JP5318343B2 - 流体軸受装置およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、流体軸受装置およびその製造方法に関するものである。
流体軸受装置は、軸受隙間に形成される油膜で軸部材を回転自在に支持する軸受装置である。この流体軸受装置は、高速回転、高回転精度、低騒音等の特徴を有するものであり、近年ではその特徴を活かして、情報機器をはじめ種々の電気機器に搭載されるモータ用の軸受装置として、より具体的には、HDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置等のスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、ファンモータなどのモータ用軸受装置として好適に使用されている。
例えばディスク装置等のスピンドルモータに組み込まれる流体軸受装置として、図9に示すものが公知である。同図に示す流体軸受装置70は、ハウジング77の内周に軸受スリーブ78を固定すると共に、軸受スリーブ78の内周に軸部材72を挿入し、軸部材72の外周面と軸受スリーブ78の内周面との間のラジアル軸受隙間にラジアル軸受部75,76を設けている。また、ハウジング77の開口部内周には環状のシール部材79が固定され、該シール部材79と軸部材72との間にはシール空間が形成されている。流体軸受装置の低コスト化を図る観点から、部品点数は出来るだけ少なく、また部材形状は出来るだけシンプルであるのが望ましく、同図に示す流体軸受装置70では、ハウジング77を、側部と底部とが一体の有底筒状(コップ状)に形成すると共に、側部内周を軸方向全長に亘ってストレートな円筒面に形成している(例えば、特許文献1、2参照)。
特開2003−232353号公報 特開2003−239974号公報
近年のディスク装置の大容量化等に伴ってディスクの搭載枚数が増加する傾向にあり(ディスクの多積層化)、これによる重量増によっても軸部材の抜け強度(抜去力)を高め回転精度を安定的に維持できるよう、ハウジングに対する軸受スリーブの固定強度を一層高めることが求められている。なおハウジングに対する軸受スリーブの固定手段として様々な手段が提案されているが、現実的には簡易な手段、例えば圧入、接着等を採用する場合が多い。
圧入で固定強度を高めるには、締め代を大きく設定する必要がある。しかしながら、締め代を大きく設定すると軸受スリーブの内周面形状、すなわちラジアル軸受隙間の幅精度が悪化し、軸受性能を低下させるおそれがある。そのため、圧入のみで両者の固定強度を高めるのは容易ではない。
一方、両者を接着固定する場合、両者の接着固定は、接着剤をハウジングの内周面あるいは軸受スリーブの外周面に予め塗布した状態で、両者を相対スライドさせることにより行われるのが通例である。しかしながら、ハウジングと軸受スリーブの相対スライドによって接着剤がハウジングの底部側(スラスト軸受部側)に回り込み、ハウジングの内周面と軸受スリーブの外周面との間に介在させるべき接着剤量が不足するおそれがある。特に上記特許文献のように、ハウジングを有底筒状とした構成では、ハウジングに予め軸部材が挿入されているので、回り込んだ接着剤が軸部材に付着するおそれもある。これはすなわち、両者間に所望の固定強度が得られないこと、および所望の軸受性能が得られないことを意味する。
本発明の課題は、ハウジングに対する軸受スリーブの固定強度を高め、安定した軸受性能を発揮可能な流体軸受装置を提供することにある。
また、本発明の他の課題は、軸受性能を悪化させることなくハウジングに対する軸受スリーブの固定強度を容易に高め得る方法を提供することにある。
上記課題を解決するため、本発明では、軸方向の一端が開口した有底筒状のハウジングと、ハウジングの内周に固定された軸受スリーブと、軸受スリーブの内周に挿入された軸部材とを備え、軸受スリーブと軸部材の間のラジアル軸受隙間に形成される油膜で軸部材をラジアル方向に支持する流体軸受装置において、ハウジングが、軸受スリーブを圧入接着した第1内周面と、第1内周面よりも開口側に設けられ、軸受スリーブを隙間接着した第2内周面と、第2内周面よりも開口側に設けられ、第2内周面よりも小径でかつ軸受スリーブの外径よりも大径の第3内周面とを有し、ハウジングと軸受スリーブとの間に設けられ、両者を圧入接着してなる領域を、軸受スリーブをハウジングの内周に挿入する前に第2内周面に塗布した接着剤を、第1内周面と、第1内周面に圧入された軸受スリーブの外周面との間に導入して固化させることで形成し、ハウジングと軸受スリーブとの間に設けられ、両者を隙間接着してなる領域を、前記接着剤を軸受スリーブが第1内周面に圧入された後に固化させることで形成したことを特徴とする流体軸受装置を提供する。
