以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る流体軸受装置を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2を回転自在に支持する流体軸受装置1と、軸部材2に固定されたディスクハブ3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5と、ベース部材としてのモータブラケット6とを備えている。ステータコイル4はモータブラケット6の外周に取り付けられ、ロータマグネット5はディスクハブ3の内周に取り付けられる。流体軸受装置1の軸受部材7は、モータブラケット6の内周に固定される。ディスクハブ3には磁気ディスク等のディスクDが一又は複数枚(図示例は2枚)保持され、ディスクDは、ディスクハブ3と図示しないクランプ機構とで挟持される。以上の構成において、ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間の電磁力でロータマグネット5が回転し、それによって、ディスクハブ3およびディスクハブ3に保持されたディスクDが軸部材2と一体に回転する。
図2は、本発明の第1実施形態に係る流体軸受装置1を示すもので、図1に示す流体軸受装置1を拡大して示すものである。この流体軸受装置1は、軸部材2と、軸部材2の外径側に配設された軸受部材7と、軸受部材7の一端開口部を閉塞する蓋部材10とを構成部材として備え、その内部空間は流体としての潤滑油で満たされている。なお、以下では、蓋部材10の設けられた側を下側、その軸方向反対側を上側として説明を進める。
軸部材2は、軸部2aと、軸部2aの下端に設けられたフランジ部2bとを有する。軸部2aおよびフランジ部2bは耐摩耗性に富む金属材料、例えばステンレス鋼で形成される。軸部2aの下端には、小径部2a2が形成されており、この小径部2a2を円環状のフランジ部2bの内周に嵌合固定することで軸部材2が形成される。軸部2aとフランジ部2bの固定方法は任意であり、圧入、接着、溶接(特にレーザ溶接)等を採用することができる。軸部材2として、軸部2aとフランジ部2bを鍛造等で一体成形したものを使用することもできる。
軸受部材7は、軸方向の両端が開口した略円筒状をなし、ラジアル軸受面A1,A2を有するスリーブ部71と、モータの固定側部材を構成するモータブラケット6に取り付けられる取り付け部72とを備える。この実施形態の軸受部材7は、スリーブ部71と取り付け部72を一体に構成した例であり、円筒状の芯材8をインサート部品として樹脂で射出成形することによって得られる。取り付け部72は芯材8と樹脂の複合構造をなす一方、スリーブ部71は樹脂のみで構成される。
芯材8は、導電性を有する金属材料(ここではステンレス鋼)で径一定の円筒状に形成され、径方向の貫通孔H1を有する。貫通孔H1の数や位置は特に限定されないが、本実施形態では、図6に示すように、軸方向同位置に周方向等間隔で3箇所形成されたものを1組として、これを軸方向に離隔して2組形成している(計6箇所)。一方の組の貫通孔H1は、他方の組の貫通孔H1に対して周方向の位相を60°異ならせた位置に形成されている。すなわち、計6個の貫通孔H1は、平面視で60°間隔に設けられる。
上記の芯材8は、例えば、ステンレス鋼製のパイプ材に、外径側からドリルやポンチ等を用いて孔開け加工を施すことによって得られる。貫通孔H1の内径側の開口周縁には、上記の孔開け加工に伴い、不均一な凹凸からなるバリH1aが形成されている。なお、孔開け加工はパイプ材の内径側から施すことも可能であり、この場合には、貫通孔H1の外径側の開口周縁にバリH1aが形成される。芯材8は、金属粉末とバインダーとを用いた金属粉末の射出成形品(MIM成形品)や、低融点金属を用いた溶融金属の射出成形品としても良く、さらには焼結金属で形成することも可能である。
取り付け部72は、芯材8と樹脂の複合構造をなす。樹脂で成形された部分(以下、これを「樹脂部」とも言う)は、バリH1aも含めて芯材8の内径面8aを被覆する(図示例では上端面8cも被覆している)内側被覆部91と、芯材8の外径面8bを被覆する外側被覆部92と、内側被覆部91と外側被覆部92を芯材8の貫通孔H1内で結合する結合部93とを備える。本実施形態では、芯材8の外径面8b全体を外側被覆部92で被覆しておらず、外径面8bの一部を軸受部材7(取り付け部72)の外周面に露出させている。詳細には、芯材8の外径面8bのうち、その下端から上側の組の貫通孔H1を越えた軸方向領域に至って外側被覆部92が設けられ、外径面8bの上側所定領域は外部に露出している(以下、この外部に露出した領域を露出外周面8b1ともいう)。芯材8の下端面8dも外部に露出している。これは、軸受部材7を樹脂で射出成形する際に、これらの面8b1,8dを成形金型に接触させることにより、型内における芯材8の位置決めを行うためである。軸受部材7の上側端面7eのうち、芯材8よりも内径側の領域には、成形金型のゲート内に残存する樹脂が分断されることによって形成されたゲート跡G1がある。
軸受部材7の小径内周面7a(スリーブ部71の内周面)には、軸部2aの外周面2a1との間にラジアル軸受隙間を形成する円筒状のラジアル軸受面A1,A2が軸方向の二箇所に離隔して設けられる。ラジアル軸受面A1,A2は、ラジアル軸受隙間に形成される油膜に動圧作用を発生させるための表面形状に調整される。このような表面形状の一例として本実施例では、図3に示すように、複数の動圧溝Aa,Abをヘリングボーン形状に配列してなるラジアル動圧発生部がラジアル軸受面A1,A2にそれぞれ形成される。上側の動圧溝Aaは、軸方向中心mよりも上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなった軸方向非対称に形成される。一方、下側の動圧溝Abは軸方向対称に形成され、その上下領域の軸方向寸法は上記軸方向寸法X2と等しくなっている。かかる構成により、軸部材2が回転すると、軸部2aの外周面2a1と軸受部材7の小径内周面7aとの間に介在する潤滑油に対し、下方に向かうポンピング力が付与される。
小径内周面7aの下端には、軸線と直交する方向に延びる段差面7bの内径端が繋がっており、この段差面7bには、対向するフランジ部2bの上側端面2b1との間に第1スラスト軸受隙間を形成する環状のスラスト軸受面Bが設けられる。スラスト軸受面Bには第1スラスト軸受隙間に形成される油膜に動圧作用を発生させるスラスト動圧発生部が形成される。スラスト動圧発生部は、図4に示すようなヘリングボーン形状で、V字状に屈曲した複数の動圧溝Baと、これを区画する図中クロスハッチングで示す丘部Bbとを円周方向に交互に配して構成される。
小径内周面7aの上端にはシール面7cの下端が繋がっており、このシール面7cとこれに対向する軸部2aの外周面2a1との間に軸受部材7の上端開口部をシールするシール隙間Sが形成される。シール面7cは下方に向かって漸次縮径したテーパ面状に形成される一方、軸部2aの外周面2a1は径一定の円筒面状に形成される。従って、シール隙間Sは下方に向けて径方向寸法を漸次縮小させたテーパ形状を呈する。
軸受部材7の大径内周面7d(取り付け部72の内周面)には、接着、圧入等の適宜の手段で蓋部材10が固定され、これにより軸受部材7の下端開口が閉塞される。図示例の蓋部材10は有底筒状(コップ状)をなし、略円盤状のプレート部10aと、プレート部10aの外径端から上方に延びる円筒状の筒部10bとを一体に有する。筒部10bの軸方向寸法は、筒部10bの内周に収容されるフランジ部2bの軸方向の厚みと、フランジ部2bの軸方向両側に形成される第1および第2スラスト軸受隙間の隙間幅とを合算した値に設定される。
プレート部10aの上側端面10a1には、対向するフランジ部2bの下側端面2b2との間に第2スラスト軸受隙間を形成する環状のスラスト軸受面Cが設けられる。スラスト軸受面Cには、第2スラスト軸受隙間に形成される油膜に動圧作用を発生させるスラスト動圧発生部が形成される。このスラスト動圧発生部は、図5に示すようなヘリングボーン形状で、V字状に屈曲した動圧溝Caと、これを区画する丘部Cbとを円周方向に交互に配して構成される。
以上の構成を有する流体軸受装置1は、例えば以下のようにして製造することができる。以下では、軸受部材7の製造工程を中心に述べる。
図7は、図2〜図4に示す軸受部材7の製造工程を示すものである。同図に示す成形金型は、固定側の上型13と可動側の下型17とを主要部として構成される。上型13は下方に突設されたコア15を有し、コア15の外周面には、ラジアル軸受面A1,A2に設けられるラジアル動圧発生部の形状に対応した型部15a,15bが形成されている。また、上型13には、型締め時に区画形成されるキャビティ19に樹脂材料を射出、充填するゲート14と、成形品(軸受部材7)の離型時に進退移動するノックアウトピン16とが設けられる。ゲート14は、ここでは点状ゲートであり、軸受部材7の上側端面7eに対応する位置に、円周方向等間隔で複数(3つ)設けられる。ノックアウトピン16は、円周方向で隣り合うゲート14,14の中間部分に設けられる。上型13の内径寸法は、上型13の内周に嵌合される芯材8が、その自重では脱落しないが、軸方向に加圧されることで上型13の内周面13aに沿ってスライド可能な程度(一言で言えば、芯材8を軽圧入可能な程度)とされる。
