JP5473718B2 - 曲げ圧壊性と耐食性に優れたアルミニウム合金押出材 - Google Patents
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このように自動車の衝突条件が厳しくなった場合に対しては、6000系アルミニウム合金押出材の曲げ圧壊性をより高めることが必要である。しかし、前記した比較的強度が高い繊維状組織であっても、これに対応できる曲げ圧壊性向上には、大きな限界がある。これは、繊維状組織だけではなく、前記特許文献2のような等軸粒組織であっても、全く同様である。
(繊維状組織と表層部再結晶組織)
本発明で、Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出材の組織を主として繊維状組織とし、表層部に生成する再結晶組織の層の厚さを片側500μm以下に限定するのは、高い0.2%耐力と優れた曲げ圧壊性を得るためである。本発明において主として繊維状組織とは、板厚の50%以上が繊維状組織であることを意味する。
(0.2%耐力)
本発明で、Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出材の0.2%耐力を270〜330MPaの範囲に限定するのは、7000系アルミニウム合金押出材と同等の0.2%耐力と優れた曲げ圧壊性を同時に実現するためである。また、本発明の組成で、時効処理後の0.2%耐力が270MPa未満又は330MPa超の場合、曲げ圧壊性が低下する。
本発明が対象とする6000系アルミニウム合金の化学成分組成について説明する。本発明が対象とする6000系アルミニウム合金は、前記した自動車車体補強材用の押出材として、優れた曲げ圧壊性や耐食性などの諸特性が要求される。
Si:
Mgとの前記量的関係を満足することを前提として、Si含有量は0.30〜0.95%の範囲とする。SiとMgのバランス合金とするための、Siの好ましい含有量範囲は0.30〜0.50%である。SiはMgとともに、固溶強化と、低温での人工時効処理時に、強度向上に寄与する時効析出物を結晶粒内に形成して、時効硬化能を発揮し、補強材として必要な270MPa以上の必要強度(耐力)を得るための必須の元素である。Si含有量が少なすぎると、人工時効処理時に前記化合物相を形成できず、前記時効硬化能や必要強度を満たすことができない。一方、Si含有量が多すぎると、前記したバランス合金とすることができない。また、曲げ加工性なども低下し、更に、溶接性も阻害される。
Siとの前記量的関係を満足することを前提として、Mg含有量は0.60〜1.20%の範囲とする。前記したバランス合金とするための、Mgの好ましい含有量範囲は0.60〜1.0%である。Mgは、固溶強化と、前記人工時効処理時に、Siとともに強度向上に寄与する時効析出物を結晶粒内に形成して、時効硬化能を発揮し、補強材として必要な270MPa以上の必要強度(耐力)を得るための必須の元素である。Mg含有量が少なすぎると、人工時効処理時に前記化合物相を形成できず、前記時効硬化能や必要強度を満たすことができない。時効硬化能を発揮できない。一方、Mg含有量が多すぎると、前記したバランス合金とすることができない。また、曲げ加工性も低下する。
本発明では、MgとSiとの含有量が、Mg(%)≦1.73×Si(%)+0.2、かつMg(%)≧1.73×Si(%)−0.2の関係を満たすようにする。この関係規定は、本発明合金を、6000系アルミニウム合金の中でも、MgとSiとの含有量が互いに化学量論的にほぼ当量であるようなバランス合金とするためのものである。望ましくはMg(%)≦1.73×Si(%)+0.1、かつMg(%)≧1.73×Si(%)−0.1の関係を満たすようにする。
Mgの含有量が多すぎる過剰Mg型6000系アルミニウム合金押出材では、曲げ圧壊性が低下する。また、押出性が低下し、焼入れ感受性も高くなり、押出の生産性が低下するというデメリットもある。
Siの含有量が多すぎる過剰Si型6000系アルミニウム合金押出材では、Siに起因する粒界析出物が粗大化する。したがって、Siの含有量が上記関係を超えて多くなると、補強材としての押出材の、曲げ圧壊性や耐食性を向上させることができなくなる。
