JP5247987B2 - 流体軸受装置 - Google Patents

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Description

本発明は、流体軸受装置に関するものである。
流体軸受装置は、軸受隙間に生じる流体の潤滑膜で支持すべき軸を相対回転自在に支持する軸受装置である。この流体軸受装置は、高速回転、高回転精度、低騒音等の特徴を有するものであり、近年ではその特徴を活かして、情報機器、例えばHDD、FDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置等に搭載するスピンドルモータ用、また、パーソナルコンピュータ(PC)などに搭載され、発熱源の冷却を行うファンモータ用等の軸受として広く用いられている。
例えば、HDD用のスピンドルモータに組み込まれる流体軸受装置として、軸部材をラジアル方向に支持するラジアル軸受部およびスラスト方向に支持するスラスト軸受部の双方を、軸受隙間内の潤滑流体に動圧作用を発生させるための動圧発生部を備えた動圧軸受で構成したものが公知である。この場合、軸受スリーブの内周面、又は対向する軸部材の外周面の何れか一方に動圧発生部としての動圧溝が形成され、これにより両面間のラジアル軸受隙間に動圧軸受からなるラジアル軸受部が形成される。また、軸部材に設けたフランジ部の端面、又は対向する軸受スリーブの端面の何れか一方に動圧溝が形成され、これにより両面間のスラスト軸受隙間に動圧軸受からなるスラスト軸受部が形成される(例えば、特許文献1参照)。
通常、上記の軸受スリーブはハウジング内周の所定箇所に固定される。この際、ハウジングに固定される軸受スリーブとしては、例えば1つの軸受スリーブの内周に、動圧発生部を軸方向に離隔して2箇所設けたもの(上記特許文献1参照)の他、ラジアル軸受部の軸受スパンを一層大きくとる目的で、動圧発生部を設けた軸受スリーブを軸方向に2つ重ねたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。また、2つの軸受スリーブ間にスペーサ(間座ともいう)を介装したものも知られている(例えば、特許文献3参照)。
特開2003−232353号公報 特開平11−269475号公報 特開平11−155254号公報
上記の流体軸受装置において、ハウジングに対する軸受スリーブの組み付け精度は軸受隙間の幅精度、換言すると軸受性能を直接左右するため、ハウジングに対する軸受スリーブの組み付けは高精度に行う必要がある。特に複数の軸受スリーブを使用する場合には、ハウジングに対する軸受スリーブの組み付け精度に加え、軸受スリーブ間の位置精度(同軸度など)も問題となるが、ハウジングや軸受スリーブには個々に寸法公差も存在するため、これらの組み付けを高精度に行うのは容易ではなく、生産効率の低下による高コスト化が懸念される。
そこで、本発明は、ハウジングに対する軸受スリーブの組み付け精度を高め、これにより優れた軸受性能を発揮可能な流体軸受装置を低コストに提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明にかかる流体軸受装置は、ハウジングと、該ハウジングの内に固定された軸受本体と、該軸受本体の内周に挿入された軸部材と、前記軸受本体の内周面と軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間に形成される潤滑油の油膜で軸部材をラジアル方向に支持するラジアル軸受部とを備え、前記軸受本体が軸方向に並べられた第1および第2軸受スリーブを有し、第1および第2軸受スリーブの内周面で前記ラジアル軸受隙間がそれぞれ形成されるものであって、前記ハウジングが、両端に開口部を有し、かつ前記軸受本体をインサートした樹脂の射出成形品であり、前記第1および第2軸受スリーブは、何れも、相手側の軸受スリーブから離反する側の端部内周面に、該内周面