JP7205112B2 - 浸炭窒化用鋼 - Google Patents
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F1>-1.95・・式(1)、F2<10.0・・式(2)
但しF1=-1.71[C]+0.52[Si]-0.59[Mn]-0.50[Cu]-0.23[Ni]-0.18[Cr]-1.71[Mo]
F2=236.61[Si]2-31.04[Si]+33.92[Cr]2-18.48[Cr]+23.92[Si][Mn]
(F1,F2の式中[ ]は、[ ]内元素の含有質量%を表す)
「請求項1の化学成分について」
C:0.10~0.30%
Cは、芯部硬さを確保するために有効な元素である。必要な硬さを得るには0.10%以上の添加を必要とする。但し、過剰な添加は冷間鍛造性、芯部の靭性、加工性を悪化させる。C増加により膨張量が増え、歪が増加するからである。このため、Cの上限を0.30%とする。好適なCの範囲は、0.15~0.25%である。
Siは、鋼の脱酸に有効な元素である。また焼入性を高める効果もある。但し、過剰に添加すると窒化処理時に窒化物が増加して、焼入れ性の低下や疲労強度の低下を招くおそれがある。このため、その上限を0.30%とする。好適なSiの範囲は、0.01~0.17%である。
Mnは、芯部硬さを確保するために有効な元素である。その効果を得るためには0.40%以上の添加を必要とする。但し、過剰な添加は被削性や加工性を悪化させる。このため、その上限を1.60%とする。好適なMnの範囲は、0.65~1.50%である。
PおよびSは、不純物である。これらは脆化を招くなど、部品の機械的性質にとって好ましくない元素であるため、その量は少ないほうが好ましい。そのため上限を0.03%とした。なお、その含有量を0%とすることは工業的に困難である。0.03%未満であれば特性にそれ程の影響がなく、0.03%未満の含有を許容する。
Crは、焼入れ性向上に寄与する元素であるが、過剰に添加すると窒化処理時に窒化物が増加して、焼入れ性の低下や疲労強度の低下を招くおそれがある。このため、その上限を0.70%とする。好適なCrの範囲は、0.01~0.50%である。
Moは、焼入れ性向上に寄与する元素である。その効果を得るため0.01%以上の添加を必要とする。但し、過剰に添加すると硬度が高くなり製造性が悪化し、またコストも高くなるため、その上限を0.60%とする。好適なMoの範囲は、0.01~0.55%である。
Alは、溶製時の脱酸剤として使用される元素である。また、AlNを形成して結晶粒を微細化する効果がある。この効果を得るため0.0010%以上含有させる。但し、過剰に添加するとAl2O3系介在物が生成し強度が低下するため、その上限を0.0800%とする。好適なAlの範囲は、0.0050~0.0500%である。
Nは、Alと結合してAlNを形成し、結晶粒を微細化する効果を有している。この効果を得るため0.0010%以上含有させる。但し、過剰に添加すると鋳造時のブロー発生を招くため、その上限を0.0150%とする。好適なNの範囲は、0.0020~0.0130%である。
Bは、炭ホウ化物を生成するため浸炭層の焼入れ性向上には寄与しないが、芯部の焼入れ性を高める効果を有している。この効果を得るため0.0005%以上含有させる。但し、過剰に添加するとBNを形成し、芯部での焼入れ性向上の効果が低下するため、その上限を0.0030%とする。好適なBの範囲は、0.0006~0.0025%である。
Bを添加して、その効果を発揮するためには、鋼材中で固溶Bとして存在する必要がある。しかし、BはNと親和力が強くBNを形成してしまう。そこで、TiでNを固定して、固溶Bを確保する。但し、Tiを少量添加してもNが残ってしまうため、0.010%以上含有させる。一方、過剰に添加すると大型のTiNを生成して疲労破壊の起点となる可能性があるため、その上限を0.0800%とする。好適なTiの範囲は、0.012~0.0600%である。