上記のように、本発明は、ハウジングが、その内径側に軸受スリーブを圧入接着した第1内周面と、第1内周面よりも開口側に設けられ、その内径側に軸受スリーブを隙間接着した第2内周面とを有することを特徴とするものである。かかる構成の流体軸受装置では、軸受スリーブとハウジングとの間に、両者が圧入接着された領域と隙間接着された領域とが軸方向に並べて設けられるので、両者を圧入あるいは接着のみで固定する場合に比べ、両者の固定強度を高めることができる。また上記の第3内周面は、軸受スリーブ挿入時のガイド面として使用することができ、組立の簡略化に寄与する。
上記構成の流体軸受装置は、ハウジングに、軸受スリーブの外径よりも小径の第1内周面と、第1内周面よりも開口側に位置し、軸受スリーブの外径よりも大径の第2内周面と、第2内周面よりも開口側に位置し、第2内周面よりも小径でかつ軸受スリーブの外径よりも大径の第3内周面とを設け、第2内周面に予め接着剤を塗布した状態で軸受スリーブを第1内周面の内径側に配置し、その後、第2内周面に予め塗布した接着剤を軸受スリーブの外周面と第1内周面との間に導入すると共に、この導入した接着剤を固化させる工程を経て製造することができる。なお、軸受スリーブの外周面とハウジングの第1内周面との間に接着剤を導入するには、例えば接着剤を軟化させ毛細管力に当該領域に接着剤を引き込む手法、真空吸引によって当該領域に接着剤を引き込む手法、あるいは両者を併用する手法等を採用することができる。
かかる構成とすれば、ハウジングの内周に軸受スリーブを圧入固定した後に、ハウジングの第1内周面と軸受スリーブの外周面との間に必要十分量の接着剤を供給することができる。そのため、ハウジングの第1内周面あるいは軸受スリーブの外周面に予め接着剤を塗布した状態で圧入する場合に懸念される、ハウジング底部側への接着剤の回り込みを回避しつつ、ハウジングと軸受スリーブとを圧入接着することができる。また、ハウジングの第2内周面よりも開口側に、第2内周面よりも小径でかつ軸受スリーブの外径よりも大径の第3内周面を設けているので、軸受スリーブの挿入時には、当該第3内周面で軸受スリーブの外周面をガイドすることができる。従って、軸受スリーブの挿入時、特に挿入開始時において、その外周面や一端面に接着剤が付着するのを回避することができるので、ハウジング底部側への接着剤の回り込みをより効果的に回避することができ、安定した軸受性能が発揮可能となる。
上記の態様で軸受スリーブとハウジングとを固定する際、第3内周面は、第2内周面との半径寸法差が、予め第2内周面に塗布する接着剤高さよりも大きくなるような内径寸法に設定しておくのが望ましい。かかる構成とすれば、軸受スリーブ挿入時における外周面等への接着剤の付着を確実に防止することができ、組立作業の簡略化を図ることができる。
本願にかかるハウジングを金属の機械加工品とすると、ハウジングが複数の異径内周面を有する形状であるから加工が複雑化してその製造コストが高騰するおそれがあり、また第1内周面に固定(圧入)される軸方向領域で、軸受スリーブの内周面形状が悪化、すなわちラジアル軸受隙間の幅精度が悪化し、所望の回転精度を得られないおそれがある。これらの問題点を解消する観点から、ハウジングは樹脂の射出成形品とするのが望ましい。
上記構成の流体軸受装置には、ハウジングの開口部をシールするシール部材を設けることができ、本発明は、シール部材の内周側に第1のシール空間を形成し、シール部材の外周側に第2のシール空間を形成した構成の流体軸受装置に特に好適である。
