本発明のサイドウォール又はベーストレッド用ゴム組成物(単に、本発明のゴム組成物ともいう)は、硫黄化合物により変性され、シス含量が70質量%以上、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)が30〜120であるブタジエンゴムと、シリカと、メルカプト基を有するシランカップリング剤とを含む。
硫黄化合物により変性され、特定の分子構造(シス含量が70質量%以上、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)が30〜120)を有するブタジエンゴムと、シリカと、特定の官能基(メルカプト基)を有するシランカップリング剤とを併用することにより、加工性、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性を相乗的に改善できる。
本発明では、ゴム成分として、硫黄化合物により変性され、シス含量が70質量%以上、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)が30〜120であるブタジエンゴム(硫黄変性ブタジエンゴム)を使用する。
一般的に、シス含量の高い(例えば、シス含量が70質量%以上の)ブタジエンゴムは、変性が困難であり、変性を行なっても低い変性率しか達成できず、結果的に充分な変性による効果(変性効果)が得られないことが多い。一方、硫黄化合物による変性は、シス含量の高いブタジエンゴムにおいても、高い変性率を達成することが可能であり、優れた変性効果が得られる。そして、硫黄変性ブタジエンゴムを配合することにより、加工性、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性をバランスよく改善できる。
硫黄変性ブタジエンゴムのシス含量は、70質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。70質量%未満であると、充分な低燃費性、耐摩耗性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性が得られない。なお、シス含量は、例えば、NMRのピーク比較による算出法、赤外線吸収スペクトルの吸収面積による算出法等により測定でき、具体的には、後述の実施例に記載の測定方法により得られる値である。
硫黄変性ブタジエンゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃)は30〜120である。下限は、40が好ましく、60がより好ましい。ムーニー粘度が30未満であると充分な破壊強度が得られず、120を超えると加工性が低下する。
硫黄変性ブタジエンゴムは、5%トルエン溶液粘度(Tcp)とムーニー粘度(ML1+4、100℃)の比(Tcp/ML1+4、100℃)が1.8〜6.0であることが好ましく、2.0〜5.0であることがより好ましく、2.0〜3.5であることが更に好ましい。該比は、ブタジエンゴムの分岐度の指標となるものであり、当業者には公知のものである。該比が大きいほどブタジエンゴムの分岐度が小さいこと、即ち、リニアリティが高いことを意味する。該比が1.8未満では加硫ゴムのtanδが大きくなり、充分な低燃費性が得られない傾向がある。また、該比が6.0より大きいと加工性が悪化する傾向がある。なお、5%トルエン溶液粘度(Tcp)、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は後述の実施例に記載の測定方法により得られる値である。
硫黄変性ブタジエンゴムは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算のz+1平均分子量(Mz+1)と数平均分子量(Mn)の比(Mz+1/Mn)が3.5以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることが更に好ましく、10以上であることが特に好ましく、15以上であることが最も好ましい。該比が3.5未満であると、加工性、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性(特に、加工性)が充分に得られないおそれがある。また、該比の上限は特に限定されないが、好ましくは35以下、より好ましくは25以下である。35を超えると、ゴムがゲル化し、加工性が悪化する傾向がある。
なお、z+1平均分子量(Mz+1)とは、分子量Miの分子がそれぞれni(mol)存在したとすると、下式で表される量である。
Mz+1=ΣMi 4×ni/(ΣMi 3×ni)
Mz+1は、高分子量成分の含有量の指標となり、Mz+1が大きいほど高分子量成分の含有量が大きいことを示す。なお、Mz+1、Mnは、GPCを用い、標準ポリスチレンより換算した値であり、具体的には、後述の実施例に記載の測定方法により得られる値である。
硫黄変性ブタジエンゴムを流動パラフィンにより30質量%に希釈した溶液の粘弾性における損失弾性率が100Paの時の貯蔵弾性率は、好ましくは20Pa以上、より好ましくは25Pa以上、更に好ましくは30Pa以上である。20Pa未満であると、高分子量成分の含有量が少なく、加工性、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性(特に、加工性)が充分に得られないおそれがある。また、該貯蔵弾性率は、好ましくは60Pa以下、より好ましくは45Pa以下である。60Paを超えると、加工性が悪化するおそれがある。なお、該貯蔵弾性率は、後述の実施例に記載の測定方法により得られる値である。
硫黄変性ブタジエンゴムは、ブタジエンゴムを硫黄化合物により変性することにより得られる。具体的には、硫黄変性ブタジエンゴムは、公知の方法により製造でき、例えば、特開2012−17416号公報、特開平8−208751号公報に記載の方法等により製造できる。なお、当業者であれば、本明細書及び上記公報に記載の内容、並びに出願時の技術常識に基づいて、ブタジエンゴムを硫黄化合物により変性した後に、所望の分子構造(シス含量が70質量%以上、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)が30〜120等)を有する硫黄変性ブタジエンゴムが得られるように、変性されるブタジエンゴムの選定(変性されるブタジエンゴムとして望ましい分子構造の決定)や、硫黄化合物の添加量、変性反応の条件等の設定を適宜行うことが可能である。
硫黄化合物により変性されるブタジエンゴムは、実際に重合してもよく、市販品を使用してもよい。
市販品としては、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150B、BR150L、ランクセス(株)製のBunaCB21、BunaCB22等の高シス含有量のBR、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617等のシンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR等を使用できる。
