JP5464869B2 - Sn被覆銅又は銅合金及びその製造方法 - Google Patents

Sn被覆銅又は銅合金及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、自動車、携帯電話、パソコン等の民生機器の制御基板、コネクタ、リードフレーム、リレー、スイッチに用いられる端子、バスバー材として好適な耐熱性及び低挿入力性に優れたSn被覆銅又は銅合金及びSn被覆銅又は銅合金の製造方法に関する。
従来より、自動車用の端子、民生用の端子、バスバー材などに用いられる銅又は銅合金には、接触信頼性、耐食性、はんだ付け性、経済性の観点から、Snが被覆されている。このようなSn被覆の方法としては電気めっきが主流であり、電気めっきの直後に、内部応力を除去してウイスカ発生を抑制する効果のあるリフロー処理(Sn溶融処理)を施しているのが一般的である。
リフロー処理されるSnの電気めっきは、膜成長速度の面から硫酸Sn浴や有機酸浴等の酸性浴が多く用いられている。しかし、このような酸性浴を用いた方法では、電析する結晶粒が粗大になりやすく、リフロー処理後の外観もSn結晶粒の溶けムラによる曇りが発生しやすいという問題がある。曇りを強制的に排除するため、リフロー処理の熱量を上げて対応する手法が考えられるが、特に板厚が0.5mm以上と厚いものの熱量を上げるためには、多大な設備増強が必要となり、イニシャルコスト、ランニングコストの増大につながるという問題がある。また、リフロー処理時間を増やして対応する方法もあるが、この場合は生産性が低下し、結果としてコストの増大につながる。
これらの課題を解決する手段として、結晶粒を微細にするためSnめっき浴中への光沢剤の添加が考えられるが、実際にはめっき中に取り込まれた光沢剤によりリフロー処理時にSnめっき表面が変色してしまうため、現実的ではない。また、結晶粒を微細化するのではなく、Snめっき後水洗した材料を、リン酸化合物、カルボン酸、硫酸、塩酸、酸系Snめっき液(硫酸系、スルファミン酸系等)、硫酸亜鉛等を所定の濃度で含む液中に浸漬又はスプレー等による塗布を行って表面改質を行い、その後リフロー処理する技術が提案されている(特許文献1〜6参照)。これらの提案は、基本的には、Snめっき後のSnの酸化物及びSnの水酸化物をリフロー処理前に減少させ、リフロー処理後に薄いSn酸化物のみ、又は別の酸化物(亜鉛酸化物等)の皮膜を形成するものである。
また、前記リフロー前処理は、薬品が必要であること、濃度範囲に制限があるため管理面の負荷が増大してしまうことから、コストアップとなってしまう。また、濃度調整を失敗してしまうと、リフロー処理直後は外観上判らないが、表面の残渣物(硫酸系薬品使用時の硫黄分残留等)の影響で、経時変化により端子等として使用される頃に部分的な変色・腐食や接触抵抗値の増加といった問題が生じるおそれがある。更に、上記先行技術文献の多くは溶液付着後、水洗工程や乾燥工程を必要とし、工程が長くなり、管理面の増加が生じるという問題もある。
特開昭63−250491号公報 特開2005−139503号公報 特開2008−248332号公報 特開2007−56286号公報 特開平5−9785号公報 特開平6−10184号公報
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、表面の曇りがなく、高温環境に放置された後の接触抵抗値上昇抑制及び変色抑制が図れ、耐熱性及びはんだ濡れ性に優れたSn被覆銅又は銅合金、及び工場内で通常使用されている水を使用でき、余計な水洗や乾燥の工程を必要としないため、新たな設備投資、試薬購入、及び液管理のコストがかからない効率のよいSn被覆銅又は銅合金の製造方法を提供することを目的とする。
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 最表面に存在する酸素原子(O)の存在形態をESCA(X線光電子分光装置)で分析した際に、酸素原子(O)の1s軌道の結合エネルギーのピークのトップが531eV以上532eV以下にあり、Sn層の厚みが0.4μm以上2.0μm以下であることを特徴とするSn被覆銅又は銅合金である。
<2> 最表面に存在する酸素原子(O)の存在形態が、Snの水酸化物の形態である前記<1>に記載のSn被覆銅又は銅合金である。