下型17は、型締め時にコア15と当接する突状部18を有し、突状部18の上側端面には、スラスト軸受面Bに設けられるスラスト動圧発生部の形状に対応した型部18aが形成されている。なお、図示例では、理解の容易化のために各型部15a,15b,18aの突出量を誇張して描いているが、これら型部の突出量は、実際には数μm程度である。
以上の構成からなる成形金型において、まず、芯材8をインサート部品として型内に配置する。芯材8の配置は、図7に示すように、芯材8を上型13の内周面13aに嵌合させることにより行い、このとき、芯材8の下端面8dと上型13の下端面13bとの間の軸方向寸法(上型13の下端面13bを基準としたときの芯材8の下方への突出量)L1が、下型17の内底面17aと上端面17bとの間の軸方向寸法L2よりも大きくなるようにする(L1>L2)。このようにして芯材8を型内に配設した後、下型17を上昇移動させて型締めする。このとき、L1>L2の関係から、下型17の上昇移動がある程度進行すると、芯材8の下端面8dが下型17の内底面17bに当接し、下型17の上昇移動がさらに進行すると、芯材8は、下端面8dを下型17の内底面17aに当接させたまま上型13の内周面13aに沿って上方にスライドする。そして、型締めが完了すると、両型13,17間にキャビティ19が区画形成されるのと同時に、型(キャビティ19)内での芯材8の位置決めが完了する(図8参照)。
型締め後、ゲート14を介してキャビティ19内に溶融状態の樹脂材料Pを射出、充填する。ゲート14が芯材8よりも内径側に設けられていることから、射出された樹脂材料Pは、キャビティ19のうち、芯材8の内径側領域にある程度充填された後、芯材8の貫通孔H1を介して芯材8の外径側領域に回り込む。これにより、芯材8と一体にスリーブ部71および取り付け部72が樹脂で射出成形される。コア15の外周面には、ラジアル動圧発生部形状に対応した型部15a,15bが設けられ、突状部18の上側端面にはスラスト動圧発生部形状に対応した型部18aが設けられている。そのため、軸受部材7が樹脂で射出成形されるのと同時に、ラジアル動圧発生部(動圧溝Aa,Ab)およびスラスト動圧発生部(動圧溝Ba)が型成形される。なお、軸受部材7の上側端面7eに対応する位置にゲート14を設けたことから、上記のとおり、キャビティ19のうち、芯材8よりも内径側の領域に樹脂材料Pが優先的に充填される。従って、当該領域に樹脂材料Pをムラ無く充填することができ、ラジアル動圧発生部、スラスト動圧発生部およびシール面7cを精度良く成形することができる。
本実施形態では、樹脂材料Pの一例として、結晶性樹脂の一種である液晶ポリマー(LCP)をベース樹脂としたものを用いる。樹脂材料Pには、これに種々の特性を付与するための各種充填材、例えばガラス繊維等の補強用充填材やカーボンブラック、黒鉛等の導電性充填材を適宜配合しても良い。但し、本実施形態においては、インサート部品としての芯材8によって軸受部材7の強度(剛性)向上が図られることから、樹脂のみで形態を同じくする軸受部材7を形成する場合に比べ、補強用充填材の配合量を少なくすることができる。
芯材8をインサート部品として上記の樹脂材料Pで円筒体を射出成形すると、当該円筒体が固化するのに伴って、内径寸法が拡大する方向の、また外径寸法が縮小する方向の成形収縮が生じる。従って、樹脂材料Pで射出成形された軸受部材7の樹脂部に成形収縮が生じると、軸受部材7の内周面とコア15の外周面との間、および軸受部材7の外周面と下型17の内周面との間に、それぞれ微小な径方向隙間が形成される。なお、本形態は、液晶ポリマーやアスペクト比の大きい繊維状添加材を配合した樹脂組成物のように、成形による異方性に起因してウエルド部の強度が得難い樹脂材料に適用すると、強度のみならず、ウエルドラインからの油漏れのリスクを低減できるので、特に好ましい。
以上のようにして、軸受部材7を、芯材8をインサート部品として樹脂で射出成形した後、下型17を下降移動させて型開きを行う。図示は省略するが、型開きを行うと、軸受部材7は上型13に被着した状態となる。この状態にてノックアウトピン16を下降移動させ、軸受部材7に下向きの加圧力を付与すると、ゲート14内に残存する樹脂材料Pが分断されて軸受部材7の内周からコア15が引き抜かれ、軸受部材7の上側端面7eにゲート跡G1が形成される。上記のとおり、軸受部材7に成形収縮が生じると、これに伴い、軸受部材7の内周面とコア15の外周面との間に微小な径方向隙間が形成される。そのため、軸受部材7からのコア15の引き抜きはスムーズに行われる。従って、軸受部材7の小径内周面7aに型成形されたラジアル動圧発生部が、コア15の引き抜きに伴って損傷するような事態は効果的に防止される。
なお、液晶ポリマー(LCP)以外の樹脂、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)をベース樹脂とした樹脂材料Pを用いて軸受部材7を射出成形した場合でも、軸受部材7からコア15を無理抜きすることで上記構成の軸受部材7を成形金型から離型することができる。
以上のようにして、芯材8をインサート部品として樹脂で射出成形され、かつ、ラジアル動圧発生部およびスラスト動圧発生部が射出成形と同時に型成形された軸受部材7が得られる。
なお、本実施形態では、ゲート14として点状ゲートを採用したことから、軸受部材7の上側端面7eに形成されるゲート跡G1の処理(ゲート処理)を簡便に行うことが、あるいはゲート処理を省略することができる。ゲート処理を施す場合、その手段としては、機械加工や塑性加工の他、ゲート跡G1を被覆する被膜を設ける被覆処理を採用することができる。被覆処理を採用する場合、撥油剤でゲート跡G1を被覆すれば、ゲート跡G1を封止するのと同時に、シール隙間Sからの潤滑油漏れをより効果的に防止することが可能となる。なお、ゲート処理の簡便性の観点から言えば、ゲート14としては点状ゲート以外にも、円環状のフィルムゲートを採用することもできる。
以上のようにして得られた軸受部材7の内周に軸部材2を挿入した後、図2に示すように筒部10bの上端面10b1を軸受部材7の段差面7bに当接させるようにして、軸受部材7の大径内周面7dに蓋部材10を固定する。蓋部材10の筒部10bの軸方向寸法が、フランジ部2bの軸方向の厚みと第1および第2スラスト軸受隙間の隙間幅とを合算した値に設定されていることから、上記態様で蓋部材10を固定すると、軸受部材7の下端開口部が閉塞されるのと同時に両スラスト軸受隙間の隙間幅が規定値に設定される。そして、軸受部材7の内部空間に、流体としての潤滑油を充填することにより、図2に示す流体軸受装置1が完成する。
以上の構成からなる流体軸受装置1において、軸部材2が回転すると、軸受部材7の小径内周面7a(スリーブ部71の内周面)の上下2箇所に離隔して設けたラジアル軸受面A1,A2と、これに対向する軸部2aの外周面2a1との間にそれぞれラジアル軸受隙間が形成される。そして軸部材2の回転に伴い、両ラジアル軸受隙間の油膜圧力が動圧溝Aa,Abの動圧作用によって高められ、軸部材2をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部R1,R2が軸方向の二箇所に離隔形成される。これと同時に、軸受部材7の段差面7bに設けたスラスト軸受面Bとフランジ部2bの上側端面2b1との間に第1スラスト軸受隙間が形成され、フランジ部2bの下側端面2b2と蓋部材10のプレート部10aの上側端面10a1に設けたスラスト軸受面Cとの間に第2スラスト軸受隙間が形成される。そして軸部材2の回転に伴い、両スラスト軸受隙間の油膜圧力が動圧溝Ba,Caの動圧作用によってそれぞれ高められ、軸部材2をスラスト一方向に非接触支持する第1スラスト軸受部T1と、軸部材2をスラスト他方向に非接触支持する第2スラスト軸受部T2とが形成される。
また、シール隙間Sが、軸受部材7の内部側に向かって径方向寸法を漸次縮小させたテーパ形状を呈しているため、シール隙間S内の潤滑油は毛細管力による引き込み作用によって軸受部材7の内部側に向けて引き込まれる。また、シール隙間Sは、軸受部材7の内部空間に充填された潤滑油の温度変化に伴う容積変化量を吸収するバッファ機能を有し、想定される温度変化の範囲内で潤滑油の油面を常にシール隙間S内に保持する。これらの構成から、軸受部材7の内部から、軸受部材7の上端開口部を介して潤滑油が漏れ出すような事態が効果的に防止される。
