従来、回転軸を回転可能に支持する軸受ユニットとして、図23に示すように構成されたものが知られている。
図23に示す軸受ユニット120は、回転軸123を回転可能に支持するものであり、両端を開放した筒状をなす金属製のハウジング122を有し、このハウジング122内に回転軸123を回転可能に支持するラジアル軸受121を取り付けている。ハウジング122の一方の開放端側には、ラジアル軸受121に回転可能に支持された回転軸123のスラスト方向を支持するスラスト軸受124が取り付けられている。
この軸受ユニット120において、ラジアル軸受121には動圧流体軸受が用いられている。動圧流体軸受は、ラジアル軸受121の回転軸123と対向する内周面に動圧を発生させるための動圧発生溝が設けられいる。
ハウジング122内には、回転軸123が回転するときに動圧発生溝内を流通することによって動圧を発生させる粘性流体である潤滑油が充填されている。
回転軸123は、ラジアル軸受121に挿入され、一端側をスラスト軸受124により支持されてハウジング122内に回転可能に支持されている。
ハウジング122の他方の開放端側には、ハウジング122に充填された潤滑油のハウジング122内からの漏れを防止する金属製の円環状に形成されたオイルシール125が取り付けられている。回転軸123は、オイルシール125の中心部に設けた軸挿通孔126を介してハウジング122の外部に突出されている。
オイルシール125とハウジング122との間の接合部127は、ハウジング122内に充填された潤滑油の漏出を防止するようにするため、接着剤により完全に封止されている。オイルシール125の内周面には、回転軸123の回転により発生する遠心力などにより潤滑油が軸挿通孔126からハウジング122の外方へ移動することを防止するように界面活性剤が塗布されている。
図23に示すように構成された軸受ユニット120は、ハウジング122に充填された潤滑油の流出経路は、回転軸123の外周面とオイルシール125に設けた軸挿通孔126の内周面とによって形成される空隙131のみとなる。ここで、空隙131の幅を小さくすることにより、空隙131に臨む潤滑油の表面張力により、潤滑油のハウジング122外部への漏出を防止することができる。
更に、回転軸123の軸挿通孔126の内周面と対向する外周面に、ハウジング122の外方に向かって縮径されるように形成されたテーパ部130を設ける。このようなテーパ部130を設けることにより、回転軸123の外周面と軸挿通孔126の内周面とによって形成される空隙131に圧力勾配が形成され、回転軸123が回転したときに発生する遠心力により、ハウジング122内の充填された潤滑油をハウジング122の内部に引き込む力が発生する。回転軸123の回転時に、潤滑油がハウジング122内部に引き込まれるようになるので、動圧流体軸受により構成されたラジアル軸受121の動圧発生溝に潤滑油が確実に浸入して動圧を発生させ、回転軸123の安定した支持が実現され、しかもハウジング122に充填された潤滑油の漏洩を防止できる。
上述した軸受ユニット120は、ハウジング122とスラスト軸受124とオイルシール125とをそれぞれ独立の部材により形成しているので、部品点数が多くなってしまう。しかも、ハウジング122とオイルシール125との接合部127には接着剤などのシール剤を塗布する必要があり、組立作業が複雑となってしまう。
更に、ハウジング122とオイルシール125との接合部127を接着剤により完全にシールすることは極めて困難であり、ハウジング122に充填した潤滑油の確実な漏洩を防止することができない。このような潤滑油の漏洩を防止するため、オイルシール125の表面に界面活性剤を塗布するなどの処理が必要となり、製造が一層困難となる。
このように、従来用いられている軸受ユニットは、部品点数が多く組み立てが困難あり、潤滑油の確実なシールを行うことができないばかりか、高価になってしまう。
このような軸受ユニットを用いたモータも、部品点数が多く組み立てが困難であるばかりか、高価になってしまう。
また、回転軸を回転可能に支持する他の軸受ユニットとして、図24に示すように構成されたものが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
図24に示す軸受ユニット140は、回転軸141を回転可能に支持するものであり、回転軸141の周回り方向の支持を行うラジアル軸受144と、このラジアル軸受144を収納したハウジング145とを備える。
この軸受ユニット140において、ラジアル軸受144は、ハウジング145に充填される粘性流体である潤滑油と共に動圧流体軸受を構成するものであって、回転軸141が挿通される内周面には、動圧を発生させるための動圧発生溝151が形成されている。
回転軸141を支持したラジアル軸受144を収納したハウジング145は、図24に示すように、円筒状に形成されたラジアル軸受144を収容して囲むような形状を有し、合成樹脂を一体成形して形成された一つの部材である。
ハウジング145は、筒状をなすハウジング本体146と、ハウジング本体146の一端側を閉塞するようにハウジング本体146と一体に形成された一端部側部分を構成する底部閉塞部147と、ハウジング本体146の他端部側を構成するハウジング本体146と一体に形成された上部閉塞部148とからなる。このように構成されたハウジング145は、筒状をなすラジアル軸受144を取り囲むようにして合成樹脂材料をアウトサート成形することにより、ラジアル軸受144がハウジング本体146の内周側に配されて一体に形成される。
上部閉塞部148の中央部には、ハウジング145に収納されたラジアル軸受144に回転自在に支持された回転軸141が挿通される軸挿通孔149が設けられている。底部閉塞部147の内面側の中央部には、ラジアル軸受144に支持された回転軸141のスラスト方向の一端部に設けた軸受支持部142を回転可能に支持するスラスト軸受150が一体に形成されている。
スラスト軸受150は、円弧状若しくは先端先細り状に形成された回転軸141の軸受支持部142を点で支持するピボット軸受として形成されている。
ところで、軸挿通孔149は、この軸挿通孔149に挿通された回転軸141が軸挿通孔149の内周面に摺接することなく回転するように、軸部本体143の外形よりやや大きな内径をもって形成されている。このとき、軸挿通孔149は、その周面と軸部本体の外周面との間にハウジング内に充填された潤滑油153がハウジング145内から漏れを防止するに足る間隔cの空隙152を有するように形成される。