Feは、Mn、Zrなどと同じ働きをして、分散粒子 (分散相) を生成し、再結晶後の粒界移動を妨げ、結晶粒の粗大化を防止するとともに、結晶粒を微細化させる効果がある。また、Feは溶解原料としてのスクラップなどから一定量(実質量)が必然的に混入しやすい元素である。このため、Feの含有量は0.01〜0.40%の範囲とする。Feの含有量が少な過ぎると、これらの効果が無い。一方、Feの含有量が多過ぎると、Al-Fe-Si晶出物などの粗大な晶出物を生成しやすくなり、これらの晶出物は破壊靱性および疲労特性などを劣化させる。より望ましい範囲は0.1〜0.3%である。
押出材の組織を押出方向に伸長した繊維状組織とするために、Mnの含有量は0.20〜0.45%の範囲とする。Mnは、Zrと同じく遷移元素であり、結晶粒の粗大化を防止するために必要である。Mnは、均質化熱処理時およびその後の熱間押出加工時に、他の合金元素と選択的に結合したAl−Mn系などの金属間化合物からなる分散粒子 (分散相) を生成する。これらの分散粒子は、製造条件にもよるが、微細で高密度、均一に分散して、再結晶後の粒界移動を妨げる効果(ピン止め効果)があるため、結晶粒の粗大化を防止するとともに、結晶粒を微細化させる効果も高く、押出材の組織を繊維状組織化させる作用がある。Mnはマトリックスへの固溶による強度の増大も見込める。
Mnの含有量が少なすぎると、この効果が期待できず、表層部の再結晶層が厚く生成され、押出材の強度や靱性が低下する可能性がある。一方、Mnを過剰に含有すると強度が高くなりすぎ、補強材としての前記曲げ圧壊性や、押出材の曲げ加工性などを却って低下させる原因となる。
Cuは固溶強化にて強度の向上に寄与する他、時効処理に際して、最終製品の時効硬化を著しく促進する効果も有する。したがって、0.001〜0.65%を含有させる。Cuの含有量が少な過ぎると、これらの効果が無い。一方、Cuの含有量が多過ぎると、押出材組織の応力腐食割れや粒界腐食の感受性を著しく高め、耐食性や耐久性を低下させる。したがって、Cuの含有量は前記範囲とする。より望ましい範囲は0.2〜0.5%である。
Tiは、鋳塊の結晶粒を微細化し、押出材組織を微細な結晶粒とする効果がある。したがって、Tiは0.001〜0.10%の範囲で含有させる。また、Tiを含有させる際に混入しやすいBを含有する場合には、B:1〜300ppmの範囲とする。Tiの含有量が少な過ぎるとこの効果が発揮されない。しかし、Tiの含有量が多過ぎると、粗大な晶析出物を形成し、補強材としての前記曲げ圧壊性や耐食性などの要求特性や、押出材の曲げ加工性などを低下させる原因となる。したがってTiの含有量は前記範囲とする。
Zrは、Mnと同じく、Al-Zr系などの金属間化合物からなる分散粒子 (分散相) を生成して、結晶粒の粗大化を防止するために有効(ピン止め効果)である。また、Zrを添加すると、Mnと同じく、押出材の組織が押出方向に伸長した繊維状組織となりやすくなる。したがって、Zrは0.10〜0.20%の範囲で含有させる。
Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出材が軽量化と補強材としての曲げ圧壊性とを兼備するためには、断面形状が略矩形中空形状であることが好ましく、その代表的な(基本的な)形状は、断面形状が略口形の矩形中空断面であり、口形を構成する両フランジ(前壁、後壁)と両ウエブ(両フランジをつなぐ上下側壁)とからなる。この口形中空断面の基本形に対して、曲げ圧壊性を高めるに、更に中リブを設けて補強した、断面形状が日形(上下側壁と平行な1本の中リブを断面内の中央部に設ける)、あるいは目形(上下側壁と平行な2本の中リブを断面内に間隔を開けて設ける)、田形(十字の中リブを断面内に設ける)等の矩形中空断面としても良い。
押出材の肉厚は、上記した断面形状との関係で、自動車車体の補強材としての曲げ圧壊性を高めることができる肉厚が適宜選択される。ただ、本発明が対象とするのは、車体の衝突に対するエネルギーを吸収する補強材であり、補強材としての曲げ圧壊性を高めるためにも、前記した圧延薄板からなる車体パネルのように薄くはなく、厚みを厚くする必要がある。曲げ圧壊性を高めるためには、肉厚が厚い方が良いが、あまり厚くしても、重量が増加して、軽量化が図れない。この点、肉厚は2〜7mmの範囲から選択することが好ましい。この肉厚で板厚の50%以上が繊維状組織、再結晶組織の層の厚さが片側500μm以下であれば、高い0.2%耐力と優れた曲げ圧壊性が得られる。また、前記した各断面形状において、両フランジ、両ウエブ、中リブなどの肉厚を、全て同じとする必要はなく、フランジなど衝突する(荷重を受ける)側の壁を厚くし、その他を薄くするなどの工夫ができる。