<3> Sn層の内側に厚み0.3μm〜2.0μmのCu−Sn拡散層を有する前記<1>から<2>のいずれかに記載のSn被覆銅又は銅合金である。
<4> Sn層の内側に厚み0.1μm〜1.5μmのNi−Sn拡散層を有する前記<1>から<3>のいずれかに記載のSn被覆銅又は銅合金である。
<5> Sn層の組織が、溶融凝固組織である前記<1>から<4>のいずれかに記載のSn被覆銅又は銅合金である。
<6> Sn層の表面を反射濃度計で測定した光学濃度が1.0以上である前記<1>から<5>のいずれかに記載のSn被覆銅又は銅合金である。
<7> 銅又は銅合金に厚み0.5μm〜3μmのSn層を電気めっきにより被覆した後、該Sn層表面に電気伝導度600μS/cm以下の水を付与し、該付与した水を乾燥させずにリフロー処理を行うことを特徴とするSn被覆銅又は銅合金の製造方法である。
<8> 銅又は銅合金にSn層を被覆する前に、厚み0.1μm〜1.5μmのNi及び/又はCuの下地層を被覆する前記<7>に記載のSn被覆銅又は銅合金の製造方法である。
<9> 水の付与量が、1mg/dm以上である前記<7>から<8>のいずれかに記載のSn被覆銅又は銅合金の製造方法である。
<10> 水のpHが、4.5〜9.5である前記<7>から<9>のいずれかに記載のSn被覆銅又は銅合金の製造方法である。
<11> リフロー処理時の被リフロー材の昇温速度が、10℃/s(秒)以上である前記<7>から<10>のいずれかに記載のSn被覆銅又は銅合金の製造方法である。
<12> 前記<1>から<6>のいずれかに記載のSn被覆銅又は銅合金を用いたことを特徴とする電気・電子部品である。
本発明によると、従来における諸問題を解決でき、表面の曇りがなく、高温環境に放置された後の接触抵抗値上昇抑制及び変色抑制が図れ、耐熱性及びはんだ濡れ性に優れたSn被覆銅又は銅合金、及び工場内で通常使用されている水を使用でき、余計な水洗や乾燥の工程を必要としないため、新たな設備投資、試薬購入、及び液管理のコストがかからない、むしろ低減した効率のよいSn被覆銅又は銅合金の製造方法を提供することができる。
(Sn被覆銅又は銅合金)
本発明のSn被覆銅又は銅合金は、銅又は銅合金にSn層を被覆してなり、更に必要に応じてその他の層を有してなる。
本発明においては、最表面に存在する酸素原子(O)の存在形態をESCA(X線光電子分光装置)で分析した際に、酸素原子(O)の1s軌道の結合エネルギーのピークが531eV以上532eV以下にある。これにより、最表面にSnの水酸化物の形態で存在することが分かる。
最表面の酸素原子の存在形態は、ESCA分析(X線光電子分光分析)を用いて調べることができる。例えば、X線光電子分光装置(アルバック・ファイ株式会社製、ESCA5800)を使用し、定性分析(表面から十数nmの深さまでの分析)、状態分析(表面から十数nmの深さまでの分析)、分析エリア直径800μm、深さ方向の分析(深さはSiO換算)の結果から、酸化物か水酸化物かの判定を実施できる。
即ち、深さ方向分析により、最表層から深さ方向にどこまで酸素原子が存在するかを測定する。このままでは酸素原子が酸化物と水酸化物のいずれかまでは判定できないため、表面の状態分析も行い、酸素原子(O)の1s軌道の結合エネルギーのピークのトップが531eV以上532eV以下にある場合には水酸化物が存在すると判定することができる。同様に、酸素原子(O)の1s軌道の結合エネルギーのピークのトップが531eV未満にある場合は、酸化物と判定することができる。表面に存在する金属元素がSnであることから、上述の酸素の結合エネルギーのピークのトップで水酸化物と判定されたものはSn水酸化物、酸化物と判定されたものはSn酸化物が存在していると判定する。
最表面に存在する酸素原子(O)の存在形態としては、Snの水酸化物の形態であることが、端子等の製品として使用される際の酸化膜成長抑制の点から好ましい。該Snの水酸化物の形態としては、例えばSn(OH)、Sn(OH)、SnO・nHOなどが挙げられる。
また、本発明においては、Sn被覆銅又は銅合金の表面を反射濃度計で測定した光学濃度は、1.0以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましい。前記光学濃度が、1.0未満であると、外観不良となることがある。
