以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る流体動圧軸受装置1を組込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2を回転自在に支持する流体動圧軸受装置1と、軸部材2の上端部に固定されたディスクハブ3と、ギャップ(図示例では半径方向のギャップ)を介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5と、アルミ合金等の金属材料からなるベース部材6とを備えている。ステータコイル4はベース部材6の外周に取り付けられ、ロータマグネット5はディスクハブ3の内周に取り付けられている。流体動圧軸受装置1は、ベース部材6の内周に固定される。ディスクハブ3には、情報記録媒体としてのディスクDが1枚又は複数枚(図1では2枚)保持され、図示しないクランプ装置で固定される。ステータコイル4に通電すると、ロータマグネット5が回転し、これに伴って、ディスクハブ3およびディスクハブ3に保持されたディスクDが軸部材2と一体に回転する。
図2に示す流体動圧軸受装置1は、軸部材2と、内周に軸部材2を挿入した軸受スリーブ8と、軸受スリーブ8を収容し、軸方向両端を開口したハウジング9と、軸受スリーブ8の軸方向一端側(図示例では下端側)の開口部を閉塞する蓋部材10とを有する。本実施形態では、ハウジング9が、両端を開口した外方部材となる。尚、以下では、説明の便宜上、軸方向において、蓋部材で閉塞された側を下側、その反対側を上側と言うものとする。
軸部材2は、軸部2aと、フランジ部2bとを有する。軸部2aおよびフランジ部2bは耐摩耗性に富む金属材料、例えばステンレス鋼で形成される。軸部2aの下端には、小径部2a1が形成されており、この小径部2a1を穴あき円盤状のフランジ部2bの内周に嵌合固定することで、軸部材2が形成される。軸部2aとフランジ部2bの固定方法は任意であり、圧入や接着等を採用することができる。また、図9(a)に示すように、フランジ部2bを、軸部2aの外径寸法Daよりも小径の内径寸法Dbを有する穴あき円盤状に形成し(Db<Da)、両者を突き合わせて、フランジ部2bの内周面と軸部2bの端面とで形成される隅部Wを溶接(例えばレーザ溶接)してもよい。軸部材2として、軸部2aとフランジ部2bを鍛造等で一体成形したものを使用することもできる。
図3に示すように、軸受スリーブ8は、多孔質体、例えば銅もしくは鉄の何れか一方又は双方を主成分とする焼結金属で円筒状に形成される。この他、軸受スリーブ8を他の金属や樹脂、あるいはセラミック等で形成することも可能である。軸受スリーブ8の内周面8a及び外周面8dは、共に軸方向で径方向寸法を一定とした円筒面状に形成される。また、軸受スリーブ8の軸方向両端の内径端および外径端には、それぞれチャンファ8ei、8eo、8fi、8foが形成される。
軸受スリーブ8の内周面8aの軸方向一部領域には、ラジアル軸受隙間の流体膜(油膜)に動圧作用を発生させるためのラジアル動圧発生部が形成される。本実施形態では図3に示すように、ヘリングボーン形状の動圧溝8a1、8a2およびクロスハッチングを付した丘部からなるラジアル動圧発生部が軸方向に離隔した二箇所に形成される。上側のラジアル動圧発生部では、動圧溝8a1が軸方向非対称形状に形成され、具体的には、丘部の軸方向略中央部に形成された帯状の圧力発生部nに対して、上側の溝の軸方向寸法X1が下側の溝の軸方向寸法X2よりも大きくなっている(X1>X2)。下側のラジアル動圧発生部では、動圧溝8a2が軸方向対称形状に形成される。以上に述べたラジアル動圧発生部でのポンピング能力のアンバランスにより、軸部材2の回転中は、軸受スリーブ8の内周面8aと軸部2aの外周面との間に満たされた油が下方に押し込まれるようになる。
