JP4647585B2 - 動圧軸受装置およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、動圧軸受装置およびその製造方法に関するものである。
動圧軸受装置は、軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で軸部材を回転自在に非接触支持する軸受装置である。この動圧軸受装置は、高速回転、高回転精度、低騒音等の特徴を有するものであり、近年ではその特徴を活かして、情報機器をはじめ種々の電気機器に搭載されるモータ用の軸受装置として、より具体的には、HDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置等のスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、ファンモータなどのモータ用軸受装置として好適に使用されている。
一般に、動圧軸受装置では、軸部材の外周面と軸受スリーブの内周面との間にラジアル軸受隙間が形成され、このラジアル軸受隙間を満たす潤滑油の動圧作用で軸部材がラジアル方向に非接触支持される。軸部材および軸受スリーブは、ハウジングに収容された状態で上記各種モータに組み込まれる。
この動圧軸受装置には、スラスト両方向に軸部材を非接触支持するため2つのスラスト軸受隙間を具備するものがある(例えば、特許文献1を参照)。この場合、一方のスラスト軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で軸部材がスラスト一方向から非接触支持されると共に、他方のスラスト軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で軸部材がスラスト他方向から非接触支持される(以下、この種の動圧軸受装置を、両スラストタイプと称す)。
特開2003−232353号公報
両スラストタイプの動圧軸受装置では、スラスト軸受隙間の幅精度、すなわち2つのスラスト軸受隙間の隙間幅を合算した値の精度が軸受性能を大きく左右する。通常、スラスト軸受隙間の幅精度は、ハウジングと軸受スリーブの軸方向相対位置によって定まるので、この種の流体軸受装置の組立に際しては、軸受スリーブとハウジングの軸方向相対位置を如何に精度良く管理するかが重要になる。
しかしながら、両スラスト軸受隙間の幅は、それぞれ数μm〜数十μm程度とされるので、この値に見合うように両部材の軸方向相対位置を管理することは容易ではない。特に特許文献1に記載の動圧軸受装置のようにハウジングが有底筒状をなし、かつハウジングの底部とこれに対向する軸受スリーブの端面との間に2つのスラスト軸受隙間を形成する構造では、ハウジングの底部側では治具による軸受スリーブの位置決めができないため、両部材の相対位置を精度良く管理することは極めて困難である。
そこで、本発明は、軸受スリーブと有底筒状のハウジングの軸方向相対位置を簡易にかつ精度良く管理することができる動圧軸受装置の提供を目的とする。
上記課題を解決するため、本発明では、軸部材と、内周面を軸部材の外周面と対向させた軸受スリーブと、軸部材および軸受スリーブを収容した有底筒状のハウジングと、軸部材の外周面と軸受スリーブの間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で軸部材をラジアル方向に支持するラジアル軸受部と、第1スラスト軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で軸部材をスラスト一方向に支持する第1スラスト軸受部と、第2スラスト軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で軸部材をスラスト他方向に支持する第2スラスト軸受部とを有する動圧軸受装置において、ハウジングの内周面と軸受スリーブの外周面との間に中間部材を介在させると共に、中間部材とハウジングを軸方向で当接させ、この当接部分を基準に、中間部材に対する軸受スリーブの軸方向の位置出しを行ったことを特徴とするものである。