前記Sn層の組織が、Sn被覆後のリフロー処理により形成される溶融凝固組織であることが、ウイスカ抑制の点で好ましい。
ここで、前記Sn層とは、Sn酸化物、Sn水酸化物及びCu−Sn、Ni-Sn化合物層を含まない実質的にSnのみからなる層を意味し、前述のESCA分析や後述する電解式膜厚計、SIM(走査イオン顕微鏡)等で区別できる。
前記Sn層の組織が、溶融凝固組織であることは、断面SEM観察(倍率:5,000倍〜10,000倍)により結晶粒界がほとんど観察されないことから判別することができる。また、別の表現をすると、Sn層の組織が溶融凝固組織である場合、該断面SEM観察による平均結晶粒径は5μm以上である。これに対し、電気めっきなどによる電析組織(リフロー処理していない)のSn層の平均結晶粒径は0.1〜3μmであり、明確に区別できる。なお、結晶粒径は切断法による測定とした。
前記Sn被覆銅又は銅合金としては、最表層にSnめっきを行った条材、線材;プレス打抜き等を行った後の最表層にSnめっきを行ったプレス後の条材、端子などが挙げられる。
前記銅又は銅合金としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、純銅(C1020、C1100)、リン脱酸銅(C1220)等のCu系;丹銅、黄銅(C2600、C2680等)、Sn入り黄銅(C44250等)等のCu−Zn系;リン青銅系(C5110、C5191、C5210、C5240等)、Cu−Ni−Sn−P系(C19020、C19020、C19025等)、Cu−Ni−Si系(C7025、C64745等)、Cu−Fe系(C194、C19220、C19010、C19720等)、などが挙げられる。なお、その他の組成系の銅合金、Fe−Ni系、純Ni系、ステンレス系、Al系でも、最表層にSnめっきを施した後にリフロー処理される場合は本発明を適用することができる。
銅又は銅合金に被覆する膜は、最表面をSnで仕上ればよく、その下地には、密着性強化、素材成分の拡散抑制によるウイスカ抑制、耐熱性向上、はんだ濡れ性の向上の観点から、単純にSnを1層被覆する他に、Cu下地層を設けたり、Ni下地層を設けることができる。より耐熱性を向上させるための手段として、Ni、Cu、Snの順に被覆を行うことが好ましい。
前記Sn層の被覆方法としては、電気めっき、無電解めっき、溶融浸漬、蒸着、スパッタリングなどが挙げられる。これらの中でも、厚さの制御に優れ、コスト的にも有利である点で電気めっきが特に好ましい。また、Snめっき中に、AgやPb等を0〜10質量%の範囲で含有させても同様の効果が得られる。
前記Sn層の厚みは、0.4μm〜2.0μmであり、0.5μm〜1.5μmが好ましい。前記Sn層の厚みが、0.4μm未満であると、所望の外観や接触抵抗等の特性が得られないことがあり、2μmを超えると、本発明のSn被覆銅又は銅合金をコネクタ端子としたときに端子の挿抜性が劣り、まためっきの生産性の低下や原料が多くかかるのでコストが高くなることがある。
前記Sn層の内側に厚み0.3μm〜2.0μmのCu−Sn拡散層を有することが好ましく、0.4μm〜1.5μmがより好ましい。前記厚みが、0.3μm未満であると、拡散層の内側にある下地や素材の成分の拡散を抑制するのに十分ではなく、2.0μmを超えると、拡散層が硬いため、端子等へ成形する際に割れの起点になりやすくなることがある。なお、前記厚みが1.5μm以下であれば、曲げ加工性が向上するので、コネクタ端子等の電気・電子部品のように曲げ加工を要する用途に好ましい。
前記Cu−Sn拡散層としては、例えばCuSnからなる層などが挙げられる。
前記Sn層の内側に厚み0.1μm〜1.5μmのNi−Sn拡散層を有することが好ましく、0.2μm〜1.0μmがより好ましい。前記厚みが、0.1μm未満であると、拡散層の内側にある下地や素材の成分の拡散を抑制するのに十分ではなく、1.5μmを超えると、拡散層が硬いため、端子等へ成形する際に割れの起点になりやすくなることがある。なお、前記厚みが1.0μm以下であれば、曲げ加工性が向上するので、コネクタ端子等の電気・電子部品のように曲げ加工を要する用途に好ましい。
前記Ni−Sn拡散層としては、例えばNiSnからなる層などが挙げられる。
