JP2004131826A - 軸圧壊割れ性に優れる衝撃吸収部材 - Google Patents
軸圧壊割れ性に優れる衝撃吸収部材 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004131826A JP2004131826A JP2002299209A JP2002299209A JP2004131826A JP 2004131826 A JP2004131826 A JP 2004131826A JP 2002299209 A JP2002299209 A JP 2002299209A JP 2002299209 A JP2002299209 A JP 2002299209A JP 2004131826 A JP2004131826 A JP 2004131826A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- absorbing member
- aluminum alloy
- extruded
- local elongation
- impact absorbing
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Pending
Links
Images
Landscapes
- Body Structure For Vehicles (AREA)
- Extrusion Of Metal (AREA)
Abstract
【課題】Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材からなり、優れた軸圧壊割れ性を有する衝撃吸収部材を得る。
【解決手段】Mg:0.3〜1.2%(質量%、以下同じ)及びSi:0.2〜1.2%を含有し、さらに必要に応じてMn、Cr及びZrのいずれか1種又は2種以上を合計で0.05〜0.6%含有するAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材からなり、引張試験の応力−歪み線図から読み取った破断伸びをεp、局部伸びをεlとしたとき、εl/εp≧0.3である。
【選択図】 図1
【解決手段】Mg:0.3〜1.2%(質量%、以下同じ)及びSi:0.2〜1.2%を含有し、さらに必要に応じてMn、Cr及びZrのいずれか1種又は2種以上を合計で0.05〜0.6%含有するAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材からなり、引張試験の応力−歪み線図から読み取った破断伸びをεp、局部伸びをεlとしたとき、εl/εp≧0.3である。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、軸方向に圧縮の衝撃荷重を受けたときその衝撃荷重を吸収する機能を持ち、例えば自動車のフレーム構造におけるサイドメンバやバンパーステイとして用いられる衝撃吸収部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車では、衝突時の安全性が重要な性能の1つとなっている。特に前面衝突は乗員に対して重大な影響を与えるため、衝撃を緩和させる衝撃吸収部材が注目されている。前面衝突に対しては、自動車のボディ前方を変形させ衝撃を吸収するクラッシャブル構造の採用が主流となりつつあるが、この構造では、バンパーとフレーム本体をつなぐフロントサイドメンバが軸方向に蛇腹状に変形し、衝撃吸収部材の役割を果たす。
【0003】
アルミニウム合金は鉄と比べて比重が約1/3であり、車体の軽量化には非常に有用な素材であり、特に高強度アルミニウム合金の中では比較的耐食性に優れ、リサイクルの面でも他の系のアルミニウム合金より優れているAl−Mg−Si系アルミニウム合金が注目されている(例えば特開平6−25783号公報、特開平7−54090号公報、特開平7−118782号公報、特開平9−256096号公報、特開2000−54048、特開2001−316749等)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
Al−Mg−Si系アルミニウム合金の中空押出形材を、サイドメンバなどの衝撃吸収部材に採用することは、安全性と軽量化の両面から非常に有益であるが、押出軸方向に圧縮の衝撃荷重を受けたとき、圧壊割れを発生することなく蛇腹状に収縮変形することが求められる。これまで、Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材の軸圧壊割れ性に対する影響因子について、多くの検討がなされているが、未だ十分明確になったとはいえない状況にある。
