以下本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の溶融流延フィルムは、セルロースエステル樹脂を含有する溶融流延フィルムであって、該溶融流延フィルムを巻きから1m2のフィルム片(i)を任意で決定し、その中から1cm四方の片(ii)を切り出し、(ii)を顕微鏡観察した中で最大凸部の頂点部を含む直線で断面を出し、フィルムキャスト面(A)の表面部をa、(ii)の断面を3等分しA面方向からb、c、dとし、タッチロール面(B)の表面をeとした時、a〜eの5点をナノサーマルアナライザーを用いて測定した該溶融流延フィルム片(ii)のTgの最大温度をX(℃)、該溶融流延フィルムのTgの最小温度をY(℃)とした時、下記(1)式を満たし、且つ該フィルム片(ii)を(i)から合計100点切り出し同様にX,Yを測定したとき、下記(1)式を満たす該片の数をN個とした時に、下記(2)式の範囲を満たすことを特徴とする。
X−Y≧30(℃)・・・(1)
N<10 ・・・(2)
図1に、フィルム試料を上記ナノサーマルアナライザーによって測定する概略図を示した。図中、αは切断線を示し、図1下図は切断線αで切断後の凸最大部の断面図を示す。
(ナノサーマルアナライザー)
ナノサーマルアナライザーを用いた測定について詳細に説明する。
ナノサーマルアナリシスは微小サーマルプローブを用いて試料表面の局所(極微小領域)又は微小サンプルの熱特性(ガラス転移、軟化、融解温度等)を測定する熱分析法をいう。
ナノサーマルアナライザー[nanoTA](anasys Instruments社)はサーマルプローブをサンプル表面に接触させ、一定温度で昇温し、それに伴って生じるサンプルの熱膨張や軟化、または熱変化によるプローブの上下の変位(TMA)をモニターする装置である。
測定点の分解能は数10〜数100nm程度で、温度範囲は50℃〜500℃まで昇温可能であり、昇温速度は300〜600/minに設定でき、さらに温度分解能は0.1℃以下である。非晶性の高分子であれば、ガラス転移温度(Tg)と融点(Tm)を測定でき、結晶性の高分子であれば融点(Tm)を測定できる。その他、結晶化構造の変化に伴う転移温度等を測定できる装置である。
装置の主な概要は以下の通りである。
温度分解能 :0.1℃以下
プローブ先端径 :100nm以下
プローブ高さ :10μm
カンチレバー長さ :150μm
共鳴周波数 :〜50KHz
例えば、樹脂のガラス転移温度の測定では、熱をかけていくと途中までは溶けだすが、ある時樹脂が収縮を始める。その変位点が樹脂のTgとなる。
具体的な測定方法は、作製した溶融流延フィルム1m2辺りから1cm四方の片を任意に100点取り、顕微鏡で観察して各片の1番大きな凹凸のある個所を中心に断面を切り、凹凸の頂点部分を厚み方向に3等分して、ナノサーマルアナライザーを用いて該溶融流延フィルムのTgの最大温度をX(℃)、該溶融流延フィルムのTgの最小温度をY(℃)を求める。
求めたX、Yの値から(X−Y)(℃)、及び、X−Y≧30(℃)である片の個数Nを求める。
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、溶液流延系のフィルムではセルロースエステル樹脂を溶剤に再度溶解した後濾過する工程があるので、フィルム物性に害がある異物成分等を再度取り除くことが可能であるため本発明に至ったフィルムの強制劣化時のコントラスト低下は問題となっていなかったが、溶融流延系においては該再溶解する工程がないため、この問題が顕著に表れることとなり、セルロースエステル樹脂の合成時に遡って異物成分を除去しておくことが異物成分除去に最も効果が高いことを見出したものである。
即ち、本発明に用いられるセルロースエステル樹脂は、セルロースの粉砕工程、活性化工程、エステル化工程、エステル化反応停止工程、熟成工程、熟成反応停止工程、不純物収集工程、再沈工程、及び洗浄工程により合成され、かつ該熟成反応停止工程後に微粒子を加えた後不純物収集工程以降の工程を行ったセルロースエステル樹脂であることが好ましい実施態様である。
その際、前記微粒子が平均粒子径の異なる2種以上の粒子であり、かつ該微粒子が親水性であることがより好ましい。
更に、前記セルロースエステル樹脂は、セルロースの粉砕工程、活性化工程、エステル化工程、エステル化反応停止工程、熟成工程、熟成反応停止工程、不純物収集工程、再沈工程、及び洗浄工程により合成され、かつ該熟成反応停止工程時に遠心分離し上下層に分かれた上澄みを不純物収集工程以降の工程に用いたセルロースエステル樹脂であることが好ましく、前記不純物収集工程が、繊維系不織布フィルターと金属不織布またはガラスフィルターを各々独立で直列の構造ではなく、1つに重ねた構造であって、下流側に金属不織布、またはガラスフィルターを用いる不純物収集工程であることが、本発明の効果を得る上で好ましい実施態様である。
以下、本発明を詳細に説明する。
<セルロースエステル樹脂>
本発明に係るセルロースエステル樹脂は、光学フィルム用途のセルロースエステルフィルムに含有されることが好ましく、炭素数2以上の脂肪族アシル基を有するセルロースエステルであることが好ましく、更に好ましくは、セルロースエステルのアシル総置換度が1.0〜2.95、かつアシル基総炭素数が2.0〜9.5であるセルロースエステルである。
セルロースエステルのアシル基総炭素数は、好ましくは、4.0〜9.0であり、さらに好ましくは5.0〜8.5である。但し、アシル基総炭素数は、セルロースエステルのグルコース単位に置換されている各アシル基の置換度と炭素数の積の総和である。
さらに、脂肪族アシル基の炭素数は、セルロース合成の生産性、コストの観点から、2以上6以下が好ましく、2以上4以下がさらに好ましい。なお、アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在している。
β−1,4−グリコシド結合でセルロースを構成しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。本発明におけるセルロースエステルは、これらの水酸基の一部または全部をアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル基置換度とは、繰り返し単位の2位、3位および6位について、セルロースがエステル化している割合の合計を表す。具体的には、セルロースの2位、3位および6位のそれぞれの水酸基が100%エステル化した場合をそれぞれ置換度1とする。したがって、セルロースの2位、3位および6位のすべてが100%エステル化した場合、置換度は最大の3となる。
アシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタネート基、ヘキサネート基等が挙げられ、セルロースエステルとしては、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースペンタネート等が挙げられる。また、上述の側鎖炭素数を満たせば、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートペンタネート等のように混合脂肪酸エステルでもよい。この中でも、特にセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースプロピオネートが光学フィルム用途として好ましいセルロースエステルである。
セルローストリアセテート以外で好ましいセルロースエステルは炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有し、アセチル基の置換度をXとし、プロピオニル基又はブチリル基の置換度をYとした時、下記式(I)および(II)を同時に満たすセルロースエステルを含むセルロースエステル樹脂である。
式(I) 1.2≦X+Y≦2.95
式(II) 0≦X≦2.5
この内特にセルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられ、中でも0.1≦X≦2.5、0.1≦Y≦2.8であることが好ましい。アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在しているものである。アシル基置換度の測定方法はASTM−D817−96に準じて測定することができる。
本発明に係るセルロースエステル樹脂は、重量平均分子量Mwが50000〜500000のものが好ましく、より好ましくは100000〜300000であり、更に好ましくは150000〜250000である。
セルロースエステル樹脂の平均分子量および分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用い測定できるので、これを用いて重量平均分子量(Mw)、分子量分布を算出する。
測定条件は以下の通りである。
溶媒:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所(株)製)
流量:1.0ml/min
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)
Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
本発明で用いられるセルロースエステル樹脂の原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが。針葉樹パルプが好ましく用いられる。これらから作られたセルロースエステルは適宜混合して、或いは単独で使用することが出来る。
例えば、綿花リンター由来セルロースエステル:木材パルプ(針葉樹)由来セルロースエステル:木材パルプ(広葉樹)由来セルロースエステルの比率が100:0:0、90:10:0、85:15:0、50:50:0、20:80:0、10:90:0、0:100:0、0:0:100、80:10:10、85:0:15、40:30:30で用いることが出来る。
本発明ではウッドパルプ、リンターなど重合度の高いセルロースを含むものであればいずれでも良いが、例えば、リンターパルプが好ましく、セルロースは、少なくともリンターパルプで構成されたセルロースを使用することが好ましい。セルロースの結晶化度の指標となるα−セルロース含有量は、90%以上(例えば、92〜100%、好ましくは95〜100%、さらに好ましくは99.5〜100%程度)である。