すなわち、この種の流体軸受装置では、図9にも示すように、軸受内部に充満された潤滑油の漏出を防止するためのシール空間がハウジングの開口部に設けられるのが通例である。しかしながら、図9に示すようにハウジング77の内周にシール部材79を固定し、その内周側にのみシール空間を設けた構造では、シール部材79でハウジング77に対する軸受スリーブ78の固定強度を補完することができる反面、シール空間とラジアル軸受隙間とが軸方向に並ぶ分、ラジアル軸受部の軸方向離間距離が縮小するため、軸受剛性、特にモーメント剛性を高める上では不利となる。そのため、ディスクの多積層化によって重量が増加する場合には、所望のモーメント剛性を確保するのが難しくなっているのが現状である。一方、上述したようなシール部材の内周側に第1のシール空間を形成し、シール部材の外周側に第2のシール空間を設けた構成では、シール空間の軸方向寸法を縮小できる分軸受スパンを拡大させ、モーメント剛性を高めるのに有利である。しかしながらこの場合、シール部材は例えば軸受スリーブに固定されるため、上記のような固定強度の補完効果が得られず、要求される固定強度を確保するのに苦心していた。従って、上述した本発明の構成を採用すれば、モーメント剛性を高めつつ、必要とされる軸受スリーブの固定強度を確保することができ、ディスクの多積層化に対応可能な流体軸受装置が提供可能となる。
もちろん、上記本発明の構成を図9に示す構造の流体軸受装置に適用し、ハウジングに対する軸受スリーブの固定強度を一層高めることもできる。
以上の構成を有する流体軸受装置は、ステータコイルと、ロータマグネットとを有するモータに組み込んで、好適に使用することができる。
以上に示すように、本発明によれば、ハウジングに対する軸受スリーブの固定強度を高め、安定した軸受性能を発揮可能な流体軸受装置を提供することができる。しかも、この種の流体軸受装置が低コストに得られる。
また、本発明によれば、軸受性能を悪化させることなく、ハウジングに対する軸受スリーブの固定強度を容易に高めることができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、流体軸受装置1を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2を回転自在に支持する流体軸受装置1と、軸部材2に装着されたディスクハブ3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5とを備えている。ステータコイル4はブラケット6の外周に取付けられ、ロータマグネット5はディスクハブ3の内周に取付けられる。流体軸受装置1のハウジング7は、ブラケット6の内周に装着される。ディスクハブ3には、磁気ディスク等のディスクDが一又は複数枚保持される。ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間の電磁力でロータマグネット5が回転し、それによって、ディスクハブ3および軸部材2が一体となって回転する。
図2は、上記スピンドルモータで使用される流体軸受装置1の一実施形態を示すものである。この流体軸受装置1は、軸部材2と、有底筒状のハウジング7と、ハウジング7の内周に固定された軸受スリーブ8と、ハウジング7の開口部をシールするシール部材9とを主要な構成部品としている。なお、以下では、説明の便宜上、ハウジング7の開口側を上側、その軸方向反対側を下側として説明を進める。
軸部材2は、例えば、ステンレス鋼等の金属材料で形成され、軸部2aと、軸部2aの下端に一体又は別体に設けられたフランジ部2bとを備えている。軸部材2は、その全体を金属材料で形成する他、例えばフランジ部2bの全体あるいはその一部(例えば両端面)を樹脂で構成し、金属と樹脂のハイブリッド構造とすることもできる。
軸受スリーブ8は、焼結金属からなる多孔質体、特に銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成される。なお、焼結金属に限らず、多孔質体ではない他の金属材料、例えば黄銅等の軟質金属で軸受スリーブ8を形成することも可能である。
軸受スリーブ8の内周面8aには、第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2のラジアル軸受面となる上下2つの領域(図2の黒塗り部分)が軸方向に離隔して設けられ、該2つの領域には、例えば図3に示すようなヘリングボーン形状の動圧溝8a1、8a2がそれぞれ形成される。上側の動圧溝8a1は、軸方向中心m(上下の傾斜溝間領域の軸方向中央)に対して軸方向非対称に形成されており、軸方向中心mより上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている。なお、動圧溝は、軸部2aの外周面2a1に形成することもできる。軸受スリーブ8の外周面8dには、両端面8b、8cを連通させる1又は複数本の軸方向溝8d1が形成され、本実施形態で軸方向溝8d1は、円周方向の3箇所に等配されている。