回転軸141の軸挿通孔149の内周面と対向する外周面には、テーパ部154が設けられている。このテーパ部154は、回転軸141の外周面と軸挿通孔149の内周面との間に形成される空隙152をハウジング145の外方に向かって拡大させるように傾斜されている。このテーパ部154は、回転軸141の外周面と軸挿通孔149の内周面との間に形成される空隙152に圧力勾配を形成し、ハウジング145内に充填された潤滑油153をハウジング145の内部に引き込む力が発生する。回転軸141の回転時に、潤滑油153がハウジング145の内部に引き込まれるようになるので、動圧流体軸受により構成されたラジアル軸受144の動圧発生溝151に潤滑油153が確実に侵入して動圧を発生させ、回転軸141の安定した支持が実現され、しかもハウジング145に充填された潤滑油153の漏洩を防止できる。
図24に示すように構成された軸受ユニット140は、回転軸141の露出が軸挿通孔149側の一端のみで、軸挿通孔149の僅かな間隙以外は、ハウジング部材によりシームレスに覆われている。よって、この軸受ユニット140は、潤滑油153のハウジング145外部への漏出を防止できるものである。また、外部との連通部分も軸挿通孔149の間隙のみであるので、衝撃による潤滑油の飛散を防止できる。
しかしながら、上述した軸受ユニット140では、回転軸141とハウジング145とが相対的に回転し、動圧を発生すると、軸受ユニット140内部の静圧が極端に低下する。ハウジング145内部の圧力が低下することにより、ハウジング145内部に僅かに残っている空気や、潤滑油等の粘性流体中に溶解される空気が膨張される。このハウジング内部の空気や、粘性流体中に溶解された空気が膨張されることにより、粘性流体が軸の露出側へ押し出され、漏洩してしまうおそれがある。この軸受ユニット140において、潤滑油が漏洩し、保持できなくなることにより、良好な潤滑が得られなくなる。
このように、図24に示す軸受ユニット140は、軸とハウジングとの相対的な回転による動圧の発生により、内部空気が膨張し、潤滑油が漏洩してしまうおそれがある。
また、回転軸を回転可能に支持するさらに他の軸受ユニットとして、図25に示すように構成されたものが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
図25に示す軸受ユニット160は、軸受ユニット140を変形させたものであり、気圧変化や温度変化等の環境変化により粘性流体が充填されたハウジング内の圧力が変化した場合であっても、確実に粘性流体のハウジング外部への漏洩を防止することを可能とするものである。
なお、この軸受ユニット160において、上述した軸受ユニット140と共通する部分には共通する符号を付して詳細な説明は省略する。
この軸受ユニット160は、ラジアル軸受144とスラスト軸受150とを設け、回転軸141を回転可能に支持し、潤滑油153を充填されたハウジング161に空気抜き通路部162を設けたものである。
空気抜き通路部162は、高度変化等による気圧の低下で軸受ユニット160のハウジング161内の空気が膨張して、潤滑油153が軸受ユニット160の外部に漏洩することを防止するために設けられている。空気抜き通路部162は、ハウジング161に例えば1つ又は複数設けられていてよい。例えば、この軸受ユニット160では、ハウジング161の外周囲に所定角度毎に3つ形成されている。空気抜き通路部162は、ハウジング161が、ラジアル軸受144を収納してスラスト軸受150と共に一体にアウトサート成型される際に同時に簡単に成形することができる。即ち、空気抜き通路部162は、比較的複雑な形状を有していたとしても、合成樹脂製のハウジング161及びスラスト軸受150を樹脂成形する際に同時に成形することができる。
このような空気抜き通路部162を設けることにより、回転軸141をラジアル軸受144に挿入して取り付ける際に挿入するに伴う空気抜きを行うことができる。
軸受ユニット160において、空気抜き通路部162は、第1の通路163と第2の通路164を有している。第1の通路162は、スラスト軸受150の付近の内部空間165からハウジング161の半径方向に沿って形成された通路である。第1の通路163の内側は、ハウジング161の底部閉塞部147から突出して形成されたスラスト軸受150が位置する内部空間165に接続されている。第1の通路163の外側は、第2の通路164に接続されている。第2の通路164は、ハウジング161の外周面に露出するようにして、しかもハウジング161の軸方向に平行に形成されている。このように第1の通路163と第2の通路164のような比較的複雑な形状を有している空気抜き通路部162であっても、合成樹脂製のハウジング161とスラスト軸受150を成形する際に同時に簡単に成形することができる。
軸受ユニット160では、このように、空気抜き経路部162が設けられていることで、ハウジング161内部は、密閉されていないので、回転軸141がハウジング161と相対的に回転しても、ハウジング161内の静圧は低下することがないので、残留している空気が膨張し、潤滑油を押し出してしまうことがない。
しかしながら、この軸受ユニット160は、外部との連通部分が空気抜き通路部162と回転軸141の露出部との複数になってしまったので、一方が空気の吸入口となり、他方が潤滑油の排出口となってしまうので、衝撃により、潤滑油が飛散するおそれがある。このように、軸受ユニット160は、衝撃に対して弱い。
また、回転軸を回転可能に支持するさらに他の軸受ユニットとして、図26に示すように構成されたものが知られている(例えば、特許文献2を参照。)。
図26に示す軸受ユニット180は、回転軸181を回転可能に支持するものであり、回転軸181の周回り方向の支持を行うラジアル軸受182と、スラスト方向の支持を行うスラスト軸受183と、このラジアル軸受182及びスラスト軸受183を収納したハウジング185とを備える。
この軸受ユニット180において、ラジアル軸受182は、ハウジング185に充填される粘性流体である潤滑油と共に動圧流体軸受を構成するものであって、回転軸181が挿通される内周面には、動圧を発生させるための動圧発生溝184が形成されている。
ラジアル軸受182の外周面には、軸受本体の内径部に軸部材を挿入するための空気抜きとなる溝状の軸方向通気路186及び径方向通気路187が設けられる。
回転軸181を支持したラジアル軸受182を収納したハウジング185は、図26に示すように、円筒状に形成されたラジアル軸受182の側面部及び底面部を囲むように有底円筒状に形成される。