前記Sn層の内側に厚み0.1μm〜1.5μmのNi層を有することが好ましく、0.2μm〜0.7μmがより好ましい。前記厚みが、0.1μm未満であると、Ni層の内側にある下地や素材の成分の拡散を抑制するのに十分ではなく、1.5μmを超えると、Ni層が硬いため、端子等へ成形する際に割れの起点になりやすくなることがある。なお、前記厚みが0.7μm以下であれば、曲げ加工性が向上するので、コネクタ端子等の電気・電子部品のように曲げ加工を要する用途に好ましい。
前記Sn層、Cu−Sn拡散層、及びCu層の厚みは、例えば電解式膜厚計(中央製作所製、THICKNESS TESTER TH11)を用いて測定することができる。
前記Ni層、及びNi−Sn層の厚みは、例えばFIB(集束イオンビーム)を用いてめっき断面を露出させ、SIM(走査イオン顕微鏡)で断面観察を行ってその色のコントラストの違いから各層を判別でき、厚さを測定することができる。
なお、(1)表面からSn層、Cu−Sn層、及び素材(銅又は銅合金)の順、(2)表面からSn層、Cu−Sn層、Ni層、及び素材の順、又は(3)表面からSn層、Ni−Sn層、Ni層、及び素材の順の構成になっていることが好ましい。
(Sn被覆銅又は銅合金の製造方法)
本発明のSn被覆銅又は銅合金の製造方法は、銅又は銅合金に厚み0.8μm〜2μmのSn層を電気めっきにより被覆した後、該Sn層表面に電気伝導度600μS/cm以下、pHが4.5〜9.5の水を1mg/dm 以上付与し、該付与した水を乾燥させずに、被リフロー材の昇温速度が、10℃/s以上でリフロー処理を行うものである。前記Sn層の厚みが、0.8μm未満であると、リフロー処理後に所望の外観や接触抵抗等の特性が得られないことがあり、μmを超えると、リフロー処理後に本発明のSn被覆銅又は銅合金を例えばコネクタ端子に加工したときに端子の挿抜性が低下し、まためっきの生産性の低下、原料費が多くかかりコスト高となることがある。
まず、銅又は銅合金の表面にSn層を被覆する前に、0.1μm〜1.5μmの厚さのNi及び/又はCu(即ちNi、Cuの少なくとも一方)の下地層を被覆することが好ましく、厚さが0.1μm以上であればリフロー処理等加熱された場合に素材中の成分である例えばCu,Zn等が表層へ拡散してくるのを抑制でき、即ち耐熱性向上の点で好ましい。前記Ni及び/又はCuの下地層は、0.2μm〜1.0μmの厚さであることがより好ましい。
前記Ni及び/又はCuの下地層は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、電気めっきにより被覆することが、リフロー処理後においても十分な特性を有し、安価に形成できるため好ましい。NiとCuの両方を下地層にする場合は、素材側からNi、Cu、及びSnの順に被覆することが好ましい。
前記Niめっきは、例えば複塩浴、普通浴、回転浴、高硫酸塩浴、ワット浴、全塩化物浴、硫酸塩−塩化物浴、全硫酸塩浴、高質浴、ストライクニッケル浴、スルファミン酸ニッケル浴、ほうふっ化ニッケル浴などの浴で行うことが好ましい。
前記Cuめっきは、例えば硫酸銅浴、ほうふっ化銅浴、シアン化銅浴、ピロリン酸銅浴などの浴で行うことが好ましい。
なお、各めっき浴ともに光沢剤を添加してもしなくてもよいが、光沢剤を添加しない方が変色の抑制の点で好ましい。
各めっきの厚さは電着時間により調整することができる。
次に、厚みが0.5μm〜3μm(好ましくは0.8μm〜2μm)のSn層を電気めっきにより被覆する。
前記Snめっきは、例えばアルカリ性浴、硫酸浴、塩酸浴、スルフォン酸浴、シアン性浴、ピロリン酸浴、ほうふっ化浴などの浴で行うことが好ましい。
なお、前述の通り、Ni、Cuのめっきは目的特性に応じて省略してもよい。
次に、電気伝導度600μS/cm以下の水をSn層表面に付与し、該付与した水を乾燥させずにリフロー炉に投入してリフロー処理(加熱によるSn被覆層等の溶融凝固処理)を行う。
Sn層表面にリフロー処理前に付与する水の付与量が1mg/dm以上であることが好ましく、3mg/dm〜300mg/dmであることがより好ましく、3mg/dm〜100mg/dmであることが更に好ましく、3mg/dm〜50mg/dmであることが特に好ましい。前記水の付与量が、1mg/dm未満であると、乾燥してリフロー処理されたものと同様に曇りが発生し、Snの表面には水酸化物が存在せず、酸化物のみの表面となり、所望の特性も得られない。ただし、300mg/dmを超えると、水酸化物は生成するが、気化熱によって溶融する際に必要とされる熱を奪われ、生産性が低下してしまう。
