図1〜図13は本発明の実施例1によるHCCIガソリンエンジンを説明するための図である。
図において、1は4気筒4バルブDOHCガソリンエンジンをベースとしたHCCIガソリンエンジンである。該エンジン1は、♯1気筒〜♯4気筒を備えており、該♯1〜♯4気筒は、それぞれ2本ずつの吸気弁IN1,IN2と、2本ずつの排気弁EX1,EX2の合計4本の弁を備えている。また、該エンジン1はガソリンを気筒内(シリンダ内)に噴射する筒内燃料噴射弁24を備え、圧縮比は火花点火燃焼に最適な12に設定されている。
前記筒内燃料噴射弁24は、図2,図9に示すように、燃料を、吸気側の燃焼室天井壁付近から、噴射軸線24aが気筒軸線Aに対して反時計回りの角度θをなすように斜め下方に向けて噴射する。前記角度θは、例えば55度に設定され、燃料は、下死点付近に位置するピストンの頂面の排気側部分と燃焼室1cの天井面との間のシリンダ壁の下方に向けて斜め下方に噴射される。
また前記筒内燃料噴射弁24は、図11に示すように、3つの噴射口を有し、各噴射口からの3本の噴射軸線24aが、該軸線を含む平面上で60度程度に拡がるように構成されている。また前記筒内燃料噴射弁24は、噴射燃料が後述する低温ガス層T2を通過して高温ガス層T1に到達するように、その噴射燃料到達距離,燃料粒径を有するものが採用される。なお、3噴口に代えて同じ平面上に扇型に噴霧が広がるスリットインジェクターを用いてもよい。
なお、図示していないが、本実施例エンジン1は、前記筒内燃料噴射弁24の他に、吸気ポート1dに燃料を噴射するポート燃料噴射弁を備えている。本実施例エンジン1では、エンジン運転状態に応じて前記筒内燃料噴射弁24及びポート燃料噴射弁からの噴射燃料量の割合及び噴射タイミングが制御される。
低負荷運転域では、必要燃料量の全量が、圧縮行程前半、例えばBTDC180°〜120°、好ましくはBTDC160°付近において前記筒内燃料噴射弁24から気筒内に直接噴射供給される。また、高負荷運転域では、必要燃料量の過半(例えば80%)が前記ポート燃料噴射弁から供給され、残り(例えば20%)は前記筒内燃料噴射弁24から圧縮行程前半、例えばBTDC160°〜100°、好ましくはBTDC140°付近において気筒内に直接噴射供給される。
なお、ポート燃料噴射弁を備える代わりに、前記筒内燃料噴射弁24により二段階燃料噴射を行うようにしてもよい。この場合、例えば前記高負荷運転域では、吸気行程において最初の燃料噴射を行い、圧縮行程前半において二番目の燃料噴射を行うようにする。
前記エンジン1の点火順序は♯1−♯3−♯4−♯2気筒となっている。該各気筒間の位相(点火間隔)はクランク軸角度で180度であり、従って♯1気筒と♯4気筒の位相、及び♯2気筒と♯3気筒の位相はそれぞれ360度である。なお、♯1気筒と♯4気筒のピストン位置、及び♯2気筒と♯3気筒のピストン位置は常に同じであり、♯1気筒及び♯4気筒のピストン位置と♯2気筒及び♯3気筒のピストン位置は180度異なる。
前記エンジン1の具体的構造を説明する。前記♯1〜♯4気筒の各シリンダボア(気筒)1a内には、ピストン1bが摺動自在に挿入され、該ピストン1bはコンロッド1fでクランク軸(図示せず)に連結されている。前記シリンダボア1aの上側に位置する燃焼室1cには、吸気ポート1dの吸気弁開口1d′、排気ポート1eの排気弁開口1e′が2つずつ開口しており、該各開口を前記第1,第2吸気弁IN1,2、第1,第2排気弁EX1,2が開閉するようになっている。
前記第1,第2吸気弁開口1d′,1d′は二股状の吸気ポート1dでシリンダヘッド前壁側に導出され、該前壁に開口している。
また前記第1,第2排気弁開口1e′,1e′は、二股状の排気ポート1eによりシリンダヘッド後壁側に導出され、該後壁に開口している。なお、1nは、前記排気ポート1eを2つに画成する隔壁である。
前記吸気弁IN1,2、排気弁EX1,2は、動弁装置4により開閉駆動される。この動弁装置4は、前記吸気弁IN1,2の開期間及びリフト量を連続的に変化可能とする吸気弁駆動機構7と、前記排気弁EX1,2を開閉する排気弁駆動機構8とを備えている。
前記排気弁駆動機構8は、クランク軸と平行に配置された排気カム軸6,排気ロッカ軸8cと、該排気ロッカ軸8cにより揺動可能に軸支された排気ロッカアーム8a,8aと、該各ロッカアーム8aの先端部に軸支されたローラ8bとを備えている。前記排気カム軸6には、ベース円部6bとリフト部6cとを有する排気カムノーズ6aが前記各排気弁に対応するように形成されている。
前記排気カム軸6の回転により前記排気カムノーズ6aが前記ローラ8bを介して前記ロッカアーム8aを上下揺動させ、該ロッカアーム8aの先端部8dが前記排気弁EXを開方向に押し下げる。