ハウジング185の上面開放部には弾性体188が圧縮された状態で、内径側にかしめるように設けられる。
軸受ユニット180では、弾性体188がかしめられたハウジング185には、回転軸181が挿入される。このとき、ハウジング185内の空気が軸方向通気路186及び径方向通気路187を通ってハウジング185外部に排出されるため、回転軸181の挿入作業をスムーズに行うことができる。
しかしながら、上述した軸受ユニット180は、軸受本体周囲をハウジング185及び弾性体188による2部品により包囲する構成となっているため、このハウジング185と弾性体188との接合部から潤滑油が滲み出すおそれがある。
国際公開第WO03/027521号パンフレット
特開2000−352414号公報
以下、本発明が適用された軸受ユニット及びこの軸受ユニットを用いたモータの実施の形態を図面を参照して説明する。
ここでは、各種情報の演算処理等を行う情報処理装置である携帯型コンピュータ等の電子機器に設けられる放熱装置に用いるモータについて説明する。この携帯型コンピュータ等の内部には放熱装置が設けられている。この放熱装置は、金属製のベースと、このベースに取り付けられたモータ1と、このモータ1によって回転操作されるファン3と、ファン3を収納したファンケース4と、ヒートシンクを有している。この放熱装置のファン3を回転駆動するモータ1について詳細に説明する。
本発明に係る軸受ユニット30を用いたモータ1は、図1に示すように、ロータ11とステータ12とを備える。
ステータ12は、モータ1と共にこのモータ1によって回転操作されるファン3を収納したファンケース4の上面板4a側に一体に設けられている。ステータ12は、ステータヨーク13と、本発明に係る軸受ユニット30と、コイル14とこのコイル14が巻回されるコア15とを備える。ステータヨーク13は、ファンケース4の上面部4aと一体に形成されたもの、即ち、ファンケース4の一部によって構成したものでもよく、別体に形成したものであってもよい。ステータヨーク13は、例えば鉄により形成されている。軸受ユニット30は、ステータヨーク13の中心部に筒状に形成されたホルダー16中に圧入若しくは接着、更には圧入と共に接着により固定されている。
なお、軸受ユニット30が圧入されるホルダー16は、ステータヨーク13と一体に円筒状に形成されている。
ステータヨーク13に一体に形成されたホルダー16の外周部には、図1に示すように、駆動電流が供給されるコイル14が巻回されたコア15が取り付けられている。
ステータ12と共にモータ1を構成するロータ11は、軸受ユニット30に回転可能に支持された回転軸31に取り付けられ、回転軸31と一体に回転する。ロータ11は、ロータヨーク17と、このロータヨーク17と一体に回転する複数の羽根19を有するファン3とを有する。ファン3の羽根19は、ロータヨーク17の外周面にアウトサート成形することにより、ロータヨーク17と一体に形成される。
ロータヨーク17の筒状部17aの内周面には、ステータ12のコイル14と対向するように、リング状のロータマグネット20が設けられている。このマグネット20は、周回り方向にS極とN極が交互に着磁されたプラスチックマグネットであり、接着剤によりロータヨーク17の内周面に固定されている。
ロータヨーク17は、軸受ユニット30に支持された回転軸31の先端側に設けた取付部32に、平板部17bの中心部に設けた貫通孔21aが設けられたボス部21を圧入することによって回転軸31と一体に回転可能に取り付けられる。
上述のような構成を備えたモータ1は、ステータ12側のコイル14に、モータ1の外部に設けた駆動回路部から所定の通電パターンにより駆動電流が供給されると、コイル14に発生する磁界とロータ11側のロータマグネット20からの磁界との作用によって、ロータ11が回転軸31と一体に回転する。ロータ11が回転することにより、このロータ11に取り付けられた複数の羽根19を有するファン3もロータ11と一体に回転する。ファン3が回転されることにより、コンピュータを構成する筐体に設けた開口を介して装置外部のエアーを吸引し、更に、筐体内を流通させ、筐体内に設けたヒートシンク中を流通しながら貫通口を介して筐体の外部に排気されることにより、発熱素子から発生する熱をコンピュータ本体の外部に放熱し、コンピュータ本体を冷却する。
次に、このモータ1に用いられる軸受ユニット30を更に詳細に説明する。
上述したモータ1の回転軸31を回転自在に支持する軸受ユニット30は、図1、図2及び図3に示すように、回転軸31の周回り方向の支持を行うラジアル軸受33と、このラジアル軸受33の外側に形成される通路形成部材34と、この通路形成部材34を収納したハウジング37と、通路形成部材34とラジアル軸受33との間に形成される連通通路50とを備える。
ラジアル軸受33は、焼結メタルにより円筒状に形成されている。ラジアル軸受33は、ハウジング37に充填される粘性流体である潤滑油42と共に動圧流体軸受を構成するものであって、回転軸31が挿通される内周面には、動圧発生溝43,44が形成されている。
動圧発生溝43,44は、図4に示すように、ラジアル軸受33の内周面にV字状をなす一対の溝43a,44aを周回り方向に連結溝43b,44bにより連続するように形成して構成されている。動圧発生溝43,44は、V字状をなす一対の溝43a,44aの先端側が回転軸31の回転方向R1に向くように形成されている。本例にあっては、動圧発生溝43,44は、円筒状をなすラジアル軸受33の軸方向に上下に並列して形成されていて、動圧発生溝43が軸が開放されている軸露出側、動圧発生溝44が軸が開放されない非軸露出側即ち後述するスラスト軸受側に形成されている。ラジアル軸受33に設けられる動圧発生溝43,44の数や大きさは、ラジアル軸受33の大きさや長さ等により適宜選択される。なお、このラジアル軸受33は、真鍮、ステンレス又は高分子材料でもよい。
動圧流体軸受として形成されたラジアル軸受33は、このラジアル軸受33に挿通された回転軸31が、中心軸CLを中心に図4中矢印R1方向に連続して回転すると、ハウジング37内に充填された潤滑油42が動圧発生溝43,44内を流通し、回転軸31の外周面とラジアル軸受33の内周面との間に動圧を発生させて回転する回転軸31を支持する。このとき発生する動圧は、回転軸31とラジアル軸受33との間の摩擦係数を極めて小さくするものであって、回転軸31の円滑な回転を実現する。