軸受スリーブ8の下側端面8bには第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受面となる領域(図2の黒塗り部分)が設けられ、該領域には、図示は省略するが、例えばスパイラル状に配列された複数の動圧溝が形成されている。
ハウジング7は、円筒状の小径部7aと、小径部7aの上側に配置された円筒状の大径部7bと、小径部7aの下端開口部を封止する底部7cとで構成され、各部7a〜7cは一体に形成されている。小径部7aの内周面および外周面7a4は、それぞれ、大径部7bの内周面7b1および外周面7b2に比べ小径に形成されている。小径部7aの内周面と大径部7bの内周面7b1とは、軸方向と直交する方向の平坦面状に形成された段差面7eで連続している。
小径部7aには、図4に拡大して示すように、第1内周面7a1と、第1内周面7a1よりも上側(開口側)に設けられた第2内周面7a2と、第2内周面7a2よりも上側(開口側)に設けられた第3内周面7a3とが形成され、各内周面7a1〜7a3はそれぞれ内径寸法を異ならせている。具体的に述べると、第3内周面7a3の内径寸法d3は、第1内周面7a1の内径寸法d1よりも大径に、また第2内周面7a2の内径寸法d2よりも小径に形成されている(d1<d3<d2)。また、第1〜第3内周面7a1〜7a3の内径寸法d1、d2、d3は軸受スリーブ8の外径寸法(厳密にはハウジング7に固定される前の外径寸法)d4に対し、それぞれd1<d4、d2>d4、d3>d4とされている。
また、詳細は後述するが、本実施形態では軸受スリーブ8の組み付け前、第2内周面7a2に接着剤20が塗布される。そして、第2内周面7a2と第3内周面7a3の半径寸法差〔=(d2−d3)/2〕は、塗布される接着剤20の高さよりも大きくなるように設定されている。なお、図4は理解の容易化のために各部を誇張して描いたものであり、実際には、最も差の大きい第1内周面7a1と第2内周面7a2との間でも内径寸法差(d2−d1)は20〜200μm程度である。
ハウジング7の底部7cの内底面7c1には、第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受面となる領域(図2の黒塗り部分)が設けられ、該領域には、図示は省略するが、例えばスパイラル状に配列された複数の動圧溝が形成されている。
上記構成のハウジング7は、樹脂で射出成形される。成形収縮時の収縮量の差による変形を防止するため、ハウジング7の各部7a〜7cは略均一厚に形成されている。
ハウジング7を形成する樹脂は主に熱可塑性樹脂であり、例えば、非晶性樹脂として、ポリサルフォン(PSU)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニルサルフォン(PPSU)、ポリエーテルイミド(PEI)等、結晶性樹脂として、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等を用いることができる。また、上記の樹脂に充填する充填材の種類も特に限定されないが、例えば、充填材として、ガラス繊維等の繊維状充填材、チタン酸カリウム等のウィスカー状充填材、マイカ等の鱗片状充填材、カーボンファイバー、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノマテリアル、金属粉末等の繊維状又は粉末状の導電性充填材を用いることができる。これらの充填材は、単独で用い、あるいは、二種以上を混合して使用しても良い。
図5は、上記構成のハウジング7を射出成形する工程を例示するものである。図示のように、ハウジング7は、型締めした二つの金型(雄型12と雌型13)のうち、雌型13の軸芯部に設けたゲート(点状ゲート)14から溶融樹脂をキャビティに射出して成形される。ゲートの構成や数は任意であり、複数の点状ゲートやディスクゲートを採用することもできる。ゲート位置も任意で、例えば底部7cの外周縁部にゲート14を配置することもできる。
