JP4452696B2 - 加工性が向上した自動車用のヘッドレストフレーム用高強度アルミニウム合金素材の製造方法 - Google Patents

加工性が向上した自動車用のヘッドレストフレーム用高強度アルミニウム合金素材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、加工性が向上して折曲げ時におけるひび割れが防がれる高強度アルミニウム合金素材及びその製造方法と、これを用いて製作された自動車用のヘッドレストフレームに関する。さらに詳しくは、Al−Zn−Mg系のアルミニウム合金を基本組成とするが、ここにMnが付加され、且つ、ZnとMgが所定の範囲に留められたアルミニウム合金ビレットを鋳造し、この鋳造されたビレットを押出後にT6熱処理により強度を高めた後、さらに、170℃〜180℃の温度下で1時間〜3時間に亘って人工時効硬化させる過時効熱処理を行うことを特徴とする加工性が向上した高強度アルミニウム合金素材及びその製造方法と、これを用いて製作された自動車用のヘッドレストフレームに関する。
近年、省力及び環境保存の重要性が強調されるに伴い、航空機、自動車などの輸送機械の軽量化が図れる軽量素材に関する研究が盛んになされており、軽量素材として、代表的にアルミニウム合金が用いられている。
アルミニウム合金は軽量で且つ比強度が高いことから、材料の軽量化及び高強度が求められる航空機、車両などの構造材及び建材として汎用されている。また、最近は、アルミニウム合金は、通信装備、半導体及びコンピュータの電気・電子部品、レジャー用品及び自動車の一部の構成部品などの小型製品にも用いられることになり、その使用範囲が益々拡大しつつある。
アルミニウム合金は、大きく鋳物用のアルミニウム合金と加工用のアルミニウム合金とに大別できる。また、加工用のアルミニウム合金はさらに、ジュラルミン系のAl−Cu−Mg系、Al−Zn−Mg系を主体とする高強度合金系と、Al−Mn系、Al−Mg−Si系を主体とする耐蝕性の合金系とに大別できる。さらに、アルミニウム協会により、1000系から8000系までの4桁数のアルミニウム合金が使い分けられており、中でも、2000系と7000系が高強度合金系に相当する。
最近は、アルミニウム合金系のうち最も高強度をもつ7000系の合金に関する研究が活発に行われている。この系の合金は、Al−Zn−Mg系のものであって、合金内にMgZnが含有されて時効硬化性が高いことから、高強度の合金として注目を集めている。
7000系合金の代表例としては、Al7003、Al7021などが挙げられる。これらの合金は、押出加工後に熱処理をさらに行わなければ、高強度の特性が得られない析出硬化型の合金であって、MgとZnによる析出の形成により強化効果が発揮可能になる、熱処理を必須過程として含む熱処理型の合金系である。熱処理方法は、アルミニウム合金の種類によっていろいろな方法が考えられるが、7000系の合金には、通常、T6方法が用いられている。T6熱処理方法は、合金を400℃〜500℃の温度下で加熱して固溶体化した後、水中で急冷させ、この急冷させた合金をさらに約120℃の温度に約24時間加熱して人工時効硬化させる方法である。
時効硬化とは、金属材料が一定の時間中に所定の温度下で放置される場合に、硬くなる現象をいい、常温に放置しても硬くなる場合と、幾分加熱しなければ、硬くならない場合があるが、常温で硬くなることを自然時効といい、幾分加熱しなければ硬くならない場合を人工時効という。時効硬化は、ある固体中に異なる固体が別の相として現れる析出現象に起因する。
アルミニウム7000系の合金は、MgとZnの含量を増やしてMgZnが析出されるように人工時効硬化処理を施すことにより、強度が上がるが、同時に、粒界の脆性と粒界の応力腐食に対する抵抗性が低くなる。Zn/Mgの原子比は、2〜2.5程度であるが、Znの含量は、通常、約3〜7.5重量%の範囲に、且つ、Mgの含量は、MgZnの定量反応レベルあるいはZnがやや多い方に設定される。これは、MgとZnが固溶強化の効果面であまり違いがなく、Mgが過量の合金においては、熱処理条件によって出現しうるAlMgが応力腐食に極めて有害になるためである。
このように、アルミニウムは種々な合金の形で製造・使用されており、特に、7000系の合金は、高強度特性を持たせるために、MgとZnを主成分とし、且つ、その他の遷移元素を少量ずつ付加して、高い重量の鉄鋼材料に代えて、高強度特性が求められる部品に用いられている。
