JP5490396B2 - 流体軸受装置 - Google Patents

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Description

本発明は流体軸受装置に関し、特に固定側を構成するシール部材とハウジングとの間にシール空間を設けた流体軸受装置に関する。
流体軸受装置は、軸受隙間に生じる流体の膜を介して軸部材あるいは軸受部材を相対回転自在に支持するものである。この種の軸受装置は、特に高速回転時における回転精度、静粛性等に優れており、情報機器をはじめ種々の電気機器に搭載されるモータ用の軸受装置として好適に使用される。具体的には、HDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置等におけるスピンドルモータ用の軸受装置として、あるいはレーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、プロジェクタのカラーホイールモータ、ファンモータなどのモータ用軸受装置として好適に使用される。
通常、流体軸受装置においては、軸部材が軸受スリーブの内周に挿入され、軸部材の外周面と軸受スリーブの内周面との間にラジアル軸受隙間が形成される。また、この種の流体軸受装置において、通常、軸受スリーブはハウジングの内周の所定位置に固定され、当該軸受装置の内部空間に注油した潤滑油が外部に漏れ出すのを防止するために、ハウジングの開口部にシール部材が配設される。
また、近年、HDD等の薄型化の要請に応えるべく、例えば下記特許文献1には、シール部材を軸受スリーブの外径側に配し、これにより、ハウジングの内周面との間にシール空間を形成した流体軸受装置が提案されている。また、下記特許文献1には、流体軸受装置の下方に突出するシール部材の円筒部を軸受スリーブの外周面に圧入あるいは接着することで、シール部材を軸受スリーブに固定する方法が開示されている。
特開2006−81270号公報
また、最近では、上記薄型化の要請と共に、HDDの高容量化に伴う対策が求められており、具体的には、ディスク搭載枚数の増加に伴う抜け強度向上のための対策が求められている。この点、上記特許文献1に開示の流体軸受装置では、シール部材の円筒部が軸受スリーブの外周面上部に固定されるため、当該固定面を除く軸受スリーブの外周面の一部のみがハウジングに固定されることになる。これでは、流体軸受装置の軸方向寸法を維持する以上、軸受スリーブをその軸方向全長にわたって固定する場合と比べてハウジングに対する軸受スリーブの固定力が低下し、抜け強度不足が懸念される。以上に述べた問題は、もちろんHDDに限らず、小型化が求められる携帯型機器などに搭載される流体軸受装置についても同様に起こり得る。
以上の事情に鑑み、薄型化を図りつつも高い抜け強度を有する流体軸受装置を提供することを、本発明により解決すべき技術的課題とする。
本発明は、前記課題の解決を図るためになされたものである。すなわち、本発明に係る流体軸受装置は、ハウジングと、ハウジングに固定される軸受スリーブと、軸受スリーブの内周に挿通され、軸受スリーブとの間にラジアル軸受隙間を形成する軸部材と、軸受スリーブと軸方向に当接し、ハウジングとの間に潤滑流体の液面を有するシール空間を形成するシール部材とを備えた流体軸受装置において、ハウジングの内周面は、シール部材との間にシール空間を形成するシール形成面と、シール形成面の軸方向中央側に配設され、シール部材の外周面を固定するシール固定面とを有し、ハウジングのシール固定面とシール部材の外周面との固定領域が圧入により形成され、かつこの固定領域がシール空間の軸方向中央側に設けられ、ラジアル軸受隙間との間で潤滑流体の流通を可能とする流路がハウジングと軸受スリーブとの間に形成され、この流路とシール空間とを連通するための連通手段がハウジングとシール部材との間に設けられ、連通手段は、相互に固定されるハウジングのシール固定面とシール部材の外周面の少なくとも一方に設けられた連通溝形成されており、この連通は、円周方向に隣接するハウジングとシール部材との固定領域に向けて先細りする空間形状を有する点をもって特徴づけられる。