樹脂の固化後に型開きすると、成形品は雄型12に被着した状態で雌型13から取り出される。その後、雄型12に設けた突き出し機構、例えば突き出しピン15でハウジング7の開口部端面7fを押圧することにより、ハウジング7が雄型12から分離される。このとき、雄型12のうち、第2内周面7a2の成形部はいわゆる無理抜きとなるが、このハウジング7の形成材料が樹脂であり、また第2内周面7a2と第3内周面7a3とが傾斜面を介して滑らかに連続していることから、無理抜きに伴って小径部7aの第3内周面7a3が変形あるいは損傷することはない。なお、ハウジング7の突き出しは、突き出しピン15以外にも突き出しリングや突き出しプレートで行うこともできる。
シール部材9は、例えば、黄銅等の軟質金属材料やその他の金属材料、あるいは上述したハウジング7の成形に用いられる樹脂材料で、円盤状の第1シール部9aと、第1シール部9aの外径側から下方に張り出した円筒状の第2シール部9bとを備える断面逆L字形に一体形成される。第1シール部9aの内周面9a2は軸部2aの外周面2a1との間に所定容積の第1のシール空間S1を形成する。また、第2シール部9bの外周面9b1は、ハウジング7を構成する大径部7bの内周面7b1との間に所定容積の第2のシール空間S2を形成する。本実施形態において、第1シール部9aの内周面9a2およびハウジング7の大径部7bの内周面7b1は、何れも上方を拡径させたテーパ面状に形成され、そのため第1および第2のシール空間S1,S2は下方に向かって漸次縮小したテーパ形状を呈する。
第1シール部9aの下側端面9a1には、図6に示すように、下側端面9a1を横断する一又は複数の径方向溝10が形成されている。本実施形態で径方向溝10は、図7に示すように円周方向三箇所に等配されている。
上記の構成部材からなる流体軸受装置1は、ハウジング7内に軸部材2を収容した後、ハウジング7の内周に軸受スリーブ8を固定し、さらに軸受スリーブ8にシール部材9を固定することで組み立てることができる。
具体的には、まず図8に示すように、ハウジング7の第2内周面7a2に、例えば熱硬化性の接着剤20を塗布した状態で、外周面8dをハウジング7の第3内周面7a3でガイドしながら、軸受スリーブ8を第1内周面7a1の所定位置(スラスト軸受隙間を確保できる位置)まで挿入する。これにより、軸受スリーブ8が、ハウジング7の第1内周面7a1に圧入固定される。第3内周面7a3の内径寸法d3は第2内周面7a2の内径寸法d2よりも小径に形成されると共に軸受スリーブ8の外径寸法d4よりも大径に形成されており、また第2および第3内周面の半径寸法差が、塗布された接着剤20の高さよりも大きく設定されていることから、軸受スリーブ8の挿入に伴って、外周面8dや下側端面8bに接着剤20が付着し、接着剤20がハウジング7の底部7c側に回り込む事態を回避しつつ、軸受スリーブ8を圧入固定することができる。
次いで、上記の組立品に加熱処理を施す。加熱処理(ベーキング)することによって、ハウジング7の第2内周面7a2に塗布された接着剤20が一時的に軟化し、その一部が、毛細管力によってハウジング7の第1内周面7a2と軸受スリーブ8の外周面8dとの間に引き込まれる。そして、しばらく加熱状態を保持して接着剤20を固化させると、図4に示すように、第1内周面7a1の内径側でハウジング7と軸受スリーブ8とが圧入接着され、第2内周面7a2の内径側で、ハウジング7と軸受スリーブ8とが残存した接着剤20によって全周に亘って隙間接着される。
なお、図示は省略しているが、第1内周面7a1と軸受スリーブ8の外周面8dとの間に満遍なく接着剤20を行き渡らせ、両面間における固定強度を高めるために、加熱処理時に真空吸引等の手段を用い、ハウジング7の底部7c側へ接着剤20を引き込むこともできる。
また、軸受スリーブ8の外周面8dとハウジング7の第1内周面7a2との間の隙間は、軸受スリーブ8の外周面8dに設けられた軸方向溝8d1とハウジング7の内周面との間に形成される空間(貫通孔)に比べ十分に小さいので、仮に軸方向溝8d1に接着剤20が流れ込もうとしても、当該接着剤20には毛細管力が作用する。そのため、軸方向溝8d1が接着剤20で埋められることはない。