前記吸気弁駆動機構7は、クランク軸と平行に配置された吸気カム軸5,吸気ロッカ軸7e,及び支持軸7dと、該支持軸7dに揺動可能に支持された揺動カム7aと、該揺動カム7aにより吸気コントロールアーム7cを介して揺動駆動される吸気ロッカアーム7bとを備えている。前記吸気カム軸5には、各気筒の各吸気弁に対応するように吸気カムノーズ5aが形成されている。該各吸気カムノーズ5aはベース円部5bと、リフト部5cとを有する。
前記吸気ロッカアーム7bのリング状の基端部7b′は前記吸気ロッカ軸7eにより軸支されている。前記吸気コントロールアーム7cのリング状の基端部7c′は、前記吸気ロッカ軸7eの軸心から偏心するアーム支持軸7e′により軸支されている。前記吸気ロッカ軸7eを回動させると、吸気コントロールアーム7cは前後に進退し、先端部のローラ7fの前記揺動カム7aとの摺接開始位置が変化し、もって吸気弁の開期間,リフト量が変化する。
前記吸気カム軸5を回転させると、該吸気カム軸5の吸気カムノーズ5aが前記揺動カム7a,吸気コントロールアーム7cを介して前記吸気ロッカアーム7bを上下に揺動させ、該吸気ロッカアーム7bの先端部が吸気弁IN1,2を開方向に押し下げる。
また、図2,図5に示すように、排気弁開口1e′には、マスク部材50が、排気弁EXの弁頭1pの外周を所定の角度範囲で覆うように配置されている。このマスク部材50は、排気逆流(EGRガス流)を、気筒内壁面の排気ポート側部分に沿って気筒軸線A方向に流下させるためのものである。これにより該EGRガスが、吸気ポートから流入して気筒内壁面の排気ポート側部分に位置している新気を順次押し出してこれと入れ替わり、もってEGRガスの新気への混合が抑制される。
前記マスク部材50は、排気弁EXの弁頭1pに一体形成されるか、又はシリンダヘッドの燃焼室天井壁側に一体形成されている。またこのマスク部材50は、円形をなす前記排気弁開口1e′の周縁に沿う円弧状をなしている。またこのマスク部材50の、排気弁軸方向寸法(高さ寸法)は、該排気弁の後述するEGR開弁時のリフト量と略同一寸法、具体的には例えば2〜3mm程度に設定されている。
前記マスク部材50の周長(周方向長さ),配置位置は、前記EGRガスの大部分が、気筒内壁面(シリンダボア1aの内周面)の、気筒軸線Aを通るクランク軸と平行な気筒直線e′より排気ポート1e側の部分(図6に斜線を施した領域)Sに沿って、図2に破線の矢印Cに示すように流れるように設定されている。
換言すれば、前記マスク部材50は、その周長の大部分が、前記排気弁開口1e′,1e′の中心e1′,e1′を結ぶ排気弁開口直線eより反排気ポート側、つまり吸気ポート1d側に位置するようにその周長及び配置位置が設定されている。
さらに換言すれば、前記マスク部材50は、前記排気弁開口の中心e1′を通る該マスク部材の周長の2等分線fの延長線が、前記領域Sの、前記排気弁開口直線eより排気ポート側の部分と交差するようその周長及び配置位置が設定されている。
前記マスク部材50の周長及び配置位置の具体例を、図6〜図8に基づいて詳述する。なお、左側の排気弁EX2のマスク部材50と、右側の排気弁EX1のマスク部材50とは、気筒軸線Aを通るクランク軸と直交する直線hを挟んで左右対称形をなす周長、配置位置となっているので、主に左側の排気弁EX2のマスク部材50について説明する。
以下、前記マスク部材50の中心位置及び周長を、排気弁開口1e′の周縁の、最も吸気ポート側に位置する点g(図6参照)を0°として時計回りの角度で示す。
図7は、本発明に含まれるマスク部材の周長,配置位置の範囲を示し、図8はより好適な周長及び配置位置の範囲を示す。
図7において、本実施例のマスク部材50の周長は、排気弁EX2の弁頭1pの外周の90度〜180を覆う長さに設定されている。また該マスク部材50は、これの中心線(該マスク部材の2等分線)fが300°〜60°、時計で表せば10時〜2時、の範囲内に位置するように配置されている。図7における符号m1は最も短いマスク部材(周長90°)を中心位置が時計回りで最も前進した位置(60°(2時))に配置した場合を、符号m2は最も長いマスク部材(周長180°)を最も前進した位置(60°(2時))に配置した場合をそれぞれ示している。また符号m1′は最も短いマスク部材(周長90°)を中心位置が時計回りで最も後退した位置(300°(10時))に配置した場合を、符号m2′は最も長いマスク部材(周長180°)を最も後退した位置(300°(10時))に配置した場合をそれぞれ示している。
図8は、前記周長90°〜180°のマスク部材50をより好適な位置に配置した場合を示しており、マスク部材50はこれの中心位置が時計回りで30°(1時)から60°(2時)の範囲内に位置するように配置されている。