ところで、この軸受ユニット30において、動圧発生溝44のスラスト方向の幅は、動圧発生溝43のスラスト方向の幅より、広く形成されている。このことにより、軸露出側の動圧発生溝43により発生される動圧量P43と、非軸露出側の動圧発生溝44により発生される動圧量P44との関係は、P43<P44の関係となっている。
ここで、非軸露出側の動圧量P44を、軸露出側の動圧量P43よりも、大とする点について説明する。動圧の発生は、同時に静圧の変化を発生させる。ここで、上述とは逆のP43>P44なる関係となるように動圧発生溝を形成したとき、即ち、軸露出側の動圧量が非軸露出側の動圧量より大となることで、静圧の分布は、動圧の分布とは逆となるので、軸露出側に比べ非軸露出側である密封された軸端側の静圧が上昇する。この軸の回転と同時に発生した静圧力は、軸を上方へと押し上げる現象、即ち軸浮上現象を起こしてしまう。
この軸浮上現象が防止するため、この軸受ユニット30では、動圧発生溝43の幅を、動圧発生溝44の幅より広く形成して、軸露出側の動圧量P43と非軸露出側の動圧量P44とをP43<P44とし、軸露出側の静圧を非軸露出側の静圧より大となるようにして、軸を非軸露出側、即ち、後述するスラスト軸受側に引き込むような状態を作り出している。
ラジアル軸受33の外側に設けられる通路形成部材34は、図3及び図5に示すように、円筒状に形成されたラジアル軸受33を収容して囲むような形状を有し、例えば合成樹脂により形成されている。
通路形成部材34は、図3及び図5に示すように、ラジアル軸受の側面部及び底面部を囲むように形成された通路形成部材本体35と、ラジアル軸受の上面部を囲むように形成された通路形成部材蓋部36とからなる。通路形成部材蓋部36の中央部には、ラジアル軸受33に回転自在に支持された回転軸31が挿通される軸挿通孔36aが設けられている。
通路形成部材本体35の底面部の内面側の中央部には、ラジアル軸受33に支持された回転軸31のスラスト方向の一端部に設けた軸受支持部31aを回転可能に支持するスラスト軸受46が一体に形成されている。スラスト軸受46は、通路形成部材34を樹脂により形成し、スラスト軸受として共用している。スラスト軸受46は、円弧状若しくは先端先細り状に形成された回転軸31の軸受支持部31aを点で支持するピボット軸受として形成されている。
通路形成部材本体35の上部には、通路形成部材蓋部36をラジアル軸受の上面部を覆うように固定する爪状の規制部35aが円周上に設けられている。また、通路形成部材本体35の側面部には、ラジアル軸受を収容したときに、ラジアル軸受の外周面を外部に臨ませるための開口部35bが設けられている。
なお、通路形成部材34は、樹脂製としたが、金属製でもよく、更に、樹脂及び金属の組合せでもよく、材質に制限はない。ここで、通路形成部材34を樹脂製とした場合は、ラジアル軸受との位相インデックスなど、形状に工夫を凝らすことができ、しかも安価であるという利点がある。例えば、通路形成部材34に用いられる樹脂材料としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリアセタール等のフッ素系の合成樹脂、ポリテトラフルオロエチレンテフロン(登録商標)、ナイロン等の合成樹脂、更には、PC(ポリカーボネート)、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)などの合成樹脂を用いてもよい。
通路形成部材34とラジアル軸受33の間には連通通路50が形成される。この連通通路50は、ラジアル軸受33から突出した軸のスラスト方向の一端部と他端部とを連通する。即ち、連通通路50は、スラスト軸受46が形成された側の一端側と通路形成部材蓋部36の軸挿通孔36a側の他端部を連通する。
この連通通路50は、図5及び図6に示すように、ラジアル軸受33の外周面のスラスト方向に形成された第1の溝51と、ラジアル軸受33のスラスト軸受46側の一端面に形成された第2の溝52と、ラジアル軸受33の他端面に形成された第3の溝53とからなる。
なお、この連通通路は、図7,図8に示すように、通路形成部材34側に設けてもよい。即ち、通路形成部材34側に設けた連通通路60は、通路形成部材34の通路形成部材本体35の内周面のスラスト方向に形成された第1の溝61と、通路形成部材本体35の底面部の内面側に形成された第2の溝62と、通路形成部材蓋部36の内面側に形成された第3の溝63とからなるようにしてもよい。更に、上述のラジアル軸受側に設けた第1〜第3の溝51〜53と通路形成部材34に設けた第1〜第3の溝61〜63を組み合わせてもよい。
上述したように、この軸受ユニット30では、動圧発生溝44の幅を動圧発生溝43の幅より広く形成し、非軸露出側の動圧量P44を軸露出側の動圧量P43より大きくしているため、軸回転による軸浮上現象を抑制することができるが、非軸露出側の軸端の静圧低下により、残留する空気が、密封された軸端で、膨張し、潤滑油を押し出す漏洩現象が新たな問題として発生してしまう。
この連通通路50又は連通通路60は、ラジアル軸受33から突出した回転軸31の開放側、非開放側を連通しているため、上述の非軸露出側の軸端の静圧が低下しないので、ハウジング内の残留空気や潤滑油中に溶解する空気の膨張による潤滑油の押し出しを防止することができる。また、換言すると、連通通路50,60は、ラジアル軸受33に設けられた動圧発生溝43,44の両端の圧力を短絡することができるので、圧力差が生じることがなく、よって軸浮上が発生することもない。
通路形成部材34を収納したハウジング37は、図3に示すように、略円筒状の通路形成部材34を収容して囲むような形状を有し、合成樹脂を一体成形して形成された一つの部材である。
ハウジング37は、図3に示すように、筒状をなすハウジング本体38と、ハウジング本体38の一端側を閉塞するようにハウジング本体38と一体に形成された一端部側部分を構成する底部閉塞部39と、ハウジング本体38の他端部側を構成するハウジング本体38と一体に形成された上部閉塞部40とからなる。上部閉塞部40の中央部には、ハウジング37に収納されたラジアル軸受33に回転自在に支持された回転軸31が挿通される軸挿通孔41が設けられている。
上述のように構成されたハウジング37は、略筒状をなす通路形成部材34を包むようにして合成樹脂材料をアウトサート成形することにより、通路形成部材34がハウジング本体38の内周側に配されて一体に形成される。
