JP3791408B2 - 曲げ加工性およびエネルギー吸収特性に優れたアルミニウム合金押出し材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、自動車などの輸送機において衝突時に外部からの衝撃エネルギーを吸収するためのバンパー、フレームなどを作製するための素材として最適な曲げ加工性およびエネルギー吸収特性に優れたアルミニウム合金押出し材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、自動車などの輸送機が衝突した際に、外部から受ける衝撃エネルギーを緩和し、内部の乗客を保護する目的でバンパー、フレームなどの補強部材が装備されていることは知られており、これら補強部材は、衝突時に変形することで衝突エネルギーを吸収する働きをすることも知られている。これら補強部材は、冷延鋼板をプレス成形して作られていたが、近年、自動車の排ガス軽減、燃費向上を目的として車体の軽量化要求が高まっており、この要求を受けて、先に述べた鋼板品の代わりに、より軽量のアルミニウム押出し材を使用する動きが活発化しつつある。これら補強部材として使用されるアルミニウム押出し材は、JIS6063合金などのAl−Mg−Si系アルミニウム合金を温度:480〜560℃に1〜12時間保持することにより均質化処理したのち、温度:460〜560℃で押出し速度:0.1〜0.3m/秒でダイスを通させることにより押出し加工し、ダイスを通過した押出し材は4m以上離れたところで冷却水を押出し材に吹き付けて押出し加工後焼入れ遅れ時間:35秒となるように急速冷却し、その後、150〜250℃の温度範囲で1〜24時間保持の時効処理することにより製造している。しかしながら、Al−Mg−Si系アルミニウム合金(例えば、JIS6063合金)の押出し材は冷延鋼板に比べてコストがかかるところから、高強度化することによって肉厚を薄くする検討がなされている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来のAl−Mg−Si系アルミニウム合金を薄肉化した押出し材は、曲げ加工時に外周側表面に割れが発生したり、衝突時の圧縮変形時に割れが発生しやすく、一旦割れが発生すると、それ以降の衝撃は吸収されないので、エネルギー吸収効率は極めて低いものになるという問題点があった。
【0004】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは、曲げ加工の際および衝突時の圧縮変形を受けた際に割れが発生することのない曲げ加工性およびエネルギー吸収性が優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出し材を得るべく研究を行った。その結果、
(イ)質量%で(以下、%は質量%を示す)、Si:0.4〜1.0%、Mg:0.5〜1.0%、Cu:0.05〜0.6%、Fe:0.1〜0.4%、Ti:0.005〜0.1%、B:0.0001〜0.004%を含有し、さらに、Mn:0.02〜0.6%、Cr:0.02〜0.3%、Zr:0.02〜0.25%の内の1種または2種以上を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成を有するAl−Mg−Si系アルミニウム合金を均質化処理したのちダイスを通させることにより押出し加工し、次いで急速冷却するに際し、押出し加工したのち急速冷却するまでの時間(以下、押出し加工後焼入れ遅れ時間という)が短いほど曲げ加工性およびエネルギー吸収特性が向上する、
(ロ)この場合、押出し速度をV(m/秒)とし、ダイス端より冷却装置までの距離X(m)によって決定される押出し加工後焼入れ遅れ時間をt(=X/V)とすると、t=0であることが最も好ましいが、遅れ時間の上限は12秒とするように調整して製造したアルミニウム合金押出し材は、曲げ加工性およびエネルギー吸収特性に優れており、補強部材として十分に機能するところから、0≦t≦12秒であることが好ましい、などの知見を得たのである。
【0005】
この発明は、かかる知見に基づいて成されたものであって、
Si:0.4〜1.0%、Mg:0.5〜1.0%、Cu:0.05〜0.6%、Fe:0.1〜0.4%、Ti:0.005〜0.1%、B:0.0001〜0.004%を含有し、さらに、Mn:0.02〜0.6%、Cr:0.02〜0.3%、Zr:0.02〜0.25%の内の1種または2種以上を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金を、押出し速度V(m/秒)がダイス端より冷却装置までの距離X(m)によって決定される押出し加工後焼入れ遅れ時間t(=X/V)が0≦t≦12秒の範囲内にあるように調整されている曲げ加工性およびエネルギー吸収特性に優れたアルミニウム合金押出し材の製造方法、に特徴を有するものである。