そこで、本発明は、Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材の軸圧壊割れ性に対する影響因子についての新たな知見を得て、Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材に優れた軸圧壊割れ性を与えることを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材の軸圧壊割れ性を改善すべく種々実験研究を行う過程で、中空断面の押出形材から採取したJIS5号引張試験片を引張試験して得られた応力−歪み線図(公称応力−公称歪み線図)から読み取った破断伸びεpと局部伸びεlの比(局部伸び比率)が、押出形材の軸圧壊割れ性と密接な関係にあることを見いだし、それをもとに本発明を得ることができた。
すなわち、本発明に係る軸圧壊割れ性に優れる衝撃吸収部材は、Mg:0.3〜1.2%及びSi:0.2〜1.2%を含有するAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材からなり、引張試験の応力−歪み線図から読み取った破断伸びをεp、局部伸びをεlとしたとき、εl/εp≧0.3であることを特徴とする。望ましくはεl/εp≧0.35、さらに望ましくはεl/εp≧0.4である。
なお、破断伸びεpとは、試験片の破断応力点における永久伸びであり、局部伸びεlとは最大応力点から破断応力点までの永久伸びである(図1の応力−歪み線図参照)。以下、εl/εpを局部伸び比率という。
【0006】
【発明の実施の形態】
上記Al−Mg−Si系アルミニウム合金は、Mg、Si以外の添加元素として必要に応じて、▲1▼Cu、▲2▼Ti、▲3▼Mn、Cr、Zr及びVの1種又は2種以上を含み(▲1▼〜▲3▼を単独で又はこれらの2組(▲1▼+▲2▼、▲1▼+▲3▼、▲2▼+▲3▼)又は3組(▲1▼+▲2▼+▲3▼)を組み合わせて)、さらに不可避不純物としてFe、その他の元素を含むことができる。ただし、添加元素等の含有量の合計は、JIS6000系アルミニウム合金のレベルの5%未満(Al:95%以上)とするのが望ましい。
以下、本発明の衝撃吸収部材を構成する押出形材の組成等について説明する。
【0007】
Mg、Si
MgとSiは結合してMg2Siを形成し、合金強度を向上させる。自動車フレーム構造材等として必要な強度を得るためには、Mgは0.3%以上の添加が必要である。しかし、1.2%を越えて添加されると粒界析出物が多くなり、局部伸び比率(εl/εp)が小さくなって、優れた軸圧壊割れ性が得られなくなる。従って、Mg含有量は0.3〜1.2%とする。より望ましい範囲は0.4〜1.0%である。
一方、Si量が0.2%より少ないと必要な強度が得られず、1.2%を越えて添加されると、同じく粒界析出物が多くなり、局部伸び比率(εl/εp)が小さくなって、優れた軸圧壊割れ性が得られなくなる。従って、Si含有量は0.2〜1.2%とする。より望ましい範囲は0.4〜1.0%である。
なお、焼入れ感受性が鋭くなるのを抑え、空冷によるプレス焼入れでも焼きが入り必要な強度が得られるようにするには、Mg:0.7%以下、Si:1.0%以下、過剰Si(Mg2Siのバランス組成よりも過剰のSi、「総Si量−0.578×Mg量」で定義される):0.1〜0.5%とする。
【0008】
Cu
Cuは析出硬化により合金強度を向上させる効果がある。しかし、0.1%未満ではその効果が小さく、一方、0.7%を超えると耐食性及び溶接性を低下させる。従って、Cuの含有量は0.7%以下とし、望ましくは0.1〜0.6%、さらに望ましくは0.1〜0.4%とする。
Ti
Tiは鋳造時における結晶粒を微細化することにより合金強度を向上させる。この効果を発揮させるには、Ti添加量は0.005%以上とすることが必要である。また、0.005%より少ないと、結晶粒が粗大化して局部伸び比率(εl/εp)が小さくなり、優れた軸圧壊割れ性が得られなくなる。一方、Ti添加量が0.2%を超えると前記効果が飽和してしまい、また粗大な金属間化合物が晶出し所定の合金強度が得られない。また、局部伸び比率(εl/εp)を0.3以上とするのが難しくなる。従って、Tiの含有量は0.005〜0.2%とし、より望ましくは0.01〜0.1%、さらに望ましくは0.01〜0.05%とする。
【0009】
Mn、Cr、Zr、V
