JP5488973B2 - 軟化抵抗に優れた高硬度鋼 - Google Patents
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Description
これに対して、本願出願人は特許第3241921号として、転動疲労特性に優れた耐摩耐食軸受鋼を提案した。
N含有量を高めるためには、Crも高めることが有効であり、特許第3241921号では、12.4%以上の範囲の軸受鋼が提案されている。しかしながら、最近では、合金の低コスト化が求められており、必要最小限のCr添加量とする必要がある。
本発明の目的は、Cr含有量を低減しても組成の最適バランスにより、500℃付近までの温度上昇にも高硬度を維持できる軟化抵抗に優れた高硬度鋼を提供することである。
すなわち本発明は、質量%で、C:0.6%を超え〜0.7%、Si:0.25%を超え〜2.0%以下、Mn:0.25%を超え〜1.0%以下、Cr:8.0〜11.0%未満、Mo+1/2W:1.5%を超え〜5.0%、N:0.02%を超えて0.06%以下を含有し、残部はFe及び不純物でなり、且つ、C/Cr:0.056を超え〜0.085、C+N:0.63%を超え0.75%の関係を満たす軟化抵抗に優れた高硬度鋼である。
また本発明では、更に質量%で、S:0.1%以下、Ca:0.1%以下、Mg:0.03%以下の一種以上を含有させ、優れた被削性を付与することができる。
C:0.6%を超え〜0.7%
Cは、基地の硬さを高め、高温焼戻しによってCrやMoとの炭化物を形成して高硬度鋼の耐磨耗性を確保するための重要な元素であるため必須で含有する。
しかし、Cが0.7%を超えると一次炭化物が晶出し易くなり、疲労強度が低下する。
また、Cが0.5%未満であると、上述のCの添加効果が得られない。そのため、Cの範囲は0.6を超え〜0.7%に限定する。上述の効果を確実に得るための好ましいCの下限は0.62%、上限は0.68%である。
Siは、脱酸元素として添加する他、本発明においては高温焼戻しの硬さを高める効果があるので0.25%を超えて2.0%以下の範囲において必須で添加する。Siが0.25%以下の範囲では、前記のSi添加効果が望めず、また、Siを2.0%を超えて添加しても、Siの高温焼戻しの硬さを高める効果の向上は望めず、かえって靭性や熱間加工性を阻害する。そのため、Siは0.25%を超え〜2.0%以下の範囲に規定する。
なお、Siの高温焼戻しの硬さを高める効果を確実に実現できる好ましい下限は0.3%、更に好ましくは0.5%とすれば良く、好ましい上限は1.3%、更に好ましくは1.1%である。
Mnは、添加すると靭性を劣化させることなく鋼の強度を増すことができ、高温焼戻しの硬さも改善される。但し、過度なMnは、加工性、低温靭性を低下させる。Mnが0.25%以下の範囲では、前記のMn添加効果が望めず、また、Mnが1.0%を超えて添加しても、加工硬化し易くなり、加工時に材料の弾性限界点、降伏点、引張り強さ、疲労限界等が増加し、伸び、絞りが減少する。更に1.0%を超える範囲では焼戻し時に脆性が発生するので、Mnの上限を1.0%以下に規定する。鋼の強度を確保して、加工性の低下や焼戻し時の脆化をより確実に抑制できる好ましいMnの下限は0.3%、さらに好ましくは0.6%である。好ましい上限は0.8%である。
Crは、焼入れ性を向上させ、高温焼戻しの硬さを高める効果があるため、8.0%以上を必須で添加する。また、Crは、耐食性を向上させる効果もある一方で、過度のCr添加は加工性、低温靭性に悪影響を及ぼすので、11%未満を上限と規定する。また、Crの増加と共に高温焼戻しの硬さが上昇するとは限らず、適当なCr量において硬さが最高となる。この効果を確実に得るにはCrの下限を9.0%、さらに好ましくは9.5%、上限を10.5%とするのが好ましい。
Mo及びWは、固溶強化および/または炭化物の析出硬化により高温焼戻し後の軟化抵抗を向上させ、耐摩耗性、耐熱疲労性を改善するために単独または複合で添加できる。更に、硬質な炭化物を作り、硬さを向上させる。
WはMoの約2倍の原子量であることからMo+1/2Wで規定する(当然、何れか一方のみの添加としても良いし、双方を共添加することもできる)。Mo、Wが少ないと高温焼戻しの硬さの改善が得られなくなるため、下限を1.5%を超える範囲に規定する。但し、添加量が5.0%を超えても上記の効果の向上はあまり望めない。そのため、Mo+1/2Wの上限を5.0%に規定する。好ましくはMo+1/2Wの下限を1.7%、上限を4.0%、さらに好ましくは2.5%未満とすれば良い。