軸受スリーブ8の下側端面8cには、スラスト軸受隙間の油膜に動圧作用を発生させるためのスラスト動圧発生部が形成される。このスラスト動圧発生部は、図4に示すようにへリングボーン形状で、V字状に屈曲した動圧溝8c1と丘部8c2を円周方向に交互に配列した構成を有する。
図2に示すように、ハウジング9は、軸方向両端を開口した円筒状を成し、内周に軸受スリーブ8が保持された円筒状の本体部9aと、本体部9aの上端内径側に配置されたシール部9bとを一体に有する。本体部9aの内周面は径寸法一定の円筒状をなし、外周面は下側を小径にした段付きの円筒面状に形成される。これにより、本体部9aの上側に厚肉部9a1が形成され、その下側に厚肉部9a1よりも薄い薄肉部9a2が形成される。
シール部9bの内周面9b1は、下方へ向けて漸次縮径したテーパ面状に形成され、このテーパ状内周面9b1と軸部2aの外周面との間に下方へ向けて径方向寸法を漸次縮小した楔状のシール空間Sが形成される。シール部9bで密封された軸受の内部空間は、軸受スリーブ8の内部空孔を含め、潤滑油で満たされる。シール空間Sには、軸受内部に満たされた潤滑油の油面(気液界面)が形成され、楔状シール空間Sの毛細管力による引き込み作用により、油面は常にシール空間Sに保持される。シール空間Sの容積は、温度変化に伴って軸受内部に充満した潤滑油が膨張、収縮した場合でも、潤滑油の油面が常にシール空間Sの範囲内に保持できるように設定される。
本体部9aとシール部9bの境界となるハウジング9の上端外径側では、角部が肉取りされている。この肉取りに9cによって、本体部9aからシール部9bにかけての領域でハウジング9の肉厚がほぼ均一化されるので、樹脂の成形収縮によるシール部9bの内周面9b1の変形を抑制し、シール空間Sの形状精度を確保することができる。
以上に述べたハウジング9は、例えば軸受スリーブ8をインサート部品とした樹脂の射出成形によって一体に形成される。ハウジング9の樹脂材料は特に限定されず、例えば液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の結晶性樹脂、あるいはポリフェニルサルフォン(PPSU)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)等の非晶性樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物が使用可能である。この樹脂材料には、目的に応じて各種充填材を適量配合することができ、例えば、ガラス繊維等の繊維状充填材、チタン酸カリウム等のウィスカ状充填材、マイカ等の鱗片状充填材、その他、適宜の粉末状充填材が使用可能である。HDDに使用される従来の樹脂製ハウジング9では、導電性確保のため、カーボン繊維、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノマテリアル、各種金属粉等の導電性充填材を配合するのが通例であるが、本発明におけるハウジング9では、この種の導電性充填材は基本的に不要である。但し、ハウジング9の要求特性(例えば成形性)に悪影響を及ぼさず、コスト面でも支障がなければ、これら導電性充填材を配合しても構わない。
ハウジング9のインサート成形により、軸受スリーブ8の上側端面8bが外周チャンファ8eoも含めて樹脂で被覆される。併せて、図2に示すように少なくとも軸受スリーブ8の下端の外周チャンファ8foを樹脂で被覆すれば、軸受スリーブ8のハウジング9に対する抜け止めを図ることができる。軸受スリーブ8の上端の内周チャンファ8eiは、樹脂で被覆されず、焼結金属の組織が露出している。これは射出成形時に内周チャンファ8e1を型に接触させることで、型内で軸受スリーブ8の位置決めを行うためである。