図7および図8を参照して説明したように、本発明では、軸受部材7を、円筒状の芯材8をインサート部品として樹脂で射出成形したので、高強度(高剛性)の軸受部材7を低コストに量産することができる。また、ラジアル軸受面A1,A2を有するスリーブ部71を取り付け部72と一体に射出成形すると共に、シール面7cも射出成形で形成したことから、特許文献1で言う軸受スリーブやシール部材を省略することができ、流体軸受装置1の更なる低コスト化が図られる。さらに、芯材8で軸受部材7の強度向上が図られるため、樹脂材料P中への補強用充填材の配合量を少なくすることができる。補強用充填材の配合量を少なくすれば、その分だけ樹脂材料Pに占めるベース樹脂の構成比率が高まるため、樹脂材料Pの流動性が向上する。そのため、キャビティ19に対する樹脂材料Pの充填効率が高まり、軸受部材7の高精度化が図られると共に生産性が向上する。
また、樹脂で射出成形した部分(樹脂部)は、芯材8に対して軸方向および周方向で係合する部分(ここでは結合部93)を一体に有することから、芯材8と樹脂部の間で抜け止めおよび回り止めが図られる。加えて、貫通孔H1を形成するのに伴って貫通孔H1の開口周縁に形成されたバリH1aを樹脂(内側被覆部91)で被覆した。従って、孔開け加工後の仕上げ加工を省略して芯材8の製作コストを低廉化することができ、しかも、不均一な凹凸からなるバリH1aに樹脂が密着するので、芯材8に対する樹脂の結合力は一層高まる。
さらに、軸受部材7は、芯材8の内周面8aおよび外周面8bを被覆する内側および外側被覆部91,92を有し、かつ、液晶ポリマー(LCP)をベース樹脂とした樹脂材料Pで射出成形した。この場合、上述した液晶ポリマーの特性から、軸受部材7(内側被覆部91および外側被覆部92)に成形収縮が生じると、内側被覆部91は芯材8の内周面8aに対して、また、外側被覆部92は芯材8の外周面8bに対して強固に密着する。従って、この点からも芯材8に対する樹脂の結合力が向上する。
また、軸受部材7の一部がインサート部品とされた芯材8で構成され、樹脂で射出成形される部分が薄肉化される分、芯材8を有さない同一形状の軸受部材7を樹脂で射出成形する場合に比べ、成形収縮や温度変化に伴う軸受部材7の寸法変化量を小さくすることができる。本実施形態では、樹脂で射出成形された部分(樹脂部)に、ラジアル軸受面A1,A2やシール面7cを設けたことから、樹脂部の軸方向において肉厚差があると、成形収縮や温度変化に伴う寸法変化量が軸方向でばらつくため、軸受性能に悪影響が及ぶおそれがある。これに対し、本発明の構成を採用すれば、インサート部品とされる芯材8の厚みやキャビティ19内での径方向の配設位置等を適切に設定することにより、樹脂部の軸方向での肉厚差をほぼゼロにすることができる。そのため、成形収縮や温度変化に伴って軸受部材7の寸法変化量が軸方向でばらつくような事態を効果的に防止することができ、軸受性能の安定化を図ることができる。
図9に拡大して示すように、軸部材2には、フランジ部2bの上側端面2b1と下側端面2b2とに開口する連通孔11が設けられる。このような連通孔11を設けることにより、連通孔11を介して第1スラスト軸受隙間と第2スラスト軸受隙間との間で潤滑油を流通させることができる。これにより、第1スラスト軸受隙間と第2スラスト軸受隙間との間で圧力バランス(特にモータ起動時の圧力バランス)をとることができる。
図9に示す連通孔11は、径方向部11a及び軸方向部11bを有するもので、両スラスト軸受面B,Cの動圧溝領域を避けてこれらの内径側に開口させるため、屈曲した形状をなしている。より詳細には、径方向部11aの外径端がフランジ部2bの上側端面2b1と軸受部材7の内周チャンファ7fと軸部2aの下端部に設けられたヌスミ部2a3とで形成される空間に開口し、径方向部11aの内径端につながった軸方向部11bが軸部2aの小径部2a1の外周面に沿って延び、スラスト軸受面Cに設けたスラスト動圧発生部の内径側の空間に開口している。なお、連通孔11は、円周方向の一箇所に設ける他、複数箇所に設けることもできる。
軸部材2の回転中は、上下ラジアル動圧発生部のポンピング能力のアンバランス(図3参照)により、軸受部材7の小径内周面7aと軸部2aの外周面2a1との間の潤滑油が下方に押し込まれる。そのため、軸受内部の閉塞側の空間、特に第2スラスト軸受隙間よりも内径側の空間で圧力が高くなる傾向にある。このような場合に、第2スラスト軸受部T2の動圧溝Caを従来品で多用されるポンプインタイプのスパイラル形状にすると、第2スラスト軸受隙間に介在する潤滑油が内径側に押し込まれるため、第2スラスト軸受隙間よりも内径側の空間の圧力増大を助長することになる。これを回避するため、第2スラスト軸受隙間に形成される油膜に動圧作用を発生させる動圧溝Caは、上記のとおりへリングボーン形状(図5参照)にするのが望ましい。上側の第1スラスト軸受部T1では、この種の問題を生じないので、図4に示すヘリングボーン形状の動圧溝Baに代えて、ポンプインタイプのスパイラル形状の動圧溝を採用することもできる。
以上の構成からなる流体軸受装置1は、軸受部材7を、アルミ合金等の金属材料で形成されてモータの静止側部材を構成するモータブラケット6(図1を参照)の内周面に例えば接着固定することでモータに組み込まれる。軸受部材7の外周面には金属材料で形成した芯材8の外径面8bの一部が露出しているので、軸受部材7とモータブラケット6との間に高い接着強度を確保することができる。
また、軸受部材7を、導電性充填材を配合した樹脂材料Pで射出成形したことから、ディスクDが回転することによってディスクD等に帯電した静電気を、軸部材2→軸受部材7→モータブラケット6という経路を介して確実に接地側に放電することができる。また、軸受部材7の外周面には、導電性を有する金属材料で形成した芯材8が露出しており、この露出した部分(露出外周面8b1)もモータブラケット6に固定されることから、放電効率を高めることができる。但し、軸受部材7とモータブラケット6とを接着固定した本実施形態においては、接着剤(通常は絶縁体)によって導電経路が遮断される可能性がある。かかる事態は、例えば、芯材8の下側端面8dとモータブラケット6の下端内径端部とにまたがって、あるいは芯材8の外径面8b(露出外周面8b1)とモータブラケット6の上端内径端部とにまたがって導電性被膜を形成することで防止することができる。
なお、本願発明者らが検証したところ、上記の導電経路の抵抗が1MΩ以下であれば、ディスクD等に帯電した静電気を接地側(モータブラケット6)に放電することができる。
図10は、以上で説明した本発明の構成を具備する流体軸受装置1の変形例を示すものであり、本発明の第2実施形態に係る流体軸受装置1を示すものである。同図に示す流体軸受装置1が、図2に示す流体軸受装置1と異なる主な点を以下列挙する。
(1)蓋部材10が省略され、フランジ部2bの外周面2b3と、これに対向する軸受部材7の内周面(第2大径内周面7h)との間に軸受部材7の下端開口部をシールするシール隙間Sが形成される。
(2)軸部材2に第2のフランジ部2cが設けられ、この第2フランジ部2cの外周面2c1と、これに対向する軸受部材7の内周面(第1大径内周面7g)との間に、軸受部材7の上端開口部をシールするシール隙間Sが形成される。
(3)第2フランジ部2cの下側端面2c2と、これに対向する軸受部材7の第2段差面7iとの間に第2スラスト軸受部T2が形成される。
(4)軸受部材7に、両段差面7b,7iに開口した軸方向の連通孔11’が設けられている。
上記(1)(2)の構成によれば、図2に示す構成に比べてシール隙間Sが外径側に変位する分、シール隙間Sの軸方向寸法を短縮することができる。そのため、ラジアル軸受部R1,R2の軸受スパンを拡大して、ラジアル方向の回転精度を高めることができる。また、上記(3)の構成によれば、部品点数が少なくなるので、流体軸受装置1の低コスト化を図ることができる。さらに、上記(4)の構成によれば、軸方向の連通孔11’を介して両スラスト軸受部T1,T2のスラスト軸受隙間間で潤滑油を流通させることができる。そのため、特にスラスト軸受部の軸受性能の安定化が図られる。
以上で説明した流体軸受装置1においては、軸受部材7を樹脂で射出成形するのと同時に、スリーブ部71のラジアル軸受面A1,A2にラジアル動圧発生部を型成形するようにしたが、ラジアル動圧発生部は必ずしも軸受部材7を樹脂で射出成形するのと同時に型成形する必要はない。また、ラジアル動圧発生部は、対向する軸部2aの外周面2a1に設けても良い。
また、以上で説明した流体軸受装置1は、軸受部材7が、内側被覆部91、外側被覆部92および結合部93を有するものであるが、外側被覆部92は必ずしも設ける必要はない。外側被覆部92を有さない軸受部材7を構成部品とする流体軸受装置1の図示は省略するが、この場合、軸受部材7の外周面への芯材8の露出面積を増大することができる。そのため、モータブラケット6に対する軸受部材7の固定力が一層向上すると共に、放電効率も一層向上する。
以上では、ラジアル軸受面A1,A2にヘリングボーン形状の動圧溝Aa,Abを設けることにより、動圧軸受からなるラジアル軸受部R1,R2を構成した場合について説明を行ったが、ラジアル軸受部R1,R2は、ラジアル軸受面A1,A2に多円弧面やステップ面を設けることにより、いわゆる多円弧軸受やステップ軸受等、公知のその他の動圧軸受で構成することもできる。また、ラジアル軸受隙間を介して対向する二面を円筒面とした、いわゆる真円軸受でラジアル軸受部R1,R2を構成することもできる。