上記構成の動圧軸受装置であれば、ハウジングに対する軸受スリーブの軸方向の相対的な位置決めを正確に行うことが可能となる。詳細には、先ず中間部材を基準として中間部材に対する軸受スリーブの軸方向の位置出しを行う。位置出し後、中間部材と軸受スリーブを固定する。その後、このアセンブリをハウジングの内周に収容し、中間部材がハウジングと軸方向で当接するまでアセンブリを押し進め、この当接状態を保持して中間部材とハウジングを固定する。以上から、有底筒状のハウジングと軸受スリーブの軸方向相対位置を簡易にかつ精度良く管理することができる。従って、2つのスラスト軸受隙間の総隙間幅を簡易にかつ精度良く設定することが可能となる。
中間部材に対する軸受スリーブの軸方向の位置出しを行う際、両者は軸方向で当接状態とする他、非当接状態とすることができる。このうち、後者の構成であれば、両部材は軸方向で任意の相対位置をとることができる。これはすなわち、中間部材に対する軸受スリーブの軸方向の位置出しに際し、軸受スリーブの軸方向寸法の影響を排除できることを意味する。従って、軸受スリーブの形状精度をラフにしてその製作コストを低減しつつ、2つのスラスト軸受隙間の隙間幅を一層簡易にかつ精度良く設定することが可能となり、望ましい。
またこの際、中間部材のハウジングとの当接部分を基準に、中間部材に対する軸受スリーブの軸方向の位置出しを行うのが望ましい。これにより、ハウジングと軸受スリーブの軸方向相対位置、すなわち2つのスラスト軸受隙間の総隙間幅が、軸受スリーブ、中間部材、およびハウジングの形状精度ではなく、中間部材に対する軸受スリーブの軸方向位置出しの精度に依存することとなる。従って、当該位置出しを行う治具の精度を高めるだけで、2つのスラスト軸受隙間の隙間幅を高精度に設定することが可能となる。
中間部材とハウジングとは、軸方向の任意位置で当接させることができるが、例えば、中間部材の一端部をハウジングの底部と当接させるようにすれば、ハウジングの内周面の任意位置に中間部材と係合させるための段部を形成する必要がなく、ハウジング内周面をストレートな円筒形状に形成することが可能となる。これにより、ハウジングの形状を簡略化することができ、ハウジングの製作コストを低廉化することができる。
なお、中間部材と軸受スリーブの固定方法としては隙間接着を採用するのが望ましい。圧入、あるいは圧入と接着を併用した圧入接着で両者を固定することも可能であるが、このように圧入を伴う固定方法では、圧入力によって軸受スリーブの内周面が変形し、ラジアル軸受隙間の幅精度に悪影響を及ぼすおそれがある。この傾向は、中間部材を金属材料で形成することによって中間部材を高剛性化した場合に一層顕著になる。これに対し、両部材の固定面間全体に亘って接着隙間を介在させた隙間接着であれば、この種の弊害を回避することが可能となる。また、中間部材を金属材料の塑性加工(例えば、鍛造)で低コストに製作することも可能となる。
また、中間部材とハウジングの固定方法としては隙間接着を採用するのが望ましい。圧入や圧入接着では、上記と同様に、中間部材を介して軸受スリーブに伝搬された圧入力でラジアル軸受隙間の幅精度に悪影響を及ぼすおそれがあるからである。また、隙間接着とすることにより、上記と同様の理由から、ハウジングを金属材料で形成することが可能となる。ハウジングを金属製とすれば、これを樹脂製とする場合に比べて強度アップを図ることができるだけでなく、動圧軸受装置の耐振動特性の改善を図ることも可能となる。さらに、ハウジングをモータブラケットに接着固定する場合には、両者間に良好な接着強度を確保することが可能となる。なお、金属製ハウジングは、例えば鍛造等の塑性加工で低コストに製作することができる。
中間部材でシール空間を形成すれば、中間部材は、軸受スリーブの位置決め用部材としてだけでなくシール部材として使用することが可能となる。従って、両者を別部材とする場合に比べ、部品点数を削減することができ、動圧軸受装置の低コスト化を図ることができる。シール空間は、(1)中間部材の内周面と軸部材の外周面との間に形成することができる他、(2)中間部材の外周面とハウジングの内周面との間に形成することもできる。(2)の構成であれば(1)の構成に比べ、シール空間の軸方向寸法を短縮化しつつシール空間の必要容積を確保することができ、動圧軸受装置の小型化、およびラジアル軸受部の軸受スパンの拡大によるモーメント剛性の向上を図ることが可能となる。さらに(1)および(2)の双方を採用した構成であれば、上記の効果をより一層顕著に得ることができる。