このとき、ラジアル軸受33の外周面の一部は、通路形成部材本体35の開口部35bにより、外部に臨まされているので、アウトサート成形されるハウジング37と一体化される。
ハウジング37を構成する合成樹脂材料は、特に限定されるものではないが、ハウジング37内に充填される潤滑油42を弾く潤滑油42に対する接触角を大きくするような材料を用いることが望ましい。ハウジング37には通路形成部材34が一体に形成されているので、潤滑性に優れた合成樹脂材料を用いることが好ましい。例えば、ハウジング37は、ポリイミド、ポリアミド、ポリアセタール等のフッ素系の合成樹脂、ポリテトラフルオロエチレンテフロン、ナイロン等の合成樹脂を用いて形成することが好ましい。更には、PC(ポリカーボネート)、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)などの合成樹脂を用いてもよい。更にまた、極めて高精度の成形が可能な液晶ポリマーによって形成する。特に、ハウジング37として液晶ポリマーを使用する場合は、潤滑油を保持し、耐摩耗性に優れる。
ところで、この軸受ユニット30では、連通通路50を設けることにより、ラジアル軸受33から突出した軸51の両端を連通した、いわゆる軸両開放型である。従来の軸両開放型の軸受ユニットでは、衝撃による潤滑油の飛散が発生しやすくなるという問題があった。この軸受ユニット30では、ハウジング37がラジアル軸受33及び通路形成部材34共に軸挿通孔36aを除いて密閉したシームレス構造とするので、軸のラジアル軸受から突出した軸開放側及び非軸開放側が連通通路50により連通されているが、外部からはハウジング37に設けられた軸挿通孔36a以外は密閉されている。即ち、この軸受ユニット30は、連通通路50がシームレスに形成され外部から密閉されたハウジング内に設けられたものであるので、衝撃による潤滑油の飛散を防止することができる。
ハウジング37内に配設されたラジアル軸受33及びハウジング37と一体に設けられたスラスト軸受46によって回転自在に支持される回転軸31は、軸部本体31bのスラスト軸受46によって支持される軸受支持部31aを円弧状若しくは先端先細り状に形成し、他端側に回転体である例えばモータ12のロータ31が取り付けられる取付部32が設けられている。ここで、軸部本体31bと取付部32は、同径に形成されている。
回転軸31は、図3に示すように、一端側の軸受支持部31aをスラスト軸受46によって支持され、軸部本体31bの外周面をラジアル軸受33により支持され、他端側に設けた取付部32側をハウジング本体38の上部閉塞部40に設けた軸挿通孔41から突出されてハウジング37に支持されている。
また、回転軸31には、軸受支持部31aと軸部本体31bの間に、軸抜け止め用の溝部31cが設けられている。この軸抜け止め用溝部31cと対応するように、通路形成部材34には、軸抜け止め用手段としてワッシャ49が設けられている。軸抜け止め用溝部31cとワッシャ49とを係合させることにより、組み付け時のハンドリングが向上する。このワッシャ49は、ナイロン、ポリアミド、ポリイミド材等の高分子材料や、ステンレス、りん青銅などの金属からなる。
ところで、軸挿通孔41は、この軸挿通孔41に挿通された回転軸31が軸挿通孔41の内周面に摺接することなく回転するように、軸部本体31bの外径よりやや大きな内径をもって形成されている。このとき、軸挿通孔41は、その内周面と軸部本体31bの外周面との間にハウジング37内に充填された潤滑油42がハウジング37内から漏れを防止するに足る間隔cの空隙45を有するように形成される。このように、回転軸31との間にハウジング37内に充填された潤滑油42の漏れを防止するようにした空隙45が形成されるように軸挿通孔41を形成した上部閉塞部40は、オイルシール部を構成している。
ハウジング37に一体に形成された上部閉塞部40は、ポリイミド、ポリアミドあるいはナイロンなどの合成樹脂により形成されているので、軸挿通孔41の内周面の潤滑油42に対する接触角として60度程度が確保できる。本発明に係る軸受ユニット30は、オイルシール部を構成する軸挿通孔41の内周面を含んで上部閉塞部40に、界面活性剤を塗布することなく潤滑油42の上部閉塞部40に対する接触角を大きくすることができるので、回転軸31が回転することによって発生する遠心力により潤滑油42が軸挿通孔41を介してハウジング37の外部へ移動することを防止できる。
更に、回転軸31の軸挿通孔41の内周面と対向する外周面には、テーパ部47が設けられている。テーパ部47は、回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面との間に形成される空隙45をハウジング37の外方に向かって拡大させるように傾斜されている。このテーパ部47は、回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面とによって形成される空隙45に圧力勾配を形成し、ハウジング37内に充填された潤滑油42をハウジング37の内部に引き込む力が発生する。回転軸31の回転時に、潤滑油42がハウジング37の内部に引き込まれるようになるので、動圧流体軸受により構成されたラジアル軸受33の動圧発生溝58に潤滑油42が確実に浸入して動圧を発生させ、回転軸31の安定した支持が実現され、しかもハウジング37に充填された潤滑油42の漏洩を防止できる。
本発明に係る軸受ユニット30において、動圧流体軸受を構成するラジアル軸受33に設けた動圧発生溝58に浸入して動圧を発生させる潤滑油42は、図3及び図9に示すように、ハウジング37内から回転軸31に形成されたテーパ部47と軸挿通孔41の内周面とによって形成された空隙45に臨むように充填される。即ち、潤滑油42は、ハウジング37内の隙間に充填され、更に燒結金属からなるラジアル軸受33に含浸される。
ここで、回転軸31に形成されたテーパ部47と軸挿通孔41の内周面との間に間に形成された空隙45について説明する。この空隙45の最小の間隔は、回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面とに間に形成される間隔cに相当し、この間隔cは20μm〜200μmが好ましく、100μm程度が最も好ましい。間隔cが20μmよりも小さいと、軸受ユニット30のハウジング37を合成樹脂により一体成形で作る際の成形精度を確保することが難しい。空隙45の間隔cが200μmよりも大きいと、軸受ユニット30に衝撃が加えられたとき、ハウジング37に充填された潤滑油42がハウジング37の外部に飛散してしまう耐衝撃性が低下してしまう。