また、以上の実施形態では、ヘリングボーン形状等の動圧溝Ba,Caを設けることにより動圧軸受からなるスラスト軸受部T1,T2を構成した場合について説明を行ったが、いわゆるステップ軸受や波型軸受等、公知のその他の動圧軸受でスラスト軸受部T1,T2の何れか一方又は双方を構成することもできる。また、スラスト軸受部は、軸部材2の一端を接触支持する、いわゆるピボット軸受で構成することもできる。
図11は、スラスト軸受部をピボット軸受で構成した流体軸受装置1の一例を示すものであり、本発明の第3実施形態に係る流体軸受装置1を示している。この流体軸受装置1において、軸受部材7は、円筒状の側部73と、側部73の下端開口を閉塞する底部74とを一体に有する有底筒状に形成されている。側部73は、ラジアル軸受面A1,A2を有するスリーブ部71と、モータブラケット6に固定される取り付け部72とで構成され、従って、この実施形態の軸受部材7は、スリーブ部71と取り付け部72に加え、底部74も一体に有するものである。この軸受部材7は、軸方向に延びる円筒状の軸方向部81と半径方向に延びる円盤状の半径方向部82とを一体に有するコップ状の芯材8をインサート部品として樹脂で射出成形することにより得られ、芯材8の軸方向部81とこれを被覆する樹脂とで側部73(スリーブ部71及び取り付け部72)が形成され、半径方向部82とこれを被覆する樹脂とで底部74が形成される。また、軸部材2の下端を球面状に形成し、この下端球面部を軸受部材7の底部74で接触支持することでスラスト軸受部Tが構成される。このとき、芯材8の半径方向部82の内端面側を樹脂で被覆することで、軸部材2と摺動接触する面(スラスト軸受面)を樹脂で形成することができ、低トルク化や低摩擦化が図られる。
また、以上では、いわゆる軸回転型の流体軸受装置1に本発明を適用した場合について説明を行ったが、本発明はいわゆる軸固定型の流体軸受装置にも好適に適用することができる。詳細な図示は省略するが、軸固定型の流体軸受装置は、例えばモータの静止側を構成するモータブラケット6に軸部材2が固定されると共に、モータの回転側を構成するディスクハブ3に軸受部材7の取り付け部72が固定されるタイプの軸受装置である。
図12は、本発明の他の実施形態に係る流体軸受装置を組み込んだ情報機器用スピンドルモータを概念的に示すものである。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材22を回転自在に支持する流体軸受装置21と、軸部材22に固定されたディスクハブ23と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル24およびロータマグネット25と、モータブラケット26とを備えている。ステータコイル24はモータブラケット26の外周に取り付けられ、ロータマグネット25はディスクハブ3の内周に取り付けられる。流体軸受装置21のハウジング27は、モータブラケット26の内周に固定される。ディスクハブ23には磁気ディスク等のディスクD1が一又は複数枚(図示例は2枚)保持され、ディスクD1は、ディスクハブ23と図示しないクランプ機構とで挟持される。以上の構成において、ステータコイル24に通電すると、ステータコイル24とロータマグネット25との間の電磁力でロータマグネット25が回転し、それによって、ディスクハブ23およびディスクハブ23に保持されたディスクD1が軸部材22と一体に回転する。
図13は、本発明の第4実施形態に係る流体軸受装置21を示すものであり、図12に示す流体軸受装置21を拡大して示すものである。この流体軸受装置21は、軸部材22と、軸部材22を内周に挿入した軸受スリーブ28と、軸受スリーブ28を内周に固定した有底筒状(コップ状)のハウジング27と、ハウジング27の一端開口部に配設されたシール部材29とを構成部材として備え、ハウジング27の内部空間は流体としての潤滑油で満たされている。なお、この流体軸受装置21は、図2に示す流体軸受装置1において、軸受部材7のスリーブ部71と取り付け部72を別体にした構成に相当する。軸受スリーブ28がスリーブ部71に相当し、ハウジング27が取り付け部72に相当する。すなわち、軸受スリーブ28とハウジング27のアセンブリが図2に示す流体軸受装置1の軸受部材7に相当する。以下、シール部材29の設けられた側を上側、その軸方向反対側を下側として説明を進める。
軸部材22は、軸部22aと、軸部22aの下端に設けられたフランジ部22bとを有する。軸部22aおよびフランジ部22bは耐摩耗性に富む金属材料、例えばステンレス鋼で形成され、ここでは両部22a,22bが鍛造で一体成形される。軸部材22は、個別に製作した軸部22aとフランジ部22bとを圧入、接着、溶接(特にレーザ溶接)等の任意の手段で結合したものとすることもできる。
スリーブ部71としての軸受スリーブ28は、焼結金属からなる多孔質体、特に銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成される。軸受スリーブ28は、黄銅等の軟質金属で形成しても良い。図14(a)に示すように、軸受スリーブ28の内周面28aには、対向する軸部22aの外周面22a1との間にラジアル軸受隙間を形成する円筒状のラジアル軸受面A11,A12が軸方向の二箇所に離隔して設けられる。ラジアル軸受面A11,A12には、それぞれ、複数の動圧溝Aa1,Ab1をヘリングボーン形状に配列してなるラジアル動圧発生部が形成される。本実施形態において、上側の動圧溝Aa1は、軸方向中心m1(上下の傾斜溝間領域の軸方向中央)に対して軸方向非対称に形成されており、軸方向中心m1より上側領域の軸方向寸法X11が下側領域の軸方向寸法X12よりも大きくなっている。一方、下側の動圧溝Ab1は軸方向対称に形成され、その上下領域の軸方向寸法はそれぞれ上記軸方向寸法X12と等しくなっている。なお、ラジアル動圧発生部は、対向する軸部22aの外周面22a1に形成しても良い。
図14(b)に示すように、軸受スリーブ28の下側端面28cには、対向するフランジ部22bの上側端面22b1との間に第1スラスト軸受隙間を形成する環状のスラスト軸受面B1が設けられる。スラスト軸受面B1には、第1スラスト軸受隙間に形成される油膜に動圧作用を発生させるスラスト動圧発生部が形成される。スラスト動圧発生部は、スパイラル形状に複数配列された動圧溝Ba1と、これを区画する丘部Bb1とを円周方向に交互に配列して構成される。このスラスト動圧発生部は、対向するフランジ部22bの上側端面22b1に形成しても良い。
図14(a)(b)に示すように、軸受スリーブ28の外周面28dには、軸方向に延びる軸方向溝28d1が周方向の3箇所に等間隔で設けられている。また、軸受スリーブ28の上側端面28cには、環状溝28c1と、この環状溝28c1の内径端に繋がった径方向溝28c2とが設けられる。
シール部材29は、金属材料あるいは樹脂材料でリング状に形成され、取り付け部72としてのハウジング27の上端内周に固定される。このシール部材29の内周面29aと、これに対向する軸部22aのテーパ面22a2との間には所定容積のシール隙間S1が形成される。軸部22aのテーパ面22a2は上方に向かって外径寸法を漸次縮小させた面である。従ってシール隙間S1は、ハウジング27の内部側に向かって漸次縮小したテーパ形状を呈する。シール部材29の下側端面29bのうち、外径側の領域には、内径側の領域よりも上方に後退した段差面29b1が形成される。
取り付け部72としてのハウジング27は、円筒状の側部27aと、側部27aの下端開口を閉塞する円盤状の底部27bとを一体に有する有底筒状(コップ状)をなす。かかる構成のハウジング27は、軸方向に延びて円筒状をなす軸方向部31、および半径方向に延びて円盤状をなす半径方向部32を一体に有するコップ状の芯材30をインサート部品として樹脂で射出成形されたものである。従って、ハウジング27は、芯材30と樹脂の複合構造をなす。以下、樹脂で射出成形された部分を樹脂部33という。
芯材30の軸方向部31のうち、ハウジング27の底部27bの軸方向範囲に位置する部分には、半径方向の貫通孔H11が設けられている。ハウジング27の樹脂部33は、芯材30の軸方向部31の外径面を被覆する外側被覆部34と、芯材30の半径方向部32の内端面を被覆する底被覆部35と、外側被覆部34と底被覆部35を貫通孔H11内で結合する結合部36とを一体に有する。従って、ハウジング27の底部27bは芯材30の半径方向部32と樹脂部33の底被覆部35とで構成され、ハウジング27の外端面27b2には、芯材30の半径方向部32が露出している。
また、ハウジング27の側部27aは、芯材30の軸方向部31と樹脂部33の外側被覆部34とで構成される。但し、本実施形態において、芯材30の軸方向部31は、側部27aのうち、その下端から軸受スリーブ8の上端に至る軸方向範囲に設けられる。そのため、側部27aのうち、シール部材9を内周に保持した軸方向領域は樹脂のみで構成される一方、軸受スリーブ8を内周に保持した軸方向領域は、芯材30と樹脂の複合構造をなす。さらに言えば、側部27aの内周面27a1のうち、シール部材29の下側端面29bよりも下側の領域では芯材30の軸方向部31が露出している。これらの構成から、外側被覆部34の肉厚が軸方向で略均一化される。