以上リフロー処理によって、Snめっき層は電析(電着)組織より溶融凝固組織に変化する。
前記水は、リフロー処理後に不純物が表面に残留して変色や腐食するのを防ぐため、電気伝導度が600μS/cm以下の水を使用することが好ましい。前記電気伝導度が600μS/cmを超える電気伝導度の高い水は金属元素等の不純物が多く、変色の原因となる虞がある。前記電気伝導度は、350μS/cm以下であることがより好ましい。
前記水のpHは、Snが両性金属で有り、酸性側、アルカリ性側でのSnの腐食を抑制するために、4.5〜9.5であることが好ましい。前記pHが4.5未満又は9.5を超えると、水付着時に両性金属であるSn層表面の腐食が発生し、リフロー処理後のSn層の外観でムラや曇りが発生する。以上より、純水はもちろん市水(水道水、工業用水など)も本発明に適用できる。
前記水の付与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば水槽への浸漬、スプレー等による噴霧、水を含んだロールとの接触、ロール表面等の材料接触部に巻いた吸水性の布や紙などのシートとの接触、などが挙げられ、それぞれの量に応じて水膜の厚さを制御すればよい。この水膜の形成は、電析や試薬の化学反応等を必要としていないので、処理に要する時間が負担となることはない。
水膜形成後、必要に応じて絞りロール、乾燥ブロワーを使用してもよいが、所定の水膜をSnめっき層表面に形成したままリフロー処理に移行することが肝要である。水膜による曇り抑制のメカニズムは、Snめっき層表面が加熱される際、Sn溶融時のSnの流動性を阻害する表面の酸化を抑制できているためであると推測している。
前記リフロー処理の加熱方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば熱風循環方式、赤外線、電気ヒーター、バーナー直火、などが挙げられる。
前記リフロー処理時の被リフロー材の物温は、室温からSnの融点232℃を超えるまでの昇温速度が10℃/s以上が好ましい。前記昇温速度が、10℃/s未満であると、表面の水膜が効果を発揮する前に乾燥(蒸発)してしまい、表面の酸化によりSn流動性が低下して曇りが発生することがある。また、リフロー処理後、Sn層表面に水酸化物が生成しない。更に、Snの溶融よりも素材や下地との拡散の方が優先され、表面に凹凸が発生し、外観光沢が失われる。また、大気中でのリフロー処理でも効果を発現でき、雰囲気によらず本発明の効果を発現することが可能であり、この点でも雰囲気ガスの削減、管理面のコスト削減に対して有効である。
リフロー処理してSn層の組織が溶融凝固組織となった後は、10秒以内に100℃以下まで冷却し、表面の冷却皺の発生を抑制することが好ましい。前記冷却の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば雰囲気ガスや大気の吹き付け、10℃〜90℃の水槽への浸漬、などが挙げられる。
本発明のSn被覆銅又は銅合金は、例えば自動車、携帯電話、パソコン等の制御基板、コネクタ、リードフレーム、リレー、スイッチ等に用いられる端子、バスバー材等の電気・電子部品として好適である。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
素材として、コネクタ用の端子やバスバー材として広く利用されている純銅(無酸素銅:C1020)で、ビッカース硬さが85(ミツトヨ株式会社製、ビッカース硬度計、荷重5kgfで測定)、表面粗さ(Ra)が0.21μm(Kosaka Laboratory Ltd.製、接触式表面粗さ計)の範囲であり、厚み0.5mmの板状部材を使用した。
前記板状部材を電解脱脂後、以下のようにしてSnめっきし、得られたSn層表面にスプレーイングシステムスジャパン株式会社製クイックフォッガーを使用してスプレー方式により10mg/dmの水膜形成を行った後に、以下のようにしてリフロー処理を行った。以上により、実施例1のSn被覆銅又は銅合金製品を作製した。
なお、Sn層表面の水膜の形成量は、前記スプレーの前後で板状部材の質量を電子天秤で秤量し、その差を板状部材(Sn層)の表面積で除すことにより求めた。