ハウジング37に充填された潤滑油42が衝撃によりハウジング37の外部に飛散するに耐衝撃性Gに関しては、下記の式(1)に示すように、
G=(12γcosβ/2ρc2)/g ・・・(1)
で表される。
ここで、γ:潤滑油の表面張力
β:潤滑油の接触角
ρ:潤滑油の密度
c:回転軸と軸挿通孔との間の間隔
g:自然落下加速度
である。
式(1)より、耐衝撃性Gは、空隙45の間隔cの2乗に反比例する。
また、熱膨張による油面上昇量hは、下記の式(2)式に示すように、
h=VαΔt/2πRc ・・・(2)
で示される。
ここで、V :潤滑油充填量、
α :熱膨張係数
Δt:温度変化量
R :軸半径
である。
式(2)より、油面上昇量hは、間隔cの大きさに反比例するので、間隔cを狭くすれば、耐衝撃性Gは向上するが、温度の上昇による潤滑油42の油面高さhの上昇は激しくなり、軸挿通孔41の軸方向の厚さが必要になってしまう。
計算によれば、直径2mm〜直径3mmの軸径の回転軸31を有する軸受ユニット30では、回転軸31と軸挿通孔41との間に形成される空隙45の間隔cを100μm程度とし、軸挿通孔41の高さH1、即ちハウジング37の上部閉塞部40の厚みが1mm程度であると、耐衝撃性は1000G以上であり、耐温度特性80℃に耐えることができ、ハウジング37内に充填した潤滑油42の飛散を防止した信頼性の高い軸受ユニット30を構成できる。
更に、本発明に係る軸受ユニット30は、回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面とに間に形成される空隙45の間隔cをハウジング37の外方に向かって拡大させるように傾斜させたテーパ部47が設けられるので、回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面とによって形成される空隙45の間隔cに圧力勾配が形成され、回転軸31が回転したときに発生する遠心力により、ハウジング37内に充填された潤滑油42をハウジング37の内部に引き込む力が発生する。
即ち、本発明に係る軸受ユニット30において、回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面とに間に形成される空隙45は、表面張力シールにより、潤滑油42の飛散を防止している。
ここで表面張力シールについて説明する。表面張力シールは、流体の毛細管現象を利用したシール方法である。図10に示すような毛細管による液体の上昇高さh1は、下記のように求められる。
2πrγcosθ=mg ・・・(3)
mは、下記の式(4)で表される。
m=πr2hρ ・・・(4)
ここで、m:管内のhの範囲の流体質量
r:毛細管半径
γ:粘性流体の表面張力
θ:粘性流体の接触角
ρ:粘性流体の密度
g:重力加速度
である。
式(3)、式(4)より下記の式(5)が導き出される。
h=2γcosθ/rρg ・・・(5)
一般的に、圧力Pと流体高さとの関係は下記の式(6)で表される。
P=ρgh ・・・(6)
ここで式(5)、式(6)から圧力Pは、式(7)のように得ることができる。
P=2γcosθ/r ・・・(7)
式(7)において、圧力Pは流体を引き込む引き込み圧力を意味する。式(7)より引き込み圧力Pは、毛細管が細い程大きくなる。
上述した説明は、毛細管の断面形状が円形のときの式であるが、本発明に係る軸受ユニット30は、回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面とに間に形成される空隙45に浸入した潤滑油42は、図11に示す円環状となっている。この場合の液体としての潤滑油42の上昇高さh1は、下記の式(8)に示すように求められる。
2π(R+r)γcosθ=mg ・・・(8)
mは、下記の式(9)で表される。
m=π(R2−r2)hρ ・・・(9)
式(8)、式(9)から下記の式(10)が得られる。
h1=(2γcosθ)/((R−r)ρg) ・・・(10)
(R−r)を回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面とに間に形成される空隙45の間隔cとすると、式(10)は式(11)に示すようになる。
h=(2γcosθ)/(cρg) ・・・(11)
よって、潤滑油42の断面形状が円環状であった場合は、引き込み圧力は式(12)に示すように表される。
P=2γcosθ/c ・・・(12)
ここで、具体的な計算例を示す。
回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面とに間に形成される空隙45の間隔cを0.02cm(0.2mm)、粘性流体の表面張力γを30dyn/cm2、潤滑油42の接触角θを15°としたとき、引き込み圧力は式(13)より2.86×10−3気圧(atm)となる。
P=2×30×cos15°/0.02=3.00×103dyn/cm2
=2.86×10−3気圧(atm) ・・・(13)
上記式(12)により、引き込み圧力Pは、空隙45の間隔cが狭いほど増大する。よって、回転軸31にテーパ部47を設けることは、粘性流体としての潤滑油42を空隙45の間隔cが狭い方向、即ちハウジング37の内部方向へと引き込むことを可能とする。
例えば、図12のように、回転軸31に設けたテーパ部47の径の異なる部分t1及びt2での引き込み圧力P1、P2は、t1の部分における回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面との間隔c1とt2の部分における回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面との間隔c2の関係が、c1<c2であるので、式(12)により、P1>P2であり、潤滑油42のハウジング37内部への引き込み圧力Pは、回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面との間に形成される空隙45の間隔cが狭い程増大することがわかる。