芯材30の半径方向部32の中心には軸方向の貫通孔H12が設けられ、貫通孔H12は樹脂で充足されている(以下、貫通孔H12を充足する部分を充足部35aという)。充足部35aの外端面には上方に後退した凹部27dが形成され、この凹部27dの中心に、ゲート跡G11が形成されている。また、底部27bの内端面27b1の中心には、下方に後退した凹部27cが形成される。これらの構成から、底部27bを構成する樹脂部33(底被覆部35)の肉厚は、半径方向で概ね均一化される。
ハウジング27の内端面27b1には、対向するフランジ部22bの下側端面22b2との間に第2スラスト軸受隙間を形成する環状のスラスト軸受面C1が設けられる。スラスト軸受面C1には、第2スラスト軸受隙間に形成される油膜に動圧作用を発生させるスラスト動圧発生部が形成される。スラスト動圧発生部は、図15に示すように、スパイラル形状に配列された複数の動圧溝Ca1と、これを区画する丘部Cb1とで構成される。
芯材30は、導電性を有する金属材料、ここでは、貫通孔H11,H12が形成されたステンレス鋼板をプレス加工(深絞り、後方押し出し、前方押し出し等)することにより、軸方向部31および半径方向部32を一体に有するコップ状に形成される。プレス加工であれば、高精度な芯材30を低コストに量産することができる。ステンレス鋼は、防錆処理が不要であるからインサート成形時に脱脂処理が不要であり、また、樹脂との密着性に優れる。そのため、インサート部品とされる芯材30の形成材料として特に好適である。芯材30の厚みは、ハウジング27の高強度化(底抜け強度の向上)を図ることができ、かつ、孔開け加工等に伴って変形が生じない値に設定される。例えば、ハウジング27の肉厚が1mmとされる場合、ハウジング27の高強度化を図る上では0.1mm以上(ハウジング27の肉厚の10%以上)とするのが望ましく、加工性を考慮すると0.7mm以下とするのが望ましい。なお、貫通孔H11,H12は、ドリルやポンチを用いて孔開け加工を施すことによって形成され、貫通孔H11,H12の開口周縁には孔開け加工に伴ってバリが形成されるが、図示例ではこのバリを省略している。
上記のハウジング27の製造方法の一例を以下示す。
図16および図17は、ハウジング27の製造工程を概念的に示すものである。図16および図17に示す成形金型は、静止側の上型41と可動側の下型42とで主要部が構成される。下型42には、インサート部品として型内に供給される芯材30の内周面を保持する軸状のコア44が一体に設けられる。コア44の外径寸法は、芯材30を軽圧入状態で保持可能な値に設定され、コア44の上端面44aには、動圧溝Ca1(スラスト動圧発生部)形状に対応した型部44bが設けられている。上型41には、型締めに伴って両型41,42間に区画形成されるキャビティ45に樹脂材料P1を射出・充填するためのゲート43と、成形品の離型時に進退移動するノックアウトピン46とが設けられる。ゲート43の数や形状に特段の限定はないが、ここでは点状ゲートを採用し、軸心上の一箇所に設けている。ゲート43の断面積(特に開口部の断面積)は、樹脂材料P1の流動性や、型開きに伴ってハウジング27に形成されるゲート跡G11の処理性を考慮して適宜設定される。
上記構成の成形金型において、まず図16に示すように、芯材30をコア44の外周に嵌合する。このとき、芯材30の半径方向部32の内底面とコア44の上端面44aとの軸方向離間距離L3が、射出成形される樹脂部33の底被覆部35の厚みk1(図13参照)よりも大きくなるようにする(L3>k1)。このようにするのは、型締めに伴って型内における芯材30の位置決めを行い、所定のキャビティ45を区画形成するためである。次いで、下型42を上昇移動させ、型締めを行う。下型42を所定量上昇移動させると、芯材30の半径方向部32の外底面が上型41の内頂面41aに当接する。そして、下型42の上昇移動がさらに進行し、型締めが完了すると、図17に示すように、型内における芯材30の位置決めがなされると共に、両型41,42間にキャビティ45が区画形成される。
型締め完了後、ゲート43を介してキャビティ45内に樹脂材料P1を射出、充填する。射出された樹脂材料P1は、キャビティ45のうち、芯材30の内端面とコア44の上端面44aとの間に形成された半径方向空間45b内に充填されると共に、芯材30の軸方向部31に設けられた半径方向の貫通孔H11を通過して、軸方向空間45aにも順次充填される。そして、キャビティ45への樹脂材料P1の充填が完了すると、芯材30と一体に樹脂部33が射出成形されたハウジング27が得られる。コア44の上端面44aには、スラスト動圧発生部(動圧溝Ca1)形状に対応した型部44aが設けられていることから、ハウジング27が樹脂材料P1で射出成形されるのと同時にスラスト動圧発生部(動圧溝Ca1)が型成形される。
なお、インサート部品として型内に配置する芯材30は、半径方向部32に設けた軸方向の貫通孔H12の断面積を、軸方向部31に設けた半径方向の貫通孔H11の断面積よりも大きくしたものを用いるのが望ましい。これは、ハウジング27の樹脂部33を射出成形する際に、キャビティ45のうち、樹脂部33の底被覆部35を成形する領域に優先的に樹脂を充填するためである。これとは逆に、軸方向の貫通孔H12の断面積を半径方向の貫通孔H11の断面積よりも小さくした芯材30をインサート部品とすると、キャビティ45のうち、樹脂部33の外側被覆部34を成形する領域に優先的に樹脂が充填される。この場合、半径方向の貫通孔H11を介して樹脂が芯材30の外側から内側に流入することによって底被覆部35が成形されることになるため、ハウジング27の内端面27b1(スラスト軸受面C1)にウエルドラインが形成され、スラスト軸受面C1に形成される動圧溝Ca1の溝精度を確保することが困難となる可能性がある。すなわち、軸方向の貫通孔H12の断面積を半径方向の貫通孔H11の断面積よりも大きくした芯材30をインサート部品として用いることにより、ハウジング27の内端面27b1、ひいては動圧溝Ca1に精度不良が生じるような事態が可及的に防止される。
樹脂材料P1は、射出成形可能な熱可塑性樹脂をベース樹脂とするものであれば特に限定されない。ベース樹脂としては、例えば液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の結晶性樹脂、あるいはポリフェニルサルフォン(PPSU)、ポリエーテルサルフォン(PES)等の非晶性樹脂が使用可能である。この樹脂材料P1には、種々の特性を付与するための各種充填材、例えばガラス繊維等の補強用充填材やカーボン繊維、カーボンブラック等の導電性充填材を必要に応じて配合することができるが、本実施形態に係るハウジング27では、ステンレス鋼板で形成された芯材30でハウジング27の強度向上が図られ、また、導電性が確保される。そのため、補強用充填材や導電性充填材は基本的に配合せずとも足りる。
以上のようにして、ハウジング27を、芯材30をインサート部品として樹脂で射出成形した後、下型42を下降移動させて型開きを行う。図示は省略するが、型開きを行うと、芯材30と樹脂部33の一体品(ハウジング27)は上型41に被着した状態となる。この状態にて、ノックアウトピン46を下降移動させ、ハウジング27に下向きの加圧力を付与すると、ゲート43内に残存する樹脂材料P1が分断され、上型41からハウジング27が分離される。分離されたハウジング27の外端面27b2の中心には、ゲート跡G11が形成される。以上のようにして、芯材30をインサート部品として樹脂で射出成形され、かつ、スラスト動圧発生部(動圧溝Ca1)が同時に型成形された取り付け部72としてのハウジング27が得られる。
本実施形態では、ゲート43として点状ゲートを採用したことから、ハウジング27の外底面27b2(軸方向の貫通孔H12を埋める孔埋部35aの中心)に形成されるゲート跡G11の処理(ゲート処理)を簡便に行うことができる。ゲート処理の手段としては、機械加工や塑性加工の他、ゲート跡G11を被覆する被膜を設ける被覆処理を採用することができる。なお、ゲート跡G11は、外端面27b2(充足部35aの外端面)の中心に設けた凹部27d内に収容されることから、ゲート処理を省略することもできる。
以上のようにして得られたハウジング27の内周に軸部材22を配置した状態で、ハウジング27の内周面27a1に軸受スリーブ28を例えば接着固定する。ハウジング27の内周面27a1のうち、焼結金属製の軸受スリーブ28の外周面8dとの対向領域には、金属材料で形成した芯材30の軸方向部31が露出しているので、ハウジング27と軸受スリーブ28との間に高い接着強度を確保することができる。但し、導電経路を確保する観点から、ハウジング27の内周に軸受スリーブ28を接着固定する場合であっても、軸受スリーブ28の外周面28dの少なくとも一部をハウジング27の内周面27a1(芯材30の軸方向部31)に接触させておくのが望ましい。軸受スリーブ28の固定後、ハウジング27の内周面27a1にシール部材29を圧入、接着等、適宜の手段で固定し、ハウジング27の内部空間に流体としての潤滑油を充填することにより、図13に示す流体軸受装置21が完成する。