ブタジエンゴムを重合する際の触媒としては、特に限定されず、コバルト系触媒や希土類元素系触媒(例えば、ネオジム系触媒(ネオジム(Nd)含有化合物、有機アルミニウム化合物、アルミノキサン、ハロゲン含有化合物、必要に応じてルイス塩基を含む触媒))等が挙げられる。なかでも、コバルト系触媒を用いて重合したブタジエンゴムを硫黄化合物により変性することにより、分岐度が小さい分子構造を有しながら、高分子量成分の含有量が高い硫黄変性ブタジエンゴムが得られ、本発明の効果がより好適に得られるという理由から、コバルト系触媒が好ましい。
コバルト系触媒としては、コバルト化合物、ハロゲン含有アルミニウム化合物、及び水からなる触媒系、コバルト化合物、ハロゲン含有アルミニウム化合物、水、及び有機アルミニウム化合物からなる触媒系が好ましい。
重合温度は−30〜100℃が好ましい。重合時間は10分〜12時間が好ましい。また、重合圧力は他の条件に依存して任意に選択すればよい。
硫黄化合物とブタジエンゴムの変性反応は、重合反応後に引き続いて行っても良いし、重合後に重合反応を停止させた後に行っても良いし、また重合後に重合反応を停止させた後、反応生成物中に残留している溶媒や未反応モノマーをスチームストリッピング法や真空乾燥法などで除去して得られたブタジエンゴムの乾燥物をシクロヘキサン等の溶媒で再度溶解させた後に行ってもよい。
すなわち、硫黄化合物による変性は、例えば、ブタジエンゴムを重合した後の反応液や、市販品のブタジエンゴム又は重合したブタジエンゴムをシクロヘキサン等の溶媒に溶解させた溶解液に、硫黄化合物を加えて反応を行えばよい。
硫黄化合物としては、二塩化二硫黄、二臭化二硫黄、二フッ化二硫黄、二ヨウ化二硫黄等の二ハロゲン化二硫黄、二塩化硫黄、二臭化硫黄、二フッ化硫黄、二ヨウ化硫黄等の二ハロゲン化硫黄、塩化チオニル、臭化チオニル、フッ化チオニル、ヨウ化チオニル等のハロゲン化チオニル等が挙げられる。なかでも、二ハロゲン化二硫黄が好ましく、二塩化二硫黄がより好ましい。
硫黄化合物の添加量は、ブタジエンゴム100質量部に対して、好ましくは0.05〜0.5質量部、より好ましくは0.1〜0.4質量部である。また、変性反応は、10〜150分間攪拌混合することが好ましい。また、変性反応の反応温度については、好ましくは20〜100℃、より好ましくは30〜80℃である。変性反応後は、反応槽内部を必要に応じて放圧し、洗浄、乾燥等を行えばよい。
ゴム成分100質量%中の硫黄変性ブタジエンゴムの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。5質量%未満であると、充分な加工性、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性が得られないおそれがある。硫黄変性ブタジエンゴムの含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。60質量%を超えると、ゴムの機械的強度が不足し、チッピング等の損傷を起こす(破壊強度が低下する)可能性がある。
ゴム組成物に使用される硫黄変性ブタジエンゴム以外のゴム成分として、例えば、天然ゴム(NR)、硫黄変性ブタジエンゴム以外のブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンーイソプレンーブタジエン共重合ゴム(SIBR)等のジエン系ゴムを使用できる。これらのゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その主鎖及び/又は末端が変性されていてもよく、また、例えば四塩化スズ、四塩化珪素のような多官能化合物により変性され、分岐構造を有していてもよい。
硫黄変性ブタジエンゴム以外のゴム成分としては、加工性、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性がよりバランスよく得られるという理由から、NRが好ましい。
NRとしては特に限定されず、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは40質量%以上である。5質量%未満であると、加工性、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性をバランスよく改善できないおそれがある。NRの含有量は、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。95質量%を超えると、硫黄変性ブタジエンゴムの含有量が低下し、充分な加工性、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性が得られないおそれがある。
また、硫黄変性ブタジエンゴム以外のゴム成分としては、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性(特に、低燃費性)をより改善できるという理由から、極性基を有し、ガラス転移温度が−55℃以上のジエン系ゴム(極性基含有ジエン系ゴム)が好ましい。
極性基としては、特に限定されず、例えば、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、ピロリジニル基などが挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。なかでも、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性(特に、低燃費性)をより改善できるという理由から、エポキシ基が好ましい。
極性基含有ジエン系ゴムのガラス転移温度(Tg)は、−55℃以上、好ましくは−50℃以上である。−55℃未満であると、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性を充分に改善できないおそれがある。該Tgは、好ましくは−20℃以下、より好ましくは−30℃以下、更に好ましくは−40℃以下である。−20℃を超えると、低燃費性、低温での破壊強度が悪化するおそれがある。
なお、ガラス転移温度は、JIS−K7121に従い、示差走査熱量計を用いて、測定される値である。
極性基含有ジエン系ゴムとしては、極性基を有し、ガラス転移温度が−55℃以上のジエン系ゴムであれば特に限定されないが、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性(特に、低燃費性)をより改善できるという理由から、エポキシ化天然ゴム(ENR)が好ましい。