前記エンジン1に接続された吸気装置3は、所定の容積を有するサージタンク3eと、該サージタンク3eから分岐して前記♯1気筒〜♯4気筒のそれぞれの吸気ポート1dに接続された分岐管3a〜3dとを有する。前記サージタンク3eの一端に形成された吸入口3fには吸気絞り弁3gが配設され、該吸気絞り弁3gの上流側にはエアクリーナ(図示せず)が接続されている。
また、前記エンジン1に接続された排気装置2は、各気筒の枝管2a,2d,2b,2cの長さが比較的長く設定され、位相(点火間隔)が360度の前記♯1気筒と♯4気筒を連結して排気する第1の排気系22と、同じく位相360度の♯2気筒と♯3気筒を連結して排気する第2の排気系23とを備えたいわゆる4−2−1排気系となっており、高負荷運転領域において排気干渉が避けられるので出力向上に適している。
前記第1の排気系22は、♯1気筒,♯4気筒の排気ポートの外部開口に接続された第1,第4枝管2a,2dと、該両枝管2a,2dを合流させる第1合流管2eを有する。前記第2の排気系23は、♯2気筒,♯3気筒の排気ポート1eに接続された第2,第3枝管2b,2cと、該両枝管2b,2cを合流させる第2合流管2fを有する。そして前記第1,第2合流管2e,2fはメイン管2gに合流している。
また前記第1,第2合流管2e,2fには、上流側触媒2i,2iが介設され、前記メイン管2gには下流側触媒2jが介設されている。さらにまた、前記メイン管2gの下流側触媒2jより上流側には、排気ポート面積を可変制御する排気絞り弁2hが介設されている。
本実施例エンジンは、♯4気筒(第1気筒)の膨張行程から排気行程の下死点付近の燃焼室内圧力波(排気ブローダウン圧力波)を、該♯4気筒と燃焼タイミングが360度異なる♯1気筒(第2気筒)の吸気行程から圧縮行程の下死点付近において、排気ポート1eに作用させるブローダウン圧力波発生機構40aと、前記♯1気筒の排気弁EX1,2を吸気行程から圧縮行程の下死点付近で再度開くEGR開弁機構(排気弁再開機構)9とを備えている。これにより前記♯4気筒からの排気ブローダウン圧力波により、温度の高いEGRガスを前記排気ポート1eから燃焼室内に過給するブローダウン圧力波過給機構40が構成されている。
なお、前記ブローダウン圧力波過給機構40は、前記♯1気筒からの排気ブローダウン圧力波を利用してEGRガスを♯4気筒に過給するようにも構成されており、さらに♯2気筒からの排気ブローダウン圧力を利用して♯3気筒にEGRガスを過給し、逆に♯3気筒からの排気ブローダウン圧力を利用して♯2気筒にEGRガスを過給するようにも構成されている。以下、前記♯1気筒と♯4気筒との関係について詳述する。
前記ブローダウン圧力波発生機構40aは、前記♯1気筒と♯4気筒との燃焼タイミングを360度ずらすとともに、♯4気筒からの排気ブローダウン圧力波が♯1気筒の吸気行程下死点付近で該♯1気筒の排気ポートに到達するように両気筒間の排気枝管2a,2dの長さを設定することにより実現される。また前記EGR開弁機構9は、吸気カム軸5により♯1気筒の排気弁EX1,2を、図13のリフトカーブEGRに示すように、該♯1気筒の吸気行程から圧縮行程の下死点付近で再度開くように構成されている。なお、ブローダウン圧力波でシリンダを加圧するには圧力波が♯1気筒の排気弁EX1,2の閉弁時期に一致させる必要があるが、加圧が必要でない運転条件ではそれを一致させなくてもよい。
このようにして、本実施例エンジンでは、前記ブローダウン圧力波過給機構40と前記マスク部材50とにより、気筒内に高温のEGRガスからなる高温ガス層T1と、低温の新気からなる低温ガス層T2とを層状をなすように形成する層状化機構70が構成されている。
前記EGR開弁機構9は、前記吸気カム軸5に形成されたEGRカムノーズ5a′と、前記支持軸7dに軸支された排気ロッカカム10と、前記排気ロッカ軸8cに軸支された中間レバー11と、該排気ロッカ軸8cの軸心から偏心するアーム支持軸8c′により軸支された排気コントロールアーム13と、前記排気カム軸6に形成されたEGRガイドカム6b′とを備えている。
前記吸気カム軸5側のEGRカムノーズ5a′は、前記吸気カム軸5の2つの吸気カムノーズ5a,5a間に形成されている。このEGRカムノーズ5a′は、前記吸気側のベース円部5bと同一径のEGRベース円部5b′と、前記吸気側のリフト部5cよりリフト量の小さいEGRリフト部5c′とを有する。
また前記排気カム軸6側のEGRガイドカム6b′は、前記排気カムノーズ6aのベース円部6bと同一径を有する。なお、このEGRガイドカム6b′は、ベース円部のみからなり、リフト部は有しない。
前記排気ロッカカム10の前記支持軸7dを挟んだ一側にはローラ10aが配設され、また他側にはカム面10bが形成されている。前記ローラ10aは前記EGRカムノーズ5a′に転接しており、前記カム面10bには排気コントロールアーム13のローラ13bが転接している。