以上の構成からなる流体軸受装置21において、軸部材22が回転すると、軸受スリーブ28の内周面28aの上下2箇所に離隔して設けたラジアル軸受面A11,A12と、これに対向する軸部22aの外周面22a1との間にそれぞれラジアル軸受隙間が形成される。そして軸部材22の回転に伴い、両ラジアル軸受隙間の油膜圧力が動圧溝Aa1,Ab1の動圧作用によって高められ、軸部材2をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部R11,R12が軸方向の二箇所に離隔形成される。これと同時に、軸受スリーブ28の下側端面28bに設けたスラスト軸受面B1とフランジ部22bの上側端面22b1との間に第1スラスト軸受隙間が形成され、フランジ部22bの下側端面22b2とハウジング27の内底面27b1に設けたスラスト軸受面C1との間に第2スラスト軸受隙間が形成される。そして、軸部材22の回転に伴い、両スラスト軸受隙間の油膜圧力が動圧溝Ba1,Ca1の動圧作用によってそれぞれ高められ、軸部材22をスラスト一方向に非接触支持する第1スラスト軸受部T11と、軸部材22をスラスト他方向に非接触支持する第2スラスト軸受部T12とが形成される。
また、シール隙間S1が、ハウジング27の内部側に向かって径方向寸法を漸次縮小したテーパ形状を呈しているため、シール隙間S1内の潤滑油は、毛細管力による引き込み作用によってハウジング27の内部側に引き込まれる。また、シール隙間S1は、ハウジング27の内部空間に充填された潤滑油の温度変化に伴う容積変化量を吸収するバッファ機能を有し、想定される温度変化の範囲内で潤滑油の油面を常にシール隙間S1内に保持する。さらに、シール隙間S1に軸部22aのテーパ面22a2が面していることから、軸部材22が回転すると遠心力シールとしての機能も付加される。以上から、ハウジング27内部からの潤滑油漏れが効果的に防止される。
軸部材22の回転中は、上下ラジアル動圧発生部のポンピング能力のアンバランス(図14(a)参照)により、軸受スリーブ28の内周面28aと軸部22aの外周面22a1との間に介在する潤滑油が下方に押し込まれる。下方に押し込まれた潤滑油は、軸受スリーブ28の下側端面28bとフランジ部22bの上側端面22b1との間の軸方向隙間→軸受スリーブ28の軸方向溝28d1によって形成される流体通路→シール部材29の段差面29b1によって形成される流体通路→軸受スリーブ28の環状溝28c1および径方向溝28c2によって形成される流体通路という経路を循環して、第1ラジアル軸受部R11のラジアル軸受隙間に再び引き込まれる。
このように、潤滑油がハウジング27の内部空間を流動循環するように構成することで、潤滑油の圧力バランスが保たれると同時に、局部的な負圧の発生に伴う気泡の生成、気泡の生成に起因する潤滑油漏れや振動の発生等の問題を解消することができる。上記の循環経路には、シール隙間S1が連通しているので、何らかの理由で潤滑油中に気泡が混入した場合でも、気泡が潤滑油に伴って循環する際にシール隙間S1内の潤滑油の油面(気液界面)から外気に排出される。従って、気泡による悪影響は一層効果的に防止される。
以上で説明したように、本発明では、コップ状の芯材30をインサートして樹脂で射出成形することにより取り付け部72としてのハウジング27を形成したので、底抜け強度の高いハウジング27を低コストに量産することができる。樹脂部33は、外側被覆部34と底被覆部35とを芯材30の径方向の貫通孔H11内で結合する結合部36を一体に有することから、芯材30と樹脂部33とは軸方向および円周方向の双方で係合する。そのため、芯材30と樹脂部33との間で抜け止めおよび回り止めが図られ、ハウジング27の信頼性が向上する。
また、ハウジング27の一部が芯材30で構成され、樹脂部33を薄肉化することができる分、成形収縮や温度変化に伴うハウジング27の寸法変化量を小さくすることができる。さらに、樹脂部33の底被覆部35の肉厚を径方向で概ね均一としたので、底被覆部35の径方向で寸法変化量がばらつくような事態も効果的に防止することができる。これにより、底被覆部35、ひいてはハウジング27の底部27bの形状精度に狂いが生じるような事態を効果的に防止することができる。そのため、ハウジング27の底部27bに設けたスラスト軸受面C1に所定の平面度を安定的に確保することができ、第2スラスト軸受部T12の軸受性能が安定的に維持される。
同様に、ハウジング27の側部27aの寸法変化量も小さくすることができるから、側部27aの形状精度に狂いが生じ、その結果、モータに対するハウジング27(流体軸受装置21)の取り付け精度に悪影響が及ぶような事態も効果的に防止することができる。
また、ハウジング27は、その外端面27b2の中心(凹部27d)にゲート跡G11を有する。すなわち、成形金型のうち、ハウジング27の外端面27b2の中心に対応する位置に設けたゲート43を介して樹脂材料P1をキャビティ45に射出・充填することにより、ハウジング27を射出成形した。そのため、樹脂で射出成形された樹脂部33、特にスラスト軸受面C1が設けられる底被覆部35にウエルドラインが形成されることがない。従って、ハウジング27の底部27bにクラック等が生じるような事態も防止することができ、第2スラスト軸受部T12の軸受性能を長期に亘って安定的に維持することができる。
以上で説明した流体軸受装置21は、アルミ合金等の金属材料で形成されたコップ状のモータブラケット26(図12を参照)の内周に固定することでモータに組み込まれる。モータブラケット26に対する流体軸受装置21の組み込みは、例えばモータブラケット26の内周面とハウジング27の外周面との間に接着剤を介在させた状態で、モータブラケット26の内底面にハウジング27の外底面27b2を当接させることにより行われる。ハウジング27の外底面27b2には導電性の金属材料で形成された芯材30の半径方向部32が露出していることから、ディスクD1(図12を参照)が回転することによって帯電した静電気を、軸部材22→軸受スリーブ28→ハウジング27の芯材30→モータブラケット26という経路を介して接地側に放電することができる。
このようにして導電経路を構成すれば、ハウジング27の樹脂部33に導電性を考慮せずとも足りるため、ハウジング27の成形用樹脂材料P1を検討する際に材料選択の余地が広がり、流体軸受装置21の設計自由度が増す。ハウジング27の樹脂部33に導電性を持たせる場合には樹脂材料P1中に高価な導電性充填材を配合する必要があるが、芯材30で導電性が確保される本実施形態においては、高価な導電性充填材を樹脂材料P1に配合する必要がなくなる。さらに、芯材30によってハウジング27の高強度化が図られる分、樹脂材料P1中への補強用充填材の配合量を少なくすることができる。以上のように、樹脂材料P1中への各種充填材の配合量を少なくすることができれば、各種充填材の配合量減少分だけ樹脂材料P1のコスト低減が図られると共に、樹脂材料P1に占めるベース樹脂の構成比率を高めて樹脂部33の成形性が向上する。従って、ハウジング27の製造コストを低廉化することができる。
なお、ディスクD1等に帯電した静電気を接地側に確実に放電するには、流体軸受装置21の導電性、さらに言えば導電経路の抵抗を考慮する必要がある。上記導電経路の構成で言えば、抵抗を1MΩ以下とすれば効率的に放電することができる。
以上、本発明の第4実施形態に係る流体軸受装置21について説明を行ったが、図13に示す取り付け部72としてのハウジング27には、種々の変更を施すことが可能である。
例えば、図18に示すように、芯材30の軸方向部31の軸方向複数箇所(図示例は2箇所)に径方向の貫通孔H11を設けても良い。このようにすれば、結合部36の数が増大する分、芯材30に対する樹脂部33の抜け止めおよび回り止めが一層強固なものとなる。また、図19に示すように、芯材30の軸方向部31の上端部(開口端部)に、内径寸法がハウジング27の開口側に向かって徐々に拡径する拡径面31aを設けると共に、半径方向部32に設けた軸方向の貫通孔H12の内壁面(区画形成面)に、ハウジング27の開口側に向かって内径寸法が徐々に縮径する縮径面32aを設けることもできる。このようにすれば、芯材30に対する樹脂部33の抜け止め力が一層向上する。なお、図示は省略するが、上記の拡径面31aおよび縮径面32aは、何れか一方のみを設けるようにしても良い。
以上で説明した実施形態では、芯材30の軸方向部31をハウジング27の内周面27a1に露出させているが、例えば図20に示すように、ハウジング27の外周面に芯材30の軸方向部31を露出させることもできる。このようにすれば、アルミ合金等で形成されるモータブラケット26に対して、金属材料で形成した芯材30の軸方向部31を接触させることができるので、流体軸受装置21(ハウジング27)とモータブラケット26との間の固定力を高めることができる。この場合、導電性を確保する観点から、ハウジング27の樹脂部33を成形する樹脂材料P1中に、導電性充填材を少量配合しておくのが望ましい。なお、図20に示すハウジング27に、図19に示す構成を採用することもできる。