<セルロースエステル樹脂の製造方法>
本発明に係るセルロースエステル樹脂の製造過程は、原料セルロースの粉砕工程、活性化工程、アシル基に置換させるエステル化工程、エステル化反応停止工程、アシル基の脱離を促し、置換度を調整する熟成工程、熟成反応停止工程に、新たに不純物収集工程を加え、次いで再沈工程、及び洗浄工程によって合成される。尚、必要であればエステル化工程と熟成工程の間に濾過工程を設けてもよい。
[粉砕工程]
本発明に係る原料セルロースの粉砕工程は、原料セルロースと溶剤とを混合して粉砕するメカノケミカル粉砕工程であることが好ましい。
溶剤は、カルボン酸類、アルコール類、ケトン類、エーテル類、セロソルブ類から選ばれる溶剤の少なくとも一種か、または前記溶剤と水との混合溶剤であることが好ましい。
中でも酢酸、プロピオン酸などのカルボン酸が好ましく、特に後の活性化処理のことを考えると、カルボン酸であることが好ましい。
原料セルロース100質量部に対して、上記溶剤を50質量部から1000質量部の範囲の溶液と混合し粉砕する。より好ましい溶剤量の範囲としては75質量部〜700質量部であり、さらに95質量部〜500質量部の範囲であることが好ましい。
原料セルロースの粉砕は前段階として微粉砕する装置に投入できる程度の大きさまで乾式の粗粉砕工程を加えてもよい。また、原料セルロースと溶剤の均一な混合を促す為に溶剤を添加した後に、低速でプレ撹拌を行うことも好ましい。
原料セルロースを粉砕する装置としては、湿式で微粉砕できる装置であれば特に制限はないが、ボールミル系(遊星ボールミル等)、湿式粉砕機(液体中ボール衝突型・スラリー型等)、摩砕型粉砕機(石臼式・スクリーン式等)、衝突型粉砕機(湿式ジェットミル等)、スクリュー型粉砕機等が好ましく使用され、またこれらを組み合わせて使用してもよい。
本発明は粉砕時の原料セルロースは液体中もしくはスラリー状態のように原料が湿潤している状態で微粉砕するためアモルファス化しやすく、後のセルロースエステルの製造工程において好都合である。
粉砕時は温度上昇することがあるので、粉砕機に冷却機能を備えておくことが好ましく、温度設定を60℃以下で制御しておくことが好ましい。好ましくは、10〜50℃であることが好ましく、さらに20℃〜45℃であることが好ましい。
粉砕時間は適宜決定することができるが、15分から45分であることが好ましく、さらに20分から30分であることが好ましい。
前記メカノケミカル粉砕によって原料セルロースは微細化され、粉砕後の原料セルロースの平均粒径は100μm以下になるが、熟成工程以前に濾過する場合を考慮すると、各工程の反応を短時間で行い、且つ濾材の目詰まりを防止する観点から10μm以上80μm以下であることが好ましい。原料セルロースの粒径は顕微鏡等を使用することで測定が可能である。
[活性化工程]
活性化工程では、セルロースを活性化剤で処理し、セルロースを活性化させる。本発明では、原料セルロースはスラリー状の湿潤状態で供給される。
セルロースを活性化処理する活性化剤は、通常、アシル化反応の溶媒(アシル化溶媒)が使用され、アシル化溶媒としては、有機カルボン酸、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸等の脂肪族カルボン酸(直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルカン酸)で構成できる。これらの活性化剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
活性化処理において、活性化剤としては水を含む水系媒質が使用される。この水系媒質は有機カルボン酸を含む水系媒質であってもよく、活性化処理に続く反応に先立ち反応で使用するカルボン酸を用いてセルロース原料から水系媒質を置換することを考慮すると、経済的には多くの有機カルボン酸を用いることが好ましい。
活性化工程は単一の活性化工程に限らず複数の活性化工程で構成してもよく、アシル化触媒の濃度の異なる活性化剤を用いて行うことができる。例えば、活性化剤でセルロースを活性化させる第1の活性化工程と、アシル化触媒を含む活性化剤でセルロースを活性化させる第2の活性化工程とで構成してもよく、アシル化触媒の濃度が低濃度の活性化剤でセルロースを処理する第1の工程と、アシル化触媒の濃度が高い活性化剤でセルロースを処理する第2の工程とで構成してもよい。
活性化剤の使用量は、セルロース100質量部に対して、例えば、25〜150質量部、好ましくは30〜125質量部、さらに好ましくは50〜100質量部(例えば、70〜100質量部)程度であってもよい。
活性化処理は、セルロースを活性化剤で処理すればよく、セルロースに活性化剤を噴霧してもよく、活性化剤中にセルロースを浸漬してもよい。通常、活性化剤中に原料セルロースを添加しスラリー状にする場合が多い。活性化処理温度は、0℃〜100℃の範囲から選択でき、工業的な負荷をかけずに活性化処理を行うためには、通常、10℃〜40℃、好ましくは15℃〜35℃程度である。また、活性化処理時間は、0.1時間〜72時間の範囲で選択でき、通常、0.1時間〜3時間、好ましくは0.2時間〜2時間程度である。
本発明の場合、原料セルロースの粉砕に用いられた溶剤がカルボン酸の場合、微粉砕段階で活性化処理が進んでいるため、静置時間はわずかでよく、すぐにエステル化反応容器に投入することができる。
原料セルロースの粉砕に水等カルボン酸以外の溶液を使用した場合、カルボン酸で数回洗浄することで、カルボン酸に置換し、静置することで活性化処理が完了する。
[エステル化工程]
前記活性化処理により活性化されたセルロースを、酸触媒の存在下で少なくとも炭素数2以上のアシル基を有するカルボン酸(少なくとも1種以上含む)と無水カルボン酸(少なくとも1種以上含む)でエステル化する。酸触媒としてはルイス酸、強酸を使用することができるが、特に硫酸が一般的に使用される。
通常、酸無水物[例えば、炭素数2以上のカルボン酸の酸無水物(カルボン酸無水物)]、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水吉草酸などのC2−6アルカン酸無水物が使用できる。少なくとも炭素数2以上のアシル基を有するカルボン酸(例えば、少なくともC2−6カルボン酸無水物)が使用される。これらは単独又は二種以上組み合わせて使用してもよい。アシル基を有し、アシル化しやすいものであれば、カルボン酸に限定されるものではなく、有機酸ハライド等も使用することができる。
エステル化工程で酸触媒(特に、硫酸)の使用量は、例えばセルロース100質量部に対して3〜20質量部、好ましくは5〜18質量部、さらに好ましくは7〜15質量部程度の範囲から選択でき、通常、7〜15質量部程度である。
エステル化溶剤としては、少なくとも炭素数2以上のアシル基に対応するエステル化溶剤、例えば、カルボン酸(酸無水物)を用いればよく、例えば、C2−6カルボン酸に対応する酸無水物から選択され、かつ炭素数の異なる複数の酸無水物を用いてもよい。例えば、無水プロピオン酸及び/又は無水酪酸と無水酢酸とを組み合わせて用いてもよい。
好ましいエステル化溶剤は、C2−4アルカンカルボン酸無水物、例えば、C2−4カルボン酸無水物から選択された少なくとも一種(無水酢酸又は無水プロピオン酸等)、無水酢酸と無水プロピオン酸との組み合わせ、無水酢酸と無水酪酸との組み合わせ、無水酢酸と無水プロピオン酸と無水酪酸との組み合わせである。特に、無水酢酸と無水プロピオン酸との組み合わせ、無水酢酸と無水酪酸との組み合わせが好ましい。なお、無水酢酸は無水プロピオン酸などと比べて反応性が高く、アセチル基の置換度が小さいセルロース混合脂肪酸エステルを得る場合には、無水酢酸を用いないか、又は本発明の目的を損なわない範囲で少なくとも炭素数3以上にアシル基に対応するエステル化溶剤と少量の無水酢酸とを組み合わせてもよい。
なお、炭素数3以上のアシル基を有するセルロースエステルを得る場合、酢酸の存在化でアシル化、又は熟成できれば、エステル化溶剤は炭素数3以上のアシル基に対応する、例えば、無水プロピオン酸、無水酪酸などで構成すればよく、必ずしもアセチル基に対応するエステル化溶剤(無水酢酸)を含んでいなくてもよい。アセチル基を導入するためには、必ずしも無水酢酸を使用する必要はなく、反応系に酢酸を存在させて反応させてもよい。
このような酢酸は、エステル化工程及び熟成工程(特に、少なくとも熟成工程)において反応系に存在させればよく、前記活性化処理由来の酢酸のみで構成してもよく、エステル化工程及び熟成工程において新たに添加してもよく、通常エステル化工程でエステル化溶媒として使用してもよい。
なお、複数のエステル化溶剤を用いてセルロースエステルを製造する場合、エステル化工程において、反応系には複数のエステル化溶剤を共存させてもよく、特定のエステル化溶剤でセルロースをエステル化した後、他のエステル化溶剤でセルロースをエステル化してもよい。エステル化工程でのエステル化溶剤の使用量は、例えば、セルロースの水酸基に対して1.1〜4当量、好ましくは1.1〜2当量、さらに好ましくは1.3〜1.8当量程度である。
アセチル化の場合に限り、小さいアセチル置換度のセルロースエステルを得る場合には、エステル化工程で無水酢酸の使用量は、セルロースの水酸基に対して0.5当量以下(0〜0.3当量程度)、さらに0.2等量以下(0.01〜0.1当量)でもよく、実質的に使用しなくてもよい。
エステル化工程において、通常、溶媒又は希釈剤としてエステル化溶媒(酢酸、プロピオン酸、酪酸などの有機カルボン酸)が使用される。エステル化溶媒(カルボン酸)の使用量は、セルロース100質量部に対して50〜700質量部、好ましくは150〜600質量部、さらに好ましくは200〜550質量部程度である。
なお、エステル化反応は、0〜50℃、好ましくは5〜45℃、さらに好ましく10〜40℃程度の温度で行うことができる。なお、エステル化反応は、初期において、比較的低温、10℃以下(0〜10℃)]で行ってもよい。このような低温での反応時間は、例えば、エステル化反応開始から30分以上、40分〜2時間、好ましくは45〜100分程度)であってもよい。10〜50℃でのエステル化時間は、10分以上20〜90分、好ましくは30〜80分、40分〜75分である。