−Snめっき−
Snめっきは、硫酸Snを55g/L、硫酸80g/L、クレゾールスルホン酸40g/L、及びβナフトール1g/Lを添加した浴を使用し、浴温20℃、陰極電流密度3A/dmとし、厚さ0.8μmのSnの電気めっき層を前記板状部材の全面に形成した。
−リフロー処理−
リフロー処理は、近赤外線ヒーター(ハイベック社製)を使用し、大気雰囲気で行った。昇温速度の調整は、熱電対を取り付けたSnめっき付きの試験片(表面水付与無し)で予備試験を行い、近赤外線の出力コントローラを制御することによって行った。昇温速度40℃/s、最高到達温度は試験片の物温が280℃の範囲となるように制御し、5秒間保持した。リフロー処理後の冷却は、Sn溶融後10秒以内に40℃の水槽へ浸漬する方法を採用し、浸漬して10秒以内に100℃以下まで冷却した後、ブロワー乾燥を行った。
(実施例2〜8及び比較例1〜8)
実施例1において、表1に示すように、素材の板厚、Sn層の厚さ、下地層の種類と厚さ、水の付与量と電気伝導度とpH、及びリフロー処理時の昇温速度などを変えた以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜8及び比較例1〜8の製品を作製した。
Snめっきの前のCu下地めっき、Ni下地めっき、又はNi下地めっきの上のCu下地めっきは以下のように形成した。
−Cuめっき−
Cuめっきは、硫酸銅200g/L、及び硫酸50g/Lを添加した浴を使用し、浴温30℃、陰極電流密度3A/dmとし、所定の厚さのCuの電気めっき層を板状部材の全面に形成した。
−Niめっき−
Niめっきは、スルファミン酸ニッケル450g/L、塩化ニッケル微量、及びホウ酸30g/Lを添加した浴を使用し、pH4.0、浴温50℃、陰極電流密度5A/dmとし、所定の厚さのNiの電気めっき層を板状部材の全面に形成した。各めっきの厚さは電着時間により調整した。
次に、得られた各製品について、以下のようにして、各層の厚みの測定、及び各種評価試験を行った。結果を表1に示す。
<リフロー処理後の各層の厚み>
リフロー処理後の各層の厚みは、以下のようにして測定した。
・Sn層、Cu−Sn拡散層、及びCu層の厚みは、電解式膜厚計(中央製作所製、THICKNESS TESTER TH11)を用いて測定した。
・Ni層、及びNi−Sn拡散層の厚みは、FIB(集束イオンビーム)を用いてめっき断面を露出させ、SIM(走査イオン顕微鏡)で断面観察を行って測定した。
<Sn酸化物層又はSn水酸化物層の有無(水酸化物の有無)の判定、Sn酸化物層又はSn水酸化物層の厚さの測定>
Sn酸化物層又はSn水酸化物層の有無(水酸化物の有無)の判定、Sn酸化物層又はSn水酸化物層の厚さは、アルバック・ファイ株式会社製ESCA5800を使用して行った。
Sn酸化物層、又はSn水酸化物層の有無(水酸化物の有無)については、酸素原子の存在を定性分析で確認した後、酸素原子(O)の1s軌道の結合エネルギーの状態分析を行うことにより判定した。酸素原子(O)の1s軌道の結合エネルギーの状態分析の条件は以下の通りである。
・X線源: Al陽極線源(AlモノクロX線)、150W
・分析エリア: 直径800μm
・試料調整: 試料ホルダー上にセット
・光電子取出角: 45°
・パスエネルギー: 58.70eV
・測定時間: 6.75min
この条件でSn層表面(試料)を測定し、横軸を結合エネルギー、縦軸を光電子のカウント数c/s(カウントパーセカンド)とした図より、Oの1s軌道の結合エネルギーのピークのトップ(光電子のカウント数c/sが最大である部分、ピークの最大値)が531eV以上532eV以下にあるかどうかを判定した。酸素原子(O)の1s軌道の結合エネルギーのピークのトップが531eV以上532eV以下にある場合に水酸化物が存在すると判定した。同様に、結合エネルギーのピークのトップが531eV未満にある場合は、酸化物と判定した。上述の酸素の結合エネルギーのピークのトップで水酸化物と判定されたものはSn水酸化物、酸化物と判定されたものはSn酸化物が存在していると判定した。
また、Sn酸化物層又はSn水酸化物層の厚さは、X線源はAl陽極線源、150W、分析エリア直径800μm、試料ホルダー上に試料をセット、光電子取り出し角45°、Arスパッタエッチング速度は10nm/min(SiO換算)で行った。深さ方向分析により、最表層から深さ方向にどこまで酸素原子が存在するかにより厚さを測定した。なお、酸素原子の存在する厚さはどのサンプルも約3nm以下であった。