以下、通常のアルミニウム7000系の合金を用いて所定の製品を生産する工程を説明する。先ず、各種の遷移元素を特性に合う成分比で含有させてアルミニウム合金ビレットを鋳造し、この鋳造されたビレットを所定の製品の形状に押出成形した後、T6による熱処理(すなわち、固溶体化処理後に人工時効硬化させる)を施すことにより、高い強度の所定の製品を得る。また、製品のサイズや所望の精度によって、押出成形された製品を固溶体化処理した後、さらに引抜き過程を行うことにより精度を高め、次いで、人工時効硬化させることにより精度よい製品を得る。
これらに加えて、各種の製品を得るためには、アルミニウム合金に折曲げなどの加工を行う必要があるが、これまで開発されているアルミニウム7000系の合金は強度特性が向上しているのに対し、伸び率が低くて脆性が高いが故に、折曲げ加工を行う場合にひび割れが生じたり、破壊が起こるなどの不具合があった。これは、上述したように、強度特性の向上のために付加したMgとZnに起因するが、これを解消するために、7000系の合金に少量のCrあるいはMnを付加して伸び率を高める方法が用いられている。ところが、この方法は、7000系の合金の応力腐食に対する自然亀裂を抑える程度に留まっており、依然として折曲げ加工時におけるひび割れの発生の問題は課題となっている。
また、その他の少量の合金成分を除く7000系のアルミニウム合金の主な合金成分Mn、Mg、Znは、従来のAl7021合金の場合、Mn:0.1重量%以下、Mg:1.2〜1.8重量%、Zn:5〜6重量%として含まれている。しかし、この場合、Mnの含量が0.1重量%以下であるため、アルミニウム合金ビレットの鋳造時にMnを含有しないままで、ビレットを製造することが一般的であり、またMnを含有させるとしても、極めてわずかであるために、自然亀裂を抑える程度に留まっている。このため、Al7021合金の場合、高い引張り強度にも拘わらず、低い延伸率により折曲げ加工時にひび割れが生じてしまう。これを解決するために、延伸率を高める目的でMnを付加しているが、Mnの好適な成分比を見出すことが困難であり、しかも、これにより折曲げ時にひび割れを抑えることが困難になるという不具合があった。
かかる状況であるために、7000系の高強度アルミニウム合金が各種の製品に自由に使用できず、高強度を要する自動車の一部の部品などに限って使用されていた。これは、アルミニウムの広範な使用範囲に大きな制限を伴うことになる。
自動車の一部の部品のうち、例えば、ヘッドレストを説明する。ヘッドレストは、車両の衝突時に運転者及び乗客の頭部を衝撃から保護する役割などを果たすものであって、ヘッドレストフレームにより車両のシートに装着されるようになっている。ヘッドレストフレームは、車両の衝突時にも変形などを回避するために高強度が求められるため、鉄鋼材から製作されているのが現状である。もっとも、車両の軽量化のためには高強度アルミニウム合金素材から製作することが好ましいが、高強度アルミニウム合金の場合は、上述したように、折曲げ時にひび割れなどが生じるなどの不具合により車両のヘッドレストフレームに適用することができなかった。
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、Al−Zn−Mg系のアルミニウム合金を基本組成とするが、ここにMnが付加され、且つ、ZnとMgが所定の範囲に留められたアルミニウム合金ビレットを鋳造し、この鋳造されたビレットを押出後にT6熱処理により強度を高めた後、170℃〜180℃の温度下で1時間〜3時間に亘って人工時効硬化させる過時効熱処理をさらに行うことにより、折曲げ時にもひび割れが生じない、加工性が向上した高強度アルミニウム合金素材及びその製造方法を提供するところにある。
さらに、本発明の他の目的は、前記アルミニウム合金素材を折曲げ加工して得られる自動車用のヘッドレストフレームを提供するところにある。