蓋部材10は、ハウジング9の薄肉部9a2の外周面に、例えばすき間接着で固定される。この蓋部材10によって、ハウジング9の下側開口部が閉塞される。図示例では、蓋部材10はコップ状をなし、略円盤状のプレート部10aと、プレート部10aの外径端から上方へ延びた円筒状の筒部10bとを有する。筒部10bの内周面10b2の軸方向長さは、プレート部10aの軸方向の厚さよりも大きい。蓋部材10は、導電性を有する金属材料で形成され、例えば金属板をプレス加工することにより、プレート部10a及び筒部10bが一体に形成される。筒部10bの内周面10b2は、動圧溝8a2および丘部からなる下側のラジアル動圧発生部の一部(少なくとも圧力発生部nを含む部分)または全部と軸方向でオーバーラップしている。
プレート部10aの上側端面10a1には、スラスト軸受隙間の油膜に動圧作用を発生させるスラスト動圧発生部が形成される。このスラスト動圧発生部は、図5に示すようにへリングボーン形状で、V字状に屈曲した動圧溝10a11と丘部10a12を円周方向に交互に配列した構成を有する。
上記構成の流体動圧軸受装置1の組立に際しては、先ずハウジング9と一体化した軸受スリーブ8の内周に軸部材2を挿入する。次いで、ハウジング9の薄肉部9a2の外周面9a22あるいは蓋部材10の筒部10bの内周面10b2に接着剤を塗布し、薄肉部9a2の外周面9a22に筒部10bの内周面10b2を嵌合する。接着剤としては、嫌気性接着剤やエポキシ系接着剤が使用可能である。
ハウジング9と蓋部材10をすき間接着する場合には、図6に示すように、筒部10bの内周面10b2と薄肉部9a2の外周面9a22とをすき間嵌め状態とし、両者間に幅ε1の第1の半径方向すき間を形成する(この時の幅ε1は、筒部10bの内周面1b2の半径寸法から薄肉部9a2の外周面9a22の半径寸法を減じた値である)。なお、軸受スリーブ8の内周面8aに形成した下側のラジアル動圧発生部の面精度に影響を及ぼさないのであれば、筒部10bの内周面10b2をハウジング薄肉部9a2の外周面9a22に軽圧入することもできる。
薄肉部9a2の外周面9a22と筒部10bの内周面10b2の嵌合後、蓋部材10を押し進めて、フランジ部2bの両端面2b1・2b2に軸受スリーブ8の下端面8c及び蓋部材10のプレート部10aを当接させる(すなわち二つのスラスト軸受隙間の隙間幅を0にする)。この時、蓋部材10の筒部10bの上端面10b1とハウジング9の厚肉部9a1の端面9a11との間、およびハウジング9の薄肉部9a2の下端面9a21と蓋部材10のプレート部10aの上端面10a1との間には軸方向のすき間を残し、これら軸方向対向二面が当接しないように、予め各部品の寸法を設定しておく。次いで、蓋部材10とハウジング9を、両者が離反する方向に、各スラスト軸受隙間の隙間幅の合計量分だけ軸方向相対移動させる。これは、蓋部材10を固定して軸部材2を引き上げることによって、あるいはハウジング9を固定して軸部材2を押し下げることによって、行うことができる。これにより、蓋部材10の筒部10bの上端面10b1と、ハウジング9の厚肉部9a1の端面9a11との間に幅δ1の第1の軸方向すき間が形成され、ハウジング9の薄肉部9a2の下端面9a21と、蓋部材10のプレート部10aの上端面10a1との間に幅δ2の第2の軸方向すき間が形成される。軸受装置内部の保油量を減じるため、軸方向隙間の幅δ2は極力小さくするのが望ましい。
次に、図2の右側に示すように、第1の軸方向すき間(幅δ1)に例えばエポキシ系接着剤Qを供給する。その後、ベーキングを行うと、高温下で粘度が低下した一部のエポキシ系接着剤Qが毛細管力によって第1の半径方向すき間(幅ε1)に引き込まれて硬化し、残りは第1の軸方向すき間(幅δ1)に留まって硬化する。これにより、蓋部材10とハウジング9が完全に接着固定され、これと同時にスラスト軸受隙間の幅設定作業も完了する。また、第1の軸方向すき間(幅δ1)が接着剤Qによって封止され、筒部10bの内周面10b2と薄肉部9a2の外周面9a22との嵌合部からの油漏れが防止される。図2では、図面の理解の容易化を図るため、第1の軸方向すき間の円周方向一部領域(図面右側)のみ接着剤Qで封止した状態が表されているが、通常はその全周が接着剤Qで封止される。