前記中間レバー11は、概ね三角形状をなし、該三角形の頂角部が前記排気ロッカ軸8cにより揺動可能に支持されている。また前記三角形の一方の底角部にはローラ8bが軸支され、他方の底角部に続く斜辺部にはカム面11aが形成されている。前記ローラ8bは前記EGRガイドカム6b′に転接し、前記カム面11aには前記排気コントロールアーム13の先端に形成された押圧部13aが摺接している。
ここで、前記中間レバー11と2つの排気ロッカレバー8a,8aとの間には、該中間レバー11の揺動を該排気ロッカレバー8a,8aに伝達するEGR開弁オン状態と前記揺動を伝達しないEGR開弁オフ状態との何れかに切替え可能の切替機構12が配設されている。
前記切替機構12は、図4に示すように、前記中間レバー11の先端部及び排気ロッカレバー8a,8aの先端部に同軸をなすように連結穴12aを形成し、該連結穴12a内に連結ピストン12b,12cを軸方向に摺動可能に、かつ軸直角方向に相対移動可能に配置した構造のものである。
また前記連結ピストン12bの一端面と連結穴12aの一端とで油圧室12eが形成され、連結ピストン12cの他端面と連結穴12aの他端との間にはストッパ12dを介在させてリターンスプリング12fが配設されている。前記油圧室12eには、前記ロッカ軸8cに形成された油圧通路を介して油圧を供給可能となっている。
油圧が前記油圧室12eに供給されると、前記連結ピストン12c,12bが中間レバー11と排気ロッカレバー8aとの境界を跨ぐ位置(図4(a))に位置し、前記EGR開弁オン状態となる。そして前記油圧が開放されると、前記連結ピストン12cと前記連結ピストン12b及びストッパ12dとの接触部が前記境界に一致し(図4(b))前記EGR開弁オフ状態となる。
さらにまた前記吸気カム軸5は、該吸気カム軸5の位相を自由に制御可能の吸気カム位相可変機構15を備えている。吸気カム軸5の位相を変化させると、吸気弁IN1,2の吸気行程における開閉時期が変化すると同時に、排気弁EX1,2のEGR開弁動作における開閉時期も同じ位相だけ変化する。また前記排気カム軸6は、該排気カム軸6の位相を自由に制御可能の排気カム位相可変機構16を備えている。
前記♯1気筒(本発明の第2気筒に相当する)に、♯4気筒(本発明の第1気筒に相当する)からの排気ブローダウン圧力波を利用してEGRガスが過給される場合について詳細に説明する。
図11は、♯1気筒と♯4気筒の排気弁,吸気弁のリフトカーブEX,IN、EGR開弁機構9による排気弁の再度の開時のリフトカーブEGRを示す。同図に示すように、排気弁は、EGR開弁機構9により、各気筒の吸気行程から圧縮行程の下死点付近において再度開となる。
本実施例エンジン1では、EGRガスの過給を行うべき所定の運転域(HCCI運転域)にあっては、上述の切替機構12の油圧室12eに油圧が供給され、連結ピストン12b,12cが図4(a)の位置に移動し、これにより吸気カム軸5のEGRカムノーズ5a′によって排気弁EX1,2が開閉駆動される。詳細には、EGRカムノーズ5a′のリフト部5c′がローラ10aを介して排気ロッカカム10を揺動させると、この揺動がローラ13bを介して中間レバー11に伝達され、該中間レバー11と共に排気ロッカレバー8aが揺動し、これにより排気弁EX1,2は図13に示すリフトカーブEGRに基づいてEGR開弁動作を行う。
なお、EGRガスの過給を行わない運転領域にあっては、前記油圧の供給が停止され、連結ピン12bが図4(b)の位置に移動し、中間レバー11の揺動は排気ロッカレバー8aには伝達されず、従って排気弁はEGR開弁動作を行なわない。
本実施例では、前記EGR開弁機構9は、高回転領域においては、常時不作動とされる。そのためEGRカム5a′によるバルブ加速度を高く設定することができ、EGRカム5a′は開度が狭いにもかかわらず比較的高いリフトが設定されており、短時間で多くのEGRガスを導入できるようにしている。
♯1気筒が吸気下死点に近づくと、♯4気筒の排気弁が膨張行程下死点付近で開き始め、該♯4気筒からの排気ブローダウン圧力波が排気系に排出され、該排気ブローダウン圧力波は、前記特定長さに設定された排気枝管2d,2aを経て♯1気筒側に向かう(図13参照)。このとき♯1気筒では、吸気行程から圧縮行程の下死点付近において前記EGR開弁機構9が排気弁をリフトカーブEGRに示すように再度開く。この排気弁の再度の開にタイミングを合わせて前記排気ブローダウン圧力波が、♯1気筒の排気ポート1eに到達し、この排気ブローダウン圧力波により前記排気ポート1e内のEGRガスが♯1気筒のシリンダボア1a内に押し込まれる。