均一な反応系が形成されると、エステル化反応が終了したと判断することができる。
エステル化反応を終了後、加水分解反応を開始してもよいし、エステル化溶剤、エステル化溶媒、酸触媒をそのままに、熟成工程に移行してもよい。
[エステル化反応停止工程]
エステル化反応後にエステル化溶剤を失活させるために加水分解反応を行う場合は、エステル化溶剤を失活可能であればよく、通常、少なくとも水を含んでいる場合が多い。加水分解を進める失活剤は、水と、エステル化溶媒、アルコール及び中和剤から選択された少なくとも一種で構成してもよい。より具体的には、失活剤としては、例えば、水単独、水とカルボン酸との混合物、水とアルコールとの混合物、水と中和剤との混合物、水と有機カルボン酸とアルコールと中和剤との混合物などが例示できる。
中和剤としては、酸触媒又はエステル化溶剤の一部を中和可能な塩基、例えば、アルカリ金属化合物(水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの水酸化物、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムなどの炭酸塩、酢酸ナトリウムや酢酸カリウムなどの有機酸塩など)、アルカリ土類金属化合物(例えば、水酸化カルシウムなどの水酸化物、炭酸カルシウムなどの炭酸塩、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムなどの有機酸塩など)などが挙げられ、単独で又は2種類以上組み合わせて使用してもよい。アルコールとしては、直鎖アルコール(エタノール、メタノール、プロパノール等)が例示できる。これらのアルコールも単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
水とエステル化溶媒または、水とアルコールとの割合は、水100質量部に対してエステル化溶媒またはアルコール20〜140質量部程度の範囲から選択でき、通常、25〜120質量部、好ましくは50〜100質量部である。
エステル化工程後、熟成工程前における加水分解の実施には、酸触媒を一部中和する割合で中和剤を含んでいてもよいし、中和剤を含まなくてもよい。好ましい失活剤は、水単独であってもよいが、セルロースエステルに対して水は貧溶媒なので、所望の置換度以外のセルロースエステルが析出してしまう可能性が高いため、水とエステル化溶媒との混合液が好ましい。
原料セルロースに含まれる反応成分は100%ではないため、この段階で未反応成分が含まれるので、一度反応溶液濾過する過程を導入してもよい。
この反応停止工程は必要に応じて省略することができる。
[熟成工程]
熟成工程では、前記エステル化反応終了後ほぼトリエステル化している状態から、所望の置換度にするために脱アシル化を行い、脱アシル化終了後に中和剤を投入し一連の反応を終了する。
エステル化に利用した酸触媒を中和した場合、再度酸触媒を必要量投入してもよいし、エステル化工程で使用していた酸触媒(特に硫酸)を中和することなく熟成工程で利用してもよい。エステル化で使用していた酸触媒以外の酸触媒を投入してもよい。
硫酸は多いと分子量を小さくしてしまうことがあるため、熟成工程で酸触媒を追加せず、エステル化工程で使用していた酸触媒を、そのまま熟成工程でも使用することが好ましい。
また、後に酸触媒を中和する段階で、酸触媒を追加した分、中和剤に含まれる、アルカリ金属又はアルカリ土類金属が、精製後のセルロースエステル中に残存し、輝点異物等の障害になりえるため、硫酸は熟成工程で追加しないことが好ましい。
また、熟成に際し、必要に応じて新たに脱アシル化溶媒(水とカルボン酸混合溶液等)を添加してもよい。
熟成工程中の反応温度は20℃〜90℃の温度がよく、好ましくは25℃〜80℃、さらに好ましくは30℃〜70℃である熟成反応は、窒素雰囲気下行ってもよく、空気雰囲気中で行ってもよい。
熟成反応時間は20分以上、25分〜6時間の範囲から選択でき、好ましくは30分〜5時間、さらに好ましくは1〜3時間である。
[熟成反応停止工程]
所望のセルロースエステルが熟成工程にて得られた後、脱アシル化として使用していた酸触媒を中和させることが必要である。中和剤としては、前記エステル化反応停止工程に記載の塩基で構成された中和剤を添加するのが好ましい。
反応生成物(セルロース混合脂肪酸エステルを含むドープ)を析出溶媒(水、酢酸水溶液など)に投入して生成したセルロース混合脂肪酸エステルを分離し、水洗などにより遊離の金属成分や硫酸成分などを除去してもよい。なお、水洗の際に中和剤を使用することもできる。
[不純物収集工程]
従来不純物を除去収集する工程の一つとして濾過工程がある。濾過工程はエステル化工程終了後又は熟成工程反応終了後、もしくはその両方に設けることができる。
セルロースエステル樹脂合成工程中の濾過方法としては、後述する濾過方法の項で説明するフィルターの材質や濾過精度の調整は一般的であるが、本発明はそれら従来方法では除去収集できない不純物を除去するために鋭意検討した結果、下記〔1〕〜〔4〕の各手法のうち少なくとも1つを取り入れることが好ましいことがわかった。この〔1〕〜〔4〕の各々の手法を総称して不純物収集工程とする。
この工程では〔1〕〜〔4〕の各工程手法のうち2つ以上組み合わせても良いし、単独でも良い。すく少なくとも1つ以上の手法を取り入れることが好ましい。
この工程で不純物を十分に除去しておかないと、後処理工程の沈殿工程でセルロースエステル樹脂を析出させた際、正常部分が不純物を覆う形で析出してしまう。この場合洗浄を十分に行ったとしてもほとんど除去することができない。そのため再溶解できる溶液流延製膜と異なり、溶融流延製膜では顕著に不純物の影響を受けることになる。
遊離酸に関しては洗浄で取り除くことが可能のため、後処理工程で十分に洗浄が可能である。
〔1〕粒子投入撹拌手法
セルロースエステルの合成反応停止後に、親水性基を持つ粒子を入れることが好ましく、さらに撹拌することが好ましい。粒子は親水性基をもつものであればいずれでも良いが、後に不純物収集工程で補足するためにも硬い粒子であることが好ましい。硬い粒子は無機粒子が好ましい。粒子の硬度は新モース硬度で6以上の粒子であることが好ましい。
粒子はケイ酸塩が好ましく、シリカゲルやシリカガラス、セライト等が好ましいがシリカゲルがより好ましい。
撹拌の条件は粒子が満遍なくドープ内にいきわたらせるものであればいずれでも良いが、簡易的な装置として撹拌羽を設けた釡で1時間以上撹拌することが好ましい。
粒子の大きさはフィルターの目開きよりも大きければ大きさは問わないが、大きすぎても効率的に分散されないので10μm〜200μmが好ましく、20μm〜150μmがより好ましい。この工程ではドープ内に粒子を分散させるので粒径は1種類でも効果的であるが、2種以上の粒径違いの粒子を混合しても良い。
〔2〕遠心分離手法
セルロースエステルの合成反応停止後には硫酸成分や金属成分、未反応成分等種々含まれているため、遠心分離を行うことが好ましい。遠心分離の条件は200rpm〜20000rpmが好ましく、大量かつ短時間で処理するためには400rpm〜3000rpmであることがより好ましく、500rpm〜1000rpmであることがさらに好ましい。遠心分離にかかる時間は1時間〜10時間が好ましく、10時間以上では温度制御等でのコストが膨大となり好ましくない。温度制御等のコストを抑え且つ効果的な分離をするためには2時間〜8時間が好ましく、3時間〜5時間がさらに好ましい。
遠心分離機は例えば、松本機械販売(株)のDIBUC−60を使用することができる。
〔3〕粒子充填手法(フィルター直前)
セルロースエステルの合成反応停止後に不純物を濾過する工程を設けるが、その直前に2種の親水性基を持つ粒子を充填することが好ましい。
粒子の硬度は新モース硬度で6以上の粒子であることが好ましい。
粒子はケイ酸塩が好ましく、シリカゲルやシリカガラス、セライト等が好ましいがシリカゲルが好ましい。
ある程度硬度のある粒子を使用するため、1種の粒径では空洞ができやすく、粒径の違う2種以上の粒子を用いることで、粗く細密充填構造を取ることが可能となる。細かく細密充填構造にしてしまうと今度は濾過効率が悪くなるので好ましくないため、1種目の粒子は10〜80μmで、2種目は80〜200μmであることが望ましい。
より好ましくは20〜60μmと85〜150μmで、さらに好ましくは25〜50μmと90〜120μmである。
〔4〕濾過フィルター構成変更手法
従来のフィルター濾過では、繊維不織布フィルターや金属不織布フィルターやガラスフィルター等直列であっても重ねて使用することは行われていない。しかしそれぞれ独立でフィルターを使用すると新たな異物を生み出すことが分かった。
本発明は繊維不織布フィルターと金属不織布またはガラスフィルターを2つ同時に重ねて設置することで、新たな異物の発生も防ぐことができ、さらに、硬い金属不織布またはガラスフィルターを下流側に設けることで、ゲル状異物のような柔らかい成分もコントラストに影響しない大きさに微細化できるため、本発明の効果を高める上で好ましい。
これら〔1〕〜〔4〕の手法後に従来の濾過工程で行うことでより効果的に不純物の除去が行われる。その際は絶対濾過精度10μm以下のものが好ましく、1〜8μmの範囲がより好ましく、3〜5μmの範囲の濾材がさらに好ましい。濾過は加圧式濾過器を用いることが好ましい。
濾過には通常の濾材を使用することもでき、ポリプロピレン、ポリエステル、PTFE等のプラスチック繊維製、ガラス製、金属製の濾材が繊維の脱落等がないため好ましい。
[後処理工程(沈殿・濾過・洗浄・乾燥)]
不純物収集工程後のドープはセルロースエステルの貧溶媒に沈殿させて析出させる。
析出させるためには、水とカルボン酸の混合溶液が好ましく用いられる。これら沈殿溶剤に限られるわけではなく、ケトン類、アルコール類、エーテル類、エステル類等単独または水混合溶媒であってもよい。
沈殿した生成物を濾過して水洗する過程を繰り返し遊離酸濃度が500ppm以下、好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは150ppm以下になるまで水洗する。