以上より、本発明によれば、軸受スリーブとハウジングの軸方向相対位置を簡易にかつ精度良く管理することができるので、2つのスラスト軸受隙間の総隙間幅を精度良く設定することが可能となる。従って、回転精度に優れる動圧軸受装置を低コストに提供することが可能となる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、動圧軸受装置を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示すものである。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2を回転自在に非接触支持する動圧軸受装置1と、軸部材2に装着されたディスクハブ3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5とを備えている。ステータコイル4はモータブラケット(ブラケット)6の外周に取付けられ、ロータマグネット5はディスクハブ3の内周に取付けられる。動圧軸受装置1のハウジング7は、ブラケット6の内周に装着される。ディスクハブ3には、磁気ディスク等のディスクDが一又は複数枚保持される。ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間の電磁力でロータマグネット5が回転し、それによって、ディスクハブ3および軸部材2が一体となって回転する。
図2は、本発明にかかる動圧軸受装置1の一実施形態を示すものである。この動圧軸受装置1は、軸部材2と、内周面8aを軸部材2の外周面2a1と対向させた軸受スリーブ8と、軸受スリーブ8を内部に収容した有底筒状のハウジング7と、ハウジング7の内周面と軸受スリーブ8の外周面8dとの間に介在させた中間部材9とを主要な構成部品として備える。なお、以下では、説明の便宜上、ハウジング7の開口側を上側、これと軸方向反対側を下側として説明を進める。
軸部材2は、例えば、ステンレス鋼等の金属材料で形成され、軸部2aと、軸部2aの下端に一体又は別体に設けられたフランジ部2bとを備えている。軸部材2は、その全体を金属材料で形成する他、例えばフランジ部2bの全体あるいはその一部(例えば両端面)を樹脂で構成し、金属と樹脂のハイブリッド構造とすることもできる。
ハウジング7は、金属材料、本実施形態ではステンレス鋼で、円筒状の側部7aと、側部7aの下端開口部を封止する底部7bとを一体に有する有底筒状に形成される。側部7aの内周面7a1のうち、上側の所定領域には、上方に向かって内径寸法を漸次拡径させたテーパ面7a2が形成されている。なお、ハウジング7の材料はステンレス鋼に限定されるわけではなく、例えば黄銅やアルミ等に代表される軟質金属を用いることも可能である。また、このハウジング7の形成方法としては、切削などの機械加工を採用することも可能であるが、低コストに加工できる観点から鍛造加工やプレス加工などの塑性加工を採用するのが望ましい。
ハウジング7の内底面7b1には、第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受面となる領域が設けられ、該領域には、図示は省略するが、動圧発生部として、例えばスパイラル形状の動圧溝が形成されている。動圧溝は、ヘリングボーン形状等、公知のその他の形状とすることができる。動圧溝は、フランジ部2bの下側端面2b2に形成してもよく、またその形状は、へリングボーン形状等、公知のその他の形状とすることもできる。
中間部材9は、金属材料、本実施形態ではステンレス鋼で、環状部9aと、環状部9aの下端面9a2から下方に張り出した円筒部9bとを一体に備える断面逆L字形状に形成される。円筒部9bはハウジング7と軸受スリーブ8との間に介装され、本実施形態において、その下側端面9b2はハウジング7の内底面7b1に当接している。図示は省略しているが、円筒部9bの外周面9b3とハウジング7の内周面7a1との間には微小幅の接着隙間が設けられ、中間部材9は、この接着隙間に充満された接着剤を介してハウジング7の内周に接着固定(隙間接着)されている。なお、中間部材9の材料はステンレス鋼に限定されるわけではなく、例えば黄銅やアルミ等に代表される軟質金属を用いることも可能である。また、この中間部材9の形成方法としては、切削などの機械加工を採用することも可能であるが、低コストに加工できる観点から鍛造加工やプレス加工などの塑性加工を採用するのが望ましい。