次ぎに、本発明に係る6000系アルミニウム合金押出材の製造方法について以下に説明する。本発明押出材は、熱間押出後に、焼入れ処理、及び人工時効硬化処理などの適宜の調質が施された押出材を言う。
溶解、鋳造工程では、上記6000系成分組成範囲内に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯を、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。
次いで、前記鋳造されたアルミニウム合金鋳塊(ビレット)に均質化熱処理を施す。均質化熱処理の温度は500〜570℃の温度範囲から選択される。この均質化熱処理(均熱処理)は、組織の均質化、すなわち、鋳塊組織中の結晶粒内の偏析をなくし、合金元素や粗大な化合物を十分に固溶させることを目的とする。本合金を500〜570℃で均質化熱処理することにより、添加したMn,Zrの析出が良好な状態で得られ、押出加工時の再結晶を抑制し、押出材の組織が押出方向に伸長した繊維状組織となりやすくなり、高い曲げ圧壊性が得られる。均質化熱処理の温度が500℃より低温であれば、Mn,Zrの析出が不十分であり、上記のような効果が得られない。また、結晶粒内の偏析を十分に無くすことができず、これが破壊の起点として作用するために、曲げ圧壊性や機械的な性質、曲げ加工性などが低下する。一方、570℃より高温であればMn,Zrの析出物は粗大となり、上記のような効果がなくなる。
次に、押出出口側の押出材温度が500℃以上の溶体化温度域になるように、前記鋳造ビレットを再加熱し、5〜10m/分の押出速度で熱間押出を行い、この押出出口側の押出材を押出加工直後から100℃/秒以上の平均冷却速度で強制冷却し、T5の調質処理材とするか、あるいは、その後の人工の時効処理と併せてT6(時効)あるいはT7(過時効)の調質処理材とする。このT5の調質処理においては、押出出口側の押出材の温度を500℃以上の溶体化温度域の温度として、オンライン(押出加工)にて溶体化処理され、引き続き、押出直後から16秒以内に押出材を室温近傍の温度まで、オンライン(押出機出口側)にて強制冷却する焼入れ処理を行う。
なお、押出出口側の押出材の温度は、ダイス出口直後(出口からの距離0mm)における材料表面温度である。ダイス出口直後で測定することが困難な場合、ダイス出口からある距離(押出プレスによって温度測定ができる位置が異なる)において材料表面温度を接触式温度計で測定し、予め測定したおいた押出材の冷却曲線を用い、ダイス出口直後の温度を逆算して求めることができる。
この強制冷却は、押出材がダイス出口直後(出口からの距離0mm)の位置から、16秒以内に開始される。先に押出材断面形状及び押出材の肉厚に関して具体的に説明した略矩形中空断面で、肉厚が2〜7mmの中空押出材であれば、強制冷却開始までの自然冷却を考慮しても、押出後16秒以内に強制冷却を開始することにより、Mg2Si析出粒子の粗大化、及び耐力及び曲げ圧壊性の低下を防止することができる。
このT5調質処理によって、押出工程後に、押出材を別途再加熱して溶体化および焼入れ処理を行う工程が省略できる。ただ、諸事情や都合により、このT5調質処理ではなく、熱間押出工程後に、押出材を別途500℃以上の溶体化温度域に再加熱して溶体化処理および焼入れ処理を行い、その後に人工時効処理を行うT6の調質処理材としても良い。
押出材は、所定の長さに切断あるいは矯正処理後に、人工時効硬化処理が施される。この人工時効硬化処理は、好ましくは150〜250℃の温度範囲に必要時間保持する。この保持時間によって、押出材の時効硬化は調節され、強度を最大にするピーク時効とする時間や、これより長時間として耐食性を向上させる過時効とする時間から適宜選択される。
この均質化熱処理後のビレットを再加熱して、直ちに表2に示す押出速度(m/分)と押出出口温度(℃)にて熱間押出した。そして、ダイス出口直後(出口からの距離0mm)の位置から所定時間経過後の位置において、オンラインで強制冷却を開始し、室温近傍温度まで冷却して、断面日型の押出材とした。水冷手段は表2に示すように水スプレイであり、その平均冷却速度は500℃/秒程度である。この押出材に対し表2に示す条件で人工時効硬化処理を施した。
前記調質処理後15日間の室温放置後の供試材について、SEM(走査型電子顕微鏡)−EBSP(後方散乱電子回折像)を用いて、各供試材の結晶粒の平均アスペクト比を測定した。結晶粒の平均アスペクト比が5以下を再結晶組織、平均アスペクト比が5を超えるものを繊維状組織とし、表層部の再結晶組織の厚さ(両面の再結晶組織のうち厚い側)を求めた。表層部の再結晶組織以外は全て繊維状組織であった。図1に試験No.5の押出方向に平行な断面の光学顕微鏡写真を示す。