その後、ドライエアーで乾燥させ、所望のセルロースエステル樹脂を得る。
[その他]
工業的にはセルロースエステル樹脂は硫酸を触媒として合成されるのが一般的であり、硫酸使用時は、硫酸が完全には除去されておらず、残留する硫酸が溶融製膜時に各種の分解反応を引き起こし、得られるセルロースエステルフィルムの品質に影響を与えるため、本発明に用いられるセルロースエステル樹脂中の残留硫酸含有量は、硫黄元素換算で0.1〜40ppmの範囲である。これらは塩の形で含有していると考えられる。残留硫酸含有量が40ppmを超えると熱溶融時のダイリップ部の付着物が増加するため好ましくない。また、熱延伸時や熱延伸後でのスリッティングの際に破断しやすくなるため好ましくない。少ない方が好ましいが、0.1未満とするにはセルロースエステル樹脂の洗浄工程の負担が大きくなりすぎるため好ましくないだけでなく、逆に破断しやすくなることがあり好ましくない。これは洗浄回数が増えることが樹脂に影響を与えているのかもしれないがよく分かっていない。さらに0.1〜30ppmの範囲が好ましい。残留硫酸含有量は、同様にASTM−D817−96により測定することができる。
合成したセルロースエステル樹脂の洗浄を、溶液流延法に用いられる場合に比べてさらに十分に行うことによって、残留硫酸含有量を上記の範囲とすることができ、溶融流延法によってフィルムを製造する際に、リップ部への付着が軽減され、平面性に優れるフィルムが得られ。
<溶融流延フィルムの製造方法>
上記操作により得られたセルロースエステル樹脂を用いて溶融流延法によって、光学フィルム用途のセルロースエステルフィルムを製造する。
[溶融流延製膜法]
本発明に係るセルロースエステル樹脂からなる溶融流延フィルムの製造方法は、少なくとも、フィルムを形成するポリマー、粒子状物質および添加剤を混合溶融し、該溶融物を濾過装置により濾過し、その後通常のダイから押出し、冷却ロール上に流延する。
以下、製造方法の全体について述べる。
〈溶融ペレット製造工程〉
溶融押出しに用いるフィルムを形成するポリマー、粒子状物質、可塑剤およびその他の添加剤の混合物は、通常あらかじめ混錬してペレット化しておくことが好ましい。
ペレット化は、公知の方法でよく、例えば、フィルムを形成するポリマーや可塑剤、その他添加剤をフィーダーで押出機に供給し1軸や2軸の押出機を用いて混錬し、ダイからストランド状に押出し、水冷または空冷し、カッティングすることでできる。
原材料は、押出する前に予備乾燥しておくことが原材料の分解を防止する上で重要である。特に光学フィルムを形成するポリマーは吸湿しやすいので、除湿熱風乾燥機や真空乾燥機で70〜140℃で3時間以上乾燥し、水分率を300ppm以下、さらに100ppm以下にしておくことが好ましい。
添加剤は、押出機に供給する前に混合しておいてもよいし、それぞれ個別のフィーダーで供給してもよい。酸化防止剤等少量の添加剤は、均一に混合するため、事前に混合しておくことが好ましい。
酸化防止剤の混合は、固体同士で混合してもよいし、必要により、酸化防止剤を溶剤に溶解しておき、光学フィルムを形成するポリマーに含浸させて混合してもよく、あるいは噴霧して混合してもよい。
真空ナウターミキサなどが乾燥と混合を同時にできるので好ましい。また、フィーダー部やダイからの出口など空気と触れる場合は、除湿空気や除湿したN2ガスなどの雰囲気下にすることが好ましい。
押出機は、せん断力を抑え、樹脂が劣化(分子量低下、着色、ゲル生成等)しないようにペレット化可能でなるべく低温で加工することが好ましい。例えば、2軸押出機の場合、深溝タイプのスクリューを用いて、同方向に回転させることが好ましい。混錬の均一性から、噛み合いタイプが好ましい。
以上のようにして得られたペレットを用いてフィルム製膜を行う。ペレット化せず、原材料の粉末をそのままフィーダーで押出機に供給し、そのままフィルム製膜することも可能である。
〈溶融混合物をダイから冷却ロールへ押し出す工程〉
作製したペレットを1軸や2軸タイプの押出機を用いて、押し出す際の溶融温度Tmを200〜350℃程度とし、濾過装置により濾過し異物を除去した後、Tダイからフィルム状に流延し、冷却ロール上で固化し、弾性タッチロールと押圧しながら流延する。
供給ホッパーから押出機へ導入する際は真空下または減圧下や不活性ガス雰囲気下にして酸化分解等を防止することが好ましい。なお、Tmは、押出機のダイ出口部分の温度である。
ダイに傷や可塑剤の凝結物等の異物が付着するとスジ状の欠陥が発生する場合がある。このような欠陥のことをダイラインとも呼ぶが、ダイライン等の表面の欠陥を小さくするためには、押出機からダイまでの配管には樹脂の滞留部が極力少なくなるような構造にすることが好ましい。ダイの内部やリップにキズ等が極力無いものを用いることが好ましい。
押出機やダイなどの溶融樹脂と接触する内面は、表面粗さを小さくしたり、表面エネルギーの低い材質を用いるなどして、溶融樹脂が付着し難い表面加工が施されていることが好ましい。具体的には、ハードクロムメッキやセラミック溶射したものを表面粗さ0.2S以下となるように研磨したものが挙げられる。
冷却ロールには特に制限はないが、高剛性の金属ロールで内部に温度制御可能な熱媒体または冷媒体が流れるような構造を備えるロールであり、大きさは限定されないが、溶融押し出されたフィルムを冷却するのに十分な大きさであればよく、通常冷却ロールの直径は100mmから1m程度である。
冷却ロールの表面材質は、炭素鋼、ステンレス、アルミニウム、チタンなどが挙げられる。さらに表面の硬度を上げたり、樹脂との剥離性を改良するため、ハードクロムメッキや、ニッケルメッキ、非晶質クロムメッキなどや、セラミック溶射等の表面処理を施すことが好ましい。
冷却ロール表面の表面粗さは、Raで0.1μm以下とすることが好ましく、さらに0.05μm以下とすることが好ましい。ロール表面が平滑であるほど、得られるフィルムの表面も平滑にできるのである。もちろん表面加工した表面はさらに研磨し上述した表面粗さとすることが好ましい。
用いられる弾性タッチロールとしては、特開平03−124425号、特開平08−224772号、特開平07−100960号、特開平10−272676号、WO97−028950、特開平11−235747号、特開2002−36332号、特開2005−172940号や特開2005−280217号に記載されているような表面が薄膜金属スリーブ被覆シリコンゴムロールを使用することができる。
冷却ロールからフィルムを剥離する際は、張力を制御してフィルムの変形を防止することが好ましい。
上記のようにして得られたフィルムは、冷却ロールに接する工程を通過後、延伸操作により延伸することが好ましい。
延伸する方法は、公知のロール延伸機やテンターなどを好ましく用いることができる。延伸温度は、通常フィルムを構成する樹脂のTg〜Tg+60℃の温度範囲で行われることが好ましい。
巻き取る前に、製品となる幅に端部をスリットして裁ち落とし、巻き中の貼り付きやすり傷防止のために、ナール加工(エンボッシング加工)を両端に施してもよい。ナール加工の方法は凸凹のパターンを側面に有する金属リングを加熱や加圧により加工することができる。なお、フィルム両端部のクリップの把持部分は通常、フィルムが変形しており製品として使用できないので切除されて、再利用される。
<アクリル樹脂>
本発明の溶融流延フィルムは、本発明に係るセルロースエステル樹脂にアクリル樹脂を併用することが好ましく、用いられるアクリル樹脂にはメタクリル樹脂も含まれる。
本発明に用いられるアクリル樹脂は、下記一般式(1)で表され、重量平均分子量Mwが20000以上1000000以下であることを特徴とする。
一般式(1) −(MMA)p−(X)q−(Y)r−
MMAはメチルメタクリレートを、Xはアミド基を少なくとも一種有するMMAと共重合可能なモノマー単位を、YはMMA、Xと共重合可能なモノマー単位を表す。p、q、rはモル%であり、50≦p≦99、1≦q≦50、p+q+r=100である。
Xは、MMAと共重合可能なアミド基を少なくとも一種有するビニルモノマーであり、Xは一種でも2種以上でもよく、1モノマー単位中に複数の官能基を有していてもよい。
Xの具体的なモノマーとしては、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、アクリロイルピロリジン、アクリロイルピペリジン、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−ブチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリン、N−ヒドロキシエチルメタクリルアミド、メタクリロイルピロリジン、メタクリロイルピペリジン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、ビニルピロリドン等が挙げられる。
好ましくは、アクリロイルモルホリン、ビニルピロリドン、が挙げられる。
これらのモノマーは市販のものをそのまま使用することができる。
qは、1≦q≦50であり、モノマーの性質により適宜選択されるが、好ましくは5≦q≦30である。また、Xは複数のモノマーであってもよい。
モノマーXが耐熱性の改善に寄与するのは、その官能基が電子のローンペアを有しておりそれが水分子を配位することにより、経時で発生する光学フィルムの位相差発現の原因である樹脂の結晶配向を抑制しているのではないかと推測している。
また官能基が非解離性であることから、経時での分解による酸発生もなく、物理的にも安定しているものと考えている。
さらに重量平均分子量が大きいことから、光学フィルムとしての自立性も満足するものである。
本発明に用いられるアクリル樹脂におけるYはMMA、Xと共重合可能なモノマー単位を表す。
Yとしては、MMA以外のアクリルモノマー、メタクリルモノマー、オレフィン、アクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニル等特許文献1、2、3に記載のモノマーが挙げられる。Yは2種以上であってもよい。
Yは必要に応じて使用できるものであり、使用しないことが最も好ましい。
本発明に用いられるアクリル樹脂は、特に本発明に係るセルロースエステル樹脂と相溶した際の透明性の改善の観点で、重量平均分子量(Mw)が20000以上であることが好ましい。
アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、20000〜1000000の範囲内であることが更に好ましく、50000〜600000の範囲内であることが特に好ましく、100000〜400000の範囲であることが最も好ましい。
アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)の上限値は、製造上の観点から1000000以下とされることが好ましい形態である。
本発明に用いられるアクリル樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定することができる。測定条件は以下の通りである。
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=2,800,000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
本発明におけるアクリル樹脂の製造方法としては、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、あるいは溶液重合等の公知の方法のいずれを用いても良い。ここで、重合開始剤としては、通常のパーオキサイド系およびアゾ系のものを用いることができ、また、レドックス系とすることもできる。
重合温度については、懸濁または乳化重合では30〜100℃、塊状または溶液重合では80〜160℃で実施しうる。得られた共重合体の還元粘度を制御するために、アルキルメルカプタン等を連鎖移動剤として用いて重合を実施することもできる。
本発明の溶融流延フィルムにおいて、アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂は、95:5〜50:50の質量比で、相溶状態で含有されることが好ましいが、好ましくは70:30〜60:40である。
アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂の質量比が、95:5よりもアクリル樹脂が多くなると、セルロースエステル樹脂による効果が十分に得られず、同質量比が50:50よりもアクリル樹脂が少なくなると、光弾性係数が大きくなってしまう。
本発明の溶融流延フィルムにおいては、アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂が相溶状態で含有されることが好ましい。光学フィルムとして必要とされる物性や品質を、異なる樹脂を相溶させることで相互に補うことにより達成している。
アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂が相溶状態となっているかどうかは、例えばガラス転移温度Tgにより判断することが可能である。
例えば、両者の樹脂のガラス転移温度が異なる場合、両者の樹脂を混合したときは、各々の樹脂のガラス転移温度が存在するため混合物のガラス転移温度は2つ以上存在するが、両者の樹脂が相溶したときは、各々の樹脂固有のガラス転移温度が消失し、1つのガラス転移温度となって相溶した樹脂のガラス転移温度となる。
なお、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、JIS K7121(1987)に従い求めた中間点ガラス転移温度(Tmg)とする。
本発明の溶融流延フィルムにおけるアクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)やセルロースエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)や置換度は、両者の樹脂の溶媒に対して溶解性の差を用いて、分別した後に、それぞれ測定することにより得られる。
樹脂を分別する際には、いずれか一方にのみ溶解する溶媒中に相溶された樹脂を添加することで、溶解する樹脂を抽出して分別することができ、このとき加熱操作や環流を行ってもよい。
これらの溶媒の組み合わせを2工程以上組み合わせて、樹脂を分別してもよい。溶解した樹脂と、不溶物として残った樹脂を濾別し、抽出物を含む溶液については、溶媒を蒸発させて乾燥させる操作によって樹脂を分別することができる。
これらの分別した樹脂は、高分子の一般の構造解析によって特定することができる。本発明の溶融流延フィルムが、アクリル樹脂やセルロースエステル樹脂以外の樹脂を含有する場合も同様の方法で分別することができる。
また、相溶された樹脂の重量平均分子量(Mw)がそれぞれ異なる場合は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、高分子量物は早期に溶離され、低分子量物であるほど長い時間を経て溶離されるために、容易に分別可能であるとともに分子量を測定することも可能である。
また、相溶した樹脂をGPCによって分子量測定を行うと同時に、時間毎に溶離された樹脂溶液を分取して溶媒を留去し乾燥した樹脂を、構造解析を定量的に行うことで、異なる分子量の分画毎の樹脂組成を検出することで、相溶されている樹脂をそれぞれ特定することができる。
事前に溶媒への溶解性の差で分取した樹脂を、各々GPCによって分子量分布を測定することで、相溶されていた樹脂をそれぞれ検出することもできる。
本発明の溶融流延フィルムにおけるアクリル樹脂とセルロースエステル樹脂の総質量は、溶融流延フィルムの55質量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは60質量%以上であり、特に好ましくは、70質量%以上である。
<溶融流延フィルムに使用する添加剤>
溶融流延フィルムには、組成物の流動性や柔軟性を向上するために、可塑剤を併用することも可能が好ましい。可塑剤としては特に限定されないが、好ましくは、多価カルボン酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤及び多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、アクリル系可塑剤、炭水化物エステル系可塑剤等から選択される。そのうち、可塑剤を2種以上用いる場合は、少なくとも1種は多価アルコールエステル系可塑剤であることが好ましい。
多価アルコールエステル系可塑剤は2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなる可塑剤であり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。
本発明に好ましく用いられる多価アルコールは次の一般式(a)で表される。
一般式(a) Ra−(OH)n
(但し、Raはn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性、及び/またはフェノール性水酸基を表す。)
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることが更に好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、メトキシ基或いはエトキシ基などのアルコキシ基を1〜3個を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に安息香酸が好ましい。
多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが更に好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
グリコレート系可塑剤は特に限定されないが、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が好ましく用いることができる。アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
フタル酸エステル系可塑剤としては、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が挙げられる。
クエン酸エステル系可塑剤としては、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等が挙げられる。
脂肪酸エステル系可塑剤として、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。
リン酸エステル系可塑剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が挙げられる。
炭水化物エステル系可塑剤として、具体的には、グルコースペンタアセテート、グルコースペンタプロピオネート、グルコースペンタブチレート、サッカロースオクタアセテート、サッカロースオクタベンゾエート等を好ましく挙げることができ、この内、サッカロースオクタアセテート、サッカロースオクタベンゾエートがより好ましく、サッカロースオクタベンゾエートが特に好ましい。例えば市販品として、モノペットSB:第一工業製薬社製、モノペットSOA:第一工業製薬社製が挙げられる。
可塑剤はセルロースエステルフィルム100質量部に対して、0.5〜30質量部を添加するのが好ましい。可塑剤の添加量が30質量部を越えると、表面がべとつくので、実用上好ましくない。
セルロースエステルフィルムは、紫外線吸収剤を含有することも好ましく、用いられる紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、2−ヒドロキシベンゾフェノン系またはサリチル酸フェニルエステル系のもの等が挙げられる。例えば、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール等のトリアゾール類、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類を例示することができる。ここで、紫外線吸収剤のうちでも、分子量が400以上の紫外線吸収剤は、高沸点で揮発しにくく、高温成形時にも飛散しにくいため、比較的少量の添加で効果的に耐候性を改良することができる。