ENRとしては、ガラス転移温度が特定温度以上、すなわち、エポキシ化率が特定値以上のENRであれば特に限定されず、市販のエポキシ化天然ゴムでも、天然ゴム(NR)をエポキシ化したものでもよい。天然ゴムをエポキシ化する方法は、特に限定されず、クロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシド法、過酸法などがあげられる(特公平4−26617号公報、特開平2−110182号公報、英国特許第2113692号明細書等)。過酸法としては例えば、天然ゴムに過酢酸や過ギ酸などの有機過酸を反応させる方法などがあげられる。なお、有機過酸の量や反応時間を調整することにより、様々なエポキシ化率のエポキシ化天然ゴムを調製することができる。
なお、本発明において、エポキシ化率とは、エポキシ化される前のゴム中の二重結合の総数に対するエポキシ化された二重結合の数の割合(モル%)のことである。また、エポキシ化率は、核磁気共鳴分光分析により測定される値である。
エポキシ化される天然ゴムとしては、特に限定されず、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(HPNR)等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
ENRのエポキシ化率は、好ましくは4モル%以上、より好ましくは8モル%以上である。エポキシ化率が4モル%未満では、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性を充分に改善できないおそれがある。また、エポキシ化率は、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、更に好ましくは35モル%以下である。エポキシ化率が60モル%を超えると、低燃費性、耐摩耗性が悪化するおそれがある。エポキシ化率が上記範囲内であると、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性がバランスよく得られる。
ゴム成分100質量%中の極性基含有ジエン系ゴム(好ましくはENR)の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは40質量%以上である。5質量%未満であると、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性を充分に改善できないおそれがある。極性基含有ジエン系ゴム(好ましくはENR)の含有量は、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。95質量%を超えると、硫黄変性ブタジエンゴムの含有量が低下し、充分な加工性、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性が得られないおそれがある。
本発明のゴム組成物は、シリカを含有する。これにより、加工性、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性をバランスよく改善できる。シリカとしては、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)などが挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、好ましくは40m2/g以上であり、より好ましくは100m2/g以上、更に好ましくは150m2/g以上である。40m2/g未満では、破壊強度が悪化する傾向がある。該N2SAは、好ましくは500m2/g以下、より好ましくは300m2/g以下、更に好ましくは250m2/g以下、特に好ましくは200m2/g以下である。500m2/gを超えると、加工性、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性が悪化する傾向がある。
なお、シリカのN2SAは、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上である。本発明のゴム組成物をサイドウォール用ゴム組成物として用いる場合には、30質量部以上であることが特に好ましい。5質量部未満であると、充分な低燃費性が得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下である。本発明のゴム組成物をベーストレッド用ゴム組成物として用いる場合には、50質量部以下であることが更に好ましい。100質量部を超えると、シリカの分散性が低下し、加工性、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性が悪化する傾向がある。
本発明のゴム組成物は、メルカプト基を有するシランカップリング剤を含有する。これにより、シリカが良好に分散し、加工性、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性をバランスよく改善できる。
メルカプト基を有するシランカップリング剤としては、下記式(1)で表される化合物、及び/又は下記式(2)で示される結合単位Aと下記式(3)で示される結合単位Bとを含む化合物を好適に使用できる。なかでも、下記式(2)で示される結合単位Aと下記式(3)で示される結合単位Bとを含む化合物がより好ましい。
(式(1)中、R
101〜R
103は、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜12のアルキル基、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜12のアルコキシ基、又は−O−(R
111−O)
z−R
112(z個のR
111は、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30の2価の炭化水素基を表す。z個のR
111はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R
112は、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアリール基、又は炭素数7〜30のアラルキル基を表す。zは1〜30の整数を表す。)で表される基を表す。R
101〜R
103はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R
104は、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜6のアルキレン基を表す。)
(式(2)及び(3)中、R
201は水素、ハロゲン、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニル基、又は該アルキル基の末端の水素が水酸基若しくはカルボキシル基で置換されたものを表す。R
202は分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニレン基、又は分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニレン基を表す。R