かかる目的を達成するために、本発明は、Si:0.1重量%以下、Fe:0.2重量%以下、Cu:0.07〜0.15重量%、Mn:0.1〜0.15重量%、Mg:1.2〜1.3重量%、Cr:0.07〜0.12重量%、Zn:5.7〜5.9重量%、Ti:0.015〜0.04重量%、不可避な不純物:0.15重量%以下を含有し、且つ、残部がAlよりなるアルミニウム合金をビレットに鋳造する段階と、前記鋳造されたビレットを所定の形状に押出して押出品を得る段階と、前記押出品を固溶体化処理した後、人工時効硬化させるT6熱処理段階と、前記押出品を170℃〜180℃の温度下、1時間〜3時間に亘って人工時効硬化させる過時効熱処理段階と、を含むことを特徴とする、加工性が向上した高強度アルミニウム合金素材の製造方法を提供する。
また、前記T6熱処理段階において、前記押出品の固溶体化処理過程と人工時効硬化処理過程との間に、さらに所定の製品の形状に合わせて引抜き作業を行う場合に、引抜き比を4%にすることを特徴とする、加工性が向上した高強度アルミニウム合金素材の製作方法を提供する。
さらに、前記製作方法により製作された加工性が向上した高強度アルミニウム合金素材と、これを用いて製作された自動車用のヘッドレストフレームを提供する。
本発明によれば、Al−Zn−Mg系のアルミニウム合金を基本組成とするが、ここにMnが付加され、且つ、ZnとMgが所定の範囲に留められたアルミニウム合金ビレットを鋳造し、この鋳造されたビレットを押出後にT6熱処理により強度を高めた後、170℃〜180℃の温度下で1時間〜3時間に亘って人工時効硬化させる過時効熱処理をさらに行うことにより、折曲げ時にもひび割れが生じない、加工性が向上した高強度アルミニウム合金素材及びその製造方法を提供し、且つ、これを用いて製作された自動車用のヘッドレストフレームを提供することにより、鉄鋼製品の代わりに、高強度のアルミニウム合金が、自動車の部品などの各種の折曲げ加工が必要な製品に適用可能になることから、輸送機械の軽量化及び資源回収率の増加を両立でき、その結果、省力及び環境汚染の防止効果が得られる。
以下、添付図面に基づき、本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。本発明を説明するに当たって、関連する公知の構成または機能に関する具体的な説明が本発明の要旨を曖昧にする恐れがあると認められる場合には、その詳細な説明を省く。
本発明は、従来のAl−Zn−Mg系の合金Al7021を基本組成とするが、伸び率の向上のために遷移元素としてのMnを付加し、強度と加工性の両立化のためにMgとZnの含量をAl−Zn−Mg系の合金の基本的な成分比内で一定の範囲に制限すると共に、熱処理方法において、従来のT6熱処理方法に過時効人工時効硬化過程をさらに追加することを特徴とする。
先ず、本発明による主な遷移元素の成分比と関連する特徴を説明する。
背景技術の欄に既述されているように、その他の少量の合金成分を除く7000系のアルミニウム合金の主な合金成分Mn、Mg、Znは、従来のAl7021合金の場合、Mn:0.1重量%以下、Mg:1.2〜1.8重量%、Zn:5〜6重量%の成分比で含まれている。また、アルミニウム協会により公示された物性値は、引張り強度約420MPa、延伸率約13%である。このため、Al7021合金の場合、高い引張り強度にも拘わらず、低い延伸率により折曲げ加工時にひび割れが生じる。
本発明においては、ビレットの鋳造時にアルミニウム合金にMnをさらに付加して伸び率を高めている。遷移元素Mnは、合金内で粒子を球状化させて伸び率の向上に寄与するが、成分比が上がると、加工性が低下して金型あるいは加工機械に摩耗を生じさせる。このため、本発明によるMnの成分比は0.1〜0.15重量%、つまり、伸び率は高めるが、加工性に影響しない範囲にする。
下記表1は、本発明に従いMnを0.1〜0.15重量%でさらに付加した場合、従来のAl7021合金と比較して引張り強度はそのままであるが、延伸率が向上している結果を示す。
また、本発明によるZnとMgの成分比について述べる。ZnとMgは合金の強度にあずかる遷移元素であって、強度を高める目的で含有されている。ところが、Mg成分の増加は、合金の加工時に硬化現象を促すために、加工性が低下し、且つ、製品のサイズや形状によっては、押出を不可にする場合もある。これを防止するために、本発明によるアルミニウム合金は、Mgの成分比を1.2〜1.3重量%と最小化している。さらに、Znは、合金の強度の面からは、最大化させることが好ましいが、その成分比が6重量%以上の場合は、テストの結果、折曲げ加工時にひび割れが生じてしまう。これは、ZnがMgと結合してMgZnを形成するが、Mgと結合できずに残ったZnが不純物として合金内に存在し、ひび割れの原因になると見られる。このため、Znの成分比は6重量%未満、好ましくは、上位範囲の5.7〜5.9重量%にする。