【0006】
この発明の方法により製造すると曲げ加工性およびエネルギー吸収特性に優れたアルミニウム合金押出し材が得られる理由は、この発明の方法は押出し加工してから水冷により焼入れするまでの時間が極めて短いために、押出し材の結晶組織が一層微細になり、曲げ加工時や衝突時に粒界に沿って割れが発生する感受性が低くなり、したがって、曲げ加工性およびエネルギー吸収特性に優れたアルミニウム合金押出し材がえられるものと考えられる。
【0007】
この発明の曲げ加工性およびエネルギー吸収特性に優れたアルミニウム合金押出し材の製造方法においてAl−Mg−Si系アルミニウム合金押出し材の成分組成およびその冷却条件を上述のごとく限定した理由を述べる。
【0008】
(a)Al−Mg−Si系アルミニウム合金押出し材の成分組成
SiおよびMg:
これら成分は、共存することによりMg2 Siを素地中に析出し、合金の強度を向上させる作用を有するが、Si含有量が0.4%未満および/またはMg含有量が0.5%未満では生成する析出物の量が少なくなって、所望の強度を確保することができず、一方、Si含有量が1.0%および/またはMg含有量が1.0%を越えると押出し加工性が低下すると共に曲げ加工時および衝突時に変形による割れが発生しやすくなるので好ましくない。したがって、Siの含有量は、0.4〜1.0%、Mgの含有量は、0.5〜1.0%に定めた。Siの含有量の一層好ましい範囲は0.5〜0.9%、Mgの含有量の一層好ましい範囲は0.5〜0.8%である。
【0009】
Cu:
Cuは、Al合金素地に固溶することによって強度を向上させる作用を有するがその含有量が0.05%未満ではその効果が十分でなく、一方、0.6%を越えて含有すると、耐食性および曲げ加工性が低下するので好ましくない。したがって、Cuの含有量は0.05〜0.6%(一層好ましくは0.35〜0.60%)に定めた。
【0010】
Ti、B:
これら成分は鋳造組織を微細化し、鋳造割れを防止する作用を有するが、TiおよびBのいずれの含有量でもTi:0.005%未満、B:0.0001%未満では所望の効果が得られず、一方、TiおよびBのいずれの含有量でも、Ti:0.1%およびB:0.004%を越えて含有すると、巨大な金属間化合物が生成するために靭性が低下し、曲げ加工時、衝突時の変形による割れが発生しやすくなるので好ましくない。したがって、Ti含有量は0.005〜0.1%(一層好ましくは0.01〜0.03%)、B含有量は0.0001〜0.004%(一層好ましくは0.0005〜0.003%)に定めた。
【0011】
Mn、Cr、Zr:
これら成分には、Alと金属間化合物を形成して、この金属間化合物が再結晶の核生成サイトとなり、Al合金押出し材の金属組織を微細化する効果があり、その結果、圧潰特性を向上させる作用があるが、これら成分の内の少なくとも一種以上を含有させる必要があるが、いずれの成分もその下限値である0.02%未満では上記の効果が十分に得られず、一方、Mn:0.6%を越え、Cr:0.3%を越え、Zr:0.25%を越えて含有すると、粗大な金属間化合物が生成するようになり、機械的性質が低下するので好ましくない。したがって、Mnの含有量は0.02〜0.6%(一層好ましくは0.04〜0.30%)、Crの含有量は0.02〜0.3%(一層好ましくは0.03〜0.15%)、Zrの含有量は0.02〜0.25%(一層好ましくは0.03〜0.15%)に定めた。
【0012】
(b)押出し加工後焼入れ遅れ時間
この発明のアルミニウム合金押出し材の製造方法において、押出し速度V(m/秒)がダイス端より冷却装置までの距離X(m)によって決定される押出し加工後焼入れ遅れ時間t(=X/V)がアルミニウム合金押出し材の曲げ加工性およびエネルギー吸収特性に大きく影響を及ぼし、この押出し加工後焼入れ遅れ時間tは0であることが最も好ましいが、12秒以下であれば補強部材として十分な曲げ加工性およびエネルギー吸収特性が得られるので、押出し加工後焼入れ遅れ時間tは0≦t≦12秒に定めた。
【0013】
【発明の実施の形態】
実施例1〜13および比較例1〜3
Al合金を溶解し、得られたAl合金溶湯を鋳造して、Si:0.95%、Mg:0.53%、Cu:0.57%、Fe:0.24%、Ti:0.01%、B:0.001%、Mn:0.25%を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成を有し、直径:204mmの寸法を有するビレットを製造した。このビレットを545℃、4時間保持の条件で均質化処理を行い、この均質化処理を行ったビレットを1650トンの押出し機を用いて、温度:500℃、表1に示される押出し速度Vの条件で熱間押出し加工を行い、押出し機のダイス端から冷却位置までの距離Xを表1に示されるように変化させながら、押出し加工後焼入れ遅れ時間tを0〜15秒まで変化させ、平均冷却速度:200℃/秒の水冷を行ったのち、引き続いて温度:180℃にて8時間保持の時効処理を施すことにより断面寸法が54mm×70mm、肉厚:2mmの角パイプ状の押出し形材を作製した。