で形成されるラジアル軸受隙間内の潤滑油に動圧作用を発生させる動圧発生部を有するものであり、該動圧発生部は、複数の動圧溝と、該動圧溝を区画する丘部とで形成され、前記第1および第2軸受スリーブの少なくとも一方は、その内周面のうちで該内周面に形成した動圧発生部から軸方向に離間した位置に、該動圧発生部を構成する丘部と略同径でかつ動圧発生機能を有さない凸部を有し、軸部材に、前記軸受本体の軸方向一方側および他方側にそれぞれ配置された第1および第2フランジ部が設けられ、互いに対向する前記第1フランジ部の外周面と前記ハウジングの内周面との間、および前記第2フランジ部の外周面と前記ハウジングの内周面との間に潤滑油の油面を保持したシール空間がそれぞれ形成され、前記ハウジングのシール空間を形成する2つの面を同径としたことを特徴とするものである。
このように、本発明では、ハウジングが軸受本体をインサートして射出成形される。インサート成形であれば、軸受本体が複数の軸受スリーブで構成されるような場合でも、型精度を高めておけば部材相互間の組み付け精度を容易に高めることができる。特に本願のように、両端に開口部を有するハウジングを射出成形する場合、成形型内における軸受本体の位置決めは軸方向両端側から行うことができるため、より正確な位置決めが可能となる。また、ハウジングの成形、およびハウジングと軸受本体の組み付けとを一工程で行うことができるので、製造コストの低廉化を図ることができる。
例えば、成形型内に軸受本体を位置決めしつつ、その少なくとも一端側に所定量の空間を設けた状態で射出成形(インサート成形)を行うことにより、ハウジングに、軸受本体の少なくとも一方の端面を被覆する被覆部を一体に設けることができる。かかる構成とすれば、軸受本体を構成する各軸受スリーブに軸方向寸法のバラツキがあっても、そのバラツキをこの被覆部で吸収して高精度な組み付け品を容易に得ることができる。また、この被覆部は、軸受本体の抜け止めとしても機能するので高強度な組み付け品を容易に得ることができる。
ところで、この種の流体軸受装置では、軸受内で局所的な負圧が発生する場合があり、かかる負圧の発生は気泡の生成や振動の発生を招き、軸受性能を低下させる。かかる不具合は、軸受本体の両端面を連通させる連通孔を設け、軸受内部で潤滑流体の循環流路を確保することによって解消することができる。
この種の連通孔は、例えば外周面に軸方向溝を設けた軸受スリーブをハウジングに組み付けることによって形成することができる(特許文献1参照)が、上記のように軸受本体をインサートしてハウジングを射出成形する場合、射出成形時に溝が埋まってしまう。これを回避する手段として、例えば、軸方向溝にピンを差し込んだ状態でハウジングを射出成形し、その後ピンを抜き取る手段が考えられる。しかしながら、連通孔は、通常数百μm程度の微小な孔径に設定されるため、抜き取り時にピンが折れ易く、特に本願のように軸受本体の全長が長大化する構成ではその可能性が高まる。かかる事態を回避するために連通孔径を拡大させることも考えられるが、軸受本体の端面とこれに対向する部材端面との間にはスラスト軸受部が形成される場合もあり、この種の対策を講じると、設計上軸受面積を小さくしなければならず、これにより軸受剛性が低下するおそれがある。
そこで、本発明では、ハウジングの軸受本体の固定部となる軸方向領域に、他所よりも内径側に張り出した小径部を設け、この小径部に連通孔を設けた構成を提供する。この構成であれば、軸受剛性の低下を懸念することなく連通孔径を拡大することができる。
また本発明では、軸受本体を収容する中間スリーブを設け、この中間スリーブと軸受本体との間に連通孔を設けた構成も提供する。このように中間スリーブと軸受本体との間に連通孔を設け、このアセンブリ品をインサート部品として用いれば、連通孔の両端開口部はハウジングの成形型で封口されるため、連通孔が射出材料で埋まることもない。