図1は、Znの成分比が6重量%以上の場合と、5.9重量%以下の場合における、アルミニウム合金の結晶組織を示す断面図である。図1によれば、本発明によるZnが5.9重量%以下のアルミニウム合金の場合に、組織が均一に形成されており、Znが6重量%以上のアルミニウム合金の場合は、組織感にバラツキがある。
要するに、その他の少量の遷移元素の成分比を除く主な合金成分Mn、Mg、Znの成分比は、Al7021合金の成分比と比較して、Mnを0.1〜0.15重量%さらに含有させ、Mgを下位範囲の1.2〜1.3重量%にし、且つ、Znを上位範囲の5.7〜5.9重量%にしている。
これにより、本発明の好適な一実施の形態による、折曲げ加工時に加工性が向上したアルミニウム合金に対する鋳造ビレットは、Si:0.1重量%以下、Fe:0.2重量%以下、Cu:0.07〜0.15重量%、Mn:0.1〜0.15重量%、Mg:1.2〜1.3重量%、Cr:0.07〜0.12重量%、Zn:5.7〜5.9重量%、Ti:0.015〜0.04重量%、不可避な不純物:0.15重量%以下を含有し、残部がAlよりなる。
次いで、本発明の熱処理工程の特性について説明する。
上述した如きアルミニウム合金に、析出硬化作用により引張り強度を高めるための従来のT6熱処理を行った場合(すなわち、アルミニウム合金を固溶体化後に水中で急冷させ、さらに約120℃の温度下で約24時間加熱して人工時効硬化させた場合)に、熱処理による引張り強度の増加、Mnの付加による伸び率の向上は得られるものの、折曲げ加工時にひび割れが生じる。特に、テストの結果、本発明による成分比をもつ円筒バーのアルミニウム合金製品の場合、U曲げ時における折曲げ部でひび割れが生じていた。また、ロール曲げによる折曲げ製品よりも、円筒バーに衝撃が加わるプレス曲げによる折曲げ製品の方で、ひび割れの発生率が著しく高く現れた。
これは、折曲げ加工のためにアルミニウム合金の成分比を調整して伸び率を高めても、依然として前記円筒バーはプレス加工などの衝撃に弱く、その結果として、折曲げ加工時にひび割れが生じると見られる。熱処理による衝撃強度の比較の結果は、下記表2に示す。
このため、本発明による熱処理方法においては、T6熱処理後に、すなわち、約120℃の温度下で約24時間加熱して人工時効硬化させた後に、さらに約170〜180℃の温度下で1時間〜3時間加熱して過時効硬化させている。この過時効硬化熱処理過程により、アルミニウム合金の粒径の組織が粗大化して、外部からの衝撃エネルギーが隣り合う粒界に早く伝達できず、しかも各粒界における衝撃エネルギーの吸収率が高くなる結果、衝撃エネルギーが内部で吸収されてひび割れの発生が抑えられる。
下記表2は、熱処理方法の比較のために、本発明による成分比を持つアルミニウム合金と、従来のAl7021合金の主な合金成分に対する成分組成を示している。また、下記表3は、下記表2の各試片に対し、本発明による熱処理方法により熱処理を行ったアルミニウム合金と、T6熱処理方法により熱処理を行ったアルミニウム合金及び従来の7000系のアルミニウム合金の物性値及び衝撃エネルギーの吸収率を比較して示す。
上記表3から明らかなように、本発明による過時効熱処理を行った試片1の場合、本発明によるアルミニウム合金に従来のT6熱処理を行った試片2の場合と比較して、延伸率には大した変化がなく、引張り強度がやや減っているが、衝撃エネルギーの吸収量が大幅に増加している。また、従来のAl7021合金と比較したとき、引張り強度がやや減っているが、延伸率と衝撃エネルギーの吸収率ともに大幅に向上していた。要するに、引張り強度はやや減り、衝撃エネルギーの吸収量は大幅に増大することにより、本発明により製作されたアルミニウム合金は高強度アルミニウム合金であって、折曲げ加工時にもひび割れが生じないという特性をもつ。