Mn、Cr、Zr、Vは、それぞれビレットの均質化処理時に微細な金属間化合物として析出して押出形材の結晶粒を微細化し、強度、軸圧壊割れ性を向上させる。しかし、これらの元素の添加量が合計で0.05%未満では前記作用を発揮し得ない。一方、添加量が合計で0.6%を超えると前記効果が飽和してしまう。個別にはそれぞれ0.05%、0.001%、0.05%、0.01%未満では前記作用を発揮し得ず、それぞれ0.4%、0.2%、0.2%、0.2%を超えると前記効果が飽和してしまう。従って、Mn、Cr、Zr、Vの含有量は合計で0.05〜0.6%、個別にはMn:0.05〜0.4%、Cr:0.001〜0.2%、Zr:0.05〜0.2%、V:0.01〜0.2%とし、これらの1種又は2種以上が適宜添加される。より望ましい添加元素はMn、Cr、Zrであり、望ましい範囲はMn:0.1〜0.2%、Cr:0.001〜0.1%、Zr:0.1〜0.15%の1種又は2種以上である。
【0010】
Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材において、押出形材に繊維状組織が形成されると強度が上がり、かつ局部伸び比率(εl/εp)が大きくなり軸圧壊割れ性が向上する。この繊維状組織は押出材断面全体に形成されているのが望ましく、表面再結晶層が形成された場合でも、押出材断面厚さの1/2程度以上の厚さで形成されていることが望ましい。なお、この繊維状組織とは、押出による繊維状組織が押出工程以降の熱処理工程の間においても再結晶せずに残った状態の組織のことである。
この繊維状組織を得るには、Mn、Cr、Zr、Vを合計で0.1%以上含有させる必要がある。しかし、冷却速度の比較的遅いファン空冷の場合、繊維状組織を得るには、0.18%以上の含有量が望ましい。
【0011】
不可避不純物
不可避不純物のうちFeはアルミニウム地金に最も多く含まれる不純物であり、0.8%を超えて合金中に存在すると鋳造時に粗大な金属間化合物を晶出し、合金の機械的性質を損なう。従って、Feの含有量は0.8%以下に規制する。望ましくは0.5%以下であり、さらに0.35%以下が望ましい。また、アルミニウム合金を鋳造する際には地金、添加元素の中間合金、化合物等様々な経路より不純物が混入する。混入する元素は様々であるが、Fe以外の不純物のうちZnは0.3%以下、その他の不純物は単体で0.05%以下、総量で0.15%以下であれば合金の特性にほとんど影響を及ぼさない。従って、これらの不純物は上記の数値以下とする。なお、不純物のうちBについてはTiの添加に伴い合金中にTi含有量の1/5程度の量で混入するが、より望ましい範囲は0.02%以下、さらに0.01%以下が望ましい。
【0012】
本発明に係るAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材は、押出後、プレス焼入れされるか、再加熱して溶体化焼入れされた後、人工時効処理を受ける。
この押出形材において、局部伸び比率(εl/εp)を0.3以上とするには、焼入れ時に水冷等により急冷すること、及び結晶粒の微細化(特に繊維状組織の形成)が有効である。急冷することにより、粒界析出物が減少して粒界破断が生じにくくなり、結晶粒が微細化することにより粒歪みが伝播しやすくなり、これらはいずれも局部伸びεlを増大させる。また、過時効処理を行うと粒内析出物が成長して粒変形が生じやすくなり、これが局部伸びεlを増大させる。これらの方法を組み合わせることにより、破断伸びεpを特に減少させることなく、局部伸び比率(εl/εp)を0.3以上、さらに0.35以上とすることができる。
【0013】
なお、局部伸び比率(εl/εp)の値は材料の局部的な変形能を示す1つの指標であり、これが大きいということは変形が早期に局部伸びに移行することを意味する。一方、押出材が蛇腹状に圧縮変形する場合、材料の表面領域ではきわめて大きい伸びが生じ、局部的な変形(局部伸び)を起こすと考えられることから、局部伸び比率(εl/εp)の値が大きく、変形が早期に局部伸びに移行したときに、当該部位において安定した変形が生じ、割れの発生が抑制されるものと推測される。
【0014】
【実施例】
以下、本発明の実施例について、本発明の特許請求範囲の規定から外れる比較例と比較して説明する。
まず、DC鋳造により下記表1に示す成分組成のAl−Mg−Si系アルミニウム合金ビレット(直径:200mm)を鋳造し、540℃×4時間の条件で均質化処理を施した。
その後、2000tonプレスを用い、各ビレットを押出温度が500℃、押出速度が5m/分の条件で、図2に示すような口型断面(外形が40×60mm、肉厚が2mm)に押し出した。この押出形材に、表2に示す条件で溶体化・焼入れ処理及び時効処理を施し、供試材とした。
【0015】
【表1】
【0016】
【表2】
【0017】