なお、接着剤Qはエポキシ系接着剤に限定されず、嫌気性接着剤、紫外線硬化型接着剤など任意のものが接着剤Qとして使用できる。紫外線硬化型接着剤を使用する場合、余剰分を紫外線によって硬化させることにより、作業性、封止性を向上させることができる。
この組立方法では、図6に示す第1の半径方向すき間(幅ε1)で十分な毛細管力を得て、エポキシ系接着剤Qを確実に第1の半径方向すき間に確実に引き込む必要がある。そのため、第1の半径方向すき間の幅ε1は極力小さくするのが望ましく、少なくとも第1の軸方向すき間の幅δ1よりも小さくする(δ1>ε1)。
その一方、第2の軸方向すき間の幅δ2が第1の半径方向すき間の幅ε1よりも小さいと、第1の半径方向すき間(幅ε1)に引き込まれた接着剤が、毛細管力でさらに第2の軸方向隙間(幅δ2)にも引き込まれるおそれがある。第2の軸方向すき間に過剰の接着剤が引き込まれると、接着剤が第2の軸方向すき間から溢れ出してスラスト軸受すき間に入り込み、スラスト軸受部T1・T2の軸受機能を害するおそれがある。かかる不具合を防止するため、第2の軸方向すき間の幅δ2は、第1の半径方向すき間の幅ε1よりも大きくする(δ2>ε1)。
以上の手順で組み立てられた流体動圧軸受装置1は、ベース部材6の内周面6aにすき間接着される。具体的には、ベース部材6の内周面6a(あるいは筒部10bの外周面10b3や厚肉部9a1の外周面9a12)に接着剤を塗布した状態で、蓋部材10の筒部10bの外周面10b3およびハウジング9の厚肉部9a1の外周面9a12をベース部材6の内周面6aに嵌合し、接着剤を硬化させる。この隙間接着に際しては、図6に示すように、蓋部材10の筒部10bの外周面10b3がベース部材6の内周面6aに対してすき間嵌め状態にあり、外周面10b3とベース部材6の内周面6aとの間に、幅ε2の第2の半径方向すき間が形成されている。また、ハウジング9の厚肉部9a1の外周面9a12もベース部材6の内周面6aに対してすき間嵌め状態にあり、厚肉部9a1の外周面9a12とベース部材6の内周面6aとの間に、幅ε3の第3の半径方向すき間が形成されている。第2および第3の半径方向すき間の幅ε2、ε3は、いずれも、ベース部材6の内周面6aの半径寸法から、筒部10bの外周面10b3の半径寸法、および厚肉部9a1の外周面9a12の半径寸法をそれぞれ減じた値で表される。
第2の半径方向すき間(幅ε2)は、動圧溝8a2および丘部からなる下側のラジアル動圧発生部の一部(少なくとも圧力発生部nを含む部分)または全部と軸方向でオーバーラップしている。
この構成においては、第2の半径方向すき間の幅ε2を第3の半径方向すき間の幅ε3よりも大きくする(ε2>ε3)。これにより、流体動圧軸受装置1を蓋部材10側からベース部材6の内周に挿入する際に、蓋部材10の外周面10b3がガイドとなるので、スムーズに挿入することができる。また、金属接着となる第2の半径すき間(幅ε2)でより多くの接着剤を保持できるので、蓋部材10とベース部材6の間で大きな接着力を得ることができる。蓋部材10とベース部材6の間で十分な接着力が得られれば、ハウジング9の外周面9a12とベース部材6との間の接着を省略することが可能となる。第2の半径方向すき間の幅ε2は第1の半径方向すき間の幅ε1よりも大きい(ε2>ε1)。