分子量が400以上の紫外線吸収剤としては、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2−ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等のベンゾトリアゾール系、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート等のヒンダードアミン系、さらには2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、1−[2−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の分子内にヒンダードフェノールとヒンダードアミンの構造を共に有するハイブリッド系のものが挙げられ、これらは単独で、あるいは2種以上を併用して使用することができる。これらのうちでも、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2−ベンゾトリアゾールや2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]が特に好ましい。
さらに、セルロースエステルフィルムには、成形加工時の熱分解性や熱着色性を改良するために各種の酸化防止剤を添加することもできる。また帯電防止剤を加えて、光学フィルムに帯電防止性能を与えることも可能である。
セルロースエステルフィルムには、リン系難燃剤を配合した難燃アクリル系樹脂組成物を用いても良い。
ここで用いられるリン系難燃剤としては、赤リン、トリアリールリン酸エステル、ジアリールリン酸エステル、モノアリールリン酸エステル、アリールホスホン酸化合物、アリールホスフィンオキシド化合物、縮合アリールリン酸エステル、ハロゲン化アルキルリン酸エステル、含ハロゲン縮合リン酸エステル、含ハロゲン縮合ホスホン酸エステル、含ハロゲン亜リン酸エステル等から選ばれる1種、あるいは2種以上の混合物を挙げることができる。
具体的な例としては、トリフェニルホスフェート、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシド、フェニルホスホン酸、トリス(β−クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート等が挙げられる。
セルロースエステルフィルムは、滑り性や光学的、機械的機能を付与するために滑り剤を添加することができる。滑り剤としては、無機化合物の微粒子又は有機化合物の微粒子が挙げられる。
滑り剤の形状は、球状、棒状、針状、層状、平板状等の形状のものが好ましく用いられる。滑り剤としては、例えば二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウムを挙げることができる。また、有機化合物の微粒子も好ましく使用することができる。有機化合物の例としてはポリテトラフルオロエチレン、セルロースアセテート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチレンカーボネート、アクリルスチレン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、メラミン系樹脂、ポリオレフィン系粉末、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、あるいはポリ弗化エチレン系樹脂、澱粉等の有機高分子化合物の粉砕分級物もあげられる。あるいは又懸濁重合法で合成した高分子化合物、スプレードライ法あるいは分散法等により球型にした高分子化合物、または無機化合物を用いることができる。
微粒子は珪素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
さらに本発明の親水性は凝集が進行し、均一に扱うことが難しいため、疎水性の二酸化珪素が特に好ましい。
微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜400nmが好ましく、更に好ましいのは10〜300nmである。これらは主に粒径0.05〜0.3μmの二次凝集体として含有されていてもよく、平均粒径100〜400nmの粒子であれば凝集せずに一次粒子として含まれていることも好ましい。セルロースエステル中のこれらの微粒子の含有量は0.01〜1質量%であることが好ましく、特に0.05〜0.5質量%が好ましい。
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976およびR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
ポリマーの例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂およびアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120および同240(以上東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
これらの中でもアエロジル200V、アエロジルR972Vが光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。前記光学フィルムにおいては、少なくとも一方の面の動摩擦係数が0.2〜1.0であることが好ましい。
本発明の光学フィルムは、特開2009−299075号公報に記載のアクリル粒子(D)を含有してもよい。このような多層構造アクリル系粒状複合体の市販品の例としては、例えば、三菱レイヨン社製“メタブレンW−341”、鐘淵化学工業社製“カネエース”、呉羽化学工業社製“パラロイド”、ロームアンドハース社製“アクリロイド”、ガンツ化成工業社製“スタフィロイド”、ケミスノーMR−2G、MS−300X(綜研化学(株)製)およびクラレ社製“パラペットSA”などが挙げられ、これらは、単独ないし2種以上を用いることができる。
本発明の溶融流延フィルムにおいて、該フィルムを構成する樹脂の総質量に対して、0〜30質量%のアクリル粒子を含有することが好ましく、1.0〜15質量%の範囲で含有することがさらに好ましい。
<機能性層>
本発明の溶融流延フィルムには、帯電防止層、バックコート層、反射防止層、易滑性層、接着層、防眩層、バリアー層等の機能性層を設けることができる。
〈ハードコート層〉
本発明に用いられるハードコート層は活性線硬化樹脂を含有し、紫外線や電子線のような活性線(活性エネルギー線ともいう)照射により、架橋反応を経て硬化する樹脂を主たる成分とする層であることが好ましい。
活性線硬化樹脂としては、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーを含む成分が好ましく用いられ、紫外線や電子線のような活性線を照射することによって硬化させて活性線硬化樹脂層が形成される。
活性線硬化樹脂としては紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂等が代表的なものとして挙げられるが、紫外線照射によって硬化する樹脂が機械的膜強度(耐擦傷性、鉛筆硬度)に優れる点から好ましい。
紫外線硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化型ウレタンアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、または紫外線硬化型エポキシ樹脂等が好ましく用いられる。中でも紫外線硬化型アクリレート系樹脂が好ましい。
また、ハードコート層には活性線硬化樹脂の硬化促進のため、光重合開始剤を含有することが好ましい。光重合開始剤量としては、質量比で、光重合開始剤:活性線硬化樹脂=20:100〜0.01:100で含有することが好ましい。
光重合開始剤としては、具体的には、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ミヒラーケトン、α−アミロキシムエステル、チオキサントン等およびこれらの誘導体を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
またハードコート層には、無機化合物または有機化合物の微粒子を含むことが好ましい。
無機微粒子としては、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、ITO、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウムを挙げることができる。特に、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム等が好ましく用いられる。
有機粒子としては、ポリメタアクリル酸メチルアクリレート樹脂粉末、アクリルスチレン系樹脂粉末、ポリメチルメタクリレート樹脂粉末、シリコン系樹脂粉末、ポリスチレン系樹脂粉末、ポリカーボネート樹脂粉末、ベンゾグアナミン系樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、またはポリ弗化エチレン系樹脂粉末等を添加することができる。
これらの微粒子粉末の平均粒子径は特に制限されないが、0.01〜5μmが好ましく、更には、0.01〜1.0μmであることが特に好ましい。また、粒径の異なる2種以上の微粒子を含有しても良い。微粒子の平均粒子径は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができる。
紫外線硬化樹脂組成物と微粒子の割合は、樹脂組成物100質量部に対して、10〜400質量部となるように配合することが望ましく、更に望ましくは、50〜200質量部である。
これらのハードコート層はグラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター、インクジェット法等公知の方法を用いて、ハードコート層を形成する塗布組成物を塗布し、塗布後、加熱乾燥し、UV硬化処理することで形成できる。