これらの各供試材から押出軸方向に平行にJIS5号試験片を採取し、JISZ2241に規定する金属材料引張試験法に準じて引張試験を行い、引張強度及び0.2%耐力を測定した。また、応力−歪み線図から破断伸びεp及び局部伸びεlを読み取り、局部伸び比率(εl/εP)を計算した。
一方、各供試材(長さ200mm)について軸圧縮試験を行った。軸圧縮試験は、アムスラー試験機にて図3に示すように押出軸方向に静的圧縮荷重を加え、これを100mmまで圧縮した。圧壊割れ性のレベルは全くクラックの発生していないものをレベル5、割れにより供試材が分断したものをレベル1、クラックが発生しているが蛇腹状変形の形状に影響しないものを中間のレベル3とし、5段階で目視評価を行った。
以上の結果を表3に示す。また、局部伸び比率(εl/εP)と圧壊割れレベルとの相関を図4に示す。
【0018】
【表3】
【0019】
表3及び図4をみると、局部伸び比率(εl/εP)が大きいものほど軸圧壊割れ性が向上し、局部伸び比率(εl/εP)が0.3以上でレベル3に近い実用レベルの軸圧壊割れ性が得られ、0.35以上でレベル3以上の軸圧壊割れ性が得られている。
なお、各供試材について顕微鏡組織写真によるミクロ組織観察を行ったが、No.1、2は断面のほぼ全体が微細な繊維状組織、No.3、4は粒径100〜200μmの等軸晶組織であった。軸圧壊割れ性に関し、繊維状組織の方が等軸晶組織より優れていることが分かる。
【0020】
【発明の効果】
本発明によれば、特性組成のAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材において、押出材の局部伸び比率(εl/εP)が0.3以上になるようにしたことにより、軸圧縮に対し優れた軸圧壊割れ性を有し、例えば自動車のサイドメンバー等の衝撃吸収部材として好適なアルミニウム合金押出形材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】応力−歪み線図における破断伸びεP、局部伸びεlを説明する図である
【図2】実施例に用いた押出形材の断面形状を示す図である。
【図3】実施例の軸圧縮試験を説明する図(圧壊前、圧壊後)である。
【図4】圧壊割れレベルと局部伸び比率(εl/εP)の関係を示すグラフである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、軸方向に圧縮の衝撃荷重を受けたときその衝撃荷重を吸収する機能を持ち、例えば自動車のフレーム構造におけるサイドメンバやバンパーステイとして用いられる衝撃吸収部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車では、衝突時の安全性が重要な性能の1つとなっている。特に前面衝突は乗員に対して重大な影響を与えるため、衝撃を緩和させる衝撃吸収部材が注目されている。前面衝突に対しては、自動車のボディ前方を変形させ衝撃を吸収するクラッシャブル構造の採用が主流となりつつあるが、この構造では、バンパーとフレーム本体をつなぐフロントサイドメンバが軸方向に蛇腹状に変形し、衝撃吸収部材の役割を果たす。
【0003】
アルミニウム合金は鉄と比べて比重が約1/3であり、車体の軽量化には非常に有用な素材であり、特に高強度アルミニウム合金の中では比較的耐食性に優れ、リサイクルの面でも他の系のアルミニウム合金より優れているAl−Mg−Si系アルミニウム合金が注目されている(例えば特開平6−25783号公報、特開平7−54090号公報、特開平7−118782号公報、特開平9−256096号公報、特開2000−54048、特開2001−316749等)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
Al−Mg−Si系アルミニウム合金の中空押出形材を、サイドメンバなどの衝撃吸収部材に採用することは、安全性と軽量化の両面から非常に有益であるが、押出軸方向に圧縮の衝撃荷重を受けたとき、圧壊割れを発生することなく蛇腹状に収縮変形することが求められる。これまで、Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材の軸圧壊割れ性に対する影響因子について、多くの検討がなされているが、未だ十分明確になったとはいえない状況にある。
そこで、本発明は、Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材の軸圧壊割れ性に対する影響因子についての新たな知見を得て、Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材に優れた軸圧壊割れ性を与えることを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材の軸圧壊割れ性を改善すべく種々実験研究を行う過程で、中空断面の押出形材から採取したJIS5号引張試験片を引張試験して得られた応力−歪み線図(公称応力−公称歪み線図)から読み取った破断伸びεpと局部伸びεlの比(局部伸び比率)が、押出形材の軸圧壊割れ性と密接な関係にあることを見いだし、それをもとに本発明を得ることができた。