図6に示すように、本実施形態においては、ベース部材6の内周面は一定径であるので、ε2>ε3の関係から、ハウジング9の厚肉部9a1の外周面9a12は蓋部材10の外周面10b3よりも大径となる。厚肉部9a1の外周面9a12の直径をφxとし、蓋部材10の外周面10b3の直径をφyとした時、(φx−φy)/2で表される外周面9a1の半径寸法と外周面10b3の半径寸法との差zは、第1の半径方向すき間の幅ε1よりも大きくするのが望ましい(z>ε1)。これにより、蓋部材10が偏心状態でハウジング9に接着固定されている場合でも、流体動圧軸受装置1を蓋部材10側からベース部材6の内周に挿入する際に、蓋部材10とベース部材6とが干渉することはなく、スムーズに挿入することが可能となる。
第1の半径方向すき間と第3の半径方向すき間では、何れも樹脂と金属の接着になるので、接着力としては同程度が求められる。そのため、第1の半径方向すき間の幅ε1と第3の半径方向すき間の幅ε3は等しくすることができる(ε1=ε3)。
なお、図6における各軸方向すき間および半径方向すき間の幅δ1、δ2、ε1、ε2、ε3は理解の容易化のため、誇張して描かれている。
以上の手順で組み立てたモータを起動し、軸部材2を回転させると、軸受スリーブ8の内周面8aに形成した上下のラジアル動圧発生部と、これに対向する軸部2aの外周面との間に2つのラジアル軸受隙間が形成される。ラジアル軸受隙間の油膜の圧力が動圧溝8a1、8a2により高められ、これにより軸部材2をラジアル方向に非接触支持する第1ラジアル軸受部R1及び第2ラジアル軸受部R2が構成される。これと同時に、軸受スリーブ8の下側端面8cに形成されたスラスト動圧発生部とフランジ部2bの上側端面2b1との間、および、プレート部10aの上端面10aに形成されたスラスト動圧発生部とフランジ部2bの下側端面2b2との間に、それぞれスラスト軸受隙間が形成される。各スラスト軸受隙間の油膜の圧力が動圧溝8c1、10a11により高められ、これにより軸部材2をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部T1、T2が構成される。
軸部材の回転中は、上下ラジアル動圧発生部のポンピング能力のアンバランス(図3参照)により、軸受スリーブ8の内周面と軸部2aの外周面との間の油が下方に押し込まれる。そのため、軸受内部の閉塞側の空間、特に下側のスラスト軸受隙間よりも内径側の空間(底面空間P、図7参照)で圧力が高くなる傾向にある。この場合、下側の第2スラスト軸受部T2の動圧溝10a11を従来品で多用されるポンプインのスパイラル形状にすると、スラスト軸受隙間の油が内径側に押し込まれるため、底面空間Pの圧力増大を助長することになる。これを回避するため、第2スラスト軸受部T2の動圧溝10a11は、上記のとおりへリングボーン形状(図5参照)にするのが望ましい。上側の第1スラスト軸受部T1では、この種の問題を生じないので、図4に示すへリングボーン形状の動圧溝8c1に代えて、ポンプインタイプのスパイラル形状の動圧溝を採用することもできる。
図1および図7に示すように、軸部材2には、フランジ部2bの上側端面2b1と下側端面2b2とに開口する連通孔11が設けられる。この連通孔11を介して上下のスラスト軸受隙間の間で油を循環させることにより、上側のスラスト軸受すき間と下側のスラスト軸受すき間との間で圧力バランス(特にモータ起動時の圧力バランス)をとることができる。
図7に示すように、連通孔11は、径方向部11a及び軸方向部11bを有するもので、両スラスト軸受部T1、T2の動圧溝領域を避けてその内径側に開口させるため、屈曲した形状をなしている。さらに詳しくは、径方向部11aの外径端がフランジ部2bの上端面2b1と軸受スリーブ8の内周チャンファ8fiと軸部2aの下端部に設けられたヌスミ部2a2とで形成される空間に開口し、径方向部11aの内径端につながった軸方向部11bが軸部2aの小径部2a1の外周面に沿って延び、第2スラスト軸受部T2のスラスト動圧発生部の内径側に開口している。穴あき円盤状のフランジ部2bの内周面に軸方向溝を形成すると共に、フランジ部2bの上側端面2b1に前記軸方向溝に通じる半径方向溝を形成し、その後、フランジ部2bの内周孔に軸部2aの小径部2a1を嵌合固定することにより、半径方向溝で半径方向部11aを形成し、軸方向溝で軸方向部11bを形成することができる。なお、連通孔11は、円周方向の一箇所に設ける他、複数箇所に設けることもできる。