ハードコート層のドライ膜厚としては平均膜厚0.1〜30μm、好ましくは1〜20μm、特に好ましくは6〜15μmである。
UV硬化処理の光源としては、紫外線を発生する光源であれば制限なく使用できる。例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることができる。
照射条件はそれぞれのランプによって異なるが、活性線の照射量は、通常5〜500mJ/cm2、好ましくは5〜200mJ/cm2である。
〈バックコート層〉
本発明の溶融流延フィルムは、フィルムのハードコート層を設けた側と反対側の面に、カールやくっつき防止の為にバックコート層を設けてもよい。
バックコート層に添加される粒子としては無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛、ITO、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウムを挙げることができる。
バックコート層に含まれる粒子は、バインダーに対して0.1〜50質量%が好ましい。バックコート層を設けた場合のヘーズの増加は1.5%以下であることが好ましく、0.5%以下であることが更に好ましく、特に0.1%以下であることが好ましい。
バインダーとしては、ジアセチルセルロース等のセルロースエステル樹脂が好ましい。
〈反射防止層〉
本発明の溶融流延フィルムは、ハードコート層の上層に反射防止層を塗設して、外光反射防止機能を有する反射防止フィルムとして用いることができる。
反射防止層は、光学干渉によって反射率が減少するように屈折率、膜厚、層の数、層順等を考慮して積層されていることが好ましい。反射防止層は、支持体よりも屈折率の低い低屈折率層、もしくは支持体よりも屈折率の高い高屈折率層と低屈折率層を組み合わせて構成されていることが好ましい。特に好ましくは、3層以上の屈折率層から構成される反射防止層であり、支持体側から屈折率の異なる3層を、中屈折率層(支持体よりも屈折率が高く、高屈折率層よりも屈折率の低い層)/高屈折率層/低屈折率層の順に積層されているものが好ましく用いられる。または、2層以上の高屈折率層と2層以上の低屈折率層とを交互に積層した4層以上の層構成の反射防止層も好ましく用いられる。
反射防止フィルムの層構成としては下記のような構成が考えられるが、これに限定されるものではない。
溶融流延フィルム/ハードコート層/低屈折率層
溶融流延フィルム/ハードコート層/中屈折率層/低屈折率層
溶融流延フィルム/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
溶融流延フィルム/ハードコート層/高屈折率層(導電性層)/低屈折率層
溶融流延フィルム/ハードコート層/防眩性層/低屈折率層
反射防止フィルムには必須である低屈折率層は、シリカ系微粒子を含有することが好ましく、その屈折率は、支持体であるセルロースフィルムの屈折率より低く、23℃、波長550nm測定で、1.30〜1.45の範囲であることが好ましい。
低屈折率層の膜厚は、5nm〜0.5μmであることが好ましく、10nm〜0.3μmであることが更に好ましく、30nm〜0.2μmであることが最も好ましい。
低屈折率層形成用組成物については、シリカ系微粒子として、特に外殻層を有し内部が多孔質または空洞の粒子を少なくとも1種類以上含むことが好ましい。特に該外殻層を有し内部が多孔質または空洞である粒子が、中空シリカ系微粒子であることが好ましい。
なお、低屈折率層形成用組成物には、下記一般式(OSi−1)で表される有機珪素化合物もしくはその加水分解物、或いは、その重縮合物を併せて含有させても良い。
一般式(OSi−1):Si(OR)4
前記一般式で表される有機珪素化合物は、式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン等が好ましく用いられる。
他に溶剤、必要に応じて、シランカップリング剤、硬化剤、界面活性剤等を添加してもよい。
<偏光板>
本発明の溶融流延フィルムは、偏光板保護フィルムとして好適であり、更に液晶表示装置等の表示装置にも使用することができる。
偏光板は、前記本発明の溶融流延フィルムを、偏光子の少なくとも一方の面に貼合した偏光板であることが特徴である。液晶表示装置は、少なくとも一方の液晶セル面に、本発明に係る偏光板が粘着層を介して貼り合わされたものであることが好ましい。
偏光板は一般的な方法で作製することができる。本発明の溶融流延フィルムの偏光子側をアルカリケン化処理し、沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。
もう一方の面には本発明の溶融流延フィルムを用いることが好ましいが、また他の光学フィルムを貼合することもできる。
例えば、市販のセルロースエステルフィルム(例えば、コニカミノルタタック KC8UX、KC5UX、KC8UCR3、KC8UCR4、KC8UCR5、KC8UY、KC4UY、KC4UE、KC8UE、KC8UY−HA、KC8UX−RHA、KC8UXW−RHA−C、KC8UXW−RHA−NC、KC4UXW−RHA−NC、以上コニカミノルタオプト(株)製)が好ましく用いられる。
表示装置の表面側に用いられる偏光板の視認側保護フィルムには、前記ハードコート層(防眩、またはクリア)のほか、反射防止層、帯電防止層、防汚層、バックコート層を有することが好ましい。
偏光板の主たる構成要素である偏光子とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光子は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。
偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。偏光子の膜厚は5〜30μmが好ましく、特に10〜20μmであることが好ましい。
また、特開2003−248123号公報、特開2003−342322号公報等に記載のエチレン単位の含有量1〜4モル%、重合度2000〜4000、けん化度99.0〜99.99モル%のエチレン変性ポリビニルアルコールも好ましく用いられる。
中でも熱水切断温度が66〜73℃であるエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムが好ましく用いられる。
このエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムを用いた偏光子は、偏光性能および耐久性能に優れているうえに、色斑が少なく、大型液晶表示装置に特に好ましく用いられる。
以上のようにして得られた偏光子は、通常、その両面または片面に偏光板保護フィルムが貼合されるが、貼合する際に用いられる接着剤としては、PVA系の接着剤やウレタン系の接着剤などを挙げることができるが、中でもPVA系の接着剤が好ましく用いられる。
〈液晶表示装置〉
上記本発明の溶融流延フィルムを貼合した偏光板を、液晶表示装置に用いることによって、種々の視認性に優れた液晶表示装置を作製することができる。
本発明の溶融流延フィルムを貼合した偏光板は液晶セルの少なくとも一方の面に貼合して、STN、TN、OCB、HAN、VA(MVA、PVA)、IPS、OCBなどの各種駆動方式の液晶表示装置を作製することが好ましい。
好ましくはVA(MVA,PVA)型液晶表示装置である。
本発明の溶融流延フィルムを用いると、特に30型以上の大画面の液晶表示装置であっても、環境変動下でもコントラスト等の視認性に優れた液晶表示装置を得ることができる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<セルロースエステル樹脂の製造>
[製造例1]
粉砕後の原料パルプ(αセルロース93%以上)に酢酸50質量部を加え、1時間活性化処理を行った。
上記含酢酸パルプを反応器に入れ、更に無水プロピオン酸250質量部、無水プロピオン酸400質量部、硫酸9質量部を投入し室温から徐々に40℃まで温度を上昇させ、40℃に保温しながら1時間保温し、エステル化反応を進行させた。
次いで1次中和工程で30%酢酸水溶液250部を加え中和した後、熟成工程にて残った無水カルボン酸類を加水分解するために、80質量%の酢酸水溶液を150質量部入れ、60℃に保持し、1時間撹拌させた。
その後反応停止のために、硫酸を中和するため、30質量%の酢酸マグネシウム水溶液を15質量部加えた。
熟成反応停止後のドープに親水性基を持つ平均粒径30μmの親水性シリカ粒子を投入し、5分間撹拌した後、濾過工程においてガラスフィルターで酢酸ドープを濾過した。
次に沈殿工程で析出したセルロースエステル樹脂を濾別し、50℃の温水で5回洗浄し、残っている酢酸水溶液を溶出させた後、70℃で3時間乾燥させ、アセチル置換度0.61、プロピオニル置換度2.07、総置換度2.68のセルロースアセテートプロピオネートである製造例1のセルロースエステル樹脂を得た。重量平均分子量(Mw)は下記測定法を用いて測定した結果20万であった。
(重量平均分子量(Mw)の測定)
重量平均分子量Mwは、市販のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用する)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500の13サンプルによる校正曲線を使用する。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
[製造例2]
製造例1の熟成反応停止工程で親水性シリカ粒子を添加する代わりに、遠心分離をして、その上澄み液を次工程以降に用いた以外は同様にして、アセチル置換度0.64、プロピオニル置換度2.01、総置換度2.65のセルロースアセテートプロピオネートである製造例2のセルロースエステル樹脂を得た。重量平均分子量(Mw)は20万であった。
[製造例3]
製造例1の熟成反応停止工程で親水性シリカ粒子を添加する代わりに、濾過工程でフィルター直前に親水性基を持つシリカゲルである平均粒径が10μmと50μmの2種の粒子をフイルター直前に敷き詰めてドープを濾過した以外は同様にして、アセチル置換度0.59、プロピオニル置換度2.02、総置換度2.61のセルロースアセテートプロピオネートである製造例3のセルロースエステル樹脂を得た。重量平均分子量(Mw)は21万であった。