環状部9aの内周面9a1は軸部2aの外周面2a1との間に所定容積の第1のシール空間S1を形成する。本実施形態において、環状部9aの内周面9a1は、上方に向かって漸次拡径したテーパ面状に形成され、そのため第1のシール空間S1は下方に向かって漸次縮小したテーパ形状を呈する。また、円筒部9bの外周面9b3は、ハウジング7のテーパ面7a2との間に所定容積の第2のシール空間S2を形成する。そのため第2のシール空間S2は下方に向かって漸次縮小したテーパ形状を呈する。
円筒部9bの外周面9b3のうち、軸方向下方の所定領域には、1又は複数本の軸方向溝9b31が形成され、本実施形態で軸方向溝9b31は、円周方向の3箇所に等配されている。また、円筒部9bの下側端面9b2には、内径側で第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間に接続すると共に、外径側で軸方向溝9b31に連通した径方向溝9b21が形成されている。本実施形態において、径方向溝9b21は、軸方向溝9b31と同様に、円周方向の3箇所に等配されている。
軸受スリーブ8は焼結金属からなる多孔質体、特に銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成され、円筒部9bとの間に設けられた所定幅の接着隙間12(図4を参照)に供給された接着剤を介して円筒部9bの内周に接着固定(隙間接着)されている。図示例において、軸受スリーブ8の上側端面8cは、中間部材9の環状部9aの下側端面9a2と非当接(非接触)である。なお、軸受スリーブ8は、焼結金属に限らず、例えば黄銅等の軟質金属材料や焼結金属ではない他の多孔質体で形成することもできる。
軸受スリーブ8の内周面8aには、第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2のラジアル軸受面となる上下2つの領域が軸方向に離隔して設けられ、該2つの領域には、動圧発生部として、例えば図3に示すようなヘリングボーン形状の動圧溝8a1、8a2がそれぞれ形成される。上側の動圧溝8a1は、軸方向中心m(上下の傾斜溝間領域の軸方向中央)に対して軸方向非対称に形成されており、軸方向中心mより上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている。なお、動圧溝は、軸部2aの外周面2a1に形成することもできる。軸受スリーブ8の外周面8dには、1又は複数本の軸方向溝8d1が形成され、本実施形態で軸方向溝8d1は、円周方向の3箇所に等配されている。
軸受スリーブ8の下側端面8bには第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受面となる領域が設けられ、該領域には、図示は省略するが、動圧発生部として、例えばスパイラル形状の動圧溝が形成されている。動圧溝は、フランジ部2bの上側端面2b1に形成してもよく、またその形状は、ヘリングボーン形状等、公知のその他の形状とすることもできる。
上記の構成部材からなる動圧軸受装置1は、軸受スリーブ8の外周に中間部材9を嵌合し、中間部材9を基準に軸受スリーブ8の軸方向の位置出しを行った後、中間部材9と軸受スリーブ8とを固定し、次いで、これをハウジング7の内周に収容して、中間部材9とハウジング7を軸方向で当接させることにより組み立てることができる。以下この組立方法を図面に基づいて詳述する。
図4は、中間部材9を基準として中間部材9に対する軸受スリーブ8の軸方向の位置出しを行う段階の要部拡大断面図である。同図に示す治具11は、第1支持面11aと、第1支持面11aよりも所定寸法だけ上方に位置する第2支持面11bとを備え、第1支持面11aと第2支持面11bとの間の軸方向離間距離δは、第1スラスト軸受部T1の第1スラスト軸受隙間、第2スラスト軸受部T2の第2スラスト軸受隙間、およびフランジ部2bの軸方向寸法を合算した値に等しく設定されている。