但しF2=236.61[Si]2-31.04[Si]+33.92[Cr]2-18.48[Cr]+23.92[Si][Mn]
窒化物が生成すると焼入れ性を担保するために添加していた元素が母相から奪われるため、不完全焼入れ組織(例えばパーライト)が形成されたり、またNの固溶による焼入れ性の向上効果が十分に得られなくなり、浸炭窒化部品の疲労強度が低下するものと推定される。このため窒化物の生成は少ない方がよい。
但しF1=-1.71[C]+0.52[Si]-0.59[Mn]-0.50[Cu]-0.23[Ni]-0.18[Cr]-1.71[Mo]
一般的に、鋼材の焼入れ性を確保するために合金元素を添加すると、材料の硬さが高くなり製造性は悪化する。このため、添加する元素の量は少ない方がよい。
鋼中の元素のうちC,Mn,Cu,Ni,Cr,Moは製造性を悪化させ、Siは製造性を高める効果があり、製造性を示す指数は上記F1で表すことができる。指数F1において、C,Mn,Cu,Ni,Cr,MoおよびSiの係数は、それぞれ製造性向上に対する寄与度を表している。なお、Cu及び/又はNi無添加の場合には、該当する元素の含有質量%をゼロとして指数F1を算出する。
Cu:0.30%以下
Cuは、焼入れ性を高めるのに有効な元素である。但し、過剰な添加は熱間鍛造性の低下を招くほか、コストアップの要因にもなることから、その上限を0.30%とする。好適なCuの範囲は、0.01~0.25%である。
Niは、焼入れ性を高めるのに有効な元素である。但し、過剰な添加は加工性の低下を招くため、その上限を0.50%とする。好適なNiの範囲は、0.40%以下である。
Vは、炭化物を形成して耐摩耗性を向上させる働きがある。但し、過剰な添加は被削性の低下を招くため、その上限を0.50%とする。好適なVの範囲は、0.25%以下である。
Nbは、炭化物を形成し、結晶粒を微細化する効果を有している。この効果を得るため0.0010%以上含有させることが望ましい。但し、過度に添加しても効果は飽和するため、その上限を0.0800%とする。好適なNbの範囲は、0.0015~0.0600%である。
比較例は、使用する鋼材の組成が本発明の範囲を外れている。なお、比較例9ではSCR420材、比較例10,19ではSCM420材を用いている。また、比較例19,20,21では浸炭窒化処理に代えて浸炭処理を行っている。
下記表1に示す化学成分の鋼塊150kgを高周波誘導炉にて溶製し、得られた鋼塊をΦ105mmの丸棒に圧延あるいは熱間鍛造し、さらに必要に応じてΦ22~30mmの棒鋼に熱間鍛造し、920℃で1時間の焼ならし後、試験用の素材とした。
浸炭窒化処理では、通常CP=0.5~1.0に制御し、浸窒ガスとしてアンモニアを使用し、浸窒流量、拡散時間、浸窒温度を調整することで表面N濃度を制御する。その後焼入れを行い、次に100℃~300℃に加熱し、1~3時間保持し焼戻しを実施する。
この度の実施例では、図2に示すように930℃で浸炭処理し、その後850℃で浸炭窒化処理を実施し、120℃のセミホット油で焼入れを行なった。その後に180℃×120minの焼戻しを実施した。
3.浸炭処理
なお、浸炭窒化処理に代えて浸炭処理を行う場合は、図3に示すように930℃で120分処理した。CPは0.7固定であり、油温120℃のセミホット油で焼入れした。その後に180℃×120minの焼戻しを実施した。
(ミクロ組織観察)
Φ25×10tの試験片を用いてミクロ組織観察を行った。試験片を半円状に二等分に割り、切断面を披検面となるように樹脂埋めし、鏡面研磨した。研磨された面をナイタールで腐食し、倍率100~400倍で光学顕微鏡を用い組織観察をした。またFE―EPMAを用い、倍率2000倍で表層の窒化物の析出状態を確認した。