さらに、本発明による過時効熱処理方法においては、加熱温度は170〜180℃であるが、これは、テストの結果、合金の内部結晶組織のサイズが変化されて衝撃に強くなるように結晶粒界が粗大化するためには、加熱温度は170℃以上でなければならないためである。一方、加熱温度が180℃を超える場合は、衝撃エネルギーの吸収量は増大するが、引張り強度と延伸率が急減するため、7000系の合金の性質である高強度特性を維持できなくなる。また、本発明による過時効熱処理方法においては、加熱時間は1〜3時間であるが、これは、170〜180℃の温度での加熱時に合金の内部まで十分に結晶組織を変化させるためには、1時間以上の加熱時間が必要となるためである。一方、加熱時間が延びるほど、引張り強度と延伸率が低下するため、3時間以上の加熱時には合金の高強度特性を維持できなくなる。
一方、本発明による熱処理方法は、T6熱処理後に、すなわち、固溶体化処理後に、約120℃で約24時間加熱して人工時効硬化させた後、さらに過時効熱処理を行っても良いが、好ましくは、固溶体化処理後に約120℃で約20時間加熱して人工時効硬化させた後、さらに過時効熱処理を行うことにより、熱処理時間を短縮しても良い。
図2は、本発明による、加工性が向上した高強度アルミニウム合金素材の製作工程を簡略に示すフローチャートである。
先ず、本発明によるアルミニウム合金ビレットを鋳造し(S01)、所定の製品の形状に合わせて押出した後(S02)、T6熱処理、つまり、固溶体化処理(S03)と人工時効硬化処理(S05)を行う。このとき、製品のサイズや精度などによっては、必要に応じて、固溶体化処理(S03)後に引抜き(S04)過程を経る。これは、押出の形状だけでは寸法の精度や目的の公差が維持できない場合、引抜き過程を再度行うことにより、精度良い製品の形状が得られるためである。こうして引抜き(S04)と人工時効硬化処理(S05)の過程を経た後、本発明による過時効硬化処理(S06)を施し、目的の製品に合わせて所定の折曲げ加工(S07)を行う。
本発明の一実施の形態による引抜き(S04)過程を経る場合、この引抜きがアルミニウム合金の引張り強度と延伸率に影響するため、これについて説明する。
引抜きは冷間加工の一種であって、金属に冷間加工を行う場合、冷間加工による加工硬化現象が起こり、これにより、強度が向上する結果となる。しかし、延伸率が低下するなどの不都合があるため、折曲げ加工時にひび割れが生じる恐れがある。
このため、引抜き加工を行うに当たり、引抜き前の断面積に対する引抜き後の断面積の縮小比である引抜き比が、引抜き後の物性値と関連して重要な要因になる。テストの結果、本発明による引抜き比を4%にしたとき、延伸率が大幅に減ることが防止可能になる。引抜き比のテストは、10mm径の円筒バーを対象として行った。下記表4は、各引抜き比による引張り強度と延伸率の変化を示している。これより、引抜き比が4%である場合に、所定の範囲以上に強度が上がり、しかも、折曲げ加工時にひび割れが生じないような延伸率が維持可能になることが分かる。
上記表4から明らかなように、引抜き比を上げるほど引張り強度が高くなると共に、延伸率が下がるが、引抜き比が4%以上の場合は延伸率が急減するため、本発明による引抜き比を4%に留めて引抜き加工を行うことが好ましい。
従って、アルミニウム合金ビレットを所定の製品に押出して(S02)得られた押出品は、引抜き(S04)過程中に引抜き比4%に従いさらに精度よく縮小するため、押出に際してこれを考慮する必要がある。
図3は、本発明の一実施の形態に従い製作された自動車用のヘッドレストフレームの一例を示す斜視図である。
自動車用のヘッドレスト10は、車両の運転者及び乗客の首部を支えることにより、運転者及び乗客にくつろぎを与え、同時に事故の発生時には運転者及び乗客の頭部への衝撃を吸収する役割をも果たす。
ヘッドレスト10は弾性材から形成され、自動車シートの背もたれ40の上端に組み付けられて乗客の首部を支える。また、ヘッドレスト10の内部にはこれを保持するヘッドレストフレーム20が挿入され、ヘッドレストフレーム20の両端部がシートの背もたれ40の上端に穿設されている2つの係合孔30に嵌合されることにより、ヘッドレスト10がシートに脱着自在に組み付けられている。
ヘッドレストフレーム20は、円筒バーを同じ方向に2回折り曲げて「U」字状にしたものであり、ヘッドレストフレーム20の両端部がシートの背もたれの上端の両係止孔30に嵌合され、折り曲げられた円筒バーの中央部がヘッドレスト10の内部に挿入されてヘッドレスト10を保持するような構造となっている。
本発明の好適な一実施の形態によるヘッドレストフレーム20は、図2に示す製造工程に従い製作された高強度アルミニウム合金材質のものであって、円筒バー型のアルミニウム合金素材を2回折り曲げてなる。このため、従来より自動車に採用されていた鉄鋼材製のヘッドレストフレームと同じ強度を維持すると共に、それよりも軽量である。