まず、治具11の第2支持面11b上に軸受スリーブ8を載置する。次いで、例えば円筒部9bの内周面9b1に接着剤を塗布した状態で、円筒部9bの下側端面9b2を治具11の第1支持面11aに当接させるようにして中間部材9を軸受スリーブ8に外嵌する。これにより、中間部材9に対する軸受スリーブ8の軸方向の位置出しが行われる。この際、図2にも示すように、軸受スリーブ8の上側端面8cと環状部9aの下側端面9a2とは軸方向で非当接状態とされるから、軸受スリーブ8と中間部材9とは軸方向で任意の相対位置をとることができる。このようにして両者の軸方向の位置出しが行われるのと同時に、軸受スリーブ8の外周面8dと円筒部9bの内周面9b1との間に形成される接着隙間12に接着剤が供給される。そして、この接着隙間12に供給された接着剤を固化させることにより、円筒部9bの内周に軸受スリーブ8が接着固定(隙間接着)される。
次いで、上記の態様で組み付けたアセンブリを治具11から取り外し、図5に示すように、中間部材9(環状部9a)の上側端面を当接させるようにして、当該アセンブリを円筒状の支持台13上に載置する。次いで、軸受スリーブ8の内周に軸部材2を挿入すると共に、ハウジング7の内周面7a1、あるいは中間部材9の外周面9b3に接着剤を塗布した後、ハウジング7を上記アセンブリに外嵌する。そして、ハウジング7の内底面7b1が、中間部材9(円筒部9b)の下側端面9b2に当接するように両者を軸方向に相対移動させた後、接着剤を固化させる。
なお、治具11の第1支持面11aと第2支持面11b間の軸方向離間距離δは、両スラスト軸受隙間幅を合算した値に等しく設定することもできる。かかる構成とした場合には、まず第2支持面11b上に軸部材2を載置してから、フランジ部2bの上側端面2b1上に軸受スリーブ8を載置し、その後軸受スリーブ8の外周に中間部材9を配置する。そしてこれらを治具11から取り外して上記の支持台13上に載置した後、ハウジング7を中間部材9の外周に配置すればよい。
以上のようにして動圧軸受装置1の組立が完了した後、中間部材9で密封されたハウジング7の内部空間に、軸受スリーブ8の内部気孔を含め潤滑油を充満させれば、図2に示す動圧軸受装置1が完成する。
以上の構成からなる動圧軸受装置1において、軸部材2が回転すると、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面となる上下2箇所の領域は、それぞれ、軸部2aの外周面2a1とラジアル軸受隙間を介して対向する。そして、軸部材2の回転に伴って、各ラジアル軸受隙間に形成される油膜は、ラジアル軸受面にそれぞれ形成された動圧溝8a1、8a2の動圧作用によってその油膜剛性を高められ、この圧力によって軸部材2がラジアル方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をラジアル方向に回転自在に非接触支持する第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とが形成される。
また、軸部材2が回転すると、軸受スリーブ8の下側端面8bのスラスト軸受面となる領域は、フランジ部2bの上側端面2b1と第1スラスト軸受隙間を介して対向し、ハウジング7の内底面7b1のスラスト軸受面となる領域は、フランジ部2bの下側端面2b2と第2スラスト軸受隙間を介して対向する。そして、軸部材2の回転に伴って、第1および第2スラスト軸受隙間に形成される油膜は、スラスト軸受面にそれぞれ形成された動圧溝の動圧作用によってその油膜剛性を高められ、この圧力によって軸部材2が両スラスト方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をスラスト一方向に回転自在に非接触支持する第1スラスト軸受部T1と、軸部材2をスラスト他方向に回転自在に非接触支持する第2スラスト軸受部T2とが形成される。
また、軸部材2の回転時には、上述のように、第1および第2のシール空間S1、S2がハウジング7の内部側に向かって漸次縮小したテーパ形状を呈しているため、両シール空間S1、S2内の潤滑油は毛細管力による引き込み作用により、シール空間が狭くなる方向、すなわちハウジング7の内部側に向けて引き込まれる。これにより、ハウジング7の内部からの潤滑油の漏れ出しが効果的に防止される。また、シール空間S1、S2は、ハウジング7の内部空間に充満された潤滑油の温度変化に伴う容積変化量を吸収するバッファ機能を有し、想定される温度変化の範囲内では、潤滑油の油面は常にシール空間S1、S2内にある。