また、かかる態様でハウジング7と軸受スリーブ8とを固定する結果、第2内周面7a2と軸受スリーブ8の外周面8dとの間には十分量の接着剤20が残存せず、隙間接着部分での固定強度が不足する場合がある。かかる場合には、第2内周面7a2と軸受スリーブ8の外周面8dとの間に接着剤20を補充してもよい。この場合、充填する接着剤20は、上記同様熱硬化性接着剤の他、例えば嫌気性接着剤であってもよい。
以上の説明では、接着剤20として熱硬化性接着剤を用い、加熱処理することでハウジング7の第1内周面7a1と軸受スリーブ8の外周面8dとの間に接着剤20を導入する場合について説明を行ったが、接着剤20として例えば嫌気性接着剤を用い、真空吸引で両面間へ接着剤20を導入することもできる。
上記のようにしてハウジング7と軸受スリーブ8との組立が完了すると、シール部材9を接着、圧入、圧入接着等適宜の手段によって軸受スリーブ8の外周上端に固定する。シール部材9の組立が完了すると、シール部材9を構成する第1シール部9aの下側端面9a1は軸受スリーブ8の上側端面8cと当接し、第2シール部9bの下側端面は所定の軸方向隙間11を介してハウジング7の段差面7eと対向する。同時に、第1シール部9aの内周面9a2と軸部2aの外周面2a1との間に第1のシール空間S1が形成され、第2シール部9bの外周面9b1とハウジング7の大径部内周面7b1との間に第2のシール空間S2が形成される。その後、シール部材9で密封されたハウジング7の内部空間に、軸受スリーブ8の内部気孔を含め、潤滑油を充満させることにより、図2に示す流体軸受装置1が完成する。
軸部材2の回転時、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面となる上下2箇所の領域は、それぞれ、軸部2aの外周面2a1とラジアル軸受隙間を介して対向する。また、軸受スリーブ8の下側端面8bのスラスト軸受面となる領域は、フランジ部2bの上側端面2b1とスラスト軸受隙間を介して対向し、ハウジング7の内底面7c1のスラスト軸受面となる領域は、フランジ部2bの下側端面2b2とスラスト軸受隙間を介して対向する。そして、軸部材2の回転に伴い、上記ラジアル軸受隙間に潤滑油の動圧が発生し、軸部材2の軸部2aが上記ラジアル軸受隙間内に形成される潤滑油の油膜によってラジアル方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をラジアル方向に回転自在に非接触支持する第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とが構成される。同時に、上記スラスト軸受隙間に潤滑油の動圧が発生し、軸部材2が上記スラスト軸受隙間内に形成される潤滑油の油膜によってスラスト方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2を両スラスト方向に回転自在に非接触支持する第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2とが構成される。
また、軸部材2の回転時には、上述のように、第1および第2のシール空間S1、S2が、ハウジング7の内部側に向かって漸次縮小したテーパ形状を呈しているため、両シール空間S1、S2内の潤滑油は毛細管力による引き込み作用により、シール空間が狭くなる方向、すなわちハウジング7の内部側に向けて引き込まれる。これにより、ハウジング7の内部からの潤滑油の漏れ出しが効果的に防止される。また、シール空間S1、S2は、ハウジング7の内部空間に充填された潤滑油の温度変化に伴う容積変化量を吸収するバッファ機能を有し、想定される温度変化の範囲内では、潤滑油の油面は常にシール空間S1、S2内にある。
なお、第1シール部9aの内周面9a2を円筒面とする一方、これに対向する軸部2aの外周面をテーパ面状としてもよく、この場合、第1のシール空間S1には、さらに遠心力シールとしての機能も付与することができるのでシール効果が一層高まる。