上記構成の流体軸受装置は、該流体軸受装置と、ステータコイルと、ロータマグネットとを有するモータ、その中でも高速回転や回転体の重量化に伴って、特に高いモーメント剛性が必要なモータに好ましく用いることができる。
以上より、本発明によれば、ハウジングに対する軸受本体の組み付け精度を高め、これにより優れた軸受性能を発揮可能な流体軸受装置を低コストに提供することができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る流体軸受装置1を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2を回転自在に非接触支持する流体軸受装置1と、軸部材2に装着されたロータ(ディスクハブ)3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5を備えている。ステータコイル4はブラケット6の外周に取付けられ、ロータマグネット5はディスクハブ3の内周に取付けられる。流体軸受装置1のハウジング7は、ブラケット6の内周に装着される。ディスクハブ3には、磁気ディスク等のディスクDが一又は複数枚保持される。ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間の電磁力でロータマグネット5が回転し、それによって、ディスクハブ3および軸部材2が一体となって回転する。
図2は、上記スピンドルモータで使用される流体軸受装置1の一例を示すものである。この流体軸受装置1は、回転側の軸部材2と、固定側のハウジング7、およびハウジング7の内周に固定される軸受本体8とを主要な構成部品として備える。本実施形態において、軸受本体8は、軸方向に並べて配置された第1軸受スリーブ81と第2軸受スリーブ82とで構成されている。なお、以下説明の便宜上、ハウジング7の開口部から軸部材2の端部が突出している側を上側、その軸方向反対側を下側として説明を進める。
軸部材2は、ステンレス鋼等の金属材料、あるいは金属と樹脂のハイブリッド構造とされる。軸部材2は全体として概ね同径の軸状をなし、その中間部分には他所よりも僅かに小径の逃げ部2bが形成されている。軸部材2の外周面2aのうち、第1および第2フランジ部9、10の固定位置には、凹部、例えば円周溝2cが形成されている。
軸受本体8を構成する軸受スリーブ81、82は、共に焼結金属からなる多孔質体、特に銅を主成分とする燒結金属の多孔質体で円筒状に形成される。図示する両軸受スリーブ81、82は、軸方向で同一長さに形成されている。軸受スリーブ81、82の一方または双方は、黄銅等の軟質金属で形成することもできる。
軸受本体8のうち、軸方向上側に配置された第1軸受スリーブ81の内周面81aには、第1ラジアル軸受部R1のラジアル軸受面Aとなる領域が設けられ、該ラジアル軸受面Aとなる領域には、動圧発生部として、例えば図3(b)に示すようにヘリングボーン形状の動圧溝81a1、および該動圧溝81a1を区画する丘部81a2が形成されている。第1軸受スリーブ81のラジアル軸受面Aは、第2軸受スリーブ82から離反する側(上側)の端部に形成されている。また、軸受本体8のうち、下側に位置する第2軸受スリーブ82の内周面82aには、第2のラジアル軸受部R2のラジアル軸受面Aとなる領域が設けられ、該ラジアル軸受面Aとなる領域には、動圧発生部として、例えば図3(b)に示すように、ヘリングボーン形状の動圧溝82a1、および該動圧溝82a1を区画する丘部82a2が形成されている。第2軸受スリーブ82のラジアル軸受面Aは、第1軸受スリーブ81から離反する側(下側)の端部に形成されている。
なお、図示例では各動圧溝81a1、82a1を軸方向中心に対して対称形状としているが、例えば上側の動圧溝81a1のうち軸方向中心に対して上側領域の溝を下側領域の溝よりも軸方向幅を長大化することにより、軸部材2の回転時、潤滑油に軸方向下方への押し込み力(ポンピング力)を付与することもできる。動圧溝81a1、82a1の形状としては、公知のその他の形状、例えばスパイラル形状等に形成することもできる。