201とR
202とで環構造を形成してもよい。)
以下、式(1)で表される化合物について説明する。
式(1)で表される化合物を使用することで、シリカが良好に分散し、加工性、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性をよりバランスよく改善できる。
R101〜R103は、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜12のアルキル基、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜12のアルコキシ基、又は−O−(R111−O)z−R112で表される基を表す。本発明の効果が良好に得られるという点から、R101〜R103は、少なくとも1つが−O−(R111−O)z−R112で表される基であることが好ましく、2つが−O−(R111−O)z−R112で表される基であり、かつ、1つが分岐若しくは非分岐の炭素数1〜12のアルコキシ基であることがより好ましい。
R101〜R103の分岐若しくは非分岐の炭素数1〜12(好ましくは炭素数1〜5)のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、へキシル基、へプチル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基などがあげられる。
R101〜R103の分岐若しくは非分岐の炭素数1〜12(好ましくは炭素数1〜5)のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、へキシルオキシ基、へプチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基などがあげられる。
R101〜R103の−O−(R111−O)z−R112において、R111は、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30(好ましくは炭素数1〜15、より好ましくは炭素数1〜3)の2価の炭化水素基を表す。
該炭化水素基としては、例えば、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニレン基、炭素数6〜30のアリーレン基などがあげられる。中でも、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキレン基が好ましい。
R111の分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30(好ましくは炭素数1〜15、より好ましくは炭素数1〜3)のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基などがあげられる。
R111の分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30(好ましくは炭素数2〜15、より好ましくは炭素数2〜3)のアルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、1−プロペニレン基、2−プロペニレン基、1−ブテニレン基、2−ブテニレン基、1−ペンテニレン基、2−ペンテニレン基、1−ヘキセニレン基、2−ヘキセニレン基、1−オクテニレン基などがあげられる。
R111の分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30(好ましくは炭素数2〜15、より好ましくは炭素数2〜3)のアルキニレン基としては、例えば、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基、ペンチニレン基、ヘキシニレン基、へプチニレン基、オクチニレン基、ノニニレン基、デシニレン基、ウンデシニレン基、ドデシニレン基などがあげられる。
R111の炭素数6〜30(好ましくは炭素数6〜15)のアリーレン基としては、例えば、フェニレン基、トリレン基、キシリレン基、ナフチレン基などがあげられる。
zは1〜30(好ましくは2〜20、より好ましくは3〜7、さらに好ましくは5〜6)の整数を表す。
R112は、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアリール基又は炭素数7〜30のアラルキル基を表す。中でも、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキル基が好ましい。
R112の分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30(好ましくは炭素数3〜25、より好ましくは炭素数10〜15)のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、へキシル基、へプチル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基などがあげられる。
R112の分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30(好ましくは炭素数3〜25、より好ましくは炭素数10〜15)のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、1−オクテニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、オクタデセニル基などがあげられる。
R112の炭素数6〜30(好ましくは炭素数10〜20)のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基などがあげられる。
R112の炭素数7〜30(好ましくは炭素数10〜20)のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基などがあげられる。
−O−(R111−O)z−R112で表される基の具体例としては、例えば、−O−(C2H4−O)5−C11H23、−O−(C2H4−O)5−C12H25、−O−(C2H4−O)5−C13H27、−O−(C2H4−O)5−C14H29、−O−(C2H4−O)5−C15H31、−O−(C2H4−O)3−C13H27、−O−(C2H4−O)4−C13H27、−O−(C2H4−O)6−C13H27、−O−(C2H4−O)7−C13H27などがあげられる。中でも、−O−(C2H4−O)5−C11H23、−O−(C2H4−O)5−C13H27、−O−(C2H4−O)5−C15H31、−O−(C2H4−O)6−C13H27が好ましい。
R104の分岐若しくは非分岐の炭素数1〜6(好ましくは炭素数1〜5)のアルキレン基としては、例えば、R111の分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキレン基と同様の基をあげることができる。