浸窒処理後、Φ25×200Lの試験片の表層から0.05mmの位置までのダライ粉を臭素メタノールにより溶解し、母材を溶かし、窒化物のみ抽出して分析し、析出N量(単位はwt%)を算出した。
浸窒処理後、表層から0.05mmの位置までのダライ粉からガス分析により全窒素濃度(単位はwt%)を求めた。
上記で求めた析出N量を全窒素濃度で割り窒化物生成割合(%)を求めた。
浸炭窒化処理後もしくは浸炭処理後の試験片について、ビッカース硬さ試験機を用い、JIS Z2244に規定された試験方法により、表面下0.05mmの位置の硬さの5点平均を表層硬さとして測定した。この時の試験荷重は300gとした。
Φ22の焼ならし材より、Φ15×210LでR=0.5の切欠を有する試験片10(図1参照)を作製し、浸炭窒化処理(図2参照)もしくは浸炭処理(図3参照)後、JIS Z 2274に準拠した方法で小野式回転曲げ疲労試験を実施し、SN曲線をとり、107回となる強度を疲労強度とした。なお試験条件は、回転数3500rpm,試験温度は室温の条件である。繰返し数107回で破断しない最大応力を疲労限度とした。
なお各試験片の疲労強度は、SCM420材をガス浸炭処理した比較例19の強度を1.0とした場合の対比で評価した。
被削性を評価するため、Φ30mmの焼ならし材に対し外周切削試験を実施し、工具摩耗量を測定した。超硬工具(P20)を用い、切削速度200m/min、切り込み量1mm、送り量0.2mm/min、潤滑方式:乾式(無潤滑)で20分間切削し、工具摩耗量を測定した。なお、各試験片に対する工具摩耗量は、SCM420材(比較例19)を1.0とした場合の対比で評価した。
例えば、比較例10は、SCM420材からなる試験片を浸炭窒化した例である。比較例10は、同じSCM420材をガス浸炭した比較例19に比べて疲労強度が明らかに低下しており、これは浸炭窒化時に窒化物生成割合が35.0%と高かったことによるものであると推定される。このように従来の鋼材を用いた場合、浸炭窒化にて疲労強度が低下してしまうことが分かる。
図6は、製造性を示す指数F1と工具摩耗量の関係を示した図である。
同図によれば、F1が-1.95以下となるほど合金元素を添加した場合に、工具摩耗量が著しく高くなり被削性が悪化することが分かる。一方で、F1>-1.95を満足するように各合金元素の含有量を制御することで、SCM420材(比較例19)と略同等の被削性を確保することができており、各合金元素を式(1)の条件(F1>-1.95)を満足するように含有させたことによる効果が得られている。
Claims (2)
- 質量%で
C:0.16~0.24%
Si:0.30%以下
Mn:0.65~1.60%
P:0.03%未満
S:0.03%未満
Cr:0.70%以下
Mo:0.01~0.60%
Al:0.0010~0.0800%
N:0.0010~0.0150%
Ti:0.010~0.0800%
B:0.0005~0.0030%
残部がFe及び不可避的不純物であり、且つ下記式(1),式(2)を満たすことを特徴とする浸炭窒化用鋼。
F1>-1.95・・式(1)
F2<10.0・・式(2)
但しF1=-1.71[C]+0.52[Si]-0.59[Mn]-0.50[Cu]-0.23[Ni]-0.18[Cr]-1.71[Mo]
F2=236.61[Si]2-31.04[Si]+33.92[Cr]2-18.48[Cr]+23.92[Si][Mn]
(F1,F2の式中[ ]は、[ ]内元素の含有質量%を表す) - 請求項1において、質量%で
Cu:0.30%以下
Ni:0.50%以下
V:0.50%以下
Nb:0.0010~0.0800%
の何れか1種若しくは2種以上を更に含有することを特徴とする浸炭窒化用鋼。
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