JP4738868B2 - 動圧軸受装置 - Google Patents

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Description

本発明は、動圧軸受装置に関するものである。
動圧軸受装置は、軸受部材と、軸受部材の内周に挿入した軸部材との相対回転により軸受隙間に生じた流体の動圧作用で圧力を発生させ、この圧力で軸部材を非接触支持する軸受装置である。この動圧軸受装置は、高速回転、高回転精度、低騒音等の特徴を備えるものであり、情報機器、例えばHDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置等におけるディスクドライブ用のスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、プロジェクタのカラーホイールモータ、あるいは軸流ファンなどの小型モータ用の軸受装置として好適である。
例えば、HDD等のディスク駆動装置のスピンドルモータに組込まれる動圧軸受装置では、図8に示すように、軸部材20をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部Rと、軸部材をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部Tとが設けられる。このラジアル軸受部Rの軸受としては、円筒状のスリーブ部80の内周面に動圧発生用の溝(動圧溝)を設けた動圧軸受が公知であり、スラスト軸受部Tとしては、例えば、軸部材20のフランジ部20bの両端面、又は、これに対向する面(スリーブ部80の端面81や、ハウジング70に固定されるスラスト部材71の端面71a等)に動圧溝を設けた動圧軸受が公知である(例えば、特許文献1〜2参照)。
この種の動圧軸受装置において、通常、スリーブ部80はハウジング70の内周の所定位置に固定され、また、ハウジング70の内部空間に注油した潤滑油が外部に漏れるのを防止するために、ハウジング70の開口部にシール部100を配設する場合が多い。シール部100の内周面は、軸部材20の外周面との間にシール空間Sを形成し、このシール空間Sの容積は、ハウジング70の内部空間に充満された潤滑油が使用温度範囲内での熱膨張・収縮によって容積変化する量よりも大きくなるように設定される。従って、温度変化に伴う潤滑油の容積変化があった場合でも、潤滑油の油面は常にシール空間内に維持される(特許文献1参照)。
特開2003―65324号公報 特開2003−336636号公報
上述のように、図8に示す動圧軸受装置では、シール部の内周面と軸部材の外周面との間にシール空間を形成している。このシール空間に、温度変化に伴う潤滑油の容積変化量を吸収する機能(バッファ機能)を持たせようとすると、シール空間(シール部)の軸方向寸法を大きく確保する必要があり、軸受装置の薄型化の要請に応えることが難しくなる。また、ハウジングの内部において、スリーブ部の軸方向中心位置が相対的にハウジングの底部側に下がるため、ラジアル軸受部の軸受中心と回転体重心との離間距離が大きくなり、使用条件等によっては、モーメント荷重に対する負荷能力が不足する場合が起こり得る。さらに、軸部材のフランジ部の両側にスラスト軸受部を設けており、両スラスト軸受部間の軸方向距離が小さくなるので、その分、スラスト軸受部によるモーメント荷重の負荷能力が低くなる傾向がある。特に、ディスク駆動装置に用いられる動圧軸受装置の場合、ロータ(ロータハブ、ロータマグネット、ディスク、クランパ等が組み付けられた回転体)の回転に伴って比較的大きなモーメント荷重が軸部材に作用するので、耐モーメント荷重性は重要な特性である。
そこで本発明では、動圧軸受装置の軸方向寸法をコンパクト化すること、およびモーメント荷重に対する負荷能力を高めることを目的とする。
前記目的を達成するため、本発明の動圧軸受装置は、同径でストレートな円筒面状の内周面を有し、軸方向両端を開口したハウジングと、ハウジングと別体をなし、ハウジングの前記内周面に固定されたスリーブ部と、スリーブ部の内周に挿入した軸部材と、軸部材にその外径側へ突出させて設けられ、スリーブ部の軸方向両側に配置されたシール部と、両シール部の外周面とハウジングの前記内周面との間にそれぞれ形成され、かつ油面が形成されるシール空間と、スリーブ部の内周面と軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で前記軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、スリーブ部の一方の端面とこれに対向する一方のシール部の端面との間のスラスト軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用でシール部とスリーブ部とをスラスト方向に非接触に保持する第1スラスト軸受部と、スリーブ部の他方の端面とこれに対向する他方のシール部の端面との間のスラスト軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用でシール部とスリーブ部とをスラスト方向に非接触に保持する第2スラスト軸受部とを備えるものである。