上記式(1)で表される化合物としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシランや、下記式で表される化合物(EVONIK−DEGUSSA社製のSi363)などがあげられ、下記式で表される化合物を好適に使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
次に、式(2)で示される結合単位Aと式(3)で示される結合単位Bとを含む化合物について説明する。
式(2)で示される結合単位Aと式(3)で示される結合単位Bとを含む化合物を使用することで、シリカが良好に分散し、加工性、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性をよりバランスよく改善できる。
式(2)で示される結合単位Aと式(3)で示される結合単位Bとを含む化合物は、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなどのポリスルフィドシランに比べ、加工中の粘度上昇が抑制される。これは結合単位Aのスルフィド部分がC−S−C結合であるため、テトラスルフィドやジスルフィドに比べ熱的に安定であることから、ムーニー粘度の上昇が少ないためと考えられる。
また、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシランに比べ、スコーチ時間の短縮が抑制される。これは、結合単位Bはメルカプトシランの構造を持っているが、結合単位Aの−C7H15部分が結合単位Bの−SH基を覆うため、ポリマーと反応しにくく、スコーチが発生しにくいためと考えられる。
上述した加工中の粘度上昇を抑制する効果や、スコーチ時間の短縮を抑制する効果を高めることができるという点から、上記構造のシランカップリング剤において、結合単位Aの含有量は、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上であり、好ましくは99モル%以下、より好ましくは90モル%以下である。また、結合単位Bの含有量は、好ましくは1モル%以上、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上であり、好ましくは70モル%以下、より好ましくは65モル%以下、さらに好ましくは55モル%以下である。また、結合単位A及びBの合計含有量は、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
なお、結合単位A、Bの含有量は、結合単位A、Bがシランカップリング剤の末端に位置する場合も含む量である。結合単位A、Bがシランカップリング剤の末端に位置する場合の形態は特に限定されず、結合単位A、Bを示す式(2)、(3)と対応するユニットを形成していればよい。
R201のハロゲンとしては、塩素、臭素、フッ素などがあげられる。
R201の分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、へキシル基、へプチル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などがあげられる。該アルキル基の炭素数は、好ましくは1〜12である。
R201の分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニル基としては、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、1−オクテニル基などがあげられる。該アルケニル基の炭素数は、好ましくは2〜12である。
R201の分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、へプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基などがあげられる。該アルキニル基の炭素数は、好ましくは2〜12である。
R202の分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基などがあげられる。該アルキレン基の炭素数は、好ましくは1〜12である。
R202の分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニレン基としては、ビニレン基、1−プロペニレン基、2−プロペニレン基、1−ブテニレン基、2−ブテニレン基、1−ペンテニレン基、2−ペンテニレン基、1−ヘキセニレン基、2−ヘキセニレン基、1−オクテニレン基などがあげられる。該アルケニレン基の炭素数は、好ましくは2〜12である。
R202の分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニレン基としては、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基、ペンチニレン基、ヘキシニレン基、へプチニレン基、オクチニレン基、ノニニレン基、デシニレン基、ウンデシニレン基、ドデシニレン基などがあげられる。該アルキニレン基の炭素数は、好ましくは2〜12である。
式(2)で示される結合単位Aと式(3)で示される結合単位Bとを含む化合物において、結合単位Aの繰り返し数(x)と結合単位Bの繰り返し数(y)の合計の繰り返し数(x+y)は、3〜300の範囲が好ましい。この範囲内であると、結合単位Bのメルカプトシランを、結合単位Aの−C7H15が覆うため、スコーチタイムが短くなることを抑制できるとともに、シリカやゴム成分との良好な反応性を確保することができる。
式(2)で示される結合単位Aと式(3)で示される結合単位Bとを含む化合物としては、例えば、Momentive社製のNXT−Z30、NXT−Z45、NXT−Z60などを使用することができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
メルカプト基を有するシランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは6質量部以上である。0.1質量部未満では、未加硫ゴム組成物の粘度が高く、良好な加工性、低燃費性を確保できないおそれがある。また、メルカプト基を有するシランカップリング剤の含有量は、好ましくは15質量部以下、より好ましくは12質量部以下である。15質量部を超えると、加工性が低下する傾向がある。
本発明のゴム組成物は、メルカプト基を有するシランカップリング剤とともに、他のシランカップリング剤を併用してもよい。他のシランカップリング剤としては、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィドなどがあげられる。