第1軸受スリーブ81の上側端面81bの一部または全部環状領域には、第1のスラスト軸受部T1のスラスト軸受面が形成され、当該スラスト軸受面には、例えば図3(a)に示すように、スパイラル形状の動圧溝81b1が形成されている。また、第2軸受スリーブ82の下側端面82cの一部または全部環状領域には、第2のスラスト軸受部T2のスラスト軸受面が形成され、当該スラスト軸受面には、例えば図3(c)に示すように、スパイラル形状の動圧溝82c1が形成されている。スラスト軸受面に形成される動圧溝の一方又は双方は、公知のその他の形状、例えばヘリングボーン形状に形成することもできる。
ハウジング7は、両端が開口した略円筒状に形成され、その内周面7aは同径でストレートな円筒面に形成される。ハウジング7の外周面は、図1に示すブラケット6の内周面に、圧入、接着、あるいは圧入接着等の手段で固定される。
このハウジング7は、例えば、内周に固定ピンを圧入して2つのラジアル軸受面Aを同軸配置した第1、第2軸受スリーブ81、82(軸受本体8)をインサートして射出成形される。射出材料としては、アルミニウム合金やマグネシウム合金等の低融点金属材料の他、樹脂材料を使用することができる。樹脂材料を用いる場合、そのベース樹脂としては、射出成形可能であれば特に限定はなく、例えば液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の結晶性樹脂のみならず、ポリサルフォン(PSU)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニルサルフォン(PPSU)等の非晶性樹脂も使用可能である。ベース樹脂には、要求特性に応じて、強化材や導電材、および潤滑材等の各種充填材が一種又は二種以上配合される。
第1フランジ部9および第2フランジ部10は、何れも黄銅等の軟質金属材料やその他の金属材料、あるいは樹脂材料でリング状に形成され、軸部材2の外周面2aに例えば接着固定され、接着固定時には、軸部材2に塗布した接着剤が、接着剤溜りとしての円周溝2cに充填されて固化することにより、フランジ部9、10の軸部材2に対する接着強度が向上する。
第1フランジ部9の外周面9aは、ハウジング7の上端開口部側の内周面7aとの間に所定容積の第1シール空間S1を形成し、また第2フランジ部10の外周面10aは、ハウジング7の下端開口部側の内周面7aとの間に所定容積の第2シール空間S2を形成する。本実施形態において、第1フランジ部9の外周面9aおよび第2フランジ部10の外周面10aは、それぞれ軸受装置の外部側に向かって漸次縮径したテーパ面状に形成される。そのため、両シール空間S1、S2は、互いに接近する方向(ハウジング7の内部方向)に漸次縮径したテーパ形状となる。軸部材2の回転時、両シール空間S1、S2内の潤滑油は毛細管力による引き込み作用と、回転時の遠心力による引き込み作用とにより、シール空間が狭くなる方向(ハウジング7の内部方向)に向けて引き込まれる。これにより、ハウジング7の内部からの潤滑油の漏れ出しが効果的に防止される。油漏れを確実に防止するため、ハウジング7の上下端面、第1フランジ部9の上側端面9c、および第2フランジ部10の下側端面10cにそれぞれ撥油剤からなる被膜を形成することもできる(図示省略)。
第1および第2シール空間S1、S2は、ハウジング7の内部空間に充満される潤滑油の温度変化に伴う容積変化量を吸収するバッファ機能を有する。想定される温度変化の範囲内で、油面は常時両シール空間S1、S2内にある。これを実現するために、両シール空間S1、S2の容積の総和は、少なくとも内部空間に充満される潤滑油の温度変化に伴う容積変化量よりも大きく設定される。
上記構成からなる流体軸受装置1の組立は、例えば次のようにして行われる。