以上の構成によれば、軸受部材の両端開口部にシール空間が形成される。シール空間は、上述のとおり、軸受装置の内部空間に充満された潤滑油の温度変化に伴う容積変化量を吸収する機能(バッファ機能)を有するものであるが、軸受部材の両端開口部にシール空間を形成すれば、一端側開口部にのみシール空間を形成する場合(図8参照)に比べ、軸受装置全体のバッファ機能を高めることができる。従って、個々のシール空間の容積を小さくすること、換言すればシール部の軸方向寸法を小さくすることができる。これにより軸受装置の軸方向寸法を小型化することが可能となり、あるいは軸受部材の軸方向寸法を大きくし、軸方向複数箇所に設けたラジアル軸受部間の離間距離を大きくしてモーメント荷重に対する負荷能力を高めることができる。
この種の動圧軸受装置では、その組立後、ラジアル軸受隙間等の軸受装置の内部空間を潤滑油で満たす必要がある。図8に示すように、軸方向一方側が閉じたハウジングを使用する場合、かかる作業は容易ではなく、減圧状態で軸受装置を潤滑油中に浸漬し、その後大気圧に開放する等、特殊な装置・工程を使用して注油作業を行う場合が多い。この場合、減圧度を増すほど軸受装置内部の残存エアを減らすことができるが、高減圧化には限界があるため、残存エアの発生が避けられない。これに対し、本発明では軸受部材の両端が大気に開放されているので注油作業を容易に行うことができ、例えば常圧環境下であっても潤滑油を加圧しながら注油することができる。従って、注油作業を低コストに行うことができ、かつ軸受装置内部での残存エア量をより少なくすることができる。
シール部は、シール空間を形成するための部材としてだけでなく、スラスト軸受隙間を形成するための部材としても用いるので、部品点数の削減によるコスト低減を図ることが可能となる。
この構成では、第1スラスト軸受部と第2スラスト軸受部とが、軸受部材の軸方向両端に形成されるため、軸部材のフランジ部の両側にスラスト軸受部を設けた構成(図8参照)に比べ、両スラスト軸受部間の軸方向離間距離が大きくなり、その分、スラスト軸受部によるモーメント荷重の負荷能力が高くなる。
スリーブ部を軸方向の複数箇所に配置し、かつスリーブ部の間にスペーサ部を介在させることにより、個々のスリーブに動圧発生部を形成することにより、軸方向に離間した複数のラジアル軸受部を簡単に構成することができる。また、各スリーブ部を含油焼結金属で形成する場合、スペーサ部は多孔質組織を有しない材料(非孔質材料)で形成することができ、この場合、軸受装置が包含する潤滑油量が減少する(スペーサ部の内部に潤滑油が含浸されないため)。潤滑油の熱膨張・収縮に伴う容積変化量は、軸受装置が包含する潤滑油の総量に比例するので、総油量が少なくなる分、シール空間の容積を小さくすることができる。とで構成すると、個々のスリーブに動圧発生部を形成することにより、軸方向に離間した複数のラジアル軸受部を簡単に構成することができる。また、各スリーブ部を含油焼結金属で形成する場合、スペーサ部は多孔質組織を有しない材料(非孔質材料)で形成することができ、この場合、軸受装置が包含する潤滑油量が減少する(スペーサ部の内部に潤滑油が含浸されないため)。潤滑油の熱膨張・収縮に伴う容積変化量は、軸受装置が包含する潤滑油の総量に比例するので、総油量が少なくなる分、シール空間の容積を小さくすることができる。
シール空間の幅(半径方向寸法)は軸方向に均一であっても良いが、シール性を高める観点から、シール空間は、軸受部材の軸方向内部側に向かって漸次縮小したテーパ形状を有していることが好ましい。シール空間が上記のテーパ形状を有していると、シール空間内の潤滑油はシール空間が狭くなる方向に向けて毛細管力によって引き込まれる。そのため、外部への潤滑油の漏れ出しが効果的に防止される。このような構成を実現する手段として、シール部の外周面に、軸受部材の外部側に向かって漸次縮径するテーパ面を形成する手段、軸受部材の端部の内周面に、軸受部材の外部側に向かって漸次拡径したテーパ面を形成する手段がある。特に前者の手段によれば、シール部が軸部材と伴に回転することにより、上記の毛細管力による引き込み作用に加え、回転時の遠心力による引き込み作用も得られるので(いわゆる遠心力シール)、ハウジング内部から外部への潤滑油の漏れ出しがより一層効果的に防止される。