本発明のゴム組成物は、シリカ以外にも補強用充填剤を配合してもよい。補強用充填剤としては、例えば、カーボンブラック、クレー、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、タルク、ガラスバルーン、セルロース、モンモリロナイト等が挙げられる。なかでも、本発明のゴム組成物をベーストレッド用ゴム組成物として用いる場合には、カーボンブラックを配合することが好ましい。これにより、加工性、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性をよりバランスよく改善できる。使用できるカーボンブラックとしては、SAF、ISAF、HAF、MAF、FEF、SRF、GPF、APF、FF、CF、SCF及びECFのようなファーネスブラック(ファーネスカーボンブラック);アセチレンブラック(アセチレンカーボンブラック);FT及びMTのようなサーマルブラック(サーマルカーボンブラック);EPC、MPC及びCCのようなチャンネルブラック(チャンネルカーボンブラック);グラファイトなどが挙げられるが、特に限定されない。カーボンブラックは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は5m2/g以上が好ましく、15m2/g以上がより好ましい。5m2/g未満では、充分な補強性が得られず、充分な破壊強度、耐屈曲亀裂成長性が得られないおそれがある。該N2SAは、100m2/g以下が好ましく、60m2/g以下がより好ましく、40m2/g以下が更に好ましい。100m2/gを超えると、分散性が悪く、加工性、低燃費性が悪化する傾向がある。
なお、カーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217−2:2001によって求められる。
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは15質量部以上である。5質量部未満では、充分な補強性が得られず、充分な破壊強度、耐屈曲亀裂成長性が得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは60質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。60質量部を超えると、発熱が大きくなり、加工性、低燃費性が悪化する傾向がある。
補強用充填剤(好ましくはシリカ及びカーボンブラックの合計)100質量%中のシリカの含有率は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。本発明のゴム組成物をサイドウォール用ゴム組成物として用いる場合には、60質量%以上が更に好ましく、80質量%以上が特に好ましい。該含有率の上限は100質量%であってもよいが、本発明のゴム組成物をベーストレッド用ゴム組成物として用いる場合には、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。該含有率が上記範囲内であれば、本発明の効果がより好適に得られる。
本発明のゴム組成物は、特にENRを含有する場合、アルカリ性脂肪族酸金属塩、及びアルカリ性芳香族酸金属塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましく、アルカリ性脂肪族酸金属塩を含有することがより好ましい。
これらの金属塩(特に、アルカリ性脂肪族酸金属塩)は、ENR合成の際に使用される酸を中和するため、ENRの混練りや加硫時の熱による劣化を防ぐことができる。また、リバージョンを防ぐこともできる。また、本発明のゴム組成物がENRを含有する場合、これらの金属塩(特に、アルカリ性脂肪族酸金属塩)を配合することにより、本発明のゴム組成物にENRを配合したことにより得られる低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性等の向上効果を増大できる。
上記金属塩における金属としてはナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、亜鉛などが挙げられ、なかでも、自然界に多く存在しており、環境負荷が小さく、更に、耐熱性効果が大きくなる点とエポキシ化天然ゴムとの相溶性の点から、カルシウム、亜鉛、バリウムが好ましく、カルシウムがより好ましい。
アルカリ性脂肪族酸金属塩の具体例としては、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム等のステアリン酸金属塩、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸マグネシウム、オレイン酸カルシウム、オレイン酸バリウム等のオレイン酸金属塩などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、耐老化性、耐熱特性に優れ、エポキシ化天然ゴムとの相溶性も高く、コストも比較的安価という理由から、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸カルシウムが好ましい。
アルカリ性芳香族酸金属塩の具体例としては、安息香酸ナトリウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸カルシウム、安息香酸バリウム、メチル安息香酸ナトリウム、メチル安息香酸マグネシウム、メチル安息香酸カルシウム、メチル安息香酸バリウム、エチル安息香酸ナトリウム、エチル安息香酸マグネシウム、エチル安息香酸カルシウム、エチル安息香酸バリウム、プロピル安息香酸ナトリウム、ブチル安息香酸ナトリウム等の芳香族カルボン酸金属塩、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸マグネシウム、ベンゼンスルホン酸カルシウム、ベンゼンスルホン酸バリウム、トルエンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸マグネシウム、トルエンスルホン酸カルシウム、トルエンスルホン酸バリウム等の芳香族スルホン酸金属塩等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、芳香族カルボン酸金属塩が好ましい。
アルカリ性脂肪族酸金属塩、及びアルカリ性芳香族酸金属塩からなる群より選択される少なくとも1種の含有量は、ENR100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上である。0.1質量部未満であると、ENRを配合したことにより得られる低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性等の向上効果を充分に得ることができない傾向がある。該含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。10質量部を超えると、耐摩耗性、破壊強度、低燃費性が悪化する傾向がある。