このように、ハウジング37に充填した潤滑油42のハウジング37外部への漏れを防止するシール部を構成する回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面との間に形成される空隙45の間隔cがハウジング37の内方に向かって小さくなるようなテーパ部47を設けることにより、回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面とによって形成される空隙45に位置する潤滑油42に圧力勾配を生じさせる。即ち、潤滑油42に付与される圧力勾配は、空隙45の間隔cが小さくなるハウジング37の内方に向かって大きくなる。潤滑油42にこのような圧力勾配が発生することにより、潤滑油42は、常時ハウジング37の内方に引き込まれる圧力Pが作用してしているので、回転軸31が回転した場合であっても、空隙45に存在する潤滑油42中に空気を巻き込むようなことがない。
上述したようなテーパ部47を設けない場合、即ち、回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面との間の空隙45の間隔cが、図13に示すように、軸挿通孔41の高さ方向で一定である場合には、回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面との間の空隙45に浸入した潤滑油42に圧力勾配が発生しないので、潤滑油42は空隙45中に均一に存在する。即ち、回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面との間の間隔cを狭めることによってシール部として機能する空隙45に浸入した潤滑油42は、回転軸31の回転によって空隙45内を移動して空気Eを巻き込んでしまうことがある。このように、潤滑油42中に空気Eを巻き込むと、温度変化、気圧変化等により空気が膨張し、潤滑油42をシール部を構成する空隙45からハウジング37の外部に飛散してしまう。
これに対して、本発明に係る軸受ユニット30のように、回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面との間に形成される空隙45の間隔cがハウジング37の内方に向かって小さくなるようなテーパ部47を設けることにより、空隙45に浸入した潤滑油42に、ハウジング37の内方に向かって圧力が大きくなるに圧力勾配が発生するので、回転軸31が回転したとき、潤滑油42中に空気Eを巻き込むことを防止できる。
更に、上述したようなテーパ部47を設けることは、ハウジング37に設けた軸挿通孔41に対し回転軸31が偏芯した際にも、回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面との間に形成される空隙45に浸入した潤滑油42のハウジング37の外方への飛散を防止できるばかりか、回転軸31の全周に亘って潤滑油42を浸入させることができ、回転軸31周囲の潤滑油42が切れることを防止でき、回転軸31の安定した回転を保証できる。
ハウジング37に設けた軸挿通孔41に対し回転軸31が偏芯した際に、上述したようなテーパ部47が設けられていない場合には、図14に示すように、潤滑油42は、回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面との間の間隔cが狭い方へと集中し、その反対側の間隔cの広い部分では潤滑油42が切断され、空気Eを巻き込んでしまう。潤滑油42中に空気Eが巻き込まれると、温度変化、気圧変化等により空気Eが膨張し、潤滑油42をシール部を構成する空隙45からハウジング37の外部に飛散してしまう。
これに対し、本発明に係る軸受ユニット30のように、回転軸31にテーパ部47を設けることにより、ハウジング37に設けた軸挿通孔41に対し回転軸31が偏芯した際にも、図15に示すように、偏心した回転軸31が回転する楕円軌道上に必ず同じ間隔cの空隙45が存在し、その楕円軌道上での回転軸31の外周面と軸挿通孔41の内周面との間に形成される空隙45の間隔cは、図16に示すように回転軸31の全周に亘って一定となるので、潤滑油42が間隔cの狭い方へと集中するような現象が発生しないので、潤滑油42の空隙45、ひいてはハウジング37内からの放出を防止することが可能となる。
上述した軸受ユニット30は、テーパ部47を回転軸31側に設けているが、図17に示すように、ハウジング37側の軸挿通孔41の内周面にテーパ部48を設けるようにしてもよい。
上述したように構成された本発明に係る軸受ユニット30を製造する工程を説明する。
本発明に係る軸受ユニット30を製造するには、ラジアル軸受33の外側に、通路形成部材34を取り付けることで仮組立をする。ラジアル軸受33及び通路形成部材34は、仮組立するとき、図18に示すように、通路形成部材本体35に、回転軸31の軸受支持部31aと軸本体31bの間に設けられた軸抜け止め用溝部31cに軸抜け止め手段であるワッシャ49を取り付ける。次に、動圧流体軸受であるラジアル軸受33に、通路形成部材本体35及び通路形成部材蓋部36を取り付ける。このとき、通路形成部材本体35の内部にはスラスト軸受46が一体に形成されている。また、通路形成部材34とラジアル軸受33の間には、連通通路50が形成される。
次に、仮組立したラジアル軸受33及び通路形成部材34を金型に取り付け、図19に示すように、この仮組立したラジアル軸受33及び通路形成部材34の外周囲に上述した何れかの合成樹脂をアウトサート成形してハウジング37を形成する。このとき、通路形成部材34は、ハウジング37がアウトサート成形されるとき、ハウジング37の内部に一体化され、筒状のハウジング本体38の上下に一体的に形成された上部閉塞部40と底部閉塞部39とによって挟持され、その取付位置が固定される。また、ラジアル軸受33は、ハウジング37がアウトサート成形されるとき、通路形成部材34の開口部35bにより、ハウジング37に一体化され、筒状のハウジング本体38の上下に一体的に形成された上部閉塞部40と底部閉塞部39とによって挟持され、その取付位置が固定される。更に、通路形成部材34とラジアル軸受33との間の連通通路50には、ハウジング37がアウトサート成形されるとき、通路形成部材34に遮断されているので、合成樹脂が流入することはない。
次に、図20に示すように、回転軸31を上部閉塞部40に設けた軸挿通孔41に挿通してハウジング37内に挿入する。このとき、回転軸31は、軸受支持部31aをスラスト軸受46に当接させてラジアル軸受33に挿通させてハウジング37内に挿入される。スラスト軸受46及びラジアル軸受33によって支持された回転軸31は、ハウジング37内で回転可能に支持される。
回転軸31をハウジング37に挿入したところで、ハウジング37に潤滑油42を充填する。潤滑油42の充填は図21に示すように、潤滑油56が収容されている充填槽55に回転軸31を挿入したハウジング37を投入する。次に、ハウジングが投入された充填槽55を真空装置により真空吸引する。その後、真空吸引された充填槽を大気中に取り出すことにより、ハウジング37内に潤滑油42が充填される。