上記構成の動圧軸受装置は、高い回転精度と耐久性を具備し、ロータマグネットとステータコイルとを有するモータ、例えばHDD用のスピンドルモータ等に好ましく用いることができる。
以上より、本発明によれば、動圧軸受装置のモーメント荷重に対する負荷能力を高め、あるいは動圧軸受装置の軸方向寸法をコンパクトにすることができる。
また、本発明によれば、スラスト軸受部によるモーメント荷重の負荷能力を高めることができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態にかかる動圧軸受装置(流体動圧軸受装置)1を組込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。この情報機器用スピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、動圧軸受装置1と、動圧軸受装置1の軸部材2に取り付けられたロータ(ディスクハブ)3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4aおよびロータマグネット4bと、ブラケット5とを備えている。ステータコイル4aはブラケット5の外周に取り付けられ、ロータマグネット4bは、ディスクハブ3の内周に取り付けられている。ディスクハブ3は、その外周に磁気ディスク等のディスクDを一枚または複数枚保持する。ステータコイル4aに通電すると、ステータコイル4aとロータマグネット4bとの間に発生する電磁力でロータマグネット4bが回転し、それに伴ってディスクハブ3、および軸部材2が一体となって回転する。
図2は、上記スピンドルモータで使用される動圧軸受装置1の第1の実施形態を示すものである。この動圧軸受装置1は、回転側となる軸部材2と、固定側となる軸受部材6と、軸部材2に固定された第1シール部9および第2シール部10とを主要構成部品として構成される。図2に示す実施形態では、固定側となる軸受部材6はハウジング7と、スリーブ部8とで別体に構成されている。なお、以下では、説明の便宜上、軸受部材6の開口部から軸部材2の端部が突出している側を上側、その軸方向反対側を下側として説明を進める。
スリーブ部8の内周面8aと軸部材2の外周面2aとの間に第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とが軸方向に離隔して設けられる。また、スリーブ部8の上側端面8bと第1シール部9の下側端面9bとの間に第1スラスト軸受部T1が設けられ、スリーブ部8の下側端面8cと第2シール部10の上側端面10bとの間に第2スラスト軸受部T2が設けられる。
軸部材2は、ステンレス鋼等の金属材料で形成され、あるいは、金属と樹脂のハイブリッド構造とされる。軸部材2は全体として概ね同径の軸状をなし、その中間部分には、他所よりも僅かに小径に形成した逃げ部2bが形成されている。軸部材2の外周面2aのうち、第1および第2シール部9、10の固定位置には、凹部、例えば円周溝2cが形成されている。
ハウジング7は、例えば、樹脂材料を射出成形して円筒状に形成され、その内周面7aは、同径でストレートな円筒面となっている。図1に示すブラケット5の内周面にハウジング7の外周面が圧入、接着、圧入接着等の手段で固定される。
ハウジング7を形成する樹脂は主に熱可塑性樹脂であり、例えば、非晶性樹脂として、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニルサルフォン(PPSF)、ポリエーテルイミド(PEI)等、結晶性樹脂として、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等を用いることができる。また、上記の樹脂に充填する充填材の種類も特に限定されないが、例えば、充填材として、ガラス繊維等の繊維状充填材、チタン酸カリウム等のウィスカー状充填材、マイカ等の鱗片状充填材、カーボンファイバー、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノマテリアル、金属粉末等の繊維状又は粉末状の導電性充填材を用いることができる。これらの充填材は、単独で用い、あるいは、二種以上を混合して使用しても良い。この実施形態では、ハウジング7を形成する材料として、結晶性樹脂としての液晶ポリマー(LCP)に、導電性充填材としてのカーボンファイバー又はカーボンナノチューブを2〜8wt%配合した樹脂材料を用いている。
この他、黄銅やアルミニウム合金等の軟質金属材料、その他の金属材料でハウジング7を形成することもできる。