このようにして過給されたEGRガスは、排気弁開口1e′にマスク部材50が配設されており、かつ該マスク部材50の高さ寸法がEGR開弁時のリフト量と略同一寸法に設定されているので、該マスク部材50の存在しない部分における排気弁の弁頭1pと排気弁開口1e′との隙間S(図5に斜線を施した部分)のみから気筒内に導入される。なお、図5は、排気弁がEGR開弁している状態を示している。
ここで図9は、マスク部材50を、周長180°とし、その中心が330°に位置するように配置した場合に、ピストン1bが圧縮行程開始後のBTDC140°に位置している状態で、シリンダボア1aを、気筒軸線Aを含むクランク軸と直角の平面で断面した時の高温ガス層T1と低温ガス層T2との層状化状態を等温線で示す。また、図10は、図9のシリンダボア1aを筒内燃料噴射弁24の3本の噴射軸線24aを含む平面で断面した時の前記層状化状態を等温線で示す。
図9,図10に示すように、シリンダボア1a内の主として排気側に、新気に多量のEGRガスが含まれることにより温度が高い高温ガス層T1が形成され、主として吸気側に、新気に高温ガス層T1より少量のEGRガスが含まれることにより該高温ガス層T1より温度が低い低温ガス層T2が形成される。なお、高温ガス層T1では、t1の温度が最も高く、t2,t3,t4と低くなっている。同様に低温ガス層T2では、t5の温度が最も高く、t6,t7,t8と低くなっている。具体的には、前記高温ガス層T1の平均温度は、前記低温ガス層T1の平均温度より60〜240℃高くなっている。
前記高温ガス層T1は、排気ポート側からシリンダボア(気筒内壁)1aの内面に沿って下方に延び、さらにピストン頂面に拡がっている。また、本実施例では、EGRガスは、排気弁開口1e′と排気弁の弁頭1pとの隙間Sのマスク部材50が存在しない部分から主に排気ポート側の気筒内壁面に沿って新気を押し出しつつ下降し、該内壁面に沿うように分布したものと考えられる。
本実施例エンジン1では、上述のように、高負荷運転域では、必要燃料量の、例えば約80%が、前記ポート燃料噴射弁から吸気ポート1d内に供給され、残りの約20%が、圧縮行程前半において前記筒内燃料噴射弁24から気筒内に噴射供給される。
前記筒内燃料噴射弁24から噴射された燃料は、図9に示すように、低温ガス層T2を通過して高温ガス層T1に達することとなる。ここで前記低温ガス層T2の層厚は、前記筒内燃料噴射弁24の有する噴射燃料到達距離の20〜80%となるよう設定される。低温ガス層T2ではガス温度が低く、ガス粒子の密度が高いので、噴射燃料は低温ガス層T2の通過時にガス粒子に衝突して微粒化が進行する。一方、高温ガス層では、ガス温度が高いので、低温ガス層で微粒化した噴射燃料は、高温ガス層で一気に気化する(図9に斜線を施した部分F参照)。このように、筒内燃料噴射弁24から噴射された燃料の60%以上が、燃料のほとんど存在しない高温のEGRガス層内に分布することとなり、その結果、気筒内は、燃料濃度が均一で、かつ温度勾配がついた状態となる。
従って、ピストンが圧縮上死点に近づくと、温度の高い部分が先に着火温度となり、この部分が着火し、遅れて温度の低い側が着火していく。その結果、着火後の圧力上昇率が低く抑えられ、緩慢な燃焼となることに加えて、燃焼温度が窒素酸化物の発生温度を越えるのを抑制でき、高負荷運転域でもHCCI運転が可能となる。一方、高温部分は圧縮による温度上昇をそれほど要することなく着火温度となるので、着火に必要な圧縮温度が高い低負荷運転域でも安定したHCCI運転が可能となる。
図12は、前記高温ガス層T1と低温ガス層T2との層状化を行い、燃料を吸気ポート及び気筒内に供給するようにした場合の筒内温度と筒内燃料濃度とを関係を示している。同図(a)は、必要燃料の全量を吸気ポートに供給した場合を示し、同図(b)は必要燃料の80%を吸気ポートに供給し、20%を気筒内に直接噴射供給した場合を示す。
上述のように必要燃料の全量を吸気ポートに供給する場合には、温度の高いEGRガスからなる高温ガス層T1内にはほとんど燃料が存在しないため、図12(a)に示すように、筒内温度の高い部分(前記高温ガス層部分)Hの筒内燃料濃度は、温度の低い部分(前記低温ガス層部分)Lの筒内燃料濃度より低くなっている。
仮に、このように高温ガス層の燃料濃度が低い場合、着火に必要な圧縮温度が高くなり、高温リーン部分から着火するものの低温リッチ部分の着火遅れとの差が小さくなり、着火後の圧力上昇率が高くなり、緩慢燃焼が実現されない。
一方、必要燃料の、例えば約80%をポート燃料噴射弁により吸気ポートに供給し、約20%を筒内燃料噴射弁24により気筒内に直接噴射供給した場合、図12(b)に示すように、筒内において、温度の高い部分Hの燃料濃度が高くなり、筒内全体の燃料濃度が均一化され、かつ温度分布がついた状態が形成されている。