この構成によれば、シール部材が軸受スリーブだけでなくハウジングに対しても固定されることになるため、このハウジングとの固定領域を設けることで、軸受スリーブとハウジングとの固定力の不足分を補うことができる。また、シール部材が軸受スリーブに固定されていない場合でも、シール部材と軸受スリーブとが軸部材の抜け方向で当接するように構成されているので、同様に軸受スリーブとハウジングとの固定力の不足分を補うことができる。従って、ハウジングに対する軸受スリーブの固定力自体を高めずとも、軸部材の抜け強度向上を図ることができる。また、ハウジングの内周にシール部材を固定するのであれば、軸受スリーブの外周面にシール部材を固定する場合と比べてその固定領域を外径側に配置することができるので、固定面積を増やして固定力の向上を図ることができる。なお、シール空間の大気開放側でシール部材をハウジングに固定する手段も考えられるが、その場合には、シール空間の軸方向外側あるいはハウジングの外周側に別途固定領域を設ける必要が生じるが、本発明では、ハウジングの内周にシール部材を固定するようにしたので、上記スペースの問題も生じない。また、上記固定領域がシール空間の大気開放側を塞ぐこともない。
ここで、ハウジングとシール部材との固定領域は、例えば圧入により形成されていてもよく、接着により形成されていてもよい。あるいは、圧入と接着との併用により形成されていてもよい。例えばハウジングの内周面とシール部材の外周面とでハウジングとシール部材との固定領域が形成される場合など、固定領域が軸受外部に対して閉じている場合に有効な固定手段である。もちろん、固定領域の形成には、上記手段に限らず、その他の公知の固定手段を採用することができる。
また、ハウジングの内周面にシール部材を固定し、さらに、ハウジングの内周に設けた端面にシール部材を固定するようにしてもよい。この構成によれば、ハウジングの内周面とシール部材の外周面とで第1の固定領域が形成されると共に、ハウジングの内周に設けた端面とシール部材の端面とで第2の固定領域が形成される。そのため、既述のハウジング内周面とシール部材の外周面との第1の固定領域による補強効果を、端面間に設けた第2の固定領域でさらに高めることができる。
また、シール空間による潤滑流体のシール機能もしくはバッファ機能を確保する目的から、シール空間と軸受内部空間とは何らかの手段で連通している必要があり、例えば、ラジアル軸受隙間との間で潤滑流体の流通を可能とする流路がハウジングと軸受スリーブとの間に形成され、この流路とシール空間とを連通するための連通手段がハウジングとシール部材との間に設けることができる。
この場合、例えば相互に固定されるハウジングの内周面とシール部材の外周面の少なくとも一方に連通溝が設けられ、この連通溝で連通手段が形成されていてもよい。あるいは、相互に固定されるハウジングの端面とシール部材の端面の少なくとも一方に連通溝が設けられ、この連通溝で連通手段が形成されていてもよい。特に、ハウジングとシール部材との固定領域がシール空間の下端に設けられる場合には、シール容積を減少させずに済む。また、シール空間内に維持される潤滑流体の液面(気液界面)から連通溝をできるだけ離して形成することができるので、外気の巻き込み等を極力避けることができる。
また、この際、連通溝で形成される連通手段は、例えば円周方向に隣接するハウジングとシール部材との固定領域に向けて先細りする空間形状を有するものであってもよい。これは、特にシール部材の固定領域を接着により形成している場合に有効であり、その場合、円周方向に隣接する固定領域へ接着剤が引き込まれやすくなる。そのため、連通溝への接着剤の回り込みを可及的に防止し、かつ、確実に固定領域に接着剤を供給することが可能となる。
以上のように、本発明によれば、薄型化を図りつつも高い抜け強度を有する流体軸受装置を提供することができる。
以下、本発明の第1実施形態を図1〜図6に基づき説明する。なお、以下の説明における『上下』方向は、単に各図における構成要素間の位置関係を容易に理解するために規定したものに過ぎず、流体軸受装置(動圧軸受装置)の設置方向や使用態様、製造方法等を特定するものではない。後述する第2実施形態以降に関しても同様である。