また、上述したように、上側の動圧溝8a1は、軸方向中心mに対して軸方向非対称に形成されており、軸方向中心mより上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている(図3参照)。そのため、軸部材2の回転時、動圧溝8a1による潤滑油の引き込み力(ポンピング力)は上側領域が下側領域に比べて相対的に大きくなる。そして、この引き込み力の差圧によって、軸受スリーブ8の内周面8aと軸部2aの外周面2a1との間の隙間に満たされた潤滑油は下方に流動し、第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間→軸受スリーブ8の軸方向溝8d1によって形成される流体通路→第1シール部9aの径方向溝10によって形成される流体通路という経路を循環して、第1ラジアル軸受部R1のラジアル軸受隙間に再び引き込まれる。
このように、潤滑油がハウジング7の内部空間を流動循環するように構成することで、潤滑油の圧力バランスが保たれると同時に、局部的な負圧の発生に伴う気泡の生成、気泡の生成に起因する潤滑油の漏れや振動の発生等の問題を解消することができる。上記の循環経路には、第1のシール空間S1が連通し、さらに軸方向隙間11を介して第2のシール空間S2が連通しているので、何らかの理由で潤滑油中に気泡が混入した場合でも、気泡が潤滑油に伴って循環する際にシール空間S1、S2内の潤滑油の油面(気液界面)から外気に排出される。従って、気泡による悪影響はより一層効果的に防止される。
なお、図示は省略するが、軸方向の流体通路はハウジング7の内周面に軸方向溝を設けることによって形成することもでき、径方向の流体通路は軸受スリーブ8の上側端面8cに径方向溝を設けることによって形成することもできる。
以上に示す流体軸受装置1では、軸受スリーブ8とハウジング7との間に、両者が圧入接着された領域と隙間接着された領域とが軸方向に並べて設けられるので、両者を圧入あるいは接着のみで固定する場合に比べて両者の固定強度を高めることができ、ディスクの多積層化に対応することが可能となる。また、以上に述べた手法で両者を組み立てることにより、組立時に懸念されるハウジング底部側への接着剤の回り込みを防止して、回転性能へ悪影響が及ぶのを回避することができる。
また、本実施形態の流体軸受装置1では、シール部材9の内周側だけでなく、外周側にもシール空間が形成されている。シール空間は、ハウジング7の内部空間に充満された潤滑油の温度変化に伴う容積変化量を吸収しうる容積を有するものであり、従って本実施形態の構成であれば、第2のシール空間S2をシール部材9の外周側にも設けている分、第1のシール空間S1の軸方向寸法を図9に示す構成よりも小さくすることが可能である。そのため、例えば、軸受装置(ハウジング7)の軸方向寸法を長大化させることなく軸受スリーブ8の軸方向長さ、換言すると両ラジアル軸受部R1、R2間の軸受スパンを図9に示す構成よりも大きくすることができ、モーメント剛性を高めることができる。この点からも、ディスクの多積層化に対応することが可能となる。
その一方で、形状が複雑化するハウジング7を樹脂の射出成形品としているので、製造コストの高騰を抑制し、流体軸受装置1の低コスト化を図ることができる。また、ハウジング7を樹脂の射出成形品とすることで、ハウジング7の第1内周面7a1との固定領域における軸受スリーブ8の内周形状の悪化、換言するとラジアル方向における回転精度の悪化を回避することができる。
以上、本発明に係る流体軸受装置の一実施形態について説明を行ったが、ハウジングの開口部内周を異径とする本発明の構成を図9に示す構造の流体軸受装置70に適用することもできる。
また以上の説明では、ラジアル軸受部R1、R2およびスラスト軸受部T1、T2として、ヘリングボーン形状やスパイラル形状の動圧溝により潤滑油の動圧作用を発生させる構成を例示しているが、ラジアル軸受部R1、R2として、いわゆるステップ軸受、多円弧軸受、あるいは非真円軸受を、スラスト軸受部T1、T2として、いわゆるステップ軸受や波型軸受を採用しても良い。また、ラジアル軸受部をステップ軸受や多円弧軸受で構成する場合、ラジアル軸受部R1、R2のように、2つのラジアル軸受部を軸方向に離隔して設けた構成とする他、軸受スリーブ8の内周側の上下領域に亘って1つのラジアル軸受部を設けた構成としても良い。さらには、ラジアル軸受部R1,R2として動圧発生部を有しないいわゆる真円軸受を、またスラスト軸受部として、軸部材の一端を接触支持するピボット軸受を採用することもできる。