一体成形されたハウジング7および軸受本体8のうち、軸受本体8の内周に軸部材2を挿入した後、軸受本体8を挟むように第1フランジ部9および第2フランジ部10を、所定のアキシアル隙間を確保した状態で軸部材2の円周溝2cの外周に接着固定する。このようにして流体軸受装置1の組立が完了すると、両フランジ部9、10で密閉されたハウジング7の内部空間に、両軸受スリーブ81、82の内部気孔も含め、潤滑流体として例えば潤滑油を充満させる。
上記構成の流体軸受装置1において、軸部材2が回転すると、第1軸受スリーブ81の内周面81aのラジアル軸受面A、および第2軸受スリーブ82の内周面82aのラジアル軸受面Aは、それぞれ軸部材2の外周面2とラジアル軸受隙間を介して対向する。そして軸部材2の回転に伴って、前記ラジアル軸受隙間に生じる潤滑油膜は、両ラジアル軸受面にそれぞれ形成された動圧溝81a1、82a1の動圧作用によってその油膜剛性が高められ、軸部材2がラジアル方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をラジアル方向に回転自在に非接触支持する第1のラジアル軸受部R1と第2のラジアル軸受部R2とが軸方向に離隔して形成される。
また、軸部材2が回転すると、第1軸受スリーブ81の上側端面81bのスラスト軸受面となる領域が、第1フランジ部9の下側端面9bと所定のスラスト軸受隙間を介して対向し、また第2軸受スリーブ82の下側端面82cのスラスト軸受面となる領域が、第2フランジ部10の上側端面10bと所定のスラスト軸受隙間を介して対向する。そして軸部材2の回転に伴い、各スラスト軸受隙間に生じる潤滑油膜は、スラスト軸受面にそれぞれ形成された動圧溝81b1、82c1の動圧作用によってその油膜剛性が高められ、軸部材2が両スラスト方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2を両スラスト方向に回転自在に非接触支持する第1のスラスト軸受部T1と第2のスラスト軸受部T2とが形成される。
以上で説明を行ったように、本発明では、ハウジング7が軸受本体8をインサートして軸受本体8と一体に射出成形される。インサート成形であれば、軸受本体8が複数の軸受スリーブ81、82で構成され所期の組み付け精度を確保するのが難しい場合でも、型精度を高めておくだけで各軸受スリーブ81、82間の組み付け精度、さらにはハウジング7に対する軸受本体8の組み付け精度も高めることができる。特に、ハウジング7の両端を開口させているので、インサート部品となる軸受本体8を軸方向両端側から挟持することができ、より正確に位置決めを行うことができる。また、ハウジング7の成形、およびハウジング7と軸受本体8の組み付けとを一工程で行うことができるため、製造コストの低廉化を図ることができる。
また、軸受本体8をインサートしてハウジング7を射出成形すれば、ハウジング7に軸受本体8を接着、圧入等の手段で組み付ける場合に比べ、ハウジング7と軸受本体8間の結合力を容易に高めることができる。特に、軸受本体8を構成する第1および第2軸受スリーブ81、82を焼結金属製とすれば、軸受スリーブ81、82の表面空孔に射出材料が入り込むので、いわゆるアンカー効果によって両者の間の結合力を一層高めることができる。
また、図示は省略するが、更なる低コスト化を図るため、ブラケット6をハウジング7と一体に射出成形することもできる。
本実施形態の構成では、スラスト軸受部を軸部材に設けられたフランジ部の両端側に形成する構成(例えば、特許文献1参照)に比べ、スラスト軸受部の軸方向離間距離を大きくとることができるので、モーメント剛性を高めることができる。