スリーブ部8は、例えば、焼結金属からなる多孔質体、特に銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成され、ハウジング7の内周面7aの所定位置に圧入、接着、あるいは圧入接着等の手段で固定される。なお、スリーブ部8は、焼結金属以外にも銅合金等のメタル材料で形成することもできる。
スリーブ部8の内周面8aには、第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2のラジアル軸受面となる上下2つの領域が軸方向に離隔して設けられ、該2つの領域には、例えば図3(a)に示すようなヘリングボーン形状の動圧溝8a1、8a2がそれぞれ形成される。
第1シール部9および第2シール部10は、何れも真ちゅう(黄銅)等の軟質金属材料やその他の金属材料、あるいは、樹脂材料でリング状に形成され、軸部材2の外周面2aの所定位置に、例えば接着剤で固定される。接着剤としては、熱硬化性接着剤を使用することができ、この場合、軸部材2に対するシール部9、10の位置決めを行った後、軸部材2を加熱処理(ベーキング)することで、シール部9、10を確実に軸部材2に固定することができる。このとき、軸部材2に塗布した接着剤が、接着剤溜まりとしての円周溝2cに充填されて固化することにより、シール部9、10の軸部材2に対する接着強度が向上する。
第1シール部9の外周面9aは、ハウジング7の上端開口部の内周面7aとの間に所定の容積をもった第1シール空間S1を形成し、第2シール部10の外周面10aは、ハウジング7の下端開口部の内周面7aとの間に所定の容積をもった第2シール空間S2を形成する。この実施形態において、第1シール部9の外周面9aおよび第2シール部10の外周面10aは、それぞれ軸受装置の外部側に向かって漸次拡径したテーパ面状に形成される。そのため、両シール空間S1、S2は、互いに接近する方向に漸次縮小したテーパ形状を呈する。軸部材2の回転時、両シール空間S1、S2内の潤滑油は毛細管力による引き込み作用と、回転時の遠心力による引き込み作用とにより、シール空間が狭くなる方向に向けて引き込まれる。これにより、ハウジング7の内部からの潤滑油の漏れ出しが効果的に防止される。油漏れをより確実に防止するため、図2の拡大図に示すように、ハウジング7の上側端面7bと下側端面7c、第1シール部9の上側端面9c、および第2シール部10の下側端面10cにそれぞれ撥油剤11の被膜を形成することもできる。
第1および第2シール空間S1、S2は、ハウジング7の内部空間に充満された潤滑油の温度変化に伴う容積変化量を吸収するバッファ機能を有する。想定される温度変化の範囲内では、油面は常時両シール空間S1、S2内にある。これを実現するために、両シール空間S1、S2の容積の総和は、少なくとも内部空間に充満された潤滑油の温度変化に伴う容積変化量よりも大きく設定される。
上記のようにして、軸部材2にスリーブ部8を挟んでシール部9,10を固定した後、この組み付け体をハウジング7の内周面7aに挿入し、スリーブ部8の外周面をハウジング7の内周面7aに固定する。スリーブ部8のハウジング7に対する固定は、接着、圧入、接着と圧入の併用、溶着(超音波溶着)等の適宜の手段によって行うことができる。このようにして組立が完了すると、シール部9、10で密閉されたハウジング7の内部空間に、スリーブ部8の内部気孔も含め、潤滑流体として例えば潤滑油を充満させる。
潤滑油の注油は、例えば未注油状態の動圧軸受装置を真空槽内で潤滑油中に浸漬した後、大気圧に開放することにより行われる。このとき、図1に示すように、ハウジング7(軸受部材6)の両端が開放されているので、ハウジングの一端を閉じた場合(図8参照)に比べ、内部空間のエアを確実に潤滑油で置換することができ、残存エアによる弊害、例えば高温時の油漏れ等を確実に回避することができる。また、このような減圧を利用した注油方法だけでなく、常圧下での注油(例えば潤滑油の加圧注油)も可能となり、注油装置および工程を簡略化して製造コストの低廉化を図ることができる。