図1は、本発明の第1実施形態に係るスピンドルモータの縦断面図を示す。このスピンドルモータは、例えばHDDのディスク駆動用モータとして用いられるもので、ハブ3を取り付けた軸部材2を回転支持する動圧軸受装置1と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5と、ブラケット6とを備えている。ステータコイル4はブラケット6に固定され、ロータマグネット5はハブ3に固定される。動圧軸受装置1のハウジング7は、ブラケット6の内周に固定される。また、同図に示すように、ハブ3には1又は複数枚のディスクD(図1では2枚)が保持される。このように構成されたスピンドルモータにおいて、ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間に発生する励磁力でロータマグネット5が回転し、これに伴って、ハブ3に保持されたディスクDが軸部材2と一体に回転する。
図2は、動圧軸受装置1の縦断面図を示している。この動圧軸受装置1は、軸部材2と、ハウジング7と、ハウジング7に固定され、内周に軸部材2を配設した軸受スリーブ8と、ハウジング7の一端開口側に配設されるシール部材9とを備える。
軸部材2は、軸部2aと、軸部2aの下端に一体又は別体に設けられたフランジ部2bとで構成される。軸部2aの外周には、後述する軸受スリーブ8の内周面8aに設けられた動圧溝8a1,8a2配列領域とラジアル方向に対向するラジアル軸受面2a1が形成されている。この実施形態では、ラジアル軸受面2a1は軸方向に離隔して2ヶ所に設けられており、軸部2aを軸受スリーブ8の内周に挿通した状態では、ラジアル軸受面2a1,2a1と内周面8aとの間に後述するラジアル軸受部R1,R2のラジアル軸受隙間を形成する(図2を参照)。上記構造の軸部材2は、種々の金属材料で形成可能であり、例えば、強度や剛性、耐摩耗性等を考慮してステンレス鋼などの鉄鋼材料で形成される。
軸受スリーブ8は多孔質構造を有する円筒体であり、例えば銅を主成分とする焼結金属で形成される。軸受スリーブ8は、樹脂やセラミック等の非金属材料からなる多孔質体で形成することもできる。また、多孔質体以外にも、内部空孔を持たない、もしくは、潤滑油の出入りができない程度の大きさの空孔を有する構造体で形成することもできる。
軸受スリーブ8の内周面8aの全面又は一部には、ラジアル動圧発生部として複数の動圧溝を配列した領域が形成される。この実施形態では、例えば図3に示すように、互いに傾斜角の異なる複数の動圧溝8a1,8a2をヘリングボーン形状に配列した領域が、軸方向に離隔して2ヶ所に形成される。また、この実施形態では、軸受内部における潤滑油の循環を意図的に作り出す目的で、一方側(ここでは上側)の動圧溝8a1,8a2配列領域を軸方向非対称に形成している。図3に例示の形態で説明すると、軸方向に隣接する動圧溝8a1,8a2間の領域(いわゆる帯部)の軸方向中心より上側(シール部材9の側)の動圧溝8a1配列領域の軸方向寸法X1が、下側の動圧溝8a2配列領域の軸方向寸法X2よりも大きくなるように形成されている。
軸受スリーブ8の下端面8bの全面または一部の領域には、図示は省略するが、スラスト動圧発生部として、複数の動圧溝をスパイラル形状に配列した領域が形成される。この動圧溝配列領域は、完成品の状態ではフランジ部2bの上端面2b1と対向し、軸部材2の回転時、上端面2b1との間に後述する第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間を形成する(図2を参照)。また、軸受スリーブ8の上端面8cはシール部材9の円盤部9aと当接し、この円盤部9aにより閉塞されている。
軸受スリーブ8の外周面8dには、軸方向に伸びる複数の軸方向溝8d1が形成される。この実施形態では、図3に示すように、3本の軸方向溝8d1が円周方向で等間隔となるように形成されている。これら軸方向溝8d1は、動圧軸受装置1が完成した状態では、軸受内部空間に含浸させた潤滑油の流通を図るための循環経路の一部を構成する。