なお、上述した実施形態では、第1軸受スリーブ81のラジアル軸受面Aを第2軸受スリーブ82から離反する側(上側)の端部に、また第2軸受スリーブ82のラジアル軸受面Aを第1軸受スリーブ81から離反する側(下側)の端部に形成した形態を例示したが、この形態では、軸受スリーブの内径寸法が上側領域と下側領域とで異なるため、個々の軸受スリーブの上下端面間、および両軸受スリーブ間での同軸度確保が困難な場合がある。この場合、例えば図4に示すように、ラジアル軸受面A(動圧溝を区画する丘部81a2、82a2)と略同径の凸部81a3、82a3を、それぞれラジアル軸受面Aから軸方向に離隔した領域に設けることにより、上記の問題を解消することができる。このとき、トルクアップを回避するため、凸部81a3、82a3は、図示例のような、動圧発生機能を有さない帯状等に形成するのが望ましい。なお図示例では凸部を、両軸受スリーブ81、82に形成した形態を例示しているが、凸部は何れか一方の軸受スリーブにのみ設けてもよい。
ところで、上記構成のように第1および第2軸受スリーブ81、82の軸方向長さを同じにした場合、両者の外観上の差異が少ないため、ハウジング7を射出成形する際に作業者が両スリーブの上下を取り違えて組み込むおそれがある。そこで、図示は省略するが、この種の人為的なミスを防止するため、第1軸受スリーブ81と第2軸受スリーブ82の軸方向長さを異ならせることもできる。
以上、本発明の一実施形態について説明を行ったが、本発明の構成は上記の形態のみならず、他の形態の流体軸受装置にも好ましく適用することができる。以下、本発明の構成を適用した流体軸受装置の他の形態について説明するが、説明の簡略化のため、上記の形態と構成・作用を同一にする部材、部位については共通の参照番号を付与して重複説明を省略する。
図5は、本発明にかかる流体軸受装置の他の実施形態を示している。この流体軸受装置1は、主に、第1軸受スリーブ81の上側端面81bおよび第2軸受スリーブ82の下側端面82cを被覆する被覆部71、72をハウジング7と一体に設けた点で図2に示す形態と構成を異にする。この実施形態では、被覆部71の上側端面71aと第1フランジ部9の下側端面9bとの間に第1スラスト軸受部T1が設けられ、被覆部72の下側端面72bと第2フランジ部10の上側端面10bとの間に第2スラスト軸受部T2が設けられる。
上記構成の流体軸受装置1において、被覆部71、72も含め、ハウジング7は軸受本体8をインサートして射出成形される。この構成では、各軸受スリーブ81、82の軸方向寸法にバラツキがあっても被覆部71、72でそのバラツキを吸収することができ、高精度な組み付け品を一層容易に得ることができる。換言すると、各軸受スリーブ81、82の成形精度(特に、軸方向寸法)はある程度ラフであっても問題なく、これによる低コスト化を図ることもできる。
また、被覆部71、72は、軸受本体8の軸方向への抜け止めとしても機能するため、一層結合強度に優れた組み付け品を容易かつ低コストに得ることができる。
ところで、以上に示すような流体軸受装置では、軸受内部を満たす潤滑油に局所的な負圧が発生する場合があり、かかる負圧の発生は、気泡の生成や振動の発生を招き軸受性能を低下させる。かかる不具合は、軸受本体8の両端面間を連通する連通孔を設け、軸受内部で潤滑油の循環流路を確保することによって解消することができる。
この種の連通孔は、例えば軸方向の溝を設けた軸受本体をハウジングに組み付けることによって形成することができるが、本願のように軸受本体8をインサートしてハウジング7を射出成形する場合には、軸方向溝に射出材料が入り込んで溝を埋めてしまう。かかる事態は、例えば軸方向溝に、成形型と一体又は別体のピンを差し込んだ状態でハウジングを射出成形し、成形後ピンを抜き取ることで回避可能である。しかしながら、連通孔12は、通常数百μm程度の微小な孔径に設定されるため、抜き取り時にピンが折れ易く、特に本願のように軸受本体8の全長が長大化する構成ではその可能性が高くなる。かかる事態を回避するために連通孔径を拡大させることも考えられるが、軸受本体8の上下端面81b、82cには図3に示すような動圧溝が形成される場合もあり、連通孔径を拡大させると、軸受面積が狭まり軸受剛性が低下するおそれがある。