軸部材2の回転時には、スリーブ部8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域(上下2箇所の領域)は、それぞれ軸部材2の外周面2aとラジアル軸受隙間を介して対向する。また、スリーブ部8の上側端面8bのスラスト軸受面となる領域が第1シール部9の下側端面9bと所定のスラスト軸受隙間を介して対向し、スリーブ部8の下側端面8cのスラスト軸受面となる領域は、第2シール部10の上側端面10bと所定のスラスト軸受隙間を介して対向する。そして、軸部材の回転に伴い、上記ラジアル軸受隙間に潤滑油の動圧が発生し、軸部材2がラジアル軸受隙間内に形成される潤滑油の油膜によってラジアル方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をラジアル方向に回転自在に非接触支持する第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とが構成される。同時に、上記スラスト軸受隙間に潤滑油の動圧が発生し、軸部材2およびシール部9、10が上記スラスト軸受隙間内に形成される潤滑油の油膜によってスラスト方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をスラスト方向に回転自在に非接触支持する第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2とが構成される。
本発明では、シール空間S1、S2は、軸部材2から外径側に張り出したシール部9、10の外周面9a、10aとハウジング7の内周面7aとの間に形成される。従って、ハウジングに固定したシール部と軸部材の外周面との間にシール空間を形成する場合(図8参照)に比べ、シール部9、10の軸方向肉厚の薄肉化を図りつつシール空間の必要容積を確保することができる。加えて、スリーブ部8の軸方向両側にシール空間S1、S2を形成しているため、スリーブ部の軸方向一方側にのみシール空間を形成する場合(図8参照)に比べ、軸受装置全体でシール空間による潤滑油のバッファ機能を高めることができ、これにより個々のシール空間S1、S2の容積をシール空間Sの容積よりも減じることができる。そのため、例えば、スリーブ部8の軸方向寸法を従来よりも縮小し、あるいは、スリーブ部8の軸方向長さを従来よりも大きくして第1ラジアル軸受部R1の動圧溝領域と第2ラジアル軸受部の動圧溝領域の軸方向間隔を増すことができる。前者によれば、動圧軸受装置の軸方向寸法を従来よりも小さくすることができ、一方、後者によればモーメント荷重に対する負荷能力を高めることができる。
また、図2に示す構成であれば、図8に示す構造に比べ、ハウジング7の形状が単純化されることから、その成形コストの低減を図ることができる。
図4は、動圧軸受装置(流体動圧軸受装置)1の第2の実施形態を示している。この実施形態の動圧軸受装置1が第1の実施形態と異なる点は、第1シール部9および第2シール部10の何れか一方(図4では第2シール部10)を軸部材2と一体形成した点にある。これにより、シール部10の固定時における軸部材2とシール部10との間の組み付け精度(例えば直角度)のばらつきを抑えることができ、組立時の精度管理を容易化することが可能となる。また、第1の実施形態と同様に、図8に示す構造に比べてハウジング7の形状を単純化し、さらには少なくともスラスト部材71の分だけ部品点数を削減することができる。
図5は、動圧軸受装置(流体動圧軸受装置)1の第3の実施形態を示している。この実施形態の動圧軸受装置1が第1の実施形態と異なる点は、ハウジング7およびスリーブ部8を一体化し、軸受部材6を単一部品とすることで、部品点数および組立工数の削減を通じて更なる低コスト化を図った点にある。この軸受部材6は、軟質金属、その他の金属材料の鍛造や機械加工で形成するほか、樹脂や低融点金属の射出成形、さらにはMIM成形で形成することができる。
この場合、軸受部材6のうち、スリーブ部8の内周面と軸部材2の外周面との間にラジアル軸受隙間が形成され、スリーブ部8の上側端面8bとシール部9の下側端面9bとの間、およびスリーブ部8の下側端面8cとシール部10の上側端面10bとの間にそれぞれスラスト軸受隙間が形成される。また、軸受部材6の両端開口部(ハウジングに相当する部分7の両端開口部)の内周面7aとシール部9、10の外周面との間にそれぞれシール空間S1、S2が形成される。
図6は、動圧軸受装置(流体動圧軸受装置)1の第4の実施形態を示している。この実施形態の動圧軸受装置1が第1の実施形態と異なる点は、第1シール部9および第2シール部10の何れか一方(図4では第2シール部10)を軸部材2と一体形成すると共に、ハウジング7およびスリーブ部8を一体化し、軸受部材6を単一部品とした点にある。
図7は、動圧軸受装置(流体動圧軸受装置)1の第5の実施形態を示している。この動圧軸受装置が図2に示す第1の実施形態と異なる点は、スリーブ部を上側スリーブ部81と下側スリーブ部82とで構成し、両者の間にリング状のスペーサ部83を介装した点にある。スペーサ部83は、真ちゅう(黄銅)等の軟質金属材料やその他の金属材料、あるいは、樹脂材料でリング状に形成され、上側スリーブ部81や下側スリーブ部82のような多孔質組織は有していない。これら上側スリーブ部81、下側スリーブ部82、スペーサ部83、およびハウジング7で軸受部材6が構成される。