なお、環状部9aの内周面9a1を円筒面とする一方、これに対向する軸部2aの外周面2a1にテーパ面を形成してもよく、この場合、第1のシール空間S1には、さらに遠心力シールとしての機能も付加されるのでシール効果が一層高まる。
また、図3にも示すように、上側の動圧溝8a1は、軸方向中心mに対して軸方向非対称に形成されており、軸方向中心mより上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている。そのため、軸部材2の回転時、動圧溝8a1による潤滑油の引き込み力(ポンピング力)は上側領域が下側領域に比べて相対的に大きくなる。そして、この引き込み力の差圧によって、軸受スリーブ8の内周面8aと軸部2aの外周面2a1との間の隙間に満たされた潤滑油は、第1スラスト軸受部T1の第1スラスト軸受隙間→軸受スリーブ8の軸方向溝8d1によって形成される流体通路→環状部9aの下側端面9a2と軸受スリーブ8の上側端面8cとの間に形成される軸方向隙間(径方向の流体通路)という経路を循環して、第1ラジアル軸受部R1のラジアル軸受隙間に再び引き込まれる。
このように、潤滑油がハウジング7の内部空間を流動循環するように構成することで、潤滑油の圧力バランスが保たれると同時に、局部的な負圧の発生に伴う気泡の生成、気泡の生成に起因する潤滑油の漏れや振動の発生等の問題を解消することができる。上記の循環経路には、第1のシール空間S1が連通しているので、何らかの理由で潤滑油中に気泡が混入した場合でも、気泡が潤滑油に伴って循環する際にシール空間S1内の潤滑油の油面(気液界面)から外気に排出される。従って、気泡による悪影響はより一層効果的に防止することができる。
さらに、本実施形態では、第2スラスト軸受部T2の第2スラスト軸受隙間が、中間部材9(円筒部9b)に設けられた径方向溝9b21および軸方向溝9b31を介して第2のシール空間S2に連通しているので、第2スラスト軸受隙間の近傍で負圧が発生し、これに伴って第2スラスト軸受隙間を満たす潤滑油中に気泡が混入した場合でも、気泡はシール空間S2内の潤滑油の油面(気液界面)から外気に排出される。従って、第2スラスト軸受隙間における気泡による悪影響も効果的に防止される。
なお、図示は省略するが、円筒部9bと軸受スリーブ8との間に形成される軸方向の流体通路は、円筒部9bの内周面9b1に軸方向溝を設けることによって形成することもできる。また、円筒部9bとハウジング7との間に形成される流体通路は、ハウジング7の内底面7b1に径方向溝を設けると共に、ハウジング7の側部内周面7a1に軸方向溝を設けることによって形成することもできる。
以上に示すように、本発明にかかる動圧軸受装置1では、ハウジング7の内周面7a1と軸受スリーブ8の外周面8dとの間に中間部材9(円筒部9b)を介在させると共に、中間部材9とハウジング7を軸方向で当接させたことから、ハウジング7に対する軸受スリーブ8の軸方向の相対的な位置出しを正確に行うことができる。ハウジング7に対する軸受スリーブ8の軸方向の相対的な位置出しは、上述したように、まず中間部材9を基準として中間部材9に対する軸受スリーブ8の軸方向の相対的な位置出しを行い、このアセンブリをハウジング7内に固定するだけで行うことができるからである。
より具体的には、中間部材9に対する軸受スリーブ8の軸方向の相対的な位置出しは、図4にも示したように、中間部材9のうち、ハウジング7との当接部分、すなわち円筒部9bの下側端面9b2を基準として行われる。そのため、両スラスト軸受隙間の総隙間幅は、軸受スリーブ8、中間部材9、およびハウジング7の形状精度ではなく、中間部材9に対する軸受スリーブ8の軸方向位置出しの精度に依存することとなる。従って、治具11の精度を高めておくだけで、両スラスト軸受隙間の隙間幅を簡易にかつ高精度に設定することが可能となる。しかも、中間部材9と軸受スリーブ8とが軸方向で非当接状態であるから、両者の軸方向における相対的な位置出しの際、両部材は軸方向で任意の相対位置をとることができる。以上から、ハウジング7に対する軸受スリーブ8の軸方向の相対的な位置出しを簡易にかつ正確に行うことができ、2つのスラスト軸受隙間の総隙間幅を精度良く設定することが可能となる。