ハウジング7は、例えば真ちゅう等の金属材料や樹脂材料で筒状に形成される。ここでは、ハウジング7は、筒部7aと、筒部7aの軸方向他端を閉塞する底板部7bとを一体に有した形状をなす。筒部7aの内周には、軸受スリーブ8の外周面8dを固定するスリーブ固定面7cと、一端開口側に向けてテーパ状に拡径し、後述するシール部材9の外周面9b1との間にシール空間S1を形成するシール形成面7dと、外周面9b1のうちシール空間S1の形成に関与しない領域を固定するシール固定面7eとが形成されている。スリーブ固定面7cとシール固定面7e、および、シール固定面7eとシール形成面7dはそれぞれ段差を介してつながっており、このうち、スリーブ固定面7cとシール固定面7eとの間に形成される段差面7fはシール部材9の円筒部9bの下端面9b3と所定の軸方向隙間を介して対向している。そのため、ハウジング7は、スリーブ固定面7c、シール固定面7e、そしてシール形成面7dと一端開口側に向かうにつれてその内周面を外径側に移行した形態をなしている。
底板部7bの上端面7b1の全面又は一部には、図示は省略するが、例えば軸受スリーブ8の下端面8bと同様の配列態様(スパイラルの方向は逆)をなす動圧溝配列領域が形成される。この動圧溝配列領域(スラスト動圧発生部)は、完成品の状態ではフランジ部2bの下端面2b2と対向し、軸部材2の回転時、下端面2b2との間に後述する第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間を形成する(図2を参照)。
スリーブ固定面7cと軸受スリーブ8の外周面8dとの固定手段は特に限定されないが、例えば接着(軽圧入を伴った接着、いわゆる圧入接着を含む)、圧入、溶着(超音波溶着やレーザ溶着を含む)など適宜の固定手段を採用することができる。この実施形態では、軸受スリーブ8の固定と同時に、フランジ部2bとハウジング7の底板部7bとの間、および、軸受スリーブ8との間でそれぞれスラスト軸受隙間を設定する必要があることから、圧入接着などが好適に使用される。
シール部材9は、中央に孔を有する円盤部9aと、円盤部9aの一方の端面(下端面9a1)から軸方向に突出した円筒部9bとで一体に形成される。この実施形態では、円盤部9aの内周面9a2は上方を拡径させたテーパ面状に形成されている。また、下端面9a1には、軸受スリーブ8の上端面8cとの間で潤滑油の流通を図るための1又は複数の半径方向溝9cが形成されている。
円筒部9bの外周面9b1および内周面9b2は何れも円筒面状に形成されている。そのため、図2に示すように、シール部材9をハウジング7内の所定の位置に配設した状態では、外周面9b1と、この外周面9b1に対向するハウジング7のシール形成面7dとの間に第1シール空間S1が形成される。この場合、潤滑油の油面は、潤滑油を動圧軸受装置1の内部空間(図2中、散点模様で示す領域)に充填した状態では、常に第1シール空間S1内に維持される。
また、第1シール空間S1の形成と共に、外周面9b1のうち第1シール空間S1の形成に関らない領域(主に下方の領域)は、図5に拡大して示すように、半径方向に対向するハウジング7のシール固定面7eに所定の手段によって固定される。よって、第1シール空間S1の下端にハウジング7とシール部材9との固定領域(シール固定領域11)が形成される。また、ここでは、ハウジング7と軸受スリーブ8との固定領域(スリーブ固定領域10)よりも外径側にシール固定領域11が形成される。
また、この実施形態では、外周面9b1の下方領域には、軸方向に伸びる複数本の連通溝9dが円周方向等間隔に形成されている。そのため、シール部材9をハウジング7内部の所定位置に固定した状態では、例えば図4に示すように、シール固定領域11と、連通溝9dとシール固定面7eとの間に形成される潤滑油の流路(連通手段)とが、円周方向に交互に配列された形態をなす。