Nは、添加により固溶強化、析出硬化および/または、炭化物の結晶粒を微細化させ硬さを向上させる他、高温焼戻しの硬さやクリープ特性の改善に有効な成分であるが、過度な添加は加工性、低温靭性を低下させるので、上限を0.06%に規定する。一方、Nが過度に少なくなると、固溶強化、析出硬化および/または、結晶粒を微細化させ硬さを向上させる効果が出ないため、Nの下限は、0.02%を超えた範囲に規定する。高温焼戻しの硬さを確保するために、好ましくはNの下限を0.04%、上限を0.05%未満とすれば良い。
C/Cr:0.056を超え〜0.085
C含有量に対し、Cr含有量が多くなって、C/Crが0.056以下となるとHRC58以上の高硬度とし難くなる。一方、Cr含有量に対して、C含有量が多くなってC/Crが0.085を超えると、一次炭化物が晶出し易くなったり、炭化物が粗大になり易くなって疲労強度を低下させる心配がある。そのため、CとCrのバランスを、C/Crで0.056を超えて0.085の範囲に限定する。
C+N:0.63%を超え0.75%
CとNの含有量の総和が0.63%未満であると、HRC58以上の高硬度とし難くなる。一方、CとNの含有量の総和が0.75%を超えると、粗大な炭化物が形成し易くなり、疲労強度を低下させたり、残留オーステナイトが増加し易くなって、経年変化の心配がある。そのため、CとNの総和は0.63%を超え0.75%の範囲に限定する。
必須で添加するMn等との硫化物を形成し、被削性を改善するSは、0.1%以下の範囲で含有しても良く、特にSは、微量添加すると、Mn等との硫化物を形成し、被削性を改善するため、必要に応じて添加できる。一方でSを多量に添加すると、熱間加工性、耐溶接高温割れ性、耐食性に悪影響を及ぼすため、0.1%以下と規定する。被削性の改善に好ましくは、Sの下限を0.03%、上限を0.08%とすれば良い。
また、Sと同様に、被削性を改善するCa及びMgについても、Ca:0.1%以下、Mg:0.03%以下の範囲で添加することができる。
S,Ca,Mgについては、複合添加も可能である。
本発明では、上述した元素の他は、Fe及び製造上不可避的に混入する元素は当然含有する。
本発明と比較例の10kg鋼塊を真空溶解で作製し、高硬度鋼を得た。作製した高硬度鋼の化学組成を表1に示す。
表中のNo.1〜11は本発明の高硬度鋼、No.21〜27は比較鋼であり、比較鋼のうち、No.23は代表的な一般軸受鋼のSUJ2相当鋼、No.24は高温軸受に用いられるM50相当鋼、No.25は耐食用軸受に用いられるSUS440C相当鋼、No.26は代表的高硬度・高耐磨耗材料のSKD11相当鋼、No.27は代表的高速度工具鋼のSKH51相当鋼である。
また、併せて、本発明の高硬度鋼(No.12)の量産規模の溶解を行った。溶解は、3ton溶解(大気溶解)で作製した。
その後、780℃で3時間の焼鈍を行った。更に、焼鈍した高硬度鋼から15mm(T)×15mm(W)×15mm(L)の硬度測定用試験片を作製した。
この試験片を大気炉内で表2に示した焼入れ条件で加熱保持し、油冷または空冷にて焼入れを行った。一部の本発明鋼と比較鋼は、−80℃のエタノール中に1時間冷却保持するサブゼロ処理を焼入れと同時に行った。焼入れまたはサブゼロ処理後に試験片の両面を平行研磨し、500℃付近で焼戻しを行なった。焼戻し条件は表2に示し、焼戻し後に常温環境下でロックウェル硬さCスケールにて硬さを測定した。その結果を表2に示す。
その後、780℃で3時間の焼鈍を行った。更に、焼鈍した高硬度鋼からφ14mm×15mm(L)の硬度測定用試験片を作製した。
この試験片を大気炉内で表2に示した焼入れ条件で加熱保持し、空冷にて焼入れを行った。一部は、−80℃のエタノール中に1時間冷却保持するサブゼロ処理を焼入れと同時に行った。焼入れまたはサブゼロ処理後に試験片の両面を平行研磨し、高温の軟化抵抗を評価するため、500℃付近で高温焼戻しを行なった。焼戻し条件は表2に示し、焼戻し後に常温環境下でロックウェル硬さCスケールにて硬さを測定した。その結果を表2に併せて示す。
一方、比較鋼No.21及びNo.22は58HRC以上の硬さを得ることができず、SUJ2相当鋼のNo.23では、500℃の焼戻しにより58HRCを大きく下回っていることが分かる。なお、SUJ2相当鋼のNo.23においては、180℃の焼戻しにより、63HRCが得られたが、500℃の高温焼戻しでは47HRC以下に硬さが低下していることから、SUJ2相当鋼は高温での適用には不向きであることが分かる。
以上のことから、本発明の高硬度鋼は、高い軟化抵抗を有することが分かる。