以上に説明した流体動圧軸受装置の特徴を以下に列挙する。
(1)ハウジング9を、軸受スリーブ8をインサートした射出成形(インサート成形)で形成しているため、軸受スリーブ8をハウジング9に接着固定する工程を不要にすることができる。また、射出成形型内で軸受スリーブを精度良く位置決めするだけで、軸受スリーブ8とハウジング9との間で精度の良い同軸度を確保することができる。従って、同軸度を確保しつつ、流体動圧軸受装置1の低コスト化を図ることができる。
(2)蓋部材10をハウジング9の外周面に固定しているので、従来のように蓋部材10をハウジング9の内周面に固定する場合に比べ、内周面と外周面の径差分だけ両部材間の固定面積を増すことができる。また、ハウジング9の厚肉部9a1の軸方向長さを短くすることで、蓋部材10の起立部10bの軸方向寸法を増すことができ、固定面積のさらなる増大も容易に達成できる。しかも、これに伴って、蓋部材10を厚肉化する必要がない。従って、軸受装置1の軸方向寸法やラジアル軸受部R1、R2の軸受スパンに影響を与えることなく、蓋部材10の耐抜け強度を高めることができる。
(3)蓋部材10とベース部材6は何れも金属製であるので、両部材間で高い接着強度を得ることができる。従って、樹脂製ハウジング9を使用する場合でも、樹脂製ハウジング9と蓋部材10との接着力不足を回避することができ、衝撃荷重で流体動圧軸受装置1がベース部材6から脱落するような事態を防止することができる。また、蓋部材10がハウジング9のみならず、ベース部材6にも固定されているので、衝撃荷重による蓋部材10の脱落も防止することができる。
(4)蓋部材10は金属材料で形成されているので、ディスクDが回転することによりヘッドに帯電した静電気を、軸部材2→蓋部材10→ベース部材6という経路を介して確実に接地側に放電することができる。蓋部材10とベース部材6を接着固定する場合、接着剤(通常は絶縁体である)によって上記導電経路が遮断される事態を防止するため、必要に応じて、蓋部材10の下端の外径端とベース部材6の下端の内径端とに跨って(図1中のA領域)、ペースト状の導電材を塗布し、導電性被膜を形成する。このように蓋部材10で導電経路を構成すれば、ハウジング9の導電性が不要となるので、ハウジングの成形材料を検討する際に、材料選択の余地が広がり、軸受装置の設計自由度が増す。樹脂製ハウジング9に導電性を持たせる場合、上記のように樹脂材料中に高価な導電性充填材を配合するのが通例であるが、本発明では、この種の導電性充填材の配合を不要とし、あるいは配合量を少なくすることができるので、材料コストを抑えることができる。
(5)蓋部材10をハウジング外周にすき間接着で固定しているので、圧入で固定する場合のように、圧入領域の内径側で軸受スリーブ8の内周面が変形し、ラジアル軸受隙間の精度を低下させるような問題は生じない。蓋部材10の外周面10b3やハウジング9の厚肉部9a1の外周面9a12をベース部材6の内周面6aに圧入した場合も同様に軸受スリーブの内周面が変形するおそれがあるが、本願発明では、これら外周面10b3、9a12もベース部材6に対してすき間接着されるので、同様にこの種の問題を回避することができる。
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明する。尚、以下の説明において、上記実施形態と同様の構成、機能を有する部位には同一の符号を付して、説明を省略する。