前記調質処理後30日間の室温放置後の供試材の特性として、0.2%耐力(As耐力: MPa)、伸び(%)を各々測定した。また、曲げ圧壊性および耐食性を測定、評価した。これらの結果も表3に示す。
引張試験は、前記供試材からJISZ2201の5号試験片(25mm幅×50mm長さ×押出材厚み)を採取し、室温引張りを行った。このときの試験片の採取、引張方向を押出方向とした。引張り速度は、0.2%耐力までは5mm/分、耐力以降は20mm/分とした。測定N数は5として、各機械的性質は、これらの平均値とした。
前記供試材(板状試験片)を、JIS Z2248に規定された押し曲げ法により、曲げ線が押出方向となるように(押出方向と直角方向に)180°曲げ試験し、曲げコーナーの外側(引張側部位)に割れが発生しない限界曲げR(mm)を求めた。この限界曲げRが3.0mm以下であれば、曲げ圧壊性に優れ、自動車用の補強材として使用可能である。
前記供試材を、ISO/DIS11846B法に規定された浸漬法により腐食試験を行った。試験条件は、押出材を、NaClを30g/lの濃度およびHClを10ml/lの濃度で各々溶解させた水溶液に、室温で24時間浸漬した後の、押出材の断面観察を行って腐食形態を調査し、粒界腐食割れ発生の有無を判定した。そして、粒界腐食割れが発生している場合を×、粒界腐食割れではないが、粒界腐食が発生している場合を△、粒界腐食割れや粒界腐食が発生していない場合(表面的な全面腐食が発生している場合を含む)を○として評価した。
試験No.8〜10は、表2の製造条件が本発明範囲内を外れている。試験No.8は、押出後の強制冷却開始までの時間が長すぎるため、析出物が粗大化して耐力が低く、また粗大な析出物が粒界にも密に析出し、曲げ圧壊性も劣る。試験No.9は、均熱処理温度が高すぎるため、Mn,Zrの析出物が粗大化して再結晶層の厚さが厚くなり、耐力が低く、曲げ圧壊性も劣る。試験No.10は、均熱処理温度が低すぎるため、Mn,Zrの析出不十分により再結晶層の厚さが厚くなり、耐力が低く、曲げ圧壊性も劣る。
Claims (2)
- 肉厚が2〜7mmで略矩形中空断面を有し、押出方向と直角方向に荷重を受けて圧壊するエネルギー吸収部材に用いられるAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出材であって、質量%で、Mg:0.60〜1.20%、Si:0.30〜0.95%、Fe:0.01〜0.40%、Mn:0.20〜0.45%、Cu:0.001〜0.65%、Ti:0.001〜0.10%、Zr:0.10〜0.20%を各々含み、MgとSiの含有量が、Mg(%)≦1.73×Si(%)+0.2、かつMg(%)≧1.73×Si(%)−0.2の関係を満たし、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、0.2%耐力が270〜330MPaであり、この押出材の厚み方向断面における組織が主として繊維状組織であり、表層部の再結晶組織の厚さが片側500μm以下であることを特徴とする曲げ圧壊性に優れたアルミニウム合金押出材。
- 質量%で、Mg:0.60〜1.20%、Si:0.30〜0.95%、Fe:0.01〜0.40%、Mn:0.20〜0.45%、Cu:0.001〜0.65%、Ti:0.001〜0.10%、Zr:0.10〜0.20%を各々含み、MgとSiの含有量が、Mg(%)≦1.73×Si(%)+0.2、かつMg(%)≧1.73×Si(%)−0.2の関係を満たし、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg−Si系アルミニウム合金ビレットを、500〜570℃の温度で均質化熱処理後に、100℃/hr以上の平均冷却速度で400℃以下の温度まで強制冷却し、更に、押出出口側の押出材温度が500℃以上の溶体化温度域になるように、前記鋳造ビレットを再加熱して5〜10m/分の押出速度で熱間押出を行い、この押出出口側の押出材を押出加工直後から16秒以内に100℃/秒以上の平均冷却速度で強制冷却し、その後、押出材を更に時効処理して0.2%耐力を270〜330MPaとすることを特徴とする請求項1に記載された曲げ圧壊性に優れたアルミニウム合金押出材の製造方法。
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