また、この実施形態では、円筒部9bの内周面9b2は軸受スリーブ8の外周面8dに嵌合され、かつ、固定されている。これにより、シール部材9と軸受スリーブ8との固定領域12が全周にわたって形成され、シール部材9はハウジング7と軸受スリーブ8の双方に固定される。なお、シール部材9とハウジング7、および、シール部材9と軸受スリーブ8との固定手段としては種々の公知手段を採用することができ、例えば圧入や接着、圧入接着、溶着などが採用可能である。
なお、例えば接着もしくは圧入と接着の併用によりシール部材9をハウジング7に固定した場合、図6(a)に例示の如く、シール固定領域11から溢れ出た接着剤Ahが円周方向に隣接する連通溝9d内部に侵入することが考えられる。この際、例えば図6(b)に示すように、連通溝9dの両側面9d1,9d1をそれぞれシール固定面7eに対して傾斜させた構成とすることで、言い換えると、連通溝9dで形成される連通手段としての流路が、円周方向に隣接するシール固定領域11に向けて先細りする空間形状を有するように連通溝9dの形状を設定することで、側面9d1とシール固定面7eとの間の楔状空間に引き込み力が作用し、接着剤Ahの流路側への回り込みが可及的に防止される。この構成によれば、より多くの接着剤Ahを外周面9b1あるいはシール固定面7eに供給することができるので、シール部材9をより強固かつ安定的にハウジング7に固定することが可能となる。
また、この実施形態では、テーパ形状をなす円盤部9aの内周面9a2と、軸部2aの上部外周面との間には第2シール空間S2が形成される。そのため、上側のラジアル軸受隙間から軸部2aの外周面を伝って外部に漏れ出そうとする潤滑油は第2シール空間S2により保持される。もちろん、第2シール空間S2はオイルバッファとしても機能する。
なお、シール部材9の材質は特に問わず、多孔質材のように油漏れが生じるおそれのある材料でない限り、種々の金属材料もしくは樹脂材料等を使用することができる。あるいは、多孔質材であっても、外気と接触する表面(例えば円盤部9aの他方の端面)をコーティング等により封孔しておくことで、シール部材9として使用することができる。
上述の構成部品のうち、まずハウジング7に軸受スリーブ8を固定し、然る後、シール部材9をハウジング7と軸受スリーブ8の双方に固定する。そして、何れかのシール空間S1,S2を介して軸受内部空間(各図中、散点模様で示す領域)に潤滑油を充填することで、完成品としての動圧軸受装置1を得る。動圧軸受装置1の内部に充満される潤滑油としては、種々の油が使用可能であるが、HDD等のディスク駆動装置用の動圧軸受装置に提供される潤滑油には、その使用時あるいは輸送時における温度変化を考慮して、低蒸発率及び低粘度性に優れたエステル系潤滑油、例えばジオクチルセバケート(DOS)、ジオクチルアゼレート(DOZ)等が好適に使用可能である。
上記構成の動圧軸受装置1において、軸部材2の回転時、軸受スリーブ8の双方の動圧溝8a1,8a2配列領域は、軸部2aのラジアル軸受面2a1,2a1とラジアル軸受隙間を介して対向する。そして、軸部材2の回転に伴い、上下何れの動圧溝8a1,8a2配列領域においても潤滑油が動圧溝8a1,8a2の軸方向中心に向けて押し込まれ、その圧力が上昇する。このような動圧溝8a1,8a2の動圧作用によって、軸部材2を回転自在にラジアル方向に非接触支持する第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とがそれぞれ軸方向に離隔して2ヶ所に構成される。
これと同時に、軸受スリーブ8の下端面8bに設けた動圧溝配列領域とこれに対向するフランジ部2bの上端面2b1との間のスラスト軸受隙間、およびハウジング7の底板部7bの上端面7b1に設けた動圧溝配列領域とこれに対向するフランジ部2bの下端面2b2との間のスラスト軸受隙間に、動圧溝の動圧作用により潤滑油の油膜がそれぞれ形成される。そして、これら油膜の圧力によって、軸部材2をスラスト方向に非接触支持する第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2とがそれぞれ構成される。