図8に示す流体動圧軸受装置1’は、図2に示す流体動圧軸受装置1と同様に、ハウジング9を、軸受スリーブ8をインサートした樹脂の射出成形品とし、かつ金属製の蓋部材10をハウジング9の外周面、具体的には薄肉部9a2の外周面に固定したものである。スラスト軸受隙間の幅設定後は、蓋部材10の起立部10bの端面10b1と、ハウジング9の厚肉部9a1の端面との間に軸方向隙間δ1が形成されている。
図2に示す流体動圧軸受装置1では、軸受スリーブ8の下端の外周チャンファ8foを樹脂製ハウジング9で被覆し、下端面8cは被覆していない。これに対し、図8に示す流体動圧軸受装置1’では、ハウジング9の薄肉部9a2の下端に、内径側に延びる被覆部9dが形成され、この被覆部9dで軸受スリーブ8の外周チャンファ8foのみならず、軸受スリーブ8の下端面8cの全体が被覆されている。被覆部9dの端面には、第1スラスト軸受部T1のスラスト動圧発生部として機能する複数の動圧溝(例えば図5に示すへリングボーン形状の動圧溝)が形成されている。なお、軸受スリーブ8の下端の内周チャンファ8fiは、被覆部9dで被覆されていない。
このように、ハウジング9の被覆部9dにスラスト動圧発生部を形成することにより、軸受スリーブ8の下端面8cに形成されていたスラスト動圧発生部が不要となる。そのため、軸受スリーブ8の半径方向の肉厚を、図2に示す実施形態に比べて薄くすることができる。この薄肉化により、焼結金属製軸受スリーブ8が内部に保有する油量を減らすことができるため、軸受装置全体の保油量を少なくすることができ、昇温時の油の熱膨張量を抑制することができる。従って、シール空間Sの容積を小さくすることができ、シール空間Sの軸方向寸法を減じて、軸受装置全体を軸方向で小型化することが可能となる。
なお、被覆部9dのスラスト動圧発生部は、金型にスラスト動圧発生部に対応した成形型を形成することで、ハウジング9の射出成形と同時に型成形することができる。そのため、スラスト動圧発生部の形成工程を省略して低コスト化を図ることができる。
シール空間Sの軸方向寸法が小さくなることで、ハウジング9におけるシール部9bの肉厚と本体部9aの肉厚差が小さくなるため、樹脂の成形収縮時における変形が生じにくくなる。そのため、この実施形態の流体動圧軸受装置1’ではハウジング9の上端外径部に形成する肉取り9c(図2参照)を省略している。
図8に示す実施形態においても、蓋部材10はハウジング9の外周にすき間接着され、蓋部材10の外周面10b3がベース部材6の内周面6aにすき間接着される(さらに、ハウジング9の厚肉部9a1の外周面9a12をベース部材6の内周面6aにすき間接着することもできる)。第2の軸方向すき間(幅δ2)を除く第1の軸方向すき間(幅δ1)、第1の半径方向すき間(幅ε1)、第2の半径方向すき間(幅ε2)、および第3の半径方向すき間(幅ε3)の間には、図2に示す実施形態と同様に、δ1>ε1、ε2>ε3、Z>ε1、ε2>ε1、およびε1=ε3の関係が成り立つ。
図9に示す流体動圧軸受装置1’’は、図2に示す流体動圧軸受装置1の軸受スリーブ8とハウジング9とを一体化して一部品とした例である。この場合、一体化した部品が外方部材9となる。外方部材9は、樹脂等の射出成形で製作することができる。外方部材9は厚肉部9a1と薄肉部9a2とを有する。外方部材9の内周面の上下二領域に、図3と同形状のラジアル動圧発生部が形成され、このラジアル動圧発生部と軸部材2の外周面との間にラジアル軸受すき間が形成される。また、外方部材9の下端面には、図4と同様のスラスト動圧発生部が外方部材の射出成形と同時に型成形され、このスラスト動圧発生部とフランジ部2bの上端面2b1との間にスラスト軸受すき間が形成される。図2に示す実施形態と同様に、プレート部10aの上端面10aに形成されたスラスト動圧発生部(図5参照)とフランジ部の下端面2b11との間にもスラスト軸受すき間が形成される。