なお、2種以上の上記金属塩を配合する場合、上記含有量は合計含有量を意味する。
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸、加工助剤、各種老化防止剤、オイルなどの軟化剤、芳香族系石油樹脂、ワックス、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合できる。
本発明で使用できる軟化剤としては、特に限定するものではないが、例えば、オイルであればアロマチックオイル、プロセスオイル、パラフィンオイル等の鉱物油が挙げられる。これら軟化剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明では、本発明の効果が好適に得られるという理由から、オイルの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは5〜15質量部である。ここで、オイルの配合量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系若しくはアルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、又はキサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系加硫促進剤が好ましい。
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。なかでも、TBBSが好ましい。
加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。上記範囲内に調整することで、本発明の効果がより好適に得られる。
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機などのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。
本発明のゴム組成物は、タイヤのサイドウォール及び/又はベーストレッドに好適に使用できる。
ベーストレッドとは、多層構造を有するトレッドの内面層である。2層構造のトレッドの場合には、表面層(キャップトレッド)及び内面層(ベーストレッド)から構成される。
多層構造のトレッドは、シート状にしたものを、所定の形状に張り合わせる方法や、2本以上の押出し機に装入して押出し機のヘッド出口で2層以上に形成する方法により作製することができる。
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でサイドウォール及び/又はベーストレッド等の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造できる。
本発明の空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤ等として好適に用いられる。
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
(製造例1)
コバルト系触媒重合で得られた宇部興産(株)製UBEPOL BR150L100gを脱水されたシクロヘキサン1000mlに溶解し、1.5リットル容量のステンレス製のオートクレーブに仕込んで内部を充分窒素置換した後、二塩化二硫黄を0.18質量部添加して常圧、40℃で40分間変性反応を行った。変性反応終了後、オートクレーブの内部を開放した後、重合液にエタノールを投入してポリブタジエンゴムを回収し、そこに老化防止剤を添加して40℃で3時間真空乾燥し、BR1(硫黄変性ブタジエンゴム)を得た。
(製造例2)
コバルト系触媒重合で得られたムーニー粘度67、5%トルエン溶液粘度190のポリブタジエン100gを脱水されたシクロヘキサン1000mlに溶解し、1.5リットル容量のステンレス製のオートクレーブに仕込んで内部を充分窒素置換した後、二塩化二硫黄を0.18質量部添加して常圧、40℃で40分間変性反応を行った。変性反応終了後、オートクレーブの内部を開放した後、重合液にエタノールを投入してポリブタジエンゴムを回収し、そこに老化防止剤を添加して40℃で3時間真空乾燥し、BR2(硫黄変性ブタジエンゴム)を得た。
(製造例3)
ポリブタジエンとして、ネオジム系触媒重合で得られたLANXESS社製BunaCB22を使用した点以外は、製造例1と同様に行い、BR3(硫黄変性ブタジエンゴム)を得た。
(製造例4)
乾燥・窒素置換された、ゴム詮付容積100ミリリットルのガラスびんに、以下の順番に、ブタジエンのシクロヘキサン溶液(15.2質量%)7.11g、ネオジムネオデカノエートのシクロヘキサン溶液(0.56モル/リットル)0.59ミリリットル、メチルアルミノキサンMAO(東ソ−アクゾ製PMAO)のトルエン溶液(アルミニウム濃度として3.23モル/リットル)10.32ミリリットル、水素化ジイソブチルアルミニウム(関東化学製)のヘキサン溶液(0.90モル/リットル)7.77ミリリットルを投入し、室温で2分間熟成した後、塩素化ジエチルアルミニウム(関東化学製)のヘキサン溶液(0.95モル/リットル)1.45ミリリットルを加え室温で、時折攪拌しながら15分間熟成した。こうして得られた反応溶液を重合触媒溶液として次の反応に用いた。
1リットル容積のゴム栓付きガラスびんを乾燥・窒素置換し、乾燥精製されたブタジエンのシクロヘキサン溶液及び乾燥シクロヘキサンを各々投入し、ブタジエン12.5質量%のシクロヘキサン溶液が400g投入された状態とした。次に、前記調製した触媒溶液2.28ミリリットル (ネオジム換算0.025mmol)を 投入し、50℃温水浴中で1.0時間重合を行った。重合系に老化防止剤2,2'−メチレン−ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)(NS−5)のイソプロパノール5%溶液2ミリリットルを加えて反応の停止を行い、さらに微量のNS−5を含むイソプロパノール中で再沈殿を行い、ドラム乾燥することにより未変性ポリブタジエンゴムを得た。このものを製造例1と同様にして硫黄変性を行い、BR4(硫黄変性ブタジエンゴム)を得た。
製造例1〜4により得られた硫黄変性ブタジエンゴム(BR1〜4)及び宇部興産(株)製のUBEPOL BR150Lについて下記の評価を行った。結果を表1に示す。
(シス含量)
BRUKER社製AV400のNMR装置、データ解析ソフトTOP SPIN2.1を用いてシス含量を測定した。
(ガラス転移温度(Tg))
JIS−K7121に従い、(株)島津製作所製の自動示差走査熱量計(DSC−60A)を用いて、昇温速度10℃/分の条件でガラス転移温度(Tg)を測定した。
(ムーニー粘度(ML1+4、100℃)表1中ではMLと略記)