<外観光沢度>
マクベス社製の反射濃度計RD918を用いて、リフロー処理後製品の光学濃度を測定した。光学濃度の数値が高くなるほど、表面の光沢度が高いことを意味している。
<高温放置後の接触抵抗値の測定>
160℃で保持した恒温槽(大気雰囲気)に0時間(高温放置なし)、48時間、及び120時間保持した後、恒温槽から取り出し、20℃に制御された測定室で表面の接触抵抗値を測定した。接触抵抗値は、株式会社山崎精機研究所製のマイクロオームメータ YMR−3を使用し、開放電圧20mV、電流10mA、直径0.5mmのU型金線プローブ、最大荷重100gf、摺動無しの条件で試験数(N=5)の測定を行い、その平均値を求めた。
<180°密着曲げ試験>
リフロー処理後の製品から幅10mm、長さ40mmの試験片を切り出し、中央部で折り曲げ、圧縮試験機を用いて10kNの負荷を与えて5秒間保持し、除荷後に曲げ部外側表面をマイクロスコープで100倍にして観察し、割れ部の有無を観察し、下記基準で評価した。
〔評価基準〕
○:割れがなかった
×:割れが生じた
<はんだ濡れ性試験>
リフロー処理後の製品を幅2mm、長さ50mmにプレスで打抜き、85℃、85%RHの条件下で48時間放置した後に、250℃で保持したPbフリーはんだ(Sn−3.0Ag−0.5Cu;単位質量%)槽に4mm浸漬して、めっき面の外観観察により、はんだに浸漬した表面積に対するはんだの濡れた部分の面積、即ちはんだ濡れ率を求めた。この際の浸漬速度は25mm/s、はんだ槽内での保持時間は10秒間で行った。
<溶融凝固組織>
Sn層の断面のSEM観察(倍率5,000倍)により結晶粒界がほとんど観察されず、平均結晶粒径が5μm以上である場合に溶融凝固組織であると判断した。なお、リフロー処理前(電気めっき後)のSn層の平均結晶粒径は0.1〜3μmであった。結晶粒径はJIS H0501の切断法により測定とした。
〔評価基準〕
○:リフロー処理後、溶融凝固組織である
×:リフロー処理後、溶融凝固組織でない
Figure 0005464869
*比較例5の水の付与量は、水を10mg/dm付与後、ブロワー乾燥で表面の水分量をゼロにした。
Figure 0005464869
表1の結果から、実施例1〜8は、電気めっきされたSn層の厚さが0.5μm〜3.0μmの範囲であり、Ni及び/又はCuの下地めっきを施したものはその厚さが0.1μm〜1.5μmの範囲である。これをリフロー処理した後、各層の厚さを測定すると、Sn層が0.3μm〜2.0μmの範囲、Cu−Sn層が0.3μm〜2.0μmの範囲、Ni−Sn層が0.1μm〜1.5μmの範囲であり、Sn層は溶融凝固組織であることが確認された。
また、リフロー処理の昇温速度はいずれも10℃/s以上である。
リフロー処理後のSn層の表面を分析すると水酸化物の存在が認められ、外観は光沢を呈し、表面の光学濃度は1.0以上であった。また、はんだ濡れは80%以上で良好であり、接触抵抗値の上昇も少なく、160℃で120時間保持した後において100mΩ未満であり良好であった。
なお、180°曲げ試験については、Cu−Sn厚さが1.5μmを超える実施例7及びNi−Sn厚さが1.0μmを超える実施例8は、割れの発生があったが実施例1〜6にはなかった。以上、下地めっきの有無に係わらず、外観、表面の光学濃度、はんだ濡れ、接触抵抗値は良好であった。更に曲げ加工性が良好なものが必要な場合は、Cu−Sn層を1.5μm以下に、Ni−Sn層を1.0μmとすればよい。
比較例1〜6は、電気めっきされたSn層の厚さが0.1μm〜1.3μmの範囲であり、Ni及び/又はCuの下地めっきを施したものはその厚さが0.1μm〜0.2μmの範囲である。これをリフロー処理した後、各層の厚さを測定すると、比較例1はSn層が0μm(Sn層が認められない)であり、比較例2〜6は、Sn層が0.6μm〜0.9μmの範囲であった。更に、比較例1は、Cu−Sn層が0.2μmで、比較例2〜6はCu−Sn層が0.4μm〜0.9μmの範囲、Ni−Sn層を有するものは0.2μmであり、Sn層は溶融凝固組織であることが確認された。
また、リフロー処理の昇温速度は比較例6を除き10℃/s以上であった。