この熱間押出し加工は、熱間押出し装置の金型出口に水冷チャンバーを設置した装置を用意し、前記均質化処理を行ったビレットを熱間押出し加工した後に水冷するまでの距離を変化させることができる装置を用いて行なわれた。
【0014】
このようにして得られた角パイプ状の押出し形材について下記の条件の試験を行うことにより実施例1〜13および比較例1〜3を行ない、その結果を表1に示した。
引張り試験
角パイプ状の押出し形材からJIS Z 2201で規定される引張り試験片(4号試験片)を作製し、引張り速度:10mm/min(歪速度:3.3×10-3S-1)の条件で引張り試験を行ない、引張り強度、耐力および伸びを求め、その結果を表1に示した。
【0015】
曲げ加工試験
角パイプ状の押出し形材からJIS B 2248−1975に規定される曲げ試験片を作製し、この試験片を曲げ半径11mmのU字曲げ試験を行い、試験片の外側面に割れが生じたか否かを調査し、その結果を表1に示した。
【0016】
静的圧縮試験
角パイプ状の押出し形材を長さ:300mmに切り出して圧潰用角パイプを作製し、この圧潰用角パイプの両端を縦:150mm、横:150mmの寸法を有するフランジにMIG溶接することにより圧潰試験片を作製し、この圧潰試験片の両端から圧潰速度:50mm/分、圧潰ストローク:180mmの条件で押し潰し、その時の割れの有無および吸収エネルギーを測定し、その結果を表1に示した。
【0017】
【表1】
【0018】
表1に示される結果から、押出し加工後焼入れ遅れ時間tを0〜12秒の範囲内にある条件で行った実施例1〜13は曲げ加工性およびエネルギー吸収特性が優れているが、押出し加工後焼入れ遅れ時間tが12秒を越えると曲げ加工性およびエネルギー吸収特性の内の少なくとも一つが劣るようになるので好ましくないことが分かる。
【0019】
実施例14〜30および比較例4〜12
Al合金を溶解し、得られたAl合金溶湯を鋳造して直径:204mmの寸法を有するビレットを製造した。このビレットを545℃、4時間保持の条件で均質化処理を行い、この均質化処理を行ったビレットを1650トンの押出し機を用いて、温度:500℃、押出し速度V:0.25m/秒の条件で熱間押出し加工を行い、押出し機のダイス端から冷却位置までの距離Xを1.5mに保持し、押出し加工後の焼入れ遅れ時間t:6秒が経過したのち水冷し、引き続いて温度:180℃にて8時間保持の時効処理を施すことにより、表2に示される成分組成を有し、断面寸法が54mm×70mm、肉厚:2mmの角パイプ状の押出し形材a〜zを作製した。
【0020】
得られた角パイプ状の押出し形材a〜zを実施例1〜13および比較例1〜3と同じ条件で引張り試験、曲げ試験および圧潰試験を行うことにより実施例14〜30および比較例4〜12を実施し、その結果を表3に示した。
【0021】
【表2】
【0022】
【表3】
【0023】
表2〜3に示される結果から、実施例14〜30で作製した成分組成がこの発明の範囲内にある角パイプ状の押出し形材は曲げ加工性およびエネルギー吸収特性が優れているが、比較例4〜12で作製したこの発明の範囲から外れた成分組成を有する角パイプ状の押出し形材は曲げ加工性およびエネルギー吸収特性の内の少なくとも一つが劣るようになるので好ましくないことが分かる。
【0024】
【発明の効果】
上述のように、この発明の方法で作製した押出し材は曲げ加工性およびエネルギー吸収特性に優れているのでこの発明の方法で作製した押出し材を用いてバンパー、フレームなど自動車の補強材として最適なものであり、コストを下げ、さらに軽量化して省エネルギーに寄与するなど、産業上優れた効果をもたらすものである。
Claims (1)
- 質量%で(以下、%は質量%を示す)、Si:0.4〜1.0%、Mg:0.5〜1.0%、Cu:0.05〜0.6%、Fe:0.1〜0.4%、Ti:0.005〜0.1%、B:0.0001〜0.004%を含有し、さらに、Mn:0.02〜0.6%、Cr:0.02〜0.3%、Zr:0.02〜0.25%の内の1種または2種以上を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金を、押出し速度V(m/秒)がダイス端より冷却装置までの距離X(m)によって決定される押出し加工後焼入れ遅れ時間t(=X/V)が0≦t≦12秒の範囲内にあるように調整されていることを特徴とする曲げ加工性およびエネルギー吸収特性に優れたアルミニウム合金押出し材の製造方法。
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