以上では、ラジアル動圧発生部としてヘリングボーン形状の動圧溝Aa1,Ab1を設けることにより、動圧軸受からなるラジアル軸受部R11,R12を構成した場合について説明を行ったが、いわゆる多円弧軸受やステップ軸受等、公知のその他の動圧軸受でラジアル軸受部R11,R12を構成することもできる。また、ラジアル軸受隙間を介して対向する軸受スリーブ28の内周面28aおよび軸部22aの外周面22a1の双方を円筒面とした、いわゆる真円軸受でラジアル軸受部を構成することもできる。
また、以上では、スパイラル形状の動圧溝Ba1,Ca1を設けることにより動圧軸受からなるスラスト軸受部T11,T12を構成した場合について説明を行ったが、いわゆるステップ軸受や波型軸受等、公知のその他の動圧軸受でスラスト軸受部T11,T12の何れか一方又は双方を構成することもできる。また、スラスト軸受部は、軸部材22を接触支持する、いわゆるピボット軸受で構成することもできる。
また、以上では、いわゆる軸回転型の流体軸受装置21に本発明を適用した場合について説明を行ったが、本発明はいわゆる軸固定型の流体軸受装置にも好適に適用することができる。詳細な図示は省略するが、軸固定型の流体軸受装置は、例えばモータの静止側を構成するモータブラケット26に軸部材22が固定されると共に、モータの回転側を構成するディスクハブ23に取り付け部72としてのハウジング27が固定されるタイプの軸受装置である。
図21は、本発明の第5実施形態に係る流体軸受装置41を示すものである。この流体軸受装置41は、HDD等のディスク駆動装置用スピンドルモータに組み込まれるものであり、軸部材42と、軸部材42を内周に収容した軸受スリーブ44と、軸受スリーブ44を内周に保持したハウジング43とを構成部材として備え、ハウジング43の内部空間には流体としての潤滑油が充満されている。なお、以下では、ハウジング43の開口部の側を上側、その軸方向反対側を下側として説明を進める。
軸部材42は、軸部42aと、軸部42aの下端に一体又は別体に設けられたフランジ部42bとを有する。本実施形態では、軸部42aおよびフランジ部42bの双方を金属材料、例えばステンレス鋼で形成している。軸部42aの外周面42a1は凹凸のない平滑な円筒面に形成され、フランジ部42bの両端面42b1,42b2は凹凸のない平滑な平坦面に形成される。
ハウジング43は、樹脂材料あるいは金属材料で有底筒状(コップ状)に形成され、円筒状の側部43aと、側部43aの下端開口を閉塞する円盤状の底部43bとを一体に有する。このハウジング43の内底面43b1(底部43bの上側端面)には、図24に示すように、対向するフランジ部42bの下側端面42b2との間に第2スラスト軸受隙間を形成する環状のスラスト軸受面C2が設けられる。スラスト軸受面C2には、第2スラスト軸受隙間に形成される油膜に動圧作用を発生させるためのスラスト動圧発生部が形成される。スラスト動圧発生部は、V字形状に屈曲した動圧溝Ca2と、これを区画する凸状の丘部Ca2とを円周方向で交互に配して構成され、全体としてヘリングボーン形状を呈する。
軸受スリーブ44は、樹脂材料で円筒状に射出成形され、軸部材42との間にラジアル軸受隙間および第1スラスト軸受隙間を形成する軸受隙間形成部44aと、軸受隙間形成部44aの上側に配置され、シール隙間S2を形成するシール部44bとを一体に有する。この軸受スリーブ44は、軸方向全長に亘って概ね均一肉厚に形成される。肉厚差が過大となると成形収縮量の差が大きくなり、軸受スリーブ44の形状精度(寸法精度)が低下するおそれがあるからである。
軸受隙間形成部44aの内周面44a1には、図22にも示すように、対向する軸部42aの外周面42a1との間にラジアル軸受隙間を形成する円筒状のラジアル軸受面A21,A22が軸方向の二箇所に離隔して設けられる。ラジアル軸受面A21,A22には、ラジアル軸受隙間に形成される油膜に動圧作用を発生させるためのラジアル動圧発生部がそれぞれ形成されている。上側のラジアル動圧発生部は、軸線に対して傾斜した複数の動圧溝Aa21と、これを区画する凸状の丘部Aa22とで構成され、全体としてヘリングボーン形状を呈する。下側のラジアル動圧発生部は、軸線に対して傾斜した複数の動圧溝Ab21と、これを区画する凸状の丘部Ab22とで構成され、全体としてヘリングボーン形状を呈する。
図示例において、上側の動圧溝Aa21は、軸方向中心m2(上下の傾斜溝間領域の軸方向中央)に対して軸方向非対称に形成されており、軸方向中心m2より上側領域の軸方向寸法X21が下側領域の軸方向寸法X22よりも大きくなっている。一方、下側の動圧溝Ab21は軸方向対称に形成され、その上下領域の軸方向寸法は上記軸方向寸法X22と等しくなっている。かかる構成により、軸部材42が回転すると、軸部42aの外周面42a1と軸受スリーブ44(軸受隙間形成部44a)の内周面44a1との間の隙間を満たす潤滑油に対して下方に向かうポンピング力が付与される。もちろん、このようなポンピング力が不要であれば、上側の動圧溝Aa21は、下側の動圧溝Ab21と同様に軸方向中心m2に対して軸方向対称形状としても良い。
軸受スリーブ44の下側端面44a2には、図23に示すように、対向するフランジ部42bの上側端面42b1との間に第1スラスト軸受隙間を形成する環状のスラスト軸受面B2が設けられる。スラスト軸受面B2には、第1スラスト軸受隙間に形成される油膜に動圧作用を発生させるスラスト動圧発生部が形成される。図示例のスラスト動圧発生部は、円弧状に湾曲した動圧溝Ba2と、これを区画する凸状の丘部Bb2とを円周方向で交互に配列してなり、全体としてスパイラル形状を呈する。
シール部44bの内周面44b1は、対向する軸部42aの外周面42a1との間にシール隙間S2を形成するシール面として機能する。シール部44bの内周面44b1は、下方に向けて漸次縮径したテーパ面状に形成される一方、軸部42aの外周面42a1は径一定の円筒面状に形成される。従って、シール隙間S2は、下方に向かって径方向寸法を漸次縮小させたテーパ形状を呈する。
以上の構成からなる軸受スリーブ44は、以下のようにして製造することができる。
図25および図26は、上記軸受スリーブ44の製造工程を示すものである。同図に示す成形金型50は、固定側の上型51と可動側の下型52とで主要部が構成される。
上型51には、軸受スリーブ44の内周面を成形するコア53が一体に設けられ、コア53の外周面には、ラジアル動圧発生部(動圧溝Aa21,Ab21)の形状に対応した型部53a,53bが軸方向に離隔して形成されている。また、上型51には、型締め時に区画形成されるキャビティ54に樹脂材料を射出・充填するゲート55と、成形品(軸受スリーブ44)の離型時に進退移動するノックアウトピン56とが設けられる。ゲート55形状は任意であり、点状、環状等、公知の各種ゲート形状を採用することが可能であるが、ここでは点状ゲートを採用している。ゲート55は、軸受スリーブ44の上側端面に対応する位置に円周方向等間隔で複数(例えば3つ)設けられ、ノックアウトピン56は、円周方向で隣り合うゲート55,55の中間部分に設けられる。
下型52には、スラスト動圧発生部(動圧溝Ba2)の形状に対応した型部52aが形成されている。なお、各型部53a,53b,52aの突出量は各動圧溝の溝深さに応じた値に設定される。図示例では理解の容易化のため、各型部53a,53b,52aの突出量を誇張して描いている。
以上の構成からなる成形金型50において、下型52を上昇移動させて型締めを行い、両型51,52間にキャビティ54を区画形成した後、上型51に設けたゲート55を介してキャビティ54内に溶融状態の樹脂材料P2を射出・充填する。これにより軸受スリーブ44が射出成形される。上型51のコア53には、ラジアル動圧発生部形状に対応した型部53a,53bが設けられ、下型52にはスラスト動圧発生部形状に対応した型部52aが設けられていることから、軸受スリーブ44が射出成形されるのと同時に、ラジアル動圧発生部(動圧溝Aa21,Ab21)およびスラスト動圧発生部(動圧溝Ba2)が型成形される。
ここで、樹脂材料P2としては、結晶性樹脂の一種である液晶ポリマー(LCP)をベース樹脂としたものが用いられる。樹脂材料P2には、ベース樹脂に種々の特性を付与するための各種充填材、例えばガラス繊維等の補強用充填材やカーボンブラック、黒鉛等の導電性充填材が、必要に応じて適宜配合される。ベース樹脂を液晶ポリマーとしたのには訳があり、液晶ポリマーが、この種の機械部品を得るのに多用されるその他の樹脂、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)とは異なる特性を示すからである。具体的には、液晶ポリマーをベース樹脂とする樹脂材料で円筒体を射出成形すると、当該円筒体には、内径寸法が拡大する方向の、また、外径寸法が縮小する方向の成形収縮が生じる。従って、成形品としての軸受スリーブ44に成形収縮が生じると、軸受スリーブ44の内周面とコア53の外周面との間、および軸受スリーブ44の外周面と上型51の内周面との間に微小な径方向隙間が形成される。