被削性試験は、焼鈍ままの素材から15mm(T)×15mm(W)×22mm(L)の寸法の試験片を切り出し、切り出した被削性試験片にドリルで孔開け加工を行って、ドリルの磨耗量にて評価を実施した。評価は、ドリルの最外周部をAと表記し、4/D部をBと表記して、試験結果を表3に示す。なお、試験条件は以下のとおりである。
ドリル径:φ4.0mmストレートシャンクドリル
切削深さ:20mm
切削速度:30m/min
送り速度:0.05mm/rev
ステップフィード:10mm
切削液:水溶性
耐食性の調査は、本発明の高硬度鋼No.1と比較鋼No.25(SUS440C相当鋼)、No.26(SKD11相当鋼)、No.27(SKD51相当鋼)について行なった。試験片はそれぞれ、No.1が1050℃×30分、空冷の焼入れと、520℃×1時間の焼戻しを2回行い、No.25が1050℃×30分、空冷の焼入れと−80℃のサブゼロ処理、180℃×1時間の焼戻しを行い、No.26が1025℃×30分、空冷の焼入れと、520℃×1時間の焼戻しを行い、No.27が1200℃×30分、空冷の焼入れと、560℃×1時間の焼戻しを2回行った。その後、1cmの立方体に加工したものを用いた。
試験は、JIS Z 2371号に規定された塩水噴霧試験により耐食性の比較を行った。試験条件は、試験温度35℃、試験湿度95%〜98%、5%塩水を使用し、噴霧圧力1kgf/cm2、塩水噴霧量1ml/hrで10時間試験を継続した。試験後の結果を図1に示す。図1の結果から、本発明の高硬度鋼は、耐食性軸受に用いられるSUS440C相当鋼(No.25)に近い耐食性を有することが分かる。
また、本発明No.12の焼鈍材から、φ14mm×10mm(L)の金属組織観察用試験片を切り出して焼入れと焼戻しを行なった。熱処理条件は、表2中に示した、1050℃×30分、空冷の焼入れを行い、さらに−80℃のサブゼロ処理の後、500℃×1時間の焼戻しの処理を行った。
焼戻し後の金属組織観察用試験片を適当な大きさに切り出し、フェノール樹脂に埋込んで素材表面を鏡面に仕上げ、金属組織観察面をピクリン酸にて腐食を行い、光学顕微鏡にて組織観察を行なった。図2に本発明のNo.12のミクロ写真を示す。
図2より、粗大な1次炭化物が観察されず、高い疲労強度が期待できる金属組織となっていることを確認したため、回転曲げ疲労試験を行い、疲労強度を測定した。
疲労強度測定は、上記と同様、比較鋼No.25(SUS440C相当鋼)、No.26(SKD11相当鋼)、No.27(SKD51相当鋼)についても行なった。図3に疲労強度を示す。なお、図中に示した矢印は破断しなかったことを示す。
図2及び図3から、本発明の高硬度鋼は、1次炭化物が少ない均一な金属組織を有し、高い疲労強度を有するものであることを確認した。
高温高度の測定は、本発明の高硬度鋼No.12と耐熱軸受に用いられる比較鋼No.24(M50相当鋼)について行なった。
焼鈍後の本発明のNo.12をφ10mm×5mm(L)の高温硬度測定用試験片に加工し、1050℃×30分、空冷の焼入れを行い、さらに−80℃のサブゼロ処理を行った。その後、500℃×1時間の焼戻しを行った。
また、焼鈍後の比較鋼M50のNo.24をφ10mm×5mm(L)の高温硬度測定用試験片に加工し、1115℃×15分、空冷の焼入れを行い、その後、545℃×2時間の焼戻しを3回行った。これら試験片の表面を鏡面に仕上げ、Ar雰囲気内で表4に示した温度で保持し、保持温度でビッカース硬さ測定した。その結果を表4に示す。
比較鋼M50のNo.24は代表的な耐熱軸受鋼であり、本発明の高硬度鋼No.12は、比較鋼No.24に匹敵する高温硬度を有していることが分かる。
このことから、高い硬度、高い耐食性、高い疲労強度、高い高温硬度、優れた軟化抵抗が必要とされる用途に最適である。特に軸受鋼として好適である。
Claims (2)
- 質量%で、C:0.6%を超え〜0.7%、Si:0.25%を超え〜2.0%以下、Mn:0.25%を超え〜1.0%以下、Cr:8.0〜11.0%未満、Mo+1/2W:1.5%を超え〜5.0%、N:0.02%を超えて0.06%以下を含有し、残部はFe及び不純物でなり、且つ、C/Cr:0.056を超え〜0.085、C+N:0.63%を超え0.75%の関係を満たすことを特徴とする軟化抵抗に優れた高硬度鋼。
- 更に質量%で、S:0.1%以下、Ca:0.1%以下、Mg:0.03%以下の一種以上を含有する請求項1に記載の軟化抵抗に優れた高硬度鋼。
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