すなわち、本発明に係る軸圧壊割れ性に優れる衝撃吸収部材は、Mg:0.3〜1.2%及びSi:0.2〜1.2%を含有するAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材からなり、引張試験の応力−歪み線図から読み取った破断伸びをεp、局部伸びをεlとしたとき、εl/εp≧0.3であることを特徴とする。望ましくはεl/εp≧0.35、さらに望ましくはεl/εp≧0.4である。
なお、破断伸びεpとは、試験片の破断応力点における永久伸びであり、局部伸びεlとは最大応力点から破断応力点までの永久伸びである(図1の応力−歪み線図参照)。以下、εl/εpを局部伸び比率という。
【0006】
【発明の実施の形態】
上記Al−Mg−Si系アルミニウム合金は、Mg、Si以外の添加元素として必要に応じて、▲1▼Cu、▲2▼Ti、▲3▼Mn、Cr、Zr及びVの1種又は2種以上を含み(▲1▼〜▲3▼を単独で又はこれらの2組(▲1▼+▲2▼、▲1▼+▲3▼、▲2▼+▲3▼)又は3組(▲1▼+▲2▼+▲3▼)を組み合わせて)、さらに不可避不純物としてFe、その他の元素を含むことができる。ただし、添加元素等の含有量の合計は、JIS6000系アルミニウム合金のレベルの5%未満(Al:95%以上)とするのが望ましい。
以下、本発明の衝撃吸収部材を構成する押出形材の組成等について説明する。
【0007】
Mg、Si
MgとSiは結合してMg2Siを形成し、合金強度を向上させる。自動車フレーム構造材等として必要な強度を得るためには、Mgは0.3%以上の添加が必要である。しかし、1.2%を越えて添加されると粒界析出物が多くなり、局部伸び比率(εl/εp)が小さくなって、優れた軸圧壊割れ性が得られなくなる。従って、Mg含有量は0.3〜1.2%とする。より望ましい範囲は0.4〜1.0%である。
一方、Si量が0.2%より少ないと必要な強度が得られず、1.2%を越えて添加されると、同じく粒界析出物が多くなり、局部伸び比率(εl/εp)が小さくなって、優れた軸圧壊割れ性が得られなくなる。従って、Si含有量は0.2〜1.2%とする。より望ましい範囲は0.4〜1.0%である。
なお、焼入れ感受性が鋭くなるのを抑え、空冷によるプレス焼入れでも焼きが入り必要な強度が得られるようにするには、Mg:0.7%以下、Si:1.0%以下、過剰Si(Mg2Siのバランス組成よりも過剰のSi、「総Si量−0.578×Mg量」で定義される):0.1〜0.5%とする。
【0008】
Cu
Cuは析出硬化により合金強度を向上させる効果がある。しかし、0.1%未満ではその効果が小さく、一方、0.7%を超えると耐食性及び溶接性を低下させる。従って、Cuの含有量は0.7%以下とし、望ましくは0.1〜0.6%、さらに望ましくは0.1〜0.4%とする。
Ti
Tiは鋳造時における結晶粒を微細化することにより合金強度を向上させる。この効果を発揮させるには、Ti添加量は0.005%以上とすることが必要である。また、0.005%より少ないと、結晶粒が粗大化して局部伸び比率(εl/εp)が小さくなり、優れた軸圧壊割れ性が得られなくなる。一方、Ti添加量が0.2%を超えると前記効果が飽和してしまい、また粗大な金属間化合物が晶出し所定の合金強度が得られない。また、局部伸び比率(εl/εp)を0.3以上とするのが難しくなる。従って、Tiの含有量は0.005〜0.2%とし、より望ましくは0.01〜0.1%、さらに望ましくは0.01〜0.05%とする。
【0009】
Mn、Cr、Zr、V
Mn、Cr、Zr、Vは、それぞれビレットの均質化処理時に微細な金属間化合物として析出して押出形材の結晶粒を微細化し、強度、軸圧壊割れ性を向上させる。しかし、これらの元素の添加量が合計で0.05%未満では前記作用を発揮し得ない。一方、添加量が合計で0.6%を超えると前記効果が飽和してしまう。個別にはそれぞれ0.05%、0.001%、0.05%、0.01%未満では前記作用を発揮し得ず、それぞれ0.4%、0.2%、0.2%、0.2%を超えると前記効果が飽和してしまう。従って、Mn、Cr、Zr、Vの含有量は合計で0.05〜0.6%、個別にはMn:0.05〜0.4%、Cr:0.001〜0.2%、Zr:0.05〜0.2%、V:0.01〜0.2%とし、これらの1種又は2種以上が適宜添加される。より望ましい添加元素はMn、Cr、Zrであり、望ましい範囲はMn:0.1〜0.2%、Cr:0.001〜0.1%、Zr:0.1〜0.15%の1種又は2種以上である。