キャビティ54内に樹脂材料P2を射出・充填して軸受スリーブ44を射出成形した後、型開きを行う。型開きを行うと、軸受スリーブ44は、図26に示すように、上型51(コア53)に被着した状態となる。そして、軸受スリーブ44に成形収縮が生じ、軸受スリーブ44の内周面とコア53の外周面との間、および軸受スリーブ44の外周面と上型51の内周面との間に径方向隙間が形成されると、ノックアウトピン56を下降移動させ、軸受スリーブ44に下向きの加圧力を付与する。これにより、ゲート55内に残存する樹脂材料P2が分断されて軸受スリーブ44の内周からコア53が引き抜かれ、軸受スリーブ44の離型が完了する。
なお、ノックアウトピン56は、軸受スリーブ44の内周面44aの拡径量が動圧溝Aa21,Ab21の溝深さ(型部53a,53bの高さ)以上となった時点で下降移動させるのが望ましい。これにより、コア53の引き抜きに伴って、軸受スリーブ44の内周面44aに型成形されたラジアル動圧発生部(動圧溝Aa21,Ab21)が損傷するのを確実に防止することができるからである。
以上のようにして得られた軸受スリーブ44は、組立工程に供給され、例えば以下示す態様でハウジング43に組み付けられる。
まず、ハウジング43の内周に軸部材42を挿入した状態で、ハウジング43の内周に、外周面の所定箇所に適当な接着剤(例えば、エポキシ系接着剤)を塗布した軸受スリーブ44を挿入して、ハウジング43に対する軸受スリーブ44の軸方向の相対的な位置決めを行う。この位置決めは、例えば、フランジ部42bの下側端面42b2をハウジング43の内底面43b1に当接させると共に、フランジ部42bの上側端面42b1に軸受スリーブ44の下側端面44a2を当接させた後(両スラスト軸受隙間の隙間幅をゼロにした後)、両スラスト軸受隙間の隙間幅の合計量だけ軸部材42をハウジング43の開口側に移動させることにより行われる。このようにして軸受スリーブ44の軸方向の位置決めを行った後、この状態を保持したまま接着剤を完全に固化させ、ハウジング43の内周に軸受スリーブ44を固定する。そして、ハウジング43の内部空間に流体としての潤滑油を充満させることにより、図21に示す流体軸受装置41が完成する。
以上の構成からなる流体軸受装置41において、軸部材42が回転すると、軸受スリーブ44(軸受隙間形成部44a)の内周面44a1の上下2箇所に離隔して設けられたラジアル軸受面A21,A22と、これに対向する軸部42aの外周面42a1との間にそれぞれラジアル軸受隙間が形成される。そして軸部材42の回転に伴い、両ラジアル軸受隙間の油膜圧力が動圧溝Aa21,Ab21の動圧作用によって高められ、軸部材42をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部R21,R22が軸方向の二箇所に離隔形成される。これと同時に、軸受スリーブ44の下側端面44a2に設けられたスラスト軸受面B2とフランジ部42bの上側端面42b1との間、および、フランジ部42bの下側端面42b2とハウジング43の内底面43b1に設けたスラスト軸受面C2との間に、それぞれ第1および第2スラスト軸受隙間が形成される。そして、軸部材42の回転に伴い、両スラスト軸受隙間の油膜圧力が動圧溝Ba2,Ca2の動圧作用によって高められ、軸部材42をスラスト両方向に非接触支持する第1スラスト軸受部T21および第2スラスト軸受部T22が形成される。
また、シール隙間S2が、下方(ハウジング43の内部側)に向かって径方向寸法を漸次縮小したテーパ形状を呈しているため、シール隙間S2内の潤滑油は毛細管力による引き込み作用によってハウジング43の内部側に向けて引き込まれる。また、シール隙間S2は、ハウジング43の内部空間に充填された潤滑油の温度変化に伴う容積変化量を吸収するバッファ機能を有し、想定される温度変化の範囲内で潤滑油の油面を常にシール隙間S2内に保持する。これらの構成から、ハウジング43内部からの潤滑油漏れが効果的に防止される。
以上に示すように、本発明に係る流体軸受装置41では、内周面が拡径方向に成形収縮する樹脂材料P2を用いて軸受スリーブ44が射出成形される。このようにすれば、成形後の冷却段階で軸受スリーブ44に成形収縮が生じるのに伴って、軸受スリーブ44の内周面44a1が拡径する。そのため、内周面44a1に形成されるラジアル動圧発生部の形状に特段の工夫を凝らさずとも、軸受スリーブ44を容易に離型することができる。具体的には、上述のように、内周面が拡径方向に成形収縮する樹脂材料(液晶ポリマーをベース樹脂とした樹脂材料P2)を用いて軸受スリーブ44を射出成形し、その後、内周面44a1が所定量拡径した状態でコア53を引き抜けば良い。
特に、軸線に対して傾斜した動圧溝Aa21,Ab21と、これらをそれぞれ区画する凸状の丘部Aa22,Ab22とでラジアル動圧発生部を構成した本実施形態において、上記の収縮特性を有さない樹脂材料(例えば、ポリフェニレンサルファイドをベース樹脂とした樹脂材料)で軸受スリーブ44を射出成形すると、コア53の引き抜きがいわゆる無理抜きとなって、ラジアル動圧発生部が損傷等し易くなる。これに対し、本発明のように、内周面44a1が拡径方向に成形収縮する樹脂材料P2を用いて軸受スリーブ44を射出成形し、かつ、内周面44a1の拡径量が動圧溝Aa21,Ab21の溝深さ以上となった段階で離型するようにすれば、ラジアル動圧発生部の損傷等を確実に防止しつつ、離型を一層容易に行うことができる。
また、第1スラスト軸受隙間に形成される油膜に動圧作用を発生させるためのスラスト動圧発生部、さらにはシール隙間S2を形成するシール面としてのテーパ状内周面44b1も軸受スリーブ44を射出成形するのとと同時に型成形されるから、この種の流体軸受装置41に必須とされるスラスト軸受部やシール隙間S2を低コストに形成することができる。
以上、本発明に係る流体軸受装置41の一実施形態について説明を行ったが、本発明は上記態様の流体軸受装置41に限定適用されるものではなく、例えば以下示す形態の流体軸受装置41についても同様に適用可能である。なお、以下の説明では、異なる構成について詳述することとし、実質的に同一の構成については共通の参照番号を付して極力重複説明を省略する。
図27は、本発明の第6実施形態に係る流体軸受装置41を示すものであり、図21に示す流体軸受装置41の変形例である。すなわち、図27に示す流体軸受装置41では、内周面が拡径する方向に成形収縮する樹脂材料で軸受スリーブ44が射出成形され、かつ、軸受スリーブ44の内周面44a1にラジアル動圧発生部が型成形されている点においては、図21に示すものと共通する。
一方、軸受スリーブ44のシール部44bが、軸部材42との間に第1のシール隙間S21を形成すると共に、ハウジング43との間に第2のシール隙間S22を形成する点において、図21に示す流体軸受装置41と構成を異にしている。この実施形態では、ハウジング43の側部43aを小径部43a1と大径部43a2とで構成すると共に、軸受スリーブ44の上端部の外周面(シール部44bの外周面44b2)を大径化し、大径部43a2の内周面43a21とシール部44bの外周面44b2との間に第2のシール隙間S22を形成している。このようにすれば、ラジアル軸受隙間と軸方向に並べて設けられる第1のシール隙間S21の軸方向寸法を縮小化することができる分、ラジアル軸受部R21,R22の軸受スパンを拡大することができる。そのため、モーメント荷重に対する負荷能力を高め、ラジアル方向の回転精度を一層高めることができる。
以上の説明では、軸受スリーブ44の内周面44a1に設けるべきラジアル動圧発生部を、軸線に対して傾斜した動圧溝を円周方向に複数設けることにより、全体としてヘリングボーン形状に配列された動圧溝と、これを区画する凸状の丘部とで構成されたものとしたが、ラジアル動圧発生部の形状はこれに限定されない。例えば、内周面44a1を多円弧面、ステップ面、あるいは波状面とし、これをラジアル動圧発生部とした場合であっても本発明は好適である。これらのラジアル動圧発生部を採用した場合、ラジアル軸受部はそれぞれ、いわゆる多円弧軸受、ステップ軸受、あるいは波型軸受で構成される。
また、以上では、軸受スリーブ44の下側端面44a2に設けたスラスト動圧発生部を、スパイラル形状に配列された複数の動圧溝Ba2と、これを区画する凸状の丘部Bb2とで構成したが、動圧溝Ba2をヘリングボーン形状に配列したものであっても良い。また、スラスト動圧発生部は、例えば、放射状に延びる動圧溝を円周方向に複数配したものとすることもでき、この場合第1スラスト軸受部T21は、いわゆるステップ軸受で構成される。なお、第1スラスト軸受部T21の第1スラスト軸受隙間に動圧作用を発生させるスラスト動圧発生部は、必ずしも軸受スリーブ44の下側端面44a2に形成する必要はなく、これと軸方向に対向するフランジ部42bの上側端面42b1に形成しても良い。
また、スラスト軸受部は、軸部材42(軸部42a)の下端を接触支持する、いわゆるピボット軸受で構成することもできる。