このように筒内の燃料濃度が均一化され、かつ筒内温度が高い部分から低い部分まで比較的広く分布するので、圧縮により、まず高温部分が着火し、遅れて低温部分が着火することとなり、圧力上昇率が低くなり、燃焼速度の遅い緩慢な燃焼が実現され、HCCI運転の可能域が高負荷運転域に拡大される。また、高温部分から着火するため、着火に必要な平均圧縮温度が低下するので燃焼が安定して、低負荷運転域においても安定したHCCI運転を実現でき、運転可能領域を拡大できる。
本実施例によれば、吸気行程から圧縮行程の下死点付近において、新気の吸入を終了したのちに排気ポートから温度の高い排気を気筒内に再吸入するように構成したので、EGRガスと新気が混合するのを抑制してEGRガスを偏在させることができ、温度差のある高温ガス層T1と低温ガス層T2を形成できる。
さらに排気弁開口1e′,1e′部分に、前記供給されたEGRガスが吸気ポートから流入した新気と混合するのを抑制するマスク部材50を設けたので、この点からもEGRガスと新気とが混合するのを抑制でき、前記高温ガス層T1と低温ガス層T2との温度差をより一層確実に得ることができる。
その結果、圧縮上死点付近で、温度の高い高温ガス層T1部分から燃焼が開始され、この燃焼する部分が温度の低い低温ガス層T2に変化していくので、圧力上昇率の低い緩慢燃焼が実現され、ノッキングや燃焼騒音の発生、あるいはエンジンの損傷といった問題を防止でき、さらに窒素酸化物の発生が抑制され、HCCI運転可能領域を拡大できる。
また、前記マスク部材50の周長及び配置位置を、マスク中心が300°〜60°の範囲内に位置するよう設定し、周長を前記マスク中心±90°〜180°としたので、前記供給されたEGRガスが気筒内壁面1aの、排気弁開口1e′,1e′の中心より排気ポート側の部分に沿って流すことができる。
またマスク部材50の大部分を、排気弁開口直線eより反排気ポート側に位置するよう配置でき、かつマスク部材50の2等分線(マスク部材の中心)fが排気弁開口直線eより排気ポート側の気筒内壁面部分と交差するように構成でき、これらの点からも再吸入されたEGRガスを、気筒内壁面の排気ポート側部分に沿って流すことができ、これにより気筒内壁面側の新気を順次内壁付近から追い出してEGRガスを気筒内壁に沿わせて存在させることができる。その結果、EGRガスの排気ポート側の内壁に沿った部分は新気と接触することがないので、新気との混合を確実に抑制して新気に多量のEGRガスが含まれる温度の高い高温ガス層T1を形成でき、低温ガス層T2との温度差をより確実に得ることができる。
さらまた前記マスク部材50の、排気弁軸方向における高さ寸法を、前記排気弁EXのEGR開弁時のリフト量以下に設定したので、排気行程における排気の排出の抵抗になることなくEGRガスがマスク側を通って気筒内に流入するを確実に防止でき、上述のようにEGRガスを排気ポート側の気筒内壁面に沿って流入させることができる。なお、マスク部材の高さ寸法を大きくすれば、EGRガスの流れをより一層確実に規制できるが、排気排出抵抗が大きくなるおそれがある。
なお、前記実施例1では、筒内燃料噴射弁24は、燃料をシリンダヘッドの吸気側縁部から排気側に向けて斜め下方に噴射するように配置されていたが、筒内燃料噴射弁の13の配置位置はこれに限定されるものではない。本発明では、筒内燃料噴射弁燃料13は、噴射燃料が低温ガス層T2を通過した後に高温ガス層T1に達するように、その配置位置等が設定されれば良く、例えば、図2に二点鎖線で示す筒内燃料噴射弁24′のように、シリンダヘッドの燃焼室天井壁部分に、噴射燃料が低温ガス層を通過した後に高温ガス層に到達するように配置することもできる。
図14〜図27は本発明の実施例2にかかるHCCIガソリンエンジンを説明するための図であり、図中、図1〜図13と同一符号は同一又は相当部分を示す。
本実施例2は、排気弁開口1e′にガイド壁500を設けた例である。このガイド壁500は、排気逆流(EGRガス流)の一部を、気筒中心側から気筒軸線A方向に方向付けして気筒中心縦流Bとして流下させるためのものである。この気筒中心縦流Bは、気筒内壁面の排気弁側部分に沿って気筒軸線A方向に流れるEGR流Cが、ピストン頂面にて上方に反転する流れC′となる際に過度に吸気弁側に流れるのを抑制する作用を有する。即ち、前記EGR流Cは、吸気ポートから流入して気筒内の排気弁側部分に位置している新気を順次押し出してこれと入れ替わるよう作用するが、前記気筒中心縦流Bは、前記反転する流れC′を減衰させ、前記EGR流Cが過度に吸気弁側に流れるのを抑制し、もってEGRガスを排気弁側に留めるように作用する。なお、ガイド壁500は、基本的に排気弁と排気弁開口との間に形成される流路の抵抗を大きくすることはないので、EGR流Cの流量,気筒中心縦流Bの流量はそれぞれ概ね前記流路の、ガイド壁のない部分の周長,ガイド壁のある部分の周長に比例する。