【0010】
Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材において、押出形材に繊維状組織が形成されると強度が上がり、かつ局部伸び比率(εl/εp)が大きくなり軸圧壊割れ性が向上する。この繊維状組織は押出材断面全体に形成されているのが望ましく、表面再結晶層が形成された場合でも、押出材断面厚さの1/2程度以上の厚さで形成されていることが望ましい。なお、この繊維状組織とは、押出による繊維状組織が押出工程以降の熱処理工程の間においても再結晶せずに残った状態の組織のことである。
この繊維状組織を得るには、Mn、Cr、Zr、Vを合計で0.1%以上含有させる必要がある。しかし、冷却速度の比較的遅いファン空冷の場合、繊維状組織を得るには、0.18%以上の含有量が望ましい。
【0011】
不可避不純物
不可避不純物のうちFeはアルミニウム地金に最も多く含まれる不純物であり、0.8%を超えて合金中に存在すると鋳造時に粗大な金属間化合物を晶出し、合金の機械的性質を損なう。従って、Feの含有量は0.8%以下に規制する。望ましくは0.5%以下であり、さらに0.35%以下が望ましい。また、アルミニウム合金を鋳造する際には地金、添加元素の中間合金、化合物等様々な経路より不純物が混入する。混入する元素は様々であるが、Fe以外の不純物のうちZnは0.3%以下、その他の不純物は単体で0.05%以下、総量で0.15%以下であれば合金の特性にほとんど影響を及ぼさない。従って、これらの不純物は上記の数値以下とする。なお、不純物のうちBについてはTiの添加に伴い合金中にTi含有量の1/5程度の量で混入するが、より望ましい範囲は0.02%以下、さらに0.01%以下が望ましい。
【0012】
本発明に係るAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材は、押出後、プレス焼入れされるか、再加熱して溶体化焼入れされた後、人工時効処理を受ける。
この押出形材において、局部伸び比率(εl/εp)を0.3以上とするには、焼入れ時に水冷等により急冷すること、及び結晶粒の微細化(特に繊維状組織の形成)が有効である。急冷することにより、粒界析出物が減少して粒界破断が生じにくくなり、結晶粒が微細化することにより粒歪みが伝播しやすくなり、これらはいずれも局部伸びεlを増大させる。また、過時効処理を行うと粒内析出物が成長して粒変形が生じやすくなり、これが局部伸びεlを増大させる。これらの方法を組み合わせることにより、破断伸びεpを特に減少させることなく、局部伸び比率(εl/εp)を0.3以上、さらに0.35以上とすることができる。
【0013】
なお、局部伸び比率(εl/εp)の値は材料の局部的な変形能を示す1つの指標であり、これが大きいということは変形が早期に局部伸びに移行することを意味する。一方、押出材が蛇腹状に圧縮変形する場合、材料の表面領域ではきわめて大きい伸びが生じ、局部的な変形(局部伸び)を起こすと考えられることから、局部伸び比率(εl/εp)の値が大きく、変形が早期に局部伸びに移行したときに、当該部位において安定した変形が生じ、割れの発生が抑制されるものと推測される。
【0014】
【実施例】
以下、本発明の実施例について、本発明の特許請求範囲の規定から外れる比較例と比較して説明する。
まず、DC鋳造により下記表1に示す成分組成のAl−Mg−Si系アルミニウム合金ビレット(直径:200mm)を鋳造し、540℃×4時間の条件で均質化処理を施した。
その後、2000tonプレスを用い、各ビレットを押出温度が500℃、押出速度が5m/分の条件で、図2に示すような口型断面(外形が40×60mm、肉厚が2mm)に押し出した。この押出形材に、表2に示す条件で溶体化・焼入れ処理及び時効処理を施し、供試材とした。
【0015】
【表1】
【0016】
【表2】
【0017】
これらの各供試材から押出軸方向に平行にJIS5号試験片を採取し、JISZ2241に規定する金属材料引張試験法に準じて引張試験を行い、引張強度及び0.2%耐力を測定した。また、応力−歪み線図から破断伸びεp及び局部伸びεlを読み取り、局部伸び比率(εl/εP)を計算した。
一方、各供試材(長さ200mm)について軸圧縮試験を行った。軸圧縮試験は、アムスラー試験機にて図3に示すように押出軸方向に静的圧縮荷重を加え、これを100mmまで圧縮した。圧壊割れ性のレベルは全くクラックの発生していないものをレベル5、割れにより供試材が分断したものをレベル1、クラックが発生しているが蛇腹状変形の形状に影響しないものを中間のレベル3とし、5段階で目視評価を行った。