本願発明の有用性を実証するために確認試験を行った。確認試験は、ハウジング7に軸部材2を収容した状態で軸受スリーブ8を固定し、軸部材2の引き抜き強度(抜去力)を測定するものである。試験用のハウジングは、小径部7a、大径部7b、および底部7cを一体に有する図2に示す形態のものであり、実施例は小径部7aが図4に拡大して示す構成のもの、比較例は小径部7aの内周面全体をストレートな円筒面とし、その内周面に軸受スリーブを接着(隙間接着)したものである。なお、接着剤としては、両者とも同一の熱硬化性接着剤を用いた。
実施例では、約1000N程度の抜去力が得られたのに対し、比較例では約500N程度の抜去力しか得られなかった。従って、本発明の有用性が確認できる。
本発明に係る流体軸受装置を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの断面図である。 本発明に係る流体軸受装置の断面図である。 軸受スリーブの断面図である。 図2のX部の拡大断面図である。 ハウジングの射出成形工程を示す断面図である。 シール部材のA−A線(図7参照)での断面図である。 B方向(図6参照)から見たシール部材の平面図である。 軸受スリーブをハウジングに組み付ける際の要部拡大断面図である。 公知の流体軸受装置を示す断面図である。
符号の説明
1 流体軸受装置
2 軸部材
7 ハウジング
7a 小径部
7a1 第1内周面
7a2 第2内周面
7a3 第3内周面
7b 大径部
7c 底部
8 軸受スリーブ
9 シール部材
9a 第1シール部
9b 第2シール部
20 接着剤
d1 第1内周面の内径寸法
d2 第2内周面の内径寸法
d3 第3内周面の内径寸法
d4 軸受スリーブの外径寸法
R1、R2 ラジアル軸受部
T1、T2 スラスト軸受部
S1 第1のシール空間
S2 第2のシール空間

Claims (5)

  1. 軸方向の一端が開口した有底筒状のハウジングと、ハウジングの内周に固定された軸受スリーブと、軸受スリーブの内周に挿入された軸部材とを備え、軸受スリーブと軸部材の間のラジアル軸受隙間に形成される油膜で軸部材をラジアル方向に支持する流体軸受装置において、
    ハウジングが、軸受スリーブを圧入接着した第1内周面と、第1内周面よりも開口側に設けられ、軸受スリーブを隙間接着した第2内周面と、第2内周面よりも開口側に設けられ、第2内周面よりも小径でかつ軸受スリーブの外径よりも大径の第3内周面とを有し、
    ハウジングと軸受スリーブとの間に設けられ、両者を圧入接着してなる領域を、軸受スリーブをハウジングの内周に挿入する前に第2内周面に塗布した接着剤を、第1内周面と、第1内周面に圧入された軸受スリーブの外周面との間に導入して固化させることで形成し
    ハウジングと軸受スリーブとの間に設けられ、両者を隙間接着してなる領域を、前記接着剤を軸受スリーブが第1内周面に圧入された後に固化させることで形成したことを特徴とする流体軸受装置。
  2. ハウジングが、樹脂の射出成形品である請求項1に記載の流体軸受装置。
  3. さらに、ハウジングの開口部をシールするシール部材を備え、
    シール部材の内周側に第1のシール空間が形成され、シール部材の外周側に第2のシール空間が形成された請求項1又は2に記載の流体軸受装置。
  4. 軸方向の一端が開口した有底筒状のハウジングと、ハウジングの内周に固定された軸受スリーブと、軸受スリーブの内周に挿入された軸部材とを備え、軸受スリーブと軸部材の間のラジアル軸受隙間に形成される油膜で軸部材をラジアル方向に支持する流体軸受装置の製造方法であって、
    ハウジングに、軸受スリーブの外径よりも小径の第1内周面と、第1内周面よりも開口側に位置し、軸受スリーブの外径よりも大径の第2内周面と、第2内周面よりも開口側に位置し、第2内周面よりも小径でかつ軸受スリーブの外径よりも大径の第3内周面とを設け、
    第2内周面に予め接着剤を塗布した状態で軸受スリーブを第1内周面の内径側に配置し、その後、第2内周面に予め塗布した接着剤を軸受スリーブの外周面と第1内周面との間に導入すると共に、この導入した接着剤を固化させる工程を含むことを特徴とする流体軸受装置の製造方法。
  5. 第3内周面を、第2内周面との半径寸法差が、第2内周面に予め塗布する接着剤高さよりも大きくなるような内径寸法に設定した請求項4に記載の流体軸受装置の製造方法。
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