上側スリーブ部81の内周面81aと軸部材2の外周面2aとの間に第1ラジアル軸受部R1が設けられ、下側スリーブ部82の内周面82aと軸部2aの外周面2aとの間に第2ラジアル軸受部R2が設けられる。また、上側スリーブ部81の上側端面81bと第1シール部材9の下側端面9bとの間に第1スラスト軸受部T1が設けられ、下側スリーブ部82の下側端面82cと第2シール部材10の上側端面10bとの間に第2スラスト軸受部T2が設けられる。
上側スリーブ部81と下側スリーブ部82との間に、多孔質組織を有しない非孔質のスペーサ部83を介装しているので、上述した実施形態の動圧軸受装置1に比べて、軸受装置の内部空間に充満される潤滑油の総油量が少なくて済む(スペーサ部83の内部には潤滑油が含浸されないため)。一方、潤滑油の熱膨張・収縮に伴う容積変化量は、軸受装置の内部空間に充満された潤滑油の総油量に比例するので、総油量が少なくなる分、シール空間Sの容積を小さくすることができる。したがって、この実施形態の動圧軸受装置1は、シール部材9の軸方向寸法をさらに小さくすることが可能である。
図7に示す実施形態においては、スペーサ部83を軸部材2に固定することもできる。この場合、上側スリーブ部81の下側端面81cとスペーサ部83の上側端面との間に第1スラスト軸受部T1を形成し、下側スリーブ部82の上側端面82bとスペーサ部83の下側端面との間に第2スラスト軸受部T2を形成することもできる。
以上の説明では、ラジアル軸受部R1、R2およびスラスト軸受部T1、T2として、ヘリングボーン形状やスパイラル形状の動圧溝により潤滑油の動圧作用を発生させる構成を例示しているが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、ラジアル軸受部R1、R2として、いわゆるステップ軸受や多円弧軸受を採用しても良い。
図9は、ラジアル軸受部R1、R2の一方又は双方をステップ軸受で構成した場合の一例を示している。この例では、スリーブ部8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域に、複数の軸方向溝形状の動圧溝8a3が円周方向所定間隔に設けられている。
図10は、ラジアル軸受部R1、R2の一方又は双方を多円弧軸受で構成した場合の一例を示している。この例では、スリーブ部8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域が、3つの円弧面8a4、8a5、8a6で構成されている(いわゆる3円弧軸受)。3つの円弧面8a4、8a5、8a6の曲率中心は、それぞれ、スリーブ部8(軸部2a)の軸中心Oから等距離オフセットされている。3つの円弧面8a4、8a5、8a6で区画される各領域において、ラジアル軸受隙間は、円周方向の両方向に対して、それぞれ楔状に漸次縮小した形状を有している。そのため、スリーブ部8と軸部2aとが相対回転すると、その相対回転の方向に応じて、ラジアル軸受隙間内の潤滑油が楔状に縮小した最小隙間側に押し込まれて、その圧力が上昇する。このような潤滑油の動圧作用によって、スリーブ部8と軸部2aとが非接触支持される。尚、3つの円弧面8a4、8a5、8a6の相互間の境界部に、分離溝と称される、一段深い軸方向溝を形成しても良い。
図11は、ラジアル軸受部R1、R2の一方又は双方を多円弧軸受で構成した場合の他の例を示している。この例においても、スリーブ部8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域が、3つの円弧面8a7、8a8、8a9で構成されているが(いわゆる3円弧軸受)、3つの円弧面8a7、8a8、8a9で区画される各領域において、ラジアル軸受隙間は、円周方向の一方向に対して、それぞれ楔状に漸次縮小した形状を有している。このような構成の多円弧軸受は、テーパ軸受と称されることもある。また、3つの円弧面8a7、8a8、8a9の相互間の境界部に、分離溝と称される、一段深い軸方向溝8a10、8a11、8a12が形成されている。そのため、スリーブ部8と軸部2aとが所定方向に相対回転すると、ラジアル軸受隙間内の潤滑油が楔状に縮小した最小隙間側に押し込まれて、その圧力が上昇する。このような潤滑油の動圧作用によって、スリーブ部8と軸部2aとが非接触支持される。