[製造例4]
製造例1の熟成反応停止工程で親水性シリカ粒子を添加する代わりに、濾過工程のフィルターが繊維不織布フィルターと金属不織布フィルターを重ね、且つ下流側が金属不織布フィルターになるように配列し、ドープを濾過した以外は同様にして、アセチル置換度0.58、プロピオニル置換度2.11、総置換度2.69のセルロースアセテートプロピオネートである製造例4のセルロースエステル樹脂を得た。重量平均分子量(Mw)は19万であった。
[製造例5]
製造例1の濾過工程において、親水性シリカ粒子を添加しないことを除いた以外は同様にして、アセチル置換度0.61、プロピオニル置換度2.07、総置換度2.68のセルロースアセテートプロピオネートである製造例5のセルロースエステル樹脂を得た。重量平均分子量(Mw)は20万であった。
[製造例6]
製造例3の濾過工程でフィルター直前に親水性基を持つシリカゲルである、平均粒径が10μmの粒子を加えてドープを濾過した以外は同様にして、アセチル置換度0.59、プロピオニル置換度2.02、総置換度2.61のセルロースアセテートプロピオネートである製造例6のセルロースエステル樹脂を得た。重量平均分子量(Mw)は21万であった。
[製造例7]
製造例4の濾過工程のフィルターが繊維系不織布フィルターと金属不織布フィルターを重ね、且つ下流側が繊維系不織布フィルターになるように配列し、ドープを濾過した以外は同様にして、アセチル置換度0.58、プロピオニル置換度2.11、総置換度2.69のセルロースアセテートプロピオネートである製造例7のセルロースエステル樹脂を得た。重量平均分子量(Mw)は19万であった。
<アクリル樹脂の製造>
[アクリル樹脂A−1〜A−7の製造]
表1のアクリル樹脂A−1〜7を公知の方法によって作製した。表中、ACMOは、アクリロイルモルホリン、AAmはアクリルアミド、VPはビニルピロリドン、HEMAは、ヒドロキシメタクリレートである。
表中の重量平均分子量は前述のGPCを用いて測定した。
<溶融流延フィルムの製造>
[溶融流延フィルム1の作製]
製造例1で得られたセルロースエステル樹脂を下記溶融流延法に従って溶融流延フィルム1を作製した。
(溶融流延法)
下記組成で、溶融流延法により溶融流延フィルム1を作製した。
上記セルロースエステル樹脂[製造例1]を70℃、3時間減圧下で乾燥を行い室温まで冷却した後、各添加剤を混合した。
以上の混合物を弾性タッチロールを用いた製造装置で製膜した。窒素雰囲気下、240℃にて溶融して流延ダイから第1冷却ロール上に押し出し、第1冷却ロールと弾性タッチロールとの間にフィルムを挟圧して成形した。また押出し機中間部のホッパー開口部から、滑り剤として疎水性シリカ微粒子(日本アエロジル社製)を、0.1質量部となるよう添加した。
流延ダイのギャップの幅がフィルムの幅方向端部から30mm以内では0.5mm、その他の場所では1mmとなるようにヒートボルトを調整した。タッチロールとしては、その内部に冷却水として80℃の水を流した。
流延ダイから押し出された樹脂が第1冷却ロールに接触する位置P1から第1冷却ロールとタッチロールとのニップの第1冷却ロール回転方向上流端の位置P2までの、第1冷却ローラの周面に沿った長さLを20mmに設定した。その後、タッチロールを第1冷却ロールから離間させ、第1冷却ロールとタッチロールとのニップに挟圧される直前の溶融部の温度Tを測定した。第1冷却ロールとタッチロールとのニップに挟圧される直前の溶融部の温度Tは、ニップ上流端P2よりも更に1mm上流側の位置で、温度計(安立計器株式会社製HA−200E)により測定した。測定の結果、温度Tは141℃であった。タッチロールの第1冷却ロールに対する線圧は14.7N/cmとした。更に、テンターに導入し、巾方向に160℃で1.3倍延伸した後、巾方向に3%緩和しながら30℃まで冷却し、その後クリップから開放し、クリップ把持部を裁ち落とし、フィルム両端に幅20mm、高さ25μmのナーリング加工を施し、巻き取り張力220N/m、テーパー40%で巻芯に巻き取った。なお、膜厚は40μm、巻長は5000mとし、屈折率1.49の溶融流延フィルム1を作製した。
セルロースエステル樹脂[製造例1] 90質量部
グリセリントリベンゾエート 10質量部
Tinuvin928(BASFチバジャパン(株)製) 1.1質量部
GSY−P101(堺化学工業(株)製) 0.25質量部
Irganox1010(BASFジャパン(株)製) 0.5質量部
SumilizerGS(住友化学(株)製) 0.24質量部
R972V(アエロジル社製) 0.15質量部
[溶融流延フィルム2〜4の作製]
溶融流延フィルム1の作製において、セルロースエステル樹脂[製造例2]〜[製造例4]のセルロースエステル樹脂を用いたこと以外はすべて同様にして、溶融流延フィルム2〜4を作製した。
[溶融流延フィルム5の作製]
下記組成物を用いた以外は溶融流延フィルム1の作製と同様にして、溶融流延法により溶融流延フィルム5を作製した。
アクリル樹脂[A−1] 70質量部
セルロースエステル樹脂[製造例1] 30質量部
Tinuvin928(BASFジャパン(株)製) 1.1質量部
GSY−P101(堺化学工業(株)製) 0.25質量部
Irganox1010(BASFジャパン(株)製) 0.5質量部
SumilizerGS(住友化学(株)製) 0.24質量部
R972V(アエロジル社製) 0.15質量部
[溶融流延フィルム6〜11の作製]
溶融流延フィルム5の作製において、アクリル樹脂[A−1]をアクリル樹脂[A−2]〜[A−7]に替えた以外は同様にして、溶融流延フィルム6〜11を作製した。
[溶融流延フィルム12〜14の作製]
溶融流延フィルム1の作製において、セルロースエステル樹脂[製造例5]〜[製造例7]のセルロースエステル樹脂を用いたこと以外はすべて同様にして、溶融流延フィルム12〜14を作製した。
[溶融流延フィルム15〜17の作製]
溶融流延フィルム5の作製において、セルロースエステル樹脂[製造例5]〜[製造例7]のセルロースエステル樹脂を用いたこと以外はすべて同様にして、溶融流延フィルム15〜17を作製した。
<偏光板の作製>
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gの比率からなる水溶液に60秒間浸漬し、ついでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gの比率からなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し偏光膜を得た。
ついで、下記工程1〜5に従って、偏光膜と溶融流延フィルム1〜17とを貼り合わせて偏光板を作製した。
工程1:溶融流延フィルム1〜17を、それぞれ2mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に50℃で、90秒間浸漬し、ついで水洗、乾燥させた。
工程2:前述の偏光膜を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒間浸漬した。
工程3:工程2で偏光膜に付着した過剰の接着剤を軽く取り除き、偏光膜を工程1でアルカリ処理した溶融流延フィルムで両面に挟み込んで、積層配置した。
工程4:2つの回転するローラにて20〜30N/cm2の圧力で約2m/minの速度で張り合わせた。このとき気泡が入らないように注意して実施した。
工程5:80℃の乾燥機中にて工程4で作製した試料を2分間乾燥処理し、偏光板1〜17を作製した。
《評価》
(ナノサーマルアナライザーによる測定)
作製した溶融流延フィルムを巻きから1m2のフィルム片(i)を任意で決定し、その中から1cm四方の片(ii)を切り出し、(ii)を顕微鏡観察した中で最大凸部の頂点部を含む直線で断面を出し、フィルムキャスト面(A)の表面部をa、(ii)の断面を3等分しA面方向からb、c、dとし、タッチロール面(B)の表面をeとした時、a〜eの5点をナノサーマルアナライザーを用いて測定した該溶融流延フィルム片(ii)のTgの最大温度をX(℃)、該溶融流延フィルムのTgの最小温度をY(℃)とした時、
X−Y≧30(℃)
を満たし、且つ該フィルム片(ii)を(i)から合計100点切り出し同様にX、Yを測定し、X−Y≧30(℃)を満たす該片の数N(個)を求めた。
(耐久試験)
〈従来条件〉
上記作製した偏光板を恒温槽で85℃90%、500時間投入した。
〈強制劣化時〉
サイクルサーモ EC−25EXHH(日立アプライアンス)という装置を用いて、上記偏光板を1サイクル1時間おきに−50℃から90℃まで20℃おきに上昇させる。1サイクルごとに50℃〜90℃の間で湿度を20%、50%、90%と変更する。この3サイクルを500時間になるまで投入し続けた。
(表示パネル実装時のコントラストの測定)
耐久試験により得られた各々の偏光板を、表示パネル実装時のコントラストの測定を表示パネルの視野角の評価を行なうことにより、実施した。ここで、視野角評価は、液晶表示パネルを、ELDIM社製EZ−contrastを用いて視野角を測定した。測定方法は、液晶表示パネルの白表示と、黒表示時のコントラストについて、パネル面に対する法線方向からの傾き角80°に対するコントラストが、全方位において下記値の範囲内でランク付けを行なった。
◎ :コントラストが全方位40以上
○ :コントラストが全方位30以上
△ :コントラストが全方位20以上
△×:コントラストが全方位15以上
× :コントラストが全方位5未満の領域が存在した
(巻き故障評価)
◎:潰れや貼りつきが全くない
○:巻き1本〈5000m〉に対し5ヶ所未満
△:巻き1本(5000m)に対し5カ所以上
溶融流延フィルムの構成、及び評価結果を表2に示した。
上表から、ナノサーマルアナライザーの測定により、X−Y≧30(℃)・・・(1)、N<10・・・(2)を満足する溶融流延フィルム1〜11は、従来条件の劣化に加え、強制劣化条件でもコントラストに優れることがわかる。
更に、本発明に係るセルロースエステル樹脂にアクリル樹脂を併用した溶融流延フィルム5〜11は巻き故障にも優れることがわかった。