以上の結果を表3に示す。また、局部伸び比率(εl/εP)と圧壊割れレベルとの相関を図4に示す。
【0018】
【表3】
【0019】
表3及び図4をみると、局部伸び比率(εl/εP)が大きいものほど軸圧壊割れ性が向上し、局部伸び比率(εl/εP)が0.3以上でレベル3に近い実用レベルの軸圧壊割れ性が得られ、0.35以上でレベル3以上の軸圧壊割れ性が得られている。
なお、各供試材について顕微鏡組織写真によるミクロ組織観察を行ったが、No.1、2は断面のほぼ全体が微細な繊維状組織、No.3、4は粒径100〜200μmの等軸晶組織であった。軸圧壊割れ性に関し、繊維状組織の方が等軸晶組織より優れていることが分かる。
【0020】
【発明の効果】
本発明によれば、特性組成のAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材において、押出材の局部伸び比率(εl/εP)が0.3以上になるようにしたことにより、軸圧縮に対し優れた軸圧壊割れ性を有し、例えば自動車のサイドメンバー等の衝撃吸収部材として好適なアルミニウム合金押出形材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】応力−歪み線図における破断伸びεP、局部伸びεlを説明する図である
【図2】実施例に用いた押出形材の断面形状を示す図である。
【図3】実施例の軸圧縮試験を説明する図(圧壊前、圧壊後)である。
【図4】圧壊割れレベルと局部伸び比率(εl/εP)の関係を示すグラフである。
Claims (2)
- Mg:0.3〜1.2%(質量%、以下同じ)及びSi:0.2〜1.2%を含有するAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材からなり、引張試験の応力−歪み線図から読み取った破断伸びをεp、局部伸びをεlとしたとき、εl/εp≧0.3であることを特徴とする軸圧壊割れ性に優れる衝撃吸収部材。
- Mn、Cr及びZrのいずれか1種又は2種以上を合計で0.05〜0.6%含有するAl−Mg−Si系アルミニウム合金からなることを特徴とする請求項1に記載された軸圧壊割れ性に優れる衝撃吸収部材。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002299209A JP2004131826A (ja) | 2002-10-11 | 2002-10-11 | 軸圧壊割れ性に優れる衝撃吸収部材 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002299209A JP2004131826A (ja) | 2002-10-11 | 2002-10-11 | 軸圧壊割れ性に優れる衝撃吸収部材 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004131826A true JP2004131826A (ja) | 2004-04-30 |
Family
ID=32288417
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2002299209A Pending JP2004131826A (ja) | 2002-10-11 | 2002-10-11 | 軸圧壊割れ性に優れる衝撃吸収部材 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004131826A (ja) |
Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2007177308A (ja) * | 2005-12-28 | 2007-07-12 | Sumitomo Light Metal Ind Ltd | 耐食性に優れた高強度、高靭性アルミニウム合金押出材および鍛造材、該押出材および鍛造材の製造方法 |
JP2011208251A (ja) * | 2010-03-30 | 2011-10-20 | Kobe Steel Ltd | 曲げ圧壊性と耐食性に優れたアルミニウム合金押出材 |
JP2012149335A (ja) * | 2010-12-27 | 2012-08-09 | Sankyo Tateyama Inc | アルミニウム合金 |
-
2002
- 2002-10-11 JP JP2002299209A patent/JP2004131826A/ja active Pending
Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2007177308A (ja) * | 2005-12-28 | 2007-07-12 | Sumitomo Light Metal Ind Ltd | 耐食性に優れた高強度、高靭性アルミニウム合金押出材および鍛造材、該押出材および鍛造材の製造方法 |
JP2011208251A (ja) * | 2010-03-30 | 2011-10-20 | Kobe Steel Ltd | 曲げ圧壊性と耐食性に優れたアルミニウム合金押出材 |
JP2012149335A (ja) * | 2010-12-27 | 2012-08-09 | Sankyo Tateyama Inc | アルミニウム合金 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
EP2157200B1 (en) | Al-Mg-Si aluminum alloy extruded product exhibiting excellent fatigue strength and impact fracture resistance | |
JP6860235B2 (ja) | マグネシウム基合金展伸材及びその製造方法 | |
Adeosun et al. | Effect of Cu and Zn addition on the mechanical properties of structural aluminum alloy | |
US4629505A (en) | Aluminum base alloy powder metallurgy process and product | |
JP2003221636A (ja) | 耐衝撃破壊性に優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材 | |
EP1041165A1 (en) | Shock absorbing material | |
JP3757831B2 (ja) | 衝撃エネルギー吸収性能に優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出材 | |
JP3324093B2 (ja) | 自動車部材向け鍛造加工用アルミニウム合金材及び鍛造加工自動車部材 | |
JPH07197165A (ja) | 高耐磨耗性快削アルミニウム合金とその製造方法 | |
JP3077974B2 (ja) | 軸圧壊特性に優れるAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材 | |
JP3454755B2 (ja) | 耐圧壊割れ性に優れた衝撃吸収部材 | |
JP2004131826A (ja) | 軸圧壊割れ性に優れる衝撃吸収部材 | |
JPH07197164A (ja) | 高強度高加工性アルミニウム合金とその製造方法 | |
JP3961324B2 (ja) | 蛇腹状圧潰性に優れた中空状衝撃吸収部材 | |
JP3691254B2 (ja) | サイドメンバー用Al−Mg−Si系合金押出形材及びその製造方法 | |
JP3929850B2 (ja) | 耐食性に優れた構造用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法 | |
JP2002256368A (ja) | プレス加工性に優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出材 | |
JP3073197B1 (ja) | 自動車のフレーム構造における衝撃吸収部材 | |
JP2002285272A (ja) | 軸圧壊特性に優れたアルミニウム合金押出材およびその製造方法 | |
JP4148801B2 (ja) | 切削性に優れた耐摩耗Al−Si系合金及びその鋳造方法 | |
JP2003155535A (ja) | 自動車ブラケット用アルミニウム合金押出材およびその製造方法 | |
JP3077976B1 (ja) | 押出軸方向の衝撃エネルギー吸収特性に優れるAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出形材 | |
JP2003183757A (ja) | 耐圧壊割れ性に優れた衝撃吸収部材 | |
JPH06212336A (ja) | 強度および曲げ加工性のすぐれたAl合金押出加工材 | |
JP2001355032A (ja) | 衝撃吸収性に優れたアルミニウム合金押出材 |