また、本実施形態では、中間部材9の一端(円筒部9bの下側端面9b2)をハウジング7の内底面7b1に当接させるようにしているので、ハウジング7の内周面7a1をストレートな円筒形状に形成することが可能となる。従って、ハウジング7の形状を簡略化し、ハウジング7の製作コストを低廉化することができる。また、中間部材9と軸受スリーブ8とが軸方向で非当接状態であるから、軸受スリーブ8の製作に際し、その軸方向寸法を高精度に管理する必要がなく、軸受スリーブ8の形状精度をラフにしてその製作コストを低廉化することもできる。
また、中間部材9と軸受スリーブ8とは隙間接着されているので、両者を、圧入を伴って固定する場合に懸念されるラジアル軸受隙間の幅精度の悪化を回避することができる。特に、本実施形態のように中間部材9を金属製とした場合に顕著となるこの種の弊害を回避することができる。
また、ハウジング7を金属製としているので、これを樹脂製とした場合に比べて強度アップを図ることができるだけでなく、この種の動圧軸受装置1の耐振動特性を改善することも可能となる。さらに、ブラケット6(図1を参照)にハウジング7を接着固定する場合には、両部材間で良好な接着強度を確保することができる。一方、中間部材9はこの金属製ハウジング7の内周に隙間接着されているので、中間部材9および軸受スリーブ8を、圧入を伴って金属製ハウジング7の内周に固定した場合に懸念されるラジアル軸受隙間の幅精度の悪化を回避することができる。
また、中間部材9でシール空間を形成しているので、中間部材9は軸受スリーブ8の位置決め用部材としてだけでなくシール部材として使用することができる。従って、両者を別部材とする場合に比べ、部品点数を削減することができ動圧軸受装置1の低コスト化を図ることができる。
また本実施形態では、中間部材9(環状部9a)の内周に第1のシール空間S1を形成すると共に、中間部材9(円筒部9b)の外周に第2のシール空間S2を形成しているので、シール空間の軸方向寸法を短縮化しつつシール空間の必要容積を確保することができる。従って、ハウジング7の軸方向寸法を縮小して動圧軸受装置の小型化、およびラジアル軸受部R1、R2の軸受スパンの拡大によるモーメント剛性の向上を図ることが可能となる。
なお、以上では、軸受スリーブ8と中間部材9とを軸方向で非当接状態とした構成について説明を行ったが、両者は軸方向で当接状態とすることもできる。この場合、軸受スリーブ8の上側端面8cと中間部材9の環状部9aの下側端面9a2との間に形成すべき径方向の流体通路は、前記両面の何れか一方又は双方に径方向の溝を形成することにより形成することができる。
また、以上では、中間部材9を金属製とした構成について説明を行ったが、中間部材9は樹脂の射出成形品とすることもできる。この場合、そのベース樹脂としては、ポリサルフォン(PSU)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニルサルフォン(PPSU)、ポリエーテルイミド(PEI)等の非晶性樹脂、あるいは液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の結晶性樹脂を用いることができるが、潤滑流体として潤滑油を用いる場合には、耐油性に優れた樹脂を用いるのが望ましい。また、上記のベース樹脂に充填する充填材の種類に特段の限定はないが、例えば、充填材として、ガラス繊維等の繊維状充填材、チタン酸カリウム等のウィスカー状充填材、マイカ等の鱗片状充填材、カーボンファイバー、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノマテリアル、金属粉末等の繊維状又は粉末状の導電性充填材を用いることができる。これらベース樹脂および充填材は、単独で、あるいは、二種以上を混合して使用される。