JIS−K6300に従い、(株)島津製作所製のムーニー粘度計(SMV−200)を使用して、100℃で1分間予熱したのち、4分間測定してゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃)を測定した。
(5%トルエン溶液粘度(Tcp))
ポリマー2.28gをトルエン50mlに溶解した後、標準液として粘度計校正用標準液(JIS Z8809)を用い、キャノンフェンスケ粘度計No.400を使用して、25℃で5%トルエン溶液粘度(Tcp)を測定した。
(z+1平均分子量(Mz+1)、数平均分子量(Mn))
ポリスチレンを標準物質としてテトラヒドロフランを溶媒として温度40℃で、ゲルパーミエーション(透過)クロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製HLC−8020)を行い、得られた分子量分布曲線から求めた検量線を用いて計算し、z+1平均分子量、数平均分子量を求めた。
(流動パラフィンにより30質量%に希釈した溶液の粘弾性における損失弾性率が100Paの時の貯蔵弾性率)
ポリマーを流動パラフィンに30質量%となるよう溶解し、得られた溶液をレオメトリック社製DSR500で動的歪み1%において貯蔵弾性率、損失弾性率を測定し、損失弾性率が100Paの時の貯蔵弾性率を決定した。
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:RSS#3(Tg:−60℃)
ENR:MRB(マレーシア)社製のENR25(エポキシ化率:25モル%、Tg:−47℃)
BR1:製造例1により調製したBR1(硫黄変性ブタジエンゴム)(Tg:−108℃)
BR2:製造例2により調製したBR2(硫黄変性ブタジエンゴム)(Tg:−108℃)
BR3:製造例3により調製したBR3(硫黄変性ブタジエンゴム)(Tg:−109℃)
BR4:製造例4により調製したBR4(硫黄変性ブタジエンゴム)(Tg:−110℃)
BR5:宇部興産(株)製のポリブタジエンゴム(硫黄非変性ブタジエンゴム)UBEPOL BR150L(Tg:−108℃)
シリカ:EVONIK−DEGUSSA社製のウルトラジルVN3(N2SA:175m2/g)
カーボンブラック:新日化カーボン(株)製のニテロン#55S(N2SA:28m2/g)
シランカップリング剤1:Momentive社製のNXT−Z45(結合単位A及び結合単位Bを含む化合物(結合単位A:55モル%、結合単位B:45モル%))
シランカップリング剤2:EVONIK−DEGUSSA社製のSi363
シランカップリング剤3:EVONIK−DEGUSSA社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
プロセスオイル:ジャパンエナジー社製のプロセスX−140(芳香族系プロセスオイル)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
アルカリ性金属塩:日油(株)製のステアリン酸カルシウム
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「桐」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N−フェニル−p−フェニレンジアミン)
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
(実施例及び比較例)
表2、3に示す配合処方に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で3分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、50℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を170℃で12分間、0.5mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物について下記の評価を行った。結果を表2、3に示した。なお、表2、3において、基準比較例をそれぞれ比較例1、5とした。
(加工性)
JIS K6300に準じて、130℃で所定の未加硫ゴム組成物のムーニー粘度を測定した。測定結果を、基準比較例を100として、下記計算式により指数表示した。指数が大きいほど粘度が低く、加工が容易であることを示す。
(ムーニー粘度指数)=(基準比較例のムーニー粘度)/(各配合のムーニー粘度)×100
(低燃費性)
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、初期歪み10%、動歪み2%の条件下で、各配合の加硫ゴム組成物のtanδを測定し、基準比較例のtanδを100として、下記計算式により指数表示した。指数が大きいほど、転がり抵抗特性(低燃費性)が優れている。
(転がり抵抗指数)=(基準比較例のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
(破壊強度)
得られた加硫ゴム組成物について、JIS K6251に準じて3号ダンベルを用いて引張り試験を実施し、破断強度(TB)及び破断時伸び(EB)(%)を測定した。そして、TB×EB/2の数値を破壊強度とし、各配合の破壊強度を、基準比較例の破壊強度を100として指数表示した。指数が大きいほど破壊強度に優れる。
(耐屈曲亀裂成長性)
得られた加硫ゴム組成物を用い、JIS−K−6260「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−デマッチャ屈曲亀裂試験方法」に基づいてサンプルを作製し、屈曲亀裂成長試験を行い、70%伸張を100万回繰り返してサンプルを屈曲させた後、発生した亀裂の長さを測定した。
そして、基準比較例の測定値(長さ)を100とし、下記計算式により指数表示した。指数が大きいほど、亀裂の成長が抑制され、耐屈曲亀裂成長性に優れることを示す。
(耐屈曲亀裂成長性指数)=(基準比較例の測定値)/(各配合の測定値)×100
表2、3の結果より、硫黄化合物により変性され、シス含量が70質量%以上、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)が30〜120であるブタジエンゴム(BR1〜4)と、シリカと、メルカプト基を有するシランカップリング剤(シランカップリング剤1、2)とを含む実施例は、加工性、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性をバランスよく改善できた。
比較例1、3、4、実施例1の比較により、硫黄化合物により変性され、シス含量が70質量%以上、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)が30〜120であるブタジエンゴムと、メルカプト基を有するシランカップリング剤とを併用することにより、加工性、低燃費性、破壊強度、耐屈曲亀裂成長性を相乗的に向上できることが分かった。