また、比較例1〜6は、リフロー処理後のSn層の表面を分析すると水酸化物の存在が認められず、外観は曇っており(光沢がない)、表面の光学濃度は1.0未満であった。
また、比較例1〜6は、はんだ濡れは80%未満で悪かった。
更に、比較例1、2、5、及び6においては、120時間後の接触抵抗値の上昇が認められ、100mΩ以上であった。
また、比較例2〜5においては、リフロー処理前のSn層表面の水の付与量が0mg/dmであり、リフロー処理後にSn層表面に水酸化物が生成しなかったために、外観不良、表面の光学濃度が1.0未満であるなどの不具合が発生したと考えられる。
比較例1については、Sn層表面にリフロー処理前に水の付与量は10mg/dmであったが、リフロー処理後Sn層が拡散により消失したために、外観不良、表面の光学濃度が1.0未満、接触抵抗値の上昇、はんだ濡れが悪いなどの不具合が発生したと考えられる。
比較例6については、Sn層表面にリフロー処理前に水の付与量は10mg/dmであったが、リフロー処理において昇温速度が5℃/sと小さかったため、途中で水分が蒸発(乾燥)してしまい、リフロー処理後に水酸化物の生成がなかった。このため、外観不良、表面の光学濃度が1.0未満、接触抵抗値の上昇、はんだ濡れが悪いなどの不具合が発生したと考えられる。
比較例7及び8は、付与する水の条件が異なる以外は、実施例1と同様にして、リフロー処理を実施した。付与する水は、比較例7及び8において、それぞれ電気伝導度を56800μS/cm、1540μS/cm、pH(水素イオン濃度)を1.0、12.0、水の付与量を500mg/dm、200mg/dmとした。
リフロー処理後、比較例7及び8は、外観が黒変色、曇りが発生しており、表面の光学濃度がそれぞれ0.1、0.3であり、また液による腐食と考えられる表面しわが観察された。
本発明のSn被覆銅又は銅合金は、例えば自動車、携帯電話、パソコン等の制御基板、コネクタ、リードフレーム、リレー、スイッチ等に用いられる端子、バスバー材などに好適に用いられる。

Claims (11)

  1. 最表面に存在する酸素原子(O)の存在形態がSnの水酸化物の形態であり、前記最表面に存在する酸素原子(O)の存在形態をESCA(X線光電子分光装置)で分析した際に、酸素原子(O)の1s軌道の結合エネルギーのピークのトップが531eV以上532eV以下にあり、Sn層の組織が溶融凝固組織であり、前記Sn層の厚みが0.4μm以上2.0μm以下であることを特徴とするSn被覆銅又は銅合金。
  2. Snの水酸化物の形態が、Sn(OH) 、及びSn(OH) のいずれかである請求項1に記載のSn被覆銅又は銅合金。
  3. Sn層の内側に厚み0.3μm〜2.0μmのCu−Sn拡散層を有する請求項1から2のいずれかに記載のSn被覆銅又は銅合金。
  4. Sn層の内側に厚み0.1μm〜1.5μmのNi−Sn拡散層を有する請求項1から3のいずれかに記載のSn被覆銅又は銅合金。
  5. Sn層の平均結晶粒径が、5μm以上である請求項1から4のいずれかに記載のSn被覆銅又は銅合金。
  6. Sn層の表面を反射濃度計で測定した光学濃度が1.0以上である請求項1から5のいずれかに記載のSn被覆銅又は銅合金。
  7. 銅又は銅合金に厚み0.8μm〜2μmのSn層を電気めっきにより被覆した後、該Sn層表面に電気伝導度600μS/cm以下、pHが4.5〜9.5の水を1mg/dm 以上付与し、該付与した水を乾燥させずに、被リフロー材の昇温速度が、10℃/s以上でリフロー処理を行うことを特徴とするSn被覆銅又は銅合金の製造方法。
  8. 銅又は銅合金にSn層を被覆する前に、厚み0.1μm〜1.5μmのNi及び/又はCuの下地層を被覆する請求項7に記載のSn被覆銅又は銅合金の製造方法。
  9. 水の付与量が、3mg/dm 〜50mg/dm である請求項7から8のいずれかに記載のSn被覆銅又は銅合金の製造方法。
  10. リフロー処理後、10秒以内に100℃以下まで冷却する請求項7から9のいずれかに記載のSn被覆銅又は銅合金の製造方法。
  11. 請求項1から6のいずれかに記載のSn被覆銅又は銅合金を用いたことを特徴とする電気・電子部品。
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