解させた溶液を、スピンコート法により塗布して積層した。TFB溶液の塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて200℃で30分乾燥させ、Mo含有ナノ粒子を含む電荷輸送層とTFB薄膜との積層体を正孔注入輸送層とした。
上記正孔注入輸送層の上に、発光層として、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy))を発光性ドーパントとして含有し、4,4’−ビス(2,2−カルバゾール−9−イル)ビフェニル(CBP)をホストとして含有する混合薄膜を蒸着形成した。混合薄膜は、真空中(圧力:1×10−4Pa)で抵抗加熱法によりホストとドーパントの体積比20:1、合計膜厚が30nmになるように共蒸着で形成した。
上記発光層の上に、正孔ブロック層として、ビス(2−メチル−8−キノリラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム錯体(BAlq)薄膜を蒸着形成した。BAlq薄膜は、真空中(圧力:1×10−4Pa)で抵抗加熱法により膜厚が10nmになるように形成した。
上記正孔ブロック層の上に、電子輸送層として、トリス(8−キノリラト)アルミニウム錯体(Alq)薄膜を蒸着形成した。Alq薄膜は、真空中(圧力:1×10−4Pa)で、抵抗加熱蒸着法により膜厚が40nmになるように成膜した。
上記電子輸送層の上に、電子注入層としてフッ化リチウム(LiF)(厚み:0.5nm)、陰極としてAl(厚み:100nm)を順次、真空中(圧力:1×10−4Pa)で、抵抗加熱蒸着法により成膜した。
陰極形成後、グローブボックス内で、無アルカリガラスとUV硬化型エポキシ接着剤を用いて封止し、実施例1の有機EL素子を得た。
[比較例1]
実施例1において、遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層を形成する際に、前記成膜された膜について2.0kPaの減圧下、230℃で、30分加熱処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1の有機EL素子を作製した。
[比較例2]
実施例1において、遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層を形成する際に、常圧、大気中で200℃、30分加熱を行わずに、2.0kPaの減圧下、230℃で、30分加熱処理を行い、溶剤を除去した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の有機EL素子を作製した。
[合成例2]
合成例1のn−ヘキサデシルアミンの代わりにn−ドデシルアミンを用いた以外は、合成例1と同様にして、モリブデン含有ナノ粒子を合成した。当該モリブデン含有ナノ粒子の保護剤は、n−ドデシルアミン(沸点が1013.25hPaにおいて248℃)である。
[実施例2]
実施例1において、遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層を形成する際に、前記電荷輸送層形成用インク1の代わりに、上記の合成例2で得られた沸点が1013.25hPaにおいて248℃の保護剤が表面に付着しているMo含有ナノ粒子を、シクロヘキサノン中に0.5重量%の濃度で溶解させて調製した電荷輸送層形成用インク2を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2の有機EL素子を得た。
[比較例3]
実施例2において、遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層を形成する際に、前記成膜された膜について2.0kPaの減圧下、230℃で、30分加熱処理を行わなかった以外は、実施例2と同様にして、比較例3の有機EL素子を作製した。
[比較例4]
実施例2において、遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層を形成する際に、常圧、大気中で200℃、30分加熱を行わずに、2.0kPaの減圧下、230℃で、30分加熱処理を行い、溶剤を除去した以外は、実施例2と同様にして、比較例4の有機EL素子を作製した。
[評価]
<表面の濡れ性評価>
上記実施例及び比較例において、加熱減圧を経て形成された遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層形成後に、当該電荷輸送層表面の濡れ性を評価した。濡れ性の評価は炭化水素系溶剤の1つであるキシレンの接触角により行った。