前記ガイド壁500は、シリンダヘッドの燃焼室天井壁面に一体形成されている。そしてこのガイド壁500は、図15,図16,図18に示すように、円形をなす前記排気弁開口1e′の周縁に沿う円弧状をなしており、その大部分は排気弁開口1e′の中心aを通るクランク軸と平行な直線bより吸気弁側に位置し、一部は排気弁側に位置している。
また前記ガイド壁500は、排気弁軸方向に延びるガイド壁高さHを有し、また排気弁EXの弁頭1pとの間にガイド壁隙間Dを有する。
前記ガイド壁隙間Dは、ガイド壁500が流路抵抗とならない十分な寸法に設定されている。具体的には前記EGR開弁時の排気弁開口1e′と弁頭1pのシール面間寸法である流路幅Wと同等又はそれ以上の寸法に、より具体的には例えば2〜3mm程度に設定されている。
また前記ガイド壁高さHは、前記排気逆流の一部を気筒中心側にて気筒軸方向の流れに変えるのに十分な高さに設定されている。具体的には、前記ガイド壁隙間Dと略同一寸法に、より具体的には例えば2〜3mm程度に設定されている。
なお、前記ガイド壁高さH及びガイド壁隙間Dは、ガイド壁500の周方向において同一寸法であることが望ましいが、燃焼室の天井壁面形状に合わせて変化させても良い。
また、前記ピストン1bの頂面1gには、前記EGR流Cの吸気弁側への流れを抑制する凸条部1hが形成されている。この凸条部1hは、クランク軸方向に延びており、吸気弁側の縁部1iはクランク軸と平行に形成されているのに対し、排気弁側の縁部1jは吸気弁側を底とする湾曲形状に形成されている。
なお、前記凸条部としては、図23に示すように、吸気弁側の縁部1i及び排気弁側の縁部1j′の両方ともクランク軸と平行に形成した直線状の凸条部1h′であっても良い。
本実施形態エンジンでは、前記実施例1と同様に、♯4気筒からの排気ブローダウン圧力波が、♯1気筒の排気弁の再度の開にタイミングを合わせて♯1気筒の排気ポート1eに到達し、この排気ブローダウン圧力波により前記排気ポート1e内のEGRガスが♯1気筒のシリンダボア1a内に押し込まれる。なお、ブローダウン圧力波でシリンダを加圧するには圧力波が♯1気筒の排気弁EX1,2の閉弁時期に一致させる必要があるが、加圧が必要でない運転条件ではそれを一致させなくてもよい。
このようにして吸入されたEGRガスは、排気弁開口1e′にガイド壁500が配設されており、かつ該ガイド壁500の高さ寸法Hがガイド壁と排気弁との隙間Dと略同一寸法に設定されているので、該ガイド壁500の存在しない部分における排気弁の弁頭1pと排気弁開口1e′との隙間sから気筒内にEGR流Cとなって流下する。また同時に、前記ガイド壁500と弁頭1pとの間にガイド壁隙間Dが設けられているので、前記EGRガスの一部は、気筒中心側にて気筒中心縦流Bとなって流下する。
このようにガイド壁500を設けたので、排気逆流を、気筒内壁面の排気弁側部分に沿って気筒軸A方向に流れるEGR流Cとして流下させ、かつ前記排気逆流の一部を、気筒中心側にて気筒軸A方向に方向付けして気筒中心縦流Bとして流下させることができる。即ち、前記気筒中心縦流Bにより前記EGR流Cが、ピストン頂面にて上方に反転する流れC′となる際に過度に吸気弁側に流れるのを抑制することができる。前述のように、前記EGR流Cは、吸気ポートから流入して気筒内の排気弁側部分に位置している新気を順次押し出してこれと入れ替わるよう作用するが、前記気筒中心縦流Bは、前記EGR流Cの反転する流れC′を減衰させ、該EGR流Cが過度に吸気弁側に流れるのを抑制し、もってEGRガスを排気側に留めるように作用する。
その結果、気筒内の排気弁側に、新気に多量のEGRガスが含まれることにより温度が高い高温ガス層T1が形成され、吸気弁側に、新気に前記高温ガス層T1より少量のEGRガスが含まれることにより該高温ガス層より温度が低い低温ガス層T2が形成される。
本実施例2においても、前記実施例1と同様に、筒内燃料噴射弁24から圧縮行程前半において噴射された燃料は、低温ガス層T2を通過して高温ガス層T1に達する。この場合、前記噴射された燃料は、低温ガス層T2通過時に微粒化され、高温ガス層T1において気化することにより、噴射された燃料の60%以上が高温ガス層T1内に分布することとなる。
ここで図24(a),(b),(c)は、前記ガイド壁500を設けた場合で、かつピストン1bが圧縮行程開始後のBTDC120°,60°,0°に位置している状態での温度分布を示す。各図の左側部分は、シリンダボア1aを気筒軸線Aを含むクランク軸と直角の平面で断面した時の温度分布を示し、各図の右側はシリンダボア1a内の燃焼室天井壁〜ピストン頂面間の略中央にて気筒軸線Aと直交する平面で断面した時の温度分布を示す。また図25(a),(b),(c)は排気弁との間に隙間を有しないマスクを設けた場合の比較例の温度分布を示す。また、図24(c),図25(c)における1hは、ピストン1bの凸条部を示し、この部分には新気もEGRガスも存在しない。