この場合、軸部材2の抜け強度は、軸受スリーブ8のハウジング7に対する固定力だけでなく、シール部材9のハウジング7に対する固定力も加味した上で定まる。そのため、この動圧軸受装置1は、ハウジング7に軸受スリーブ8のみを固定した場合と比べて高い抜け強度を有する。また、この実施形態のように、シール部材9の外周面9b1とハウジング7の内周面(シール固定面7e)とでシール固定領域11が形成される場合、軸部材2の抜け方向から鑑みて、固定領域11にはせん断力が作用することから、上記例示の如く接着が有効である。
また、軸受スリーブ8の内周面8aに設けた上側の動圧溝8a1,8a2配列領域は、その帯部の軸方向中心に対して軸方向非対称に形成されており、軸方向中心より上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きい。そのため、軸部材2の回転時、上側領域における潤滑油の引き込み力(ポンピング力)は下側領域におけるそれに比べて相対的に大きくなる。そして、この引き込み力の差によって、ラジアル軸受隙間に満たされた潤滑油は、第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間からその外径側に開口する軸受スリーブ8の軸方向溝8d1、そして、シール部材9の下端面9a1の半径方向溝9cという経路を循環して、第1ラジアル軸受部R1のラジアル軸受隙間に再び引き込まれる。
また、第1シール空間S1はその下方でシール部材9の連通溝9dとつながっており、かつ、この連通溝9dはその下端でシール部材9の下端面9b3とハウジング7の段差面7fとの軸方向隙間に連通している。そのため、軸受スリーブ8外周に設けた軸方向溝8d1を流れる潤滑油は、下端面9b3と段差面7fとの隙間、さらに、この隙間と外径側で連通する連通溝9dを介して第1シール空間S1との間で流通できるようになっている。同様に、シール部材9の内径側に形成される第2シール空間S2はその下方で第1ラジアル軸受部R1のラジアル軸受隙間とつながっており、上記循環経路との間で潤滑油の流通が可能となっている。
このように、潤滑油がラジアル軸受隙間を含む軸受内部空間を流動循環するように構成することで、当該内部空間内の潤滑油の圧力が局部的に負圧になる現象を防止して、負圧発生に伴う気泡の生成、気泡の生成に起因する潤滑油の漏れや軸受性能の劣化、振動の発生等の問題を解消することができる。また、何らかの理由で潤滑油中に気泡が混入した場合、気泡が潤滑油に伴って上記循環経路内を循環する際に第1シール空間S1ないし第2シール空間S2内の潤滑油の油面(気液界面)から外気に排出されるので、気泡による悪影響が効果的に防止される。
以上、本発明の第1実施形態を説明したが、本発明に係る流体軸受装置は、この実施形態に限定されることなく、本発明の範囲内において任意に構成の変更が可能である。
例えば、第1実施形態では、シール部材9の外周面9b1とハウジング7の内周面の一部をなすシール固定面7eとでシール固定領域11が形成される場合を説明したが、特にこの形態に限定されるものではない。ラジアル軸受隙間よりも外径側でハウジング7との間に形成される静止側の第1シール空間S1の内周に設けられる限りにおいて、当該固定領域の形態は任意である。
ここで、図7は、他の実施形態(第2実施形態)に係る動圧軸受装置1の要部拡大断面図を示している。同図に係る動圧軸受装置1においては、既述のシール固定領域11(以降、第1のシール固定領域11と称する。)に加えて、軸方向に当接する面間に第2のシール固定領域13が形成されている。すなわち、シール部材9の円筒部9bの下端面9b3と、この面と軸方向に対向するハウジング7の段差面7fとが当接しており、かつ、双方の面9b3,7fが接着等により固定されることで、当該双方の面9b3,7f間にシール部材9の第2の固定領域13が形成されている。このようにシール固定領域13を増やすことでシール部材9とハウジング7との固定面積が増加し抜け強度のさらなる向上が図られる。また、第2シール固定領域13の形成手段に接着を採用する場合、シール部材9の下端面9b3と、軸方向に対峙するハウジング7の段差面7fとがつき合わせ接着により固定されることになる。そのため、接着固定部のいわゆるピール破壊を避けて、接着による高い固定力を得ることができる。