接触角は、接触角測定器(協和界面科学社、DM700)を用いて測定した。キシレンをマイクロシリンジから2マイクロリットルを滴下して、θ/2法に従って接触角を測定した。
実施例1、比較例1及び2の結果を表1に示す。なお、表中、接触角は、比較例1の有機EL素子における電荷輸送層表面のキシレンの接触角を1.0としたときの比を表す。
実施例2、比較例3及び4の結果を表2に示す。なお、表中、接触角は、比較例3の有機EL素子における電荷輸送層表面のキシレンの接触角を1.0としたときの比を表す。
比較例1と比較して、実施例1の接触角は低くなっている。これは、電荷輸送層中のMo含有ナノ粒子の配位子であるn−ヘキサデシルアミンが取り除かれたことに起因すると考えられる。また比較例2でも接触角の低下が見られ、加熱減圧乾燥の効果が見られることが分かった。また、表2でも同様の効果が見られた。電荷輸送層中のMo含有ナノ粒子の配位子であるn−ドデシルアミンが取り除かれたことに起因すると考えられる。
<素子特性評価>
上記実施例及び比較例において作製した有機EL素子は、いずれもIr(ppy)由来の緑色に発光した。上記実施例及び比較例において作製した有機EL素子について、10mA/cmでの駆動時の印加電圧、及び寿命特性の評価を下記方法により行った。結果を表3及び表4に示す。なお、電流効率は駆動電流と輝度から算出して求めた。
有機EL素子の寿命特性は、定電流駆動で輝度が経時的に徐々に低下する様子を観察して評価した。ここでは初期輝度5000cd/mに対して保持率が50%の輝度に劣化するまでの時間(hr.)を寿命(LT50)として評価した。
表1では、比較例1の電流効率、電圧、輝度半減寿命を1として比較した。表4では、比較例3の電流効率、電圧、輝度半減寿命を1として比較した。
表3において、比較例1と比較して、実施例1は、電圧の低下と、電流効率の向上と寿命向上が見られた。これは、電荷輸送層中のMo含有ナノ粒子の配位子であるヘキサデシルアミンが取り除かれたことに起因すると考えられる。比較例2では、電流効率や素子寿命が悪くなる結果が得られた。これは、電荷輸送層中のMo含有ナノ粒子が減圧加熱乾燥のみでは、酸素が欠乏し、十分に酸化物化を達成できないためと考えられる。
また、表4において、沸点が異なる保護剤を用いた実施例2、比較例3、及び比較例4でも同様の結果が得られた。
1 電極
2 遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層
2−1、2−2、・・・2−n 隣接する発光ユニット間に配置される電荷発生層
3 有機層
3−1、3−2、・・・3−n 発光ユニット
4a 正孔輸送層
4b 正孔注入層
5 発光層
5−1、5−2、・・・5−n 発光層
6 電極
7 基板
8 有機半導体層
9 電極
10 絶縁層
11 電荷輸送層前駆層
12 脱離した保護剤
13 任意の層
20 加熱減圧装置
100 デバイス

Claims (3)

  1. 基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された遷移金属含有ナノ粒子を含む電荷輸送層を有するデバイスの製造方法であって、
    遷移金属及び遷移金属化合物の少なくとも1つを含み、沸点が1013.25hPaにおいて350℃以下である保護剤が表面に付着している遷移金属含有ナノ粒子と、溶媒とを含有する電荷輸送層形成用インクを調製する工程と、
    前記電荷輸送層形成用インクを、前記電極上のいずれかの層上に塗布し、加熱して前記溶媒を除去することにより成膜する工程と、
    前記成膜された膜上に任意の層が積層される前に、前記成膜された膜を、前記保護剤が気化する条件下で加熱減圧することにより電荷輸送層を形成する工程と
    を有する、デバイスの製造方法。
  2. 前記遷移金属含有ナノ粒子に含まれる遷移金属、及び、遷移金属化合物中の遷移金属が、モリブデン、タングステン、及びバナジウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属である、請求項1に記載のデバイスの製造方法。
  3. 前記電荷輸送層が、正孔注入輸送層及び電荷発生層の少なくとも1つである、請求項1又は2に記載のデバイスの製造方法。
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