図25に示すように、排気弁との間に隙間を有しないマスクを設けた場合には、EGR流Cが過度に吸気側に流れ、高温ガス層T1が吸気弁側に形成され、低温ガス層T2が排気弁側に形成されている。また高温ガス層T1が形成されている吸気弁側にも低温ガス層T2が形成されており、従って吸気弁側では高温ガス層T1と低温ガス層T2との温度差は大きくないと考えられる。
一方、図24に示すように、ガイド壁隙間Dを有するガイド壁500を備えた場合には、排気弁側にEGR流Cが形成されるとともに、気筒中心側には気筒中心縦流Bが形成されている。これによりEGR流Cが過度に吸気弁側に流れるのが気筒中心縦流Bにより抑制され、その結果EGRガスが排気側に集まっており、高温ガス層T1が排気弁側に形成されていることが判る。
また図26は、ピストン1bの頂面1gに湾曲形状の凸条部1h(図22参照)を設けた場合の効果を示し、図27は直線条の凸条部1h′(図23参照)を備えた場合の効果を示す。
前記湾曲条の凸条部1h,直線条の凸条部1h′の何れにもおいても、前記EGR流Cのピストン頂面上で反転する流れC′を抑制する効果が得られている。また、前記凸条部1h,1h′によりEGRガスを排気弁側に留めることができ、排気弁側に高温ガス層T1が形成されていることがわかる。なかでも、湾曲状の凸条部1hを設けた場合には、排気弁側により多くのEGRガスを集めることができる。
本実施形態によれば、吸気行程から圧縮行程の下死点付近において排気ポートから温度の高い排気を気筒内に再吸入するように構成したので、新気の吸入を終了したのちに排気を再吸入こととなり、EGRガスと新気が混合するのを抑制してEGRガスを偏在させることができ、温度差のある低温ガス層T2と高温ガス層T1を形成できる。
さらに排気弁開口1e′,1e′部分にガイド壁隙間D及びガイド壁高さHを有するガイド壁500を設けたので、前記供給されたEGR流Cが吸気弁側に流れるのを抑制する気筒中心縦流Bを形成でき、EGRガスを排気弁側に留めることができる。これにより排気弁側に温度の高い高温ガス層T1を形成するとともに吸気弁側に低温ガス層T2を形成でき、かつ両者の温度差を明確にすることができる。また、燃焼室壁温が高い排気側に高温ガス層T1を形成したので、壁面冷却による高温ガス層T1の温度低下を抑制できる。
その結果、温度の高い高温ガス層T1部分から燃焼が開始され、燃焼する部分が温度の低い低温ガス層T2に変化していくので、圧力上昇率が低くなり、ノッキングや燃焼騒音、あるいはエンジンの損傷といった問題を防止でき、さらに窒素酸化物の発生が抑制され、HCCI運転可能領域を拡大できる。
さらまた前記ガイド壁500の、ガイド壁隙間Dを排気弁と排気弁開口とのシール面間寸法である流路幅Wより大きく設定するとともに、排気弁軸方向におけるガイド壁高さHを、前記ガイド壁隙間D程度に設定したので、排気行程における排気の排出の抵抗になることなくEGRガスがガイド壁500側を通って気筒内に流入する気筒中心縦流Bを確実に発生させることができる。なお、ガイド壁高さHを大きくすれば、EGRガスの気筒中心縦流Bをより一層確実に形成できるが、排気排出抵抗が大きくなるおそれがある。
また、ピストン1bの頂面1gに、排気弁側と吸気弁側とを仕切るように設けられた凸条部1hを備えたので、前記EGR流Cのピストン頂面1gで反転した流れC′が吸気弁側に流れるのを抑制でき、この点からもEGRガスを排気弁側に留めることができ、排気弁側に高温ガス層T1を確実に形成できる。
また、前記凸条部1hを、吸気弁側を底とする湾曲形状に形成したので、前記反転流C′の吸気弁側への流れをより確実に抑制でき、排気弁側に高温ガス層T1をより確実に形成することができる。
さらにまた、吸気弁INが実質的に閉じた後において排気弁EXを実質的に再開するようにしたので、新気がEGRガスによって排出されるのを防止できる。
また、前記排気弁EXの再開リフト量やタイミングを運転状況に応じて変化させるようにしたので、排気弁EXの再開リフト量,再開タイミング及び再開期間をエンジン負荷に応じて適切に制御することができる。
なお、本発明におけるガイド壁の周長,高さ寸法,弁頭との隙間は、本願の各請求項に記載の発明の趣旨に反しない範囲であらゆるものが選択可能であり、前記実施形態に記載のものに限定されることはない。
さらにまた前記燃焼室天井壁の、吸気弁開口1d′と排気弁開口1e′との間に位置する平坦面であるいわゆるスキッシュエリアの側壁に形成された段差部分を利用して前記ガイド壁を構成しても良い。
また、前記実施形態では、通常の排気行程を実行する排気弁をEGR弁に兼用したが、EGR専用の弁を設けても勿論構わない。