このように中間部材9を樹脂の射出成形品とした場合には、図2に示す軸方向溝9b31や径方向溝9b21を射出成形と同時に型成形することができ、動圧軸受装置1をより一層低コスト化することが可能となる。また、中間部材9と軸受スリーブ8とを軸方向で当接状態とし、円盤部9aの下側端面9a2に径方向溝を形成する場合には、この径方向溝も射出成形と同時に型成形することができる。
以上の説明では、ラジアル軸受部R1、R2およびスラスト軸受部T1、T2として、ヘリングボーン形状やスパイラル形状の動圧溝により潤滑油の動圧作用を発生させる構成を例示しているが、ラジアル軸受部R1、R2として、いわゆるステップ軸受、多円弧軸受、あるいは非真円軸受を、スラスト軸受部T1、T2として、いわゆるステップ軸受や波型軸受を採用しても良い。また、ラジアル軸受部をステップ軸受や多円弧軸受で構成する場合、ラジアル軸受部R1、R2のように、2つのラジアル軸受部を軸方向に離隔して設けた構成とする他、軸受スリーブ8の内周側の上下領域に亘って1つのラジアル軸受部を設けた構成としても良い。
動圧軸受装置を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの一例を概念的に示す断面図である。 本発明に係る動圧軸受装置の実施形態を示す断面図である。 軸受スリーブの断面図である。 中間部材に対する軸受スリーブの軸方向の位置出しを行う段階の要部拡大断面図である。 本発明にかかる動圧軸受装置の組立工程を示す断面図である。
符号の説明
1 動圧軸受装置
2 軸部材
2a 軸部
2b フランジ部
7 ハウジング
7b1 内底面
8 軸受スリーブ
9 中間部材
9a 環状部
9b 円筒部
9b21 径方向溝
9b31 軸方向溝
11 治具
11a 第1支持面
11b 第2支持面
12 接着隙間
R1、R2 ラジアル軸受部
T1、T2 スラスト軸受部
S1 第1のシール空間
S2 第2のシール空間

Claims (4)

  1. 軸部材と、内周面を軸部材の外周面と対向させた軸受スリーブと、軸部材および軸受スリーブを収容した有底筒状のハウジングと、軸部材の外周面と軸受スリーブの間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で軸部材をラジアル方向に支持するラジアル軸受部と、第1スラスト軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で軸部材をスラスト一方向に支持する第1スラスト軸受部と、第2スラスト軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で軸部材をスラスト他方向に支持する第2スラスト軸受部とを有する動圧軸受装置において、
    ハウジングの内周面と軸受スリーブの外周面との間に中間部材を介在させると共に、中間部材とハウジングを軸方向で当接させ、この当接部分を基準に、中間部材に対する軸受スリーブの軸方向の位置出しを行ったことを特徴とする動圧軸受装置。
  2. 中間部材の一端部とハウジングの底部とを当接させた請求項1に記載の動圧軸受装置。
  3. 中間部材でシール空間を形成した請求項1に記載の動圧軸受装置。
  4. 軸部材と、内周面を軸部材の外周面と対向させた軸受スリーブと、軸部材および軸受スリーブを収容した有底筒状のハウジングと、軸部材の外周面と軸受スリーブの間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で軸部材をラジアル方向に支持するラジアル軸受部と、第1スラスト軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で軸部材をスラスト一方向に支持する第1スラスト軸受部と、第2スラスト軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で軸部材をスラスト他方向に支持する第2スラスト軸受部とを有する動圧軸受装置を製造するに際し、
    軸受スリーブの外周に中間部材を嵌合し、中間部材を基準に軸受スリーブの軸方向の位置出しを行った後、中間部材と軸受スリーブを固定し、次いで、これをハウジングの内周に収容して、中間部材とハウジングを軸方向で当接させることを特徴とする動圧軸受装置の製造方法。
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