図6は、上述した本発明の構成に加え、軸受本体8の両端面間を連通する連通孔12を設けた流体軸受装置1の一例を示すものである。同図に示す形態では、連通孔12形成時における上記の問題点に鑑みて、ハウジング17のうち軸受本体8の固定部となる軸方向領域に他所よりも内径側に張り出した小径部17aを設け、この小径部17aに連通孔12を設けている。この小径部17aは、スラスト軸受部T1、T2に関与しない部位であるから、連通孔径は比較的自由に設定可能である。なお、図示例では連通孔12を軸方向全長に亘って同径に形成しているが、軸方向で異径とすることもできる。
また、上述した連通孔形成時の問題は、軸方向溝を軸受本体8の外周面、すなわちキャビティへの開放面に露出させなければ回避することができ、その具体的な対策品の一例を図7に示す。同図に示す流体軸受装置1では、外周面81d、82dに軸方向溝81d1、82d1を有する軸受スリーブ81、82の外周に中間スリーブ13を外挿し、この中間スリーブ13と軸方向溝とで連通孔12を形成する。このアセンブリをインサートして射出成形を行えば、連通孔12の両端開口部は金型で封口されるため、連通孔12が射出材料で埋まることもない。なお、軸方向溝は中間スリーブの内周面に設けてもよい。
以上の説明では、軸方向に並べた2つの軸受スリーブ81、82で軸受本体8を構成しているが、例えば図8に示すように、2つの軸受スリーブ81、82間にスリーブ状のスペーサ部材83を介装させて軸受本体8を構成することもできる。この場合、スペーサ部材83を黄銅等の軟質金属材料やその他の金属材料、樹脂材料等、焼結金属(多孔質体)とは異なる非多孔質体で形成すれば、スペーサ部材83に含浸させなくてよい分だけ潤滑油量を減少させることができ、シール空間S1、S2の軸方向幅を縮小して、流体軸受装置1を軸方向にコンパクト化することができる。もちろんこの構成を図5〜図7に示す形態の流体軸受装置1に採用することもできる。
以上の説明では、ラジアル軸受部R1、R2およびスラスト軸受部T1、T2として、ヘリングボーン形状やスパイラル形状等の動圧溝によって潤滑油の動圧作用を発生させる構成を例示しているが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、図示は省略するが、ラジアル軸受部R1、R2の一方又は双方は、例えば、ラジアル軸受面となる領域に複数の軸方向溝を円周方向等間隔に設けた、いわゆるステップ軸受や、ラジアル軸受面となる領域に複数の円弧面を設けた、いわゆる多円弧軸受を採用しても良い。また、スラスト軸受部T1、T2の一方又は双方は、例えば、スラスト軸受面となる領域に、複数の半径方向溝を円周方向所定間隔に設けた、いわゆるステップ軸受、いわゆる波型軸受(ステップ型が波型になったもの)等を採用しても良い。
また、以上の説明では、第1ラジアル軸受部R1および第2ラジアル軸受部R2の双方を動圧軸受で構成する形態を例示したが、第1のラジアル軸受部R1および第2のラジアル軸受部R2の一方又は双方を真円軸受で構成することもできる。
また、以上の説明では、軸受本体8を、軸方向の2箇所に配置した軸受スリーブ81、82、あるいは軸受スリーブ81、82およびスペーサ部材83で構成する形態について説明を行ったが、軸受スリーブを軸方向の3箇所以上に配置して軸受本体8を構成することもできる。
また、以上の説明では、流体軸受装置1の内部に充満する流体として、潤滑油を例示したが、それ以外にも各軸受隙間に動圧を発生させることができる流体、例えば空気等の気体や、磁性流体等を使用することもできる。
以上では、流体軸受装置をディスク装置用のスピンドルモータに組み込んで使用する形態を例示したが、本発明の構成を有する流体軸受装置は、情報機器用のスピンドルモータ以外にも、高速回転し、高いモーメント剛性が要求されるモータ、例えばファンモータにも好ましく用いることができる。