また、この実施形態では、シール部材9の下端面9b3と当接して固定されるハウジング7の段差面7fに半径方向の連通溝7gが設けられており、シール部材9に設けられた軸方向の連通溝9dとその下端で連通している。これにより、軸受スリーブ8の軸方向溝8d1内を流れる潤滑油は、半径方向の連通溝7g、さらには軸方向の連通溝9dを介して第1シール空間S1との間で流通できるようになっている。
また、第1シール空間S1とラジアル軸受隙間を含む軸受内部空間との間の潤滑油の流通手段に関し、上記実施形態(第1,第2実施形態)では、例えばシール部材9の外周面9b1に設けた軸方向の連通溝9dで、あるいは、この連通溝9dとハウジング7の段差面7fに設けた半径方向の連通溝7gで潤滑油の連通手段を構成した場合を説明したが、これらは例示に過ぎず、任意の形態および配置態様が採用可能である。第1のシール固定領域11ないし第2のシール固定領域13を構成する少なくとも一方の面に連通溝が形成されていればよく、例えば軸方向の連通溝9dをハウジング7のシール固定面7eの側に設けることもでき、あるいは、半径方向の連通溝7gをシール部材9の下端面9b3の側に設けることもできる。もちろん、上記構成に限らず、例えば各シール固定領域11,13から離れた位置に連通手段を設けることも可能である。
図8はその一例(第3実施形態)を示すもので、同図に係る動圧軸受装置1は、シール部材9の外周面9b1とハウジング7のシール固定面7eとで第1のシール固定領域11が形成されると共に、シール部材9の下端面9b3とハウジング7の段差面7fとで第2のシール固定領域13が形成されている。そして、シール部材9の円筒部9bには、半径方向に円筒部9bを貫通する1又は複数の貫通孔14が形成されており、その外径側の端部が第1シール空間S1に、内径側の端部が上記循環経路を構成する軸受スリーブ8の軸方向溝8d1に連通している。この場合、貫通孔14が連通手段として機能し、第1シール空間S1とラジアル軸受隙間を含む軸受内部空間との間で潤滑油の流通を可能としている。なお、上記構成を採る場合、貫通孔14と軸方向溝8d1との円周方向の位置合せが必要となるため、ハウジング7と軸受スリーブ8の少なくとも一方に位置決め手段を設けてもよい。また、貫通孔14を円周方向に所定の幅を有する長穴形状とすることで、上記位置合せを省略することも可能である。あるいは、シール部材9の内周面9b2と軸受スリーブ8の外周面8dとの間に潤滑油が流通可能な程度の隙間を設けるようにしても構わない。
また、以上の説明では、ラジアル軸受部R1,R2およびスラスト軸受部T1,T2として、へリングボーン形状やスパイラル形状の動圧溝により潤滑油の動圧作用を発生させる構成を例示しているが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、ラジアル軸受部R1,R2として、図示は省略するが、軸方向の溝を円周方向の複数箇所に形成した、いわゆるステップ状の動圧発生部、あるいは、円周方向に複数の円弧面を配列し、対向する軸部材2の外周面との間に、くさび状の半径方向隙間(軸受隙間)を形成した、いわゆる多円弧軸受を採用してもよい。
あるいは、軸受スリーブ8の内周面8aを、ラジアル動圧発生部としての動圧溝や円弧面等を設けない真円状内周面とし、この内周面と対向する軸部材2の真円状の外周面(ラジアル軸受面2a1)とで、いわゆる真円軸受を構成することができる。
また、スラスト軸受部T1,T2の一方又は双方は、同じく図示は省略するが、スラスト軸受面となる領域に、複数の半径方向溝形状の動圧溝を円周方向所定間隔に設けた、いわゆるステップ軸受、あるいは波型軸受(端面が調和波形などの波型になったもの)等で構成することもできる。あるいは、動圧発生部を設けず、軸部材2の端面とハウジング7の対向する端面(上端面7b1)とが点状あるいは部分球面状に接触した状態で軸部材2が支持される形態の軸受、いわゆるピボット軸受で上記スラスト軸受部T2を構成することもできる。