図12は、ラジアル軸受部R1、R2の一方又は双方を多円弧軸受で構成した場合の他の例を示している。この例では、図11に示す構成において、3つの円弧面8a7、8a8、8a9の最小隙間側の所定領域θが、それぞれ、スリーブ部8(軸部2a)の軸中心Oを曲率中心とする同心の円弧で構成されている。従って、各所定領域θにおいて、ラジアル軸受隙間(最小隙間)は一定になる。このような構成の多円弧軸受は、テーパ・フラット軸受と称されることもある。
以上の各例における多円弧軸受は、いわゆる3円弧軸受であるが、これに限らず、いわゆる4円弧軸受、5円弧軸受、さらに6円弧以上の数の円弧面で構成された多円弧軸受を採用しても良い。また、ラジアル軸受部をステップ軸受や多円弧軸受で構成する場合、ラジアル軸受部R1、R2のように、2つのラジアル軸受部を軸方向に離隔して設けた構成とする他、スリーブ部8の内周面8aの上下領域に亘って1つのラジアル軸受部を設けた構成としても良い。
また、スラスト軸受部T1、T2の一方又は双方は、例えば、スラスト軸受面となる領域に、複数の半径方向溝形状の動圧溝を円周方向所定間隔に設けた、いわゆるステップ軸受、いわゆる波型軸受(ステップ型が波型になったもの)等で構成することもできる。
さらに、以上の説明では、第1および第2ラジアル軸受部R1、R2の動圧溝8a1、8a2をスリーブ部8の内周面8aに形成する場合を例示したが、これをラジアル軸受隙間を介して対向する面、すなわち軸部材2の外周面2aに形成することもできる。さらに、第1および第2スラスト軸受部T1、T2の動圧溝8b1、8c1をスリーブ部の両端面8b、8cに形成する場合を例示したが、スラスト軸受隙間を介して対向する面、すなわち第1シール部9の下側端面9bおよび第2シール部10の上側端面10bに形成することもできる。
動圧軸受装置を組み込んだモータの一例を示す断面図である。 本発明の構成を有する動圧軸受装置の断面図である。 (a)図はスリーブ部の断面図、(b)図は(a)図中のb矢視方向か ら見た平面図、(c)図は(a)図中のc矢視方向から見た平面図である。 動圧軸受装置の他の形態を示す断面図である。 動圧軸受装置の他の形態を示す断面図である。 動圧軸受装置の他の形態を示す断面図である。 動圧軸受装置の他の形態を示す断面図である。 動圧軸受装置の他の形態を示す断面図である。 ラジアル軸受部の他の実施形態を示す断面図である。 ラジアル軸受部の他の実施形態を示す断面図である。 ラジアル軸受部の他の実施形態を示す断面図である。 ラジアル軸受部の他の実施形態を示す断面図である。
符号の説明
1 動圧軸受装置
2 軸部材
6 軸受部材
7 ハウジング
8 スリーブ部
9 第1シール部
10 第2シール部
11 撥油剤
R1 第1ラジアル軸受部
R2 第2ラジアル軸受部
T1 第1スラスト軸受部
T2 第2スラスト軸受部
S1 第1シール空間
S2 第2シール空間

Claims (4)

  1. 同径でストレートな円筒面状の内周面が有し、かつ軸方向両端を開口したハウジングと、
    ハウジングと別体をなし、ハウジングの前記内周面に固定されたスリーブ部と、
    スリーブ部の内周に挿入した軸部材と、
    軸部材にその外径側へ突出させて設けられ、スリーブ部の軸方向両側に配置されたシール部と、
    両シール部の外周面とハウジングの前記内周面との間にそれぞれ形成され、かつ油面が形成されるシール空間と、
    スリーブ部の内周面と軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で前記軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と
    スリーブ部の一方の端面とこれに対向する一方のシール部の端面との間のスラスト軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用でシール部とスリーブ部とをスラスト方向に非接触に保持する第1スラスト軸受部と、
    スリーブ部の他方の端面とこれに対向する他方のシール部の端面との間のスラスト軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用でシール部とスリーブ部とをスラスト方向に非接触に保持する第2スラスト軸受部と
    を備えた動圧軸受装置。
  2. スリーブ部を軸方向の複数箇所に配置し、かつスリーブ部の間にスペーサ部を介在させた請求項1記載の動圧軸受装置。
  3. シール部の外周面に、ハウジングの外部側に向かって漸次縮径するテーパ面が形成されている請求項1記載の動圧軸受装置。
  4. 請求項1〜の何れかに記載した動圧軸受装置と、ステータコイルと、ロータマグネットとを有するモータ。
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