また、本発明によるヘッドレストフレーム20は、中空の筒状パイプ型のアルミニウム合金素材を2回折り曲げて製作することも可能である。
図4A及び図4Bは、本発明の一実施の形態によるヘッドレストフレームの一例を示す斜視図である。
図4Aは、図3と同様の「U」字状のヘッドレストフレーム21の上部中央に「T」字状のプレート22を取り付けることにより、ヘッドレストに対するヘッドレストフレーム21の保持力を補強している構造を示す。
図4Bは、図3と同様に「U」字状に折り曲げられた円筒バーの中央部を「U」字状の円筒バーがなす面とは垂直な方向に2回さらに折り曲げて、ヘッドレストに対するヘッドレストフレーム23の保持力を補強している構造を示す。
本発明の一実施の形態によるヘッドレストフレームは、本発明によるアルミニウム合金素材から製作されるところにその特徴があるため、本発明の一実施の形態によるヘッドレストフレームは、従来公知の任意の形状に製作可能である。
以上の説明は、単に本発明の技術的な思想を例示的に説明するものに過ぎず、本発明が属する技術分野における通常の知識をもった者であれば、本発明の本質的な特性から逸脱しない限り、種々な修正と変形が可能であろう。よって、本発明に開示された実施の形態は、本発明の技術思想を限定するよりは、説明するためのものであり、これらの実施の形態により本発明の技術思想の範囲が限定されることはない。本発明の保護範囲は、特許請求の範囲によって解釈さるべきであり、また、これと同じ範囲内にあるあらゆる技術的な思想は、本発明の権利範囲に含まれるものとして解釈さるべきである。
Znの成分比が6重量%以上の場合と、5.9重量%以下の場合における、アルミニウム合金の結晶組織を示す断面図。 本発明による、加工性が向上した高強度アルミニウム合金素材の製作工程を簡略に示すフローチャート。 本発明の一実施の形態に従い製作された自動車用のヘッドレストフレームの一例を示す斜視図。 本発明の一実施の形態によるヘッドレストフレームの一例を示す斜視図。 本発明の一実施の形態によるヘッドレストフレームの他の一例を示す斜視図。
符号の説明
10:ヘッドレスト
20:ヘッドレストフレーム
30:係止孔
40:シートの背もたれ
21:ヘッドレストフレーム
22:プレート
23:ヘッドレストフレーム

Claims (4)

  1. Si:0.1重量%以下、Fe:0.2重量%以下、Cu:0.07〜0.15重量%、Mn:0.1〜0.15重量%、Mg:1.2〜1.3重量%、Cr:0.07〜0.12重量%、Zn:5.7〜5.9重量%、Ti:0.015〜0.04重量%、不可避な不純物:0.15重量%以下を含有し、且つ、残部がAlよりなるアルミニウム合金をビレットに鋳造する段階と、
    前記鋳造されたビレットを所定の形状に押出して押出品を得る段階と、
    前記押出品を固溶体化処理した後、人工時効硬化させるT6熱処理段階と、
    前記押出品を170℃〜180℃の温度下、1時間〜3時間に亘って人工時効硬化させる過時効熱処理段階と、
    を含むことを特徴とする、加工性が向上した自動車用のヘッドレストフレーム用高強度アルミニウム合金素材の製造方法。
  2. 前記T6熱処理段階は、
    前記押出品を固溶体化処理した後、所定の製品の形状に合わせて引抜き作業を行い、次いで、人工時効硬化させることにより行われることを特徴とする、請求項1に記載の加工性が向上した自動車用のヘッドレストフレーム用高強度アルミニウム合金素材の製造方法。
  3. 前記引抜き作業において、
    引抜き前の断面積に対する引抜き後の断面積の縮小比である引抜き比が4%となることを特徴とする、請求項2に記載の加工性が向上した自動車用のヘッドレストフレーム用高強度アルミニウム合金素材の製造方法。
  4. 前記T6熱処理段階において、
    人工時効硬化過程は、120℃下、20時間加熱することにより行われることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の、加工性が向上した自動車用ヘッドレストフレーム用高強度アルミニウム合金素材の製造方法。
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