この実施形態においても、蓋部材10は外方部材9の外周にすき間接着され、蓋部材10の外周面10b3がベース部材6の内周面6aにすき間接着される(さらに、ハウジング9の厚肉部9a1の外周面9a12をベース部材6の内周面6aにすき間接着することもできる)。この流体動圧軸受装置1’’では、図2及び図6に示す実施形態と同様に、以下のすき間がそれぞれ形成される。
・蓋部材10の筒部10bの内周面10b2と外方部材9の薄肉部9a2の外周面9a22との間の第1の半径方向すき間(幅ε1)
・蓋部材10の筒部10bの端面10b1と当該端面に対向する外方部材9の厚肉部9a1の端面9a11との間の第1の軸方向すき間(幅δ1)
・蓋部材10のプレート部10aとプレート部に対向する外方部材9の薄肉部9a2の端面9a21との間の第2の軸方向すき間(幅δ2)
・蓋部材10の筒部10bの外周面10b3とベース部材6の内周面6aとの間の第2の半径方向すき間(幅ε2)
・外方部材9の厚肉部9a1の外周面9a12とベース部材6の内周面6aとの間の第3の半径方向すき間(幅ε3)
また、各すき間の間には、図2に示す実施形態と同様に、δ1>ε1、δ2>ε1、ε2>ε3、Z>ε1、ε2>ε1、およびε1=ε3の関係が成り立つ。
以上に説明した各実施形態では、外方部材9の射出材料として樹脂を使用しているが、これに限らず、例えば、マグネシウム合金やアルミニウム合金等の低融点金属材料を使用して射出成形することも可能である。また、軸受スリーブをインサートしてハウジングを射出成形する他、軸受スリーブ8およびハウジング9を金属材料や樹脂材料を用いて個別に製作した上で、ハウジング9の内周に軸受スリーブ8を接着等の手段で固定してもよい。
また、以上の実施形態では、蓋部材10を軸受スリーブ8に固定する際、予め接着剤をハウジング9の薄肉部9a2や蓋部材10の筒部10bに塗布してから、蓋部材10をハウジングの薄肉部9a2に嵌合させているが、これ以外にも、先に蓋部材10とハウジング9とを嵌合させ、スラスト軸受隙間の幅設定を行った後に、軸方向隙間δ1から接着剤を供給し、起立部10bの内周面と薄肉部9a2の外周面との間の微小隙間の毛細管力で接着剤を引き込むことで両者を接着固定してもよい。
また、以上の実施形態では、ラジアル軸受部R1・R2及びスラスト軸受部T1・T2の各動圧発生部がそれぞれ軸受スリーブ8の内周面8a、下側端面8c、及び蓋部材10のプレート部10aの上側端面10a1に形成されているが、これらの面と軸受隙間を介して対向する面、すなわち軸部2aの外周面、フランジ部2bの上側端面2b1、あるいは下側端面2b2に形成してもよい。
また、以上の実施形態では、ラジアル軸受部R1・R2のラジアル動圧発生部として、ヘリングボーン形状の動圧溝を形成する場合を例示したが、これに限らず、例えば、いわゆるステップ軸受や波型軸受、あるいは多円弧軸受を採用することもできる。また、軸受スリーブ8の内周面8a及び軸部材2の外周面2a1の双方を円筒面とした、いわゆる真円軸受を、ラジアル軸受部R1・R2として採用することもできる。この場合、ラジアル軸受隙間の流体膜に積極的に動圧作用を発生させる動圧発生部は有さないが、軸部材の回転時には、潤滑流体の粘性により流体膜に動圧作用が発生し、ラジアル軸受部R1・R2が構成される。
また、以上の実施形態では、スラスト軸受部T1・T2のスラスト動圧発生部として、動圧溝を使用する場合を例示したが、これに限らず、例えばステップ軸受や波型軸受の構成を採用することもできる。あるいは、動圧軸受からなるスラスト軸受部T1・T2に代えて、軸部材2の端部を蓋部材10のプレート部10aの上端面10a1で接触支持するピボット軸受でスラスト軸受部を構成することもできる。
また、以上の実施形態では、ラジアル軸受部R1・R2が軸方向に離隔して設けられているが、これらを軸方向で連続的に設けても良い。あるいは、これらの何れか一方のみを設けてもよい。