図9は、本発明に係る流体軸受装置1を組み込んだファンモータ、その中でも半径方向(ラジアル方向)のギャップを介してステータコイル4およびロータマグネット5を対向させた、いわゆるラジアルギャップ型ファンモータの一例を概念的に示すものである。図示例のモータは、主に、軸部材2の上端外周に固定されるロータ33が外周面に羽根を有する点、およびブラケット36がモータの各構成部品を収容するケーシングとしての機能を果たす点で、図1に示すスピンドルモータと構成を異にする。なお、その他の構成部材は、図1に示すモータの各構成部材と機能・作用を同一にするため、共通の参照番号を付して重複説明を省略する。
流体軸受装置を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの断面図である。 本発明の構成を有する流体軸受装置の断面図である。 (a)図は第1軸受スリーブの上側端面を示す図、(b)図は軸受本体の縦断面図、(c)図は第2軸受スリーブの下側端面を示す図である。 軸受本体の他の形態を示す縦断面図である。 流体軸受装置の他の実施形態を示す断面図である。 流体軸受装置の他の実施形態を示す断面図である。 流体軸受装置の他の実施形態を示す断面図である。 流体軸受装置の他の実施形態を示す断面図である。 流体軸受装置を組み込んだファンモータの断面図である。
符号の説明
1 流体軸受装置
2 軸部材
3 ディスクハブ
6 ブラケット
7 ハウジング
8 軸受本体
9 第1フランジ部
10 第2フランジ部
12 連通孔
81 第1軸受スリーブ
82 第2軸受スリーブ
83 スペーサ部材
81a1、82a1 動圧溝
R1、R2 ラジアル軸受部
T1、T2 スラスト軸受部
S1、S2 シール空間

Claims (5)

  1. ハウジングと、該ハウジングの内に固定された軸受本体と、該軸受本体の内周に挿入された軸部材と、前記軸受本体の内周面と軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間に形成される潤滑油の油膜で軸部材をラジアル方向に支持するラジアル軸受部とを備え、前記軸受本体が軸方向に並べられた第1および第2軸受スリーブを有し、第1および第2軸受スリーブの内周面で前記ラジアル軸受隙間がそれぞれ形成される流体軸受装置において、
    前記ハウジングが、両端に開口部を有し、かつ前記軸受本体をインサートした樹脂の射出成形品であり、前記第1および第2軸受スリーブは、何れも、相手側の軸受スリーブから離反する側の端部内周面に、該内周面で形成されるラジアル軸受隙間内の潤滑油に動圧作用を発生させる動圧発生部を有するものであり、該動圧発生部は、複数の動圧溝と、該動圧溝を区画する丘部とで形成され、
    前記第1および第2軸受スリーブの少なくとも一方は、その内周面のうちで該内周面に形成した動圧発生部から軸方向に離間した位置に、該動圧発生部を構成する丘部と略同径でかつ動圧発生機能を有さない凸部を有し、
    軸部材に、前記軸受本体の軸方向一方側および他方側にそれぞれ配置された第1および第2フランジ部が設けられ、互いに対向する前記第1フランジ部の外周面と前記ハウジングの内周面との間、および前記第2フランジ部の外周面と前記ハウジングの内周面との間に潤滑油の油面を保持したシール空間がそれぞれ形成され、
    前記ハウジングのシール空間を形成する2つの面を同径としたことを特徴とする流体軸受装置。
  2. 前記ハウジングに、前記軸受本体の少なくとも一方の端面を被覆する被覆部を一体に設けた請求項1記載の流体軸受装置。
  3. 前記軸受本体の両端面を連通させる連通孔を設けた請求項1記載の流体軸受装置。
  4. 前記ハウジングの前記軸受本体の固定部となる軸方向領域に、他所よりも内径側に張り出した小径部を設け、この小径部に前記連通孔を設けた請求項3記載の流体軸受装置。
  5. 前記軸受本体を収容する中間スリーブを設け、この中間スリーブと前記軸受本体との間に前記連通孔を設けた請求項3記載の流体軸受装置。
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