このとき、潤滑油42は、温度変化により膨張した場合に、軸挿通孔41内からハウジング37の外部に漏洩することを防止し、また温度変化により収縮した場合には、回転軸31と軸挿通孔41との間に形成された空隙45への充填不足が発生しないように充填される。即ち、温度変化による潤滑油42の油面高さの変化は、軸挿通孔41内の範囲にあるように設定される。
潤滑油42のハウジング37への充填を真空装置を用いて真空吸引して行うことにより、ハウジング37の内部の圧力が外部より低い状態になる。その結果、潤滑油42は、容易にハウジング37から漏洩することが防止される。
本発明に係る軸受ユニット30は、ラジアル軸受33を焼結メタルにより形成しているので、このラジアル軸受33に潤滑油42が充填され、更に、回転軸31の回転により動圧を発生させる動圧発生溝58中にも潤滑油42が充填される。即ち、潤滑油42は、ハウジング37内の全ての空隙に充填される。
上述した軸受ユニットは、ハウジングを合成樹脂の成型体により形成しているが、合成樹脂に限られず、金型装置を用いて成形可能な金属材料を混合した合成樹脂やその他の成形材料を用いて形成したものであってもよい。なお、ハウジングを合成樹脂以外の材料により形成したとき、ハウジングに充填された潤滑油の軸挿通孔内周面との接触角が十分に維持できなくなる場合がある、このように潤滑油の接触角を大きく維持できなくなるおそれがある場合には、軸挿通孔の内周面、更には軸挿通孔の内周面を含んで上部閉塞部の外周面に、界面活性剤を塗布して接触角を大きくするようにすればよい。
上述した軸受ユニットは、スラスト軸受をハウジングの一部として形成されているが、スラスト軸受を設けた底部閉塞部をハウジング本体とは独立して形成し、この底部閉塞部をハウジング本体に熱融着又は超音波融着等の手法を用いて一体化するようにしてもよい。
以上のように構成された軸受ユニット30は、潤滑油の漏洩防止に非常に有用であるが軸が回転すると同時に発生する残留空気や潤滑油中に溶解する空気の膨張(キャビテーション現象)による潤滑油の押し出しが生じやすいという欠点をもつ、シームレスな樹脂製ハウジングを備えた、軸片開放型動圧流体軸受ユニットの問題を解決する。
この軸受ユニット30は、従来では、ハウジング部品が複数の部品から構成され、ラジアル軸受の両端の圧力短絡のために設けられた通路が非軸開放側−通路−ハウジング外部−軸開放側であったのに対し、通路を非軸開放側−連通通路−軸開放側とし、この連通通路を形成した通路形成部材34をシームレスなハウジング37により周囲を覆う構造としたものである。
即ち、この軸受ユニット30は、通路形成部材34を設けて、ラジアル軸受33の上端と下端に、経路が軸受下端−通路−軸受上端となる連通通路50を設け、密閉された側の下端である非軸開放側の静圧低下を緩和することができるので残留空気の押し上げによる潤滑油の漏洩を防止でき、且つ、ハウジング外部への経路は、軸とハウジングとの僅かな空隙のみである状態を維持しているので、衝撃による潤滑油の飛散を防止し、更に、粘性流体の滲み出しを防止することができる。その結果、この軸受ユニット30は、長時間にわたって良好な潤滑性能を維持できる。
また、通路形成部材の形状が異なる軸受ユニットは、図22に示すように構成してもよい。なお、以下の説明において、図22に示す軸受ユニット30と共通する部分については、共通の符号を付して詳細な説明は省略する。
図22に示す軸受ユニット70は、図3に示す軸受ユニット30と通路形成部材の形状が異なるものである。この軸受ユニット70において、通路形成部材71は、ラジアル軸受33の側面部の上部及び上面部を囲むように形成された第1の通路形成部材72と、ラジアル軸受33の側面部の下部及び底面部を囲むように形成された第2の通路形成部材73とからなる。この第1の通路形成部材72の中央部には、ラジアル軸受33に回転自在に支持された回転軸31が挿通される軸挿通孔72aが設けられている。
第2の通路形成部材73の底面部の内面側の中央部には、ラジアル軸受33に支持された回転軸31のスラスト方向の一端部に設けた軸受支持部31aを回転可能に指示するスラスト軸受46が一体に形成されている。スラスト軸受46は、通路形成部材71を、樹脂により形成し、スラスト軸受として共用している。スラスト軸受46は、円弧状若しくは先端先細り状に形成された回転軸31の軸受支持部31aを点で支持するピボット軸受として形成されている。
この通路形成部材71とラジアル軸受33の間には、軸受ユニット30と同様に、連通通路が形成される。この連通通路は、ラジアル軸受33から突出した軸のスラスト方向の一端部と他端部とを連通する。即ち、連通通路50は、スラスト軸受46が形成された側の一端側である非軸開放側と第1の通路形成部材72側の軸挿通孔72a側の他端部である軸開放側を連通する。
以上のように構成された軸受ユニット70は、軸受ユニット30と同様に、通路形成部材を設けて、ラジアル軸受の上端と下端に、経路が軸受下端−通路−軸受上端となる連通通路を設け、密閉された側の下端である非軸開放側の静圧低下を緩和することができるので残留空気の押し上げによる潤滑油の漏洩を防止でき、且つ、ハウジング外部への経路は、軸とハウジングとの僅かな空隙のみである状態を維持しているので、衝撃による潤滑油の飛散を防止し、更に、粘性流体の滲み出しを防止することができる。その結果、この軸受ユニット70は、長時間にわたって良好な潤滑性能を維持できる。
このように、本発明を適用した軸受ユニットにおいて、通路形成部材の形状は、上述のハウジング部材をアウトサート成型する際に、通路形成部材とラジアル軸受との間に形成される連通通路に樹脂が流れ込まないような形状であればよく、その他の形状に関する制限はない。
上述した軸受ユニットは、ハウジングに充填される粘性流体として潤滑油を用いているが、一定の粘性を有し、一定の表面張力が得られるものであれば、各種の粘性流体を適宜選択することができる。
1 モータ、13 ステータヨーク、17 ロータヨーク、30 軸受ユニット、31 回転軸、33 ラジアル軸受、34 通路形成部材、37 ハウジング、38 ハウジング本体、39 底部閉塞部、40 上部閉塞部、41 軸挿通孔、42 潤滑油、43,44 動圧発生溝、45 空隙、46 スラスト軸受、47 テーパ部、50 連通通路、51 第1の溝、52 第2の溝、53 第3の溝