また、以上の説明では、ラジアル動圧発生部やスラスト動圧発生部を共に固定側(ハウジング7、軸受スリーブ8)に設けた場合を説明したが、これらの配置態様は任意である。すなわち、ラジアル動圧発生部を軸部材2の外周面(ラジアル軸受面2a1,2a1)の側に設けることも可能であり、また、スラスト動圧発生部を軸部材2のフランジ部2bの両端面2b1,2b2の少なくとも一方に設けることも可能である。
また、以上の実施形態では、動圧軸受装置1の内部に充満し、ラジアル軸受隙間やスラスト軸受隙間に流体膜を形成するための流体として潤滑油を例示したが、これ以外にも流体膜を形成可能な流体、例えば気体や、磁性流体等の流動性を有する潤滑剤、あるいは潤滑グリース等を使用することもできる。
本発明の第1実施形態に係る動圧軸受装置を備えたスピンドルモータの断面図である。 第1実施形態に係る動圧軸受装置の縦断面図である。 軸受スリーブの断面図である。 図2に示す動圧軸受装置のA−A断面図である。 図2に示す動圧軸受装置の領域Bの拡大断面図である。 図4に示す動圧軸受装置の領域Cの拡大断面図であり、(a)は連通溝の断面形状の一例を、(b)は連通溝の断面形状の他の例をそれぞれ示す断面図である。 第2実施形態に係る動圧軸受装置の要部拡大断面図である。 第3実施形態に係る動圧軸受装置の要部拡大断面図である。
符号の説明
1 動圧軸受装置
2 軸部材
2a 軸部
2b フランジ部
3 ハブ
7 ハウジング
7c スリーブ固定面
7d シール形成面
7e シール固定面
7f 段差面
7g 連通溝
8 軸受スリーブ
8a1,8a2 動圧溝
8d1 軸方向溝
9 シール部材
9b 円筒部
9b1 外周面
9b3 下端面
9c 半径方向溝
9d 連通溝
9d1 側面
10 ハウジングと軸受スリーブとの固定領域
11,13 シール固定領域(シール部材とハウジングとの固定領域)
12 軸受スリーブとシール部材との固定領域
14 貫通孔
Ah 接着剤
S1,S2 シール空間
R1,R2 ラジアル軸受部
T1,T2 スラスト軸受部

Claims (5)

  1. ハウジングと、ハウジングに固定される軸受スリーブと、軸受スリーブの内周に挿通され、軸受スリーブとの間にラジアル軸受隙間を形成する軸部材と、軸受スリーブと軸方向に当接し、ハウジングとの間に潤滑流体の液面を有するシール空間を形成するシール部材とを備えた流体軸受装置において、
    ハウジングの内周面は、シール部材との間にシール空間を形成するシール形成面と、シール形成面の軸方向中央側に配設され、シール部材の外周面を固定するシール固定面とを有し、
    ハウジングのシール固定面とシール部材の外周面との固定領域が圧入により形成され、かつこの固定領域がシール空間の軸方向中央側に設けられ、
    ラジアル軸受隙間との間で潤滑流体の流通を可能とする流路がハウジングと軸受スリーブとの間に形成され、この流路とシール空間とを連通するための連通手段がハウジングとシール部材との間に設けられ、
    連通手段は、相互に固定されるハウジングのシール固定面とシール部材の外周面の少なくとも一方に設けられた連通溝形成されており、この連通は、円周方向に隣接するハウジングとシール部材との固定領域に向けて先細りする空間形状を有することを特徴とする請求項に記載の流体軸受装置。
  2. さらに、シール部材の内周面が軸受スリーブの外周面に固定されている請求項1に記載の流体軸受装置。
  3. ハウジングのシール固定面とシール部材の外周面との固定領域が圧入と接着の併用により形成されている請求項1に記載の流体軸受装置。
  4. ハウジングのシール固定面にシール部材の外周面を固定し、さらに、ハウジングの内周に設けた端面にシール部材の端面を固定した請求項1に記載の流体軸受装置。
  5. 相互に固定されるハウジングの端面とシール部材の端面の少なくとも一方に連通溝が設けられ、この連通溝で連通手段が形成されている請求項に記載の流体軸受装置。
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